説明

電力変換回路の駆動装置

【課題】パワースイッチング素子Swと、これと同一半導体基板に併設されたフリーホイールダイオードFDとが設けられた半導体デバイスを備えるものにあって、その電力損失の低減が困難なこと。
【解決手段】フリーホイールダイオードFDに流れる電流は、シャント抵抗50の電圧降下量Vseとして検出され、コンパレータ54によって閾値と比較される。そして、フリーホイールダイオードFDに流れる電流が規定値以上である場合には、パワースイッチング素子Swのゲートへの電圧の印加を強制的に停止する。上記閾値を、パワースイッチング素子Swのゲートの電圧に応じて可変設定すべく、基準電圧生成回路56では、コンパレータ54に印加する電圧をゲート電圧に応じて可変設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧制御形のスイッチング素子と、該スイッチング素子に逆並列に接続される態様にてこれと同一半導体基板に併設されたフリーホイールダイオードとが設けられた半導体デバイスを備える電力変換回路に適用される駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電源の各端子と回転機の端子とを接続する高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子の直列接続体を備えて構成される電力変換回路(インバータ)が周知である。また、インバータは、上記スイッチング素子の入出力端子に接続されたフリーホイールダイオードを備えている。ここで、回転機に正弦波形状の電流を流すべく高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子を操作するに際しては、これら高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子を交互にオン状態及びオフ状態とすることで、これら一対のスイッチング素子を相補的に駆動する手法が一般に用いられている。
【0003】
一方、インバータのスイッチング素子としては、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)が用いられることがある。また、近年では、こうしたインバータを構成する半導体素子として、フリーホイールダイオードがIGBTと同一基板上に併設されたいわゆるダイオード内蔵型IGBTが提案され、実用化されている。
【0004】
上記IGBTはコレクタからエミッタへと進む方向を順方向とするものであるため、逆側には電流が流れない。このため、インバータの一対のスイッチング素子が相補的に駆動される場合、上記正弦波形状の電流の流通方向によっては、オン状態とされているスイッチング素子に電流が流れないことがある。そしてこの場合には、これに逆並列に接続されたフリーホイールダイオードに電流が流れることとなる。
【0005】
ところで、上記ダイオード内蔵型IGBTにおいては、フリーホイールダイオードに順方向電流が流れる際の電圧降下量が、IGBTのゲートに電圧が印加されることで増大することが知られている。このため、スイッチング素子を相補的に操作する場合には、フリーホイールダイオードに順方向電流が流れる際のフリーホイールダイオードによる電力損失が大きくなり、ひいてはダイオード内蔵型IGBTの発熱量が多くなるおそれがある。
【0006】
そこで従来、例えば下記特許文献1に見られるように、フリーホイールダイオードに電流が流れることを検出する場合、上記相補信号にかかわらず、スイッチング素子を強制的にオフ状態とすることも提案されている。具体的には、フリーホイールダイオードと同一の半導体基板上に微小な電極を備え、フリーホイールダイオードに流れる電流の数千分の1から1万分の1程度の微少電流を上記電極から取り出す。そして、この微少電流に基づき、フリーホイールダイオードに電流が流れたと判断される場合に、スイッチング素子を強制的にオフ状態とする。これにより、電力損失の増大を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−72848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記技術によれば、フリーホイールダイオードに電流が流れたと判断される間、スイッチング素子がオンとされた状態でこれに電流が流れることとなる。このため、この期間の電力損失は依然として大きいものとなっている。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、電圧制御形のスイッチング素子と、該スイッチング素子に逆並列に接続される態様にてこれと同一半導体基板に併設されたフリーホイールダイオードとが設けられた半導体デバイスを備えるものにあって、その電力損失をいっそう低減することのできる電力変換回路の駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0011】
