説明

針状結晶のBaTiO3、その前駆体、それらの製法及びグリーンシート

【目的】サイズ効果による誘電特性の低下を生じず、厚さ方向に薄い扁平形状で、かつ大きいサイズの結晶面を具備し、グリーンシートの薄型化を実現することのできるBaTiO及びBaTiO前駆体を、また、かかるBaTiO及びBaTiO前駆体の製造方法を提供し、更に、かかるBaTiOを用いて薄膜化を実現できるグリーンシートを提供することである。
【構成】シュウ酸をイソプロピルアルコールに溶解させ、これにブチルチタン酸モノマーを添加した混合水溶液にNaOHと蒸留水を加え、かつ溶液のpH値を7に調整した。このシュウ酸混合水溶液に、酢酸バリウムを添加し、攪拌することなく、室温に数時間保持した結果、針状BaC・0.5HO(BaTiO前駆体)の沈殿物が生成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックス電子部品等の形成に用いる針状結晶のBaTiO、その前駆体、それらの製造方法及びそのBaTiOを用いたグリーンシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、この種電子部品は小型化・高集積化が進み、これに用いる誘電体材料として、殊に、BaTiOは高誘電率を有し、かつPbを含まず、地球環境にも優しい材料であることから、多数のセラミックス基板を積層した積層セラミックコンデンサをはじめとした様々なデバイスに用いられている
【0003】
前記セラミックス基板は、例えば特許文献1に開示されているように、グリーンシートを出発材料として形成される。このグリーンシートはセラミックス粉末と有機バインダーと有機溶剤を混練してスラリー化し、このスラリーをシート状に成形して作製される。
【0004】
積層セラミックコンデンサなどの電子デバイスにおいて高容量化を実現するために、誘電体層の薄層化が求められており、そのためにはグリーンシートをより薄型化する必要がある。グリーンシートの薄型化には、シートに含有されるBaTiOの誘電体粒子の粒子サイズが大きく影響するので、粒子サイズの小型化が有効である。
【0005】
従来、大型のBaTiO粒子を高温合成した後、粉砕処理により粒径を減少して、シート原料粉末に加工していた。しかしながら、粉砕処理によるBaTiO微粒子の製造過程において、不定形粒子が多く発生してしまうため、均一粒子形態に制御するのが難しいといった問題があった。
【0006】
一方、かかる薄型化の実現手段として、誘電体粒子自体の微細化がある。例えば、BaTiOのナノ粒子化が提案されているが、高温焼結処理時における粒子の蒸発、粒成長や粒子どうしの凝集といった問題が発生した。特に、粒径を減少すると、誘電特性が劣化する問題を生じていた。非特許文献1及び2等に開示されているように、BaTiOの強誘電性セラミックスは、それらの粒径が減少するとき、所謂、サイズ効果によりその強誘電性が低下し、臨界サイズで強誘電性を失う。
【0007】
【特許文献1】特開平9−283369号公報
【非特許文献1】K.Tanaka,K.Suzuki,D.S.Fu,K.Nisizawa,T.Miki,K.Kato,Japanese Journal of Applied Physics Part 1−Regular Papers Short Notes & Review Paepers 2004,43,6525.
