説明

長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法及び製造装置

【課題】繊維束包装体の回巻体から強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、引抜き法により、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造するに際し、回巻体の最外巻層付近まで強化用繊維束が引き出されても、巻層の崩落を防止することができるようにした、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法及び製造装置を提供すること。
【解決手段】強化用繊維束繰り出し装置100が、繊維束包装体10の回巻体11の内周面を外側へ押し付けるための巻層崩落防止用の複数の崩落防止部材120と、強化用繊維束が順次引き出されるにつれて厚みが次第に小さくなる回巻体11の内周面に追随して該内周面に前記複数の崩落防止部材120を押し付ける押し付け手段110,113,116とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維束包装体から強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、引抜き法により、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する製造方法及製造装置に関するものである。
本発明は、
【背景技術】
【0002】
長繊維強化熱可塑性樹脂ペレット(以下、単に長繊維強化樹脂ペレットともいう)は、射出成形用の原料として使用されるものである。長繊維強化樹脂ペレットは、ペレット長(例えば3〜10mm程度)がほぼそのまま繊維長となるため、短繊維強化樹脂ペレットに比べて機械的強度に優れている。
【0003】
長繊維強化樹脂ペレットの製造には、繊維束包装体が用いられる。図8に示すように、繊維束包装体10は、強化用繊維束(ロービング)を円筒状に回巻きした回巻体11に包装を施したものであり、回巻体11の外表面が包装用の熱収縮フィルム12によって被覆されている。前記強化用繊維束は、多数本の単繊維(フィラメント)を束ねたストランドを所定本数撚らずに結合して扁平な紐状にしたものである。この繊維束包装体10は、内取り法にて回巻体から強化用繊維束が引き出される。強化用繊維束は、起立させた回巻体11の内周側から引き出され、前記熱収縮フィルム12の開口部を通って上方へ導かれる。
【0004】
そして、長繊維強化樹脂ペレットは、引抜き法を用いて製造される。この引抜き法としては、撚りを行わない引抜き法と、撚りを行う引抜き法とが知られている。撚りを行わない引抜き法を用いるペレット製造方法では、繊維束包装体から強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ダイの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、ペレタイザー等により前記長繊維強化樹脂ストランドを所定長さに切断して、長繊維強化樹脂ペレットを製造するようにしている。図10は撚りを行わない引抜き法によって得られる長繊維強化樹脂ペレットを示す模式図である。
【0005】
また、撚りを行う引抜き法を用いるペレット製造方法では、内取り用繊維束包装体から強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ダイの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから前記引取り機によって撚りがかけられた樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、ペレタイザー等により前記長繊維強化樹脂ストランドを所定長さに切断して、長繊維強化樹脂ペレットを製造するようにしている。この場合、前記引取り機としては、撚りローラなどのように、撚り機としての機能をも兼ね備えたものが用いられる。図9は撚りを行う引抜き法によって得られる長繊維強化樹脂ペレットを示す模式図である。
【0006】
ところで、繊維束包装体から強化用繊維束を連続的に引き出しながら、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する場合、強化用繊維束は、回巻体の内周側から順次引き出される。したがって、強化用繊維束が引き出されるにつれて、回巻体の厚みは次第に小さくなる。そして、回巻体の最外巻層付近まで強化用繊維束が引き出されると、巻層が崩落して崩落した巻層の強化用繊維束がもつれることがあった。このため、前記もつれに起因して、強化用繊維束の断線が発生し、当該強化用繊維束に継ぎ合わされている新しい内取り用繊維束包装体への切り替えを行うことができないという不具合があった。
