説明

銅粉およびその製造方法、銅ペースト、積層セラミックコンデンサ、並びに銅粉判定方法

【課題】脂肪酸による表面処理において、充填性が向上し銅ペーストに好適な銅粉、これを用いた銅ペースト、積層セラミックコンデンサを提供する。
【解決手段】銅粉を酸性水溶液に分散させたとき、プロトンを引き寄せる官能基が、粒子表面に4.0×1019個/m以上存在し、pH7において官能基に引き寄せられているプロトンが1.0×1019個/m以上の銅粉、当該銅粉を用いた銅ペースト、積層セラミックコンデンサを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅粉およびその製造方法、当該銅粉を用いた銅ペースト、積層セラミックコンデンサ、並びに、当該銅粉等の判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、銅粉は銅ペーストの原料として広く用いられている。また、銅ペーストは、比較的低価格であること、導電性、耐マイグレーションに優れていることから、電子産業用途として広範な領域において用いられている。そして当該広範な領域において用いられていることに起因して、当該銅ペーストおよびその原料である銅粉には、様々な要求がある。
例えば、積層セラミックコンデンサに用いられる銅ペースト用の銅粉について要求される特性としては、粒子径が揃っていること、凝集体を含まないまたは凝集度が低いこと、銅ペースト中での充填性が高いこと、等が挙げられる。
【0003】
この銅ペースト中での充填性に関連して、表面処理を施した銅粉は無垢の銅粉と比較して表面の滑りが改善され、銅ペースト中での充填性が向上する効果があることが知られている。そして、銅ペースト中での充填性を向上させ、かつ、銅粉表面の酸化を防止するため、各種の脂肪酸で表面処理を施した銅粉が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−332502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討によると、銅粉の表面を脂肪酸で処理したとしても、当該銅粉の銅ペースト中における充填性の指標となるタップ密度の増加率(表面処理銅粉
のタップ密度/無垢銅粉のタップ密度)が、狙い通り向上しないという課題が存在した。
ここで、本発明者らは、当該銅粉へ表面処理を行ったにも拘わらず、タップ密度の増加率が狙い通り向上しない原因について研究を行った。そして、当該銅粉への表面処理において、現実の脂肪酸付着率が狙いの脂肪酸付着率より低い為、タップ密度の増加率が狙い通り向上しないことに想到した。
【0006】
本発明は、このような状況下でなされたものであり、その解決しようとする課題は、対象となる銅粉の現実の脂肪酸付着率を、客観的に評価する銅粉判定方法を提供し、そして、当該銅粉判定方法を用いて、狙い通りの脂肪酸付着率を有する銅粉を提供すること、さらに、当該銅粉を用いた銅ペースト、積層セラミックコンデンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本件発明者等は、脂肪酸が銅粉へ付着するメカニズムを鋭意研究した。そして、当該研究の結果、銅粉表面に存在する官能基とその状態が、脂肪酸の付着率、および当該脂肪酸の付着に起因する銅粉の充填性向上に大きな影響を与えることを見出した。そして本件発明者等は当該知見に基づき、酸性水溶液中に銅粉を投入した後、当該酸性水溶液をアルカリ性試薬で滴定し、各pHにおける銅粉表面の表面官能基に引き寄せられているプロトン個数を算出することで脂肪酸による表面処理に好適な銅粉か否かを判定するという、銅粉判定方法に想到した。
【0008】
次に、本発明者らは、上述した銅粉判定方法を用い、対象とする銅粉が、狙い通りの脂
