説明

電力分配回路

【課題】差動入力信号を入力し1対の差動出力信号を出力する際、差動出力信号間の回路誤差を低減する。
【解決手段】電力分配回路10はトランス2A、2B及び加算回路3を含む構成である。トランス2Aの出力信号は、正相信号(Vout2Ap)の位相θ1+90°、逆相信号(Vout2An)の位相θ1−90°の差動信号として出力される。トランス2Bの出力信号は、正相信号(Vout2Bp)の位相θ2+90°、逆相信号(Vout2Bn)の位相θ2−90°の差動信号として出力される。加算回路3は、トランス2A,2Bからの2対の差動信号を、正相信号及び逆相信号毎にベクトル加算し、1対の差動出力信号に合成する。差動出力信号は、トランス2A,2Bにおいて生じた位相誤差(θ1−θ2)が補正された信号として得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、差動入力信号を入力し1対の差動出力信号を出力する電力分配回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波帯域信号を使用するWiGig(Wireless Gigabit)規格の様な高速伝送の無線通信規格においては、無線通信部の回路特性の劣化(例えば誤差)が通信性能に与える影響が大きくなってきている。
【0003】
このため、アンテナからの入力信号を無線通信部において不平衡平衡変換する際、不平衡平衡変換によって出力される差動出力信号間の誤差について高い精度が要求され、誤差を低減する回路方式が重要となってきている。
【0004】
図10は、従来の一般的な不平衡平衡変換する回路を用いた差動増幅回路の構成を示す回路構成図である。差動増幅回路は、初段アンプAMP11、それぞれ並列接続された次段アンプAMP12A,12B、及び、トランス20を含む構成である。差動増幅回路は、初段アンプAMP11及び次段アンプAMP12A,AMP12Bを用いた増幅器によって、不平衡入力信号を増幅する。更に、差動増幅回路は、不平衡入力信号を増幅した後、不平衡平衡変換のためのトランス20を用いて、増幅器の出力信号を差動出力信号(平衡出力信号)に変換して出力する。
【0005】
図10の差動増幅回路においては、トランス20において不平衡平衡変換するため、トランス20単体の差動出力信号間の誤差が、差動出力信号を出力する差動増幅回路の誤差として出力される。
【0006】
図11(a)は、従来の差動増幅回路におけるトランス20に基づく差動出力信号間の誤差について説明するための説明図である。図11(b)は、入力信号振幅Vinを示すための説明図である。図11(c)は、出力信号振幅Voutp,Voutn及び位相θ1,θ2を示すための説明図である。図11(a)において、トランス20の差動出力信号は、数式(1)により表される。
【0007】
【数1】

【0008】
数式(1)において、パラメータkは入力信号振幅Vinと出力信号振幅Voutnとの結合係数(k≦1)、パラメータαは出力信号振幅Voutp,Voutnのゲイン誤差(α≦1)である。更に、数式(1)において、パラメータθ1は出力信号振幅Voutpの基準位相0°[度]からの位相、パラメータθ2は出力信号振幅Voutnの基準位相0°[度]の逆位相に相当する反転位相180°[度]からの位相である。
【0009】
理想的なトランス(以下、「理想トランス」という)の差動出力信号においては、入力信号振幅をVin、出力信号振幅をVoutp、Voutnとすると、入出力信号間のゲイン差は、結合係数k=(Voutp−Voutn)/Vinとして表される。更に、入出力信号間の位相差は、正相信号端(Vinp)ではθ1=90°、逆相信号端(Vinn)ではθ2=90°と逆位相となる。従って、理想トランスの差動出力信号間の2つの出力信号の対向角の差となる位相誤差Δθは、Δθ=θ1−θ2=0°となる。
【0010】
しかし、実際のトランスにおいては、差動出力信号間の配線が完全な対称配置とはならない。このため、差動出力信号間のゲイン誤差α=Voutp/Voutnが発生する。更に、差動出力信号間の配線が完全な対称配置とならないために、トランスの出力側インダクタンスが実抵抗成分を持つ。これにより、トランスの差動出力信号の位相が、トランスの出力側における中点のGND接地点を起点に対称に90°シフトせず、正相及び逆相においてそれぞれ異なる値となる。従って、実際のトランスにおいては、差動出力信号間の位相誤差Δθとして、Δθ=θ1−θ2≠0°が発生する。
【0011】
即ち、実際のトランスにおいては、例えば差動出力信号間のゲイン誤差α=2dB、位相誤差Δθ=10°が発生する。この回路特性は、図10の差動出力信号の誤差として発生する。また、この回路特性は、例えばゲイン誤差α≦1dB、位相誤差Δθ≦5°を仕様とする様な、高精度を要求する無線通信規格(例えばWiGig)においては満足されず、無線通信品質の劣化が生じることになる。
【0012】
不平衡平衡変換において生じる差動出力信号間の誤差を低減するための回路が従来から知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1の可変電力分配器について図12(a)を参照して説明する。図12(a)は、従来の不平衡平衡変換において生じる差動出力信号間の誤差を低減するための可変電力分配器の構成を示す回路構成図である。
【0013】
図12(a)の可変電力分配器は、ハイブリッド回路(HYB)106、2つの増幅器101、2つの可変ゲイン回路107、2つの可変位相回路108、及びハイブリッド回路109を含む構成である。
【0014】
ハイブリッド回路106は、可変電力分配器に入力された不平衡信号を2分配し、位相をずらして出力する。2つの増幅器101は、ハイブリット回路(HYB)106からの2つの出力信号を増幅する。2つの可変ゲイン回路107は、それぞれ接続されている各増幅器101からの出力信号のゲインを調整する。
【0015】
2つの可変位相回路108は、それぞれ接続されている各可変ゲイン回路107からの出力信号の位相を調整する。ハイブリッド回路109は、2つの可変位相回路108から出力される2つの出力信号を再度加算する。可変電力分配器は、ハイブリッド回路109の加算によって平衡変換された2つの出力信号を出力する。
【0016】
また、可変電力分配器は、誤差検出回路110及び誤差制御回路111を更に含む構成である。誤差検出回路110は、ハイブリッド回路109の加算によって平衡変換された2つの出力信号間の位相及びゲイン誤差を検出する。誤差制御回路111は、誤差検出回路110の検出結果に応じて、可変ゲイン回路107及び可変位相回路108におけるゲイン及び位相を調整する。
【0017】
