説明

電動パワーステアリング装置

【課題】外乱の存在する環境下においても走行軌跡の乱れを抑えて円滑に自動制御を実行することのできる電動パワーステアリング装置を提供すること。
【解決手段】ECUは、二系統の独立したモータコイルに対応して設けられた二つの駆動回路26A,26Bと、これら各駆動回路26A,26Bに対して二系統の独立した制御信号Smc_a,Smc_bを出力するマイコン27とを備える。マイコン27は、アシスト力に対応したモータトルクを発生させるべく、電流制御を実行することにより第1系統の駆動回路26Aに対して制御信号Smc_aを出力する第1制御信号出力部31Aを備える。そして、更に、転舵輪の舵角を変更すべく車内ネットワークを介して上位ECUから入力される操舵角指令値θs*に基づいて、位置制御を実行することにより第2系統の駆動回路26Bに対して制御信号Smc_bを出力する第2制御信号出力部31Bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)には、運転者のステアリング操作に依らず転舵輪の舵角を変更することにより、車両の進路を制御する自動制御機能を備えたものがある。尚、このような自動制御の態様としては、例えば、走行レーンを認識して当該走行レーンも沿った走行を支援する所謂レーンキープアシスト制御(例えば、特許文献1参照)や、駐車区画への停車を支援する所謂パーキングアシスト制御(例えば、特許文献2参照)等が挙げられる。そして、多くの場合、このような自動制御は、車内ネットワークを介して上位制御装置(上位ECU)から入力されるアシスト指令に基づいて行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−343260号公報
【特許文献2】特開2004−345468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ネットワークを介してアシスト指令を伝達する構成では、通信規格や仕様による程度の差こそあれ、その伝達の遅れによる応答性の低下が避けられない。このため、路面の傾斜や横風等といった外乱が存在する環境下では、その舵角位置を制御すべく演算されるアシスト指令の値が大きく変動しやすい傾向がある。その結果、特に上記レーンキープアシスト制御のような高速走行時に実行される自動制御においては、その走行軌跡に乱れが生ずるおそれがあり、この点において、なお改善の余地が残されていた。
【0005】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、外乱の存在する環境下においても走行軌跡の乱れを抑えて円滑に自動制御を実行することのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、独立に設けられた二系統のモータコイルが発生する起磁力に基づいて操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、各モータコイルに対する電力供給を通じて前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、前記制御手段は、前記各モータコイルに対応して独立に設けられた二系統の駆動回路を備えるとともに、前記アシスト力に対応したモータトルクを発生させるべく、電流制御を実行することにより第1系統の駆動回路に対する制御信号の出力を実行する第1の制御信号出力手段と、転舵輪の舵角を変更すべく入力される位置指令に基づいて、位置制御を実行することにより第2系統の駆動回路に対する制御信号の出力を実行する第2の制御信号出力手段と、を備えること、を要旨とする。
【0007】
即ち、本来、レーンキープアシスト制御等のような自動制御は、その舵角位置を制御することにより実現されるものである。そして、その位置制御においては、パワーアシスト制御(電流制御)において要求されるほどの高い応答性は要求されない。従って、上記構成のように、その自動制御を実行するための位置制御を、パワーアシスト制御を実行するための電流制御(トルク制御)から独立して実行することにより、当該パワーアシスト制御における応答性の低下を招くことなく、位置制御の応答性を最適化して、その位置指令の変動による影響を抑制することができる。その結果、外乱の存在する環境下においても走行軌跡の乱れを抑えて円滑に自動制御を実行することができるようになる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記操舵力補助装置は、各モータコイルに共通のステータ及びロータを備えたモータを駆動源とすること、を要旨とする。
上記構成によれば、装置の大型化を招くことなく、そのパワーアシスト制御を実行するための電流制御(トルク制御)、及び自動制御を実行するための位置制御を、同時且つ独立に実行することができるようになる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外乱の存在する環境下においても走行軌跡の乱れを抑えて円滑に自動制御を実行することのできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】モータの概略構成図。
