説明

電子放出素子、電子源、画像表示装置、および、電子放出素子の製造方法

【課題】製造過程において安定で、かつ、低電圧で高効率な電子放出を安定して行うことのできる電子放出素子の製造方法、該製造方法で製造された電子放出素子、該電子放出素子を用いてなる電子源、及び、該電子源を利用した、高いコントラストを示す画像表示装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る電子放出素子の製造方法は、導電性の金属粒子が含まれたカーボン層を用意する工程と、前記導電性の金属粒子の一部を酸化させる工程と、前記カーボン層の表面にダイポール層を形成する工程と、を有することを特徴とする。また、本発明に係る電子放出素子は、上記電子放出素子の製造方法で製造されたことを特徴とする。また、本発明に係る電子源は、上記電子放出素子を複数備えることを特徴とする。また、本発明に係る画像表示装置は、上記電子源と、電子の照射によって発光する発光部材と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子、電子源、画像表示装置、および、電子放出素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、低電界で電子を放出することのできる電子放出素子が望まれている。
【0003】
そのような電子放出素子を得るために、電子放出材料および電子放出素子の構成が工夫されている。
【0004】
具体的には、電界増強効果(電界を増やす効果)を増大させたり仕事関数を低下させたりするために、電子放出材料および電子放出素子の構成が工夫されている。
【0005】
電界増強効果を増大させるための手法としては、例えば、金属などの先端を尖らせたものを電子放出材とする手法、ナノメーターオーダーの先端径をもついわゆるカーボンナノチューブなどの繊維状材料を用いる手法がある。また、電子放出材の外部の形状ではなく、結晶(電子放出材)内の局所構造が変化している部分などを利用して電界を増強させる例もある。
【0006】
一方、仕事関数を低下させるための手法としては、電子放出材に低仕事材料を被覆もしくは添加する手法、負の電子親和力を利用する手法がある。
【0007】
しかしながら、上記手法を用いて作製された電子放出素子では所望の電子放出特性が得られない場合があった。また、以下に示すような制約から、所望の電子放出特性を示す電子放出素子を得るための製造方法が限られていた。
【0008】
仕事関数の低下を狙った電子放出素子は、材料(結晶構造)の不安定性から、製造方法が限られる場合があった。また、使用まで真空中に保管されなくてはいけないなどの制約から、使用用途が限られていた。
【0009】
一方、電界増強効果の増大を狙った電子放出素子は、仕事関数の低下を狙った電子放出素子と比較して製造工程の制約が少なくてすむ可能性がある。しかしながら、電子放出材の外部の形状による効果を利用する場合、ナノメータサイズの微細構造が、駆動する電界や発生する熱によって、変化することがないように工夫する必要があった。
【0010】
このような制約に対し、カーボン系の材料は、一般的に耐熱性に優れ、低電界での電子放出が期待できるため、電子放出材として有効である。また、金属と複合したカーボン系の材料は駆動上の安定性に優れているため、電子放出材として有望である。
【0011】
カーボン系の電子放出材を用いた電子放出素子の例として、カーボン系の電子放出材を母体とし、導電性金属を含む電子放出膜を用いた電子放出素子が特許文献1,2に開示されている。
【0012】
また、駆動上の安定性を確保するために導電性金属を絶縁層で被覆する例が特許文献3に開示されている。
【0013】
しかし、特許文献1〜3に開示されている技術においても、製造上の安定性は保証され
ていない。例えば、製造の1工程としてエッチングを用いると、導電性金属もエッチングされてしまい、所望の電子放出特性を示す電子放出素子が得られないことがある。
【0014】
即ち、電子放出素子は、製造上および駆動上、安定した構造をもつ電子放出材を有することが重要である。
【0015】
【特許文献1】特許第3535871号公報
【特許文献2】特開2001−6523号公報
【特許文献3】米国特許第6097139号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明は、製造過程において安定で、かつ、低電圧で高効率な電子放出を安定して行うことのできる電子放出素子の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の更なる目的は、そのような製造方法で製造された電子放出素子、該電子放出素子を用いてなる電子源、及び、該電子源を利用した、高いコントラストを示す画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために本発明に係る電子放出素子の製造方法は、導電性の金属粒子が含まれたカーボン層を用意する工程と、前記導電性の金属粒子の一部を酸化させる工程と、前記カーボン層の表面にダイポール層を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る電子放出素子は、上記電子放出素子の製造方法で製造されたことを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る電子源は、上記電子放出素子を複数備えることを特徴とする。
【0020】
また、本発明に係る画像表示装置は、上記電子源と、該電子源から放出された電子によって画像を形成する画像形成部材と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、製造過程において安定で、かつ、低電圧で高効率な電子放出を安定して行うことのできる電子放出素子の製造方法を提供することができる。また、そのような製造方法で製造された電子放出素子、該電子放出素子を用いてなる電子源、及び、該電子源を利用した、高いコントラストを示す画像表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に記載の無い限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0023】
図1(a)〜(c)に、図2(c)に模式的に示した本発明の実施の形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す。図1、図2(c)において、1は基板、2はカソード電極、3はカーボン層、4aは導電性の金属粒子、4bは酸化された金属粒子(本実施形態では金属粒子の表面のみ酸化される)、11はダイポール層である。5aは導電性の金属粒子4aとカーボン層3からなる第1層、5bは酸化された金属粒子4bとカーボン層3からなる第2層であり、6は第1層5a、第2層5b、および、ダイポール層11からなる電子放出材である。また、図1の電子放出素子は、基板1、カソード電極2、電子放出
材6が順に積層された多層構造を有している。
【0024】