【非特許文献2】Y.Sakabe,Y.Yamashita,H.Yamamoto,Journal of the European Ceramic Society 2005,25,2739.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
グリーンシートは、シート原料材を塗布し、印刷技術を用いて均一膜に成形されるが、薄膜成形を行うためには、グリーンシートに含有させるBaTiO粒子が、膜厚方向に薄く、シート面内方向には大きなサイズを有するのが好ましい。
【0009】
しかしながら、BaTiOは高温で立方晶、室温で正方晶といった等方性結晶構造を具備するため、BaTiO粒子自体の結晶形態を制御するのは極めて困難であった。
【0010】
従って、この発明の目的は、サイズ効果による誘電特性の低下を生じず、厚さ方向に薄い扁平形状で、かつ大きいサイズの結晶面を具備し、グリーンシートの薄型化を実現することのできるBaTiO及びBaTiO前駆体を提供することにある。また、この発明の目的は、かかるBaTiO及びBaTiO前駆体の製造方法を提供することである。更に、この発明の目的は、かかるBaTiOを用いて薄膜化を実現できるグリーンシートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の第1の形態は、BaTiOの前駆体であって、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOからなるBaTiOの前駆体である。
【0012】
本発明の第2の形態は、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOとチタン原料物質との混合により製造され、かつ針状結晶形態を有するBaTiOである。
【0013】
本発明の第3の形態は、シュウ酸とバリウム原料物質とを混合した混合水溶液を作製し、その混合水溶液から沈殿物として、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOからなるBaTiO前駆体を製造するBaTiO前駆体の製造方法である。
【0014】
本発明の第4の形態は、前記第3の形態において、前記混合水溶液のpHが7又はその近傍であるBaTiO前駆体の製造方法である。
【0015】
本発明の第5の形態は、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOからなるBaTiO前駆体と、チタン原料物質とを混合し、その混合物を加熱処理することにより、針状結晶形態を有するBaTiOを製造するBaTiOの製造方法である。
【0016】
本発明の第6の形態は、前記第5の形態において、前記チタン原料物質がチタン含有アモルファス物質であるBaTiOの製造方法である。
【0017】
本発明の第7の形態は、誘電体粒子と、有機バインダーと、有機溶剤とを混合して調製したスラリーをシート状に形成したグリーンシートにおいて、前記誘電体粒子が、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOとチタン原料物質との混合により製造され、かつ針状結晶形態を有するBaTiOからなるグリーンシートである。
【発明の効果】
【0018】
本発明者は、BaTiO粒子結晶の形態制御を研究課題として鋭意検討した結果、厚さ方向に薄い扁平形状で、かつ長軸方向に長い、アスペクト比の大きい針状形態の結晶面を具備し、高誘電性を備えたグリーンシートの薄型化を実現することのできる新規物質である、針状結晶BaTiO及びそのBaTiO前駆体の合成に成功した。本発明におけるアスペクト比は針状結晶の長軸の短軸に対する比である。
【0019】
本発明の第1の形態に係るBaTiO前駆体は、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOからなる新規物質である。この針状結晶形態のBaC・0.5HOは、チタン原料物質を混合してチタンイオンを導入することにより針状結晶形態を有するBaTiO単相に相転移させることが可能となる。従って、本第1の形態に係るBaTiO前駆体を用いて、厚さ方向に薄い扁平形状で、かつ大きいサイズの結晶面を具備し、グリーンシートの薄型化を実現することのできる針状結晶BaTiOを生成することができる。
【0020】
本発明の第2の形態に係るBaTiOは、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOとチタン原料物質との混合により製造され、かつ針状結晶形態を有する新規物質である。殊に、本第2の形態に係るBaTiOをグリーンシートの誘電体材料に使用すると、その針状結晶形態により、結晶どうしが互い積層し合うので、焼成により積層状態で隙間なく焼結され、グリーンシートの薄膜化に寄与して、積層セラミックコンデンサなどの電子デバイスにおける小型化、薄型化及び高容量化を実現することができる。
