説明

鋼製ピストンのリング状溝の溝側面をレーザービームにより硬化させる方法

鋼製ピストン(5)のリング状溝(11)の溝側面をレーザービーム(3)により硬化させる方法が提案されており、この場合には、最初に酸素含有プロセスガスを鋼製ピストン(5)の溝側面(10)上に導き、鋼製ピストン(5)を回転移動させる。この場合、溝側面(1)は、溝側面上に酸化物層が形成されるまでレーザービーム(3)で照射される。引続き、プロセスガスの供給は、遮断され、溝側面(10)は、シュプールに沿って領域的に加熱され、硬化される。溝側面上の酸化物層によって、一面で溝側面の熱結合度が改善され、このことは、溝側面の迅速な加熱および硬化をもたらす。他面、それによって、溝側面の反射率は、減少され、したがってなお僅かな光だけが溝側面から溝の別の領域上に反射され、したがってこの領域は、意外なことに加熱されず、硬化されない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1記載の上位概念に記載された、鋼製ピストンのリング状溝の溝側面を硬化させる方法に関する。
【0002】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第10337962号明細書A1の記載から、鋼製ピストンのリング状溝の溝側面をレーザーにより硬化させる方法は、公知であり、この場合この硬化に適した、レーザービームエネルギーの吸収度を達成させるために、5μm未満の波長を有するレーザービームが使用され、その上、このレーザービームは、十分に大きな入射角度で硬化すべき溝に向けられなければならない。この場合、5μm未満の波長を有するレーザービームを発生させるレーザー源を選択することが僅かであることは、不利である。その上、十分に大きな入射角度の選択は、鋼製ピストンに対するレーザー源の位置に応じてリング状溝の幾何学的形状、即ち硬化すべき溝側面に対して存在する溝側面によって制限される。
【0003】
本発明の課題は、従来技術の前記欠点を回避することである。この課題は、請求項1の特徴部に記載の特徴によって解決される。従属請求項の対象は、本発明の有利な構成が記載されている。
【0004】
本発明によれば、鋼製ピストンの硬化すべき溝側面を酸化鉄により着色することによって、この溝側面の熱結合度は、レーザー光がその波長とは無関係に任意の入射角度で硬化すべき溝側面上に照射されうるように幅広く、その上、前記溝側面の反射率は、極めて減少する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】ピストンリングのための溝の側面をレーザービームにより硬化させるための装置を示す略図。
【図2】ピストンリング状溝を示す拡大図。
【0006】
次に、本発明の実施例を図面につき記載する。
【実施例】
【0007】
図1は、ピストンリングのための溝の側面をレーザービームにより硬化させるための装置を示し、図2は、ピストンリング状溝の拡大図を示し、このピストンリング状溝の下方の側面は、レーザーにより硬化される。
【0008】
図1は、ホルダー装置1に固定されたレーザー源2を示し、このレーザー源2は、図2に最大に拡大されて図示されているように、レーザービーム3を、内燃機関用の鋼製のピストン5の上部リング状溝11の下部側面10に向けており、この場合このリング状溝11は、図示されていない圧縮リングのために設けられている。鋼製ピストン5は、締め付けホルダー12により回転皿6上でこの回転皿のピストン軸13を中心に回転可能であるように支承されており、この場合この回転皿6は、電気的駆動装置を備えた土台7上に固定されており、この電気的駆動装置によって回転皿は電気的に制御されて回転移動される。
【0009】
更に、ホルダー装置1および三脚9には、ガス導管8が固定されており、このガス導管によりガスノズル4を介してプロセスガスは、上部リング状溝11の方向に導かれ、このプロセスガスは、レーザービームにより硬化される下部側面10の範囲をプロセスガスで包囲する。
【0010】
レーザー源2として、例えばダイオードレーザーまたはNd:YAGレーザーが使用されうる。それによって、本発明の当該実施例において、圧縮リングのためのリング状溝11の下部側面10は、硬化される。それというのも、この側面は、エンジンの駆動で圧縮リングによって高められた負荷に晒されているからである。しかし、本発明による形式でピストン5の高い機械的負荷に晒される全ての表面は、硬化されうる。
【0011】
この場合、レーザービーム3の小さな燃焼斑点によって、回転皿6により回転移動されるピストン5のリング状溝11の下部側面10は、シュプールに沿って領域的に(spurweise)加熱される。この場合、硬化プロセスに必要とされる、加熱されたシュプールの冷却を実現させる冷媒は、不要である。それというのも、下部側面10の良好な硬化を惹起する自己急冷をもたらす鋼は、加熱されるシュプールと該シュプールに境を接しているピストン材料との極めて迅速な温度平衡をもたらすからである。
