説明

長鎖二塩基酸

【課題】高い火花開始電圧と高い電気電導度を有し、かつ耐熱性に優れる電解液用の電解質として、さらに種々の用途に利用され得る長鎖二塩基酸を提供すること。
【解決手段】次の一般式(I)で示される長鎖二塩基酸:
HOOC−X−CO−(OA)−OCO−X−COOH (I)
ここで、XおよびXは、各々独立して、分岐鎖を有する炭素数2〜30の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基;OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり;そして、nは1〜70である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ駆動用電解液、各種化合物の原料などに有用な長鎖二塩基酸に関する。
【背景技術】
【0002】
中高圧用電解コンデンサ駆動用電解液としては、エチレングリコールなどの溶媒に種々の溶質(電解質)を溶解した溶液が用いられている。中高圧用電解コンデンサ駆動用電解液には、火花開始電圧が高いこと(耐電圧性が高いこと)および電気電導度が高いことが要求される。一般に、電気電導度を向上させるために溶質の濃度を上げると、火花開始電圧が低下する。さらに、火花電圧を高めるためにマンニトールやソルビトールなどを用いる場合があるが、目的の火花電圧を得るためには、大量に添加する必要があり、電気電導度の低下を招く。そのため、溶解性に優れ、高い電気電導度を保持したまま、火花開始電圧を高く維持できる物質(電解質)およびその物質を含む電解液が求められている。
【0003】
特許文献1には、火花開始電圧が高く、かつ電気電導度の低下が抑制された電解コンデンサ駆動溶液に用いられる電解質として、アジピン酸などの直鎖状二塩基酸またはその無水物とポリアルキレングリコールとのエステルが開示されている。
【0004】
上記以外にも、さらに優れた電気電導度および火花開始電圧を有する電解質となり得る材料が望まれている。さらに近年、耐熱性の高い電解液も求められており、上記性質に加え、高い耐熱性を付与し得る電解質が求められている。
【特許文献1】特開2004−128275公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高い電気電導度および火花開始電圧を有し、かつ高い耐熱性を有する電解液を調製することの可能な電解質となり得る材料を提供することである。本発明の他の目的は、上記優れた性質を有する電解質となり得、他の材料としても使用可能な長鎖二塩基酸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の長鎖二塩基酸は、次の一般式(I)で示される:
【0007】
HOOC−X−CO−(OA)−OCO−X−COOH (I)
【0008】
ここで、XおよびXは、各々独立して、分岐鎖を有する炭素数2〜30の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基;OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり;そして、nは1〜70である。
【0009】
本発明は、上記長鎖二塩基酸のアミン塩を包含する。
【0010】
好適な実施態様においては、上記アミン塩はアンモニウム塩、アルキルアミン塩、および四級アンモニウム塩でなる群から選択される少なくとも1種である。
【0011】
好適な実施態様においては、上記アミン塩はアルカノールアミン塩である。
【0012】
本発明の電解液は、上記長鎖二塩基酸またはそのアミン塩を含有する。
【0013】
本発明のポリエステルは、上記長鎖二塩基酸を構成成分として含有する。
【0014】
本発明のポリアミドは、上記長鎖二塩基酸を構成成分として含有する。
【0015】
本発明のエポキシ樹脂モノマーは、上記長鎖二塩基酸を構成成分として含有する。
【0016】
本発明は、上記長鎖二塩基酸の金属塩を含有する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の長鎖二塩基酸は、多くの分野で利用され得る。例えば、この長鎖二塩基酸またはそのアミン塩、好適にはアンモニウム塩を含む電解液(例えば、このアンモニウム塩を、エチレングリコールを主成分とする溶媒に溶解して得られる電解液)は、高い火花開始電圧および高い電気電導度を有し、かつ耐熱性が充分に高い。本発明の長鎖二塩基酸はまた、種々の材料の原料となり得る。例えば、この長鎖二塩基酸を用いて、ポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂モノマー、金属塩などが製造され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(1)長鎖二塩基酸