【0021】
本発明の第3の形態によれば、シュウ酸とバリウム原料物質とを混合した混合水溶液を作製し、その混合水溶液から析出物(沈殿物)として、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOからなるBaTiO前駆体を製造するので、溶液条件(pH値)を調整することによりBaTiO前駆体の結晶形態を高精度に制御することができる。
【0022】
本発明の第4の形態によれば、前記混合水溶液のpHを7又はその近傍である調製して、針状BaC・0.5HOからなるBaTiO前駆体を高精度に製造することができる。
【0023】
BaTiOは、等方性立方晶又は正方晶の結晶構造を有し、その等方性結晶面のために、従来の結晶成長技術では、グリーンシート材料に適した結晶形態に変換するのが困難である。しかし、本発明の第5の形態によれば、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOからなるBaTiO前駆体を用いて、チタン原料物質とを混合し、その混合物を加熱処理することにより、アスペクト比の大きい針状結晶形態を有するBaTiOを製造することができる。
【0024】
本発明の第6の形態によれば、前記チタン原料物質にチタン含有アモルファス物質を使用することにより、前記BaTiO前駆体を相転移させて、針状結晶形態を有するBaTiOを製造することができる。このチタン含有アモルファス物質を用いて相転移を発生させて結晶形態を制御可能にする結晶形態の制御技術は、結晶成長分野で広範囲に応用することができる。
【0025】
本発明の第7の形態によれば、誘電体粒子と、有機バインダーと、有機溶剤とを混合して調製したスラリーをシート状に形成したグリーンシートにおいて、前記誘電体粒子が、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOとチタン原料物質との混合により製造され、かつアスペクト比の大きい針状結晶形態を有するBaTiOからなるので、セラミックス電子部品に用いることにより、薄型化、小型化及び高容量化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
BaTiOは等方性立方晶又は正方晶の結晶構造を有し、その等方性結晶面のために、グリーンシート材料に適した結晶形態に変換するのが困難である。そこで、本発明者は、かかる結晶形態制御の研究過程で、三斜晶結晶構造を有するBaC・0.5HOが異方性結晶構造を有し、その結晶成長を精密に制御することにより、その粒子形態制御が可能である知見を得るに成功した。
【0027】
更に、この知見から、針状の結晶構造を有するBaC・0.5HOの合成に成功し、更に鋭意検討した結果、針状BaC・0.5HOにチタンイオンを導入することにより針状結晶のBaTiOの合成に成功した。これらの研究成果から得られた針状BaC・0.5HO、つまりBaTiO前駆体は、長尺状の平坦な結晶面を具備した針状粒子であり、これをグリーンシートの誘電体材料として用いて、積層セラミックスコンデンサ(以下、MLCCという。)等の電子部品における小型化、薄型化及び高容量化を実現することができる。殊に、チタンイオンを導入による粒子の形態制御は、次世代デバイス製作の開発だけでなく、高精度に結晶成長を制御できる結晶成長技術として多くの分野で利用することができる。
【0028】
以下、本発明の実施形態に係るBaTiO及びその前駆体(BaC・0.5HO)の製造方法を図面を参照して説明する。
【0029】
<針状BaC・0.5HO粒子の合成及び形態制御>
まず、本発明に係る針状BaC・0.5HO粒子の合成実験について説明する。本合成実験における結晶合成はシュウ酸法及び水溶液合成法に基づいて行った。シュウ酸H・2HO(252mg)をイソプロピルアルコール(プロパノールの異性体:COH)(4ml)に溶解させた。このシュウ酸混合液にブチルチタン酸モノマー((CO)Ti)を0.122ml添加し、蒸留水100mlを加えて混合した。更に、この混合水溶液にNaOH(1M)と蒸留水を加えて、後述するように、溶液のpH値を7に増加させて調整した。これら添加物を含むシュウ酸混合水溶液を150mLに調製した。
【0030】
本実験材料であるシュウ酸、イソプロピルアルコール及びブチルチタン酸モノマーにはそれぞれ、純度99.5%のMW126.07(キシダ化学製)、純度99.5%のイソプロピルアルコール(キシダ化学製)、純度99%、1.001g/mLのMW304.33(キシダ化学製)を使用した。
【0031】
