説明

隊列走行制御装置

【課題】製造コストの増加を抑えつつ、先頭車両におけるフルブレーキ制動時の隊列走行の安定化を図ることができる隊列走行制御装置を提供することを目的としている。
【解決手段】手動又は自動運転される先頭車両1aに後続車両1bを自動追従させる隊列走行制御装置において、前走車両1aにおけるブレーキチャンバ32に加圧される最大エア圧よりも、自車両1bにおけるブレーキチャンバ32に加圧される最大エア圧を高い値に設定する調圧弁(比例制御弁)34aと、調圧弁34aを迂回するバイパス通路34eと、を備えたエアブレーキ手段(エアブレーキシステム)20a,20bと、隊列走行時、調圧弁34aを介してエアをブレーキチャンバ32に供給し、非隊列走行時、バイパス通路34eを介してエアをブレーキチャンバ32に供給するように切り替える隊列走行制御手段(統合コントローラ)10と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手動運転又は自動運転される先頭車両とこの先頭車両に自動追従する後続車両との隊列走行を制御すると共に、先頭車両及び後続車両のそれぞれに搭載されるエアブレーキ手段を備えた隊列走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、手動運転される先頭車両に自動運転車両を追従走行させることで非連結の隊列走行を行う際、先頭車両の減速度を制限し、隊列走行の安定化を図る第1の隊列走行制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、非連結の自動隊列走行を行う際のブレーキの信頼性を担保するため、異なる複数のブレーキ系統を備えた第2の隊列走行制御装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-234183号公報
【特許文献2】特開2007-233965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の第1の隊列走行制御装置にあっては、隊列走行制御装置が有するECUによって、先頭車両の減速度の上限値を設定する。そのため、ECUにおける上限値の設定機能が失陥した場合には、先頭車両と後続車両の制動性能が同じになってしまい、先頭車両がフルブレーキで制動したときの後続車両の追従性が低下して、隊列走行が不安定になることが考えられる。
【0005】
また、従来の第2の隊列走行制御装置にあっては、異なる複数のブレーキ系統を備えているため、一つのブレーキ系統に不具合が生じても他のブレーキ系統で代替が可能となるが、冗長性が追加されるためにコスト高となってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に着目してなされたものであり、製造コストの増加を抑えつつ、先頭車両におけるフルブレーキ制動時の隊列走行の安定化を図ることができる隊列走行制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、手動又は自動運転される先頭車両と前記先頭車両に自動追従する後続車両との隊列走行を制御する隊列走行制御手段と、前記先頭車両及び前記後続車両のそれぞれに搭載されるエアブレーキ手段と、を備えた隊列走行制御装置を前提構成とする。
前記エアブレーキ手段は、エアタンクと、前記エアタンク内のエアの圧力によってブレーキを駆動するブレーキチャンバと、調圧弁と、バイパス通路と、を備える。
前記調圧弁は、前記エアタンクと前記ブレーキチャンバを接続するエア通路に設けられ、前走車両におけるブレーキチャンバに供給される最大エア圧よりも、自車両における前記ブレーキチャンバに供給される最大エア圧を高い値に設定する。
前記バイパス通路は、前記エア通路に並設され、前記調圧弁を迂回するように前記エア通路から分岐する。
そして、前記隊列走行制御手段は、前記先頭車両と前記後続車両との隊列走行時、前記調圧弁を介して前記エアタンク内のエアを前記ブレーキチャンバに供給し、前記先頭車両と前記後続車両との非隊列走行時、前記バイパス通路を介して前記エアタンク内のエアを前記ブレーキチャンバに供給するように切り替えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
よって、本発明の隊列走行制御装置にあっては、隊列走行時、エアタンク内のエアが、前走車両におけるブレーキチャンバに供給される最大エア圧よりも、自車両におけるブレーキチャンバに供給される最大エア圧を高い値に設定する調圧弁を介してブレーキチャンバに供給される。一方、非隊列走行時、エアタンク内のエアは、バイパス通路を介してブレーキチャンバに供給される。
すなわち、隊列走行時には、ブレーキチャンバに供給される最大エア圧が、調圧弁によって機械的に制御されるため、隊列走行の制御が失陥しても、先頭車両と後続車両の制動性能の違いが担保され、隊列走行を行う車両ごとにブレーキの減速度を固有なものとすることができる。これにより、複数のブレーキ系統を設けることなくブレーキの信頼性を向上させると共に、先頭車両におけるフルブレーキ制動時の隊列走行の安定化を図ることができる。
さらに、非隊列走行時には、調圧弁を迂回してエアをブレーキチャンバに供給するため、ブレーキチャンバに供給される最大エア圧は、調圧されることなくエアタンクから供給された値となる。これにより、非隊列走行時のブレーキ性能は、通常車両のブレーキ性能と同じになり、非隊列走行時であっても同じブレーキ系統を使用することで、製造コストの増加を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1の隊列走行制御装置が適用された車両の隊列群を示す概観図である。
【図2】実施例1の隊列走行制御装置を示す全体システムブロック図である。
【図3】実施例1の隊列走行制御装置のフロントエアブレーキ及びリヤエアブレーキを示すブロック構成図である。
【図4】実施例1のエアブレーキにおける調圧概念を示す説明図である。
【図5】ブレーキチャンバ最大エア圧に対する積載量と速度を示すマップである。
【図6】実施例1のエアブレーキにて用いる積載量推定マップである。
【図7】実施例1の統合コントローラにて実行される走行制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図8】実施例1の統合コントローラにて実行されるノーマル走行制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図9】実施例1の統合コントローラにて実行される減速度制御処理の流れを示すフローチャートである。
【図10】第1比較例の隊列走行中における緊急ブレーキ動作時の車両状態を示す説明図であり、(a)は先頭車両ブレーキ開始時を示し、(b)は第1後続車両ブレーキ開始時を示し、(c)は第2後続車両ブレーキ開始時を示し、(d)は先頭車両停止時を示す。
