説明

鋼帯上におけるカーボンナノチューブ(CNT)及びファイバー(CNF)の直接低温成長方法

本発明は、鋼帯上におけるカーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバーの直接低温成長方法及びその方法により得られる基材に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
カーボンナノチューブ及びカーボンナノファイバー(以下、CNT/CNFと略記する)は、直径が数ナノメートルのオーダーにあり、縦横比が10〜1000である小円筒形構造を有する。CNT/CNFは、各炭素原子が3個の隣接する炭素原子と組み合わされたハニカム状六角形パターンを有する。また、CNT/CNFは、それらの構造に応じて導体、例えば金属、又は半導体として機能することができ、これらCNT/CNFの応用分野は広範囲であると期待される。CNT/CNFは、さらに魅力的な特性、例えば低密度、高強度、高靱性、高フレキシブル性、高表面積及び優れた導電性、を有する。残念ながら、CNT/CNFの製造はそう簡単ではない。
【背景技術】
【0002】
CNT/CNFを大規模に合成するために、炭化水素を使用する放電、レーザーデポジション、及び化学蒸着が広く使用されている。特に、放電技術は、炭素電極を使用するアーク放電によりCNT/CNFを成長させる。レーザーデポジション法は、レーザー光でグラファイトを照射することにより、CNT/CNFを合成する。しかし、これらの2方法は、CNT/CNFの直径及び長さ、及び炭素質材料の構造を制御するには不適切である。従って、CNT/CNFを合成する際に優れた結晶性構造を得ることが困難である。さらに、大量の無定形炭素の塊も同時に製造されるので、CNT/CNFの合成後に複雑な精製がさらに必要になり、製法が複雑になる。これらの方法のもう一つの欠点は、CNT/CNFを比較的広い面積にわたって合成するのが不可能なことである。従って、これらの方法は、様々な装置に応用することができない。プラズマCVDによりCNT/CNFを合成する方法は、CNT/CNFがプラズマ衝撃により損傷を受けることがあり、比較的大きな基材上にCNT/CNFを合成するのが困難なので、魅力的ではない。
【発明の概要】
【0003】
本発明の目的は、鋼基材上でCNT/CNFを成長させる簡便な方法を提供することである。
【0004】
本発明の目的は、鋼基材上に耐食性被覆を製造する方法を提供することである。
【0005】
鋼基材上にカーボンナノチューブ及び/又はナノファイバーの密着性被覆を製造する方法を提供することも本発明の目的である。
【0006】
第一の態様によれば、これらの目的の少なくとも一つは、炭素鋼又は低合金鋼帯基材の一方又は両方の表面上にカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバー(CNT/CNF)の密着性被覆を直接低温成長させる方法であって、
‐所望により金属性被覆を備えた、鋼基材を用意し、
‐水素を含んでなる炭素供給源ガスを使用し、熱的化学蒸着(CVD)製法により、温度500〜750℃、好ましくは600〜750℃で、該基材の表面上にCNT/CNFを成長させ、
‐その際、該CNT/CNFの成長に触媒作用させるための触媒を加えず、該CNT/CNFの成長が、該基材及び/又は該金属性被覆中に存在する鉄、ニッケル及び/又はクロムによる触媒作用を受ける
工程を含んでなる、方法を提供することにより、達成される。
【0007】