請求項1記載の発明は、電圧制御形のスイッチング素子と、該スイッチング素子に逆並列に接続される態様にてこれと同一半導体基板に併設されたフリーホイールダイオードとが設けられた半導体デバイスを備える電力変換回路に適用され、前記フリーホイールダイオードの順方向電流に関する物理量の検出値を入力とし、前記順方向電流が流れるか否かを判断する判断手段と、前記順方向電流が流れると判断される場合、前記スイッチング素子の導通制御端子への電圧印加を禁止する禁止手段とを備え、前記判断手段は、前記順方向電流が流れたと判断する際の前記検出値の絶対値を、前記導通制御端子の電圧が低い場合の方が高い場合よりも小さい値とすることを特徴とする。
【0012】
上記半導体デバイスにおいては、スイッチング素子の導通制御端子に電圧が印加されることで、上記物理量の絶対値が大きくなる傾向がある。このため、順方向電流が流れたとの判断を行うべく上記検出値の絶対値に閾値を設ける場合、導通制御端子に電圧が印加されている状況下における閾値を小さくすると、ノイズによる誤動作のおそれが大きくなる。ただし、この閾値を大きくすると、フリーホイールダイオードに電流が流れているとの判断を迅速に行うことができず、ひいてはスイッチング素子の導通制御端子に電圧が印加された状態でフリーホイールダイオードに電流が流れる期間が増加する。
【0013】
上記発明では、この点に鑑み、順方向電流が流れたと判断する際の検出値の絶対値を、前記導通制御端子の電圧が低い場合の方が高い場合よりも小さい値とする。これにより、導通制御端子に電圧が印加された後には、ノイズによる順方向電流の誤検出を好適に回避することができる。また、導通制御端子に電圧が印加される以前又は印加されて間もないタイミングでフリーホイールダイオードに流れる電流を検出することが可能となり、ひいてはフリーホイールダイオードに順方向電流が流れる状況下、導通制御端子への電圧の印加期間を低減することができる。
【0014】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記判断手段は、前記順方向電流が流れたと判断する際の前記検出値の絶対値を、前記スイッチング素子の駆動信号に基づき可変設定することを特徴とする。
【0015】
上記発明では、駆動信号により、導通制御端子に電圧が印加され、その電圧が上昇する状況を予測することができる。このため、判断手段ではこの予測に基づき判断を行うことができる。
【0016】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記判断手段は、前記順方向電流が流れたと判断する際の前記検出値の絶対値を、前記導通制御端子の電圧の検出値に基づき可変設定することを特徴とする。
【0017】
上記発明では、導通制御端子の電圧の検出値を用いることで、導通制御端子の電圧が実際に低いか否かに基づき判断手段による判断がなされることとなる。
【0018】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記半導体デバイスには、前記フリーホイールダイオードに流れる電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子が更に設けられており、前記物理量の検出値は、前記微少電流の検出値であることを特徴とする。
【0019】
上記微少電流は、通常、フリーホイールダイオードに流れる電流が一定であっても、導通制御端子に電圧が印加される場合の方が大きくなる特性を有する。
【0020】
請求項5記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記物理量の検出値は、前記フリーホイールダイオードの電圧降下量の検出値であることを特徴とする。
【0021】
上記フリーホイールダイオードの電圧降下量は、導通制御端子に電圧が印加される場合の方が大きくなる特性を有する。
【0022】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、前記電力変換回路は、高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子の直列接続体を備え、前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子は、交互にオン操作が指令される相補信号によってオン・オフが指令されるものであり、前記スイッチング素子は、前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子の少なくとも一方であることを特徴とする。
【0023】
上記発明では、相補信号によってオン・オフが指令されるため、禁止手段は、このオン指令にかかわらず、導通制御端子への電圧の印加を禁止する手段となる。
【0024】
なお、前記電力変換回路は、車載高圧システムに備えられるものであり、前記相補信号は、前記車載高圧システムと絶縁された車載低圧システムにて生成されるものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1の実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】同実施形態にかかるIGBT及びフリーホイールダイオードの断面構成を示す断面図。
