説明

電子写真感光体の製造方法および堆積膜形成方法

【課題】 膜質の均一性に優れた堆積膜を有する電子写真感光体を製造する方法を提供する。
【解決手段】 真空気密可能な反応空間を有する反応容器内に、導電性の基体ホルダーに保持された導電性の円筒状基体および導電性の円筒状補助基体を設置し、該反応容器内に堆積膜形成用の原料ガスと高周波電力を導入してプラズマを生成することにより、該円筒状基体の表面に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法において、該円筒状基体の端部と該円筒状補助基体の端部とが導電性材料を介して相接している状態で、該堆積膜の形成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒状基体の表面に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法に関する。また、本発明は、基体の表面に堆積膜を形成する堆積膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アモルファス材料などの非単結晶材料で構成された堆積膜が各種提案されている。例えば、水素原子またはハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子など)で補償されたアモルファスシリコン(以下、「a−Si」とも略記する。)の膜が、電子写真感光体用の堆積膜として用いられている。
【0003】
このような堆積膜を形成する際には、堆積膜の膜質の均一性が求められることが多い。特に、電子写真感光体は、堆積膜の均一性が画像特性に大きく影響を与えるため、比較的大面積の領域に均一な堆積膜を形成する技術が必要である。
【0004】
例えば、プラズマCVD法により円筒状基体の表面に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法においては、円筒状基体の端部と中央部とでは形成される堆積膜の膜質が不均一になりやすい。このため、形成される画像には、濃度ムラなどの画質低下が引き起こされる場合があった。
【0005】
こうした課題を解決する技術として、特許文献1には、基体(円筒状基体)に相接する補助基体(円筒状補助基体)を設置する堆積膜形成方法が開示されている。そして、特許文献1には、補助基体により、基体の端部で起きていた放電強度の不均一な部分を基体に影響が及ばない所まで遠ざけることで、安定した放電で基体の表面に堆積膜を形成することができ、その結果、基体の全体にわたって均一な膜質を得ることが可能となったと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭61−53432公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、近年の電子写真装置の高機能化(例えば、カラー化)に伴い、堆積膜の膜特性の均一化が従来以上に求められてきている。例えば、近年の高画質を求めたカラー電子写真装置では、階調性が重視されているため、従来では実用上の問題がなかった堆積膜の不均一性も、形成される画像に視覚可能なムラを生じさせる場合がある。そのため、特許文献1に開示されているような従来の技術では、堆積膜の膜質の十分な均一性を確保するのが難しくなってきている。
【0008】
本発明の目的は、膜質の均一性に優れた堆積膜を有する電子写真感光体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、真空気密可能な反応空間を有する反応容器内に、導電性の基体ホルダーに保持された導電性の円筒状基体および導電性の円筒状補助基体を設置し、該反応容器内に堆積膜形成用の原料ガスと高周波電力を導入してプラズマを生成することにより、該円筒状基体の表面に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法において、該円筒状基体の端部と該円筒状補助基体の端部とが導電性材料を介して相接している状態で、該堆積膜の形成を行うことを特徴とする電子写真感光体の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、真空気密可能な反応空間を有する反応容器内に、導電性の基体および導電性の補助基体を設置し、該反応容器内に堆積膜形成用の原料ガスと高周波電力を導入してプラズマを生成することにより、該基体の表面に堆積膜を形成する堆積膜形成方法において、