【図11】第2比較例の隊列走行制御装置のエアブレーキを示す概略構成図である。
【図12】実施例1の隊列走行制御装置が適用された車両の隊列走行中における緊急ブレーキ動作時の車両状態を示す説明図であり、(a)は第1トラックのブレーキ開始時を示し、(b)は第2トラックのブレーキ開始時を示し、(c)は第3トラックのブレーキ開始時を示し、(d)は第1トラックの停止時を示す。
【図13】実施例1の隊列走行制御装置が適用された車両における減速度とブレーキチャンバ圧を示す一例であり、(a)は第1トラックを示し、(b)は第2トラックを示し、(c)は第3トラックを示す。
【図14】本発明の隊列走行制御装置の他の例のエアブレーキを示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の隊列走行制御装置を実現するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0011】
まず、実施例1の隊列走行制御装置における構成を「車両の隊列走行構造」、「隊列走行制御装置の全体構成」、「エアブレーキの構成」、「車両の走行制御処理」に分けて説明する。
【0012】
[車両の隊列走行構造]
図1は、実施例1の隊列走行制御装置が適用された車両の隊列群を示す概観図である。以下、図1に基づき、車両の隊列走行構造を説明する。
【0013】
実施例1の隊列走行制御装置は、図1に示す非連結で隊列走行する第1〜第3トラック(車両)1a,1b,1cに適用される。第1〜第3トラック1a,1b,1cは、ここでは、それぞれ車両総重量25t、全長12mの単車型の大型トラックであり、EBS(Electronic Break System:電子制御ブレーキシステム)を搭載している。
【0014】
そして、図1において先導する第1トラック1aは、乗車した運転手により異常監視は行われるが自動で運転又は手動運転される先頭車両である。一方、第2トラック1bは、先頭車両である第1トラック1aからの車車間通信による自動運転によって第1トラック1aに追従走行する1台目の後続車両である。また、第3トラック1cは、先頭車両である第1トラック1aからの車車間通信による自動運転によって第2トラック1bに追従走行する2台目の後続車両である。なお、図1では、第1〜第3トラック1a,1b,1cは、10mの車間距離Lをあけて隊列走行している。
【0015】
[隊列走行制御装置の全体構成]
図2は、実施例1の隊列走行制御装置を示す全体システムブロック図である。
【0016】
実施例1の隊列走行制御装置は、図2に示すように、第1〜第3トラック1a,1b,1cの隊列走行を制御する統合コントローラ(隊列走行制御手段)10と、第1〜第3トラック1a,1b,1cをそれぞれ個別に制動するエアブレーキシステム(エアブレーキ手段)20a,20b,20cと、を備えている。
【0017】
前記統合コントローラ10は、先頭車両である第1トラック1aに搭載され、第1〜第3トラック1a,1b,1cの走行状態を管理して、隊列走行させるための機能を担う。すなわち、この統合コントローラ10では、少なくとも、走行制御処理、ノーマル走行制御処理、減速度制御処理を行う。
ここで、前記走行制御処理とは、手動運転される第1トラック1aにおいて、隊列走行やノーマル走行を行うか否か、走行が可能であるか否か、を判断する処理である。前記ノーマル走行制御処理とは、手動運転される第1トラック1aが単独で走行する際の制動力を設定する処理である。前記減速度制御処理とは、手動運転される第1トラック1aに、自動運転により第2トラック1b及び第3トラック1cを追従走行させて隊列走行させる際の制動力を設定する処理である。
そして、この統合コントローラ10は、各エアブレーキシステム20a,20b,20cから各種アクチュエータの故障情報、車両減速度情報、推定積載量情報等が入力されると共に、各エアブレーキシステム20a,20b,20cに対して隊列走行指令、非隊列走行指令、運転禁止指令、減速度値指令等を出力する。なお、この統合コントローラ10は、エアブレーキシステム20aに対してはCAN通信を介して情報の入出力が行われ、エアブレーキシステム20b,20cに対しては車車間通信を介して情報の入出力が行われる。
【0018】
前記エアブレーキシステム20a,20b,20cは、隊列走行をする第1〜第3トラック1a,1b,1cのそれぞれに搭載され、統合コントローラ10からの指令に基づいて各第1〜第3トラック1a,1b,1cを個別に制動する。各エアブレーキシステム20a,20b,20cの構成は同一であるため、ここでは先頭車両である第1トラック1aに搭載されたエアブレーキシステム20aの構成を説明する。
【0019】
前記エアブレーキシステム20aは、ブレーキコントローラ21と、フロントエアブレーキ30と、リヤエアブレーキ40と、を備えている。
【0020】
前記ブレーキコントローラ21は、フロントエアブレーキ30のフロントエアタンク31及びリヤエアブレーキ40のリヤエアタンク41からの出力圧をそれぞれ管理し、フロントエアブレーキ30,リヤエアブレーキ40におけるいわゆるエア元圧を制御する機能を担う。
このブレーキコントローラ21は、統合コントローラ10から各種指令が入力されると共に、エア圧センサ24、ベローズ圧センサ25、加速度センサ26、車速センサ27等から必要情報が入力される。なお、前記エア圧センサ24は、ブレーキチャンバ32,42に作用するエア圧力(以下、「ブレーキチャンバ圧」という)を検出する。前記ベローズ圧センサ25は、エアサスペンションに使用しているベローズ25aにおけるエア圧力(以下、「ベローズ圧」という)を検出する。前記加速度センサ26は、車両に作用する加速度を検出する。前記車速センサ27は、車両の走行速度を検出する。
また、このブレーキコントローラ21は、統合コントローラ10へ各種情報を出力すると共に、フロントエアブレーキ30及びリヤエアブレーキ40へバルブ切替指令、調圧指令等を出力する。
【0021】
前記フロントエアブレーキ30は、第1トラック1aの左右2輪の前輪3A,3Bを制動する。また、前記リヤエアブレーキ40は、第1トラック1aの左右4輪の後輪4A,4B,4C,4Dを制動する。
【0022】
[エアブレーキの構成]
図3は、実施例1の隊列走行制御装置のフロントエアブレーキ及びリヤエアブレーキを示すブロック構成図である。
【0023】
前記フロントエアブレーキ30は、フロントエアタンク31と、一対のブレーキチャンバ32,32と、エア通路33と、調圧セット34と、フロントEBSモジュール35と、を備えている。
【0024】
前記フロントエアタンク31は、図示しないエンジンで駆動されるコンプレッサにより圧縮空気を蓄えるエアタンクであり、このフロントエアタンク31内のエア圧はプレッシャガバナによって所定圧(ここでは9気圧)に保持されている。
【0025】
