説明

長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置及びその製造方法

【課題】潰れや割れが少ない高品質の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を生産性よく製造する。
【解決手段】強化繊維束を引き取りながら熱可塑性樹脂を含浸させる含浸ダイ3と、熱可塑性樹脂が含浸された樹脂含浸強化繊維束を引き取る引取装置とを有する、長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置において、前記引取装置が2対以上のロール8を樹脂含浸強化繊維束の上下にその進行方向に沿って段設してなり、該ロール8の表面の硬度が70〜98度であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高品質の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を効率よく製造する装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、連続した強化繊維束にマトリックス樹脂を含浸させ、この樹脂含浸された強化繊維束(以下、樹脂含浸強化繊維束とする)を所定の断面形状に賦形したあと切断して得られる長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料(以下、ペレットとする)が知られている。このペレットは、図2に示すように強化繊維束1を矢印方向に引き取りながら押出機4から供給される熱可塑性樹脂を含浸ダイ3クロスヘッドダイ13において含浸しさせ、この樹脂含浸強化繊維束を賦形ダイ5で所望の断面形状に賦形し(必要により冷却槽6で冷却固化し)た後、ペレタイザ9によって一定長さに切断することによって製造される。このペレットの製造における樹脂含浸強化繊維束の引取り手段として、一対のエンドレスベルトまたはロールで樹脂含浸強化繊維束を上下から挟持し、ベルトまたはロールを回転させることによって、樹脂含浸強化繊維束を張力を与えながら移動させる方法が特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1によれば、上記エンドレスベルトは、図2に示すように樹脂含浸強化繊維束の進行方向に所定の間隔を置いて配置した2本の引取りロール14に懸架されており、該エンドレスベルト15を賦形ダイ5で所定の断面形状に賦形された樹脂含浸強化繊維束の上下に設置し、樹脂含浸強化繊維束を引取りロール14とエンドレスベルト15で挟持した状態でエンドレスベルト15を回動させることによって、前記樹脂含浸強化繊維束を引き取るものである。この場合、エンドレスベルト15はある程度の柔軟性を必要とするため、材質としてはゴム補強プラスチック、エラストマー、天然ゴム等が用いられている。
【0004】
一方、引取り手段がロールの場合は、一対のロールを同様に賦形された樹脂含浸強化繊維束の上下に設置し、この樹脂含浸強化繊維束をロールで挟んで固定し、該ロールを回転させて前記樹脂含浸強化繊維束を引き取るものである。
【0005】
【特許文献1】特許3532629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記エンドレスベルトでは、ベルトに加工するうえで材質がどうしても軟らかくなるために、賦形された樹脂含浸強化繊維束を挟持して固定する押圧力により変形しやすいばかりでなく摩耗(摩滅)が生じやすく、該樹脂含浸強化繊維束を定位置で長時間安定して固定し引き取ることが困難であった。
【0007】
また、賦形された樹脂含浸強化繊維束を1対のロールで引き取る場合は、上記樹脂含浸強化繊維束に対しロールの押圧力が集中して作用し、しかも1対のロールで引き取る故に大きい押圧力が必要となるため、形成されたペレットに潰れや割れを発生させやすく、またロール表面の摩耗も大きいという問題を有していた。
【0008】
そのため、従来のエンドレスベルトやロールは摩耗によって一般に寿命が短く、特許文献1ではこの摩耗対策としてエンドレスベルトやロールの前に揺動機構12(図2参照)を設置し、賦形された樹脂含浸強化繊維束をこの揺動機構12でエンドレスベルトやロールの幅方向に揺動させながら引き取っている。このような揺動機構の設置によって摩耗対策効果は得られるものの、1対のロールで引き取る方法では賦形された樹脂含浸強化繊維束の潰れや割れは依然として発生し、また上記揺動機構の設置は、装置を複雑化しその製造コストの高騰を招いている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、引取り手段として2対以上のロールを使用することにより、従来の1対のロールの場合に比べて押圧力を軽減させることが可能となる故に、賦形された樹脂含浸強化繊維束の潰れや割れが生じ難くなり、かつロールの硬度を硬めに選定することができるので、前記した揺動機構を設置しなくてもロールの摩耗を抑制できることを見出し得られたものである。すなわち、本発明は次の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置及びその製造方法を提供する。
