説明

金属試料採取サンプラー及びそれを用いるサンプリング方法

【課題】溶融金属採取場所の制約に影響を受けずに、成分分析に直ちに供し得る試料を採取するサンプラーと、それを用いるサンプリング方法を提供する。
【解決手段】本発明は、溶融金属から金属試料を採取する金属試料採取サンプラーであって、溶融金属を採取して当該溶融金属を凝固させるサンプラー本体と、サンプラー内を真空吸引する吸引ポンプと、サンプラー本体と吸引ポンプとの間を接続し、少なくともフレキシブルパイプを含む接続部とを備える金属試料採取サンプラー、及び、これを用いたサンプリング方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の精錬過程において、工程管理を迅速、的確に行なうために金属成分を迅速に判別するのに用いる金属試料、特に、スパーク発光分光分析法、蛍光X線分析法、化学分析法による成分分析に好適な金属試料を迅速に採取するサンプラーと、そのサンプラーを用いるサンプリング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属の精錬過程においては、サンプラーで金属試料を採取し、分析機器で成分を分析し、金属の成分を管理または調整する。この管理・調整には、迅速・的確性が要求されるが、上記管理・調整を迅速・的確に行なうには、先ず、金属試料を迅速に採取し、迅速に分析に供する必要がある。
【0003】
従来の溶融金属試料の採取装置及び採取方法については、プローブ紙管の先端部に溶融金属を蓄積する部分が納入されており、当該プローブを溶融金属中に挿入することにより、蓋として作用していた紙部や金属箔が溶解することにより、溶融金属が試料採取容器中に自重で入り込む形(図4参照)が一般的であり、温度センサー、ガス試料採取部を併設できると言うメリットや、試料が採取成功率高く流入できる形状、材質を定義する提案が多かった。
【0004】
例えば、特許文献1には、プローブ紙管の先端部に二つ割金属採取容器、石英製試料採取管、及び溶鋼中の炭素含有率を測定するための熱電対が挿入され、溶鋼の測温と試料採取を兼用する溶融金属採取プローブが提案されている。また、特許文献2には、保護管の先端に、細長いガラス製の採取容器を取り付け、その突出部分を紙製のキャップで覆うことにより、溶融金属採取成功率が高く正確な分析値を得られる溶融金属採取プローブが提案されている。
【0005】
また、特許文献3には、溶融金属中に含まれる水素濃度を測定するために不活性ガスを溶融金属中に吹き込み、溶融金属中の溶存水素を不活性ガス中に拡散移行させてから、不活性ガスを回収し、水素ガス濃度を測定するプローブが提案されており、不活性ガス通路と金属管との接続部位における気密性を確保するべく、金属とセラミックス用ガラス質融着剤を保護スリーブと上記金属、セラミックス間の空隙に充填して外部からバーナーで過熱溶融して、更に保護スリーブを高温から守るための可撓式断熱スリーブを取り付けた提案がなされている。
【0006】
【特許文献1】特開平11−142398号公報
【特許文献2】特開2001−249063号公報
【特許文献3】実開平4−122365号公報
【特許文献4】特開2004−12336号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、実際に溶融金属精錬業を営む現場においては、溶融金属を採取したくても、回りの精錬制御装置の立体障害を受けるため、プローブ紙管の先端に溶融金属採取容器を付属させただけの直線的な型式では溶融金属を採取できない場所が数多く存在するという問題点があった。
【0008】
更には、従来の紙管プローブ法は、溶融金属の中にプローブ先端を挿入した後、溶融金属が自らの自重で溶融金属採取容器の空間内に入り込んでくる力のみで溶融金属を挿入せしめているため、浸漬深さを稼げない場合には、内部まで溶融金属が入り込まず、試料形状不良となり精錬制御操業に遅延をきたす一因となっていた。
【0009】
