説明

防振装置

【課題】ダイヤフラムの製造工程の簡略化を図ると共に生産性を向上させ、部品数を低減させることを目的とする。
【解決手段】振動発生部又は振動受部の一方に連結される筒部材3と、振動発生部又は振動受部の他方に連結される取付部材2と、筒部材3と取付部材2を弾性的に連結すると共に筒部材3の一方の開口端を閉塞するゴム弾性体4と、筒部材3の他方の開口端を閉塞するダイヤフラム5と、筒部材3の内側に形成されて液体が封入された液室6を、隔壁の一部がゴム弾性体4で形成されてゴム弾性体4の変形により内容積が変化する主液室6Aと隔壁の一部がダイヤフラム5で形成された副液室6Bとに区画すると共に主液室6Aと副液室6Bを連通するオリフィス通路80を有する仕切り部材7と、を備える防振装置において、ダイヤフラム5は硬質熱可塑性樹脂からなるダイヤフラムリング50と熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムゴム51とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車のエンジン等の振動発生部を車体等の振動受部にマウントする際に用いられる防振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の防振装置としては、従来、振動発生部および振動受部のうちの何れか一方に連結される筒部材と、振動発生部および振動受部のうちの何れか他方に連結される取付部材と、筒部材と取付部材とを弾性的に連結するとともに筒部材の一方の開口端を閉塞するゴム弾性体と、筒部材の他方の開口端を閉塞するダイヤフラムと、ゴム弾性部を隔壁の一部として前記筒部材の内側に形成され、液体が封入されているとともにゴム弾性部の変形により内容積が変化する主液室と、ダイヤフラムを隔壁の一部として筒部材の内側に形成され、液体が封入された副液室と、主液室と副液室との間に介在された仕切り部材と、を備える構成が知られている。上記した仕切り部材には、主液室と副液室とを連通するオリフィス通路が形成されている。また、上記したダイヤフラムは、筒部材の内側に嵌め込まれたダイヤフラムリングと、ダイヤフラムリングの内側に形成されるダイヤフラムゴムと、を備えている。ダイヤフラムリングは、プレス加工された金属製部品であり、筒部材にカシメ固定されている。また、ダイヤフラムゴムは、副液室の内圧の変化により変形可能なゴム製部品であり、ダイヤフラムリングに加硫接着されている。
【0003】
一方、住宅の床等に配設され、床等に発生する振動や衝撃音を低減する防振装置として、従来、下記特許文献1に示されているような、熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムリングの内側に熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムゴムが形成されたダイヤフラムを備える構成が知られている。
【特許文献1】特開2002−372091号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金属製のダイヤフラムリングを有する上記した従来の技術では、ダイヤフラムゴムを加硫成形するため、ダイヤフラムゴムの成形時間が長く、生産性(量産性)が低いという問題がある。
【0005】
また、ダイヤフラムゴム及びダイヤフラムリングがそれぞれ熱可塑性エラストマーで形成された上記した従来の技術では、熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムリングが弾性変形するため、ダイヤフラムを筒部材に組み付けるには、止め金具等を別途用意する必要がある。このため、部品数が多くなり、コストが嵩むという問題がある。
【0006】
本発明は、上記した従来の問題が考慮されたものであり、生産性を向上させることができ、且つ、部品数を低減させることができる防振装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る防振装置は、振動発生部および振動受部のうちの何れか一方に連結される筒部材と、前記振動発生部および前記振動受部のうちの何れか他方に連結される取付部材と、前記筒部材と前記取付部材とを弾性的に連結するとともに前記筒部材の一方の開口端を閉塞するゴム弾性体と、前記筒部材の他方の開口端を閉塞するダイヤフラムと、前記筒部材の内側に形成されて液体が封入された液室を、隔壁の一部が前記ゴム弾性体で形成されて前記ゴム弾性体の変形により内容積が変化する主液室と、隔壁の一部が前記ダイヤフラムで形成された副液室と、に区画するとともに、前記主液室と前記副液室とを連通するオリフィス通路を有する仕切り部材と、を備える防振装置において、前記ダイヤフラムは、前記筒部材の内側に嵌め込まれたダイヤフラムリングと、該ダイヤフラムリングの内側に形成され、前記副液室の内圧変化により変形可能なダイヤフラムゴムと、を備えており、前記ダイヤフラムリングが硬質熱可塑性樹脂にて形成されているとともに、前記ダイヤフラムゴムが熱可塑性エラストマーにて形成されていることを特徴としている。
