説明

電動パワーステアリング装置

【課題】電動パワーステアリング装置を制御する装置が有する記憶装置の不具合を診断する際の時間を短縮すること。
【解決手段】CPU101、ROM102、RAM103は、電動パワーステアリング装置の制御に用いられる。ROM102やRAM103は、電動パワーステアリング装置の制御に使用される情報を格納するとともに、複数のエリアに分割されている。複数のエリアは、電動パワーステアリング装置の制御における所定の処理単位毎に対応している。CPU101は、前記処理単位を実行するタイミングで、複数のエリアのうち、これから実行する処理単位に対応するエリアを診断する。また、CPU101は、前記処理単位を実行するタイミングでないときには、ROM102やRAM103に対する診断を実行しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関し、さらに詳しくは操舵制御を行うコンピュータが搭載する記憶装置の診断に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗用車やトラック等の車両の操舵力を軽減するため、電動機によって操舵を補助する、いわゆる電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置がある。電動パワーステアリング装置は、電動機が発生する動力を、減速機を介してステアリングシャフト又はラック軸に付与するようになっている。電動パワーステアリング装置は、車両の操舵という役割を担うため、車両を構成する装置の中でも特に高い安全性、信頼性が要求される。このため、電動パワーステアリング装置を制御するコンピュータが有するROM及びRAM等の一次記憶装置についても、不具合をいち早く検出できるように、随時不具合の診断を実行して一次記憶装置そのものや一次記憶装置に保持されている情報に不具合が発生していないかを診断している。
【0003】
例えば、特許文献1には、電動パワーステアリング装置に用いる制御用コンピュータが有するROMの診断技術が開示されている。この技術は、ROM領域を複数の所定数のビットからなるセルによって構成し、診断用期間毎に複数のセルのうち、一部のセルのデータの加算を行い、前回診断用期間に得られた一部のセルのデータの加算値に今回診断用期間に他の一部のセルのデータを加算して、ROM領域のすべてのセルについてのデータの加算値が得られたとき、加算値の合計と規定値とを比較するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−133635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示される技術では、ROMのすべての領域についてデータの加算が得られたときに、加算値の合計と規定値とを比較するため、ROMのすべての領域についてデータの加算を得るまでに時間を要してしまう。その結果、電動パワーステアリング装置の動作中においては、記憶装置の記憶領域やデータに発生した不具合の発見が遅れるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、電動パワーステアリング装置を制御する装置が有する記憶装置の不具合を診断する際の時間を短縮することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、車両のステアリング機構に補助操舵力を付与する電動機を有し、前記ステアリング機構に対する操舵トルクと車速とを少なくとも用いて演算した操舵補助指令値に基づいて前記電動機を駆動制御する電動パワーステアリング装置において、当該電動パワーステアリング装置の制御に使用される情報を格納するとともに、前記電動パワーステアリング装置の制御における所定の処理単位毎に分割された複数のエリアを有する記憶装置と、前記電動パワーステアリング装置を制御するとともに、前記処理単位を実行するタイミングで、前記複数のエリアのうち、これから実行する処理単位に対応するエリアを診断し、前記処理単位を実行するタイミングでないときには前記記憶装置の診断を実行しない処理装置と、を含むことを特徴とする電動パワーステアリング装置である。
【0008】
本発明は、記憶装置の記憶領域を、電動パワーステアリング装置の制御における所定の処理単位毎に複数のエリアに分割し、電動パワーステアリング装置の制御における、ある処理単位を実行するタイミングに合わせて、これから実行しようとする処理単位に対応するエリアに不具合が発生したか否かを診断する。そして、電動パワーステアリング装置の制御において、処理単位を実行するタイミングでないときには、記憶装置に不具合が発生したか否かの診断を実行しない。
【0009】
このように、これから実行しようとしている処理単位に対応する記憶装置のエリアについてのみ、不具合が発生したか否かが判定されるので、記憶装置のすべてのエリアが診断されるまで、これから実行しようとしている処理単位に対応する記憶装置のエリアの診断結果を待つ必要はない。また、これから実行しようとする処理単位に対応したエリアのみを診断するので、これから実行しようとする処理とは関係ないエリアを診断する必要はない。その結果、電動パワーステアリング装置を制御する装置が有する記憶装置の不具合を診断する際の時間を短縮できる。また、これから実行しようとする処理単位以外の処理単位に対応するエリアは診断しないので、処理装置の負荷を低減できる。
【0010】
電動パワーステアリング装置の制御に使用される情報とは、例えば、電動パワーステアリング装置の制御に用いるコンピュータプログラムやデータ等である。また、処理単位は、電動パワーステアリング装置の制御において、入力された何らかの情報を加工処理して出力することを最低の単位とする。
