説明

金属元素の深さ方向分析方法及び二次イオン質量分析装置

【課題】 金属元素の深さ方向分析方法及び二次イオン質量分析装置に関し、分析に用いる一次イオンとしての酸素イオンビーム照射に誘起される金属元素の拡散現象を抑制する。
【解決手段】 一次イオンに酸素を用いて単結晶シリコンを母材とする試料中のGa、In、Cu、Au或いはAgの少なくとも一つの金属元素の深さ方向分析を二次イオン質量分析法によって行う際に、前記試料が前記一次イオンとしての酸素により酸化される領域より少なくとも深い領域を、予め試料の酸化に伴う前記金属元素の拡散を抑制する拡散抑制領域に改質しておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属元素の深さ方向分析方法及び二次イオン質量分析装置に関するものであり、例えば、酸素イオンを一次イオンに用いたSIMS(二次イオン質量分析方法)における測定精度を高めるための構成に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二次イオン質量分析法は一次イオンとなるイオンビームを分析対象となる固体試料の表面に照射し、スパッタリングによって試料表面から放出される二次イオンを質量分析する高感度な物理分析法である。スパッタリングに伴うエッチング作用を利用することによって、深さ方向分析が可能であるため、半導体中の微量不純物の分析に頻繁に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、近年におけるSIMSに対する要求は厳しく、最表面層より数nmの極浅い領域での高精度な分析が要求されている。そのため、SIMSでは、高感度を得るために、一般に酸素やセシウムなどの反応性を持つイオンが一次イオンとして用いられている。
【0004】
このような反応性イオンの照射は試料表面を改質し、二次イオン発生量を増大させる反面、様々な問題を誘発する。特に、単結晶Si中に存在するGa,In,Cu,Ag,Au等の金属元素を深さ方向分析しようとするときに問題が起こる。
【0005】
即ち、通常は一次イオンとして酸素を用いるが、照射された酸素はSi表面をSiOに変えて二次イオン化率を増加させる一方、分析目的の金属元素をSiOから押し出して深さ方向、即ち、基板の内部に拡散してしまうという問題がある(例えば、非特許文献1乃至非特許文献5参照)。
【0006】
つまり、分析に用いる酸素照射によって分析対象となる金属元素の拡散現象が誘発され、真の元素分布とは異なる深さ方向分布が測定結果として得られることになる。図12は、(100)面を主面とする単結晶Si基板中にInをイオン注入した試料に対して酸素を照射してInの深さ方向分布を測定した例である。
【0007】
ここでは、酸素の照射エネルギーを250eVから750eVまで変えているが、いずれの場合もIn分布はTRIMを用いたシミュレーションによる分布よりも膨らみ、測定中に起こる拡散現象によって、真のプロファイルとは異なるものになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−215990号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】P.R.Boudewijn and C.J.Vriezema,in Secondary Ion Mass Spectrometry SIMS VI,ed.Bt Benninghoven,A.M.Huber and H.W.Werner,Eds.(Wiley,Chichester 1988),p.499.