肪酸付着率を示す構成の研究を鋭意おこなった。そして、当該研究の結果、対象とする銅粉が、狙い通りの脂肪酸付着率を示す構成が、当該対象とする銅粉を酸性水溶液に分散させたとき、酸性水溶液中のプロトンを引き寄せる性質を持つ官能基が、当該銅粉表面に4.0×1019個/m以上存在しており、且つ、当該酸性水溶液をpH7の水溶液としたとき、前記官能基に引き寄せられているプロトンが1.0×1019個/m以上であることに想到し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、課題を解決するための第1の発明は、
酸性水溶液に分散させたとき、当該酸性水溶液中のプロトンを引き寄せる性質を持つ官能基が表面に4.0×1019個/m以上存在し、且つ、当該酸性水溶液をpH7の水溶液としたとき、当該官能基に引き寄せられているプロトンが1.0×1019個/m以上であることを特徴とする銅粉である。
【0010】
第2の発明は、
表面が脂肪酸で表面修飾されていることを特徴とする第1の発明に記載の銅粉である。
【0011】
第3の発明は、
99.9%以上の硝酸銅水溶液に錯化剤を混合した水溶液に水酸化アルカリを加えて水酸化銅を生成させ工程と、
当該水酸化銅を生成した溶液中へ、純水で希釈したヒドラジンを加えて酸化第一銅のスラリーを得る工程と、
当該スラリーにヒドラジンを加えて銅粉を得る工程と、
当該銅粉を濾過水洗処理の後、乾燥処理を施す工程とを有し、
当該銅粉の濾過水洗処理において、水洗水と濾液との電気電導度が同等の値となる迄、当該濾過水洗処理を行うことを特徴とする銅粉の製造方法である。
【0012】
第4の発明は、
第1または第2の発明に記載の銅粉を用いて製造したことを特徴とする銅ペーストである。
【0013】
第5の発明は、
第1または第2の発明に記載の銅粉を用いて製造したことを特徴とする積層セラミックコンデンサである。
【0014】
第6の発明は、
酸性水溶液中に銅粉を投入した後、当該酸性水溶液をアルカリ性試薬で滴定し、各pHにおける銅粉表面の表面官能基に引き寄せられているプロトン個数を算出することで、脂肪酸による表面処理に好適な銅粉か否かを判定することを特徴とする銅粉判定方法である。
【0015】
第7の発明は、
銅粉を投入した前記酸性水溶液を前記アルカリ性試薬で滴定し、当該酸性水溶液をpH7の水溶液としたとき、前記官能基に引き寄せられているプロトンが1.0×1019個/m以上であるときに、当該銅粉は脂肪酸による表面処理に好適な銅粉であると判定することを特徴とする第6の発明に記載の銅粉判定方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る銅粉は、脂肪酸による表面処理を行った際、脂肪酸の付着率が高いため、銅ペーストへの充填性を高めることが出来る。また、本発明に係る銅粉判定方法によれば、脂肪酸による表面処理に好適な銅粉を判定することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
1.脂肪酸による表面処理に好適な銅粉の判定方法
本発明者らの検討によると、銅粉表面にはプロトンを引き寄せる性質を持つ官能基が存在しており、当該官能基の数は、当該銅粉を分散している水溶液のpHにより変化する。そして、当該銅粉を分散している水溶液のpHが7のときの官能基数が、1.2×1019個/m以上であることが好ましく、1.5×1019個/m以上であることがより好ましい。
【0018】
図1の(A)に示すように、銅粉表面には酸化銅膜があり、銅原子と酸素原子とが結びついているような状態になっている。そして、一部の銅原子には、水溶液中のプロトンを引き寄せる性質を持つ、例えば水酸基のような表面官能基(Er)が結合していると考えられる。当該銅粉を、ある一定の酸性側pHに調整した水溶液中と混合した際、当該銅粉表面に存在する表面官能基(Er)が、当該水溶液中のプロトンを引き寄せる(図1の(B)参照)。この結果、当該水溶液のpHは、銅粉混合前と比較してアルカリ側に移動する。そうであるなら、銅粉混合前と混合後のpHの変化より、表面官能基(Er)に引き寄せられたプロトンの数を算出することができ、当該算出されたプロトンの数が、銅粉表面に存在する表面官能基(Er)の個数ということができる。