【0011】
本発明の望ましい態様としては、前記電動パワーステアリング装置において、前記処理装置は、前記診断手段が前記エリアに不具合が発生していると判定した場合、不具合が発生したエリアの処理単位に対応したバックアップ処理を実行することが好ましい。これによって、不具合があった場合でも、電動パワーステアリング装置の動作を継続させることができるので、電動パワーステアリング装置の安全性がより向上する。
【0012】
本発明の望ましい態様としては、前記電動パワーステアリング装置において、前記バックアップ処理は、前記電動パワーステアリング装置を固定値で制御する処理であることが好ましい。このように、バックアップ処理として固定値で制御するので、簡単な処理で電動パワーステアリング装置の動作を継続させることができる。
【0013】
本発明の望ましい態様としては、前記電動パワーステアリング装置において、前記処理装置は、前記バックアップ処理に不具合があると判定した場合、前記補助操舵力の付与を中止することが好ましい。このように、バックアップ処理に対応するエリアに不具合が発生した場合、そのような情報を用いないことによって、安全性を確保できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、電動パワーステアリング装置を制御する装置が有する記憶装置の不具合を診断する際の時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成を示す図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。
【図3】図3は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニットの機能的な構成を示す機能ブロック図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニットが備える記憶装置の診断処理を実行するための機能構成図である。
【図5】図5は、電動パワーステアリング装置の制御の手順を示すフローチャートである。
【図6】図6は、本実施形態に係るROM及びRAMの診断の処理手順例を示すフローチャートである。
【図7】図7は、本実施形態に係るROM及びRAMの診断の処理手順例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0017】
図1は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置の構成を示す図である。本実施形態に係る電動パワーステアリング装置は、電動パワーステアリング装置の制御に使用される情報を格納するとともに、電動パワーステアリング装置の制御における所定の処理単位毎に分割された複数のエリアを有する記憶装置と、電動パワーステアリング装置を制御するとともに、前記記憶装置に不具合が発生しているか否かを判定する処理装置とを有する。そして、処理装置は、電動パワーステアリング装置の制御において、処理単位を実行するタイミングで、複数のエリアのうち、これから実行しようとする処理単位に対応するエリアを診断する。また、処理装置は、電動パワーステアリング装置の制御において、処理単位を実行するタイミングでないときには記憶装置を診断しない。
【0018】
電動パワーステアリング装置100は、車両に搭載されて、前記車両の運転者によるハンドルホイール1の操作を補助するものである。ハンドルホイール1のコラム軸2は、減速ギヤ3、ユニバーサルジョイント4a、4b、ラックアンドピニオン機構5を介して、操舵輪のタイロッド6に連結されている。コラム軸2には、ハンドルホイール1の操舵トルクTを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、コラム軸2には減速ギヤ3が取り付けられている。減速ギヤ3は、電動機20の発生するトルクを増加させてコラム軸2へ伝達する。このような構造によって、電動機20が発生するトルクにより、ハンドルホイール1の操舵力が補助される。
【0019】
本実施形態において、電動パワーステアリング装置100は、コラム軸2に電動機20のトルクを伝達するコラムアシスト型の装置であるが、電動パワーステアリング装置の形式はこれに限定されるものではない。例えば、電動パワーステアリング装置100は、ピニオンアシスト型やラックアシスト型等であってもよい。
【0020】
電動機20は、例えば、ブラシレスモータやブラシモータである。電動パワーステアリング装置100を制御するECU(Electronic Control Unit、以下コントロールユニットという)30には、自身に内蔵された電源リレー13を介してバッテリ14から電力が供給されるとともに、イグニッションスイッチ11からイグニッション信号が送信される。また、コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTと車速センサ12で検出された車両速度(車速)Vとに基づいて、電動機20の電流指令値を演算する。そして、コントロールユニット30は、電動パワーステアリング装置100を制御する装置(電動パワーステアリング装置の制御装置)である。コントロールユニット30は、電動機20供給される電流の値(電流検出値)と電流指令値とに基づいて、電動機20の電流検出値が電流指令値に追従するように電動機20を駆動制御する。
【0021】
