説明

開閉体の支持機構

【課題】車両のテールゲートや車両のトランクリッドなどの大きく重い開閉体にも使用可能であり、適切なダンパ作用を付加することを可能にする。
【解決手段】支持部11に開閉体12を回動自在に支持する開閉体の支持機構20において、支持部11に取付けられる支持部側部材21と、開閉体12に取付けられる開閉体側部材22と、これらの支持部側部材21及び開閉体側部材22を回転自在に連結する軸部材23とを有し、変形速度にしたがって硬化するダイラタント緩衝材24が軸部材23の周囲に設けられるとともに、挿入部材(ダイラタント部材)48が支持部側部材21及び開閉体側部材22に固定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、開閉体にダンパ機能を付加することができる開閉体の支持機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
開閉体の支持機構として、車両のテールゲートや車両のトランクリッドなどの開閉体の支持機構が知られている。
この種の開閉体の支持機構は、例えば、車体と開閉体との間に、ダンパやオープンステーなどを介在させて、開閉体の開口速度をゆっくりさせたり、開閉体を開口させた状態で開閉体を保持できるようにするものであった。
【0003】
このような開閉体の支持機構として、ダンパ部材にダイラタント体を利用したものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平9−206244号公報
【0004】
ここで、ダイラタントとは、物理学の運動の一種であり、物体にずり応力(物体の中にかかる力)が発生して、軟質の状態から硬質に変化する現象である。そして、この現象が起こる物体をダイラタント体という。
ダイラタント体は、粒子が小さいため、力を加えて粒子が密着すると粒子の間の隙間が小さくなり、強度が増し硬質になる。しかし、力を加えるのを止めると再び粒子間の隙間が広がり、元の軟質に戻る性質を有する。
【0005】
特許文献1の開閉体の支持機構は、支持部側部材である便座に開閉体側部材である便蓋を回動自在に支持するとともに、便座に便蓋を開閉する開閉体の支持機構において、便座に便蓋を回動自在に支持する軸線廻りに、便蓋の回転速度を和らげるダンパ部材を介在させたものであり、ダンパ部材は、便蓋側に設けられた円筒状のハウジングと、この円筒状のハウジングの長手方向且つ中心に貫通され、便蓋側に取付けられる回転軸と、この回転軸に且つハウジング内に設けられる羽根部材と、ハウジング内に封入されるダイラタント体とを備える。
【0006】
従って、ダンパ部材は、便蓋の回転速度が速いときには、羽根部材によるダイラタント体のせん断速度が速いのでダイラタント体の粘性が増加して、便蓋をダンプする力が多くなる。便蓋の回転速度が遅いときには、羽根部材によるダイラタント体のせん断速度が遅いのでダイラタント体の粘性が減少して便蓋をダンプする力が少なくなる。これにより、特許文献1の開閉体の支持機構は、便蓋の開閉のフィーリングの向上を図ろうとしたものである。
【0007】
しかし、開閉体の支持機構では、例えば、車両のテールゲートや車両のトランクリッドなどの大きく重い開閉体では、大きな慣性モーメントがかかるために、十分なダンピング効果を得ることは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、車両のテールゲートや車両のトランクリッドなどの大きく重い開閉体にも使用可能であり、適切なダンパ作用を付加することができる開閉体の支持機構を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、支持部に開閉体を回動自在に支持する開閉体の支持機構において、支持部に取付けられる支持部側部材と、開閉体に取付けられる開閉体側部材と、これらの支持部側部材及び開閉体側部材を回転自在に連結する軸部材とを有し、変形速度にしたがって硬化するダイラタント緩衝材が軸部材の周囲に設けられるとともに、ダイラタント緩衝材が支持部側部材及び開閉体側部材に固定されることを特徴とする。
ここで、ダイラタント緩衝材とは、ダイラタント現象を利用した緩衝材である。
【0010】