従って、ハイブリッド回路109から出力される2つの出力信号は、ゲイン及び位相の各誤差を無くすために、可変ゲイン回路107及び可変位相回路108において誤差成分がフィードバックされることによって補正される。これにより、可変電力分配器は、ゲイン及び位相の誤差を低減した出力信号を得ることができる。
【0018】
また、従来の他の文献として、特許文献2の平衡変換回路が知られている。図12(b)は、従来の不平衡平衡変換において生じる差動出力信号間の誤差を低減するための平衡変換回路の構成を示す回路構成図である。
【0019】
平衡変換回路は、増幅器205、2つのエミッタフォロア回路209を含む構成である。増幅器205は、入力された不平衡入力信号を差動信号に変換して出力する。2つのエミッタフォロア回路209は、増幅器205から出力された差動信号を調整可能な、異なる負荷抵抗を有し、増幅器205から出力された差動信号をそれぞれ増幅して出力する。
【0020】
平衡変換回路は、2つのエミッタフォロア回路209に設けられた負荷抵抗の抵抗値を調整することによって、増幅器205の出力段に設けられたトランジスタ間において生じた差動出力信号の振幅誤差を調整できる。また、負荷抵抗の抵抗値を調節すると、負荷抵抗に内在する寄生容量値も変動することになる。従って、寄生容量値を変動させることで、位相調整できる。平衡変換回路は、2つのエミッタフォロア回路209から出力される差動出力信号間の振幅及び位相を調整し、誤差を低減した出力を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特許第4166787号公報
【特許文献2】特公平8−21820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、上述した特許文献1の可変電力分配器には、次の様な問題があった。即ち、2つの差動出力信号間のゲイン及び位相の各誤差を調整する方法においては、図12(a)に示す様な回路が必要であった。具体的には、2つの差動出力信号間の誤差を検出するための誤差検出回路と、検出された誤差をフィードバックして可変ゲイン回路及び可変位相回路を制御するための誤差制御回路とが必要となる。このため、上述した特許文献1の可変電力分配器においては、回路規模及び消費電流が増大した。
【0023】
また、図12(b)に示す平衡変換回路においては、図12(a)の可変電力分配器の回路構成と比べ、差動出力信号間の誤差を検出する誤差検出回路を省略することはできる。しかしながら、差動出力信号間の誤差を調整するためのゲイン及び位相調整回路を差動出力信号の出力端に追加し、差動出力信号間の誤差が低減するために事前に初期調整をしておく必要が生じる。更に、差動出力信号を負荷抵抗の抵抗値の増減によって調整するため、抵抗を追加したことにより、増幅器の無線性能として、例えば、ゲイン特性又は飽和特性を劣化させる問題があった。
【0024】
そこで、本発明は、上述した従来の事情に鑑みてなされたものであり、1対の差動入力信号を入力し1対の差動出力信号を出力する際、回路規模及び消費電流を増大させることなく、また、無線性能を劣化させることなく、差動出力信号間の回路誤差を低減する電力分配回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、1対の差動入力信号を入力して1対の差動出力信号を出力する電力分配回路であって、前記1対の差動入力信号の正相信号を入力して差動信号を出力する第1の不平衡平衡変換回路と、前記1対の差動入力信号の逆相信号を入力して差動信号を出力する第2の不平衡平衡変換回路と、前記第1及び第2の各不平衡平衡変換回路から出力される2対の差動信号を、前記正相信号及び前記逆相信号ごとに加算して前記1対の差動出力信号を出力する加算回路と、を備える。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、1対の差動出力信号を出力する際、回路規模及び消費電流を増大させることなく、また、無線性能を劣化させることなく、差動出力信号間の回路誤差を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1の実施形態における電力分配回路の構成を示す回路構成図
【図2】(a)理想トランスに入力される不平衡入力信号を実虚数座標に示した図、(b)理想トランスに入力される差動入力信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図、(c)一方のトランスからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図、(d)他方のトランスからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図、(e)加算回路からの出力信号である差動出力信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図
【図3】(a)加算回路の構成の一例を示す図、(b)加算回路の構成の他の一例を示す図
【図4】第2の実施形態における電力分配回路の構成を示す回路構成図
【図5】(a)理想トランスに入力される不平衡入力信号を実虚数座標に示した図、(b)理想トランスから出力された差動信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図、(c)一方のトランスからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図、(d)他方のトランスからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図、(e)加算回路からの出力信号である差動出力信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図
【図6】(a)理想トランスでないトランスに入力される不平衡入力信号を実虚数座標に示した図、(b)理想トランスでないトランスから出力された差動信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図、(c)一方の理想トランスでないトランスからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図、(d)他方の理想トランスでないトランスからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図、(e)加算回路からの出力信号である差動出力信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図
【図7】コンデンサ及びDC電圧電源が接続された場合の電力分配回路の構成を示す回路構成図
【図8】(a)第3の実施形態における電力分配回路の構成を示す回路構成図、(b)トランスの構成の一例を示す図