水素ガス濃度を測定するプローブの案は気密性を確保するために多大なコストと部品を使用する必要があり、繰返し分析には向かず、また、実際に品質保証に必須となる溶融金属をサンプリングできる構成は提案されていない。
【0010】
しかし、近年の金属の精錬工程においては、成分管理・調整を迅速、的確に行なうことは不可欠のことであり、そのため、立体障害があるような場所からの溶融金属サンプリングを、迅速かつ、確実に採取できることが強く望まれている。
【0011】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、溶融金属採取場所の制約に影響を受けずに、成分分析に直ちに供し得る試料を採取することが可能な、新規かつ改良された金属試料迅速採取サンプラー及びそれを用いる迅速サンプリング方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
【0013】
(1)溶融金属から金属試料を採取するサンプラーであって、前記溶融金属を採取して当該溶融金属を凝固させるサンプラー本体と、前記サンプラー内を真空吸引する吸引ポンプと、前記サンプラー本体と前記吸引ポンプとの間を接続し、少なくともフレキシブルパイプを含む接続部と、を備えることを特徴とする、金属試料採取サンプラー
(2)前記フレキシブルパイプが、耐熱性、耐曲げ特性、形状保持性を有し、電磁攪拌の影響を受けない材質であることを特徴とする、(1)に記載の金属試料採取サンプラー。
(3)前記フレキシブルパイプが、アルミニウム合金、ステンレス合金又は耐熱性プラスチックの少なくとも1種からなる可動型空孔管であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の金属試料採取サンプラー。
(4)前記サンプラー本体は、当該サンプラー本体の先端に溶融金属を吸引する中空管を更に備え、該中空管の材質が、耐熱衝撃性、耐熱性を有し、電磁力の影響を受けないものであることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の金属試料採取サンプラー。
(5)前記中空管が、石英ガラス管であることを特徴とする、(4)に記載の金属試料採取サンプラー。
(6)前記サンプラー本体は、当該サンプラー本体内の試料形成空間にガス抜き孔を有していることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の金属試料採取サンプラー。
(7)溶融金属にサンプラーを浸漬し、分析に供する金属試料を採取するサンプリング方法において、(a)(1)〜(6)のいずれか1項に記載の金属試料採取サンプラーを溶融金属に浸漬し、(b)吸引ポンプでサンプラー内の試料形成空間に溶融金属を導き、冷却凝固させて、金属試料を形成し、(c)上記サンプラーを引き上げて冷却した後、サンプラー本体から試料形成空間を剥離して、溶融金属凝固サンプルを得て、研磨、分析に供することを特徴とするサンプリング方法。
(8)前記金属試料採取サンプラーを挿入する挿入口から直線では望めない位置にある前記溶融金属に、前記金属試料採取サンプラーを挿入することを特徴とする、(7)に記載の迅速サンプリング方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来、直管のサンプラーでは、溶融金属採取が不可能であった立体障害の多い場所でも容易にサンプル採取が可能となった。
【0015】
また、サンプラーを溶融金属に浸漬させるだけでは自重で溶融金属を試料室に採取する力が不足していることを補うために、サンプラー紙管の内部を真空引きにすることにより、強制的にサンプル採取を行い、採取成功率飛躍的に高めることが可能となった。
【0016】
このように、本発明は、精錬工程における成分管理・調整において、顕著な効果をもたらすものである。したがって、本発明は、産業上の価値が極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
