説明

長さ測定装置の弾性固定具及び固定方法

【課題】大きさや加工精度の制約が小さい上に、製造が容易で、マニュアル工作機械等の比較的厳しい温度環境での使用にも対応でき、平行板ばね機構に比べ小型化、低価格化が可能な弾性固定具を提供する。
【解決手段】長さ測定装置10を、線膨張係数が異なる被測定物Mに取付けるために用いる、該測定装置の長手方向に弾性変形可能な弾性固定具を、一端が長さ測定装置に固定され、他端が被測定物に固定される、板金製曲りはり42、44を含む構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長さ測定装置を、線膨張係数が異なる被測定物に取付けるための弾性固具及び固定方法に係り、特に、ガラス製のメインスケールをアルミニウム製の枠に内蔵した状態で、主に鉄製の機械本体に固定されるユニット型リニアスケールに用いるのに好適な、線膨張係数の違いによる熱応力の吸収を大きくすることができる長さ測定装置の弾性固定具、及び、これを用いた長さ測定装置の固定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
比較的大型で、振動や衝撃の発生等が予測される工作機械や産業機械等に使用される、フィードバック制御用リニアスケールとして、図1に例示すような、多点固定タイプのユニット型リニアスケール(以下、単にリニアスケールと称する)が知られている。
【0003】
このリニアスケール(長さ測定装置)10は、一般に、ガラス製のメインスケールをアルミニウム製の枠12に内蔵した状態で、該枠12に対して相対移動可能なインデックススケール等の検出部が収容されている検出ヘッド16と一体で、例えばねじ20により機械本体のステージ摺動部(図示省略)に固定される。
【0004】
その状態で周囲温度が変化した場合、リニアスケール10のアルミニウム製枠12と、主に鉄製の機械本体の間に、線膨張係数の違いに起因する熱応力が発生する。これにより、枠12や内部のガラススケールに曲がりや歪みが生じたり、枠12を固定するねじ20の緩みや機械本体との相対的な位置ずれが発生し、測定精度の低下の原因となる。そのため、枠12の固定部に、熱応力を低減させるための機構が必要となる。
【0005】
これらの問題点を解決するために、出願人は特許文献1に枠12の固定機構の一例を提案している。これを、図2(斜視図)、図3(図2のIII部拡大正面図)及び図4(動作状態の概念図)に示す。
【0006】
この例では、枠12中央部の1点に、機械本体相手面8との相対的な位置関係を維持するための完全固定用中間部固定ブロック30を配置し、枠12の両端部に、その板ばね機構13を介して連結された、熱応力を低減するための平行板ばね機構34を有する端部固定ブロック32を配置している。
【0007】
このような固定ブロック32を使用する場合、周囲温度が変化して、枠12が伸びても、図4に示す如く、板ばね機構13の板ばね13A及び平行板ばね機構34の板ばね34A、34Bの変形により、熱応力が吸収され、低減(緩和)される。又、中間固定ブロック30により、中央部が完全固定されるため、相手面8との相対的な位置ずれも発生しない。
【0008】
【特許文献1】特開2003−97936号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されている板ばね機構及び平行板ばね機構が有している板ばねとしての機能は、部品の材質や板ばねの厚みT1やT2、長さL1やL2等に対する依存性が高いため、部品の大きさや部品加工精度に制約がある上に、製造が難しいことから、例えば端部固定ブロック32の図3における断面方向の小型化や、部品としての低価格化が難しいという問題がある。
【0010】
又、比較的厳しい温度環境での使用が要求されるマニュアル工作機械用のユニット型リニアスケールの場合、これにばね機構を採用できるようにするためには、温度範囲や対応できる長さの許容値を拡大する必要があるという問題がある。
【0011】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、大きさや加工精度の制限が小さい上に、製造が容易で、マニュアル工作機械等の比較的厳しい温度環境での使用に対応でき、平行板ばね機構に比べ小型化、低価格化が可能な長さ測定装置の固定技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、長さ測定装置を被測定物に取付けるために用いる、該測定装置の長手方向に弾性変形可能な弾性固定具であって、一端が長さ測定装置に固定され、他端が被測定物に固定される、板金製板ばねを含むようにしたことにより、前記課題を解決したものである。
【0013】
本発明は、又、前記平行板ばねを、U字形状の曲りはりで形成されているようにしたものである。
【0014】
本発明は、又、前記の弾性固定具を用いることを特徴とする長さ測定装置の固定方法を提供するものである。
【0015】
又、前記固定具と、板ばね機能を含まない板金製の完全固定具を用いることを特徴とする長さ測定装置の固定方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、長さ測定装置を、線膨張係数が異なる被測定物に取り付けるために、該測定装置の長手方向に弾性変形可能な板金製板ばね機構を含む弾性固定具を用いるようにしたので、固定具の大きさや加工精度の制限が小さい上に、製造が容易で、マニュアル工作機械等の比較的厳しい温度環境での使用にも対応でき、平行板ばね機構に比べ小型化、低価格化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0018】
