説明

金属酸化物ナノロッドの製造方法

【課題】大量のナノロッド及び基体表面に整列されたナノロッドのいずれをも製造することが可能な方法を提供すること。
【解決手段】金属酸化物ナノロッドの製造方法は、炉6内において金属蒸気を発生させる工程と、炉内の成長領域内において、ナノロッド成長用基体22の表面上に金属酸化物ナノロッドが形成されるのに十分な時間だけナノロッド成長用基体22を金属蒸気に曝す工程と、ナノロッド成長用基体22を成長領域から除去する工程と、このように形成された金属酸化物ナノロッドであって、その直径が1nmから200nmの金属酸化物ナノロッドを収集する工程とからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物ナノ寸法材料及び金属酸化物ナノ寸法材料に基づく複合材料に関する。特に、金属酸化物ナノロッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物ウィスカは通常1μm以上の直径を有するロッド形状材料であるが高強度及び高温耐性の故に複合材料に広く使用されている。而して、斯かる直径範囲を有する金属酸化物ウィスカは種々の方法で製造されてきた。一方、ナノメータ直径を有する材料は特に超伝導体における磁気情報記憶及び磁束のピン止め構造(pinning structure)としての特定の材料用途において有用である。ナノメータ寸法の範囲における材料では量子的現象(quantam phenomena)が期待される。一方、ロッド形状とされたものも含め、2〜100nmの直径を有する金属炭化物製のナノ材料が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3951677号明細書
【特許文献2】米国特許第4778716号明細書
【特許文献3】米国特許第5418007号明細書
【特許文献4】米国特許第5441726号明細書
【発明の概要】
【0004】
本発明は、金属酸化物ナノロッド、金属酸化物ナノロッドを含む複合材料、及び、金属酸化物ナノロッドの調製方法に関している。該金属酸化物ナノロッドの直径は1〜200nmであると共に縦横比は5〜2000である。
【0005】
酸化マグネシウム(MgO)、酸化アルミニウム(Al)及び酸化亜鉛(ZnO)のナノロッドなどの金属酸化物ナノロッドは、大量の金属酸化物粉体に炭素粉体を混合した混合物などの金属蒸気源と、低濃度の酸素ガスと、を用いた気固相成長プロセスを制御することにより製造し得るものである。而して、大量のナノロッド、及び、基体表面に整列されたナノロッドのいずれをも製造することが可能である。これらの金属酸化物ナノ粒子のサイズ範囲は従来のウィスカのそれよりも小さいことから、これらの材料をナノロッドと称するものとする。寸法が減少することにより材料の特性は改善される。例えば、この種の材料では直径が減少すると強度が増大することが知られている。
【0006】
本発明はひとつの側面において、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、オスミウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ランタノイド系列の元素(例えば、セリウム、プラセオディミウム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ディスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、及びルテチウム)、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから成る群から選択された(例えば一種以上の)金属を金属成分として含む金属酸化物ナノロッドに関している。該金属酸化物ナノロッドは狭寸(直径)及び長寸を有している。粒子がナノロッドであることから、粒子の狭寸は1〜200nmであり、より好適には2〜50nmである。上記ナノロッドは好適には5〜2000の縦横比(直径に対する長さの割合)によっても記述することができる。長さは略々1マイクロメータより大きい。
【0007】
実施例においては、金属酸化物ナノロッドはマグネシウム、アルミニウム、亜鉛、カドミウム、鉄、及びニッケルから成る群から選択された金属成分を含む。他の実施例においては、金属酸化物ナノロッドは基体または単結晶基体の表面に対して整列されている。特定の実施例においてはナノロッドは上記表面に対して直交しているが、これは、基体表面の法線に対して15°の範囲内に整列されていることを意味するものである。
【0008】
上記金属酸化物ナノロッドは、有機高分子、ガラス、セラミック、金属もしくはそれらの混合物などのマトリクス材料中に含まれ得る。例えば、金属マトリクス材料はNi/Al合金もしくはMoSiともし得る。各実施例におけるマトリクス材料は、(例えばNb、NbTi、NbSnもしくは非晶質MoGeなどの)低温超伝導材料、または、(例えばBiSrCaCu8+x(BSCCO−2212)、BiSrCaCu10+x(BSCCO−2223)、YBaCu7+x、TlBaCaCu10+x(Tl−2223)、TlBaCaCu8+x(Tl−2212)、TlBaCaCu(Tl−1212)、TlBaCaCu(Tl−1223)、HgBaCaCu6+x(Hg−1212)もしくはHgBaCaCu8+x(Hg−1223)などの)高温酸化銅超伝導体、などの超伝導体である。基体上に形成された複合材料においては、金属酸化物ナノロッドの各々は基体の表面に略々直交して整列され得る。
【0009】
本発明は別の側面において金属酸化物ナノロッドの製造方法に関している。この方法は以下に示す3つの工程を含む。第1に、粉体化された金属蒸気源は(管状炉などの)炉内に載置され得るが、この炉はその一端から他端にかけて流れるキャリヤガスを有し得るものである。このキャリヤガスは(例えばアルゴン、ヘリウムなどの)不活性ガス及び酸素からなる。酸素が炉またはキャリヤガス内に微量に存在してもよい。キャリヤガスにおける好適な酸素濃度は1ppm〜10ppmである。第2に、炉内にナノロッド成長用基体が載置されるが、これは例えば、金属蒸気源の100℃の温度勾配内すなわち成長領域内において、金属蒸気源の下流に配置される。最後に、炉の内容物が加熱され、金属蒸気源の温度(例えば設定点温度など)は最大2時間、一般的には約5分〜2時間に亙って500〜1600℃の間に保たれる。ナノロッドはナノロッド成長用基体の表面上で成長することができる。上記温度はナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドを形成するに十分な時間に亙り維持される。また、金属蒸気源を冷却することによりナノロッドの成長は停止され得る。この代わりに、金属酸化物ナノロッドの成長の後で成長領域から基体を除去することも可能である。金属酸化物ナノロッドは収集されて炉から取り外される。
