説明

電動機制御装置

【課題】実操業時に速度パターンや負荷等が変動する場合にも、制御パラメータを常に最適値に調整可能として安定した制御応答が得られるような電動機制御装置を提供する。
【解決手段】電動機の状態量に関する加減速パターン等の指令パターンを出力する自動運転指令生成部4と、前記状態量をフィードバックして前記指令パターンに追従させるように制御する位置・速度調節部5と、前記状態量に基づいて調節部5における制御パラメータを変更する制御パラメータ操作部33と、を備え、電動機により負荷機械を駆動しながらパラメータ操作部33により制御パラメータを最適値に調整する電動機制御装置において、負荷機械の状態に応じて前記指令パターンを変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、負荷機械を駆動する電動機の制御装置に関し、詳しくは、位置調節ゲインや速度調節ゲイン等の制御パラメータを最適化するセルフチューニング手段を備えた電動機制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の従来技術として、マイクロコンピュータにより位置フィードバックループ、速度フィードバックループを構成する電動機の制御装置において、例えば、電動機の速度や位置等の状態量に関する応答波形のオーバーシュート量、立ち上がり時間、振動成分等を観察しながら制御パラメータをセルフチューニングする方法が提案されている。
【0003】
図4は、この種のセルフチューニング方法が適用される従来のサーボモータ制御装置のブロック図であり、特許文献1に記載されているものである。
図4において、100は、マイクロコンピュータにより構成され、かつセルフチューニング手段を含む制御部、114は制御部100のディジタル出力(電流指令値)Iをアナログ信号の電流指令値Iに変換するD/A変換部、118cは電流指令値Iと電流検出値Iとの偏差ΔIを求める減算器、117はパワーアンプ、111は電流検出用の抵抗、110は制御対象である電動機、115は電動機110に取り付けられた位置検出器を示す。
【0004】
また、制御部100において、116は位置指令値Lを出力する指令発生部、118aは位置指令値Lと位置検出値Lとの偏差ΔLを求める減算器、119は偏差ΔLをゼロにするような速度指令値Vを演算する位置制御部、118bは速度指令値Vと速度検出値Vとの偏差ΔVを求める減算器、112は偏差ΔVをゼロにするような電流指令値Iを演算する速度制御部、120は位置検出器115の出力から位置検出値Lを演算する位置カウンタ、121は同じく速度検出値Vを演算する速度演算部、122は位置制御部119及び速度制御部112に対して位置応答や速度応答の立ち上がり時間やオーバーシュート量等の制御パラメータの変更指示信号を出力するパラメータ変更判定部である。
【0005】
上記構成では、電動機110の位置フィードバックループの内側に速度フィードバックループが設けられ、更にその内側に、電動機110の電流(トルク)フィードバックループが設けられており、電動機110の電流検出値Iを電流指令値Iに一致させると共に速度検出値Vを速度指令値Vに一致させ、最終的には、電動機110の位置検出値Lを位置指令値Lに一致させるような制御が行われる。
【0006】
ここで、パラメータ変更判定部122では、指令発生部116からセルフチューニングモードである旨の指示信号が入力されると、速度制御部112及び位置制御部119のゲインを徐々に上げていく。そして、位置検出値Lの周波数成分から発振状態になったことを検出すると、発振周波数と速度制御部112及び位置制御部119のゲインとを用いて制御対象ゲインを演算し、速度制御部112の演算を比例制御から比例積分制御に変更して前記各ゲインを再び増加させる。その後、発振状態になったことを再び検出すると、この発振現象が収まるまで前記各ゲインを徐々に下げていく。
このような動作により、速度応答や位置応答の立ち上がり時間やオーバーシュート量が所定範囲に収まった時点や発振現象が収まった時点の各ゲインを最適値に調整することができ、その後にセルフチューニングモード終了信号を指令発生部116に送るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平3−122701号公報(第3頁右下欄第20行〜第4頁右上欄第16行、第1図,第2図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記従来技術では、電動機110を駆動している状態で、パラメータ変更判定部122が、位置制御部119及び速度制御部112のゲイン等の制御パラメータに関して、電動機110の位置指令値Lに基づいてセルフチューニング操作を行っており、応答波形のオーバーシュート量や立ち上がり時間、意図的に発振させた発振周波数等を計測することにより制御パラメータを最適値に調整している。
しかしながら、このセルフチューニング手段では、チューニング時において指令発生部116から出力される位置指令値Lのパターン(指令パターン)が、例えば電動機110を一定速度で往復運動させるように固定されたパターンとなっている。このため、実操業にて指令パターンが変化する場合や負荷の変動が起きた場合等には、制御パラメータを最適値に調整することができないおそれがあった。
【0009】