【図9】(a)第4の実施形態における電力分配回路の構成を示す回路構成図、(b)トランスの構成の一例を示す図
【図10】従来の一般的な不平衡平衡変換する回路を用いた差動増幅回路の構成を示す回路構成図
【図11】(a)従来の差動増幅回路におけるトランスに基づく差動出力信号間の誤差について説明するための説明図、(b)入力信号振幅Vinを示すための説明図、(c)出力信号振幅Voutp,Voutn及び位相θ1,θ2を示すための説明図
【図12】(a)従来の不平衡平衡変換において生じる差動出力間の誤差を低減するための可変電力分配器の構成を示す回路構成図、(b)従来の不平衡平衡変換において生じる差動出力間の誤差を低減するための平衡変換回路の構成を示す回路構成図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る電力分配回路の実施形態について、図面を参照して説明する。本実施形態の電力分配回路は、例えば、ミリ波、マイクロ波の周波数帯域の信号を、アンテナを介して受信する無線回路に適用可能である。
【0029】
(第1の実施形態)
第1の実施形態においては、差動入力信号の位相誤差の補正について説明する。図1は、第1の実施形態における電力分配回路10の構成を示す回路構成図である。電力分配回路10は、平衡入力信号(差動入力信号)が入力されるトランス2A,2B、及びトランス2A,2Bから出力された各差動信号を加算して平衡出力信号(差動出力信号)を出力する加算回路3を含む構成である。トランス2A,2Bは、それぞれ第1の不平衡平衡変換回路,第2の不平衡平衡変換回路の一例として示したものであり、それぞれ入力された差動入力信号の正相信号又は逆相信号を不平衡平衡変換して差動信号を得る。
【0030】
本実施形態においては、説明を簡略化するために、トランス2A,2Bは理想トランス(k=α=1、Δθ=0°)とする。以下、トランス2A,2Bの結合係数をパラメータk、ゲイン誤差をパラメータα、位相誤差をパラメータΔθとして表す。なお、理想トランスでない場合については、後述する。
【0031】
本実施形態においては、トランス2Aに入力される差動入力信号の正相信号の位相をθ1、トランス2Bに入力される差動入力信号の逆相信号の位相をθ2−180°(θ1≠θ2)、結合係数k=1とする。更に、本実施形態においては、図1の電力分配回路10に入力される差動入力信号の正相信号及び逆相信号の間に位相誤差が含まれるとする。
【0032】
図2(a)は、理想トランス(トランス2A,2B)に入力される不平衡入力信号を実虚数座標に示した図である。図2(b)は、理想トランス(トランス2A,2B)に入力される差動入力信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。図2(c)は、一方のトランス2Aからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。図2(d)は、他方のトランス2Bからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。図2(e)は、加算回路3からの出力信号である差動出力信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。
【0033】
図2(a)に示す様に、不平衡入力信号(差動入力信号、Vin)を、実虚数座標に表した際の実軸上のベクトルとして設定すると、差動入力信号の正相信号(Vout1p)の位相がθ1、差動入力信号の逆相信号(Vout1n)の位相がθ2−180°として表される(図2(b)参照)。
【0034】
また、トランス2A,2Bが理想トランスとする場合、理想トランスによる入出力信号間の位相シフト量は±90°と表せる。即ち、差動入力信号の正相信号Vout1pのトランス2Aの出力信号(Vout2Ap,Vout2An)は、正相信号(Vout2Ap)の位相θ1+90°、逆相信号(Vout2An)の位相θ1−90°の差動出力信号として出力される(図2(c)参照)。
【0035】
同様に、差動入力信号の逆相信号Vout1nのトランス2Bの出力信号(Vout2Bp,Vout2Bn)は、正相信号(Vout2Bp)の位相θ2+90°、逆相信号(Vout2Bn)の位相θ2−90°の差動出力信号として出力される(図2(d)参照)。
【0036】
加算回路3は、トランス2A,2Bから出力された計2対の差動信号を、同じベクトル方向を持つ同相成分の差動信号をベクトル加算し、1対の差動出力信号に合成する。具体的には、加算回路3は、トランス2Aからの正相信号(Vout2Ap)とトランス2Bからの正相信号(Vout2Bp)とを加算して差動出力信号(Voutp)とし、更に、トランス2Bからの逆相信号(Vout2An)とトランス2Bからの逆相信号(Vout2Bn)とを加算して差動出力信号(Voutn)とする。
【0037】
本実施形態においてはトランス2A,2Bの各振幅誤差を理想(k=α=1)に設定しているため、2つのトランス2A,2Bからそれぞれ出力される計2対の差動出力信号のベクトルの大きさは同じである。即ち、加算回路3から出力された正相信号(Voutp)の位相は、(θ1+θ2)/2+90°となる。加算回路3から出力された逆相信号(Voutn)の位相は、(θ1+θ2)/2−90°となる。
【0038】
これにより、本実施形態の電力分配回路10において、加算回路3から出力された1対の差動出力信号(Voutp,Voutn)間の対向角の誤差である位相誤差Δθは、数式(2)により0(ゼロ)となる。
【0039】
【数2】

【0040】
本実施形態の電力分配回路10は、加算回路3から出力された1対の差動出力信号を、トランス2A,2Bにおいて生じた位相誤差(θ1−θ2)が補正された差動出力信号として得ることができる。
【0041】
図3(a)は、加算回路3の構成の一例を示す図である。図3(a)に示す様に、加算回路3は、トランス2A,2Bからの出力信号である2対の差動入力信号(第1の差動入力信号と第2の差動入力信号)の同相成分の差動入力信号を加算して1対の差動出力信号を出力する。
【0042】
例えば、図3(a)に示す様に、伝送線路8を用いて加算回路3が構成されている場合、加算回路3は、2つの同相成分(例えば正相信号Vout2Apと正相信号Vout2Bp,逆相信号Vout2Anと逆相信号Vout2Bn)の差動入力信号をそれぞれ同じ長さをもつ伝送線路8において結合(加算)する。更に、加算回路3は、伝送線路8の中点から結合(加算)された1対の差動出力信号を取り出すことによって、容易に1対の差動出力信号(例えばVoutpとVoutn)を得ることができる。
【0043】
加算回路3を、図3(a)の伝送線路8を用いて構成されるので、デバイスプロセス上の配線によって作製される場合、能動素子として、例えば、トランジスタを用いた場合と比較して、精度の良い、ばらつきの少ない加算回路3を作製できる。
