説明

除去装置及び太陽電池製造方法

【課題】太陽電池の積層膜の透明基板の縁付近の膜を除去する技術を提供する。
【解決手段】
透明基板21表面上に第一の透明導電層22と、発電層23と、第二の透明導電層24とが積層され、第二の透明導電層24上に第一の銀薄膜25を形成する際に、透明基板21の裏面に銀が回り込んで形成された第二の銀薄膜26に、緑色のレーザ光を照射し、蒸発させて除去する。赤外レーザ光を照射すると銀が透明基板21中に拡散して透明基板21が着色されてしまっていたが、緑色レーザ光ではそのような現象は発生しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜対象物の裏面に形成された薄い銀薄膜を除去する除去装置及び太陽電池製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽電池の構造としては、ガラスから成る透明基板上に、第一の透明導電層を有する第一電極と、発電層と、第二の透明導電層と銀薄膜とTi薄膜を有する第二電極とがこの順に積層された構造が知られている。銀薄膜は電極層として機能すると共に、反射率が高いので光の反射により発電効率を高める反射層の役割も有する。
【0003】
太陽電池の周囲に金属のフレーム等を取り付けるには、予め金属のフレーム等と発電領域との間を絶縁分離する必要がある。もしくは、フレームレスの場合でも太陽電池の周辺部は絶縁分離することが求められる。そのために第一電極と発電層と第二電極とから成る積層膜の透明基板の縁付近の膜を除去する必要がある。
特許文献1ではブラスト処理により積層膜の周辺部を除去する技術が開示されているが、ブラスト処理では多くの粒子が発生し、装置の内部を汚染するため、定期的に装置を洗浄したり、装置交換をする必要があり、コストがかかるという問題があった。
【0004】
特許文献2ではレーザ光照射により積層膜の周辺部を除去する(エッジディレーション)技術が開示されているが、銀薄膜の形成時に透明基板の裏面に回り込んで付着した銀に、赤外レーザ光が照射されると、溶解した銀が透明基板の内部に侵入及び裏面で固着して透明基板が着色されるという問題があった。
銀薄膜の裏面への回り込みは基板トレイを使用すれば発生しないが、基板トレイを使用することは、トレイへの汚れの付着やトレイの洗浄、トレイへの基板の脱着工程の増加が生じるため好ましくない。
【0005】
また、積層膜の周辺部を除去した後、第二電極の表面と、透明基板の縁付近で露出する積層膜の縁部分をEVAから成る封止膜で覆って太陽電池を得ている。銀による透明基板の着色は発電領域外のため性能の劣化は生じないが、着色された透明基板の外観は、劣化した封止膜の外観と似ているため、封止膜の品質が劣化したものと誤解されるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−349325号公報
【特許文献2】国際公開第2009/139389号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、太陽電池の積層膜の透明基板の縁付近の膜を除去する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、第一の銀薄膜の成膜面と異なる裏面に回り込んだ第二の銀薄膜が形成された成膜対象物の前記第二の銀薄膜を除去する除去装置であって、緑色のレーザ光を照射する緑色レーザ光照射装置と赤外のレーザ光を照射する赤外レーザ光照射装置とが配置され、前記成膜対象物の裏面に前記緑色レーザ光を照射し、前記緑色レーザ光が照射された位置に前記赤外レーザ光を照射するように構成された除去装置である。
本発明は除去装置であって、緑色レーザ光を照射しながら、順次前記緑色レーザ光が照射された位置に前記赤外レーザ光を照射するように構成された制御装置を有する除去装置である。
本発明は、透明基板の表面上に、第一の透明導電層と、発電層と、第二の透明導電層と、銀から成る電極層とをこの順序で形成し、太陽電池を形成する太陽電池製造方法であって、前記第二の透明導電層が形成された前記透明基板を、真空槽内に配置し、前記透明基板の裏面を露出させた状態で前記真空槽内の銀ターゲットをスパッタし、前記第二の透明導電層上に前記電極層を形成し、前記透明基板の裏面の縁付近に緑色レーザ光を照射して、前記電極層を形成する際に前記透明基板の裏面に回り込み、前記透明基板の裏面の縁付近に付着した銀を蒸発除去(アブレーション)させ、前記透明基板の裏面の縁付近又は表面の縁付近に赤外レーザ光を照射して、前記透明基板の表面の縁付近が、前記第一の透明導電層と、前記発電層と、前記第二の透明導電層と、前記電極層とが除去された状態にする太陽電池製造方法である。
