鉄道車両用軸受装置のシール
【課題】鉄道車両用軸受装置に取り付けて使用されるシールであって、通気穴からの水の浸入が効果的に防止できるものを提供する。
【解決手段】シールの本体52として、ニトリルゴム製で、通気穴53をなすスリット53aの面および凹部53bの面を含む全表面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成されたものを使用する。撥水撥油膜は、シールの表面を親水性にする親水化処理工程と、表面に金属酸化物層を形成する金属酸化物層形成工程と、金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油層形成工程と、を含む方法により形成されている。
【解決手段】シールの本体52として、ニトリルゴム製で、通気穴53をなすスリット53aの面および凹部53bの面を含む全表面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成されたものを使用する。撥水撥油膜は、シールの表面を親水性にする親水化処理工程と、表面に金属酸化物層を形成する金属酸化物層形成工程と、金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油層形成工程と、を含む方法により形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車両用軸受装置を構成する転がり軸受の軸方向両端に配置され、内部空間を外気と連通させる通気穴を有するシールに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用軸受装置を構成する転がり軸受の軸方向両端にはシールが配置され、このシールには、シール内部空間を外気と連通させる通気穴が形成されている。下記の特許文献1に記載された鉄道車両用軸受装置では、前記通気穴として、シールの円盤部に凹部を設けて厚さを薄くした部分に、軸方向に貫通するスリットが形成されている。
【特許文献1】特開2008―19905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載された鉄道車両用軸受装置のシールは、通気穴から水の浸入を防止するという点で改善の余地がある。
この発明の課題は、鉄道車両用軸受装置に取り付けて使用されるシールであって、通気穴からの水の浸入を効果的に防止できるものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、この発明のシールは、鉄道車両用軸受装置を構成する転がり軸受の軸方向両端に配置され、内部空間を外気と連通させる通気穴を有するシールであって、前記シールの通気穴に撥水撥油膜が形成されていることを特徴とする。
前記撥水撥油膜は、下記の工程(a) 〜(c) を含む方法により形成することができる。
(a) 前記シールの表面を親水性にする親水化処理工程。
(b) 前記シールを、水と、金属種がシリコン、チタン、もしくはアルミニウムで、アルキル部分の炭素数が1〜6の低級アルキルであるアルキルアルコキシ金属塩、またはハロゲンアルコキシ金属塩と、炭素数1〜6の低級アルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下であるシリカ、チタニア、またはアルミナからなる金属酸化微粒子とを必須成分とし、前記金属酸化微粒子の含有率が0.1重量%以上5.0重量%以下の割合であり、pHが6以下である第一の溶液に接触させた後、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第二の溶液に接触させることにより、前記表面に金属酸化物層を形成する金属酸化物層形成工程。
【0005】
(c) 前記金属酸化物層形成工程の後に、前記シールを、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールと、を含有し、pHが6以下である第三の溶液に接触させた後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第四の溶液に接触させることにより、前記金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油層形成工程。
この発明のシールにおいて、前記通気穴は、シールの内部側に形成されたスリットと、外部側に形成された凹部とを有する形状であることが好ましい。
【0006】
以下、上記工程(a) 〜(c) を含む撥水撥油膜の形成方法について詳述する。
前記親水化処理工程としては、プラズマ処理、グロー放電、コロナ放電、紫外線照射等により、前記部材の表面に水酸基を形成する方法が挙げられる。
この方法によれば、金属酸化物層形成工程で使用する第一の溶液のpHを6以下とすることで、前記アルキルアルコキシ金属塩またはハロゲンアルコキシ金属塩の加水分解反応が促進される。また、第二の溶液のpHを11以上13以下とすることにより、前記加水分解反応生成物の水酸基(−OH)と前記部材の表面の水酸基(−OH)との脱水縮合反応が促進される。その結果、前記部材の表面に金属酸化物層が強固に化学結合された状態で形成される。
【0007】
また、撥水撥油層形成工程で使用する第三の溶液のpHを6以下とすることで、前記フッ素系カップリング剤の加水分解反応が促進される。また、第四の溶液のpHを11以上13以下とすることにより、前記加水分解反応生成物の水酸基(−OH)と前記金属酸化層表面の水酸基(−OH)との脱水縮合反応が促進される。その結果、前記金属酸化物層の表面に撥水撥油層が強固に化学結合された状態で形成される。
【0008】
さらに、金属酸化物層形成工程で、金属酸化物層(アルコキシ金属塩を構成する金属の酸化物からなる層)が被成膜部材表面に生成する際に、第一の溶液に含まれる金属酸化物微粒子が被成膜部材表面に結合することで、金属酸化物層が密に形成される。また、形成された金属酸化物層の表面に微粒子に起因する凹凸が形成されて、表面積率(表面が平滑面であると仮定した面積に対する実際の表面積の比率)が増大する。金属酸化物層の表面積率が増大すると、その上の層である撥水撥油層の表面積率も増大し、密な撥水撥油層が形成されることになるため、撥水撥油膜の撥水撥油性能が向上するとともに、撥水撥油膜が被成膜部材表面に対して強固に結合される。金属酸化物層および撥水撥油層の表面積率は1.1以上であることが好ましい。
【0009】
アルコキシ金属塩(前記アルキルアルコキシ金属塩およびハロゲンアルコキシ金属塩)の具体例としては、金属種がシリコンである、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラクロロシラン、金属種がチタンである、テトラメトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシチタネート、テトラブトキシチタネート、金属種がアルミナである、トリメトキシアルミネート、トリエトキシアルミネート、トリプロポキシアルミネートが挙げられる。
【0010】
第一の溶液に含まれる金属酸化物微粒子をなす金属酸化物の金属種とアルコキシ金属塩の金属種は、同じであることが特に好ましい。
金属酸化物微粒子の平均一次粒径は、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上50nm以下である。また、平均一次粒径が異なる金属酸化物微粒子を混合して使用することも可能である。平均一次粒径が1nm未満では、表面積率の増大効果が少なく、200nmを超えると、被成膜部材表面から脱落しやすくなる。
【0011】
金属酸化物微粒子の溶液中の含有率は0.1以上3質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以上〜2.5質量%以下がさらに好ましい。金属酸化物微粒子の溶液中の含有率が0.1質量%未満では、金属酸化物層を密にする効果が少なく、5質量%を超えると、被成膜部材表面に金属酸化物の微粒子が過度に重なった状態で堆積することになり、これに伴って微粒子が脱落することで撥水撥油膜に欠陥が生じ易くなる。