本実施形態に係る電子放出素子の製造方法は、図1(a)〜図1(c)に示す工程を含む。図1(a)の工程は、導電性の金属粒子4aが含まれたカーボン層3を用意する工程である。図1(b)の工程は、導電性の金属粒子4aの一部を酸化させる工程である。図1(c)の工程は、カーボン層3の表面にダイポール層11を形成する工程である。ダイポール層11を形成することにより、電子放出素子のしきい電界(電子を放出させるために最低限必要とされる電界)を低減させることができる。各工程の詳細については後で説明する。
【0025】
図2(a)〜図2(c)に本実施形態に係る電子放出素子の一例を示す。図2(a)は上方(電子が放出される側)から見た平面図、図2(b)は図2(a)におけるA−A’の断面図、図2(c)は図2(b)における破線Bで囲まれた部分の拡大図である。
【0026】
図2の電子放出素子の構成は、図1の構成に対し、絶縁層7とゲート電極8を更に備える。絶縁層7はカソード電極2とゲート電極8の間に設けられている。ゲート電極8と絶縁層7のそれぞれには、互いに連通する開口が設けられており、当該開口内に電子放出材6が露出する。ゲート電極8と絶縁層7の開口は1つの素子に複数個設けられている。図2に示す電子放出素子は、カソード電極2とゲート電極8の間に電圧(駆動電圧)を印加することによって電子を放出する。また、この電子放出素子を電子源として用いる場合、一般的に、本素子の上方の離れた位置にアノード電極(不図示)を設ける。即ち、カソード電極、ゲート電極、及び、アノード電極という3つの端子(3端子)を利用するのが一般的である。当該アノード電極に高電圧を印加することにより、素子より放出した電子は加速される。
【0027】
本実施形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を、図1および図3を用いて詳しく説明する。但し、特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0028】
(工程1)
まず、表面が十分に洗浄された基板1上にカソード電極2を形成する。そして、所望の場所(例えば、カソード電極上の全ての領域)に第1層5aを積層する(図3(a))。基板1は、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラス、基板表面にSiOを積層した積層体、セラミックスなどから構成される絶縁性基板から選択すればよい。第1層5aは、導電性の金属粒子4を含んだカーボン層3である(図1(a))。
【0029】
カソード電極2は一般的に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、フォトリソグラフィー技術により形成される。カソード電極2の材料は、金属、合金、炭化物、硼化物、窒化物、半導体、等から適宜選択される。金属としては、例えば、Be,Mg,Ti,Zr,Hf,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等を用いればよい。カソード電極2の厚さとしては、10nmから100μmの範囲で設定され、好ましくは100nmから10μmの範囲で選択される。
【0030】
また、絶縁性シリコン基板の一部をドーピングして導電性としたものをカソード電極2としてもよい。また、カソード電極2は、組成の違う層が積層することで構成されたものであってもよい(多層構造)。カソード電極2を多層構造にする場合、カソード電極2は高抵抗体の層を含んでいてもよい。
【0031】
導電性の金属粒子4aを含んだカーボン層3からなる第1層5aの形成方法として、各
種の方法が考えられる。例えば、第1層5aを1つの工程で形成する方法としては、カーボンと金属を用いた共スパッタ法、金属粒子を分散したカーボンを含む材料を用いる方法などが考えられる。第1層5aを複数の工程で形成する方法としては、あらかじめ形成されたカーボン層に金属粒子を導入(注入)する方法、金属粒子を分散配置した後に金属粒子をカーボン層で被覆する方法などが考えられる。また、導電性の金属粒子は、あらかじめ粒子状にされたものであってもよいし、製造工程中に粒子状にされたものであってもよい。粒子状にする手法としては、アニール、プラズマ照射などが利用できる。
【0032】
導電性の金属粒子4aは、酸化物を形成する金属であり、カーボン層3内において安定であるほど好ましい。金属粒子4aの形状は、球体、楕円体、多面体など、どのような形状であってもよい。金属粒子の大きさは、形状に寄らず、幅(球体の場合は直径)が2nmから200nmであることが好ましく、4〜40nm程度(いわゆる微粒子)であることがより好ましい。また、金属粒子の大きさは、工程1における第1層5aの膜厚より小さいことが好ましい。
【0033】
カーボン層3は、例えば、一般的な蒸着法、スパッタ法、プラズマCVD法、HF(ホットフィラメント)CVD法などによって形成される。
【0034】
カーボン層3としては、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)、アモルファスカーボンが好ましく用いられる。特に、DLCやアモルファスカーボンはsp炭素を主成分とするので好ましい。
【0035】
カーボン層3自体(金属粒子4aを除いたもの)の抵抗率は1×10以上1×1014Ωcm以下(絶縁性の抵抗率)であることが好ましい。
【0036】
カーボン層3は、金属粒子4aの全体を覆う様に形成されてもよいし、金属粒子4aの一部を覆うように形成されてもよい。カーボン層3は、金属粒子4aの全体を覆い、且つ、カーボン層3の表面が平坦になるように形成されてもよい。
【0037】
(工程2)
次に、導電性の金属粒子4aの一部を酸化させる(図3(b))。すなわち、本工程により複数の金属粒子4aの一部が、酸化された金属粒子4bとなり、第1層5aの一部が酸化された金属粒子4bとカーボン層3からなる第2層5bとなる(図1(b))。具体的には、第1層5aの表面付近の金属粒子4aの一部が酸化され、第1層5aの表面付近が第2層5bとなる。第1層5aの表面付近の金属粒子4aの一部を酸化することにより、以後の工程(工程3、4)を安定して行うことができる。具体的には、表面付近の金属粒子4aを酸化させることにより、エッチングなどに対する耐性を得る。また、金属粒子が触媒金属の場合、ダイポール層形成の際、表面付近の金属粒子4aからのカーボンファイバの成長を促進してしまう場合があり、これによって製造過程における安定性が悪くなる。本実施形態では金属粒子4aの一部(表面付近の金属粒子4a)を酸化することにより、カーボンファイバの成長を抑制させることができるため、製造過程における安定性を向上することができる。尚、金属粒子が触媒金属でないものに比べ、金属粒子が触媒金属である方が、製造された電子放出素子の電子放出特性が良い。触媒金属としては、具体的には、例えば、Ni、Pd、Coが挙げられる。
【0038】
金属粒子4aの酸化の方法は、大気中で加熱することであってもよいし、酸素を含む雰囲気中でプラズマ処理することであってもよいし、大気暴露することであってもよい。金属粒子の酸化は、金属の種類、結晶性、粒径、及び、カーボンの質(密度、状態)、の違いの影響を受ける。また、加熱温度が高すぎたり、プラズマ処理において酸素分圧が高過ぎたりすると、酸化工程が過度に活性となり好ましくない。具体的には、酸化工程が過度