発明者は、従来の溶融金属サンプラーが、例えばRH二次精錬工程や、TD鋳込み工程での自動サンプリングに特化されたあまりに、溶融金属サンプラーの形状がプローブ紙管12のストレートタイプから変化していないことに気付いた。そのため、ストレートタイプでは立体障害部に挿入できないという問題点を回避するために、サンプラー中央部を自由に折り曲げることができるフレキシブルパイプに変更することで課題を解決した。
【0019】
また、サンプラーを溶融金属に浸漬させるだけでは自重で溶融金属を試料室15に採取する力が不足していることに気付き、それを補うために、サンプラー紙管の内部を真空引きにすることにより、強制的にサンプル採取を行い、採取成功率を高めることを行なった。
【0020】
さらに、サンプラー紙管を溶融金属部分に直接浸漬させることにより、溶融金属そのものを汚染したりするのを防止するために、石英製チューブを先端に取り付けて、溶融金属に変動を与えることなく、迅速かつ綺麗な溶融金属を採取することにも成功した。
【0021】
本発明者は、サンプラー本体と吸引ポンプとの間に設けるフレキシブルパイプの材質を実験した結果、耐熱性、耐曲げ特性、形状保持性を有し、電磁攪拌の影響を受けない材質が必要であり、アルミニウム合金、ステンレス合金、耐熱性プラスチックからなる可動型空孔管であれば、サンプリング作業時に、確実かつ安全に溶融金属を採取するための吸引用空間を保持できるフレキシブルパイプとなり得ることを明らかにした。
【0022】
また、サンプラー本体先端に溶融金属を吸引する耐熱衝撃性、耐熱性を有し、電磁攪拌の影響を受けない材質の中空管の材質を替えて実験した結果、ガラス、窒化ホウ素、石英ガラス管が適していることを見出した。なお、本発明者の実験結果によれば、溶融金属が溶鋼の場合、石英ガラス中空管が好適である。
【0023】
以下、上記知見を踏まえながら、本発明に係る金属試料迅速採取サンプラー及び迅速サンプリング方法について、詳細に説明する。
【0024】
本発明の第1の実施形態に係る金属試料迅速採取サンプラーは、溶融金属から金属試料を採取するサンプラーであって、溶融金属を急冷凝固するサンプラー本体と、サンプラー本体内を真空吸引できる吸引ポンプと、サンプラー本体と吸引ポンプとの間を接続し、少なくともフレキシブルパイプを含む接続部と、を備えることを基本思想とする。
【0025】
図1に、上記金属試料迅速採取サンプラーの一態様を示す。図1に示すように、金属試料迅速採取サンプラーは、吸引ポンプ引手1、吸引開始レバー2、吸引ポンプ本体3、中空パイプ4、軸受筒5、フレキシブルパイプ6、装着金具7、紙管8、試料採取容器9及び試料採取パイプ10によって構成されている。ここで、中空パイプ4、軸受筒5、フレキシブルパイプ6及び装着金具7が、上述の接続部に対応し、紙管8、試料採取容器9及び試料採取パイプ10が、上述のサンプラー本体に対応する。
【0026】
吸引ポンプ引手1および吸引開始レバー2が設けられた吸引ポンプ本体3は、接続部を介してサンプラー本体内を真空吸引して、サンプラー本体内を低圧にする装置である。図1に示したように、吸引ポンプ本体3には中空パイプ4が接続されており、中空パイプ4の吸引ポンプ本体3に接続されていない端部には、軸受筒5を介してフレキシブルパイプ6が接続されている。フレキシブルパイプ6の他端には、軸受筒5を介して、サンプラー本体にフレキシブルパイプ6を接続するための装着金具7が接続されている。ここで、フレキシブルパイプ6は、上述のように軸受筒5を介して装着金具7に接続されていてもよく、フレキシブルパイプ6の他端に更に中空パイプが接続され、この中空パイプに装着金具7が接続されていてもよい。装着金具7は、試料採集容器9及び試料採取パイプ10が設けられた紙管8に差し込まれる。
【0027】