【0008】
このような特徴により、熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムゴムは、ゴム材料を加硫成形する場合に比べて短時間で成形可能である。また、振動発生部の振動によって主液室の内圧が変化すると、この内圧変化に伴って、オリフィス通路を通って主液室と副液室との間で液体が相互に流通し、前記振動が減衰される。このとき、熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムゴムが十分な柔軟性(軟らかさ)を有するため、オリフィス通路を通って主液室から副液室に液体が移行したとき、ダイヤフラムゴムが変形して副液室の内容積が拡大される。したがって、大きな振動が入力された場合でも、副液室の内圧上昇が抑えられ、上記したオリフィス通路を通って液体が流通し、振動減衰効果が発揮される。また、硬質熱可塑性樹脂からなるダイヤフラムリングは、十分な硬さを有するため、ダイヤフラムを筒部材に組み付ける時にダイヤフラムリングが弾性変形することがない。
【0009】
また、本発明に係る防振装置は、前記ダイヤフラムリングを形成する硬質熱可塑性樹脂のベースポリマーと前記ダイヤフラムゴムを形成する熱可塑性エラストマーのベースポリマーとが、二色成形によって溶融状態で互いに結合する親和性を有し、前記ダイヤフラムリングと前記ダイヤフラムゴムとが二色成形されていることが好ましい。
【0010】
これにより、硬質熱可塑性樹脂からなるダイヤフラムリングと熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムゴムとを二色成形することにより、ダイヤフラムリングとダイヤフラムゴムとが直接接合される。このとき、ダイヤフラムリングとダイヤフラムゴムとの境界面が相溶融状態となり、接着剤等を介在させなくても、ダイヤフラムリングとダイヤフラムゴムとの境界面における接着性が確保される。
【0011】
また、本発明に係る防振装置は、前記ダイヤフラムゴムを形成する熱可塑性エラストマーのエラストマー成分として、エチレン−プロピレン−ジエンゴムが用いられることが好ましい。
【0012】
これにより、ダイヤフラムゴムの耐候性及び耐熱性が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る防振装置によれば、熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムゴムは、ゴム材料を加硫成形する場合に比べて短時間で成形可能であるので、防振装置の生産性を向上させることができる。さらに、硬質熱可塑性樹脂からなるダイヤフラムリングは、ダイヤフラムを筒部材に組み付ける時に変形することがないので、止め金具等を用いることなく、ダイヤフラムリングを筒部材にカシメ固定することができ、部品数を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る防振装置の実施の形態について、図面に基いて説明する。
【0015】
以下、本発明に係る防振装置の実施の形態について、図面に基いて説明する。
図1は本実施の形態における防振装置1の断面図である。
また、本実施の形態では、図1における下側がバウンド側、つまり防振装置1を設置した際に静荷重(初期荷重)が入力される方向であり、図1における上側がリバウンド側、つまり前記静荷重の入力方向の反対側である。
【0016】
防振装置1は、振動発生部の一例であるエンジンを振動受部の一例である車体にマウントさせる際に用いられるものであり、振動発生部の振動を減衰させるための装置である。図1に示すように、防振装置1は、互いに同軸L上に配置される内筒2(本発明における取付部材に相当する。)及び外筒3(本発明における筒部材に相当する。)と、これら内筒2及び外筒3に加硫接着により一体的に成形されるゴム弾性体4とを備える基本構成である。なお、図1において符号10はゴム弾性体4に一体的に加硫接着されるインターリングを示す。