そこで、本発明の解決課題は、実操業時に指令パターンが変化したり負荷変動が生じた場合にも、制御パラメータを常に最適値に調整可能として安定した制御応答が得られるようにした電動機制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明は、電動機の状態量に関する指令パターンを出力する指令生成手段と、前記状態量をフィードバックして前記指令パターンに追従させるように制御する調節手段と、前記状態量に基づいて前記調節手段における制御パラメータを変更するパラメータ操作手段と、を備え、前記電動機により負荷機械を駆動しながら前記パラメータ操作手段により前記制御パラメータを最適値に調整する電動機制御装置において、前記負荷機械の状態に応じて前記指令パターンを変化させるものである。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した電動機制御装置において、前記指令パターンにおける加減速成分を段階的に変化させるものである。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載した電動機制御装置において、前記指令パターンを段階的に変化させてチューニングした制御パラメータの中で、前記指令パターンに対して所望の追従性が得られ、かつ、最も制御応答が低くなる制御パラメータを最適値として選択するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、指令パターンの加速度成分等を変化させて位置調節ゲイン、速度調節ゲイン等の制御パラメータをチューニングし、安定した制御応答が得られるような制御パラメータを最適値として選択することにより、実操業時に指令パターンの加減速成分が変化したり負荷変動が生じた場合にも、制御ループが不安定とならずロバスト性の高い制御応答を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係る電動機制御装置の内部構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の実施形態におけるセルフチューニング操作のフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態における指令パターン(加減速成分)の説明図である。
【図4】特許文献1に記載されたサーボモータ制御装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、この発明の実施形態に係る電動機制御装置1の内部構成を示すブロック図であり、この制御装置1により電動機・負荷機械(電動機とその負荷機械を一つのブロックに纏めて示してある)7を所定のトルクで駆動するように構成されている。
電動機制御装置1は、入出力部2、セルフチューニング部3、自動運転指令生成部4、位置・速度調節部5、駆動装置部6から構成され、上記セルフチューニング部3は、インターフェイス部31、調整シーケンス部32、制御パラメータ操作部33、発振検出部34から構成されている。
【0016】
次に、この実施形態の動作を各部の機能と共に説明する。なお、ここでは、電動機により負荷機械を往復運動させる場合について述べる。
まず、入出力部2から、電動機・負荷機械7を制御するための移動距離、移動速度、及び、これらの制御動作を行うための起動信号等が指令として入力されると、この指令はインターフェイス部31に送られ、更に、前記移動距離及び移動速度は設定値として調整シーケンス部32に送られる。
【0017】
調整シーケンス部32では、入力された移動距離及び移動速度に基づいて電動機に対する加減速パターンを作成し、自動運転指令生成部4に出力する。自動運転指令生成部4では、上記加減速パターンに基づいて位置指令を含む指令パターンを作成し、この指令パターンを位置・速度調節部5に出力する。
位置・速度調節部5では、後述のチューニング作業により調整された位置調節ゲイン及び速度調節ゲインのもとで、前記指令パターンとフィードバックされた状態量(位置・速度検出値)とを用いて位置・速度調節演算を行い、その演算結果に基づいたトルク指令を生成して駆動装置部6に出力する。駆動装置部6は、前記トルク指令に対応する電動機への印加電圧、電流を内部の電力変換器により生成し、電動機・負荷機械7を所定トルクで可変速駆動することにより、負荷機械の往復運動を制御する。
【0018】
次に、本実施形態におけるチューニング動作について説明する。
入出力部2からインターフェイス部31に送られた起動信号によってセルフチューニングの設定操作が指示されると、調整シーケンス部32は、後述するチューニング則に応じた加減速パターンのパラメータを自動運転指令生成部4に送信し、自動運転指令生成部4では、往復運動を行わせるための位置指令を生成し、指令パターンを出力する。位置・速度調節部5では、前述したように指令パターンに基づいて位置・速度調節演算を行い、駆動装置部6を介して電動機を可変速駆動することにより、負荷機械の往復運動が開始される。
【0019】
このとき、調整シーケンス部32からの有効信号(セルフチューニング操作が有効であることを示す信号)を受信した制御パラメータ操作部33では、調整シーケンス部32により予め設定された位置・速度調節部5の位置・速度調節ゲイン等の制御パラメータを、前記往復運動が終了する都度、徐々に増加させる等の操作を行う。また、位置・速度調節部5からのトルク指令が入力されている発振検出部34は、例えば、ハイパスフィルタ、絶対値回路、ローパスフィルタ、比較回路等によって構成されており、前記ゲインの増加に伴うトルク指令の発振周波数(発振状態)を監視し、出力する。