ここで、試料採取容器9の構造については、一般的に利用されているような左右一対の半割りサンプルケースの中に、溶融金属を引き入れる流入路と空気抜け穴をもった、コイン状金属試料を得るような試料採取容器等を設置することができる。更に、発明者が特許文献4で示したような、溶融金属から金属試料を採取するサンプルケース体が、ケース体に設けた流入路から侵入してくる溶融金属を急冷凝固せしめる偏平な試料採取空間を一側面に備える左右1対の半割サンプルケースと、上記左右1対の半割サンプルケースの間に在って上記試料採取空間を区分し、サンプルケース体内に左右1対の試料採取空間を形成する溶融金属をはじく材質の空間分割板と、を備える試料採取ケースを用いると、従来の金属試料採取ケースに比べてより迅速な急冷凝固による迅速性の確保と試料の採取ミスを防止することが可能となる。
【0028】
ここで、試料採取容器9は、溶融金属を的確に急冷凝固させ、均一な凝固組織を有する金属試料を得るために、抜熱能力に優れた材料で構成することが好ましい。抜熱能力に優れた材料として、例えば、鉄、鋼、アルミニウム、銅及びステンレス鋼のいずれか1種又は2種以上からなる材料を用いることが可能である。
【0029】
まず、吸引ポンプ引手1を引き上げることにより、吸引ポンプ本体3の内部空間を低圧状態にしておく。次に、吸引ポンプの先端にある装着金具7を、紙管8に差し込むことにより接続され、かつ脱着が可能なように構成し、吸引準備が完了する。
【0030】
実際の溶融金属、例えば、溶鋼を採取する現場においては、その場、その場において、どのような立体障害があるのかにより、フレキシブルパイプ6の折り曲げ角度を変更する。フレキシブルパイプの折り曲げ角度は、採取時点で、溶鋼表面のパウダー層を突き抜ける深さと角度を計算した上で、予め手で折り曲げて調整しておき、複数回、同じ場所でサンプル採取テストを行っておくと、次回から固定したサンプル角度で、成功率高く、サンプルを採取することが可能となる。なお、紙管8の長さについては、余り長過ぎると溶鋼差込み部での立体障害となり易いため、できる限りコンパクトに長さや直径を小さくしておくことが望ましく、試料採取空間を確保できる最小限の長さであることが好ましい。
【0031】
更に、どうしてもモールド上でフレキシブルパイプを折り曲げる必要があるような場所においては、フレキシブルパイプ本体を任意の角度に曲げて、溶鋼を採取し、その後に元の角度に戻すことができるような遠隔駆動部をパイプ中間から先端部分に備えることも可能である。
【0032】
フレキシブルパイプ本体は、1500℃近い溶鋼が直接通過する部分ではないものの、耐熱衝撃性、耐熱性等の高温箇所で使用する上での基本的特性が必要であり、低圧にした吸引ポンプ本体へサンプラー本体の空気が通過するだけの温度に耐えること、及び、使用する製鋼現場の雰囲気温度に耐えることが必要である。このような観点から、フレキシブルパイプ本体は、高温に晒されても熱で変形し難い、例えば、アルミニウム合金、ステンレス合金、耐熱性プラスチックの少なくとも1種からなる可動型空孔管であることが望ましい。
【0033】
次に、溶融金属上面に断熱パウダー等がある場合は、パウダー層を突き抜けるように試料採取パイプ10を差し込み、溶融金属の内部にまで浸漬させた後に、吸引開始レバー2を押すと、吸引ポンプ本体の低圧部と中空パイプ4及びフレキシブルパイプ6と紙管8までが接続され、試料採取容器9及び試料採取パイプ10の内部が低圧状態となる。
【0034】
このとき、溶融金属を吸引するための試料採取パイプ10材質も金属不純物量の少ない材質で、耐熱衝撃性、耐熱性、耐溶融金属溶損性を有すると共に、近年の精錬制御高度化のために多用される電磁撹拌による電磁力の影響を受けない材質を用いることが好ましい。そのため、少なくとも溶鋼温度1600℃でも溶けない耐熱性が必要であり、また、常温状態から溶鋼と直接接触しても壊れないようにするため、熱膨張係数が例えば10−6/℃程度の小さな値となっていることが好ましい。例えば、石英ガラス板の他に、ガラス、窒化ホウ素管を用い得ること、またセラミックス管の表層に高温潤滑・離型材(例えば、窒化ホウ素、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化珪素等のセラミックスパウダー)を塗布した管を用いることが可能である。なお、本発明者の実験結果によれば、溶融金属が溶鋼の場合、石英ガラス(熱膨張係数:5.6×10−7/℃)が好適である。電磁力の影響を受ける材質溶融金属が溶鋼の場合、石英ガラスが好適である。一方、鉄等の磁性体を用いた場合、鋳型内に挿入する時点で磁場の影響を受け所望の部位に浸漬することができなくなるため、好ましくない。