請求項2に係る発明は、ダイラタント緩衝材の周囲にねじりばねが設けられ、一端が支持部側部材に、他端が開閉体側部材に固定されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、ダイラタント緩衝材が、弾性部材と、この弾性部材の一部に形成されたダイラタント部材とを備えていることを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、ダイラタント部材が、回転軸の軸方向に延在して形成されることを特徴とする。
【0013】
請求項5に係る発明は、ダイラタント部材が、外周部に形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、支持部に取付けられる支持部側部材と、開閉体に取付けられる開閉体側部材と、これらの支持部側部材及び開閉体側部材を回転自在に連結する軸部材とを有し、変形速度にしたがって硬化するダイラタント緩衝材が軸部材の周囲に設けられるとともに、ダイラタント緩衝材が支持部側部材及び開閉体側部材に固定されたので、ダイラタント緩衝材の外周部においてねじり変形によって大きい変形速度を得ることができる。これにより、車両のドアなど大きな慣性モーメントが発生する開閉体であっても、ダイラタント緩衝材による十分な衝撃吸収効果を得ることができる。
【0015】
請求項2に係る発明では、ダイラタント緩衝材の周囲にねじりばねが設けられ、一端が支持部側部材に、他端が開閉体側部材に固定されたので、ダイラタント緩衝材及びねじりばねによって、例えば、既存のプッシュロッドと同等の機能を省スペースにて達成することができる。これにより、車両のテールゲート、トランクなどに好適に用いることができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、ダイラタント緩衝材が、弾性部材と、この弾性部材の一部に形成されたダイラタント部材とを備えているので、ダイラタント緩衝材の材料コストを低減することができる。
【0017】
請求項4に係る発明では、ダイラタント部材が、回転軸の軸方向に延在して形成されたので、ダイラタント緩衝材の変形量を多く確保することができる。この結果、変形による硬化作用を極力高めることができる。
【0018】
請求項5に係る発明では、ダイラタント部材が、外周部に形成されたので、ダイラタント緩衝材の外周部のねじれ変形によって、変形量を多く確保することができる。この結果、変形による硬化作用を極力高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係る開閉体の支持機構の斜視図であり、図2は本発明に係る開閉体の支持機構の分解斜視図であり、図3は図1の3−3線断面図である。
【0020】
開閉体の支持機構(開閉体の開閉機構)20は、支持部(枠体)11と、この支持部11に開閉可能(回動可能)に取付けられる開閉体12との間に介在させる機構であり、支持部11に取付けられる支持部側部材21と、開閉体12に取付けられる開閉体側部材22と、これらの支持部側部材21及び開閉体側部材22を回転自在に連結する軸部材23と、支持部側部材21と開閉体側部材22との間に設けられ、支持部側部材21及び開閉体側部材22に固定されるダイラタント緩衝材24と、軸部材23に係止され、支持部側部材21を軸部材23に回動可能に止める止め輪25と、軸部材23に係止され、開閉体側部材22を軸部材23に回動可能に止める止め輪26とからなる。
【0021】
支持部側部材21は、板状のブラケット31と、このブラケット31に溶接したカラー部材32とからなる。ブラケット31は、支持部11に取付ける取付孔33,33を備える。
【0022】
開閉体側部材22は、支持部側部材21に同一形状であり、板状のブラケット34と、このブラケット34に溶接したカラー部材35とからなる。ブラケット34は、開閉体12を取付ける取付孔36,36を備える。
【0023】
軸部材23は、支持部側部材21を回動自在に支持する第1の軸部41と、この第1の軸部41に設けられ、止め輪25を保持する溝43と、開閉体側部材22を回動自在に支持する第2の軸部42と、この第2の軸部42に設けられ、止め輪26を保持する溝44と、第1・第2の軸部41,42を繋ぐとともに第1・第2の軸部41,42の径よりも大きな径に形成された中間軸部45とからなる。
【0024】
ダイラタント緩衝材24は、弾性体で形成された円筒状の弾性部材47と、この弾性部材47の外周に沿って埋め込まれ、ダイラタント部材にて形成された複数の且つ円筒状の挿入部材(ダイラタント部材)48とからなる。ダイラタント部材は、ダイラタント現象を利用した部材であり、変形速度が大きくなると硬化する性質をもつ。
