説明

鉛蓄電池

【課題】負極接続体における腐食を抑制し、優れた寿命特性を有する鉛蓄電池を提供する。
【解決手段】正極格子と正極棚と正極極柱および正極接続体で構成される正極部材は実質上Sbを含有しない鉛もしくは鉛合金からなり、負極格子と負極棚と負極極柱および負極接続体で構成される負極部材は実質上Sbを含有しない鉛もしくは鉛合金からなり、負極活物質は0.0002〜0.05質量%のSbを含み、微孔性ポリエチレンの袋状のセパレータ4で負極板3を包み込んだ構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に正極を構成する部材にはアンチモン(Sb)を含まない鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の鉛蓄電池の正極格子体および負極格子体にはPb−Sb合金が用いられていた。また、正極板や負極板を集合溶接するための棚や、端子導出やセル間接続に用いる極柱や接続体等の接続部材もPb−Sb合金が用いられてきた。
【0003】
ところが、負極格子体中にSbが含まれる場合、負極の水素過電圧が低下することにより電解液中の水分が電気分解されるため、電解液の減液が多く保存特性に優れないなどの問題があった。そこで、負極格子体にSbを含まないPb−Ca合金を用い、正極格子体にPb−Sb合金を用いる、いわゆるハイブリッドタイプの鉛蓄電池が実用化されてきた。
【0004】
このようなハイブリッドタイプの鉛蓄電池は、正・負の両極格子体をPb−Sb合金で構成した、いわゆるアンチモンタイプの鉛蓄電池に比較して、減液量も少なく、保存特性も改善される。
【0005】
しかしながら、このようなハイブリッドタイプの鉛蓄電池においても、充放電を繰り返したり、長期間放置すると、徐々に正極格子体に含まれているSbが溶出して負極に析出し、析出したSbによって負極における水素過電圧が低下して水素ガスが発生しやすくなる。その結果、減液量が徐々に増大し、保存特性が徐々に低下するという課題が依然として存在していた。
【0006】
そして、ハイブリッドタイプの鉛蓄電池の充放電をさらに継続して行うと、負極上のSb析出量はさらに増加し、さらに減液が進行する。減液が進行したにもかかわらず、電池内への補水を怠った場合には、負極棚および負極耳部が電解液から露出する。一旦これらの負極棚や負極耳部が電解液から露出すると、これらの部位で急激に腐食が進行し、短寿命に至る問題があった。
【0007】
近年、このような負極側で発生する腐食とこれによる短寿命を抑制するために、正極格子体には実質上Sbを含まないPb−Ca−Sn合金を用いた、優れたメンテナンスフリー性を持つ電池が一般化している。しかし、正極板を集合溶接する正極棚や棚から導出した正極柱もしくは正極接続体に依然としては2〜5質量%程度のSbを含むPb−Sb合金を用いることが一般的に行われてきた。
【0008】
前記したような、正極格子体にSbを含まないPb合金を用いた蓄電池はPb−Sb合金を用いた蓄電池に比較して大幅に減液量は低下するものの、蓄電池の寿命末期において正極棚、極柱および接続体といった正極接続部材に含まれるSbが電解液中に溶出し、その一部が負極耳に偏析する傾向があることがわかってきた。このような、表面にSbが偏析した負極耳が電解液から露出した場合、負極耳表面で腐食が進行して負極耳厚みが薄くなることによって、負極耳の強度が低下してしまうという課題があった。
【0009】
このような負極耳の腐食を抑制するために、正極接続部材として全くSbを含まないPbもしくはPb合金を用い、かつ正極格子、負極格子や負極の接続部材も全てSbを含まないPbもしくはPb合金を用いて鉛蓄電池を構成した場合、鉛蓄電池の深放電寿命特性が低下することがわかってきた。そして、従来のように、正極接続部材をPb−Sb合金とした場合、溶出したSbの一部が負極活物質に析出し、負極の水素過電圧をごくわずか低下させることにより、負極での充電受入性が改善され、これが寿命特性を良化することがわかってきた。
