説明

電動パワーステアリング装置

【課題】
容易な構成で、操舵補助用モータに実際に流れる電流値を高精度に検出できるようにする。
【解決手段】
スイッチ手段9をオンするサンプリング開始タイミングによって、モータ電流検出手段R6で検出されたモータ電流値をサンプリングしてモータ電流ホールド部7にホールドし始め、スイッチ手段9をオフするホールドタイミングで、前記モータ電流ホールド部7にホールドされているモータ電流値を制御手段4に取り込み、前記サンプリング開始タイミング、及びホールドタイミングが変更可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図4は特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置100のブロック構成図を示す。図中、制御手段101は、車速センサから出力される車速、及びトルクセンサから出力される操舵トルクに基づき、操舵補助用モータMを制御するものである。
【0003】
図中、102はHブリッジ回路で、該Hブリッジ回路102はFET駆動回路103によって駆動されるものであって、該FET駆動回路103は前記制御手段101によってPWM信号でPWM制御される構成になっている。
【0004】
制御手段101は、前記車速、操舵トルクに相応した電流指令値と、前記操舵補助用モータMに実際に流れる電流との差分を求め、当該差分に基づき前記FET駆動回路103をPWM制御する構成になっている。
【0005】
操舵補助用モータMに実際に流れる電流は、モータ電流検出用抵抗104の両端電圧を検出することによって求められる。
【0006】
前記モータ電流検出用抵抗104の両端電圧は、サンプルホールド回路105に供給され、該サンプルホールド回路105を構成するコンデンサC1の両端電圧としてホールドされる。
【0007】
前記コンデンサC1にホールドされた電圧は、オペアンプ106の両入力端子間の電圧として該オペアンプ106に入力され、該オペアンプ106で増幅される。
【0008】
該オペアンプ106の出力はPNPトランジスタQ10のベースに供給され、該トランジスタQ10をオンさせ、コレクタ電流が流れる。該コレクタ電流がコレクタ抵抗R14を流れることによって電圧に変換されて、制御手段101に読み込まれる。ここで、PNPトランジスタQ10のコレクタ電流は、前記モータ電流検出用抵抗104の両端電圧の大きさに対応しているため、制御手段101は、前記コレクタ電流の大きさに基づいて、操舵補助用モータMに実際に流れている電流の大きさを求めることができる。
【特許文献1】特許第3154665号公報
【特許文献2】特開平4−251596号公報
【特許文献3】特開2002−46630号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、この背景技術の電動パワーステアリング装置100においては、以下の問題があった。オペアンプ106は一般的にオフセット電圧を有しているために、モータ電流検出用抵抗104に流れる電流が小電流の場合には、該オフセット電圧に影響されて当該モータ電流検出用抵抗104に流れる電流を検出することができない。このため、電動パワーステアリング装置100によって的確なアシスト制御を実行できないという問題があった。
【0010】
一方、オフセット電圧の影響を無くすようにした電動パワーステアリング装置が特許文献2に記載されている。図5は、特許文献2に記載されている内容を示す。シャント抵抗RSの両端の電圧が差動回路51によって検出される。差動回路51の+入力端子には所定電圧Vrが印加されている。差動回路51によって検出された電圧はコンパレータ53の−入力端子に与えられる。コンパレータ53によって半波整流が行われる。また、シャント抵抗RSとバッテリィ48の接続点は差動回路52の+入力端子と接続されている。この差動回路52の+入力端子にも所定電圧Vrが印加されている。差動回路52は差動回路51およびコンパレータ53によって生じるオフセット電圧を補償するものである。
【0011】
しかし、オフセット電圧を補償するために、このように構成された特許文献2の内容は回路構成が複雑であって、各素子間の調節が面倒であるという問題があった。このため、容易な構成で、オフセット電圧を補償できるようにすることによって、容易に、且つ、的確にアシスト制御を実行できる技術が望まれていた。
【0012】
又、特許文献3に記載の電動パワーステアリング装置も知られている。
【0013】
特許文献3に記載の電動パワーステアリング装置においては、モータ電流検出用抵抗に流れる電流値が、ピークホールド回路に保存された後に、制御手段に取り込まれる構成になっている。
