鋼板の製造方法
【課題】ブリスターなどの表面欠陥が生じにくい高品質の鋼板を安定して製造することができる鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】各々1対の上部磁極と下部磁極を備えた連続鋳造機を用い、上部磁極と下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、鋼の連続鋳造を行うことによりスラブを鋳造し、このスラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(1)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御する。但し、Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)、Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)、t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)、T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度(K)である。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(1)
【解決手段】各々1対の上部磁極と下部磁極を備えた連続鋳造機を用い、上部磁極と下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、鋼の連続鋳造を行うことによりスラブを鋳造し、このスラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(1)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御する。但し、Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)、Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)、t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)、T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度(K)である。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリスターなどの表面欠陥が生じにくい鋼板を製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用や缶用の冷延鋼板或いは冷延鋼板にめっき処理などを施した表面処理鋼板について、表面品質に対する要求がより一層厳しくなりつつある。なかでも、鋼板表面に数mmに及ぶ範囲で「ふくれ」となって現れるブリスターと呼ばれる表面欠陥は、加工により開口し、割れや耐食性の劣化の原因にもなるので、鋼板メーカーでは、この欠陥が発見されると製品出荷の取り止めを余儀なくされる場合もあり、大きな歩留まり低下の原因になる。
【0003】
冷延鋼板のブリスターは、非特許文献1に説明されているように、熱間圧延後の酸洗時に鋼板に侵入し、冷間圧延後に鋼板内の非金属介在物、気泡、偏析、内部割れなどの部位に滞留している水素が、焼鈍時の加熱とともに体積膨張して圧力を高め、加熱により軟化した鋼板を変形させたふくれ状の表面欠陥である。
このようなブリスターの発生を抑制する方法として、特許文献1には、特定の成分組成を有するTi含有極低炭素鋼からなり、成分組成との関係で決まる所定の板厚を有する冷延鋼板に、所定の条件で連続焼鈍または連続溶融亜鉛めっきを施すようにした、冷延鋼板または溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小若正倫著、「金属の腐食損傷と防食技術」、アグネ社、1983年、p.207
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2936963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、鋼板表層部に存在する水素の放出には有効であると考えられるが、鋼板内部に拡散した水素が気泡となって発生するブリスターを抑制できない場合がある。
また、最近では、自動車外板用鋼板の品質厳格化に伴い、これまで問題にならなかった微小な気泡やモールドフラックスの巻き込みに起因する欠陥が問題視されるようになりつつあり、従来の連続鋳造方法では、そのような厳しい品質要求に十分に対応できない。特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融めっき後、加熱して母材鋼板の鉄成分を亜鉛めっき層に拡散させるものであり、母材鋼板の表層性状が合金化溶融亜鉛めっき層の品質に大きく影響する。すなわち、母材鋼板の表層に気泡性やモールドフラックス性の欠陥があると、小さな欠陥であってもめっき層の厚みにむらが生じ、それが表面に筋状の欠陥として現れ、自動車外板などのような品質要求の厳しい用途には使用できなくなる。
【0007】
したがって本発明の目的は、ブリスターなどの表面欠陥が生じにくい高品質の鋼板を安定して製造することができる鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述したように、ブリスターと呼ばれる冷延鋼板の欠陥は、熱間圧延後の酸洗時に鋼板に侵入し、冷間圧延後に鋼板内の非金属介在物、気泡、偏析、内部割れなどの部位に滞留している水素が、焼鈍時の加熱とともに体積膨張して圧力を高め、加熱により軟化した鋼板を変形させたふくれ状の表面欠陥である。
本発明者らは、このようなブリスターの発生と熱延鋼板の酸洗条件および冷間圧延条件との関係について、さらには使用するスラブについて検討した結果、以下のような知見を得た。
【0009】
(1)酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Hoは熱延鋼板の酸洗減量と良い相関があり、このため、酸洗減量に基づいて酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Hoを求めることができる。
(2)酸洗終了後、時間t1(秒)を経過した時点pでの熱延鋼板中の水素濃度H1(質量ppm)は、酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Ho(質量ppm)と、酸洗終了後、当該時点pまでの鋼板の最高表面温度T1(K)との関係で、下記(i)式により表すことができる。したがって、下記(i)式の時間t1を「酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間t」とし、最高表面温度T1を「酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T」とすれば、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hを求めることができる。
H1=Ho・exp{−0.002×(T1+t1/100)} …(i)
【0010】
(3)ブリスターによる鋼板の表面品質不良が発生するか否かは、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hと冷間圧延条件(圧下条件)で決まり、冷間圧延条件に応じて、ブリスターによる表面品質不良(表面品質不合格)が発生する「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」が決まる。
(4)以上のことから、上記(i)式で求められる冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hが臨界水素濃度Hcにならないように、酸洗終了後から冷間圧延開始までの時間t又/及び鋼板の最高表面温度Tを制御することにより、ブリスターの発生を抑制し、ブリスターによる表面品質欠陥不良(表面品質不合格)の発生を防止することができる。
【0011】
(5)上記(4)の条件で鋼板を製造する際に、鋳型外側に電磁力で溶鋼流を制動するための各々1対の上部磁極と下部磁極を備えた連続鋳造機を用い、上部磁極と下部磁極に各々印加される直流磁界によって鋳型内の溶鋼流動を制御しながらスラブを連続鋳造し、このスラブを圧延して得られた熱延鋼板を用いることにより、特に高品質の鋼板を製造することができる。その理由は次のとおりである。上記のように直流磁界によって鋳型内の溶鋼流動を制御しつつスラブの鋳造を行うことにより、モールドフラックスの巻き込みに起因するモールドフラックス性欠陥を防止できるとともに、比較的大きいサイズの気泡や非金属介在物による欠陥を防止できる。しかし、この連続鋳造法では、より微小な気泡や非金属介在物が凝固シェルに捕捉されるのを確実に防止することは難しく、このような微小気泡や介在物が内部まで潜り込んで、これを起点として水素(H2)による膨れ状欠陥(ブリスター欠陥)を引き起こす。これに対して、上記(4)の条件で酸洗および冷間圧延を行えば、微小な気泡や非金属介在物が原因のブリスターを抑えることができ、この効果と上記連続鋳造法による欠陥防止効果が複合化することにより、特に欠陥が少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0012】
また、上記連続鋳造法において、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化することにより、気泡性欠陥・介在物性欠陥とモールドフラックス性欠陥の発生をともに効果的に抑制することが可能であり、したがって、このような鋳造法で鋳造されたスラブを用いることにより、極めて微小な気泡や非金属介在物の巻き込みに起因するブリスターを含む、気泡および非金属介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した表面欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、鋼の連続鋳造を行うことによりスラブを鋳造し、
該スラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、該熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(1)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御することを特徴とする鋼板の製造方法。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(1)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
[2]上記[1]の製造方法において、酸洗後、冷間圧延前の熱延鋼板を、酸洗終了直後の鋼板温度よりも高い温度に加熱することを特徴とする鋼板の製造方法。
【0014】
[3]上記[1]または[2]の製造方法において、スラブの連続鋳造においては、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備えた連続鋳造機を用い、鋳造速度を0.75m/分以上とし、且つ下記条件(イ)、(ロ)に従って連続鋳造を行うことを特徴とする鋼板の製造方法。
・条件(イ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
・条件(ロ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【0015】
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法において、浸漬ノズルのノズル浸漬深さを230〜290mmとすることを特徴とする鋼板の製造方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの製造方法において、浸漬ノズルのノズル内径(但し、溶鋼吐出孔の形成位置でのノズル内径)を70〜90mmとすることを特徴とする鋼板の製造方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの製造方法において、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積を3600〜8100mm2とすることを特徴とする鋼板の製造方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの製造方法において、鋳型内の溶鋼は、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速が0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速が0.08〜0.15m/sであることを特徴とする鋼板の製造方法。
【0016】
[8]上記[7]の製造方法において、鋳型内の溶鋼は、表面流速が0.05〜0.30m/sであることを特徴とする鋼板の製造方法。
[9]上記[7]または[8]の製造方法において、鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での流速Aと表面流速Bとの比A/Bが1.0〜2.0であることを特徴とする鋼板の製造方法。
[10]上記[7]〜[9]のいずれかの製造方法において、鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度が0.008kg/m3以下であることを特徴とする鋼板の製造方法。
[11]上記[10]の製造方法において、鋳造されるスラブ厚さが220〜300mm、浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量が3〜25NL/分であることを特徴とする鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の鋼板の製造方法によれば、ブリスターなどの欠陥が生じにくい高品質の冷延鋼板を安定して製造することができる。
また、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化してスラブを鋳造し、このスラブを圧延して得られた熱延鋼板を用いた場合には、極めて微小な気泡や非金属介在物の巻き込みに起因するブリスターを含む、気泡および非金属介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した表面欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施に供される連続鋳造機の鋳型および浸漬ノズルの一実施形態を示す縦断面図
【図2】図1の実施形態における鋳型および浸漬ノズルの水平断面図
【図3】熱延鋼板の酸洗減量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoとの関係を示すグラフ
【図4】Hoを酸洗終了直後における熱延鋼板中の水素濃度、T0を同じく鋼板表面温度とした場合、Ho・exp{−0.002×(T0+t1/100)}と酸洗終了から時間t1を経過した時点での鋼板中の水素濃度H1との関係を示すグラフ
【図5】冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hとブリスター欠陥発生個数との関係を、冷間圧延の仕上げ板厚で整理して示すグラフ
【図6】浸漬ノズルの溶鋼吐出角度と表面欠陥の発生率(欠陥指数)との関係を示すグラフ
【図7】本発明法において、浸漬ノズルのノズル浸漬深さの影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を示すグラフ
【図8】本発明法において、浸漬ノズルのノズル内径の影響(モールドフラックス性欠陥に及ぼす影響)を示すグラフ
【図9】本発明法において、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積の影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を示すグラフ
【図10】鋳型内の溶鋼の表面乱流エネルギー、凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での流速)、表面流速および凝固界面気泡濃度(溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度)を説明するための概念図
【図11】鋳型内の溶鋼の表面乱流エネルギーと表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図12】鋳型内の溶鋼の表面流速と表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図13】鋳型内の溶鋼の凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での流速)と表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図14】鋳型内の溶鋼の凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bと表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図15】鋳型内の溶鋼の凝固界面気泡濃度(溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度)と表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の鋼板の製造方法では、鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、鋼の連続鋳造を行うことによりスラブを鋳造する。そして、このスラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延して冷延鋼板とする。