に活性であると、(1)金属粒子の表面全体を酸化させたり(または、酸化皮膜の厚さが厚くなったり)、(2)金属粒子の周辺のカーボン層を焼失させたりすることになる。その結果、(1)の場合は、電子放出素子としての特性が劣化するため好ましくない。(2)の場合は、金属粒子がカーボン層から剥離することがあるため好ましくない。以上のことに注意して酸化の方法は適宜選択される。
【0039】
(工程3)
次に、絶縁層7を第2層5b上に積層し、絶縁層7上にゲート電極8を積層する(図3(c))。
【0040】
絶縁層7は、スパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法で形成される。絶縁層7の厚さは、50nmから5μmの範囲で設定され、好ましくは100nmから5μmの範囲で設定される。絶縁層7の材料は、SiO,SiN,Al,CaFなどの高電界に絶えられる耐圧性の高い材料が望ましい。
【0041】
ゲート電極8は、カソード電極2と同様に導電性を有しており、蒸着法、スパッタ法等の一般的真空成膜技術により形成される。ゲート電極8の材料も、カソード電極2の材料と同様の材料から適宜選択される。
【0042】
(工程4)
次に、ゲート電極8と絶縁層7の開口を形成する(図3(d))。
【0043】
開口はフォトリソグラフィー法を用いて形成される。すなわち、所望の領域(具体的にはゲート電極上)に開口を有するマスクを設けた後、ドライエッチングやウエットエッチングなどのエッチング処理によって形成する。開口形成後、マスクを剥離などして除去し、洗浄する。本工程により、開口内に第2層5bを露出させる。
【0044】
上記開口の幅Wは、電子放出素子を構成する各層の材料と抵抗値、電子放出素子の仕事関数と駆動電圧、及び、必要とする電子放出ビームの形状により適宜設定される。また、ゲート電極8とカソード電極2との間隔は50nm〜5μmであることが好ましい。
【0045】
(工程5)
次に、第2層5bの表面を水素で終端し、ダイポール層11を形成する(図3(e))。
【0046】
水素終端処理としては、水素雰囲気中でのプラズマ処理がある。炭素を介して水素で終端する処理としては、炭化水素系ガスを含む雰囲気での熱処理がある。当該プラズマ処理や熱処理により、カーボン層3の表面は水素で化学修飾(水素で終端)され、ダイポール層11が形成される(図1(c))。上記熱処理などは、水素と炭化水素系ガスの両方を含む雰囲気中で加熱することによって行われてもよい。なお、炭化水素系ガスとしては、アセチレンガス、エチレンガス、メタンガス等、鎖状炭化水素のガスが好ましい。
【0047】
以上の工程を経て、図3(f)に示す電子放出素子が完成する。
【0048】
本実施形態にかかる電子放出素子における電子放出原理を図4、図5を用いて説明する。
【0049】
図4において、41はカソード電極、42はダイポール層11が表面に形成された絶縁性領域(カーボン層)、43は引き出し電極(ゲート電極)、44は真空障壁、45は絶縁性領域42と真空障壁44との界面、46は電子である。
【0050】
尚、カソード電極41から電子46を真空中に引き出すための駆動電圧は、カソード電極41の電位よりも高い電位が引き出し電極43に印加された状態における、カソード電極41と引き出し電極43との間の電圧である。
【0051】
図4(a)は、本実施形態に係る電子放出素子に駆動電圧0[V]を印加したときの、バンドダイヤグラムである。図4(b)は本実施形態に係る電子放出素子に駆動電圧V[V]を印加したときの、バンドダイヤグラムである。図4(a)において、絶縁性領域42の電位は、その表面にダイポール層(分極層)が形成されているため、δ分の電圧が印加された状態になっている。この電子放出素子に電圧V[V]が印加されると、上記絶縁性領域42のバンドはより急峻にベンディングし、同時に真空障壁44のベンディングもより急峻となる。この状態(素子に電圧V[V]が印加された状態)では、絶縁性領域42の表面における伝導帯よりも、ダイポール層に接する真空障壁44が高い状態になっている(図4(b))。当該状態になると、カソード電極41から注入された電子46は、絶縁性領域42および真空障壁44をトンネリングして真空中へ放出される。尚、本実施形態に係る電子放出素子の駆動電圧は、50[V]以下であることが好ましく、さらに好ましくは5[V]以上、50[V]以下である。
【0052】
図5を用いてさらに詳細に説明する。図5において、41はカソード電極、47は導電性の金属粒子、48は金属粒子の酸化領域である。20はダイポール層、21は炭素原子、22は水素原子である。
【0053】
導電性の金属粒子47は、カソード電極と電気的に接続されている。従って、金属粒子47はカソード電極41の一部と解釈できる。金属粒子47を含むカソード電極41は、絶縁性領域42と接している。ダイポール層20は、絶縁性領域42の表面に形成される。絶縁性領域42のバンド構造(図4)は、金属粒子47とダイポール層20の間の空間的な距離(膜厚)が最も狭い領域によって決まる。
【0054】
本実施形態に係る電子放出素子おける絶縁性領域42の厚さは、金属粒子47を被覆するカーボン層の厚さと、金属粒子の酸化領域48の厚さの合計が、電子がトンネルできる膜厚であれば、どのような膜厚でもよい。すなわち、金属粒子の酸化領域が絶縁性の場合、酸化領域も絶縁性領域42の一部と解釈できる。
【0055】
上述したように、絶縁性領域42のバンド構造には、金属粒子47からダイポール層20までの絶縁性領域42の空間的な距離(最小となる膜厚)が強く関係しており、金属粒子47のすべてが酸化されてしまうのは、好ましくない。そのため、金属粒子の極最表面(1nmから5nm)のみが酸化されるのがよく、最大でも、粒径未満の領域が、酸化されるのがよい。
【0056】
また、金属粒子の酸化領域が非絶縁性(半導体的伝導)の場合、カーボン層が絶縁性領域42となる。
【0057】
なお、金属粒子47とダイポール層20の間に配する絶縁性領域42の膜厚は、駆動電圧によって決めることができ、好ましくは20nm以下、さらに好ましくは10nm以下に設定される。また、金属粒子47とダイポール層20の間に配する絶縁性領域42の膜厚の下限は、電子46がトンネルすべき障壁(真空バリア)、を形成すればどのような膜圧であってもよい。ただし、絶縁性領域42の膜圧は、再現性よく成膜するために、好ましくは1nm以上に設定される。
【0058】
なお、図5は、ダイポール層20が、カーボン層の表面(真空との界面)を水素原子2
2で終端することにより構成された例であるが、本実施形態に係るダイポール層20は、水素原子22によって終端されるものに限定されるものではない。また、本実施形態では、絶縁性領域42をカーボン層としたが、必ずしもカーボン層に限定されるものではなく、同様のバンド構造を有するものであればどのようなものであってもよい。ただし、本実施形態において安定な製造方法とするためには、カーボン層が最適である。
【0059】
絶縁性領域42の表面を終端する材料は、絶縁性領域の表面準位を、カソード電極41と引き出し電極43との間に電圧を印加していない状態下において、0.5eV以上、好ましくは1eV以上引き下げるものであることが好ましい。
【0060】
