説明

電子ビーム描画方法、電子ビーム描画装置、モールドの製造方法および磁気ディスク媒体の製造方法

【課題】ハードディスクパターン等の微細パターンの描画が、簡易な制御により基板全面で所定形状に高精度かつ短時間に描画可能とする。
【解決手段】レジストが塗布された基板10を一方向に回転させつつ、電子ビームEBを描画オン・オフ制御により基板の回転に依存して描画するについて、半径方向にn分割したエレメントの第1区画を描画した後、電子ビームを基板回転方向および半径方向に偏向させて第2区画の描画開始位置へ移動させて描画するのを当該エレメントに対し1回転にm回(m≧2)行った後、次のエレメントの描画に移行し順次描画する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクリートトラックメディアやビットパターンメディアなどの高密度磁気記録媒体用のインプリントモールドや磁気転写用マスター担体などを作製する際に、所望の凹凸パターンに応じた微細パターンを描画するための電子ビーム描画方法および電子ビーム描画装置に関するものである。
【0002】
また、本発明は、上記電子ビーム描画方法を用いて描画を行う工程を経て作製される、凹凸パターン表面を有するインプリントモールドあるいは磁気転写用マスター担体などを含むモールドの製造方法、さらには該インプリントモールドを用いて凹凸パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法および磁気転写用マスター担体を用いて磁化パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
現状の磁気ディスク媒体では、一般にサーボパターンなどの情報パターンが形成されている。また、記録密度のさらなる高密度化の要請から、隣接するデータトラックを溝(グルーブ)からなるグルーブパターンで分離し、隣接トラック間の記録されたデータ信号の磁気的干渉を低減し、記録密度を高めるようにしたディスクリートトラックメディア(DTM)が注目されている。さらに高密度化を図るために提案されているビットパターンメディア(BPM)は、データトラックが単磁区を構成する磁性体(単磁区微粒子)が物理的に孤立して規則的なドットパターン状に配列されてなり、微粒子1個に1ビットを記録するメディアである。
【0004】
従来、上記サーボパターン等の微細パターンは、磁気ディスク媒体に凹凸パターンまたは磁化パターンなどによって形成され、高密度の磁気ディスク媒体を製造するための磁気転写用マスター担体の原盤などに、所定の微細パターンをパターニングするための電子ビーム描画方法が提案されている。この電子ビーム描画方法は、レジストが塗布された基板を回転させながら、パターン形状に対応した電子ビームの照射によってパターン描画を行うものである(例えば、特許文献1,特許文献2参照)。
【0005】
特許文献1のビーム照射方法は、例えばサーボパターンを構成するトラックの幅方向に延びる矩形または平行四辺形のエレメントを描画する際に、電子ビームを周方向に高速振動させつつ半径方向に偏向させて、このエレメントを塗りつぶすように走査して描画する方法である。
【0006】
また、特許文献2の電子ビーム描画方法は、トラック幅方向の長さが一定で、トラック方向の長さが異なる記録ビット列のエレメントを描画する際に、基板の回転に伴って電子ビームを半径方向に振幅を調整しつつ高速振動させて描画する方法である。
【0007】
さらに、オン・オフ描画方法として、レジストが塗布された基板を回転させながら、パターン形状に対応して電子ビームをオン・オフ照射し、基板または電子ビーム照射装置を1回転に1ビーム幅ずつ半径方向に移動させてパターン描画を行う方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−158287号公報
【特許文献2】特開2006−184924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、上記の特許文献1および特許文献2の電子ビーム描画方法は、基板の1回転で例えば1トラック分のエレメントを描画できることから、基板全体の高速描画が可能であるが、ビームを高速振動させつつ基板の半径方向または周方向に偏向させる制御が必要であり、振幅制御、三角波制御などのビームの照射および走査など電子ビーム照射装置を制御するための信号が非常に複雑となり、例えば、描画パターンの変更時にプログラム変更等に多大の時間を要するなどの問題がある。
【0010】
一方、上記オン・オフ描画方法は、基本的には基板の回転に対し描画パターンに応じてビーム照射をオン・オフする時間制御により描画可能であり、電子ビーム照射装置を制御するための信号は比較的単純であるが、基板の回転速度が律速となり、1回転で1ビーム幅相当分の描画しか行えず、描画面積が狭くて基板全体の描画時間が長大となる。そして、基板の回転速度を高めることにより高速化が図れるが、描画オン・オフ制御の制御精度の誤差による描画位置の誤差が大きくなり、微細化するパターン形状および描画位置の精度を確保することが困難となる問題を有している。
【0011】
このように、オン・オフ描画は描画装置の制御が簡素であり、例えば、描画パターン変更等に容易に対処できる利点を有する反面、描画パターンの微細化に伴い描画時間が長くなる点が問題となっている。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みて、ハードディスクパターン等の微細パターンの描画が、簡易な制御により基板の全面で所定通りのエレメント形状に高精度かつ短時間に実行できるようにした電子ビーム描画方法および電子ビーム描画を行うための電子ビーム描画装置を提供することを目的とするものである。
【0013】
また、本発明は、電子ビームにより精度よく描画された微細パターンを有する、インプリントモールドや磁気転写用マスター担体などのモールドの製造方法を提供すること、および、そのモールドを用いて凹凸パターンもしくは磁気パターンが転写されてなる磁気ディスク媒体の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の電子ビーム描画方法は、レジストが塗布され回転ステージに設置された基板上に、前記回転ステージを回転させつつ、電子ビーム描画装置により電子ビームを走査して、該電子ビームの照射径より大きいエレメントで構成される微細パターンを描画する電子ビーム描画方法において、