【0010】
前記したような、正極接続部材にSbを含むことによる負極耳の腐食を抑制し、かつ深放電寿命を改善するという、正極接続部材のSbの有無において相反する課題を解決するため、特許文献1には、負極格子骨を除く部位は実質上Sbを含有しない鉛もしくは鉛合金からなり、負極格子骨もしくは負極活物質のいずれか一方に減液量に影響しない程度の微量のSbを含んだ鉛蓄電池が提案されている。
【特許文献1】特開2003−346888号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献1のような構成は、減液抑制と負極の充電受入性向上には有効であるが、電池の使われ方として頻繁に深い放電や過放電が繰り返されたり、充電状態が低い状態で充放電を繰り返した場合に、負極活物質もしくは負極格子骨に含まれるSbが負極耳に偏析し、負極耳の腐食が進行してしまうことが明らかとなってきた。これは負極板のSbが希硫酸である電解液中に溶解して拡散し、耳部まで移行して析出するものと考えられる。
【0012】
近年、アイドリングストップシステムや回生ブレーキシステム搭載車が実用化されつつあるが、このような車両では従来の車両のように電池が比較的浅い放電で、かつその充電状態が100〜95%の比較的高い状態で使用されるのではなく、より深い放電が頻繁に繰り返して行われ、かつ充電状態が95%未満の比較的低い状態で使用される。このような使用モードにおいては、特許文献1の構成においても、負極耳の腐食が発生するという課題を依然として有していた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記した課題を解決するために、本発明の請求項1に係る発明は、負極格子耳と負極格子骨からなる負極格子と負極格子骨に充填された負極活物質を備えた負極板と、正極格子耳と正極格子骨からなる正極格子と正極格子骨に充填された正極活物質を備えた正極板を有し、正極格子耳を集合溶接する正極棚とこの正極棚より導出された正極柱もしくは正極接続体とからなる正極接続部材と、負極格子耳を集合溶接する負極棚とこの負極棚より導出された負極柱もしくは負極接続体とからなる負極接続部材を備えた鉛蓄電池において、前記正極格子および前記正極接続部材はSbを含有しない鉛もしくは鉛合金からなり、前記負極格子および前記負極接続部材はSbを含有しない鉛もしくは鉛合金からなり、前記負極活物質はSbを含み、負極活物質中の前記Sbの含有濃度を0.0002〜0.05質量%とし、かつ、微孔を有した袋状セパレータで前記負極板を包み込んだ構成であることを特徴とする鉛蓄電池を示すものである。
【0014】
さらに、本発明の請求項2に係る発明は、請求項1の構成を有する鉛蓄電池において、負極活物質中のSbの含有濃度を0.0004〜0.006質量%としたことを特徴とするものである。
【0015】
そして、本発明の請求項3に係る発明は、請求項1もしくは2の鉛蓄電池において、正極格子はPb−Ca−Sn合金からなり、負極格子はPb−Ca合金からなることを特徴とするものである。
【0016】
さらに、本発明の請求項4に係る発明は、請求項3の鉛蓄電池において、正極格子骨の正極活物質と接する表面の少なくとも一部に正極格子骨よりも高濃度のSnを含む層を形成したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
以上のような、正極板、正極接続部材および負極接続部材にSbを含有せず、負極活物質にSbを微量含有すると共に、微孔性ポリエチレンの袋状のセパレータで前記負極板を包み込んだ本発明の構成によれば、負極耳における腐食を抑制し、優れた寿命特性を有した鉛蓄電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は本発明の鉛蓄電池1を示す破載断面図を示す図である。
【0019】