【0020】
図1および図2は、本発明の実施に供される連続鋳造機の鋳型および浸漬ノズルの一実施形態を示すもので、図1は鋳型および浸漬ノズルの縦断面図、図2は同じく水平断面図(図1のII−II線に沿う断面図)である。
図において、1は鋳型であり、この鋳型1は鋳型長辺部10(鋳型側壁)と鋳型短辺部11(鋳型側壁)とにより水平断面矩形状に構成されている。
2は浸漬ノズルであり、この浸漬ノズル2を通じて鋳型1の上方に設置されたタンディッシュ(図示せず)内の溶鋼を鋳型1内に注入する。この浸漬ノズル2は、筒状のノズル本体の下端に底部21を有するとともに、この底部21の直上の側壁部に、両鋳型短辺部11と対向するように1対の溶鋼吐出孔20が貫設されている。
溶鋼中のアルミナなどの非金属介在物が浸漬ノズル2の内壁面に付着・堆積してノズル閉塞を生じることを防止するため、浸漬ノズル2のノズル本体内部や上ノズル(図示せず)の内部に設けられたガス流路にArガスなどの不活性ガスが導入され、この不活性ガスがノズル内壁面からノズル内に吹き込まれる。
【0021】
タンディッシュから浸漬ノズル2に流入した溶鋼は、浸漬ノズル2の1対の溶鋼吐出孔20から鋳型1内に吐出される。吐出された溶鋼は、鋳型1内で冷却されて凝固シェル5を形成し、鋳型1の下方に連続的に引き抜かれ鋳片となる。鋳型1内のメニスカス6には、溶鋼の保温剤および凝固シェル5と鋳型1との潤滑剤として、モールドフラックスが添加される。
また、浸漬ノズル2の内壁面や上ノズルの内部から吹き込まれた不活性ガスの気泡は、溶鋼吐出孔20から溶鋼とともに鋳型1内に吐出される。
【0022】
鋳型1の外側(鋳型側壁の背面)には、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極3a,3bと1対の下部磁極4a,4bが設けられ、これら上部磁極3a,3bと下部磁極4a,4bは、それぞれ鋳型長辺部10の幅方向において、その全幅に沿うように配置されている。
上部磁極3a,3bと下部磁極4a,4bは、鋳型1の上下方向において、上部磁極3a,3bの磁場のピーク位置(上下方向でのピーク位置:通常は上部磁極3a,3bの上下方向中心位置)と下部磁極4a,4bの磁場のピーク位置(上下方向でのピーク位置:通常は下部磁極4a,4bの上下方向中心位置)の間に溶鋼吐出孔20が位置するように、配置される。また、1対の上部磁極3a,3bは、通常、メニスカス6をカバーする位置に配置される。
【0023】
浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔20から鋳型短辺部方向に吐出された溶鋼は、鋳型短辺部11の前面に生成した凝固シェル5に衝突して下降流と上昇流に分かれる。前記1対の上部磁極3a,3bと1対の下部磁極4a,4bには、各々直流磁界が印加されるが、これら磁極による基本的な作用は、直流磁界中を移動する溶鋼に作用する電磁気力を利用して、上部磁極3a,3bに印加される直流磁界で溶鋼上昇流を制動(減速させる)し、下部磁極4a,4bに印加される直流磁界で溶鋼下降流を制動(減速させる)するものである。
【0024】
本発明の鋼板の製造法では、上述した連続鋳造法で鋳造されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するが、その際に、下記(1)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御する。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(1)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
以上のような鋼板の製造方法は、特に、酸洗〜冷間圧延を連続して行う酸洗・冷間圧延連続ライン(PPCMライン,PPCM;Pickling and Profile-Control Cold Mill)で実施される場合に効果的である。これは、このようなPPCMラインにおいて製造される鋼板に、特にブリスターが生じやすいからである。
【0025】
以下の説明において、鋼板の水素濃度の実測値は、鋼板を800℃まで昇温し、鋼板から放出された水素を質量分析装置で分析した値である。
表1は、5つの酸洗槽が直列に配置された酸洗設備において、熱延鋼板を種々の条件で酸洗し、鋼板の酸洗減量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoを調べた結果を示している。図3は、その結果に基づき、酸洗減量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoとの関係を示したものである。酸洗条件には酸濃度、酸洗温度・時間があるが、表1に示すように、酸洗条件による酸洗減量の依存性は見られない。これは、酸洗前の鋼板の表面状態(スケール厚み等)によって酸洗減量が変わるためであると考えられる。一方、酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoは、図3に示すように、酸洗減量と良い相関が見られる。したがって、酸洗減量に基づいて酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoを求めることができる。
【0026】
酸洗終了直後における熱延鋼板中の水素濃度Hoと、同じく鋼板表面温度T0をそれぞれ測定するとともに、この熱延鋼板が酸洗終了から時間t1を経過した時点での鋼板中の水素濃度H1を測定したところ、表2の結果が得られた。この表2の結果から、酸洗を終了した熱延鋼板からは経時的に水素が放出され、熱延鋼板中の水素濃度Ho(質量ppm)、同じく水素濃度H1(質量ppm)、時間t1(秒)及び鋼板表面温度T0(K)には、近似的に下記(ii)式の関係があることが判った。図4に、Ho・exp{−0.002×(T0+t1/100)}と酸洗終了から時間t1を経過した時点での鋼板中の水素濃度H1との関係を示す。ここで、鋼板中の水素濃度H1が、時間t1だけでなく、酸洗終了直後における鋼板表面温度T0にも影響を受ける理由は、水素の放出量は鋼板温度、特に到達最高温度に影響(支配)され、上記試験条件では、酸洗終了直後が最も高い鋼板温度(到達最高温度)であったことによる。
H1=Ho・exp{−0.002×(T0+t1/100)} …(ii)
したがって、酸洗終了後、冷間圧延開始前に、鋼板を酸洗終了直後の鋼板温度よりも高い温度に加熱した場合には、上記(ii)式の鋼板表面温度T0は、その加熱時の鋼板表面温度(到達最高温度)ということになる。上記のとおり、酸洗を終了した熱延鋼板からの水素の放出量は鋼板の到達最高温度に影響(支配)されるためである。
【0027】
以上のことから、酸洗終了後、時間t1(秒)を経過した時点pでの熱延鋼板中の水素濃度H1(質量ppm)は、酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Ho(質量ppm)と、酸洗終了後〜当該時点p間における鋼板の最高表面温度T1(K)との関係で、下記(i)式により表せることが判った。したがって、下記(i)式の時間t1を「酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間t」とし、最高表面温度T1を「酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T」とすれば、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hを求めることができる。
H1=Ho・exp{−0.002×(T1+t1/100)} …(i)
【0028】
一方、ブリスターによる表面品質不良が発生するか否かは、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hと冷間圧延条件(圧下条件)で決まり、冷間圧延条件に応じて、ブリスターによる表面品質不良(表面品質不合格)が発生する「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」が決まることが判った。
板厚4mmの熱延鋼板を冷間圧延で種々の仕上げ板厚(冷間圧延の最終板厚)に圧延した場合について、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hと、冷間圧延での仕上げ板厚と、ブリスター欠陥発生個数を調査したところ、表3に示す結果が得られた。この結果に基づき、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hとブリスター欠陥発生個数との関係を、冷間圧延の仕上げ板厚で整理したものが図5である。
【0029】
これによれば、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hがある値を超えると、ブリスター欠陥は急激に増加することが判る。また、冷間圧延の仕上げ板厚が小さくなるほど(つまり、冷間圧延の圧下量が大きくなるほど)、ブリスター欠陥が急激に増加する上記水素濃度Hの値は小さくなることが判る。これは、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hが高いほど、また、冷間圧延での圧下量が大きいほど、鋼板内に滞留した水素の内部圧力の上昇が大きくなるためであると考えられる。ここで、一般に、ブリスター欠陥個数が0.0350×10−2個/m程度を超えるとブリスター欠陥による表面品質不良が顕在化するようになるので、「ブリスターによる表面品質不良の発生」(表面品質不合格)の指標を、例えば、ブリスター欠陥個数:0.0350×10−2個/m超とすることができる。
【0030】
以上の点から、ブリスターによる表面品質不良が発生する「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」を、冷間圧延条件(圧下条件)に応じて決めることが可能であることが判った。具体的には、冷間圧延の圧下率で決まる仕上げ板厚に応じて、冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hcを決めることができる。例えば、熱延鋼板の板厚が4mmの場合には、図5の結果に基づいて、冷間圧延での各仕上げ板厚に応じて鋼板中の臨界水素濃度Hcを以下のように定めることができる。
冷間圧延での仕上げ板厚 鋼板中の臨界水素濃度Hc
1.8mm 0.030質量ppm
1.5mm 0.025質量ppm
1.2mm 0.020質量ppm
【0031】
以上のことから、冷間圧延条件に応じて、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度が臨界水素濃度Hcにならないように、酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間tや鋼板の最高表面温度Tを制御することにより、ブリスターによる表面品質不良の発生を防止できることになる。このため本発明では、熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(1)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御するものである。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(1)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
このような本発明法では、上述のようにして、冷間圧延条件(圧下条件)に応じた「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」を予め定めておく必要がある。また、酸洗量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoとの関係についても、予め求めておくことが好ましい。
【0032】
また、後述する実施例に示されるように、Hc値に対してHo・exp{−0.002×(T+t/100)}値が小さいほど、ブリスター欠陥発生の改善効果が大きく、とりわけ、両者の差(=Hc値−Ho・exp{−0.002×(T+t/100)}値)が0.005以上のものは、ブリスター欠陥の発生が特に顕著に抑えられるので、Hc値−Ho・exp{−0.002×(T+t/100)}値を0.005以上とすることが特に好ましい。
熱延鋼板としては、上述した連続鋳造法(好ましくは、後述する特定の連続鋳造法)で鋳造されたスラブを熱間圧延したものを用いるが、さきに(5)で述べたような理由により、極めて微小な気泡や非金属介在物(以下、単に「介在物」という場合がある)の巻き込みに起因するブリスターを含む、気泡および非金属介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0033】
本発明法を実施するには、例えば、酸洗後の鋼板をコイルの状態で室温で放置し、上記(1)式を満足する時間t後に冷間圧延を行う。また、酸洗後の熱延鋼板を加熱して鋼板の最高表面温度Tを高めれば、上記(1)式を満足する時間tを短縮できるので、PPCMラインにも適用でき、生産性の向上を図ることができる。熱延鋼板の加熱には、ガスバーナー加熱、電気ヒーター加熱、高周波誘導加熱などを適用できるが、その後冷間圧延を行うので、加熱は酸素分圧が制御された不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。また、PPCMラインに適用する場合は、ロール間距離を変えられるルーパーを用いればラインスピードの調整は可能である。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
本発明では、上部磁極と下部磁極に各々印加される直流磁界によって鋳型内の溶鋼流動を制御しながらスラブを連続鋳造し、このスラブを圧延して得られた熱延鋼板を用いるものであり、上記のように直流磁界によって鋳型内の溶鋼流動を制御しつつスラブの鋳造を行うことにより、モールドフラックスの巻き込みに起因するフラックス性欠陥を防止できるとともに、比較的大きいサイズの気泡や非金属介在物による欠陥を防止できる。しかし、この連続鋳造法では、より微小な気泡や非金属介在物が凝固シェルに捕捉されるのを確実に防止することは難しく、このような微小気泡や介在物の巻き込みに起因するブリスターが生じる恐れがある。これに対して、本発明条件で酸洗および冷間圧延を行えば、微小な気泡や非金属介在物が原因のブリスターを抑えることができ、この効果と上記連続鋳造法による欠陥防止効果が複合化することにより、特に欠陥が少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0038】
また、上記連続鋳造法において、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化することにより、気泡性欠陥・介在物性欠陥とフラックス性欠陥の発生をともに効果的に抑制することが可能であり、したがって、このような鋳造法で鋳造されたスラブを用いることにより、極めて微小な気泡や非金属介在物の巻き込みに起因するブリスターを含む、気泡および非金属介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した表面欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0039】
以下、その連続鋳造法について説明する。
連続鋳造法に関して、本発明者が数値シミュレーション等により検討した結果、気泡性欠陥、介在物性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の発生に関与する因子(一次因子)としては、表面乱流エネルギー(表面近傍での渦流の発生に関与)、溶鋼−凝固シェル界面(以下、単に「凝固界面」という場合がある)の溶鋼流速(以下、単に「凝固界面流速」という場合がある)、表面流速があり、これらが欠陥発生に影響していることが判った。また特に、表面流速、表面乱流エネルギーは、モールドフラックスの巻き込みに影響を与え、凝固界面流速は気泡性欠陥や介在物性欠陥に影響を与えることが判った。そして、これらの知見に基づき、印加される上部直流磁界、下部直流磁界の各々作用について検討した結果、以下の点が明らかとなった。
【0040】
(1)上部電極に直流磁界を作用させると溶鋼の上昇流(溶鋼吐出孔からの噴流がモールド短辺と衝突して反転することで生じる上昇流)が制動され、表面流速および表面乱流エネルギーを低減することができる。但し、このような直流磁界だけでは、表面流速、表面乱流エネルギーおよび凝固界面流速を理想的状態にコントロールすることはできない。
(2)上記の点から、上部磁極において直流磁界を印加することは、気泡性欠陥・介在物性欠陥とモールドフラックス性欠陥の両方を防止するのに有効であると考えられるが、単に直流磁界を印加しただけでは十分な効果は得られず、鋳造条件(鋳造するスラブ幅、鋳造速度)、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の印加条件が相互に関連し、それらに最適範囲が存在する。
【0041】
具体的には、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を、基本的に次の(I),(II)のように最適化すればよいことが判った。