【非特許文献2】W.Vandervorst,F.R.Shepherd,M.L.Swanson,H.H.Plattner,O.M.Westcott,and I.V.Mitchell,Nucl.Instrum.Methods,B15,p.201(1986)
【非特許文献3】K.Wittmaack and N.Menzel,Appl.Phys.Lett.Vol.50,p.815(1987)
【非特許文献4】S.D.Littlewood,J.A.Kilner,and J.P.Gold,in Secondary Ion Mass Spectrometry SIMS VI,ed.Bt Benninghoven,A.M.Huber and H.W.Werner,Eds.(Wiley, Chichester 1988),p.737
【非特許文献5】Y.Homma and T.Maruo,Sur.Interface Anal. Vol.14,p.725 (1989).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のSIMSによる単結晶Si中に存在するGa,In,Cu,Ag,Au等の金属元素の深さ方向の分析では、上述の拡散現象を抑制して正確な深さ方向分布を得ることは困難であり、測定後に補正することで対処しているのが現状である。
【0011】
したがって、本発明は、分析に用いる一次イオンとしての酸素イオンビーム照射に誘起される金属元素の拡散現象を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一観点からは、一次イオンに酸素を用いて単結晶シリコンを母材とする試料中のGa、In、Cu、Au或いはAgの少なくとも一つの金属元素の深さ方向分析を二次イオン質量分析法によって行う金属元素の深さ方向分析方法であって、前記試料が前記一次イオンとしての酸素により酸化される領域より少なくとも深い領域を、予め試料の酸化に伴う前記金属元素の拡散を抑制する拡散抑制領域に改質しておく工程を有することを特徴とする金属元素の深さ方向分析方法が提供される。
【0013】
また、本発明の別の観点からは、少なくとも酸素イオンガンを一次イオン照射手段として備えた二次イオン質量分析装置であって、前記酸素イオンガンに、一次イオン照射に必要な加速エネルギーの少なくとも10倍までの加速エネルギーを発生させることが可能な加速エネルギー制御手段を備えるとともに、前記加速エネルギー制御手段に一定の時間ごとに加速エネルギーを交互に切り替える加速エネルギー切替え手段を設けたことを特徴とする二次イオン質量分析装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
開示の金属元素の深さ方向分析方法及び二次イオン質量分析装置によれば、分析に用いる一次イオンとしての酸素イオンビーム照射に誘起される金属元素の拡散現象を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態のSIMS工程の説明図である。
【図2】従来のSIMS工程の説明図である。
【図3】ラザフォード後方散乱分光による初期ダメージとIn分布プロファイルの説明図である。
【図4】図3の5倍のドーズ量でInをSi基板に注入した場合の初期ダメージとIn分布プロファイルの説明図である。
【図5】本発明の実施に用いる二次イオン質量分析装置の概念的構成図である。
【図6】SIMS工程における照射エネルギーとスパッタリング収率との相関図である。
【図7】SiO膜厚と注入深さの加速エネルギー依存性の説明図である。
【図8】本発明の実施例1の分析工程の説明図である。
【図9】本発明の実施例1の分析結果の説明図である。
【図10】本発明の実施例2のSIMS工程における試料の前処理工程の説明図である。
【図11】本発明の実施例2の分析結果の説明図である。
【図12】従来のSIMSによる深さ方向分布分析結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで、図1乃至図3を参照して、本発明の実施の形態を説明する。図1は本発明の実施の形態のSIMS工程の説明図である。まず、図1(a)に示すように前処理として分析対象となるGa,In,Cu,Au,Agの内の少なくとも一種類の金属元素2を含んだ単結晶シリコンからなる試料1にイオン3を注入して拡散抑制領域4を形成する。
【0017】
この場合の拡散抑制領域4の深さは、一次イオンとしての酸素により酸化される領域より少なくとも深い領域となるようにイオン3の加速エネルギーを設定する。この場合のイオン3としては、拡散抑制領域4をアモルファス化領域とするイオンを用いても良いし、或いは、酸素イオンを用いても良い。
