説明

長尺重量物のアライメント支援方法、長尺重量物のアライメント支援システム

【課題】長尺重量物のアライメント容易に行うことが可能な長尺重量物の位置合せ支援方法、およびアライメント支援システムを提供する。
【解決手段】建屋座標系Oで目標位置が定められた長尺重量物のアライメント支援システムであって、前記長尺重量物である電磁石12に固定され、前記目標位置が設定された計測用ターゲット26と、前記電磁石12に配設され、前記長尺重量物を所定の調整軸方向に移動させてアライメントを行う調整機構14と、前記計測用ターゲット26の現在位置を測定して現在位置のデータを出力する計測装置16と、前記現在位置のデータが入力され、前記現在位置のデータと前記目標位置のデータとの偏差を前記計測用ターゲットによって形成される平面を基準として構成された座標軸によるローカル座標系Lに変換する演算手段18と、を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺重量物のアライメントを容易に行うことが可能な長尺重量物の位置合せ支援方法、およびアライメント支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
長尺重量物には、高い精度で据え付けなければならないものがある。このような長尺重量物の一例としては、高エネルギー粒子を得るための加速器に用いられる電磁石がある。この電磁石は、高エネルギー粒子の周回軌道に対して正確に設置される必要がある。このため電磁石が建屋に据え付けられるときは、高エネルギー粒子の周回軌道に合致するように電磁石の位置が調整されなければならない。なお、加速器には様々な種類の電磁石が用いられるが、具体的な一例として、長尺電磁石は長さ約6m、重さが約30tあり、据付精度として±0.2mmが要求される。
【0003】
図11に従来技術に係る加速器用の電磁石の配置を示す。加速器が設置される建屋の床262には、電磁石250を載せる複数の架台252が設けられている。この架台252の上面には孔部(不図示)が設けられている。この孔部(不図示)を形成する側壁に水平方向調整ボルト254および鉛直方向調整256ボルトが設けられている。より具体的には、水平方向調整ボルト254は、水平方向に移動可能にして、側壁を貫通して設けられている。また鉛直方向調整ボルト256は、鉛直方向を移動可能にして側壁の上面に設けられている。また電磁石250は、架台に設けられた孔部252aに電磁石脚部250aを入れて、架台252(鉛直方向調整ボルト254)上に載せられている。
【0004】
なお、加速器に用いられる電磁石を位置決めする方法について開示したものとしては特許文献1が挙げられる。この特許文献1に開示された電磁石には、そのコアに水平方向の貫通孔が形成されており、この貫通孔の両端部出口に位置決め用ターゲットが配されている。そして一台のオートレベラーで貫通孔の一方向からこの貫通孔を覗き込んで、貫通孔の両端部に配された位置決めターゲットの高さが一致するように電磁石の高さを調整することにより、電磁石の高さ方向のアライメントが行われている。
【特許文献1】特開平6−163197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したように、建屋内に配設されている電磁石250を所定方向に設置する場合において、水平方向への電磁石250の移動は、電磁石250を移動させる方向に向かって水平方向調整ボルト254を送り込んで、電磁石250に設けられた電磁石脚部250aを押すことにより行われる。また鉛直方向への電磁石250の移動は、電磁石250を移動させる方向に向かって鉛直方向調整ボルト256を送り込み、または送り出して行われる。この水平方向調整ボルト254や鉛直方向調整ボルト256の送り込み等の操作は、作業員の手作業によって行われる。即ち作業員がスパナ等を用いて水平方向調整ボルト254や鉛直方向調整ボルト256を回すことによって、電磁石250を所定位置に調整している。この際、電磁石250は前述した具体的一例のように30tと非常に重いため、このまま水平方向調整ボルト254を操作しても、電磁石250の荷重を支える鉛直方向調整ボルト254と電磁石250との摩擦力で、電磁石250は移動しない。そこで、電磁石250下側にコロ等の摺動部を備えた油圧ジャッキ装置258、あるいはエアパレット装置等(不図示)を配置して、電磁石250を微小に浮上させて水平方向の位置調整を行う方法がとられる。なお、電磁石250の長さは6mの長手方向両端部と中央部に架台及び鉛直/水平方向調整ボルトが設けられており、前述のジャッキ装置はこの架台252間に設置される。
【0006】
電磁石250上面には、3点(両端部付近及び中央)に位置計測に用いる3次元計測機器用の計測用ターゲット260が設けられており、電磁石250のアライメントは、各調整ボルトの操作によって、これら3つの計測用ターゲット260を予め定められた座標位置に配する作業である。ここで、電磁石250は柔軟性のある材質で製造されているため、例えばある一端の鉛直/水平ボルト類を操作した結果生じる電磁石250の変位は、その真上にある計測用ターゲット260の位置変化のみに影響を与え、その他の点への影響は微小である。よって、各計測用ターゲット260のアライメントは、その下に配された架台上の調整ボルトのみによって行うことができる。
【0007】
ここで、電磁石250上にある3つの計測用ターゲットの目標座標値は、建屋内に予め設定された直交座標系を基準として与えられている。加速器の規模によって異なるが、前述した長尺の偏向電磁石の場合は、周長1km以上にも及ぶ巨大な加速器の円弧に沿って数十台が直列に配置されるため、電磁石250のアライメント作業の効率化は工期の短縮において非常に重要となってくる。ここで、前述のように電磁石250上の計測用ターゲットの座標値は建屋座標系によって指示されているため、ターゲットを目標位置に追い込むためにはどの調整ボルトを操作すればよいかが判別しにくく、調整作業の遅れの原因となりうる懸念があった。