【図3】同実施形態にかかるドライブユニットの回路構成を示す回路図。
【図4】同実施形態にかかるセンス端子の出力電流によるシャント抵抗の電圧降下量を示す図。
【図5】同実施形態にかかるパワースイッチング素子のゲートへの電圧印加の禁止処理の態様を例示するタイムチャート。
【図6】第2の実施形態にかかるドライブユニットの回路構成を示す回路図。
【図7】第3の実施形態にかかるドライブユニットの回路構成を示す回路図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる電力変換回路の駆動装置をハイブリッド車に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
図1に、本実施形態のシステム構成を示す。図示されるように、車載主機としてのモータジェネレータ10は、インバータIV及びコンバータCVを介して高圧バッテリ12に接続されている。インバータIVは、高電位側のパワースイッチング素子Swp及び低電位側のパワースイッチング素子Swnの直列接続体が3つ並列接続されて構成されている。そして、これら各パワースイッチング素子Swp及びパワースイッチング素子Swnの接続点が、モータジェネレータ10の各相にそれぞれ接続されている。また、コンバータCVは、コンデンサCと、高電位側のパワースイッチング素子Swp及び低電位側のパワースイッチング素子Swnの直列接続体と、パワースイッチング素子Swp及びパワースイッチング素子Swnの接続点と高圧バッテリ12とを接続するリアクトルLとを備えている。
【0028】
上記高電位側のパワースイッチング素子Swp及び低電位側のパワースイッチング素子Swnのそれぞれの入出力端子間(コレクタ及びエミッタ間)には、高電位側のフリーホイールダイオードFDp及び低電位側のフリーホイールダイオードFDnのカソード及びアノードが接続されている。
【0029】
上記インバータIVを構成するパワースイッチング素子Swp,Swnの導通制御端子(ゲート)には、いずれもドライブユニットDUが接続されている。これにより、パワースイッチング素子Swp,Swnは、ドライブユニットDUを介して、低圧バッテリ14を電源とする制御装置16によって駆動される。制御装置16は、図示しない各種センサの検出値等に基づき、インバータIVのU相、V相、及びW相のそれぞれについてのパワースイッチング素子Swpを操作する操作信号gup,gvp,gwpと、パワースイッチング素子Swnを操作する操作信号gun,gvn,gwnとを生成し出力する。また、コンバータCVのパワースイッチング素子Swp、Swnを操作する操作信号gcp,gcnを生成し出力する。これにより、パワースイッチング素子Swp,Swnは、ドライブユニットDUを介して制御装置16により操作される。これら高電位側の操作信号gup,gvp,gwp、gcpのそれぞれと、低電位側の操作信号gun,gvn,gwn、gcnのそれぞれとは、高電位側のスイッチング素子Swpと低電位側のスイッチング素子Swnとを互いに相補的に駆動するものである。すなわち、いずれか一方の操作信号がオン状態とするための信号である期間、他方の操作信号がオフ状態とするための信号となる。
【0030】
なお、インバータIVやコンバータCVを備える高圧システムと、制御装置16を備える低圧システムとは、図示しないフォトカプラ等の絶縁手段によって絶縁されており、上記操作信号は、絶縁手段を介して高圧システムに出力される。
【0031】
上記パワースイッチング素子Swp,Swnは、いずれも、入力端子及び出力端子が一義に定義されており、出力端子から入力端子への電流の流通を阻止するスイッチング素子である。詳しくは、これらは、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)にて構成されている。また、パワースイッチング素子Swp,Swnは、その入力端子及び出力端子間に流れる電流やフリーホイールダイオードFDp、FDnに流れる電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子STを備えている。センス端子STのこの機能は、IGBTとして、ダイオード内蔵型のものを用いることで可能となったものである。すなわち、本実施形態では、高電位側のパワースイッチング素子Swp及び高電位側のフリーホイールダイオードFDpは互いに同一の半導体基板に隣接して形成されており、低電位側のパワースイッチング素子Swn及び低電位側のフリーホイールダイオードFDnは互いに同一の半導体基板に隣接して形成されている。
【0032】
図2(a)に、本実施形態にかかるパワースイッチング素子Swp(Swn)及びフリーホイールダイオードFDp(FDn)の断面構成を示す。なお、以下では、パワースイッチング素子Swp、Swnを総括する場合、パワースイッチング素子Swと記載し、フリーホイールダイオードFDp,FDnを総括する場合、フリーホイールダイオードFDと記載する。