本発明者らは、炭素含有供給源ガス、例えばオレフィンガス又は低分子量油、を使用することにより、CNT/CNFの層が、該鋼基材上にCVDにより低温で成長し得ることを見出した。触媒、例えば鉄、のナノ粒子は、CNT/CNFの先端及び/又は底部に見られた。CNT/CNFは、反応条件に応じて30〜120nmの直径を有していた。これらのCNT/CNFの鋼基材に対する密着性は非常に強いことが立証された。1〜60μmの層厚を達成することができた。CNT/CNFは、二方向成長ならびに先端成長を示す。基材として使用する鋼は、1.炭素鋼又は2.好ましくは7%以下の非鉄元素、好ましくは4%以下の非鉄元素を含む低合金鋼である。SAE方式では、カテゴリー1.及び2.の鋼は4桁の数で示され、第一桁は主要合金化元素を示し、第二桁は二次的合金化元素を示し、最後の2桁は炭素の量を100分の1重量%で示す。例えば、1060鋼は、0.60重量%のCを含む普通炭素鋼である。鋼基材は、ステンレス鋼ではない。SAE表示では、ステンレス鋼等級は3桁の数で指定され、所望によりその後に一つ以上の文字が続く。基材は、好ましくは帯、板(シート)又は箔の形態で用意する。基材は、CNT/CNF被覆を堆積させる前に清浄にする、及び/又は酸化物を除去する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の一実施態様では、鋼基材から来る鉄がCNT/CNFの成長に触媒作用する。驚くべきことに、鋼基材上にCNT/CNFの層を形成するこの製法は、触媒として鉄を添加しなくてもCNT/CNFの層を形成した。しかし、この場合でも、電子顕微鏡により、CNT/CNFの先端及び/又は底部にも鉄のナノ粒子が確認され、鋼基材を起源とする鉄粒子により触媒作用の効果が得られることが結論付けられた。
【0009】
本発明の一実施態様では、炭素含有供給源ガスが、アセチレン、エチレン、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素又は低分子量脂肪油の一種以上を含んでなる。これらの炭素含有供給源を使用することにより、基材上にCNT/CNFの良好な層が形成されることが分かった。好ましい実施態様では、炭素供給源ガスは、好ましくは約30:60:10の体積比にある水素、一酸化炭素及び二酸化炭素からなる。実験により、44〜65体積%CO:26〜5体積%CO:30体積%Hの混合物が優れた結果及び成長速度を与えることが分かった。この混合物で、COとCOの比を約2:1〜8:1の比に維持しながら、水素含有量を25〜35%に変えても、良好な結果が得られた。従って、CO:H混合物に二酸化炭素を加えることにより、驚くべき結果が得られた。
【0010】
本発明の一実施態様では、CNT/CNFを基材表面上に温度600〜750℃で成長させる。鉄の触媒作用効果のために、処理温度を低く維持することができる。600〜750℃の範囲は、良好な温度範囲と考えられ、CNT/CNFの良好な層を信頼性良く、経済的に形成した。より好ましい温度範囲は、600〜700℃である。より好ましい最高温度は695℃である。
【0011】
本発明の一実施態様では、鋼基材は、高強度鋼(HSS)、改良HSS、ホウ素含有鋼、超HSS又は複合相鋼であり、好ましくは0.01〜1%のC、0.15〜2%のMn、0.005〜2%のSi、0.01〜1.5%のAl、10〜200ppmのN、最大0.015%のP、最大0.15%のS、所望により0.01〜0.1%のNb、0.002〜0.15%のTi、0.02〜0.2%のV、10〜60ppmのBの一種以上、並びに残部鉄及び不可避不純物を含んでなる。
【0012】
本発明の好ましい実施態様では、鋼基材が、該基材の一方又は両方の表面上にCNT/CNFを成長させる前に、ニッケル、ニッケル−クロム又はクロムめっき層若しくは亜鉛合金層を備える。
【0013】
本発明の好ましい実施態様では、本発明により基材上にCNT/CNFの層をその場で形成することにより、鋼帯基材上に耐食性被覆を形成する方法であって、該CNT/CNFの層に重合体被覆を施す、方法を提供する。好ましい実施態様では、重合体被覆はポリ−イミド(PI)系の被覆である。重合体層を伴うCNT/CNFの厚さは1μm〜60μmでよく、0.2〜0.5重量%損失で300〜550℃の耐熱性を与える。
【0014】