【0008】
そこで本発明は、上記のような長尺重量物のアライメントの問題を解決し、調整作業を容易に行うために、これを支援する長尺重量物のアライメント支援方法、及び長尺重量物のアライメント支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る長尺重量物のアライメント支援方法は、第1には、建屋座標系で目標位置が定められた長尺重量物のアライメント支援方法であって、前記長尺重量物の前記建屋座標系における現在位置と前記目標位置との偏差を、前記長尺重量物に複数配置される計測用ターゲットで構成される平面を基準とするローカル座標系に変換することを特徴としている。
【0010】
第2には、前記長尺重量物に計測用ターゲットを複数配置し、前記アライメントを行う調整機構が前記長尺重量物に複数配設されるとともに鉛直方向に操作可能とされ、前記調整機構のうち、前記計測用ターゲットによって形成される平面内において直交する2本の単位方向ベクトル周りの回転、及び前記平面に垂直上向きな単位ベクトル方向への並進運動を与えるように前記長尺重量物を操作する組み合わせとなる調整機構を鉛直方向に単位操作量だけ操作した時の前記長尺重量物の各ベクトル上の姿勢変化量を測定し、前記計測用ターゲットの位置を測定することにより、前記長尺重量物の現在位置から目標位置への座標値の差を求め、前記座標値の差を前記各ベクトル上の姿勢変化量に変換し、前記各ベクトル上の姿勢変化量、前記単位操作量当たりの姿勢変化量から各調整機構の鉛直方向の操作量を求める、ことを特徴としている。
【0011】
第3には、前記単位操作量当たりの姿勢変化量をヤコビアン行列で表し、前記ヤコビアン行列の逆行列と前記姿勢変化量とを掛け合わせて、前記各調整機構の前記操作量を求める、ことを特徴としている。
【0012】
一方、本発明に係る長尺重量物のアライメント支援システムは、第1には、建屋座標系で目標位置が定められた長尺重量物のアライメント支援システムであって、前記長尺重量物に固定され、前記目標位置が設定された計測用ターゲットと、前記長尺重量物に配設され、前記長尺重量物を所定の調整軸方向に移動させてアライメントを行う調整機構と、前記計測用ターゲットの現在位置を測定して現在位置のデータを出力する計測装置と、前記現在位置のデータが入力され、前記現在位置のデータと前記目標位置のデータとの偏差を前記計測用ターゲットによって形成される平面を基準として構成された座標軸によるローカル座標系に変換する演算手段と、を有することを特徴としている。
【0013】
第2には、前記計測用ターゲットは前記長尺重量物に複数配置され、前記調整機構は前記長尺重量物に複数配設されるとともに鉛直方向に操作可能とされ、前記計測用ターゲットの位置を測定することにより、前記長尺重量物の現在位置を測定する3次元計測器と、前記調整機構のうち、前記計測用ターゲットによって形成される平面内において直交する2本の単位方向ベクトル回りの回転、及び前記平面に対して垂直上向きな単位ベクトル方向への並進運動を与えるように前記長尺重量物を操作する組み合わせとなる調整機構を鉛直方向に単位操作量だけ操作した時の前記長尺重量物の各ベクトル上の姿勢変化量を測定し、前記3次元計測器から入力された前記現在位置と目標位置との座標値の差を前記各ベクトル上の姿勢変化量に変換し、前記各ベクトル上の姿勢変化量、前記単位操作量当たりの姿勢変化量から各調整機構の鉛直方向の操作量を求める演算手段と、を有する、ことを特徴としている。
【0014】
第3には、前記演算手段は、前記単位操作量当たりの姿勢変化量をヤコビアン行列で表し、前記ヤコビアン行列の逆行列と前記姿勢変化量とを掛け合わせて、前記各調整機構の前記操作量を求める、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る長尺重量物のアライメント支援方法、及び長尺重量物のアライメント支援システムによれば、長尺重量物を目標位置にアライメントする作業において、長尺重量物の目標位置と現在位置の偏差が、長尺重量物の調整機構の調整方向と概ね同一方向で表示されることになる。よって長尺重量物を目標位置へアライメントする際、調整機構が複数あってもどの調整機構を操作すればよいかが直感的に理解できるとともに、所定の調整方向の調整量をも理解できるようになるため、長尺重量物のアライメント作業の効率化及び工期短縮を図ることができる。特に、扱う長尺重量物の台数が多いほど、本発明の上述の効果がより顕著に発揮される。
【0016】
また、アライメント時の作業の繰り返しをなくすことができ、作業時間の平準化および短縮を実現できる。またヤコビアン行列の取得作業を行えば、調整機構の操作量と長尺重量物の姿勢変化量の定量的な関係を得ることができ、それを用いて長尺重量物のアライメントに必要な調整機構の操作量を得ることができる。そして長尺重量物を操作する方向を示すベクトルの数と調整機構の組合せの数とを同数にしているので、ヤコビアン行列の逆行列を求めることができ、調整機構の操作量を求めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を図に示した実施形態を用いて詳細に説明する。但し、この実施形態に記載される構成要素、種類、組み合わせ、形状、その相対配置などは特定的な記載がない限り、この発明の範囲をそれのみに限定する主旨ではなく単なる説明例に過ぎない。
【0018】
第1実施形態に係る長尺重量物のアライメント支援方法は、建屋座標系で目標位置が定められた長尺重量物のアライメント支援方法であって、前記長尺重量物の前記建屋座標系における現在位置と前記目標位置との偏差を、前記長尺重量物に複数配置される計測用ターゲットで構成される平面を基準とするローカル座標系に変換するものであり、これを具現化する長尺重量物のアライメント支援システム10を図1に示す。長尺重量物のアライメント支援システム10は、長尺重量物である電磁石12、調整機構14、計測装置16、演算手段18を有する。第1実施形態において、電磁石12を長尺重量物としているが、他の設置物に対しても適用できることは言うまでもない。