【0035】
低圧状態の試料採取パイプ10を通じて溶融金属が引きずり込まれ、試料採取容器9の二つ割急冷凝固空隙にて急冷凝固される。このとき試料採取容器9にはガス抜きのための穴を二つ以上設けておくことにより、上記低圧吸引を容易にする作用が生まれる。
【0036】
紙管サンプラー本体に溶融金属を真空吸引した後は、紙管サンプラーを溶融金属から引き出し、別の場所で、紙管サンプラー本体8を空冷、もしくは水冷することにより金属を低温まで冷却する。
【0037】
その後、試料採取容器9内部の二つ割急冷凝固空隙を外し、溶融金属の凝固試料を得たら、通常の研磨作業を行い、発光分析、蛍光X線分析に供する。また、切り粉試料を採取して、化学分析に供することもできる。
【0038】
上記サンプラーの中でフレキシブルパイプ6の長さは、長過ぎると自重を支えきれず垂れ下がってしまう可能性があり、逆に短過ぎると柔軟性が得られないため、臨む場所のサンプリングが不可能となってしまう。そのため、フレキシブルパイプの長さは、1cmから200cmほどの間に収めるのが良い。
【0039】
次に、試料採取パイプ10の長さについて検討した結果、短過ぎると溶鋼表層のパウダーを巻き込んでしまい、サンプリング不良となるため、最低限でも表層パウダー層を完全に貫通する長さ以上が必須である。例えば、厚さ10cmのパウダー層に斜め45度の角度で進入させた場合は15cm以上の長さが必要となる。一方、長過ぎる場合には、サンプラー先端を挿入するときに立体障害となる可能性が高くなる弊害が発生する。そのため、表層パウダー層等の不要部分を貫通させた後、長くて20cm以内、好ましくは10cm以内に止めることが、作業性を良好にして良質の溶融金属を採取できる条件となる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明は、実施例で採用した条件に限定されるものではない。
【0041】
図1に示す構造のサンプラーを作製し、図2に示すように立体障害のある場所の代表として、溶鋼モールド鋳込み部にて、本実施形態に係る迅速サンプリング方法で溶鋼をサンプリングした。
【0042】
モールド部は、タンディッシュ部からモールド部に円柱状のノズルで溶鋼が挿入される。この場合、220mm角に160mmφのノズルが挿入されると、実質的にサンプラーを挿入できるのは、62mmφしか許されない。また、高さ的にも250mm間隔しかないため、通常のストレート紙管タイプでは挿入することが実質不可能である。そのため、紙管の長さを155mm、直径を50mm、試料採取パイプ先端長さを107mmとコンパクトに設計し、後方より吸引ポンプで強制的に吸い上げることにより、溶融金属を容易に採取せしめることが可能となった。
【0043】
このサンプリング方法を用いて、タンディッシュ内の溶鋼が鋼種Aから鋼種Bに移り変わる遷移状態における炭素量の変化を逐次採取、分析して評価した。その結果を図4に示す。ここで、図4において横軸は通過トン数を表しており、マイナスの値からゼロ点(リアルバウンダリー点)までが、本来、前の鋼種の溶鋼が全部通過してしまう点を示しており、ゼロ点からプラス側の値が、次に注がれた鋼種が通過したトン数を表している。左側が元々タンディッシュに挿入されていた鋼種Aの炭素量0.23%が徐々に高くなり、最終的には鋼種Bの炭素量0.36%に移り変わる様が綺麗に採取できた。この結果より、鋼種Aと鋼種Bの間で、鋼種判定上歩留落ちとなる部分を正確に判断できるようになり、異鋼種継ぎ目間の歩留落ちを最小限に留めることができるため、大幅なコスト削減に役立った。
【0044】
このように、本実施形態に係るサンプリング方法によれば、立体障害があるような精錬制御工程においても、容易に溶融金属サンプルを採取でき、その結果から、精錬制御工程を高精度に制御でき得ることを示した。
