説明

長周期地震動対応システム、及び免震構造物

【課題】免震構造物に長周期の卓越周期が入力された場合の被害の抑制を図ることができる長周期地震動対応システム、及び免震構造物を提供することを目的とする。
【解決手段】地震計9で計測された地震動に基づいて、免震構造物3への入力が予測される地震動の予測卓越周期を解析し、解析した予測卓越周期が免震状態での免震構造物に共振を生じさせる共振範囲に属する場合には、免震装置の作動を制限して免震構造物の固有周期を短周期化する。その結果として、免震状態で共振を引き起こす虞の高い長周期の卓越周期が入力された場合であっても、免震構造物の固有周期とはズレて共振の発生は防止され、被害の発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置を備えた免震構造物に地震動が伝わった際の共振を防止する長周期地震動対応システム、及び免震構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
免震の原理は、建物の振動系を長周期化することで、地震動が入力された際の応答を下げるものであり、従来から様々な免震構造や免震システムが知られている。例えば、環境振動に対しては免震効果を発揮させずに高い剛性によって上部構造体の揺れを防止し、地震時にのみ免震効果を発揮させる免震システム(特許文献1参照)や、リアルタイムの地震情報を受け付け、かかる地震情報に基づいて最適な減衰性を確保するような制御を行う免震システム(特許文献2参照)が知られている。
【0003】
上述の様な免震システムは、基本的に、実際に襲来する地震動の卓越周期が、免震建物の振動系の固有周期よりも短いことを前提にしている。しかしながら、近年の研究により、免震建物の振動系の固有周期と同程度の長周期の地震動の存在が知られるようになってきた。長周期の地震動が免震建物(免震構造物)に入力された場合、今度は、免震建物の振動系の固有周期と共振して建物に被害を与える虞がある。そこで、例えば、特許文献3に記載の様に、長周期の地震動にも対応して共振の発生を抑制できる免震システムが提案されている。
【0004】
特許文献3に記載の免震システムは、積層ゴムなどからなる免震装置を備えている。この免震装置は、建物に固定されている滑り板に連結されており、通常時には免震装置が作動して建物を保護する。一方で長周期の地震動が検出されると、滑り板と免震装置との間の連結が解除され、免震装置に対する滑り板の水平方向への移動が許容されるようになって免震装置による支持が免震支承から滑り支承に変更される。その結果、建物の固有周期が更に長周期化して地震動の長周期からずれ、共振を防止できるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−297820号公報
【特許文献2】特開2006−45885号公報
【特許文献3】特開2000−27487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3に記載の従来の免震システムでは、免震支承を滑り支承にする構成であるため、上部構造体の変位の増大や剛性耐力の低下という問題が新たに浮上して現実的ではなく、特に、免震支承から滑り支承への切り替えの困難性も想定できるため、長周期の卓越周期が入力された場合の共振の発生を抑えることは困難であり、被害を抑止することは困難であった。
【0007】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、免震構造物に長周期の卓越周期が入力された場合の被害の抑制を図ることができる長周期地震動対応システム、及び免震構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、免震装置を有する免震構造物における長周期の地震動に対応する為の長周期地震動対応システムであって、広範囲にわたって設置され、且つ地震動を常時計測する複数の地震動計測手段と、地震動計測手段によって計測された地震動に基づいて、免震構造物への入力が予測される地震動の予測卓越周期を解析する演算手段と、演算手段によって解析された地震動の予測卓越周期が、免震装置による免震状態での免震構造物の固有周期を含む所定の周期範囲に属する場合に、作動制限信号を発信する信号発信手段と、信号発信手段からの作動制限信号を受け付けると、免震装置の作動を制限して免震構造物の固有周期を短周期化する免震制限手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