【0019】
電磁石12は加速器に用いられる長尺の重量物である。電磁石12が設置される建屋の床20には、この電磁石12の位置調整を行うために複数の架台22が設けられている。この架台22は、電磁石12が載せられるものであり、電磁石12の両端部及び中央部を支えるようになっている。この架台22の上面には上方に向けて開口した孔部22a(図2参照)が設けられている。この穴部22aを形成する側壁には、調整機構14である水平方向調整ボルト14a(電磁石の長手方向)、14b(電磁石の幅方向)及び鉛直方向調整ボルト14cが設けられている。
【0020】
図2に調整機構の模式図を示す。図2(a)は電磁石の両端部における調整機構、図2(b)は中央部における調整機構を示す。図2に示すように架台22に形成された孔部22aの側壁の各側面(孔部22aに対して前後左右方向の面)に水平方向に貫通したボルト孔(不図示)が形成されている。この水平方向のボルト孔(不図示)はネジ山(内ネジ)が形成されており、水平方向調整ボルト14a、14bがこのボルト孔(不図示)にねじ込まれて配設されている。また側面の上面にも鉛直方向に貫通したネジ孔が設けられている。この鉛直方向のネジ孔にもネジ山(内ネジ)が形成されており、鉛直方向調整ボルト14cが鉛直方向に移動可能にしてこのネジ孔にねじ込まれて配設されている。なお、鉛直方向調整ボルト14cは、側壁の上面における各角部に設けられているので、平面視して水平方向調整ボルト14a、14bとは重なっておらず、両ボルトを繰り出しても互いに干渉することはない。
【0021】
また、電磁石12は図3に示すように、その下面に電磁石脚部12aを設けている。この電磁石脚部12aは、電磁石12の各両端部付近及び中央部に設けられており、架台22に設けられた孔部22aに挿入できるようになっている。そして電磁石12は、架台22上の鉛直方向調整ボルト14cに自重を支えられて架台22の上に載せられている。このとき、電磁石脚部12aの側面には、水平方向調整ボルト14a、14bの先端が接触するようになっており、水平方向調整ボルト14a、14bを送り込むことによってこの電磁石脚部12aを介してその操作力が電磁石12に伝わり、電磁石12が架台22上で位置を移動することができる。なお、このとき、当然のことながら、操作する水平方向調整ボルトと反対側の水平方向調整ボルトは、その方向への電磁石12の移動を阻害しないように接触を解いておく必要がある。よって調整機構14は水平方向調整ボルト14a、水平方向調整ボルト14b、及び鉛直方向調整ボルト14cを調整軸として電磁石12の位置を調整することができる。
【0022】
この電磁石12本体の重量は30t程度になる場合もあり、そのような場合には、何らかの補助を設けないと、鉛直方向調整ボルト14cと電磁石12本体の間に生じる摩擦力の影響により、水平方向調整ボルト14a、14bを操作しても電磁石12の位置調整が行えない。そこで、電磁石12の水平位置調整時には、この鉛直方向調整ボルト14cと電磁石12との間の摩擦力を軽減するために、電磁石12下側の架台22間にコロ付の油圧ジャッキ装置24あるいはエアパレット装置等(不図示)を設置して電磁石12をわずかに持ち上げる。これにより、鉛直方向調整ボルト14cが受ける荷重が低減され、さらに、電磁石12の荷重を負担しているエアパレット等(不図示)の装置は設置面との間の摩擦がほとんどないため、水平方向調整ボルト14cの操作によって、電磁石12が容易に移動可能となる。なお、ここで電磁石12と鉛直方向ボルト14c間の摩擦低減方法はエアパレット装置等(不図示)に限らず、同種の効果を得られるものであればいかなるものでも良い。
【0023】
また電磁石12には、図3に示すように、その上面に3次元計測が可能な計測装置16用の3つの計測用ターゲット26(26a、26b、26c)が固定されている。この計測用ターゲット26は、電磁石12両端付近(26a、26c)と中央部(26c)に、両端部の計測用ターゲット26を結んだ線分を底とする二等辺三角形28をなすように配置されている。なお、加速器においてこの電磁石12は、高エネルギー粒子が周回軌道を得るために、電磁力を用いて粒子を偏向させる役割を持ち、計測用ターゲット26は粒子の電磁石内における軌道の真上に配置されるようになっている。
【0024】
図4は、加速器施設における電磁石12の配置を示した模式図である。上記で示した電磁石12は、電磁力により高エネルギー粒子の周回軌道を与えるもので、加速器の軌道中に、図示するように直列に配置されている。なお、円周軌道上に配置される電磁石12の数は加速器の規模にもよるが、本図では20台である。また軌道上には電磁石12の他にも様々な機器が配置されるが、本図では省略する。加速器施設には、図4に示すように施設のある点(本図では周回軌道の中心位置)を基準(原点)とした建屋座標系O(直交座標系)が設定されており、各電磁石12の計測用ターゲット26の設置すべき目標位置はこの建屋座標系Oで与えられる。各電磁石12は予め所定位置に設置されると所定の方向に各調整機構14の調整方向が定められるが、第1実施形態にかかる長尺重量物のアライメント支援システム10により正確なアライメントを行うことになる。
【0025】
計測装置16は建屋座標系Oに従い、計測用ターゲット26の3次元の位置を測定するものである。計測装置16は、設置位置(図中では前記中心位置)においてその高さを3つの計測用ターゲット26を全て測定可能な位置に設置し、その設置位置からレーザ光16aを計測用ターゲット26に照射し、測定装置16の測距部(不図示)と計測用ターゲット26までの直線距離と、測定装置16に内蔵された鉛直方向及び水平方向の二軸の角度検出器による測定装置16と計測用ターゲット26の相対的な角度情報、さらにはあらかじめ取得しておいた三点以上の建屋基準点の測定結果をもとに得られる測定装置16の建屋座標系Oにおける設置位置情報をもとに計測用ターゲット26の建屋座標系Oにおける位置を算出できるようにすれば良い。