【0045】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る金属試料迅速採取サンプラーの構造を示す説明図である。
【図2】同実施形態に係る金属試料迅速採取サンプラー採取場所と金属試料迅速採取サンプラーの設置の一態様を示す説明図である。
【図3】同実施形態に係る異鋼種継ぎ目部における成分変動を迅速かつ正確に捉えた一例を示すグラフ図である。
【図4】従来のサンプラーの構造を示す説明図である。
【符号の説明】
【0047】
1 吸引ポンプ引手
2 吸引開始レバー
3 吸引ポンプ本体
4 中空パイプ
5 軸受筒
6 フレキシブルパイプ
7 装着金具
8 紙管
9 試料採取容器
10 試料採取パイプ
11 プローブ紙管
12 紙管
13 接続ユニット
14 熱電対封入管
15 試料採取容器
16 耐火物
17 試料採取管
18 キャップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融金属から金属試料を採取するサンプラーであって、
前記溶融金属を採取して当該溶融金属を凝固させるサンプラー本体と、
前記サンプラー内を真空吸引する吸引ポンプと、
前記サンプラー本体と前記吸引ポンプとの間を接続し、少なくともフレキシブルパイプを含む接続部と、
を備えることを特徴とする、金属試料採取サンプラー。
【請求項2】
前記フレキシブルパイプは、
耐熱性、耐曲げ特性、形状保持性を有し、電磁攪拌の影響を受けない材質である
ことを特徴とする、請求項1に記載の金属試料採取サンプラー。
【請求項3】
前記フレキシブルパイプは、
アルミニウム合金、ステンレス合金又は耐熱性プラスチックの少なくとも1種からなる可動型空孔管である
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属試料採取サンプラー。
【請求項4】
前記サンプラー本体は、当該サンプラー本体の先端に溶融金属を吸引する中空管を更に備え、
前記中空管の材質は、耐熱衝撃性、耐熱性、耐溶融金属溶損性を有し電磁力の影響を受けないものである
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属試料採取サンプラー。
【請求項5】
前記中空管は、石英ガラス管である
ことを特徴とする、請求項4に記載の金属試料採取サンプラー。
【請求項6】
前記サンプラー本体は、
当該サンプラー本体内の試料形成空間にガス抜き孔を有している
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属試料採取サンプラー。
【請求項7】
溶融金属にサンプラーを浸漬し、分析に供する金属試料を採取するサンプリング方法において、
(a)請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属試料採取サンプラーを溶融金属に浸漬し、
(b)吸引ポンプでサンプラー内の試料形成空間に溶融金属を導き、冷却凝固させて、金属試料を形成し、
(c)上記サンプラーを引き上げて冷却した後、溶融金属が凝固している試料形成空間をサンプラー本体から剥離して、溶融金属凝固サンプルを研磨、分析に供する
ことを特徴とする、サンプリング方法。
【請求項8】
前記金属試料採取サンプラーを挿入する挿入口から直線では望めない位置にある前記溶融金属に、前記金属試料採取サンプラーを挿入する
ことを特徴とする、請求項7に記載のサンプリング方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−236738(P2009−236738A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84279(P2008−84279)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(593063149)日本ミンコ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】