CNT/CNFの密着性被覆に重合体被覆を施すことにより、CNT/CNF層の特性が保持される。重合体被覆は、CNT/CNF被覆された基材をさらに腐食から保護する。ポリ−イミド系被覆は、熱的安定性、良好な耐薬品性、優れた機械的特性及び絶縁特性を有することが分かっている。しかし、これら重合体の鋼基材に対する密着性には問題がある。上に説明したように鋼基材上にCNT/CNFの層を先ず施し、続いて該CNT/CNF層にポリ−イミド系被覆を施すことにより、PIのCNT/CNF層に対する密着性ならびにCNT/CNF層の鋼基材に対する密着性が優れているので、ポリ−イミド系被覆の鋼基材に対する密着性がはるかに改良される。鋼の表面上にあるCNT/CNFは、密着させるべきポリ−イミド系被覆又は他のいずれかの重合体被覆に、大きな界面表面積を創出する。CNT/CNFと重合体の間の類似性は、その濡れ性及び相容性を増加させるので、微小亀裂形成及びその伝播が抑制される。試験により、優れたCNT/CNF−PI被覆された鋼基材及びCNT/CNF−重合体被覆された鋼基材が形成されることが分かっている。この製品は、CNT/CNFが重合体、例えばポリ−イミド系被覆、のに分散している複合材料に対する良好な代替品である。CNT/CNFの重合体中への分散が困難であることは良く知られており、分散不良につながるCNT/CNFの凝固が起こるのが難点である。CNT/CNFの上に重合体層、例えばポリ−イミド系被覆、を追加することには、その層からCNT/CNFがもはや離脱し得ないという利点がある。それによって、遊離CNT/CNFに関連して起こり得る健康上の問題が防止される。ポリ−イミド系被覆が本発明の好ましい実施態様であることに注意すべきである。しかし、製造及び使用の条件に耐えられる他の重合体、例えばポリエチレンのようなポリオレフィン、を使用できることにも注意すべきである。
【0015】
本発明の一実施態様では、ポリ−イミド系被覆は、CNT/CNF層の上に、ポリアミック酸(PAA)の層を好ましくはロールコーティング及び/又はスプレーすることにより塗布し、続いてイミド化することにより、形成する。
【0016】
本発明の一実施態様では、ポリ−イミド系被覆は、CNT/CNF層の上に、PAAを合成する際にMn、Ag、Si、Ti、Al及び/又はMgを添加し、続いてイミド化することにより、形成する。
【0017】
本発明の一実施態様では、ポリ−イミド系被覆をポリ−エーテルイミドから製造し、ポリ−イミド系被覆をCNT/CNF層の上に、液体ポリエーテルアミック(PEA)溶液を塗布し、続いてイミド化することにより、形成する。本発明の一実施態様では、CNT/CNFを続いて好適な化合物、例えばMgO又はCaO、で処理し、COを炭素質化合物の形態で保存するための触媒担体を形成するか、又は光触媒、例えばチタニア、又は有機光開始剤で処理して触媒転化剤を形成し、二酸化炭素をカルボン酸、例えばギ酸(HCOOH)、及び/又はアルコール、例えばエタノール(COH)、に転化する、被覆形成方法を提供する。このように処理したCNT/CNFを備えた鋼表面を処理し、例えば管状形態に変換するか、又はCNT/CNFを炭素鋼又は低合金鋼管上に堆積させ、それらを上記のように好適な化合物又は光触媒で処理することにより、二酸化炭素を発生するあらゆる方法の炭素痕跡を還元するための非常に効果的で経済的な触媒が得られる。
【0018】
本発明の一実施態様では、上記の製法は、冷間圧延した鋼帯のコイルを用意する工程、該コイルを連続焼きなましにかける工程、所望により該冷間圧延したコイルを再結晶化させる工程、該鋼の表面を還元、脱酸素化及び/又は清浄化する工程、該鋼の上にCNT/CNFの層を温度600〜750℃で形成し、該鋼を冷却する工程、続いて所望により、該被覆された鋼にポリ−イミド系被覆を施す工程を含んでなる。この製法により、連続製法の規模により得られる経済性を活かすことができる。冷間圧延帯のコイルは比較的安価な基材を与え、これらの基材にCNT/CNFの密着性被覆を連続的な様式で施すことができる。これによって、そのような被覆された基材のコストが大幅に低下する。表面を還元するとは、還元雰囲気中で鋼表面から酸化物を除去することを意味する。
【0019】