【0026】
演算手段18は、前記計測用ターゲット26の測定結果となる現在位置のデータが入力
され、予め入力されている計測用ターゲット26の目標位置のデータとの偏差を算出して演算手段18に付属するモニタ(不図示)に表示するものである。なお、目標位置のデータは外部記憶媒体等を用いて演算手段18に入力きるように構成すればよい。ここで電磁石12の高さ方向の目標位置は全電磁石共通であり、建屋座標系Oにおける垂直軸(Z軸)の方向と、鉛直方向調整ボルト14cの調整方向は一致するので、鉛直方向調整ボルト14cを用いて全ての計測用ターゲット26を演算手段18のモニタ(不図示)に表示される偏差に従い、同じ座標値に調整すればよい。しかし水平方向のアライメントにおいては、例えば図中に示すように、建屋座標系OのX軸あるいはY軸と平行に配置される電磁石12については、水平方向調整ボルト14a、14bの操作によって電磁石12の移動する方向が、この軸と平行あるいは直角に交わっているため、どのボルトをどの方向に操作すればよいかが直感的に理解可能である。しかし、そのような配置となる電磁石12は全数中の一部であり、その他の電磁石12は建屋座標系Oの軸と何らかの角度をもって配置される。そこで演算手段18は以下に示す方法により、建屋座標系Oにおける各電磁石12の計測用ターゲット26の偏差を、各電磁石12の計測用ターゲット26によって形成される平面を基準として構成した座標軸による後述のローカル座標系Lに変換して表示する。
【0027】
まず、i番目の電磁石12上の3つの計測用ターゲットP10i、P20i、P30iの目標位置が建屋座標系Oで以下のように与えられているとする。
【数1】




【0028】
すると、建屋座標系Oにおける計測用ターゲット26の目標位置と現在位置との偏差DkOi(k=1、2、3)は、
【数2】


となる。
【0029】
そして、図5に示すように、計測用ターゲット26の目標位置の座標間を結んで形成される二等辺三角形28の底辺に平行にQ10iからQ30iに向かう水平方向の単位ベクトルをXLi、XLiに垂直で水平方向の単位ベクトルをYLi、建屋座標系OのZ軸と共有する高さ方向の単位ベクトルZLiを有するローカル座標系Lを定義する。このときXLi、YLiはそれぞれ水平方向調整ボルトの調整方向と概ね平行もしくは垂直な関係になる。このローカル座標系LのXLi、YLi、ZLiの方向ベクトルはそれぞれ建屋座標系Oを用いて以下のように表される。
【数3】

【0030】
また、建屋座標系OのX軸と、i番目の電磁石の単位ベクトルXLiとのなす角θは以下のようになる。
【数4】

【0031】
以上を用いると、建屋座標系Oにおけるi番目の電磁石12にあるk番目(k=1、2、3)の計測用ターゲット26の偏差D0kiと、i番目の電磁石12のk番目の計測用ターゲット26の目標位置を原点とするローカル座標系Lにおける偏差DLkiとの関係を表すと以下のようになる。
【数5】



【0032】
これによりdzLkiが引き続き鉛直方向調整ボルト14cの調整方向の偏差を示し、dxLkiが水平方向調整ボルト14a、dyLkiが水平方向調整ボルト14bの調整方向の偏差を示すことになる。すなわち計測用ターゲット26の目標位置と現在位置との偏差が、調整機構14の調整方向と概ね一致した方向に座標軸をもつローカル座標系Lによって表されることで、偏差を無くすために操作すべき調整機構14の選定が容易となる。
【0033】
電磁石12のアライメントは、水平方向調整ボルト14a、14bおよび鉛直方向調整ボルト14cの操作によって、これら3つの計測用ターゲット26を予め定められた座標位置に一定の誤差範囲内で配する作業である。ここで、電磁石12が柔軟性のある材質で製造されている場合は鉛直方向調整ボルト14cを操作した結果生じる電磁石12の変位は、その真上にある計測用ターゲット26の位置変化のみに影響を与え、その他の点への影響は微小である。よって、各計測用ターゲット26の鉛直方向のアライメントは、その下に配された架台22上の調整機構14のみによって行うことができる。第1実施形態においてローカル座標系Lの座標軸は調整機構14の調整軸とほぼ一致(架台の製作精度及び設置の精度は、厳密ではないので両者は完全には一致しない)するため、電磁石12が建屋座標系Oに対していかなる角度でアライメントするものであっても、目標位置と現在位置との偏差と、操作すべき調整機構14との関連が明確となり、特に従来技術では把握が困難であった水平方向調整ボルト14a、14bの繰り出す長さ(調整量)が数値化されるので作業効率が向上する。
【0034】
図6は、演算手段18のモニタの表示画面の一例である。図中には電磁石12の上面図が示してあり、電磁石12上の3つの計測用ターゲット26の現在位置と目標位置との差が、上記座標変換より「dx(長手方向)±何mm」、「dy(幅方向)±何mm」、「dz(高さ方向)±何mm」といった具合で表示される。作業者は画面表示を見ながら調整を行うことで電磁石12を容易に目標位置へ調整可能となる。
【0035】
したがって第1実施形態によれば、長尺重量物である電磁石12を目標位置にアライメントする作業において、電磁石12の目標位置と現在位置の偏差が、電磁石12の調整機構14の調整方向と概ね同一方向で表示されることになる。よって作業者が電磁石12を目標位置へアライメントする際、調整機構12が複数あってもどの調整機構12を操作すればよいかが直感的に理解できるとともに、所定の調整方向の調整量をも理解できるようになるため電磁石12のアライメント作業の効率化及び工期短縮を図ることができる。特に、扱う電磁石12の台数が多いほど、第1実施形態の上述の効果がより顕著に発揮される。
【0036】