卓越周期とは、地震動を構成する波の成分のうち、加速度、速度または変位の振幅が最も大きな波の周期である。本発明では、免震構造物への入力が予測される地震動の予測卓越周期を指標としており、その予測卓越周期が免震構造物の共振を引き起こす程度の長周期の場合には、免震装置の作動を制限して免震構造物の固有周期を短周期化する。その結果として、免震状態で共振を引き起こす虞の高い長周期の卓越周期が入力された場合であっても、免震構造物の固有周期とはズレて共振の発生は防止され、被害の発生を抑制することができる。
【0010】
さらに、演算手段は、地震動の予測卓越周期に加えて、免震構造物への入力が予測される地震動の予測強さレベルを解析し、信号発信手段は、地震動の予測卓越周期が所定の周期範囲に属し、且つ、演算手段によって解析された地震動の予測強さレベルが所定の数値以上の場合に、作動制限信号を発信すると好適である。地震動の予測強さレベルが所定の数値未満の場合には免震装置の作動を維持するようになるので、地震の規模に応じた柔軟な対応が可能になる。
【0011】
さらに、免震制限手段は、免震装置の作動をロックするロック装置であると好適である。ロック装置で免震装置の作動をロックすることで、確実に免震装置の作動を規制でき、免震構造物の固有周期を短周期化できる。
【0012】
さらに、免震装置は、粘性ダンパを有し、免震制限手段は、粘性ダンパの減衰力を変更可能な減衰可変装置であり、減衰可変装置は、信号発信手段からの作動制限信号を受け付けると、粘性ダンパの減衰力を平常時減衰から平常時減衰よりも大きな過減衰状態まで変更すると好適である。粘性ダンパの減衰力を平常時減衰から過減衰状態まで変更することで、確実に粘性ダンパの作動を規制でき、免震構造物の固有周期を短周期化できる。
【0013】
さらに、免震制限手段は、信号発信手段からの作動制限信号を受け付けると、免震装置の剛性を変化させる剛性可変装置であると好適である。剛性可変装置によって、免震装置の剛性を高めることによって、確実に免震装置の作動を規制でき、免震構造物の固有周期を短周期化できる。
【0014】
また、本発明は、免震装置を有する免震構造物において、上記の各長周期地震動対応システムによって長周期地震時に免震装置の作動を制限されることを特徴とする。本発明によれば、免震構造物への影響が最も大きいことが懸念される卓越周期が入力された場合であっても、免震構造物の固有周期とはズレ、共振の発生を抑止することができる。
【0015】
さらに、免震構造物は、基礎となる下部構造体と、下部構造体上に建設された上部構造体と、からなり、上部構造体には、振動減衰用の制振装置が設置されていると好適である。地震動の卓越周期が入力された場合の被害を、制振装置の設置によって、より効果的に抑えることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、免震構造物に長周期の卓越周期が入力された場合の共振の発生を抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態に係る長周期地震動対応システムを模式的に示す説明図である。
【図2】本実施形態に係る作動制限装置を示す説明図である。
【図3】免震装置を構成する粘性ダンパの一例として、オイルダンパを模式的に例示する図である。
【図4】長周期地震動対応システムの動作手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態に係る長周期地震動対応システムを模式的に示す説明図である。
【図6】本発明の第3実施形態に係る長周期地震動対応システムを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る長周期地震動対応システム1Aは、長周期地震動が免震構造物3に入力されても、長周期地震動による共振の発生を防止して被害を抑止するシステムである。図1及び図2に示されるように、長周期地震動対応システム1Aは、免震構造物3の建設地ARを含む広域の地震計ネットワーク5と、地震動予測コンピュータ7と、を備えている。地震計ネットワーク5は、衛星通信やインターネット通信回線などの有線または無線の通信網11を介して複数の地震計9に接続され、さらに、複数の地震計9は、通信網11を介して地震動予測コンピュータ7に接続されている。
【0019】
地震計(地震動計測手段)9は、機械式または電気式の計測機器であり、地震動の特性を把握するための情報、例えば、地震動の加速度、速度、または変位を測定するために、加速度計、速度計及び変位計の少なくとも一つを備えている。複数の地震計9は、日本全国の各地に配置されており、地震動の特性を把握するための情報を常時計測し、計測したデータを経時的なデータとして地震動予測コンピュータ7に送信する。