該基体の少なくとも一部と該補助基体の少なくとも一部とが導電性材料を介して相接している状態で、該堆積膜の形成を行うことを特徴とする堆積膜形成方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、膜質の均一性に優れた堆積膜を有する電子写真感光体を製造することができる。また、本発明によれば、膜質の均一性に優れた堆積膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における円筒状基体の設置方法の例を示す図である。
【図2】本発明における円筒状基体の設置方法の例を示す図である。
【図3】本発明における円筒状基体の設置方法の例を示す図である。
【図4】円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部とが相接している部分の例を示す図である。
【図5】導電性材料の塗布状態の例を示す図である。
【図6】導電性材料の塗布方法の例を示す図である。
【図7】電子写真感光体の層構成の例を示す図である。
【図8】従来の円筒状基体の設置方法の例を示す図である。
【図9】電子写真感光体の製造装置の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
上述の画像の濃度ムラの原因は、電子写真感光体の電位特性のムラであり、特に、電子写真感光体の端部の電位が非端部の電位と異なることが主な要因である。そして、電子写真感光体の電位特性のムラは、電子写真感光体の堆積膜の膜質の不均一性に起因する。
【0014】
本発明者らは、堆積膜の膜質の均一性を向上させるために鋭意検討を行った。その結果、高周波電力を用いたプラズマCVD法により堆積膜を形成する場合、円筒状基体と円筒状補助基体との間における高周波電力に対するアース面が不連続となったときに、得られる電子写真感光体の電位特性(帯電特性)のムラが顕著になることを見出した。
【0015】
特許文献1に開示された技術では、円筒状基体と円筒状補助基体との間における高周波電力に対するアース面が不連続となり、円筒状基体の上下端部での生成されるプラズマが不均一となりやすく、その結果、堆積膜の膜質の均一性が十分に得られにくい。
【0016】
図8は、従来の円筒状基体の設置方法の例を示す図である。
【0017】
円筒状基体801は、基体ホルダー804に保持させて、電子写真感光体の製造装置(例えば、プラズマCVD装置)の真空気密可能な反応空間を有する反応容器(不図示)内に設置する。図8においては、円筒状基体801の上端部側に円筒状補助基体802が設置され、円筒状基体801の下端部側に円筒状補助基体803が設置されている。
【0018】
図8においては、反応容器内に基体加熱用ヒーター806が設置されており、円筒状基体801を保持した基体ホルダー804を反応容器内に設置することにより、基体ホルダー804の中には加熱用ヒーター806が配置されることになる。
【0019】
図8の例では、円筒状基体801の上端部には円筒状補助基体802が置かれているだけであり、円筒状補助基体802の自重のみによって、円筒状基体801と円筒状補助基体802は接触している。また、円筒状基体801の下端部には円筒状補助基体803が置かれているが、円筒状補助基体802と円筒状基体801の自重のみにより、円筒状補助基体803と円筒状基体801は接触している。
【0020】
図4(a)は、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部とが相接している部分(以下、「相接部分」ともいう。)の例を示す図である。図4中、401は円筒状基体であり、402は円筒状補助基体であり、405は導電性材料である。
【0021】
円筒状基体および円筒状補助基体の端部の端面は、通常、旋盤などによって仕上げられており、目視レベルでは平滑な面である。しかしながら、微視的にみると、図4(a)のように、ある程度の表面粗さを持っている状態である。
【0022】
このような表面粗さを持っている状態では、直流電力に対しては十分な導通が確保されやすいものの、高周波電力に対しては表皮効果によって接触状態の影響を受けやすいために導通が十分に確保されにくい。そのため、円筒状基体から円筒状補助基体にかけてのプラズマから見た電位の均一性は、十分に確保しにくい。その結果、図8の例のような構成を採った場合、円筒状基体801の上端部と下端部でのプラズマが不均一となり、形成される堆積膜の膜質の均一性が損なわれやすい。
【0023】
