説明

電子デバイスのメッキ構造及び圧電振動子

【課題】高温用の耐熱メッキを人体に有毒な鉛を使用しない鉛フリーとした電子デバイスを提供する。
【解決手段】圧電振動素子6を収納可能な金属ケース9と、金属ケース9の開口端に接合され金属ケース9内を気密封止するプラグ2と、圧電振動素子6の励振電極7と接続され、プラグ2を貫通しその底部から突出した2本のリード端子4、4と、を備えた円筒型圧電振動子1であって、メッキ層10は、金属部材上に形成され、錫(Sn)と銅(Cu)を材料とした第1のメッキ層12と、第1のメッキ層11上に形成され、銀(Ag)を材料とした第2のメッキ層13と、第2のメッキ層13上に形成され、金(Au)と錫(Sn)を材料とした第3のメッキ層14とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無鉛化に対応した電子デバイスのメッキ構造に関わり、圧電振動子のプラグに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば圧電振動子などの電子デバイスにおいては、金属ケースとプラグという2つの金属部材を電気的に接合するためプラグの表面をろう材によりメッキしていた。ろう材としては、錫(Sn)と鉛(Pb)の共晶半田(以下、「SnPb半田」と称する)がよく知られている。このSnPb半田は、Sn62wt%とPb38wt%の組成からなり、図3に示すように共晶点の溶融温度が183℃とされる。
近年、Pbの有害性が問題になっており、各国においてPbの使用を規制する動きがある。このため、Pbフリー或いはPbレスと称される代替半田の研究・開発が盛んに行われている。
一般に知られているPbフリー半田は、Snをベースにアンチモン(Sb)、銅(Cu)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ビスマス(Bi)、インジウム(In)等の金属を数%添加した組成であり、添加される金属によって融点が変化する。主な組成は、高融点系(Sn−Ag系)、中融点系(Sn−Zn系)及び低融点系(Sn−Bi系)がある。
【0003】
例えば特許文献1には、リフロー温度に耐えるPbフリーの高温半田として、SnCu合金、SnZn合金、SnAu合金、Zn、Biを材料とし液相線温度が200℃以上のろう材が開示されている。
また、特許文献2には、リフロー温度に耐えるPbフリーの高温半田の代替品として、二つの金属部材は積層めっき層を介在して当接し、第1および2金属の融点以下の温度で加熱し、第1および第2金属を固相状態で相互拡散して二つの金属部材を電気機械的に接合させるようにした鉛フリーろう付け構造が開示されている。
【特許文献1】特開2001−09587公報
【特許文献2】特開2006−82119公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献2にも開示されているように、2つの金属部材の金属メッキ層を合金化してろう付けした回路部品を、リフロー装置を利用してプリント基板にろう付けする場合、プリント基板にろう付けする際に使用するろう材と、回路部品を構成する素子をろう付けしたときのろう材の材料が同じである場合、回路部品をプリント基板にろう付けするときのリフロー温度により回路部品の素子を接合していたろう材が溶融して素子が脱落するおそれがあった。また、例えば回路部品が圧電振動子の場合は圧電振動素子を気密封止していた金属ケースとプラグとの接合していたろう材が溶融して気密性が損なわれるという欠点があった。
【0005】
これを防止するには、回路部品を構成する際に使用するろう材を高温半田とすることが考えられる。しかしながら、図3に示すように鉛を使用しない高温ハンダであるSnAu合金は融点温度が280℃であり、融点温度が301℃とされるPbを使用した高温ハンダであるSnPb合金より融点温度が低く、しかもその融点温度が高温半田として下限温度に近く十分な耐熱性を確保できないという欠点があった。
【0006】
本発明は上記のような点に鑑みたものであり、鉛を使用した高温ハンダと同等の融点温度を有し、且つ、鉛を使用しない鉛フリーとした電子デバイスのメッキ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は表面にメッキ層が形成された金属部材からなる電子デバイスのメッキ構造であって、メッキ層は、金属部材上に形成され錫(Sn)と銅(Cu)を材料とした第1のメッキ層と、第1のメッキ層上に形成され銀(Ag)を材料とした第2のメッキ層と、第2のメッキ層上に形成され金(Au)と錫(Sn)を材料とした第3のメッキ層と、から成ることを特徴とする。上記構成によれば、溶融後のメッキ層のメッキ組成は、Sn−Ag−Au−Cu系となり、耐熱性を有するSnPbメッキと同等の耐熱性を得ることができる。つまり、メッキ層にPbを使用することなく耐熱性を有するメッキ層を実現することができる。
