説明

電動倍力式液圧ブレーキ装置

【課題】制動中の倍力失陥時にマスターシリンダ液圧検出値と規定倍力比との乗算値をホイール液圧とするフェールセーフに際し、二重倍力現象による急制動を防止する。
【解決手段】ブレーキペダル踏力を20Nに保ってマスターシリンダ液圧Pm=5MPaをそのままホイールシリンダ液圧Pw=5MPaとする制動中のt3に倍力失陥が発生した場合、この失陥時t3以降、ホイールシリンダ液圧Pwを失陥時t3での5MPaに保持するようフェールセーフ作動を行う。よって、制動中の失陥時フェールセーフ制御が、ホイールシリンダ液圧Pwを、二重倍力により高めすぎることがなく、違和感のある急制動に関する懸念を払拭することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ操作に応動して電動機による助勢下でブレーキ液圧出力部材をストロークさせることにより、ブレーキ液圧を倍力下に上昇させる電動倍力式液圧ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる電動倍力式液圧ブレーキ装置としては従来から様々なものが提案されているが、例えば特許文献1に記載のように、
ブレーキ操作に応じ電動機によりストロークされて液圧室内に所定のブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生部材(プライマリピストン)と、
ブレーキ操作に連動し、上記ブレーキ液圧発生手段の失陥時に該ブレーキ液圧発生手段を機械的にストロークさせて、上記と同じ液圧室内にブレーキ操作力対応液圧を発生させるブレーキ操作力対応液圧発生部材(インプットロッド)とを具え、
これら所定のブレーキ液圧や、ブレーキ操作力対応液圧を、ホイールシリンダ液圧として車輪制動ユニット(ホイールシリンダ)に向かわせるようにした電動倍力式液圧ブレーキ装置が知られている。
【0003】
かかる電動倍力式液圧ブレーキ装置にあっては、上記した電動機自身や、その制御系の故障で倍力作用が得られなくなったブレーキ液圧発生手段の故障時に、ブレーキ操作に直接的に連動してストロークするブレーキ操作力対応液圧発生部材(インプットロッド)が、ブレーキ液圧発生部材(プライマリピストン)に衝接してこれを押動することにより、上記の液圧室内にブレーキ操作力対応液圧を発生させることができ、これを、ホイールシリンダ液圧として車輪制動ユニット(ホイールシリンダ)に向かわせることで、当該故障時のフェールセーフ対策を行い得る。
【0004】
しかし当該フェールセーフ対策では、マスターシリンダ液圧がブレーキ操作力対応液圧と同じ値で、倍力されていないため、
大きなブレーキ操作力が必要であったり、かかる大きなブレーキ操作力によっても十分なマスターシリンダ液圧が得られず、制動距離が長くなるという問題があった。
【0005】
かかる問題解決のためには、液圧室内に発生した液圧(マスターシリンダ液圧)を車輪制動ユニットに向かわせる管路に挿置してバックアップ液圧発生手段を設け、上記した電動機自身や、その制御系の故障で倍力作用が得られなくなった失陥時に、バックアップ液圧発生手段が車輪制動ユニット(ホイールシリンダ)へ所定のバックアップ液圧を、マスターシリンダ液圧に代えて供給するように構成することが考えられる。
【0006】
このフェールセーフ対策によれば、バックアップ液圧の設定次第で、マスターシリンダ液圧を倍力させたと同じ状態が得られるため、失陥時でも通常通りのブレーキ操作力で十分な車輪制動ユニット作動液圧(ホイールシリンダ液圧)を発生させることができ、制動距離が長くなるという上記の問題を解消することが可能である。
【特許文献1】特開平10−138909号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記したフェールセーフ対策では、バックアップ液圧発生手段がバックアップ液圧を決定するに際し、
圧力センサで検出した失陥時のマスターシリンダ液圧を基に、これを規定の失陥時倍力比により高めた液圧値をバックアップ液圧とするため、以下の問題を生ずる。
【0008】
つまり、失陥時のマスターシリンダ液圧は当初は未だ倍力された高い状態にあることが多く、
上記のフェールセーフ対策では、未だ倍力された高い状態にあるマスターシリンダ液圧を規定の失陥時倍力比により更に高めた(二重倍力した)液圧値をバックアップ液圧と定めることとなり、バックアップ液圧が高すぎる。
このため上記したフェールセーフ対策では失陥時に、二重倍力した高すぎるバックアップ液圧が車輪制動ユニット(ホイールシリンダ)へ供給されて、違和感のある急制動状態になる懸念があった。
【0009】
本発明は、失陥時にバックアップ液圧を用いる上記の構成を踏襲するも、当該バックアップ液圧を失陥時のマスターシリンダ液圧に基づいて決めるのではなく、特異な要領で決定することにより上記違和感のある急制動に関する懸念を払拭し得るようにした電動倍力式液圧ブレーキ装置を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のため本発明による電動倍力式液圧ブレーキ装置は、請求項1に記載のごとくに構成する。
先ず、本発明の前提となる電動倍力式液圧ブレーキ装置を説明するに、これは、
ブレーキ操作に連動し、前記ブレーキ液圧発生手段の失陥時に該ブレーキ液圧発生手段を機械的にストロークさせて前記液圧室内にブレーキ操作力対応液圧を発生させるブレーキ操作力対応液圧発生手段と、
前記液圧室内に発生した液圧を車輪制動ユニットに向かわせる管路に挿置して、前記ブレーキ液圧発生手段の失陥時に前記車輪制動ユニットへ所定のバックアップ液圧を供給可能にするバックアップ液圧発生手段とを具備したものである。
【0011】
本発明は、かかる電動倍力式液圧ブレーキ装置において、
ブレーキ操作中に前記ブレーキ液圧発生手段が失陥した時は、前記車輪制動ユニットへのバックアップ液圧が、失陥直前に前記液圧室から車輪制動ユニットに向かっていた液圧値となるよう、前記バックアップ液圧発生手段を作動させる構成としたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
上記した本発明の電動倍力式液圧ブレーキ装置によれば、