図2は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニットのハードウェア構成を示す模式図である。コントロールユニット30は、図2に示すように、電源リレー13と、制御用コンピュータ110と、電動機駆動回路15と、電流検出回路16と、位置検出回路17等とを備えている。電動パワーステアリング装置100の制御用コンピュータ110は、CPU(Central Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、EEPROM(Electrically Erasable Programmable ROM)104、インターフェース(I/F)105、A/D(Analog/Digital)変換器106、PWM(Pulse Width Modulation)コントローラ107等を備え、これらがバスに接続されている。CPU101は処理装置であり、ROM102に格納された、電動パワーステアリング装置100の制御用コンピュータプログラム(以下、制御プログラムという)を実行して、電動パワーステアリング装置100を制御する。
【0022】
ROM102は制御プログラムや、ROM102及びRAM103を診断するための診断用コンピュータプログラム(以下、診断プログラムという)、あるいは電動パワーステアリング装置100の制御や診断に用いるデータを格納する。また、RAM103は、制御プログラムや診断プログラムを動作させるためのワークメモリとして使用される。EEPROM104は、制御プログラムが入出力する制御データ等が格納されている。制御データは、コントロールユニット30に電源が投入された後にRAM103に展開された制御用コンピュータプログラム上で使用され、所定のタイミングでEEPROM104に上書きされる。
【0023】
ROM102、RAM103、及びEEPROM104等は情報を格納する記憶装置であって、CPU101が直接アクセスできる記憶装置(一次記憶装置)である。ROM102、RAM103、及びEEPROM104等は、制御用コンピュータプログラム及び制御データが格納されているため、CPU101によって不具合の有無の診断が実行される。このとき、ROM102、RAM103、及びEEPROM104のすべてを記憶装置として診断するように構成してもよいが、本実施形態では、記憶装置のうち、電動パワーステアリング装置100の制御中において使用頻度が高いROM102及びRAM103を診断するものとする。
【0024】
本実施形態における記憶装置の診断は、診断時間を短縮できるという効果が得られる。このため、本実施形態における記憶装置の診断を、電動パワーステアリング装置100の制御中において使用頻度が高いROM102及びRAM103に対して使用することにより、診断時間を短縮して、これらへアクセスできるタイミングが制限されることを抑制できる。なお、ROM102及びRAM103以外の記憶装置(例えば、EEPROM104)に対して本実施形態における記憶装置の診断を除外するものではない。
【0025】
A/D変換器106は、トルクセンサ10からの操舵トルクT、電流検出回路16からの電動機20の電流検出値Im、及び位置検出回路17からの電動機の回転角θの信号等を入力し、ディジタル信号に変換する。インターフェース105は、CAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークに接続されている。インターフェース105は、車速センサ12からの車速Vの信号(車速パルス)を受け付けるためのものである。
【0026】
PWMコントローラ107は、電動機20に対する電流指令値に基づいてUVW各相のPWM制御信号を出力する。電動機駆動回路15は、インバータ回路等により構成され、PWMコントローラ107から出力された信号に基づいて電動機20を駆動する。電流検出回路16は、電動機20に供給される電流の値(電流検出値)Imを検出してA/D変換器106に出力する。位置検出回路17は、位置センサ25(例えば、レゾルバ等)の出力信号を電動機の回転角θとして、A/D変換器106に出力する。上記構成において、CPU101が、ROM102に格納された診断プログラムを実行することにより、診断部及び診断時期指定部として機能する。
【0027】
図3は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニットの機能的な構成を示す機能ブロック図である。図3を用いて、電動パワーステアリング装置100の制御を説明する。図3に示すように、コントロールユニット30には、トルク制御部30a、電流制御部30b、トルク補償部30cが設けられている。
【0028】
トルク制御部30aは、アシスト量演算部111、トルク微分器112及び位相補償部113を備える。アシスト量演算部111は、アシストマップを参照することで、今回の操舵トルクTr及び車速Vに対応したアシストトルクTmを算出する。なお、アシスト量演算部111は、車速Vが低速の場合は図1に示すハンドルホイール1の操作が軽くなり、車速Vが高速の場合はハンドルホイールの操作が重くなるようにアシストトルクTmを算出することができる。
【0029】
トルク微分器112は、操舵トルクTrの微分値を算出し、アシストトルクTmに加算することで、ハンドルホイール1の中立点付近における制御の応答性を高めることができる。位相補償部113は、操舵トルクTrの急激な変動を補償し、制御の安定性を維持するための位相補償を実行する。なお、位相補償部113にロバスト安定化補償部を設け、トルク検出系に含まれる慣性要素及びばね要素からなる共振系の共振周波数でのピーク値を除去し、制御の応答性及び安定性を阻害する共振周波数の位相のずれを補償するようにしてもよい。
【0030】
