説明

電力用半導体装置

【課題】パワーモジュールとヒートシンクをはんだ付けする場合、はんだの溶融時にはんだが外部に流出する恐れがあり、はんだが流出すると本来あるべきはんだ量が足りなくなるため、濡れ面積不足により放熱性能低下が問題となる。
【解決手段】電力用半導体素子1をモールド樹脂2で封入したパワーモジュール10と、パワーモジュールにはんだにより接合されたヒートシンク11とを有する電力用半導体装置において、ヒートシンクのパワーモジュール搭載面には、位置決め部12とはんだ流出止め部13とからなる突起部14を設け、突起部とパワーモジュールとヒートシンクで囲まれた空間であってはんだの周囲には、はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの体積膨張吸収部15を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂封止型パワーモジュールをヒートシンクにはんだ付けした電力用半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体モジュールとして、半導体素子と、半導体素子を挟む一対の金属板としてのCu放熱板と、Cu放熱を挟む絶縁板としての絶縁・放熱板と、絶縁・放熱板を挟む冷却装置としての放熱フィンと、Cu放熱板と絶縁・放熱板との間および絶縁・放熱板と放熱フィンとの間にそれぞれ塗布されたはんだとを備え、上記半導体素子とCu放熱板はモールド樹脂で覆われてなり、上記複数のはんだの層は同時にはんだ付けするようにしたものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、電力用半導体装置として、半導体素子と金属板と絶縁板をモールド樹脂で封入し半田接合可能面を露出させた半導体モジュールと、半導体モジュールの半田接合可能面に対向して配置され、接合用半田を介して接合されて半導体素子からの熱を外部に放散する冷却部と、半導体モジュールおよび冷却部の少なくとも一方と一体成型され、半導体モジュールと冷却部との隙間の全域にわたり接合用半田の厚みを一定に保持する半田厚設定部を備えたものが知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−335663号公報(請求項1、図1参照)
【特許文献2】特開2010−114257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数のはんだ層を同時にはんだ付けする場合の問題点として、低ボイド化のための減圧リフロー工程を用いた場合、減圧に伴って膨張した気泡にはんだが押し出されて重力方向に垂れ下がる問題がある。すなわち、被はんだ付けされるワークの平面的な外形とはんだ付け領域の面積が近くなると、ワークの端にはんだが移動した時に、はんだの流出が発生する。
【0006】
そして、はんだが流出してしまうと、本来あるべきはんだ量が足りなくなるため、濡れ面積不足により放熱性能低下が問題となる可能性がある。また、はんだ付け時にははんだが液体であるため、半導体モジュールと冷却部(放熱フィン)の位置が不安定になりやすいが、半導体モジュールの上に乗っているものの重量が大きい場合、セルフアライメントが効かず、位置ずれ不良が発生する可能性がある。
【0007】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたものであり、はんだの流出を防止すると共に、半導体モジュールと冷却部との位置を精度よく決めることができる電力用半導体装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の電力用半導体装置は、金属ブロックに取り付けられた電力用半導体素子をモールド樹脂で封入したパワーモジュールと、パワーモジュールにはんだにより接合されたヒートシンクとを有する電力用半導体装置において、ヒートシンクのパワーモジュール搭載面には、パワーモジュールの角部で規定される位置決め部と、はんだ流出止め部とからなる突起部を設け、突起部とパワーモジュールとヒートシンクで囲まれた空間であってはんだの周囲には、はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの体積膨張吸収部を形成したものである。
【0009】