【0017】
内筒2は、図示せぬエンジンに連結される部材である。詳しく説明すると、内筒2は、リバウンド側に向けて突出した頭部20と、頭部20の下端からバウンド側に垂下された胴部21と、内筒2の中間部の外周面から径方向外側に向けて突出したフランジ部22と、を備えている。内筒2には、頭部20の上端からバウンド側に延在して有底の雌ねじ部2aが形成されている。頭部20には、前記雌ねじ部2aに螺合される図示せぬボルトによって、図示せぬエンジンに取り付けられた図示せぬエンジン側ブラケットが取り付けられる。胴部21は、バウンド側に向かうに従い漸次縮径されており、先端が球状に丸められている。また、胴部21は、ゴム弾性体4内に埋設されている。フランジ部22は、内筒2の外周面の全周に亘って形成されており、このフランジ部22には、ゴム弾性体4と一体に成形された被覆ゴム23が被覆されている。この被覆ゴム23は、フランジ部22を囲むように、フランジ部22の下側から外側を経由して上側まで回り込むように形成される。
【0018】
外筒3は、図示せぬ車体に連結される部材である。詳しく説明すると、外筒3は、バウンド側の小径部30と、リバウンド側の大径部31と、小径部30と大径部31との間に介在されてバウンド側に向かうに従い漸次縮径されたテーパー部32と、を備えている。小径部30の内周面には、ゴム弾性体4と一体に成形される内周ゴム33が全周に亘って被覆されている。この外筒3は、図示せぬ車体に取り付けられる図示せぬ車体側ブラケットの円筒部の内側に嵌合されて取り付けられる。
【0019】
ゴム弾性体4は、内筒2と外筒3とを弾性的に連結するとともに外筒3のリバウンド側(一方)の開放端を閉塞する部材である。詳しく説明すると、ゴム弾性体4は、外筒3の大径部31を閉塞するドーム状のゴム弾性体であり、大径部31の内周面と、内筒2の胴部21の外周面との間に介在されている。
【0020】
また、防振装置1には、外筒3のバウンド側の開放端(他方)を閉塞するダイヤフラム5が備えられており、このダイヤフラム5と上記したゴム弾性体4との間には、例えばエチレングリコールや水、シリコーンオイル等の液体が封入された液室6が形成されている。
詳しく説明すると、ダイヤフラム5は、外筒3の小径部30の内側に内周ゴム33を介して嵌合されたダイヤフラムリング50と、ダイヤフラムリング50の内側に形成されたダイヤフラムゴム51と、を備えている。
【0021】
ダイヤフラムリング50は、硬質熱可塑性樹脂にて形成されている。また、ダイヤフラムリング50は、外筒3の下端部の内側に嵌め込まれ、外筒3の下端部を径方向内側に屈曲させることによりカシメ固定されている。また、上記した硬質熱可塑性樹脂のベースポリマーとしては、例えば、ポリプロピレン(以下、PPと記す。)やポリアミド(以下、PAと記す。)等を用いることができる。
【0022】
ダイヤフラムゴム51は、後述する副液室6B内の液圧(内圧)の変化に応じて変形可能な部材であり、ダイヤフラムリング50の内周面を被覆する円筒形状の外周部51aと、その外周部51aの内側に張設された膜部51bと、から構成されている。膜部51bは、リバウンド側に膨出した丸皿状に形成されている。また、ダイヤフラムゴム51は熱可塑性エラストマーにて形成されており、このダイヤフラムゴム51と上記したダイヤフラムリング50とは二色成形により形成されている。具体的に説明すると、ダイヤフラムゴム51の外周部51aの外周面とダイヤフラムリング50の内周面とが直接接合されるように、ダイヤフラムリング50の内側にダイヤフラムゴム51が成形されている。
【0023】
ダイヤフラムゴム51を形成する熱可塑性エラストマーとしては、ダイヤフラムリング50を形成する硬質熱可塑性樹脂のベースポリマーに対して親和性を有するポリマーをベースポリマーとする熱可塑性エラストマーを用いる。上記した「親和性」とは、ダイヤフラムゴム51とダイヤフラムリング50との二色成形によって双方のベースポリマー同士が溶融状態で互いに結合する性質をいう。具体的には、ダイヤフラムリング50の硬質熱可塑性樹脂のベースポリマーとダイヤフラムゴム51の熱可塑性エラストマーのベースポリマーとが共通していることが好ましく、例えば、ダイヤフラムリング50をPPで形成する場合には、ダイヤフラムゴム51がポリプロピレン系熱可塑性エラストマーで形成することが好ましい。なお、ダイヤフラムリング50の硬質熱可塑性樹脂のベースポリマーとダイヤフラムゴム51の熱可塑性エラストマーのベースポリマーとが異なるポリマーであってもよく、上記した「親和性」を有する異なるポリマーを用いることも可能である。また、上記した熱可塑性エラストマーのエラストマー成分としては、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)を用いることが好ましい。すなわち、例えば、ダイヤフラムリング50をPPで形成する場合には、ダイヤフラムゴム51は、PPとEPDMとからなる熱可塑性エラストマーで形成することが好ましい。