【0010】
別の側面において本発明は金属酸化物ナノロッドの製造方法を特徴としている。最初に、管状炉などの炉内で金属蒸気を発生させる。次に、炉内の成長領域内において金属蒸気にナノロッド成長用基体を曝す。これはナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドが形成されるのに十分な時間に亙り行われる。ナノロッド成長用基体の表面に金属酸化物ナノロッドが成長するうえで十分な時間が経過した後、ナノロッド成長用基体を成長領域から除去する。金属酸化物ナノロッドは収集されて炉から取り出される。ナノロッド成長用基体は、金属酸化物ナノクラスタ(metal oxide nanocluster)、単結晶、グラファイトまたは金属被覆基体であることが好ましい。
【0011】
更なる側面において本発明は、炉内にマグネシウム蒸気源を配置することと、炉内にナノロッド成長用基体を配置することと、(例えば酸化マグネシウム及び炭素の粉体などの)マグネシウム蒸気源を500〜1600℃の温度に加熱することにより炉内でマグネシウム蒸気を発生させることと、ナノロッド成長用基体の表面上に酸化マグネシウムナノロッドを成長せしめるに十分な時間だけナノロッド成長用基体を炉内の成長領域内でマグネシウム蒸気に曝すことと、蒸気への被曝の後に成長領域からナノロッド成長用基体を除去することと、形成された酸化マグネシウムナノロッドを収集することとにより酸化マグネシウムナノロッドを製造する方法を特徴とする。
【0012】
各実施例においては、金属酸化物ナノロッドを成長させるに十分な時間の間に成長領域を通じてナノロッド成長用基体を移動させることが可能である。金属酸化物ナノロッドは、(例えば多孔質膜を使用して)基体から該金属酸化物ナノロッドを物理的に分離することにより精製可能である。グラファイト基体が使用される実施例の場合、金属酸化物ナノロッドを酸化雰囲気中で加熱してグラファイトを二酸化炭素に転換することにより金属酸化物ナノロッドを精製することができる。
【0013】
実施例における金属蒸気源は、金属元素、または、金属酸化物と炭素との混合物とする。ナノロッド成長を支持し得る基体であるナノロッド成長用基体は、ナノクラスタ(nanocluster)の寸法に寄与する。ナノロッド成長用基体としては、金属酸化物ナノクラスタ、単結晶表面、(例えば炭素のような)グラファイト、(例えば金、銀、銅及び白金などの貴金属により被覆された基体などの)金属被覆基体、金属蒸気源の表面、または、これらの組合せが挙げられる。単結晶表面として基体上の薄膜またはバルク結晶の表面の利用が可能である。これらのナノロッド成長用基体は全て、ナノロッドを成長させる為のナノサイズ結晶核形成部を有するか、或いは結晶核形成部を形成する、という点において共通している。単結晶表面は食刻によりナノサイズ結晶核形成部を形成することも可能であり、或いは、単結晶表面は原位置においてナノサイズ結晶核形成部を形成しても良い。ナノロッドをマトリクス材料内に封入することにより複合材料を形成しても良い。
【0014】
ここで用いられる「ナノロッド(nanorod)」とは、狭寸(直径)及び長寸(長さ)を有すると共に狭寸に対する長寸の比(縦横比)が少なくとも5である固体物を意味する。一般的には、縦横比は10〜2000である。定義により、ナノロッドの狭寸は1〜200nmの直径である。従って、ナノロッドの長さは0.01〜400μmの間である。また、ナノロッドは、少なくとも部分的に金属酸化物から成る固体構造である。更に、ナノロッドは単結晶である。一方、「狭寸(narrow dimension)」あるいは「直径」とは、ナノロッドの最短寸法、または、断面の厚みを意味する。一般に、ナノロッドの直径は特定のナノロッドの長さに沿って基本的には一定である。而して、「長寸(long dimension)」あるいは「長さ」とは、ナノロッドの直径に略々直交するナノロッドの最長寸法を意味している。
【0015】
一方、「ナノサイズ結晶核形成部(nanosized nucleation site)」という表現は、ナノロッド成長用基体の表面上の点のようにナノロッドの成長が開始する部位を意味する。例としては、単結晶の表面の食刻ピット(pit)、金属被覆基体、ナノクラスタ、及びそれらの組合せが挙げられる。グラファイト基体上においては、ナノサイズ結晶核形成部は反応条件下で原位置において形成される。また、「基体に対して整列された」という表現は、ナノロッドの大部分(50%以上)が基体の表面からほぼ同一の方向に延びることを意味している。例えば、酸化マグネシウム基体の単結晶の(100)面は、基体表面に直交して整列された酸化マグネシウムナノロッドの成長を支持するものである。この点、「直交して整列された」という表現は、ナノロッドが基体表面に対して90°の角度から15°の範囲内にあることを意味する。他方、「下流に」とは、キャリヤガスが金属蒸気を基体に供給する様に基体が金属蒸気源に対して配置されることを意味する。このことは一般に、基体は、キャリヤガスが炉を通流する方向の金属蒸気源の後方において配置されることを意味する。「下流に」とは更に、基体が炉の低温領域内に在ることを記述することも意図している。金属蒸気源と基体との間には温度勾配が存在する。
【0016】
ここで用いられる「成長領域(growth zone)」とは、最高温度(または金属蒸気の最高濃度)の箇所と基体の箇所との間において温度降下が100℃以内の領域である。基体は、金属蒸気源の100℃の温度勾配内に配置される。
【0017】
本発明によれば、以下の利点の内のひとつが提供され得る。ナノロッドは、固有の金属性、半導性、絶縁性、超伝導性、光学的または磁気的な特性またはそれらを組合せた特性を有し得る。実施例の幾つかにおいて、透過型電子顕微鏡による測定及び直径への正規化によれば、先行技術の大寸材料よりも積層欠陥が低密度である。ナノロッドは極めて異方性が高い。
【0018】
(例えば酸化マグネシウムナノロッドなどの)金属酸化物ナノロッドは、炭素基体またはグラファイト基体上で成長せしめられ得る。この点、炭素基体は、比較的に安価であると共にナノロッド成長に対する予備処理を要さず、酸化によりナノロッドから容易に取り除かれて純粋な金属酸化物ナノロッドを供与し得、(支持体の単位面積当りの)ナノロッドの高収率に繋がることが可能であり、且つ、酸化マグネシウムを食刻した単結晶基体におけるよりも大きな縦横比を有するナノロッドを生成することが可能である。更に、炭素基体は、金属酸化物ナノロッドを商業的に量産するうえで使用することが可能である。
【0019】