【0044】
また、図3(b)に示す様に、各トランス2A,2Bから出力された対角線方向(異相成分)の差動出力信号を向き合わせる様に伝送線路8を用いて加算回路3を構成した場合、加算回路3は、2つの差動出力信号間を等長配線の短い伝送線路8を結ぶことによって簡易に実現可能である。これにより、加算回路3の単体の差動出力信号間の誤差を低減できる。従って、加算回路3から出力される差動出力信号(Voutp,Voutn)の差動出力信号の位相誤差を低減できる。
【0045】
第1の実施形態の電力分配回路10によれば、差動入力信号の正相信号及び逆相信号をトランス2A,2Bの不平衡平衡変換によってそれぞれ位相誤差を持つ2対の差動出力信号に変換し、2対の差動出力信号を加算回路3において1対の差動出力信号に合成する。これにより、電力分配回路10は、トランス2A,2Bから出力される2対の差動信号の誤差を正相信号及び逆相信号ごとに平均化し、加算回路3から出力された1対の差動出力信号間における回路誤差(位相誤差)を低減できる。
【0046】
従って、電力分配回路10は、差動出力信号間の誤差検出回路、可変ゲイン及び可変位相回路の誤差補正回路を追加して回路規模及び消費電流を増大させることなく、簡易的な回路構成により差動出力信号間の誤差を低減できる。即ち、電力分配回路10は、差動出力信号を出力する際、回路規模及び消費電流を増大させることなく、また、無線性能を劣化させることなく、差動出力信号間の回路誤差を低減できる。
【0047】
(第2の実施形態)
図4は、第2の実施形態における電力分配回路10Aの構成を示す回路構成図である。第1の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を用いることにより、説明を省略する。
【0048】
第2の実施形態の電力分配回路10Aは、第1の実施形態の電力分配回路10と比べ、増幅器AMP1において増幅された不平衡入力信号(シングルエンド信号)をトランス1において不平衡平衡変換して得られた差動信号を、1対の差動入力信号として増幅する回路を更に含む構成である。
【0049】
即ち、電力分配回路10Aは、増幅器AMP1、トランス1、増幅器AMP2A,2B、トランス2A,2B及び加算回路3を含む構成である。増幅器AMP1は、電力分配回路10Aに入力された不平衡入力信号(シングルエンド信号)を増幅する。増幅器AMP2A,AMP2Bは、それぞれ第1の増幅器,第2の増幅器の一例として示したものであり、トランス1から出力された差動信号の正相信号又は逆相信号をそれぞれ増幅する。
【0050】
また、各増幅器AMP1,AMP2A,2Bにおいて増幅された信号は、入力信号が不平衡信号である場合には、不平衡信号として増幅されて出力される。
【0051】
第3の不平衡平衡変換回路としてのトランス1は、増幅器AMP1において増幅された不平衡信号を不平衡平衡変換して差動信号を出力する。トランス1が上述した数式(1)(図11参照)に示す様な入出力特性を有する場合、理想トランスにおいては、出力信号である差動信号間のゲイン誤差α=1倍、位相誤差Δθ=θ1−θ2=0°となり、ゲイン誤差及び位相誤差が生じないことになる。しかし、実際のトランスにおいては、差動出力信号間の配線が完全な対称配置とならないため、差動出力信号間に位相誤差が発生する。
【0052】
トランス1からの出力信号である差動信号間に生じる位相誤差(θ1−θ2)は、第1の実施形態において説明した差動入力信号間の位相誤差と同じとなる。従って、第1の実施形態と同様、本実施形態の電力分配回路10Aは、加算回路3から出力される差動出力信号として、差動出力信号間における位相誤差が改善された1対の差動出力信号を得ることができる。
【0053】
次に、第1及び第2の不平衡平衡変換回路であるトランス2A及び2Bが理想トランスでない場合に、各トランス2A及び2Bからの出力信号である差動信号間の誤差が生じた場合について説明する。
【0054】
先ず、トランス2A,2Bからの出力信号である差動信号間に発生する位相誤差について、図4を参照して説明する。
【0055】
各増幅器AMP1、AMP2A、AMP2Bのゲインを1倍とし、トランス1を理想トランス(k=α=1、Δθ=0°)とし、トランス2A,2Bの位相誤差は、各トランス2A,2Bが同じ形状であることを想定して同値とする。即ち、ゲイン誤差α=1倍、トランス2Aからの差動出力信号の正相信号の位相をパラメータθ3、トランス2Aからの差動出力信号の逆相信号の位相をθ4−180°(θ3≠θ4)、結合係数k=1と表すとする。
【0056】
図5(a)は、理想トランス(トランス1)に入力される不平衡入力信号を実虚数座標に示した図である。図5(b)は、理想トランス(トランス1)から出力された差動信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。図5(c)は、一方のトランス2Aからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。図5(d)は、他方のトランス2Bからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。図5(e)は、加算回路3からの出力信号である差動出力信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。
【0057】
図5(a)に示す様に、トランス1に入力される不平衡入力信号(シングルエンド信号、Vin)を、実虚数座標に表した際の実軸上のベクトルとして設定すると、トランス1から出力された差動信号の正相信号(Vout1p)の位相は+90°として表される(図5(b)参照)。また、トランス1から出力された差動信号の逆相信号(Vout1n)の位相が−90°として表される(図5(b)参照)。
【0058】
トランス2Aは、トランス1からの差動信号の正相信号(Vout1p)を入力して不平衡平衡変換し、正相信号(Vout2Ap)及び逆相信号(Vout2An)を出力する(図5(c)参照)。図5(c)に示す様に、トランス2Aから出力された正相信号(Vout2Ap)の位相は(θ3+90°)、トランス2Aから出力された逆相信号(Vout2An)の位相は(θ4−90°)として出力される。
【0059】
トランス2Bは、トランス1からの差動信号の逆相信号(Vout1n)を入力して不平衡平衡変換し、正相信号(Vout2Bp)及び逆相信号(Vout2Bn)を出力する(図5(d)参照)。図5(d)に示す様に、トランス2Bから出力された正相信号(Vout2Bp)の位相は(θ3−90°)、トランス2Bから出力された逆相信号(Vout2Bn)の位相は(θ4+90°)として出力される。
【0060】