ブレーキ操作中にブレーキ液圧発生手段が失陥した時、車輪制動ユニットへのバックアップ液圧が、失陥直前に液圧室から車輪制動ユニットに向かっていた液圧値となるよう、バックアップ液圧発生手段を作動させるため、
失陥時のフェールセーフ対策が、車輪制動ユニットの作動液圧を前記した二重倍力により高めすぎることがなく、前記した違和感のある急制動に関する懸念を払拭することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例になる電動倍力式液圧ブレーキ装置を、その電子制御系と共に示し、
1は、タンデムマスターシリンダ、2は、このタンデムマスターシリンダ1に一体結合して構成した電動式ブレーキ倍力装置2である。
【0014】
タンデムマスターシリンダ1のシリンダ本体3と、電動式ブレーキ倍力装置2のブースタハウジング4とを、相互に同心に配して結着し、これらシリンダ本体3およびブースタハウジング4の結着部を貫通するよう配置して、これらシリンダ本体3およびブースタハウジング4の中心部に、ブレーキ液圧発生手段であるタンデムマスターシリンダ1のプライマリピストン5を設ける。
【0015】
プライマリピストン5は図中左端(前端)を、シリンダ本体3内に嵌着したインナスリーブ6に摺動自在に挿入し、
該プライマリピストン5の左端(前端)とシリンダ本体3の底壁との間においてシリンダ本体3内にフリーピストン型式のセカンダリピストン7を摺動自在に嵌合する。
プライマリピストン5の右端(後端)はブースタハウジング4内に位置させ、該プライマリピストン5の右端(後端)における中空孔内に、ブレーキ操作力対応液圧発生手段であるインプットロッド8を摺動自在に挿置する。
【0016】
プライマリピストン5およびセカンダリピストン7間においてインナスリーブ6内にバネ座10を係着し、このバネ座10とプライマリピストン5との間にリターンスプリング11を縮設する。
このリターンスプリング11は、両ピストン5,7間に画成された液圧室としてのシリンダ室12内に収納する。
【0017】
かくしてプライマリピストン5は、リターンスプリング11により図の右方へ附勢され、該リターンスプリング11によるプライマリピストン5のストロークを、プライマリピストン5の右端面(後端面)に同軸に対設したスラスト部材31がブースタハウジング4の対応端面と衝接することにより、図示の非作動ストローク位置に制限する。
【0018】
セカンダリピストン7とシリンダ本体3の底壁との間にはリターンスプリング13を縮設し、このリターンスプリング13は、セカンダリピストン7とシリンダ本体3の底壁との間に画成されたシリンダ室14内に収納する。
かくしてセカンダリピストン7は常態で、リターンスプリング13により、バネ座10と衝接した図示の非作動ストローク位置に弾支される。
【0019】
図示するプライマリピストン5の非作動ストローク位置において、リザーバタンク(図示せず)に通じるようインナスリーブ6に設けたブレーキ液供給ポート15と、シリンダ室12との間を連通させるためのリリーフポート16をプライマリピストン5の左端(前端)に形成する。
図示するセカンダリピストン7の非作動ストローク位置において、リザーバタンク(図示せず)に通じるようインナスリーブ6に設けたブレーキ液供給ポート17と、シリンダ室14との間を連通させるためのリリーフポート18をセカンダリピストン7の左端(前端)に形成する。
【0020】
なお、これらリリーフポート16,18はそれぞれ、対応するピストン5,7が図示の非作動ストローク位置から図の左方へ押し込まれると、直ちに対応するブレーキ液供給ポート15,17から遮断される位置に配置する。
そしてシリンダ本体3には更に、シリンダ室12,14に通じさせてブレーキ液圧出口ポート3a,3bを形成し、これらポートよりブレーキ液圧Pmを液圧ブレーキ装置の2ブレーキ液圧系20F,20Rへ出力可能とする。
【0021】
インプットロッド8は、プライマリピストン5の右端(後端)における中空孔内に摺動自在に挿置され、プライマリピストン5に対し軸線方向へ相対変位可能であるが、該インプットロッド8とプライマリピストン5との間には、インプットロッド8に対し相互逆向きに作用する中立スプリング21,22を縮設する。
これら中立スプリング21,22は、インプットロッド8をプライマリピストン5に対し相対的に、中立スプリング21,22のバネ力が釣り合う図示の中立位置に弾支し、この中立位置でインプットロッド8の左端(前端)が液密封止下にシリンダ室12内に突出するようになす。
【0022】
なお、インプットロッド8には段差部8aを設け、インプットロッド8がプライマリピストン5に対し図の左方へ相対ストロークする量を制限し、
この制限以後は、インプットロッド8がプライマリピストン5を伴ってストロークするようになし、後述のフェールセーフ対策をする。
【0023】
以上は、主にタンデムマスターシリンダ1の説明であるが、前記したスラスト部材31を含む電動式ブレーキ倍力装置2は、電動機32によりボールネジ機構33を介してプライマリピストン5を図示の非作動位置から図の左方へストロークさせ得るものとする。
詳細な図示を省略したが、スラスト部材31はブースタハウジング4に対し回転不能とし、軸線方向へのみストローク可能とする。
そして、スラスト部材31とブースタハウジング4との間には、スラスト部材31を図の右方へ附勢するリターンスプリング34を縮設し、該リターンスプリング34によるスラスト部材31のストロークを、これがブースタハウジング4の対応端面と衝接することにより、図示の非作動ストローク位置に制限する。
【0024】
かように回転不能なスラスト部材31の外周に、詳細な図示を省略したが、ボールネジ機構33のボールナット35を螺合させ、このボールナット35を電動機32により回転位置制御することで、プライマリピストン5のストローク位置を制御し得るようになす。
【0025】
シリンダ室12,14からの2ブレーキ液圧系20F,20Rはそれぞれ、例えば前輪制動ユニットである前輪ホイールシリンダ41Fおよび後輪制動ユニットである後輪ホイールシリンダ41Rに接続する。
これら2ブレーキ液圧系20F,20Rに挿置して、バックアップ液圧発生手段であるバックアップ液圧発生ユニット42を設ける。
【0026】