(I)各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に小さい「スラブ幅−鋳造速度」領域: スループット量が相対的に少ないので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に小さい。このため上昇流(反転流)も小さくなるので、上昇流を制動するための上部磁極の直流磁界の強度を相対的に小さくする。一方、下降流に随伴する介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極の直流磁界の強度を十分に大きくする。以上のような直流磁界を印加することにより、表面乱流エネルギー、凝固界面流速および表面流速を適正範囲に制御し、気泡性欠陥・介在物性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の発生を防止する。
【0042】
(II)各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に大きい「スラブ幅−鋳造速度」領域: スループット量が相対的に大きいので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に大きい。このため上昇流(反転流)も大きくなるので、上昇流を制動するための上部磁極の直流磁界の強度を相対的に大きくする。一方、上記(I)と同様に、下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極の直流磁界の強度を十分に大きくする。以上のような直流磁界を印加することにより、表面乱流エネルギー、凝固界面流速および表面流速を適正範囲に制御し、気泡性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の発生を防止する。
【0043】
この鋳造方法では、溶鋼吐出孔20からの溶鋼吐出角度α、すなわち水平方向から下向きの溶鋼吐出角度αが10°以上30°未満の浸漬ノズルを用いることが好ましい。溶鋼吐出角度αが10°未満では、上部磁極3a,3bの直流磁界で溶鋼上昇流を制動しても、溶鋼表面の乱れを適切に制御できず、モールドフラックスの巻き込みを生じてしまう。これに対して、溶鋼吐出角度αが大きくなると、非金属介在物や気泡が溶鋼下降流によって鋳型下方に運ばれて凝固シェルに捕捉されやすくなり、一方において、溶鋼吐出角度αが30°未満では、直流磁場制御で溶鋼流を最適化できることが判った。また、以上の観点から、溶鋼吐出角度αのより好ましい下限は15°であり、また、より好ましい上限は25°である。
【0044】
図6は、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度αと表面欠陥の発生率(欠陥指数)との関係を示すもので、後述する条件(イ)、(ロ)での磁界強度、鋳造速度およびスラブ幅が好適範囲を満足する種々の条件で連続鋳造試験を行い、この連続鋳造されたスラブを熱間圧延および冷間圧延して鋼板とし、この鋼板に合金化溶融亜鉛めっき処理を施し、溶鋼吐出角度αが表面欠陥の発生に及ぼす影響を調べたものである。この試験では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、オンライン表面欠陥計で表面欠陥を連続的に測定し、そのなかから欠陥外観およびSEM分析、ICP分析等により製鋼性欠陥(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥・介在物性欠陥)を判別し、コイル長さ100m当たりの欠陥個数を下記基準で評価し、表面欠陥指数とした。
3:欠陥個数が0.30個以下
2:欠陥個数が0.30個超、1.00個以下
1:欠陥個数が1.00個超
【0045】
この鋳造方法では、生産性の観点から鋳造速度を0.75m/分以上とするが、さらに、鋳造するスラブ幅と鋳造速度に応じて、上部磁極3a,3bと下部磁極4a,4bに各々印加する直流磁界の強度を、下記条件(イ)、(ロ)のように最適化することにより、モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥・介在物性欠陥の原因となる、凝固シェル5へのモールドフラックスの巻き込み捕捉と、同じく微小気泡(主に浸漬ノズル内壁面から吹き込まれた不活性ガスの気泡)や介在物の捕捉を抑制するものである。
【0046】
条件(イ): 鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
【0047】
浸漬ノズル2から吐出した溶鋼流が鋳型短辺部側の凝固シェルに衝突し、上方側への反転流と下方側への下降流が生じるが、上記(a)〜(i)のように各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に小さい場合(条件(ロ)と比較して)には、スループット量が相対的に少ないので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に小さい。このため上昇流(反転流)も小さくなるので、上昇流を制動するための上部磁極3a,3bの直流磁界の強度を相対的に小さくする。一方、下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度を十分に大きくする。以上のような直流磁界を印加することにより、微細な介在物や気泡であっても凝固シェルへの捕捉を適切に防止できる。
【0048】
上記(a)〜(i)の場合、上部磁極3a、3bの直流磁界の強度が0.03T未満では、その直流磁界による溶鋼上昇流の制動効果が不十分で湯面変動が大きく、モールドフラックスの巻き込みが生じやすい。一方、強度が0.15Tを超えると、溶鋼上昇流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
また、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度が0.24T未満では、その直流磁界による溶鋼下降流の制動効果が不十分であるため、溶鋼下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込み、凝固シェルに捕捉されやすくなる。一方、強度が0.45Tを超えると、溶鋼下降流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
【0049】
条件(ロ): 鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【0050】
上記(j)〜(s)のように各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に大きい場合(条件(イ)と比較して)には、必然的にスループット量が相対的に多くなるので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に大きい。このため上昇流(反転流)も大きくなるので、したがって、上昇流を制動するための上部磁極3a,3bの直流磁界の強度を相対的に大きくする。一方、条件(イ)の場合と同様に、下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度を十分に大きくする。以上のような直流磁界を印加することにより、微細な介在物や気泡であっても凝固シェルへの捕捉を適切に防止できる。
【0051】
上記(j)〜(s)の場合、上部磁極3a、3bの直流磁界の強度が0.15T以下では、その直流磁界による溶鋼上昇流の制動効果が不十分で湯面変動が大きく、モールドフラックスの巻き込みが生じやすい。一方、強度が0.30Tを超えると、溶鋼上昇流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
また、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度が0.24T未満では、その直流磁界による溶鋼下降流の制動効果が不十分であるため、溶鋼下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込み、凝固シェルに捕捉されやすくなる。一方、強度が0.45Tを超えると、溶鋼下降流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
【0052】
なお、以上述べた連続鋳造法は、スラブ幅と鋳造速度に応じて規定される、下記(i)、(ii)のような2つの連続鋳造法として捉えることもできる。
(i) スラブの連続鋳造においては、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備えた連続鋳造機を用い、鋳造速度0.75m/分以上で、スラブ幅と鋳造速度を下記(a)〜(i)のいずれかの条件とし、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとして連続鋳造する連続鋳造方法。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
【0053】
(ii) スラブの連続鋳造においては、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備えた連続鋳造機を用い、鋳造速度0.75m/分以上で、スラブ幅と鋳造速度を下記(j)〜(s)のいずれかの条件とし、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとして連続鋳造する連続鋳造方法。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【0054】
以下、上記連続鋳造法において、その効果が最も発現しやすい、特に好ましい鋳造条件について説明する。
まず、浸漬ノズル2のノズル浸漬深さは230〜290mmとすることが好ましい。ここで、ノズル浸漬深さとは、メニスカス6から溶鋼吐出孔20上端までの距離をいう。
このノズル浸漬深さが、本発明の効果に影響を及ぼすのは、ノズル浸漬深さが大きすぎても、小さすぎても、浸漬ノズル2から吐出される溶鋼の流動量や流速が変化したときに、鋳型内での溶鋼の流動状態が大きく変化するため、溶鋼流の適切な制御が難しくなるためである。すなわち、ノズル浸漬深さが230mm未満では、浸漬ノズル2から吐出される溶鋼の流動量や流速が変化したときに、ダイレクトに溶鋼表面(メニスカス)が変動し、表面の乱れが大きくなってモールドフラックスの巻き込みが起こり易くなり、一方、290mmを超えると、溶鋼の流動量などが変動したときに、下方への流速が大きくなって非金属系介在物や気泡の潜り込みが大きくなる傾向がある。
【0055】
図7は、本発明法において、浸漬ノズル2のノズル浸漬深さの影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を調べた結果を示すものであり、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°、スラブ幅:1200mm、スラブ厚さ:260mm、鋳造速度:1.8m/分、上部磁極の直流磁界の強度:0.12T、下部磁極の直流磁界の強度:0.38Tの鋳造条件による試験結果を示している。その他の鋳造条件は、浸漬ノズル内径:80mm、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積:4900mm2(70mm*70mm)、浸漬ノズル内壁面からの不活性ガス吹き込み量:12L/min、使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):0.6cpである。
鋳造されたスラブについて、超音波探傷装置を用い、スラブ表層2〜3mmの深さ位置に存在する粒径が概ね80μm以上の気泡性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の個数を測定し、欠陥発生の程度を指数化したものである。図7によれば、本発明法において、特に、浸漬ノズル2のノズル浸漬深さを230〜290mmとすることにより、気泡性欠陥、モールドフラックス性欠陥がより効果的に低減していることが判る。
【0056】
また、浸漬ノズル2のノズル内径、すなわち溶鋼吐出孔20の位置でのノズル内径は70〜90mmとすることが好ましい。浸漬ノズル2の内側にアルミナなどが部分的に付着した場合に、浸漬ノズル2から吐出する溶鋼に偏流(幅方向での流速の対称性が悪くなる)が生じることがあり、ノズル内径が70mm未満では、そのような場合に偏流が極端に大きくなる恐れがある。このような極端な偏流が生じると、鋳型内での溶鋼流の制御が適切に行えなくなる。一方、浸漬ノズル2に流れる溶鋼量の調整は、浸漬ノズル2の上方のスライディングノズルの開度調整により行われるが、ノズル内径が90mmを超えるとノズル内部に溶鋼が充填されない部分が生じる恐れがあり、この場合も上記と同じような極端な偏流が生じ、鋳型内での溶鋼流の制御が適切に行えなくなる恐れがある。
【0057】
図8は、本発明法において、浸漬ノズル2のノズル内径の影響(モールドフラックス性欠陥に及ぼす影響)を調べた結果を示すものであり、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°、スラブ幅:1300mm、スラブ厚さ:260mm、鋳造速度:2.5m/分、上部磁極の直流磁界の強度:0.16T、下部磁極の直流磁界の強度:0.38Tの鋳造条件による試験結果を示している。その他の鋳造条件は、浸漬ノズルのノズル浸漬深さ:260mm、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積:4900mm2(70mm*70mm)、浸漬ノズル内壁面からの不活性ガス吹き込み量:12L/min、使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):0.6cpである。
鋳造されたスラブについて、超音波探傷装置を用い、スラブ表層2〜3mmの深さ位置に存在する粒径が概ね80μm以上のモールドフラックス性欠陥の個数を測定し、欠陥発生の程度を指数化したものである。図8によれば、本発明法において、特に、浸漬ノズル2のノズル内径を70〜90mmとすることにより、モールドフラックス性欠陥がより効果的に低減していることが判る。
【0058】
また、浸漬ノズル2の各溶鋼吐出孔20の開口面積は3600〜8200mm2とすることが好ましい。この溶鋼吐出孔20の開口面積が、本発明の効果に影響を及ぼすのは、溶鋼吐出孔20の開口面積が小さすぎると溶鋼吐出孔20から吐出される溶鋼流速が大きくなりすぎ、逆に開口面積が大きすぎると溶鋼流速が小さすぎ、いずれの場合も鋳型内の溶鋼流の流速を適正化しにくくなるからである。
図9は、本発明法において、浸漬ノズル2の各溶鋼吐出孔の開口面積の影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を調べた結果を示すものであり、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°、スラブ幅:1300mm、スラブ厚さ:260mm、鋳造速度:2.0m/分、上部磁極の直流磁界の強度:0.14T、下部磁極の直流磁界の強度:0.38Tの鋳造条件による試験結果を示している。その他の鋳造条件は、浸漬ノズルのノズル浸漬深さ:260mm、浸漬ノズル内径:80mm、浸漬ノズル内壁面からの不活性ガス吹き込み量:12L/min、使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):0.6cpである。
【0059】
鋳造されたスラブについて、超音波探傷装置を用い、スラブ表層2〜3mmの深さ位置に存在する粒径が概ね80μm以上の気泡性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の個数を測定し、欠陥発生の程度を指数化したものである。図9によれば、本発明法において、特に、浸漬ノズル2の各溶鋼吐出孔20の開口面積を3600〜8200mm2とすることにより、気泡性欠陥、モールドフラックス性欠陥がより効果的に低減していることが判る。
【0060】
また、その他の好ましい鋳造条件は以下のとおりである。
使用するモールドフラックスは、1300℃での粘度が0.4〜10cpのものが好ましい。モールドフラックスの粘度が高すぎると、円滑な鋳造に支障をきたす恐れがあり、一方、モールドフラックスの粘度が低すぎるとモールドフラックスの巻き込みが生じやすくなる。
本発明において連続鋳造を実施するには、制御用コンピュータを用い、鋳造するスラブ幅および鋳造速度などに基づき、上部磁極及び下部磁極の各直流磁場用コイルに通電すべき直流電流値を、予め設定された対照表または数式により求め、その直流電流を通電することにより、上部磁極および下部磁極に各印加する直流磁界の強度を自動制御することが好ましい。また、上記電流値を求める基礎とする鋳造条件には、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度および浸漬深さ(但し、メニスカスから溶鋼吐出孔上端までの距離)、スラブ厚や浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量を加えてもよい。
【0061】
図10は、鋳型内溶鋼の表面乱流エネルギー、凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での流速)、表面流速、凝固界面気泡濃度(溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度)を示す概念図である。
溶鋼の表面乱流エネルギーは、下式で求められるk値の空間平均値であり、流体力学で定義される3次元k-εモデルによる数値解析の流動シミュレーションによって定義される。このとき、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度、ノズル浸漬深さ、体積膨張を考慮した不活性ガス(例えば、Ar)吹き込み速度を考慮すべきである。例えば、不活性ガス吹き込み速度が15NL/分のときの体積膨張率は6倍となる。すなわち、数値解析モデルとは、運動量、連続の式、乱流k−εモデルと磁場ローレンツ力をカップリングし、ノズル吹き込みリフト効果を考慮したモデルである。(文献:「数値流体力学ハンドブック」(平成15年3月31日発行)のp.129〜の2方程式モデルの記載に基づく)