【0018】
拡散抑制領域4をアモルファス化領域とするイオン3としては、母材の化学的性質が変わると検出目的の金属元素2の二次イオン化率が変わってしまうため、試料1の母材元素と同じSi或いはSiと化学的性質が近い同じIV族のGeを用いる。或いは、不活性なAr,Ne,Kr,Xeを用いても良い。この内、化学的性質の観点からはSiが望ましいが、少ドープ量でのアモルファス化の観点からは質量数の大きなGeが望ましい。
【0019】
また、イオン3として酸素イオンを用いる場合には、拡散抑制領域4がアモルファス化しないドーズ量とする必要があり、1×1015cm-2〜1×1016cm-2とする。また、このような低ドーズ量とすることによって、酸素イオンによるスパッタリングは実効的に行われないので、拡散抑制領域4の形成により表面からの深さ方向における金属元素2の分布状況が変化することはない。
【0020】
この場合の酸素ドープによる拡散抑制領域4の深さは、一次イオンにより形成されるSiO膜の直下であることが最も効果的であるので、一次イオンの加速エネルギーに応じて1.4倍〜10倍の加速エネルギーで酸素を注入する。
【0021】
また、SIMS分析中に一次イオンの酸化反応により形成されるSiO膜の膜厚は変わることがないので、拡散抑制領域4の深さまでSiO膜が形成された時点で分析を中断して、再び酸素イオンをSiO膜の直下にイオン注入したのち分析を再開する。
【0022】
また、アモルファス化と酸素ドープとを組み合わせても良く、その場合には、予め分析予定深さまでアモルファス化したのち、その深さに応じて互いに加速エネルギーを変えた複数回のイオン注入により酸素をほぼ均一な濃度でドープすれば良い。なお、この時、一回の注入によるピーク濃度領域は、例えば、表面から5nm、15nm、25nm・・・と順に10nm程度ずつ深くなるようにすれば良い。
【0023】
次に、図1(b)に示すように、予め拡散抑制領域4を形成した試料1に一次イオンとしての酸素イオン5を照射し、試料1の表面にSiO膜6を形成しながら、酸素イオン5のスパッタエッチング作用でSiO膜6をエッチングする。SiO膜6をエッチングに伴って金属元素2が二次イオン7として飛び出すので、これを質量分析器で検出する。
【0024】
次に、図2乃至図4を参照して、本発明の検出原理を説明する。図2は従来のSIMS工程の説明図であり、図2(a)に示すように一次イオンとしての酸素イオン5を照射すると、図2(b)に示すように、単結晶シリコンからなる試料1の表面がSiO膜6に変質する。また、それと同時にSiO膜6の直下(数nm〜数十nm)の領域に酸素照射によるダメージでアモルファス化領域8が形成される。
【0025】
この時、試料1中の金属元素2は、SiO膜6からアモルファス化領域8へマイグレーションを起こすため、上記の図12に示したように、金属元素2の分布が金属元素2のイオン注入直後の分布からずれてしまう。これは、酸素照射により形成されるSiO膜6中に存在するよりも、その下層のアモルファス化領域8に存在する方が化学的に安定であるためと推測される。
【0026】
図3は、ラザフォード後方散乱分光(RBS)によってInイオン注入時に発生する単結晶Si基板への初期ダメージを測定した結果を示したものである。なお、Inの分布はSIMSによる測定結果である。図から明らかなように、表面から約15nm以降の初期ダメージのない領域でTRIMによるシミュレーション結果から予測されるIn分布より拡がっている。
【0027】
つまり、初期ダメージのある領域では、もともとSiがアモルファス化しているため酸化が起こってもInは拡散しない。しかし、初期ダメージのない領域では、酸素照射によってSiO膜6が形成されるともにその下層にアモルファス化領域8も形成され、Inは下層のアモルファス化領域8の中に拡散する。
【0028】
図4は、図3の5倍のドーズ量でInをSi基板に注入した場合の初期ダメージとIn分布プロファイルである。初期ダメージの深さは図3で示したものより約5nm深くなっており、その領域を過ぎてからIn分布は膨らむことが分る。
【0029】
したがって、分析前のアモルファス化領域8を制御することによって金属元素2の拡散の抑制は可能と考えられ、分析が必要な領域全体を予めアモルファス化しておけば課題は解決できる。
【0030】
また、金属元素2の拡散が酸素に起因するものである以上、金属元素2が拡散により逃げ込む先、即ち、アモルファス化領域8となる位置に酸素が存在すれば金属元素2の拡散を抑制することができる。
【0031】