【図3】EPSの制御ブロック図。
【図4】同じくEPSの制御ブロック図。
【図5】本実施形態におけるモータ制御の態様を示すブロック線図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態の電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。そして、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。尚、本実施形態のステアリングシャフト3は、コラムシャフト3a、インターミディエイトシャフト3b、及びピニオンシャフト3cを連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド6を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪7の舵角、即ち車両の進行方向が変更される。
【0012】
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
【0013】
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、駆動源であるモータ12が減速機構13を介してコラムシャフト3aと駆動連結された所謂コラム型のEPSアクチュエータとして構成されている。そして、EPSアクチュエータ10は、このモータ12の回転を減速してコラムシャフト3aに伝達することにより、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成となっている。
【0014】
一方、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されており、同ECU11は、これら各センサの出力信号により検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて操舵系に付与すべきアシスト力(目標アシスト力)を演算する。そして、その目標アシスト力をEPSアクチュエータ10に発生させるべく、駆動源であるモータ12に対する電力供給を通じて、当該EPSアクチュエータ10の作動、即ち操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
【0015】
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2に示すように、本実施形態のモータ12は、独立した二系統のモータコイル21A,21Bを同一のステータ22に巻回することにより形成されている。具体的には、第1系統のモータコイル21A(21ua,21va,21wa)及び第2系統のモータコイル21B(21ub,21vb,21wb)は、ステータ22の各ティース23(23u,23v,23w)に対して、それぞれ、その対応する相(U,V,W)毎に巻回されている。そして、これらの各ティース23(23u,23v,23w)の径方向内側には、回転自在に支承されたロータ24が設けられている。
【0016】
即ち、本実施形態のモータ12は、二系統のモータコイル21A,21Bに共通のステータ22及びロータ24を有しており、ロータ24は、上記のように各ティース23(23u,23v,23w)に巻回された各モータコイル21A,21Bが発生する起磁力に基づいて回転する。そして、本実施形態のECU11は、これらの各モータコイル21A,21Bに対して、それぞれ独立に駆動電力を供給することにより、そのモータトルクを制御する構成になっている。
【0017】
図3に示すように、本実施形態のECU11は、上記各モータコイル21A,21Bに対応して独立に設けられた二つの駆動回路26A,26Bと、これらの各駆動回路26A,26Bに対して、それぞれ独立に制御信号Smc_a,Smc_bを出力するマイコン27とを備えている。
【0018】
具体的には、駆動回路26Aは、動力線28A(28ua,28va,28wa)を介して第1系統のモータコイル21Aに接続され、駆動回路26Bは、動力線28B(28ub,28vb,28wb)を介して第2系統のモータコイル21Bに接続されている。また、マイコン27の出力する制御信号Smc_aは、駆動回路26Aに入力され、もう一方の制御信号Smc_bは、駆動回路26Bに入力される。尚、本実施形態では、各駆動回路26A,26Bには、直列接続されたスイッチング素子対を基本単位(アーム)として各相に対応する3つのアームを並列接続してなる周知のPWMインバータが採用されており、マイコン27の出力する各制御信号Smc_a,Smc_bは、その各相アームのオンduty比を規定するものとなっている。そして、本実施形態のECU11は、これらの各制御信号Smc_a,Smc_bに基づき各駆動回路26A,26Bが出力する駆動電力を、それぞれ独立に、その対応する各モータコイル21A,21Bに供給する構成となっている。
【0019】