【0025】
ここで、ダイラタントとは、物理学の運動の一種であり、物体にずり応力(物体の中にかかる力)が発生して、軟質の状態から硬質に変化する現象である。そして、この現象が起こる物体をダイラタント体という。
ダイラタント体は、粒子が小さいため、力を加えて粒子が密着すると粒子の間の隙間が小さくなり、強度が増し硬質になる。しかし、力を加えるのを止めると再び粒子間の隙間が広がり、元の軟質に戻る性質を有する。
【0026】
代表的な例として、砂浜を足で踏み付けたり、押さえ付けたりすると砂は硬くなり、海水を含むと更に硬くなる。普通の乾いた砂浜では自動車のタイヤは滑りこんでハンドルの操作ができなくなるのだが、この現象があるところでは砂が硬いため、自動車で通行したり、砂浜に駐車することができる。
すなわち、ダイラタント部材は、上記現象を利用して、変形速度にしたがって硬化する性質を有する素材である。
【0027】
図4(a)〜(d)は図1に示された開閉体の支持機構の作用説明図である。
(a)において、静止状態の開閉体の支持機構20が示され、(b)において、静止状態の開閉体の支持機構20のダイラタント緩衝材24が示される。ダイラタント緩衝材24は、変形前であり、ダイラタント部材にて形成された円筒状の挿入部材48の硬さの変化はない。
【0028】
(c)において、開閉体の支持機構20の開閉体側部材22を矢印a1の如く回転させると、(d)に示される、ダイラタント緩衝材24も矢印a2の如くひねられ、ダイラタント部材にて形成された円筒状の挿入部材48も、矢印a2の如くひねられる。このときに、ダイラタント部材(挿入部材)48は変形速度が大きくなると硬化する性質をもつので、(c)に示される開閉体側部材22の回転が速いほど、ダイラタント部材にて形成された円筒状の挿入部材48は、硬く変化し、開閉体側部材22の回転を抑制する力を発生する。また、開閉体側部材22の回転がゆっくりであれば、開閉体側部材22の回転を抑制する力の発生は少なく、開閉体側部材22を軽く回転することができる。
【0029】
開閉体の支持機構20では、支持部11に取付けられる支持部側部材21と、開閉体12に取付けられる開閉体側部材22と、これらの支持部側部材21及び開閉体側部材22を回転自在に連結する軸部材23とを有し、変形速度にしたがって硬化するダイラタント緩衝材24が軸部材23の周囲に設けられるとともに、ダイラタント緩衝材24が支持部側部材21及び開閉体側部材22に固定されたので、ダイラタント緩衝材24の外周部においてねじり変形によって大きい変形速度を得ることができる。これにより、車両のドアなど大きな慣性モーメントが発生する開閉体12であっても、ダイラタント緩衝材24による十分な衝撃吸収効果を得ることができる。
【0030】
開閉体の支持機構20では、ダイラタント緩衝材24が、弾性部材47と、この弾性部材47の一部に形成されたダイラタント部材(挿入部材)48とを備えているので、ダイラタント緩衝材24の材料コストを低減することができる。
【0031】
開閉体の支持機構20では、ダイラタント部材(挿入部材)48が、回転軸の軸方向に延在して形成されたので、ダイラタント緩衝材24の変形量を多く確保することができる。この結果、変形による硬化作用を極力高めることができる。
【0032】
図5は本発明に係る別実施例の開閉体の支持機構の斜視図である。
開閉体の支持機構(開閉体の開閉機構)70は、開閉体の支持機構20(図3参照)にねじりばね78を付設したものであり、支持部側部材71と、開閉体側部材72と、軸部材73と、ダイラタント緩衝材74と、止め輪75と、止め輪76と、一端が支持部側部材71に固定され、他端が開閉体側部材72に固定されるとともに、ダイラタント緩衝材74の廻りに配置したねじりばね78とからなる。
【0033】
支持部側部材71は、ブラケット81と、カラー部材82とからなる。ブラケット81は、支持部11(図1参照)に取付ける取付孔83,83を備える。開閉体側部材72は、支持部側部材71に同一形状であり、ブラケット84と、カラー部材85とからなる。ブラケット84は、開閉体12を取付ける取付孔86,86を備える。
【0034】
軸部材73は、第1の軸部91と、溝93と、第2の軸部92と、溝94と、中間軸部95とからなる。
ダイラタント緩衝材74は、弾性部材97と、ダイラタント部材にて形成された複数且つ円筒状の挿入部材98とからなる。
【0035】
