説明

電子放出源及びその製造方法

【課題】 放電破壊耐圧が向上し、放出電流性能に優れた電子放出源及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 本発明による電子放出源は、基板2と、基板2上に配置されたカソード電極3と、カソード電極3上に配置され、カソード電極3を露出させるように複数のエミッタホール7が配置された絶縁層4と、絶縁層4を介して配置され、エミッタホール7と連通した開口部8が形成されたひさし部9を有するゲート電極5と、カソード電極3上のエミッタホール7領域に配置された電子放出部6とを備える。露出したカソード電極3表面は凹部33を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出源及びその製造方法に関し、特に、放電破壊耐圧の向上したゲート電極を備えた電子放出源及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FEA(Field Emission Array)型電子放出装置を用いた表示装置として電界放出ディスプレイ(FED:Field Emission Display)の開発が進められている。この中で、冷陰極電子放出源の有力材料の一つとして、注目されているカーボンナノチューブ(CNT)やグラファイトナノファイバー(GNF)を備えたFEDが知られている(例えば、特許文献1参照。)。CNTやGNFは、高いアスペクト比とナノオーダーの先鋭な形状を有しており、電界集中が生じやすいため高い放出電流密度が期待できる。
【0003】
図12に、従来のFEDの構造の一例を示した。このFED21は、基板22上にカソード電極23、絶縁層24、及びゲート電極25が順に積層された電子エミッタ構造を有する。絶縁層24にはカソード電極23の上面を露出させるエミッタホール27が形成され、エミッタホール27のカソード電極23表面には、電子を放出させるGNF等の電子放出部26が設けられている。そして、電子放出部26を挟みカソード電極23に対向するように蛍光体30とアノード電極31が設けられたアノード基板32が配置されている。
【0004】
通常、上記電子エミッタ構造を作製するに当たっては、カソード電極23/絶縁層24/ゲート電極25構造を作製し、エミッタホール27をウェットエッチングにより形成する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−170480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の構造では、ウェットエッチングによって等方的に絶縁層24がエッチングされて、ゲート電極25の開口部28付近は絶縁層24が侵食されてひさし部29が生じるため、構造的に弱くカソード電極23とゲート電極25間の放電により構造が破壊されやすい、つまり放電破壊耐圧が低いといった問題があった。また、ひさし部29を除去しようとすると、カソード電極23までエッチング除去され失われるおそれがあった。さらに、ウェットエッチングの実施の際には、構造的に気泡が残りやすく泡がみによるエッチング不良が生じるといった問題があった。
【0007】
また、ひさし部29が大きいと、ひさし部29の下方より成長したCNT或いはGNFにより、カソード電極23とゲート電極25がショートし易くなり、電界がかからずに電子を放出できなくなるといった問題があった。
【0008】
本発明の目的は、放電破壊耐圧が向上し、放出電流性能に優れた電子放出源及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、基板と、前記基板上に配置されたカソード電極と、前記カソード電極上に配置され、前記カソード電極を露出させるように複数のエミッタホールが配置された絶縁層と、前記絶縁層を介して配置され、前記エミッタホールと連通した開口部が形成されたひさし部を有するゲート電極と、前記カソード電極上の前記エミッタホール領域に配置された電子放出部とを備え、前記露出したカソード電極表面に凹部を有することを特徴とする電子放出源が提供される。
【0010】