次に、上記シュウ酸混合水溶液に、酢酸バリウム((CHCOO)Ba)を39.3mg添加した水溶液50mlを混合した。酢酸バリウムには、純度99%のMW255.42(キシダ化学製)を使用した。この混合溶液は、酢酸バリウム、ブチルチタン酸モノマー及びシュウ酸をそれぞれ、0.77mM、2mM、10mM含有しており、攪拌することなく、室温に数時間保持した。
【0032】
この混合溶液は時間とともに徐々に白濁した。攪拌すると、等方的に核形成された粒子どうしの衝突を誘発し、拡大粒子の破壊を生じてしまうので、上記混合溶液において攪拌するのは好ましくない。この混合溶液において結晶成長速度を可変することにより、析出物の粒子サイズをナノサイズやマイクロサイズに簡易に制御することが可能である。勿論、大きい粒子への成長が数時間の液浸により得ることができた。
【0033】
上記混合溶液において、針状BaC・0.5HOの沈殿物が生成される。即ち、シュウ酸イオン(C2―)がバリウムイオン(Ba2+)と反応し、シュウ酸バリウム(BaC・0.5HO)を生成した。このシュウ酸バリウムは、酢酸バリウムの添加による薄い酢酸中に溶解しており、それを析出するにはNaOHの添加により溶液pH値を7にして可能となる。
【0034】
図1は上記pH7の混合溶液において析出した針状BaC・0.5HO粒子のSEM写真(走査型電子顕微鏡S−3000N;日立製)である。このSEM写真から針状粒子が等方的に核形成されて析出したことを示す。具体的には、各粒子は、平均23μm(19〜29μmの範囲内)の幅で、平均167μm(144〜189μmの範囲内)の長さを有し、大きいアスペクト比7.2を具備している。また、各粒子は鋭い端部形状と明瞭な結晶面を有し、高い結晶性を示す。この針状粒子は混合溶液から共沈析出したゲル状の固体物とともに析出された。
【0035】
図2はXRD(X−ray Diffraction:X線回折装置)測定による、針状粒子とゲル状の固体物の混合物におけるX線回折パターンを示す。このX線回折パターンおける鋭い回折ピークはBaC・0.5HO単相を示している。従って、上記SEM写真から観察された針状粒子はBaC・0.5HO結晶であり、またゲル状の固体物はアモルファス相状態であることがわかる。なお、本実施形態において使用したX線回折装置(RINT−2100;理学製XRD)においては、CuKα線(40kV、30mA)を使用して測定した。
【0036】
図2には、BaC2O4・0.5H2O結晶構造に関するモデル計算値も併記している(図中の「XRD first step」)。モデル計算は、既に公表されている公知文献(J.C.Mutin,Y.Dusausoy,J.Protas,Journal of Solid State Chmesty 1981,36,356)に基づいて行った。このモデル計算によれば、BaC・0.5HO結晶は三斜晶構造であり、これは異方結晶成長により針状結晶に形態変更するのに好適である。各結晶面は異なる表面エネルギーと表面物性を具備し、例えばゼータ電位や異なる複数の結晶面を有する。異方結晶成長は理想的には全部の結晶エネルギーを最小化することにより行うことができる。
【0037】
特に、特定の結晶面においてイオン又は分子を選択的に吸着させることにより、該表面に垂直な方向の結晶成長を抑制して異方結晶成長を行うことができる。これらの制御因子はBaC・0.5HO結晶に対する異方結晶成長を実現でき、その結晶形態の制御により針状BaC・0.5HO粒子を得ることができる。
【0038】
図2のXRD回折ピーク位置は、JCPDS(Joint Committe on Powder Diffraction Standards:無機・有機化合物のX線回折データベース)データNo.20−0134に一致し(「XRD third step」)、また上記結晶構造の計算値にも一致している(「XRD second step」)が、320及び201のような複数の回折ピークが現れた。このような特定の結晶面における回折ピークが現れるのは、異方結晶成長と関係するものである。つまり、特定の結晶配向において大きい結晶サイズが生ずると、その結晶配向に垂直な結晶面に対するX線の回折強度が増加する。
【0039】
更に、SEMに付設されたEDX(Energy Dispensive X−ray Analysis:エネルギー分散型X線分析装置、EDAX Falcon;EDAX製)分析を行った結果、針状粒子及びゲル状の固体物を含む混合析出物の化学組成比(Ba/Ti)が約1.5であることが判明した。この組成比の値から、共沈析出されたアモルファスゲルにチタンイオンが含まれていることがわかる。従って、余分のBaイオンは加熱処理によりBaCOに変換されるが、これは塩酸HCl処理により除去可能である。従って、針状粒子及びゲル状の固体物の体積比を調整することにより、化学組成比(Ba/Ti)を1まで近づけることが可能である。以上のようにして、チタン含有のゲル状の固体物とともに、針状結晶のBaC・0.5HO粒子を水溶液合成法により製造することができる。