【0033】
図示されるように、半導体基板20には、IGBT領域とダイオード領域とが併設されて形成されている。半導体基板20の主面側から裏面側へと伸びる領域は、導電型がN型であるN型領域22となっている。また、半導体基板20の主面側の表層部には、導電型がP型のP型領域24が形成されており、P型領域24内に、上記N型領域22よりも濃い濃度のN型の導電型を有するN型領域26が形成されている。そして、これらP型領域24及びN型領域26には、IGBTのエミッタ端子E及びダイオードのアノード端子が接続されている。また、上記P型領域24及びN型領域26上には、ゲート酸化膜28を介してゲート電極30が形成されている。
【0034】
一方、半導体基板20の裏面側の表層部には、上記N型領域22よりも濃度の濃いN型領域36とP型領域34とが併設されている。ここで、P型領域34は、IGBTのコレクタ領域を構成し、N型領域36は、ダイオードのカソード領域を構成する。なお、これらP型領域34及びN型領域36と上記N型領域22との間には、N型領域22よりも濃度の薄いN型領域32が形成されている。
【0035】
図2(b)は、上記半導体基板20の主面側を模式的に示した平面図である。図示されるように、主面側の大部分は、エミッタ領域であり、これよりも小さい領域として、ゲート領域やセンス電極38が形成されている。ここで、実際のセンス電極38の面積は、エミッタ領域の面積の数千分の1程度とされており、これにより、IGBTやフリーホイールダイオードに流れる電流と相関を有しつつも極微小な電流を出力することが可能となっている。
【0036】
図3に、上記ドライブユニットDUの回路構成を示す。
【0037】
図示されるように、電源40は、PチャネルMOSトランジスタ(充電用スイッチング素子42)と、ゲートの充放電速度を調節するための抵抗体44とを介して、パワースイッチング素子Swのゲートに接続されている。パワースイッチング素子Swのゲートは、上記抵抗体44及びNチャネルMOSトランジスタ(放電用スイッチング素子46)を介して、パワースイッチング素子SwのエミッタEに接続されている。
【0038】
駆動制御回路48は、図示しないフォトカプラ等の絶縁手段を介して、ドライブユニットDUに入力される上記操作信号g(操作信号gup,gun,gvp,gvn,gwp,gwn,gcp,gcnの総括表記)に基づき、充電用スイッチング素子42及び放電用スイッチング素子46を相補的にオン・オフすることでパワースイッチング素子Swを駆動する。すなわち、操作信号gが論理「H」となることで、パワースイッチング素子Swをオン状態とする旨が指示される場合、充電用スイッチング素子42をオンして且つ放電用スイッチング素子46をオフすることで、パワースイッチング素子Swのゲートに正の電荷を充電する。また、操作信号gが論理「L」となることで、パワースイッチング素子Swをオフ状態とする旨が指示される場合、充電用スイッチング素子42をオフして且つ放電用スイッチング素子46をオンすることで、パワースイッチング素子Swのゲートから正の電荷を放電させる。
【0039】
パワースイッチング素子SのエミッタE及びセンス端子ST間には、シャント抵抗50が接続されている。シャント抵抗50の電圧は、反転増幅回路52にて電圧変換された後、コンパレータ54の反転入力端子に印加される。ここで、反転増幅回路52は、パワースイッチング素子Swに電流が流れるか、フリーホイールダイオードFDに電流が流れるかにかかわらず、コンパレータ54の反転入力端子に印加される電圧の極性を固定するためのものである。ここでは、反転増幅回路52として、オペアンプの非反転入力端子に、パワースイッチング素子Swのエミッタ電位基準で正の電圧が印加されたものを例示している。反転増幅回路52の出力電圧は、入力される電圧が小さいほど(負で絶対値が大きいほど)大きい値となる。
【0040】
コンパレータ54の非反転入力端子には、基準電圧生成回路56の出力電圧が印加されている。基準電圧生成回路56は、所定の正の電圧を出力するものである。このため、コンパレータ54は、フリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れることで、論理「L」となるものである。コンパレータ54の出力電圧と、駆動制御回路48による充電用スイッチング素子42の駆動信号とは、NAND回路58に取り込まれる。これにより、充電用スイッチング素子42には、コンパレータ54の出力信号と上記駆動信号との否定論理積信号が印加されることとなる。
【0041】
これにより、充電用スイッチング素子42は、操作信号gによりパワースイッチング素子Swをオンする旨の指令が出されて且つ、コンパレータ54の出力信号が論理「H」である場合に、オン操作されることとなる。このため、フリーホイールダイオードFDに電流が流れることで、コンパレータ72の出力信号が論理「L」に反転する場合には、操作信号gの値にかかわらず、パワースイッチング素子Swがオフ状態とされる。これは、フリーホイールダイオードFDに電流が流れる際にパワースイッチング素子Swのゲートに電圧が印加されることでフリーホイールダイオードFDの電力損失が増大することに鑑みたものである。すなわち、フリーホイールダイオードFDに電流が流れる際にパワースイッチング素子Swを強制的にオフとすることで、フリーホイールダイオードFDの電力損失を低減することができる。