第1実施形態においては、長尺重量物は柔軟性のある材質で製造されており、各調整機構の鉛直方向の調整は独立に行うことが可能であることを前提として述べてきた。しかし、長尺重量物の寸法や材質等によっては重量物の剛性が高く、調整機構の鉛直方向の操作によって他の調整機構の操作量に影響を及ぼし得る。上述のように、電磁石等の長尺重量物の鉛直方向のアライメントは、鉛直方向調整ボルトを操作して行っている。すなわち電磁石の上面に設けてある計測用ターゲットの位置(座標値)を建屋内に配設した3次元計測器で測定し、計測用ターゲットの位置が目標値の誤差範囲内に収まるように鉛直方向調整ボルトを操作している。しかしながら計測用ターゲットは、電磁石1台当たりに複数設けてあるので、ある一点の計測用ターゲットを目標値に合わせるように鉛直方向調整ボルトを調節しても、別の一点を合わせると前に合わせた計測用ターゲットがずれてしまう。そして電磁石のアライメントは、このようなトライアンドエラーの繰り返しで少しずつ目標値に追い込んでいく必要があり、このため電磁石一台あたりの据付け時間がまちまちで予測困難であり、ひいては加速器全体の工期に大きな影響を及ぼすおそれがあった。そこで第2実施形態においては複数ある鉛直方向調整ボルトを互いに関連付けて操作させ、トライアンドエラーの繰り返しを回避する長尺重量物のアライメント支援方法、及びアライメント支援システムについて述べる。
【0037】
第2実施形態に係る長尺重量物のアライメント支援方法は、前記長尺重量物に計測用ターゲットを複数配置し、前記アライメントを行う調整機構が前記長尺重量物に複数配設されるとともに鉛直方向に操作可能とされ、前記調整機構のうち、前記計測用ターゲットによって形成される平面内において直交する2本の単位方向ベクトル周りの回転、及び前記平面に垂直上向きな単位ベクトル方向への並進運動を与えるように前記長尺重量物を操作する組み合わせとなる調整機構を鉛直方向に単位操作量だけ操作した時の前記長尺重量物の各ベクトル上の姿勢変化量を測定し、前記計測用ターゲットの位置を測定することにより、前記長尺重量物の現在位置から目標位置への座標値の差を求め、前記座標値の差を前記各ベクトル上の姿勢変化量に変換し、前記各ベクトル上の姿勢変化量、前記単位操作量当たりの姿勢変化量から各調整機構の鉛直方向の操作量を求めるものである。これを具現化する第2実施形態に係るアライメント支援システムを図7、図8に示す。
【0038】
図7はアライメント支援システムの説明図である。図8は調整ボルトの配置位置の説明図である。図7に示すアライメント支援システム110は、第1実施形態と同様に、高エネルギ粒子の周回軌道に合致させて電磁石120を配設するために、3次元計測器112および演算手段114を備えている。電磁石120は、第1実施形態と同様に建屋座標系Oにおいて複数配置されており図4に示されるように電磁石120ごとに建屋座標系Oにおいて異なった方向を向いているものとする。電磁石120は建屋の床116に設けた架台122上に配設されている。この架台122には調整機構124が設けてあり、各調整機構124を操作して架台122上の電磁石を目標値(設計値)までアライメントしている。この調整機構124は、電磁石120を鉛直方向に移動させる鉛直方向調整ボルトV1〜V4と、水平方向に移動させる水平方向調整ボルトH1〜H6から構成されている(図8参照)。なお本実施形態では、鉛直方向調整ボルトV1〜V4は4本配置され、水平方向調整ボルトH1〜H6は6本配置されている。
【0039】
鉛直方向調整ボルトV1〜V4は、架台122の上面から突出し、且つ、上下に移動可能に設けてある。そして鉛直方向調整ボルトV1〜V4上に電磁石120が載せられている。具体的には、図8に示すように、鉛直方向調整ボルトV1〜V4は、電磁石120の底面の各角部付近と接触している。
【0040】
また電磁石120は、その下側における長手方向の両端付近に突起部130を備えている。そして水平方向調整ボルトH1〜H6は、水平方向に移動可能として架台122に設けてあり、電磁石120の外側となる3方向から突起部130に接触している。具体的には、図8において電磁石120の手前側に位置する端部に設けられた突起部130aには、この突起部130aの+j方向の面に水平方向調整ボルトH4が接触し、−j方向の面に水平方向調整ボルトH6が接触し、+i方向の面に水平方向調整ボルトH2が接触している。また図8において電磁石120の奥側に位置する端部に設けられた突起部130bには、この突起部130bの+j方向の面に水平方向調整ボルトH3が接触し、−j方向の面に水平方向調整ボルトH5が接触し、−i方向の面に水平方向調整ボルトH1が接触している。
【0041】
これにより電磁石120は、その下側に配置された調整機構124によって、アライメントが可能になっている。なお鉛直方向調整ボルトV1〜V4および水平方向調整ボルトH1〜H6の先端は丸みを帯びており、電磁石120や突起部130と点接触している。
【0042】
各調整機構124には、図7に示すように、ダイヤルゲージ134を設けている。このダイヤルゲージ134は、各調整機構124の操作の邪魔にならない位置に配設してあり、調整機構124の操作量を監視している。なお図7では、調整機構124に接続されるダイヤルゲージ134の記載を一部省略している。
【0043】
また電磁石120の上部には、計測用ターゲット126を3つ配設している。この計測用ターゲット126は、二等辺三角形を形成するように配置してある。なお、この計測用ターゲット126の3点の計測値を、誤差範囲内の精度(例えば±0.1mm)で目標位置に一致させることがアライメントの目的である。
【0044】