これに対して、本発明のように、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分に導電性材料を介在させ、円筒状基体と円筒状補助基体との間での微視的な隙間を埋めることで、高周波電力に対するアース面の不連続さを抑えることができる。その結果、円筒状基体の端部においても均一な堆積膜を得ることができ、円筒状基体の全領域における堆積膜の均一性を向上させることが可能となる。
【0024】
(円筒状基体および円筒状補助基体の設置方法)
図1は、本発明における円筒状基体の設置方法の例を示す図である。
【0025】
本発明においては、円筒状基体101を基体ホルダー104に保持させた状態で、円筒状基体101の表面に堆積膜を形成する。そして、円筒状基体101を基体ホルダー104に保持させる際には、例えば、図1に示すように、円筒状基体101の上端部側および下端部側に円筒状補助基体102および103も基体ホルダー104に保持させる。そして、この際、図1(a)に示すように、円筒状基体101の端部と円筒状補助基体102および103の端部との相接部分に導電性材料105を介在させる。このように導電性材料105を介在させることで、図1(b)に示すように、円筒状基体と円筒状補助基体との間の微視的な隙間が埋められ、円筒状基体と円筒状補助基体との間における高周波電力に対するアース面の不連続さを抑えることができる。
【0026】
また、図1(c)に示すように、基体ホルダー104が円筒状基体101の下端部側の円筒状補助基体を兼ねている場合、円筒状基体101の端部と基体ホルダー104との相接部分にも導電性材料105を介在させることが好ましい。また、このような円筒状補助基体を兼ねている基体ホルダーは、基体ホルダーと、基体ホルダーに保持された円筒状補助基体とが一体化されているものということもできる。
【0027】
図4は、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分の例を示す図である。
【0028】
図4(a)は、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分に導電性材料を介在させていない状態である。図4(a)に示すように、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分は、巨視的に見ると、密着しているように見えるが、微視的に見ると、非接触部分(隙間)が存在し、高周波電力に対するアース面が不連続になっていると推測される。特に、高周波の進行方向に対して垂直方向に非接触部分が連続している場合、電子写真感光体の電位特性のムラに対する影響が大きい。
【0029】
一方、図4(b)では、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分に導電性材料が介在しているので、微視的に見たときの非接触部分(隙間)に導電性材料が入り込み、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分における非接触部分が低減する。その結果、円筒状基体と円筒状補助基体との間における高周波電力に対するアース面の不連続さを抑える効果が得られる。
【0030】
(導電性材料)
本発明に用いられる導電性材料としては、例えば、金属粉や、カーボン粉や、バインダーに導電性粉(金属粉、カーボン粉)を含有させてなるペースト状のものが挙げられる。これらの中でも、取り扱いのしやすさの観点から、バインダーに導電性粉を含有させてなるペースト状のものが好ましい。金属粉としては、例えば、金粉、銀粉、銅粉、ニッケル粉、アルミ粉などが挙げられる。また、円筒状基体および円筒状補助基体がアルミニウムを母材とする部材である場合、上記導電性粉の中でも、カーボン粉が好ましい。これは、アルミニウム(Al)とカーボン(C)の活性化エネルギーの関係で、両者が合金を作りやすい組み合わせであることに関係しているのではないかと本発明者らは推測している。
【0031】
また、導電性粉の形状としては、球状(粒状)、フレーク状などが挙げられる。
【0032】
ペースト状の導電性材料の粘度は、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分への介在させやすさ(後述の塗布のしやすさ)の観点から、5Pa・s以上400Pa・s以下であることが好ましい。
【0033】
ペースト状の導電性材料は、体積抵抗率が低いほど効果的であるが、1Ω・cm以下(四探針法による測定値)であれば、特に効果的である。ペースト状の導電性材料の体積抵抗率は、導電性粉とバインダーの量や種類によって調整することが可能である。
【0034】