【0042】
ここで、フリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れるか否かの判断は、シャント抵抗50による電圧降下量Vseに基づき判断される。ここで本実施形態では、電圧降下と比較される閾値を、パワースイッチング素子Swがオン操作されているか否かに応じて可変設定する。これは、以下の理由による。
【0043】
図4に、パワースイッチング素子Sw又はフリーホイールダイオードFDに流れる電流と、シャント抵抗50での電圧降下量との関係を示す。詳しくは、パワースイッチング素子Swのゲート印加電圧Vge(エミッタ及びゲート間電圧)が高い場合と低い場合とにおける関係を示す。図示されるように、ゲート印加電圧Vgeが高い場合の方が低い場合よりも電圧降下量の絶対値が増加する。
【0044】
このことは、パワースイッチング素子Swがオフ状態の場合にはオン状態の場合と比較して、フリーホイールダイオードFDに規定値以上の順方向電流が流れる際の電圧降下量が小さくなることを意味する。ここで、上記操作信号gにかかわらずパワースイッチング素子Swを強制的にオフするための電圧降下量の閾値を、パワースイッチング素子Swのオフ状態においてフリーホイールダイオードFDに規定値以上の順方向電流が流れる際の電圧降下量に基づき設定する場合には、パワースイッチング素子Swのオン状態時において、ノイズによる誤動作のおそれが生じる。一方、パワースイッチング素子Swのオン状態においてフリーホイールダイオードFDに規定値以上の順方向電流が流れる際の電圧降下量に基づき上記閾値を設定する場合には、上記強制的なオフ操作を行うタイミングが遅くなるおそれがある。すなわち、先の図1に示したように、操作信号gup,gvp,gwp,gcpと、操作信号gun,gvn,gwn,gcnとは、相補信号であるが、より正確には、双方がオフ指令となるデッドタイムを有する。そして、デッドタイム期間においても、フリーホイールダイオードFDに電流が流れる。しかし、上記閾値を大きくすると、この期間においてフリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れていると迅速に判断することができず、これに逆並列に接続されたパワースイッチング素子Swが一旦オン操作されることとなる。
【0045】
そこで本実施形態では、パワースイッチング素子Swがオン状態のときよりもオフ状態のときの方が上記閾値を小さく設定する。これにより、デッドタイム期間においてフリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れることに基づき上記強制的なオフ操作処理を行うことが可能となる。このため、パワースイッチング素子Swを一旦オン操作した後、フリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れることに基づきこれを強制的にオフ操作する場合よりも、フリーホイールダイオードFDにおける電力損失を低減することができる。しかも、パワースイッチング素子Swがオン状態となる場合には、上記閾値を大きくすることで、ノイズによる誤動作を好適に抑制することができる。
【0046】
具体的には、先の図3に示した基準電圧生成回路56を、電源56aの電圧を分圧する抵抗体56b、56cの直列接続体と、抵抗体56cに並列接続される抵抗体56d及びpチャネルMOSトランジスタ(スイッチング素子56e)の直列接続体とを備えて構成する。ここで、抵抗体56b,56cの接続点がコンパレータ54の非反転入力端子に接続される。そして、スイッチング素子56eの導通制御端子(ゲート)に、パワースイッチング素子Swのゲート電圧を印加する。これにより、パワースイッチング素子Swがオン状態となる場合に、スイッチング素子56eをオフ状態とすることができ、ひいては、コンパレータ54の非反転入力端子の電位を上昇させることができる。
【0047】
図5に、フリーホイールダイオードFDに電流が流れる際のパワースイッチング素子Swの操作状態を示す。詳しくは、図5(a)に、操作信号gupの状態の推移を示し、図5(b)に、操作信号gunの状態の推移を示し、図5(c)に、U相のパワースイッチング素子Swpのゲート電圧の推移を示し、図5(d)に、U相のパワースイッチング素子Swnのゲート電圧の推移を示す。また、図5(e)に、U相のパワースイッチング素子Swpのコレクタ電流の推移を示し、図5(f)に、U相のフリーホイールダイオードFDnの順方向電流の推移を示し、図5(g)に、U相のフリーホイールダイオードFDnの電圧の推移を示し、図5(h)に、シャント抵抗50による電圧降下量Vseの推移を示す。
【0048】