上記目的を達成するための本発明の他の態様によれば、基板を準備する第1工程と、前記基板上にカソード電極、絶縁層及びゲート電極を順次形成した後、所定の大きさの孔を複数有するレジスト膜を形成する第2工程と、前記ゲート電極の前記孔に対向する面を電極用エッチングにより穿孔して開口部を形成する第3工程と、前記絶縁層に絶縁層用エッチングによりエミッタホールを形成し、該エミッタホール領域の前記カソード電極表面を露出させる第4工程と、電極用エッチングにより、前記開口部をさらに拡げるとともに、前記露出したカソード電極表面に凹部が形成される第5工程と、前記カソード電極の凹部上に電子放出部を成長させるための触媒を成膜した後、前記レジスト膜を除去する第6工程と、前記カソード電極上の前記触媒を介して前記電子放出部を形成する第7工程とを有することを特徴とする電子放出源の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放電破壊耐圧が向上し、放出電流性能に優れた電子放出源及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るFEDの模式的断面構造図。
【図2】図1を拡大した模式的断面構造図。
【図3】カソード電極とゲート電極との位置関係を示す模式的平面図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るFEDの製造工程の一工程を説明する図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るFEDの製造工程の一工程を説明する図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係るFEDの製造工程の一工程を説明する図。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係るFEDの製造工程の一工程におけるSEM写真を示す図であって、(a)FED中間体の一部破断斜視図、(b)(a)の拡大図、(c)(a)の一部縦断面図、(d)(c)の拡大図。
【図8】FEDの一部破断斜視のSEM写真を示す図であって、(a)本発明の第1の実施の形態に係るFED(ひさし部0.2μm)、(b)本発明の第1の実施の形態に係るFED(ひさし部0.5μm)、(c)従来のFED(ひさし部1.8μm)、を示す図。
【図9】絶縁層の第2段階目のエッチングにおけるエッチング時間と放電破壊電圧の関係を示す図。
【図10】ひさし部の大きさと放電破壊電圧の関係を示す図。
【図11】本発明に係るFEDの電子放出特性を示す図。
【図12】従来のFEDの模式的断面構造図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態によるFEDを説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、現実のものとは異なり、また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることに留意すべきである。
【0014】
[第1の実施の形態]
(電子放出源の構造)
本発明の第1の実施の形態に係る電子放出源としてのFED1について、図1〜3を参照して説明する。図1及び2に示すように、本実施の形態のFED1は、基板2と、基板2上に配置されたカソード電極3と、カソード電極3上に配置され、カソード電極3を露出させるように複数のエミッタホール7が配置された絶縁層4と、絶縁層4を介して配置され、エミッタホール7と連通した開口部8が形成されたひさし部9を有するゲート電極5と、カソード電極3上のエミッタホール7領域に配置された電子放出部6とを備える。露出したカソード電極3表面は凹部33を有する。なお、図2では電子放出部6を省略して示してある。
【0015】
カソード基板2は、例えば、絶縁性のガラス基板からなる。
【0016】
カソード電極3は、カソード基板2上に配置されている。カソード電極3は、例えば、クロム(Cr)等の金属からなる。図3に示すように、カソード電極3は、例えば、約16μm程度の幅を有する帯状に配置されている。複数のカソード電極3は、互いに平行になるように、例えば、約4μm程度の間隔で配置されている。なお、図3は、カソード電極3とゲート電極5との配置関係を示したものであり、絶縁層4やアノード基板12等は省略して示してある。
【0017】
カソード電極3の幅及び間隔は適宜変更可能である。一例として、カソード電極3を、例えば、約85μm程度の幅で配置し、例えば、約15μm程度の間隔で配置してもよい。これにより、RGBの3色で蛍光体10を構成すると、例えば、約300μm程度のピッチのピクセル(約100μmピッチのサブピクセル)を実現できる。