このバックアップ液圧発生ユニット42は、電動機32によるプライマリピストン5のストローク制御が不能になったブレーキ液圧発生手段の失陥時に、通常の状態から制御状態にされ、2ブレーキ液圧系20F,20Rから前輪ホイールシリンダ41Fおよび後輪ホイールシリンダ41Rへのホイールシリンダ液圧Pwを、シリンダ室12,14からのマスターシリンダ液圧Pmとは異なる後記所定のバックアップ液圧にするよう機能するものとする。
しかし、上記の失陥を生じていない正常時においてバックアップ液圧発生ユニット42は通常の非制御状態にされ、シリンダ室12,14からのマスターシリンダ液圧Pmをそのままホイールシリンダ液圧Pwとして前輪ホイールシリンダ41Fおよび後輪ホイールシリンダ41Rに向かわせるものとする。
【0027】
これがためバックアップ液圧発生ユニット42は、詳細な図示を省略したが、共通なモータ43と、このモータにより駆動されるポンプおよび上記の機能を司る増減圧弁組を含む液圧源44F,44Rとよりなり、
これら液圧源44F,44Rをそれぞれ、個々の対応するブレーキ液圧系20F,20Rに挿置して構成する。
【0028】
上記の構成になるマスターシリンダ1および電動式ブレーキ倍力装置2を含む電動倍力式液圧ブレーキ装置は、電動式ブレーキ倍力装置2を車両のダッシュボード(図示せず)に取着し、
インプットロッド8と、車室内におけるブレーキペダル21との間にプッシュロッド23を介在させて、インプットロッド8をブレーキペダル24に直接連動させ得るようにすることで実用する。
【0029】
そして、バックアップ液圧発生ユニット42(モータ43と、液圧源44F,44R内における上記増減圧弁)の制御、および電動機32の制御はそれぞれ、コントローラ51によりこれらを遂行することとし、
このコントローラ51には、ブレーキペダル23のストロークStを検出するストロークセンサ52からの信号と、
マスターシリンダ液圧Pmを検出するマスターシリンダ液圧センサ53からの信号と、
ホイールシリンダ液圧Pwを検出するホイールシリンダ液圧センサ54からの信号とを入力する。
【0030】
上記した電動倍力式液圧ブレーキ装置の作用を以下に説明する。
ブレーキペダル24を踏み込まない非作動時は、電動機32がスラスト部材31(従ってプライマリピストン5)を図示の非作動ストローク位置となす回転位置にある。
ブレーキペダル24が踏み込まれると、プッシュロッド23を介してインプットロッド8が図示の非作動中立位置から図の左方へ押し込まれるようにストロークする。
【0031】
この時コントローラ51は、ストロークセンサ52で検出したブレーキペダルストロークStから当該ブレーキ操作があったと判定して、電動機25を、スラスト部材31(従ってプライマリピストン5)が図示の非作動ストローク位置からインプットロッド8に追従する方向へストロークするよう回転させる。
【0032】
スラスト部材31を介したプライマリピストン5の上記ストロークは、リリーフポート16をブレーキ液供給ポート15から遮断してシリンダ室12を封じ込め室となし、プライマリピストン5の上記ストロークと相まってシリンダ室12内にマスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmを発生させ、このマスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmをポート3aから出力する。
【0033】
プライマリピストン5の上記ストロークにより発生したシリンダ室12内の液圧Pmに応動してフリーピストン型式のセカンダリピストン7も同方向にストロークし、当該セカンダリピストン7のストロークは、リリーフポート18をブレーキ液供給ポート17から遮断してシリンダ室14を封じ込め室となし、セカンダリピストン7の上記ストロークと相まってシリンダ室14内に同じマスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmを発生させ、このブレーキ液圧Pmをポート3bから出力する。
【0034】
この際、コントローラ51が電動機32によりスラスト部材31(プライマリピストン5)を如何なる態様でインプットロッド8に追従させるかに応じ、ブレーキ倍力の仕方を自由に設定することができる。
倍力比KをK=5と設定した場合について述べると、また、インプットロッド8が段差部8aを介しプライマリピストン5を連動ストロークさせる時に発生するブレーキ操作力対応液圧が、例えば図2に破線で示すごときものである(ブレーキペダル操作力20Nによりブレーキ操作力対応液圧が1MPaになる)場合について述べると、
マスターシリンダ液圧Pmは図2に実線で示すごとく、図2に破線で示すブレーキ操作力対応液圧をK倍(5倍)した値となる。
【0035】
上記は、電動機32およびその駆動制御系が正常に機能している場合の通常動作であるが、かかる正常時はコントローラ51がバックアップ液圧発生ユニット42に制御信号を出力しないため、バックアップ液圧発生ユニット42は非制御状態(常態)となって、前記したとおり、シリンダ室12,14からブレーキ液圧系20F,20Rへのマスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmを、そのままホイールシリンダ液圧Pwとして車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせる。
よって、正常時はホイールシリンダ液圧Pwが図2に示すごとく制動開始瞬時t1より、マスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmと同じ時系列変化をもって上昇し、
このホイールシリンダ液圧Pw(=Pm)により車輪制動ユニット41F,41Rを作動させて所定の制動を行うことができる。
【0036】
ところで、電動機32およびその駆動制御系が正常に機能し得なくなる失陥時は、プライマリピストン5がストローク不能になって図1に示すストローク位置に止まる。
よって、ブレーキ操作に連動するインプットロッド8がプライマリピストン5に対し相対的に図1の左方へストロークし、ついには段差部8aによりプライマリピストン5を伴って同方向へストロークするようになる。
【0037】