一実施態様では、CNT/CNFの製造方法が、鋼基材の表面からCNT/CNFを、例えば機械的研削により除去すること、及び該CNT/CNFを集めることをさらに含んでなる。この簡単で安価なCNT/CNF製造方法により、電気的及び機械的用途に使用できるCNT/CNFが大量に、安価に供給される。
【0020】
本製法の一実施態様では、上記のようなCNT/CNFの層を施した鋼基材を、腐食性環境に、太陽電池用途に、燃料電池用途に、水素貯蔵に、触媒担体として、レーダー捕捉被覆に、又は界面導電性層若しくは抗菌製品として使用する。
【0021】
本発明の好ましい実施態様では、上記のようなCNT/CNFの層を施した鋼基材に重合体被覆、例えばポリ−イミド系被覆、を施し、腐食性環境に、太陽電池用途に、燃料電池用途に、水素貯蔵に、触媒担体として、レーダー捕捉被覆に、又は界面導電性層若しくは抗菌製品として使用する。無論、レーダー捕捉被覆として作用する被覆では、所望により使用する重合体被覆は、問題とするレーダー放射線に対して透明であることが必要である。
【0022】
本発明の好ましい実施態様では、本発明によりCNT/CNF層を備えた鋼基材を、電池、例えばLi系電池及び/又はアルカリ電池、の電極部品の製造に、あるいはフレキシブルバックコンタクト型電極用の光起電力基材の製造に使用する。重合体層を備えたCNT/CNFの厚さは、0.5μm〜60μmでよく、0.2〜0.5重量%損失で300〜500℃の耐熱性を与える。例として、電極材料を通るLiの拡散速度は低いので、Li電池は、電極材料の薄層、電解質及び集電装置からなる。十分な材料を得るために、これらの層を巻き上げる。従来のLi電池では、これらの層は銅層を含んでなり、その両側が炭素層で被覆されている。めっきされた鋼基材、例えばNi−Crめっきされた鋼基材、を使用し、その両側をCNT/CNF被覆層で被覆し、所望によりその上を重合体層、例えばPI層、で被覆することにより、この高価な銅基材を、より安価なCNT/CNF被覆を備えた基材で置き換えることができる。めっきされた層、例えばNi−Cr層、に対する被覆の密着性、及び所望により重合体層で補完した層の腐食保護性が優れているので、この基材は、高価な銅層の代替品として非常に好適である。この電極は結合剤を必要としないので、電池の重量も低下する。
【0023】
本発明の好ましい実施態様では、例えば研削により基材から除去したCNT/CNF粉末を、熱交換機用の水分散させたナノ冷却剤又は流体の製造に、若しくはナノ複合材料被覆の製造に使用する。これらの粉末を熱交換機用の水分散させたナノ冷却剤流体の処方に使用することにより、その熱交換機は水よりも効率的に冷却される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
ここで下記の本発明を制限しない例及び図面により、本発明をさらに説明する。
【0025】
【図1】CNT/CNF形成の一般的な反応図式を示す。
【図2】図1の反応図式に従い、エチレンガスの存在下で鋼表面上へのCNF形成を示すSEM画像である。
【図3】図1の反応図式に従い、エチレンガスの存在下でCNF形成を示すTEM画像である。
【図4】PI被覆の形成を図式的に示す。
【図5】様々な試料、すなわち被覆されていない鋼金属、CNT/CNF被覆鋼、及びPI系被覆を施したCNT/CNF被覆鋼の動電位試験の結果を示す。
【図6】電池及びその構成層を示す。
【図7】鋼表面上へのCNT形成のTEM写真を示す。
【図8】燃料電池用途向けの、鋼基材(1)上におけるCNT/CNF(3)と重合体層(2)の組合せを図式的に示す。
【実施例】
【0026】
例:下記の範囲(最小−最大)を有する化学組成物を鋼基材に施した。
【表1】

【0027】
CNT/CNFを冷間圧延した鋼の上に化学蒸着により、炭素含有供給源としてエチレンを使用して下記のように合成した。高純度ガスH(99.999%、INDUGAS)、N(99.999%、INDUGAS)、及びエチレン(99.95%、PRAXAIR)を使用した。冷間圧延試料(3cm×3cm)を、ガス混合物用の入口及び出口を有するガラス管中に入れた石英プレート上に載せた。ガラス管を加熱炉中で必要な温度に加熱した。試料を先ずH/Nで、総流量100ml/分で還元した。次いで、同じ流量100ml/分の、C/Nを含むガス混合物を使用してCNT/CNFを合成した。