【0012】
金属酸化物微粒子の形状は、特に限定はなく、球形、矩形、扁平形、繊維状、ウイスカー状のもの等を使用できる。例えば、繊維状のものであれば、繊維の長さを1nm以上200nm以下とすることができる。また、異なる形状のものを混合して使用してもよい。また、平均一次粒径が1nm以上200nm以下であれば、多孔質のもの等を使用することも可能である。
【0013】
第一の溶液の組成の一例を具体的に述べると、アルコキシ金属塩が1質量%以上10質量%以下、水が1質量%以上20質量%以下、アルコールが30質量%以上95質量%以下、金属酸化物の微粒子が0.1質量%以上5質量%以下であって、塩酸によりpHが6以下に調整されているものである。この場合、塩酸以外の成分をあらかじめ混合し、金属酸化物微粒子が均一になるよう数十分〜数時間攪拌した後、最後に塩酸を用いてpH調整を行うことが好ましい。
前記第二の溶液および第四の溶液は、特に、水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等も使用できる。また、各種のpH緩衝剤を併用してもよい。
【0014】
また、前記第一の溶液および第三の溶液が炭素数1〜6の低級アルコールを含むことにより、前記アルコキシ金属塩およびフッ素系カップリング剤の溶解度を高め、安定した溶液となる。炭素数1〜6の低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール等が好適に使用できる。より好ましくは、エタノールを用いる。
【0015】
前記第三の溶液に含まれる、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤としては、第一の溶液に含まれる金属酸化物微粒子の金属種、あるいは、第一の溶液に含まれるアルコキシ金属塩の金属種と同じ金属種を有するものであることが好ましい。また、金属種がシリコンであるフッ素系カップリング剤(フッ素系シランカップリング剤)を使用することが好ましい。
【0016】
具体的には、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリクロロシラン−3−ヘプタフルオロイソプロポキシプロピルトリクロロシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロドデシルトリエトキシシラン、3−トリフルオロアセトキシプロピルトリメトキシシラン等が使用できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の鉄道車両用軸受装置のシールによれば、特定の方法で形成された撥水撥油膜を設けることで、通気穴からの水の浸入を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態に相当するシールが取り付けられた鉄道車両用軸受装置を示す断面図である。
【図2】図1の密封装置の部分を示す拡大図である。
【図3】図2の密封装置を構成するシールを示す部分断面図である。
【図4】図2の密封装置を構成するシールの本体を示す部分拡大図である。
【図5】リップに形成された通気穴をシールの外部側から見た平面図であって、図4のA矢視を示す部分拡大図(a)とB矢視を示す部分拡大図(b)である。
【図6】通気穴の形状が図4とは異なる例を示す図である。
【図7】通気穴の形状が図4とは異なる例を示す図である。
【図8】通気穴の形状が図4とは異なる例を示す図である。
【図9】通気穴の形成位置が図4とは異なる例を示す図である。
【図10】通気穴の形成位置が図4とは異なる例を示す図である。
【図11】この発明のシールに形成されている撥水撥油膜の構造を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態について説明する。
図1の鉄道車両用軸受装置は、複列円錐ころ軸受1と、その軸方向両端に配置された円筒状の油切り2と、複列円錐ころ軸受1と油切り2との間を密封する密封装置3と、を備えている。
複列円錐ころ軸受1は、二列の軌道面を有する外輪11と、一対の内輪12と、両内輪12の間に配置された間座13と、複数の円錐ころ14と、保持器15とからなる。油切り2の外径は、内輪12側が反対側より小さく形成され、その小径部21の端面を内輪12の端面に当接させた状態で、軸4に外嵌されている。
【0020】
密封装置3は、図2に示すように、シール5と、金属環6と、シールケース7とを有する。図2〜4に示すように、シール5は、芯金51とニトリルゴム製の本体52とからなる。芯金51は、円筒部51aと円板部51bと斜面部51cとからなる。本体52は、内側リップ52aと外側リップ52bを有する。図3に示すように、内側リップ52aおよび外側リップ52bに、周方向に等間隔で複数個の通気穴53が形成されている。内側リップ52aにはガータースプリング54が取り付けられている。図4および5に示すように、通気穴53は、シール内部側に形成されたスリット53aと、シール外部側に形成された凹部53bとからなり、凹部53bは円錐形である。
【0021】
図2に示すように、金属環6は断面L字形であって、円筒部61と円板部62とからなる。シールケース7は、小径部71、中径部72、および大径部73を有する。
シール5は、油切り2の小径部21の外周に配置されている。シール5の芯金51の円筒部51aに、金属環6の円筒部61を介してシールケース7の中径部72が外嵌されている。シールケース7の大径部73が外輪11の内周面に内嵌されている。シールケース7の小径部71は油きり2の大径部22に遊嵌されている。シール5の内側リップ52aと外側リップ52bは、油切り2の小径部21の外周に摺接されている。内側リップ52aは、ガータスプリング54により油切り2の小径部21に向けて付勢されている。
シール5のニトリルゴム製の本体52は、通気穴53をなすスリット53aの面および凹部53bの面を含む全表面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態となっている。
【0022】
この本体52の全表面に対するシリカ被膜形成および撥水撥油層形成は、以下の方法で行った。
溶液Aとして、テトラエトキシシランを6.1質量%、水を6.1質量%、エタノールを87.0質量%、平均一次粒径が30nmのシリカ微粒子を0.8質量%の各割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液を調製した。この溶液は、先ず、エタノールに各微粒子を加えて密封防爆型ホモジナイザーで攪拌分散させた後に、テトラエトキシシランと塩酸と水を加えることで調製した。
溶液Bとして、pH12の水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
溶液Cとして、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシランを16.0質量%、水を5.5質量%、エタノールを78.5質量%の各割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液を調製した。
【0023】
本体52の形状(通気穴53の形状を含む)に対応させた金型内に芯金51を配置し、その金型内にニトリルゴムを注入して硬化させることにより、芯金51にニトリルゴムからなる本体52を一体成形することで、シール5を作製した。その後、本体52の通気穴53をなすスリット53aの面および凹部53bの面を含む表面全体に、プラズマ処理(親水化処理)を行った。次に、このシール5をメタノールで超音波洗浄して乾燥させ、その直後に、本体52の全表面に約25℃の溶液A(第一の溶液)を塗布した。
【0024】