【0062】
【数1】
【0063】
凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での溶鋼流速)は、メニスカスの下方50mmで且つ固相率fs=0.5の位置での溶鋼流速の空間平均値とする。ここで、凝固界面流速については、凝固潜熱、伝熱を考慮し、さらに溶鋼粘度の温度依存性をも考慮すべきである。本発明者等による詳細な計算によると、固相率fs=0.5の凝固界面流速はデンドライト傾角測定(fs=0)の1/2の流速に相当することが判った。すなわち、計算上でfs=0.5で凝固界面流速0.1m/sであれば、鋳片のデンドライト傾角(fs=0)の凝固界面流速は0.2m/sとなる。なお、鋳片のデンドライト傾角(fs=0)の凝固界面流速は、凝固前面の固相率fs=0の位置の凝固界面流速を測定していることになる。ここで、デンドライト傾角とは、鋳片表面に対する法線方向に対し、表面から厚み方向に伸びているデンドライトの一次枝の傾角である。(文献:鉄と鋼,第61年(1975),第14号「連続鋳片の大型介在物と柱状晶成長方向との関係」,p.2982−2990)
【0064】
表面流速は、溶鋼表面(浴面)での溶鋼流速の空間平均値とする。これも前述の3次元数値解析モデルで定義される。ここで、表面流速は浸漬棒による抗力測定値と一致するが、本定義ではこれの面積平均位置となるので、数値計算より算出できる。
具体的には、表面乱流エネルギー、凝固界面流速及び表面流速の数値解析は、以下により実施できる。すなわち、数値解析モデルとして、磁場解析及びガス気泡分布に連成させた運動量、連続の式、乱流モデル(k−εモデル)を考慮したモデルを用い、例えば、汎用流体解析プログラムFluent等により計算を行って求めることができる。(文献:Fluent6.3のユーザーマニュアル(Fluent Inc.USA)の記載に基づく)
【0065】
表面乱流エネルギーは、モールドフラックスの巻き込みに大きな影響を与え、表面乱流エネルギーが増加するとモールドフラックスの巻き込みが生じやすくなり、モールドフラックス性欠陥が増加する。一方、表面乱流エネルギーが小さすぎると、モールドフラックスの滓化が不十分となる。図11は、表面乱流エネルギーと表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、凝固界面流速:0.08〜0.15m/s、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m3以下とした。図11によれば、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m2/s2の範囲において、モールドフラックスの巻き込みが効果的に抑えられ、且つモールドフラックスの滓化も問題がない。
【0066】
表面流速もモールドフラックスの巻き込みに大きな影響を与え、表面流速が大きくなるとモールドフラックスの巻き込みが生じやすくなり、モールドフラックス性欠陥が増加する。図12は、表面流速と表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m2/s2、凝固界面流速:0.08〜0.15m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m3以下とした。図12によれば、表面流速が0.30m/s以下において、モールドフラックスの巻き込みが効果的に抑えられている。したがって、表面流速は0.30m/s以下であることが好ましい。なお、表面流速が小さすぎると、溶鋼表面の温度が低下する領域が発生し、モールドフラックスの溶融不足によるノロカミや溶鋼の部分的凝固を助長するため操業が困難となる。このため、表面流速は0.05m/s以上であることが好ましい。
【0067】
凝固界面流速は、凝固シェルによる気泡や介在物の捕捉に大きな影響を与え、凝固界面流速が小さいと気泡や介在物が凝固シェルに捕捉されやすくなり、気泡性欠陥などが増加する。一方、凝固界面流速が大きすぎると、生成した凝固シェルの再溶解が起こり凝固シェルの成長を阻害する。最悪の場合はブレークアウトに繋がり操業の停止により生産性に致命的な問題を引き起こす。図13は、凝固界面流速と表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m3以下とした。図13によれば、凝固界面流速が0.08〜0.15m/sの範囲において、凝固シェルによる気泡の捕捉が効果的に抑えられ、且つ凝固シェルの成長阻害によるブレークアウト等の生産性の問題を生じない。
【0068】
凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bは、気泡の捕捉とモールドフラックスの巻き込み両方に影響を与え、比A/Bが小さいと気泡や介在物が凝固シェルに捕捉されやすくなり気泡性欠陥などが増加する。一方、比A/Bが大きすぎるとモールドパウダーの巻き込みが生じやすくなり、モールドフラックス性欠陥が増加する。図14は、比A/Bと表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面流速:0.08〜0.15m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m3以下とした。図14によれば、比A/Bが1.0〜2.0で表面品質欠陥が特に良好となる。したがって、凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bは1.0〜2.0であることが好ましい。
【0069】
以上述べた点から、鋳型内の溶鋼の流動状態は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速:0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速:0.08〜0.15m/sであることが好ましい。表面流速は0.05〜0.30m/sであることがより好ましく、また、凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bは1.0〜2.0であることが好ましい。
また、気泡性欠陥の発生に関与する他の因子としは、溶鋼−凝固シェル界面の気泡濃度(以下、単に「凝固界面気泡濃度」という)があり、この凝固界面気泡濃度が適正に制御されることにより、気泡の凝固界面での捕捉がより適切に抑えられる。
凝固界面気泡濃度は、メニスカスの下方50mmで且つ固相率fs=0.5の位置での直径1mmの気泡の濃度とし、前述の数値計算により定義される。ここで、計算上のノズルへの吹き込み気泡個数NはN=AD−5とし、Aは吹き込みガス速度、Dは気泡径で計算できる(文献:ISIJ Int. Vol.43(2003),No.10,p.1548−1555)。吹き込みガス速度は、一般には5〜20Nl/minである。
【0070】
凝固界面気泡濃度は、気泡の捕捉に大きな影響を与え、気泡濃度が高いと凝固シェルに捕捉される気泡量が増加する。図15は、凝固界面気泡濃度と表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面流速:0.08〜0.15m/sとした。図15によれば、凝固界面気泡濃度が0.008kg/m3以下において、凝固シェルに捕捉される気泡量が低レベルに抑えられている。したがって、凝固界面気泡濃度は0.008kg/m3以下であることが好ましい。
凝固界面気泡濃度は、鋳造するスラブ厚さと浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量により制御でき、鋳造されるスラブ厚さを220mm以上、浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量を25NL/分以下とすることが好ましい。
【0071】
浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔20から吐出される溶鋼は気泡を随伴しており、スラブ厚さが小さすぎると、溶鋼吐出孔20から吐出される溶鋼流が鋳型長辺部側の凝固シェル5に近づき、凝固界面気泡濃度が高くなり、凝固シェル界面に気泡が捕捉されやすくなる。特に、スラブ厚さが220mm未満では、本発明のような溶鋼流の電磁流動制御を実施しても、上記のような理由により気泡分布の制御が難しくなる。一方、スラブ厚さが300mmを超えると、熱延工程の生産性が低くなる難点がある。このため鋳造されるスラブ厚さは220〜300mmとすることが好ましい。
【0072】
浸漬ノズル2の内壁面からの不活性ガス吹き込み量が多くなると、凝固界面気泡濃度が高くなり、凝固シェル界面に気泡が捕捉されやすくなる。特に、不活性ガス吹き込み量が20NL/分を超えると、本発明のような溶鋼流の電磁流動制御を実施しても、上記のような理由により気泡分布の制御が難しくなる。一方、不活性ガス吹き込み量が少なすぎるとノズル閉塞を起こしやすく、却って偏流を大きくするために流速の制御が困難となる。このため、浸漬ノズル2の内壁面からの不活性ガス吹き込み量は3〜25NL/分とすることが好ましい。
【実施例】
【0073】
図1および図2に示すような連続鋳造機、すなわち、鋳型外側(鋳型側壁の背面側)に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備え、上部磁極の磁場のピーク位置と下部磁極の磁場のピーク位置の間に浸漬ノズルの溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動する連続鋳造方法により、約300トンのアルミキルド極低炭素鋼を鋳造した。
また、比較例の一部については、上記のような直流磁界印加による溶鋼流の制動を行うことなく実施した。
【0074】
浸漬ノズルからの吹き込み不活性ガスにはArガスを使用し、このArガスの吹き込み量は、ノズル閉塞が起こらないようにスライディングノズルの開度に応じて、5〜12NL/minの範囲内で調整した。連続鋳造機の仕様および他の鋳造条件は以下のとおりである。
連続鋳造機の仕様および他の鋳造条件は以下のとおりである。
・浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°
・浸漬ノズルの浸漬深さ:230mm
・浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の形状:サイズ70mm×80mmの長方形状
・浸漬ノズル内径:80mm
・浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積:5600mm2
・使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):2.5cp
【0075】
溶鋼を表4〜表13に示すような条件で連続鋳造した。連続鋳造されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板(板厚2.8〜4.5mm)とした後、塩酸で酸洗し、次いで冷間圧延して冷延鋼板とした。実施例のうち、鋼板温度T(酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度)が346K以下のものは酸洗後の加熱を行わなかった実施例、346K超のものはArガス雰囲気の加熱炉で加熱(コイルの加熱)を行った実施例である。酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoは、例えば図3に示すような酸洗減量と水素濃度との関係を予め求めておき、実際の酸洗減量に基づいて求めた。また、臨界水素濃度Hcは、熱延鋼板の板厚と冷間圧延の仕上板厚に応じ、図5に示すようなデータに基づいて求めた。
【0076】
得られた冷延鋼板に合金化溶融亜鉛めっき処理を施した。この合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、オンライン表面欠陥計で表面欠陥を連続的に測定し、そのなかから欠陥形態(外観)あるいはSEM分析、ICP分析等によりスリバー欠陥(モールドフラックス性欠陥、気泡性欠陥、介在物性欠陥)およびブリスター欠陥を判別し、コイル長さ1m当たりのトータルの欠陥個数に基づき、Znめっき後欠陥を下記基準で評価した。
○:欠陥個数が0.01個以下のもの
△:欠陥個数が0.01個超、0.05個以下のもの
×:欠陥個数が0.05個超、0.10個以下のもの、又は、欠陥個数は0.05個以下であるが、ブリスター欠陥個数が0.0350×10−2個/m超のもの
××:欠陥個数が0.10個超のもの
【0077】
また、ブリスター欠陥について、コイル長さ1m当たりの欠陥個数を下記基準で評価した。
◎:ブリスター欠陥個数が0.0200×10−2個以下のもの
○:ブリスター欠陥個数が0.0200×10−2個超、0.0250×10−2個以下のもの
△:ブリスター欠陥個数が0.0250×10−2個超、0.0350×10−2個以下のもの
×:ブリスター欠陥個数が0.0350×10−2個超のもの
以上の評価結果を、表4〜表13に併せて示す。なお、スラブ幅が1700mmを超えるスラブを鋳造する実施例については、実機の結果に基づくシミュレーションによるデータを示した。
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
【表7】
【0082】
【表8】
【0083】
【表9】
【0084】
【表10】
【0085】
【表11】
【0086】
【表12】
【0087】
【表13】
【符号の説明】
【0088】
1 鋳型
2 浸漬ノズル
3a,3b 上部磁極
4a,4b 下部磁極
5 凝固シェル
6 メニスカス
10 鋳型長辺部
11 鋳型短辺部
21 底部
20 溶鋼吐出孔
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブリスターなどの表面欠陥が生じにくい鋼板を製造するための製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用や缶用の冷延鋼板或いは冷延鋼板にめっき処理などを施した表面処理鋼板について、表面品質に対する要求がより一層厳しくなりつつある。なかでも、鋼板表面に数mmに及ぶ範囲で「ふくれ」となって現れるブリスターと呼ばれる表面欠陥は、加工により開口し、割れや耐食性の劣化の原因にもなるので、鋼板メーカーでは、この欠陥が発見されると製品出荷の取り止めを余儀なくされる場合もあり、大きな歩留まり低下の原因になる。
【0003】
冷延鋼板のブリスターは、非特許文献1に説明されているように、熱間圧延後の酸洗時に鋼板に侵入し、冷間圧延後に鋼板内の非金属介在物、気泡、偏析、内部割れなどの部位に滞留している水素が、焼鈍時の加熱とともに体積膨張して圧力を高め、加熱により軟化した鋼板を変形させたふくれ状の表面欠陥である。
このようなブリスターの発生を抑制する方法として、特許文献1には、特定の成分組成を有するTi含有極低炭素鋼からなり、成分組成との関係で決まる所定の板厚を有する冷延鋼板に、所定の条件で連続焼鈍または連続溶融亜鉛めっきを施すようにした、冷延鋼板または溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】小若正倫著、「金属の腐食損傷と防食技術」、アグネ社、1983年、p.207
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2936963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、鋼板表層部に存在する水素の放出には有効であると考えられるが、鋼板内部に拡散した水素が気泡となって発生するブリスターを抑制できない場合がある。
また、最近では、自動車外板用鋼板の品質厳格化に伴い、これまで問題にならなかった微小な気泡やモールドフラックスの巻き込みに起因する欠陥が問題視されるようになりつつあり、従来の連続鋳造方法では、そのような厳しい品質要求に十分に対応できない。特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、溶融めっき後、加熱して母材鋼板の鉄成分を亜鉛めっき層に拡散させるものであり、母材鋼板の表層性状が合金化溶融亜鉛めっき層の品質に大きく影響する。すなわち、母材鋼板の表層に気泡性やモールドフラックス性の欠陥があると、小さな欠陥であってもめっき層の厚みにむらが生じ、それが表面に筋状の欠陥として現れ、自動車外板などのような品質要求の厳しい用途には使用できなくなる。
【0007】
したがって本発明の目的は、ブリスターなどの表面欠陥が生じにくい高品質の鋼板を安定して製造することができる鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述したように、ブリスターと呼ばれる冷延鋼板の欠陥は、熱間圧延後の酸洗時に鋼板に侵入し、冷間圧延後に鋼板内の非金属介在物、気泡、偏析、内部割れなどの部位に滞留している水素が、焼鈍時の加熱とともに体積膨張して圧力を高め、加熱により軟化した鋼板を変形させたふくれ状の表面欠陥である。
本発明者らは、このようなブリスターの発生と熱延鋼板の酸洗条件および冷間圧延条件との関係について、さらには使用するスラブについて検討した結果、以下のような知見を得た。
【0009】
(1)酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Hoは熱延鋼板の酸洗減量と良い相関があり、このため、酸洗減量に基づいて酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Hoを求めることができる。