電流制御部30bは、電流指令部114、減算器131、電流制御器132、デューティ演算器133、インバータ134及び電流センサ135を備える。電流指令部114は、トルク指令値Tdに対応した電流指令値Idを算出する。減算器131は、電流指令部114が算出した電流指令値Idと、電流センサ135が検出した電流検出値Imとの偏差を算出する。電流制御器132は、電流指令値Idと電流検出値Imとの偏差が0に近づくように、比例制御と微分制御と積分制御とのうち少なくとも一つを実行する。
【0031】
デューティ演算器133は、電流指令値Idに近づくように制御された電流Irが生成されるように、インバータ134のゲート駆動信号のデューティ比を演算する。インバータ134は、デューティ演算器133が演算したデューティ比にしたがってPWM制御された電流Irを電動機20に出力する。電流センサ135は、電動機20に流れる電流Irを検出する。
【0032】
トルク補償部30cは、電動機角速度推定部121、電動機角加速度推定部122、ヨーレート収れん性制御部123、電動機慣性補償部124、SAT(SAT:Self Aligning Torque)推定部125、摩擦補償部126、減算器127a、127b及び加算器128a、128bを備える。電動機角速度推定部121は、電動機20の回転角θに基づいて電動機20の角速度ωを推定する。電動機角加速度推定部122は、電動機20の角速度ωに基づいて電動機20の角加速度αを推定する。
【0033】
ヨーレート収れん性制御部123は、電動機20の角速度ωに基づいて車両のヨーレートを推定し、ハンドルホイール1が振れ回る動作を制動することで、車両のヨーの収れん性を改善する。電動機慣性補償部124は、電動機20の角加速度αに基づいて電動機20の慣性力を推定し、電動機20の慣性力を補償することで、制御の応答性を高める。SAT推定部125は、操舵トルクTr、アシストトルクTm、電動機20の角速度ω及び角加速度αに基づいてセルフアライニングトルクTsを推定し、そのセルフアライニングトルクTsを反力としてアシストトルクTmを補償することで、ハンドル操作に路面情報を反映させる。摩擦補償部126は、操舵トルクTrに基づいてハンドルホイール1の操舵の抵抗となるトルク(摩擦トルク)を推定し、摩擦トルクを補償することで、制御の応答性を高める。
【0034】
減算器127aは、摩擦補償部126からの出力(摩擦トルク)TfからセルフアライニングトルクTsを減算する。減算器127bは、電動機慣性補償部124からの出力(慣性補償値)TiからセルフアライニングトルクTsを減算する。加算器128aは、ヨーレート収れん性制御部123からの出力Tyに減算器127bからの出力を加算する。加算器128bは、位相補償部113が位相補償したアシストトルクTmに、トルク微分器112からの出力と加算器128aからの出力とを加算する。
【0035】
なお、図3のトルク制御部30a、電流制御部30b、トルク補償部30cのうちの電流指令部114、減算器131、電流制御器132及びデューティ演算器133は、図2に示す制御用コンピュータ110によって実現される。また、図3に示す電流制御部30bのうちのインバータ134は、図2のPWMコントローラ107及び電動機駆動回路15によって実現される。さらに、図3に示す電流制御部30bのうちの電流センサ135は、図2の電流検出回路16によって実現される。
【0036】
図2に示すトルクセンサ10が検出した操舵トルクTrは、アシスト量演算部111、トルク微分器112及びSAT推定部125に入力されるとともに、図2の車速センサ12が検出した車速Vは、アシスト量演算部111に入力される。また、位置センサ25が検出した電動機20の回転角θは、電動機角速度推定部121に入力される。そして、アシスト量演算部111は、操舵トルクTr及び車速Vに基づいてアシストトルクTmを算出して、位相補償部113に出力する。位相補償部113は、アシストトルクTmを位相補償した後、その結果を加算器128bに出力する。また、操舵トルクTrがトルク微分器112に入力されると、トルク微分器112は、操舵トルクTrの微分値を算出して加算器128bに出力する。
【0037】
電動機20の回転角θが電動機角速度推定部121に入力されると、電動機角速度推定部121は、電動機20の角速度ωを算出して、電動機角加速度推定部122、ヨーレート収れん性制御部123及びSAT推定部125に出力する。そして、電動機20の角速度ωが電動機角加速度推定部122に入力されると、電動機角加速度推定部122は、電動機20の角加速度αを算出して、電動機慣性補償部124及びSAT推定部125に出力する。電動機20の角速度ωがヨーレート収れん性制御部123に入力されると、ヨーレート収れん性制御部123は、車両のヨーレートを推定し、車両のヨーを収れんさせるヨーレート補償値Tyを加算器128aに出力する。
【0038】
電動機20の角加速度αが電動機慣性補償部124に入力されると、電動機慣性補償部124は、電動機20の慣性力を推定して、電動機20の慣性力を補償する慣性補償値Tiを減算器127bに出力する。さらに、操舵トルクTr、アシストトルクTm、電動機20の角速度ω及び角加速度αがSAT推定部125に入力されると、SAT推定部125は、セルフアライニングトルクTsを推定して減算器127aに出力する。
【0039】
なお、セルフアライニングトルクTsは、次の(1)式に示す運動方程式で求めることができる。
J・α+Fr・sin(ω)+Ts=Tm+Tr・・・(1)
この運動方程式において、ドライバがハンドルホイール1を操舵すると、操舵トルクTrが発生し、その操舵トルクTrにしたがって電動機20がアシストトルクTmを発生する。その結果、車輪が転舵され、セルフアライニングトルクTsが反力として発生する。その際、電動機20の慣性J及びステアリング機構に存在する摩擦(静摩擦)力Frによってハンドルホイール1の操舵の抵抗となるトルクが生じる。これらの力の釣り合いを考えると、(1)式の運動方程式が得られる。