正極板2は図2に示したように、正極格子耳22と正極格子骨23とで構成される正極格子21に正極活物質24が充填された構成を有している。一方、負極板3は図3に示したように、負極格子耳32と負極格子骨33とで構成される負極格子31に負極活物質34が充填された構成を有している。
【0020】
本発明の鉛蓄電池1は微孔性ポリエチレンの袋状セパレータ4と正極板2および負極板3の所定枚数を組合せ、正極格子耳22および負極格子耳32の同極性の耳部同士を集合溶接してそれぞれ正極棚5および負極棚6が形成される。正極棚5には正極柱7もしくは正極接続体(図示せず)が、負極棚6には負極柱(図示せず)もしくは負極接続体8がそれぞれ形成される。図1に示した例では正極棚5に正極柱7、負極棚6に負極接続体8を設けた例を示しているが、必要に応じ、正極柱7および負極接続体8に換えて、正極接続体および負極柱をそれぞれ正極棚5および負極棚6に接合することとなる。
【0021】
例えば、6セルが直列接続された公称電圧12Vの始動用鉛蓄電池は、一般的に正極端子側から1番目の端セルを構成する極板群においては図1に示したように、正極棚5に正極柱7が接続し、負極棚6には負極接続体8が接続される。また、正極端子側から6番目、すなわち、負極端子側から1番目の端セルを構成する極板群においては正極棚5に正極接続体が接続され、負極棚6には負極柱が接続される。そして、これら端セル間に位置する中間セルを構成する極板群は正極棚5、負極棚6ともに、接続体が接続された構成をとる。
【0022】
本発明では、微孔性の合成樹脂シートからなる袋状セパレータ4は負極板3を包み込んだ形で正極板2との間に介在している。微孔性の合成樹脂シートとして耐酸性を有したポリエチレンシートに電解液透過のための微孔を開孔したものを用いることができる。例えば、シリカ等の多孔質物質を含むことによって、電解液が透過でき、脱落活物質の貫通を抑制できる程度の10μm以下の径を有した細孔を有しているものを用いる。また、ポリエチレン自体の耐酸化性を向上させるため鉱物性オイルを添加することもできる。さらに、微孔性ポリエチレン中のイオン伝導性を向上させる目的でカーボンを添加することもできる。
【0023】
本発明において正極棚5、正極接続体7および/もしくは正極柱で構成される正極接続部材9と正極格子21は含まないPbもしくはPb合金で構成する。Sbを含まないPb合金としては、耐食性や機械的強度を考慮して、0.05〜3.0質量%程度のSnを含むPb−Sn合金や、0.01〜0.10質量%程度のCaを含むPb−Ca合金、あるいはこれらの三元合金(Pb−Ca−Sn合金)を用いることができる。
【0024】
一方、負極に関して、負極棚6、負極接続体8および/もしくは負極極柱で構成される負極接続部材10と、負極格子31を正極と同様、実質上Sbを含まないPbもしくはPb合金で構成する。Sbを含まないPb合金としては、耐食性や機械的強度を考慮して、0.05〜3.0質量%程度のSnを含むPb−Sn合金や、0.01〜0.10質量%程度のCaを含むPb−Ca合金、あるいはこれらの三元合金(Pb−Ca−Sn合金)を用いることができる。また、負極においては、酸化腐食の頻度が低いため、純Pbを用いることもできる。
【0025】
そして、本発明では、負極活物質34中にSbを含むよう構成する。負極活物質中のSb含有濃度は0.0002質量%〜0.05質量%、好ましくは0.0004〜0.006質量%とする。負極活物質中へのSbの添加は負極活物質ペースト中にSbやSbの硫酸塩や酸化物、アンチモン酸塩といったSb化合物を添加することができる。また、負極板にSbを含む電解質、たとえばSbを含む希硫酸電解液に浸漬し、電解めっきにより、負極活物質上にSbを電析させることもできる。
【0026】
上記の極板群を用い、以降は定法に従って極板群が電解液に浸漬された液式鉛蓄電池を組み立てることにより、本発明の鉛蓄電池を得ることができる。なお、本発明では負極活物質中にSbを含むため、制御弁式鉛蓄電池に適用するものではない。