【0018】
カソード電極3は、後述するように、ゲート電極5の開口部8を拡げる際のエッチングによりカソード電極3も同時にエッチングされ凹部33が形成される。このとき、カソード電極3の適切な厚みを確保するために、カソード電極3の厚みは、ゲート電極5の厚みの2〜4倍、好ましくは、2.5〜3倍であるのがよい。具体的には、例えば、約700〜900nm、好ましくは、約750〜850nmである。上述のような厚みにすることで、カソード電極3表面がエッチングにより凹部33が形成される際、カソード電極3が除去され失われることはない。カソード電極3表面に形成される凹部33の深さは、例えば、約250〜450nm、好ましくは、約300〜400nmである。
【0019】
絶縁層4は、カソード電極3とゲート電極5とを絶縁するためのものであり、例えば、SiO等からなる。絶縁層4は、カソード電極3表面を覆い、エミッタホール7領域のカソード電極3表面を露出するように配置されている。絶縁層4の厚みは、例えば、約1〜3μm程度であるのがよい。
【0020】
電子放出部6は、電子を放出する機能を有するものである。電子放出部6は、カソード電極3表面のエミッタホール7に露出した領域の中央部に配置されている。電子を放出するものとしては、略真空中で電界を加えれば電子を放出し、かつナノサイズのものであれば、特に限定されない。例えば、グラファイトナノファイバー(GNF)、カーボンナノチューブ(CNT)等が挙げられる。好ましくは、例えば、数nm〜数十nm程度の直径を有するGNFからなるのがよい。
【0021】
ゲート電極5は、電子放出部6から電子を引き出すためのものであり、例えば、カソード電極3と同一の材料であるクロム等の金属からなる。ゲート電極5は、絶縁層4の上面に配置されている。図3に示すように、ゲート電極5は、例えば、約16μm程度の幅を有し、カソード電極3と直交する方向に延びて帯状に形成されている。複数のゲート電極5は、例えば、約4μm程度の間隔で配置されている。
【0022】
ゲート電極5の幅及び間隔は適宜変更可能である。一例として、ゲート電極5を、例えば、約85μm程度の幅に形成し、例えば、約15μm程度の間隔で配置してもよい。これにより、RGBの3色で蛍光体10を構成すると、例えば、約300μm程度ピッチのピクセル(約100μmピッチのサブピクセル)を実現できる。
【0023】
ゲート電極5及び絶縁層4には、図3に示すように、カソード電極3とゲート電極5が交差する領域(以下で、画素領域という。)にカソード電極3の一部を露出させるためのエミッタホール7が複数形成されている。エミッタホール7は、平面視で略円形を有しており、平均直径は、例えば、約10μm程度以下、好ましくは、約1〜8μm程度、より好ましくは、約1〜6μm程度であるのがよい。
【0024】
ゲート電極5は、図2に示すように、エミッタホール7と連通した開口部8を有する。開口部8は、エミッタホール7の中心部に対して凹部33の外周部13より外側に形成されているのが好ましい。開口部8は、平面視で略円形を有しており、平均直径は、凹部33の外周部13より外側になる大きさであれば、特に限定されない。例えば、約12μm程度以下、好ましくは、約2〜10μm程度、より好ましくは、約2〜8μm程度であるのがよい。
【0025】
ゲート電極5の厚みは、例えば、250〜400nm、好ましくは、250〜300nmであるのがよい。
【0026】
ゲート電極5の開口部8周縁部にはひさし部9が形成されており、ひさし部9の下方には、ひさし部9と絶縁層4に囲まれた中空部14が形成されている。ひさし部9の長さ(大きさ)は、ゼロより大きく絶縁層4の厚みより小さいのがよい。好ましくは、0μmを超え2.0μm以下、より好ましくは、0μmを超え1.5μm以下、さらに好ましくは、0μmを超え1.0μm以下、であるのがよい。なお、ひさし部9及び中空部14は、後述するように、絶縁層4の第2段階目のエッチングの際に形成される。
【0027】
蛍光体10は、電子放出部6から放出された電子が衝突することにより、所望の色の光を発光させるためのものである。なお、蛍光体10は、単層として図面に記載しているが、異なる複数の色を発光可能なドット状に形成してもよい。蛍光体10は、アノード電極11の下面に配置されている。