本発明において、ペースト状の導電性材料としては、市販の導電性ペースト(導電性接着剤)を用いることができる。例えば、藤倉化成(株)の銀ペースト(商品名:ドータイト(D−550))や、十条ケミカル(株)のカーボンペースト(商品名:JELCON(CH−10))や、東洋アルミ(株)のアルミニウムペースト(商品名:アルペースト)や、大研化学(株)の銅ペースト(商品名:TCU−101G)などを用いることができる。
【0035】
(導電性材料を介在させる方法)
本発明においては、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分の全周に導電性材料が途切れることのない状態で介在することが好ましい。
【0036】
円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分に導電性材料を介在させる方法としては、円筒状基体の端部の端面および/または円筒状補助基体の端部の端面に導電性材料を塗布する方法が挙げられる。図5は、導電性材料の塗布状態の例を示す図である。図5(a)の例では、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分の全周に導電性材料が途切れることのない状態で介在しており、図5(b)の例では、導電性材料が一部途切れている状態で介在している。505は導電性材料である。
【0037】
導電性材料を塗布する方法としては、例えば、円筒状基体の端部の端面や円筒状補助基体の端部の端部の端面に刷毛やブラシなどで導電性材料を塗る方法や、円筒状基体の端部の端面や円筒状補助基体の端部の端部の端面を導電性材料に接触させる方法が挙げられるが、作業効率の観点から、後者による塗布がより好ましい。
【0038】
図6は、導電性材料の塗布方法の例を示す図である。図6に示す方法は、円筒状基体の端部の端面や円筒状補助基体の端部の端部の端面を導電性材料に接触させて導電性材料の塗布を行う方法である。図6中、601は円筒状基体または円筒状補助基体であり、605は導電性材料である。塗布は、図6の(a)、(b)、(c)の順で行われ、(b)の工程により、円筒状基体または円筒状補助基体の端部の端面が導電性材料605に接触することで導電性材料が塗布される。
【0039】
さらに、図2および図3に示すように、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分の形状を工夫することは有効である。
【0040】
図2の例では、円筒状基体201の端部と円筒状補助基体202および203の端部との相接部分が段差形状になっている。このような段差形状とし、図2(a)に示すように、導電性材料205を内側(円筒状基体および円筒状補助基体の内面側)の段差面のみに塗布することで、図2(b)に示すように、設置後の状態においても、導電性材料205が円筒状基体201の表面(堆積膜形成面)にはみ出ることを抑えることができる。なお、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部の段差面の内外は逆であってもよい。また、この段差形状は、電子写真感光体にフランジを嵌め込むためのインロー部分として利用することもできる。204は基体ホルダーである。
【0041】
図3の例では、円筒状基体301の端部の端面を凹形状とし、円筒状補助基体302および303の端部形状を凸形状として、円筒状基体の端部の端面と円筒状補助基体の端部の端面とが嵌め合わさる構造となっている。このような凹凸形状とし、図3(a)に示すように、導電性材料305を凸形状とした部分のみに塗布することで、図3(b)に示すように、設置後の状態においても、導電性材料305が円筒状基体301の表面(堆積膜形成面)や裏面(内周面)にはみ出ることを抑えることができる。なお、円筒状基体の端部の端面と円筒状補助基体の端部の端面の凹凸は逆であってもよく、一方が凹形状で他方が凸形状であればよい。304は基体ホルダーである。
【0042】
(堆積膜形成工程)
図9は、電子写真感光体の製造装置の例を示す図である。図9に示す装置は、13.56MHzの高周波電源を用いたRFプラズマCVD法による堆積膜形成装置である。
【0043】
この堆積膜形成装置は、真空気密可能な反応空間を有する反応容器901、および、反応容器901内を減圧するための排気装置908を有している。反応容器901内には、基体加熱用ヒーター903、アースに接続されている基体受け台914、および、原料ガス導入管905が設置されている。また、反応容器901の側壁を兼ねる高周波印加電極906は導電性材料からなり、絶縁碍子913によって絶縁されている。高周波印加電極906にはマッチングボックス911を介して13.56MHzの高周波電源912が接続されている。
【0044】