【0019】
一方、前記銅粉混合後の水溶液へ、今度はアルカリ性試薬を添加していくと、当該水溶液中に存在するプロトンおよび銅粉表面に存在する表面官能基(Er)に引き寄せられていたプロトンは、添加されたアルカリ性試薬と反応することで消費されていく。従って、当該アルカリ性試薬添加に伴うpH変化から、各pHにおける銅粉表面に存在する表面官能基(Er)に引き寄せられているプロトンの数を算出することができる。
【0020】
ここで、プロトンが銅粉表面の表面官能基(Er)に弱く引き寄せられている場合、滴定されたアルカリ性試薬が当該水溶液中のプロトンと反応するのと同様に、銅粉表面の表面官能基に引き寄せられていたプロトンを引き剥がして反応し、OH+H→HOとなる(図1の(C)参照)。このため、水溶液中のプロトン数は、アルカリ性試薬の添加量に対してpHの変化はブランクに近い動きを取る。なお、ここでいうブランクとは銅粉を混合しない酸性水溶液をアルカリ性試薬で滴定した場合の滴定曲線のことをいう。
【0021】
逆に、プロトンが銅粉表面の表面官能基(Er)に強く引き寄せられている場合、滴定されたアルカリ性試薬が銅粉表面の表面官能基(Er)に引き寄せられているプロトンを引き剥がす量が減少する。このため、殆どのアルカリ性試薬は水溶液中のプロトンと反応することとなり、ブランクよりも少ない滴定量で、当該水溶液のpHが変化することとなる。
【0022】
以上、詳述したように、アルカリ性試薬滴定量とpHの関係、および、各pHでの銅粉表面の表面官能基(Er)に引き寄せられているプロトン個数の関係を測定することにより、銅粉表面にある表面官能基(Er)の個数及び活性の強さを判断することができる。
【0023】
つまり、アルカリ性試薬の滴定量に対するpHの変化が早い場合、および、各pHでの銅粉表面の表面官能基(Er)に引き寄せられているプロトン個数が多い場合、銅粉表面の表面官能基(Er)の活性は強いと考えることができる。そして、当該活性の強い表面官能基(Er)は、脂肪酸とも結合しやすいと判断することができる。なお、ここでいう銅粉表面の表面官能基(Er)の活性とは、表面官能基(Er)が他元素又は化合物の電荷を引き寄せる力の強さのことをいう。
【0024】
2.脂肪酸による表面処理に好適な銅粉
上記1.で説明したことから明らかなように、脂肪酸による表面処理に好適な銅粉は、銅粉表面の表面官能基(Er)の数が多く、その活性の強い銅粉であると考えることができる。
本発明者らの研究によれば脂肪酸による表面処理に好適な銅粉の具体的な特性は、酸性水溶液に分散させたとき、当該酸性水溶液中のプロトンを引き寄せる性質を持つ官能基が表面に4.0×1019個/m以上存在し、且つ、当該酸性水溶液をpH7の水溶液としたとき、当該官能基に引き寄せられているプロトンが1.0×1019個/m以上であることである。そして、脂肪酸による表面処理に好適な銅粉は、脂肪酸の銅粉への付着率が高いため、当該表面処理による銅粉のタップ密度の増加率が大きくなる。このため、銅ペースト中への銅粉の充填性が向上し、銅ペースト用銅粉として好適なものである。
【0025】
ここでいう脂肪酸とは、飽和脂肪酸及び不飽和脂肪酸であり、飽和脂肪酸としては、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸等を用いることができる。また、不飽和脂肪酸としては、アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、エライジン酸、セトレイン酸、ブラシジン酸、エルカ酸、ソルビン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