【表2】

試料をN中で室温に冷却した。鋼基材上に形成された炭素の量は、CNT/CNFの形成により引き起こされた重量増加を測定することにより決定した。カーボンナノチューブ被覆された試料を加圧空気で掃気し、機械的損失を計算した。形態学的特徴は、インレンズ検出器を備えた走査電子顕微鏡(SEM)LEO 1550 FEG−SEMにより検査した。
【0028】
図1の反応式は、エチレンの代わりに、アセチレン(C)又は一酸化炭素、所望により二酸化炭素、と水素も使用できることを示している。CNF被覆された試料のSEM画像を図2に示す。この画像は、CNFの一様な分布及び成長を明らかに示している。この画像は、CNFの先端成長と、その先端上にある鉄ナノ粒子も示している。
【0029】
ポリイミド被覆は、下記のように製造した。PAA酸を図4の図式により調製し、次いでCNT/CNF被覆された鋼基材上に塗布し、250〜350℃の異なった温度にある加熱炉中に入れ、次いでこの試料を室温に冷却させ、続いて様々な方法で試験した。
【0030】
カーボンナノチューブ層を備えた複数の鋼基材にポリ−イミド系被覆を施した。これらの試料を、ASTM B117に準じて模擬塩水環境に露出し、湿潤密着性及び腐食挙動を評価した。電位差動力学的測定を模擬塩水環境中で行った。これらの結果は、ポリ−イミド系被覆を施したCNT/CNFの性能が、被覆していないCNT/CNF層より遙かに優れている(SSTで1000時間)ことを示している。
【0031】
表3は、低炭素鋼基材上にCNT/CNFを成長させるための様々な処理条件を概観する。成長速度は、単位時間及び表面あたりに形成されるCNT/CNFの質量に対する比率で表す。
【表3】

電位差動力学的測定は、走査速度1.67mV/sで、電位範囲−0.5mV〜1.5mVで、3.5%NaCl溶液中で行った(図5参照)。被覆されていない鋼の場合における2−3×10−2A/cmから重合体被覆されたCNTの場合における1−2×10−7A/cmへの重大な電流密度低下が測定された。大きな不動態化帯(−0.225V〜+1.032V)及び被覆表面における電気化学的反応が陰極的に制御されたという明らかな証拠である。CNT/CNF被覆上に重合体層が無い場合、図5は、CNT/CNF被覆された基材の電流密度が、被覆されていない鋼板と比較して、すでに一等級小さいことを示している。カーボンナノチューブ−PI被覆された試料は、低腐食率の基準である重大な不動態性および電流密度の低下を示すことが分かった。他方、被覆されていない鋼の性能は、CNT/CNF被覆された鋼より一等級劣っている。CNT/CNFが腐食防止剤で処理されているか、又は充填されているCNT/CNF層は、その層に自己回復挙動を与えることも注意すべきである。
【0032】
60%CO、10%CO及び30%Hを含んでなる炭素供給源ガスを使用して600℃で行った追加試験は、成長速度1.00mg/分を示した。
【0033】
両側にCNT/CNF被覆層を施したNi−Crめっき鋼基材を、図6により、Li電池に使用した。容量は、0.1C充電速度を使用し、1500mAh/gまで高いことが分かった。小電位範囲1V〜5mV及び大電位範囲3V〜5mVの両方で、この電極は、サイクル試験でほぼ同等の容量を維持している。これらの結果を市販の炭素系アノードと比較した場合、これらの容量は非常に良好である。図6で、Lは液体電解質を、Cは缶壁を、Sはセパレータを表し、Aは、両側をLi1+xMnで覆った金属層(例えばアルミニウム)である。Fは、両側にCNT/CNF層及び所望により重合体層、例えばPI系被覆、を施した炭素鋼又は低合金鋼基材である。
【0034】