【0010】
(1)強化繊維束を引き取りながら熱可塑性樹脂を含浸させて賦形する含浸ダイと、熱可塑性樹脂が含浸賦形された樹脂含浸強化繊維束を引き取る引取装置とを有する長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置において、前記引取装置が2対以上のロールを樹脂含浸強化繊維束の上下にその進行方向に沿って段設してなり、該ロールの表面の硬度が70〜98度であることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
(2)前記ロールの表面の反発弾性が30〜70%である上記(1)の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
(3)対をなす上下ロールのうち一方のロールだけが駆動されるとき、駆動側のロールの表面の硬度が非駆動側のロールの表面の硬度より5〜20度高いことを特徴とする上記(1)または(2)の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
(4)前記ロールの直径が160〜1000mmである上記(1)〜(3)のいずれかの長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
(5)前記ロールの表面がウレタンゴムである上記(1)〜(4)のいずれかの長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
(6)強化繊維束を引き取りながら熱可塑性樹脂を含浸させた後、熱可塑性樹脂が含浸された強化繊維束を所定の断面形状に賦形し、次いで賦形された樹脂含浸強化繊維束を上下に配置された2対以上のロールで挟持して引き取る長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法であって、前記樹脂含浸強化繊維束をロールの表面の硬度が70〜98度、反発弾性が30〜70%であるロールで挟持して引き取り、かつ樹脂含浸強化繊維束を挟持する前記ロールの押圧力が長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料1本当り30〜60kgfであることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
(7)上記(1)〜(5)のいずれかの製造装置を使用して長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を製造する長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、上記したように長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造における引取装置として2対以上のロールを使用することによって、従来の1対のロールやエンドレスベルトで引き取りする場合に比べて小さい押圧力で充分な引取力を得ることが可能となるため、1)ロールによる樹脂含浸強化繊維束もしくはペレットの潰れや割れの発生を防止し、高品質のペレットを得ることができる、2)ロールの硬度を硬めに選定することができるので、樹脂含浸強化繊維束を従来のように揺動機構で横方向に揺動させなくてもロールの摩耗を抑制でき、これにより生産性の向上とロールコストの削減が図れる、3)賦形された樹脂含浸強化繊維束を2対以上のロールで多点保持できるため、樹脂含浸強化繊維束の走行安定性が優れる、4)ベルトのように軟らかく摩滅しやすい材質を用いないことができる、などの効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料に用いる熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、AS(アクリロニトリルスチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PEI(ポリエーテルイミド)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PLA(ポリ乳酸樹脂)等、あるいはこれらの2種以上の混合物が例示される。これら例示から明らかなように汎用されている熱可塑性樹脂を使用することができ、通常はポリプロピレン、ポリアミドなどが多く用いられる。この熱可塑性樹脂には、用途や成形条件に応じて、着色剤、改質剤、強化繊維以外の充填剤および公知の添加剤等を適宜含有させることができ、これらは常法に従い混練使用される。