【0014】
図6は特許文献3に記載のピークホールド回路を示す。該ピークホールド回路は、第1ピークホールド回路61と第2ピークホールド回路62とを備えている。次に、第1ピークホールド回路61の作動について説明する。モータ電流検出用抵抗56にモータ電流が流れることにより、コンパレータ61aの非反転入力端子の電位(点Uの電位)が上昇する。このコンパレータ61aの非反転入力端子の電位が、同コンパレータ61aの反転入力端子の電位より高くなると、コンパレータ61aが「オフ」してダイオード61cが「オン」となる。これにより、抵抗61gとダイオード61cを介してコンデンサ61fに電流が流れ、同コンデンサ61fが充電される。この充電により、コンパレータ61aの反転入力端子の電位が同コンパレータ61aの非反転入力端子の電位より高くなると、コンパレータ61aが「オン」してダイオード61cが「オフ」となり、コンデンサ61fの充電が停止すると共に、コンデンサ61fの放電が抵抗61d,61eを介して行われる。オペアンプ61bは、点P1の電位VP1を低インピーダンスに変換してADC43のチャンネルCH1に出力する。尚、抵抗値R1、R2,コンデンサ61fの容量等の第1ピークホールド回路61の素子の各値は、アナログ電圧VP1の最大値(モータ電流が制御上取り得る最大値となったときのアナログ電圧VP1)が、ADC43のアナログーデジタル変換し得る電圧の最大値と等しくなるように選択されている。
【0015】
しかし、特許文献3に記載の発明においては、以下の問題点があった。図7(a)はPWM信号の波形を示し、図7(b)はモータ電流検出用抵抗56に発生する電圧を示す。そして、理想的には、コンデンサ61fには、図(b)に示すモータ電流検出用抵抗56に発生する電圧と同じ電圧が発生するように、コンデンサ61fの容量、及び抵抗61d,61eの抵抗値R1、R2によって決定される時定数が設定される。しかし、時定数が大きすぎる場合には、コンデンサ61fの電圧の放電に長時間を有し、その結果、コンデンサ61fの電圧が完全に放電される前に、次のPWM信号に同期してモータ電流検出用抵抗56に発生する電圧が加わることになる。このために、コンデンサ61fの電圧は、現在、電流検出用抵抗56に発生した電圧よりも高い電圧となるために、モータ電流を正確に検出できないという問題があった。
【0016】
又、前記時定数が小さ過ぎる場合には、コンデンサ61fは電圧を一定時間保持することができずに放電し易く、その結果、制御手段が該コンデンサ61fの電圧を良好に取り込む前に、コンデンサ61fの電圧が放電されてしまって、制御手段は、的確なアシスト制御を実行できないという問題があった。
【0017】
つまり、特許文献3に記載の発明において、的確なアシスト制御をする場合には、コンデンサ61f、及び放電用の抵抗61d,61eの抵抗値R1、R2によって決定される時定数の調節が煩雑であるという問題があった。
【0018】
そこで、本発明は、前記背景技術の問題に鑑みて成されたもので、その目的は、容易な構成で、操舵用モータに実際に流れる電流値を高精度に検出できるようにすることによって、的確なアシスト制御を実行できるようにした電動パワーステアリング装置を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
請求項1に記載の発明は、車速を検出する車速センサと、ハンドルの操舵トルクを検出するトルクセンサと、ハンドルの操舵補助用のモータと、前記モータに実際に流れるモータ電流の値を検出するモータ電流検出手段と、前記車速、及び操舵トルクに基づいて演算して求められた電流指令値と前記モータに実際に流れるモータ電流の値との差分を求め、当該差分に基づき前記モータの動作をPWM制御する制御手段とを少なくとも備えた電動パワーステアリング装置において、前記モータ電流検出手段で検出されたモータ電流の値をホールドするモータ電流ホールド部を備え、前記モータ電流検出手段と前記モータ電流ホールド部との間にスイッチ手段を設け、前記制御手段は、該スイッチ手段をオンするサンプリング開始タイミングによって、前記モータ電流検出手段検出されたモータ電流値をサンプリングして前記モータ電流ホールド部にホールドし始め、前記スイッチ手段をオフするホールドタイミングで、前記モータ電流ホールド部にホールドされているモータ電流値を自己に取り込み、前記サンプリング開始タイミング、及びホールドタイミングを変更可能あることを特徴とするものである。