前記一対のブレーキチャンバ32,32は、左右2輪の前輪3A,3Bに対応して設けられ、それぞれエア通路33を介してフロントエアタンク31に接続されている。このブレーキチャンバ32は、エア通路33を介して供給されるエア圧によって各輪3A,3Bに設けられたブレーキシューを駆動する。なお、各ブレーキチャンバ32に供給されるエア圧は、エア圧センサ24により個別に検出される。
【0026】
前記調圧セット34は、フロントエアタンク31の下流に設けられ、隊列走行時の各ブレーキチャンバ32,32に供給される最大エア圧と、非隊列走行時の各ブレーキチャンバ32,32に供給される最大エア圧と、を切り替えて調圧する。この調圧セット34は、比例制御弁(調圧弁)34aと、第1電磁バルブ34bと、第2電磁バルブ34cと、ダブルチェック弁34dと、を有している。
【0027】
前記比例制御弁34aは、エア通路33に設けられ、隊列走行時、フロントエアタンク31から供給されるエア圧を所定の値に機械的に減圧する調圧弁である。ここで、この比例制御弁34aは、前走車両におけるブレーキチャンバ32に供給される最大エア圧よりも、自車両におけるブレーキチャンバ32に供給される最大エア圧を高い値に設定する。
すなわち、第1トラック1aに搭載された比例制御弁34aよりも、第2トラック1bに搭載された比例制御弁34aの方がブレーキチャンバ32に供給される最大エア圧を高い値に設定する。また、第2トラック1bに搭載された比例制御弁34aよりも、第3トラック1cに搭載された比例制御弁34aの方がブレーキチャンバ32に供給される最大エア圧を高い値に設定する。
さらに、この比例制御弁34aは、図4に示すように、自車両(ここでは第1トラック1a)の積載量及び走行速度(車速)に応じて、ブレーキチャンバ32に供給される最大エア圧を設定する。このとき、図5に示すように、積載量が大きいほど上記最大エア圧を大きな値に設定すると共に、走行速度が高いほど上記最大エア圧を大きな値に設定する。
【0028】
ここで、積載量は、後輪4A,4B,4C,4Dをそれぞれ支持するエアサスペンションのベローズ25aのベローズ圧と、図6に示すような積載量推定マップに基づいて求められる。また、走行速度は、車両に搭載された車速センサ27によって検出される。
【0029】
前記第1電磁バルブ34bは、エア通路33に並設され、比例制御弁34aを迂回するように前記エア通路33から分岐したバイパス通路34eに設けられたノーマルオープンの開閉弁である。この第1電磁バルブ34bは、隊列走行時に閉鎖し、非隊列走行時に開放する。
【0030】
前記第2電磁バルブ34cは、比例制御弁34aの下流に設けられたノーマルオープンの開閉弁である。この第2電磁バルブ34cは、隊列走行時に開放し、非隊列走行時に閉鎖する。
【0031】
前記ダブルチェック弁34dは、第1,第2電磁バルブ34b,34cの下流で、エア通路33とバイパス通路34eの合流部分に設けられ、エア通路33から供給されるエア圧とバイパス通路34eから供給されるエア圧のうち、高い方のエア圧を下流に供給する。
【0032】
前記フロントEBSモジュール35は、運転手によるブレーキペダルPの操作に応じた電気信号によって、ブレーキチャンバ32に供給されるエア圧を調圧し、ペダル操作量に応じた減速度が得られるようにする。
なお、自動運転される後続車両である第2トラック1b及び第3トラック1cに搭載されたフロントEBSモジュール35は、統合コントローラ10からの車車間通信によって、ブレーキチャンバ32に供給されるエア圧を調圧し、必要な減速度が得られるようにする。
また、エア通路33は、このフロントEBSモジュール35の下流側にて分岐し、各ブレーキチャンバ32に接続している。
【0033】
前記リヤエアブレーキ40は、リヤエアタンク41と、4つのブレーキチャンバ42,…と、エア通路43と、調圧セット44と、リヤEBSモジュール45と、を備えている。
【0034】
前記リヤエアタンク41は、図示しないエンジンで駆動されるコンプレッサにより圧縮空気を蓄えるエアタンクであり、このリヤエアタンク41内のエア圧はプレッシャガバナによって所定圧(ここでは9気圧)に保持されている。
【0035】
前記4つのブレーキチャンバ42,…は、左右4輪の後輪4A,4B,4C,4Dに対応して設けられ、それぞれエア通路43を介してリヤエアタンク41に接続されている。このブレーキチャンバ42は、エア通路43を介して供給されるエア圧によって各輪4A,4B,4C,4Dに設けられたブレーキシューを駆動する。なお、各ブレーキチャンバ42に供給されるエア圧は、二つのエア圧センサ24,24により左右別に検出される。
【0036】
前記調圧セット44は、リヤエアタンク41の下流に設けられ、隊列走行時の各ブレーキチャンバ42,…に供給される最大エア圧と、非隊列走行時の各ブレーキチャンバ42,…に供給される最大エア圧と、を切り替えて調圧する。この調圧セット44は、比例制御弁(調圧弁)44aと、第1電磁バルブ44bと、第2電磁バルブ44cと、ダブルチェック弁44dと、を有している。
【0037】
前記比例制御弁44aは、エア通路43に設けられ、隊列走行時、リヤエアタンク41から供給されるエア圧を所定の値に機械的に減圧する調圧弁である。ここで、この比例制御弁44aは、前走車両におけるブレーキチャンバ42に供給される最大エア圧よりも、自車両におけるブレーキチャンバ42に供給される最大エア圧を高い値に設定する。
すなわち、第1トラック1aに搭載された比例制御弁44aよりも、第2トラック1bに搭載された比例制御弁44aの方がブレーキチャンバ32に供給される最大エア圧を高い値に設定する。また、第2トラック1bに搭載された比例制御弁44aよりも、第3トラック1cに搭載された比例制御弁44aの方がブレーキチャンバ32に供給される最大エア圧を高い値に設定する。
さらに、この比例制御弁44aも、上記比例制御弁34aと同様に、自車両(ここでは第1トラック1a)の積載量及び走行速度(車速)に応じて、ブレーキチャンバ42に供給される最大エア圧を設定する。このとき、積載量が大きいほど上記最大エア圧を大きな値に設定すると共に、走行速度が高いほど上記最大エア圧を大きな値に設定する。
【0038】
前記第1電磁バルブ44bは、エア通路43に並設され、比例制御弁44aを迂回するように前記エア通路43から分岐したバイパス通路44eに設けられたノーマルオープンの開閉弁である。この第1電磁バルブ44bは、隊列走行時に閉鎖し、非隊列走行時に開放する。
【0039】
前記第2電磁バルブ44cは、比例制御弁44aの下流に設けられたノーマルオープンの開閉弁である。この第2電磁バルブ44cは、隊列走行時に開放し、非隊列走行時に閉鎖する。
【0040】
前記ダブルチェック弁44dは、第1,第2電磁バルブ44b,44cの下流で、エア通路43とバイパス通路44eの合流部分に設けられ、エア通路43から供給されるエア圧とバイパス通路44eから供給されるエア圧のうち、高い方のエア圧を下流に供給する。