そして加速器が設置される建屋内には、計測用ターゲット126の3次元座標を取得するための3次元計測器112を配設している。3次元計測器112は、レーザ光の照射部と受光部を備えるとともに角度センサを備えている(図示せず)。3次元計測器112は、第1実施形態と同様にレーザ光を計測用ターゲット126に照射して、これから反射されてくる反射光を受光することにより、3次元計測器112から計測用ターゲット126までの距離を計測するとともに、レーザ光を照射している角度を前記角度センサで計測する。これによって3次元計測器112は、測定している計測用ターゲット126の3次元座標を求めている。なお3次元計測器112が指示する座標値は、現場に予め正確に配置した複数の基準点(図示せず)を計ることで、現場の建屋座標系Oと一致している。この3次元計測器112と、前述したダイヤルゲージ134は、演算手段114に接続している。
【0045】
次に、電磁石120のアライメント方法について説明する。まず電磁石120の姿勢の定義について説明する。3つ有る計測用ターゲット126のそれぞれの目標位置座標を建屋座標系Oにおけるベクトル表記でa,b,cとし、その重心座標をGと定義する。また計測用ターゲット126の現在位置をa,b,cとすると表し、その重心点をGと定義する。
【0046】
電磁石120のアライメントは、計測用ターゲット126の現在位置a、b、cを目標位置a、b、cに一致させる作業である。第2実施形態に係るアライメント方法では、まず鉛直方向調整ボルトV1〜V4を用いて、計測用ターゲット126の現在位置a、b、cを目標位置a、b、cを含む平面に一致させる。その後、a、b、cと同一平面内にあるa、b、cを、水平方向調整ボルトH1〜H6を用いて目標位置まで調整するものとする。この水平方向調整ボルトH1〜H6は第1実施形態における水平方向調整ボルト54と同様の調整方法により電磁石120の水平方向のアライメントを行う。なお、第2実施形態においても、第1実施形態と同様に電磁石120をジャッキ(不図示)によりわずかに持ち上げ、水平方向調整ボルトH1〜H6及び鉛直方向調整ボルトV1〜V4の操作を容易に行えるようにしても構わない。
【0047】
以下に、この鉛直方向調整ボルトV1〜V4を用いた鉛直方向のアライメント方法について説明する。点a、b、cを含む平面へ点a、b、cを含む平面を一致させるためには、鉛直方向調整ボルトV1〜V4を操作して電磁石120を回転させて点a、b、cを含む平面に垂直上向きな単位方向ベクトルkを、点a、b、cを含む平面に垂直上向きなkに一致させ、且つ重心点Gの建屋座標系Oのz軸方向の座標値をGに合わせればよい。
【0048】
第2実施形態に係るアライメント方法では、まず鉛直方向調整ボルトV1〜V4の単位操作量に対する電磁石120の挙動特性(単位方向ベクトルkの姿勢変化と重心点Gの鉛直方向の位置変化)を予め取得しておき、その特性をもとに、目標位置へ電磁石120を位置決めするために必要な各ボルトの操作量を逆算する。
【0049】
挙動特性の取得とは、前記鉛直方向調整ボルトV1〜V4のうち、前記計測用ターゲット126によって形成される平面内において直交する2本の単位方向ベクトル(i、j)回りの回転、及び鉛直方向(z軸)の並進移動に相当する姿勢変化を電磁石120に与えるように鉛直方向調整ボルトを単位操作量だけ操作することである。すなわち以下に示す3パターンの微小なボルト操作ΔP(i=1〜3)に対して、単位方向ベクトルkのi軸周りの回転量Δθ及びj軸周りの回転量Δφ、さらに重心点Gの鉛直方向の移動量ΔGを単位操作量当たりの姿勢変化量として求めるものである。
【0050】
図9は挙動特性取得時に鉛直方向調整ボルトを操作するパターンの説明図である。ここで図9(A)はパターン1を、図9(B)はパターン2を、図9(C)はパターン3を示している。最初に、パターン1は、複数の鉛直方向調整ボルトV1〜V4の中から任意の1つを選択するとともに、これに隣接している1つを選択する。すなわち電磁石120の底面を構成する側辺のうちのいずれか1つの辺の両端部付近に設けてある鉛直方向調整ボルトを選択する。そして図9(A)に示す場合では、鉛直方向調整ボルトV1〜V4の中から鉛直方向調整ボルトV1を選択するとともに、これに隣接している鉛直方向調整ボルトV2を選択している。この後、選択した鉛直方向調整ボルトV1,V2を単位操作量(一定量)ΔP1上昇させ、この操作の前後で電磁石120の単位操作量当たりの姿勢変化量を計測する。すなわち3次元計測器112を用いて、単位操作量操作した後の計測用ターゲット126の位置を計測する。この計測が終了すると、選択した鉛直方向調整ボルトV1,V2を単位操作量ΔP1下降させ、電磁石120をもとの姿勢に戻す。なお3次元計測器112で測定した結果と、ダイヤルゲージ134で測定した鉛直方向調整ボルトの操作量は、演算手段114に入力し、このボルト操作量ΔPに対する単位方向ベクトルkの回転量Δθ、Δφ、重心点Gの鉛直方向の移動量ΔGを求める。
【0051】
次に、パターン2は、パターン1で初めに選択した1つの鉛直方向調整ボルトと、パターン1で選択した鉛直方向調整ボルトに対して反対隣の鉛直方向調整ボルトを1つ選択する。すなわちパターン1で選択した前記側辺に対して交差する方向の1辺を選び、その両端部付近に設けてある鉛直方向調整ボルトを選択する。そして図9(B)に示す場合では、パターン1で選択した鉛直方向調整ボルトV1と、これに隣接するとともに、パターン1で選択していない他の鉛直方向調整ボルトV4を選択する。この後、選択した鉛直方向調整ボルトV1,V4を単位操作量(一定量)ΔP2上昇させ、パターン1と同様にこの操作の前後で電磁石120の単位姿勢変化量を計測する。すなわち3次元計測器112を用いて、単位操作量操作した後の計測用ターゲット126の位置を計測する。この計測が終了すると、選択した鉛直方向調整ボルトV1,V4を単位操作量ΔP2下降させ、電磁石120をもとの姿勢に戻す。なお3次元計測器112で測定した結果と、ダイヤルゲージ134で測定した鉛直方向調整ボルトの操作量は、演算手段114に入力し、このボルト操作量ΔP2に対する単位方向ベクトルkの回転量Δθ、Δφ、重心点Gの鉛直方向の移動量ΔGを求める。
【0052】