【0020】
なお、免震構造物3の建設地ARが決まると、長周期の地震動を発生させる地震の震源が予想(特定)できる。例えば、建設地ARが関東平野であれば、被害を及ぼす長周期の地震動を発生させるのは東海地震または関東地震であることが研究結果から判明している。同様に、建設地ARが大阪平野であれば南海地震であり、建設地ARが濃尾平野であれば東南海地震などであることが判明している。従って、複数の地震計9は、免震構造物3の建設地ARから特定される震源の周辺に配置されることが望ましい。複数の地震計9を、免震構造物3の建設地ARから特定される震源の周辺に配置することで、フィルターのかかっていない生の状態、すなわち、地盤の影響をあまり受けていない状態での地震動を観測でき、後述の卓越周期や地震動の強さレベルの精度の高い予測(建設地ARに到達した際の地震動の特性の予測)ができる。
【0021】
地震動予測コンピュータ7には、複数の地震計9及び一または複数の免震構造物3が通信網11を介して通信可能に接続されている。地震動予測コンピュータ7は、CPU、RAM及びROMなどが実装された制御基板を備えており、CPUは、ROMに格納された地震動波形解析プログラムなどの所定のプログラムに従って作動し、図2に示されるように、測定データ受付部71、演算部73、DB部74及び信号発信部75として機能する。
【0022】
測定データ受付部71は、各地震計9から送信されたデータ、すなわち、地震動の特性情報に関するデータ、例えば、加速度時刻歴データ、速度時刻歴データまたは変位時刻歴データを受け付ける。
【0023】
演算部(演算手段)73は、測定データ受付部71で受け付けられた地震動の時刻歴データをフーリエ解析し、免震構造物3の建設地ARである特定のサイトに入力される地震動の特性、特に、卓越周期及び地震動の強さレベルを予測する。具体的には、演算部73は、震源から建設地ARの直下の地盤まで伝播する間の増幅特性及び地盤の増幅特性(地盤増幅率)の影響を加味して地震動を解析し、建設地ARでの免震構造物3への入力が予測される地震動の予測卓越周期および予測強さレベルを演算して求める。なお、卓越周期とは、地震動を構成する波の成分のうち、加速度、速度または変位の振幅が最も大きな波、すなわち、免震構造物3への影響が懸念される波の周期である。
【0024】
DB部74は、演算部73で予測卓越周期及び予測強さレベルを求めるために用いられる各種データを格納する。具体的には、複数の免震構造物3および各免震構造物3の建設地ARに対して、震源から建設地ARの直下の地盤まで伝播する間の増幅特性や地盤の増幅特性(地盤増幅率)を対応付けたデータベースなどを格納している。
【0025】
信号発信部(信号発信手段)75は、演算部73によって解析された予測卓越周期が、免震装置16が作動している状態(以下、「免震状態」という)での免震構造物3に共振を生じさせ得る所定の周期範囲(以下、「共振範囲」という)に属するか否かを判定する。共振範囲は、免震状態での免震構造物3の固有周期を含み、この固有周期に近似する一定の範囲を意図する。さらに、信号発信部75は、演算部73によって解析された地震動の予測強さレベルが、予め設定された所定の数値(以下、「強さ閾値」という)を超えているか否かを判定する。さらに、信号発信部75は、予測卓越周期が共振範囲に属し、且つ地震動の予測強さレベルが強さ閾値を超えていると判定する場合には、免震作動制限装置17に作動制限信号を送信する。一方で、信号発信部75は、演算部73で解析された予測卓越周期が共振範囲から外れるか、または、地震動の予測強さレベルが強さ閾値未満と判定する場合には、作動制限信号に代えて作動信号を免震作動制限装置17に送信する。
【0026】
免震構造物3は、用途を集合住宅とする、RC造の建物であり、例えば、首都圏に建てられた超高層マンションなどである。この種のマンションでRC造を選択するのは、日常の風振動での揺れを防止する高い効果を期待できるからである。免震構造物3は、基礎となる下部構造体31と、下部構造体31上に建設された建物部分である上部構造体32とを備えている。上部構造体32は、多層階からなり、各層には、振動減衰用の制振装置13が設置されており、下部構造体31と上部構造体32との間には、免震装置16が設置されている。
【0027】