【0013】
本発明において、強化用繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維などの無機繊維や合成繊維等が熱可塑性樹脂の種類やペレットの用途に応じて使用できる。汎用のペレットにはガラス繊維と炭素繊維が多く使用されており、中でもガラス繊維は好ましく使用される。この強化用繊維は多数のモノフィラメントの集合体であるストランドを引き取りながら熱可塑性樹脂中に分散させることにより、該強化用繊維の個々のモノフィラメントの間隙に熱可塑性樹脂を含浸させることができる。熱可塑性樹脂に分散された強化用繊維は、引き取りによる張力の作用でペレットの長手方向に互いにほぼ平行な状態で連続して配列している。
【0014】
本発明において、ペレット中に含有される強化用繊維(モノフィラメント)の本数や繊維径等は、特に限定されないが、強化用繊維の本数としては1000〜10000本程度が好ましく、より好ましくは2000〜8000本である。強化繊維の本数がこの範囲であれば、ペレットに所望の補強効果が得られるとともに、繊維同士の接触を避けながら熱可塑性樹脂中に分散できる。また、繊維径としては強化用繊維が例えばガラス繊維の場合には、6〜25μmのものがペレットの強度や成形性の面から好ましい。
【0015】
強化用繊維がガラス繊維である場合、ガラス繊維はモノフィラメントを集束してストランドとし、該ストランドを1本または複数本寄せ集めた強化繊維束としてペレットに含有される。この場合、ストランドの本数は、ストランド1本当たりのモノフィラメント集束本数、ペレット径などに合わせて適宜決められ特定されない。
【0016】
なお、ペレット中における強化用繊維の含有率は10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%であり、またペレットの長さは3〜50mm、より好ましくは6〜20mmであり、これらは一般的に使用されているペレットと実質的に同一で、ペレットの用途などによって適宜決めることができる。また、ペレットの断面形状は、円形または円形に近い形状が望ましい。
【0017】
以下、本発明を図面に基づいて具体的に説明する。但し、以下の図面は、本発明の好ましい実施の形態を例示したものであり、本発明はこれに限定されない。
【0018】
図1はガラス繊維を使用して本発明のペレットを製造する工程を例示したものである。図2の部材と同一のものには、理解しやすくするために同一の符号を付して説明する。図1に示すように複数本のストランド11を引き揃えてなる強化繊維束1をガイドロール2で保持して予熱炉2において予熱した後、含浸ダイ3に導入する。この含浸ダイ3には、強化繊維束1が通過する領域に加熱混練され溶融した熱可塑性樹脂が押出機4から供給されている。含浸ダイ3に導入された強化繊維束1は、引き取りながら含浸ダイ3内を矢印方向に前進し、この間に適宜開繊され、開繊された繊維(モノフィラメント)の間に熱可塑性樹脂が含浸される。
【0019】
次いで、熱可塑性樹脂が含浸された強化繊維束1は、前記含浸ダイ3の出口に設けられている賦形ダイ(図示せず)5を通過する際にさせることで、断面がほぼ円形の線状の樹脂含浸強化繊維束7に賦形され、更に冷却槽6において冷却固化されたあとペレタイザ9に送られ、該ペレタイザ9において所定長さのペレット10に切断される。この間、線状の樹脂含浸強化繊維束7は引取装置により一定速度で連続的に引き取りされる。本例では、賦形ダイ5を含浸ダイ3の出口部に一体に設け、熱可塑性樹脂が含浸された強化繊維束1を含浸ダイ3の出口において直ちに賦形することによって装置のコンパクト化を図っているが、賦形ダイ5は含浸ダイ3と分離して含浸ダイ3の出口に設けてもよい。
【0020】
本発明において上記引取装置は、図1に示すように2対以上のロール8を樹脂含浸強化繊維束7の上下にその進行方向に沿って段設してなり、樹脂含浸強化繊維束7をこれら2対のロール8で上下から挟持して固定し、ロール8を回転駆動することによって樹脂含浸強化繊維束7を連続的に引き取りできるようになっている。該引取装置においてロール8の段設数を多くするほど、樹脂含浸強化繊維束7を多点保持できるので、1対のロール当たりの樹脂含浸強化繊維束7に対する押圧力を軽減できる。しかし、段設の増加は引取装置の煩雑化と大型化を招くので、通常は2〜3段程度が好ましい。また、段設するロール8の間隔は特に限定されないが、段設するロール8はあまり離隔しないで配設するのが望ましい。