【0024】
液室6は、ゴム弾性体4の下面と外筒3の内周面(内周ゴム33)とダイヤフラム5の上面とで囲まれた室である。この液室6は、その内部に配設された仕切り部材7によって、リバウンド側の主液室6Aとバウンド側の副液室6Bとに区画されている。主液室6Aは、隔壁の一部(上壁)がゴム弾性体4で形成された室であり、主液室6Aの内容積は、ゴム弾性体4の変形により変化する。副液室6Bは、隔壁の一部(下壁)がダイヤフラム5(ダイヤフラムゴム51)で形成された室であり、副液室6Bの内容積は、副液室6B内の液圧(内圧)の変化によってダイヤフラム5(ダイヤフラムゴム51)が変形することで変化する。
【0025】
上記した仕切り部材7は、外筒3の内側に配設され、上記した主液室6Aと副液室6Bとの間に介在されている。この仕切り部材7は、上記主液室6Aと副液室6Bとを連通するオリフィス通路80が形成されたオリフィス部材8と、主液室6Aの隔壁の一部(下壁中央部)となるように張設されているとともに主液室6Aの内圧の変化に応じて変形可能なメンブラン9と、を備えている。
【0026】
オリフィス部材8は、外筒3(小径部30)の内側に内周ゴム33を介して嵌合される環状の部材である。詳しく説明すると、オリフィス部材8は、外筒3の小径部30と同軸上に配設された円筒部81と、円筒部81のリバウンド側端部の外周面から径方向外側に突出したフランジ状の上壁部82と、円筒部81のバウンド側端部の外周面から径方向外側に突出したフランジ状の下壁部83と、円筒部81の中間部の内周面から径方向内側に突出したフランジ状の凸部84と、を備えている。オリフィス通路80は、上壁部82と下壁部83との間に形成されている。また、上壁部82には、オリフィス通路80の主液室6A側の流出入口82aが形成されている。また、下壁部83には、オリフィス通路80の副液室6B側の流出入口(図示せず。)が形成されている。凸部84は、円筒部81の内周面の全周に亘って形成されたリング状の凸部であり、その内縁部(先端部)は断面視半円形に形成されている。
【0027】
メンブラン9は、円環状のオリフィス部材8の内側を閉塞する円盤状の部材である。詳しく説明すると、メンブラン9は、外筒3の中心軸線Lに対して垂直に配置されている。また、メンブラン9の外周面には、オリフィス部材8の凸部84が嵌合する凹部90が全周に亘って形成されており、メンブラン9とオリフィス部材8とは、上記した凸部84及び凹部90を介して連結されている。
【0028】
次に、上記した構成からなる防振装置1の作用について説明する。
【0029】
上記防振装置1を製造する際、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51とを二色成形してダイヤフラム5を作製する。二色成形の方法としては、公知の二色成形法を用いることができる。例えば、リング金型の中に硬質熱可塑性樹脂を流し込んでダイヤフラムリング50を成形する。その後、ダイヤフラムリング50の硬化後にリング金型を取り外す。次に、成形後のダイヤフラムリング50をダイヤフラム金型の中の所定位置に配置する。そして、このダイヤフラム金型の中に熱可塑性エラストマーを流し込んでダイヤフラムゴム51を成形する。このとき、熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムゴム51は、ゴム材料を加硫成形する場合に比べて短時間で成形可能である。上記した二色成形法により、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51とが直接接合される。なお、先にダイヤフラムゴム51を成形し、その後、ダイヤフラムリング50を成形することも可能である。すなわち、まず、ダイヤフラム金型の中に熱可塑性エラストマーを流し込んでダイヤフラムゴム51を成形し、ダイヤフラムゴム51の硬化後にダイヤフラム金型を取り外す。次に、成形後のダイヤフラムゴム51をリング金型の中の所定位置に配置して、このリング金型の中に硬質熱可塑性樹脂を流し込んでダイヤフラムリング50を成形する。これにより、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51とが直接接合される。