本発明は太陽電池製造方法であって、前記第一の透明導電層には、酸化スズ薄膜または酸化亜鉛薄膜を用い、前記第二の透明導電層にはガリウムが添加された酸化亜鉛薄膜を用いる太陽電池製造方法である。
本発明は太陽電池製造方法であって、前記透明基板はガラス基板である太陽電池製造方法である。
本発明は太陽電池製造方法であって、前記緑色レーザ光は、波長532nm、エネルギー密度は1.5W/cm2以上5W/cm2以下の照射条件で照射される太陽電池製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
緑色レーザ光を第二の銀薄膜に照射して除去(アブレーション)させているので、透明基板の縁付近がエッジディレーション後に着色することがない。
成膜時の成膜対象物の搬送にトレイを使用しないので、トレイのコストが不要である。また繰り返し使用するトレイによる汚染を防止できる。
電極層である銀薄膜は反射率が高いので、発電効率の高い太陽電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の太陽電池製造方法で用いる真空成膜装置の内部構成図
【図2】本発明の除去装置の内部構成図
【図3】本発明に用いる真空成膜装置に搬入する成膜対象物の断面図
【図4】電極層形成後の成膜対象物の部分拡大図
【図5】緑色レーザー光照射後の成膜対象物の部分拡大図
【図6】本発明の太陽電池製造方法で形成された太陽電池の部分拡大図
【図7】レーザー光の照射方法の第二例を説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照し、符号10は、本発明の太陽電池製造方法で用いる一例の真空成膜装置を示している。
この真空成膜装置10の真空槽11は細長に形成されており、長手方向の一端に搬入室12が接続され、他端に搬出室13が接続されている。
【0012】
真空槽11と搬入室12との間には、搬入用の真空バルブ14が配置され、真空槽11と搬出室13との間には搬出用の真空バルブ15が配置されており、搬入用と搬出用の真空バルブ14、15を閉じると、真空槽11内部を真空排気できるようにされている。
【0013】
真空槽11の内部には、搬入用の真空バルブ14と搬出用の真空バルブ15の間に亘って基板搬送装置31が配置されており、搬入室12内と真空槽11内とを真空雰囲気にした状態で、搬入用の真空バルブ14を開け、搬入室12内に配置された成膜対象物20を真空槽11内に搬入し、基板搬送装置31によって他端まで移動させ、搬出室13を真空雰囲気にして搬出用の真空バルブ15を開けて成膜対象物20を搬出室13に搬出した後、搬出用の真空バルブ15を閉じて搬出室13に大気を導入すると、大気雰囲気中に取り出すことができるようにされている。
【0014】
ここでは、基板搬送装置31は、互いに離間して横設された複数本のローラ32で構成されており、各ローラ32には、各ローラ32をそれらの中心軸線を中心として回転又は静止させる駆動装置33に接続されている。
基板搬送装置31の上方、即ち、ローラ32の上方には、銀薄膜成膜源42が配置されている。なお、Ti膜を形成する場合、Ti薄膜成膜源を有していてもよい。
【0015】
板状の成膜対象物20の成膜面を上方に向け、裏面を基板搬送装置31に接触させて基板搬送装置31の上に乗せると、成膜対象物20は搬入室12側から搬出室13側に向けて移動し、成膜面が、銀薄膜成膜源42に対面するようにされている。
【0016】
図3は、この真空成膜装置10に搬入する成膜対象物20の断面図を示している。ガラス基板から成る透明基板21上に、酸化スズ薄膜や酸化亜鉛薄膜に例示される透明で導電性を有する導電性酸化物から成る第一の透明導電層22と、pin層を有する発電層23と、GZO(ガリウム添加の酸化亜鉛)やAZO(アルミ添加の酸化亜鉛)に例示される第二の透明導電層24がその順序で形成されている。
【0017】