【0020】
制御パラメータ操作部33は、入力された発振周波数からトルク指令の発振状態を検出すると、位置・速度調節ゲインを減少させるように位置・速度調節部5に対して操作を行うと共に、以後は減少させたゲインを保持するように位置・速度調節部5に指令する。なお、前記ゲインの減少、増加を複数回行ってリトライするようにすれば、ゲイン調整時の再現性を改善することができる。
【0021】
ここで、図4に示した従来技術では、操業用の指令パターンを固定しており、例えば、位置指令値に基づいて電動機110を一定速度で往復運動させるように制御している。これに対し、本実施形態ではチューニング結果の制御パラメータをメモリに保持して、事前に入出力部2から指定された変化分だけ、負荷機械の状態に応じて指令パターンの加減速成分を変化させ、同じようにチューニング操作を繰り返し実施する。この作用を、図2,図3を参照しつつ以下に説明する。
【0022】
すなわち、図2に示すように、まず、入出力部2からユーザが指定した設定加速度に基づく指令パターン(図3における実線のパターン)のもとでチューニング操作を実行し、その際の位置・速度調節ゲイン等の制御パラメータをメモリに記憶する(図2のステップS1)。
次に、負荷機械の状態に応じて、入出力部2からユーザが指定した変化分だけ設定加速度を増加させた指令パターン(図3では、例として設定加速度の1.2倍とした破線のパターン)を調整シーケンス部32及び自動運転指令生成部4を介して位置・速度調節部5に入力すると共に、その指令パターンのもとでチューニング操作を実行し、その際の制御パラメータをメモリに記憶する(図2のステップS2)。更に、同様にしてユーザが指定した変化分だけ設定加速度を減少させた指令パターン(図3では、例として設定加速度の0.8倍とした一点鎖線のパターン)を調整シーケンス部32及び自動運転指令生成部4を介して位置・速度調節部5に入力すると共に、その指令パターンのもとでチューニング操作を実行し、その際の制御パラメータをメモリに記憶する(図2のステップS3)。
【0023】
最後に、各チューニング操作にてメモリに記憶した制御パラメータのうち、指令パターンに対して所望の追従性が得られ、かつ、最も制御応答が低くなる(すなわち、ゲインが小さく、制御対象の変動に対してロバストである)ような制御パラメータを最適値として選択し(図2のステップS4)、位置・速度調節部5におけるゲインのセルフチューニング操作を完了する。
【0024】
上記のように、この実施形態によれば、段階的に変化させた指令パターンのもとで位置調節ゲインや速度調節ゲイン等の制御パラメータを最適値にチューニングしているので、実操業時に指令パターンの加減速成分が変化したり負荷変動が生じた場合にも、制御ループが不安定とならずロバスト性の高い制御応答を得ることができる。
【0025】
なお、本実施形態では、図3に示すように直線状に変化する指令パターン(加減速パターン)について説明したが、例えば曲線(S字など)で加速するパターンとしてもよく、更に、加速時と減速時とが非対象のパターンであってもよい。
また、本実施形態では、制御パラメータをゲイン要素として説明したが、ノッチフィルタなどの閉ループの周波数特性を局所的に操作する制御器を含んだ構成とし、フィルタ及びゲインの制御パラメータをチューニングしてもよい。
【符号の説明】
【0026】
1:電動機制御装置
2:入出力部
3:セルフチューニング部
31:インターフェイス部
32:調整シーケンス部
33:制御パラメータ操作部
34:発振検出部
4:自動運転指令生成部
5:位置・速度調節部
6:駆動装置部
7:電動機・負荷機械

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機の状態量に関する指令パターンを出力する指令生成手段と、前記状態量をフィードバックして前記指令パターンに追従させるように制御する調節手段と、前記状態量に基づいて前記調節手段における制御パラメータを変更するパラメータ操作手段と、を備え、前記電動機により負荷機械を駆動しながら前記パラメータ操作手段により前記制御パラメータを最適値に調整する電動機制御装置において、
前記負荷機械の状態に応じて前記指令パターンを変化させることを特徴とする電動機制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載した電動機制御装置において、
前記指令パターンにおける加減速成分を段階的に変化させることを特徴とする電動機制御装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載した電動機制御装置において、
前記指令パターンを段階的に変化させてチューニングした制御パラメータの中で、前記指令パターンに対して所望の追従性が得られ、かつ、最も制御応答が低くなる制御パラメータを最適値として選択することを特徴とする電動機制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−147201(P2011−147201A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3596(P2010−3596)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【出願人】(000005234)富士電機株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】