塗布した溶液Aの揮発成分が蒸発した後、本体52の全表面に、速やかに約25℃の溶液B(第二の溶液)を塗布した。その後、シール5をエタノールですすぎ、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、シール5をエタノールで超音波洗浄した。この段階で、シール5の本体52のプラズマ処理された全表面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成された。
【0025】
次に、このシール5を、約25℃の溶液C(第三の溶液)に大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Cを攪拌した。30分間の浸漬後、このシール5を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B(第四の溶液)に大気圧下で30分間浸漬した。30分間の浸漬後、シール5を引き上げてエタノールですすいだ後、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥した。その後、エタノールで超音波洗浄した。これにより、シール5の本体52の全表面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態となった。
【0026】
図1の鉄道車両用軸受装置は、このシール5により複列円錐ころ軸受1の端部が密封されているため、シール5に内部から圧力がかからない状態では、軸受内部の潤滑剤がシール5から漏洩することが防止できると共に、通気穴53から水が軸受内部に浸入することを効果的に防止できる。シール5に内部から圧力がかかった状態では、スリット53aが開いて軸受内部の潤滑剤が外部側に排出されるため、スリット53aに潤滑剤が詰まることが防止できる。
なお、通気穴53の凹部53bは図6および7に示す形状としてもよい。図6では、凹部53bを円筒形で底が曲面となっている形状にしてある。図7では、凹部53bを円筒形で底が平面となっている形状にしてある。さらに、図8に示すように、通気穴53を凹部53bのないスリット53aのみとしてもよい。
【0027】
また、通気穴53の形成位置は、図9および図10に示すように、本体52の芯金51が結合されている基部52cに設けてもよい。
図9の例では、芯金51の斜面部51cに、厚さ方向に貫通する貫通穴51dを周方向に等間隔で複数個設け、基部52cの貫通穴51dの位置に、スリット53aと円錐形の凹部53bからなる通気穴53を形成している。図10の例では、芯金51の斜面部51cに、先端から板面に沿って凹状に切欠いた凹部51eを周方向に等間隔で複数個設け、基部52cの凹部51eの位置に、スリット53aと円錐形の凹部53bからなる通気穴53を形成している。
【実施例】
【0028】
[接触角の測定]
シールの材料として使用されるニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムからなり、表面が平滑な(平均表面粗さがRa≒0.001μmである)板状物(40mm×50mm×厚さ1mm)を用意した。
溶液Aとして、テトラエトキシシランを6.1質量%、水を6.1質量%、エタノールを87.0質量%、平均一次粒径が30nmのシリカ微粒子を0.8質量%の各割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液を調製した。この溶液は、先ず、エタノールに各微粒子を加えて密封防爆型ホモジナイザーで攪拌分散させた後に、テトラエトキシシランと塩酸と水を加えることで調製した。
【0029】
溶液Bとして、pH12の水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
溶液Cとして、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシランを16.0質量%、水を5.5質量%、エタノールを78.5質量%の各割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液を調製した。
溶液Dとして、テトラエトキシシランを6.1質量%、水を6.1質量%、エタノールを87.8質量%の各割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液を調製した。
【0030】
先ず、各板状物(ニトリルゴム板、アクリルゴム板、フッ素ゴム板)の被成膜表面にプラズマ処理(親水化処理)を行った。
サンプルNo. 1−1では、プラズマ処理後のニトリルゴム板をメタノールで超音波洗浄して乾燥させ、その直後に、ニトリルゴム板のプラズマ処理面に約25℃の溶液A(第一の溶液)を塗布した。塗布した溶液Aの揮発成分が蒸発した後、速やかに約25℃の溶液B(第二の溶液)を塗布した。その後、エタノールですすぎ、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。この段階で、ニトリルゴム板のプラズマ処理面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されている。
【0031】
次に、このニトリルゴム板を、約25℃の溶液C(第三の溶液)に大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Cを攪拌した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B(第四の溶液)に大気圧下で30分間浸漬した。30分間の浸漬後、ニトリルゴム板を引き上げてエタノールですすいだ後、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、ニトリルゴム板のプラズマ処理面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態となった。
【0032】
サンプルNo. 1−2では、プラズマ処理後のアクリルゴム板に対してNo. 1−1と同じ処理を行うことで、アクリルゴム板のプラズマ処理面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態とした。
サンプルNo. 1−3では、プラズマ処理後のフッ素ゴム板に対してNo. 1−1と同じ処理を行うことで、フッ素ゴム板のプラズマ処理面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態とした。
【0033】
サンプルNo. 1−4では、プラズマ処理後のニトリルゴム板をメタノールで超音波洗浄して乾燥させ、その直後に、このニトリルゴム板を約25℃の溶液Cに大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Cを攪拌した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液Bに大気圧下で30分間浸漬した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げてエタノールですすいだ後、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。この段階で、ニトリルゴム板の表面に撥水撥油層が形成されている。
【0034】
サンプルNo. 1−5では、プラズマ処理後のニトリルゴム板をメタノールで超音波洗浄して乾燥させ、その直後に、このニトリルゴム板を約25℃の溶液Dに大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Dを攪拌した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液Bに大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Bを攪拌した。30分間の浸漬後、ニトリルゴム板を引き上げてエタノールですすいだ後、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。この段階で、ニトリルゴム板の表面にシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されている。