前記基板を一方向に回転させつつ、該基板の回転に対し、前記微細パターンの描画データに基づき、描画する前記エレメントの描画開始位置に相当する基板の所定回転位置で描画オン信号により電子ビームを固定照射し、基板の回転に依存して回転方向に描画し、描画オフ信号で描画を停止する描画オン・オフ制御により、半径方向にn分割した前記エレメントの第1の区画部分の描画を行うのに続いて、当該エレメントの第2の区画部分を描画するために、前記電子ビームを前記基板の回転方向と同方向への偏向により当該エレメントの前記描画開始位置へ戻すと同時に、前記電子ビームまたは基板を該基板の半径方向に移動させて前記描画オン・オフ制御による描画を当該エレメントに対しm回(m≧2)行った後、次のエレメントの描画に移行し、前記基板の1回転の間に前記n分割されたエレメントのm区画分を順次描画することを特徴とする。
【0015】
上記描画方法において、前記回転ステージの回転速度を、描画位置の半径に反比例して内周トラック描画で速く外周トラック描画で遅くなるように、線速度を一定とする回転制御を行い、前記電子ビームの描画制御信号は、前記回転ステージの回転に連係して生起する描画クロック信号に基づいて作成するものであり、該描画クロック信号は、前記回転ステージの1回転におけるクロック数を、描画位置の半径によらず各トラックで一定値とすることで行うのが好ましい。
【0016】
上記「エレメント」は、通常ハードディスクの1トラック分に相当する寸法を有し、「分割数n」は大きければ大きいほど高精度の描画が可能となるが、分割数nに比例して描画時間も長くなるため、n≦16程度が選ばれ、より好ましくはn≦8である。
【0017】
一方、1回転当たりの「繰り返し数m」は、2以上で大きければ大きいほど描画時間が短縮できるが、上限は回転ステージの回転速度とビーム偏向手段の偏向速度とから装置固有に決定される。
【0018】
本発明の電子ビーム描画装置は、上記の電子ビーム描画方法を実現するために、レジストが塗布された基板を回転させる回転ステージと、該回転ステージの回転数を描画位置の半径に応じて基板線速度を一定に維持する駆動制御部と、電子銃から出射された電子ビームの照射を遮断するブランキング手段による描画オン・オフ手段と、前記電子ビームを回転方向および半径方向に偏向走査させるビーム偏向手段と、描画データ信号に基づき前記描画オン・オフ手段に対するオン・オフ信号および前記ビーム偏向手段に対する偏向信号を出力するフォーマッタとを備えたことを特徴とする。
【0019】
本発明のモールドの製造方法は、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造することを特徴とするものである。ここで、モールドとは、表面に所望の凹凸パターン形状を有する担体であり、その凹凸パターンの形状を磁気ディスク媒体に転写するためのインプリントモールド、凹凸パターンの形状に応じた磁化パターンを磁気ディスク媒体に転写するための磁気転写用マスター担体などである。
【0020】
本発明の磁気ディスク媒体の製造方法は、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製されたインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の他の磁気ディスク媒体の製造方法は、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製された磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の電子ビーム描画方法によれば、レジストが塗布され回転ステージに設置された基板上に、回転ステージを回転させつつ、電子ビーム描画装置により電子ビームを走査して、該電子ビームの照射径より大きいエレメントで構成される微細パターンを描画するについて、基板を一方向に回転させつつ、該基板の回転に対し、微細パターンの描画データに基づき、描画するエレメントの描画開始位置に相当する基板の所定回転位置で描画オン信号により電子ビームを固定照射し、基板の回転に依存して回転方向に描画し、描画オフ信号で描画を停止する描画オン・オフ制御により、半径方向にn分割したエレメントの第1の区画部分の描画を行うのに続いて、当該エレメントの第2の区画部分を描画するために、電子ビームを基板の回転方向と同方向への偏向により当該エレメントの描画開始位置へ戻すと同時に、電子ビームまたは基板を該基板の半径方向に移動させて上記描画オン・オフ制御による描画を当該エレメントに対しm回(m≧2)行った後、次のエレメントの描画に移行し、基板の1回転の間にn分割されたエレメントのm区画分を順次描画するようにしたことにより、電子ビームを高速振幅させてエレメントを塗りつぶすように描画する描画方法に比べて三角波制御等が不要であり、その描画のための制御が容易で微細パターンの変更があっても、その変更に容易に対応することができ、さらに、単純に1回転で1ビーム幅分の描画を行うオン・オフ描画に比べて1回転中に複数の区画の描画を行うことで、回転時間におけるビームを照射していない無露光時間が低減して、m倍の高速描画が可能となり、電子ビーム照射装置の制御信号をそれほど複雑にすることなく、描画効率を高めて描画時間が大幅に短縮できる。
【0023】
しかも、露光時には基板の回転速度に依存したドーズ量管理であり、内外周の描画において均等なドーズ量を得ることが容易に行え、均等なドーズ量描画によって描画精度も高まるものであり、基板の回転速度を上げることなく、低速回転で高速描画が可能となり、高精度なエレメントの配置と高速描画との両立が可能となる。その結果、基板の全面に設計通りの微細パターンを高速に高精度に描画でき、描画効率の向上による描画時間の短縮化が図れる。
【0024】
その際、回転ステージの回転速度を、描画位置の半径に反比例して内周トラック描画で速く外周トラック描画で遅くなるように、線速度を一定とする回転制御を行い、電子ビームの描画制御信号は、回転ステージの回転に連係して生起する描画クロック信号に基づいて作成するものであり、該描画クロック信号は、回転ステージの1回転におけるクロック数を、描画位置の半径によらず各トラックで一定値とすると、内周描画と外周描画とでドーズ量の均等化が図れ、半径位置に応じた制御が簡易に高精度に行うことができる。つまり、微細パターンの内周トラックでの描画と外周トラックでの描画とを、均等な照射線量で描画することが可能であり、同一クロック数で同一信号のエレメントを描画することができ、半径位置に応じた制御が簡易に高精度に行えることにより、基板の全面に微細パターンを高速に高精度に描画でき、描画効率の向上による描画時間の短縮化が図れる。
