説明

銀ミラー

【課題】 本発明の目的は、Ag層の密着性を高めることができ、またAl層とTiO層間の白濁も防止でき、耐環境特性に優れた銀ミラーを提供することにある。
【解決手段】 本発明の銀ミラーは、基板1と、この基板1上に設けられた下部バッファ層2と、この下部バッファ層2上に設けられたNi−Cr合金層からなる金属層3と、この金属層3上に設けられたAg層4と、このAg層4上に形成されたAl層5aとSiO層5bとからなる上部バッファ層5と、この上部バッファ層5のSiO層5b上に設けられたTiO層からなる増反射層6と、を有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプロジェクター、カメラ、顕微鏡、望遠鏡、複写機等の光学装置に使用される反射ミラー、より具体的には銀層を反射膜として有する高反射銀ミラーの耐環境性改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、反射ミラーの反射層としてAg層を有する、いわゆる銀ミラーは、カメラ、複写機、顕微鏡、プリンタあるいはプロジェクター等の各種光学装置に幅広く使用されている。
例えば、銀ミラーがプロジェクターの反射ミラーとして使用されるような場合には、長時間に亘って高温に曝される等、劣悪な条件のもとで使用されることが多い。また梅雨時であれば、湿度の高い状態に長時間曝される恐れもある。そのため、耐温度特性、耐湿性等を含めた耐環境特性に優れ、より耐久性に優れたものが求められている。
【0003】
具体的にその一例として、高温高湿の雰囲気下で長時間使用されても、反射層であるAg層とその上下の層との間の剥離や浮き、あるいはクラック等の欠陥の発生がなく、またAg層自身の酸化等による反射率の低下も起こらないものが求められている。このように耐久性に優れた銀ミラーを得るべく、従来から種々の提案が成されている。
【0004】
例えば、特許文献1や特許文献2には、以下のような銀ミラーの開示が成されている。
前者(特許文献1)に開示されている銀ミラーは、基板上に反射膜であるAg層を有し、このAg層の下層にAl層が形成されていて、このAl層上に形成された前記Ag層上に、さらにまたAl層とTiO層をこの順に設けた構造のものである。
特許文献1における銀ミラーの提案の目的は、基板とAg層間の密着力を高め、また耐腐食性をも向上させようとするものである。
【0005】
一方、後者(特許文献2)には、SiO層あるいはAl層等からなる下部バッファ層とAg層との間に、さらにCrやNi等からなる金属層をバインダ層として介在させて、基板とAg層との密着性を高める技術が既に知られていることも開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−4919号公報
【特許文献2】特開平07−281013号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1に開示されている銀ミラーでは、Ag層の密着性がまだ不充分で、例えばプロジェクターの反射ミラーのように、長時間高温多湿下で使用される反射ミラーとして使用すると、Ag層が酸化して曇りが発生して、反射率が低下する、という問題があった。
またAl層とTiO層の間に白濁が発生し、やはり反射率が低下する、という問題もあった。
【0008】
また上記問題を解決すべく、特許文献2に開示されているように、基板上に形成したAl層とAg層の間にCr層やNi層からなるバインダ層を介在させて、より密着性を高めようとすると以下の問題があることも判ってきた。
すなわち、バインダ層としてCr層を介在させた場合には、Ag層の下層に対する密着性は向上するものの、高温下で、例えば、100℃以上で使用すると、Ag層からなる反射面が黒くなる等、耐環境特性がNi層を介在させた場合よりも劣り、逆にNi層を介在させた場合には、耐環境特性は向上させることができるものの、Cr層を介在させた場合よりも下層に対する密着性が劣る、という問題があることが判ってきた。
【0009】
上記問題に鑑み本発明の目的は、Ag層の密着性を高めることができ、またAl層とTiO層間の白濁も防止でき、耐環境特性に優れた銀ミラーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成すべく本発明の請求項1記載の銀ミラーは、基板と、該基板上に設けられた下部バッファ層と、該下部バッファ層上に設けられたNi−Cr合金層と、該Ni−Cr合金層上に設けられたAg層と、該Ag層上に形成されたAl層と該Al層上に設けられたSiO層とを有する上部バッファ層と、該上部バッファ層の前記SiO層上に設けられたTiO層からなる増反射層と、を有することを特徴とするものである。