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、制御手段は、PWM信号のパルス幅の大小等に応じて、スイッチ手段の開閉を制御することで、サンプリングの開始のタイミング、及び、ホールドタイミングを自在に変更できるため、的確なアシスト制御を実行できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
図1乃至図3は本発明の実施の形態を示す。図1中、1はモータ回路を示す。該モータ回路1は、FET等で構成された4つのスイッチング素子S1〜S4をブリッジ接続して構成されている。モータ回路1は、ハイサイド側の二つのスイッチング素子S1、S2と、ローサイド側の二つのスイッチング素子S3,S4とを備え、ハイサイド側の二つのスイッチング素子S1、S2と、ローサイド側の二つのスイッチング素子S3,S4との間には、操舵補助用モータMが設けられている。
【0022】
前記モータ回路1は、モータ電流検出用抵抗R6を介してモータ用電源2に接続されている。該モータ電流検出用抵抗R6によって、請求項1に記載のモータ電流検出手段が構成される。
【0023】
前記モータ回路1の四つのスイッチング素子S1〜S4は、昇圧電源Sに接続されて電力が供給されると共に、モータ回路駆動部3によって制御される。該モータ回路駆動部3は、制御手段4に制御されて前記モータ回路1の各スイッチング素子をPWM信号でPWM制御するものである。該制御手段4は、例えば、マイクロコンピュータ等によって構成される。又、対角線方向のスイッチング素子S1,S4、S2,S3が互いに対になって構成されている。又、前記昇圧電源Sは、モータ用電源2に接続されて、モータ用電源2の電圧を昇圧するものである。
【0024】
前記制御手段4は、車速センサ5から出力された車速、及びトルクセンサ6から出力された操舵トルクに基づいて電流指令値を演算する機能と、該電流指令値と前記操舵補助用モータMに実際に流れる電流値との差分を求め、当該差分に基づき前記モータ回路1をPWM制御するものである。
【0025】
前記モータ電流検出用抵抗R6と前記制御手段4との間にはモータ電流ホールド部7、及びモータ電流出力部8が設けられ、前記モータ電流検出用抵抗R6の値は、モータ電流ホールド部7、及びモータ電流出力部8を介して、前記制御手段4に取り込まれるように構成されている。
【0026】
又、前記モータ電流検出用抵抗R6とモータ電流ホールド部7との間にはスイッチ手段9が設けられている。該スイッチ手段9のオン、オフは、スイッチ制御手段10によって制御されるように構成されている。
【0027】
前記モータ電流ホールド部7は、前記モータ電流検出用抵抗R6に並列接続されたコンデンサC1、及び放電用抵抗R4から構成されている。前記モータ電流検出用抵抗R6の各端にはそれぞれ第1基準ラインX1及び第2基準ラインX2が設けられ、該コンデンサC1及び放電用抵抗R4は、第1基準ラインX1及び第2基準ラインX2の間に設けられている。第1基準ラインX1は、前記モータ用電源2の+側に接続されることで定電位になっている。
【0028】
前記モータ電流出力部8は、オペアンプ11と、該オペンプ11の後段に設けられたトランジスタQ5とを備えている。該オペアンプ11は、その−端子が前記第1基準ラインX1に接続され、+端子が第2基準ラインX2に接続されている。該オペアンプ11の出力は、抵抗R7を介してトランジスタQ5のベースに接続されている。該トランジスタQ5のエミッタ側にはエミッタ抵抗R8が接続され、該トランジスタQ5のコレクタ側は第1基準ラインX1に接続されている。
【0029】
該トランジスタQ5のエミッタ側を流れる電流は該エミッタ抵抗R8によって電圧に変換され、抵抗R9及びコンデンサC4を介して、制御手段4のAD端子に入力されるように構成されている。
【0030】
又、前記第1基準ラインX1にはオフセット回路12が接続されている。前記オフセット回路12は、前記昇圧電源Sと、一端側が該昇圧電源Sの+側に接続された第1の抵抗R1と、該第1の抵抗R1の他端側にカソード側が接続されると共に前記モータ用電源2の+側にアノード側が接続されたツエナーダイオードZDと、該ツエナーダイオードZDのカソード側と、前記第1基準ラインX1との間に設けられた第2の抵抗R2とによって構成されている。
【0031】
又、前記スイッチ手段9は第2基準ラインX2に設けられている。該スイッチ手段9は例えば、NチャンネルのMOSFET等によって構成することができる。スイッチ手段9をNチャンネルのMOSFETによって構成した場合には、該スイッチ手段9のゲート側に高電圧が印加された場合に、該スイッチ手段9がオンし、又、該スイッチ手段9のゲートに低電圧が印加された場合に、該スイッチ手段9がオフとなる。