(2)酸洗終了後、時間t1(秒)を経過した時点pでの熱延鋼板中の水素濃度H1(質量ppm)は、酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Ho(質量ppm)と、酸洗終了後、当該時点pまでの鋼板の最高表面温度T1(K)との関係で、下記(i)式により表すことができる。したがって、下記(i)式の時間t1を「酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間t」とし、最高表面温度T1を「酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T」とすれば、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hを求めることができる。
H1=Ho・exp{−0.002×(T1+t1/100)} …(i)
【0010】
(3)ブリスターによる鋼板の表面品質不良が発生するか否かは、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hと冷間圧延条件(圧下条件)で決まり、冷間圧延条件に応じて、ブリスターによる表面品質不良(表面品質不合格)が発生する「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」が決まる。
(4)以上のことから、上記(i)式で求められる冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hが臨界水素濃度Hcにならないように、酸洗終了後から冷間圧延開始までの時間t又/及び鋼板の最高表面温度Tを制御することにより、ブリスターの発生を抑制し、ブリスターによる表面品質欠陥不良(表面品質不合格)の発生を防止することができる。
【0011】
(5)上記(4)の条件で鋼板を製造する際に、鋳型外側に電磁力で溶鋼流を制動するための各々1対の上部磁極と下部磁極を備えた連続鋳造機を用い、上部磁極と下部磁極に各々印加される直流磁界によって鋳型内の溶鋼流動を制御しながらスラブを連続鋳造し、このスラブを圧延して得られた熱延鋼板を用いることにより、特に高品質の鋼板を製造することができる。その理由は次のとおりである。上記のように直流磁界によって鋳型内の溶鋼流動を制御しつつスラブの鋳造を行うことにより、モールドフラックスの巻き込みに起因するモールドフラックス性欠陥を防止できるとともに、比較的大きいサイズの気泡や非金属介在物による欠陥を防止できる。しかし、この連続鋳造法では、より微小な気泡や非金属介在物が凝固シェルに捕捉されるのを確実に防止することは難しく、このような微小気泡や介在物が内部まで潜り込んで、これを起点として水素(H2)による膨れ状欠陥(ブリスター欠陥)を引き起こす。これに対して、上記(4)の条件で酸洗および冷間圧延を行えば、微小な気泡や非金属介在物が原因のブリスターを抑えることができ、この効果と上記連続鋳造法による欠陥防止効果が複合化することにより、特に欠陥が少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0012】
また、上記連続鋳造法において、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化することにより、気泡性欠陥・介在物性欠陥とモールドフラックス性欠陥の発生をともに効果的に抑制することが可能であり、したがって、このような鋳造法で鋳造されたスラブを用いることにより、極めて微小な気泡や非金属介在物の巻き込みに起因するブリスターを含む、気泡および非金属介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した表面欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、鋼の連続鋳造を行うことによりスラブを鋳造し、
該スラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、該熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(1)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御することを特徴とする鋼板の製造方法。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(1)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
[2]上記[1]の製造方法において、酸洗後、冷間圧延前の熱延鋼板を、酸洗終了直後の鋼板温度よりも高い温度に加熱することを特徴とする鋼板の製造方法。
【0014】
[3]上記[1]または[2]の製造方法において、スラブの連続鋳造においては、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備えた連続鋳造機を用い、鋳造速度を0.75m/分以上とし、且つ下記条件(イ)、(ロ)に従って連続鋳造を行うことを特徴とする鋼板の製造方法。
・条件(イ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
・条件(ロ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【0015】
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの製造方法において、浸漬ノズルのノズル浸漬深さを230〜290mmとすることを特徴とする鋼板の製造方法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの製造方法において、浸漬ノズルのノズル内径(但し、溶鋼吐出孔の形成位置でのノズル内径)を70〜90mmとすることを特徴とする鋼板の製造方法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの製造方法において、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積を3600〜8100mm2とすることを特徴とする鋼板の製造方法。
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの製造方法において、鋳型内の溶鋼は、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速が0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速が0.08〜0.15m/sであることを特徴とする鋼板の製造方法。
【0016】
[8]上記[7]の製造方法において、鋳型内の溶鋼は、表面流速が0.05〜0.30m/sであることを特徴とする鋼板の製造方法。
[9]上記[7]または[8]の製造方法において、鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での流速Aと表面流速Bとの比A/Bが1.0〜2.0であることを特徴とする鋼板の製造方法。
[10]上記[7]〜[9]のいずれかの製造方法において、鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度が0.008kg/m3以下であることを特徴とする鋼板の製造方法。
[11]上記[10]の製造方法において、鋳造されるスラブ厚さが220〜300mm、浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量が3〜25NL/分であることを特徴とする鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の鋼板の製造方法によれば、ブリスターなどの欠陥が生じにくい高品質の冷延鋼板を安定して製造することができる。
また、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化してスラブを鋳造し、このスラブを圧延して得られた熱延鋼板を用いた場合には、極めて微小な気泡や非金属介在物の巻き込みに起因するブリスターを含む、気泡および非金属介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した表面欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施に供される連続鋳造機の鋳型および浸漬ノズルの一実施形態を示す縦断面図
【図2】図1の実施形態における鋳型および浸漬ノズルの水平断面図
【図3】熱延鋼板の酸洗減量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoとの関係を示すグラフ
【図4】Hoを酸洗終了直後における熱延鋼板中の水素濃度、T0を同じく鋼板表面温度とした場合、Ho・exp{−0.002×(T0+t1/100)}と酸洗終了から時間t1を経過した時点での鋼板中の水素濃度H1との関係を示すグラフ
【図5】冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hとブリスター欠陥発生個数との関係を、冷間圧延の仕上げ板厚で整理して示すグラフ
【図6】浸漬ノズルの溶鋼吐出角度と表面欠陥の発生率(欠陥指数)との関係を示すグラフ
【図7】本発明法において、浸漬ノズルのノズル浸漬深さの影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を示すグラフ
【図8】本発明法において、浸漬ノズルのノズル内径の影響(モールドフラックス性欠陥に及ぼす影響)を示すグラフ
【図9】本発明法において、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積の影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を示すグラフ
【図10】鋳型内の溶鋼の表面乱流エネルギー、凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での流速)、表面流速および凝固界面気泡濃度(溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度)を説明するための概念図
【図11】鋳型内の溶鋼の表面乱流エネルギーと表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図12】鋳型内の溶鋼の表面流速と表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図13】鋳型内の溶鋼の凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での流速)と表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図14】鋳型内の溶鋼の凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bと表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【図15】鋳型内の溶鋼の凝固界面気泡濃度(溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度)と表面欠陥率(欠陥個数)との関係を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の鋼板の製造方法では、鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、鋼の連続鋳造を行うことによりスラブを鋳造する。そして、このスラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延して冷延鋼板とする。
【0020】
図1および図2は、本発明の実施に供される連続鋳造機の鋳型および浸漬ノズルの一実施形態を示すもので、図1は鋳型および浸漬ノズルの縦断面図、図2は同じく水平断面図(図1のII−II線に沿う断面図)である。
図において、1は鋳型であり、この鋳型1は鋳型長辺部10(鋳型側壁)と鋳型短辺部11(鋳型側壁)とにより水平断面矩形状に構成されている。
2は浸漬ノズルであり、この浸漬ノズル2を通じて鋳型1の上方に設置されたタンディッシュ(図示せず)内の溶鋼を鋳型1内に注入する。この浸漬ノズル2は、筒状のノズル本体の下端に底部21を有するとともに、この底部21の直上の側壁部に、両鋳型短辺部11と対向するように1対の溶鋼吐出孔20が貫設されている。
溶鋼中のアルミナなどの非金属介在物が浸漬ノズル2の内壁面に付着・堆積してノズル閉塞を生じることを防止するため、浸漬ノズル2のノズル本体内部や上ノズル(図示せず)の内部に設けられたガス流路にArガスなどの不活性ガスが導入され、この不活性ガスがノズル内壁面からノズル内に吹き込まれる。
【0021】
タンディッシュから浸漬ノズル2に流入した溶鋼は、浸漬ノズル2の1対の溶鋼吐出孔20から鋳型1内に吐出される。吐出された溶鋼は、鋳型1内で冷却されて凝固シェル5を形成し、鋳型1の下方に連続的に引き抜かれ鋳片となる。鋳型1内のメニスカス6には、溶鋼の保温剤および凝固シェル5と鋳型1との潤滑剤として、モールドフラックスが添加される。
また、浸漬ノズル2の内壁面や上ノズルの内部から吹き込まれた不活性ガスの気泡は、溶鋼吐出孔20から溶鋼とともに鋳型1内に吐出される。
【0022】
鋳型1の外側(鋳型側壁の背面)には、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極3a,3bと1対の下部磁極4a,4bが設けられ、これら上部磁極3a,3bと下部磁極4a,4bは、それぞれ鋳型長辺部10の幅方向において、その全幅に沿うように配置されている。
上部磁極3a,3bと下部磁極4a,4bは、鋳型1の上下方向において、上部磁極3a,3bの磁場のピーク位置(上下方向でのピーク位置:通常は上部磁極3a,3bの上下方向中心位置)と下部磁極4a,4bの磁場のピーク位置(上下方向でのピーク位置:通常は下部磁極4a,4bの上下方向中心位置)の間に溶鋼吐出孔20が位置するように、配置される。また、1対の上部磁極3a,3bは、通常、メニスカス6をカバーする位置に配置される。
【0023】
浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔20から鋳型短辺部方向に吐出された溶鋼は、鋳型短辺部11の前面に生成した凝固シェル5に衝突して下降流と上昇流に分かれる。前記1対の上部磁極3a,3bと1対の下部磁極4a,4bには、各々直流磁界が印加されるが、これら磁極による基本的な作用は、直流磁界中を移動する溶鋼に作用する電磁気力を利用して、上部磁極3a,3bに印加される直流磁界で溶鋼上昇流を制動(減速させる)し、下部磁極4a,4bに印加される直流磁界で溶鋼下降流を制動(減速させる)するものである。
【0024】
本発明の鋼板の製造法では、上述した連続鋳造法で鋳造されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、この熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するが、その際に、下記(1)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御する。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(1)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
以上のような鋼板の製造方法は、特に、酸洗〜冷間圧延を連続して行う酸洗・冷間圧延連続ライン(PPCMライン,PPCM;Pickling and Profile-Control Cold Mill)で実施される場合に効果的である。これは、このようなPPCMラインにおいて製造される鋼板に、特にブリスターが生じやすいからである。
【0025】
以下の説明において、鋼板の水素濃度の実測値は、鋼板を800℃まで昇温し、鋼板から放出された水素を質量分析装置で分析した値である。
表1は、5つの酸洗槽が直列に配置された酸洗設備において、熱延鋼板を種々の条件で酸洗し、鋼板の酸洗減量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoを調べた結果を示している。図3は、その結果に基づき、酸洗減量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoとの関係を示したものである。酸洗条件には酸濃度、酸洗温度・時間があるが、表1に示すように、酸洗条件による酸洗減量の依存性は見られない。これは、酸洗前の鋼板の表面状態(スケール厚み等)によって酸洗減量が変わるためであると考えられる。一方、酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoは、図3に示すように、酸洗減量と良い相関が見られる。したがって、酸洗減量に基づいて酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoを求めることができる。
【0026】
酸洗終了直後における熱延鋼板中の水素濃度Hoと、同じく鋼板表面温度T0をそれぞれ測定するとともに、この熱延鋼板が酸洗終了から時間t1を経過した時点での鋼板中の水素濃度H1を測定したところ、表2の結果が得られた。この表2の結果から、酸洗を終了した熱延鋼板からは経時的に水素が放出され、熱延鋼板中の水素濃度Ho(質量ppm)、同じく水素濃度H1(質量ppm)、時間t1(秒)及び鋼板表面温度T0(K)には、近似的に下記(ii)式の関係があることが判った。図4に、Ho・exp{−0.002×(T0+t1/100)}と酸洗終了から時間t1を経過した時点での鋼板中の水素濃度H1との関係を示す。ここで、鋼板中の水素濃度H1が、時間t1だけでなく、酸洗終了直後における鋼板表面温度T0にも影響を受ける理由は、水素の放出量は鋼板温度、特に到達最高温度に影響(支配)され、上記試験条件では、酸洗終了直後が最も高い鋼板温度(到達最高温度)であったことによる。