【0011】
このようにしてなる銀ミラーによれば、Cr層やNi層単体からなる金属層ではなく、両者の合金層で金属層を形成するため、両者の合金比率を調整することで両者の持つ良好な特性を併せ持つ金属層を容易に形成することができる。
具体的には、CrによるAg層の下層に対する密着性の良さと、Niによる優れた耐環境特性を併せ持つ金属層をAg層の下層に形成することができる。
また、増反射層であるTiO層と上部バッファ層を形成するAl層間に両層と反応し難いSiO層を介在させたことにより、反射率の高いTiO層が上部バッファ層のAl層と反応して白濁して、その反射率が低下するのを防止でき、耐久性にも優れた銀ミラーを得ることができる。
【0012】
また本発明の請求項2記載の銀ミラーは、請求項1記載の銀ミラーにおいて、前記下部バッファ層はAl層を有し、該Al層と前記Ni−Cr合金層が接していることを特徴とするものである。
このようにしてなる銀ミラーによれば、金属層、Ag層の腐食の発生を防止することができる。また基板とNi−Cr合金層との密着性をより高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、Ag層の密着性を高めることができ、またAl層とTiO層間の白濁も防止でき、耐環境特性に優れた銀ミラーを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に図面を用いて本発明の銀ミラーの一実施例を詳細に説明する。
図1は、本発明の銀ミラーの一実施例における薄膜層の構成を示す縦断面模式図である。
【0015】
図1が示すようにこの銀ミラー10は、例えば、ガラスからなる基板1上に、Al層からなる下部バッファ層2を有している。さらにこの下部バッファ層2上にNi−Cr合金層からなる金属層3を有し、この合金製の金属層3上に反射層であるAg層4が形成されている。
そして、このAg層4の上に上部バッファ層5と増反射層6が設けられている。上部バッファ層5は、Ag層4に接しているAl層5aとこのAl層5a上に形成されているSiO層5bとからなっている。そして銀ミラー10の表面に設けられている増反射層6はTiO層からなっていて、前記SiO層5b上に設けられている。
【0016】
本発明の銀ミラー10の特徴の一つは、前述したように下部バッファ層2とAg層4との間にNi−Cr合金層からなる金属層3を介在させたことにある。
このようにNi−Cr合金層を介在させたことにより、例えばCrの合金比率を20%未満、特に1%〜20%にすると、Crの特徴であるAg層4との密着性を引き出すことができ、かつNiを用いた場合の特徴である優れた耐環境特性をも合わせて具現化させることができる。またAg層4の平滑性、緻密性を高めることもできる。
【0017】
さらに本発明の二つ目の特徴は、上部バッファ層5がAl層5aと、このAl層5a上に設けられたSiO層5bとを有していて、このSiO層5b上にTiO層からなる増反射層6が設けられている点にある。
従来のように、Al層5aとTiO層からなる増反射層6とが直接接触していると、特に高温下においては経時的に両層間において反応が生じ、その結果、白濁が発生して反射率が低下する。
しかしながら、この実施例のようにAl層5aと増反射層6との間にSiO層5bを介在させればAl層5aとTiO製の増反射層6との直接的な接触を防止できる。その結果、TiO層からなる増反射層6の経時的な白濁の発生を阻止でき、増反射層6の反射率が経時的に低下するのを効果的に防止することができる。
【0018】
具体的にガラス製の基板1上に以下に示す各層を所定の厚さで形成した。
まず基板1上に下部バッファ層2として厚さ20〜60nmのAl層を、そしてこの上にNi−Cr合金層からなる金属層3を厚さ20〜60nmで形成した。次ぎにこの金属層3上にAg層4を100〜150nm形成した。
さらにこのAg層4上に、順に上部バッファ層5を形成するAl層5aを20〜30nm、SiO層5bを20〜40nm、最後にこのSiO層5b上にTiO層からなる増反射層6を40〜50nmの厚さで形成した。
【0019】
尚、前記金属層3とAg層4とは常温雰囲気下で真空蒸着法により形成し、それ以外の膜層はイオンアシスト法により酸素あるいはアルゴン雰囲気下で形成した。そのため全膜層2〜6を高温雰囲気に加熱することなく、常温下で形成することができる。