プライマリピストン5の上記ストロークは、リリーフポート16をブレーキ液供給ポート15から遮断してシリンダ室12を封じ込め室となし、プライマリピストン5の上記ストロークと相まってシリンダ室12内にマスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmを発生させ、このマスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmをポート3aから出力する。
また、上記により発生したシリンダ室12内の液圧Pmに応動してフリーピストン型式のセカンダリピストン7も同方向にストロークし、当該セカンダリピストン7のストロークは、リリーフポート18をブレーキ液供給ポート17から遮断してシリンダ室14を封じ込め室となし、セカンダリピストン7の上記ストロークと相まってシリンダ室14内に同じマスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmを発生させ、このブレーキ液圧Pmをポート3bから出力する。
【0038】
しかし、この場合におけるマスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmは、電動機32による前記の倍力作用を受けていないため、図3に失陥時Pmとして実線により示すごとく、破線により示す正常時Pmに較べて大幅に低く、図2におけるブレーキ操作力対応液圧と同じ低いものである。
よって、この低い失陥時マスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmをそのままホイールシリンダ液圧Pwとして使用するのでは、制動不能の最悪事態は回避できるものの、制動力不足を生じたり、大きなブレーキ操作力が必要になるという問題がある。
【0039】
そこで本実施例においては、コントローラ51が上記の失陥を制動開始瞬時t1以前に判定した場合、バックアップ液圧発生ユニット42に制御信号を出力して、これを以下のような制御状態にする。
つまり、この時コントローラ51は、低い失陥時マスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmを規定の倍力比K=5で倍力した液圧値をバックアップ液圧の目標値とする制御信号をバックアップ液圧発生ユニット42に指令する。
【0040】
バックアップ液圧発生ユニット42はこの制御信号に応答し、図3に示すごとく、上記の低いマスターシリンダ液圧(ブレーキ液圧)Pmを規定の倍力比K=5で倍力したホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)をブレーキ液圧系20F,20Rから車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせる。
よって、当該失陥時もホイールシリンダ液圧Pwは、図2に示す正常時のそれと同じに値であり、制動力不足を生じたり、大きなブレーキ操作力が必要になるという問題を回避することができる。
【0041】
しかし上記の失陥時フェールセーフ制御を、制動中の失陥時も同じように実行すると、図4につき以下に説明するような問題が発生する。
図4は、図2の瞬時t2以降におけると同じ制動状態、つまり、ブレーキペダル踏力を20Nに保ってマスターシリンダ液圧Pm=5MPaをそのままホイールシリンダ液圧Pw=5MPaとする制動中の瞬時t3に前記の失陥が発生した場合も上記の失陥時フェールセーフ制御を同様に実行した場合の動作タイムチャートである。
【0042】
失陥によって電動機32がプライマリピストン5をストローク制御し得なくなっても、プライマリピストン5はブレーキペダル位置の不変により失陥時のストローク位置に保たれることから、マスターシリンダ液圧Pmは図4に示すごとく失陥時t3以降もPm=5MPaに保持される。
このためコントローラ51は、センサ53で検出された当該失陥時マスターシリンダ液圧Pm=5MPaを規定の倍力比K=5で倍力した液圧値25MPaをバックアップ液圧の目標値とする制御信号をバックアップ液圧発生ユニット42に指令することになる。
【0043】
この時バックアップ液圧発生ユニット42はこの制御信号に応答し、図4に示すごとく、上記倍力済の失陥時マスターシリンダ液圧Pm=5MPaを、規定の倍力比K=5で更に倍力したホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)をブレーキ液圧系20F,20Rから車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせる。
よって、当該制動中の失陥時はホイールシリンダ液圧Pwが二重倍力により、図4の失陥時t3以降に示すごとく25MPaもの高さとなって、過大制動力により違和感のある急制動が発生するという問題を生ずる。
【0044】
この時、シリンダ室12内も上記した過剰なホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)=25MPaと同じ圧力にされ、また、電動機32によるプライマリピストン5の助勢力が0になることから、
シリンダ室12内の上記した液圧=25MPaがそのままブレーキペダル24にキックバックされて、ブレーキペダル踏力(ブレーキペダル反力)も20Nから、これに倍力比K=5を乗じた100Nへと増大する。
【0045】
この問題を解決するため本実施例においては、図5につき以下に説明するような制動中失陥時フェールセーフ制御とする。
図5は、図2の瞬時t2以降におけると同じ制動状態、つまり、ブレーキペダル踏力を20Nに保ってマスターシリンダ液圧Pm=5MPaをそのままホイールシリンダ液圧Pw=5MPaとする制動中の瞬時t3に前記の失陥が発生した場合の動作タイムチャートである。
【0046】
かかる制動中の失陥時t3以降コントローラ51は、失陥時にシリンダ室12,14から車輪制動ユニット41F,41Rに向かっていたホイールシリンダ液圧Pw=5MPaをバックアップ液圧の目標値とする制御信号をバックアップ液圧発生ユニット42に指令する。
この時バックアップ液圧発生ユニット42はこの制御信号に応答し、図5に示すごとく、失陥時t3以降ホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を失陥時t3における液圧値5MPaに保持するよう作動し、このホイールシリンダ液圧Pw=5MPaをブレーキ液圧系20F,20Rから車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせる。