H1=Ho・exp{−0.002×(T0+t1/100)} …(ii)
したがって、酸洗終了後、冷間圧延開始前に、鋼板を酸洗終了直後の鋼板温度よりも高い温度に加熱した場合には、上記(ii)式の鋼板表面温度T0は、その加熱時の鋼板表面温度(到達最高温度)ということになる。上記のとおり、酸洗を終了した熱延鋼板からの水素の放出量は鋼板の到達最高温度に影響(支配)されるためである。
【0027】
以上のことから、酸洗終了後、時間t1(秒)を経過した時点pでの熱延鋼板中の水素濃度H1(質量ppm)は、酸洗終了直後の熱延鋼板中の水素濃度Ho(質量ppm)と、酸洗終了後〜当該時点p間における鋼板の最高表面温度T1(K)との関係で、下記(i)式により表せることが判った。したがって、下記(i)式の時間t1を「酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間t」とし、最高表面温度T1を「酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T」とすれば、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hを求めることができる。
H1=Ho・exp{−0.002×(T1+t1/100)} …(i)
【0028】
一方、ブリスターによる表面品質不良が発生するか否かは、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hと冷間圧延条件(圧下条件)で決まり、冷間圧延条件に応じて、ブリスターによる表面品質不良(表面品質不合格)が発生する「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」が決まることが判った。
板厚4mmの熱延鋼板を冷間圧延で種々の仕上げ板厚(冷間圧延の最終板厚)に圧延した場合について、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hと、冷間圧延での仕上げ板厚と、ブリスター欠陥発生個数を調査したところ、表3に示す結果が得られた。この結果に基づき、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hとブリスター欠陥発生個数との関係を、冷間圧延の仕上げ板厚で整理したものが図5である。
【0029】
これによれば、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hがある値を超えると、ブリスター欠陥は急激に増加することが判る。また、冷間圧延の仕上げ板厚が小さくなるほど(つまり、冷間圧延の圧下量が大きくなるほど)、ブリスター欠陥が急激に増加する上記水素濃度Hの値は小さくなることが判る。これは、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度Hが高いほど、また、冷間圧延での圧下量が大きいほど、鋼板内に滞留した水素の内部圧力の上昇が大きくなるためであると考えられる。ここで、一般に、ブリスター欠陥個数が0.0350×10−2個/m程度を超えるとブリスター欠陥による表面品質不良が顕在化するようになるので、「ブリスターによる表面品質不良の発生」(表面品質不合格)の指標を、例えば、ブリスター欠陥個数:0.0350×10−2個/m超とすることができる。
【0030】
以上の点から、ブリスターによる表面品質不良が発生する「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」を、冷間圧延条件(圧下条件)に応じて決めることが可能であることが判った。具体的には、冷間圧延の圧下率で決まる仕上げ板厚に応じて、冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hcを決めることができる。例えば、熱延鋼板の板厚が4mmの場合には、図5の結果に基づいて、冷間圧延での各仕上げ板厚に応じて鋼板中の臨界水素濃度Hcを以下のように定めることができる。
冷間圧延での仕上げ板厚 鋼板中の臨界水素濃度Hc
1.8mm 0.030質量ppm
1.5mm 0.025質量ppm
1.2mm 0.020質量ppm
【0031】
以上のことから、冷間圧延条件に応じて、冷間圧延直前の鋼板中の水素濃度が臨界水素濃度Hcにならないように、酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間tや鋼板の最高表面温度Tを制御することにより、ブリスターによる表面品質不良の発生を防止できることになる。このため本発明では、熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(1)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御するものである。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(1)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度T(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
このような本発明法では、上述のようにして、冷間圧延条件(圧下条件)に応じた「冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度Hc」を予め定めておく必要がある。また、酸洗量と酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoとの関係についても、予め求めておくことが好ましい。
【0032】
また、後述する実施例に示されるように、Hc値に対してHo・exp{−0.002×(T+t/100)}値が小さいほど、ブリスター欠陥発生の改善効果が大きく、とりわけ、両者の差(=Hc値−Ho・exp{−0.002×(T+t/100)}値)が0.005以上のものは、ブリスター欠陥の発生が特に顕著に抑えられるので、Hc値−Ho・exp{−0.002×(T+t/100)}値を0.005以上とすることが特に好ましい。
熱延鋼板としては、上述した連続鋳造法(好ましくは、後述する特定の連続鋳造法)で鋳造されたスラブを熱間圧延したものを用いるが、さきに(5)で述べたような理由により、極めて微小な気泡や非金属介在物(以下、単に「介在物」という場合がある)の巻き込みに起因するブリスターを含む、気泡および非金属介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0033】
本発明法を実施するには、例えば、酸洗後の鋼板をコイルの状態で室温で放置し、上記(1)式を満足する時間t後に冷間圧延を行う。また、酸洗後の熱延鋼板を加熱して鋼板の最高表面温度Tを高めれば、上記(1)式を満足する時間tを短縮できるので、PPCMラインにも適用でき、生産性の向上を図ることができる。熱延鋼板の加熱には、ガスバーナー加熱、電気ヒーター加熱、高周波誘導加熱などを適用できるが、その後冷間圧延を行うので、加熱は酸素分圧が制御された不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。また、PPCMラインに適用する場合は、ロール間距離を変えられるルーパーを用いればラインスピードの調整は可能である。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
本発明では、上部磁極と下部磁極に各々印加される直流磁界によって鋳型内の溶鋼流動を制御しながらスラブを連続鋳造し、このスラブを圧延して得られた熱延鋼板を用いるものであり、上記のように直流磁界によって鋳型内の溶鋼流動を制御しつつスラブの鋳造を行うことにより、モールドフラックスの巻き込みに起因するフラックス性欠陥を防止できるとともに、比較的大きいサイズの気泡や非金属介在物による欠陥を防止できる。しかし、この連続鋳造法では、より微小な気泡や非金属介在物が凝固シェルに捕捉されるのを確実に防止することは難しく、このような微小気泡や介在物の巻き込みに起因するブリスターが生じる恐れがある。これに対して、本発明条件で酸洗および冷間圧延を行えば、微小な気泡や非金属介在物が原因のブリスターを抑えることができ、この効果と上記連続鋳造法による欠陥防止効果が複合化することにより、特に欠陥が少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0038】
また、上記連続鋳造法において、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を最適化することにより、気泡性欠陥・介在物性欠陥とフラックス性欠陥の発生をともに効果的に抑制することが可能であり、したがって、このような鋳造法で鋳造されたスラブを用いることにより、極めて微小な気泡や非金属介在物の巻き込みに起因するブリスターを含む、気泡および非金属介在物やモールドフラックスの巻き込みに起因した表面欠陥が非常に少ない高品質の鋼板を製造することができる。
【0039】
以下、その連続鋳造法について説明する。
連続鋳造法に関して、本発明者が数値シミュレーション等により検討した結果、気泡性欠陥、介在物性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の発生に関与する因子(一次因子)としては、表面乱流エネルギー(表面近傍での渦流の発生に関与)、溶鋼−凝固シェル界面(以下、単に「凝固界面」という場合がある)の溶鋼流速(以下、単に「凝固界面流速」という場合がある)、表面流速があり、これらが欠陥発生に影響していることが判った。また特に、表面流速、表面乱流エネルギーは、モールドフラックスの巻き込みに影響を与え、凝固界面流速は気泡性欠陥や介在物性欠陥に影響を与えることが判った。そして、これらの知見に基づき、印加される上部直流磁界、下部直流磁界の各々作用について検討した結果、以下の点が明らかとなった。
【0040】
(1)上部電極に直流磁界を作用させると溶鋼の上昇流(溶鋼吐出孔からの噴流がモールド短辺と衝突して反転することで生じる上昇流)が制動され、表面流速および表面乱流エネルギーを低減することができる。但し、このような直流磁界だけでは、表面流速、表面乱流エネルギーおよび凝固界面流速を理想的状態にコントロールすることはできない。
(2)上記の点から、上部磁極において直流磁界を印加することは、気泡性欠陥・介在物性欠陥とモールドフラックス性欠陥の両方を防止するのに有効であると考えられるが、単に直流磁界を印加しただけでは十分な効果は得られず、鋳造条件(鋳造するスラブ幅、鋳造速度)、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の印加条件が相互に関連し、それらに最適範囲が存在する。
【0041】
具体的には、鋳造するスラブ幅および鋳造速度に応じて、上部磁極と下部磁極に各々印加する直流磁界の強度を、基本的に次の(I),(II)のように最適化すればよいことが判った。
(I)各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に小さい「スラブ幅−鋳造速度」領域: スループット量が相対的に少ないので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に小さい。このため上昇流(反転流)も小さくなるので、上昇流を制動するための上部磁極の直流磁界の強度を相対的に小さくする。一方、下降流に随伴する介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極の直流磁界の強度を十分に大きくする。以上のような直流磁界を印加することにより、表面乱流エネルギー、凝固界面流速および表面流速を適正範囲に制御し、気泡性欠陥・介在物性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の発生を防止する。
【0042】
(II)各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に大きい「スラブ幅−鋳造速度」領域: スループット量が相対的に大きいので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に大きい。このため上昇流(反転流)も大きくなるので、上昇流を制動するための上部磁極の直流磁界の強度を相対的に大きくする。一方、上記(I)と同様に、下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極の直流磁界の強度を十分に大きくする。以上のような直流磁界を印加することにより、表面乱流エネルギー、凝固界面流速および表面流速を適正範囲に制御し、気泡性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の発生を防止する。
【0043】
この鋳造方法では、溶鋼吐出孔20からの溶鋼吐出角度α、すなわち水平方向から下向きの溶鋼吐出角度αが10°以上30°未満の浸漬ノズルを用いることが好ましい。溶鋼吐出角度αが10°未満では、上部磁極3a,3bの直流磁界で溶鋼上昇流を制動しても、溶鋼表面の乱れを適切に制御できず、モールドフラックスの巻き込みを生じてしまう。これに対して、溶鋼吐出角度αが大きくなると、非金属介在物や気泡が溶鋼下降流によって鋳型下方に運ばれて凝固シェルに捕捉されやすくなり、一方において、溶鋼吐出角度αが30°未満では、直流磁場制御で溶鋼流を最適化できることが判った。また、以上の観点から、溶鋼吐出角度αのより好ましい下限は15°であり、また、より好ましい上限は25°である。
【0044】
図6は、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度αと表面欠陥の発生率(欠陥指数)との関係を示すもので、後述する条件(イ)、(ロ)での磁界強度、鋳造速度およびスラブ幅が好適範囲を満足する種々の条件で連続鋳造試験を行い、この連続鋳造されたスラブを熱間圧延および冷間圧延して鋼板とし、この鋼板に合金化溶融亜鉛めっき処理を施し、溶鋼吐出角度αが表面欠陥の発生に及ぼす影響を調べたものである。この試験では、合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、オンライン表面欠陥計で表面欠陥を連続的に測定し、そのなかから欠陥外観およびSEM分析、ICP分析等により製鋼性欠陥(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥・介在物性欠陥)を判別し、コイル長さ100m当たりの欠陥個数を下記基準で評価し、表面欠陥指数とした。
3:欠陥個数が0.30個以下
2:欠陥個数が0.30個超、1.00個以下
1:欠陥個数が1.00個超
【0045】
この鋳造方法では、生産性の観点から鋳造速度を0.75m/分以上とするが、さらに、鋳造するスラブ幅と鋳造速度に応じて、上部磁極3a,3bと下部磁極4a,4bに各々印加する直流磁界の強度を、下記条件(イ)、(ロ)のように最適化することにより、モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥・介在物性欠陥の原因となる、凝固シェル5へのモールドフラックスの巻き込み捕捉と、同じく微小気泡(主に浸漬ノズル内壁面から吹き込まれた不活性ガスの気泡)や介在物の捕捉を抑制するものである。
【0046】
条件(イ): 鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
【0047】
浸漬ノズル2から吐出した溶鋼流が鋳型短辺部側の凝固シェルに衝突し、上方側への反転流と下方側への下降流が生じるが、上記(a)〜(i)のように各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に小さい場合(条件(ロ)と比較して)には、スループット量が相対的に少ないので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に小さい。このため上昇流(反転流)も小さくなるので、上昇流を制動するための上部磁極3a,3bの直流磁界の強度を相対的に小さくする。一方、下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度を十分に大きくする。以上のような直流磁界を印加することにより、微細な介在物や気泡であっても凝固シェルへの捕捉を適切に防止できる。
【0048】
上記(a)〜(i)の場合、上部磁極3a、3bの直流磁界の強度が0.03T未満では、その直流磁界による溶鋼上昇流の制動効果が不十分で湯面変動が大きく、モールドフラックスの巻き込みが生じやすい。一方、強度が0.15Tを超えると、溶鋼上昇流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
また、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度が0.24T未満では、その直流磁界による溶鋼下降流の制動効果が不十分であるため、溶鋼下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込み、凝固シェルに捕捉されやすくなる。一方、強度が0.45Tを超えると、溶鋼下降流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
【0049】
条件(ロ): 鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【0050】