【0035】
次に、このニトリルゴム板を、約25℃の溶液Cに大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Cを攪拌した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液Bに大気圧下で30分間浸漬した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げてエタノールですすいだ後、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、ニトリルゴム板のプラズマ処理面にシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態となった。
【0036】
サンプルNo. 1−1〜1−3、No. 1−5では、図11に示すように、ゴム製の板状物(ニトリルゴム板、アクリルゴム板、フッ素ゴム板)10の表面にシリカ被膜からなる金属酸化物層20が化学結合された状態で形成され、その上に、フルオロアルキルトリシロキサンの単分子膜からなる撥水撥油層30が化学結合された状態で形成されている。そして、サンプルNo. 1−1〜1−3では金属酸化物層20の表面が凹凸状に形成されているが、サンプルNo. 1−5では金属酸化物層20の表面が平坦である。また、サンプルNo. 1−4では金属酸化物層20がなく、ゴム製の板状物10の表面に直接、フルオロアルキルトリシロキサンの単分子膜からなる撥水撥油層30が化学結合された状態で形成されている。
【0037】
このようにして撥水撥油膜が形成されたNo. 1−1〜1−5のニトリルゴム板、アクリルゴム板、フッ素ゴム板の表面と、撥水撥油膜が形成される前のニトリルゴム板(No. 1−6)の表面について、水(蒸留水)を用いて25℃での接触角を測定した。接触角は、試料液と試料表面が接触してから20秒後に測定した。
その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
この結果から分かるように、シリカ微粒子を0.8質量%含有する溶液Aを用いてシリカ被膜を形成した後に溶液Cを用いて撥水撥油層を形成したNo. 1−1〜1−3は、シリカ被膜を形成しない以外はNo. 1−1と同じ処理をしたNo. 1−4および、金属酸化物微粒子を含まない溶液Dを用いた以外はNo. 1−1と同じ処理をしたNo. 1−5と比較して、優れた撥水撥油性能を有する。
【0040】
[鉄道車両用軸受装置のシールとしての性能]
<サンプルNo. 2−1>
実施形態で説明した方法と同じ方法で、図3および図4に示す形状のシール5の本体52の全表面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層を形成した。
<サンプルNo. 2−2>
図6に示すように、本体52の通気穴53の凹部53bの形状が、円筒形で底が曲面となっているシール5を用意した。このシール5の凹部53bの形状以外の構成は、図3および図4に示すシール5と同じである。実施形態で説明した方法と同じ方法で、このシール5の本体52の全表面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層を形成した。
【0041】
<サンプルNo. 2−3>
図7に示すように、本体52の通気穴53の凹部53bの形状が、円筒形で底が平面となっているシール5を用意した。このシール5の凹部53bの形状以外の構成は、図3および図4に示すシール5と同じである。実施形態で説明した方法と同じ方法で、このシール5の本体52の全表面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層を形成した。
<サンプルNo. 2−4>
図8に示すように、本体52の通気穴53として、凹部を有さずスリット53aのみが形成されているシール5を用意した。このシール5の通気穴53の形状以外の構成は、図3および図4に示すシール5と同じである。実施形態で説明した方法と同じ方法で、このシール5の本体52の全表面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層を形成した。
【0042】
<サンプルNo. 2−5>
図3および図4に示す形状で、本体52の全表面に対してシリカ被膜と撥水撥油層の何れもが形成されていないシール5を用意した。
No. 2−1〜2−5の各シール5を用い、昭和シェル石油(株)の新幹線車軸用グリース「NERITA2858」(鉄道車両車軸で汎用される潤滑剤)を内部に封入して、図1に示す鉄道車両用軸受装置を組み立てた。これらの軸受装置に対して使用条件を加速させた泥水浸漬試験を3カ月行った後に、軸受内部の潤滑剤に含まれる水分量(浸入水分量)を測定した。その結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示すように、通気穴の凹部の形状が円錐形であって、撥水撥油膜が形成されていないNo. 2−5のシール5を備えた軸受装置は、浸入水分量が12.25質量%であったのに対して、通気穴の凹部の形状が円錐形であって、撥水撥油膜(凹凸シリカ被膜+撥水撥油層)が形成されているNo. 2−1のシール5を備えた軸受装置は、浸入水分量が0.07質量%と極僅かであった。つまり、同じ形状の通気穴を有するシール5であっても、No. 2−1のように撥水撥油膜を設けることで、通気穴からの水の浸入を効果的に防止することができる。
【0045】
撥水撥油膜(凹凸シリカ被膜+撥水撥油層)が形成されていて、通気穴53の形状が異なるNo. 2−1〜No. 2−4の中では、通気穴53がスリット53aのみからなるNo. 2−4と凹部53bを有するNo. 2−1〜2−3とでは、凹部53bを有するNo. 2−1〜2−3の方が、通気穴から水の浸入を防止する効果が高いことが分かる。さらに、凹部53bを有するNo. 2−1〜2−3の中では、凹部53bの形状が円錐形であるNo. 2−1が、通気穴から水の浸入を防止する効果が最も高く、シール5に内部から圧力がかかった時に最も内部の潤滑剤を排出し易い。
【符号の説明】
【0046】
1 複列円錐ころ軸受
2 油切り
3 密封装置
11 外輪
12 内輪
13 間座
14 円錐ころ
15 保持器
4 軸
5 シール
51 芯金
51a 芯金の円筒部
51b 芯金の円板部
51c 芯金の斜面部
51d 貫通穴
51e 凹部
52 本体
52a 内側リップ
52b 外側リップ
52c 基部
53 通気穴
53a スリット
53b 凹部
54 ガータスプリング
6 金属環
7 シールケース
【技術分野】
【0001】
この発明は、鉄道車両用軸受装置を構成する転がり軸受の軸方向両端に配置され、内部空間を外気と連通させる通気穴を有するシールに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両用軸受装置を構成する転がり軸受の軸方向両端にはシールが配置され、このシールには、シール内部空間を外気と連通させる通気穴が形成されている。下記の特許文献1に記載された鉄道車両用軸受装置では、前記通気穴として、シールの円盤部に凹部を設けて厚さを薄くした部分に、軸方向に貫通するスリットが形成されている。
【特許文献1】特開2008―19905号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に記載された鉄道車両用軸受装置のシールは、通気穴から水の浸入を防止するという点で改善の余地がある。