本発明の長鎖二塩基酸は、次の式(I)で示される:
【0019】
HOOC−X−CO−(OA)−OCO−X−COOH (I)
【0020】
ここで、XおよびXは、各々独立して、分岐鎖を有する炭素数2〜30の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基;OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり;そして、nは1〜70である。
【0021】
上記式(I)のXおよびXで示される炭化水素基の側鎖(分岐鎖)の数は1以上であればよく、特に限定されない。側鎖は主鎖のどの部分に存在していてもよいが、後述のようにカルボキシル基のα位またはエステル基のα位に存在することが好ましい。XおよびXで示される炭化水素基が不飽和部分を有する場合には、該不飽和部分は主鎖に存在していても側鎖に存在していてもよい。XおよびXの炭素数は、好ましくは3〜20である。
【0022】
OAは、上述のように、炭素数2〜4のオキシアルキレン基である。その例としては、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、およびオキシブチレン基がある。nはオキシアルキレン基の繰り返し数であり、上述のように1〜70である。nは好ましくは1〜50であり、さらに好ましくは1〜20である。nが0である場合は、例えば、そのような二塩基酸をアンモニウム塩として電解質に用いると、得られる電解液の耐電圧が低い。逆に70を超えるとアンモニウム塩の溶解度が低下し、さらに電解液の電気電導度も低下する。
【0023】
上記式(I)の長鎖二塩基酸としては、例えば、次の一般式(II)で示される長鎖二塩基酸が好適である:
【0024】
【化1】

【0025】
ここで、R〜Rは、各々独立して炭素数1〜22のアルキル基、炭素数1〜22のアルケニル基、または水素原子であり;R〜R12は、各々独立して、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、または水素原子であり;そして、aおよびbは各々独立して0〜20であり;但し、R〜Rのうちの少なくとも1個およびR〜Rのうちの少なくとも1個は炭素数1〜22のアルキル基または炭素数1〜22のアルケニル基である。上記R〜Rのアルキル基およびアルケニル基はいずれも直鎖状または分枝鎖状であり得、該アルキル基およびアルケニル基の炭素数は、好ましくは1〜12である。
【0026】
上記aおよびbは上記のように各々独立して0〜20であり、好ましくは、0〜10である。aおよびbのいずれかが20を超える場合は、そのような長鎖二塩基酸を例えばアンモニウム塩として電解質に用いると、該電解質の溶解性に劣る。
【0027】
上記R〜R12のアルキル基およびアルケニル基はいずれも直鎖状または分枝鎖状であり得、該アルキル基およびアルケニル基の炭素数は、好ましくは1〜6である。式(II)の化合物においてaが2以上である場合には、RおよびR10が各々複数個存在する。これらの複数のRは各々同一であっても異なっていてもよい。複数のR10についても同様である。同様にbが2以上である場合には、R11およびR12が各々複数個存在する。この場合も、複数のR11は各々同一であっても異なっていてもよく、複数のR10についても同様である。
【0028】
上記式(I)の長鎖二塩基酸は、上述のように、主鎖にオキシアルキレン構造を有しているため、また分子内に分枝鎖を有しているため、この長鎖二塩基酸のアミン塩(例えば、アンモニウム塩)はエチレングリコールなどの溶媒に対する溶解性が高くなる。従って分子量が高い場合にも良好な溶解性を確保することが可能であり、そのような化合物を電解液の溶質に用いると、電気電導度の低下が抑制される。オキシアルキレン基が長い長鎖の化合物を用いる場合には、両末端のカルボキシル基間の距離が長くなるため、耐電圧が高くなる。
【0029】
さらに、式(I)の長鎖二塩基酸において、側鎖がカルボキシル基のα位に存在する場合(式(II)においては、RおよびRの少なくとも一方がアルキル基またはアルケニル基である場合、またはRおよびRの少なくとも一方がアルキル基またはアルケニル基である場合)には、この二塩基酸のエステル化およびアミド化が抑制される。式(I)の長鎖二塩基酸において、側鎖がエステル基のα位に存在する場合(式(II)においては、RおよびRの少なくとも一方がアルキル基またはアルケニル基である場合、またはRおよびRの少なくとも一方がアルキル基またはアルケニル基である場合)には、この二塩基酸の加水分解が抑制される。そのため、このような長鎖二塩基酸のアンモニウム塩を電解質に用いた場合に、電解液の耐熱性に優れ、高温においても電気電導度の低下が抑制される。