【0047】
よって、制動中の失陥時フェールセーフ対策が、車輪制動ユニット41F,41Rの作動液圧を、図4につき前述したように二重倍力により高めすぎることがなく、前記した違和感のある急制動に関する懸念を払拭することができる。
【0048】
図5につき上述した制動中の失陥時フェールセーフ制御は、失陥後ブレーキペダル操作を不変に保っている場合のものであるが、失陥後にブレーキペダルを踏み戻したり、踏み込んでブレーキペダル操作を変化させた場合は、図6につき以下に説明するような制動中失陥時フェールセーフ制御とする。
【0049】
図6は、図2の瞬時t2以降におけると同じ制動状態、つまり、ブレーキペダル踏力を20Nに保ってマスターシリンダ液圧Pm=5MPaをそのままホイールシリンダ液圧Pw=5MPaとする制動中の瞬時t3に前記の失陥が発生し、
この失陥時t3から瞬時t4までの間ブレーキペダル踏力変化により示すようなブレーキペダルの踏み戻し操作を行い、
瞬時t4〜t5間においてブレーキペダル踏力変化により示すようなブレーキペダルの踏み込み操作を行い、
瞬時t5〜t6間においてブレーキペダル踏力変化により示すようなブレーキペダルの踏み戻し操作を行った場合の動作タイムチャートである。
【0050】
失陥時t3から瞬時t4までのブレーキペダルの踏み戻し中(ブレーキ操作力低下中)は、これに伴って図示のごとくに低下されるマスターシリンダ液圧Pmとの関連において、コントローラ51がバックアップ液圧(ホイールシリンダ液圧Pw)の目標値を以下のごとくに決定する。
【0051】
つまりコントローラ51は、バックアップ液圧(ホイールシリンダ液圧Pw)をマスターシリンダ液圧Pmに対し、当該ブレーキペダルの踏み戻し操作(ブレーキ操作力の低下)が開始された時(t3)における、車輪制動ユニット41F,41Rに向かっていたホイールシリンダ液圧Pw=5MPaと、シリンダ室12,14内に発生していたマスターシリンダ液圧Pm=5MPaとの間の倍力比K1=(5MPa/5MPa)=1を保って低下させる時のバックアップ液圧値(ホイールシリンダ液圧Pw)をバックアップ液圧(ホイールシリンダ液圧Pw)の目標値とする制御信号をバックアップ液圧発生ユニット42に指令する。
【0052】
この時バックアップ液圧発生ユニット42はこの制御信号に応答し、図6に示すごとく、ブレーキペダルの踏み戻し操作開始時t3以降ホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を、当該瞬時t3からマスターシリンダ液圧Pmに対し上記のごとくに定めた倍力比K1=1を保って低下させるよう作動し、このホイールシリンダ液圧Pwをブレーキ液圧系20F,20Rから車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせる。
【0053】
よって、制動中の失陥時フェールセーフ対策が行われている間にブレーキペダルの踏み戻し操作があるt3〜t4中は、車輪制動ユニット41F,41Rへのホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)が、マスターシリンダ液圧Pmに対し上記のごとくに定めた倍力比K1=1を保って低下されることとなり、
運転者によるブレーキペダルの踏み戻し操作に対しリニヤに制動力を低下させることができ、制動中の失陥時フェールセーフ制御中もブレーキペダルの踏み戻し操作に対応した自然な制動感を実現することができる。
【0054】
図6の瞬時t4〜t5間におけるブレーキペダルの踏み込み中(ブレーキ操作力増大中)は、これに伴って図示のごとくに上昇されるマスターシリンダ液圧Pmとの関連において、コントローラ51がバックアップ液圧(ホイールシリンダ液圧Pw)の目標値を以下のごとくに決定する。
【0055】
つまりコントローラ51は、ブレーキ操作力の増大開始時t4以降ホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を、当該ブレーキ操作力の増大開始時t4から現在までの間におけるマスターシリンダ液圧Pmの増大量ΔPmと、規定の失陥時倍力比(ここでは正常時倍力比と同じK=5とする)との乗算により求めた液圧分(ΔPm×K)だけ上昇させる時のバックアップ液圧値(ホイールシリンダ液圧Pw)をバックアップ液圧(ホイールシリンダ液圧Pw)の目標値とする制御信号をバックアップ液圧発生ユニット42に指令する。
【0056】
この時バックアップ液圧発生ユニット42はこの制御信号に応答し、図6に示すごとく、ブレーキペダルの踏み増し操作中t4〜t5においてホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を上記の液圧分(ΔPm×K)だけ上昇させるよう作動し、このホイールシリンダ液圧Pwをブレーキ液圧系20F,20Rから車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせる。
【0057】
よって、制動中の失陥時フェールセーフ対策が行われている間にブレーキペダルの踏み込み操作があるt4〜t5中は、車輪制動ユニット41F,41Rへのホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)が、マスターシリンダ液圧Pmの増大に対し上記のごとくに定めた液圧分(ΔPm×K)だけ上昇され、結果として、車輪制動ユニット41F,41Rへのホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)が、マスターシリンダ液圧Pmに対し倍力比K2=K=5で上昇されることとなり、
運転者によるブレーキペダルの踏み込み操作分の倍力液圧を車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせることができ、制動中の失陥時フェールセーフ制御中もブレーキペダルの踏み込み操作に対応した十分な制動力を発生させることができる。
【0058】