図示されるように、本実施形態では、パワースイッチング素子Swnのオン指令が出される以前(操作信号gunが論理「H」となる以前)には、電圧降下量Vseの閾値として、低い値を有する閾値Vth1が設定される。このため、デッドタイム期間においてフリーホイールダイオードFDnに順方向電流が流れることに基づき、パワースイッチング素子Swnを強制的にオフ状態とする処理がなされる。そして、パワースイッチング素子Swnのオン指令が出されても、パワースイッチング素子Swnのゲートに電圧が印加されず、パワースイッチング素子Swnはオフ状態に維持される。
【0049】
これに対し、閾値を可変設定しない従来技術の場合、操作信号gunが論理「H」となることで、電圧降下量Vseが大きくなり、閾値Vthに達することでパワースイッチング素子Swnのゲートへの電圧印加が強制的に停止される。このため、パワースイッチング素子Swnがオン状態とされる期間におけるフリーホイールダイオードFDの電力損失が大きくなる。
【0050】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0051】
(1)フリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れたと判断する際のシャント抵抗50の電圧降下量Vseの検出値の絶対値を、パワースイッチング素子Swのゲートの電圧が低い場合の方が高い場合よりも小さい値とした。これにより、パワースイッチング素子Swのゲートに電圧が印加された後には、ノイズによる順方向電流の誤検出を好適に回避することができる。また、パワースイッチング素子Swのゲートに電圧が印加される以前又は印加されて間もないタイミングでフリーホイールダイオードFDに流れる電流を検出することが可能となり、ひいてはフリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れる状況下、ゲートへの電圧の印加期間を低減することができる。
【0052】
(2)上記閾値の可変設定を、パワースイッチング素子Swのゲート電圧の検出値に基づき行った。これにより、パワースイッチング素子Swのゲート電圧が実際に低いか否かに基づき閾値を可変設定することができる。
【0053】
(3)パワースイッチング素子Swp,Swnの操作信号が、低圧システムによって生成される相補信号である構成とした。このため、フリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れる状況下、操作信号gの値にかかわらず、ドライブユニットDU内でゲートへの電圧印加を停止する処理を行うことで、この処理を行う手段を低圧システムに設ける場合と比較して、絶縁手段の数を低減することができる。
【0054】
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0055】
図6に、本実施形態にかかるドライブユニットDUの回路構成を示す。なお、図6において、先の図3に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0056】
図示されるように、本実施形態では、充電用スイッチング素子42の駆動信号に基づき、電圧降下量Vseの閾値を可変設定する。すなわち、駆動制御回路48から充電用スイッチング素子42のゲートに出力される信号を、スイッチング素子56eのゲートにも印加する。
【0057】
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)、(3)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
【0058】
(4)パワースイッチング素子Swのゲート電圧が低いか否かの判断を、パワースイッチング素子Swの駆動信号に基づき行った。これにより、ゲート電圧が印加され、その電圧が上昇する状況を予測することができる。このため、ゲート電圧の予測に基づき閾値を可変設定することができる。
【0059】
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第2の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0060】
図7に、本実施形態にかかるドライブユニットDUの回路構成を示す。なお、図7において、先の図3に示した部材に対応する部材については、便宜上同一の符号を付している。
【0061】
図示されるように、パワースイッチング素子Swの入力端子(コレクタ)及びフリーホイールダイオードFDのカソードの接続点には、検出用ダイオード60のカソードが接続されている。詳しくは、この検出用ダイオード60のカソードは、電力変換回路(インバータIV、コンバータCV)の配線に接続される電流検出回路(ドライブユニットDU)内の配線L1に接続されるものである。検出用ダイオード60は、フリーホイールダイオードFDと比較すると定格電流が小さくなっているものの(例えば「1A未満〜数A」)、耐圧についてはフリーホイールダイオードFD程度(例えば「数百V」)を有する整流素子である。検出用ダイオード60は、フリーホイールダイオードFDを流れる電流を検出すべくフリーホイールダイオードFDのカソード側に電流検出回路を接続する場合にこれに高電圧が印加されるのを阻止する機能を有する。これにより、検出用ダイオード60のアノード側の部品については、高耐圧が要求されず、小電流低耐圧の部品にて構成することが可能となる。