また、この発明の電力用半導体装置は、金属ブロックに取り付けられた電力用半導体素子をモールド樹脂で封入したパワーモジュールと、パワーモジュールにはんだにより接合されたヒートシンクとを有する電力用半導体装置において、パワーモジュールのヒートシンク側には、パワーモジュールの角部で規定される位置決め部と、はんだ流出止め部とからなる突起部を設け、突起部と上記パワーモジュールとヒートシンクで囲まれた空間であってはんだの周囲には、はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの体積膨張吸収部を形成したものである。
【0010】
また、この発明の電力用半導体装置は、金属ブロックに取り付けられた電力用半導体素子をモールド樹脂で封入した複数のパワーモジュールを、ヒートシンクの対向する主面に夫々はんだにより接合してなる電力用半導体装置において、上面側パワーモジュールを搭載するヒートシンクの上面には、上面側パワーモジュールの角部で規定される位置決め部と、はんだ流出止め部とからなる第1の突起部を設け、第1の突起部と上面側パワーモジュールとヒートシンク上面で囲まれた空間であってはんだの周囲には、はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの第1の体積膨張吸収部を形成し、ヒートシンクの下面に搭載される底面側パワーモジュールには、底面側パワーモジュールの角部で規定される位置決め部と、はんだ流出止め部とからなる第2の突起部を設け、第2の突起部と底面側パワーモジュールとヒートシンク下面で囲まれた空間であってはんだの周囲には、はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの第2の体積膨張吸収部を形成したものである。
【発明の効果】
【0011】
この発明は、ヒートシンクまたはパワーモジュールに設けられる突起部のはんだ流出止め部、及びはんだ流出止め部とヒートシンクとパワーモジュールで囲まれた空間に形成される溶融はんだの体積膨張吸収部により、はんだの濡れ拡がり面積と厚みを精度良く決められ、ヒートシンクとパワーモジュールとの接合部外へ漏れ出すはんだを無くすことが出来る。また、突起部の位置決め部によりパワーモジュールの位置を精度良く決めることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】この発明の実施の形態1による電力用半導体装置を示す断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1による電力用半導体装置の突起部を示す拡大断面図と斜視図である。
【図3】この発明の実施の形態2による電力用半導体装置の突起部を示す拡大断面図である。
【図4】この発明の実施の形態3による電力用半導体装置の突起部を示す拡大断面図である。
【図5】この発明の実施の形態4による電力用半導体装置の突起部を示す拡大断面図である。
【図6】この発明の実施の形態5による電力用半導体装置の突起部を示す拡大断面図である。
【図7】この発明の実施の形態6による電力用半導体装置を示す断面図である。
【図8】この発明の実施の形態6による電力用半導体装置の突起部を示す拡大断面図である。
【図9】この発明の実施の形態7による電力用半導体装置を示す断面図である。
【図10】この発明の実施の形態7による電力用半導体装置の突起部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
以下、この発明の実施の形態1における電力用半導体装置を図1および図2により説明する。
図1はこの発明の実施の形態1による電力用半導体装置を示す断面図である。図2は位置決め部とはんだ流出止め部からなる突起部の拡大断面図と斜視図である。図1および図2において、電力用半導体装置は、電力用半導体素子1をモールド樹脂2で封入したパワーモジュール10と、パワーモジュール10の底面にモジュール外はんだ9により接合されたヒートシンク11とで構成されている。
【0014】
パワーモジュール10は、電力用半導体素子1と、電力用半導体素子1の下面に内はんだ3で取り付けられた導体の金属ブロック4と、電力用半導体素子1の上面に内はんだ5で取り付けられたリードフレームなどの端子6と、金属ブロック4の下面に取り付けられている絶縁層7と銅箔8が一体化された絶縁部とを、モールド樹脂2で封入して構成されている。
パワーモジュール10のはんだ付け面側はモールド樹脂2で覆われていなく、銅箔8は露出している。
【0015】
パワーモジュール10の電力用半導体素子1は、この図1では一個の図を記載しているが、IGBTとFwDiの組み合わせや、MOSFETとDiの組み合わせのように複数個の半導体素子を備えたり、または複数の金属ブロック3上にそれぞれ電力用半導体素子1を備えるなどして電気回路を構成してもよい。