【0027】
上記の本発明の構成を有した鉛蓄電池は、また、負極活物質のみにSbを含むので、正極からのSbが負極に移行することなく、負極耳の腐食を抑制することができる。負極に含まれるSbは負極の過電圧を低下させ、充電受入性を改善し、鉛蓄電池の寿命特性を改善する。
【0028】
一方、深い放電が繰り返されたり、過放電等により、負極電位が貴に移行し、Sbが負極活物質から溶出した場合、負極板を包被する微孔性ポリエチレンの袋状セパレータによって、すみやかにSbが捕捉されるので、従来のように、負極活物質から電解液中に溶出したSbが負極耳に優先的に再析出し、負極耳を腐食させるという現象の発生を抑制する。
【0029】
一方、負極板を微孔性ポリエチレンセパレータの袋状セパレータに包被せず、袋状セパレータに収納する極板を正極板とした場合、負極活物質から溶出したSbがすみやかに袋状セパレータに捕捉されず、負極耳に析出して負極耳を腐食させるため、適切ではない。
【0030】
負極活物質中のSb濃度は、充電受入性を向上させ、寿命特性を改善するという効果を得る上で、0.0002質量%以上とする。特に0.0004質量%以上の領域で極めて顕著に充電受入性を改善できる。一方、過剰なSbの添加は負極での減液を増大させるとともに、寿命性能および負極耳腐食抑制効果が低下するため、少なくとも負極活物質中のSb濃度を0.05質量%以下、好ましくは0.006質量%以下とする。
【0031】
また、本発明においては、Sbを含まない格子合金として0.03〜0.10質量%のCaを含むPb−Ca合金を用いることができる。特に正極においては酸化腐食が進行するため、1.0〜1.8質量%Snを添加することが好ましい。また、0.01〜0.08質量%程度のBaや0.001〜0.05質量%Agといった元素の添加も正極格子の耐久性を向上する上で好ましい。
【0032】
なお、上記の組成の格子体を製造する上で、不純物として含まれる0.001〜0.005質量%程度のBiや溶融鉛合金からのCaの酸化消失を抑制するために0.001〜0.05質量%程度のAlの添加は、本発明の効果を損なうものでなく、許容しうるものである。
【0033】
さらに、本発明において、正極格子骨の正極活物質と接する表面の少なくとも一部に正極格子骨よりも高濃度のSnを含む層を形成することにより、深い放電や過放電での正極の充電受入性を改善し、寿命特性を向上することができる。このSnを含む層はSnによる正極活物質−格子界面での高抵抗層の生成を抑制するものであるから、その効果を得る上で、少なくとも、正極格子母材よりも高濃度のSnを含むことが必要である。例えば、正極格子が1.6質量%のSnを含む場合、少なくとも1.6質量%を超える濃度のSn量とし、3.0〜6.0質量%とする。正極格子母材よりも低濃度とした場合、格子表面のSn濃度はかえって低下するため、好ましくないことは明らかである。
【実施例】
【0034】
以下に示す正極板等の鉛蓄電池部材を作成し、これら部材を組み合わせることにより、本発明例および比較例による電池を作成し、寿命試験を行うことによって負極耳の腐食と電池寿命特性の評価を行った。
【0035】
1)正極板
2種類の正極格子(正極格子A、正極格子B)を作成し、それぞれについて正極活物質を充填することにより、2種類の正極板(正極板A、正極板B)を作成した。正極格子AはPb−Ca−Sn合金を用い、合金組成はPb−0.07質量%Ca−1.3質量%Snである。この合金を段階的に圧延することによって、合金シートとした後に、エキスパンド加工を行って正極格子を形成した。なお、この正極格子A中のSb定量分析を行ったところ、Sb濃度は検出限界(0.0001質量%)未満であった。
【0036】
正極格子Bは正極格子Aにおいて、合金シートのエキスパンド加工を行う部分、すなわち、正極格子骨に相当する部分に合金シート圧延工程でPb−5.0質量%Snの層を10μmの厚みで形成したものである。なお、この正極格子B中のSb定量分析を行ったところ、Sb濃度は検出限界(0.0001質量%)未満であった。