この発明の課題は、鉄道車両用軸受装置に取り付けて使用されるシールであって、通気穴からの水の浸入を効果的に防止できるものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために、この発明のシールは、鉄道車両用軸受装置を構成する転がり軸受の軸方向両端に配置され、内部空間を外気と連通させる通気穴を有するシールであって、前記シールの通気穴に撥水撥油膜が形成されていることを特徴とする。
前記撥水撥油膜は、下記の工程(a) 〜(c) を含む方法により形成することができる。
(a) 前記シールの表面を親水性にする親水化処理工程。
(b) 前記シールを、水と、金属種がシリコン、チタン、もしくはアルミニウムで、アルキル部分の炭素数が1〜6の低級アルキルであるアルキルアルコキシ金属塩、またはハロゲンアルコキシ金属塩と、炭素数1〜6の低級アルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下であるシリカ、チタニア、またはアルミナからなる金属酸化微粒子とを必須成分とし、前記金属酸化微粒子の含有率が0.1重量%以上5.0重量%以下の割合であり、pHが6以下である第一の溶液に接触させた後、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第二の溶液に接触させることにより、前記表面に金属酸化物層を形成する金属酸化物層形成工程。
【0005】
(c) 前記金属酸化物層形成工程の後に、前記シールを、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールと、を含有し、pHが6以下である第三の溶液に接触させた後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第四の溶液に接触させることにより、前記金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油層形成工程。
この発明のシールにおいて、前記通気穴は、シールの内部側に形成されたスリットと、外部側に形成された凹部とを有する形状であることが好ましい。
【0006】
以下、上記工程(a) 〜(c) を含む撥水撥油膜の形成方法について詳述する。
前記親水化処理工程としては、プラズマ処理、グロー放電、コロナ放電、紫外線照射等により、前記部材の表面に水酸基を形成する方法が挙げられる。
この方法によれば、金属酸化物層形成工程で使用する第一の溶液のpHを6以下とすることで、前記アルキルアルコキシ金属塩またはハロゲンアルコキシ金属塩の加水分解反応が促進される。また、第二の溶液のpHを11以上13以下とすることにより、前記加水分解反応生成物の水酸基(−OH)と前記部材の表面の水酸基(−OH)との脱水縮合反応が促進される。その結果、前記部材の表面に金属酸化物層が強固に化学結合された状態で形成される。
【0007】
また、撥水撥油層形成工程で使用する第三の溶液のpHを6以下とすることで、前記フッ素系カップリング剤の加水分解反応が促進される。また、第四の溶液のpHを11以上13以下とすることにより、前記加水分解反応生成物の水酸基(−OH)と前記金属酸化層表面の水酸基(−OH)との脱水縮合反応が促進される。その結果、前記金属酸化物層の表面に撥水撥油層が強固に化学結合された状態で形成される。
【0008】
さらに、金属酸化物層形成工程で、金属酸化物層(アルコキシ金属塩を構成する金属の酸化物からなる層)が被成膜部材表面に生成する際に、第一の溶液に含まれる金属酸化物微粒子が被成膜部材表面に結合することで、金属酸化物層が密に形成される。また、形成された金属酸化物層の表面に微粒子に起因する凹凸が形成されて、表面積率(表面が平滑面であると仮定した面積に対する実際の表面積の比率)が増大する。金属酸化物層の表面積率が増大すると、その上の層である撥水撥油層の表面積率も増大し、密な撥水撥油層が形成されることになるため、撥水撥油膜の撥水撥油性能が向上するとともに、撥水撥油膜が被成膜部材表面に対して強固に結合される。金属酸化物層および撥水撥油層の表面積率は1.1以上であることが好ましい。
【0009】
アルコキシ金属塩(前記アルキルアルコキシ金属塩およびハロゲンアルコキシ金属塩)の具体例としては、金属種がシリコンである、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラクロロシラン、金属種がチタンである、テトラメトキシチタネート、テトラエトキシチタネート、テトラプロポキシチタネート、テトラブトキシチタネート、金属種がアルミナである、トリメトキシアルミネート、トリエトキシアルミネート、トリプロポキシアルミネートが挙げられる。
【0010】
第一の溶液に含まれる金属酸化物微粒子をなす金属酸化物の金属種とアルコキシ金属塩の金属種は、同じであることが特に好ましい。
金属酸化物微粒子の平均一次粒径は、好ましくは2nm以上100nm以下、より好ましくは2nm以上80nm以下、さらに好ましくは10nm以上50nm以下である。また、平均一次粒径が異なる金属酸化物微粒子を混合して使用することも可能である。平均一次粒径が1nm未満では、表面積率の増大効果が少なく、200nmを超えると、被成膜部材表面から脱落しやすくなる。
【0011】
金属酸化物微粒子の溶液中の含有率は0.1以上3質量%以下とすることが好ましく、0.2質量%以上〜2.5質量%以下がさらに好ましい。金属酸化物微粒子の溶液中の含有率が0.1質量%未満では、金属酸化物層を密にする効果が少なく、5質量%を超えると、被成膜部材表面に金属酸化物の微粒子が過度に重なった状態で堆積することになり、これに伴って微粒子が脱落することで撥水撥油膜に欠陥が生じ易くなる。
【0012】
金属酸化物微粒子の形状は、特に限定はなく、球形、矩形、扁平形、繊維状、ウイスカー状のもの等を使用できる。例えば、繊維状のものであれば、繊維の長さを1nm以上200nm以下とすることができる。また、異なる形状のものを混合して使用してもよい。また、平均一次粒径が1nm以上200nm以下であれば、多孔質のもの等を使用することも可能である。
【0013】
第一の溶液の組成の一例を具体的に述べると、アルコキシ金属塩が1質量%以上10質量%以下、水が1質量%以上20質量%以下、アルコールが30質量%以上95質量%以下、金属酸化物の微粒子が0.1質量%以上5質量%以下であって、塩酸によりpHが6以下に調整されているものである。この場合、塩酸以外の成分をあらかじめ混合し、金属酸化物微粒子が均一になるよう数十分〜数時間攪拌した後、最後に塩酸を用いてpH調整を行うことが好ましい。
前記第二の溶液および第四の溶液は、特に、水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。また、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩等も使用できる。また、各種のpH緩衝剤を併用してもよい。
【0014】
また、前記第一の溶液および第三の溶液が炭素数1〜6の低級アルコールを含むことにより、前記アルコキシ金属塩およびフッ素系カップリング剤の溶解度を高め、安定した溶液となる。炭素数1〜6の低級アルコールとしては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール等が好適に使用できる。より好ましくは、エタノールを用いる。
【0015】
前記第三の溶液に含まれる、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤としては、第一の溶液に含まれる金属酸化物微粒子の金属種、あるいは、第一の溶液に含まれるアルコキシ金属塩の金属種と同じ金属種を有するものであることが好ましい。また、金属種がシリコンであるフッ素系カップリング剤(フッ素系シランカップリング剤)を使用することが好ましい。
【0016】
具体的には、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリメトキシシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリクロロシラン−3−ヘプタフルオロイソプロポキシプロピルトリクロロシラン、1H,1H,2H,2H−パーフルオロドデシルトリエトキシシラン、3−トリフルオロアセトキシプロピルトリメトキシシラン等が使用できる。