また、電力用半導体素子1の材料としては、Si以外にもSiCやGaNなどの材料をベースにしたものでもよく、その場合、より高温での動作に耐えることができ、更に小型化が可能となるメリットも生じる。
またリードフレームの端子6は内はんだ5で接合された状態を示しているが、はんだ付けする例にこだわらず、ワイヤボンドによって構成してもよい。
【0016】
ヒートシンク11は、電力用半導体素子1からの熱を放熱する銅あるいはアルミニウム系材料で構成され、パワーモジュール10の搭載面側の4隅には、パワーモジュールの角部で規定される位置決め部12とはんだ流出止め部13からなる段差を有した突起部14が設けられ、ヒートシンク11と同じ材質で一体に構成されている。
突起部14の位置決め部12は、少なくともパワーモジュール10の主面に直交する面に接する部分を備え、パワーモジュール10の前後左右方向の移動を規制している。突起部14のはんだ流出止め部13の上面は、パワーモジュール10のはんだ付け面のはんだ付け領域の周囲に接する部分を備え、パワーモジュール10の底面とヒートシンク11の主面との間隔を所定値に保持するようにしている。すなわち、はんだ流出止め部13の高さはモジュール外はんだ9の溶融時の厚さとほぼ同じとなっている。
【0017】
パワーモジュール10の底面のはんだ付け面には銅箔8が配置されて、はんだが濡れる領域となっているが、銅箔8の周囲ははんだが濡れない材料(図示せず)で構成された領域となっている。はんだが濡れない材料としては、具体的には、熱硬化性の樹脂であれば代表例としてはエポキシ樹脂、熱可塑性の樹脂であればPPSなどを用いる。
そして、パワーモジュール10とヒートシンク11と突起部14とで囲まれた空間であってモジュール外はんだ9の周囲には、はんだ9の溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの体積膨張吸収部15を形成している。
【0018】
この溶融はんだの体積膨張吸収部15は、少なくともパワーモジュール10の底面に設けられる銅箔8以外の領域、ヒートシンク11の主面、はんだ流出止め部13の側面に囲まれて構成される。
なお、ヒートシンク11とはんだ流出止め部13は、はんだに濡れないアルミニウムで構成し、モジュール外はんだ9を濡らしたい領域のみに部分的にはんだに濡れる例えばニッケルめっきを施すなどすれば、この溶融はんだの体積膨張吸収部15の表面は、はんだに濡れないものとなる。また体積膨張吸収部15は、少なくともはんだが溶融している状態において、空間容積がはんだ溶融時に膨張する体積(約5%)以上である。
【0019】
はんだ9を供給する工程は通常は常温で行うが、常温時に比べて、はんだ9が溶融する温度に達すると5%程度はんだの体積が膨張するという現象があり、結果として初期の空間にはんだが収まらず、この溶融はんだの体積膨張吸収部15が存在しない場合ははんだ9が外部に流出してしまうが、この発明のように少なくともはんだが溶融する温度ではんだの体積膨張分以上の空間容積を確保しておくことで、はんだ9の流出を確実に防止できる。
【0020】
また、複数個の突起部14のうち、少なくとも1つの突起部14とパワーモジュール10の間には、図2に示すように、はんだ付け工程においてボイド除去のための減圧を行う際に空気が通過可能な隙間16を有している。そのような隙間16は、はんだ流出止め部13の高さがはんだ融点温度以上でモジュール外はんだ9の厚みの高さより低く、位置決め部12の高さがモジュール外はんだ9の厚みの高さよりも高いことで実現できる。
【0021】
ここで、はんだ付け時のプロセスについて簡単に説明する。まず、はんだ付け槽内を不活性雰囲気のガスにする。この時、このガスは常温の気体で且つ低酸素濃度のガスである。例えば、N、H、もしくはこの混合物であればよい。次に、はんだ付け槽内を昇温し、はんだの融点以上に温度を上昇させる。その上で真空ポンプを動作させ、はんだ付け槽内を真空状態にする。すると、はんだの中に捉えられていた気体が膨張し、パワーモジュール10の下から外部に移動し縁端部に到達すると、外側へ開放されボイドではなくなる。その後、はんだ付け槽内を常圧に戻し温度をはんだの融点以下に下げると、はんだがボイドがない状態で凝固される。その結果、低ボイドのはんだ付けが可能となる。パワーモジュール10とヒートシンク11の間のはんだ層には放熱機能が必要であるが、はんだ層にボイドが存在すると熱遮断により電力用半導体素子1の温度が許容を超えて温度上昇する危険があるため、最大ボイドの大きさを厳密に管理する必要がある。
【0022】