【0041】
前記リヤEBSモジュール45は、運転手によるブレーキペダルPの操作に応じた電気信号によって、ブレーキチャンバ42に供給されるエア圧を調圧し、ペダル操作量に応じた減速度が得られるようにする。
なお、自動運転される後続車両である第2トラック1b及び第3トラック1cに搭載されたリヤEBSモジュール45は、統合コントローラ10からの車車間通信によって、ブレーキチャンバ42に供給されるエア圧を調圧し、必要な減速度が得られるようにする。
また、エア通路43は、このリヤEBSモジュール45の下流側にて分岐し、各ブレーキチャンバ42に接続している。
【0042】
[車両の走行制御処理]
図7は、実施例1の統合コントローラにて実行される走行制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、図7の各ステップについて説明する。
【0043】
ステップS1では、各種の制御用フラグをOFFにすると共に、各種設定値をデフォルト値に設定(リセット)し、ステップS2へ移行する。
【0044】
ステップS2では、ステップS1でのフラグOFF及び設定値リセットに続き、エア圧センサ24等の各種センサ及び比例制御弁34a等の各種アクチュエータの自己診断を実行し、ステップS3へ移行する。
【0045】
ステップS3では、ステップS2での自己診断に続き、各センサ又は各アクチュエータに故障があるか否かを判断する。YES(故障あり)の場合はステップS4へ移行する。NO(故障なし)の場合はステップS8へ移行する。
【0046】
ステップS4では、ステップS3での故障ありとの判断に続き、故障フラグをONにして、ステップS5へ移行する。
【0047】
ステップS5では、ステップS4での故障フラグのONに続き、故障部分あるいは故障系統を正常作動部分から切り離し不可か否かを判断する。YES(切り離し不可)の場合はステップS6へ移行する。NO(切り離し可)の場合はステップS7へ移行する。
【0048】
ステップS6では、ステップS5での故障の切り離し不可との判断に続き、隊列走行禁止フラグをONにしてステップS12へ移行する。
【0049】
ステップS7では、ステップS5での故障の切り離し可能との判断に続き、故障部分あるいは故障系統を制動作動部分から切り離し、ステップS8へ移行する。
【0050】
ステップS8では、ステップS3での故障なしとの判断、又は、ステップS7での故障部分の切り離しに続き、統合コントローラ10から隊列走行指令が出力されたか否かを判断する。YES(隊列走行指令あり)の場合はステップS9へ移行する。NO(隊列走行指令なし)の場合はステップS20へ移行する。
ここで、隊列走行指令は、先頭車両である第1トラック1aの運転手により、手動でスイッチ等を操作することで出力される。これにより、第1トラック1aに第2,第3トラック1b,1cが追従走行することとなる。
【0051】
ステップS9では、ステップS8での隊列走行指令ありとの判断に続き、第2,第3トラック1b,1cに搭載されたエア圧センサ24等の各種センサ及び比例制御弁34a等の各種アクチュエータの自己診断を車両ごとに安全を担保すべく初期の自己判断以外に常時実行し、ステップS10へ移行する。
ここで、第2,第3トラック1b,1cにおける診断結果は、各トラック1b,1cに搭載されたブレーキコントローラ21から車車間通信によって、第1トラック1aの統合コントローラ10に入力される。
【0052】
ステップS10では、ステップS9での自己診断に続き、各トラック1b,1cに搭載された各センサ又は各アクチュエータに故障があるか否かを判断する。YES(故障あり)の場合はステップS11へ移行する。NO(故障なし)の場合はステップS30へ移行する。
【0053】
ステップS11では、ステップS10での故障ありとの判断に続き、故障フラグをONにすると共に隊列走行禁止フラグをONにして、ステップS12へ移行する。
【0054】
ステップS12では、ステップS6での故障フラグのON、又は、ステップS11での故障フラグ及び隊列走行禁止フラグのONに続き、ステップS10で判断した故障が走行を行う際に致命的な故障であるか否かを判断する。YES(致命的故障)の場合はステップS13へ移行する。NO(致命的故障ではない)の場合はステップS20へ移行する。
【0055】
ステップS13では、ステップS12での致命的故障ありとの判断に続き、運転禁止フラグをONにして走行を禁止し、ステップS8へ戻る。
【0056】
ステップS20では、ステップS8での隊列走行指令なしとの判断、又は、ステップS12での致命的故障なしとの判断に続き、ノーマル走行処理を実行する。なお、このノーマル走行処理は、第1トラック1aを単独で走行させる非隊列走行モードであり、詳細を図8に示す。
【0057】
ステップS30では、ステップS10での故障なしとの判断に続き、減速度制御処理を実行する。なお、この減速度制御処理は、第1トラック1aに第2,第3トラック1b,1cを自動追従させることで隊列走行させる隊列走行モードであり、詳細を図9に示す。
【0058】
図8は、実施例1の統合コントローラにて実行されるノーマル走行制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、図8の各ステップについて説明する。
【0059】
ステップS21では、ノーマル走行制御フラグをONにして、ステップS22へ移行する。なお、このとき減速度制御フラグはOFFのままとする。これにより、走行モードはノーマル走行モード(非隊列走行モード)となる。
【0060】
ステップS22では、ステップS21でのフラグONに続き、フロントエアブレーキ30の第1電磁バルブ34b及びリヤエアブレーキ40の第1電磁バルブ44bをOFFすることで開放し、フロントエアブレーキ30の第2電磁バルブ34c及びリヤエアブレーキ40の第2電磁バルブ44cをONすることで閉鎖し、エンドへ移行する。
【0061】
これにより、第1トラック1aと第2,第3トラック1b,1cとの非隊列走行時、フロントエアタンク31内のエアは、バイパス通路34eを介して各ブレーキチャンバ32,32に供給される。また、リヤエアタンク41内のエアは、バイパス通路44eを介して各ブレーキチャンバ42,…に供給される。すなわち、各エアタンク31,41内のエアは、調圧セット34,44によって調圧されることなく各EBSモジュール35,45に供給される。
そのため、フロントエアブレーキ30における最大減速度は、フロントエアタンク31内のエア圧に依存し、リヤエアブレーキ40における最大減速度は、リヤエアタンク41内のエア圧に依存する。
【0062】
図9は、実施例1の統合コントローラにて実行される減速度制御処理の流れを示すフローチャートである。以下、図9の各ステップについて説明する。
【0063】