【0028】
アノード電極11は、電子放出部6から放出された電子を蛍光体10へと衝突させるためのものである。アノード電極11は、光を透過可能なITO(インジウムスズ酸化物)からなり、アノード基板12の下面に形成されている。アノード電極11は、帯状に形成されている。アノード電極11は、カソード電極3と同じ方向に延びるように平行に形成されている。
【0029】
アノード基板12は、例えば、光を透過可能なガラス基板からなる。
【0030】
(動作原理)
本発明の第1の実施の形態に係るFED1の動作原理は以下の通りである。
まず、カソード電極3に負の電圧を印加し、ゲート電極5には正の電圧を印加して、カソード電極3とゲート電極5との間に形成される電界により電子放出部6を構成するGNFから電子を放出させる。一方、アノード電極11に高い正の電圧を印加して、放出された電子をアノード電極11方向に加速させる。放出された電子は、ビームとなってゲート電極5に向って進みつつ、アノード電極11に向って加速されて、蛍光体10に衝突し、これにより発光させることができる。
【0031】
(製造方法)
図4〜6は、本発明の第1の実施の形態によるFED1の製造方法を説明する図である。
本実施の形態によるFED1の製造方法は、基板2を準備する第1工程と、基板2上にカソード電極3、絶縁層4及びゲート電極5を順次形成した後、所定の大きさの孔を複数有するレジスト膜15を形成する第2工程と、ゲート電極5の孔に対向する面を電極用エッチングにより穿孔して開口部8を形成する第3工程と、絶縁層4を絶縁層用エッチングによりエミッタホール7を形成し、エミッタホール7領域のカソード電極3表面を露出させる第4工程と、電極用エッチングにより、開口部8をさらに拡げるとともに、露出したカソード電極3表面に凹部33が形成される第5工程と、カソード電極3の凹部33上に電子放出部6を成長させるための触媒16を成膜した後、レジスト膜15を除去する第6工程と、カソード電極3上の触媒16を介して電子放出部6を形成する第7工程とを有する。
【0032】
また、第5工程の後、絶縁層用エッチングにより絶縁層4を除去し、開口部8の周縁部と絶縁層4の間に中空部14を形成することにより所定の大きさのひさし部9を形成する工程をさらに有することが好ましい。
【0033】
以下に、製造工程を詳述する。
(a)まず、図4(a)に示すように、フォトリソグラフィ及びリフトオフ法等により、カソード基板2上にパターニングされた、例えばクロム等からなるカソード電極3を形成する。次いで、フォトリソグラフィ及びリフトオフ法等により、カソード電極3を覆うように絶縁層4を形成する。更に、フォトリソグラフィ及びスパッタリング法により絶縁層4上に帯状の、例えばクロム等からなるゲート電極5を形成する。ここでゲート電極5は、平面視にて、図3に示したように、エミッタホール7が形成される画素領域でカソード電極3と直交するようにパターニングされる。
次いで、所定の大きさの孔を複数有するレジスト膜15を形成する。孔の大きさは、電子放出部6を形成する領域と同じ程度の大きさとするのがよい。
【0034】
(b)次に、図4(b)に示すように、エッチャントとして硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸あるいは硝酸を水で希釈した混合液を用いてウェットエッチングすることにより、レジスト膜15が被覆されていない孔の領域のゲート電極5を除去して、ゲート電極5にレジスト膜15の孔と同じパターンの孔を形成する。
【0035】
(c)次に、図4(c)に示すように、エッチャントとしてフッ酸溶液又はフッ酸と硝酸の混合液等を用いてウェットエッチングを行い、エミッタホール7を形成する。このとき、カソード電極3上のエミッタホール7領域が露出するようにエッチングする(第1段階目のエッチング)。
【0036】
(d)次に、図5(d)に示すように、エッチャントとして硝酸第2セリウムアンモニウムと過塩素酸あるいは硝酸を水で希釈した混合液を用いたウェットエッチングにより、ゲート電極5の開口部8を後退させ、開口部8を拡げる。このとき、カソード電極3のエミッタホール7領域に露出した部分もエッチングされ、凹部33が形成される。
【0037】