【0030】
本発明の長鎖二塩基酸は、ポリアルキレングリコールとジカルボン酸もしくはジカルボン酸無水物とをエステル化反応させることにより得られる。
【0031】
ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどが挙げられる。ジカルボン酸としては、分岐鎖を有する炭素数4〜32の飽和または不飽和のジカルボン酸が用いられる。特にα位に置換基を有するジカルボン酸が好適に用いられる。使用され得るジカルボン酸としては、2−ブチルコハク酸、2,3−ジメチルグルタル酸、2,3−ジエチルグルタル酸、2,3−ジプロピルグルタル酸、2−ブチル−3−メチルグルタル酸、2,2,4,4−テトラエチルグルタル酸、3,3,5−トリメチルアジピン酸、2,7−ジブチルスベリン酸、2,9−ジプロピルセバシン酸、7,12−ジメチルー7,11−オクタデカジエン−1,18−ジカルボン酸、12−ビニル−8−オクタデセン二酸などが挙げられる。ジカルボン酸無水物としては、これらの酸の無水物が用いられ得る。
【0032】
エステル化反応に際しては、上記ジカルボン酸またはジカルボン酸無水物2モルに対して、ポリアルキレングリコールを0.8〜1.2モルの割合で用いて行うのが好ましい。
【0033】
上記エステル化反応に際しては、必要に応じて触媒が用いられ、該触媒としては、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物、遷移金属化合物、酸(例えば、硫酸、塩酸、硝酸、トリフルオロ酢酸、トルエンスルホン酸)などが用いられる。
【0034】
エステル化反応は、通常の酸とアルコールとのエステル化反応と同様に行われる。反応は、不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましく、反応温度は、通常、60℃〜250℃、好適には80℃〜180℃で行なわれる。
【0035】
上記エステル化反応により、上述の式(I)で示される長鎖二塩基酸が形成される。用いられるポリアルキレングリコールは、通常、鎖長の異なる複数の化合物の混合物として市販されており、これを用いることにより、複数種の長鎖二塩基酸の混合物が得られる。さらに、用いられるジカルボン酸の種類により、そして反応時にジカルボン酸の分子中のいずれのカルボン酸がポリアルキレングリコールと結合するかにより、種々の長鎖二塩基酸が形成される。従って、本発明の長鎖二塩基酸は、単一の化合物、もしくは上記種々の長鎖二塩基酸の混合物であり得る。
【0036】
(2)長鎖二塩基酸の用途
本発明の長鎖二塩基酸は、種々の用途に用いられる。例えば、この長鎖二塩基酸またはそのアミン塩、特にアンモニウム塩、アルキルアミン塩、または四級アンモニウム塩は、電解液の溶質として好適であり、電解コンデンサ駆動用電解液に好適に用いられる。アミン塩のうちアルカノールアミン塩は、防錆剤として有用である。さらに本発明の長鎖二塩基酸は、種々の化合物、樹脂などの原料として利用することができる。例えば、本発明の長鎖二塩基酸を原料として、後述のように、ポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂モノマーなどを調製することが可能である。さらに、本発明の長鎖二塩基酸の金属塩もまた、種々の工業用材料に用いられ得る。
【0037】
本発明の長鎖二塩基酸のアミン塩としては、上記(I)で示される長鎖二塩基酸のアンモニウム塩、アルキルアミン塩、四級アンモニウム塩、アルカノールアミン塩などが挙げられる。アルキルアミン塩としては、一級アミン塩(例えば、メチルアミン、エチルアミン、t−ブチルアミンなどの一級アミンとの塩)、二級アミン塩(例えば、ジメチルアミン、エチルメチルアミン、ジエチルアミンなどの二級アミンとの塩)、三級アミン塩(例えば、トリメチルアミン、ジエチルメチルアミン、エチルジメチルアミン、トリエチルアミンなどの三級アミンとの塩)などが挙げられる。四級アンモニウム塩としては、テトラメチルアンモニウム塩、トリエチルメチルアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩などが挙げられる。アルカノールアミン塩としては、トリエタノールアミン塩、トリシクロヘキサノールアミン塩などが挙げられる。上記以外にイミダゾリニウム塩も利用可能である。
【0038】