本発明の第1の態様によれば、金属酸化物ナノロッドの製造方法が提供され、その方法は、炉内において金属蒸気を発生させる工程と、炉内の成長領域内において、ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドが形成されるのに十分な時間だけナノロッド成長用基体を金属蒸気に曝す工程と、ナノロッド成長用基体を成長領域から除去する工程と、このように形成された金属酸化物ナノロッドであって、その直径が1nmから200nmの金属酸化物ナノロッドを収集する工程とを備えることに特徴を有する。
【0020】
本発明の第2の態様によれば、金属酸化物ナノロッドの製造方法が提供され、その方法は、金属蒸気源を炉内に配置する工程と、炉内にナノロッド成長用基体を配備する工程と、前記金属蒸気源を500℃〜1600℃の温度に加熱する工程と、ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドを形成するに十分な時間に亙り上記温度を維持する工程と、このように形成された金属酸化物ナノロッドであって、その直径が1nmから200nmの金属酸化物ナノロッドを収集する工程とを備えることに特徴を有する。
【0021】
本発明の第3の態様によれば、酸化マグネシウムナノロッドの製造方法が提供され、その方法は、炉内にマグネシウム蒸気源を配置する工程と、炉内にナノロッド成長用基体を配備する工程と、マグネシウム蒸気源を500℃〜1600℃の温度に加熱することにより炉内でマグネシウム蒸気を発生する工程と、ナノロッド成長用基体の表面上に酸化マグネシウムナノロッドを成長せしめるに十分な時間だけナノロッド成長用基体を炉内の成長領域内でマグネシウム蒸気に曝す工程と、前記成長領域が炉内においてマグネシウム蒸気源の100℃温度降下内の領域であり、ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドを成長せしめるに十分な時間の後、成長領域からナノロッド成長用基体を取り外す工程と、このように形成された酸化マグネシウムナノロッドを収集する工程とを備えてなることに特徴を有する。
【0022】
本発明の第4の態様によれば、金属酸化物ナノロッドの製造方法が提供され、その方法は、炉内において金属蒸気を発生させる工程と、炉内の成長領域内において、ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドが形成されるのに十分な時間だけナノロッド成長用基体を金属蒸気に曝す工程と、ナノロッド成長用基体を成長領域から除去する工程と、このように形成された金属酸化物ナノロッドを収集する工程とを備えてなり、前記金属酸化物が酸化マグネシウムであることを特徴とする。
【0023】
本発明の第5の態様によれば、金属酸化物ナノロッドの製造方法が提供され、その方法は、金属蒸気源を炉内に配置する工程と、炉内にナノロッド成長用基体を配備する工程と、前記金属蒸気源を500℃〜1600℃の温度に加熱する工程と、前記ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドを形成するに十分な時間に亙り上記温度を維持する工程と、このように形成された金属酸化物ナノロッドを収集する工程とを備えてなり、前記金属酸化物が酸化マグネシウムであることを特徴とする。
【0024】
本発明の他の特徴及び利点は以下の発明の詳細な説明及び請求の範囲から明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】金属酸化物ナノロッド成長用のバッチ反応器の概略図である。
【図2】金属酸化物ナノロッド成長用の準連続バッチ反応器の概略図である。
【図3】金属酸化物ナノロッド成長用の連続流バッチ反応器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、金属酸化物ナノロッド、金属酸化物ナノロッドの調製方法、及び、マトリクス材料内に金属酸化物ナノロッドを含む複合材料に関する。
上記ナノロッドは主としてMの一般式で表される金属酸化物から成る。但し、M及びMは、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、オスミウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ランタノイド系列の元素、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから成る群から選択された金属である。酸素に対する金属の割合は化合物内の金属の酸化状態による。一般的にx及びyの一方、並びにzはゼロより大きな整数である。即ち、上記化合物は化学量論的なものであり、酸素空孔が殆ど無い。MとMが同一の金属(またはyがゼロ)の場合には、2元金属酸化物は2元金属酸化物である。2元金属酸化物の特定例としては、MgO、Al及びZnOが挙げられる。
【0027】
代わりに、ナノロッドは多数の酸素空孔を有する。斯かる材料は実際には、式M:Mの金属添加金属酸化物として記述した方が理解し易い。上記金属は同一でも良くまたは異なっても良い。MとMが同一の場合、当該材料は酸素に富んだまたは酸素空孔を有する金属酸化物として特徴付けられる。該材料は金属添加金属酸化物である。このタイプの化合物の例としては、Zn:ZnO及びIn:ZnOが挙げられる。この特性を有する化合物が形成されるのは、例えば、キャリヤガスの酸化が、化学量論的組成が得られる場合よりも少ない場合である。
【0028】
本発明は金属酸化物ナノロッドだけでなく、該ナノロッドを含む他の複合材料も包含する。ナノロッドの寸法に依り、ナノ構造を有する優れた複合材料が構築され得る。例えば、ナノロッドの引張強度(kg/mm)は相当するウィスカの引張強度よりも大きい。例えば、酸化マグネシウムナノロッドを含む高温酸化銅超伝導体マトリクスから成る塊状及び薄膜状の複合材料が調製され得る。ナノロッドは従来はイオン照射により生成されていた柱状欠陥に類似しており、これらの材料における臨界電流密度及び不可逆性温度(irreversibility temperature)を大幅に増大することが見出された。
【0029】
別の取り組みとしては、予備成形された柱状構造を超伝導マトリクス内に付加して材料内に柱状欠陥構造を作る方法が挙げられる。この点、有用な柱状欠陥構造を作る為には、幾つかの重要な基準がある。ロッド状構造は約10nmの直径と0.1μmより大きな長さを有さねばならない。更に、ロッド状構造は、処理温度において超伝導マトリクスと化学的に反応してはならない。
(金属酸化物ナノロッドの合成)