ステップS31では、減速度制御フラグをONにして、ステップS32へ移行する。なお、このときノーマル走行制御フラグはOFFのままとする。これにより、走行モードがノーマル走行モード(非隊列走行モード)となる。
【0064】
ステップS32では、ステップS31でのフラグONに続き、フロントエアブレーキ30の第1電磁バルブ34b及びリヤエアブレーキ40の第1電磁バルブ44bをONすることで閉鎖し、フロントエアブレーキ30の第2電磁バルブ34c及びリヤエアブレーキ40の第2電磁バルブ44cをOFFすることで開放し、ステップS33へ移行する。
【0065】
ステップS33では、ステップS32でのバルブ開閉に続き、第1〜第3トラック1a〜1cのそれぞれにおける積載量を推定し、ステップS33へ移行する。
ここで、積載量の推定は、ベローズ圧センサ25によって検出されたベローズ25aのベローズ圧と、図6に示す積載量推定マップに基づいて行う。
【0066】
ステップS34では、ステップS33での積載量の推定に続き、積載量に基づいて決定する最大減速度を、第1〜第3トラック1a〜1cごとに設定し、ステップS35へ移行する。
ここで、「最大減速度」とは、各車両における減速度の上限値であり、各車両ではこの最大減速度を超える制動力は作用しない。この最大減速度は、積載量に拘わらず、前走車両よりも後続車両の方が大きい値になるように設定する。
【0067】
ステップS35では、ステップS34での最大減速度の設定に続き、第1〜第3トラック1a〜1cのそれぞれにおける走行速度を検出し、ステップS36へ移行する。
ここで、走行速度は、車両に搭載された車速センサ27によって検出する。
【0068】
ステップS36では、ステップS35での走行速度の検出に続き、ステップS34にて設定した最大減速度とステップS35にて検出した走行速度に基づいて、ブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧の目標値をそれぞれ演算し、ステップS37へ移行する。
【0069】
ステップS37では、ステップS36での最大エア圧目標値の演算に続き、調圧セット34から出力されるエア圧が最大エア圧目標値となるように、フロントエアタンク31から供給されるエアの圧力を比例制御弁34aの絞込み制御により調圧する。また、調圧セット44から出力されるエア圧が最大エア圧目標値となるように、リヤエアタンク41から供給されるエアの圧力を比例制御弁44aの絞込み制御により調圧し、ステップS38へ移行する。
【0070】
ステップS38では、ステップS37での調圧に続き、各ブレーキチャンバ32,42にそれぞれ加圧されるエア圧が、ステップS36にて演算した最大エア圧目標値に一致したか否かを判断する。YES(一致)の場合は、ステップS39へ移行する。NO(不一致)の場合は、ステップS37を繰り返す。
【0071】
ステップS39では、ステップS38での実エア圧の目標値への一致との判断に続き、先頭車両である第1トラック1aが緊急ブレーキを起動し、先頭車両である第1トラック1aが急制動を開始したか否かを判断する。YES(急制動開始)の場合はステップS40へ移行する。NO(急制動非開始)の場合はエンドへ進む。
ここで、急制動の開始は、第1トラック1aに搭載された加速度センサ26により検出される第1トラック1aに作用する加速度に基づいて判断する。すなわち、第1トラック1aに搭載された加速度センサ26により検出された加速度が所定値を超えた場合には、急制動の開始と判断する。
【0072】
ステップS40では、ステップS39での緊急制動開始の判断に続き、後続車両において緊急自動ブレーキを起動し、エンドへ進む。このとき、各トラック1a〜1cにおける最大減速度は、ステップS34にて前走車両よりも後続車両の方が大きい値に設定される。これにより、各EBSモジュール35,45に対してステップS34にて設定された最大減速度が設定されるため、前走車両における各ブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧よりも、自車両における各ブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧が高い値となる。
【0073】
次に、作用を説明する。
まず、「隊列走行制御装置における課題」の説明を行い、続いて、実施例1の隊列走行制御装置における作用を、「走行制御作用」、「ノーマル走行制御作用」、「減速度制御作用」に分けて説明する。
【0074】
[隊列走行制御装置における課題]
図10は、第1比較例の隊列走行中における緊急ブレーキ動作時の車両状態を示す説明図であり、(a)は先頭車両ブレーキ開始時を示し、(b)は第1後続車両ブレーキ開始時を示し、(c)は第2後続車両ブレーキ開始時を示し、(d)は先頭車両停止時を示す。図11は、第2比較例の隊列走行制御装置のエアブレーキを示す概略構成図である。
【0075】
従来、手動運転される先頭車両に、この先頭車両との車車間通信による自動運転で後続車両を追従走行させることで、複数の車両を非連結状態で隊列走行させる隊列走行制御装置が知られている。そして、この隊列走行制御装置では、通常、全ての車両における最大減速度は一定である。このような隊列走行制御装置を、第1比較例とする。
【0076】
この第1比較例の隊列走行制御装置において、車両速度が80km/h、車間距離を10mあけた状態で3台の車両で隊列走行中、先頭車両Aが手動により緊急フルブレーキを作動したとする(図10(a)参照)。このとき、1台目の後続車両(以下、第1後続車両という)Bでは、先頭車両Aの制動操作を検知してから自車両の制動操作が開始される。つまり、第1後続車両Bは先頭車両Aの制動操作から遅れて制動を開始することとなる。そのため、先頭車両Aの制動開始時時点において、先頭車両Aと第1後続車両Bとの間の車間距離H1は、隊列走行中(ここでは10m)よりも短くなる。
【0077】
その後、第1後続車両Bが制動操作を開始すると、2台目の後続車両(以下、第2後続車両という)Cでは、第1後続車両Bの制動操作を検知してから自車両の制動操作が開始される(図10(b)参照)。つまり、第2後続車両Cは第1後続車両Bの制動操作から遅れて制動を開始することとなる。そのため、第1後続車両Bの制動開始時時点において、第1後続車両Bと第2後続車両Cとの間の車間距離H2は、隊列走行中(ここでは10m)よりも短くなる。その後、第2後続車両Cが制動操作を開始する(図10(c)参照)。
【0078】
ここで、三台の車両A〜Cでは、最大減速度が一定であるため、制動に必要な距離(制動距離)は全ての車両において同一となる。そのため、第1,第2後続車両B,Cが、予め確保していた車間距離(ここでは10m)分を移動する前に前走車両の制動操作を検出しなければ、前走車両に衝突する可能性がある(図10(d)参照)。つまり、走行速度が80km/hの場合では、約0.5秒以内に後続車両は制動操作を開始しなければならない。しかも、車間距離が短ければ短いほど、後続車両における制動操作の開始までに必要な時間は短くなり、車間距離が短いほど短時間で制動操作を開始しなければならなかった。