このような実施の形態1の構成によれば、はんだ流出止め部13を設けることにより、モジュール外はんだ9が融点を超えて溶融し液状になった後にも、体積膨張分を溶融はんだの体積膨張吸収部15で吸収できるため、はんだ9が周辺の部品に接合することなく液状のまま維持される。その後減圧工程でボイドを除去する時には、ボイドははんだ流出止め部13とパワーモジュール10の底面との間に設けられた隙間16まで到達し、はんだの外へ解放することが出来ると共に、液状のはんだははんだ流出止め部13の壁が存在することで接合部外へ飛散することを抑止出来る。
【0023】
更に、ボイド除去後に冷却する際には、はんだの融点以下ではんだが凝固するが、この時溶融はんだの体積膨張吸収部15はヒートシンク11の表面とパワーモジュール10の銅箔8の周囲にはんだが濡れ拡がらないような処理を施しているため、はんだ接合箇所が必要な箇所に限定したはんだ付けが可能となる。また、位置決め部12が、はんだが溶融した状態においてパワーモジュール10の位置ずれを防止でき、パワーモジュール10の位置を精度良く決めることを可能としている。
【0024】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2における電力用半導体装置を図3に基づいて説明する。図3は電力用半導体装置の位置決め部12とはんだ流出止め部13からなる突起部14における拡大断面図である。
実施の形態1においては、溶融はんだの体積膨張吸収部15の表面をはんだに濡れないようにするために、ヒートシンク11とはんだ流出止め部13を単にアルミニウムで構成したものについて説明したが、実施の形態2の発明は、ソルダレジストなどではんだに濡れない処理を施すようにしたものである。
【0025】
すなわち、図3(a)に示すように、例えば、少なくともヒートシンク11に設けられるはんだ流出止め部13と、その内側のヒートシンク11の非接合面を覆うように、ソルダレジスト17aなどではんだに濡れない状態にすることで、モジュール外はんだ9が存在する空間領域と、溶融はんだの体積膨張吸収部15が明確に分離できるため好都合である。
そして図3(b)に示すように、パワーモジュール10の底面の非接合面にも、外縁部にソルダレジスト17bを有することで、モジュール外はんだ9の溶融時の形状を任意にコントロールでき、形状再現性が向上し、不良が低減するというメリットがある。
【0026】
実施の形態3.
次に、この発明の実施の形態3における電力用半導体装置を図4に基づいて説明する。図4は電力用半導体装置の位置決め部12とはんだ流出止め部13からなる突起部14における拡大断面図である。
実施の形態1においては、はんだ付け工程においてボイド除去のための減圧を行う際に空気が通過可能な隙間16を設けた場合について説明したが、実施の形態3の発明は隙間16の代わりに突起部14に貫通穴を設けたものである。
【0027】
図4において、ヒートシンク11に設けられる突起部14のはんだ流出止め部13は、高さがモジュール外はんだ9の溶融時の厚みと同等であり、その高さのパワーモジュール10の銅箔面に近い側には、気体は通すが溶融はんだは通さない貫通穴18を設けて、体積膨張吸収部15の空間と外側の空間とを繋ぐようにしている。
この時、特に貫通穴18の内面は、はんだが濡れない材料で構成することで、ボイド除去のための減圧を行う際の気体を容易に通す機能を実現できる。
【0028】
上記した構成以外は実施の形態1または2と同じである。即ち、パワーモジュールの角部で規定される位置決め部12と、はんだ流出止め部13とからなる突起部14をヒートシンク11に設け、突起部14とパワーモジュール10とヒートシンク11で囲まれた空間であってモジュール外はんだ9の周囲には、はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの体積膨張吸収部15を形成している。
【0029】
また、パワーモジュール10とヒートシンク11との接合面は、はんだに濡れる領域と濡れない領域を有し、たとえばヒートシンク11の表面にはんだ接合を促進するためのメッキを施すが、はんだが溶融して膨張した時に接合しないようにメッキを部分的に施さないようにしている。また、体積膨張吸収部15を形成する表面は、はんだに濡れないソルダレジストを塗布するなどの方法ではんだに濡れない領域を設けるようにしてもよい。
【0030】
このような実施の形態3の構成によれば、はんだ流出止め部13は厳密にモジュール外はんだ9の厚みを規定することができ、且つ減圧時には、溶融したはんだの体積膨張吸収部15からボイドを外側へ逃がすパスを確実に確保できる。また減圧はんだ付けをした時の液状のはんだを接合部外へ流出することを抑止出来る。さらに位置決め部12により、
はんだが溶融した状態において、パワーモジュール10の位置ずれを防止できる。
【0031】
実施の形態4.