【0025】
一方、本発明の電子ビーム描画装置は、電子ビーム描画方法を実現するために、レジストが塗布された基板を回転させる回転ステージと、該回転ステージの回転数を描画位置の半径に応じて基板線速度を一定に維持する駆動制御部と、電子銃から出射された電子ビームの照射を遮断するブランキング手段による描画オン・オフ手段と、電子ビームを回転方向および半径方向に偏向走査させるビーム偏向手段と、描画データ信号に基づき描画オン・オフ手段に対するオン・オフ信号およびビーム偏向手段に対する偏向信号を出力するフォーマッタとを備えたことにより、所望の微細パターンを高速に高精度に描画でき、描画効率の向上による描画時間の短縮化を図ることができる。
【0026】
さらに、本発明のモールドの製造方法によれば、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造することにより、表面に高精度の凹凸パターン形状を有する担体が簡易に得られるものである。
【0027】
また、本発明の磁気ディスク媒体の製造方法によれば、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造されたインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写して作製することにより、このインプリントモールドの場合には、インプリント技術を用いて形状パターニングを行う際に、このモールドを磁気ディスク媒体の形成過程でのマスクとなる樹脂層表面に圧接することにより、媒体表面に一括して形状転写し、特性の優れたディスクリートトラックメディアやビットパターンメディアなどの磁気ディスク媒体を簡易に作成することができる。
【0028】
また、本発明の他の磁気ディスク媒体の製造方法によれば、レジストが塗布された基板に、上記の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造された磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写して作製することにより、この磁気転写用マスター担体の場合には、磁性層による微細パターンを表面上に有するため、このマスター担体を磁気ディスク媒体と重ねて磁気転写技術を用いて磁界を印加することにより、磁気ディスク媒体に磁性層の微細パターンに対応した磁化パターンを転写形成し、特性の優れた磁気ディスク媒体を簡易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の電子ビーム描画方法により基板に描画する微細パターン例を示す平面図である。
【図2】ディスクリートトラックメディアの微細パターンの一部拡大図である。
【図3】描画半径位置と基板回転数との関係を示す特性図である。
【図4】本発明の電子ビーム描画方法を実施する一実施形態の電子ビーム描画装置の概略構成図である。
【図5】微細パターンを構成するエレメントの基本的描画方式の一例を示す拡大模式図(A)およびその描画方式における偏向信号等の各種制御信号(B)〜(F)を示す図である。
【図6】電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えたインプリントモールドを用いて磁気ディスク媒体に微細パターンを転写形成している過程を示す概略断面図である。
【図7】電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えた磁気転写用マスターを用いて磁気ディスク媒体に磁化パターンを転写形成している過程(A)、(B)を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて詳細に説明する。図1および図2に示す本発明の実施の形態としてのモールドは磁気ディスク媒体(ハードディスク)用のインプリントモールドの例である。
【0031】
図1および図2に示すように、微細凹凸形状による磁気ディスク媒体用の微細パターン9には、周方向に規則的にサーボエリア12とデータエリア15とが交互に配置されており、サーボエリア12にはサーボパターン14を有する。微細パターン9は、円盤状の基板10(円形基盤)に、外周部10aおよび内周部10bを除く円環状領域に形成される。サーボパターン14は、基板10の同心円状トラックに等間隔で、各セクターに中心部からほぼ放射方向に延びる細幅のサーボエリア12に形成されてなる。一般に、図1に示すように、サーボエリア12は半径方向に延びる円弧状に形成されている。
【0032】
図2は、ディスクリートトラックメディアの一例のハードディスクパターンの一部拡大図を示している。図示例のサーボパターン14は、同心円状のトラックT1〜T4に、例えば、プリアンブル、アドレス、バースト信号に対応する矩形状の微細なサーボエレメント13が配置される。1つのサーボエレメント13は、1トラック幅で電子ビームの照射径より大きいトラック方向長さを有し、バースト信号の一部のサーボエレメント13は隣接するトラックに跨るように半トラックずれて配置される。
【0033】
上記のようなサーボエリア12に形成されるサーボパターン14に加え、データエリア15における各データトラックの部分に、隣接する各トラックT1〜T4を溝状に分離するようトラック方向に延びるグルーブパターン16が回転方向(周方向)に延びて同心円状に形成される。
【0034】
なお、図示してないが、ビットパターンメディアのハードディスクパターンの一例としては、上記データエリア15における各トラックには、破線状のドットパターン(ビットパターン)が回転方向(周方向)に延びて同心円状に形成される。
【0035】
上記サーボエレメント13は、図5で後述するように、トラック幅方向長さ(通常はトラック幅W)が複数にn分割され、基板10の1回転で、n分割の複数のm区画が描画され、基板10の複数のn/m回転で1トラック分のサーボエレメント13が描画されるものであり、このサーボエレメント13の分割数nに応じて、グルーブパターン16が必要に応じて分割され、分割が必要ない場合には、基板10のいずれかの1回転で描画され、分割された場合にはその分割数に応じて基板10の複数の回転において描画される。図5の実施形態では、サーボエレメント13が4分割(n=4)され、基板10の1回転で2区画(m=2)が描画され、1トラック分のサーボエレメント13は2回転で描画され、グルーブパターン16は分割されることなく、いずれかの1回転において描画される例を示している。