開閉体の支持機構70では、ダイラタント緩衝材74の周囲にねじりばね78が設けられ、一端が支持部側部材71に、他端が開閉体側部材72に固定されたので、ダイラタント緩衝材74及びねじりばね78によって、例えば、既存のプッシュロッドと同等の機能を省スペースにて達成することができる。これにより、車両のテールゲート、トランクなどに好適に用いることができる。
【0036】
図6(a),(b)は図1に示された開閉体の支持機構の別実施例のダイラタント緩衝材の斜視図である。
図6(a)に示されたように、ダイラタント緩衝材51は、円筒状の弾性部材53と、この弾性部材53の外周に設けられ、ダイラタント部材にて形成された円筒状の外郭部材54とからなる。ダイラタント部材(外郭部材)54を外郭に配置することで、ダイラタント緩衝材の変形量を最も大きく確保することができるとともに、変形速度も大きく作用させることができる。
【0037】
すなわち、ダイラタント緩衝材51では、ダイラタント部材54が、外周部に形成されたので、ダイラタント部材54の外周部のねじれ変形によって、変形量を多く確保することができる。この結果、変形による硬化作用を極力高めることができる。
【0038】
図6(b)に示されたように、ダイラタント緩衝材52は、弾性体で形成されたワッシャ状の上端部56と、弾性体で形成されたワッシャ状の下端部57と、これらの上端部56と下端部57との間に挟まれ、ダイラタント部材にて形成された円筒状の中間部58とが貼り合わされたものである。
【0039】
尚、本発明に係る開閉体の支持機構は、図2に示すように、支持部側部材21及び開閉体側部材22はブラケット31,34とカラー部材32,35とで構成されたが、これに限るものではなく、ブラケットのみにて構成するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る開閉体の支持機構は、セダンやワゴンなどの乗用車に採用するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る開閉体の支持機構の斜視図である。
【図2】本発明に係る開閉体の支持機構の分解斜視図である。
【図3】図1の3−3線断面図である。
【図4】図1に示された開閉体の支持機構の作用説明図である。
【図5】本発明に係る別実施例の開閉体の支持機構の斜視図である。
【図6】図1に示された開閉体の支持機構の別実施例のダイラタント緩衝材の斜視図である。
【符号の説明】
【0042】
11…支持部、12…開閉体、20,70…開閉体の支持機構、21,71…支持部側部材、22,72…開閉体側部材、23,73…軸部材、24,74…ダイラタント緩衝材、47,97…弾性部材、48,98…挿入部材(ダイラタント部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部に開閉体を回動自在に支持する開閉体の開閉機構において、
前記支持部に取付けられる支持部側部材と、前記開閉体に取付けられる開閉体側部材と、これらの支持部側部材及び開閉体側部材を回転自在に連結する軸部材とを有し、
変形速度にしたがって硬化するダイラタント緩衝材が前記軸部材の周囲に設けられるとともに、前記ダイラタント緩衝材が前記支持部側部材及び前記開閉体側部材に固定されることを特徴とする開閉体の開閉機構。
【請求項2】
前記ダイラタント緩衝材の周囲にねじりばねが設けられ、一端が支持部側部材に、他端が開閉体側部材に固定されていることを特徴とする請求項1記載の開閉体の開閉機構。
【請求項3】
前記ダイラタント緩衝材は、弾性部材と、この弾性部材の一部に形成されたダイラタント部材とを備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の開閉体の開閉機構。
【請求項4】
前記ダイラタント部材は、前記回転軸の軸方向に延在して形成されることを特徴とする請求項3記載の開閉体の開閉機構。
【請求項5】
前記ダイラタント部材は、外周部に形成されることを特徴とする請求項3又は請求項4記載の開閉体の開閉機構。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−263896(P2009−263896A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111645(P2008−111645)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】