詳述すると、図4に示すように、本実施形態のマイコン27は、第1系統の駆動回路26Aに対して制御信号Smc_aを出力する第1の制御信号出力手段としての第1制御信号出力部31Aと、第2系統の駆動回路26Bに対して制御信号Smc_bを出力する第2の制御信号出力手段としての第2制御信号出力部31Bとを備えている。
【0020】
本実施形態では、第1制御信号出力部31Aには、上記トルクセンサ14及び車速センサ15により検出される操舵トルクτ及び車速Vが入力されるようになっており、同第1制御信号出力部31Aは、これら操舵トルクτ及び車速Vに基づいて目標アシスト力に対応した電流指令値I*_aを演算する。また、第1制御信号出力部31Aには、電流センサ32Aにより検出された第1系統のモータコイル21Aに通電される実電流値I_a及びモータレゾルバ33(図3参照)により検出されるモータ回転角θmが入力される。そして、同第1制御信号出力部31Aは、その演算する電流指令値I*_aに、検出される実電流値I_aを追従させるべく電流フィードバック制御を実行することにより、その対応する第1系統の駆動回路26Aに対して制御信号Smc_aを出力する。
【0021】
具体的には、本実施形態の第1制御信号出力部31Aにおいて、操舵トルクτ及び車速Vは、アシスト制御部35に入力されるようになっており、同アシスト制御部35は、その操舵トルクτが大きいほど、また車速Vが遅いほど、より大きなモータトルク、即ちアシスト力が発生するような電流指令値I*_aを演算する。次に、この電流指令値I*_aは、電流センサ32Aにより検出された実電流値I_aとともに、電流制御部36に入力される。そして、電流制御部36は、その電流指令値I*_aと実電流値I_aとの間の電流偏差に基づいて、電流フィードバック演算を実行する。
【0022】
ここで、本実施形態の電流センサ32A(32ua,32va,32wa)は、上記実電流値I_aとして、第1系統のモータコイル21Aに通電される各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_aを検出する。そして、本実施形態の電流制御部36は、その各相電流値Iu_a,Iv_a,Iw_aをd/q座標系のd軸電流及びq軸電流に変換することにより(d/q変換)、当該d/q座標系において、その電流フィードバック演算を実行する。
【0023】
即ち、本実施形態のアシスト制御部35は、その電流指令値I*_aとして、q軸電流指令値を演算する(d軸電流指令値は「0」)。そして、電流制御部36は、その電流フィードバック演算の実行により得られるd/q座標系の電圧指令値を、三相の交流座標上に写像することにより(逆d/q変換)、モータコイル21Aの各相に対応した電圧指令値V*_aを演算する。
【0024】
そして、本実施形態の第1制御信号出力部31Aは、この電圧指令値V*_aに基づきPWM変換部37が生成する制御信号Smc_aを、その対応する第1系統の駆動回路26Aに出力する構成となっている。
【0025】
一方、第2制御信号出力部31Bには、車内ネットワーク(CAN:Controller Area Network)40を介して上位ECUから入力されるステアリング2の位置指令、即ち操舵角指令値θs*が入力される(図1参照)。尚、本実施形態では、この操舵角指令値θs*は、運転者のステアリング操作に依らず転舵輪7の舵角を変更することにより自動的に車両の進路を制御するための制御指令、詳しくは所謂レーンキープアシスト制御を実行するための制御指令として入力される。また、本実施形態の第2制御信号出力部31Bは、上記モータレゾルバ33により検出されるモータ回転角θmに基づいて、ステアリング2の実舵角、即ち操舵角θsを検出する。そして、同第2制御信号出力部31Bは、その入力される操舵角指令値θs*に、実舵角として検出される操舵角θsを追従させるべく、位置フィードバック制御を実行することにより、その対応する第2系統の駆動回路26Bに対して制御信号Smc_bを出力する。
【0026】
具体的には、第2制御信号出力部31Bに入力されたモータ回転角θmは、操舵角演算部41において操舵角θsに変換され、操舵角指令値θs*とともに位置制御部42に入力される。そして、位置制御部42は、操舵角指令値θs*と操舵角θsとの間の位置偏差に基づいて、位置フィードバック演算を実行する。
【0027】
ここで、本実施形態の第2制御信号出力部31Bは、その位置制御部42が形成する位置フィードバックループのマイナーループとして、速度制御及び電流制御(トルク制御)の各フィードバックループを形成する速度制御部43及び電流制御部44を備えている。
【0028】
即ち、上記位置制御部42は、その位置フィードバック演算の実行により、操舵角速度指令値ωs*を演算し、速度制御部43は、その操舵角速度指令値ωs*と実操舵角速度ωsとの間の速度偏差に基づいて、電流指令値I*_bを演算する。更に、電流制御部44は、その電流指令値I*_bと電流センサ32Bにより検出される実電流値I_bとの間の電流偏差に基づいて、電流フィードバック演算を実行することにより、電圧指令値V*_bを演算する。尚、第2系統の電流センサ32B(32ub,32vb,32wb)による電流検出の態様(各相電流値Iu_b,Iv_b,Iw_bの検出)、及び電流制御部44が実行する電流フィードバック演算の態様は、それぞれ、上記第1系統の電流センサ32Aによる電流検出、及び電流制御部36が実行する電流フィードバック演算の態様と同様である。そして、本実施形態の第2制御信号出力部31Bは、この電圧指令値V*_bに基づきPWM変換部45が生成する制御信号Smc_bを、その対応する第2系統の駆動回路26Bに出力する構成となっている。