【0036】
上記微細パターン9のサーボエリア12のサーボエレメント13およびデータエリア15のグルーブパターン16の描画は、表面にレジスト11が塗布された基板10を、後述の回転ステージ31(図4参照)に設置して回転させつつ、例えば、内周側のトラックより外周側トラックへ順に、またはその反対方向へ、電子ビームEBでサーボエレメント13およびグルーブパターン16を順に走査描画し、レジスト11を照射露光するものである。
【0037】
図3は、基板10の微細パターン描画における内周トラックと外周トラックの描画での基板回転数Nと半径rとの関係を示し、鎖線で示す基本的特性は、最内周トラック(半径r1)の回転数N1に対し、最外周トラック(半径r2)の回転数N2が半径に反比例して遅くなるように回転制御される。実際には、各トラックごとに回転数Nが変更調整されるのではなく、実線で示すように、電子ビームEBの半径方向の偏向可能範囲等に対応して複数トラック(例えば8トラック)の描画後に、回転ステージ31を半径方向に機械的に移動する際に、これと連係して該回転ステージ31の回転数Nを段階的に変更する制御を行うものである。そして、少なくとも基板10の周回中においては、その回転数N(回転速度)は変更することなく一定値で定速回転駆動される。
【0038】
このように基板10の微細パターン9の描画領域における、描画部位の半径方向位置の移動つまりトラック移動に対し、基板10の外周側部位でも内周側部位でも全描画域で同一の線速度となるように、前記回転ステージ31の回転数Nを外周トラック描画時には遅く、内周トラック描画時には速くなるように調整する。これにより、電子ビームEBの描画における均等なドーズ量を得る点、および描画位置精度を確保する点で有利となる。
【0039】
<電子ビーム描画装置>
後述の本発明の電子ビーム描画方法を実施するための電子ビーム描画装置の一実施形態について説明する。図4は電子ビーム描画装置の構成概略図である。
【0040】
電子ビーム描画装置100は、基板10に対して電子ビームを照射する電子ビーム照射部20と、基板10を回転および直線移動させる駆動部30と、駆動部30における機械的な駆動制御を行う駆動制御部40と、描画クロックの生成を行うとともに、電子ビーム照射部20および駆動部30の動作タイミング信号を出力するフォーマッタ50と、電子ビーム照射部20における出射電子ビームの電子光学的制御を行う電子光学系制御部60と、描画すべき微細パターン9に関する設計データをフォーマッタ50に送出するデータ送出装置5とを備えている。データ送出装置5と上記駆動制御部40および電子光学系制御部60との間ではデータの送受信が行われる。
【0041】
電子ビーム照射部20は、鏡筒27内に電子ビームEBを出射する電子銃21、電子ビームEBを半径方向と直交する方向X(以下、周方向)および半径方向Y(図5参照)へ偏向させる偏向手段22,23、電子ビームEBの照射をオン・オフ制御するためのブランキング手段24としてアパーチャ24aおよびブランキング24b(偏向器)を備え、このブランキング手段24により描画オン・オフ手段が構成されるもので、描画オン・オフ制御における描画オン信号(ブランキング・オフ信号)で露光のための電子ビームEBが照射され、描画オフ信号(ブランキング・オン信号)で露光は行われない。また、偏向手段22,23の上部に電子ビームEBの絞り調整によりビーム照射線量の変更設定を行うコンデンサレンズ25(電磁レンズ)、偏向手段22,23の下部に電子ビームEBのビーム径を変更設定する対物レンズ26(電磁レンズ)を備えている。
【0042】
これにより、電子銃21から出射された電子ビームEBは偏向手段22、23、コンデンサレンズ25および対物レンズ26等を経てビーム照射線量およびビーム径が調整されて、レジスト11が塗布されたモールド原盤10上に照射・遮蔽され、XY方向に偏向走査される。なお、電子ビームEBが照射される描画オンで、レジスト11の露光が行われている状態においては、偏向手段22,23によるビーム偏向は行われずに照射位置が固定され、基板10の回転に依存した速度(前述の一定線速度)でレジスト11に円弧線状の露光描画が行われるように構成されている。そして、電子ビームEBの照射が遮断される描画オフとなった期間において、偏向手段22,23によるビーム偏向が行われる。
【0043】
上記電子ビーム照射部20および後述の駆動部30は、内部が減圧される真空チャンバーに構成され、この真空チャンバー内に設置されたモールド基板10に対して電子ビームEBを照射してパターン描画を行うように構成されている。
【0044】
ブランキング手段24における上記アパーチャ24aは、中心部に電子ビームEBが通過する透孔を備え、ブランキング24bは描画オン・オフ信号の入力に伴って、描画オン信号(ブランキング・オフ信号)時には電子ビームEBを偏向させることなくアパーチャ24aの透孔を通過させてビーム照射させ、一方、描画オフ信号(ブランキング・オン信号)時には電子ビームEBを偏向させてアパーチャ24aの透孔を通過させることなくアパーチャ24aで遮断して、電子ビームEBの照射を行わないように作動する。
【0045】
駆動部30は、鏡筒27が上面に配置された筐体43内に基板10を支持する回転ステージ31および該ステージ31の中心軸と一致するように設けられたモータ軸を有するスピンドルモータ32を備えた回転ステージユニット33と、回転ステージユニット33を回転ステージ31の一半径方向に直線移動させるための直線移動手段34とを備えている。直線移動手段34は、回転ステージユニット33の一部に螺合された精密なネジきりが施されたロッド35と、このロッド35を正逆回転駆動させるパルスモータ36とを備えている。また、ステージユニット33には、回転ステージ31の回転角に応じたエンコーダ信号を出力するエンコーダ37が設置されている。エンコーダ37は、スピンドルモータ32のモータ軸に取り付けられる、多数の放射状のスリットが形成された回転板38と、そのスリットを光学的に読み取り、エンコーダ信号を出力する光学素子39とを備えている。
【0046】