上記長鎖二塩基酸のアミン塩は、式(I)で示される長鎖二塩基酸を、アミン類、例えば、アンモニア、アルキルアミン、四級アンモニウム塩、アルカノールアミンなどと反応させることにより得られる。アンモニウム塩の調製について説明すると、例えば、上記エステル化反応で得られた化合物(一般式(I)の化合物)を、適切な溶媒(例えば、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン、メチルセロソルブあるいはこれらの混合物)に適切な濃度となるように溶解し、アンモニアガスを吹き込むことによりアンモニウム塩が生成する。反応時には、pHが約6〜8、好ましくは約6.5〜約7.5になったところでアンモニアの吹き込み操作を停止する。これにより、一般式(I)の化合物のアンモニウム塩が得られる。アンモニアに代わりに他のアミン類(アルキルアミン、四級アンモニウム塩など)を添加することにより、目的とするアミン塩(式(I)の化合物のアルキルアミン塩、四級アンモニウム塩など)が得られる。
【0039】
本発明の電解コンデンサ駆動用電解液は、上記本発明の長鎖二塩基酸またはそのアミン塩を含有する。電解液には、この長鎖二塩基酸およびそのアミン塩のいずれか一方が含有されていても、あるいは両方が含有されていてもよい。少なくともアミン塩が含有されていることが好ましい。アミン塩としては、通常、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、および四級アンモニウム塩でなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。アンモニウム塩が特に好適である。本発明の電解コンデンサ駆動用電解液は、通常、本発明の長鎖二塩基酸のアミン塩に加えて溶媒および必要に応じて各種添加剤を含有する。
【0040】
上記電解液は、上記長鎖二塩基酸またはそのアミン塩を、約0.1質量%〜約15質量%となるように含有するのが好適である。アミン塩の量は、さらに好ましくは、約2質量%〜12質量%、より好ましくは、約5〜10質量%である。溶媒としては、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのグリコール類、N−メチルピロリドンなどのラクトン類、あるいはこれらと水との混合物が用いられる。
【0041】
この電解コンデンサ駆動用電解液としては、例えば、上記製造工程において得られる長鎖二塩基酸またはそのアミン塩の濃度が適切であれば、そのまま、電解液用混合物として用いることができる。本発明の長鎖二塩基酸またはそのアミン塩の濃度が高い場合、上記溶媒で希釈して用いられる。上記溶媒としては、エチレングリコールを主成分とし、水を含む溶媒が好適である。添加剤としては、一般的な火花電圧向上剤、電導度向上剤などが用いられる。この電解コンデンサ駆動用電解液は、優れた電気電導度および火花開始電圧を有する。
【0042】
上記アミン塩のうち、アルカノールアミン塩、例えば式(I)の化合物のトリエタノールアミン塩は、金属防錆剤、金属加工油の潤滑防錆剤などに利用される。
【0043】
上述のように、本発明の長鎖二塩基酸を用いてポリエステルが得られる。このポリエステルは、この長鎖二塩基酸と多価アルコール類とを縮合反応させることにより得られる。上記多価アルコール類としては、エチレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジオール;およびビスフェノールA、ビスフェノールFなどの芳香族ジオールが挙げられる。得られるポリエステルは、各種樹脂成形体、繊維などに利用され得る。
【0044】
上述のポリアミドは、本発明の長鎖二塩基酸とジアミン類とを縮合させることにより得られる。上記ジアミン類としては、1,4−ジアミノブタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルメタン、メタキシレンジアミン、イソホロンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサンなどが挙げられる。得られるポリアミドは、各種樹脂成形体、化粧品原料などに利用される。
【0045】
上述のエポキシ樹脂モノマーは、本発明の長鎖二塩基酸とエポキシ化合物とを反応させることにより得られる。上記エポキシ化合物としてはエピクロロヒドリン、エピブロモヒドリンなどが挙げられる。得られるエポキシ樹脂モノマーは、エポキシ樹脂原料、エポキシアクリレートの材料などに利用される。
【0046】