【0029】
本実施形態のマイコン27は、このようにして、各系統の駆動回路26A,26Bに対して、それぞれ独立に制御信号Smc_a,Smc_bを出力する。そして、図5に示すように、本実施形態のECU11は、これにより、そのパワーアシスト制御を実行するための電流制御(トルク制御)、及び自動制御を実行するための位置制御を、同時且つ独立に実行する構成となっている。
【0030】
尚、図5のブロック線図中、「Tm」はモータトルク、「Tl」は負荷トルクであり、「Ke」は逆起電圧定数である。そして、「1/(L・S+R)」は、モータインピーダンスである(R:電機子巻線抵抗、L:インダクタンス、S:微分演算子)。
【0031】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)ECU11は、二系統の独立したモータコイル21A,21Bに対応して設けられた二つの駆動回路26A,26Bと、これら各駆動回路26A,26Bに対して二系統の独立した制御信号Smc_a,Smc_bを出力するマイコン27とを備える。マイコン27は、アシスト力に対応したモータトルクを発生させるべく、電流制御を実行することにより第1系統の駆動回路26Aに対して制御信号Smc_aを出力する第1制御信号出力部31Aを備える。そして、更に、転舵輪の舵角を変更すべく車内ネットワーク40を介して上位ECUから入力される操舵角指令値θs*に基づいて、位置制御を実行することにより第2系統の駆動回路26Bに対して制御信号Smc_bを出力する第2制御信号出力部31Bを備える。
【0032】
即ち、本来、レーンキープアシスト制御等のような自動制御は、その舵角位置を制御することにより実現されるものである。そして、その位置制御においては、パワーアシスト制御(電流制御)において要求されるほどの高い応答性は要求されない。従って、上記構成のように、その自動制御を実行するための位置制御を、パワーアシスト制御を実行するための電流制御(トルク制御)から独立して実行することにより、当該パワーアシスト制御における応答性の低下を招くことなく、位置制御の応答性を最適化して、その位置指令(操舵角指令値θs*)の変動による影響を抑制することができる。その結果、外乱の存在する環境下においても走行軌跡の乱れを抑えて円滑に自動制御を実行することができるようになる。
【0033】
(2)EPSアクチュエータ10は、二系統のモータコイル21A,21Bに対して共通のステータ22及びロータ24を有するモータ12を駆動源とする。これにより、装置の大型化を招くことなく、そのパワーアシスト制御を実行するための電流制御(トルク制御)、及び自動制御を実行するための位置制御を、同時且つ独立に実行することができるようになる。
【0034】
(3)第2制御信号出力部31Bは、その位置制御部42が形成する位置フィードバックループのマイナーループとして、速度制御及び電流制御(トルク制御)の各フィードバックループを形成する速度制御部43及び電流制御部44を備える。これにより、より円滑に自動制御を実行することができる。
【0035】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記実施形態では、本発明を所謂コラム型のEPS1に具体化したが、本発明は、所謂ピニオン型やラックアシスト型のEPSに適用してもよい。
【0036】
・上記実施形態では、EPSアクチュエータ10は、二系統のモータコイル21A,21Bに対して共通のステータ22及びロータ24を有するモータ12を駆動源とすることとした。しかし、これに限らず、各モータコイルが個別のステータ又は個別のロータを有する構成に具体化してもよい。そして、更に、二つのモータを駆動源とするものに適用してもよい。
【0037】
・また、各系統のモータコイルについては、その位相が互いにずれた関係となるように配置される構成であってもよい。
・更に、EPSの他、独立に設けられた二系統のモータコイルを備えたモータを制御するモータ制御システムに具体化してもよい。
【0038】
・上記実施形態では、モータ12として、独立した二系統のモータコイル21A,21Bを同一のステータ22に巻回してなるブラシレスモータを用いることとしたが、二系統のモータコイルを有する電機子ロータを備えたブラシ付きモータに具体化してもよい。
【0039】
・上記各実施形態では、ECU11は、上記各モータコイル21A,21Bに対応して独立に設けられた二つの駆動回路26A,26Bを有することとした。しかし、各系統がバックアップ用の駆動回路を備える構成等、各系統における駆動回路の個数については特に限定するものではない。
【0040】