制振装置13は、ブレースとダンパからなる。ブレースは、逆V字状に配置され、上層の梁の中央部との接合部にダンパが介装されており、免震層の作動制限に伴い上部構造体32に地震力が作用し層間変形が生じた場合にはダンパによって地震エネルギーを吸収し得るように構成されている。なお、ダンパにはオイル等の粘性体を利用した粘性ダンパ、高減衰ゴム等の粘弾性体を利用した粘弾性ダンパ、摩擦力を利用した摩擦ダンパ、低降伏点鋼等を利用した履歴ダンパなどを適用することができる。また、ブレースの一部を低降伏点鋼で構成したりブレース自体をアンボンドブレース(座屈拘束ブレース)としたりして地震エネルギーを吸収するようにしたものでもよい。
【0028】
図3に示されるように、下部構造体31には、粘性ダンパの一つであるオイルダンパ15と積層ゴム(不図示)とからなる免震装置16が設置されている。オイルダンパ15は、例えば、水平方向に横たえて配置されており、ピストンロッド15aは上部構造体32に固定された支持部材に取り付けられ、シリンダ15bは下部構造体31に固定された支持部材に取り付けられている。シリンダ15bは、ピストンを挟んで二つの室に区分され、各室に設けられたポートは、作動油が流動する管路(以下、「作動油流動ライン」という)15cで接続されている。作動油流動ライン15c上には、開閉バルブ15dが設けられており、通常時には、作動油流動ライン15cは開放されている。通常時とは、地震動予測コンピュータ7の信号発信部75から作動信号を受け付けている状態であり、通常時には、作動油は作動油流動ライン15c上を移動し、その結果、オイルダンパは、地震動の入力による振動を減衰させて上部構造体32の揺れを低減する。
【0029】
上部構造体32には、免震作動制限装置(免震制限手段)17が設置されている。例えば、RC造の超高層マンションは耐震構造で1次固有周期が約2秒程度、免震装置16を作動させた状態(免震)で5〜6秒程度である。現在、大都市圏の平野部で問題になっている長周期地震動の卓越周期は大阪平野で5秒前後、濃尾平野で3秒前後、関東平野で5〜10秒と言われており免震のRC超高層マンションの1次固有周期と重なることから共振による被害が懸念されている。この共振による被害を抑止するために、免震作動制限装置17が作動する。
【0030】
本実施形態に係る免震作動制限装置17は、免震装置16を構成するオイルダンパ15の作動をロックすることで免震装置16の作動をロックするロック装置である。免震作動制限装置17は、地震動予測コンピュータ7の信号発信部75から発信された作動制限信号を受け付ける信号受付部と、免震装置16の作動をロックするロック制御部と、を備えている。ロック制御部は、地震動予測コンピュータ7から作動制限信号を受け付けると、免震装置16の作動油流動ライン15cに設置されている開閉バルブ15dを閉鎖するための駆動制御を行い、作動油流動ライン15cを閉じて作動油の移動をロックする。すると、オイルダンパ15の作動が規制されて、上部構造体32と下部構造体31との間の相対的変位が抑制されて非免震化され、免震構造物3の固有周期が短周期化する。その結果、地震動の卓越周期の入力による共振の発生が防止され、免震構造物3の被害を抑止できる。
【0031】
また、免震作動制限装置17のロック制御部は、地震動予測コンピュータ7から作動信号を受け付けた場合には、免震装置16を構成するオイルダンパ15の作動油流動ライン15cに設置されている開閉バルブ15dを開放するための駆動制御を行い、作動油流動ライン15cを開いて作動油の移動を許容する。その結果、オイルダンパ15が再び作動して免震構造物3を免震化させ、免震構造物3の固有周期が長周期に戻され、地震動の入力による振動を減衰させて上部構造体32の揺れを低減する。
【0032】
なお、本実施形態では、オイルダンパ15の開閉バルブ15dを閉じることで、オイルダンパ15の作動をロックする態様(ロック装置)を説明したが、ロック装置は、例えば、閂やピンを備えた機械的な構成によってピストンロッド15aの移動を規制したり、下部構造体31と上部構造体32とを剛的に連結したりして免震装置16の作動を規制する態様であってもよい。
【0033】
次に、図4を参照して長周期地震動対応の方法について説明する。なお、図4は、長周期地震動対応システム1Aの動作手順を示すフローチャートである。地震計9では、常時計測を行っており、地震動の特性に関するデータを経時的に地震動予測コンピュータ7に送信している。地震が発生し、地震動の特性に関するデータが地震計9から地震動予測コンピュータ7に送信されると、地震動予測コンピュータ7の演算部73では、地震波の分析を行う(ステップS1)。
【0034】
次に、演算部73は、建設地ARまでの伝播経路での増幅特性を取得する(ステップS2)。本実施形態では、免震構造物3の建設地ARに対応付けられた増幅特性がデータベース化されてDB部74に格納されており、演算部73は、DB部74から所望のデータを抽出する。
【0035】