尤も、例えば銅粉表面にNa等の不純物イオンが存在した場合、銅粉表面の表面官能基表面官能基(Er)の電荷を引き寄せる力の一部がNa等の引き寄せに使われるため、当該銅粉を脂肪酸等で表面処理した場合に、脂肪酸と銅粉表面の表面官能基(Er)との結合が起こり難くなるか、または、弱くなると考えられる。このような不純物としては、Na以外にも、アルカリ金属イオンが考えられ、Li、Na、Kが挙げられる。
【0026】
3.脂肪酸による表面処理に好適な銅粉の製造方法
本発明に係る銅粉の好ましい製造方法の1例について説明する。
まず、99.9%以上の硝酸銅水溶液に錯化剤を混合した水溶液に水酸化アルカリを加えて水酸化銅を生成させる。ここで、99.9%以上の硝酸銅水溶液を使用するのは、上述した、脂肪酸と銅粉表面の表面官能基(Er)との結合を妨害する不純物であるアルカリ金属イオンの混入が少ないと考えられるからである。
次いで、当該水酸化銅を生成した溶液中へ、純水で希釈したヒドラジン系還元剤を加えて酸化第一銅のスラリーを得る。当該スラリーにヒドラジン系還元剤を加えて銅粉を生成させ、当該銅粉を濾過水洗処理の後、乾燥処理を施すことで得られる。
【0027】
上記の濾過水洗の方法としては、フィルタープレス等により粉体を固定した状態で水洗する方法や、スラリーをデカントし、その上澄み液を除去後に純水を加えて攪拌し、その後またデカントして上澄み液を除去する操作を繰り返し行う方法でも、濾過後の銅粉をリパルプした後に再度濾過する操作を繰り返し行う方法でも良い。濾過水洗の方法に限定はないが、銅粉体中に局所的に残留している不純物をできる限り除去することが好ましい。濾過水洗を十分に行うことにより、銅粉乾燥処理中の凝集を防止する効果や、銅粉表面のアルカリ金属イオンを始めとする不純物の除去、表面官能基(Er)の活性度合いを高めることが出来る。この結果、脂肪酸を用いて銅粉の表面処理した際、銅粉への脂肪酸付着率を高める効果があると考えられる。
【0028】
なお、銅粉の粒子径制御については、水酸化アルカリの添加量や錯化剤の添加量、酸化第一銅生成時の純水で希釈したヒドラジン系還元剤の添加速度や還元反応時のヒドラジン系還元剤の添加速度、添加温度、昇温後の保持温度等を適宣調整することにより行うことができる。
【0029】
3.脂肪酸による銅粉の表面処理方法
本発明に係る銅粉表面にある表面官能基(Er)の個数は多く活性も強い。そこで、脂肪酸による銅粉の表面処理方法は、本発明に係る銅粉と脂肪酸を含む溶液とを接触させて、銅粉の表面に脂肪酸を吸着させた後、固液分離し乾燥処理を施すことで作製出来る。このとき、本発明に係る銅粉と脂肪酸を含む溶液とを接触させる方法としては、所定時間攪拌することで銅粉表面に脂肪酸を吸着させる方法でも、所定時間当該溶液中に銅粉を浸漬させる方法でも良く、その接触方法に限定はない。
【0030】
4.本発明に係る表面処理銅粉による銅ペースト、積層セラミックコンデンサの製造
本発明に係る表面処理銅粉を、適宜なバインダーおよび溶剤と混練することで、本発明に係る内部電極用の銅ペーストを製造することが出来る。
さらに、本発明に係る表面処理銅粉を、適宜なバインダー、溶剤、ガラス粉末、および有機ビヒクル等と混練することで、本発明に係る外部電極用の銅ペーストを製造することが出来る。
【0031】
次に、本発明に係る銅ペーストを、チタン酸バリウム系セラミックなどの誘電体セラミックグリーンシート上へ、内部電極用導電性ペーストを所定のパターンで印刷する。このシートを複数積み重ね、圧着して、セラミックグリーンシートと銅ペースト層とが交互に積層された未焼成の積層体を得る。この積層体を所定の形状のチップに切断した後、高温で同時焼成して、積層セラミックコンデンサの素体を得る。