【0037】
鉛粉(金属鉛、一酸化鉛および鉛丹の混合粉体)を水と希硫酸で混練して正極活物質ペーストを作成し、前記した正極格子Aおよび正極格子Bに所定量充填した後、熟成乾燥することによってそれぞれ正極板Aおよび正極板Bを作製した。
【0038】
2)負極板
Pb−0.07質量%Ca−0.25質量%Sn合金を、正極と同様に圧延した後、エキスパンド加工を施して負極格子体を作成した。なお、この正極格子合金中に含まれるSb定量分析を行ったところ、Sb濃度は検出限界(0.0001質量%)未満であった。
【0039】
鉛粉(金属鉛と一酸化鉛の混合粉体)にエキスパンダ(硫酸バリウムおよびリグニン)およびカーボンを添加し、水と希硫酸で混練することにより、負極活物質ペーストを作成した。この負極活物質ペーストを負極格子体に充填し、その後、熟成乾燥することによって負極板を得た。なお、本実施例においては、負極活物質ペースト中にSbを添加し、化成終了状態の負極活物質中のSb濃度をそれぞれ0(検出限界である0.0001質量%未満)、0.0002質量%、0.0004質量%、0.006質量%、0.05質量%および0.1質量%とした負極板を作成した。
【0040】
3)袋状セパレータ
袋状セパレータは、厚さ0.3mmの微孔性ポリエチレン製シートをU字折りし、両側部を熱シールすることにより、上部のみが開口した袋状セパレータを作製した。微孔性ポリエチレン製シートは最大孔径10μmの微孔を有したものを用いた。なお、微孔を形成するために、多孔性シリカを添加したものを用いた。
【0041】
4)正極接続部材用鉛合金および負極接続部材用合金
正極接続部材および負極接続部材用合金として、Pb−2.5質量%Sn合金(合金A)とPb−2.5質量%Sb合金(合金B)を準備した。なお、合金A中のSb定量分析を行ったところ、Sb濃度は検出限界(0.0001質量%)未満であった。
【0042】
上記の正極板、負極板、袋状セパレータおよび正・負極の接続部材用合金を表1および表2に示した組み合わせで用い、1セル当たり正極板5枚と負極板6枚から成る極板群を備えた液式の55D23形の始動用鉛蓄電池(12V48Ah)を作製した。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
表1および表2に示した各々の電池について、課題である負極耳における腐食と減液特性および寿命特性を評価するために、40℃雰囲気中で、25Aで1分間放電、14Vで2分間充電を繰り返すサイクル寿命試験を実施した。この試験条件は、充電状態がほぼ100%で使用されることを想定した、JIS D5301(始動用鉛蓄電池)における軽負荷寿命試験に比較し、放電時間に対する充電時間の比率が低く、より放電が深くなる試験条件である。また、減液が進行して極板上部が電解液から露出した状態を想定するために、電解液を下限水準に減らした状態で試験を行った。そして、前記充放電サイクル2400サイクル毎に300A放電を行い、30秒目の放電電圧が7.2Vを下回った時点を寿命サイクルとし、電池A1の寿命サイクル数に対する百分率を求めた。また、サイクル寿命試験後、電池を分解し、負極耳表面に生成した腐食生成物を除去、負極耳厚みの測定を行い、初期状態の耳厚みに対する試験終了後の耳厚みの比率を百分率で求めた。なお、本寿命試験では許容できる負極耳厚みは初期厚みの70%である。特に車両用の電池においては、走行時の振動や衝撃が電池に加わる。負極耳厚みが薄くなるにつれて、これらの振動衝撃により負極板が上方へずり上がり、正極棚と接触することにより、内部短絡したり、負極耳自体が断裂する危険性がある。これらの振動衝撃に耐え得る最低の負極耳厚みは初期の70%である。
【0046】