【0032】
又、前記スイッチ制御部10は、エミッタ接地NPNトランジスタによって構成されることができる。該トランジスタは、そのベース側が抵抗R11を介して制御手段4の端子PO0に接続され、且つ、抵抗R12を介して接地されている。又、そのコレクタ側は抵抗R10を介して昇圧電源Sの+側に接続されると共に、前記スイッチ手段9を構成するMOSFETのゲート側に接続されている。制御手段4からは、サンプリング信号Pが前記スイッチ制御部10のベース側に出力されるように構成されている。
【0033】
次に、作用について説明する。以下の説明では、本実施形態の電動パワーステアリング装置はスイッチング素子S1,S2のみをPWM制御する方式のものとする。制御手段4がモータ回路1のスイッチング素子S1、S2をオン、オフすることによって、操舵補助用モータMをPWM信号でPWM制御する。該スイッチング素子S1のオン時には、例えば、図1に示すように、モータ回路1には電流Kが流れる。このように、モータ回路1に電流Kが流れることによって、モータ電流検出用抵抗6にモータ電流が流れて、第1基準ラインX1と第2基準ラインX2との間には、電圧V1が発生する。
【0034】
一方、スイッチング素子S1のオフの時には、モータ電流検出用抵抗R6には電流が流れないため、第1基準ラインX1と第2基準ラインX2との間には電圧は発生しない。この場合には、操舵補助用モータMで発生した回生電流は、操舵補助用モータM、スイッチング素子S4、スイッチング素子S3のダイオードを経て、操舵補助用モータMに至る回路を巡回して消滅する。
【0035】
又、スイッチング素子S2のオン時にも、同様に、モータ回路1に電流が流れ、モータ電流検出用抵抗6にモータ電流が流れて、第1基準ラインX1と第2基準ラインX2との間には、電圧V1が発生する。又、スイッチング素子S2のオフの時には、モータ電流検出用抵抗R6には電流が流れないため、第1基準ラインX1と第2基準ラインX2との間には電圧は発生しない。この場合には、操舵補助用モータMで発生した回生電流は、操舵補助用モータM、スイッチング素子S3、スイッチング素子S4のダイオードを経て、操舵補助用モータMに至る回路を巡回して消滅する。
【0036】
又、スイッチング素子S1、又はS2のオンと同期して、制御手段4からスイッチ制御部10にサンプリング信号Pが供給されてスイッチ制御部10がオンし、スイッチ手段9を構成するFETに高電圧が印加されて該スイッチ手段9がオンすることで、コンデンサC1の両端電圧が、第1基準ラインX1と第2基準ラインX2との間の電圧V1になる。
【0037】
前記コンデンサC1の電圧V1は、オペアンプ11の両入力端子間に印加される。この場合、オペアンプ11がイマジナリーショートするように電流が流れ、その電流が、図1中、矢印で示すように、トランジスタQ5のコレクタ側を流れると共に、エミッタ電流となって、エミッタ抵抗R8に電圧V2が生じる。
【0038】
この電圧V2は制御手段4の端子ADから制御手段4に読み込まれる。この電圧V2は、モータ電流検出用抵抗R6の両端電圧V1に対応するものであって、この電圧V2の増減を検出することで、電圧V1の増減を検出することができるものである。
【0039】
ここで、後述のように、コンデンサC1の電圧については、制御手段4が最適のタイミングで読み込むことができる。次に、制御手段4によるコンデンサC1の電圧の読み込みについて説明する。
【0040】
先ず、図2に基づき、PWM制御に用いるPWM信号のパルス波の整形の基となる三角波(図2(A)に示す)、PWM信号(図2(B)に示す)の立ち上がり、及び立ち下がりのタイミング、モータ電流の波形(図2(C)に示す)、モータ電流検出用抵抗の両端電圧(図2(D)に示す)、及びサンプリング信号P(図2(E)〜(K)に示す)の関係について説明する。
【0041】
前記PWM制御に用いるPWM信号(図2(B)に示す)のパルス波は、変更可能な閾値を有するリミッタ回路等を用いて形成することができるものであって、図2(A)に示す三角波をリミッタ回路等に通すことによって、矩形波に整形することができるものである。図2(B)は、閾値T1を有するリミッタ回路に三角波を通すことによって、一定のパルス幅の矩形波に整形したPWM信号を示す。
【0042】
又、前記サンプリング信号Pは、前記制御手段4からスイッチ制御部10に供給される信号であって、スイッチ手段9をオン、オフさせる信号である。サンプリング信号Pのパルス幅をサンプリング時間ΔTという。サンプリング信号Pは、本来、負電圧であるが、説明の便宜上、正電圧として説明する。