金属酸化物ナノロッドを調製する上で使用される一般的な合成方法は3つの基本工程を含む。第1に、金属蒸気は、キャリヤガスにより基体へと搬送される金属源から発生されねばならない。第2に、金属蒸気は基体の表面上に結晶核を生成する。而して、基体は、予備形成された金属酸化物ナノクラスタ、または、単結晶の欠陥部位とされ得る。代わりに、例えば基体が炭素またはグラファイトである場合には、結晶核形成部は反応器内において原位置にて形成される場合もある。これにより金属酸化物ナノロッドは成長を開始する。最後にナノロッドの気相成長が生ずる。ナノロッドの形成に対して必須となる重要な工程は、結晶核の形成工程及び成長工程であり、これらの工程は金属酸化物ナノロッドの初期寸法及び最終直径を決定するものである。
【0030】
金属源は、反応条件下で金属原子の揮発源となるものでなければならない。金属蒸気を発生させるひとつの方法は、金属元素を含む供給源を加熱することである。代わりに、大量の金属酸化物粉体の炭素熱的還元(carbothermal reduction)を用いて揮発性の金属蒸気を発生させることも可能である。重要な点は、キャリヤガスが、金属蒸気を基体に搬送する不活性ガスと、金属酸化物の析出を可能とする少量の酸素とから成ることである。この点、市販されている試薬は十分な純度(>99%)を有している限り、使用前の予備処理を必要としないのが一般的である。出発材料及び基体の販売元としては、ウィスコンシン州ミルウォーキーのアルドリッチ・ケミカル(Aldrich Chemical)、マサチューセッツ州ウォードヒルのジョンソンマッセー(Johnson−Mathey)、及び、ペンシルバニア州ピッツバーグのマーケテック・インターナショナル(Marketech International)が挙げられる。
【0031】
一方、金属酸化物ナノロッドを成長させる温度プロファイルは、ナノロッドの成分に対する状態図、または実験によって決定され得る。一般的には、基体は金属蒸気源の下流に載置される。その結果、金属蒸気源と基体との間に温度勾配が形成される。(金属蒸気の濃度及び温度が最も高いところである)金属蒸気源の100℃の温度勾配内に基体が配置されることが好ましい。
【0032】
また、ナノロッドの特性は例えば、結晶配向及び積層欠陥密度を測定する透過型電子顕微鏡法(TEM)、成分を測定するエネルギ分散X線蛍光、結晶構造を測定するX線回折(XRD)、及び、格子対称性もしくは格子定数aを測定する収束電子ビーム回折により測定される。
【0033】
金属酸化物ナノロッドは理想的には単結晶であり、基本的に結晶構造により特徴付られる。単結晶材料は、単結晶領域を備えている。
何らかの理論に拘束されることを意図するものではないが、ナノロッドを形成するメカニズムは気固相成長を含むものであり、その場合、ナノ粒子または食刻された単結晶表面(もしくは他の基体)がナノロッドの成長に対する結晶核形成部を提供するものと考えられる。代わりに、単結晶グラファイトにおける炭素表面などの結晶核生成表面には、ナノ寸法の結晶核形成部は予備形成されていない。また、ナノロッド成長の為の結晶核形成部は、気相から(例えば酸化マグネシウムなどの)ナノクラスタが析出することにより、または、結晶核形成部として機能し得るナノメータスケールのピットを形成する炭素成長表面が酸化することにより、原位置にて生ずるものと考えられる。ナノロッドの平均直径はナノロッドの大量合成の間におけるナノ粒子のサイズにより部分的に決定される。単結晶基体の表面上に整列されたナノロッドを高密度で得る為には、単結晶基体の表面を新たに食刻する必要がある。このプロセスにより表面には結晶核生成及びナノロッド成長の為の多くのナノ寸法部位が提供されるが、これは、基体の表面とナノロッドの成長面との間に良好な格子整合があることが前提となる。
【0034】
金属酸化物ナノロッドは、水平管状炉式のバッチ反応器内で調製され得る。図1を参照すると、端部キャップ14及び16内に夫々配置された取入口10及び吐出口12を介することにより高純度石英管状炉6を通して(例えばアルゴンまたはヘリウムなどの)不活性ガスが通流せしめられる。不活性ガスは(例えばグラファイト製の舟形容器内の酸化マグネシウム+炭素反応物などの)金属蒸気源20上を流れる。金属酸化物ナノロッドが(例えば炭素/グラファイト基体などの)ナノロッド成長用基体22上に成長する。
【0035】
(例えば酸化マグネシウムナノロッドなどの)ナノロッドを大量生産する二つの試みは、異なる反応器の設計態様を活用して材料の生成量を高めることである。反応器の設計態様は:(1)準連続バッチモード反応器、及び(2)連続流反応器である。いずれの設計態様も、ミクロンスケールのウィスカまたは種々の材料の大寸成長にこれまで使用されてきたものである。例えば、1970年ウィリー・インターサイエンス(Wiley−Interscience)のA.P.Levitt篇による「ウィスカ・テクノロジ」(Whisker Technology)における第318頁のW.H.Suttonによる「ウィスカ強化複合材料の製造原理及び方法」(Principles and Methods for Fabricating Whisker−ReinforcedComposite)、及び、「ウィスカ・テクノロジ」第82頁のワグナー(R.S.Wagner)の「結晶成長のVLS機序」(VLS mechanism of Crystal Growth)を参照されたい。
【0036】
準連続バッチモード反応器においては、(例えばマグネシウムなどの)金属蒸気は(例えば酸化マグネシウムなどの)金属酸化物の炭素熱的還元により生成され、反応器の成長領域における(例えばグラファイトなどの)ナノロッド成長用基体に搬送され得る。図2を参照すると、端部キャップ14及び16内に夫々配置された取入口10及び吐出口12を介することにより高純度石英管状炉6を通し、且つ、(例えばグラファイト製の舟形容器内の酸化マグネシウム+炭素反応物などの)金属蒸気源20上を通り、(例えばアルゴンまたはヘリウムなどの)不活性ガスが通流せしめられる。金属酸化物ナノロッドは、マニピュレータ30上に取付けられた(例えばグラファイト・ロッドの如き炭素/グラファイト基体などの)ナノロッド成長用基体22上にて成長する。該ナノロッド成長用基体として、予め形成されたナノクラスタでシードした基体か、好ましくは、(例えばグラファイトなどの様に)原位置においてナノサイズ結晶核形成部を形成する基体を使用することが可能である。金属酸化物ナノロッドはナノロッド成長用基体の表面上に成長する。設定された成長時間の後、マニピュレータ30を用いて基体は成長領域から(例えば引出されるなどして)取り外される。また、結果として得られたナノロッド自体は、例えばスクレーパ40を用いて取り外される。ナノロッドは更なる使用の為に収集される。上記成長プロセスはナノロッド成長用基体を反応器の成長領域内に戻すことにより継続することができる。但し、その表面上に更なるナノロッドを成長させる前に、基体を再びシードすることが必要になることもある。尚、グラファイト基体が使用される場合には、ナノロッド成長に対する処理を基体に施す必要は無い。
【0037】