【発明の効果】
【0017】
この発明の鉄道車両用軸受装置のシールによれば、特定の方法で形成された撥水撥油膜を設けることで、通気穴からの水の浸入を効果的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の一実施形態に相当するシールが取り付けられた鉄道車両用軸受装置を示す断面図である。
【図2】図1の密封装置の部分を示す拡大図である。
【図3】図2の密封装置を構成するシールを示す部分断面図である。
【図4】図2の密封装置を構成するシールの本体を示す部分拡大図である。
【図5】リップに形成された通気穴をシールの外部側から見た平面図であって、図4のA矢視を示す部分拡大図(a)とB矢視を示す部分拡大図(b)である。
【図6】通気穴の形状が図4とは異なる例を示す図である。
【図7】通気穴の形状が図4とは異なる例を示す図である。
【図8】通気穴の形状が図4とは異なる例を示す図である。
【図9】通気穴の形成位置が図4とは異なる例を示す図である。
【図10】通気穴の形成位置が図4とは異なる例を示す図である。
【図11】この発明のシールに形成されている撥水撥油膜の構造を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施形態について説明する。
図1の鉄道車両用軸受装置は、複列円錐ころ軸受1と、その軸方向両端に配置された円筒状の油切り2と、複列円錐ころ軸受1と油切り2との間を密封する密封装置3と、を備えている。
複列円錐ころ軸受1は、二列の軌道面を有する外輪11と、一対の内輪12と、両内輪12の間に配置された間座13と、複数の円錐ころ14と、保持器15とからなる。油切り2の外径は、内輪12側が反対側より小さく形成され、その小径部21の端面を内輪12の端面に当接させた状態で、軸4に外嵌されている。
【0020】
密封装置3は、図2に示すように、シール5と、金属環6と、シールケース7とを有する。図2〜4に示すように、シール5は、芯金51とニトリルゴム製の本体52とからなる。芯金51は、円筒部51aと円板部51bと斜面部51cとからなる。本体52は、内側リップ52aと外側リップ52bを有する。図3に示すように、内側リップ52aおよび外側リップ52bに、周方向に等間隔で複数個の通気穴53が形成されている。内側リップ52aにはガータースプリング54が取り付けられている。図4および5に示すように、通気穴53は、シール内部側に形成されたスリット53aと、シール外部側に形成された凹部53bとからなり、凹部53bは円錐形である。
【0021】
図2に示すように、金属環6は断面L字形であって、円筒部61と円板部62とからなる。シールケース7は、小径部71、中径部72、および大径部73を有する。
シール5は、油切り2の小径部21の外周に配置されている。シール5の芯金51の円筒部51aに、金属環6の円筒部61を介してシールケース7の中径部72が外嵌されている。シールケース7の大径部73が外輪11の内周面に内嵌されている。シールケース7の小径部71は油きり2の大径部22に遊嵌されている。シール5の内側リップ52aと外側リップ52bは、油切り2の小径部21の外周に摺接されている。内側リップ52aは、ガータスプリング54により油切り2の小径部21に向けて付勢されている。
シール5のニトリルゴム製の本体52は、通気穴53をなすスリット53aの面および凹部53bの面を含む全表面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態となっている。
【0022】
この本体52の全表面に対するシリカ被膜形成および撥水撥油層形成は、以下の方法で行った。
溶液Aとして、テトラエトキシシランを6.1質量%、水を6.1質量%、エタノールを87.0質量%、平均一次粒径が30nmのシリカ微粒子を0.8質量%の各割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液を調製した。この溶液は、先ず、エタノールに各微粒子を加えて密封防爆型ホモジナイザーで攪拌分散させた後に、テトラエトキシシランと塩酸と水を加えることで調製した。
溶液Bとして、pH12の水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
溶液Cとして、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシランを16.0質量%、水を5.5質量%、エタノールを78.5質量%の各割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液を調製した。
【0023】
本体52の形状(通気穴53の形状を含む)に対応させた金型内に芯金51を配置し、その金型内にニトリルゴムを注入して硬化させることにより、芯金51にニトリルゴムからなる本体52を一体成形することで、シール5を作製した。その後、本体52の通気穴53をなすスリット53aの面および凹部53bの面を含む表面全体に、プラズマ処理(親水化処理)を行った。次に、このシール5をメタノールで超音波洗浄して乾燥させ、その直後に、本体52の全表面に約25℃の溶液A(第一の溶液)を塗布した。
【0024】
塗布した溶液Aの揮発成分が蒸発した後、本体52の全表面に、速やかに約25℃の溶液B(第二の溶液)を塗布した。その後、シール5をエタノールですすぎ、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、シール5をエタノールで超音波洗浄した。この段階で、シール5の本体52のプラズマ処理された全表面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成された。
【0025】
次に、このシール5を、約25℃の溶液C(第三の溶液)に大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Cを攪拌した。30分間の浸漬後、このシール5を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B(第四の溶液)に大気圧下で30分間浸漬した。30分間の浸漬後、シール5を引き上げてエタノールですすいだ後、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥した。その後、エタノールで超音波洗浄した。これにより、シール5の本体52の全表面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態となった。
【0026】
図1の鉄道車両用軸受装置は、このシール5により複列円錐ころ軸受1の端部が密封されているため、シール5に内部から圧力がかからない状態では、軸受内部の潤滑剤がシール5から漏洩することが防止できると共に、通気穴53から水が軸受内部に浸入することを効果的に防止できる。シール5に内部から圧力がかかった状態では、スリット53aが開いて軸受内部の潤滑剤が外部側に排出されるため、スリット53aに潤滑剤が詰まることが防止できる。
なお、通気穴53の凹部53bは図6および7に示す形状としてもよい。図6では、凹部53bを円筒形で底が曲面となっている形状にしてある。図7では、凹部53bを円筒形で底が平面となっている形状にしてある。さらに、図8に示すように、通気穴53を凹部53bのないスリット53aのみとしてもよい。
【0027】
また、通気穴53の形成位置は、図9および図10に示すように、本体52の芯金51が結合されている基部52cに設けてもよい。
図9の例では、芯金51の斜面部51cに、厚さ方向に貫通する貫通穴51dを周方向に等間隔で複数個設け、基部52cの貫通穴51dの位置に、スリット53aと円錐形の凹部53bからなる通気穴53を形成している。図10の例では、芯金51の斜面部51cに、先端から板面に沿って凹状に切欠いた凹部51eを周方向に等間隔で複数個設け、基部52cの凹部51eの位置に、スリット53aと円錐形の凹部53bからなる通気穴53を形成している。