【0079】
そこで、後続車両の減速度の上限値を前走車両よりも大きい値にすることで、後続車両のフルブレーキ力を向上させ、前走車両よりも制動距離を短くする。これにより、前走車両よりも制動操作の開始タイミングが遅くても、前走車両に衝突することを回避する隊列走行制御装置が考えられる。
【0080】
しかしながら、隊列走行制御装置が有するECUによって、後続車両の減速度の上限値を前走車両よりも大きい値に設定するだけでは、ECUにおける上限値の設定機能が失陥した場合には、先頭車両と後続車両の制動性能が同一となってしまう。すなわち、機械的構造が同一であると、設定機能の失陥した際、制動性能が同一になり、制動操作のタイミングによっては、後続車両が前走車両に衝突するおそれがあった。
【0081】
そこで、図11に示すように、非連結の自動隊列走行を行う際のブレーキの信頼性を担保するため、異なる複数のブレーキ系統を備えた隊列走行制御装置が考えられる。この隊列走行制御装置では、エアタンクDと、ブレーキチャンバEの間に、互いに独立したEBSモジュールを備えた第1ブレーキ系統Fと第2ブレーキ系統Gを設ける。このような隊列走行制御装置を、第2比較例とする。
【0082】
この第2比較例の隊列走行制御装置において、上記第1比較例のように、ECUにより後続車両の減速度の上限値を前走車両よりも大きい値に設定すれば、例え一方のブレーキ系統で減速度上限値の設定機能が失陥することがあったとしても、他方のブレーキ系統により適切な制動力を付与することができる。しかしながら、ブレーキ系統に必要なコストは2倍になってしまい、製造コストが増加するとともに両EBSの協調制御の複雑化という問題があった。
【0083】
[走行制御作用]
実施例1の第1トラック1aにおいてエンジンを始動すると、図7に示すフローチャートの走行制御処理が実行される。
【0084】
この走行制御処理では、図7のフローチャートでステップS1→ステップS2→ステップS3へと進み、各種センサ等に故障がなければステップS3→ステップS8へと進む。一方、各種センサ等に故障が生じていれば、ステップS3からステップS4→ステップS5へと進み、故障部分の切り離しが可能であればステップS7→ステップS8へと進む。しかしながら、故障部分の切り離しが不可能であれば、ステップS5からステップS6へと進み、隊列走行が禁止される。
【0085】
そして、各種センサ等に故障がなかったり、故障部分の切り離しが可能である場合において、運転手によりスイッチ等が操作されて隊列走行指令が出力されると、ステップS8からステップS9→ステップS10へと進む。これにより、後続車両である第2トラック1bや第3トラック1cにおける各種センサ等の自己判断を実行し、故障がなければ隊列走行を行うとして減速度制御処理が実行される。
【0086】
一方、各種センサ等に故障がなかったり、故障部分の切り離しが可能である場合であっても、隊列走行指令が出力されなければ、第1トラック1aは単独で走行することとなり、ステップS20へ進んでノーマル走行制御処理が実行される。
【0087】
また、各種センサに故障があり、その故障が走行を行う際に致命的であれば、ステップS10→ステップS11→ステップS12→ステップS13へと進み、第1トラック1aの走行が禁止される。
【0088】
このように、実施例1の隊列走行制御装置では、走行制御処理において、各種センサ等の故障状態を自己判断し、その結果によって隊列走行することを許可する。このため、隊列走行の制御が失陥する事態を未然に防ぐことができ、隊列走行時の制御性能を向上することができる。
【0089】
[ノーマル走行制御作用]
次に、走行制御処理において、ノーマル走行制御処理が選択された場合を説明する。
【0090】
このノーマル走行制御処理は、走行モードが非隊列走行モードのときに実行される処理であり、図8に示すフローチャートで、ステップS21→ステップS22へと進み、各エアブレーキ30,40のそれぞれにおいて、第1電磁バルブ34b,44bが開放され、第2電磁バルブ34c,44cが閉鎖される。
【0091】
これにより、フロントエアタンク31内のエアは、調圧セット34において、バイパス通路34eを介して出力される。すなわち、フロントエアブレーキ30の調圧セット34では、バイパス通路34eを介してフロントエアタンク31内のエアを各ブレーキチャンバ32に供給するように切り替えられる。
【0092】
また、リヤエアタンク41内のエアは、調圧セット44において、バイパス通路44eを介して出力される。すなわち、リヤエアブレーキ40の調圧セット44では、バイパス通路44eを介してリヤエアタンク41内のエアを各ブレーキチャンバ42に供給するように切り替えられる。
【0093】
このため、第1トラック1aにおいて各ブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧は、各エアタンク31,41における圧力のままとなる。つまり、隊列走行しないときには、通常の車両と同じブレーキ性能が保証される。
【0094】
[減速度制御作用]
図12は、実施例1の隊列走行制御装置が適用された車両の隊列走行中における緊急ブレーキ動作時の車両状態を示す説明図であり、(a)は第1トラックのブレーキ開始時を示し、(b)は第2トラックのブレーキ開始時を示し、(c)は第3トラックのブレーキ開始時を示し、(d)は第1トラックの停止時を示す。図13は、実施例1の隊列走行制御装置が適用された車両における減速度とブレーキチャンバ圧を示す一例であり、(a)は第1トラックを示し、(b)は第2トラックを示し、(c)は第3トラックを示す。
【0095】
次に、走行制御処理において、減速度制御処理が選択された場合を説明する。
この減速度制御処理は、走行モードが隊列走行モードのときに実行される処理であり、図1に示すように、手動又は自動運転される第1トラック1aに、この第1トラック1aとの車車間通信による自動運転で第2トラック1b及び第3トラック1cを追従走行させる際に実行される。ここでは、車両速度が80km/h、車間距離を10mあけた状態で隊列走行する。
【0096】
このとき、図9に示すフローチャートで、ステップS31→ステップS32へと進み、各エアブレーキ30,40のそれぞれにおいて、第1電磁バルブ34b,44bが閉鎖され、第2電磁バルブ34c,44cが開放される。
【0097】
これにより、フロントエアタンク31内のエアは、調圧セット34において、比例制御弁34aを介して出力される。すなわち、フロントエアブレーキ30の調圧セット34では、比例制御弁34aを介してフロントエアタンク31内のエアを各ブレーキチャンバ32に供給するように切り替えられる。
【0098】