また、分析が必要な領域全体を予めアモルファス化する場合にも、アモルファス化領域を形成したのち、酸素を添加することはより一層効果的である。即ち、予めアモルファス化と酸素添加をしているので、酸素一次イオンの照射による試料の変質(酸化+アモルファス化)の金属元素に対する影響は最小限に止めることができ、金属元素の拡散を抑制できる。
【実施例1】
【0032】
以上を前提として、次に、図5乃至図9を参照して、本発明の実施例1のSIMSによる金属元素の深さ方向分布分析法を説明する。図5は、本発明の実施に用いる二次イオン質量分析装置の概念的構成図である。図5(a)に示すように、分析室11、分析室に収容された試料12を載置する試料ステージ13、試料12に一次イオン14としての酸素を照射する酸素イオンガン15、試料に一次イオンとしてのCsを照射するセシウムイオンガン16、試料12の表面をアモルファス化するアモルファス化用ガン17、及び、二次イオン18を検出する質量分析器19を備えている。なお、Csイオンは二次イオン18が負イオン化しやすい場合に一次イオンとするものであり、実施例1のGa、In、Cu、Au、Agの分析には用いないが、汎用性を高めるために備えている。
【0033】
また、図5(b)に示すように、酸素イオンガン15は、イオン源21、一定電圧が印加される引出電極22、加速電極23、減速電極24、収束レンズ25、アパーチャ26、及び、対物レンズ27を備えている。この加速電極23及び減速電極24には、加速電圧と減速電圧とを交互に走査することによって一次イオンエネルギーと注入エネルギーとを切り替える制御機構が接続されている。
【0034】
図6は、SIMS工程における照射エネルギーとスパッタリング収率との相関図である。ここで、Iを一次イオン電流量、nを試料の密度、Aを一次イオンの照射面積、Yをスパッタリング収率とすると、エッチング速度Vは、
=Y・I/(n・A)
で与えられる。したがって、単位時間のエッチング深さは、上記式に図6から得られる各一次イオン照射エネルギーに対応するスパッタリング収率Yを代入することによって得られる。
【0035】
なお、分析中にSiO膜は形成と同時にスパッタエッチングが生じるので、SiO膜の膜厚は分析中で変わることはなく一定である。したがって、必要とする分析精度に応じて、エッチング時間tを上式から求め、時間tの間隔で酸素イオン注入と一次イオン照射とを交互に行えば良い。例えば、1nmの分析精度を得たい場合には、1nmの厚さをスパッタエッチングするのに必要な時間tを上記式から求め、時間tの間隔で酸素イオン注入と一次イオン照射とを交互に行えば良い。
【0036】
図7は、SiO膜厚と注入深さの加速エネルギー依存性の説明図であり、SiO膜厚はRBS法により測定した結果をプロットしている。また、注入深さはTRIMによるシミュレーション結果をプロットしたものである。なお、加速エネルギーの範囲は、0.18keV〜30keVの範囲でプロットしており、通常のSIMS工程で用いる一次イオンの加速エネルギー範囲を十分に含んでいる。
【0037】
図7に示すように、加速エネルギーが0.18keVの場合に形成されるSiO膜の膜厚は約4nmであり、したがって、4nmのSiO膜の直下になるように酸素イオンを注入するためにはイオン注入時の加速エネルギーを約1.8keVとする必要がある。一方、加速エネルギーが20keVの場合に形成されるSiO膜の膜厚は約40nmであり、したがって、40nmのSiO膜の直下になるように酸素イオンを注入するためにはイオン注入時の加速エネルギーを約28keVとする必要がある。したがって、通常のSIMS工程においては、一次イオンの加速エネルギーの1.4倍〜10倍の加速エネルギーで酸素イオンを注入すれば良いことになる。
【0038】
図8は、本発明の実施例1の分析工程の説明図である。まず、図8(a)に示すように、分析前に単結晶シリコン基板31に酸素イオン32を図7に示したSiO膜の膜厚と注入深さに基づいた加速エネルギーにより1×1015cm-2〜1×1016cm-2だけ注入する。このドーズ量では酸素注入領域33がアモルファス化することはなく、且つ、単結晶シリコン基板31の表面が実効的にスパッタエッチングされることはない。
【0039】
次いで、図8(b)及び(c)に示すように、一次イオンとしての酸素イオン34を照射して、単結晶シリコン基板31の表面にSiO膜35を形成すると同時に形成したSiO膜35をスパッタエッチングしている。なお、一次イオンとしての酸素イオン34の照射に際しては、上記の図5に示した減速電極24に印加する電圧で制御する。
【0040】