負極耳厚みが初期の70%以上、90%未満の領域は物理的な振動衝撃に耐え得る最低限の強度は確保できるものの、耳断面積の減少によって、電圧特性、特に−15℃といった低温領域における急放電時の電圧低下が増大する領域である。したがって、本実施例においては、負極耳厚みは初期の90%以上が好ましい領域となる。さらに、減液速度は、2400サイクル毎の減液量を電池の質量測定より求め、電池A1の減液量に対する百分率として算出した。これらの結果を表3および表4に示した。
【0047】
【表3】

【0048】
【表4】

【0049】
正極および負極の接続部材合金にPb−2.5質量%Sbを用いた比較例の電池は、負極活物質中にSbを添加しなかった、電池A1、電池AS1、電池D1および電池DS1を除き、負極耳厚みが初期の70%未満であり、腐食が顕著に進行していた。腐食の程度は負極板を袋状セパレータに収納した電池の方が、正極板を袋状セパレータに収納した電池に比較して悪化し、減液速度も急激に増大する傾向にあった。寿命に関しては、比較例の電池A1に比較して良好な寿命特性を有するが、負極活物質中のSb含有量が0.1質量%のものは、極端な短寿命となっていた。
【0050】
同様に正極および負極の接続部材合金にSbを含まない、Pb−2.5質量%Snを用いた電池において、負極活物質中にSbを含まない、比較例の電池A1、AS1、B1およびBS1は、負極耳腐食は抑制されるものの、負極活物質中に0.0002〜0.05質量%のSbを含む電池に比較して、寿命サイクル数の面で極めて劣っている。一方、負極活物質中に0.0002〜0.05質量%のSbを含む電池で、負極板を微孔性ポリエチレンの袋状セパレータで包被した本発明例の電池は、正極板を袋状セパレータで包被した比較例の電池に比較して優れた寿命特性を有するとともに、負極耳腐食も顕著に抑制されていた。また、減液速度についても、全くSbを含まない比較例の電池A1、AS1、B1およびBS1よりも数%上昇する傾向にあったが、この程度の上昇は電池の実使用上、全く問題のない範囲である。
【0051】
そして、表3および表4から、電池B1〜B6および、電池BS1〜BS6の比較により、負極活物質中に含有させるSb濃度は0.0002〜0.05質量%の範囲とした本発明例の電池は、減液速度の増加が抑制され、極めて良好な寿命特性を有しつつ、負極耳の腐食も顕著に抑制できることがわかる。また、本発明例の電池において、特にSb濃度を0.0004〜0.006質量%に限定することにより、減液速度抑制効果、サイクル寿命特性改善効果および負極耳腐食抑制効果の面でより顕著な効果を得ることができる。
【0052】
また、本発明例の電池において、正極格子と活物質との界面に正極格子母材に含まれるよりも高濃度である5.0質量%のSnを含む層を形成した正極板Bを用いた電池は、Snを含む層を形成しない、正極板Aを用いた電池に比較して、より良好なサイクル寿命特性を得られるため、最も好ましい構成である。
【0053】
正極や接続体部位にSbを含む構成の電池の場合、負極耳部の腐食メカニズムは次のように推測できる。正極や接続体部位のSbは、電池の使用に伴って溶出して負極に析出するが、極板内でも反応利用度が高いと考えられる上部に多く析出する。特に負極活物質で覆われていない負極棚部や負極格子耳にSbが偏析すると推定される。Sbが偏析した箇所は、電解液面から露出した状態で負極耳表面は薄い液膜に覆われ、pHが増大すると考えられる。その後、pH増大によってPbの溶解が起こりやすくなり、Sb上では水素ガスが発生し、Pb上ではPbが溶解して硫酸鉛が生成する局部電池を形成して、腐食が進行していると推察される。
【0054】
しかしながら、本実施例で示した比較例の電池A1〜A6および電池AS1〜AS6は、正極や接続体部位にSbを含有していない構成にもかかわらず、負極耳部での腐食が進行していた。この理由として、放電の少ない過充電傾向で電池が使われた場合には、負極に含有するSbは負極格子骨または活物質上でほとんど還元状態に置かれるため、安定に存在していると考えられる。
【0055】