次に、パターン3は、全ての鉛直方向調整ボルトを選択する。すなわち図9(C)に示す場合では、鉛直方向調整ボルトV1〜V4を選択する。この後、全ての鉛直方向調整ボルトV1〜V4を単位操作量(一定量)ΔP3上昇させ、この操作の前後でパターン1及びパターン2同様に電磁石120の単位姿勢変化量を計測する。すなわち3次元計測器112を用いて、単位操作量操作した後の計測用ターゲット126の位置を計測する。この計測が終了すると、鉛直方向調整ボルトV1〜V4を単位操作量ΔP3下降させ、電磁石120をもとの姿勢に戻す。なお3次元計測器112で測定した結果と、ダイヤルゲージ134で測定した鉛直方向調整ボルトV1〜V4の操作量は、演算手段114に入力し、このボルト操作ΔP3に対する単位方向ベクトルkの回転量Δθ、Δφ、重心点Gの鉛直方向の移動量ΔGを求める。
【0053】
このようなパターン1から3によって得られた単位姿勢変化量を数式7の右辺第一項のようにヤコビアン行列で表すと、任意の鉛直方向調整ボルトのパターン操作P1,P2,P3による電磁石120の姿勢変化量は左辺となる。
【数6】

【0054】
なおパターン1から3を行う順番は、前述したパターン1、パターン2およびパターン3をこの順に行う形態に限定されることがなく、任意の順番であればよい。
【0055】
次に、演算手段114において、各鉛直方向調整ボルトV1〜V4の操作量を計算する方法について説明する。数式6に示すヤコビアン行列は正則行列なので逆行列が計算可能である。よって、数式6の両辺右側にヤコビアンの逆行列をかけることにより、所望の姿勢変化(dθ、dφ、dGz)を与えるためには、どの鉛直方向調整ボルトV1〜V4の操作パターンがどれだけ必要なのかを容易に求めることができる。
【0056】
なお水平方向調整ボルトH1〜H6の調整は、重心Gのx座標値及びy座標値と、単位方向ベクトルkに垂直で且つ点a、b、cで形成される平面に含まれる単位方向ベクトルi或いはj(図8参照)のk軸周りの回転について、前述した鉛直方向調整ボルトV1〜V4の調整と同様にして行うことも可能である。すなわち前述した鉛直方向調整ボルトV1〜V4と同様な方法により、水平方向調整ボルトH1〜H6についても、重心Gのx座標値及びy座標値と、単位方向ベクトルi或いはjのk軸周りの回転に関する挙動特性を得ることで、アライメントを行うことができる。
【0057】
第2実施形態に係る長尺重量物のアライメント方法によれば、鉛直方向調整ボルトV1〜V4の操作パターンによって鉛直方向のヤコビアン行列の取得作業を行えば、ボルト操作量と電磁石120の姿勢変化量の定量的な関係を得られ、それを用いてレベル調整に必要な鉛直方向調整ボルトV1〜V4の操作量を求めることができる。これによって、上述のようにトライアンドエラーが発生して作業時間の予測が困難であったアライメントを効率的に行うことができる。
【0058】
図10は、演算手段114から出力される表示画面の一例である。図中には電磁石120の斜視図が示してあり、電磁石120上の3つの計測用ターゲット126の現在位置と目標位置との差が、建屋座標系Oに従い「dx±何mm」、「dy±何mm」、「dz±何mm」といった具合で表示される一方、目標値との差を無くすためのボルト操作の組み合わせ(P1、P2、P3)ごとにボルトの操作量を表示することができる。よって作業者は画面表示を見ながら調整を行うことで電磁石120を容易に目標位置へ調整可能となる。
【0059】
また第2実施形態に係る長尺重量物のアライメント方法による鉛直方向調整ボルトV1〜V4の操作パターンを用いれば、4本の鉛直方向調整ボルトV1〜V4を全て用いながらも電磁石120に三自由度の姿勢変化を与えることができる。
【0060】
なお鉛直方向のアライメントにおいて、前述した実施形態と異なり、4本有る鉛直方向調整ボルトを1本ずつ操作してヤコビアン行列を取得した場合では、三自由度の姿勢変化に対し鉛直方向調整ボルトの数が冗長となり、ヤコビアン行列を逆行列にできない。すなわち4本の鉛直方向調整ボルトを個々に操作して挙動特性をとったのでは、電磁石の姿勢変化の自由度(三自由度)に対して鉛直方向調整ボルトの数(4本)が冗長となってしまう。またそれだけではなく、各調整ボルトと電磁石の接触の度合いによって、ある鉛直方向ボルトを操作した場合の電磁石の挙動は異なってくるのでボルト操作に対する姿勢変化に再現性が得られなくなってしまう。
【0061】
そこで任意の1本の鉛直方向調整ボルトを緩めて電磁石との接触を解き、電磁石を三点支持の状態で挙動特性を取得すれば、挙動の自由度と鉛直方向調整ボルトの数は一致し、さらに前述のような動きの阻害も解消される。しかし、この三点支持による鉛直方向のアライメントでは、調整終了後に電磁石との接触を解いていた4本目の鉛直方向調整ボルトをどう処理するかが懸案事項となる。鉛直方向調整ボルトを電磁石に軽く接触させるだけでは、電磁石は三点支持されたままなので荷重分布が不均一であり、かと言って4本目のボルトを締め込み過ぎると折角調整したレベルが崩れてしまうのである。これに対し、本実施形態に係る物体アライメント方法は、鉛直方向調整ボルトの電磁石と当接する先端部分が常に一つの平面を形成し、かつ前記平面があらゆる方向に向けることができるため、上述の冗長系の問題や、三点支持での調整後のボルトの処理の問題を解消することができる。
【0062】
以上により、本実施形態によれば、従来、経験と熟練技能を要していた電磁石120アライメント作業のスキルフリー化、作業時間の平準化および短縮が可能となる。
【0063】
また第1実施形態、及び第2実施形態では、位置調整手段として調整機構14(水平方向調整ボルト54、鉛直方向調整ボルト56)、調整機構124(鉛直方向調整ボルトV1〜V4および水平方向調整ボルトH1〜H6)を用いた形態であるが、本発明はこの形態に限定されることはない。すなわち位置調整手段は、アクチュエータ等の電磁石12、120を移動させることのできる手段であればよい。
【産業上の利用可能性】
【0064】