次に、演算部73は、建設地ARでの地盤増幅率を取得する(ステップS3)。本実施形態では、免震構造物3の建設地ARに対応付けられた地盤増幅率がデータベース化されてDB部74に格納されており、演算部73は、DB部74から所望のデータを抽出する。
【0036】
次に、演算部73は、DB部74から抽出された増幅特性及び地盤増幅率に基づいて地震動を解析し、予測卓越周期及び地震動の予測強さレベルを求める(ステップS4)。
【0037】
次に、信号発信部75は、演算部73での解析結果から、免震構造物3に共振を生じさせる有害な長周期地震動か否かを判定し(ステップS5)、有害な長周期地震動と判定する場合には後続の処理を実行し、有害な長周期地震動ではないと判定する場合には、後続の処理を実行することなく作動信号を免震作動制限装置17に発信してステップS1に戻る。
【0038】
ステップS5において、信号発信部75は、演算部73で解析された地震動の予測卓越周期が共振範囲に属するか否かを判定し、さらに、地震動の予測強さレベルが強さ閾値以上であるか否かを判定する。そして、信号発信部75は、両方の条件を満たす場合、すなわち、地震動の予測卓越周期が共振範囲に属し、且つ地震動の予測強さレベルが強さ閾値以上の場合には、有害な長周期地震動であると判定し、いずれか一方の条件を満たさない場合には、有害な長周期地震動ではないと判定する。なお、本実施形態では、地震動の予測卓越周期が共振範囲に属し、且つ地震動の予測強さレベルが強さ閾値以上の場合には、有害な長周期地震動であると判定したが、予測強さレベルについては評価せず、地震動の予測卓越周期が共振範囲に属する場合には、有害な長周期地震動であると判定するようにしてもよい。
【0039】
信号発信部75は、有害な長周期地震動であると判定する場合には、作動制限信号を免震作動制限装置17に発信する(ステップS6)。免震作動制限装置17は、作動制限信号を受け付けると、免震装置16を構成するオイルダンパ15をロックして作動を規制し(ステップS7)、ステップS1に戻る。
【0040】
本実施形態によれば、免震構造物3への入力が予測される地震動の予測卓越周期を指標としており、その予測卓越周期が免震構造物3の共振を引き起こす程度の長周期の場合には、免震装置16の作動を制限して免震構造物3の固有周期を短周期化する。その結果として、免震状態で共振を引き起こす虞の高い長周期地震動が入力された場合であっても、免震構造物3の固有周期とはズレて共振の発生は防止され、被害の発生を抑制することができる。
【0041】
さらに、地震動予測コンピュータ7の演算部73は、地震動の予測卓越周期に加えて、免震構造物3への入力が予測される地震動の予測強さレベルを解析し、信号発信部75は、地震動の予測卓越周期が共振範囲に属し、且つ、予測強さレベルが強さ閾値以上の場合に、作動制限信号を発信する。従って、地震動の予測強さレベルが強さ閾値未満の場合には免震装置16の作動を維持するようになるので、地震の規模に応じた柔軟な対応が可能になる。
【0042】
さらに、免震作動制限装置17は、免震装置16を構成するオイルダンパの作動をロックすることで、確実に免震装置16の作動を規制でき、免震構造物3の固有周期を短周期化できる。
(第2実施形態)
【0043】
次に、図5を参照して第2実施形態に係る長周期地震動対応システム1Bについて説明する。図5は、免震装置18及び免震作動制限装置21を中心に、長周期地震動対応システム1Bを模式的に示す説明図である。なお、本実施形態に係る長周期地震動対応システム1Bは、第1実施形態に係る長周期地震動対応システム1Aと同様な構成や部材を備えているため、それらの構成や部材については、第1実施形態に係る長周期地震動対応システム1Aと同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0044】
長周期地震動対応システム1Bは、広域に配置された複数の地震計9と、複数の地震計9に通信網11を介して接続された地震動予測コンピュータ7と、を備える。さらに、地震動予測コンピュータ7は、通信網11を介して免震構造物3の免震作動制限装置21に接続されている。
【0045】
免震構造物3は、基礎となる下部構造体31と、下部構造体31上に建設された建物部分である上部構造体32とを備えている。上部構造体32の各層には、振動減衰用の制振装置13が設置されており、下部構造体31と上部構造体32との間には、免震装置18が設置されている。
【0046】