加算回路3は、トランス2A,2Bから出力された計2対の差動信号を、同じベクトル方向を持つ同相成分の差動信号をベクトル加算し、1対の差動出力信号に合成する。具体的には、加算回路3は、トランス2Aからの正相信号(Vout2Ap)とトランス2Bからの正相信号(Vout2Bp)とを加算して差動出力信号(Voutp)とし、更に、トランス2Bからの逆相信号(Vout2An)とトランス2Bからの逆相信号(Vout2Bn)とを加算して差動出力信号(Voutn)とする。
【0061】
1対の差動出力信号に合成した場合、トランス2A,2Bの振幅誤差を理想(k=α=1)に設定しているため、2つのトランス2A,2Bから出力される2対の差動信号のベクトルの大きさは、同じ大きさとなる。
【0062】
即ち、加算回路3から出力される1対の差動出力信号の正相信号(Voutp)の位相は(θ3+θ4)/2+90°となり、逆相信号(Voutn)の位相は(θ3+θ4)/2−90°となる。これにより、本実施形態の電力分配回路10Aにおいて、加算回路3から出力された1対の差動出力信号(Voutp,Voutn)間の対向角の誤差である位相誤差Δθは、数式(3)により0(ゼロ)となる。
【0063】
【数3】

【0064】
本実施形態の電力分配回路10Aは、加算回路3から出力された1対の差動出力信号を、トランス2A,2Bにおいて生じた位相誤差(θ3−θ4)が補正された差動出力信号として得ることができる。
【0065】
次に、全てのトランス1,2A,2Bが理想トランスでない場合に、各トランス1,2A,2Bからの出力信号である差動信号間に誤差が生じた場合について説明する。
【0066】
トランス1,2A,2Bからの出力信号である差動信号間に発生する位相誤差について、図4を参照して説明する。
【0067】
各増幅器AMP1、AMP2A、AMP2Bのゲインを1倍とし、トランス2A,2Bの位相誤差は、各トランス2A,2Bが同じ形状であることを想定して同値とする。即ち、ゲイン誤差α=1倍、トランス1からの差動出力信号の正相信号の位相をパラメータθ1、トランス1からの差動出力信号の逆相信号の位相をθ2−180°(θ1≠θ2)、トランス2Aからの差動出力信号の正相信号の位相をパラメータθ3、トランス2Aからの差動出力信号の逆相信号の位相をθ4−180°(θ3≠θ4)、結合係数k=1と表すとする。
【0068】
図6(a)は、理想トランスでないトランス1に入力される不平衡入力信号を実虚数座標に示した図である。図6(b)は、理想トランスでないトランス1から出力された差動信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。図6(c)は、一方の理想トランスでないトランス2Aからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。図6(d)は、他方の理想トランスでないトランス2Bからの出力信号である正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。図6(e)は、加算回路3からの出力信号である差動出力信号の正相信号及び逆相信号の各位相を示した図である。
【0069】
図6(a)に示す様に、トランス1に入力される不平衡入力信号(シングルエンド信号、Vin)を、実虚数座標に表した際の実軸上のベクトルとして設定すると、トランス1から出力された差動信号の正相信号(Vout1p)の位相は+90°ではなくθ1として表される(図2(b)及び図5(b)参照)。また、トランス1から出力された差動信号の逆相信号(Vout1n)の位相は−90°ではなく−θ2として表される(図2(b)及び図5(b)参照)。
【0070】
トランス2Aは、トランス1からの差動信号の正相信号(Vout1p)を入力して不平衡平衡変換し、正相信号(Vout2Ap)及び逆相信号(Vout2An)を出力する(図6(c)参照)。図6(c)に示す様に、トランス2Aから出力された正相信号(Vout2Ap)の位相は、図5(c)の正相信号(Vout2Ap)の位相が(90°−θ1)減少する方向に回転することによって(θ3−90°+θ1)となる。更に、トランス2Aから出力された逆相信号(Vout2An)の位相は、同様に図5(c)の逆相信号(Vout2An)の位相が(90°−θ1)減少する方向に回転することによって(θ4−90°+θ1)となる。
【0071】
トランス2Bは、トランス1からの差動信号の逆相信号(Vout1n)を入力して不平衡平衡変換し、正相信号(Vout2Bp)及び逆相信号(Vout2Bn)を出力する(図6(d)参照)。図6(d)に示す様に、トランス2Bから出力された正相信号(Vout2Bp)の位相は、図5(d)の正相信号(Vout2Bp)の位相が(90°−θ2)減少する方向に回転することによって(θ3−90°+θ2)となる。更に、トランス2Bから出力された逆相信号(Vout2Bn)の位相は、同様に図5(d)の逆相信号(Vout2Bn)の位相が(90°−θ2)減少する方向に回転することによって(θ4−90°+θ2)となる。
【0072】
加算回路3は、トランス2A,2Bから出力された計2対の差動信号を、同じベクトル方向を持つ同相成分の差動信号をベクトル加算し、1対の差動出力信号に合成する。具体的には、加算回路3は、トランス2Aからの正相信号(Vout2Ap)とトランス2Bからの正相信号(Vout2Bp)とを加算して差動出力信号(Voutp)とし、更に、トランス2Bからの逆相信号(Vout2An)とトランス2Bからの逆相信号(Vout2Bn)とを加算して差動出力信号(Voutn)とする。
【0073】
1対の差動出力信号に合成した場合、トランス2A,2Bの振幅誤差を理想(k=α=1)に設定しているため、2つのトランス2A,2Bから出力される2対の差動信号のベクトルの大きさは、同じ大きさとなる。
【0074】
即ち、加算回路3から出力される1対の差動出力信号の正相信号(Voutp)の位相は(θ1+θ2+θ3+θ4−180°)/2となり、逆相信号(Voutn)の位相も(θ1+θ2+θ3+θ4−180°)/2となる。これにより、本実施形態の電力分配回路10Aにおいて、加算回路3から出力された1対の差動出力信号(Voutp,Voutn)間の対向角の誤差である位相誤差Δθは、数式(4)により0(ゼロ)となる。
【0075】
【数4】

【0076】
本実施形態の電力分配回路10Aは、加算回路3から出力された1対の差動出力信号を、トランス1,2A,2Bにおいて生じた位相誤差{(θ1−θ2),(θ3−θ4)}が補正された差動出力信号として得ることができる。
【0077】
次に、トランス2A,2Bからの出力信号である差動信号間に発生する振幅誤差について、図4を参照して説明する。トランス2A,2Bの振幅誤差について説明するため、各トランス2A,2Bの結合係数k=1であって、位相誤差Δθは理想的に0°(ゼロ度)とする。