CNT/CNF及びPI系被覆を備えた鋼の耐食性を、CNT/CNF層が無い同じ鋼の耐食性と比較した。PI被覆は、促進腐食試験で5日後に剥離する。他方、CNT/CNF界面層では、その被覆が30日より長く持続した。
【0035】
図8は、燃料電池用途向けの、鋼基材(1)上のCNT/CNF(3)と重合体層(2)の組合せを図式的に示す。PEM燃料電池構造の主要構成部品は、双極板及びメンブラン電極アセンブリー(MEA)である。MEAは、プロトン交換メンブラン、ガス拡散層(GDL)及び触媒層を含んでなる。双極板に対する主な必要条件は、低コスト、容易に製造できること、及び良好な電気的及び機械的特性である。双極板は、燃料電池におけるいわゆる積重構造で重要な機能、例えば各電池から電流を遠くへ運ぶこと、燃料及び酸化体を個別電池中で均質に配分すること、個々の電池を分離し、電池中で十分な水管理を行うこと、を果たす。本発明の方法により、双極板は、鋼基材上にCNT/CNFを成長させることにより、製造することができる。CNTを冷間圧延上に成長させ、薄い重合体被膜、この場合ポリエーテル−イミド、をロールコーターを使用して塗布し、250℃で2分間硬化させた。被覆厚さは8μmであった。次いで、この基材に接触抵抗試験及び電位差動力学的試験を行った。ポリエーテルイミド層をさらに加えることにより、耐食性が得られ、CNT/CNFが良好な導電性を与え、CNT/CNF−PEI組合せの特性は、米国エネルギー省(DOE)の基準に適合している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素鋼又は低合金鋼帯基材の一方又は両方の表面上にカーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバー(CNT/CNF)の密着性被覆を直接低温成長させる方法であって、
‐所望により金属性被覆を備えた、鋼基材を用意し、
‐水素を含んでなる炭素供給源ガスを使用し、熱的化学蒸着(CVD)製法により、温度500〜750℃、好ましくは600〜750℃で、前記基材の表面上にCNT/CNFを成長させ、
‐その際、前記CNT/CNFの成長に触媒作用させるための触媒を加えず、前記CNT/CNFの成長が、前記基材及び/又は前記金属性被覆中に存在する鉄、ニッケル及び/又はクロムによる触媒作用を受ける
工程を含んでなる、方法。
【請求項2】
前記炭素供給源ガスが、アセチレン、エチレン、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素又は低分子量脂肪油の一種以上を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭素供給源ガスが、好ましくは約30:60:10の比にある、水素、一酸化炭素及び二酸化炭素からなる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記鋼基材が、高強度鋼(HSS)、改良HSS、超HSS又は複合相鋼であり、好ましくは0.01〜1%のC、0.15〜2%のMn、0.005〜2%のSi、0.01〜1.5%のAl、10〜200ppmのN、最大0.015%のP、最大0.15%のS、所望により0.01〜0.1%のNb、0.002〜0.15%のTi、0.02〜0.2%のV、10〜60ppmのBの一種以上、並びに残部鉄及び不可避不純物を含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記鋼基材が、前記基材の一方又は両方の表面上にCNT/CNFを成長させる前に、ニッケル、ニッケル−クロム又はクロムめっき層若しくは亜鉛合金層を備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の基材上にCNT/CNFの層をその場で形成することにより鋼基材上に被覆を形成する方法であって、前記CNT/CNFの層に重合体被覆、例えばポリ−イミド系被覆を施す、方法。
【請求項7】
前記ポリ−イミド系被覆が、CNT/CNF層の上に、