また、原料ガス供給装置のボンベ(不図示)が、原料ガス導入バルブ909を介して反応容器901内の原料ガス導入管905に接続されている。
【0045】
基体ホルダー904に保持させた円筒状基体902および円筒状補助基体907を、反応容器901内の基体加熱ヒーター903を包含するように基体受け台914に設置する。
【0046】
次に、原料ガス供給装置内の排気を兼ねて、原料ガス導入バルブ909を開き、メインバルブ915を開いて反応容器901内および原料ガス導入管905内を排気する。真空計910の読みが0.67Pa以下になった時点で加熱用の不活性ガス(例えばアルゴン)を原料ガス導入管905より反応容器901内に導入する。次いで、反応容器901内が所望の圧力になるように加熱用ガスの流量、および、メインバルブ915の開口量または排気装置908の排気速度を調整する。その後、温度コントローラー(不図示)を作動させて円筒状基体902を基体加熱ヒーター903により加熱し、円筒状基体902の温度を例えば150℃〜450℃の所定の温度に制御する。円筒状基体902が所定の温度に加熱されたところで、不活性ガスを徐々に止めると同時に、堆積膜形成用のガス、例えば、SiH、Si、CH、Cなどの材料ガスや、H、Heなどの希釈ガスや、B、PHなどのドーピングガスを、ミキシングパネル(不図示)により混合した後に反応容器901内に徐々に導入する。次に、マスフローコントローラー(不図示)によって、各原料ガス(堆積膜形成用の原料ガス)が所望の流量になるように調整する。その際、反応容器901内が0.1Paから数100Paの圧力に維持するよう真空計910を見ながらメインバルブ915の開口量または排気装置908の排気速度を調整する。
【0047】
以上の手順によって堆積膜形成の準備を完了した後、円筒状基体902の表面に堆積膜の形成を行う。内圧が安定したのを確認した後、高周波電源912を所定の電力に設定して高周波電力を高周波印加電極906に供給し、高周波グロー放電を生起させる。このときマッチングボックス911を調整し、反射波が最小となるように調整し、高周波の入射電力から反射電力を差し引いた値を所定の値に調整する。この放電エネルギーによって反応容器901内に導入させた各堆積膜形成用のガスが分解され、円筒状基体902の表面に堆積膜が形成される。なお、堆積膜の形成を行っている間は、円筒状基体902を駆動装置(不図示)によって所定の速度で回転させてもよい。
【0048】
以上で堆積膜の形成を終えるが、複数の堆積膜(例えば、下部阻止層、光導電層、中間層など)を形成する場合、再び上記の手順を繰り返してそれぞれの層を形成すればよい。
【0049】
すべての堆積膜の形成が終わった後、メインバルブ915を閉じ、反応容器901内に不活性ガスを導入し、大気圧に戻した後、円筒状基体902を取り出す。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0051】
〔実施例1〕
図9に示す堆積膜形成装置を用いて、表1に示す条件で、円筒状基体の表面に図7に示す層構成の各層(各堆積膜)の形成を順次行い、電子写真感光体を製造した。図7中、701は円筒状基体、702は下部阻止層、703は光導電層、704は上部阻止層、705は表面保護層である。
【0052】
本実施例では、図1(a)に示すように、円筒状基体の上端部側および下端部側に円筒状補助基体を設置して堆積膜の形成を行った。円筒状基体および2つの円筒状補助基体は、図1(a)に示すように、基体ホルダーに保持させた。
【0053】
円筒状基体としては、アルミニウム製の外径84mm、長さ381mm、肉厚3mmのものを用いた。円筒状補助基体としては、2つとも、アルミニウム合金(Al−Mg系合金5052)製の外径84mm、肉厚3mmのものを用いた。基体ホルダーとしては、アルミニウム合金(Al−Mg系合金5052)製のものを用いた。
【0054】
本実施例では、基体ホルダーに円筒状基体を保持させる前に、下側の円筒状補助基体の上端部の端面と円筒状基体の上端部の端面に、作業者が刷毛を用いて導電性材料を塗布した。また、図5(a)に示すように、円筒状基体の端部と2つの円筒状補助基体の端部との相接部分の全周に導電性材料が途切れることのない状態で介在するようにした。導電性材料としては、実施例1−1では藤倉化成(株)製の銀ペースト(商品名:ドータイトD−550)を用い、実施例1−2では十条ケミカル(株)製のカーボンペースト(商品名:JELCON(CH−10))を用い、実施例1−3では東洋アルミ(株)製のアルミニウムペースト(商品名:アルペースト)を用い、実施例1−4では大研化学(株)の銅ペースト(商品名:TCU−101G)を用いた。ただし、本実施例で用いるにあたり、いずれのペーストも、溶剤の量により粘度を30Pa・sに調整した。