【0078】
トランス1からの出力信号である差動信号の正相信号(Vout1p)の振幅はVin/2であり、トランス1からの出力信号である差動信号の逆相信号(Vout1n)の振幅は(Vin/2)*αである。
【0079】
トランス2Aからの出力信号である差動信号の正相信号(Vout2Ap)の振幅は、(Vin/4)*αとなり、トランス2Aからの出力信号である差動信号の逆相信号(Vout2An)の振幅はVin/4となる。なお、トランス2Aには、トランス1からの出力信号である差動信号の正相信号(Vout1p)が入力されている。
【0080】
更に、トランス2Bからの出力信号である差動信号の正相信号(Vout2Bp)の振幅は(Vin/4)*αとなり、トランス2Bからの出力信号である差動信号の逆相信号(Vout2Bn)の振幅は(Vin/4)*αとなる。なお、トランス2Bには、トランス1からの出力信号である差動信号の逆相信号(Vout1n)が入力されている。
【0081】
加算回路3からの出力信号である差動出力信号の正相信号(Voutp)の振幅は、トランス2Aからの差動信号の正相信号(Vout2Ap)の振幅とトランス2Bからの差動信号の正相信号(Vout2Bp)の振幅との加算によって、(Vin/4)*2αとなる。更に、加算回路3からの出力信号である差動出力信号の逆相信号(Voutn)の振幅は、トランス2Aからの差動信号の逆相信号(Vout2An)の振幅とトランス2Bからの差動信号の逆相信号(Vout2Bn)の振幅との加算によって、Vin/4*(1+α)となる。なお、加算回路3から出力される差動出力信号の正相信号及び逆相信号を、1対の差動出力信号と呼ぶ。
【0082】
図10に示す様に1つのトランスを用いて不平衡平衡変換した場合、トランス1の出力と同様に、加算回路3からの差動出力信号における正相信号及び逆相信号間の振幅誤差(ΔVとする)は、ΔV=Vin*(1−α)/2となる。一方、本実施形態の様に、図4の電力分配回路10Aの構成においては、差動出力信号における正相信号及び逆相信号間の振幅誤差ΔVは、ΔV=Vin*((1−α)/2)となる。
【0083】
従って、図4の電力分配回路10Aの加算回路3から出力された1対の差動出力信号においては、図10の様に1つのトランスを用いて不平衡平衡変換する場合と比較して、差動出力信号間の誤差が2乗精度(ばらつき量の2乗の割合に反比例する精度)で改善できる。
【0084】
例えば、α=0.9では、1つのトランスの差動出力信号間の振幅誤差ΔVはΔV=1/20となるが、図4の電力分配回路10Aの構成の不平衡平衡変換においては、差動出力信号間の振幅誤差ΔVはΔV=1/400となり、振幅誤差ΔVが補正された出力信号を得ることができる。
【0085】
第2の実施形態の電力分配回路10Aによれば、第1及び第2の不平衡平衡変換回路(トランス2A,2B)において生じる差動信号間における振幅誤差及び位相誤差を持つ2対の差動信号を加算回路3において1対の差動出力信号に加算(合成)する。
【0086】
従って、電力分配回路10Aは、第1及び第2の不平衡平衡変換回路(トランス2A,2B)から出力される2対の差動信号の誤差を正相信号及び逆相信号ごとに平均化し、加算回路3から出力された1対の差動出力信号間における回路誤差(位相誤差Δθ、振幅誤差ΔV)を低減できる。特に振幅誤差ΔVについては、第1及び第2の不平衡平衡変換回路(トランス2A,2B)において不平衡平衡変換するため、図10の様に1つの不平衡平衡変換回路(トランス)を用いて不平衡平衡変換する場合と比較して、1対の差動出力信号間の誤差が2乗精度で改善できる。
【0087】
従って、電力分配回路10Aは、差動出力信号間の誤差検出回路、可変ゲイン及び可変位相回路の誤差補正回路を追加して回路規模及び消費電流を増大させることなく、簡易的な回路構成を用いて差動出力信号間の誤差を低減できる。
【0088】
なお、不平衡平衡変換するトランス1、2A、2Bにおいては、無入力となる入力端子、及び、差動信号の正相信号及び逆相信号の出力端子の中間点は、グランド(GND)に接続されている。また、入力端子及び中間点に、入力信号の周波数においてAC的にGND接続となるコンデンサが接続されてもよい。図7は、コンデンサ及びDC電圧電源が接続された場合の電力分配回路10Aの構成を示す回路構成図である。
【0089】
図7の電力分配回路10Aにおいて、上述した中間点と接地点との間、入力端子と接地点との間には、それぞれコンデンサ4A、4Bが介在されている。また、増幅器2A、2BはFET(Field Effect Transistor)を用いて構成されている。また、DC電圧電源(定電圧電源)5A、5Bは、AC(Alternating Current:交流)的にGND接続となるコンデンサ4A、4Bとそれぞれ並列に接続され、電源となるDC電圧を供給可能である。
【0090】
DC電圧電源5Aはバイアス電圧を供給し、DC電圧電源5Bは電源電圧を供給する。バイアス電圧及び電源電圧は、トランスをDC供給用の負荷として用いるために、トランジスタであるFETに直接供給される。
【0091】
このため、トランジスタであるFETにおいては、バイアス電圧及び電源電圧を供給する回路を省略でき、さらなる回路面積を削減できる。すなわち、増幅器において必要となるバイアス電圧及び電源電圧の供給に必要な負荷回路を削減し、回路の簡素化及び回路面積を縮小できる。
【0092】
(第3の実施形態)
図8(a)は、第3の実施形態における電力分配回路10Bの構成を示す回路構成図である。第2の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を用いることにより、説明を省略する。
【0093】
図8(a)に示す様に、第3の実施形態の電力分配回路10Bは、第2の実施形態と比べ、トランス2A,2Bの代わりに、トランス2Cを設けた構成である。具体的には、電力分配回路10Bは、増幅器AMP1、トランス1、増幅器AMP2A,2B、トランス2C及び加算回路3を含む構成である。トランス2Cは、第4の不平衡平衡変換回路の一例として示したものであり、増幅器AMP2Aの出力信号である正相信号及び増幅器AMP2Bの出力信号である逆相信号を1対の差動信号として入力し、入力された正相信号及び逆相信号を不平衡平衡変換して1対の差動出力信号を出力する。
【0094】
第1の実施形態においては、差動入力信号の正相信号及び逆相信号がトランス2A及び2Bにそれぞれ入力される。差動入力信号の正相信号及び逆相信号間にゲイン又は位相の誤差が生じた場合には、各トランス2A,2Bの入力端において誤差が補正されずにトランス2A,2Bにより差動信号に変換される。
【0095】