このように全膜層を常温雰囲気下で形成できるので、各層が高温雰囲気に曝されることがない。そのため成膜室内を加熱したり冷却したりするのに必要な時間が不要であることから、銀ミラーの製造時間が大幅に短縮できる。また加熱による各膜層の温度劣化を防ぐこともできる。このようにイオンアシスト法(IAD法)で製造したアモルファス誘電体膜で形成した銀ミラーにあっては、銀ミラーの長期信頼性を高めることもできる。
【0020】
ここでAg層4のNi−Cr合金層からなる金属層3との密着性はスコッチテープをAg層4に貼り付け、すばやく剥がす試験を行い、Ag層4の剥離の状況を調べた。また温度特性については、−45℃の状態に30分放置し、また85℃の温度に30分放置するヒートサイクルを24回繰り返し行なうヒートサイクル試験で確認した。また200℃の高温下に1512時間曝す高温暴露試験も行なった。さらには、湿度85%、温度85℃の雰囲気下に168時間曝す高温高湿暴露試験も行った。そして各々の試験後、Ag層4の剥離状況、この銀ミラーの反射率の変化等を調べた。
さらには4.5%の塩水を35℃の状態で銀ミラーのサンプルに48時間スプレーし続けた後(塩霧試験)の銀ミラーの反射率の変化等をも調べた。
その結果、いずれの試験後においても、Ag層4のNi−Cr合金層からなる金属層3との密着性に劣化はほとんど見られなかった。
【0021】
また反射率については、その結果を表1と図2に示す。表1は波長420nm〜680nmまでの間の本発明の実施例における銀ミラーの平均反射率を示している。
【0022】
【表1】

【0023】
表1、図2において、被覆後とは、前記各試験を行なう前の時点での実施例における銀ミラーの反射率を示している。
因みに、図2において、実線は各試験を行なう前の状態の銀ミラーの反射率を、○はヒートサイクル試験後の反射率を、△は高温暴露試験後の反射率を、+は高温高湿暴露試験後の反射率を、そして×は塩霧試験後の反射率を示している。
また図2の横軸は波長(nm)を、縦軸は反射率(%)をそれぞれ示している。
表1、図2が示すように、いずれからも各波長域において、銀ミラーの反射率がほとんど劣化していないことが確認できる。
【0024】
以上に述べた本発明の銀ミラー10によれば、下部バッファ層2とAg層4間に設けたNi−Cr合金層からなる金属層3の存在により、下層に対するAg層4の密着性を高めることができる。また、上部バッファ層5をAl層5aとSiO層5bとで構成したことにより、銀ミラー10の表面に位置する増反射層6とAl層5aとの間の反応を抑えて白濁を防止でき、長期に亘ってTiO層からなる増反射層6が高い反射率を維持可能な優れた銀ミラーを得ることができる。
その結果、銀ミラーの高温特性、高湿特性あるいは耐塩特性等を含む耐環境特性を向上させることができる。
【0025】
尚、上記実施例において、下部バッファ層2としては、基板1と下部バッファ層2を形成しているAl層との間に、例えSiO、TiO層あるいはSiO層といった他の誘電体層を介在させてもよい。
【0026】
以上のように本発明によれば、Ag層の密着性を高めることができ、またAl層とTiO層間の白濁も防止でき、耐環境特性に優れた銀ミラーを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の銀ミラーの一実施例を示す縦断面模式図である。
【図2】各試験後の各波長に対する本発明の銀ミラーの反射率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0028】
1 基板
2 下部バッファ層
3 金属層
4 Ag層
5 上部バッファ層
5a Al
5b SiO
6 増反射層
10 銀ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられた下部バッファ層と、該下部バッファ層上に設けられたNi−Cr合金層と、該Ni−Cr合金層上に設けられたAg層と、該Ag層上に形成されたAl層と該Al層上に設けられたSiO層とを有する上部バッファ層と、該上部バッファ層の前記SiO層上に設けられたTiO層からなる増反射層と、を有することを特徴とする銀ミラー。
【請求項2】
前記下部バッファ層はAl層を有し、該Al層と前記Ni−Cr合金層が接していることを特徴とする請求項1記載の銀ミラー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−147667(P2007−147667A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−337950(P2005−337950)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(300075751)株式会社オプトラン (15)
【Fターム(参考)】