次に、この発明の実施の形態4における電力用半導体装置を図5に基づいて説明する。図5は電力用半導体装置の位置決め部12とはんだ流出止め部13からなる突起部14における拡大断面図である。
はんだ付け工程においてボイド除去のための減圧を行う際に逃がす空気の通過可能なものとして、実施の形態1においては隙間16を、実施の形態3においては貫通穴18を設けた場合について説明したが、実施の形態4の発明は突起部14を、気体は通すが溶融はんだは通さない材質で構成することにより、同じ機能を実現したものである。
【0032】
図5において、ヒートシンク11に設けられる突起部14の位置決め部12とはんだ流出止め部13は、気体は通すが溶融はんだは通さないスポンジ状の材料で構成されている。そして突起部14はアルミニウムなどのヒートシンク11に接着層19で取り付けられている。この場合、はんだ流出止め部13と接着層19の厚みの合計の高さは、モジュール外はんだ9の溶融時の厚みと同等である。
【0033】
上記した構成以外は実施の形態1または2と同じである。即ち、パワーモジュールの角部で規定される位置決め部12と、はんだ流出止め部13とからなる突起部14をヒートシンク11に設け、突起部14とパワーモジュール10とヒートシンク11で囲まれた空間であってモジュール外はんだ9の周囲には、はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの体積膨張吸収部15を形成している。
【0034】
このような実施の形態4の構成によれば、少なくともはんだ流出止め部13がスポンジ状であるため、減圧時にはボイドの主要素となる気体を効率良くはんだの外へ開放しながら液状のはんだを接合部外へ飛散することを抑止出来る。
【0035】
実施の形態5.
次に、この発明の実施の形態5における電力用半導体装置を図6により説明する。
図6は電力用半導体装置の位置決め部12とはんだ流出止め部13からなる突起部14における拡大断面図である。
図6において、位置決め部12とはんだ流出止め部13からなる突起部14は、ヒートシンク11とは別の部材で接着層19を介して構成され、はんだ流出止め部13と接着層19の厚みの合計が、モジュール外はんだ9の融点温度以上でモジュール外はんだ9の溶融時の厚みよりも小さくなるように配置されている。
【0036】
上記した構成以外は実施の形態1または2と同じである。即ち、はんだ9とはんだ流出止め部13の側面との間に、空間容積がはんだ溶融時に膨張する体積以上で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの体積膨張吸収部15を形成している。
体積膨張吸収部15の表面は、ヒートシンク11のパワーモジュール10側表面とパワーモジュール10の銅箔8の周囲にはんだが濡れ拡がらないような処理、例えばヒートシンク11の表面にはんだ接合を促進するメッキを施すことが通常使われる手法であるが、はんだが溶融して膨張した時に接合しないようにメッキを部分的に施さないこと、あるいははんだに濡れないソルダレジストを塗布するなどしている。
【0037】
即ち、この実施の形態5の発明は、位置決め部12とはんだ流出止め部13からなる突起部14を接着層19によりヒートシンク11に取り付ける点で、図5に示す実施の形態4と同じであるが、はんだ流出止め部13が気体を通過する機能を持たない材料で構成された場合、ボイドの気体ははんだ接合部外へ抜け出る経路が絶たれてしまい気体を抜くこ
とができない。
そこで実施の形態5の発明は、はんだ流出止め部13と接着層19の厚みの合計が、モジュール外はんだ9の厚みよりも小さくなるように配置して、ボイドの気体をはんだ接合部外へ抜け出るようにしたものである。
このとき、この小さい隙間を設けることで、はんだ流出止め部13の上面からはんだが流れ出てしまう懸念があるが、体積膨張吸収部15を設けその表面がはんだに濡れない処理をしているため、減圧時(気体を抜く作業時)に体積膨張吸収部15まで膨張して気体の端面が到達しても、はんだ流出止め部13とパワーモジュール10の隙間に溶融はんだは濡れていないため存在せず気体のみが抜け出ることになる。
【0038】
このような構成によれば、例えばヒートシンク11またはパワーモジュール10のいずれかの形状変更等に、突起部14がヒートシンク11と一体の場合は、ヒートシンク11またはパワーモジュール10の金型の変更が必要となるが、突起部14をヒートシンク11に接着層19で取り付けるようにすると、ヒートシンク11またはパワーモジュール10自体の金型変更が必要なくなり、位置決め部12とはんだ流出止め部13からなる突起部14の変更のみで容易な対応が可能となり、部品の共通化によるコスト削減が可能となる。
また、突起部14を接着層19でヒートシンク11に取り付ける場合、突起部14はヒートシンク11の材料と必ずしも異なる別材料で構成する必要はなく、ヒートシンク11と同じ材料にしても、ヒートシンク11またはパワーモジュール10の形状変更時に、金型の変更が必要なくなる。
【0039】
実施の形態6.