【0007】
前述した巻層の崩落現象を防止することを目的として、特開2001−88881号公報に、ガラスロービング包装体が提案されている。このガラスロービング包装体は、ガラスロービングを円筒状に回巻したガラス繊維束回巻体の外表面が、袋状の熱収縮フィルムによって被覆されてなるガラスロービング包装体である。そして、前記熱収縮フィルムが、ポリプロピレン樹脂組成物あるいはポリエチレンテレフタレート樹脂組成物から形成され、動摩擦係数が0.1〜0.7であるガラスロービング包装体である。このガラスロービング包装体は、前記崩落現象を防止すべく、熱収縮フィルムの動摩擦係数を0.1〜0.7としている。
【0008】
しかしながら、前述したガラスロービング包装体では、確実に前記崩落現象を防止する点において必ずしも十分とはいえなかった。
【特許文献1】特開2001−88881号公報(段落[0009]〜[0011]、図1)
【特許文献2】特開平7−228422号公報(段落[0019]、図1,図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の課題は、繊維束包装体の回巻体からその内周側より強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、引抜き法により、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造するに際し、回巻体の最外巻層付近まで強化用繊維束が引き出されても、巻層の崩落を防止して崩落した巻層の強化用繊維束がもつれることをなくすことができて、最後まで円滑に強化用繊維束を引き出すことができ、これにより、前記もつれに起因する強化用繊維束の断線を起こすことなく、この強化用繊維束に継ぎ合わされている新しい繊維束包装体への切り替えを行うことができるようにした、長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するため、本願発明では、次の技術的手段を講じている。
【0011】
請求項1の発明は、強化用繊維束を円筒状に回巻きした回巻体から強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ヘッドの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから撚りがかけられた、あるいは撚りがかけられていない樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、この長繊維強化樹脂ストランドをペレット化して長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する方法において、前記回巻体の内周面を外側へ押し付けるための巻層崩落防止用の複数の崩落防止部材を設け、前記回巻体からその内周側より強化用繊維束を順次引き出すに際し、強化用繊維束が順次引き出されるにつれて厚みが次第に小さくなる前記回巻体の内周面に追随して該内周面に前記複数の崩落防止部材を押し付けることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法である。
【0012】
請求項2の発明は、強化用繊維束を円筒状に回巻きした回巻体から強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ヘッドの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから撚りがかけられた、あるいは撚りがかけられていない樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、この長繊維強化樹脂ストランドをペレット化して長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する装置において、前記回巻体からその内周側より強化用繊維束が順次引き出される強化用繊維束繰り出し装置を備え、この強化用繊維束繰り出し装置が、前記回巻体の内周面を外側へ押し付けるための巻層崩落防止用の複数の崩落防止部材と、強化用繊維束が順次引き出されるにつれて厚みが次第に小さくなる前記回巻体の内周面に追随して該内周面に前記複数の崩落防止部材を押し付ける押し付け手段とを有していることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置である。
【0013】