【0030】
このとき、ダイヤフラムリング50を形成する硬質熱可塑性樹脂のベースポリマーとダイヤフラムゴム51を形成する熱可塑性エラストマーのベースポリマーとが、互いに親和性を有するポリマーになっている場合、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51とが二色成形されることにより、双方のベースポリマー同士が互いに溶融状態で結合し、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51との境界面における接着性が向上する。
【0031】
一方、ゴム弾性体4、被覆ゴム23及び内周ゴム33を一体で加硫成形して内筒2や外筒3、インターリング10にそれぞれ加硫接着させる。そして、この外筒3の内側に上記した仕切り部材7を嵌合させた後、外筒3の下端部の内側にダイヤフラム5を嵌合させ、外筒3の下端部を塑性変形させてカシメ固定する。このとき、ダイヤフラムゴム51は、硬質熱可塑性樹脂で形成されており、十分な硬さを有するため、弾性変形することがなく、外筒3の下端部にカシメ固定することが可能である。次に、外筒3の内側に形成された液室6内を真空にし、その真空状態の液室6内に図示せぬ注入口から液体を注入し、液体注入後に前記注入口を閉塞する。
以上により、防振装置1の製造が完了する。
【0032】
上述した防振装置1は、内筒2が図示せぬエンジン側ブラケットを介して図示せぬエンジンに連結されるとともに、外筒3が図示せぬ車体側ブラケットを介して図示せぬ車体に連結されることにより、エンジンと車体との間に介装される。
【0033】
そして、上記したエンジンのアイドル振動が発生すると、その振動は、エンジン側ブラケットを介して防振装置1の内筒2に伝達される。この場合、防振装置1では、オリフィス通路80を通って主液室6Aから副液室6Bに液体が流通せず、主液室6Aの内圧が上昇する。このとき、主液室6Aの内圧の上昇に応じて、つまり、主液室6Aと副液室6Bとの内圧差に応じてメンブラン9が変形する。これにより、主液室6Aの圧力上昇が緩和され、主液室6Aの圧力上昇に伴う動的ばね定数の増加が抑制され、車体に伝達される振動が低減される。
【0034】
また、上記したエンジンから入力した振動がシェイク振動のように周波数が比較的に低い場合には、オリフィス通路80を通って主液室6Aと副液室6Bとの間で液体が流通する。このとき、液体に液柱共振が発生し、圧力変動や粘性抵抗等によって振動エネルギーが減衰され、その結果、エンジンから入力される振動が減衰される。このとき、熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムゴム51が十分な柔軟性(軟らかさ)を有するため、主液室6Aと副液室6Bとの間における液体の流通に伴い、ダイヤフラムゴム51が弾性変形し、副液室6Bの内容積が拡縮する。すなわち、例えば、オリフィス通路80を通って主液室6Aから副液室6Bに液体が移行したとき、ダイヤフラムゴム51が下方へ変形して副液室6Bの内容積が拡大される。これにより、大きな振動が入力された場合でも、副液室6Bの内圧上昇が抑えられ、オリフィス通路80を通って液体が流通し、振動減衰効果が発揮される。
【0035】
上記した構成からなる防振装置1によれば、熱可塑性エラストマーからなるダイヤフラムゴム51は、ゴム材料を加硫成形する場合に比べて短時間で成形可能であるので、防振装置1の生産性を向上させることができる。
また、硬質熱可塑性樹脂からなるダイヤフラムリング50は、十分な硬さを有しており、ダイヤフラム5を外筒3に組み付ける時に変形することがないので、ダイヤフラムリング50を外筒3にカシメ固定することができ、止め金具等を用いることなくダイヤフラム5を外筒3に組み付けることができ、部品数を低減させることができる。
【0036】