【0043】
前記サンプリング信号Pの立ち上がりによって、スイッチ制御部10が作動してスイッチ手段9をオンさせることで、モータ電流検出用抵抗R6の電圧のサンプリングを開始するものである。当該サンプリング信号Pの立ち上がりがサンプリング開始タイミングに該当する。又、サンプリング信号Pの立ち下がりによって、スイッチ手段9がオフすることで、前記サンプリングが停止するものである。サンプリング信号Pの立ち上がりに同期して、制御手段4はコンデンサC1の電圧V1を取り込むものである。当該サンプリング信号Pの立ち下がりのタイミングがホールドタイミングHに該当する。
【0044】
制御手段4は、サンプリング開始タイミングS、及びホールドタイミングHを変更することができる。
【0045】
そして、サンプリング開始タイミングS、及びホールドタイミングHを変更することができることによって、以下の効果を奏する。即ち、図6に示す特許文献3に記載の発明においては、コンデンサの容量、及び放電用抵抗の抵抗値からなる時定数を高精度に調節しなければならず、その調節が煩雑であった。しかし、本実施形態においては、制御手段4が、スイッチ手段9のオン、オフのタイミングを制御することで、サンプリング開始タイミングS,及びホールドタイミングHを自在に変更することができ、その結果、制御手段4はモータ電流値のサンプリングを最適のタイミングで開始でき、又、該モータ電流値を最適のタイミングで読み込むことができて、最適のアシスト制御を実行することができる。
【0046】
以下、サンプリング開始タイミングS、及びホールドタイミングHを種々の態様に変更した場合について説明する。
【0047】
図2(E)は、第1実施形態を示す。この第1実施形態はサンプリング時間ΔTを一定とし、且つ、ホールドタイミングHをPWM信号の立ち下がりに同期させた場合を示す。この第1実施形態においては、サンプリング時間ΔTを一定とすることで、モータ電流検出用抵抗R6で検出されたモータ電流値をAD変換する時間を充分に確保することができるため、変換時間の長いAD変換器を用いる場合であっても、アナログ値をデジタル値に変換することができる。又、サンプリング時間ΔTを一定にすることで、サンプリングするためのソフトを簡素化することができる。又、ホールドタイミングHがPWM信号の立ち下がりに同期するため、ホールドタイミングHを独立して制御する必要がなく、実施が容易である。
【0048】
又、図2(F)は第2実施形態を示す。この第2実施形態においては、同図2(F)に示すように、ホールドタイミングHをPWM信号の立ち下がりの直前に設定することができる。この場合のホールドタイミングHは、図2(A)において、閾値T1以上の閾値T2が三角波と交差する点NをホールドタイミングHとすることができる。
【0049】
又、同図2(G)は第3実施形態を示す。この第3実施形態においては、同同図2(G)に示すように、サンプリング開始タイミングSをPWM信号の立ち上がりに同期させ、ホールドタイミングHをPWM信号の立ち下がりに同期させることができる。この場合には、サンプリング開始タイミングSをPWM信号の立ち上がりに同期させ、ホールドタイミングHをPWM信号の立ち下がりに同期させることで、サンプリング開始タイミングS、及びホールドタイミングHを専用のタイマーやプログラムソフトを用意することなく、容易に確保することができる。
【0050】
図2(H)は第4実施形態を示す。この第4実施形態においては、同図2(H)に示すように、サンプリング時間ΔTの中央、即ち、サンプリング信号のパルス幅の中央が、PWM信号のパルス幅の中央に一致し、且つ、サンプリング時間ΔTを一定とするものである。この場合には、図2(D)に示すように、PWM信号のオン時において徐々に上昇するモータ電流検出用抵抗R6の両端電圧の略平均値を検出でき、その結果、モータ電流の略平均値を検出することができるため、当該略平均値に基づいて実際に即したアシスト制御を実行することができる。又、サンプリング時間ΔTを、AD変換に要する時間以上の一定時間とすることで、AD変換に比較的長い変換時間を要するAD変換器を用いることができる。又、サンプリング時間ΔTを一定にすることで、サンプリングするためのソフトを簡素化することができる。
【0051】
図2(I)は第5実施形態を示す。この第5実施形態においては、同図2(I)に示すように、PWM信号のパルス幅の中央のタイミングよりも前にサンプリング信号Pを出力し、且つ、PWM信号のパルス幅の中央をホールドタイミングHとするものである。この場合には、制御手段4は、図2(D)に示すように、PWM信号のオン時において徐々に上昇するモータ電流検出用抵抗R6の両端電圧の平均値を検出でき、その結果、モータ電流の平均値を検出することができるため、当該平均値に基づいて実際に即した理想的なアシスト制御を実行することができる。