なお、駆動電圧が0[V](オフ状態)の場合に、電子放出が完全に遮断されることが必要である。
【0061】
ゲート電極を介して素子へ与えられる印加電圧が0であっても、3端子素子の場合、アノード電極には電圧が印加され続ける。アノード電極に印加される電圧は,一般に十数kV〜30kV程度である。そのため、アノード電極と電子放出素子との間に形成される電界強度は、一般に、おおよそ1×10[V/cm]以下である。従って、この電界強度によって電子放出素子から電子が放出しないようにすることが好ましい。絶縁性領域の表面にダイポール層が形成された場合、絶縁性領域42の表面は正の電子親和力を示す。絶縁性領域42の表面の電子親和力(正の電子親和力)は、2.5[eV]以上とすることが好ましい。
【0062】
ダイポール層20についてさらに説明する。本実施形態では、絶縁性領域42の表面が水素原子22により終端された例について説明する。絶縁性領域の表面が水素で終端されると、水素原子22は僅かながら正に分極(δ)する。これにより絶縁性領域の表面の原子(本実施形態では炭素原子21)は僅かながら負に分極(δ)される。これにより、ダイポール層(電気二重層)20が形成される。
【0063】
上述したように、本実施形態に係る電子放出素子の絶縁層の表面は、当該ダイポール層により、カソード電極41と引き出し電極43との間に駆動電圧が印加されていない状態であっても、電気二重層の電位δ[V]が印加されているのと等価の状態となる。また、図4(b)に示すように、駆動電圧V[V]の印加により、絶縁性領域42の表面の準位降下は進行し、絶縁性領域42の空間的厚さも縮められる。そして、真空障壁44の準位も引き下げられ、真空障壁44の空間的厚さも縮められる。そのため、絶縁性領域42と真空障壁44はトンネル可能な状態となり、電子は真空へ放出される。
【0064】
本実施形態に係る電子放出素子において、電子46は絶縁性領域42をトンネルし、真空中へ放出されるが、絶縁性領域42の膜厚が最小となる領域が、より低電圧で電子を放出することのできる電子放出点となる。従って、特定の駆動電圧においては、電子放出点は面内において離散的に存在することとなる。
【0065】
一般に、電子放出素子の電子放出点密度は、揺らぎを低減するために、できるだけ高いことが望まれる。本実施形態に係る電子放出素子の電子放出点密度は、少なくとも、1×10[個/mm]であることが好ましく、望ましくは1×10[個/mm]以上である。
【0066】
本実施形態に係る電子放出素子では、絶縁性領域42の膜厚が小さいほど電子放出点となりやすいため、金属粒子の存在する領域付近が電子放出点となり得る。そのため、金属粒子の数は、少なくとも、1×10[個/mm]であることが好ましく、望ましくは1×10[個/mm]以上である。なお、金属粒子の数は、絶縁性領域42の所望の
領域(電子を放出させる領域)についてのみ、1×10[個/mm](望ましくは1×10[個/mm]以上)であればよい。
【0067】
本実施形態に係る電子放出素子は、様々な形態を採用することができる。例えば、本実施形態に係る電子放出素子において、カソード電極41の形状は、平坦(膜)であってもよいし、形状による電界増倍効果を得るために、スピント型のような突起形状(円錐形状など)であっても良い。金属粒子47を含む絶縁性領域42の表面は、平坦であってもよいし、金属粒子47程度の大きさの凹凸を有していてもよい。しかしながら、電子放出素子の製造に必要な安定性(プロセス安定性)を確保するために、絶縁性領域42は平坦な薄膜であることが好ましい。
【0068】
<応用例>
本実施形態に係る電子放出素子の応用例について以下に述べる。本実施形態に係る電子放出素子は、例えば、複数個を基体上に配列することにより電子源を構成することができる。そして、当該電子源を用いて画像形成装置を構成することができる。
【0069】
電子放出素子の配列については、種々のものが採用される。一例として、電子放出素子をX方向及びY方向に行列状に複数配する。同じ行に配された複数の電子放出素子の電極の一方を、X方向の配線に共通に接続し、同じ列に配された複数の電子放出素子の電極の他方を、Y方向の配線に共通に接続する。これを単純マトリクス配置という。以下単純マトリクス配置について詳述する。
【0070】
図6、図7において、51、61は電子源基体、52、62はX方向配線、53、63はY方向配線である。64は本実施形態の電子放出素子である。
【0071】
X方向配線62は、Dx1,Dx2,・・・Dxmのm本の配線からなり、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成された導電性金属等で構成することができる。配線の材料、膜厚、幅は、適宜設計される。Y方向配線63は、Dy1,Dy2,・・・Dynのn本の配線よりなり、X方向配線62と同様に形成される。これらm本のX方向配線62とn本のY方向配線63との間には、層間絶縁層(不図示)が設けられており、両者は電気的に分離されている(m,nは、共に正の整数)。
【0072】
層間絶縁層(不図示)は、真空蒸着法、印刷法、スパッタ法等を用いて形成されたSiO等で構成される。例えば、X方向配線62を形成した電子源基体61の全面或いは一部に所望の形状で形成される。特に、X方向配線62とY方向配線63の交差部の電位差に耐え得るように、膜厚、材料、製法が適宜設定される。X方向配線62とY方向配線63は、それぞれ外部端子として引き出されている。
【0073】
電子放出素子64を構成するm本のX方向配線62は、カソード電極2を兼ねる場合があり、n本のY方向配線63は、ゲート電極8を兼ねる場合があり、層間絶縁層は絶縁層7を兼ねる場合がある。
【0074】
X方向配線62には、不図示の走査信号印加手段が接続される。走査信号印加手段は、選択されたX方向配線に接続されている電子放出素子64に走査信号を印加する。一方、Y方向配線63には、不図示の変調信号印加手段が接続される。変調信号印加手段は、電子放出素子64の各列に、入力信号に応じて変調された変調信号を印加する。各電子放出素子に印加される駆動電圧は、それぞれ、電子放出素子に印加される走査信号と変調信号の差電圧として供給される。
【0075】
このように、本実施形態に係る電子放出素子を複数備える電子源を作製することができ
る。上記構成においては、単純なマトリクス配線を用いて、電子放出素子を個別に選択し、独立に駆動可能とすることができる。上記電子源を用いて構成した画像表示装置について、図8を用いて説明する。図8は、画像表示装置の表示パネルの一例を示す模式図である。
【0076】
図8において、71は電子放出素子、80は電子源基板、91はリアプレート、96はフェースプレート、92は支持枠である。電子源基板80には電子放出素子71が複数配されており、リアプレート91には電子源基板80が固定されている。フェースプレート96はガラス基体93、蛍光膜94、メタルバック95等によって形成されている。蛍光膜94、メタルバック95はガラス基体93の内側(電子源側の面)に設けられている。図8の例では、ガラス基体93の内面(内側表面)に蛍光膜94が設けられており、蛍光膜94の内面にメタルバック95が設けられている。支持枠92には、リアプレート91とフェースプレート96がフリットガラスなどを用いて接続される。