【0055】
このように基体ホルダーに保持させた円筒状基体および円筒状補助基体を図9に示す堆積膜形成装置の反応容器内に設置し、上述した手順にしたがって、RFプラズマCVD法により、表1に示す条件で、それぞれ10本の電子写真感光体を製造した。
【0056】
【表1】

【0057】
製造した各電子写真感光体を、キヤノン(株)製の複写機(商品名:iRC6800)の主帯電器をマイナス帯電方式に改造した改造機に設置し、電子写真感光体(円筒状基体)の端部での帯電ムラ(端部帯電ムラ)、周方向での帯電ムラ(周方向帯電ムラ)、画像の濃度ムラ(画像濃度ムラ)の電子写真特性について評価を行った。
【0058】
各項目は、以下の方法で実施し、製造した電子写真感光体のそれぞれ10本すべてについて評価を行った。
【0059】
各例の判定は、10本の電子写真感光体の平均値を用いた。
【0060】
(端部帯電ムラ)
主帯電器の電流値を−1000μAの条件にして電子写真感光体を帯電した。このとき、表面電位計により電子写真感光体の暗部表面電位(帯電電位)を測定した。暗部表面電位は周方向の平均値とした。電子写真感光体の端部から10cmの領域について2cmおきに暗部表面電位を測定し、得られた各位置の値の最大値と最小値の電位差を求めた。電子写真感光体の両端部について上記電位差を求め、得られた2つの値の大きいほうを暗部表面電位の端部帯電ムラとした。
【0061】
そして、後述の比較例1の電子写真感光体の端部帯電ムラを100%とした相対評価を行い、以下のように分類した。Bランク以上で本発明の効果が得られていると考えられる。
A+ 70%未満
A 70%以上80%未満
B 80%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
【0062】
(周方向帯電ムラ)
端部帯電ムラと同様に表面電位計により電子写真感光体の暗部表面電位を測定した。電子写真感光体の端部から5cmの位置での暗部表面電位を測定し、周方向の電位の最大値と最小値の電位差を周方向帯電ムラとした。
【0063】
そして、後述の比較例1の電子写真感光体の周方向帯電ムラを100%とした相対評価を行い、以下のように分類した。Bランク以上で本発明の効果が得られていると考える。
A+ 70%未満
A 70%以上80%未満
B 80%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
【0064】
(画像濃度ムラ)
中間調チャートを上記複写機の改造機の原稿台に置き、画像濃度が0.5となるように調整してA3用紙にシアン色でコピーし、得られたA3コピー画像の縦方向および横方向それぞれ3cmおきに反射濃度計(マクベス社製RD914)で画像濃度を測定した。A3コピー画像の画像濃度の最大値と最小値の差を画像濃度ムラとした。
【0065】
そして、後述の比較例1の電子写真感光体の画像濃度ムラを100%とした相対評価を行い、以下のように分類した。Bランク以上で本発明の効果が得られていると考える。
A+ 70%未満
A 70%以上80%未満
B 80%以上90%未満
C 90%以上110%未満
D 110%以上
【0066】
〔比較例1〕
実施例1−1と同様の円筒状基体および円筒状補助基体を用い、実施例1−1と同様にして電子写真感光体の製造を行った。
【0067】
ただし、本比較例では、下側の円筒状補助基体の上端部の端面と円筒状基体の上端部の端面への導電性材料の塗布は行わなかった。
【0068】
〔実施例2〕
実施例1−2と同様の円筒状基体および円筒状補助基体を用い、実施例1−2と同様にして電子写真感光体の製造を行った。
【0069】
ただし、本実施例では、図5(a)ではなく図5(b)に示すように、円筒状基体の端部と2つの円筒状補助基体の端部との相接部分において導電性材料が一部途切れている状態で介在するようにした。
【0070】
実施例1−1〜1−4、比較例1、および、実施例2の結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2に示すように、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分に、いずれの導電性材料を介在させた場合においても、すべての項目において、導電性材料を介在させない比較例1に比べて良好な結果となった。特に、カーボンペーストを用いた場合は、さらに良好な結果が得られ、アルミニウムを母材としている円筒状基体および円筒状補助基体とカーボンペーストの相性が良く、より効果的であることが確認された。また、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分の全周に導電性材料が途切れることのない状態にした実施例1−1〜1−4は、実施例2に比べて良好な結果となった。