【0052】
次に、第6実施形態を説明する。この第6実施形態においては、サンプリング開始タイミングS、及びホールドタイミングHを大電流域と小電流域に応じて変更可能とし、大電流域においては、図2(J)に示すように、サンプリング開始タイミングSがPWM信号の立ち上がり前とし、且つ、ホールドタイミングHがPWM信号のパルス幅の中央に一致し、小電流域においては、図2(G)に示すように、サンプリング開始タイミングSがPWM信号の立ち上がりに同期し、且つ、ホールドタイミングHがPWM信号の立ち下がりに同期させるものである。
【0053】
大電流域において、図2(J)に示すように、サンプリング開始タイミングSをPWM信号の立ち上がり前とし、ホールドタイミングHをPWM信号のパルス幅の中央に同期した場合には、制御手段4は、図2(D)に示すように、PWM信号のオン時において徐々に上昇するモータ電流検出用抵抗R6の両端電圧の平均値を検出でき、その結果、モータ電流の平均値を検出することができるため、当該平均値に基づいて実際に即した理想的なアシスト制御を実行することができる。又、サンプリング開始タイミングSを、PWM信号の立ち上がり前とすることで、サンプリング開始タイミングSからホールドタイミングHまでのサンプリング時間ΔTを比較的長く確保できるため、AD変換に比較的長い処理時間を要するAD変換器を用いることができる。
【0054】
又、小電流域において、図2(G)に示すように、サンプリング開始タイミングSをPWM信号の立ち上がりに同期させ、ホールドタイミングHをPWM信号の立ち下がりに同期させた場合には、PWM信号のパルス幅が狭くなる小電流域においても、制御手段4は、正確に、サンプリング開始タイミングSをPWM信号の立ち上がりに同期させ、且つ、ホールドタイミングHをPWM信号の立ち下がりに同期させて、モータ電流検出用抵抗R6に発生する電圧V1を的確に取り込むことができることによって、当該電圧V1に基づいて的確なアシスト制御を実行することができる。
【0055】
次に、第7実施形態について説明する。この第7実施形態においては、大電流域において、図2(G)に示すように、サンプリング開始タイミングSをPWM信号の立ち上がりに同期させ、且つ、ホールドタイミングHをPWM信号の立ち下がりに同期させ、小電流域においては、図2(K)に示すように、サンプリング開始タイミングSをPWM信号の立ち上がり前とし、且つ、ホールドタイミングHをPWM信号の立ち下がりに同期させることができる。
【0056】
この場合には、大電流域において、サンプリング開始タイミングS、及びホールドタイミングHをPWM信号の立ち上がり、立ち下がりに同期させることで、サンプリング開始タイミングS、及びホールドタイミングHを専用のタイマーやプログラムソフトを用意することなく、容易に確保することができる。
【0057】
又、小電流域においては、サンプリング開始タイミングSをPWM信号の立ち上がり前とすることで、PWM信号の立ち上がりに遅れることなくサンプリングを開始することができるため、PWM信号のデュティー比が小さくても的確にサンプリングすることができる。又、ホールドタイミングHを、PWM信号の立ち下がりに同期させることで、ホールドタイミングHを専用のタイマーやプログラムソフトを用意することなく、容易に確保することができる。尚、モータ電流の平均値をサンプリングすることが最も好ましいという意味合いから、PWM信号のパルス幅の中央に同期してホールドタイミングHを設けることが理想であるが、小電流域においては、PWM信号のパルス幅が極めて狭くなっているために、ホールドタイミングHを、PWM信号のパルス幅の中央ではなく、PWM信号の立ち下がりに同期させても、サンプリングした値は、理想のものと大差がない。
【0058】
次に、第8実施形態について説明する。この第8実施形態においては、大電流域において、図2(G)に示すように、サンプリング開始タイミングSをPWM信号の立ち上がりに同期させ、且つ、ホールドタイミングHをPWM信号の立ち下がりに同期させ、小電流域においては、前述の第7実施形態で説明した要件の他にサンプリング時間ΔTを一定にしたものである。
【0059】
この第8実施形態においては、大電流域において、サンプリング開始タイミングS、及びホールドタイミングHをPWM信号の立ち上がり、立ち下がりに同期させることで、サンプリング開始タイミングS、及びホールドタイミングHを専用のタイマーやプログラムソフトを用意することなく、容易に確保することができる。