・上記実施形態では、位置フィードバックループのマイナーループとして、速度制御及び電流制御(トルク制御)の各フィードバックループを備えることとした。しかし、速度フィードバックループ及び電流フィードバックループの少なくとも何れかを廃する、或いは、電圧フィードバックループを追加する等、そのマイナーループについては適宜変更してもよい。
【0041】
・上記実施形態では、自動制御として、レーンキープアシスト制御を実行することとした。しかし、これに限らず、パーキングアシスト制御、或いは車両の姿勢制御を制御すべく転舵輪の舵角を制御するもの等、舵角(モータ回転角)に関する位置制御により実現されるものであれば、その自動制御の態様については、どのようなものであってもよい。
【0042】
・上記実施形態では、モータレゾルバ33により検出されるモータ回転角θmに基づいて、ステアリング2の実舵角、即ち操舵角θsを検出することとしたが、ステアリングセンサを用いて直接的に操舵角θsを検出する構成であってもよい。
【0043】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を記載する。
(イ)独立に設けられた二系統のモータコイルを備えたモータと、各モータコイルに対する電力供給を通じて前記モータの作動を制御する制御手段とを備え、前記制御手段は、前記各モータコイルに対応して独立に設けられた二系統の駆動回路を備えるとともに、モータトルクを制御すべく、電流制御を実行することにより第1系統の駆動回路に対して制御信号を出力する第1制御信号出力手段と、入力される位置指令に基づいてモータ回転角を制御すべく、位置制御を実行することにより第2系統の駆動回路に対して制御信号を出力する第2制御信号出力手段とを備えること、を特徴とするモータ制御システム。これにより外乱の存在する環境下においても円滑にトルク制御及び位置制御を同時に実行することができる。
【0044】
(ロ)前記モータは、ブラシレスモータであること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。二系統の独立したモータコイルを有する場合には、そのブラシが存在しないことによる空間的余裕が顕著に現れる。従って、このような構成とすることにより、その駆動源であるモータの簡素化且つ小型化を図ることができる。
【0045】
(ハ)前記制御手段は、前記位置制御のフィードバックループを有するとともに、その位置フィードバックループのマイナーループとして、速度制御、電流制御、及び電圧制御の少なくとも何れかのフィードバックループを有すること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。これにより、より円滑に自動制御を実行することができる。
【符号の説明】
【0046】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、2…ステアリング、3…ステアリングシャフト、7…転舵輪、10…EPSアクチュエータ、11…ECU、12…モータ、14…トルクセンサ、21A,21B…モータコイル、22…ステータ、24…ロータ、26A,26B…駆動回路、27…マイコン、31A…第1制御信号出力部、31B…第2制御信号出力部、32A,32B…電流センサ、33…モータレゾルバ、35…アシスト制御部、36…電流制御部、40…車内ネットワーク、41…操舵角演算部、42…位置制御部、τ…操舵トルク、I*_a…電流指令値、I_a…実電流値、Smc_a…制御信号、θs*…操舵角指令値、θs…操舵角、Smc_b…制御信号。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
独立に設けられた二系統のモータコイルが発生する起磁力に基づいて操舵系にアシスト力を付与する操舵力補助装置と、各モータコイルに対する電力供給を通じて前記操舵力補助装置の作動を制御する制御手段とを備えた電動パワーステアリング装置であって、
前記制御手段は、前記各モータコイルに対応して独立に設けられた二系統の駆動回路を備えるとともに、
前記アシスト力に対応したモータトルクを発生させるべく、電流制御を実行することにより第1系統の駆動回路に対して制御信号を出力する第1の制御信号出力手段と、
転舵輪の舵角を変更すべく入力される位置指令に基づいて、位置制御を実行することにより第2系統の駆動回路に対して制御信号を出力する第2の制御信号出力手段と、
を備えること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記操舵力補助装置は、各モータコイルに共通のステータ及びロータを備えたモータを駆動源とすること、を特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−56404(P2012−56404A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200282(P2010−200282)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】