一方、頻繁に、または深い放電が繰り返されたり、過放電されるような使われ方の場合、負極は酸化状態または平衡状態に置かれることで、負極のSbが電解液中に溶出して拡散し、負極耳に析出したものと考えられる。ここで、袋状セパレータが正極板を包み込んだ構成の場合、負極から溶出したSbは容易に拡散して負極耳部に析出すると推察され、一方、袋状セパレータが負極板を包み込んだ構成ではSbの拡散が阻害されるため、耳部への偏析がほとんど見られないと考えられる。
【0056】
以上のように、正極格子、負極格子および正・負両極の棚、接続体および極柱等の接続部材にSbを含まず、Sbを負極活物質量に対して0.0002〜0.05質量%、好ましくは0.0006〜0.006質量%とし、微孔性ポリエチレンの袋状のセパレータで前記負極板を包み込んだ構成の鉛蓄電池は、課題である負極耳部における腐食を大幅に抑制し、優れた寿命性能を寄与するものである。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の鉛蓄電池は、長寿命または高信頼性を要求される自動車用電池として有用で、特に頻繁な放電または深い放電が入るアイドリングストップシステムや回生ブレーキシステム搭載車等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】極板群構成を示す一部破載図
【図2】正極板を示す図
【図3】負極板を示す図
【符号の説明】
【0059】
1 鉛蓄電池
2 正極板
3 負極板
4 袋状セパレータ
5 正極棚
6 負極棚
7 正極柱
8 負極接続体
9 正極接続部材
10 負極接続部材
21 正極格子
22 正極格子耳
23 正極格子骨
24 正極活物質
31 負極格子
32 負極格子耳
33 負極格子骨
34 負極活物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極格子耳と負極格子骨とからなる負極格子と負極格子骨に充填された負極活物質を備えた負極板と、正極格子耳と正極格子骨とからなる正極格子と正極格子骨に充填された正極活物質を備えた正極板を有し、正極格子耳を集合溶接する正極棚とこの正極棚より導出された正極柱もしくは正極接続体とからなる正極接続部材と、負極格子耳を集合溶接する負極棚とこの負極棚より導出された負極柱もしくは負極接続体とからなる負極接続部材を備えた鉛蓄電池において、前記正極格子および前記正極接続部材はSbを含有しない鉛もしくは鉛合金からなり、前記負極格子および前記負極接続部材はSbを含有しない鉛もしくは鉛合金からなり、負極活物質はSbを含み、前記負極活物質の前記Sbの含有濃度を0.0002〜0.05質量%とし、かつ、微孔を有した合成樹脂シートからなる袋状セパレータで前記負極板を包み込んだ構成であることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記負極活物質中のSbの含有濃度を0.0004〜0.006質量%としたことを特徴とする請求項1に記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記正極格子はPb−Ca−Sn合金からなり、前記負極格子はPb−Ca合金からなることを特徴とする請求項1もしくは2に記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記正極格子骨の前記正極活物質と接する表面の少なくとも一部に前記正極格子骨よりも高濃度のSnを含む層を形成したことを特徴とする請求項3に記載の鉛蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−114416(P2006−114416A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302594(P2004−302594)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】