連続流反応器においては、(例えば予備形成された金属酸化物ナノクラスタまたはグラファイト粉体などの)粉体化されたナノロッド成長用基体が導入され、成長領域を通過せしめられるが、該成長領域においては(例えばMg(0)などの)金属蒸気が反応すると共に反応器の底部にて連続的に収集されるナノロッドが製造される。図3を参照すると、(例えばアルゴンまたはヘリウムなどの)不活性ガスは取入口10及び吐出口12を介して垂直炉6内を流れる。取入口10は端部キャップ14内に配置され、吐出口12は炉の逆側の端部に配置される。炉内における(例えばグラファイト製の舟形容器内の酸化マグネシウム+炭素反応物などの)金属蒸気源20の配置箇所は、ナノロッドの成長が制御される成長領域21を画成する。連続プロセスにおいては、ナノロッド成長用基体22はグラファイト粉体または金属酸化物ナノクラスタなどの粉体である。粉体化されたナノロッド成長用基体はリザーバ24から計量供給バルブ26を介し、垂直管状炉内の石英管内に導入される。粉体化された基体は重力の作用により成長領域21を通して落下するが、該成長領域21にては(例えばMg(0)などの)金属蒸気が(例えば、酸化マグネシウムの炭素熱的還元などにより)発生する。成長領域21を通って基体が落下する速度は、取入口10及び吐出口12を通る不活性ガス流により制御され得る。この落下速度は、ナノロッドの成長を調節する為に使用できる。また、計量供給速度もナノロッドの成長を変更すべく調整され得る。最終的なナノロッドは反応器の底部の収集器35内に連続的に収集される。連続流反応器は数グラム乃至キログラム程度の量の金属酸化物ナノロッドの調製に使用され得る。
【0038】
グラファイト基体を用いて形成された金属酸化物ナノロッドは精製され得るが、これは例えば、約600℃より高い温度にて(例えば純粋な酸素または空気などの)酸素含有雰囲気内でグラファイトを酸化して二酸化炭素ガスとすることにより行われ得る。重要な点としては、この温度を(例えば酸化マグネシウムに対する1800℃などの)金属酸化物の焼結温度より低く維持することである。これに加え、結晶核形成が均質に行われると、バッチ反応器内におけるよりも流動式反応器において、サブミクロン寸法の不都合な金属酸化物クラスタが大量に生成することがある。この点、走査型電子顕微鏡及び透過型電子顕微鏡を使用して金属酸化物クラスタの存在を確認し、条件を最適化してこれらの不純物の存在を最小限にすることが可能である。更に、サブミクロンクラスタの寸法及び流動特性はナノロッドとは大幅に異なることから、制御された多孔質膜フィルタを用いてこれらの不純物を物理的に除去することが可能である。精製を行うと共に粒子を分離する膜濾過は、例えば、上述した1970年ウィリー・インターサイエンス社(Wiley−Interscience)のレビット(A.P.Levitt)篇によるウィスカ・テクノロジ(Whisker Technology)における第315頁のサットン(W.H.Sutton)による「ウィスカ強化複合材料の製造原理及び方法」(Principles and Methods for Fabriating Whisker−Reinforced Composite)、及び、1987年、「複合材料」(Composite)第18巻、第125頁〜127頁においてランドバーグ(R.Lundberg)等により「ウィスカ強化セラミックの処理」(Processing of Whisker−reinforced ceramics)に記述されている。膜フィルタは大掛かりな(キログラム単位の)分離に使用され得るものであり、金属酸化物ナノロッドを更に物理的に精製する直接的な方法である。
(金属酸化物ナノロッドの用途)
金属酸化物ナノロッドは、高密度磁気記録媒体などの、優れた機械的、電気的、光学的及び/または磁気的特性を有するナノ構造を調製する為に使用され得る。また、金属酸化物ナノロッドは研磨剤材料または環境に応じて変化する(賢い)材料として使用され得る。ナノロッドの小径及び高い縦横比により、ナノロッドは、金属、ガラス、有機高分子、及びセラミックマトリクス複合材料において有用である。特に、本発明の金属酸化物ナノロッドは超伝導体内に埋設される欠陥として有用である。
【0039】
例えば、理論的及び実験的な研究によれば、柱状欠陥により超伝導体において強い磁束のピン止め効果が示されることにより、酸化銅超伝導体において臨界電流密度が増大し、不可逆線が高温側にシフトすることが確認されている。柱状欠陥はまた、他の望ましい超伝導特性を維持し乍ら磁束のピン止め効果を最大のものとする為に5nm〜10nmの直径とせねばならない。こうした寸法の欠陥は、高エネルギーの重イオンまたは高エネルギーの陽子を試料に照射することでこれまで得られていた。超伝導体におけるピン止め構造については例えば、ルドウサル(P.Ledoussal)及びネルソン(D.R.Nelson)により 「フィジカ」(Phisica)のC 232、第69頁〜74頁(1994年)に記載されている。
【0040】
ナノロッド超伝導体複合材料はまた、携帯電話の中継局における送信/受信フィルタなどの如き、大きな電流密度及びパワー・スループットを必要とする、送電に使用される超伝導ワイヤ、及び、磁気ソレノイド、または、薄膜デバイスに対して有用な材料であり得よう。
(金属酸化物ナノロッド/超伝導体−複合材料)
金属酸化物ナノロッド/超伝導体−複合材料は、塊状形態または薄膜状形態(例えば、BSCCO−2212またはBSCCO−2223を用いて製造されたシングルもしくはマルチフィラメントワイヤの如き、超伝導テープ、ワイヤ、ケーブル、またはフィルムなど)で作成され得るものである。而して、複合材料は柱状欠陥構造を有して大きな臨界電流挙動を呈する。複合材料はBiSrCaCu(BSCCO−2212)超伝導体のような高温超伝導体との反応性が非常に低いために、酸化マグネシウムナノロッドを用いて調製することが可能であるが、これを実験条件の簡単な変更により他の高温超伝導体及びBSCCO相に適用することも可能である。
【0041】
塊状の複合材料がナノロッド及び予備反応されたBSCCO粉体を組合せることにより作成された。結果として得られた混合物は銀箔上に溶融組織化(melt−textured)されたが、使用した手順は例えば「応用物理学」(Applied Phisics Letters)第62巻(1993年)第2131〜2133頁においてノマラ(K.Nomara)等 により記述されたAg/BSCCOテープの作成法に類似したものである。尚、これらの塊状複合材料を透過型電子顕微鏡により構造分析したところ、酸化マグネシウムナノロッドはBSCCOの結晶粒内に入り込むと共に、ナノロッドは基本的には超伝導体のCu−O平面に直交または平行に配向していることが確認された。
【0042】