ここで発電層23は、図3に示すように、第一の透明導電層22上にp型のアモルファスシリコン膜23aと、i型のアモルファスシリコン膜23bと、n型のアモルファスシリコン膜23cとが順に積層されて構成された第1のユニットと、n型のアモルファスシリコン膜23c上にp型のマイクロクリスタルシリコン膜23dと、i型のマイクロクリスタルシリコン膜23eと、n型のマイクロクリスタルシリコン膜23fとが積層されて構成された第2のユニットとから構成されている。なお、ここではシリコン系のpinユニットが2つ積層されたタンデム型が例示されたが、発電層23の構成は上記の例に限定されない。発電層はpinユニットが1段のシングルユニットでも、3段以上のユニットが積層されたものでもよい。また、シリコン系の発電層に限定されず、化合物系の発電層、有機物系の発電層でもよい。即ち、後述するように第二電極(裏面電極)として銀を使用するものであれば、発電層の構成は限定されない。
【0018】
成膜対象物20は、第二の透明導電層24が露出されて上方に向けられた状態で、図1の符号20に示すように、真空槽11内の基板搬送装置31上に乗せられている。
真空槽11内の銀薄膜成膜源42には銀ターゲット44が配置されている。
【0019】
真空槽11内を真空雰囲気にしてスパッタリングガスを導入し、銀ターゲット44をスパッタリングして、銀薄膜成膜源42の下方を通過する成膜対象物20の第二の透明導電層24の表面に、銀薄膜の電極層(反射層)25が形成される。
【0020】
成膜対象物20は、キャリア等に乗せられず、成膜面(ここでは表面)を上に直接ローラ32で搬送される。各ローラ32は離間して配置されている。透明基板21の表面側の第二の透明導電層24の表面に銀薄膜(第一の銀薄膜)が形成されるときに、露出した透明基板21の裏面(太陽電池の光入射側の面、または発電層23が形成される反対側の面)の外周付近に、銀ターゲット44から飛び出した銀粒子が回り込み、付着してしまう。
【0021】
図4は、成膜対象物20の部分拡大図であり、符号26は、裏面に付着した銀から成る銀付着膜(第二の銀薄膜)を示している。
図2を参照し、除去装置50は、本発明の一例の除去装置を示している。除去装置50は、真空成膜装置10の下流側に別途設置される。
【0022】
除去装置50は、緑色レーザ光照射装置45と赤外レーザ光照射装置46と制御装置49とを有している。
緑色レーザ光照射装置45は、制御装置49から制御信号を受けると、波長約532nmにピークを持つ緑色レーザ光を照射する。
【0023】
透明基板21の外周に近い部分は、保護膜を透明基板21に接着させる接着領域である。ステージ47に成膜対象物20を設置し、緑色レーザ光照射装置45により、接着領域に強度ピークが波長約532nmの緑色レーザ光を1.5W/cm2以上5W/cm2以下の照射条件で照射すると、銀付着膜(第二の銀薄膜)26がアブレーションし、透明基板21の裏面から除去される。緑色レーザ光照射装置45は裏面(光入射側面)からレーザを照射することが好ましい。
緑色レーザ光を銀付着膜(第二の銀薄膜)26に照射してアブレーションさせているので、透明基板21の縁付近がエッジディレーション後(赤外レーザ照射後)に着色することがない。
【0024】
このとき、実験によると、緑色レーザ光は透明基板21と第一の透明導電層22とを透過して、透明基板21表面側の第一の透明導電層22の上の、発電層23と第二の透明導電層24と電極層(反射層)25とを蒸発除去させ、図5に示すように、透明基板21の表面側は、縁から一定距離、第一の透明導電層22が露出する。
【0025】
赤外レーザを照射する赤外レーザ光照射装置46は、制御装置49から制御信号を受けると、透明基板21の裏面側から、緑色レーザ光が照射された位置である透明基板21の縁付近に赤外レーザ光を照射し、第一の透明導電層22を除去する。第一の透明導電層22が除去されると、透明基板21の表面側の縁付近に、透明基板21表面が露出する。
【0026】
成膜対象物20を除去装置50から取り出し、図6に示すように、封止膜(Ethylence−Vinyl Acetate:エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂)27と保護膜28とを貼り合わせて、電極層(反射層)25の表面と、透明基板21の縁付近で露出する各層22、23、24、25の縁部分を覆うと、太陽電池が得られる。封止膜27の周辺部分は透明基板21の露出部分に接触して接着力が高められている。
【0027】