免震装置18は、MRダンパ19と積層ゴム(不図示)から構成される。MRダンパ19は、シリンダ19a内に充填した作動油の流動抵抗を減衰力として利用する粘性ダンパの一種である。MRダンパ19は、作動油としてMR流体(強磁性を有する微粒子を分散させた液体)を利用している。MRダンパ19は、可変減衰型の粘性ダンパであるが、複雑な弁構造に代えて、磁界を生じさせる電磁石19bがシリンダ19aの周囲に配置されている。電磁石19bを構成するコイル19cには、通電のための電源装置19dが接続されている。シリンダ19aに磁界が生じていない状態では、MRダンパ19は、第1実施形態に係るオイルダンパと同様に作動し、地震動の入力による振動を減衰させて上部構造体32の揺れを低減する。この状態での減衰力の大きさは、平常時減衰に相当する。一方で、電源装置19dがコイル19cに通電して電磁石19bが作用し、シリンダ19aに磁界が生じると、MR流体の流動抵抗が増し、平常時減衰よりも大きな過減衰状態になる。過減衰状態は、MRダンパ19の作動が規制された状態である。
【0047】
本実施形態に係る免震作動制限装置21は、MRダンパ19の減衰力を平常時減衰から平常時減衰よりも大きな過減衰状態まで変更可能な減衰可変装置である。免震作動制限装置21は、地震動予測コンピュータ7の信号発信部75から作動制限信号を受け付けると、免震装置18の電源装置19dを駆動制御し、電磁石19bを作用させるべくコイル19cに通電する。その結果、MRダンパ19の作動が規制され、免震構造物3の固有周期が短周期化し、予測卓越周期とはズレて共振の発生が防止される。
【0048】
本実施形態によれば、免震状態で共振を引き起こす虞の高い長周期の卓越周期が入力された場合であっても、免震構造物3の固有周期とはズレて共振の発生は防止され、被害の発生を抑制することができる。
【0049】
さらに、免震装置18は、粘性ダンパの一種であるMRダンパ19を有し、免震作動制限装置21は、MRダンパ19の減衰力を変更可能な減衰可変装置である。免震作動制限装置21は、MRダンパ19の減衰力を平常時減衰から過減衰状態まで変更することで、確実にMRダンパ19の作動を規制でき、免震構造物3の固有周期を短周期化できる。
【0050】
なお、減衰可変装置としては、例えば、ソレノイド(電磁式のアクチュエーター)等によって、免震装置を構成するオイルダンパの流量制御弁の開閉を調整して減衰力を変動させる減衰可変装置であってもよく、この減衰可変装置では、流量制御弁を狭めて流量を減らすことで、免震構造物の固有周期を短周期化する。また、電場によって粘性度が変化する電気粘性(ER)流体をシリンダに充填したERダンパを粘性ダンパとして使用し、その電場を制御することで減衰力を変動させる減衰可変装置であってもよい。
(第3実施形態)
【0051】
次に、図6を参照して第3実施形態に係る長周期地震動対応システム1Cについて説明する。図6は、本実施形態に係る長周期地震動対応システム1Cを模式的に示す説明図である。なお、本実施形態に係る長周期地震動対応システム1Cは、第1実施形態に係る長周期地震動対応システム1Aと同様な構成や部材を備えているため、それらの構成や部材については、第1実施形態に係る長周期地震動対応システム1Aと同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0052】
長周期地震動対応システム1Cは、広域に配置された複数の地震計9と、複数の地震計9に通信網11を介して接続された地震動予測コンピュータ7と、を備える。さらに、地震動予測コンピュータ7は、通信網11を介して免震構造物3の免震作動制限装置25に接続されている。
【0053】
免震構造物3は、基礎となる下部構造体31と、下部構造体31上に建設された建物部分である上部構造体32とを備えている。上部構造体32の各層には、振動減衰用の制振装置13が設置されている。
【0054】
下部構造体31と上部構造体32との間には、積層ゴムなどの支承部を備えた免震装置23が設置されている。免震装置23は、地震動の入力による振動を減衰させて上部構造体32の揺れを低減する。
【0055】
また、本実施形態に係る免震構造物3には、免震装置23の剛性を変化させる剛性可変装置としての免震作動制限装置25が設けられている。免震作動制限装置25は、ピストンが収容されたシリンダ25aと、ピストンに油圧をかけたり、また、油圧を解除したりすることでピストンロッド25bを進退させる油圧アクチュエータ25cと、油圧アクチュエータ25cの駆動制御を行う油圧制御部25dと、下部構造体31に固定された摩擦板25eと、を備えている。免震作動制限装置25は、ピストンロッド25bの先端部分を摩擦板25eに押し付けて摩擦力を変更することで、上部構造体32の履歴特性から決まる等価剛性を変更することができる。
【0056】