【0040】
ここで、(1)式の初期値を0としてラプラス変換し、Tsについて解くと、次の(2)式に示すように、セルフアライニングトルクTsを求めることができる。なお、(s)はラプラス演算子を意味する。
Ts(s)=Tm(s)+Tr(s)−J・α(s)−Fr・sin(ω(s))・・・(2)
【0041】
減算器127aは、摩擦トルクTfからセルフアライニングトルクTsを減算し、その結果を減算器127bに出力する。減算器127bは、慣性補償値Tiから減算器127aの出力を減算し、その減算結果を加算器128aに出力する。そして、加算器128aは、減算器127bからの出力とヨーレート補償値Tyとを加算し、加算器128bに出力する。加算器128は、位相補償部113が位相補償したアシストトルクTmとトルク微分器112からの出力と加算器128aからの出力とを加算されることでトルク指令値Tdを算出し、電流指令部114に出力する。
【0042】
そして、電流指令部114は、トルク指令値Tdに対応した電流指令値Idを算出し、減算器131に出力する。また、電流センサ135が検出した電流検出値Imは、減算器131に出力される。そして、減算器131は、電流指令値Idと電流検出値Imとの偏差を算出し、電流制御器132に出力する。また、電流制御器132は、電流指令値Idと電流検出値Imとの偏差が0に近づくように電流制御値を算出し、デューティ演算器133に出力する。デューティ演算器133は、電流制御器132から出力された電流制御値に基づいてパルス信号のデューティ比を演算し、インバータ134に出力する。そして、インバータ134は、デューティ演算器133が演算したデューティ比に基づいてPWM制御された電流Irを生成し、電動機20に出力することで、トルク指令値Tdに対応したトルクを電動機20に発生させる。
【0043】
図4は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニットが備える記憶装置の診断処理を実行するための機能構成図である。ROM102は、情報を格納する記憶領域(ROM記憶領域)1020を有している。ROM記憶領域1020には、電動パワーステアリング装置100の制御用コンピュータプログラムや診断用コンピュータプログラムが格納されている。本実施形態において、ROM記憶領域1020は、複数のエリアA、B、C、D、E、F、G、H・・・に分割されている。
【0044】
それぞれのエリアは、電動パワーステアリング装置の制御における所定の処理単位毎に分割され、それぞれのエリアに、前記処理単位を実現するためのコンピュータプログラムやデータ等が格納される。本実施形態では、電動パワーステアリング装置100の制御に必要な機能(制御機能)毎に分割され、それぞれのエリアに、前記機能を実現するためのコンピュータプログラムやデータ等が格納される。なお、本実施形態においては、処理単位に、電動パワーステアリング装置100の診断に必要な処理(診断処理)や機能(診断機能)を含めてもよい(以下同様)。例えば、エリアAは診断機能、エリアBはトルク微分機能、エリアCは車速テーブル、エリアDは位相補償機能、エリアEは収れん補償機能、エリアFは慣性補償機能、エリアGはSAT推定機能、エリアHは摩擦補償機能に対応する。ここで、エリアとは、ROM記憶領域1020やRAM記憶領域1030において、複数の所定数のビットからなる領域である。
【0045】
また、RAM103は、情報を格納する記憶領域(RAM記憶領域)1030を有している。RAM記憶領域1030は、CPU101がROM102に格納されたコンピュータプログラムやデータを用いて電動パワーステアリング装置100の制御等を実行する際のワーキングエリアとして使用される。本実施形態において、RAM記憶領域1030は、複数のエリアa、b、c、d、e、f、g、h・・・に分割されている。本実施形態では、それぞれのエリアは、電動パワーステアリング装置100の制御機能毎に分割される。そして、CPU101が前記機能を実現するためのコンピュータプログラムやデータをROM102から読み出して実行する際のワーキングエリアとして、それぞれのエリアが使用される。
【0046】
CPU101は、ROM102に格納されている制御プログラムを読み込んで実行することにより、CPU101内に制御部1010を実現する。また、CPU101は、ROM102に格納されている診断プログラムを読み込んで実行することにより、CPU101内に診断部1011及び診断時期指定部1012を実現する。ここで、制御部1010は、電動パワーステアリング装置100を制御するものであり、トルク微分機能、位相補償機能、収れん補償機能等の制御機能を所定のタイミングで実行することにより、電動パワーステアリング装置100に操舵の補助(操舵補助)を実現させる。
【0047】
診断時期指定部1012は、電動パワーステアリング装置100の制御において、制御部1010が制御機能を実行するタイミングで、診断部1011に、ROM102のROM記憶領域1020やRAM103のRAM記憶領域1030の分割された複数のエリアのうち、これから実行する制御機能に対応するエリアを診断させる。また、診断時期指定部1012は、制御部1010が制御機能を実行するタイミングでないときには、診断部1011に、ROM102のROM記憶領域1020やRAM103のRAM記憶領域1030の診断をさせない。
【0048】