また、リヤエアタンク41内のエアは、調圧セット44において、比例制御弁44aを介して出力される。すなわち、リヤエアブレーキ40の調圧セット44では、比例制御弁44aを介してリヤエアタンク41内のエアを各ブレーキチャンバ42に供給するように切り替えられる。
【0099】
ここで、各比例制御弁34a,44aは、それぞれ前走車両におけるブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧よりも、自車両におけるブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧を高い値に機械的に設定するものである。そのため、各トラック1a〜1cにおける最大チャンバ圧は各トラック1a〜1cごとに個別に設定され、第1トラック1aが最も小さな値になり、第3トラック1cが最も大きな値になる。
【0100】
すなわち、先頭車両である第1トラック1aが何らかの理由から手動により緊急フルブレーキを作動したとき(図12(a)参照)、1台目の後続車両である第2トラック1bでは、第1トラック1aの制動操作を検知してから自車両の制動操作が開始される。つまり、第2トラック1bは第1トラック1aの制動操作から遅れて制動を開始することとなる。そのため、第1トラック1aの制動開始時時点において、第1トラック1aと第2トラック1bとの間の車間距離H1は、隊列走行中(ここでは10m)よりも短くなる。
【0101】
その後、第2トラック1bが制動操作を開始すると、2台目の後続車両である第3トラック1cでは、第2トラック1bの制動操作を検知してから自車両の制動操作が開始される(図12(b)参照)。つまり、第3トラック1cは第2トラック1bの制動操作から遅れて制動を開始することとなる。そのため、第2トラック1bの制動開始時時点において、第2トラック1bと3トラック1cとの間の車間距離H2は、隊列走行中(ここでは10m)よりも短くなる。その後、第3トラック1cが制動操作を開始する(図12(c)参照)。
【0102】
ここで、第2トラック1bのブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧は、各比例制御弁34a,44aにより、第1トラック1aのブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧よりも機械的に高い値に設定される。また、第3トラック1cのブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧は、各比例制御弁34a,44aにより、第2トラック1bのブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧よりも機械的に高い値に設定される。
【0103】
そのため、図13に示すように、第1トラック1aにおける減速度よりも、第2トラック1bにおける減速度の方が大きな値となり、第2トラック1bにおける減速度よりも、さらに第3トラック1cにおける減速度の方が大きな値となる。これにより、第1トラック1a、第2トラック1b、第3トラック1cの順に次第にブレーキチャンバ圧が高くなり、後続車両になるほどブレーキ力が高いことが分かる。そのため、ブレーキ作動から車両停止までの時間(図中tで示す)は、第1トラック1a、第2トラック1b、第3トラック1cの順に短くなり、それに伴って制動距離も、第1トラック1a、第2トラック1b、第3トラック1cの順に短くなる。
【0104】
この結果、隊列走行の制御が失陥した場合であっても、各トラック1a〜1cにおけるそれぞれの制動性能の違いが担保される。そして、第2,第3トラック1b,1cが、予め確保していた車間距離(ここでは10m)分を移動する前に前走車両の制動操作を検出しなくても、前走車両に衝突することなく停止することができる(図12(d)参照)。すなわち、先頭車両である第1トラック1aにおけるフルブレーキ制動時の隊列走行の安定化を図ることができる。
【0105】
さらに、実施例1の隊列走行制御装置では、各トラック1a〜1cの積載量及び各トラック1a〜1cの走行速度に応じてブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧を設定する。
【0106】
すなわち、図9に示すフローチャートにおいて、ステップS32からステップS33→ステップS34へと進み、各トラック1a〜1cの最大減速度を積載量に基づいて設定する。さらに、ステップS35→ステップS36→ステップS37→ステップS38へと進み、走行速度に応じて最大エア圧の目標値を設定して、実際のエア圧が目標値を満足するように比例制御弁34a,44aによりエア圧を調圧する。
【0107】
積載量や走行速度に応じて各トラック1a〜1cに作用する慣性力は大幅に異なるものとなるが、積載量及び走行速度に応じて各ブレーキチャンバ32,42に加圧される最大エア圧を設定することで、エア圧を適切な値に設定することができる。この結果、車間距離が短くても各トラック1a〜1cをそれぞれ適切に制動させることができて、隊列走行の安定化性能の向上を図ることができる。
【0108】
そして、実施例1の隊列走行制御装置では、エアブレーキシステム20a,20b,20cは、それぞれ前輪3A,3Bを制動するフロントエアブレーキ30と、後輪4A,4B,4C,4Dを制動するリヤエアブレーキ40と、を有し、調圧セット34,44をフロントエアブレーキ30とリヤエアブレーキ40にそれぞれ設けている。
【0109】
そのため、前輪3A,3Bと、後輪4A,4B,4C,4Dとで制動力を個別に制御することができ、制動動作をさらに適切に行うことができる。
【0110】
次に、効果を説明する。
実施例1の隊列走行制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0111】
(1) 手動又は自動運転される先頭車両(第1トラック)1aと前記先頭車両1aに自動追従する後続車両(第2,第3トラック)1b,1cとの隊列走行を制御する隊列走行制御手段(統合コントローラ)10と、前記先頭車両1aと前記後続車両1b,1cをそれぞれ個別に制動するエアブレーキ手段(エアブレーキシステム)20a,20b,20cと、を備えた隊列走行制御装置において、
前記エアブレーキ手段20a,20b,20cは、
エアタンク(フロントエアタンク)31と、
前記エアタンク31内のエアの圧力によってブレーキを駆動するブレーキチャンバ32と、
前記エアタンク31と前記ブレーキチャンバ32を接続するエア通路33に設けられ、前走車両1aにおけるブレーキチャンバ32に加圧される最大エア圧よりも、自車両(例えば第2トラック)1bにおける前記ブレーキチャンバ32に加圧される最大エア圧を高い値に設定する調圧弁(比例制御弁)34aと、
前記エア通路33に並設され、前記調圧弁34aを迂回するように前記エア通路33から分岐したバイパス通路34eと、