【0012】
この硬化プロセス中に、ガスノズル4を介してプロセスガスは、下部側面10上に導かれ、この場合このプロセスガスは、アルゴンと酸素からなる混合物、窒素と酸素からなる混合物、またはアルゴンと窒素と酸素からなる混合物から構成されていてよい。大規模な試験の範囲内で、酸素1%と窒素99%とからなるプロセスガス混合物を用いての良好な結果が達成された。
【0013】
この場合、プロセスガスは、レーザービーム3が衝突する溝側面が酸化物形成に基づいて着色することを生じ、この場合には、酸化鉄(Fe23)が形成する。それによって、一面でレーザービームが照射された単位面積当たりの熱結合度の改善がもたらされ、それによって前記面積の加熱が促進され、ひいてはレーザービームの作用度が改善される。他面、酸化鉄による溝側面の着色は、酸化鉄により前記面積の反射率を減少させ、それによって溝側面10によって反射されかつ図2で点線で示されたレーザービーム3’の強度は、レーザービームによって衝突された溝土台14が硬化のためにもはや十分には加熱されない限り、減少される。溝土台14を硬化させるかまたは溝側面10と溝土台14との間の縁部を硬化させることは、望ましくない。それというのも、この範囲での硬化は、この範囲でのピストン材料の基本靭性を、エンジンの駆動中にここで亀裂が形成される可能性がある限り減少させるからである。
【0014】
溝側面10を硬化させる本発明による方法は、溝側面10およびレーザービーム3によって形成された入射角度αが任意に選択可能であり、硬化浸透帯域の大きさが可能な範囲で最善の硬化結果のために最適に調節されるように選択されるというさらなる利点を有する。
【符号の説明】
【0015】
α 入射角度、 1 ホルダー装置、 2 レーザー源、 3,3’ レーザービーム、 4 ガスノズル、 5 ピストン、鋼製ピストン、 6 回転皿、 7 土台、 8 ガス導管、 9 三脚、 10 下部側面、溝側面、 11 上部リング状溝、 12 締め付けホルダー、 13 ピストン軸、 14 溝土台
【図1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製ピストン(5)のピストン軸(13)を中心に回転可能に支承された鋼製ピストン(5)のリング状溝(11)の溝側面をレーザービーム(3)により硬化させる方法であって、レーザービーム(3)が溝側面(10)に向けられ、鋼製ピストン(5)がピストン軸(13)を中心に回転移動される、上記の鋼製ピストン(5)のリング状溝(11)の溝側面を硬化させる方法において、次の処理工程:
酸素含有プロセスガスを鋼製ピストン(5)の溝側面(10)上に導き、
鋼製ピストン(5)を回転移動させ、
プロセスガスによって包囲される溝側面(10)をレーザービーム(3)で、溝側面(10)上に酸化物層が形成されるまで照射し、
プロセスガスの供給を遮断し、
溝側面(10)をレーザービーム(3)でシュプールに沿って領域的に加熱し、硬化させることを有することを特徴とする、上記の鋼製ピストン(5)のリング状溝(11)の溝側面を硬化させる方法。
【請求項2】
プロセスガスとしてアルゴンと酸素との混合物を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
プロセスガスとして窒素と酸素との混合物を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
プロセスガスとして窒素とアルゴンと酸素との混合物を使用する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
プロセスガスに少なくとも近似的に酸素1%を混入する、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2011−504568(P2011−504568A)
【公表日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−533429(P2010−533429)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際出願番号】PCT/DE2008/001869
【国際公開番号】WO2009/062486
【国際公開日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(506292974)マーレ インターナショナル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (186)
【氏名又は名称原語表記】MAHLE International GmbH
【住所又は居所原語表記】Pragstrasse 26−46, D−70376 Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】