薄膜状複合材料は、2×10〜2×1010cm−2のロッド密度の整列酸化マグネシウムナノロッドを含む酸化マグネシウム基体上に、低温にて非晶質BSCCO材料を析出することにより調製された。複合材料は次に溶融組織化され、BSCCOマトリクスの結晶化及び整列を引き起こした。X線回折によれば、溶融組織化されたBSCCOは基体表面に直交するc軸と整列されたことが示された。これに加えて透過型電子顕微鏡により分析したところ、酸化マグネシウムナノロッドは、BSCCOのCu−O平面を貫通すると共に出発基体のサイズ及び密度と同じサイズ及び密度を有することが明確に証明された。
【0043】
予期された如く、ナノロッド/BSCCO複合材料の臨界電流密度は基準サンプルに比べて劇的に増大した。この増大は、重イオン照射技術を用いて既に得られたものに匹敵する(例えば、クメス(P.Kummeth)等による「合金及び化合物」(Alloys and Compounds)第195巻、第403〜406頁を参照されたい)。
【0044】
当業者であれば、更に詳説せずとも、本明細書中の記述に基づいて本発明をその最大範囲まで活用し得よう。尚、本明細書中で引用した刊行物の全ては、言及したことにより援用する。従って、以下の詳細な実施例は単なる例示的なものと解釈すべきであり、開示内容の残余を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0045】
実施例1:ナノクラスタ上における酸化マグネシウムナノロッドの大量合成。
酸化マグネシウム粉体及びグラファイト粉体を1:3〜3:1の重量比率で混合した。得られた粉体混合物をグラファイト舟形容器内に装填した。グラファイト舟形容器を100〜2000SCCMの流速のアルゴンガスが流れる石英管内に載置した。上記ガスは1〜10ppmの酸素を含んでいた。基体を、グラファイト舟形容器と該基体との間の温度勾配が100℃未満となる箇所において、石英管内でグラファイト舟形容器の下流に載置した。バルク酸化マグネシウムナノロッドの合成において、基体は5〜50nmの平均直径を有する酸化マグネシウムナノクラスタから構成されていた。ナノロッドは、石英管を約1200℃で0.5時間〜2時間加熱することにより得られた。
【0046】
酸化マグネシウムナノロッドがナノクラスタの表面上に成長した。ナノロッドの直径は5〜100nmの範囲であるが、これは反応時間、初期基体ナノクラスタサイズ及び局所的過飽和に依存するものである。また、ナノロッドの長さは1〜10μmに亙るものである。反応時間、初期ナノクラスタ直径及びナノロッド寸法は、表1に列挙されている。
【0047】
【表1】

実施例1a:種々の基体上でのMgOナノロッドの大量合成
MgO及びグラファイト粉体の混合物を1:3〜3:1の重量比率で粉砕により混合し、グラファイト製の炉用舟形容器内に載置した。グラファイト舟形容器を石英炉管内に載置し、水平な管状炉の中央に配置した。グラファイト舟形容器及び反応体を含む上記管には次に、100〜2000SCCMの流速のアルゴンガスが流された。基体を、舟形容器から−100℃内において管の下流に載置した。番号9〜12が付された行においては、酸化マグネシウムと炭素の混合物の表面が基体として作用した(即ち、炉内には他の基体は含まれていなかった)。装填後、炉をその中心点で測定して1000〜1200℃の設定点温度にまで加熱した。炉の中心点は基体に依存して0〜60分に亙る時間(すなわち保持時間)だけ設定点温度に維持され、その後、炉の内容物を室温にまで冷却した。
【0048】
【表2】

ナノロッドの直径及び長さは測定されると共に基体及び反応条件の種類に沿って表2に要約されている。例えば、グラファイトプレート上で成長したナノロッドの直径は5〜200nmの範囲であり、縦横比は典型的に50〜1000である。反応時間を(例えば30分から0〜10分へと)短縮することにより小径が優位となる。また、金被覆されると共に食刻された酸化マグネシウム基体(No.8)の表面上のナノロッドの充填密度は2×1010cm−2であった。
【0049】
実施例2:基体表面上で整列されたMgOナノロッド
ナノロッドは実施例1に記述された方法で調製されたが、基体表面上で整列されたナノロッドを得る為に、新たに食刻された単結晶が基体として使用された点が異なっている。特に、0.1〜0.5MのNiCl水溶液により0.25〜2時間に亙り食刻されたMgO単結晶の(100)面が基体とされた。この基体を食刻の直後に炉内に載置した。而して、食刻時間が表面上のナノロッド密度に影響を与える。典型的には、0.5時間の食刻時間及び0.5Mの食刻溶液濃度が用いられる。
【0050】
単結晶表面上で成長したナノロッドは直径及び長さに関して比較的に均一である。直径は10〜30nmの範囲であり、長さは1〜2μmで変化する。また、ナノロッドは結晶表面上で配向している。即ち、ナノロッドの大部分(例えば、50%以上、より好適には80%以上)は(100)面に対して直交する一方、他のものは基体表面に対して45°に配向する。表面上におけるナノロッドの充填密度は、食刻溶液の濃度及び食刻時間に依存して1×10〜5×10cm−2である。尚、詳細な食刻時間、食刻溶液濃度及びナノロッド密度は表3に列挙されている。
【0051】
【表3】

実施例3:Alナノロッドの大量合成
Al粉体及びグラファイト粉体を1:3〜3:1の重量比率で混合した。この混合物をグラファイト舟形容器内に装填した。グラファイト舟形容器を100〜2000SCCMの流速でアルゴンガスが流れるアルミナ管内に挿入した。上記ガスは1〜10ppmの酸素を含んでいた。5〜10nmの平均直径を有するAlナノクラスタは、基体との間の温度勾配が100℃となる、グラファイト舟形容器の下流箇所に置かれた。上記管は1400℃で0.5時間〜2時間加熱することによりナノロッドが生成した。
【0052】
Alのナノロッドはナノクラスタの表面上で収集された。而して、ナノロッドの直径は5〜10であり、長さは1〜10μmの範囲である。
実施例4:基体表面上で整列されたZnOナノロッド
ZnO粉体及びグラファイト粉体を1:3〜3:1の重量比率で混合した。この混合物を、100〜2000SCCMの流速のアルゴンガスが流れる石英管内に載置されたグラファイト舟形容器内に装填した。上記ガスは1〜10ppmの酸素を含んでいた。1〜100nmの厚みの金の薄膜で被覆された(100)SrTiO単結晶基体は、グラファイト舟形容器と該基体との間の温度勾配が約300℃となる箇所において、グラファイト舟形容器の下流に載置された。石英管は900℃〜1000℃で0.25時間〜1時間加熱されてナノロッドを成長せしめた。
【0053】
代替的に、金属亜鉛を金属蒸気源として使用し得るが、この場合に管は500〜700℃に加熱された。
単結晶表面上に成長したナノロッドは直径及び長さに関して均一であり、夫々の値は10〜50nm及び1〜2μmであった。殆ど全てのナノロッドが結晶表面に対して配向していたが、表面に対して直交してはいなかった。