を備え、
前記隊列走行制御手段10は、前記先頭車両1aと前記後続車両1b,1cとの隊列走行時、前記調圧弁34aを介して前記エアタンク31内のエアを前記ブレーキチャンバ32に供給し、前記先頭車両1aと前記後続車両1b,1cとの非隊列走行時、前記バイパス通路34eを介して前記エアタンク31内のエアを前記ブレーキチャンバ32に供給するように切り替える構成とした。
これにより、既存のEBSをベースにすることで既にEBSが持つ高い信頼性を継承しながら、システムの単純化が可能であり、また、製造コストの増加を抑えつつ、先頭車両におけるフルブレーキ制動時の隊列走行の安定化を図ることができる。
【0112】
(2) 前記エアブレーキ手段(エアブレーキシステム)20a,20b,20cは、前輪3A,3Bを制動するフロントエアブレーキ30と、後輪4A〜4Dを制動するリヤエアブレーキ40と、を有する構成とした。
これにより、前輪3A,3Bと、後輪4A,4B,4C,4Dとで制動力を個別に制御することができ、各車両の制動動作をさらに適切に行うことができる。
【0113】
(3) 前記調圧弁(比例制御弁)34aは、前記車両(第1〜第3トラック)1a〜1cの積載量に応じて前記最大エア圧を設定する構成とした。
これにより、各車両に作用する慣性力に応じて最大エア圧を設定することで、エア圧を適切な値に設定することができ、隊列走行の安定化性能を向上することができる。
【0114】
(4) 前記調圧弁(比例制御弁)34aは、前記車両(第1〜第3トラック)1a〜1cの走行速度に応じて前記最大エア圧を設定する構成とした。
これにより、各車両に作用する慣性力に応じて最大エア圧を設定することで、エア圧を適切な値に設定することができ、隊列走行の安定化性能を向上することができる。
【0115】
以上、本発明の隊列走行制御装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0116】
実施例1の隊列走行制御装置では、各車両の積載量をベローズ25aのベローズ圧に基づいて推定しているが、これに限らない。例えば、イグニッションスイッチをON操作した後の運転手が実際に実行したブレーキ操作から学習してもよい。すなわち、実際の減速度や積載量、走行速度に応じたブレーキチャンバ圧の実際の値をあらかじめ求めておく。そして、その値と実行したブレーキ操作で得られたブレーキチャンバ圧から積載量を推定する。
【0117】
また、実施例1の隊列走行制御装置では、積載量及び走行速度に応じて最大エア圧を設定しているが、例えば、ブレーキシューやディスクパッド、タイヤ等の経年変化、ばらつき、タイヤ特性等に応じて補正してもよい。
【0118】
さらに、第1,第2電磁バルブ34b,34cを用いて、隊列走行時と非隊列走行時の調圧セット34,44における切替を行っているが、これに限らない。例えば、図14に示すように、調圧弁である比例制御弁51及びバイパス通路52の上流側に切替弁50を設け、この切替弁50を操作することで、隊列走行時には比例制御弁51を介してエアタンク53内のエアをブレーキチャンバ54に供給し、非隊列走行時にはバイパス通路52を介してエアタンク53内のエアをブレーキチャンバ54に供給してもよい。
【符号の説明】
【0119】
1a 第1トラック(先頭車両)
1b 第2トラック(後続車両)
1c 第3トラック(後続車両)
3A,3B 前輪
4A,4B,4C,4D 後輪
10 統合コントローラ(隊列走行制御手段)
20a,20b,20c エアブレーキシステム(エアブレーキ手段)
21 ブレーキコントローラ
24 エア圧センサ
25 ベローズ圧センサ
26 加速度センサ
27 車速センサ
30 フロントエアブレーキ
31 フロントエアタンク(エアタンク)
32 ブレーキチャンバ
33 エア通路
34 調圧セット
34a 比例制御弁(調圧弁)
34b 第1電磁バルブ
34c 第2電磁バルブ
34d ダブルチェック弁
34e バイパス通路
35 フロントEBSモジュール
40 リヤエアブレーキ
41 リヤエアタンク(エアタンク)
42 ブレーキチャンバ
43 エア通路
44 調圧セット
44a 比例制御弁(調圧弁)
44b 第1電磁バルブ
44c 第2電磁バルブ
44d ダブルチェック弁
44e バイパス通路
45 リヤEBSモジュール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
手動又は自動運転される先頭車両と前記先頭車両に自動追従する後続車両との隊列走行を制御する隊列走行制御手段と、前記先頭車両と前記後続車両をそれぞれ個別に制動するエアブレーキ手段と、を備えた隊列走行制御装置において、
前記エアブレーキ手段は、
エアタンクと、
前記エアタンク内のエアの圧力によってブレーキを駆動するブレーキチャンバと、
前記エアタンクと前記ブレーキチャンバを接続するエア通路に設けられ、前走車両におけるブレーキチャンバに加圧される最大エア圧よりも、自車両における前記ブレーキチャンバに加圧される最大エア圧を高い値に設定する調圧弁と、
前記エア通路に並設され、前記調圧弁を迂回するように前記エア通路から分岐したバイパス通路と、
を備え、
前記隊列走行制御手段は、前記先頭車両と前記後続車両との隊列走行時、前記調圧弁を介して前記エアタンク内のエアを前記ブレーキチャンバに供給し、前記先頭車両と前記後続車両との非隊列走行時、前記バイパス通路を介して前記エアタンク内のエアを前記ブレーキチャンバに供給するように切り替えることを特徴とする隊列走行制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載された隊列走行制御装置において、
前記エアブレーキ手段は、前輪を制動するフロントエアブレーキと、後輪を制動するリヤエアブレーキと、を有することを特徴とする隊列走行制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された隊列走行制御装置において、
前記調圧弁は、前記車両の積載量に応じて前記最大エア圧を設定することを特徴とする隊列走行制御装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された隊列走行制御装置において、
前記調圧弁は、前記車両の走行速度に応じて前記最大エア圧を設定することを特徴とする隊列走行制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−256167(P2012−256167A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128306(P2011−128306)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【出願人】(591056927)一般財団法人日本自動車研究所 (26)
【Fターム(参考)】