【0062】
検出用ダイオード60のアノード側には、シャント抵抗62が接続されている。そして、シャント抵抗62には、電源64の正極が接続されており、電源64の負極はフリーホイールダイオードFDのアノード側に接続されている。この電源64の負極は、電力変換回路(インバータIV、コンバータCV)の配線に接続される電流検出回路(ドライブユニットDU)内の配線L2に接続されている。そして、シャント抵抗62の両端には、コンデンサ66が並列接続されている。コンデンサ66は、パワースイッチング素子SwやフリーホイールダイオードFDの入出力端子間に印加される電圧ノイズ(サージ)が電流検出に影響を及ぼすことを回避するためのフィルタとしての機能を有するものである。
【0063】
シャント抵抗62(コンデンサ66)の両端には、差動増幅回路70が設けられている。差動増幅回路70は、オペアンプ70aを備えて構成されている。そして、オペアンプ70aの反転入力端子及び出力端子間を接続する抵抗体70bと、反転入力端子に接続される抵抗体70cと、非反転入力端子に接続される抵抗体70dとを備えている。
【0064】
上記電源64の電圧Vpは、フリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れる際の電圧降下量vf1と、パワースイッチング素子Swのコレクタ及びエミッタ間の電圧降下量Vceと、検出用ダイオード60に順方向電流が流れる際の電圧降下量vf2とを用いて、「vf2−vf1<Vp<vf2+Vce」の関係を満たす値に設定されている。これは、フリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れる際に検出用ダイオード60に順方向電流を流して且つ、パワースイッチング素子Swに電流が流れる際に検出用ダイオード60に順方向電流が流れないようにする設定である。ここで、電源64を設けたのは、検出用ダイオード60の電圧降下量vf2の方がフリーホイールダイオードFDの電圧降下量vf1よりも大きいためである。すなわち、この場合、電源64を設けることなくフリーホイールダイオードFDに並列に検出用ダイオード60を接続するなら、フリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れる場合であっても、検出用ダイオード60のアノード電位をそのカソード電位よりも電圧降下量vf2以上高くすることができない。
【0065】
上記シャント抵抗62の電圧降下量に応じた差動増幅回路70の出力電圧は、コンパレータ54の反転入力端子に印加される。このため、フリーホイールダイオードFDに電流が流れることで検出用ダイオード60に電流が流れシャント抵抗62に電圧降下が生じると、コンパレータ54の出力が論理「L」となる。これに対し、パワースイッチング素子Swに電流が流れている場合には、検出用ダイオード60に電流が流れないため、シャント抵抗62に電圧降下が生じず、コンパレータ54の出力信号は、論理「H」となる。
【0066】
そして、本実施形態でも、コンパレータ54の非反転入力端子には、上述した基準電圧生成回路56によって電圧が印加されている。これは、シャント抵抗62の電圧降下量がパワースイッチング素子Swのゲート電圧に応じて変化することによる。すなわち、パワースイッチング素子Swのゲート電圧が上昇すると、フリーホイールダイオードFDの電圧降下量vf1も大きくなるため、シャント抵抗62の両端の電圧「Vf1+Vp−vf2」も大きくなる。
【0067】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0068】
・上記第2の実施形態に対する第3の実施形態の変更点によって、第1の実施形態を変更してもよい。
【0069】
・上記第1の実施形態では、正バイアスを印加した反転増幅回路52にシャント抵抗50による電圧降下量Vseを入力することで、電圧降下量Vseを変換し、必ず正の値となるようにしたがこれに限らない。例えば、コンパレータ54の非反転入力端子にシャント抵抗50の電圧を印加するとともに、反転入力端子をパワースイッチング素子SWのエミッタ電位よりも低電位としてもよい。
【0070】
・センス端子STから出力される微少電流を検出する手段としては、抵抗体(シャント抵抗50)の電圧降下量を検出する手段に限らない。例えば、電流センサによって微少電流を直接検出するものであってもよい。
【0071】
・基準電圧生成回路56の基準電圧を可変設定する際に利用する駆動信号としては、上記第2の実施形態で例示したように駆動制御回路48の出力する信号に限らない。例えば、操作信号gであってもよい。
【0072】