【0077】
外囲器(パネル)98は、フェースプレート96、支持枠92、リアプレート91で構成される。リアプレート91は、主に電子源基板80の強度を補強する目的で設けられるため、電子源基板80自体が十分な強度を持つ場合には、別体のリアプレート91は不要とすることができる。換言すれば、電子源基板80とリアプレート91は、一体構成の部材であっても構わない。
【0078】
フェースプレート96と、リアプレート91と、支持枠92とは、夫々の接合する面(接着面)にフリットガラスを塗布し、所定の位置で合わせ、固定し、加熱してフリットガラスを焼成することにより封着される。
【0079】
また、そのような加熱するための手段としては、赤外線ランプ等を用いたランプ加熱、ホットプレート等、種々のものが採用できるが、これらに限定されるものではない。
【0080】
また、外囲器を構成する複数の部材を加熱接着する接着材料は、フリットガラスに限るものではなく、封着工程後に十分な真空状態を保つことができる種々の接着材料を採用することができる。
【0081】
上述した外囲器は、本発明の一実施態様であり、これに限定されるものではなく、種々のものが採用できる。
【0082】
他の例として、電子源基板80に直接支持枠92を封着し、フェースプレート96、支持枠92及び電子源基板80で外囲器98を構成しても良い。また、フェースプレート96、リアプレート91間に、スペーサーとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度をもつ外囲器98を構成することもできる。
【0083】
また、図9にフェースプレート96に形成された蛍光膜94の模式図を示す。蛍光膜94は、電子源から放出された電子によって画像を形成する画像形成部材である。蛍光膜94は、モノクロームの場合は蛍光体85のみから構成することができる。カラーの蛍光膜の場合は、ブラックストライプ(図9(a))、ブラックマトリクス(図9(b))などと呼ばれる黒色導電材86と蛍光体85とから構成することができる。
【0084】
ブラックストライプ、ブラックマトリクスを設ける目的は2つある。1つ目は、カラー表示の場合、必要となる三原色蛍光体の各蛍光体85間の塗り分け部を黒くすることで混色等を目立たなくすることである。そして2つ目は、蛍光膜94における外光反射によるコントラストの低下を抑制することにある。ブラックストライプの材料としては、通常用いられている黒鉛を主成分とする材料の他、導電性があり、光の透過及び反射が少ない材
料を用いることができる。
【0085】
ガラス基体93に蛍光体を塗布する方法は、モノクローム、カラーによらず、沈澱法、印刷法等が採用できる。蛍光膜94の内面(電子源側の面)には、通常メタルバック95が設けられる。メタルバックを設ける目的は3つあり、1つは、蛍光体の発光のうち内面側への光をフェースプレート96側へ鏡面反射させることにより輝度を向上させることにある。そして、電子ビーム加速電圧を印加するための電極として作用させること、外囲器内で発生した負イオンの衝突によるダメージから蛍光膜94を保護すること等も、メタルバックを設ける目的である。メタルバック95は、蛍光膜作製後、蛍光膜の内側表面の平滑化処理(通常、「フィルミング」と呼ばれる。)を行い、その後Alを真空蒸着等を用いて堆積させることで作製できる。
【0086】
フェースプレート96には、蛍光膜94の導電性を高めるため、蛍光膜94の外面側(外側の面;ガラス基板側の面)に透明電極(不図示)が更に設けられていてもよい。
【0087】
本実施形態に係る画像表示装置において、電子放出素子71が直上に電子ビームを放出するため、蛍光膜94は電子放出素子71の直上に配置される。
【0088】
次に、封着工程を施した外囲器(パネル)を真空封止するための真空封止工程について説明する。
【0089】
真空封止工程は、まず、外囲器(パネル)98を加熱して、80〜250℃に保持しながら、イオンポンプ、ソープションポンプなどの排気装置により、排気管(不図示)を通じて排気する。そして、有機物質の十分少ない雰囲気にした後、排気管をバーナーで熱して溶解させて封じきる。外囲器98の封止後の圧力を維持するために、ゲッター処理を行うこともできる。これは、外囲器98の真空封止を行う直前あるいは封止後に、抵抗加熱あるいは高周波加熱等を用いた加熱により、外囲器98内の所定の位置(不図示)に配置されたゲッターを加熱し、蒸着膜を形成する処理である。ゲッターは通常Ba等が主成分であり、該蒸着膜の吸着作用により、外囲器98内の雰囲気を維持するものである。
【0090】
以上の工程によって製造された画像表示装置は、各電子放出素子に、容器外端子Dox1〜Doxm、Doy1〜Doynを介して電圧を印加する。これにより、電子放出素子から電子が放出される。
【0091】
高圧端子97を介してメタルバック95、あるいは透明電極(不図示)に高圧電圧を印加することで、電子ビームは加速する。
【0092】
加速された電子は、蛍光膜94に衝突する。これにより、蛍光膜94は発光し、画像を形成する。
【0093】
図10はNTSC方式のテレビ信号に応じて画像を表示するための駆動回路の一例を示すブロック図である。
【0094】
図10の駆動回路について説明する。この回路は、内部にM個のスイッチング素子を備えたもので(図中,S1ないしSmで模式的に示している)ある。各スイッチング素子は、直流電圧源Vx1の出力電圧もしくは直流電圧源Vx2のいずれか一方を選択し、表示パネル1301の容器外端子Dox1ないしDoxmと電気的に接続される。S1乃至Smの各スイッチング素子は、制御回路1303が出力する制御信号Tscanに基づいて動作するものであり、例えばFETのようなスイッチング素子を組み合せることにより構成することができる。直流電圧源Vx1は、電子放出素子の特性に基づき設定されている

【0095】
制御回路1303は、外部より入力する画像信号に基づいて適切な表示が行なわれるように各部の動作を整合させる機能を有する。制御回路1303は、同期信号分離回路1306より送られる同期信号Tsyncに基づいて、各部に対してTscanおよびTsftおよびTmryの各制御信号を発生する。
【0096】
同期信号分離回路1306は、外部から入力されるNTSC方式のテレビ信号(NTSC信号)から同期信号成分と輝度信号成分とを分離する為の回路で、一般的な周波数分離(フィルター)回路等を用いて構成できる。同期信号分離回路1306によりNTSC信号から分離された同期信号は、垂直同期信号と水平同期信号より成るが、ここでは説明の便宜上Tsync信号として図示した。NTSC信号から分離された画像の輝度信号成分は便宜上DATA信号と表した。該DATA信号はシフトレジスタ1304に入力される。
【0097】
シフトレジスタ1304は、時系列的にシリアルに入力されるDATA信号を、画像の1ライン毎にシリアル/パラレル変換するためのもので、制御回路1303より送られる制御信号Tsftに基づいて変換する。即ち、制御信号Tsftは,シフトレジスタ1304のシフトクロックであるということもできる。シリアル/パラレル変換された画像1ライン分(電子放出素子N個分の駆動データに相当)のデータは、Id1乃至IdnのN個の並列信号として出力され、ラインメモリ1305に入力される。