第3の実施形態のトランス2Cにおいては、トランス2Cに入力された1対の差動入力信号は、トランス2Cにおいて各入力端子から同じゲイン及び位相の各特性による変化の後、中点としてAC(交流)的に結合されたGND接地点において結合(加算)される。
【0096】
従って、トランス2Cへの差動入力信号のトランス2Cの入力端において含まれる誤差は、中点としてAC(交流)的に結合されたGND接地点においてGND電位となるように補正されることによって低減する。更に、トランス2Cによる入出力信号の結合により1対の差動出力信号に変換されるため、トランス2Cの差動出力信号端においては、誤差はさらに低減する。
【0097】
第3の実施形態の電力分配回路10Bは、第2の実施形態と比べ、ゲイン又は位相の各誤差が低減した差動出力信号を、トランスの回路面積を削減しつつ得ることができる。即ち、本実施形態の電力分配回路10Bによれば、増幅器の出力に接続される不平衡平衡変換回路(トランス2C)を1つにでき、不平衡平衡変換回路の性能ばらつきによる差動出力間誤差を低減し、かつ回路面積を縮小できる。
【0098】
また、図8(b)に示すように、トランス2Cは伝送線路を用いて構成される。図8(b)は、トランス2Cの構成の一例を示す図である。即ち、トランス2Cにおいては、1対の差動入力信号(Vinp,Vinn)の中点を接地(GND)した1つの伝送線路16に対し、2対の差動出力信号がそれぞれ1つの伝送線路17,18において結合される。伝送線路16は1本の入力伝送線路に相当し、伝送線路17、18は2本の出力伝送線路に相当する。
【0099】
図8(b)のトランス2Cの構成においては、1対の差動入力信号のそれぞれの入力端子からGND接地点までの伝送線路の長さのほぼ半分の長さが、2対の差動出力信号のそれぞれの出力端子からGND接地点までの伝送線路の長さとなる。
【0100】
差動出力信号は、GND接地点を中心に図8(b)の矢印にて表した電流の向きに流れ込む電流値と流れ出す電流とが釣り合うように、電磁誘導により生成される。このため、トランス2Cは、同じゲイン及び位相特性を有する2対の差動出力信号を得ることができる。
【0101】
トランス2Cは、伝送線路を用いて構成されるので、デバイスプロセス上の配線によって作製される場合、能動素子として、例えば、トランジスタを用いた場合と比較すると、精度の良い、ばらつきの少ない、2対の差動出力信号を生成するトランスを得ることができる。
【0102】
例えば、シリコンプロセスを用いた、ばらつきの少ない3本の伝送線路の結合によってトランスを形成できる。従って、不平衡平衡変換回路の性能ばらつきによる差動出力間誤差を低減し、かつ回路面積を縮小できる。
【0103】
なお、図8(b)においては、1対の差動入力信号のそれぞれの入力端子からGND接地点までの伝送線路長さのほぼ半分の長さが、2対の差動出力信号のそれぞれの出力端子からGND接地点までの伝送線路の長さである。更に、それぞれの伝送線路の長さを調節することで、各入出力信号が接続される回路の整合を最適化し、インピーダンスの整合回路を削減できる。
【0104】
(第4の実施形態)
図9(a)は、第4の実施形態における電力分配回路10Cの構成を示す回路構成図である。第2の実施形態と同一の構成要素については同一の符号を用いることにより、説明を省略する。
【0105】
図9(a)に示す様に、第4の実施形態の電力分配回路10Cは、第2の実施形態と比べ、トランス2A,2B及び加算回路3の代わりに、トランス2Dを設けた構成である。具体的には、電力分配回路10Cは、増幅器AMP1、トランス1、増幅器AMP2A,2B、及びトランス2Dを含む構成である。トランス2Dは、第5の不平衡平衡変換回路の一例として示したものであり、増幅器AMP2Aの出力信号である正相信号及び増幅器AMP2Bの出力信号である逆相信号を1対の差動信号として入力し、入力された正相信号及び逆相信号を不平衡平衡変換して1対の差動出力信号を出力する。
【0106】
第1の実施形態においては、差動入力信号の正相信号及び逆相信号がトランス2A及び2Bにそれぞれ入力される。差動入力信号の正相信号及び逆相信号間にゲイン又は位相の誤差が生じた場合には、各トランス2A,2Bの入力端において誤差が補正されずにトランス2A,2Bによる差動出力信号に変換される。更に、各トランス2A,2Bの差動出力信号間の誤差を低減するために、加算回路3が必要となる。
【0107】
第4の実施形態のトランス2Dにおいては、入力された差動信号の正相信号は差動出力信号の正相信号及び逆相信号と結合(加算)して出力され、更に、入力された差動入力信号の逆相信号も差動出力信号の正相信号及び逆相信号と結合(加算)して出力される。即ち、トランス2Dは、入出力信号間を結合させるトランス回路であり、上述した各実施形態における加算回路3の機能も有する。
【0108】
第4の実施形態における電力分配回路10Cは、上述した各実施形態における加算回路3を追加せずに回路面積を削減しつつ、トランス2Dにおいて発生する差動出力信号間の誤差を低減できる。即ち、増幅器の出力に接続される不平衡平衡変換回路及び加算回路を1つの不平衡平衡変換回路(トランス2D)を用いて構成でき、不平衡平衡変換回路の性能ばらつきによる差動出力間誤差を低減し、かつ回路面積を縮小できる。
【0109】
また、トランス2Dの差動入力信号の正相信号及び逆相信号は、差動出力信号を経由して結合し、各入力端子から同じゲイン及び位相の各特性による変化の後にGNDに接続(接地)される。従って、差動入力信号の中点をAC的にGND接地点において結合したと見なすことができる。
【0110】
即ち、差動入力信号のトランス2Dの入力端において含まれる誤差は、トランス2D内の電磁誘導によりトランス2Dによる差動出力信号の結合前にGND接地点において低減される。これにより、入出力信号変換後の差動出力信号への誤差の影響を改善できる。よって、本実施形態の電力分配回路10Cによれば、ゲイン及び位相の各誤差を低減しつつ、回路面積を削減できる。
【0111】
また、図9(b)に示すように、トランス2Dは伝送線路を用いて構成される。図9(b)は、トランス2Dの構成の一例を示す図である。即ち、トランス2Dにおいては、1対の差動入力信号の正相信号及び逆相信号(Vinp,Vinn)は、それぞれ伝送線路26、27の負荷を通してAC的にGNDに接続(接地)される。
【0112】
図9(b)のトランス2Dの構成においては、各入力端子からGND接地点までの伝送線路の長さのほぼ半分の長さが、1対の差動出力信号の正相信号及び逆相信号の出力端子からGND接地点までの伝送線路の長さとなる。
【0113】
また、差動入力信号の2本の伝送線路26、27と差動出力信号の1本の伝送線路28とが、互いに逆向きの電流が結合して流れるように配置される。これにより、GND接地点を中心に図9(b)の矢印によって表した電流の向きに流れ込む電流値と流れ出す電流値とが釣り合うように、1対の差動出力信号は電磁誘導により生成される。