【実施例】
【0028】
[接触角の測定]
シールの材料として使用されるニトリルゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムからなり、表面が平滑な(平均表面粗さがRa≒0.001μmである)板状物(40mm×50mm×厚さ1mm)を用意した。
溶液Aとして、テトラエトキシシランを6.1質量%、水を6.1質量%、エタノールを87.0質量%、平均一次粒径が30nmのシリカ微粒子を0.8質量%の各割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液を調製した。この溶液は、先ず、エタノールに各微粒子を加えて密封防爆型ホモジナイザーで攪拌分散させた後に、テトラエトキシシランと塩酸と水を加えることで調製した。
【0029】
溶液Bとして、pH12の水酸化ナトリウム水溶液を調製した。
溶液Cとして、1H,1H,2H,2H−パーフルオロデシルトリエトキシシランを16.0質量%、水を5.5質量%、エタノールを78.5質量%の各割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液を調製した。
溶液Dとして、テトラエトキシシランを6.1質量%、水を6.1質量%、エタノールを87.8質量%の各割合で含有し、pHが3.0になるように塩酸を加えた水溶液を調製した。
【0030】
先ず、各板状物(ニトリルゴム板、アクリルゴム板、フッ素ゴム板)の被成膜表面にプラズマ処理(親水化処理)を行った。
サンプルNo. 1−1では、プラズマ処理後のニトリルゴム板をメタノールで超音波洗浄して乾燥させ、その直後に、ニトリルゴム板のプラズマ処理面に約25℃の溶液A(第一の溶液)を塗布した。塗布した溶液Aの揮発成分が蒸発した後、速やかに約25℃の溶液B(第二の溶液)を塗布した。その後、エタノールですすぎ、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。この段階で、ニトリルゴム板のプラズマ処理面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されている。
【0031】
次に、このニトリルゴム板を、約25℃の溶液C(第三の溶液)に大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Cを攪拌した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液B(第四の溶液)に大気圧下で30分間浸漬した。30分間の浸漬後、ニトリルゴム板を引き上げてエタノールですすいだ後、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、ニトリルゴム板のプラズマ処理面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態となった。
【0032】
サンプルNo. 1−2では、プラズマ処理後のアクリルゴム板に対してNo. 1−1と同じ処理を行うことで、アクリルゴム板のプラズマ処理面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態とした。
サンプルNo. 1−3では、プラズマ処理後のフッ素ゴム板に対してNo. 1−1と同じ処理を行うことで、フッ素ゴム板のプラズマ処理面に凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態とした。
【0033】
サンプルNo. 1−4では、プラズマ処理後のニトリルゴム板をメタノールで超音波洗浄して乾燥させ、その直後に、このニトリルゴム板を約25℃の溶液Cに大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Cを攪拌した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液Bに大気圧下で30分間浸漬した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げてエタノールですすいだ後、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。この段階で、ニトリルゴム板の表面に撥水撥油層が形成されている。
【0034】
サンプルNo. 1−5では、プラズマ処理後のニトリルゴム板をメタノールで超音波洗浄して乾燥させ、その直後に、このニトリルゴム板を約25℃の溶液Dに大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Dを攪拌した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液Bに大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Bを攪拌した。30分間の浸漬後、ニトリルゴム板を引き上げてエタノールですすいだ後、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。この段階で、ニトリルゴム板の表面にシリカ被膜(金属酸化物層)が形成されている。
【0035】
次に、このニトリルゴム板を、約25℃の溶液Cに大気圧下で30分間浸漬した。浸漬中は緩やかに溶液Cを攪拌した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げて、速やかに約25℃の溶液Bに大気圧下で30分間浸漬した。30分間の浸漬後、このニトリルゴム板を引き上げてエタノールですすいだ後、120℃のクリーンオーブンで30分間乾燥を行った。その後、エタノールで超音波洗浄を行った。これにより、ニトリルゴム板のプラズマ処理面にシリカ被膜(金属酸化物層)が形成され、その上に撥水撥油層が形成された状態となった。
【0036】
サンプルNo. 1−1〜1−3、No. 1−5では、図11に示すように、ゴム製の板状物(ニトリルゴム板、アクリルゴム板、フッ素ゴム板)10の表面にシリカ被膜からなる金属酸化物層20が化学結合された状態で形成され、その上に、フルオロアルキルトリシロキサンの単分子膜からなる撥水撥油層30が化学結合された状態で形成されている。そして、サンプルNo. 1−1〜1−3では金属酸化物層20の表面が凹凸状に形成されているが、サンプルNo. 1−5では金属酸化物層20の表面が平坦である。また、サンプルNo. 1−4では金属酸化物層20がなく、ゴム製の板状物10の表面に直接、フルオロアルキルトリシロキサンの単分子膜からなる撥水撥油層30が化学結合された状態で形成されている。
【0037】
このようにして撥水撥油膜が形成されたNo. 1−1〜1−5のニトリルゴム板、アクリルゴム板、フッ素ゴム板の表面と、撥水撥油膜が形成される前のニトリルゴム板(No. 1−6)の表面について、水(蒸留水)を用いて25℃での接触角を測定した。接触角は、試料液と試料表面が接触してから20秒後に測定した。
その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
この結果から分かるように、シリカ微粒子を0.8質量%含有する溶液Aを用いてシリカ被膜を形成した後に溶液Cを用いて撥水撥油層を形成したNo. 1−1〜1−3は、シリカ被膜を形成しない以外はNo. 1−1と同じ処理をしたNo. 1−4および、金属酸化物微粒子を含まない溶液Dを用いた以外はNo. 1−1と同じ処理をしたNo. 1−5と比較して、優れた撥水撥油性能を有する。
【0040】
[鉄道車両用軸受装置のシールとしての性能]
<サンプルNo. 2−1>
実施形態で説明した方法と同じ方法で、図3および図4に示す形状のシール5の本体52の全表面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層を形成した。