・基準電圧生成回路56の基準電圧を可変設定する際に利用するゲート電圧としては、ゲートの充放電経路のうちの充電用のゲート抵抗の下流且つ放電用のゲート抵抗の上流の電気経路の電圧に限らない。例えば、充電用のゲート抵抗と放電用のゲート抵抗とが相違する構成においては、充電用のゲート抵抗の下流の電気経路の電圧であればよい。
【0073】
・フリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れると判断される場合、パワースイッチング素子SWのゲートへの電圧印加を禁止する禁止手段としては、上記各実施形態で例示したように、ゲートを充電するための経路を閉状態とする手段(充電用スイッチング素子42)をオンとする指令の入力を妨げる手段に限らない。例えば、操作信号gを入力としてゲートを充放電する駆動制御回路48に、充電制御を停止させる指令を出力する手段であってもよい。また、駆動制御回路48にオン指令に対応した操作信号gが入力されることを妨げる手段であってもよい。
【0074】
・上記各実施形態では、フリーホイールダイオードFDに順方向電流が流れると判断される場合、パワースイッチング素子SWのゲートへの電圧印加を禁止する禁止手段を車載低圧システムから絶縁された車載高圧システム内に備えたがこれに限らない。例えば、車載低圧システム内の制御装置16を備えて構成してもよい。これは例えば、制御装置16において、フリーホイールダイオードFDの順方向電流に関する物理量の検出値を取り込み、これに基づき、オン指令に対応した操作信号gの出力を停止するようにすることで行うことができる。
【0075】
・電力変換回路としては、上記インバータIVや、ブーストコンバータとしてのコンバータCVに限らない。例えば、高圧バッテリ12の電圧を降圧して低圧バッテリ14に印加する降圧コンバータであってもよい。
【0076】
・電力変換回路としては、ハイブリッド車に搭載されるものに限らず、例えば電気自動車に搭載されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0077】
50…シャント抵抗、54…コンパレータ、56…基準電圧生成回路、Sw…パワースイッチング素子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電圧制御形のスイッチング素子と、該スイッチング素子に逆並列に接続される態様にてこれと同一半導体基板に併設されたフリーホイールダイオードとが設けられた半導体デバイスを備える電力変換回路に適用され、
前記フリーホイールダイオードの順方向電流に関する物理量の検出値を入力とし、前記順方向電流が流れるか否かを判断する判断手段と、
前記順方向電流が流れると判断される場合、前記スイッチング素子の導通制御端子への電圧印加を禁止する禁止手段とを備え、
前記判断手段は、前記順方向電流が流れたと判断する際の前記検出値の絶対値を、前記導通制御端子の電圧が低い場合の方が高い場合よりも小さい値とすることを特徴とする電力変換回路の駆動装置。
【請求項2】
前記判断手段は、前記順方向電流が流れたと判断する際の前記検出値の絶対値を、前記スイッチング素子の駆動信号に基づき可変設定することを特徴とする請求項1記載の電力変換回路の駆動装置。
【請求項3】
前記判断手段は、前記順方向電流が流れたと判断する際の前記検出値の絶対値を、前記導通制御端子の電圧の検出値に基づき可変設定することを特徴とする請求項1記載の電力変換回路の駆動装置。
【請求項4】
前記半導体デバイスには、前記フリーホイールダイオードに流れる電流と相関を有する微少電流を出力するセンス端子が更に設けられており、
前記物理量の検出値は、前記微少電流の検出値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電力変換回路の駆動装置。
【請求項5】
前記物理量の検出値は、前記フリーホイールダイオードの電圧降下量の検出値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電力変換回路の駆動装置。
【請求項6】
前記電力変換回路は、高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子の直列接続体を備え、
前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子は、交互にオン操作が指令される相補信号によってオン・オフが指令されるものであり、
前記スイッチング素子は、前記高電位側スイッチング素子及び前記低電位側スイッチング素子の少なくとも一方であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の電力変換回路の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−246175(P2010−246175A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88645(P2009−88645)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】