駆動制御部40は、駆動部30のスピンドルモータ32のドライバ41およびパルスモータ36のドライバ42に駆動制御信号を送出し、これらの駆動を制御するものである。
【0047】
フォーマッタ50は、不変の基本クロックを発生する基準クロック発生部51と、描画クロック(図5参照)を生成する描画クロック生成部52と、描画クロックに基づいて、電子ビーム照射部20の偏向手段22,23のための偏向アンプ28およびブランキング24bのためのブランキングアンプ29、およびスピンドルモータ32のドライバ41に接続されているPLL回路へデータ信号を送出するデータ振分け部54と、エンコーダ37からの信号を受けて、動作タイミング(データ振分けタイミング)を制御するタイミング制御部55を備えている。
【0048】
描画クロック生成部52は、基板10の半径位置に応じて描画クロックの周波数を変更するための変更部56を備えており、1つのサーボエレメント13およびグルーブパターン16を描画する描画クロック数は内外周で同じに設定する。
【0049】
データ送出装置5は、ハードディスクパターンなどの描画すべき前述の微細パターン9の描画設計データ(描画パターンや描画タイミングを示すデータ)を記憶し、駆動制御部40、フォーマッタ50、電子光学系制御部60に描画設計データ信号を送出するものである。
【0050】
電子光学系制御部60は、電子ビーム照射部20の電磁レンズによるコンデンサレンズ25および対物レンズ26に制御信号を送出し、これらの電磁レンズの電子光学的特性を制御する。
【0051】
電子ビーム描画装置100においては、データ送出装置5からフォーマッタ50に描画設計データ信号が入力され、フォーマッタ50は、描画設計データを、ブランキング手段24のオフ・オン制御(描画オン・オフ制御)、偏向手段22,23による電子ビームEBのX−Y偏向制御、回転ステージ31の回転速度制御等の制御信号として、各アンプ28,29およびドライバ41,42に振り分けるものであり、それぞれの制御信号はエンコーダ37から入力されたエンコーダ信号と同期させて所定のタイミングで送出される。そしてフォーマッタ50からの信号に基づいて、ブランキング手段24、偏向手段22,23、スピンドルモータ32,36等が駆動され、基板10の全面に所望の微細パターン9を描画する。
【0052】
また、データ送出装置5から電子光学系制御部60に描画設計データ信号が入力され、描画する微細パターン9に応じてコンデンサレンズ25および対物レンズ26に対する制御信号(作動電流値)を設定して、電子ビームEBのビーム照射線量およびビーム径を初期設定し、パターン形態に適した描画精度と描画速度の両立を図り、同時にスピンドルモータ32による回転速度、偏向手段23、パルスモータ36による半径方向の描画送りを変更制御する。なお、上記ビーム照射線量およびビーム径は、少なくともその基板10の描画が完了するまでは初期設定値が保持され、描画途中で変更されることなくビーム照射が行われる。
【0053】
図5は本発明の電子ビーム描画方法によるサーボエレメント13およびグルーブパターン16のそれぞれの形状に対応した描画方式例を示す図であり、図示の場合サーボエレメント13a〜13dは、1トラックの幅Wが4分割(n=4)され、基板10の1回転で2区画(m=2)が描画され、1トラック分の第1および第2のサーボエレメント13a,13bは、電子ビームEBの照射基準位置が半径方向に所定量(半トラック幅W/2)だけ異なるR1周回とR2周回との2回転で描画され、グルーブパターン16は分割されることなく、R1周回の1回転において描画する例を示している。
【0054】
具体的に、図5に基づき順に説明する。図5(A)は電子ビームEBの半径方向Y(外周方向)および周方向X(回転方向Aとは逆向き)の電子ビームEBの描画動作を示し、図5(B)にR1周回およびR2周回の半径方向Yの偏向信号Def(Y1)およびDef(Y2)を、(C)にR1周回およびR2周回の周方向Xの偏向信号Def(X1)およびDef(X2)を、(D)に電子ビームEBの照射信号のR1周回およびR2周回のオン・オフ動作を、(E)に描画クロック信号を、(F)に不変の基本クロック信号をそれぞれ示している。なお、(A)の横軸は基板10の位相を、(B)〜(F)の横軸は時間を示している。(D)の照射信号のオン時は、ブランキング手段24のオフ動作時で電子ビームEBを照射して基板10上のレジスト11を露光している状態であり、照射信号のオフ時は、ブランキング手段24のオン動作時で電子ビームEBを遮断して基板10上のレジスト11を露光していない状態である。
【0055】
上記(F)の基本クロック信号は、状況に応じて変化することのない一定のクロック信号であり、前記フォーマッタ50内で生成される。上記(E)の描画クロック信号は、前記基本クロック信号に基づき、前述の図3に示したように、内周トラック描画時と外周トラック描画時とで回転ステージ31の回転数Nが変化しても、1回転(1周回)でのクロック数が同一となるように、回転数Nの変更に応じてクロック幅(クロック長さ)が調整される。つまり、クロック幅を半径rに応じて所定トラックごとに、内周トラックで狭く、外周側トラックで広くなるように、変えるものである。そして、周方向X(回転方向A)の寸法的および時間的幅を、描画クロック信号のクロック数で規定し、内外周で同じ描画クロック数でサーボエレメント13a〜13dおよびグルーブパターン16を描画する。これにより、内周側と外周側とでの、同一角度(位相)における描画クロック数を同じにして、相似形のパターンを簡易に描画できるようにしている。なお、上記と異なり、内外周で同じクロック幅とした場合には、途中のトラックでエレメントの幅がクロック幅の整数倍とならない形態となる可能性があるのに対し、本実施形態では常に整数倍を維持するのでパターン幅が微細に変化するサーボエレメントを簡易に描画できる。
【0056】
図5において、まず、基板回転数Nを描画半径位置に対応して図3による所定の回転数に設定した基板10の回転において、R1周回に対応して設定された半径方向の所定位置、つまり(B)のY方向偏向信号Def(Y1)が0に設定された基準偏向位置に電子ビームEBの半径位置が調整された状態で、周方向の照射位置がサーボエレメント13aの描画開始位置に到達したa点で(D)の照射信号のオンにより電子ビームEBをレジスト11に対し照射し、サーボエレメント13aの第1区画の描画を開始する(描画オン制御)。
【0057】