【0114】
これにより、トランス2Dは、同じゲイン及び位相の各特性を持つ1対の差動出力信号を得ることができる。なお、伝送線路26、27は2本の入力伝送線路に相当し、伝送線路28は1本の出力伝送線路に相当する。
【0115】
また、トランス2Dは伝送線路を用いて構成されるので、デバイスプロセス上の配線によって作製した場合、能動素子として、例えば、トランジスタを用いた場合と比較して、精度の良い、ばらつきの少ない1対の差動出力信号を生成できる。また、加算回路の機能を持たせることかできる。
【0116】
例えば、シリコンプロセスを用いたばらつきの少ない3本の伝送線路の結合によってトランスを形成でき、不平衡平衡変換回路の性能ばらつきによる差動出力間誤差を低減し、かつ回路面積を縮小できる。
【0117】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種実施の形態の変更例または修正例、更に各種実施の形態の組み合わせ例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0118】
例えば、前記第2の実施形態において、トランス1、2A、2Bでは、無入力となる入力端子、及び、差動出力信号の正相及び逆相信号の出力端子の中間点は、入力信号の周波数においてAC的にGND接続となるコンデンサに接続される場合を示した。このことは、第1、第3、第4の実施形態においても同様に適用可能である。
【0119】
また、増幅器としては、FETの他、バイポーラトランジスタを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明は、差動入力信号から1対の差動出力信号を出力する際、回路規模及び消費電流を増大させることなく、また、無線性能を劣化させることなく、差動出力信号間の回路誤差を低減できる電力分配回路として有用である。
【符号の説明】
【0121】
1、2A、2B、2C、2D トランス
3 加算回路
4A、4B コンデンサ
5A、5B 定電圧電源
8、16、17、18、26、27、28 伝送線路
10、10A、10B、10C 電力分配回路
AMP1、AMP2A、AMP2B 増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対の差動入力信号を入力して1対の差動出力信号を出力する電力分配回路であって、
前記1対の差動入力信号の正相信号を入力して差動信号を出力する第1の不平衡平衡変換回路と、
前記1対の差動入力信号の逆相信号を入力して差動信号を出力する第2の不平衡平衡変換回路と、
前記第1及び第2の各不平衡平衡変換回路から出力される2対の差動信号を、前記正相信号及び前記逆相信号ごとに加算して前記1対の差動出力信号を出力する加算回路と、を備える電力分配回路。
【請求項2】
請求項1に記載の電力分配回路であって、
不平衡入力信号を1対の差動信号に変換し、1対の差動入力信号として出力する第3の不平衡平衡変換回路と、
前記第3の不平衡平衡変換回路から出力される前記1対の差動入力信号の正相信号を増幅する第1の増幅器と、
前記第3の不平衡平衡変換回路から出力される前記1対の差動入力信号の逆相信号を増幅する第2の増幅器と、を更に備え、
前記第1の不平衡平衡変換回路は、前記第1の増幅器により増幅された前記正相信号を入力し、
前記第2の不平衡平衡変換回路は、前記第2の増幅器により増幅された前記逆相信号を入力する電力分配回路。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電力分配回路であって、
前記第1の不平衡平衡変換回路及び前記第2の不平衡平衡変換回路は、前記1対の差動入力信号を入力し、各正相信号及び各逆相信号毎に2対の差動出力信号を出力する第4の不平衡平衡変換回路を用いて構成される電力分配回路。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電力分配回路であって、
前記第1の不平衡平衡変換回路、前記第2の不平衡平衡変換回路及び前記加算回路は、前記1対の差動入力信号の正相信号を前記差動出力信号の正相信号及び逆相信号と結合し、前記1対の差動入力信号の逆相信号を前記差動出力信号の正相信号及び逆相信号と結合し、前記1対の差動出力信号を出力する第5の不平衡平衡変換回路を用いて構成される電力分配回路。
【請求項5】
請求項3に記載の電力分配回路であって、
前記第4の不平衡平衡変換回路は、伝送線路を用いて構成され、前記1対の差動入力信号の各入力端子から接地点までの前記伝送線路の長さの半分の長さが、前記2対の差動出力信号の各出力端子から接地点までの伝送線路の長さとなるように、1本の入力伝送線路に対し、2本の出力伝送線路を結合させた電力分配回路。
【請求項6】
請求項4に記載の電力分配回路であって、
前記第5の不平衡平衡変換回路は、伝送線路を用いて構成され、前記1対の差動入力信号の各入力端子から接地点までの前記伝送線路の長さの半分の長さが、前記1対の差動出力信号の各出力端子から接地点までの伝送線路の長さとなるように、2本の入力伝送線路に対し、1本の出力伝送線路を結合させた電力分配回路。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の電力分配回路であって、
前記第1及び第2の不平衡平衡変換回路の無入力となる入力端子と接地との間に、コンデンサを介在させ、前記コンデンサと並列に定電圧電源を設ける電力分配回路。
【請求項8】
請求項2に記載の電力分配回路であって、
前記第3の不平衡平衡変換回路の正相信号及び逆相信号の各出力端子の中間点と接地との間に、コンデンサを介在させ、前記コンデンサと並列に定電圧電源を設ける電力分配回路。
【請求項9】
請求項1に記載の電力分配回路であって、
前記加算回路は、伝送線路を用いて構成され、同じ長さを持つ前記伝送線路において2つの正相信号及び2つの逆相信号の同相成分の入力信号を加算し、前記伝送線路の中点から前記1対の差動出力信号を取り出す電力分配回路。
【請求項10】
請求項1に記載の電力分配回路であって、
前記加算回路は、伝送線路を用いて構成され、同じ長さを持つ前記伝送線路において2つの正相信号及び2つの逆相信号の異相成分の入力信号を加算し、前記伝送線路から前記1対の差動出力信号を取り出す電力分配回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−30934(P2013−30934A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164742(P2011−164742)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】