次いで、素体の内部電極の露出する端面に、外部電極用の導電性ペーストを塗布し、乾燥した後、高温で焼成することにより外部電極が形成される。この後、外部電極には、必要に応じて、ニッケル、スズなどのめっき層が、電気めっき等により形成され、積層セラミックコンデンサが製造される。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明する。
なお、実施例においては、銅粉の表面処理剤としてステアリン酸を用いた場合を例として示した。当業界での使用量が多く、当業者間での信頼性が高いからである。また、ステアリン酸の付着率としては、銅粉中に含まれる炭素量を測定することで算出した。
【0033】
(実施例1)
(1)銅粉の製造
99.9%以上の硝酸銅(三水塩)220kgとクエン酸17kgとを純水に溶解して480Lの水溶液とした。この水溶液に18.5質量%水酸化ナトリウム水溶液220Lを添加し、水酸化銅を生成させ、そこに純水で希釈したヒドラジン水溶液150Lを添加して酸化第一銅のスラリーを生成させた。この酸化第一銅スラリーを50℃に維持しながら、さらに、ヒドラジン水溶液を21.4L添加した後、90℃に昇温して保持することによって、銅粉スラリーを生成させた。この銅粉スラリーを濾過水洗処理した後、乾燥処理を行った。なお、当該水洗処理の終了判断は、水洗水と濾液との電気電導度が同等の値となる迄とした。
【0034】
(2)銅粉の表面官能基(Er)個数の測定
1.ブランクの滴定
pHを3に調整した硝酸水溶液100mLを0.1mol/Lの水酸化カリウム溶液で滴定し、その滴定曲線をブランクとした。当該滴定曲線を図2に、細実線で記載する。
【0035】
2.表面官能基(Er)個数の算出
上記(銅粉の製造)で得られた銅粉5gを、pHを3に調整した硝酸水溶液100mL中に投入した。投入後の溶液pHを測定し、投入前後のpH差から下記の式を用いて表面
官能基に引き寄せられたプロトン個数を算出し、その値を銅粉の表面官能基(Er)個数とした。
【0036】
ここで、定義よりpH3のときの[H]は、10−3、銅粉投入時の[H]は、10−銅粉投入時のpH値、アヴォガドロ数=6.02×1023である。
従って、官能基個数[個/m
=[(10−3)−(10−銅粉投入時のpH値)]/[測定サンプル量(g)×BET比表面積(m/g)×(6.02×1023)]
≧4.0×1019個/mとなる。
【0037】
3.各pHにおいて銅粉表面官能基(Er)に引き寄せられているプロトン個数の算出
上記で得られた銅粉を混合した硝酸水溶液へ0.1mol/Lの水酸化カリウム溶液で滴定し、ブランク時のpHとの差から各pHにおいて銅粉表面の官能基に引き寄せられているプロトンの個数を下記の式より算出した。当該滴定曲線を図2に、*のプロットで記載し、プロトンの個数を図3に記載する。但し、図3は、縦軸にプロトンの個数、横軸にpHをとったグラフであり、プロトンの個数を*のプロットで記載した。
【0038】
ここで、
ある滴定量でのブランク液の[H]は、10−ある滴定量でのブランクpH値
ある滴定量でのサンプル液の[H]は、10−ある滴定量でのサンプルpH値
である。
従って、各pHにおける官能基に引き寄せられているプロトン個数[個/m
=[(10−ある滴定量でのブランクpH値)−(10−ある滴定量でのサンプルpH値)]/[測定サンプル量(g)×BET比表面積(m/g)×(6.02×1023)]
≧1.0×1019個/m(pH7のとき)となる。
【0039】
実施例1の銅粉試料を測定した結果、表面官能基(Er)個数は、6.02×1019個/mであり、pH7のとき銅粉表面の表面官能基(Er)に引き寄せられているプロトン個数は、1.30×1019個/mであった。
【0040】
4.表面処理
乾燥後の銅粉1kgを、ステアリン酸2.5gを溶解させたイソプロピルアルコール2.5L中に投入し、充分に攪拌した。その後、濾過処理と乾燥処理を行って、ステアリン酸で表面処理された実施例1に係る表面処理銅粉を得た。
【0041】