そして、(A)および(B)のY方向およびX方向の偏向信号Def(Y1)およびDef(X1)は一定値で変動することなく電子ビームEBを固定照射することで、基板10のA方向への回転に依存してレジスト11には略直線状の第1区画の露光が行われる。
【0058】
照射位置がサーボエレメント13aの描画幅に到達したb点となると、照射信号の一時的なオフにより電子ビームEBの照射を停止する(描画オフ制御)とともに、(B)の偏向信号Def(Y1)を半径方向(−Y)に1区画分(W/4)変動させて照射位置を偏向させ、さらに、(C)の偏向信号Def(X1)を回転方向Aと逆向きに周方向(−X)に、エレメント幅(1T)だけ変動させて照射位置を偏向させる。これにより、電子ビームEBの照射位置は、上記サーボエレメント13aの第2区画の描画開始点に回転を追いかけるように偏向し、b点後の照射信号のオンにより電子ビームEBを照射し、サーボエレメント13aの第2区画の描画を開始し、c点でその描画を終了する。
【0059】
この場合、1番目のサーボエレメント13aと2番目のサーボエレメント13bとの間隔(他のサーボエレメント間の間隔も同様)が、サーボエレメント13aの幅Tと同じに設定され、電子ビームEBの偏向に要する時間は非常に短時間(図5では実質0)であるとして説明している。
【0060】
c点においては、照射信号の一時的なオフにより電子ビームEBの照射を停止するとともに、(B)の偏向信号Def(Y1)を半径方向(+Y)に1区画分(W/4)変動させて照射位置を偏向させ、さらに、(C)の偏向信号Def(X1)を回転方向Aと同じ向きに周方向(+X)に、エレメント幅(1T)だけ変動させて照射位置を偏向させる。これにより、電子ビームEBの照射位置は、第2のサーボエレメント13bの第1区画の描画開始点に戻るように偏向し、c点後の照射信号のオンにより電子ビームEBを照射し、サーボエレメント13bの第1区画の描画を開始し、d点でその描画を終了する。
【0061】
d点においては、上記b点と同様に半径方向Yおよび周方向Xの偏向制御を行うことにより、電子ビームEBの照射位置は、上記サーボエレメント13bの第2区画の描画開始点に回転を追いかけるように偏向し、d点後の照射信号のオンにより電子ビームEBを照射し、サーボエレメント13bの第2区画の描画を開始し、e点でその描画を終了する。
【0062】
e点後に、半径方向Yの偏向を、次に描画するグルーブパターン16の半径位置に合わせるとともに、周方向Xの偏向をR1周回の基準位置に戻すように制御する。そして、基板10の回転に伴って、電子ビームEBの照射位置がグルーブパターン16の描画開始点に到達するi点となると、照射信号のオンによりグルーブパターン16の描画露光を開始し、データエリア15の長さに応じた描画終了点まで継続照射する。
【0063】
次に、上記R1周回の露光が終了し、次回転のR2周回に移行すると、(B)のY方向偏向信号Def(Y2)は、R2周回に対応して設定された半径方向の所定位置、つまり(B)のY方向偏向信号Def(Y2)が第3区画の半径位置を基準として設定された偏向位置に電子ビームEBの半径位置が調整された状態で、周方向の照射位置がサーボエレメント13aの描画開始位置に到達したa点で(D)の照射信号のオンにより電子ビームEBを照射し、サーボエレメント13aの第3区画の描画を開始する。
【0064】
以降、上記R1周回のb点〜c点と同様の特性で、(B)のY方向偏向信号Def(Y2)については第3区画の半径位置を基準とし、(C)のX方向偏向信号Def(X2)については同様にR2周回の偏向制御を行って、第1サーボエレメント13aの第3区画および第4区画の露光を行う。さらに、R2周回のa点〜c点と同様の特性で、R2周回のc点〜e点の偏向制御を行って、第2サーボエレメント13bの第3区画および第4区画の露光を行う。
【0065】
さらに、R2周回のa点〜e点と同様の特性で、R2周回のe点〜i点の偏向制御を行って、第3サーボエレメント13cおよび第4サーボエレメント13dの第3区画および第4区画の露光をそれぞれ順に行う。
【0066】
上記のように、1トラック分のサーボエレメント13を4分割し、1回転でその2区画を描画することで、合計2回転で1トラック分の微細パターンの描画を行うようにしている。回転速度が同じ条件においては、1回転で1区画ずつ描画する場合に比べて、エレメント間隔において露光を休止している期間についても、1回転中に露光を行うことで、半分の時間で同様の露光描画が行えるものである。
【0067】
1つのトラックを描画した後、次のトラックに移動し同様に描画して、基板10の全領域に所望の微細パターン9のサーボエリア12およびデータエリア15を描画する。この電子ビームEBのトラック移動は、回転ステージ31を半径方向Yに直線移動させて行う。その移動は1トラックの描画毎に行うか、電子ビームEBの半径方向Yの偏向可能範囲に応じて複数トラック(例えば8トラック)の描画毎に行うものである。
【0068】
なお、電子ビームEBによる描画幅(実質露光幅)は、照射時間に応じて照射ビーム径より広くなる特性があり、最終的なエレメント幅の描画を行うためには、その描画幅となる所定の照射線量で走査するために、サーボエレメント13およびグルーブパターン16の描画時の相対線速度と走査速度を設定することによって照射線量を規定するものであ
る。
【0069】
また、図5の描画制御においては、各エレメントの各区画の描画を終了した時点で、照射オフ(描画オフ)信号により、一時的に電子ビームの照射を遮断し、電子ビームの偏向に要する時間を実質0として説明しているが、実際にはその偏向動作に微小時間を要し、電子ビームの照射に間隙が生じるが、その間隙により描画されたエレメント形状が小さくなることはなく、レジストの滲み現象などにより問題ない描画が行える。さらに、レジスト11の感度によっては、電子ビームEBの照射をオフ(ブランキング・オン)にしなくても、電子ビームの偏向動作が高速である場合には、レジスト面を電子ビームが高速移動しても照射線量は少なく、その移動軌跡が露光されない場合があり、その際には照射オンを継続してもよい。
【0070】