【0098】
ラインメモリ1305は、画像1ライン分のデータを必要時間の間だけ記憶する為の記憶装置であり、制御回路1303より送られる制御信号Tmryに従って適宜Id1乃至Idnの内容を記憶する。記憶された内容は、Id’1乃至Id’nとして出力され、変調信号発生器1307に入力される。
【0099】
変調信号発生器1307は、画像データId’1乃至Id’nの各々に応じて本実施形態の電子放出素子の各々を適切に駆動変調する為の変調信号の信号源である。変調信号発生器1307からの出力信号は、端子Doy1乃至Doynを通じて表示パネル1301内の電子放出素子に印加される。
【0100】
本電子放出素子にパルス状の電圧を印加する場合、例えば、電子放出電圧(電子を放出させるために必要な電圧)以下の電圧を印加しても電子放出は生じないが、電子放出電圧以上の電圧を印加すると電子ビームが出力される。その際、パルスの波高値Vmを変化させる事により出力電子ビームの強度を制御することが可能である。また、パルスの幅Pwを変化させることにより出力される電子ビームの電荷の総量を制御する事が可能である。
【0101】
従って、入力信号に応じて電子放出素子を変調する方式としては、電圧変調方式、パルス幅変調方式等が採用できる。
【0102】
電圧変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器1307として、一定長さの電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜パルスの波高値を変調するような電圧変調方式の回路を用いることができる。
【0103】
パルス幅変調方式を実施するに際しては、変調信号発生器1307として、一定の波高値の電圧パルスを発生し、入力されるデータに応じて適宜電圧パルスの幅を変調するようなパルス幅変調方式の回路を用いることができる。
【0104】
シフトレジスタ1304やラインメモリ1305は、デジタル信号式あるいはアナログ
信号式のものを採用できる。画像信号のシリアル/パラレル変換や記憶が所定の速度で行なわれれば良いからである。
【0105】
デジタル信号式を用いる場合には、同期信号分離回路1306の出力信号DATAをデジタル信号化する必要があり、同期信号分離回路1306の出力部にA/D変換器を設ければ良い。これに関連してラインメモリ1305の出力信号がデジタル信号かアナログ信号かにより、変調信号発生器1307に用いられる回路が若干異なるものとなる。具体的には、デジタル信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器1307には、例えばD/A変換回路を用い、必要に応じて増幅回路などを付加する。パルス幅変調方式の場合、変調信号発生器1307には、例えば、高速の発振器、当該発振器の出力する波数を計数する計数器(カウンタ)、及び、計数器の出力値とラインメモリの出力値を比較する比較器(コンパレータ)を組み合せた回路を用いる。必要に応じて、比較器の出力するパルス幅変調された変調信号を、本実施形態の電子放出素子の駆動電圧にまで増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0106】
アナログ信号を用いた電圧変調方式の場合、変調信号発生器1307には、例えばオペアンプなどを用いた増幅回路を採用でき、必要に応じてレベルシフト回路などを付加することもできる。パルス幅変調方式の場合には、例えば、電圧制御型発振回路(VCO)を採用でき、必要に応じて変調信号を本実施形態の電子放出素子の駆動電圧まで増幅するための増幅器を付加することもできる。
【0107】
ここで述べた画像形成装置の構成は、本発明を適用可能な画像形成装置の一例であり、本発明の技術思想に基づいて種々の変形が可能である。例えば、本実施形態の入力信号はNTSC方式の信号であるが、入力信号はこれに限られるものではなく、PAL、SECAM方式などの他、これよりも多数の走査線からなるTV信号(例えば、MUSE方式をはじめとする高品位TV)方式も採用できる。
【0108】
また表示装置の他、感光性ドラム等を用いて構成された光プリンターとしての画像形成装置等としても用いることができる。
【0109】
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0110】
<実施例1>
電子放出素子の製造方法の具体例を実施例1とし、図3を用いて詳しく説明する。また、実施例1で作製された電子放出素子と比較するための2つの電子放出素子(比較例1,2で作製された電子放出素子)を作製した。比較例1は工程2(図3(b))を行わずに作製する例であり、比較例2は工程5(図3(e))を行わずに作製する例である。
【0111】
(工程1)
まず、基板1としてガラス基板(PD200:旭硝子(株)製)を用い、十分洗浄を行った後、スパッタ法によりカソード電極2として厚さ500nmのTiNを成膜した。
【0112】
次に、カソード電極2上にHF−CVD法により厚さ50nmのDLC膜を形成した。成膜条件を以下に示す。
ガス : CH
ガス圧 : 300mPa
基板温度 : 室温
基板バイアス : −50V
【0113】
そして、コバルトイオンを、イオン注入法を用いて、DLC膜に注入した。注入は2回
行い、夫々、10keVの加速電圧と30keVの加速電圧で行われた。なお、どちらの注入処理も、ドーズ量が5×1016個/cmの条件で行われた。
【0114】
次に、カソード電極2、及び、コバルトイオンを含むDLC膜、を備えた基板1を、真空中で400℃1時間アニールした。
【0115】
そして、DLC膜の表面を透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、50nmの膜厚のうち、多少の濃度分布はみられたが、DLC膜は全域にわたって平均粒径が直径4.5n
mであるコバルトの粒子を含んでいることが観察された。
【0116】
(工程2)
次に、基板を大気雰囲気の焼成炉内で、250℃で10分間加熱した。加熱温度を300℃にすると金属粒子周辺のDLC膜の膜厚減少が生じるため、250℃で10分間という条件を選択した。
【0117】
そして、DLC膜の表面をXPS法で分析し、コバルトの化学結合状態を観察した。図11(a)は最表面の結合状態であり、図11(b)は、表面をArスパッタで5nm削った後に測定した膜内部の結合状態である。
【0118】
図11の横軸はBinding Energy[eV]であり、縦軸は測定における1秒あたりのカウント数である。本測定により、最表面と、最表面から約5nmの深さの範囲の化学状態が測定される。図中の二つのピークは、それぞれCoの2p 3/2 (778.8eV)とCoの2p 1/2 (793.eV)のピークである。化学状態の変化は、それぞれのピークのエネルギーシフトとして測定される。金属から金属酸化物への変化は高結合エネルギー側へのピークシフトとして測定され、理論的にはCoの2p 3/2 はCo金属では778.8eVであるが、CoOでは780eVとなる。
【0119】