次いで、図8(d)に示すように、必要とする精度に基づいて図6から求まるエッチング時間tの経過したのち、再び、酸素イオン32をSiO膜35の直下に注入して酸素注入領域36を形成し、次いで、再び、一次イオンとしての酸素イオンを照射して分析を行う。この工程をエッチング時間t毎に繰り返すことによって所定の分析深さまで分析を行う。
【0041】
図9は本発明の実施例1の分析結果の説明図であり、ここでは、(100)面を主面とする単結晶シリコン基板中にInイオンを5keVの加速エネルギーで1×1015cm-2注入した試料に上述の酸素イオン注入を行った場合の分析結果を示している。
【0042】
図から明らかなように、In分布は図12に示した膨らみがなくなり、TRIMによるシミュレーションのIn分布とほぼ同じ形状となっている。したがって、酸素のプレ注入の効果が確認された。
【実施例2】
【0043】
次に、図10及び図11を参照して、本発明の実施例2のSIMSによる金属元素の深さ方向分布分析方法を説明する。なお、用いる二次イオン質量分析装置は図5に示したものと同じであるので、ここでは、試料の前処理のみを説明する。
【0044】
図10(a)に示すように、まず、Inイオンを5keVの加速エネルギーで1×1015cm-2注入した(100)面を主面とする単結晶シリコン基板41に対して、Geイオン42を例えば20keVで2×1014cm-2注入する。このGeイオン42の注入により単結晶シリコン基板41の表面から約26nmの深さまでアモルファス化領域43となる。
【0045】
次いで、図10(b)に示すように、酸素イオン44を例えば1×1015cm-2のドーズ量で250eVの加速エネルギーでイオン注入する。その結果、表面から約10nmの範囲が酸素注入領域45となる。
【0046】
次いで、図10(c)に示すように、酸素イオン44を例えば1×1015cm-2のドーズ量で500eVの加速エネルギーでイオン注入する。その結果、深さ約10nm〜20nmの範囲が酸素注入領域46となる。
【0047】
次いで、図10(d)に示すように、酸素イオン44を例えば1×1015cm-2のドーズ量で1000eVの加速エネルギーでイオン注入する。その結果、深さ約20nm〜30nmの範囲が酸素注入領域47となる。
【0048】
図11は、本発明の実施例2の分析結果の説明図であり、ここでは、アモルファス化のみの試料とアモルファス化+酸素注入の試料の分析結果を併せて示している。アモルファス化のみの試料においても、In分布は図12に示した膨らみがなくなり、TRIMによるシミュレーションのIn分布とほぼ同じ形状となっている。特に、酸素イオン注入を追加したものでは、より一層拡散現象が抑えられている。
【0049】
したがって、分析が必要な深さ領域全体を予めアモルファス化し、さらにアモルファス層中に酸素を存在させることは、金属元素の拡散現象を抑制することに効果があると言える。
【0050】
ここで、実施例1及び実施例2を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を開示する。
(付記1) 一次イオンに酸素を用いて単結晶シリコンを母材とする試料中のGa、In、Cu、Au或いはAgの少なくとも一つの金属元素の深さ方向分析を二次イオン質量分析法によって行う金属元素の深さ方向分析方法であって、前記試料が前記一次イオンとしての酸素により酸化される領域より少なくとも深い領域を、予め試料の酸化に伴う前記金属元素の拡散を抑制する拡散抑制領域に改質しておく工程を有することを特徴とする金属元素の深さ方向分析方法。
(付記2) 前記拡散抑制領域に改質しておく工程が、前記試料にイオンを注入してアモルファス化層を形成する工程であることを特徴とする付記1に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
(付記3) 前記アモルファス化層に酸素イオンを互い異なった加速エネルギーで複数回に分けてイオン注入する工程を有することを特徴とする付記2に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
(付記4) 前記アモルファス化層を形成する工程で注入するイオンが、Si、Ge、Ar、Ne、Kr或いはXeのいずれかであることを特徴とする付記2または付記3に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
(付記5) 前記拡散抑制領域に改質しておく工程が、前記試料に前記拡散抑制領域がアモルファス化しないドーズ量で酸素をイオン注入する工程であることを特徴とする付記1に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