上述の長鎖二塩基酸の金属塩は、本発明の長鎖二塩基酸を金属塩に変換することにより得られる。例えば、本発明の長鎖二塩基酸をアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物などと反応させることにより得られる。アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。形成される金属塩は、疎水性であり撥水性を有する。このような金属塩混合物は、グリース、滑剤、キレート剤、金属イオン封止剤などに利用され得る。
【実施例】
【0047】
以下に本発明を実施例により説明する。
【0048】
(実施例1.1)
2−ブチルコハク酸無水物2モル、ポリエチレングリコール(PEG200;オキシエチレン基の平均数4.1)1モル、および触媒として酸化カルシウム3.0gを混合し、窒素気流下、130℃で3時間加熱した。反応混合物を室温まで冷却した後、溶剤としてトルエンを加え、水洗を3回行った。溶剤のトルエンを除去し、乾燥後、得られた長鎖二塩基酸(これを二塩基酸1とする)の酸価を測定したところ210.4KOHmg/gであり、収量は486.4gであった。
【0049】
二塩基酸1をエチレングリコールに溶解して10%溶液とし、アンモニアガスを吹き込んでpH7.5〜7.8に調製し、さらに水分を1.0%に調製して電解液とした。この電解液の電気電導度(mS/cm)および火花開始電圧(V)を測定した。さらに電解液をアンプル管に入れて105℃雰囲気下に保存し、2000時間後の電気電導度を測定した。これらの結果を表1に示す。後述の実施例1.2〜1.9および比較例1.1〜1.3の結果も併せて表1に示す。
【0050】
(実施例1.2)
ポリエチレングリコールとしてPEG400(オキシエチレン基の平均数8.7)を用いたこと以外は、実施例1.1と同様にして、長鎖二塩基酸(これを二塩基酸2とする)を得た。この二塩基酸2の酸価は155.8KOHmg/g、そして収量は676.4gであった。
【0051】
この二塩基酸2を用いて実施例1.1と同様に電解液を調製し、この電解液の電気電導度、火花発生電圧、および2000時間後の電気電導度を測定した。
【0052】
(実施例1.3)
ポリエチレングリコールとしてPEG1000(オキシエチレン基の平均数22.3)を用いたこと以外は、実施例1.1と同様にして、長鎖二塩基酸(これを二塩基酸3とする)を得た。この二塩基酸3の酸価は88.3KOHmg/g、そして収量は1246.4gであった。
【0053】
この二塩基酸3を用いて実施例1.1と同様に電解液を調製し、この電解液の電気電導度、火花発生電圧、および2000時間後の電気電導度を測定した。
【0054】
(実施例1.4)
2−ブチルコハク酸無水物の代わりに2,3−ジメチルグルタル酸無水物を用い、ポリエチレングリコールとしてPEG600(オキシエチレン基の平均数14.0)を用いて、140℃で5時間反応を行ったこと以外は、実施例1.1と同様にして、長鎖二塩基酸(これを二塩基酸4とする)を得た。この二塩基酸4の酸価は124.5KOHmg/g、そして収量は839.8gであった。
【0055】
この二塩基酸4を用いて実施例1.1と同様に電解液を調製し、この電解液の電気電導度、火花発生電圧、および2000時間後の電気電導度を測定した。
【0056】
(実施例1.5)
2−ブチルコハク酸無水物の代わりに2,3−ジエチルグルタル酸無水物を用い、ポリエチレングリコールとしてPEG600(オキシエチレン基の平均数14.0)を用いて、140℃で5時間反応を行ったこと以外は、実施例1.1と同様にして、長鎖二塩基酸(これを二塩基酸5とする)を得た。この二塩基酸5の酸価は121.1KOHmg/g、そして収量は893.2gであった。
【0057】
この二塩基酸5を用いて実施例1.1と同様に電解液を調製し、この電解液の電気電導度、火花発生電圧、および2000時間後の電気電導度を測定した。
【0058】
(実施例1.6)
2−ブチルコハク酸無水物の代わりに2,3−ジプロピルグルタル酸無水物を用い、ポリエチレングリコールとしてPEG600(オキシエチレン基の平均数14.0)を用いて、140℃で5時間反応を行ったこと以外は、実施例1.1と同様にして、長鎖二塩基酸(これを二塩基酸6とする)を得た。この二塩基酸6の酸価は110.2KOHmg/g、そして収量は946.4gであった。
【0059】
この二塩基酸6を用いて実施例1.1と同様に電解液を調製し、この電解液の電気電導度、火花発生電圧、2000時間後の電気電導度を測定した。
【0060】
(実施例1.7)
2−ブチルコハク酸無水物の代わりに2−ブチル−3−メチルグルタル酸無水物を用い、ポリエチレングリコールとしてPEG600(オキシエチレン基の平均数14.0)を用いて、140℃で5時間反応を行ったこと以外は、実施例1.1と同様にして、長鎖二塩基酸(これを二塩基酸7とする)を得た。この二塩基酸7の酸価は112.3KOHmg/g、そして収量は919.8gであった。