(e)次に、図5(e)に示すように、エッチャントとしてフッ酸溶液又はフッ酸と硝酸の混合液等を用いてウェットエッチングを行い、カソード電極3の開口部8よりエミッタホール7側にある絶縁層4を除去する(第2段階目のエッチング)。このとき、エミッタホール7の側壁部もエッチングされ、ゲート電極5の開口部8周縁部の下方の絶縁層4も除去され、中空部14が形成されると共に、ひさし部9が形成される。
【0038】
ここで、ひさし部9の大きさは、エッチング時間を適宜調整することにより所定の大きさのひさし部9を形成することができる。
【0039】
図7(a)〜(d)に、絶縁層4の第2段階目のエッチングを行った後、レジスト膜15を除去して撮影したSEM(Scanning Electron Microscope:走査型電子顕微鏡)写真を示した。このときの第2段階目のエッチングの時間は、約1分であった。
【0040】
なお、第2段階目のエッチングにおいては、フッ酸溶液等の混合液を浸漬させる前に、絶縁層4と実質的に反応しない液体を浸漬させた後、この液体にフッ酸溶液等の混合液を添加するのがよい。これはウェットエッチングの際、構造的に気泡が残りやすく、この気泡のためエッチング不良が生じるおそれがあるためである。従来、超音波等を用いてこの気泡を除去していたが、これによるとレジスト膜15の開口部近傍が破壊されて崩壊するといった問題があった。本実施の形態によれば、絶縁層4と実質的に反応しない液体を浸漬することにより、良好に気泡が除去される。
【0041】
絶縁層4と実質的に反応しない液体としては、有機系液体を除いて絶縁層4と反応しない液体であれば、特に限定されないが、中性又は酸性の液体であるのがよい。好ましくは、さらに粘性の小さな液体であるのがよい。粘性の大きさとしては、例えば、約1×10−4〜1×10−2Pa・s程度、好ましくは、約5×10−4〜5×10−3Pa・s程度であるのがよい。このような液体として、純水が好適である。エッチング液に浸漬する前に、純水を予めエミッタホール7形成部に浸漬させることにより、粘性の小さい純水はエミッタ構造に入りやすく気泡を良好に除去することができる。なお、有機系液体を用いると、レジスト膜15と反応するおそれがあるので好ましくない。
【0042】
また、第2段階目のエッチングにおいては、粘性の小さいフッ酸溶液等の混合液を用いて絶縁層4をエッチングしてもよい。粘性の大きさとしては、例えば、約1×10−4〜1×10−2Pa・s程度、好ましくは、約5×10−4〜5×10−3Pa・s程度であるのがよい。粘性の小さいエッチング液をエミッタホール7形成部に浸漬させることにより、気泡を良好に除去することができると同時に、良好なエッチングを行うことができる。粘性の小さいフッ酸溶液等の混合液は、界面活性剤を添加する、或いは水等で希釈する、若しくは加熱する等により得ることができる。
【0043】
(f)次に、図5(f)に示すように、蒸着やスパッタ等の方法により触媒16の成膜を行う。触媒16の材料としては、遷移金属や貴金属、希土類元素等が用いられ、これらの金属を単独で、又は各金属の粉末を複数混合して合金化したり焼結したりすることにより触媒16材料を作製することができる。次いで、リフトオフ法等によりレジスト膜15を除去する。
【0044】
(g)次に、図6(g)に示すように、例えば、約450〜800℃程度の成長温度にカソード基板2を昇温して、例えば、CHガスを成長ガスとして用いた熱CVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)により、露出したカソード電極3の表面に触媒16を成長核としてGNF6を成長させる。なお、CHガス以外に、C、CO、メターノール、エタノール等のガスを成長ガスとして用いることができる。
【0045】
(h)次に、アノード基板12にアノード電極11及び蛍光体10を順に形成する。そして、このアノード基板12をカソード基板2に接着剤等により接着して、図1に示すFED1が完成する。
【0046】
(SEM写真)
図8(a)及び(b)に、本実施の形態に係るFED1の一例について、ゲート電極5及びカソード電極3側のSEM写真を示した。なお、図8(a)は、ひさし部9の大きさが200nm程度のひさし部9の小さい構造(微小中空構造)のものであり、図8(b)は、ひさし部9の大きさが500nm程度のひさし部9の大きい構造(ゲート後退構造)のものである。比較として、図8(c)にひさし部9の大きさが1800nmの従来のFEDのSEM写真を示した。
【0047】