上記(j)〜(s)のように各スラブ幅に対応して設定される鋳造速度が相対的に大きい場合(条件(イ)と比較して)には、必然的にスループット量が相対的に多くなるので、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔からの噴流速度も相対的に大きい。このため上昇流(反転流)も大きくなるので、したがって、上昇流を制動するための上部磁極3a,3bの直流磁界の強度を相対的に大きくする。一方、条件(イ)の場合と同様に、下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込むことを抑制するとともに、下向きの溶鋼の流れを上向きに変え、下部磁界よりも上の領域での凝固界面流速を増加させることで、非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されないようにするため、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度を十分に大きくする。以上のような直流磁界を印加することにより、微細な介在物や気泡であっても凝固シェルへの捕捉を適切に防止できる。
【0051】
上記(j)〜(s)の場合、上部磁極3a、3bの直流磁界の強度が0.15T以下では、その直流磁界による溶鋼上昇流の制動効果が不十分で湯面変動が大きく、モールドフラックスの巻き込みが生じやすい。一方、強度が0.30Tを超えると、溶鋼上昇流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
また、下部磁極4a,4bの直流磁界の強度が0.24T未満では、その直流磁界による溶鋼下降流の制動効果が不十分であるため、溶鋼下降流に随伴する非金属介在物や気泡が下方向に潜り込み、凝固シェルに捕捉されやすくなる。一方、強度が0.45Tを超えると、溶鋼下降流による洗浄効果が低下するため非金属介在物や気泡が凝固シェルに捕捉されやすくなる。
【0052】
なお、以上述べた連続鋳造法は、スラブ幅と鋳造速度に応じて規定される、下記(i)、(ii)のような2つの連続鋳造法として捉えることもできる。
(i) スラブの連続鋳造においては、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備えた連続鋳造機を用い、鋳造速度0.75m/分以上で、スラブ幅と鋳造速度を下記(a)〜(i)のいずれかの条件とし、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとして連続鋳造する連続鋳造方法。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
【0053】
(ii) スラブの連続鋳造においては、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備えた連続鋳造機を用い、鋳造速度0.75m/分以上で、スラブ幅と鋳造速度を下記(j)〜(s)のいずれかの条件とし、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとして連続鋳造する連続鋳造方法。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【0054】
以下、上記連続鋳造法において、その効果が最も発現しやすい、特に好ましい鋳造条件について説明する。
まず、浸漬ノズル2のノズル浸漬深さは230〜290mmとすることが好ましい。ここで、ノズル浸漬深さとは、メニスカス6から溶鋼吐出孔20上端までの距離をいう。
このノズル浸漬深さが、本発明の効果に影響を及ぼすのは、ノズル浸漬深さが大きすぎても、小さすぎても、浸漬ノズル2から吐出される溶鋼の流動量や流速が変化したときに、鋳型内での溶鋼の流動状態が大きく変化するため、溶鋼流の適切な制御が難しくなるためである。すなわち、ノズル浸漬深さが230mm未満では、浸漬ノズル2から吐出される溶鋼の流動量や流速が変化したときに、ダイレクトに溶鋼表面(メニスカス)が変動し、表面の乱れが大きくなってモールドフラックスの巻き込みが起こり易くなり、一方、290mmを超えると、溶鋼の流動量などが変動したときに、下方への流速が大きくなって非金属系介在物や気泡の潜り込みが大きくなる傾向がある。
【0055】
図7は、本発明法において、浸漬ノズル2のノズル浸漬深さの影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を調べた結果を示すものであり、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°、スラブ幅:1200mm、スラブ厚さ:260mm、鋳造速度:1.8m/分、上部磁極の直流磁界の強度:0.12T、下部磁極の直流磁界の強度:0.38Tの鋳造条件による試験結果を示している。その他の鋳造条件は、浸漬ノズル内径:80mm、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積:4900mm2(70mm*70mm)、浸漬ノズル内壁面からの不活性ガス吹き込み量:12L/min、使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):0.6cpである。
鋳造されたスラブについて、超音波探傷装置を用い、スラブ表層2〜3mmの深さ位置に存在する粒径が概ね80μm以上の気泡性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の個数を測定し、欠陥発生の程度を指数化したものである。図7によれば、本発明法において、特に、浸漬ノズル2のノズル浸漬深さを230〜290mmとすることにより、気泡性欠陥、モールドフラックス性欠陥がより効果的に低減していることが判る。
【0056】
また、浸漬ノズル2のノズル内径、すなわち溶鋼吐出孔20の位置でのノズル内径は70〜90mmとすることが好ましい。浸漬ノズル2の内側にアルミナなどが部分的に付着した場合に、浸漬ノズル2から吐出する溶鋼に偏流(幅方向での流速の対称性が悪くなる)が生じることがあり、ノズル内径が70mm未満では、そのような場合に偏流が極端に大きくなる恐れがある。このような極端な偏流が生じると、鋳型内での溶鋼流の制御が適切に行えなくなる。一方、浸漬ノズル2に流れる溶鋼量の調整は、浸漬ノズル2の上方のスライディングノズルの開度調整により行われるが、ノズル内径が90mmを超えるとノズル内部に溶鋼が充填されない部分が生じる恐れがあり、この場合も上記と同じような極端な偏流が生じ、鋳型内での溶鋼流の制御が適切に行えなくなる恐れがある。
【0057】
図8は、本発明法において、浸漬ノズル2のノズル内径の影響(モールドフラックス性欠陥に及ぼす影響)を調べた結果を示すものであり、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°、スラブ幅:1300mm、スラブ厚さ:260mm、鋳造速度:2.5m/分、上部磁極の直流磁界の強度:0.16T、下部磁極の直流磁界の強度:0.38Tの鋳造条件による試験結果を示している。その他の鋳造条件は、浸漬ノズルのノズル浸漬深さ:260mm、浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積:4900mm2(70mm*70mm)、浸漬ノズル内壁面からの不活性ガス吹き込み量:12L/min、使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):0.6cpである。
鋳造されたスラブについて、超音波探傷装置を用い、スラブ表層2〜3mmの深さ位置に存在する粒径が概ね80μm以上のモールドフラックス性欠陥の個数を測定し、欠陥発生の程度を指数化したものである。図8によれば、本発明法において、特に、浸漬ノズル2のノズル内径を70〜90mmとすることにより、モールドフラックス性欠陥がより効果的に低減していることが判る。
【0058】
また、浸漬ノズル2の各溶鋼吐出孔20の開口面積は3600〜8200mm2とすることが好ましい。この溶鋼吐出孔20の開口面積が、本発明の効果に影響を及ぼすのは、溶鋼吐出孔20の開口面積が小さすぎると溶鋼吐出孔20から吐出される溶鋼流速が大きくなりすぎ、逆に開口面積が大きすぎると溶鋼流速が小さすぎ、いずれの場合も鋳型内の溶鋼流の流速を適正化しにくくなるからである。
図9は、本発明法において、浸漬ノズル2の各溶鋼吐出孔の開口面積の影響(モールドフラックス性欠陥および気泡性欠陥に及ぼす影響)を調べた結果を示すものであり、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°、スラブ幅:1300mm、スラブ厚さ:260mm、鋳造速度:2.0m/分、上部磁極の直流磁界の強度:0.14T、下部磁極の直流磁界の強度:0.38Tの鋳造条件による試験結果を示している。その他の鋳造条件は、浸漬ノズルのノズル浸漬深さ:260mm、浸漬ノズル内径:80mm、浸漬ノズル内壁面からの不活性ガス吹き込み量:12L/min、使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):0.6cpである。
【0059】
鋳造されたスラブについて、超音波探傷装置を用い、スラブ表層2〜3mmの深さ位置に存在する粒径が概ね80μm以上の気泡性欠陥およびモールドフラックス性欠陥の個数を測定し、欠陥発生の程度を指数化したものである。図9によれば、本発明法において、特に、浸漬ノズル2の各溶鋼吐出孔20の開口面積を3600〜8200mm2とすることにより、気泡性欠陥、モールドフラックス性欠陥がより効果的に低減していることが判る。
【0060】
また、その他の好ましい鋳造条件は以下のとおりである。
使用するモールドフラックスは、1300℃での粘度が0.4〜10cpのものが好ましい。モールドフラックスの粘度が高すぎると、円滑な鋳造に支障をきたす恐れがあり、一方、モールドフラックスの粘度が低すぎるとモールドフラックスの巻き込みが生じやすくなる。
本発明において連続鋳造を実施するには、制御用コンピュータを用い、鋳造するスラブ幅および鋳造速度などに基づき、上部磁極及び下部磁極の各直流磁場用コイルに通電すべき直流電流値を、予め設定された対照表または数式により求め、その直流電流を通電することにより、上部磁極および下部磁極に各印加する直流磁界の強度を自動制御することが好ましい。また、上記電流値を求める基礎とする鋳造条件には、浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度および浸漬深さ(但し、メニスカスから溶鋼吐出孔上端までの距離)、スラブ厚や浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量を加えてもよい。
【0061】
図10は、鋳型内溶鋼の表面乱流エネルギー、凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での流速)、表面流速、凝固界面気泡濃度(溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度)を示す概念図である。
溶鋼の表面乱流エネルギーは、下式で求められるk値の空間平均値であり、流体力学で定義される3次元k-εモデルによる数値解析の流動シミュレーションによって定義される。このとき、浸漬ノズルの溶鋼吐出角度、ノズル浸漬深さ、体積膨張を考慮した不活性ガス(例えば、Ar)吹き込み速度を考慮すべきである。例えば、不活性ガス吹き込み速度が15NL/分のときの体積膨張率は6倍となる。すなわち、数値解析モデルとは、運動量、連続の式、乱流k−εモデルと磁場ローレンツ力をカップリングし、ノズル吹き込みリフト効果を考慮したモデルである。(文献:「数値流体力学ハンドブック」(平成15年3月31日発行)のp.129〜の2方程式モデルの記載に基づく)
【0062】
【数1】
【0063】
凝固界面流速(溶鋼−凝固シェル界面での溶鋼流速)は、メニスカスの下方50mmで且つ固相率fs=0.5の位置での溶鋼流速の空間平均値とする。ここで、凝固界面流速については、凝固潜熱、伝熱を考慮し、さらに溶鋼粘度の温度依存性をも考慮すべきである。本発明者等による詳細な計算によると、固相率fs=0.5の凝固界面流速はデンドライト傾角測定(fs=0)の1/2の流速に相当することが判った。すなわち、計算上でfs=0.5で凝固界面流速0.1m/sであれば、鋳片のデンドライト傾角(fs=0)の凝固界面流速は0.2m/sとなる。なお、鋳片のデンドライト傾角(fs=0)の凝固界面流速は、凝固前面の固相率fs=0の位置の凝固界面流速を測定していることになる。ここで、デンドライト傾角とは、鋳片表面に対する法線方向に対し、表面から厚み方向に伸びているデンドライトの一次枝の傾角である。(文献:鉄と鋼,第61年(1975),第14号「連続鋳片の大型介在物と柱状晶成長方向との関係」,p.2982−2990)
【0064】
表面流速は、溶鋼表面(浴面)での溶鋼流速の空間平均値とする。これも前述の3次元数値解析モデルで定義される。ここで、表面流速は浸漬棒による抗力測定値と一致するが、本定義ではこれの面積平均位置となるので、数値計算より算出できる。
具体的には、表面乱流エネルギー、凝固界面流速及び表面流速の数値解析は、以下により実施できる。すなわち、数値解析モデルとして、磁場解析及びガス気泡分布に連成させた運動量、連続の式、乱流モデル(k−εモデル)を考慮したモデルを用い、例えば、汎用流体解析プログラムFluent等により計算を行って求めることができる。(文献:Fluent6.3のユーザーマニュアル(Fluent Inc.USA)の記載に基づく)
【0065】
表面乱流エネルギーは、モールドフラックスの巻き込みに大きな影響を与え、表面乱流エネルギーが増加するとモールドフラックスの巻き込みが生じやすくなり、モールドフラックス性欠陥が増加する。一方、表面乱流エネルギーが小さすぎると、モールドフラックスの滓化が不十分となる。図11は、表面乱流エネルギーと表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、凝固界面流速:0.08〜0.15m/s、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m3以下とした。図11によれば、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m2/s2の範囲において、モールドフラックスの巻き込みが効果的に抑えられ、且つモールドフラックスの滓化も問題がない。
【0066】
表面流速もモールドフラックスの巻き込みに大きな影響を与え、表面流速が大きくなるとモールドフラックスの巻き込みが生じやすくなり、モールドフラックス性欠陥が増加する。図12は、表面流速と表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m2/s2、凝固界面流速:0.08〜0.15m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m3以下とした。図12によれば、表面流速が0.30m/s以下において、モールドフラックスの巻き込みが効果的に抑えられている。したがって、表面流速は0.30m/s以下であることが好ましい。なお、表面流速が小さすぎると、溶鋼表面の温度が低下する領域が発生し、モールドフラックスの溶融不足によるノロカミや溶鋼の部分的凝固を助長するため操業が困難となる。このため、表面流速は0.05m/s以上であることが好ましい。
【0067】
凝固界面流速は、凝固シェルによる気泡や介在物の捕捉に大きな影響を与え、凝固界面流速が小さいと気泡や介在物が凝固シェルに捕捉されやすくなり、気泡性欠陥などが増加する。一方、凝固界面流速が大きすぎると、生成した凝固シェルの再溶解が起こり凝固シェルの成長を阻害する。最悪の場合はブレークアウトに繋がり操業の停止により生産性に致命的な問題を引き起こす。図13は、凝固界面流速と表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m3以下とした。図13によれば、凝固界面流速が0.08〜0.15m/sの範囲において、凝固シェルによる気泡の捕捉が効果的に抑えられ、且つ凝固シェルの成長阻害によるブレークアウト等の生産性の問題を生じない。
【0068】
凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bは、気泡の捕捉とモールドフラックスの巻き込み両方に影響を与え、比A/Bが小さいと気泡や介在物が凝固シェルに捕捉されやすくなり気泡性欠陥などが増加する。一方、比A/Bが大きすぎるとモールドパウダーの巻き込みが生じやすくなり、モールドフラックス性欠陥が増加する。図14は、比A/Bと表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面流速:0.08〜0.15m/s、凝固界面気泡濃度:0.008kg/m3以下とした。図14によれば、比A/Bが1.0〜2.0で表面品質欠陥が特に良好となる。したがって、凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bは1.0〜2.0であることが好ましい。
【0069】
以上述べた点から、鋳型内の溶鋼の流動状態は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速:0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速:0.08〜0.15m/sであることが好ましい。表面流速は0.05〜0.30m/sであることがより好ましく、また、凝固界面流速Aと表面流速Bとの比A/Bは1.0〜2.0であることが好ましい。
また、気泡性欠陥の発生に関与する他の因子としは、溶鋼−凝固シェル界面の気泡濃度(以下、単に「凝固界面気泡濃度」という)があり、この凝固界面気泡濃度が適正に制御されることにより、気泡の凝固界面での捕捉がより適切に抑えられる。