【0061】
この二塩基酸7を用いて実施例1.1と同様に電解液を調製し、この電解液の電気電導度、火花発生電圧、および2000時間後の電気電導度を測定した。
【0062】
(実施例1.8)
2−ブチルコハク酸無水物の代わりに2,2,4,4−テトラエチルグルタル酸無水物を用い、ポリエチレングリコールとしてPEG400(オキシエチレン基の平均数8.7)を用いたこと以外は、実施例1.1と同様にして、長鎖二塩基酸(これを二塩基酸8とする)を得た。この二塩基酸8の酸価は130.1KOHmg/g、そして収量は782.3gであった。
【0063】
この二塩基酸8を用いて実施例1.1と同様に電解液を調製し、この電解液の電気電導度、火花発生電圧、および2000時間後の電気電導度を測定した。
【0064】
(実施例1.9)
2−ブチルコハク酸無水物の代わりに3,3,5−トリメチルアジピン酸無水物を用い、ポリエチレングリコールとしてPEG400(オキシエチレン基の平均数8.7)を用いたこと以外は、実施例1.1と同様にして、長鎖二塩基酸(これを二塩基酸9とする)を得た。この二塩基酸9の酸価は154.5KOHmg/g、そして収量は703.4gであった。
【0065】
この二塩基酸9を用いて実施例1.1と同様に電解液を調製し、この電解液の電気電導度、火花発生電圧、および2000時間後の電気電導度を測定した。
【0066】
(比較例1.1)
セバシン酸の10%エチレングリコール溶液を調製し、これを電解液とした。この電解液の電気電導度、火花発生電圧、および2000時間後の電気電導度を測定した。
【0067】
(比較例1.2)
2−メチルアゼライン酸の10%エチレングリコール溶液を調製し、これを電解液とした。この電解液の電気電導度、火花発生電圧、および2000時間後の電気電導度を測定した。
【0068】
(比較例1.3)
1,6−デカンジカルボン酸の10%エチレングリコール溶液を調製し、これを電解液とした。この電解液の電気電導度、火花発生電圧、および2000時間後の電気電導度を測定した。
【0069】
【表1】

【0070】
実施例1.1〜1.3の電解液に含有される二塩基酸は、式(II)においてカルボキシル基のα位およびエステル基のα位のどちらか一方にアルキル基を有する。そのため、高温状態で保存したときに、このような化合物を電解質としていない比較例1.1〜1.3の電解液と比較して電気電導度の低下が抑制されている。実施例1.4〜1.7の電解液はカルボキシル基のα位およびエステル基のα位の両方にアルキル基が存在する二塩基酸を含むために電気電導度の低下はさらに抑えられている。実施例1.8の電解液は、両方のα位に2つずつアルキル基が存在する二塩基酸を含むために、実施例1.4〜1.7の電解液に比べてさらに電気電導度の低下が抑制されている。実施例1.9の電解液に含有される二塩基酸は、カルボキシル基のα位またはエステル基のα位にメチル基を有し、同時にエステル基のβ位またはカルボキシル基のβ位にメチル基を2個有する。このような二塩基酸を含む電解液の耐熱性は、実施例1.1〜1.8の電解液と比べてやや低いが、各比較例に比べると優れた耐熱性を有する。
【0071】
実施例1.1〜1.9の電解液は比較例1.1〜1.3の電解液と比較して、全体の分子量が高く、二塩基酸の両末端が長くなるので火花発生電圧はいずれも高い値を示している。
【0072】
(実施例2)ポリエステルの調製
テトラメチレングリコール(99.0g)、実施例1.1で得られた二塩基酸1(25.6g)、チタンテトラn−ブトキシド(0.025g)、およびブチルヒドロキシスズオキシド(0.012g)を混合し、窒素気流下、170℃で2時間加熱した。次いで、徐々に減圧して220℃に昇温し、5mmHg以下の高真空下で4時間加熱した。これを冷却してポリエステル(98.3g)を取り出した。得られたポリエステルの融点は45℃であった。
【0073】
(実施例3)ポリアミドの調製
1,4−ジアミノブタン(88.1g)、実施例1.1で得られた二塩基酸1(25.6g)、亜リン酸トリフェニル(31.0g)、および塩化リチウム(5.0g)を、N−メチルピロリドン100mlおよびピリジン25mlの混合液に溶解し、窒素雰囲気下100℃で3時間反応させた。反応溶液を1000mlのメタノールに投入し、析出したポリマーをろ過した。得られたポリマーをさらに沸騰メタノール中で30分間処理し、減圧下で乾燥させた。このようにして得られたポリアミドは89.3gで融点は150℃であった。
【0074】
(実施例4)エポキシ樹脂モノマーの調製