請求項3の発明は、請求項2記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置において、前記各崩落防止部材が、前記回巻体の高さ方向全長にわたって延びる棒状の崩落防止棒よりなり、前記押し付け手段が、前記回巻体が装着されたときに該回巻体の内側に該回巻体と互いに同一軸線状に位置し、垂直に立設された支柱と、前記複数の崩落防止棒のそれぞれについて、一方端が前記支柱にピン結合され他方端が当該崩落防止棒にピン結合された複数のリンクとを備えて、前記支柱に対して前記各崩落防止棒を平行運動させるリンク機構を構成したものであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法又は製造装置は、回巻体からその内周側より強化用繊維束を順次引き出すに際し、強化用繊維束が順次引き出されるにつれて厚みが次第に小さくなる回巻体の内周面に追随して該内周面に複数の崩落防止部材を押し付けるようにしたものである。したがって、回巻体の最外巻層付近まで強化用繊維束が引き出されても、巻層の崩落を防止して崩落した巻層の強化用繊維束がもつれることをなくすことができる。よって、前記もつれに起因する強化用繊維束の断線を起こすことなく、この強化用繊維束に継ぎ合わされている新しい回巻体への切り替えを行うことができ、長時間にわたり連続して長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の一実施形態による長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置の全体構成を示す図である。
【0016】
図1において、100は強化用繊維束繰り出し装置である。強化用繊維束繰り出し装置100は、装着された繊維束包装体10の回巻体11からその内周側より強化用繊維束Rが順次引き出されるものである。
【0017】
図1に示すように、繊維束包装体10の回巻体11から引き出された強化用繊維束Rは、複数本(図1の例では3本)が引き揃えられて、一対の加熱用ローラ22A,22Bを備えた予熱用加熱装置21に導かれる。強化用繊維束Rは、予熱用加熱装置21によって昇温された後、含浸ダイ23内に導かれる。この含浸ダイ23には、スクリュ27を内蔵する押出機26から、溶融樹脂(溶融した熱可塑性樹脂)28が連続供給される。含浸ダイ23内には、強化用繊維束Rに溶融樹脂28を含浸させるための複数個の含浸ローラ25が配設されている。また、含浸ダイ23の出口には、撚りが付与された樹脂含浸強化用繊維束からなる断面円形状の長繊維強化樹脂ストランドSの線径を定めるダイノズル24が取り付けられている。
【0018】
強化用繊維束Rは、含浸ダイ23を通過しながら溶融樹脂が含浸され、樹脂含浸強化用繊維束となされる。この樹脂含浸強化用繊維束は、含浸ダイ23の下流側に設けられた撚りローラ30A,30Bにより、撚りが付与される。撚りローラ30A,30Bは、引取り機及び撚り機として機能するものである。そして、撚りが付与された樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドSは、撚りローラ30A,30Bにより、含浸ダイ23から連続的に引き取られる。
【0019】
含浸ダイ23のダイノズル24から引き出された高温の長繊維強化樹脂ストランドSは、冷却水槽29によって冷却硬化されて、撚りローラ30A,30Bへと導かれる。そして、撚りローラ30A,30Bの下流側に導かれた長繊維強化樹脂ストランドSは、ペレタイザー31で所定長さに切断されて長繊維強化樹脂ペレットとされる。
【0020】
図2は図1における撚りローラの説明図である。図2に示すように、一対の撚りローラ30A,30Bは、それぞれの回転軸線を平行な平面(水平面)上に保持し、かつ、該回転軸線を交差させた状態で上流側からの長繊維強化樹脂ストランドSを挟むように対向配置されている。すなわち、図2における上側の撚りローラ30Aの回転軸線aと下側の撚りローラ30Bの回転軸線とは、平面視において、長繊維強化樹脂ストランドSの引き取り方向に対して互いに相反する方向に、かつ同一角度をなして所定角度(撚り角度)だけずれた向きに設定されている。
【0021】
次に、前記強化用繊維束繰り出し装置100について説明する。
【0022】
図3は図1における強化用繊維束繰り出し装置の構成を示す図、図4は図3におけるベースプレートを示す平面図、図5は図3に示す強化用繊維束繰り出し装置の要部の構成を示す平面図である。なお、図3では、繊維束包装体10の熱収縮フィルム12、傘状ガイド104及び浮き上がり防止金具106については図示していない。
【0023】
図3〜図5において、101は円板状のベースプレートである。ベースプレート101には、所定長さを有して床面に当接する支持脚103が取り付けられている。このベースプレート101上に、上部ハブ111及び下部ハブ112を有する支柱110が垂直に立設されている。104はベースプレート101上面の中心位置に固定されて、支柱110を支持するブラケットである。このブラケット104に支柱110が着脱可能に固定されている。繊維束包装体10がベースプレート101上に載置された状態では、繊維束包装体10(回巻体11)と支柱110が互いに同一軸線状に位置することとなる。