【0073】
〔実施例3〕
実施例1−2と同様の円筒状基体および円筒状補助基体を用い、実施例1−2と同様にして電子写真感光体の製造を行った。
【0074】
ただし、本実施例では、円筒状補助基体の上端部の端面と円筒状基体の上端部の端面への導電性材料(カーボンペースト)の塗布を、図6に示すような導電性材料の接触による方法で行った。また、本実施例では、実施例3−1〜3−6として、表3に示すように、粘度の異なるカーボンペーストを用いた。カーボンペーストの粘度は、テトロン溶剤の量により調整した。
【0075】
実施例3の結果を表3に示す。
【0076】
【表3】

【0077】
表3に示すように、円筒状基体の端部と円筒状補助基体の端部との相接部分への導電性材料の塗布を接触による方法で行っても、実施例1および2と同様、すべての項目において、比較例1に比べて良好な結果となった。
【0078】
また、導電性材料の塗布を接触による方法で行ったことにより、円筒状基体の設置に要する作業時間が実施例1に比べて1/4に短縮した。ただし、実施例3では、堆積膜部分および円筒状基体内側に導電性材料のはみ出しがあり、堆積膜形成後の拭き取りが必要であるうえに、内側に導電性材料がはみ出したことにより、フランジが嵌めにくかった。特に、粘度が450Pa・sの導電性材料を用いた実施例3−6では、導電性材料のはみ出し量が多く、拭き取りに時間を要した。
【0079】
〔実施例4〕
実施例1−2と同様の円筒状基体および円筒状補助基体を用い、実施例1−2と同様にして電子写真感光体の製造を行った。
【0080】
ただし、本実施例では、相接部分が図2(a)に示すような段差形状となる円筒状基体および円筒状補助基体を用いた。また、円筒状補助基体の上端部の端面と円筒状基体の上端部の端面への導電性材料(カーボンペースト)の塗布を、図6に示すような導電性材料の接触による方法で行った。また、図2(a)に示すように、導電性材料(カーボンペースト)を内側(円筒状基体および円筒状補助基体の内面側)の段差面のみに塗布した。カーボンペーストの粘度は、テトロン溶剤の量により30Pa・sに調整した。
【0081】
〔実施例5〕
実施例1−2と同様の円筒状基体および円筒状補助基体を用い、実施例1−2と同様にして電子写真感光体の製造を行った。
【0082】
ただし、本実施例では、相接部分が図3(a)に示すような凹凸形状となる円筒状基体および円筒状補助基体を用いた。また、円筒状補助基体の上端部の端面と円筒状基体の上端部の端面への導電性材料(カーボンペースト)の塗布を、図6に示すような導電性材料の接触による方法で行った。また、図3(a)に示すように、導電性材料(カーボンペースト)を下側の円筒状補助基体の上端部の凸部の突出面および上側の円筒状補助基体の下端部の凸部の突出面のみに塗布した。カーボンペーストの粘度は、テトロン溶剤の量により30Pa・sに調整した。
【0083】
実施例4および5の結果を表4に示す。
【0084】
【表4】

【0085】
表4に示すように、相接部分が上記段差形状や上記凹凸形状となる円筒状基体および円筒状補助基体を用いても、実施例1〜3と同様、すべての項目において、比較例1に比べて良好な結果となった。
【0086】
また、導電性材料の塗布を接触による方法で行ったことにより、円筒状基体の設置に要する作業時間が実施例1に比べて1/4に短縮した。また、実施例4では、堆積膜部分に導電性材料のはみ出しはなかったが、円筒状基体内側に少しはみ出しがあり、フランジが嵌めにくかった。また、実施例5では、堆積膜部分および円筒状基体内側に導電性材料のはみ出しはなかった。
【0087】
〔実施例6〕
実施例1−2と同様の円筒状基体および円筒状補助基体を用い、実施例1−2と同様にして電子写真感光体の製造を行った。
【0088】
ただし、本実施例では、円筒状補助基体の上端部の端面と円筒状基体の上端部の端面への導電性材料(カーボンペースト)の塗布を、図6に示すような導電性材料の接触による方法で行った。また、本実施例では、実施例6−1〜6−7として、表5に示すように、体積抵抗率(硬化後の体積抵抗率)の異なるカーボンペーストを用いた。カーボンペーストの体積抵抗率は、カーボン粉とバインダーとテトロン溶剤の量により調整した。カーボンペーストの粘度は、テトロン溶剤の量により30Pa・sに調整した。カーボンペーストの体積抵抗率は、四探針法によって測定した。
【0089】