免震作動制限装置25の油圧制御部25dは、地震動予測コンピュータ7の信号発信部75に通信可能に接続されており、信号発信部75から作動制限信号を受け付けると、油圧アクチュエータ25cを駆動してピストンロッド25bを進出させ、ピストンロッド25bの先端を摩擦板25eに押し付ける。すると、ピストンロッド25bの先端と摩擦板25eとの間での摩擦力が増大して免震装置23の剛性が高くなり、確実に免震装置23の作動を規制することができる。その結果として、免震構造物3の固有周期が短周期化し、予測卓越周期とはズレて共振の発生が防止される。
【0057】
以上、本発明をその実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、免震装置として滑り支承や転がり支承と減衰部材とを組み合わせた態様や、高減衰積層ゴムを利用した態様であってもよい。また、免震作動制限手段は、免震装置の機能を完全に抑止するものであってもよく、また、免震装置の剛性や減衰などを変動させることで地震動の卓越周期が入力された場合であっても、共振が生じないように1次固有周期を設定変更する態様であってもよい。
【符号の説明】
【0058】
1A,1B,1C…長周期地震動対応システム、3…免震構造物、9…地震計(地震動計測手段)、13…制振装置、16…免震装置、17…免震作動制限装置(免震制限手段)、18…免震装置、19…MRダンパ(粘性ダンパ)、21…免震作動制限装置(減衰可変装置)、23…免震装置、25…免震作動制限装置(剛性可変装置)、31…下部構造体、32…上部構造体、73…演算部(演算手段)、75…信号発信部(信号発信手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震装置を有する免震構造物における長周期の地震動に対応する為の長周期地震動対応システムであって、
広範囲にわたって設置され、且つ地震動を常時計測する複数の地震動計測手段と、
前記地震動計測手段によって計測された地震動に基づいて、前記免震構造物への入力が予測される地震動の予測卓越周期を解析する演算手段と、
前記演算手段によって解析された地震動の予測卓越周期が、前記免震装置による免震状態での前記免震構造物の固有周期を含む所定の周期範囲に属する場合に、作動制限信号を発信する信号発信手段と、
前記信号発信手段からの作動制限信号を受け付けると、前記免震装置の作動を制限して前記免震構造物の固有周期を短周期化する免震制限手段と、を備えることを特徴とする長周期地震動対応システム。
【請求項2】
前記演算手段は、前記地震動の予測卓越周期に加えて、前記免震構造物への入力が予測される地震動の予測強さレベルを解析し、
前記信号発信手段は、前記地震動の予測卓越周期が前記所定の周期範囲に属し、且つ、前記演算手段によって解析された前記地震動の予測強さレベルが所定の数値以上の場合に、前記作動制限信号を発信することを特徴とする請求項1記載の長周期地震動対応システム。
【請求項3】
前記免震制限手段は、前記免震装置の作動をロックするロック装置であることを特徴とする請求項1または2記載の長周期地震動対応システム。
【請求項4】
前記免震装置は、粘性ダンパを有し、
前記免震制限手段は、前記粘性ダンパの減衰力を変更可能な減衰可変装置であり、
前記減衰可変装置は、前記信号発信手段からの作動制限信号を受け付けると、前記粘性ダンパの前記減衰力を平常時減衰から前記平常時減衰よりも大きな過減衰状態まで変更することを特徴とする請求項1または2記載の長周期地震動対応システム。
【請求項5】
前記免震制限手段は、前記信号発信手段からの作動制限信号を受け付けると、前記免震装置の剛性を変化させる剛性可変装置であることを特徴とする請求項1または2記載の長周期地震動対応システム。
【請求項6】
免震装置を有する免震構造物において、
請求項1〜5のいずれか一項記載の長周期地震動対応システムによって長周期地震時に前記免震装置の作動を制限されることを特徴とする免震構造物。
【請求項7】
前記免震構造物は、基礎となる下部構造体と、前記下部構造体上に建設された上部構造体と、からなり、
前記上部構造体には、振動減衰用の制振装置が設置されていることを特徴とする請求項6記載の免震構造物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−189968(P2010−189968A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36963(P2009−36963)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)
【Fターム(参考)】