【0021】
上記ロール8の直径としては160〜1000mmの範囲が好ましく、300〜700mmの範囲がより好ましい。ロール8の直径が160mm未満であると、ロール8の回転数が大きくなるため、ロール8が畜熱し高温になりやすく、また樹脂含浸強化繊維束7との接触面積が小さくなるため、所望の引取力を得るのにロール8の押圧力を大きくする必要が生じ、これにより樹脂含浸強化繊維束7の潰れや割れが発生したり、ロール8の摩耗が大きくなるので好ましくない。また、ロール8の直径が1000mm超になると、引取装置の設置面積が拡大し経済面や運転操作面で不利益となる。
【0022】
本発明において引取装置を構成する上記ロール8は、表面の硬度が70〜98度であることを特徴とする。より好ましい硬度は80〜95度である。ここで、ロール8の表面の硬度は、スプリング式硬さのタイプAであり、JIS K6301で規定された硬さ計で測定できる。またロール8の表面とは、ロール8の表面層もしくは表面部を意味し、この表面層の厚さはロール径やロールの材質などによって変わることがあるが、通常は表面から10mm以上であることが好ましい。10mm以上の厚さの表面が上記範囲の硬度を持っていれば、より大きい耐摩耗効果がロールの表面に得られると共にある程度の摩耗が生じてもロールが使用に耐えられる。この場合、ロール8の表面硬度はロール表面全体にわたってできるだけ均一であるのが好ましいが、本発明の目的を達成でき工業的に実施できる範囲であれば多少のばらつきは許容される。また1対の上下ロールおよび段設された各ロールは、それぞれの表面ができるだけ同一硬度である場合に良好な結果が得られる。
【0023】
本引取装置において段設する各対のロール8は、上下ロールのうちの一方のロール、例えば下側のロールだけを回転駆動させ、上側のロールはフリー回転にして下側のロールに圧接し従動させるのが好ましい。しかし、上下ロールは同期回転させることもできる。ロールの表面が上記硬度を有しているので、下側のロールに圧接された上側のロールは、樹脂含浸強化繊維束7を挟持した状態において下側のロールに従動して回転する。これにより、上側のロールは下側のロールと共同して樹脂含浸強化繊維束7を円滑に引き取りする。このように一方のロールだけを駆動する場合、駆動側のロール表面の硬度を非駆動側のロール表面の硬度よりも5〜20度高くすると更に磨耗し難くなり、ロール寿命が増す。
【0024】
本引取装置においてロール8の表面の硬度が70度未満であると、ロール変形によって樹脂含浸強化繊維束7との間に滑りが生じ、それに伴ってロールの摩滅が発生しやすくなる。ロールの摩滅はその使用寿命を短くし、ロールの交換頻度が増すため生産性を低下させる。一方、前記硬度が98度より大きくなると、ロール表面の耐摩耗性は優れるが、押圧によるロールの変形量が減ることにより樹脂含浸強化繊維束との実質的な接触面積が減少するため、樹脂含浸強化繊維束7を安定して引き取りすることが困難になり、所望の引取力を得ようとすれば、押圧力を大きくしなければならないため、樹脂含浸強化繊維束7の潰れ、割れが顕著となるので好ましくない。
【0025】
上記ロール8の表面は、所定の押圧力で樹脂含浸強化繊維束7を安定して確実に引き取るためには一定の反発弾性を有しているのが好ましい。反発弾性は、JIS K6255加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの反発弾性試験方法に記載の方法によって測定できる。この反発弾性としては30〜70%の範囲が好ましく、40〜60%であればより好ましい。ロール8の表面の反発弾性が30%より小さくなると、押圧による変形により樹脂含浸強化繊維束7を安定して引き取り難くなるため、より大きな押圧力が必要になり、樹脂含浸強化繊維束7の潰れや割れを発生させるおそれが生じる。また反発弾性の上限は樹脂含浸強化繊維束を確実に引き取ることができる範囲として定めたものである。
【0026】
ロール8の表面が上記したような硬度と反発弾性が得られるような材質としては、ウレタンゴムなどの合成樹脂や合成ゴム(以下、樹脂等とする)を例示できる。これらの中で特にウレタンゴムは耐久性、その他の諸特性が最も優れている。ロール8は、少なくとも表面(表面層もしくは表面部)がこのような材質によって形成されていればよく、通常は例えば金属製のコア部の外側に前記樹脂等を被覆して形成できる。被覆の方法は、樹脂等を予めシート状に形成し、該シートをロールの表面に接着剤等を用いて被覆してもよいし、あるいは前記樹脂等をロールの表面に直接被覆してもよい。
【0027】