【0024】
120は中空パイプからなる崩落防止棒である。この実施形態では、支柱110を中心とする同一円周上の角度90°に等分した位置に位置される合計4本の崩落防止棒120が備えられている(図5参照)。崩落防止棒120は回巻体11の高さ方向全長にわたって延びている。崩落防止棒120に回巻体11から引き出される強化用繊維束Rがひっかからないようにするため、崩落防止棒120の上端部を内側に湾曲させている。これら4本の崩落防止棒120は、回巻体11の内周面を外側へ押し付けるための巻層崩落防止用の崩落防止部材を構成している。なお、崩落防止棒120の個数としては、2本以上がよく、好ましくは4〜8本がよい。
【0025】
113は上部リンク、116は下部リンクである。4本の崩落防止棒120それぞれについて、上部リンク113の一方端が支柱110の上部ハブ111にピン114によって結合され、その他方端が当該崩落防止棒120の上部にピン115によって結合されている。さらに、4本の崩落防止棒120それぞれについて、下部リンク116の一方端が支柱110の下部ハブ112にピン117によって結合され、その他方端が当該崩落防止棒120の下部にピン118によって結合されている。
【0026】
このように、4本の崩落防止棒120それぞれについて、固定されている支柱110に対して崩落防止棒120がリンク113,116の自重で平行運動するリンク機構が構成されている。崩落防止棒120は、その下端がベースプレート101に形成された長孔102(図3,図4参照)を常に貫通する状態で、リンク113,116で支持されている。
【0027】
前記支柱110及び前記4組のリンク113,116は、強化用繊維束Rが順次引き出されるにつれて厚みが次第に小さくなる回巻体11の内周面に追随して該内周面に4本の崩落防止棒120を押し付ける押し付け手段を構成している。
【0028】
図6は図3に示す強化用繊維束繰り出し装置において回巻体から強化用繊維束が引き出される様子を示す斜視図、図7は図6における浮き上がり防止金具を示す断面図である。
【0029】
図6において、105は傘状ガイドである。傘状ガイド105は棒状部と傘部とを有している。起立姿勢の傘状ガイド105は、その棒状部の下端が支柱110の上端に着脱可能に固定されている。回巻体11から引き出された強化用繊維束Rは、傘状ガイド105の傘部の円周縁部に接しながら上方へ導かれる。強化用繊維束Rの引き出し中においては傘部の円周縁部が崩落防止部材(崩落防止棒など)の上端部よりも径方向外側に位置するように、傘状ガイド105の傘部の大きさが設定されている。この傘状ガイド105の傘部は、外周部から中央部に向けて上方に突出する円錐板状(傘状)の形状に限らず、円板状の形状にしてもよい。
【0030】
図6,図7において、106は浮き上がり防止金具である。浮き上がり防止金具106は、この実施形態では、繊維束包装体10の外側に位置し、繊維束包装体10の高さ方向に延びる棒状部と、この棒状部に連なり、繊維束包装体10上面の周縁部の一部分において周縁部近傍域を上側から押えるヘッド部とを有している。このヘッド部は、平面視でC字状をなしている。2個の浮き上がり防止金具106は、それぞれ、ベースプレート101に固定されたボス107に差し込まれ、ボス107に固定ボルト108で固定される。繊維束包装体10によっては、最外巻層の強化用繊維束Rに熱収縮フィルム12が貼りついているものがある。このため、最外巻層の強化用繊維束Rが、熱収縮フィルム12ごと引き出される場合がある。このことを防止するために、浮き上がり防止金具106を備えている。崩落防止棒120と干渉しない位置であって、繊維束包装体10上面の周縁部における少なくとも2箇所の位置に対して、浮き上がり防止金具106を備えることがよい。
【0031】
このように構成される強化用繊維束繰り出し装置100において、まず、繊維束包装体10の装着が行われる。なお、予め、装着前に、回巻体11の上下面を覆う部分の熱収縮フィルム12を取り除いておき、回巻体11の外周面が熱収縮フィルム12で被覆されている繊維束包装体10を使用した。支柱110に固定されている傘状ガイド105を取り外した後、4本の崩落防止棒120を図3における「イ」で示される位置に移動させる。次に、4本の崩落防止棒120の上方より繊維束包装体10を下降させ、繊維束包装体10を4本の崩落防止棒120の外側にはめた状態で、ベースプレート101上に載置する。そうすると、繊維束包装体10の回巻体11は、支柱110と互いに同一軸線状に位置される。また、回巻体11の内周面は、4本の崩落防止棒120によって半径方向外側へ押し付けられている状態となる。このように、繊維束包装体10の装着が完了すると、支柱110に傘状ガイド105が固定される。また、浮き上がり防止金具106が取り付けられる。