また、従来の防振装置では、ダイヤフラムを製作する際、プレス加工により製作されたダイヤフラムリングに接着剤を塗布し、その後、このダイヤフラムリングにダイヤフラムゴムを加硫接着させるため、ダイヤフラムの製造工程が煩雑であるという問題があったが、上記した構成からなる防振装置1によれば、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51とを二色成形することによりダイヤフラム5が製作されるので、ダイヤフラムリング50に接着剤を塗布してダイヤフラムリング50にダイヤフラムゴム51を組み付ける手間が省け、ダイヤフラム5の製造工程を簡略化することができる。
また、ダイヤフラムリング50を形成する硬質熱可塑性樹脂のベースポリマーとダイヤフラムゴム51を形成する熱可塑性エラストマーのベースポリマーとを、互いに親和性を有するポリマーにすることにより、双方のベースポリマー同士が互いに溶融状態で結合してダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51との接着性が向上するため、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51とを確実に連結することができ、ダイヤフラムゴム51がダイヤフラムリング50から外れることを防止することができる。
【0037】
また、ダイヤフラムゴム51を形成する熱可塑性エラストマーのエラストマー成分としてEPDMを用いることにより、ダイヤフラムゴム51の耐候性及び耐熱性が向上するため、ダイヤフラムゴム51の劣化を抑えることができる。
【0038】
以上、本発明に係る防振装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記した実施の形態では、内筒2に、振動発生源である図示せぬエンジンがエンジン側ブラケットを介して連結され、外筒3に、振動受部である図示せぬ車体が車体側ブラケットを介して連結されているが、本発明は、内筒2(取付部材)に振動受部が連結され、外筒3(筒部材)に振動発生源が連結されていてもよい。
【0039】
また、上記した実施の形態では、主液室6Aが鉛直方向上側に位置し、且つ副液室6Bが鉛直方向下側に位置するように取り付けられて設置される圧縮式の防振装置1について説明しているが、本発明は、主液室6Aが鉛直方向下側に位置し、且つ副液室6Bが鉛直方向上側に位置するように取り付けられて設置される吊り下げ式の防振装置に適用することも可能である。
【0040】
また、上記した実施の形態では、車両のエンジンマウントとして適用される防振装置1について説明しているが、本発明に係る防振装置はエンジンマウント以外に適用することも可能である。例えば、本発明に係る防振装置を、建設機械に搭載された発電機のマウントとして適用することも可能であり、或いは、工場等に設置される機械のマウントとして適用することも可能である。
【0041】
また、上記した実施の形態では、外筒3と同軸上に内筒2が配設され、この内筒2の雌ねじ部2aに図示せぬボルトを螺着させて内筒2に図示せぬエンジン側ブラケットを取り付ける構成になっているが、本発明は、内筒2の内側にエンジン側ブラケットの圧入部が圧入される構成であってもよい。また、内筒2が外筒3と直交する方向に延設され、内筒2の内側に図示せぬエンジン側ブラケットのボルトが挿入されてナット等で機械的に固定される構成であってもよい。さらに、本発明は、筒形状の取付部材に限定されず、例えば、取付部材が、ボルトが突設された構成からなり、前記ボルトによってエンジン側ブラケット等に取り付ける構成であってよい。
【0042】
また、上記した実施の形態では、外筒3の下端部にダイヤフラムリング50がカシメ固定されているが、本発明は、ダイヤフラムリング50が外筒3にカシメ固定された構成に限定されず、例えば、ダイヤフラムリング50が外筒3に止め具等によって固定されていてもよい。
【0043】
また、上記した実施の形態では、ダイヤフラムゴム51が、円筒形状の外周部51aの内側にリバウンド側に膨出した丸皿状の膜部51bが張設された構成になっているが、本発明におけるダイヤフラムゴム51は上記した構成に限定されず、例えば、ダイヤフラムリング50の内側に膜部51bが張設され、円筒形状の外周部51aが省略された構成にすることも可能であり、また、ダイヤフラムゴム51の膜部が丸皿状になってなく弛緩した状態で張設された構成にすることも可能である。
【0044】
また、上記した実施の形態では、内筒2や外筒3、ゴム弾性体4等からなる本体ゴムとダイヤフラム5と仕切り部材7とを組み立てた後、液室6内を真空にして液体を注入する真空注入法を採用しているが、本発明は、液室6内に充填する液体の中で、上記した本体ゴムとダイヤフラム5と仕切り部材7とを組み立てることで、液室6内に液体を充填する液中組み立て法を採用することも可能である。