次に、この発明の実施の形態6における電力用半導体装置を図7および図8により説明する。
図7はこの発明の実施の形態6による電力用半導体装置を示す断面図である。図8は底面側パワーモジュールに設けられる位置決め部とはんだ流出止め部からなる突起部の拡大断面図である。
実施の形態1〜5はヒートシンク11の上面のみにパワーモジュール10をはんだで接合した例を説明したが、実施の形態6はヒートシンク11の互いに対向する両側の主面にそれぞれパワーモジュール10を接合するようにしたものである。
【0040】
図7において、電力用半導体装置は、ヒートシンク11の上面においては、電力用半導体素子1をモールド樹脂2で封入した上面側パワーモジュール10と、パワーモジュール10の底面にモジュール外はんだ9により接合されたヒートシンク11とで構成されている。
上面側パワーモジュール10の具体的な構成は図1の実施の形態1と同じであり、同一または相当部分には同じ符合を付して説明を省略する。
なお、ヒートシンク11のパワーモジュール10搭載面に設けられる突起部14は、実施の形態1〜5のいずれの構成を用いてもよいが、図7では実施の形態4のように接着層19を用いて固定した例で示している。
【0041】
ヒートシンク11の下面においては、電力用半導体素子1をモールド樹脂2で封入した底面側パワーモジュール10がモジュール外はんだ9により接合されている。この底面側パワーモジュール10の具体的な構成は上面側パワーモジュール10と同じである。
ヒートシンク11の下面に搭載される底面側パワーモジュール10には、底面側パワーモジュールの角部で規定される位置決め部20と、はんだ流出止め部21とからなる段差を有した第2の突起部22が接着層19で取り付けられている。
この第2の突起部22はヒートシンク11とは別の部材となるので、実施の形態4で示したはんだに濡れないスポンジ状のものが好ましいが、必ずしもスポンジ状のものに限定
されず、ヒートシンク11と同じ材質のものを使用してもよい。勿論その場合は、第2の突起部21にボイド除去のための減圧を行う際に空気が通過可能な隙間や貫通穴を設ける必要がある。
【0042】
第2の突起部22と底面側パワーモジュール10とヒートシンク11の下面で囲まれた空間であってはんだの周囲には、はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの第2の体積膨張吸収部23が形成されている。
さらに、図8(a)に示すように、底面側パワーモジュール10とヒートシンク11の位置決め精度を向上させるため、ヒートシンク11の下面に、底面側パワーモジュール10に設けられた突起部22を位置決めするため、突起部22の外側面を規制する凸部の位置決め部24を、ヒートシンク11と一体に形成している。また、凸部の位置決め部24の代わりに、図8(b)に示すように、突起部22の上面に嵌る凹部の位置決め部25をヒートシンク11と一体に形成してもよい。
【0043】
このような実施の形態6の構成によれば、はんだ付けの生産能力が2倍になり効率が向上し、またパワーモジュール10の1台に対して必要なヒートシンク11の体積が半分になり、製品の体積、重量、コスト低減が出来、底面側パワーモジュール10を精度良く位置決めすることが可能となる。
すなわち、この構成によれば、ヒートシンク11の両面にパワーモジュール10を同時にはんだ付けする時の問題点である、はんだの重力及び減圧時の体積膨張による流出と、モジュールの位置ズレという問題点を解消できる。
【0044】
従来の多層はんだ付けにおいて、被はんだ付け物の重量により、はんだ層が薄くなる方向に圧縮力が働き、かつはんだは重力により垂れ下がりやすく、このような現象は、下側にある物体が面積が小さかったり、はんだ付けしたい面積とはんだ付けしたい物体の面積が近い場合などに、はんだの流出の危険が高くなるという問題点があるが、この発明によれば、モジュール外はんだ9の面積をパワーモジュールの面積にきわめて近づけても、はんだの流出止め部21により、はんだが溶融時に収まる空間の高さを確実に確保でき、かつはんだの流出止め部、パワーモジュールの底面およびヒートシンクの面の一部で構成されるはんだの体積膨張吸収部23によって、溶融したはんだの体積膨張も吸収でき、はんだの流出を確実に防止できた。もしこのようなはんだの体積膨張吸収部23がなければ、膨張したはんだが流出するか、もしくは溶融時のはんだにより押し上げられて、位置ずれが発生するが、この発明の構成によれば、はんだの流出も、位置ずれも防止できた。
【0045】
実施の形態7.