一方、基板10の回転に対して、その露光描画時間(周方向の描画長さ)が回転移動時間(周方向の移動長さ)を越えて設定された場合、つまり、図5の例では、描画エレメント幅Tの合計がエレメント間隔Tの合計と同じに設定されているが、それより描画エレメント幅の合計が大きく設定されている場合には、周方向の偏向信号Def(X)は初期の基準位置から−X方向に遅れることになるが、回転中のいずれかの領域で描画を行わない時間が存在するものであり、その時間内に周方向偏向信号を基準位置に戻すように、必要に応じて基準位置より進めるように制御することにより、このようなパターン形状についても描画可能であり、ビームの偏向可能範囲等に応じて設定する。とくにデータエリア15に描画エレメントを有しない微細パターンの場合には、このデータエリアを通過する際に、偏向制御を修正することができる。
【0071】
本発明の実施例と、基板の1回転で1ビーム幅の露光を行う通常のオン・オフ描画との描画時間を比較したシミュレーション結果を示す。
描画パターン:320GB/2.5吋のハードディスクパターン
描画領域:半径r=14.50mm〜31.50mm
基板回転数:N=900.0rpm〜414.3rpm
エレメントの分割数:n=4
繰り返し数:m=2
全面描画時間:約48時間
比較例としては、上記繰り返し数:m=1とし、その他の条件は同一とした通常のオン・オフ描画であり、この比較例における全面描画時間は、約96時間であり、本発明実施例では半分の描画時間となり、短縮化が図れている。
【0072】
また、詳細は図示していないが、ビットパターンメディアの微細パターン、つまり、サーボエリアにおけるトラックの幅方向に延びるサーボパターンおよびデータエリアにおけるトラックの周方向に破線状に延びるドットパターンの描画は、サーボパターンは前記図5のサーボエレメント13a〜13dと同様に描画するものである。また、ドットパターンの描画は、図5におけるグルーブパターン16の描画において、連続照射している電子ビームEBを、照射信号(ブランキング信号)の短時間のオフ・オンの繰り返しにより電子ビームEBを断続的に照射し、点状に描画することによって実現可能である。
【0073】
次に、図6は、上記のような電子ビーム描画装置100により、前述の電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えた、インプリントモールド70を用いて微細凹凸パターンを磁気ディスク媒体に転写形成している過程を示す概略断面図である。
【0074】
上記インプリントモールド70は、透光性材料による基板71の表面に、図6では不図示の前述のレジスト11が塗布され、前記微細パターン9が描画される。その後、現像処理して、レジストによる凹凸パターンを基板71に形成する。このパターン状のレジストをマスクとして基板71をエッチングし、その後レジストを除去し、表面に形成された微細凹凸パターン72を備えるインプリントモールド70を得る。一例としては、上記微細凹凸パターン72は、ディスクリートトラックメディア用のサーボパターン14とグルーブパターン16とを備えたものである。
【0075】
このインプリントモールド70を用いて、インプリント法によって磁気ディスク媒体80を作製する。磁気ディスク媒体80は、基板81上に磁性層82を備え、その上にマスク層を形成するためのレジスト樹脂層83が被覆されている。そして、このレジスト樹脂層83に、前記インプリントモールド70の微細凹凸パターン72が押し当てられて、紫外線照射によって上記レジスト樹脂層83を硬化させ、微細パターン72の凹凸形状を転写形成してなる。その後、レジスト樹脂層83の凹凸形状に基づき磁性層82をエッチングし、磁性層82による微細凹凸パターンが形成されたディスクリートトラックメディア用の磁気ディスク媒体80を作製するものである。
【0076】
また、上記ではディスクリートトラックメディアの製造について説明したが、ビットパターンメディアも同様の工程で製造することができる。
【0077】
図7は、上記のような電子ビーム描画装置100により前述の電子ビーム描画方法によって描画された微細パターンを備えた磁気転写用マスター担体90(モールド)を作製し、このマスター担体90を用いて磁気ディスク媒体85を製造するために磁化パターンを磁気転写している過程を示す断面模式図である。
【0078】
磁気転写用マスター担体90の作製工程はインプリントモールド70の作製方法とほぼ同様である。回転ステージ31に設置する基板10は、例えばシリコン、ガラスあるいは石英からなる円板の表面にポジ型あるいはネガ型電子ビーム描画用レジスト11が塗設され、このレジスト11上に、電子ビームを走査させて所望の微細パターン9を描画する。その後、レジスト11を現像処理して、レジストによる微細凹凸パターンを有する基板10を得る。これが磁気転写用マスター担体90の原盤となる。なお、磁気転写により形成可能なハードディスクパターンとしては、前述のような磁気記録媒体に凹凸パターンを形成するディスクリートトラックメディア用またはビットパターンメディア用の微細パターンではなく、磁化パターンを形成するサーボパターンを有する微細パターンである。
【0079】
次に、この原盤の表面の凹凸パターン表面に薄い導電層を成膜し、その上に、電鋳を施し、金属の型をとった凹凸パターンを有する基板91を得る。その後、原盤から所定厚みとなった基板91を剥離する。基板91の表面の凹凸パターンは、原盤の凹凸形状が反転されたものである。
【0080】
基板91の裏面を研磨した後、その凹凸パターン上に磁性層92(軟磁性層)を被覆して磁気転写用マスター担体90を得る。基板91の凹凸パターンの凸部あるいは凹部形状は、原盤のレジストの凹凸パターンに依存した形状となる。
【0081】
上記のようにして作製された磁気転写用マスター担体90を用いた磁気転写方法を説明する。情報が転写される被転写媒体である磁気ディスク媒体85は、例えば、基板86の両面または片面に磁気記録層87が形成されたハードディスク、フレキシブルディスク等であり、ここでは、磁気記録層87の磁化容易方向が記録面に対して垂直な方向に形成されている垂直磁気記録媒体とする。
【0082】
図7(A)に示すように、予め磁気ディスク媒体85に初期直流磁界Hinをトラック面に垂直な一方向に印加して磁気記録層87の磁化を初期直流磁化させておく。その後、図7(B)に示すように、この磁気ディスク媒体85の記録層87側の面とマスター担体90の磁性層92の面とを密着させ、磁気ディスク媒体85のトラック面に垂直な方向に初期直流磁界Hinとは逆方向の転写用磁界Hduを印加して磁気転写を行う。その結果、転写用磁界がマスター担体90の磁性層92に吸い込まれ、凸部に対応する部分の磁気ディスク媒体85の磁性層87の磁化が反転し、その他の部分の磁化は反転しない結果、磁気ディスク媒体85の磁気記録層87にはマスター担体90の凹凸パターンに応じた情報(例えばサーボ信号)が磁気的に転写記録される。なお、磁気ディスク媒体85の上側記録層についても磁気転写を行う場合には、上側記録層に上側用のマスター担体を密着させて下側記録層と同時に磁気転写を行う。