【0008】
また本発明は、金属部材と第1のメッキ層との間に、銅を材料とした下地層を設けるようにした。上記構成によれば、金属部材とメッキ層との密着性を高めることが可能になる。
【0009】
また本発明は、電子デバイスが圧電振動子であり、金属部材が圧電振動素子を支持するプラグであることを特徴とする。上記構成によれば、例えば圧電振動子のプラグにPbを使用することなく耐熱性を有するメッキ層を形成できるので金属ケースとプラグとの内部に収納される圧電振動素子の気密性が損なわれることがない。
【0010】
また本発明は、圧電振動素子を収納可能な金属ケースと、金属ケースの開口端に接合され金属ケース内を気密封止するプラグと、圧電振動素子の励振電極と接続されプラグの底部から突出した2本のリード端子と、を備えた圧電振動子であって、プラグ及び/又はリード端子の表面に、錫と銅を材料とした第1のメッキ層と、第1のメッキ層上に形成され銀を材料とした第2のメッキ層と、第2のメッキ層上に形成され金と錫を材料とした第3のメッキ層とからなるメッキ層を形成したことを特徴とする。上記構成によれば、プラグにPbを使用することなく耐熱性を有するメッキ層を形成できるので金属ケースとプラグとの内部に収納される圧電振動素子の気密性が損なわれることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の電子デバイスとして円筒型圧電振動子の概略構成を示した分解斜視図である。また図2(a)は図1に示した円筒型圧電振動子を構成するプラグの構造を示した断面図、図2(b)は(a)に示す破線円Aを拡大して示した図である。
この図1に示す円筒型圧電振動子1は、音叉型振動子等の圧電振動素子6を収納可能な金属ケース9と、金属ケース9の開口端に接合され、金属ケース9内を気密封止するプラグ2と、圧電振動素子6の励振電極7と接続され、プラグ2を貫通し、その底部から突出した2本のリード端子4、4と、を備える。
【0012】
プラグ2は、中空状の金属リング3によって構成され、その中空内部はハーメチックガラス5により気密封止されている。ハーメチックガラス5が充填された金属リング3の内部には2本のリード端子4、4が貫通するよう配置されている。またこのとき、2本のリード端子4、4は、ハーメチックガラス5により絶縁されている。
金属リング3及びリード端子4、4は、例えば、鉄ニッケルコバルト合金(コバール)や、鉄ニッケル合金(42アロイ(Fe−42%Ni))などにより構成されている。
この場合、リード端子4、4の内側端部は、圧電振動素子6の両主面に形成された励振電極7から夫々引き出されているリードパターン8に接続されている。
金属ケース9は、例えば、一方が開口端とされる円筒形状の洋白と呼ばれる金属材料からなる。洋白は、Cu(45〜65wt%)−Ni(6〜35wt%)−Zn(15〜35wt%)合金にニッケル(Ni)メッキを施して構成される。このような金属ケース9は、真空状態において加熱しながらその開口端にプラグ2を圧入して接合することにより、圧電振動素子6が収納される金属ケース9の内部を気密状態に保つようにしている。
この場合、金属ケース9の開口端へのプラグ2の挿入を容易にするために、図2に示すように金属リング3の上端側、即ち金属ケース9の開口端に圧入される収納される側を、丸みを帯びたなだらかな曲面に形成しておくことが望ましい。
【0013】
そして、本実施形態では、上記のように構成される金属リング3及びリード端子4、4の表面にPbを使用することなく、しかもPbを使用したSnPbと同等程度の耐熱性を有するメッキ層10を金属リング3及びリード端子4、4の表面に施すようにした点に特徴がある。
即ち、リフロー半田処理による表面実装では、最高260℃のリフロー温度に曝されるので、上記したような円筒型圧電振動子1を構成する際に227℃で溶融するSnCu合金(所謂、共昌半田)を使用した場合は、円筒型圧電振動子1をリフロー半田処理によりプリント基板に表面実装する際に、プラグ2と金属ケース9とを接合していたろう材が溶融して、圧電振動素子6が収納されている金属ケース9内の気密性が損なわれてしまう。
このため、従来の円筒型圧電振動子においては、プラグ2の金属リング3及びリード端子4、4の表面に耐熱性を有する高温半田メッキであるSnPbメッキを施すようにしていたが、耐熱性を有するSnPbメッキは、メッキに含まれるPbに有害性の問題があった。そこで、本実施形態では金属リング3及びリード端子4、4の表面にPbを使用しないメッキ層10を形成するようにした。
【0014】
メッキ層10は、図2(b)に示すように金属リング3上に下地層11を介して形成される第1のメッキ層12と、第1のメッキ層12上に形成される第2のメッキ層13と、第2のメッキ層13上に形成される第3のメッキ層14からなる。