次に、この発明の実施の形態7における電力用半導体装置を図9および図10により説明する。
図9はこの発明の実施の形態7による電力用半導体装置を示す断面図である。図10は底面側パワーモジュールに設けられる位置決め部20とはんだ流出止め部21からなる突起部22の拡大断面図である。
実施の形態7は実施の形態6と同じく、ヒートシンク11の互いに対向する両側の主面にそれぞれパワーモジュール10を接合するようにしたものであるが、底面側パワーモジュール10に設けられる突起部22の形状とヒートシンク11に形成される位置決め部の形状を変更したものである。
【0046】
ヒートシンク11の上面側パワーモジュール10搭載面に設けられる第1の突起部14は実施の形態6と同じである。底面側パワーモジュール10に設けられる第2の突起部22は、実施の形態6でははんだ流出止め部21と位置決め部20の一端が同一面となっていたが、実施の形態7でははんだ流出止め部21が位置決め部20の高さ方向の中間に設けられ、突起部22が凸形となった段差になっている。このような突起部22が底面側パワーモジュール10の側にヒートシンク11とは別の部材で接着層19を介して取り付けられている。
そして、底面側の溶融はんだの体積膨張吸収部23は、突起部22とヒートシンク11と底面側パワーモジュール10の間に確保されている。
【0047】
さらに、図10に示すように、底面側パワーモジュール10とヒートシンク11の位置決め精度を向上させるため、ヒートシンク11の下面に、底面側パワーモジュール10とヒートシンク11の間の空間であって、突起部22のはんだ流出止め部21の側面に接した凸部の位置決め部26を、ヒートシンク11と一体に形成している。この場合、体積膨張吸収部23の空間容積が狭くなるが、狭くなってもモジュール外はんだ9の溶融時に膨張する体積分以上の容積は確保されていることが必要となる。
【0048】
このような構成によれば、はんだ付けの生産能力が2倍になり効率向上になること、またパワーモジュール1台に対して必要なヒートシンクの体積が半分になり製品の体積、重量、コスト低減が出来る。
なお、実施の形態6および7では、突起部22は底面側パワーモジュール10に接着層19で固定して取り付けていたが、上面側パワーモジュール10と同様に、突起部14はヒートシンク11に設けて底面側パワーモジュール10をヒートシンク11と接合するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1:電力用半導体素子、 2:モールド樹脂、
3:はんだ 4:金属ブロック、
5:はんだ 6:リードフレームなどの端子、
7:絶縁層、 8:銅箔、
9:モジュール外はんだ、 10:パワーモジュール、
11:ヒートシンク、 12:位置決め部、
13:はんだ流出止め部、 14:突起部、
15:溶融はんだの体積膨張吸収部、 16:隙間、
17a、17b:ソルダレジスト、 18:貫通穴、
19:接着層、 20:底面側位置決め部、
21:底面側はんだ流出止め部、 22:第2の突起部
23:溶融はんだの体積膨張吸収部、 24:凸部位置決め部、
25:凹部位置決め部、 26:凸部位置決め部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ブロックに取り付けられた電力用半導体素子をモールド樹脂で封入したパワーモジュールと、上記パワーモジュールにはんだにより接合されたヒートシンクとを有する電力用半導体装置において、上記ヒートシンクのパワーモジュール搭載面には、上記パワーモジュールの角部で規定される位置決め部と、はんだ流出止め部とからなる突起部を設け、上記突起部と上記パワーモジュールと上記ヒートシンクで囲まれた空間であって上記はんだの周囲には、上記はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの体積膨張吸収部を形成した電力用半導体装置。
【請求項2】
上記突起部は、パワーモジュールのはんだ付け面のはんだ付け領域の周囲に接する部分と、少なくとも上記パワーモジュールの主面に直交する面に接する部分を備えた段差になっていることを特徴とする請求項1に記載の電力用半導体装置。
【請求項3】
上記突起部は、上記ヒートシンクと同じ材質で一体に構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電力用半導体装置。
【請求項4】
上記突起部は、上記ヒートシンクに接着剤で接着されて構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電力用半導体装置。