図5に、本発明の実施形態の弾性固定具を使用し、ユニット型リニアスケール(長さ測定装置)10を相手機械(被測定物)Mに取り付けた状態を模式的に示す。
【0019】
本実施形態では、アルミニウム製枠12の中央に完全固定を目的とした板金部品からなる完全固定具40を配置し、該枠12の両端部(図示は一端部のみ)を含む長手方向の複数箇所に板金部品からなる曲りはり42、44を配置した構成としている。
【0020】
図6(A)〜(C)には、斜視図で各板金部品40、42、44の概要を示す。図中、○はねじ穴である。これらの板金部品からなる完全固定具40、曲りはり固定具42は、図示されるように、片端部をアルミニウム枠12の側面に固定し、他端部を相手機械(被測定物)にそれぞれねじ22で固定する。
【0021】
又、アルミニウム枠12の長手方向端部に配置する曲りはり固定具44は、図7の斜視図にその端部を拡大して示すように、枠下部12Aに一端を、相手機械に他端を、同じくねじ22でそれぞれ固定する。
【0022】
このような固定方法を採用したことにより、アルミニウム枠12が固定された状態で周囲温度が変化した場合、枠12の中央部は相手機械Mと一体で挙動し、それ以外の場合は、図8に端部の場合の動きを概念的に示すように、枠12と相手機械Mの熱膨張係数の差による伸びの相対差分だけ曲りはり固定具44が弾性的に撓み、伸びを吸収する構造となる。途中に配置する曲りはり固定具42の場合も同様である。これにより、アルミニウム枠12の伸縮の基準位置が明確になり、更に、熱応力の発生が低減できることになる。
【0023】
前記特許文献1に提案した平行板ばね機構で対応できるアルミ枠12の長さは約1mである。又、出願人が特願2003−9185号で提案している同様の機構を用いた弾性固定具は、全長を長くすることが可能であるが、アルミニウム枠12の側面にブロックを外付けして使用されるため、スケールユニットの横断面寸法が大きくなる。
【0024】
これに対し、本実施形態の曲りはり機構を用いた弾性固定具の場合は、スケールユニットの横断面の寸法を大きくする必要がなく、更に、対応できる枠の長さを長く、例えば約2mにすることができる。
【0025】
又、平行板ばね機構は、ブロック状の材料からフライス加工等で製作されるため製造が難しいが、曲りはり機構は板金で製作できるため、製造が容易であり、従って低価格化に繋がる。
【0026】
そのため、例えば、環境温度が比較的厳しいマニュアル工作機械用に使用する場合や、更にアルミニウム枠12の長さを長くする場合等のように、枠12の伸びを吸収するための弾性的な撓み許容値の変更が必要になった場合でも、平行板ばねに比べて伸び吸収量が大きいため、大きさや価格の制約を受け難いという利点もある。
【0027】
なお、前記実施形態では、板金製板ばねとしてU字形状の曲りはりを採用したが、板金加工で製作する板ばねであれば、他の形状であってもよい。U字形状の曲りはりに比べて伸びの吸収能は小さくなるが、例えば平行板ばねと同様にほぼ直角に曲げたものであってもよい。
【0028】
又、板ばね機能を含まない完全固定具42よりアルミニウム枠12を固定する位置は中央に限らず、長手方向の任意の位置に変更できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】従来のユニット型リニアスケールの一例の構成を示す分解斜視図
【図2】出願人が提案した比較例における枠の固定機構の例を示す斜視図
【図3】図2のIII部拡大正面図
【図4】図2及び図3で示した比較例の動作状態を示す概念図
【図5】本発明の実施形態の構成を示す部分正面図
【図6】板金製固定具の特徴を示す概略斜視図
【図7】アルミニウム枠の端部を示す拡大斜視図
【図8】実施形態の動作状態を示す概念図
【符号の説明】
【0030】
10…リニアスケール
12…枠
12A…枠下部
20、22…ねじ
40…完全固定具
42、44…曲りはり固定具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ測定装置を被測定物に取付けるために用いる、該測定装置の長手方向に弾性変形可能な弾性固定具であって、
一端が長さ測定装置に固定され、他端が被測定物に固定される、板金製板ばねを含むことを特徴とする長さ測定装置の弾性固定具。
【請求項2】
前記板金製板ばねが、U字形状の曲りはりで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の長さ測定装置の弾性固定具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の弾性固定具を用いることを特徴とする長さ測定装置の固定方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の弾性固定具と、板ばね機能を含まない板金製の完全固定具を用いることを特徴とする長さ測定装置の固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−30086(P2006−30086A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212103(P2004−212103)
【出願日】平成16年7月20日(2004.7.20)
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】