本実施の形態によれば、電極用エッチングによるエッチングの際、カソード電極3の厚みを予め厚くしておくことでカソード電極3を所望の厚みに保持できると共に、ゲート電極5の開口部8を後退させ、所望の大きさのひさし部9を形成することができる。これにより、放電破壊耐圧を向上させることが可能となる。
【0048】
また、本実施の形態によれば、ひさし部9を所望の大きさに形成することができるので、ゲート電極5とGNFとの距離を近接させることができ、放出電流を向上させることが可能となる。
【0049】
また、本実施の形態によれば、カソード電極3のひさし部9が縮小されたので、下方からのGNF等の成長により、GNFとゲート電極5が接触し、ゲート電極5とショートするのを防止することが可能となる。さらに、わずかに生じたショートであれば、通電することで、ショートを切断することが可能となる。すなわち、放電破壊耐圧の向上により、例えば、約50V程度の高圧をパルス的に印加することが可能となり、これにより比較的容易にショートを切断することができる。
【0050】
また、本実施の形態によれば、絶縁層4のエッチングの際、予め純水に浸漬して気泡を除去した後、エッチング液を添加してエッチングするので、良好なエッチング状態を得ることができる。
【0051】
(評価試験1)
本実施の形態に係るホール構造、すなわち、例えば、図7に示すようなGNFを成長させる前の構造について、第2段階目のエッチング時間及びひさし部9の大きさと放電破壊電圧との関係を調べた。第2段階目のエッチング時間を30〜180秒の間で変化させることにより、ひさし部9の大きさを変えてホール構造を作製し、それぞれの放電破壊電圧を測定した。図9に、エッチング時間に対する放電破壊電圧の測定結果を示した。また、図10に、各ひさし部の大きさに対する放電破壊電圧の結果を示した。図10に示されるように、本実施の形態に係るホール構造において、エッチング時間:30〜180秒(ひさし部大きさ:70〜500nm)の場合、350〜450Vの高い放電破壊耐圧を示した。これに対して、従来のひさし部1800nmの場合では、200〜300Vで放電破壊が生じた。
【0052】
(評価試験2)
本実施の形態に係るFED1を用いて、ひさし部9の大きさを200nm及び500nmとした場合について、I−V特性を調べる評価試験を行った。I−V測定は、カソード電極3とアノード電極11間に1kV、カソード電極3とゲート電極5間には20〜70Vの電圧を印加して行った。同様にして、従来のFED(ひさし部の大きさ1800nm)についてもI−V測定を行った。測定結果を図11に示した。なお、上述したように、図11中、微小中空構造とは、ひさし部9の大きさが小さい構造を指し、ゲート後退構造とは、ひさし部9の大きさが大きい構造を指す。
【0053】
図11に示すように、従来のFEDでは、ゲート電圧が40Vまでは放出電流密度が上昇するが、約50Vでゲート電極5のひさし部9が放電破壊した。しかしながら、本発明によるFED1は、20〜70Vまで放出電流密度は上昇しており、約100Vの印加でも放電破壊は生じなかった。
【0054】
また、従来のFEDでは、ゲート電圧40Vで放出電流密度は7mA/cmであり、高い放出電流密度が得られた場合であっても93mA/cmであった。これに対して、本発明のFED1によれば、ゲート後退構造の場合では安定駆動している70V印加の状態で、放出電流密度は560mA/cmを示した。また、微小中空構造であっても、ゲート後退構造と同等の放出電流量を得られることが示された。すなわち、放出電流の大電流化が可能であることが示された。
【0055】
これは、ゲート電極5の開口部8を後退させたことで、エミッタホール7の有効直径が増大し、周囲長も増加したため、電子放出に寄与する有効領域が拡大しためと考えられる。これにより、ゲート電極5近傍までGNF等を成長させることで、放出電流を一層増加させることが可能となる。
【0056】
本実施の形態に係る電子放出源及びその製造方法によれば、放電破壊耐圧が向上し、放出電流性能に優れる。
【0057】
[その他の実施の形態]
以上、上述した第1の実施の形態によって本発明を詳細に説明したが、当業者にとっては、本発明が本明細書中に説明した第1の実施の形態に限定されるものではないということは明らかである。本発明は、特許請求の範囲の記載により定まる本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく修正及び変更形態として実施することができる。従って、本明細書の記載は、例示説明を目的とするものであり、本発明に対して何ら制限的な意味を有するものではない。以下、上述した第1の実施の形態を一部変更した変更形態について説明する。