【0054】
実施例5:塊状ナノロッド/超伝導体−複合材料
10〜100nmの直径及び1〜10μmの長さを有する酸化マグネシウムナノロッドを予備反応されたBSCCO(2212)粉体と混合し粉砕した。混合物は0〜15重量比率のナノロッドを含んでいた。細かな粉体混合物を(例えば20mm径のダイス上に10トンの力を加える)ペレット圧縮機を用いてペレットに圧縮した。得られたペレットを銀箔の表面上に載置し860〜880℃に加熱した。この材料を、この部分的に溶融された状態に10分〜30分に亙り保持した。また、温度を時間当り1℃〜5℃の速度にて760℃〜800℃まで下げた。材料はこの温度にて10時間〜24時間維持され、その後、試料は室温にまで冷却されて最終的な複合材料を得た。この複合材料の臨界電流密度は、酸化マグネシウムナノロッドを含まずに同様に処理された基準サンプルの臨界電流密度よりも大幅に大きかった。ナノロッドを欠いた基準サンプルと比較して、上記複合材料の臨界電流密度は、5K及び0テスラにおいて2×10〜2×10Acm−2だけ増大し、且つ、30K及び0テスラにおいては4×10〜5×10Acm−2だけ増大した。5〜60Kの温度範囲を越えると、臨界電流密度の増大は1段階(one magnitude)であった。
【0055】
実施例6:薄膜状ナノロッド/超伝導体−複合材料
酸化マグネシウムナノロッドを最初に、実施例2で上述された酸化マグネシウム単結晶基体の(100)面上で成長させた。また、基体上には、室温にてパルスレーザ析出を用いて非晶質BSCCO(2212)が析出された。この点、パルスレーザ析出はたとえば「応用物理学」(Applied Phisics Letters)第63巻(1993年)第409〜411頁においてチュー(S.Zhu)等により記述されている。非晶質の複合材料は次に、実施例5における塊状複合材料に対して記述された加熱プログラムを用いて溶融組織化され、最終的な薄膜状複合材料を与えた。薄膜状複合材料の臨界電流密度は、ナノロッドを欠いた基準サンプルのそれよりも大幅に大きなものである。ナノロッドを欠いた基準サンプルと比較して、上記複合材料の臨界電流密度は、5K及び0.8テスラにおいて2×10〜1.5×10Acm−2だけ増大し、40K及び0.5テスラにおいて1×10〜2×10Acm−2だけ増大し、且つ、60K及び0.15テスラにおいては8×10〜1×10Acm−2だけ増大した。
【0056】
実施例7:MgOナノロッド/TlBaCaCu10−複合材料
酸化マグネシウムナノロッドアレイは、実施例2において上述した酸化マグネシウム単結晶基体の(100)面上に最初に成長せしめられた。而して、200℃にてパルスレーザ析出を用いて酸化マグネシウムナノロッド群上に非晶質のBaCaCuが析出された。次に、試料は三領域炉(three−zonefurnace)内でタリウム化(thallinated)されて結晶化され、TlBaCaCu10超伝導体を形成した。タリウム化の間、試料は少量のTlBaCaCu10と共に銀箔内に密閉されると共にアルミナ管の一端に載置された。また、Tl源(Tl)はアルミナ管の他端に載置された。アルミナ管は銀箔により半密閉され、三領域炉内に載置された。試料の温度を790°に維持し、Tl源の温度を890℃に維持した。このタリウム化プロセスは例えば、材料抵抗(J.Mater.Res.)第11(6)巻(1996年)の第1349頁においてホルスタイン(W.L.Holstein)等により記述されている。最終的な薄膜状複合材料の臨界電流密度は、ナノロッドを欠いた基準サンプルの臨界電流密度よりも大幅に大きかった。ナノロッドを欠いた基準サンプルと比較して、上記複合材料の臨界電流密度は、50K及び0.4テスラにおいて1×10〜2×10Acm−2だけ増大し、60K及び0.3テスラにおいては1×10〜1.5×10Acm−2だけ増大し、且つ、90K及び0.15テスラにおいては100〜7000Acm−2だけ増大した。
【0057】
他の実施例
上述した記述内容からは本発明の本質的特徴が確認され得よう。また、本発明の精神及び範囲から逸脱すること無く、発明の種々の変更及び改変を行い、本発明を幾多の用途ならびに条件に適合せしめ得ることが可能である。従って、他の実施例も請求の範囲の範疇に入るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉内において金属蒸気を発生させる工程と、
炉内の成長領域内において、ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドが形成されるのに十分な時間だけナノロッド成長用基体を金属蒸気に曝す工程と、
ナノロッド成長用基体を成長領域から除去する工程と、
このように形成された金属酸化物ナノロッドであって、その直径が1nmから200nmの金属酸化物ナノロッドを収集する工程と
からなる金属酸化物ナノロッドの製造方法。
【請求項2】
前記成長領域は、金属蒸気の濃度が最大である部分と基体が配置された部分との間の100℃の温度降下内の領域である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ナノロッド成長用基体は、金属酸化物ナノクラスタ、金属蒸気源の表面、単結晶、グラファイトまたは金属被覆基体を含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記成長領域は、金属蒸気の濃度が最大である部分と基体が配置された部分との間の100℃の温度降下内の領域である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
金属蒸気源はマグネシウムを含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記基体から金属酸化物ナノロッドを物理的に分離することを更に備えてなる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ナノロッド成長用基体はグラファイトである請求項5に記載の方法。
【請求項8】
酸化雰囲気中で金属酸化物ナノロッドを加熱してグラファイトを二酸化炭素に転換することにより金属酸化物ナノロッドを精製することを更に備えてなる請求項7に記載の方法。
【請求項9】
被曝段階の間にナノロッド成長用基体を成長領域を通して移動せしめる工程を更に備えてなる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
金属蒸気源を炉内に配置する工程と、
炉内にナノロッド成長用基体を配備する工程と、
前記金属蒸気源を500℃〜1600℃の温度に加熱する工程と、
ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドを形成するに十分な時間に亙り上記温度を維持する工程と、