以上、水洗処理の際の水洗水量、表面官能基個数、pH7におけるプロトン個数、ステアリン酸付着率(付着量/理論量)、タップ密度(表面処理前、表面処理後、増加率(表面処理後/表面処理前))の値を、一覧表の表1に記載した。以降、実施例2、比較例1、2も同様である。
【0042】
(実施例2)
水洗処理の際に、銅粉スラリーをデカントして上澄み液を除去した後、純水を加えて再度デカントして上澄み液を除去する操作を複数回繰り返して水洗処理を行うこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
実施例2に係る表面処理前の試料を測定した結果、表面官能基個数は、6.19×1019個/mであり、pH7時の銅粉表面の表面官能基に引き寄せられているプロトン個数は、1.49×1019個/mであった。
但し、当該滴定曲線を図2に、太実線で記載し、プロトンの個数を図3に細実線で記載した。
【0043】
(比較例1)
銅原料として99%の硝酸銅(三水塩)を用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
比較例1に係る表面処理前の試料を測定した結果、表面官能基個数は、10×1019個/mであり、pH7時の銅粉表面の表面官能基に引き寄せられているプロトン個数は、6.76×1018個/mであった。
但し、当該滴定曲線を図2に、△のプロットで記載し、プロトンの個数を図3に△のプロットで記載した。
【0044】
(比較例2)
銅原料として99%の硝酸銅(三水塩)を用いること以外は実施例2と同様の操作を行った。
比較例2に係る表面処理前の試料を測定した結果、表面官能基個数は、4.75×1019個/mであり、pH7時の銅粉表面の表面官能基に引き寄せられているプロトン個数は、6.75×1018個/mであった。
但し、当該滴定曲線を図2に、○のプロットで記載し、プロトンの個数を図3に○のプロットで記載した。
【0045】
【表1】

【0046】
(まとめ)
実施例1および2に係る銅粉は、脂肪酸表面処理時のpHであるpH7のときに、銅粉表面の表面官能基に引き寄せられているプロトン個数が、それぞれ、1.30×1019、1.49×1019である。従って、本発明に係る銅粉判定方法によれば、当該実施例1および2に係る銅粉は、脂肪酸による表面処理に好適な銅粉であると判定された。
これに対し、比較例1および2に係る銅粉は、脂肪酸表面処理時のpHであるpH7のときに、銅粉表面の表面官能基に引き寄せられているプロトン個数が、いずれも、6.76×1018である。従って、本発明に係る銅粉判定方法によれば、当該比較例1および2に係る銅粉は、脂肪酸による表面処理に好適な銅粉であるとは、判定されなかった。
【0047】
実施例1および2に係る銅粉が、脂肪酸による表面処理に好適な銅粉であると判定されたのは、原料として高純度の硝酸銅(三水塩)を用い、これをヒドラジン水溶液で還元した為であると考えられる。このようにして製造された銅粉は、粉体に含まれるアルカリ金属濃度が少ないからであると考えられる。事実、表2に示した、銅粉スラリーを濾過水洗処理する際における、濾液の電気電導度が水洗水と同等となるまでに要する水洗量も、比較例1および2に較べて少ない。
【0048】
一方、比較例1および2のように低純度の銅原料を用いた場合、原料中に含まれるアル
カリ金属濃度が高い。この為、当該アルカリ金属が、銅粉を製造する反応過程において、銅粉内部へ不純物として取り込まれたり、表面近傍に不純物として含まれる確率が高くなる。この結果、銅粉表面の表面官能基が電荷を引き寄せる力が銅粉表面近傍のアルカリ金属にも働き、その結果プロトンを引き寄せる力が軽減したものと考えられる。
【0049】
ここで、実施例1および2に係る銅粉のステアリン酸付着率(付着量/理論量)を見てみると、それぞれ、84.2%、78.9%であって、狙い通りの脂肪酸付着率を示すことが判明した。