【0032】
繊維束包装体10の装着が完了すると、前記した撚りローラ30A,30Bの動作によって回巻体11から強化用繊維束Rが順次引き出される。その結果、回巻体11の厚みは次第に小さくなる。つまり、回巻体11の内周面は次第に後退する。4本の崩落防止棒120は、前記したリンク機構により、回巻体11の次第に後退する内周面に追随して移動し、常に該内周面に押し付けられる。
【0033】
ここで、前述したように、強化用繊維束繰り出し装置に装着される回巻体11の外周面は、熱収縮フィルム12が被覆されている。そして、装着後の回巻体11の巻層は、この実施形態では、円周方向における4箇所において熱収縮フィルム12と崩落防止棒120とに挟まれた状態となっている。このように、回巻体11の内周面に向けて押し付けられている4本の崩落防止棒120により、回巻体11の巻層を崩落しないようにしっかりと支えることができる。なお、回巻体11の内周面に向けて押し付け力を付与し続けることができる場合には、回巻体11から熱収縮フィルム12を全て取り除いておいてもよい。
【0034】
そして、強化用繊維束Rの引き出しが進行して、回巻体11の最外巻層付近まで強化用繊維束Rが引き出されても(このときの4本の崩落防止棒120の位置を図3における「ロ」で示す)、巻層の崩落を防止して崩落した巻層の強化用繊維束Rがもつれることをなくすことができる。よって、強化用繊維束Rを含浸ダイ23まで導くパスラインにおいて前記もつれに起因する強化用繊維束Rの断線を起こすことなく、この強化用繊維束Rに継ぎ合わされている新しい回巻体への切り替えを行うことができ、長時間にわたり連続して長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造を行うことができる。
【0035】
本発明では、複数の崩落防止部材として、複数の前記崩落防止棒120に代えて、複数の湾曲板状体を用いるようにしてもよい。この湾曲板状体は、回巻体11の内周面の湾曲形状に対応した外面形状を有するものである。また、本発明では、前記崩落防止棒120を押し付ける押し付け手段として、エアシリンダ、あるいは電動直動アクチュエータを用いるようにしてもよい。エアシリンダ、あるいは電動直動アクチュエータを用いるようにすると、強化用繊維束が満巻きから空巻き直前までにわたって、押し付け力を一定に保持することができるという利点がある。
【実施例】
【0036】
次に、本発明の実施例について説明する。図1に示す製造装置によって長繊維強化樹脂ペレットの製造実験を行い、図3〜図7に示す強化用繊維束繰り出し装置について評価した。強化用繊維束として、ガラス繊維束を用いた。1本あたりのガラス繊維束の仕様(構成)は、ガラス繊維径(フィラメント径)17μm、重量2400g/kmである。なお、仕様が同一のガラス繊維束による繊維束包装体であっても、メーカーの違いによって、巻層の崩落の起こりやすさに差があるため、メーカーの異なる2種類の繊維束包装体(繊維束包装体A,B)を使用した。繊維束包装体の寸法は、外径:φ300mm、内径:φ150mm、高さ:330mmである。なお、回巻体の上下面を覆う部分の熱収縮フィルムが取り除かれて、回巻体の外周面が熱収縮フィルムで被覆されている繊維束包装体を使用した。
【0037】
[実施例1] 実験条件は、繊維束包装体:3個、生産速度(引き取り速度):80m/min、熱可塑性樹脂:ポリプロピレン、繊維含有率:約70%、撚りローラの撚り角度:17.5°とした。図1に示すように、3個の繊維束包装体は、それぞれ、強化用繊維束繰り出し装置に装着してある。そして、3個の繊維束包装体それぞれから引き出された合計3本の強化用繊維束を、パスラインを経て含浸ダイに導入するようにした。
【0038】
その結果、繊維束包装体Aの場合、合計10回の繊維束包装体の切り替え実験を行い、10回とも断線を起こすことなく切り替えを行うことができた。また、繊維束包装体Bの場合、合計10回の繊維束包装体の切り替え実験を行い、10回とも断線を起こすことなく切り替えを行うことができた。
【0039】
[比較例1] 実験条件は、実施例1と同一である。崩落防止部材及び押し付け手段を備えていない強化用繊維束繰り出し装置を使用した。その結果、繊維束包装体Aの場合、合計10回の繊維束包装体の切り替え実験を行い、8回だけ断線を起こすことなく切り替えを行うことができた。また、繊維束包装体Bの場合、合計10回の繊維束包装体の切り替え実験を行い、3回だけ断線を起こすことなく切り替えを行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態による長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置の全体構成を示す図である。
【図2】図1における撚りローラの説明図である。