<サンプルNo. 2−2>
図6に示すように、本体52の通気穴53の凹部53bの形状が、円筒形で底が曲面となっているシール5を用意した。このシール5の凹部53bの形状以外の構成は、図3および図4に示すシール5と同じである。実施形態で説明した方法と同じ方法で、このシール5の本体52の全表面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層を形成した。
【0041】
<サンプルNo. 2−3>
図7に示すように、本体52の通気穴53の凹部53bの形状が、円筒形で底が平面となっているシール5を用意した。このシール5の凹部53bの形状以外の構成は、図3および図4に示すシール5と同じである。実施形態で説明した方法と同じ方法で、このシール5の本体52の全表面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層を形成した。
<サンプルNo. 2−4>
図8に示すように、本体52の通気穴53として、凹部を有さずスリット53aのみが形成されているシール5を用意した。このシール5の通気穴53の形状以外の構成は、図3および図4に示すシール5と同じである。実施形態で説明した方法と同じ方法で、このシール5の本体52の全表面に、凹凸状のシリカ被膜(金属酸化物層)と撥水撥油層を形成した。
【0042】
<サンプルNo. 2−5>
図3および図4に示す形状で、本体52の全表面に対してシリカ被膜と撥水撥油層の何れもが形成されていないシール5を用意した。
No. 2−1〜2−5の各シール5を用い、昭和シェル石油(株)の新幹線車軸用グリース「NERITA2858」(鉄道車両車軸で汎用される潤滑剤)を内部に封入して、図1に示す鉄道車両用軸受装置を組み立てた。これらの軸受装置に対して使用条件を加速させた泥水浸漬試験を3カ月行った後に、軸受内部の潤滑剤に含まれる水分量(浸入水分量)を測定した。その結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2に示すように、通気穴の凹部の形状が円錐形であって、撥水撥油膜が形成されていないNo. 2−5のシール5を備えた軸受装置は、浸入水分量が12.25質量%であったのに対して、通気穴の凹部の形状が円錐形であって、撥水撥油膜(凹凸シリカ被膜+撥水撥油層)が形成されているNo. 2−1のシール5を備えた軸受装置は、浸入水分量が0.07質量%と極僅かであった。つまり、同じ形状の通気穴を有するシール5であっても、No. 2−1のように撥水撥油膜を設けることで、通気穴からの水の浸入を効果的に防止することができる。
【0045】
撥水撥油膜(凹凸シリカ被膜+撥水撥油層)が形成されていて、通気穴53の形状が異なるNo. 2−1〜No. 2−4の中では、通気穴53がスリット53aのみからなるNo. 2−4と凹部53bを有するNo. 2−1〜2−3とでは、凹部53bを有するNo. 2−1〜2−3の方が、通気穴から水の浸入を防止する効果が高いことが分かる。さらに、凹部53bを有するNo. 2−1〜2−3の中では、凹部53bの形状が円錐形であるNo. 2−1が、通気穴から水の浸入を防止する効果が最も高く、シール5に内部から圧力がかかった時に最も内部の潤滑剤を排出し易い。
【符号の説明】
【0046】
1 複列円錐ころ軸受
2 油切り
3 密封装置
11 外輪
12 内輪
13 間座
14 円錐ころ
15 保持器
4 軸
5 シール
51 芯金
51a 芯金の円筒部
51b 芯金の円板部
51c 芯金の斜面部
51d 貫通穴
51e 凹部
52 本体
52a 内側リップ
52b 外側リップ
52c 基部
53 通気穴
53a スリット
53b 凹部
54 ガータスプリング
6 金属環
7 シールケース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両用軸受装置を構成する転がり軸受の軸方向両端に配置され、内部空間を外気と連通させる通気穴を有するシールであって、
前記シールの通気穴に撥水撥油膜が形成されていることを特徴とする鉄道車両用軸受装置のシール。
【請求項2】
前記撥水撥油膜は、
前記シールの表面を親水性にする親水化処理工程と、
前記シールを、水と、金属種がシリコン、チタン、もしくはアルミニウムで、アルキル部分の炭素数が1〜6の低級アルキルであるアルキルアルコキシ金属塩、またはハロゲンアルコキシ金属塩と、炭素数1〜6の低級アルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下であるシリカ、チタニア、またはアルミナからなる金属酸化微粒子とを必須成分とし、前記金属酸化微粒子の含有率が0.1重量%以上5.0重量%以下の割合であり、pHが6以下である第一の溶液に接触させた後、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第二の溶液に接触させることにより、前記表面に金属酸化物層を形成する金属酸化物層形成工程と、
前記金属酸化物層形成工程の後に、前記シールを、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールと、を含有し、pHが6以下である第三の溶液に接触させた後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第四の溶液に接触させることにより、前記金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油層形成工程と、
を含む方法により形成されている請求項1記載のシール。
【請求項3】
前記通気穴は、シールの内部側に形成されたスリットと、外部側に形成された凹部とを有する形状である請求項1または2記載のシール。
【請求項1】
鉄道車両用軸受装置を構成する転がり軸受の軸方向両端に配置され、内部空間を外気と連通させる通気穴を有するシールであって、
前記シールの通気穴に撥水撥油膜が形成されていることを特徴とする鉄道車両用軸受装置のシール。
【請求項2】
前記撥水撥油膜は、
前記シールの表面を親水性にする親水化処理工程と、
前記シールを、水と、金属種がシリコン、チタン、もしくはアルミニウムで、アルキル部分の炭素数が1〜6の低級アルキルであるアルキルアルコキシ金属塩、またはハロゲンアルコキシ金属塩と、炭素数1〜6の低級アルコールと、平均粒径が1nm以上200nm以下であるシリカ、チタニア、またはアルミナからなる金属酸化微粒子とを必須成分とし、前記金属酸化微粒子の含有率が0.1重量%以上5.0重量%以下の割合であり、pHが6以下である第一の溶液に接触させた後、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第二の溶液に接触させることにより、前記表面に金属酸化物層を形成する金属酸化物層形成工程と、
前記金属酸化物層形成工程の後に、前記シールを、シリコン、チタン、またはアルミニウムを含有するフッ素系カップリング剤と、水と、炭素数1〜6の低級アルコールと、を含有し、pHが6以下である第三の溶液に接触させた後に、アルカリ金属塩を含有し、pHが11〜13である第四の溶液に接触させることにより、前記金属酸化物層の上に撥水撥油層を形成する撥水撥油層形成工程と、
を含む方法により形成されている請求項1記載のシール。
【請求項3】
前記通気穴は、シールの内部側に形成されたスリットと、外部側に形成された凹部とを有する形状である請求項1または2記載のシール。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−173505(P2011−173505A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−38834(P2010−38834)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]