診断部1011は、診断時期指定部1012の指示に基づいて、ROM102のROM記憶領域1020やRAM103のRAM記憶領域1030の分割された複数のエリアのうち、電動パワーステアリング装置100の制御でこれから実行しようとする制御機能に対応するエリアを診断する。診断部1011が実行する診断処理は、ROM102については、例えば、SUMチェックやパリティチェック、SUMチェックとパリティチェックとを組み合わせたチェック等がある。また、RAM103について診断部1011が実行する診断処理には、例えば、所定のデータを書き込んで、書き込んだデータを読み出し、読み出したデータが書き込んだ所定のデータと一致するかを判定するリード/ライトチェックがある。
【0049】
図5は、電動パワーステアリング装置の制御の手順を示すフローチャートである。電動パワーステアリング装置100を制御するにあたって、ステップS1において、コントロールユニット30の制御用コンピュータ110を構成するCPU101は、イグニッション(IG)がONであるか否かを判定する。イグニッションがONであるか否かは、図1に示すイグニッションスイッチ11から送信されるイグニッション信号の有無に基づいてCPU101が判定する。
【0050】
ステップS1でNoと判定された場合、すなわち、CPU101がイグニッションはOFFであると判定した場合、CPU101はイグニッションの監視を継続する。ステップS1でYes判定された場合、すなわち、CPU101がイグニッションはONであると判定した場合、CPU101は、ROM102に格納されている制御プログラムを読み込んで実行することにより、CPU101内に制御部1010を実現して、電動パワーステアリング装置100の制御機能を所定のタイミングで実行することにより、電動パワーステアリング装置100を制御する。
【0051】
電動パワーステアリング装置100の制御において、本実施形態では、それぞれの制御機能を実行する前に、ROM102のROM記憶領域1020やRAM103のRAM記憶領域1030の診断が実行される。ステップS2において、CPU101は、ROM102に格納されている診断プログラムを読み込んで実行することにより、CPU101内に診断部1011及び診断時期指定部1012を実現して、ROM102及びRAM103を診断する。次に、この診断の手順を説明する。
【0052】
図6、図7は、本実施形態に係るROM及びRAMの診断の処理手順例を示すフローチャートである。表1は、それぞれの制御機能と、制御機能実行周期、診断周期、不具合発生時の処理を示している。制御機能実行周期及び診断周期は、t1、t2、t3の順に長くなる。図6は、トルク微分機能に対応するROM102及びRAM103のエリアを診断する処理手順例を示し、図7は、位相補償機能に対応するROM102及びRAM103のエリアを診断する処理手順例を示している。
【0053】
次の説明では、トルク微分機能に対応するエリアの診断及び微分機能に対応するエリアの診断を説明するが、実際は、電動パワーステアリング装置100の制御に用いられるすべての制御機能に対応するエリアの診断が、それぞれの制御機能が実行されるタイミング(より具体的にはそれぞれの制御機能が実行される前)に実行される。なお、図4に示す車速テーブルは、電動パワーステアリング装置100の制御においてこれが参照されるタイミングに合わせて対応するエリアが診断される。
【0054】
【表1】

【0055】
ROM101及びRAM103を診断するにあたり、CPU101の診断時期指定部1012は、電動パワーステアリング装置100の制御機能のうちどの制御機能が実行されるか否かを、電動パワーステアリング装置100の制御における制御機能の処理順序にしたがって判定する。診断時期指定部1012が、例えば、トルク微分機能を実行するタイミングであると判定した場合、診断時期指定部1012は、CPU101の診断部1011に対して、トルク微分機能に対応するROM102のROM記憶領域1020のエリア及びRAM103のRAM記憶領域1030のエリアを診断させる。このため、診断時期指定部1012は、トルク微分機能に対応するエリアの診断指令を診断部1011に送信する。
【0056】
診断時期指定部1012からの診断指令を受診した診断部1011は、ステップS211において、トルク微分機能に対応するROM記憶領域1020のエリア、すなわち、図4に示すエリアBを診断する。次に、ステップS212へ進み、診断部1011は、トルク微分機能に対応するRAM記憶領域1030のエリア、すなわち、図4に示すエリアbを診断する。なお、ROM記憶領域1020とRAM記憶領域1030との診断順序は問わない。次に、ステップS213に進み、エリアB及びエリアbの診断の結果、エリアB及びエリアbの両方に不具合が発生していない、すなわち、両方が正常であると診断部1011が判定したら(ステップS213:No)、ステップS214に進む。
【0057】
ステップS214において、診断部1011は、トルク微分機能は実行可能であるという診断結果を制御部1010へ送信する。これによって、図5に示すステップS2におけるROM102及びRAM103の診断が終了し、制御部1010は、ステップS3に進んでトルク微分機能を実行する。その後、STARTに戻り、制御部1010は、イグニッションがOFFになるまで電動パワーステアリング装置100の制御を実行する。
【0058】
エリアB及びエリアbの診断の結果、ステップS213において、エリアB及びエリアbの少なくとも一方に不具合が発生したと診断部1011が判定したら(ステップS213:Yes)、ステップS215に進む。ステップS215において、診断部1011は、バックアップ処理によりトルク微分機能を実行するという診断結果を制御部1010へ送信する。これによって、図5に示すステップS2におけるROM102及びRAM103の診断が終了し、制御部1010は、ステップS3に進んでバックアップ処理によってトルク微分機能を実行する。ここで、本実施形態において、バックアップ処理は、固定値によって電動パワーステアリング装置100を制御する処理であり、例えば、トルク微分機能においては、図3に示すトルク微分器112の出力が固定値とされる。