次に、実施例1および2に係る銅粉のタップ密度の増加率を見ると、それぞれ、128%、120%であって、狙い通りの脂肪酸付着率を示したことにより、タップ密度が十分に向上したことが判明した。
【0050】
一方、比較例1および2に係る銅粉のステアリン酸付着率(付着量/理論量)を見てみると、それぞれ、37.9%、54.7%であって、狙い通りの脂肪酸付着率を示さないことが判明した。
次に、比較例1および2に係る銅粉のタップ密度の増加率を見ると、それぞれ、109%、108%であって、狙い通りの脂肪酸付着率を示していないことにより、タップ密度の向上も不足している判明した。
【0051】
以上、実施例1、2および比較例1、2の結果より、本発明に係る脂肪酸による表面処理に好適な銅粉の判定方法が妥当な判定方法であることが判明した。そして、当該判定方法で好適な銅粉と判定された本発明に係る銅粉は、脂肪酸による表面処理によりタップ密度が十分に向上した。
ここで、一般的に粉体のタップ密度が高くなると、当該粉体により形成される膜の乾燥膜密度が高くなる。従って、本発明に係る銅粉が、銅ペーストや、積層セラミックコンデンサの製造に適したものであることも判明した。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】銅粉表面における表面官能基(Er)の概念図である。
【図2】ブランクおよび銅粉の滴定曲線である。
【図3】各pHにおいて、表面官能基(Er)に引き寄せられているプロトン個数を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性水溶液に分散させたとき、当該酸性水溶液中のプロトンを引き寄せる性質を持つ官能基が表面に4.0×1019個/m以上存在し、且つ、当該酸性水溶液をpH7の水溶液としたとき、当該官能基に引き寄せられているプロトンが1.0×1019個/m以上であることを特徴とする銅粉。
【請求項2】
表面が脂肪酸で表面修飾されていることを特徴とする請求項1に記載の銅粉。
【請求項3】
99.9%以上の硝酸銅水溶液に錯化剤を混合した水溶液に水酸化アルカリを加えて水酸化銅を生成させ工程と、
当該水酸化銅を生成した溶液中へ、純水で希釈したヒドラジンを加えて酸化第一銅のスラリーを得る工程と、
当該スラリーにヒドラジンを加えて銅粉を得る工程と、
当該銅粉を濾過水洗処理の後、乾燥処理を施す工程とを有し、
当該銅粉の濾過水洗処理において、水洗水と濾液との電気電導度が同等の値となる迄、当該濾過水洗処理を行うことを特徴とする銅粉の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の銅粉を用いて製造したことを特徴とする銅ペースト。
【請求項5】
請求項1または2に記載の銅粉を用いて製造したことを特徴とする積層セラミックコンデンサ。
【請求項6】
酸性水溶液中に銅粉を投入した後、当該酸性水溶液をアルカリ性試薬で滴定し、各pHにおける銅粉表面の表面官能基に引き寄せられているプロトン個数を算出することで、脂肪酸による表面処理に好適な銅粉か否かを判定することを特徴とする銅粉判定方法。
【請求項7】
銅粉を投入した前記酸性水溶液を前記アルカリ性試薬で滴定し、当該酸性水溶液をpH7の水溶液としたとき、前記官能基に引き寄せられているプロトンが1.0×1019個/m以上であるときに、当該銅粉は脂肪酸による表面処理に好適な銅粉であると判定することを特徴とする請求項6に記載の銅粉判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−84614(P2009−84614A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−253781(P2007−253781)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】