凝固界面気泡濃度は、メニスカスの下方50mmで且つ固相率fs=0.5の位置での直径1mmの気泡の濃度とし、前述の数値計算により定義される。ここで、計算上のノズルへの吹き込み気泡個数NはN=AD−5とし、Aは吹き込みガス速度、Dは気泡径で計算できる(文献:ISIJ Int. Vol.43(2003),No.10,p.1548−1555)。吹き込みガス速度は、一般には5〜20Nl/minである。
【0070】
凝固界面気泡濃度は、気泡の捕捉に大きな影響を与え、気泡濃度が高いと凝固シェルに捕捉される気泡量が増加する。図15は、凝固界面気泡濃度と表面欠陥率(後述する実施例と同様の手法で測定されたコイル長さ1m当たりの欠陥個数)との関係を示すものであり、他の条件は、表面乱流エネルギー:0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速:0.05〜0.30m/s、凝固界面流速:0.08〜0.15m/sとした。図15によれば、凝固界面気泡濃度が0.008kg/m3以下において、凝固シェルに捕捉される気泡量が低レベルに抑えられている。したがって、凝固界面気泡濃度は0.008kg/m3以下であることが好ましい。
凝固界面気泡濃度は、鋳造するスラブ厚さと浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量により制御でき、鋳造されるスラブ厚さを220mm以上、浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量を25NL/分以下とすることが好ましい。
【0071】
浸漬ノズル2の溶鋼吐出孔20から吐出される溶鋼は気泡を随伴しており、スラブ厚さが小さすぎると、溶鋼吐出孔20から吐出される溶鋼流が鋳型長辺部側の凝固シェル5に近づき、凝固界面気泡濃度が高くなり、凝固シェル界面に気泡が捕捉されやすくなる。特に、スラブ厚さが220mm未満では、本発明のような溶鋼流の電磁流動制御を実施しても、上記のような理由により気泡分布の制御が難しくなる。一方、スラブ厚さが300mmを超えると、熱延工程の生産性が低くなる難点がある。このため鋳造されるスラブ厚さは220〜300mmとすることが好ましい。
【0072】
浸漬ノズル2の内壁面からの不活性ガス吹き込み量が多くなると、凝固界面気泡濃度が高くなり、凝固シェル界面に気泡が捕捉されやすくなる。特に、不活性ガス吹き込み量が20NL/分を超えると、本発明のような溶鋼流の電磁流動制御を実施しても、上記のような理由により気泡分布の制御が難しくなる。一方、不活性ガス吹き込み量が少なすぎるとノズル閉塞を起こしやすく、却って偏流を大きくするために流速の制御が困難となる。このため、浸漬ノズル2の内壁面からの不活性ガス吹き込み量は3〜25NL/分とすることが好ましい。
【実施例】
【0073】
図1および図2に示すような連続鋳造機、すなわち、鋳型外側(鋳型側壁の背面側)に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備え、上部磁極の磁場のピーク位置と下部磁極の磁場のピーク位置の間に浸漬ノズルの溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動する連続鋳造方法により、約300トンのアルミキルド極低炭素鋼を鋳造した。
また、比較例の一部については、上記のような直流磁界印加による溶鋼流の制動を行うことなく実施した。
【0074】
浸漬ノズルからの吹き込み不活性ガスにはArガスを使用し、このArガスの吹き込み量は、ノズル閉塞が起こらないようにスライディングノズルの開度に応じて、5〜12NL/minの範囲内で調整した。連続鋳造機の仕様および他の鋳造条件は以下のとおりである。
連続鋳造機の仕様および他の鋳造条件は以下のとおりである。
・浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の溶鋼吐出角度α:15°
・浸漬ノズルの浸漬深さ:230mm
・浸漬ノズルの溶鋼吐出孔の形状:サイズ70mm×80mmの長方形状
・浸漬ノズル内径:80mm
・浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積:5600mm2
・使用したモールドフラックスの粘度(1300℃):2.5cp
【0075】
溶鋼を表4〜表13に示すような条件で連続鋳造した。連続鋳造されたスラブを熱間圧延して熱延鋼板(板厚2.8〜4.5mm)とした後、塩酸で酸洗し、次いで冷間圧延して冷延鋼板とした。実施例のうち、鋼板温度T(酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度)が346K以下のものは酸洗後の加熱を行わなかった実施例、346K超のものはArガス雰囲気の加熱炉で加熱(コイルの加熱)を行った実施例である。酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度Hoは、例えば図3に示すような酸洗減量と水素濃度との関係を予め求めておき、実際の酸洗減量に基づいて求めた。また、臨界水素濃度Hcは、熱延鋼板の板厚と冷間圧延の仕上板厚に応じ、図5に示すようなデータに基づいて求めた。
【0076】
得られた冷延鋼板に合金化溶融亜鉛めっき処理を施した。この合金化溶融亜鉛めっき鋼板について、オンライン表面欠陥計で表面欠陥を連続的に測定し、そのなかから欠陥形態(外観)あるいはSEM分析、ICP分析等によりスリバー欠陥(モールドフラックス性欠陥、気泡性欠陥、介在物性欠陥)およびブリスター欠陥を判別し、コイル長さ1m当たりのトータルの欠陥個数に基づき、Znめっき後欠陥を下記基準で評価した。
○:欠陥個数が0.01個以下のもの
△:欠陥個数が0.01個超、0.05個以下のもの
×:欠陥個数が0.05個超、0.10個以下のもの、又は、欠陥個数は0.05個以下であるが、ブリスター欠陥個数が0.0350×10−2個/m超のもの
××:欠陥個数が0.10個超のもの
【0077】
また、ブリスター欠陥について、コイル長さ1m当たりの欠陥個数を下記基準で評価した。
◎:ブリスター欠陥個数が0.0200×10−2個以下のもの
○:ブリスター欠陥個数が0.0200×10−2個超、0.0250×10−2個以下のもの
△:ブリスター欠陥個数が0.0250×10−2個超、0.0350×10−2個以下のもの
×:ブリスター欠陥個数が0.0350×10−2個超のもの
以上の評価結果を、表4〜表13に併せて示す。なお、スラブ幅が1700mmを超えるスラブを鋳造する実施例については、実機の結果に基づくシミュレーションによるデータを示した。
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
【表7】
【0082】
【表8】
【0083】
【表9】
【0084】
【表10】
【0085】
【表11】
【0086】
【表12】
【0087】
【表13】
【符号の説明】
【0088】
1 鋳型
2 浸漬ノズル
3a,3b 上部磁極
4a,4b 下部磁極
5 凝固シェル
6 メニスカス
10 鋳型長辺部
11 鋳型短辺部
21 底部
20 溶鋼吐出孔
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、鋼の連続鋳造を行うことによりスラブを鋳造し、
該スラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、該熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(1)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御することを特徴とする鋼板の製造方法。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(1)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
【請求項2】
酸洗後、冷間圧延前の熱延鋼板を、酸洗終了直後の鋼板温度よりも高い温度に加熱することを特徴とする請求項1に記載の鋼板の製造方法。
【請求項3】
スラブの連続鋳造においては、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備えた連続鋳造機を用い、鋳造速度を0.75m/分以上とし、且つ下記条件(イ)、(ロ)に従って連続鋳造を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板の製造方法。
・条件(イ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
・条件(ロ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【請求項4】
浸漬ノズルのノズル浸漬深さを230〜290mmとすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項5】
浸漬ノズルのノズル内径(但し、溶鋼吐出孔の形成位置でのノズル内径)を70〜90mmとすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項6】
浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積を3600〜8100mm2とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項7】
鋳型内の溶鋼は、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速が0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速が0.08〜0.15m/sであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項8】
鋳型内の溶鋼は、表面流速が0.05〜0.30m/sであることを特徴とする請求項7に記載の鋼板の製造方法。
【請求項9】
鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での流速Aと表面流速Bとの比A/Bが1.0〜2.0であることを特徴とする請求項7または8に記載の鋼板の製造方法。
【請求項10】
鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度が0.008kg/m3以下であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項11】
鋳造されるスラブ厚さが220〜300mm、浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量が3〜25NL/分であることを特徴とする請求項10に記載の鋼板の製造方法。
【請求項1】
鋳型外側に、鋳型長辺部を挟んで対向する1対の上部磁極と1対の下部磁極を備え、前記上部磁極の磁場のピーク位置と前記下部磁極の磁場のピーク位置の間に前記溶鋼吐出孔が位置する連続鋳造機を用い、前記1対の上部磁極と1対の下部磁極に各々印加される直流磁界により溶鋼流を制動しつつ、鋼の連続鋳造を行うことによりスラブを鋳造し、
該スラブを熱間圧延して熱延鋼板とし、該熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延するに際し、下記(1)式を満足するように、時間t又は/及び鋼板の最高表面温度Tを制御することを特徴とする鋼板の製造方法。
Hc/Ho> exp{−0.002×(T+t/100)} …(1)
但し Ho:酸洗終了直後の鋼板中の水素濃度(質量ppm)
Hc:冷間圧延条件により決まる、ブリスターによる表面品質不良が発生する冷間圧延直前の鋼板中の臨界水素濃度(質量ppm)
t:酸洗終了後、冷間圧延開始までの時間(秒)
T:酸洗終了後、冷間圧延開始前における鋼板の最高表面温度(K)(但し、この鋼板表面温度は、酸洗終了後、冷間圧延前に鋼板を加熱した場合の鋼板表面温度を含む。)
【請求項2】
酸洗後、冷間圧延前の熱延鋼板を、酸洗終了直後の鋼板温度よりも高い温度に加熱することを特徴とする請求項1に記載の鋼板の製造方法。
【請求項3】
スラブの連続鋳造においては、溶鋼吐出孔の水平方向から下向きの溶鋼吐出角度が10°以上30°未満の浸漬ノズルを備えた連続鋳造機を用い、鋳造速度を0.75m/分以上とし、且つ下記条件(イ)、(ロ)に従って連続鋳造を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の鋼板の製造方法。
・条件(イ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(a)〜(i)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.03〜0.15T、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(a)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05未満
(b)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(c)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分未満
(d)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分未満
(e)スラブ幅1450mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分未満
(f)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分未満
(g)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分未満
(h)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分未満
(i)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分未満
・条件(ロ):鋳造するスラブ幅と鋳造速度が下記(j)〜(s)の場合には、上部磁極に印加する直流磁界の強度を0.15T超0.30T以下、下部磁極に印加する直流磁界の強度を0.24〜0.45Tとする。
(j)スラブ幅950mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上3.05m/分以下
(k)スラブ幅950mm以上1050mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(l)スラブ幅1050mm以上1350mm未満で且つ鋳造速度2.35m/分以上3.05m/分以下
(m)スラブ幅1350mm以上1450mm未満で且つ鋳造速度2.25m/分以上3.05m/分以下
(n)スラブ幅1450mm以上1550mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上3.05m/分以下
(o)スラブ幅1550mm以上1650mm未満で且つ鋳造速度2.15m/分以上2.85m/分以下
(p)スラブ幅1650mm以上1750mm未満で且つ鋳造速度2.05m/分以上2.65m/分以下
(q)スラブ幅1750mm以上1850mm未満で且つ鋳造速度1.95m/分以上2.55m/分以下
(r)スラブ幅1850mm以上1950mm未満で且つ鋳造速度1.85m/分以上2.55m/分以下
(s)スラブ幅1950mm以上2150mm未満で且つ鋳造速度1.75m/分以上2.55m/分以下
【請求項4】
浸漬ノズルのノズル浸漬深さを230〜290mmとすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項5】
浸漬ノズルのノズル内径(但し、溶鋼吐出孔の形成位置でのノズル内径)を70〜90mmとすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項6】
浸漬ノズルの各溶鋼吐出孔の開口面積を3600〜8100mm2とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項7】
鋳型内の溶鋼は、表面乱流エネルギーが0.0010〜0.0015m2/s2、表面流速が0.30m/s以下、溶鋼−凝固シェル界面での流速が0.08〜0.15m/sであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項8】
鋳型内の溶鋼は、表面流速が0.05〜0.30m/sであることを特徴とする請求項7に記載の鋼板の製造方法。
【請求項9】
鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での流速Aと表面流速Bとの比A/Bが1.0〜2.0であることを特徴とする請求項7または8に記載の鋼板の製造方法。
【請求項10】
鋳型内の溶鋼は、溶鋼−凝固シェル界面での気泡濃度が0.008kg/m3以下であることを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載の鋼板の製造方法。
【請求項11】
鋳造されるスラブ厚さが220〜300mm、浸漬ノズルの内壁面からの不活性ガス吹き込み量が3〜25NL/分であることを特徴とする請求項10に記載の鋼板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−206846(P2011−206846A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50868(P2011−50868)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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