【0059】
それぞれの制御機能の固定値は、ROM記憶領域1020の所定のエリアに格納されている。バックアップ処理によってトルク微分機能を実行するという診断結果を受信した制御部1010は、トルク微分機能の固定値をROM記憶領域1020の所定のエリアから取得し、その固定値を用いて電動パワーステアリング装置100を制御する。これによって、ROM102のROM記憶領域1020やRAM103のRAM記憶領域1030に不具合が発生した場合でも、電動パワーステアリング装置100による操舵補助が継続されるので、安全性が向上する。バックアップ処理によってトルク微分機能が実現されたらSTARTに戻り、制御部1010は、イグニッションがOFFになるまで電動パワーステアリング装置100の制御を実行する。
【0060】
ここで、本実施形態では、ROM記憶領域1020又はRAM記憶領域1030のいずれか一方に不具合が発生したことが判明した時点でステップS213に進んでもよい。例えば、本実施形態では、ROM記憶領域1020の方がRAM記憶領域1030よりも先に診断されるので、前者に不具合が発生したことが判明した時点で、後者の判定は実行せずに、不具合発生ステップ(ステップS213)に進んでもよい。このようにすれば、RAM記憶領域1030の診断を実行しないでよいので、診断に要する時間を短縮できるとともに、CPU101の処理負担が軽減できる。
【0061】
診断時期指定部1012が、例えば、位相補償機能を実行するタイミングであると判定した場合、診断時期指定部1012は、CPU101の診断部1011に対して、位相補償機能に対応するROM102のROM記憶領域1020のエリア及びRAM103のRAM記憶領域1030のエリアを診断させる。このため、診断時期指定部1012は、位相補償機能に対応するエリアの診断指令を診断部1011に送信する。ここで、表1から、位相補償機能の実行周期はt3であり、トルク微分機能の実行周期t1よりも大きい。したがって、トルク微分機能が複数回実行される間に位相補償機能は1回実行される。このため、トルク微分機能に対応するエリアの診断が複数回実行される間に位相補償機能のエリアの診断は1回実行される。
【0062】
診断時期指定部1012からの診断指令を受診した診断部1011は、ステップS221において、位相補償機能に対応するROM記憶領域1020のエリア、すなわち、図4に示すエリアDを診断する。次に、ステップS222へ進み、診断部1011は、位相補償機能に対応するRAM記憶領域1030のエリア、すなわち、図4に示すエリアdを診断する。そして、ステップS223に進み、エリアD及びエリアdの診断の結果、エリアD及びエリアdの両方に不具合が発生していないと診断部1011が判定したら(ステップS223:No)、ステップS224に進む。ステップS214において、診断部1011は、位相補償機能は実行可能であるという診断結果を制御部1010へ送信する。これによって、制御部1010は、図5に示すステップS3に進んで位相補償機能を実行する。
【0063】
エリアD及びエリアdの診断の結果、ステップS223において、エリアD及びエリアdの少なくとも一方に不具合が発生したと診断部1011が判定したら(ステップS223:Yes)、ステップS225に進む。ステップS225において、診断部1011は、バックアップ処理により位相補償機能を実行するという診断結果を制御部1010へ送信する。これによって、制御部1010は、図5に示すステップS3に進んでバックアップ処理によって位相補償機能を実行する。位相補償機能におけるバックアップ処理は、上述したトルク微分機能の場合と同様に、固定値によって電動パワーステアリング装置100を制御する処理であり、例えば、位相補償機能においては、図3に示す位相補償部113の出力が固定値とされる。
【0064】
バックアップ処理によって位相補償機能を実行するという診断結果を受信した制御部1010は、位相補償機能の固定値をROM記憶領域1020の所定のエリアから取得し、その固定値を用いて電動パワーステアリング装置100を制御する。これによって、ROM102のROM記憶領域1020やRAM103のRAM記憶領域1030に不具合が発生した場合でも、電動パワーステアリング装置100による操舵補助が継続されるので、安全性が向上する。バックアップ処理によって位相補償機能が実現されたらSTARTに戻り、制御部1010は、イグニッションがOFFになるまで電動パワーステアリング装置100の制御を実行する。
【0065】
バックアップ処理に対応するROM記憶領域1020やRAM記憶領域1030のエリア(本実施形態では、バックアップ処理を実現するための固定値が格納されるエリア)に不具合が発生する場合も考えられる。この場合、本実施形態において、制御部1010は、電動パワーステアリング装置100による操舵補助を中止、すなわち、電動パワーステアリング装置100による操舵力の補助を中止する。このように、不具合が発生した領域に格納されている情報(固定値)を用いないことによって、安全性を確保する。
【0066】
上記説明では、制御機能が実行されるタイミングに合わせて診断部1011がROM記憶領域1020やRAM記憶領域1030を診断したが、本実施形態ではこれに限定されるものではない。例えば、制御機能が実行されるタイミング、かつその制御機能に対する入力値が前回の実行時と今回の実行時とで異なる場合にのみ、診断部1011がROM記憶領域1020やRAM記憶領域1030を診断してもよい。このようにすれば、前回と今回とで入力値が同じ場合には診断を実行しないので、診断に要する時間を短縮できるとともに、CPU101の処理負荷を軽減できる。