‐ポリアミック酸(PAA)の層を塗布し、続いてイミド化することにより、及び/又は
‐PAAを合成する際にMn、Ag、Si、Ti、Al及び/又はMgを添加し、続いてイミド化することにより、及び/又は
‐液体ポリエーテルイミド(PEI)溶液を、好ましくはロールコーティング及び/又はスプレーにより塗布し、及び/又は
‐前記ポリ−イミドがポリ−エーテルイミドから生成されること
により製造される、請求項6に記載のポリ−イミド系被覆の製造方法。
【請求項8】
前記CNT/CNFを続いて好適な化合物、例えばMgO又はCaO、で処理し、COを炭素質化合物の形態で保存するための触媒担体を形成するか、又は光触媒、例えばチタニア又は有機光開始剤、で処理して触媒作用転化剤を生成させ、二酸化炭素をカルボン酸、例えばギ酸(HCOOH)、及び/又はアルコール、例えばエタノール(COH)、に転化する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の被覆製造方法。
【請求項9】
連続製法で、冷間圧延した鋼のコイルを用意する工程、前記コイルを連続焼きなましにかける工程、所望により前記冷間圧延したコイルを再結晶化させる工程、前記鋼の表面を還元する工程、前記鋼の上にCNT/CNFの層を温度600〜750℃で形成し、前記鋼を冷却する工程、続いて所望により、前記被覆された鋼にポリ−イミド系被覆を施す工程を含んでなる、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の被覆を製造することによりCNT/CNF粉末を製造する方法であって、前記鋼基材の前記表面から前記CNT/CNFを機械的手段、例えば研削、により除去すること、及び前記CNT/CNFを集めることをさらに含んでなる、方法。
【請求項11】
太陽電池用途に、燃料電池用途に、水素貯蔵に、触媒担体として、レーダー捕捉被覆に、若しくは界面導電性層として使用するための、又は抗菌製品として使用するための、請求項1〜8のいずれか一項に記載のCNT/CNFの層を施した鋼基材。
【請求項12】
腐食性環境に、太陽電池用途に、燃料電池用途に、水素貯蔵に、触媒担体として、レーダー捕捉被覆に、若しくは界面導電性層として使用するための、又は抗菌製品として使用するための、重合体被覆が施された請求項1〜8のいずれか一項に記載のCNT/CNFの層を施した鋼基材。
【請求項13】
請求項5に記載の鋼基材の、電池、例えばLi系電池及び/又はアルカリ電池、の電極部品を製造するための使用。
【請求項14】
請求項5に記載の鋼基材/箔の、フレキシブルバックコンタクト型電極用の光起電力基材を製造するための使用。
【請求項15】
請求項10に記載の粉末の、熱交換機用の水分散させたナノ冷却剤若しくは流体の製造における又はナノ複合材料被覆の製造における使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−530036(P2012−530036A)
【公表日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−515514(P2012−515514)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058658
【国際公開番号】WO2010/146169
【国際公開日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【出願人】(505008419)タタ、スティール、ネダーランド、テクノロジー、ベスローテン、フェンノートシャップ (15)
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL NEDERLAND TECHNOLOGY BV
【出願人】(511307605)タタ、スティール、リミテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】TATA STEEL LIMITED
【Fターム(参考)】