【0040】
<結晶相及び形態に対する溶液条件(pH値)の検証>
溶液条件(pH値)最適条件の検証のための比較実験を試みた。まず、等方性のシュウ酸チタニルバリウム(BaTiO(C・4HO)粒子をpH値2で析出作製した。下記の反応式(a)により、シュウ酸2水化物(H・2HO)とブチルチタン酸モノマー((CO)Ti)を反応させ、同時に加水分解も発生させると、TiO(C)が生成される。この反応の詳細については公知文献(H.S.Potdar,S.B.Deshpande,S.K.Date,Journal of the American Ceramic Society 1996,79,2795.)に開示されている。
【0041】
(a)(CO)Ti+H・2HO → TiO(C)+
4COH+H
TiO(C)は下記の反応式(b)により、シュウ酸チタニル(HTiO(C)に変換される。
(b)TiO(C)+H・2HO → HTiO(C++2H
【0042】
反応式(b)により生成されたシュウ酸チタニルを含むアルコール溶液に、室
温で酢酸バリウムを急激に添加すると、下記(c)の反応が起きる。
(c)HTiO(C+Ba(CHCOO)
→ BaTiO(C↓+2CHCOOH
この反応(c)によりBaTiO(Cの等方性粒子を生成することができる。
【0043】
一方、BaC・0.5HOもBaTiO(CもpH値が3〜6のときには析出されなかった。溶液中にゲル状の固体物が形成されるが、XRD測定をしたところ回折ピークは見られなかった。従って、pH値が3〜6において析出されるアモルファスゲル物質は、上記合成実験で説明したように、pH値が7のときに共沈析出されたアモルファスゲル物質と同様のものである。以上の比較実験によれば、BaC・0.5HOの結晶成長及び形態制御において溶液条件(pH値)が有効な制御因子となることがわかる。
【0044】
<針状結晶BaTiOの作製>
上記針状結晶BaC・0.5HOの析出物を大気中、750℃で5時間加熱処理した。針状結晶BaC・0.5HOは、チタン含有アモルファスゲル物質と反応してチタンが導入され、BaTiO結晶に変換される。当該析出物の加熱処理後のX線回折測定によれば、BaTiO結晶と、余分なバリウム炭酸塩(BaCO)を確認することができた。BaTiO結晶の過剰析出により余分にバリウム炭酸塩を生成することになった。このBaCOは、加熱処理した析出物を更に、塩酸(1M)に浸すことにより分解される。上記の加熱処理により、針状結晶のBaTiO単相を作製することができる。
【0045】
図3及び図4はそれぞれ、作製したBaTiO結晶のSEM写真及びX線回折パターンを示す。図3における粒子サイズは2.8×10×50μmである。針状結晶BaC・0.5HO粒子を出発物質として、大きいアスペクト比(17.8=50/2.8)の粒子が得られた。針状結晶BaC・0.5HO粒子サイズは、析出物中の濃度及び結晶成長速度により簡易に制御可能であるから、針状結晶のBaTiOの粒子サイズもまたBaC・0.5HO粒子の析出物中の濃度及び結晶成長速度により簡易に制御することができる。
【0046】
本実施形態に係る製造方法によれば、新規物質である針状結晶のBaTiOを得ることができる。BaTiO結晶は、高温で立方晶に、また室温で正方晶に相転移することは知られている。一般に、立方晶構造は完全に等方性であり、正方晶構造は立方晶のひとつの格子ベクトルの方向を延ばした形態である。このため、両結晶構造とも異方性結晶成長をさせるのは困難であり、従来の結晶成長技術では針状結晶化できない。
【0047】
しかし、本発明においては、三斜晶のBaC・0.5HO粒子の形態制御を行うことにより針状結晶化に成功し、更に、共沈析出されたアモルファス物質によりチタンイオンを導入することにより、針状BaC・0.5HOを針状結晶のBaTiOに簡易に相転移させることにも成功した。なお、チタン含有アモルファス物質を利用して相転移により結晶形態を制御可能にする結晶形態の制御技術は、結晶成長分野で広範囲に応用することが可能である。
【0048】
本実施形態に係る針状結晶のBaTiOは、MLCC等の電子部品及びその製造に使用するグリーンシートの製造素材として好適な針状結晶形態、化学組成比及び相転移特性を具備する新規物質である。
【0049】
<グリーンシートの製造例>
まず、本実施形態に係る針状結晶のBaTiO粒子(誘電体セラミックス原料粉末)と、有機バインダーと、有機溶剤とを混合し、その混合物を湿式混合してスラリーを調製する。このスラリーに対して減圧脱泡処理を施してスラリー中の気泡を脱泡しておくのが好ましい。
【0050】
有機バインダーには、エチルセルロース、ポリビニルブチラール、メタクリル樹脂、ブチルメタアクリレート等のアクリル系樹脂等のバインダー材を使用できる。有機溶剤には、トルエン、エタノール、変性アルコール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン等の1種又はその混合物が使用される。スラリー調製には、上記の含有物の他に各種分散剤、活性剤、可塑剤等も目的に応じて適宜添加される。