この太陽電池は、透明基板21と第一の透明導電層22を透過した太陽光が発電層23に照射されて発電し、また、発電層23を透過した太陽光が、第二の透明導電層24を透過して電極層(反射層)25で反射されて第二の透明導電層24を透過して発電層23に再照射されるようになっており、電極層(反射層)25である銀薄膜は反射率が高いので、発電効率が高められている。
【0028】
また、図3を参照し、アモルファスシリコン膜23a〜23cとマイクロクリスタルシリコン膜23d〜23fでは光吸収帯域が異なるため、入射光を有効に利用することができるようになっている。
【0029】
なお、上記例では、制御装置49は、照射が必要な部分全部に緑色レーザ光を照射した後、赤外レーザ光を照射するように構成されていたが、銀付着膜(第二の銀薄膜)26に赤外レーザ光が照射される前に緑色レーザ光が照射されればよく、図7に示すように、緑色レーザ光を照射しながら、順次緑色レーザ光が照射された後の同じ位置に赤外レーザ光が照射されるように、両方のレーザ光の照射位置を、透明基板21の縁に沿って一緒に移動させるように構成されていてもよい。図7の符号55、56は緑色レーザ光、赤外レーザ光の照射位置をそれぞれ示し、符号59は両方のレーザ光の照射位置の移動方向を示している。
【0030】
上記例では、ステージ47で持ち上げられて静止した成膜対象物20の外周に沿ってレーザ光を移動させたが、レーザ光の照射方向を固定して、レーザ光の照射位置が成膜対象物20の外周に沿って相対移動するように、成膜対象物20を移動させてもよい。
【符号の説明】
【0031】
20……成膜対象物
21……透明基板(ガラス基板)
22……第一の透明導電層(第一電極)
23……発電層
24……第二の透明導電層
25……反射層(電極層、第一の銀薄膜)
26……透明基板の裏面の縁付近に付着した銀(銀付着膜、第二の銀薄膜)
44……銀ターゲット
45……緑色レーザ光照射装置
46……赤外レーザ光照射装置
49……制御装置
50……除去装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の銀薄膜の成膜面と異なる裏面に回り込んだ第二の銀薄膜が形成された成膜対象物の前記第二の銀薄膜を除去する除去装置であって、
緑色のレーザ光を照射する緑色レーザ光照射装置と赤外のレーザ光を照射する赤外レーザ光照射装置とが配置され、前記成膜対象物の裏面に前記緑色レーザ光を照射し、前記緑色レーザ光が照射された位置に前記赤外レーザ光を照射するように構成された除去装置。
【請求項2】
緑色レーザ光を照射しながら、順次前記緑色レーザ光が照射された位置に前記赤外レーザ光を照射するように構成された制御装置を有する請求項1記載の除去装置。
【請求項3】
透明基板の表面上に、第一の透明導電層と、発電層と、第二の透明導電層と、銀から成る電極層とをこの順序で形成し、太陽電池を形成する太陽電池製造方法であって、
前記第二の透明導電層が形成された前記透明基板を、真空槽内に配置し、前記透明基板の裏面を露出させた状態で前記真空槽内の銀ターゲットをスパッタし、前記第二の透明導電層上に前記電極層を形成し、
前記透明基板の裏面の縁付近に緑色レーザ光を照射して、前記電極層を形成する際に前記透明基板の裏面に回り込み、前記透明基板の裏面の縁付近に付着した銀を蒸発除去(アブレーション)させ、
前記透明基板の裏面の縁付近又は表面の縁付近に赤外レーザ光を照射して、前記透明基板の表面の縁付近が、前記第一の透明導電層と、前記発電層と、前記第二の透明導電層と、前記電極層とが除去された状態にする太陽電池製造方法。
【請求項4】
前記第一の透明導電層には、酸化スズ薄膜または酸化亜鉛薄膜を用い、前記第二の透明導電層にはガリウムが添加された酸化亜鉛薄膜を用いる請求項3記載の太陽電池製造方法。
【請求項5】
前記透明基板はガラス基板である請求項3記載の太陽電池製造方法。
【請求項6】
前記緑色レーザ光は、波長532nm、エネルギー密度は1.5W/cm2以上5W/cm2以下の照射条件で照射される請求項3記載の太陽電池製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−49188(P2012−49188A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187355(P2010−187355)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】