【0060】
又、小電流域においては、第7実施形態に示した小電流域における作用効果の他に、サンプリング時間ΔTを一定とすることで、モータ電流検出用抵抗R6で検出されたモータ電流値をAD変換する時間を充分に確保することができるため、変換時間の長いAD変換器を用いる場合であっても、アナログ値をデジタル値に変換することができる。又、サンプリング時間ΔTを一定にすることで、サンプリングするためのソフトを簡素化することができる。
【0061】
次に、オフセット回路12の作用について説明する。昇圧電源Sから供給された電流が第1の抵抗R1を通ることによって、ツエナーダイオードZDのカソード側には、一定の電位が発生するが、この電位はツエナーダイオードZDのツエナー効果によって一定電位に保たれる。このため、第2の抵抗R2には、ツエナーダイオードZDのカソード側の電位と第1基準ラインX1との間の電圧に応じた一定の電流が流れる。そして、この電流がトランジスタQ5のエミッタ抵抗R8を流れることによって、当該エミッタ抵抗R8には、昇圧電源Sから供給された電流に基づく電圧が常に加算された状態にある。この状態について、図3を用いて説明する。
【0062】
図3中、横軸はモータ電流検出用抵抗R6を流れる電流値を示し、縦軸は、トランジスタQ5のエミッタ抵抗R8に発生する電圧を示す。図3中、一点鎖線は、オペアンプ11のオフセット電圧が−の場合の特性を示し、二点鎖線は、オペアンプ11のオフセット電圧が+の場合の特性を示し、実線はオペアンプ11のオフセット電圧のない理想的特性を示す。本実施形態においては、オフセット回路12が設けられることによって、特性線は、図3中、一点鎖線で示す状態から、上方へ移動することによって、実線で示す状態、又は、二点鎖線で示す状態になることになって、オペアンプのオフセット電圧を吸収することになる。
【0063】
即ち、図3中、一点鎖線で示すように、オフセット電圧が−の場合には、特性直線が横軸と交差する点α以下の小電流が、モータ電流検出用抵抗R6を流れた場合には、当該電流を検出することができない。つまり、モータ電流検出用抵抗R6を小電流が流れた場合には、当該小電流を検出することができない。
【0064】
しかし、本実施形態においては、オペアンプ11の−端子にオフセット回路12が接続され、該オフセット回路12を流れる電流によって、エミッタ抵抗R8にはオペアンプ11のオフセット電圧以上の電圧が印加される。つまり、昇圧電源S側からオフセット電圧以上の電圧が、エミッタ抵抗R8に印加されることで、オペアンプ11のオフセット電圧が相殺されて、図3中、二点鎖線、又は実線で示す特性を示すことになる。このため、図3中、二点鎖線、又は実線で示すように、モータ電流検出用抵抗R6が微少電流であっても、その微少電流をエミッタ抵抗R8の両端電圧として検出することができて、高精度のアシスト制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態の電動パワーステアリング装置の一例のブロック構成図を示す。(本実施形態)
【図2】本実施形態のPWM信号、モータ電流、モータ電流検出用抵抗の両端電圧、及びサンプリング信号の関係を示す図である。(本実施形態)
【図3】本実施形態に用いるオペアンプの特性を示す線図である。(本実施形態)
【図4】背景技術による電動パワーステアリング装置のブロック構成図を示す。(背景技術)
【図5】背景技術による電動パワーステアリング装置のブロック構成図を示す。(背景技術)
【図6】背景技術による電動パワーステアリング装置のブロック構成図を示す。(背景技術)
【図7】背景技術による電動パワーステアリング装置におけるPWM信号の波形とモータ電流検出用抵抗に発生する電圧の波形を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
4 制御手段
5 車速センサ
6 トルクセンサ
7 モータ電流ホールド部
8 モータ電流出力部
9 スイッチ手段
11 オペアンプ
12 オフセット回路
R1 第1の抵抗
R2 第2の抵抗
R6 モータ電流検出手段(モータ電流検出用抵抗)
M 操舵補助用モータ
P サンプリング信号
S 昇圧電源
ZD ツエナーダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車速を検出する車速センサと、
ハンドルの操舵トルクを検出するトルクセンサと、
ハンドルの操舵補助用のモータと、