実施例1.1で得られた二塩基酸1(51.2g)およびエピクロロヒドリン(189.0g)に水50mlを加え、これに触媒としてベンジルトリエチルアンモニムクロリド(0.3g)を加えて70℃に昇温した。温度を70℃に保ちながら50%苛性ソーダ(32.0g)をゆっくりと加え、90℃で2時間反応させた。室温まで冷却し、水を加えて水洗を5回行い、濃縮した。得られたエポキシ樹脂モノマーは64.8gであり、エポキシ当量(WPE)は322.0であった。
【0075】
(実施例5)金属塩の調製
実施例1.1で得られた二塩基酸1(51.2g)をメタノール(100g)に溶解させ、50℃を保ちながら50%苛性ソーダ(32.0g)をゆっくりと加えた。これを室温に冷却し、析出したナトリウム塩をろ取した。メタノールで洗浄し、乾燥を行った。得られたナトリウム塩は白色粉末であり、収量は54.8gであった。
【0076】
(実施例6)アルカノールアミン塩の調製および評価
実施例1.1で得られた二塩基酸1(51.2g)に水(81.0g)を加え、室温でトリエタノールアミン(29.8g)をゆっくりと加えた。攪拌して完全に溶解させ、アルカノールアミン塩の50%水溶液を得た。
【0077】
このアルカノールアミン塩について、鋳物切粉法にて錆止め効果の検討を行った。
【0078】
上記50%水溶液に水をさらに加えて2%水溶液とし、これに鋳物ドライカッティング切粉(FC−20:日本テストパネル株式会社製)5.0gを10分間浸漬した。次いで、この切粉を引き上げ、液を切ってシャーレに入れ、錆の発生状況を観察した。さらに比較として2%トリエタノールアミン水溶液および水を用いて各々同様の試験を行った。
【0079】
その結果、二塩基酸1のトリエタノールアミン塩2%水溶液を用いた場合には、72時間後に錆の発生がなかった。トリエタノールアミン2%水溶液の場合には、24時間後に、2点の錆の発生を確認した。水の場合は、1時間後に数点の錆の発生を確認した。
【0080】
上記の結果から本実施例のアルカノールアミン塩は金属防錆剤として優れた性能を示すことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明によれば、種々の用途に用いられ得る長鎖二塩基酸が得られる。例えば、この長鎖二塩基酸または該二塩基酸から得られるアンモニウム塩などのアミン塩は、中高圧電解コンデンサ駆動用の電解液の溶質(電解質)として好適に用いられる。このような電解液は、高い火花開始電圧を維持しつつ、高い電気電導度を発揮することができ、かつ耐熱性に優れる。アミン塩のうちアルカノールアミン塩は、防錆剤として有用である。さらに、本発明の長鎖二塩基酸は、種々の材料の原料として利用可能であり、本発明の長鎖二塩基酸を用いて、種々の分野で利用され得るポリエステル、ポリアミド、エポキシ樹脂モノマー、金属塩などが製造される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I)で示される長鎖二塩基酸:
HOOC−X−CO−(OA)−OCO−X−COOH (I)
ここで、XおよびXは、各々独立して、分岐鎖を有する炭素数2〜30の飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基;OAは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり;そして、nは1〜70である。
【請求項2】
請求項1に記載の長鎖二塩基酸のアミン塩。
【請求項3】
前記アミン塩がアンモニウム塩、アルキルアミン塩、および四級アンモニウム塩でなる群から選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の長鎖二塩基酸のアミン塩。
【請求項4】
前記アミン塩がアルカノールアミン塩である、請求項2に記載の長鎖二塩基酸のアミン塩。
【請求項5】
請求項1に記載の長鎖二塩基酸またはそのアミン塩を含有する電解液。
【請求項6】
請求項1に記載の長鎖二塩基酸を構成成分として含有するポリエステル。
【請求項7】
請求項1に記載の長鎖二塩基酸を構成成分として含有するポリアミド。
【請求項8】
請求項1に記載の長鎖二塩基酸を構成成分として含有するエポキシ樹脂モノマー。
【請求項9】
請求項1に記載の長鎖二塩基酸の金属塩。

【公開番号】特開2007−126611(P2007−126611A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322692(P2005−322692)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(391010471)岡村製油株式会社 (7)
【Fターム(参考)】