(付記6) 前記酸素のイオン注入工程における加速エネルギーが、前記一次イオンとしての酸素イオンの加速エネルギーの1.4倍〜10倍であり、ドーズ量が1×1015cm-2〜1×1016cm-2であることを特徴とする付記5に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
(付記7) 前記酸素のイオン注入工程と前記一次イオンとして酸素イオンの照射工程を交互に繰り返して行うことを特徴とする付記5または付記6に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
(付記8) 前記酸素のイオン注入工程と前記一次イオンとして酸素イオンの照射工程を交互に繰り返して行う工程において、同一の酸素イオンガンを用いることを特徴とする付記7に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
(付記9) 少なくとも酸素イオンガンを一次イオン照射手段として備えた二次イオン質量分析装置であって、前記酸素イオンガンに、一次イオン照射に必要な加速エネルギーの少なくとも10倍までの加速エネルギーを発生させることが可能な加速エネルギー制御手段を備えるとともに、前記加速エネルギー制御手段に一定の時間ごとに加速エネルギーを交互に切り替える加速エネルギー切替え手段を設けたことを特徴とする二次イオン質量分析装置。
【符号の説明】
【0051】
1 試料
2 金属元素
3 イオン
4 拡散抑制領域
5 酸素イオン
6 SiO
7 二次イオン
8 アモルファス化領域
11 分析室
12 試料
13 試料ステージ
14 一次イオン
15 酸素イオンガン
16 セシウムイオンガン
17 アモルファス化用ガン
18 二次イオン
19 質量分析器
21 イオン源
22 引出電極
23 加速電極
24 減速電極
25 収束レンズ
26 アパーチャ
27 対物レンズ
31,41 単結晶シリコン基板
32,44 酸素イオン
33,36,45,46,47 酸素注入領域
34 酸素イオン
35 SiO
42 Geイオン
43 アモルファス化領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次イオンに酸素を用いて単結晶シリコンを母材とする試料中のGa、In、Cu、Au或いはAgの少なくとも一つの金属元素の深さ方向分析を二次イオン質量分析法によって行う金属元素の深さ方向分析方法であって、
前記試料が前記一次イオンとしての酸素により酸化される領域より少なくとも深い領域を、予め試料の酸化に伴う前記金属元素の拡散を抑制する拡散抑制領域に改質しておく工程を有することを特徴とする金属元素の深さ方向分析方法。
【請求項2】
前記拡散抑制領域に改質しておく工程が、前記試料にイオンを注入してアモルファス化層を形成する工程であることを特徴とする請求項1に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
【請求項3】
前記アモルファス化層に酸素イオンを互い異なった加速エネルギーで複数回に分けてイオン注入する工程を有することを特徴とする請求項2に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
【請求項4】
前記拡散抑制領域に改質しておく工程が、前記試料に前記拡散抑制領域がアモルファス化しないドーズ量で酸素をイオン注入する工程であることを特徴とする請求項1に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
【請求項5】
前記酸素のイオン注入工程と前記一次イオンとして酸素イオンの照射工程を交互に繰り返して行うことを特徴とする請求項4に記載の金属元素の深さ方向分析方法。
【請求項6】
少なくとも酸素イオンガンを一次イオン照射手段として備えた二次イオン質量分析装置であって、
前記酸素イオンガンに、一次イオン照射に必要な加速エネルギーの少なくとも10倍までの加速エネルギーを発生させることが可能な加速エネルギー制御手段を備えるとともに、
前記加速エネルギー制御手段に一定の時間ごとに加速エネルギーを交互に切り替える加速エネルギー切替え手段を設けたことを特徴とする二次イオン質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−38936(P2011−38936A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−187633(P2009−187633)
【出願日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】