【0083】
また、垂直方向に転写用磁界Hduを印加するのに代えて、面内方向(磁気記録層87と平行)に転写用磁界を印加し、凸部磁性層92の両側部(エッジ)において凹凸パターンに応じて発生する垂直方向磁化を記録するようにしてもよい。
【0084】
なお、面内磁気記録媒体への磁気転写の場合にも、上記垂直磁気記録媒体用とほぼ同様のマスター担体90が使用される。この面内記録の場合には、磁気ディスク媒体の磁化を、予めトラック方向に沿った一方向に初期直流磁化しておき、マスター担体と密着させてその初期直流磁化方向と略逆向きの転写用磁界を印加して磁気転写を行うものであり、この転写用磁界がマスター担体90の凸部磁性層に吸い込まれ、凸部に対応する部分の磁気ディスク媒体の磁性層の磁化は反転せず、その他の部分の磁化が反転する結果、凹凸パターンに対応した磁化パターンを磁気ディスク媒体に記録することができる。
【0085】
以上説明した、本発明の電子ビーム描画方法を用いた、インプリントモールド、磁気転写用マスター担体の上述の製造方法は一例であり、本発明の電子ビーム描画方法を用いて微細パターンの描画を行い、凹凸パターンを形成する工程を経るものであれば上述の作製方法に限るものではない。
【符号の説明】
【0086】
5 データ送出装置
9 微細パターン
10 基板
11 レジスト
12 サーボエリア
13 サーボエレメント
14 サーボパターン
15 データエリア
16 グルーブパターン
18 鏡筒
20 電子ビーム照射部
21 電子銃
22,23 偏向手段
24 ブランキング手段(描画オン・オフ手段)
24a アパーチャ
24b ブランキング
25 コンデンサレンズ
26 対物レンズ
28 偏向アンプ
29 ブランキングアンプ
30 駆動部
31 回転ステージ
32 スピンドルモータ
37 エンコーダ
40 駆動制御部
50 フォーマッタ
51 基準クロック発生部
52 描画クロック生成部
54 データ振分け部
55 タイミング制御部
56 変更部
60 電子光学系制御部
70 インプリントモールド
80,85 磁気ディスク媒体
90 マスター担体
100 電子ビーム描画装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジストが塗布され回転ステージに設置された基板上に、前記回転ステージを回転させつつ、電子ビーム描画装置により電子ビームを走査して、該電子ビームの照射径より大きいエレメントで構成される微細パターンを描画する電子ビーム描画方法において、
前記基板を一方向に回転させつつ、該基板の回転に対し、前記微細パターンの描画データに基づき、描画する前記エレメントの描画開始位置に相当する基板の所定回転位置で描画オン信号により電子ビームを固定照射し、基板の回転に依存して回転方向に描画し、描画オフ信号で描画を停止する描画オン・オフ制御により、半径方向にn分割した前記エレメントの第1の区画部分の描画を行うのに続いて、当該エレメントの第2の区画部分を描画するために、前記電子ビームを前記基板の回転方向と同方向への偏向により当該エレメントの前記描画開始位置へ戻すと同時に、前記電子ビームまたは基板を該基板の半径方向に移動させて前記描画オン・オフ制御による描画を当該エレメントに対しm回(m≧2)行った後、次のエレメントの描画に移行し、前記基板の1回転の間に前記n分割されたエレメントのm区画分を順次描画することを特徴とする電子ビーム描画方法。
【請求項2】
前記回転ステージの回転速度を、描画位置の半径に反比例して内周トラック描画で速く外周トラック描画で遅くなるように、線速度を一定とする回転制御を行い、
前記電子ビームの描画制御信号は、前記回転ステージの回転に連係して生起する描画クロック信号に基づいて作成するものであり、該描画クロック信号は、前記回転ステージの1回転におけるクロック数を、描画位置の半径によらず各トラックで一定値とすることで行うことを特徴とする請求項1に記載の電子ビーム描画方法。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2記載の電子ビーム描画方法を実現するために、
レジストが塗布された基板を回転させる回転ステージと、該回転ステージの回転数を描画位置の半径に応じて基板線速度を一定に維持する駆動制御部と、電子銃から出射された電子ビームの照射を遮断するブランキング手段による描画オン・オフ手段と、前記電子ビームを回転方向および半径方向に偏向走査させるビーム偏向手段と、描画データ信号に基づき前記描画オン・オフ手段に対するオン・オフ信号および前記ビーム偏向手段に対する偏向信号を出力するフォーマッタとを備えたことを特徴とする電子ビーム描画装置。
【請求項4】
レジストが塗布された基板に、請求項1または請求項2記載の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て製造することを特徴とするモールドの製造方法。
【請求項5】
レジストが塗布された基板に、請求項1または請求項2記載の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製されたインプリントモールドを用い、該モールドの表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた凹凸パターンを転写することを特徴とする磁気ディスク媒体の製造方法。
【請求項6】
レジストが塗布された基板に、請求項1または請求項2記載の電子ビーム描画方法により所望の微細パターンを描画し、該所望の微細パターンに応じた凹凸パターンを形成する工程を経て作製された磁気転写用マスター担体を用い、該マスター担体の表面に設けられた前記凹凸パターンに応じた磁化パターンを磁気転写することを特徴とする磁気ディスク媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−192354(P2011−192354A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−58767(P2010−58767)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】