実施例6の結果を表5に示す。
【0090】
【表5】

【0091】
表5に示すように、体積抵抗率が1Ω・cm以下のペーストを用いた実施例において、特に良好な結果となった。
【0092】
また、導電性材料の塗布を接触による方法で行ったことにより、円筒状基体の設置に要する作業時間が実施例1に比べて1/4に短縮した。ただし、実施例6では、堆積膜部分および円筒状基体内側に導電性材料のはみ出しがあり、堆積膜形成後の拭き取りが必要であるうえに、内側に導電性材料がはみ出したことにより、フランジが嵌めにくかった。
【0093】
以上、基体および補助基体が円筒状である場合を例にとって説明したが、基体や補助基体が円筒状でない場合(平板状など)も効果は得られる。
【符号の説明】
【0094】
101 円筒状基体
102 円筒状補助基体
103 円筒状補助基体
105 導電性材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空気密可能な反応空間を有する反応容器内に、導電性の基体ホルダーに保持された導電性の円筒状基体および導電性の円筒状補助基体を設置し、該反応容器内に堆積膜形成用の原料ガスと高周波電力を導入してプラズマを生成することにより、該円筒状基体の表面に堆積膜を形成する電子写真感光体の製造方法において、
該円筒状基体の端部と該円筒状補助基体の端部とが導電性材料を介して相接している状態で、該堆積膜の形成を行うことを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【請求項2】
前記円筒状基体の端部と前記円筒状補助基体の端部とが相接している部分の全周に前記導電性材料が途切れることのない状態で介在する請求項1に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項3】
前記円筒状基体および前記円筒状補助基体がアルミニウムを母材とする部材である請求項1または2に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項4】
前記導電性材料がカーボンを含有する材料である請求項3に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項5】
前記導電性材料がペースト状であり、その粘度が5Pa・s以上400Pa・s以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項6】
前記導電性材料の体積抵抗率が1Ω・cm以下(四探針法による測定値)である請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項7】
前記円筒状基体の端部の端面および/または前記円筒状補助基体の端部の端面と前記導電性材料とを接触させることにより、前記導電性材料を塗布する請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項8】
前記円筒状基体の端部と前記円筒状補助基体の端部とが相接する部分を段差形状とし、該段差形状とした部分のうち前記円筒状基体および前記円筒状補助基体の内面側のみに前記導電性材料の塗布を行う請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項9】
前記円筒状基体の端部の端面と前記円筒状補助基体の端部の端面のいずれか一方を凹形状とし、他方を凸形状として、前記円筒状基体の端部の端面と前記円筒状補助基体の端部の端面とが嵌め合わさる構造とし、該凸形状とした部分に前記導電性材料の塗布を行う請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子写真感光体の製造方法。
【請求項10】
真空気密可能な反応空間を有する反応容器内に、導電性の基体および導電性の補助基体を設置し、該反応容器内に堆積膜形成用の原料ガスと高周波電力を導入してプラズマを生成することにより、該基体の表面に堆積膜を形成する堆積膜形成方法において、
該基体の少なくとも一部と該補助基体の少なくとも一部とが導電性材料を介して相接している状態で、該堆積膜の形成を行うことを特徴とする堆積膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−118469(P2012−118469A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270780(P2010−270780)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】