【0058】
例えば、上述した各構成の形状、数値、材料等は適宜変更可能である。
また、上述した第1の実施の形態に係る電子放出源として、FEDに適用した説明をしたが、FEA、FEL(Field Emission Lump)、撮像板、フラットパネルセンサ等にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、電子放出源に関連した技術分野に好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0060】
1・・・FED
2・・・カソード基板
3・・・カソード電極
4・・・絶縁層
5・・・ゲート電極
6・・・電子放出部
7・・・エミッタホール
8・・・開口部
9・・・ひさし部
10・・蛍光体
11・・アノード電極
12・・アノード基板
13・・凹部の外周部
14・・中空部
33・・凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に配置されたカソード電極と、
前記カソード電極上に配置され、前記カソード電極を露出させるように複数のエミッタホールが配置された絶縁層と、
前記絶縁層を介して配置され、前記エミッタホールと連通した開口部が形成されたひさし部を有するゲート電極と、
前記カソード電極上の前記エミッタホール領域に配置された電子放出部と
を備え、前記露出したカソード電極表面に凹部を有することを特徴とする電子放出源。
【請求項2】
前記開口部は、前記エミッタホールの中心軸からみて前記凹部の外周部より外側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の電子放出源。
【請求項3】
基板を準備する第1工程と、
前記基板上にカソード電極、絶縁層及びゲート電極を順次形成した後、所定の大きさの孔を複数有するレジスト膜を形成する第2工程と、
前記ゲート電極の前記孔に対向する面を電極用エッチングにより穿孔して開口部を形成する第3工程と、
前記絶縁層に絶縁層用エッチングによりエミッタホールを形成し、該エミッタホール領域の前記カソード電極表面を露出させる第4工程と、
電極用エッチングにより、前記開口部をさらに拡げるとともに、前記露出したカソード電極表面に凹部が形成される第5工程と、
前記カソード電極の凹部上に電子放出部を成長させるための触媒を成膜した後、前記レジスト膜を除去する第6工程と、
前記カソード電極上の前記触媒を介して前記電子放出部を形成する第7工程と
を有することを特徴とする電子放出源の製造方法。
【請求項4】
前記第5工程の後、前記絶縁層用エッチングにより前記絶縁層を除去し、前記開口部の周縁部と前記絶縁層の間に中空部を形成することにより所定の大きさのひさし部を形成する工程をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の電子放出源の製造方法。
【請求項5】
前記絶縁層用エッチングにおいて、前記絶縁層を前記絶縁層と実質的に反応しない液体に浸漬して気泡を除去した後、エッチング液を前記液体に添加することを特徴とする請求項4に記載の電子放出源の製造方法。
【請求項6】
前記液体は、中性又は酸性であることを特徴とする請求項5に記載の電子放出源の製造方法。
【請求項7】
前記絶縁層用エッチングでは、気泡を除去するとともに、前記絶縁層をエッチングすることができるエッチング液を用いることを特徴とする請求項4に記載の電子放出源の製造方法。
【請求項8】
前記エッチング液の粘性が、1×10−4〜1×10−2Pa・sであることを特徴とする請求項7に記載の電子放出源の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−103088(P2010−103088A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−115421(P2009−115421)
【出願日】平成21年5月12日(2009.5.12)
【出願人】(000116024)ローム株式会社 (3,539)
【Fターム(参考)】