下地層11は、銅(Cu)を材料とした厚さが2μm〜5μmのCuメッキ層であり、金属リング3と第1のメッキ層14との密着性を確保するために形成されている。
【0015】
第1のメッキ層12は、錫(Sn)と銅(Cu)を材料とした3〜7wt%のSnCu合金メッキ層であり、図3に示すようにその融点は227℃と低いため最初に溶融する。
第2のメッキ層13は、銀(Ag)を材料とした厚さが0.3μm〜0.5μmのAgメッキ層である。この第2のメッキ層13は、第1のメッキ層12と第3のメッキ層14との密着性を向上させるために設けられている。この第2のメッキ層13は第1のメッキ層12上にフラッシュメッキにより形成される。
第3のメッキ層14は、金(Au)と錫(Sn)を材料としたAuSn合金メッキ層であり、最終的な耐熱性を確保するための層である。
【0016】
このように本実施形態の円筒型圧電振動子1においては、プラグ2の表面に上記したようなメッキ層10を形成することにより、メッキ層10の溶融後のメッキ組成は、Sn−Ag−Au−Cu系となり、第3メッキ層14のAuとSnの組成を調整することにより図3に示した耐熱性を有するSnPb合金メッキ(融点301℃)と同等の耐熱性を得ることができる。つまり、メッキ層10に鉛(Pb)を使用することなく、SnPb合金メッキと同等の耐熱性を有するメッキ層10を実現することができるようになる。
また本実施形態では金属部材である金属リング3と第1のメッキ層12との間に下地層11を設けたことで、金属リング3とメッキ層10との密着性を高めることが可能になる。
【0017】
なお、本実施形態ではプラグ2の表面に形成したメッキ層10を例に挙げて説明したが、リード端子4、4の表面にも同様のメッキ層10が形成されている。
また、本実施形態では電子デバイスの一例として円筒型圧電振動子を例に挙げて説明したが、表面にメッキ層が形成された金属部材からなる電子デバイスであれば、本発明を適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の電子デバイスの実施形態に係るシリンダータイプの圧電振動子の概略構成を示した分解斜視図である。
【図2】(a)は本実施形態の円筒型圧電振動子を構成するプラグの断面図、(b)は(a)に示す破線円Aを拡大して示した図である。
【図3】各種合金と融点の関係を示した図である。
【符号の説明】
【0019】
1…円筒型圧電振動子、2…プラグ、3…金属リング、4…リード端子、5…ハーメチックガラス、6…圧電振動素子、7…励振電極、8…リードパターン、9…金属ケース、10…メッキ層、11…下地層、12…第1のメッキ層、13…第2のメッキ層、14…第3のメッキ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面にメッキ層が形成された金属部材からなる電子デバイスのメッキ構造であって、
前記メッキ層は、前記金属部材上に形成され、錫と銅を材料とした第1のメッキ層と、前記第1のメッキ層上に形成され、銀を材料とした第2のメッキ層と、前記第2のメッキ層上に形成され、金と錫を材料とした第3のメッキ層と、から成ることを特徴とする電子デバイスのメッキ構造。
【請求項2】
前記金属部材と前記第1のメッキ層との間に、銅を材料とした下地層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の電子デバイスのメッキ構造。
【請求項3】
前記電子デバイスが圧電振動子であり、前記金属部材が金属ケースと共に圧電振動素子を気密封止するプラグであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電子デバイスのメッキ構造。
【請求項4】
圧電振動素子を収納可能な金属ケースと、前記金属ケースの開口端に接合され前記金属ケース内を気密封止するプラグと、前記圧電振動素子の励振電極と接続され、前記プラグを貫通しその底部から突出した2本のリード端子と、を備えた圧電振動子であって、
前記プラグ及び/又は前記リード端子の表面に、錫と銅を材料とした第1のメッキ層と、前記第1のメッキ層上に形成され、銀を材料とした第2のメッキ層と、前記第2のメッキ層上に形成され、金と錫を材料とした第3のメッキ層とからなるメッキ層を形成したことを特徴とする圧電振動子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−113286(P2008−113286A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295352(P2006−295352)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】