図6の瞬時t5〜t6間におけるブレーキペダルの踏み戻し中(ブレーキ操作力低下中)も、コントローラ51は瞬時t3〜t4間につき前述したと同様、ブレーキペダルの踏み戻し中(ブレーキ操作力低下中)に伴って図示のごとくに低下されるマスターシリンダ液圧Pmとの関連において、バックアップ液圧(ホイールシリンダ液圧Pw)の目標値を以下のごとくに決定する。
【0059】
つまりコントローラ51は、バックアップ液圧(ホイールシリンダ液圧Pw)をマスターシリンダ液圧Pmに対し、当該ブレーキペダルの踏み戻し操作(ブレーキ操作力の低下)が開始された時(t5)における、車輪制動ユニット41F,41Rに向かっていたホイールシリンダ液圧Pw=4MPaと、シリンダ室12,14内に発生していたマスターシリンダ液圧Pm=1.6MPaとの間の倍力比K3=(4MPa/1.6MPa)=2.5を保って低下させる時のバックアップ液圧値(ホイールシリンダ液圧Pw)をバックアップ液圧(ホイールシリンダ液圧Pw)の目標値とする制御信号をバックアップ液圧発生ユニット42に指令する。
【0060】
この時バックアップ液圧発生ユニット42はこの制御信号に応答し、図6に示すごとく、ブレーキペダルの踏み戻し操作開始時t5以降ホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を、当該瞬時t5からマスターシリンダ液圧Pmに対し上記のごとくに定めた倍力比K3=2.5を保って低下させるよう作動し、このホイールシリンダ液圧Pwをブレーキ液圧系20F,20Rから車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせる。
【0061】
よって、制動中の失陥時フェールセーフ対策が行われている間にブレーキペダルの踏み戻し操作があるt5〜t6中は、車輪制動ユニット41F,41Rへのホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)が、マスターシリンダ液圧Pmに対し上記のごとくに定めた倍力比K3=2.5を保って低下されることとなり、
運転者によるブレーキペダルの踏み戻し操作に対しリニヤに制動力を低下させることができ、制動中の失陥時フェールセーフ制御中もブレーキペダルの踏み戻し操作に対応した自然な制動感を実現することができる。
【0062】
ところで、制動中の失陥時フェールセーフ制御が行われている間にブレーキペダルの踏み戻し(ブレーキ操作力の低下)が行われる時、無条件に、図6の瞬時t3〜t4間、および、同図の瞬時t5〜t6間につき前述した制御を行うと、図7につき以下に説明するような問題が発生する。
【0063】
図7は、図2の瞬時t2以降におけると同じ制動状態、つまり、ブレーキペダル踏力を20Nに保ってマスターシリンダ液圧Pm=5MPaをそのままホイールシリンダ液圧Pw=5MPaとする制動中の瞬時t3に前記の失陥が発生し、
これに対する前記のフェールセーフ制御で急増したブレーキペダル踏力(ブレーキペダル反力)に驚いて運転者がブレーキペダルをt3〜t4の間に一瞬、ブレーキ操作力の低下を意図しないのに踏み戻したが(図示の踏力低下参照)、その後t4〜t5間に再度ブレーキペダルを踏み込んだ(図示の踏力増大参照)場合の動作タイムチャートである。
【0064】
かようにブレーキ操作力の低下を意図しないブレーキペダルの踏み戻し操作が行われる期間t3〜t4間においても無条件に、図6の瞬時t3〜t4間、および、同図の瞬時t5〜t6間につき前述したブレーキペダル踏み戻し時制御を行うと、
ホイールシリンダ液圧Pwは図7に一点鎖線で示すごとく、図6の瞬時t3〜t4間におけるホイールシリンダ液圧Pwと同じくマスターシリンダ液圧Pmに対し倍力比K1=1を保って急低下する。
【0065】
かかる急低下は、ブレーキ操作力の低下を意図しないブレーキペダルの踏み戻し操作が行われた期間t3〜t4であるにもかかわらず、ホイールシリンダ液圧Pwを大きく低下させてしまい、その後のブレーキペダルの再踏み込み時t4〜t5にホイールシリンダ液圧Pwの復帰遅れを生ずる。
【0066】
そこで本実施例においては、ブレーキペダル踏力が低下後直ちに増大されるような場合、コントローラ51がブレーキペダル踏力の低下に呼応してバックアップ液圧発生ユニット42を制御するに際し、ブレーキペダル踏力の低下(図7のt3〜t4参照)に呼応したホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)の低下が、図7にA1,A2,A3で示すように、一点鎖線で示すものよりも抑制されるよう、当該バックアップ液圧発生ユニット42の制御を遂行する。
【0067】
図7にA1,A2,A3で示すホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)の低下特性は何れも、図6につき前述した倍力比K1よりも小さな倍力比を保ってバックアップ液圧を低下させることを主旨とし、以下、A1,A2,A3特性を個々に説明する。
図7にA1で示すホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)の低下特性は、
ブレーキペダル踏力の低下開始時t3におけるマスターシリンダ液圧Pmに代え、ブレーキペダル踏力の低下開始時t3以降における過去複数回のマスターシリンダ液圧Pmの平均値を用い、この平均値に対する、ペダル踏力低下開始時t3のホイールシリンダ液圧Pwの比を倍力比とし、マスターシリンダ液圧Pmに対しこの小さな倍力比を保つような液圧値をホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)の目標値とした場合の特性である。
【0068】
ホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を図7にA1で示すように低下させる場合、コントローラ51は、マスターシリンダ液圧Pmに対し、ペダル踏力低下開始時t3のホイールシリンダ液圧Pwと、ペダル踏力低下開始時t3以降における過去複数回のマスターシリンダ液圧Pmの平均値との間における倍力比を保って低下する液圧値をバックアップ液圧値(ホイールシリンダ液圧Pw)の目標値とする制御信号をバックアップ液圧発生ユニット42に指令する。
【0069】