【0045】
また、上記した実施の形態では、ダイヤフラムリング50を形成する硬質熱可塑性樹脂のベースポリマーとダイヤフラムゴム51を形成する熱可塑性エラストマーのベースポリマーとが親和性を有し、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51とが二色成形されているが、ダイヤフラムリング50の硬質熱可塑性樹脂のベースポリマーとダイヤフラムゴム51の熱可塑性エラストマーのベースポリマーとに「親和性」を有しない異なるポリマーを用いることも可能である。例えば、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51とをインサート成形等で成形する際、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51との間に接着剤を介在させることにより、ダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51とを接合させることができる。また、超音波溶着や熱溶着、レーザ溶着等によりダイヤフラムリング50とダイヤフラムゴム51とを溶着することも可能である。
【0046】
その他、本発明の主旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した変形例を適宜組み合わせてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態を説明するための防振装置の断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1 防振装置
2 内筒(取付部材)
3 外筒(筒部材)
4 ゴム弾性体
5 ダイヤフラム
6 液室
6A 主液室
6B 副液室
7 仕切り部材
50 ダイヤフラムリング
51 ダイヤフラムゴム
80 オリフィス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動発生部および振動受部のうちの何れか一方に連結される筒部材と、
前記振動発生部および前記振動受部のうちの何れか他方に連結される取付部材と、
前記筒部材と前記取付部材とを弾性的に連結するとともに前記筒部材の一方の開口端を閉塞するゴム弾性体と、
前記筒部材の他方の開口端を閉塞するダイヤフラムと、
前記筒部材の内側に形成されて液体が封入された液室を、隔壁の一部が前記ゴム弾性体で形成されて前記ゴム弾性体の変形により内容積が変化する主液室と、隔壁の一部が前記ダイヤフラムで形成された副液室と、に区画するとともに、前記主液室と前記副液室とを連通するオリフィス通路を有する仕切り部材と、
を備える防振装置において、
前記ダイヤフラムは、前記筒部材の内側に嵌め込まれたダイヤフラムリングと、該ダイヤフラムリングの内側に形成され、前記副液室の内圧変化により変形可能なダイヤフラムゴムと、を備えており、
前記ダイヤフラムリングが硬質熱可塑性樹脂にて形成されているとともに、前記ダイヤフラムゴムが熱可塑性エラストマーにて形成されていることを特徴とする防振装置。
【請求項2】
請求項1記載の防振装置において、
前記ダイヤフラムリングを形成する硬質熱可塑性樹脂のベースポリマーと前記ダイヤフラムゴムを形成する熱可塑性エラストマーのベースポリマーとが、二色成形によって溶融状態で互いに結合する親和性を有し、
前記ダイヤフラムリングと前記ダイヤフラムゴムとが二色成形されていることを特徴とする防振装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の防振装置において、
前記ダイヤフラムゴムを形成する熱可塑性エラストマーのエラストマー成分として、エチレン−プロピレン−ジエンゴムが用いられることを特徴とする防振装置。

【図1】
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【公開番号】特開2009−216131(P2009−216131A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−58261(P2008−58261)
【出願日】平成20年3月7日(2008.3.7)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】