大掛かりな装置を付加することなく容易に位置合わせが可能な長尺重量物のアライメント支援方法、長尺重量物のアライメント支援システムとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施形態に係る長尺重量物のアライメント支援システムの模式図である。
【図2】第1実施形態を構成する調整機構の模式図である。
【図3】第1実施形態を構成する電磁石脚部と計測用ターゲットの配置を示した模式図である。
【図4】加速器施設の軌道上への電磁石の配置を示した模式図である。
【図5】計測用ターゲットを原点とするローカル座標系Lを示す模式図である。
【図6】第1実施形態を構成する演算手段のモニタの表示例である。
【図7】第2実施形態に係る長尺重量物のアライメント支援システムの模式図である。
【図8】第2実施形態を構成する調整ボルトの配置位置の説明図である。
【図9】第2実施形態において、挙動特性取得時に鉛直方向調整ボルトを操作するパターンの説明図である。
【図10】第2実施形態を構成する演算手段から出力される表示画面の一例を示す図である。
【図11】従来技術に係る加速器用の電磁石の模式図である。
【符号の説明】
【0066】
10………長尺重量物のアライメント支援システム、12………電磁石、14………調整機構、16………計測装置、18………演算手段、20………床、22………架台、24………コロつきの油圧ジャッキ装置、26………計測用ターゲット、28………二等辺三角形、110………アライメント支援システム、112………3次元計測器、114………演算手段、120………電磁石、124………調整機構、126………計測用ターゲット、130………突起部、250………電磁石、252………架台、254………水平方向調整ボルト、256………鉛直方向調整ボルト、258………コロ付の油圧ジャッキ装置、260………計測用ターゲット、262………床。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋座標系で目標位置が定められた長尺重量物のアライメント支援方法であって、
前記長尺重量物の前記建屋座標系における現在位置と前記目標位置との偏差を、前記長尺重量物に複数配置される計測用ターゲットで構成される平面を基準とするローカル座標系に変換することを特徴とする長尺重量物のアライメント支援方法。
【請求項2】
前記長尺重量物に計測用ターゲットを複数配置し、
前記アライメントを行う調整機構が前記長尺重量物に複数配設されるとともに鉛直方向に操作可能とされ、
前記調整機構のうち、前記計測用ターゲットによって形成される平面内において直交する2本の単位方向ベクトル周りの回転、及び前記平面に垂直上向きな単位ベクトル方向への並進運動を与えるように前記長尺重量物を操作する組み合わせとなる調整機構を鉛直方向に単位操作量だけ操作した時の前記長尺重量物の各ベクトル上の姿勢変化量を測定し、
前記計測用ターゲットの位置を測定することにより、前記長尺重量物の現在位置から目標位置への座標値の差を求め、
前記座標値の差を前記各ベクトル上の姿勢変化量に変換し、
前記各ベクトル上の姿勢変化量、前記単位操作量当たりの姿勢変化量から各調整機構の鉛直方向の操作量を求める、ことを特徴とする請求項1に記載の長尺重量物のアライメント支援方法。
【請求項3】
前記単位操作量当たりの姿勢変化量をヤコビアン行列で表し、
前記ヤコビアン行列の逆行列と前記姿勢変化量とを掛け合わせて、前記各調整機構の前記操作量を求める、
ことを特徴とする請求項2に長尺重量物のアライメント支援方法。
【請求項4】
建屋座標系で目標位置が定められた長尺重量物のアライメント支援システムであって、
前記長尺重量物に固定され、前記目標位置が設定された計測用ターゲットと、
前記長尺重量物に配設され、前記長尺重量物を所定の調整軸方向に移動させてアライメントを行う調整機構と、
前記計測用ターゲットの現在位置を測定して現在位置のデータを出力する計測装置と、
前記現在位置のデータが入力され、前記現在位置のデータと前記目標位置のデータとの偏差を前記計測用ターゲットによって形成される平面を基準として構成された座標軸によるローカル座標系に変換する演算手段と、を有することを特徴とする長尺重量物のアライメント支援システム。
【請求項5】
請求項4に記載の長尺重量物のアライメント支援システムであって、
前記計測用ターゲットは前記長尺重量物に複数配置され、
前記調整機構は前記長尺重量物に複数配設されるとともに鉛直方向に操作可能とされ、
前記計測用ターゲットの位置を測定することにより、前記長尺重量物の現在位置を測定する3次元計測器と、
前記調整機構のうち、前記計測用ターゲットによって形成される平面内において直交する2本の単位方向ベクトル回りの回転、及び前記平面に対して垂直上向きな単位ベクトル方向への並進運動を与えるように前記長尺重量物を操作する組み合わせとなる調整機構を鉛直方向に単位操作量だけ操作した時の前記長尺重量物の各ベクトル上の姿勢変化量を測定し、前記3次元計測器から入力された前記現在位置と目標位置との座標値の差を前記各ベクトル上の姿勢変化量に変換し、前記各ベクトル上の姿勢変化量、前記単位操作量当たりの姿勢変化量から各調整機構の鉛直方向の操作量を求める演算手段と、
を有する、ことを特徴とする長尺重量物のアライメント支援システム。
【請求項6】
請求項5に記載のアライメント支援システムであって、
前記演算手段は、前記単位操作量当たりの姿勢変化量をヤコビアン行列で表し、
前記ヤコビアン行列の逆行列と前記姿勢変化量とを掛け合わせて、前記各調整機構の前記操作量を求める、
ことを特徴とする長尺重量物のアライメント支援システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−144368(P2010−144368A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320841(P2008−320841)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)
【Fターム(参考)】