【図3】図1における強化用繊維束繰り出し装置の構成を示す図である。
【図4】図3におけるベースプレートを示す平面図である。
【図5】図3に示す強化用繊維束繰り出し装置の要部の構成を示す平面図である。
【図6】図3に示す強化用繊維束繰り出し装置において回巻体から強化用繊維束が引き出される様子を示す斜視図である。
【図7】図6における浮き上がり防止金具を示す断面図である。
【図8】繊維束包装体の構成を概略的に示す断面図である。
【図9】撚りを行う引抜き法によって得られる長繊維強化樹脂ペレットを示す模式図である。
【図10】撚りを行わない引抜き法によって得られる長繊維強化樹脂ペレットを示す模式図である。
【符号の説明】
【0041】
10…繊維束包装体
11…回巻体
12…熱収縮フィルム
21…予熱用加熱装置
23…含浸ダイ
24…ダイノズル
26…押出機
25…含浸ローラ
28…溶融樹脂
29…冷却水槽
30A,30B…撚りローラ
31…ペレタイザー
100…強化用繊維束繰り出し装置
101…ベースプレート
102…長孔
103…支持脚
104…ブラケット
105…傘状ガイド
106…浮き上がり防止金具
110…支柱
111…上部ハブ
112…下部ハブ
113…上部リンク
114,115…ピン
116…下部リンク
117,118…ピン
120…崩落防止棒
R…強化用繊維束
S…長繊維強化樹脂ストランド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化用繊維束を円筒状に回巻きした回巻体から強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ヘッドの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから撚りがかけられた、あるいは撚りがかけられていない樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、この長繊維強化樹脂ストランドをペレット化して長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する方法において、
前記回巻体の内周面を外側へ押し付けるための巻層崩落防止用の複数の崩落防止部材を設け、前記回巻体からその内周側より強化用繊維束を順次引き出すに際し、強化用繊維束が順次引き出されるにつれて厚みが次第に小さくなる前記回巻体の内周面に追随して該内周面に前記複数の崩落防止部材を押し付けることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造方法。
【請求項2】
強化用繊維束を円筒状に回巻きした回巻体から強化用繊維束を連続的に引き出して含浸ダイに導入し、この含浸ダイにより強化用繊維束に溶融した熱可塑性樹脂を含浸させ、前記含浸ヘッドの下流側に設けられた引取り機により、前記含浸ダイから撚りがかけられた、あるいは撚りがかけられていない樹脂含浸強化用繊維束からなる長繊維強化樹脂ストランドを連続的に引き取り、この長繊維強化樹脂ストランドをペレット化して長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットを製造する装置において、
前記回巻体からその内周側より強化用繊維束が順次引き出される強化用繊維束繰り出し装置を備え、この強化用繊維束繰り出し装置が、前記回巻体の内周面を外側へ押し付けるための巻層崩落防止用の複数の崩落防止部材と、強化用繊維束が順次引き出されるにつれて厚みが次第に小さくなる前記回巻体の内周面に追随して該内周面に前記複数の崩落防止部材を押し付ける押し付け手段とを有していることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置。
【請求項3】
前記各崩落防止部材が、前記回巻体の高さ方向全長にわたって延びる棒状の崩落防止棒よりなり、前記押し付け手段が、前記回巻体が装着されたときに該回巻体の内側に該回巻体と互いに同一軸線状に位置し、垂直に立設された支柱と、前記複数の崩落防止棒のそれぞれについて、一方端が前記支柱にピン結合され他方端が当該崩落防止棒にピン結合された複数のリンクとを備えて、前記支柱に対して前記各崩落防止棒を平行運動させるリンク機構を構成したものであることを特徴とする請求項2記載の長繊維強化熱可塑性樹脂ペレットの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−107147(P2009−107147A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−279195(P2007−279195)
【出願日】平成19年10月26日(2007.10.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】