本発明において、2対以上のロール8を用いて樹脂含浸強化繊維束7を引き取りながらペレットを製造するとき、1対のロール8の押圧力は樹脂含浸強化繊維束1本当たり30〜60kgfであり、好ましくは40〜50kgfである。ロール8の押圧力が30kgf未満では、樹脂含浸強化繊維束7の引取時に滑りが発生しやすくなり、ロールの摩耗量が増大すると共に樹脂含浸強化繊維束7をロール8で安定して引き取ることが困難になる。また前記押圧力が60kgfより大きくなると、樹脂含浸強化繊維束7の潰れや割れの発生が顕著となる。上記範囲の押圧力であれば、樹脂含浸強化繊維束7の潰れや割れを発生させずに十分な引取力を得ることが可能となる。
【0028】
上記において、各対のロール8の押圧力を同一に設定すると、樹脂含浸強化繊維束7に付加される押圧力を低く抑えることができるため好ましい。しかし、一部または全部の対のロール8の押圧力は、上記範囲内において変えることもできる。このようにロール8の設置位置によって押圧力を変える場合には、段設するロール8の上流側(賦形ダイ5に近い側)のロールの押圧力を低くするのが、引き取りが安定するため好ましい。
【0029】
本発明において樹脂含浸強化繊維束7は2対以上のロール8で上下から挟持することによって多点保持され、この状態でロール8を所定の回転数で回転させると、樹脂含浸強化繊維束7に引取力が発生し一定の引取速度で引き取りされる。このとき引取速度が速くなると、樹脂含浸強化繊維束7の保有熱によってロール表面温度が上昇するので好ましくない。直径160〜1000mmのロール8で引き取るとき、ロール表面温度を例えば50℃以下に抑えるためには、ロール8の回転数を30rpm以下にするのが好ましい。
【実施例】
【0030】
補強用長繊維として、16μm径のモノフィラメントを4000本集束してなるガラス繊維ストランドを1本引き揃えた強化繊維束を使用し、熱可塑性樹脂として、ポリプロピレンに酸変性ポリプロピレンを10%添加したものを用いて、樹脂含浸強化繊維束(ロッド)を引き取りしながらペレットを製造し、以下の項目について評価した。
【0031】
なお、実施例は図1に示す2対のロールで引き取りする場合について行い、比較例は従来の一対のロールと1対のエンドレスベルトで引き取りする場合について行った。いずれも補強用長繊維束10本をそれぞれ10個の含浸ダイのダイノズルに通し、ロール幅、ベルト幅ともに300mmである。ロッドの形状(略円形)およびペレットの長さ寸法(8mm)は実施例も比較例もすべて同一とした。また引取装置には実施例も比較例も揺動装置を設置していない。
【0032】
実施例および比較例における、引取装置の仕様および引取条件、並びに評価結果を表1にまとめて示す。
(1)ロール摩耗性
ロール表面の摩滅によるロール交換頻度(回/1000作業時間)により判定した。その際の判定基準は次の通りである。
◎:0.5〜0.7、○:0.7〜1回、△:1.5〜3回、×:4〜6回
(2)生産性(安定性)
引取中の樹脂含浸強化繊維束(ロッド)の走行状態を、次の評価基準に基づいて目視による感応評価で判定した。
○:略まっすぐに走行し斜行や蛇行がほとんど認められない。
△:斜行や蛇行が若干認められる。
×:斜行や蛇行がかなり目立って認められる。
(3)割れ(ペレット割れレベル評価)
ペレット10g(試料)を計り採り、試料が重なり合わないように奇麗な黒色トレイの上に広げ、試料に36W白色蛍光燈を50cm以内に近づけ目視にて観察した。ペレットが長手方向に剥離し反対側が見通せるもの、及び完全に分離しているものを「割れ」とし、その個数をカウントし、割れ個数により下記範囲にてレベル分けして良否を判定した。◎、○は良好、×、××は不良となる。
◎:割れ個数が6個以下/10g
○:割れ個数が7個以上〜16個未満/10g
×:割れ個数が16個以上〜30個未満/10g
××:割れ個数が30個以上/10g
【0033】
(実施例1)
各対の駆動側と非駆動側とで表面硬度の異なる2対のロールで強化繊維束を引き取りながら含浸ダイにおいて溶融熱可塑性樹脂を含浸するとともにし、次いで賦形ダイで所定の断面形状に賦形してロッドを形成し、これをペレタイザで切断してペレットを製造した。
【0034】
(実施例2)
表面硬度の等しい2対のロールで強化繊維束を引き取りし、実施例1と同様にしてペレットを製造した。
【0035】
(比較例1)
表面硬度の等しい1対のロールで強化繊維束を引き取りし、実施例1と同様にしてペレットを製造した。
【0036】
(比較例2)