このように形成された金属酸化物ナノロッドであって、その直径が1nmから200nmの金属酸化物ナノロッドを収集する工程と
を備えてなる金属酸化物ナノロッドの製造方法。
【請求項11】
炉を通してキャリヤガスを流す工程を更に備えてなる請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ナノロッド成長用基体を配備する工程はナノロッド成長用基体を金属蒸気源の下流に配置する工程を含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記ナノロッド成長用基体を配備する工程はナノロッド成長用基体を成長領域内に配置する工程を含む請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記成長領域は、500℃〜1600℃の温度に加熱されたときに金属蒸気源と基体との間の100℃温度勾配降下内の領域である請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドを形成するに十分な時間の後で成長領域からナノロッド成長用基体を取り外す工程を更に備えて成る請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記基体から金属酸化物ナノロッドを物理的に分離する工程を更に備えてなる請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ナノロッド成長用基体はグラファイトである請求項15に記載の方法。
【請求項18】
酸化雰囲気中で金属酸化物ナノロッドを加熱してグラファイトを二酸化炭素に転換することにより、金属酸化物ナノロッドを精製する工程を更に備えてなる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
金属酸化物は酸化マグネシウムである請求項18に記載の方法。
【請求項20】
金属酸化物ナノロッドを形成するに十分な時間に亙り、成長領域を通してナノロッド成長用基体を移動せしめる工程を更に備えてなる請求項15に記載の方法。
【請求項21】
金属蒸気源を冷却して金属酸化物ナノロッドの形成を停止する工程を更に備えてなる請求項10に記載の方法。
【請求項22】
金属蒸気源は、金属元素または金属酸化物と炭素との混合物を含み、上記金属は、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、テクネチウム、レニウム、鉄、オスミウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、スカンジウム、イットリウム、ランタン、ランタノイド系列の元素、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウムから成る群から選択される請求項10に記載の方法。
【請求項23】
ナノロッド成長用基体は、金属酸化物ナノクラスタ、金属蒸気源の表面、単結晶、グラファイトまたは金属被覆基体を含む請求項10に記載の方法。
【請求項24】
前記金属酸化物は酸化マグネシウムである請求項22に記載の方法。
【請求項25】
炉内にマグネシウム蒸気源を配置する工程と、
炉内にナノロッド成長用基体を配備する工程と、
マグネシウム蒸気源を500℃〜1600℃の温度に加熱することにより炉内でマグネシウム蒸気を発生する工程と、
ナノロッド成長用基体の表面上に酸化マグネシウムナノロッドを成長せしめるに十分な時間だけナノロッド成長用基体を炉内の成長領域内でマグネシウム蒸気に曝す工程と、
前記成長領域が炉内においてマグネシウム蒸気源の100℃温度降下内の領域であり、ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドを成長せしめるに十分な時間の後、成長領域からナノロッド成長用基体を取り外す工程と、
このように形成された酸化マグネシウムナノロッドを収集する工程と
を備えてなる酸化マグネシウムナノロッドの製造方法。
【請求項26】
ナノロッド成長用基体は、グラファイト、金属被覆基体、マグネシウム蒸気源の表面、または酸化マグネシウムナノクラスタである請求項25に記載の方法。
【請求項27】
ナノロッド成長用基体はグラファイトである請求項26に記載の方法。
【請求項28】
酸化雰囲気中で金属酸化物ナノロッドを加熱してグラファイトを二酸化炭素に転換することにより金属酸化物ナノロッドを精製する工程を更に備えてなる請求項27に記載の方法。
【請求項29】
被曝工程の間、前記成長領域を通してナノロッド成長用基体を移動せしめることを更に備えてなる請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記基体から金属酸化物ナノロッドを物理的に分離する工程を更に備えてなる請求項29に記載の方法。
【請求項31】
炉内において金属蒸気を発生させる工程と、
炉内の成長領域内において、ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドが形成されるのに十分な時間だけナノロッド成長用基体を金属蒸気に曝す工程と、
ナノロッド成長用基体を成長領域から除去する工程と、
このように形成された金属酸化物ナノロッドを収集する工程とを備えてなり、前記金属酸化物が酸化マグネシウムであることを特徴とする金属酸化物ナノロッドの製造方法。
【請求項32】
金属蒸気源を炉内に配置する工程と、
炉内にナノロッド成長用基体を配備する工程と、
前記金属蒸気源を500℃〜1600℃の温度に加熱する工程と、
前記ナノロッド成長用基体の表面上に金属酸化物ナノロッドを形成するに十分な時間に亙り上記温度を維持する工程と、
このように形成された金属酸化物ナノロッドを収集する工程とを備えてなり、前記金属酸化物が酸化マグネシウムであることを特徴とする金属酸化物ナノロッドの製造方法。
【請求項33】
前記金属酸化物ナノロッドは前記基体の表面に対して整列されている請求項1に記載の方法。
【請求項34】
前記金属酸化物ナノロッドは前記基体の表面に対して整列されている請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−18520(P2010−18520A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246569(P2009−246569)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【分割の表示】特願平9−530293の分割
【原出願日】平成9年2月21日(1997.2.21)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【Fターム(参考)】