【請求項5】
上記突起部は、上記ヒートシンク材料と異なるはんだに濡れない材質で構成されていることを特徴とする請求項4に記載の電力用半導体装置。
【請求項6】
上記体積膨張吸収部は、パワーモジュール底面に設けられる銅箔以外の領域、ヒートシンクの主面及びはんだ流出止め部の側面に囲まれて構成される請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の電力用半導体装置。
【請求項7】
上記はんだ流出止め部と位置決め部からなる突起部と上記パワーモジュールの間には、はんだ付け工程においてボイド除去のための減圧を行う際に空気が通過可能な隙間を有してなる請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の電力用半導体装置。
【請求項8】
上記隙間は、上記はんだ流出止め部の高さが上記はんだの厚みの高さより低く、上記位置決め部の高さが上記はんだの厚みの高さよりも高い段差で構成することにより実現したことを特徴とする請求項7に記載の電力用半導体装置。
【請求項9】
上記突起部は、気体は通すが溶融はんだは通さない貫通穴を設けて、上記体積膨張吸収部の空間と外側の空間とを繋ぐようにした請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の電力用半導体装置。
【請求項10】
上記突起部は、気体は通すが溶融したはんだは通さない材質で構成されていることを特徴とする請求項1、請求項2および請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載の電力用半導体装置。
【請求項11】
上記パワーモジュールは、ヒートシンクの対抗する主面に夫々はんだにより接合されてなる請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の電力用半導体装置。
【請求項12】
金属ブロックに取り付けられた電力用半導体素子をモールド樹脂で封入したパワーモジュールと、上記パワーモジュールにはんだにより接合されたヒートシンクとを有する電力用半導体装置において、上記パワーモジュールのヒートシンク側には、上記パワーモジュールの角部で規定される位置決め部と、はんだ流出止め部とからなる突起部を設け、上記突起部と上記パワーモジュールと上記ヒートシンクで囲まれた空間であって上記はんだの周囲には、上記はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの体積膨張吸収部を形成した電力用半導体装置。
【請求項13】
金属ブロックに取り付けられた電力用半導体素子をモールド樹脂で封入した複数のパワーモジュールを、ヒートシンクの対向する主面に夫々はんだにより接合してなる電力用半導体装置において、
上面側パワーモジュールを搭載する上記ヒートシンクの上面には、上記上面側パワーモジュールの角部で規定される位置決め部と、はんだ流出止め部とからなる第1の突起部を設け、上記第1の突起部と上記上面側パワーモジュールと上記ヒートシンク上面で囲まれた空間であって上記はんだの周囲には、上記はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの第1の体積膨張吸収部を形成し、
上記ヒートシンクの下面に搭載される底面側パワーモジュールには、上記底面側パワーモジュールの角部で規定される位置決め部と、はんだ流出止め部とからなる第2の突起部を設け、上記第2の突起部と上記底面側パワーモジュールと上記ヒートシンク下面で囲まれた空間であって上記はんだの周囲には、上記はんだの溶融時に膨張する体積分以上の容積で、その表面がはんだに濡れない材質で構成された溶融はんだの第2の体積膨張吸収部を形成した電力用半導体装置。
【請求項14】
上記底面側パワーモジュールに設けられた第2の突起部は、ヒートシンク材料と異なるはんだに濡れない材質で構成された請求項13に記載の電力用半導体装置。
【請求項15】
上記ヒートシンクの下面に、上記パワーモジュールに設けられた突起部を位置決めする凸部または凹部の位置決め部を設けた請求項12乃至請求項14のいずれか1項に記載の電力用半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−142521(P2012−142521A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1195(P2011−1195)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】