図11(a)では、ピークがブロードである。これは、CoのピークだけでなくCoOのピークを含んでいるためであると示唆される。図11(b)では、ピークがシャープであり、Co金属のピークが支配的であると示唆される。
【0120】
(工程3)
次に、DLC膜上に、絶縁層7として厚さ1μmのSiOを堆積した。そして、絶縁層7上にゲート電極8として厚さ200nmのPtを堆積した。
【0121】
(工程4)
次に、フォトリソグラフィー法を利用してレジストのマスクパターンを形成した。そして、Ptのゲート電極8をArプラズマエッチングによりエッチングし、SiOの絶縁層7をCFガスを用いたドライエッチングによりエッチングした。エッチングの後、マスクパターンを剥離し、十分な洗浄を行った。
【0122】
(工程5)
次に、工程1〜4を経て得られた素子を、メタンと水素の混合ガス雰囲気中で熱処理し、表面にダイポール層20を形成した。熱処理条件を以下に示す。
熱処理温度 : 600℃
加熱方式 : ランプ加熱
処理時間 : 60min
混合ガス比 : メタン/水素=15/6
熱処理時圧力 : 6kPa
【0123】
以上の工程を経て、実施例1の電子放出素子が作製された。また、比較例1、比較例2の電子放出素子も同時に作製された。
【0124】
本実施例で作製された電子放出素子、及び、比較例1,2の電子放出素子の電子放出特性を測定した。測定は、電子放出素子を真空装置内に配置し、素子の上方の離れた位置にアノード電極(不図示)を素子に対向して配置し、ゲート電極とカソード電極との間に駆動電圧を印加することにより行われた。
【0125】
本実施例の電子放出素子は良好な電子放出特性を示した。具体的には、当該電子放出素子は、明確な閾値電界(電子放出電圧)を有し、低電界強度で電子を放出した。また、この電子放出特性(良好な電子放出特性)は、本実施例の製造方法で作製された複数の電子放出素子全てについて確認できた。
【0126】
それに対し、比較例2の製造方法で作製された複数の電子放出素子には、駆動直後から電子を放出する電子放出素子と、まったく電子を放出しない電子放出素子とが混在した。電子を放出しない素子は、ダイポール層が形成されていないため、電子が放出されない(電子放出特性が悪い)ということがわかった。
【0127】
実施例1の電子放出素子と比較例1の電子放出素子を比較した。比較例1の製造方法では、比較例2の製造方法よりも、同じような特性を示す電子放出素子を安定して製造することができた。しかし、比較例1の電子放出素子は、実施例1の電子放出素子よりも電子放出特性が悪かった。この原因を調べたところ、比較例1の電子放出素子は、実施例1の電子放出素子に比べ、表面コバルト濃度が少なかった。また、コバルトが減少した工程を調べたところ、工程4におけるレジストの剥離を行う際に、濃度の減少が起こっていることがわかった。これは、剥離液にコバルト金属が溶出したためと考えられる。
【0128】
比較例1の電子放出素子のビーム径を観察したところ、ビームはひろがっていた。また、電子放出素子に繊維状の成長があるものがあった。複数の電子放出素子の内のいくつかは、駆動するうちに電子が出なくなってしまった。これは、繊維状のものが移動したり変質したりしたためと考えられる。例えば、駆動中に繊維状のものがちぎれたことによって駆動しなくなったと考えられる。
【0129】
この繊維状のものは、カーボンファイバであると考えられる。このカーボンファイバは、終端化処理(工程5)を行うことによって、DLC膜の表面付近に存在する金属粒子の一部(よりDLC膜の表面に近い部分;特異点)から発生、成長したものと考えられる。
【0130】
酸化工程(工程2)を経たものでは、そのような特異点は選択的に酸化されるため、カーボンファイバの成長は生じなかったと考えられる。カーボンファイバの成長が生じないことにより、DLC膜の表面のダイポール層は駆動に対して安定していると考えられる。
【0131】
本実施例の製造方法では、金属を酸化雰囲気にさらす工程を含んでいるため、その後のプロセスの安定性が確保される。その結果、所望の電子放出特性を得ることができる電子放出素子を安定して作製することができる。
【0132】
<実施例2>
電子放出素子の製造方法の他の具体例を実施例2とし、図12を用いて詳しく説明する。本実施例で作製される電子放出素子は、カソード電極の上に保護層を挟んで第2のカソード電極を備える電子放出素子である。
【0133】
(工程1)
実施例1と同様に、基板1としてPD200を用い、十分洗浄を行った後、スパッタ法によりカソード電極2(第1のカソード電極)として厚さ500nmのTiNを成膜した(図12(a))。
【0134】
次に、ニッケルとアモルファスカーボンをターゲットとする共スパッタ(スパッタ法)により、厚さ30nmの、ニッケルとカーボンの混合膜を形成した。ニッケルの濃度は、4atmic%となっていた。
【0135】
そして、当該混合膜の表面を透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、不明瞭ではあるものの、平均粒径が直径3nmであるニッケルの粒子を含むカーボン膜が観察された。
【0136】
ニッケル粒子が不明瞭であったため、上記工程を経て得られた、第1のカソード電極と混合膜を備える基板を、真空雰囲気で、300℃で1時間加熱した後、80℃まで冷却した。そして、真空を破って大気暴露し、室温まで戻した。
【0137】
この処理の後に、混合膜の表面を透過型電子顕微鏡で観察したところ、粒子が明瞭に観察され、平均粒径が直径6nmであるニッケルの粒子を含むカーボン膜が観察された。
【0138】
そして、膜の表面をXPS法で分析し、ニッケルの化学結合状態を観察したところ、表面にNi−Oの結合が観察された。すなわち、上記大気暴露により実施例1の工程2の酸化工程と同等の工程が成された。
【0139】
(工程2)
次に、上記混合膜の上に保護層121として厚さ50nmのSiO層を堆積し、保護層121の上に第2のカソード電極122として厚さ50nmのTiNを堆積し、そして、第2のカソード電極の上に絶縁層7として厚さ1μmのSiOを堆積した。さらに、絶縁層7の上にゲート電極8として厚さ200nmのPtを堆積した(図12(b))。
【0140】
(工程3)
次に、フォトリソグラフィー法を用いてレジストのマスクパターンを形成した。そして、Ptのゲート電極8をArプラズマエッチングによりエッチングし、SiOの絶縁層7をCFガスで、TiNのカソード電極122をBClガスを用いたドライエッチングによりそれぞれエッチングした(図12(c))。エッチングをした後、マスクパターンを剥離し、十分な洗浄を行った。さらに、バッファードフッ酸を用いて、SiOの保護層を取り除いた(図12(d))。
【0141】
(工程4)
次に、工程1〜3を経て得られた素子を、実施例1と同様に熱処理し、表面にダイポール層20を形成した(図12(e))。
【0142】
以上の工程を経て、実施例2の電子放出素子(図12(f))が作製された。
【0143】
実施例2の電子放出素子は、実施例1と同様に、良好な電子放出特性を示した。また、実施例2における酸化工程は、大気暴露により行われた。当該大気暴露によって所望とする安定性と電子放出特性の両方を得ることができるのは、実施例1と比較して、ニッケルが酸化しやすい材料であり、且つ、アモルファスカーボンがカーボンを介しても酸化しやすい材料だからである。