【0067】
本実施形態では、電動パワーステアリング装置100の制御機能毎にROM記憶領域1020及びRAM記憶領域1030を分割し、これらの診断単位を制御機能毎としている。ここで、制御機能とは、入力を加工して出力することにより、電動パワーステアリング装置100の制御における所定の役割(例えば、トルクを微分する、位相を補償する、電動機の角速度を推定する等)を実現するものをいう。
【0068】
制御機能は、例えば、微分や積分、フィルタリング等の処理を組み合わせて実現される。このため、制御機能を構成する処理を処理単位として、それぞれの処理に対応したエリアにROM記憶領域1020及びRAM記憶領域1030を分割するとともに、それぞれのエリアに対して診断を実行してもよい。また、電動パワーステアリング装置100の制御ブロックを処理単位とし、それぞれの制御ブロックに対応したエリアにROM記憶領域1020及びRAM記憶領域1030を分割して、それぞれのエリアに対して診断を実行してもよい。ここで、制御ブロックは、複数の制御機能が集まったものであり、例えば、図3に示すトルク制御部30a、電流制御部30b等である。
【0069】
以上、本実施形態では、記憶装置の記憶領域を、電動パワーステアリング装置の制御機能に対応した複数のエリアに分割し、電動パワーステアリング装置の制御機能を実行するタイミングでこれから実行する制御機能に対応するエリアのみを診断する。これによって、記憶装置のすべての記憶領域を診断する場合と比較して、診断に要する時間を短縮できる。また、診断を実行する処理装置の処理負荷を低減できる。さらに、それぞれの制御機能よりも処理手順を簡略にしたバックアップ処理を準備して記憶装置に格納しておき、制御機能に対応するエリアに不具合が発生した場合には、不具合が発生したエリアは使用せずにバックアップ処理を実行する。これによって、電動パワーステアリング装置による操舵補助が継続されるので、安全性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のように、本発明に係る電動パワーステアリング装置は、電動パワーステアリング装置を制御する装置が有する記憶装置の診断に有用であり、特に、使用頻度の高い記憶装置の診断に適している。
【符号の説明】
【0071】
1 ハンドルホイール
2 コラム軸
3 減速ギヤ
4a、4b ユニバーサルジョイント
10 トルクセンサ
11 イグニッションスイッチ
12 車速センサ
13 電源リレー
14 バッテリ
15 電動機駆動回路
16 電流検出回路
17 位置検出回路
20 電動機
25 位置センサ
30 ECU(コントロールユニット)
30a トルク制御部
30c トルク補償部
30b 電流制御部
100 電動パワーステアリング装置
101 CPU
105 インターフェース
106 A/D変換器
107 PWMコントローラ
110 制御用コンピュータ
111 アシスト量演算部
112 トルク微分器
113 位相補償部
114 電流指令部
121 電動機角速度推定部
122 電動機角加速度推定部
123 ヨーレート収れん性制御部
124 電動機慣性補償部
125 SAT推定部
126 摩擦補償部
132 電流制御器
133 デューティ演算器
134 インバータ
135 電流センサ
1010 制御部
1011 診断部
1012 診断時期指定部
1020 ROM記憶領域
1030 RAM記憶領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のステアリング機構に補助操舵力を付与する電動機を有し、前記ステアリング機構に対する操舵トルクと車速とを少なくとも用いて演算した操舵補助指令値に基づいて前記電動機を駆動制御する電動パワーステアリング装置において、
当該電動パワーステアリング装置の制御に使用される情報を格納するとともに、前記電動パワーステアリング装置の制御における所定の処理単位毎に分割された複数のエリアを有する記憶装置と、
前記電動パワーステアリング装置を制御するとともに、前記処理単位を実行するタイミングで、前記複数のエリアのうち、これから実行する処理単位に対応するエリアを診断し、前記処理単位を実行するタイミングでないときには前記記憶装置の診断を実行しない処理装置と、
を含むことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記処理装置は、前記診断手段が前記エリアに不具合が発生していると判定した場合、不具合が発生したエリアの処理単位に対応したバックアップ処理を実行する請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記バックアップ処理は、前記電動パワーステアリング装置を固定値で制御する処理である請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記処理装置は、前記バックアップ処理に不具合があると判定した場合、前記補助操舵力の付与を中止する請求項2又は3に記載の電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−247624(P2010−247624A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98334(P2009−98334)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】