ロールではなくエンドレスベルトで引き取りし、実施例1と同様にしてペレットを製造した。なお、表1において比較例2ではロールをすべてエンドレスベルトに置き換えて記載した。また、エンドレスベルトでの引き取りの場合、ベルト同士でも押圧力が加わった状態でロッドが押圧された状態で引き取られたため、ロッド1本当たりの押圧力は、ベルト幅に占めるロッド1本の幅(2mm)の割合に、ロール1対当たりの押圧力を乗じた値として求めた。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から引取装置が2対のロールからなる実施例1および実施例2では、(押圧力/ロッド1本)を1対のロールからなる比較例1に比べて小さくすることができ、このように押圧力を小さくしても2対のロールで引き取ることによりロッドを安定して引き取ることができることが分かる。また、(押圧力/ロッド1本)が小さくできるため、ロール摩耗性およびペレットの割れ性が比較例に比べて優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、潰れや割れが少ない高品質の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を生産性よく製造するのに有効利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の好ましい実施形態である長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造工程を示す説明図である。
【図2】従来の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0041】
1:強化繊維束、 2:ガイドロール、
3:含浸ダイ、 4:押出機、
6:冷却槽、 7:樹脂含浸強化繊維束、
8:ロール、 9:ペレタイザ、
10:ペレット、 11:ストランド、
12:揺動機構、 14:引取りロール、
15:エンドレスベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維束を引き取りながら熱可塑性樹脂を含浸させて賦形する含浸ダイと、熱可塑性樹脂が含浸賦形された樹脂含浸強化繊維束を引き取る引取装置とを有する長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置において、前記引取装置が2対以上のロールを樹脂含浸強化繊維束の上下にその進行方向に沿って段設してなり、該ロールの表面の硬度が70〜98度であることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
【請求項2】
前記ロールの表面の反発弾性が30〜70%である請求項1に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
【請求項3】
対をなす上下ロールのうち一方のロールだけが駆動されるとき、駆動側のロールの表面の硬度が非駆動側のロールの表面の硬度より5〜20度高いことを特徴とする請求項1または2に記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
【請求項4】
前記ロールの直径が160〜1000mmである請求項1〜3のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
【請求項5】
前記ロールの表面が、ウレタンゴムである請求項1〜4のいずれかに記載の長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造装置。
【請求項6】
強化繊維束を引き取りながら熱可塑性樹脂を含浸させた後、熱可塑性樹脂が含浸された強化繊維束を所定の断面形状に賦形し、次いで賦形された樹脂含浸強化繊維束を上下に配置された2対以上のロールで挟持して引き取る長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法であって、前記樹脂含浸強化繊維束をロールの表面の硬度が70〜98度、反発弾性が30〜70%であるロールで挟持して引き取り、かつ樹脂含浸強化繊維束を挟持する前記ロールの押圧力が長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料1本当り30〜60kgfであることを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの製造装置を使用して長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料を製造することを特徴とする長繊維強化熱可塑性樹脂成形材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−341473(P2006−341473A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168852(P2005−168852)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(306014725)オーウェンスコーニング製造株式会社 (20)
【Fターム(参考)】