【0144】
また、本実施例では、終端化の直前まで電子放出膜上に保護層121が存在するため、変形例1で起こったような剥離液での影響は、無視できる。しかしながら、変形例2で示
したファイバ状の異常成長に関しては、実施例1より違いが明白に現れた。
【0145】
<実施例3>
実施例3は電子放出素子の製造方法の他の具体例であり、実施例2の製造方法の変形例である。
【0146】
(工程1)
実施例2と同様に、基板1としてPD200を用い、十分洗浄を行った後、スパッタ法により第1のカソード電極2として厚さ500nmのTiNを成膜した。
【0147】
次に、ニッケルとアモルファスカーボンをターゲットとする共スパッタ(スパッタ法)により、ニッケルとカーボンの混合膜を30nm形成した。ニッケルの濃度は、4atmic%となっていた。
【0148】
そして、当該混合膜の表面を透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、不明瞭ではあるものの、平均粒径が直径3nmであるニッケルの粒子を含むカーボン膜が観察された。
【0149】
(工程2)
次に、上記混合膜上に保護層121として厚さ50nmのSiO層を堆積し、保護層121上に第2のカソード電極122として厚さ50nmのTiNを堆積し、そして、第2のカソード電極上に絶縁層7として厚さ1μmのSiOを堆積した。さらに、絶縁層7上にゲート電極8として厚さ200nmのPtを堆積した。
【0150】
(工程3)
次に、フォトリソグラフィー法を用いてレジストのマスクパターンを形成した。そして、Ptのゲート電極8をArプラズマエッチングでエッチングし、SiOの絶縁層7、をCFガスで、TiNのカソード電極122をBClガスを用いたドライエッチングによりそれぞれエッチングした。エッチングをした後、マスクパターンを剥離し、十分な洗浄を行った。さらに、バッファードフッ酸を用いて、SiOの保護層を取り除いた。
【0151】
(工程4)
次に、工程1〜3を経て得られた素子を、大気雰囲気で、80℃で10分間保持し、その後真空に排気し、300℃で1時間加熱した。そして、メタンと水素の混合ガスを実施例1と同様に導入し、さらに温度を上昇させ、60分保持した。その後、ガス雰囲気中で降温させて、表面にダイポール層20を形成した。
【0152】
以上の工程を経て、実施例3の電子放出素子が作製された。
【0153】
実施例3の電子放出素子において、混合膜の表面を透過型電子顕微鏡で観察した。その結果、第2実施例と同様に金属粒子が明瞭に観察された。また、実施例3の電子放出素子の電子放出特性を測定した。その結果、実施例2と同様に、良好な電子放出特性を示した。
【0154】
以上述べたように、本発明の実施形態に係る電子放出素子の製造方法は、製造過程において安定で、かつ、低電圧で高効率な電子放出を安定して行うことのできる電子放出素子を作製することができる。また、本実施形態に係る電子放出素子は、上述したような非常に単純な工程で作製できるため、低電界で電子放出可能な電子放出素子を比較的安価でかつ再現性よく安定に作製することができる。
【0155】
<実施例4>
実施例1で作製した電子放出素子を用いて画像表示装置を作製した。
【0156】
実施例1で作製した電子放出素子を100×100のマトリクス状に配置して電子源を構成した。本実施例の電子放出素子は、横300μm、縦300μmのピッチで配置した。各電子放出素子の上方に、赤、青、緑に発光する蛍光体の中のいずれかの蛍光体を配置した。
【0157】
上記電子源を線順次駆動することによって、画像を表示したところ、コントラストに優れた、高輝度・高精細な画像表示を行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】図1(a)〜図1(c)は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【図2】図2(a)〜図2(c)は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子の一例を示す図である。
【図3】図3(a)〜図3(f)は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【図4】図4(a)および図4(b)は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子のバンドダイヤグラムである。
【図5】図5は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子における電子放出原理を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施の形態に係る電子源の一例を示す図である
【図7】図7は、本発明の実施の形態に係る電子源の一例を示す図である。
【図8】図8は、本発明の実施の形態に係る画像表示装置の一例を示す図である。
【図9】図9は、本発明の実施の形態に係る画像表示装置の蛍光体を示す図である。
【図10】図10は、本発明の実施の形態に係る画像表示装置の駆動回路の一例を示す図である。
【図11】図11(a)および図11(b)は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子における金属粒子のXPSスペクトルを示す図である。
【図12】図12(a)〜図12(f)は、本発明の実施の形態に係る電子放出素子の製造方法の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0159】
1 基板
2 カソード電極
3 カーボン層
4 金属粒子
5a 第1層
5b 第2層
6 電子放出材
11 ダイポール層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性の金属粒子が含まれたカーボン層を用意する工程と、
前記導電性の金属粒子の一部を酸化させる工程と、
前記カーボン層の表面にダイポール層を形成する工程と、
を有することを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
前記導電性の金属粒子の一部を酸化させる工程は、前記導電性の金属粒子が含まれたカーボン層を、酸素を含む酸化雰囲気にさらす工程である
ことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電子放出素子の製造方法で製造された
ことを特徴とする電子放出素子。
【請求項4】
請求項3に記載の電子放出素子を複数備える
ことを特徴とする電子源。
【請求項5】
請求項4に記載の電子源と、
前記電子源から放出された電子によって画像を形成する画像形成部材と、
を備えることを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−146639(P2009−146639A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320639(P2007−320639)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】