この時バックアップ液圧発生ユニット42はこの制御信号に応答し、図7にA1で示すごとく、ブレーキペダルの踏み戻し操作開始時t3以降ホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を、当該瞬時t3からマスターシリンダ液圧Pmに対し上記のごとくに定めた倍力比を保って低下させるよう作動し、このホイールシリンダ液圧Pwをブレーキ液圧系20F,20Rから車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせる。
【0070】
よって、制動中の失陥時フェールセーフ対策が行われている間にブレーキペダルの踏み戻し操作があっても、これが図7の瞬時t3〜t4間におけるごとくペダル踏力の低下を意図しない一時的なものである場合、
車輪制動ユニット41F,41Rへのホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)が、図6の瞬時t3〜t4における倍力比K1=1よりも小さな倍力比でゆっくり低下されることとなり、
ブレーキ操作力の低下を意図しないブレーキペダルの踏み戻し操作が行われたにもかかわらず、ホイールシリンダ液圧Pwを大きく低下させてしまうことがなくなり、その後のブレーキペダルの再踏み込み時t4〜t5にホイールシリンダ液圧Pwの復帰遅れが生ずるという問題を解消することができる。
【0071】
図7にA2で示すホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)の低下特性は、
ブレーキ操作力の低下を意図しないブレーキペダルの踏み戻し操作が行われた時は、倍力比を算出するのではなく、倍力比を小さな上限値に固定し、マスターシリンダ液圧Pmに対しこの小さな上限倍力比を保つような液圧値をホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)の目標値とした場合の特性である。
【0072】
ホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を図7にA2で示すように低下させる場合、コントローラ51は、マスターシリンダ液圧Pmに対し、上記の小さな上限倍力比を保って低下する液圧値をバックアップ液圧値(ホイールシリンダ液圧Pw)の目標値とする制御信号をバックアップ液圧発生ユニット42に指令する。
【0073】
この時バックアップ液圧発生ユニット42はこの制御信号に応答し、図7にA2で示すごとく、ブレーキペダルの踏み戻し操作開始時t3以降ホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を、当該瞬時t3からマスターシリンダ液圧Pmに対し上記の小さな上限倍力比を保って低下させるよう作動し、このホイールシリンダ液圧Pwをブレーキ液圧系20F,20Rから車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせる。
【0074】
よって、制動中の失陥時フェールセーフ対策が行われている間にブレーキペダルの踏み戻し操作があっても、これが図7の瞬時t3〜t4間におけるごとくペダル踏力の低下を意図しない一時的なものである場合、
車輪制動ユニット41F,41Rへのホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)が、図6の瞬時t3〜t4における倍力比K1=1よりも小さな上限倍力比でゆっくり低下されることとなり、
ブレーキ操作力の低下を意図しないブレーキペダルの踏み戻し操作が行われたにもかかわらず、ホイールシリンダ液圧Pwを大きく低下させてしまうことがなくなり、その後のブレーキペダルの再踏み込み時t4〜t5にホイールシリンダ液圧Pwの復帰遅れが生ずるという問題を解消することができる。
【0075】
図7にA3で示すホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)特性は、
ブレーキ操作力の低下を意図しないブレーキペダルの踏み戻し操作が行われた時は、倍力比の算出や上限設定を行わず、ブレーキペダルの踏み戻し操作時t3におけるホイールシリンダ液圧Pwの値をホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)の目標値とし、この目標値を一定時間に亘って維持した場合の特性である。
【0076】
ホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を図7にA3で示すように保持する場合、コントローラ51は、ブレーキペダルの踏み戻し操作時t3におけるホイールシリンダ液圧Pwの値を上記の一定時間だけホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)の目標値として保持し、対応する制御信号をバックアップ液圧発生ユニット42に指令する。
【0077】
この時バックアップ液圧発生ユニット42はこの制御信号に応答し、図7にA3で示すごとく、ブレーキペダルの踏み戻し操作開始時t3以降、一定時間に亘ってホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)を、当該瞬時t3における液圧値に保つよう作動し、このホイールシリンダ液圧Pwをブレーキ液圧系20F,20Rから車輪制動ユニット41F,41Rに向かわせる。
【0078】
よって、制動中の失陥時フェールセーフ対策が行われている間にブレーキペダルの踏み戻し操作があっても、これが図7の瞬時t3〜t4間におけるごとくペダル踏力の低下を意図しない一時的なものである場合、
車輪制動ユニット41F,41Rへのホイールシリンダ液圧Pw(バックアップ液圧)が、低下されることなく、瞬時t3の値に保たれることとなり、
ブレーキ操作力の低下を意図しないブレーキペダルの踏み戻し操作が行われたにもかかわらず、ホイールシリンダ液圧Pwを大きく低下させてしまうことがなくなり、その後のブレーキペダルの再踏み込み時t4〜t5にホイールシリンダ液圧Pwの復帰遅れが生ずるという問題を解消することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施例になる電動倍力式液圧ブレーキ装置を、その電子制御系と共に示す要部縦断側面図である。