前記モータに実際に流れるモータ電流の値を検出するモータ電流検出手段と、
前記車速、及び操舵トルクに基づいて演算して求められた電流指令値と前記モータに実際に流れるモータ電流の値との差分を求め、当該差分に基づき前記モータの動作をPWM制御する制御手段とを少なくとも備えた電動パワーステアリング装置において、
前記モータ電流検出手段で検出されたモータ電流の値をホールドするモータ電流ホールド部を備え、前記モータ電流検出手段と前記モータ電流ホールド部との間にスイッチ手段を設け、
前記制御手段は、該スイッチ手段をオンするサンプリング開始タイミングによって、前記モータ電流検出手段で検出されたモータ電流値をサンプリングして前記モータ電流ホールド部にホールドし始め、前記スイッチ手段をオフするホールドタイミングで、前記モータ電流ホールド部にホールドされているモータ電流値を自己に取り込み、
前記サンプリング開始タイミング、及びホールドタイミングを変更可能あることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
サンプリング開始タイミングとホールドタイミングとの間のサンプリング時間は一定時間とし、且つ、ホールドタイミングが、PWM信号の立ち下がりに同期するか又は該PWM信号の立ち下がりの直前であることを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
サンプリング開始タイミングが、PWM信号の立ち上がりに同期し、且つ、ホールドタイミングがPWM信号の立ち下がりに同期することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
サンプリング時間の中央が、PWM信号のパルス幅の中央に一致し、且つ、サンプリング時間を一定としたことを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
サンプリング開始タイミングがPWM信号のパルス幅の中央よりも前とし、且つ、ホールドタイミングがPWM信号のパルス幅の中央に一致したことを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
サンプリング開始タイミング、及びホールドタイミングを大電流域と小電流域に応じて変更可能とし、大電流域においては、サンプリング開始タイミングがPWM信号の立ち上がり前とし、且つ、ホールドタイミングがPWM信号のパルス幅の中央に一致し、小電流域においては、サンプリング開始タイミングがPWM信号の立ち上がりに同期し、且つ、ホールドタイミングがPWM信号の立ち下がりに同期することを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
サンプリング開始タイミング、及びホールドタイミングを大電流域と小電流域に応じて変更可能とし、大電流域においては、サンプリング開始タイミングがPWM信号の立ち上がりに同期し、且つ、ホールドタイミングがPWM信号の立ち下がりに同期し、小電流域においては、サンプリング開始タイミングがPWM信号の立ち上がり前とし、且つ、ホールドタイミングがPWM信号の立ち下がりに同期したことを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
小電流域において、サンプリング時間を一定とする要件を具備したことを特徴とする請求項7に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
オペアンプを有し、前記モータ電流ホールド部にホールドされた値を読み込み、且つ、増幅して前記制御手段に出力するモータ電流出力部と、前記オペアンプのオフセット電圧を消滅させるオフセット回路とを備え、
前記オフセット回路は、電源の電圧を昇圧させる昇圧電源と、一端側が該昇圧電源の+側に接続された第1の抵抗と、該第1の抵抗の他端側にカソード側が接続されると共に前記電源の+側にアノード側が接続されたツエナーダイオードと、該ツエナーダイオードのカソードと、前記オペアンプの入力端子との間に設けられた第2の抵抗とによって構成されたことを特徴とする請求項1乃至請求項8の何れか1項に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−40248(P2009−40248A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−208001(P2007−208001)
【出願日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】