【0051】
<グリーンシート成形>
前記スラリーを、例えばドクターブレード法、押し出し法等により、薄板状に成形してグリーンシートを製造する。このとき、キャリアフィルム(支持シート)上においてグリーンシート成形が行われる。キャリアフィルムには、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の合成樹脂が使用される。フィルム厚は、シート厚50〜100μmのフィルムを使用する。成形グリーンシートは前記支持シートとともに巻き取って収集される。キャリアフィルムの使用によりグリーンシート形成後の処理工程に向けたハンドリングを簡易にできる。
【0052】
本実施形態に係る針状結晶のBaTiO粒子は大きいアスペクト比を具備する。従って、この針状結晶粒子を含有したスラリーを印刷技術によって塗布してシート成形する際には、各結晶粒子どうしが厚さ方向に積層されるので、稠密に隙間なく誘電体結晶粒子を敷き詰めるように形成した、より薄いグリーンシートを製造することが可能となる。そして、MLCC製作のために、かかるグリーンシートを多層積層して、焼成加熱処理することにより、高密度で高誘電特性を実現することができる。
【0053】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例や設計変更をその技術的範囲内に包含するものであることはいうまでも無い。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る針状結晶のBaTiOを用いて、極薄のグリーンシートを成形することが可能であり、これを用いて、高密度化された、小型ないし薄型のセラミックス電子部品を製造することができる。このセラミックス電子部品は、各種電子部品、例えば、家電用電子部品、自動車用電子部品、産業用電子部品、宇宙用電子部品などの広範囲な分野に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本実施形態の混合溶液において析出した針状BaC・0.5HO粒子のSEM写真である。
【図2】XRD測定による、針状粒子とゲル状の固体物の混合物におけるX線回折パターンを示すX線回折強度―2θ測定図である。
【図3】本実施形態において作製したBaTiO結晶のSEM写真である。
【図4】図3のBaTiO結晶のX線回折パターンを示すX線回折強度―2θ測定図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaTiOの前駆体であって、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOからなることを特徴とするBaTiOの前駆体。
【請求項2】
針状結晶形態を有するBaC・0.5HOとチタン原料物質との混合により製造され、かつ針状結晶形態を有することを特徴とするBaTiO
【請求項3】
シュウ酸とバリウム原料物質とを混合した混合水溶液を作製し、その混合水溶液から沈殿物として、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOからなるBaTiO前駆体を製造することを特徴とするBaTiO前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記混合水溶液のpHが7又はその近傍である請求項3に記載のBaTiO前駆体の製造方法。
【請求項5】
針状結晶形態を有するBaC・0.5HOからなるBaTiO前駆体と、チタン原料物質とを混合し、その混合物を加熱処理することにより、針状結晶形態を有するBaTiOを製造することを特徴とするBaTiOの製造方法。
【請求項6】
前記チタン原料物質がチタン含有アモルファス物質である請求項5に記載のBaTiOの製造方法。
【請求項7】
誘電体粒子と、有機バインダーと、有機溶剤とを混合して調製したスラリーをシート状に形成したグリーンシートにおいて、前記誘電体粒子が、針状結晶形態を有するBaC・0.5HOとチタン原料物質との混合により製造され、かつ針状結晶形態を有するBaTiOからなることを特徴とするグリーンシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−266085(P2008−266085A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113579(P2007−113579)
【出願日】平成19年4月23日(2007.4.23)
【出願人】(591040292)大研化学工業株式会社 (59)
【Fターム(参考)】