【図2】図1に示す電動倍力式液圧ブレーキ装置の正常時における動作タイムチャートである。
【図3】図1に示す電動倍力式液圧ブレーキ装置が非制動中に倍力失陥を生じた場合の動作タイムチャートである。
【図4】図1に示す電動倍力式液圧ブレーキ装置が制動中に倍力失陥を生じた場合において、従来通りの制御を実行した時の動作タイムチャートである。
【図5】図1に示す電動倍力式液圧ブレーキ装置が制動中に倍力失陥を生じた場合において、ブレーキペダル操作力が変化しないときの動作タイムチャートである。
【図6】図1に示す電動倍力式液圧ブレーキ装置が制動中に倍力失陥を生じた場合において、ブレーキペダル操作力が変化するときの動作タイムチャートである。
【図7】図1に示す電動倍力式液圧ブレーキ装置が制動中に倍力失陥を生じた場合において、ブレーキペダル操作力の低下を意図しないブレーキペダルの踏み戻し操作が行われたときの動作タイムチャートである。
【符号の説明】
【0080】
1 マスターシリンダ
2 電動式ブレーキ倍力装置
3 シリンダ本体
4 ブースタハウジング
5 プライマリピストン(ブレーキ液圧発生手段)
6 インナスリーブ
7 セカンダリピストン
8 インプットロッド(ブレーキ操作力対応液圧発生手段)
11,13 リターンスプリング
12,14 シリンダ室(液圧室)
15,17 ブレーキ液供給ポート
16,18 リリーフポート
20F,20R ブレーキ液圧系(ブレーキ液圧管路)
21,22 中立スプリング
23 プッシュロッド
24 ブレーキペダル
31 スラスト部材
32 電動機
33 ボールネジ機構
34 リターンスプリング
41 車輪制動ユニット
42 バックアップ液圧発生ユニット(バックアップ液圧発生手段)
44F,44R 液圧源
51 コントローラ
52 ブレーキペダルストロークセンサ
53 マスターシリンダ液圧センサ
54 ホイールシリンダ液圧センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ操作に応じ電動機によりストロークされて液圧室内に所定のブレーキ液圧を発生させるブレーキ液圧発生手段と、
ブレーキ操作に連動し、前記ブレーキ液圧発生手段の失陥時に該ブレーキ液圧発生手段を機械的にストロークさせて前記液圧室内にブレーキ操作力対応液圧を発生させるブレーキ操作力対応液圧発生手段と、
前記液圧室内に発生した液圧を車輪制動ユニットに向かわせる管路に挿置して、前記ブレーキ液圧発生手段の失陥時に前記車輪制動ユニットへ所定のバックアップ液圧を供給可能にするバックアップ液圧発生手段とを具備した電動倍力式液圧ブレーキ装置において、
ブレーキ操作中に前記ブレーキ液圧発生手段が失陥した時は、前記車輪制動ユニットへのバックアップ液圧が、失陥直前に前記液圧室から車輪制動ユニットに向かっていた液圧値となるよう、前記バックアップ液圧発生手段を作動させる構成としたことを特徴とする電動倍力式液圧ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動倍力式液圧ブレーキ装置において、
前記ブレーキ液圧発生手段の失陥後にブレーキ操作力が低下する間は、前記車輪制動ユニットへのバックアップ液圧が、ブレーキ操作力の低下開始時における、前記車輪制動ユニットに向かっていた液圧値と、前記液圧室に発生していた液圧との間の倍力比を保って低下するよう、前記バックアップ液圧発生手段を作動させる構成としたことを特徴とする電動倍力式液圧ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電動倍力式液圧ブレーキ装置において、
前記ブレーキ液圧発生手段の失陥後にブレーキ操作力が増大する間は、前記車輪制動ユニットへのバックアップ液圧が、ブレーキ操作力の増大開始時から現在までの間における前記液圧室内の液圧増大量に規定の失陥時倍力比を掛けて求めた液圧分だけ上昇するよう、前記バックアップ液圧発生手段を作動させる構成としたことを特徴とする電動倍力式液圧ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の電動倍力式液圧ブレーキ装置において、
前記ブレーキ液圧発生手段の失陥時にブレーキ操作力が低下後直ちに増大される場合は、ブレーキ操作力の低下に呼応した前記バックアップ液圧の低下が抑制されるよう、前記バックアップ液圧発生手段を制御する構成としたことを特徴とする電動倍力式液圧ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電動倍力式液圧ブレーキ装置において、
前記バックアップ液圧の低下の抑制は、ブレーキ操作力の低下開始時における、前記車輪制動ユニットに向かっていた液圧値と、前記液圧室に発生していた液圧との間の倍力比に代え、これよりも小さな倍力比を保ってバックアップ液圧を低下させることにより実現するものであることを特徴とする電動倍力式液圧ブレーキ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電動倍力式液圧ブレーキ装置において、
前記小さな倍力比は、ブレーキ操作力の低下開始時における前記液圧室内の液圧に代え、ブレーキ操作力の低下後における過去複数回の前記液圧室内における液圧値の平均値を用いて得られる倍力比であることを特徴とする電動倍力式液圧ブレーキ装置。
【請求項7】
請求項5に記載の電動倍力式液圧ブレーキ装置において、
前記小さな倍力比は、倍力比の上限設定により得られた倍力比であることを特徴とする電動倍力式液圧ブレーキ装置。
【請求項8】
請求項5に記載の電動倍力式液圧ブレーキ装置において、
前記バックアップ液圧の低下の抑制は該バックアップ液圧を、ブレーキ操作力の低下開始時に前記車輪制動ユニットに向かっていた液圧値と同じ値に一定時間保持することにより実現するものであることを特徴とする電動倍力式液圧ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−274685(P2009−274685A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130331(P2008−130331)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】