説明

電子線照射装置および電子線照射方法

【課題】小型でかつ不活性ガスの使用量が少なく、電子線照射処理のサイクルタイムが短く、かつ電子線照射の均一性が高い電子線照射装置および電子線照射方法を提供すること。
【解決手段】電子線を放射する電子線照射管22を有する電子線放射部20と、放射された電子線を被照射物1に照射する電子線照射部30と、電子線放射部30に被照射物1を搬送する搬送機構50と、電子線を照射する際に被照射物1を自転させる回転機構76と、電子線を照射する際に被照射物1と電子線照射管22との間に、電子線照射管22が被照射物1の直上を通るような相対的な直線移動を生じさせる直動機構78とを具備し、直動機構78は、電子線照射管22が被照射物1の端部から中心に向いその電子線放射部位22aの中心が被照射物の中心に達する前に折り返すような相対的な直線移動を生じさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、表示装置、光ディスク、メガネレンズ、IDカード等の被照射物に電子線を照射してその上に形成された印刷インキ、塗料、接着剤、粘着剤、硬質保護膜等の被覆物の架橋・硬化、または、被照射物の殺菌や改質等の処理のために電子線を照射する電子線照射技術に関する。
【背景技術】
【0002】
基材に施された塗料、接着剤、粘着剤、硬質保護膜等の架橋、硬化、または改質等の手段として電子線照射によるものが、これまでに多くの提案されている(特許文献1等)。この技術は、真空中で電子を加速電圧により加速し、この加速された電子を真空中、もしくは不活性ガス雰囲気下に置かれた被照射物に照射して処理するものである。
【0003】
この電子線照射による処理技術は、被照射物の加熱が極端に少ない、有機溶剤を使う必要がない、硬化開始剤を必要としない等の数多くの利点がある反面、大きなドラム型の照射管が必要であり加速電圧が高いので厳重なX線遮蔽が必要であり、酸素阻害を防止するために被照射物の雰囲気を低酸素化すべく大量の窒素ガスなどの不活性ガスを流す必要があるという技術的課題があった。
【0004】
このような技術的課題が存在するため、従来広く用いられていた電子線照射装置では装置自体が極めて大型で、重量も大きいものとならざるを得なかった。
【0005】
これに対し、被照射物の搬送系を工夫してこのような不都合を極力軽減しようとする技術が提案されている(特許文献2)。しかしながら、この技術では、ロードロック室を備えた装置全体をさらに鉛製の遮蔽室に収容する必要があり、小型化の要請に応えられるものではない。
【0006】
また、電子線照射部自体を小型化、低加速電圧化する技術も提案されている(特許文献3)。この技術は、電子線照射窓の材質を工夫して低加速電圧でも電子線の高い透過率を実現することで、X線の発生量は少なくなり、電子線照射部自体が小型化され、X線遮蔽もドラム型のものよりも簡略化することができ、電子線照射装置の一定の小型化は実現可能である。この技術を用いて比較的広い面積を有する被照射物に電子線を照射する場合、十分な線量を確保しつつサイクルタイムを短縮するために、照射管を多数配置することが行われているが、この場合には装置はその分大型化してしまい、電子線照射部の小型化のメリットを十分に活かすことができない。また、電子線照射窓を冷却するための不活性ガスの消費量が多くランニングコストも高くなってしまう。さらに、被照射物に必ずしも所望の均一性をもって電子線が照射されるとは限らず、電子線照射の均一性も求められていた。
【特許文献1】特開平2−208325号公報
【特許文献2】特開平9−101400号公報
【特許文献3】米国特許第5,414,267号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、小型でかつ不活性ガスの使用量が少なく、電子線照射処理のサイクルタイムが短い電子線照射装置および電子線照射方法を提供することを目的とする。また、以上に加えて、さらに電子線照射の均一性、すなわち被照射物の吸収線量の均一性が高い電子線照射装置および電子線照射方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点では、電子線を放射する電子線照射管を有する電子線放射部と、電子線放射部から放射された電子線を被照射物に照射する電子線照射部と、前記被照射物を前記電子線照射部に搬送する搬送機構と、前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物を自転させる回転機構と、前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を通るような相対的な直線移動を生じさせる直動機構とを具備し、前記被照射物が前記搬送機構により前記電子線照射部に搬送された際に、前記回転機構により前記被照射物を自転させ、かつ前記直動機構により前記被照射物と前記電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせながら前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射することを特徴とする電子線照射装置を提供する。
【0009】
本発明の第2の観点では、電子線を放射する電子線照射管を有する電子線放射部と、電子線放射部から放射された電子線を被照射物に照射する電子線照射部と、前記被照射物を前記電子線照射部に搬送する搬送機構と、前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物を自転させる回転機構と、前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を通るような相対的な直線移動を生じさせる直動機構とを具備し、前記被照射物が前記搬送機構により前記電子線照射部に搬送された際に、前記回転機構により前記被照射物を自転させ、かつ前記直動機構により前記被照射物と前記電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせながら前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射し、その際に、前記直動機構は、前記電子線照射管が前記被照射物の端部から中心に向いその電子線放射部位の中心が前記照射物の中心に達する前に折り返すような相対的な直線移動を生じさせることを特徴とする電子線照射装置を提供する。
【0010】
本発明の第3の観点では、X線遮蔽可能かつ気密保持可能に形成され、その中で被照射物が回動されて搬送される搬送容器と、搬送容器内で被照射物を回動させて搬送する搬送機構と、前記搬送容器内に形成され、前記被照射物に電子線を照射する電子線照射部と、前記搬送容器内に被照射物の入れ替え可能に形成された入替室と、電子線を放射する電子線照射管を有し、前記電子線照射部にて被照射物に電子線を放射する電子線放射部と、前記入替室において、被処理物の入れ替えを行う入替機構と、前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物を自転させる回転機構と、前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を通るような相対的な直線移動を生じさせる直動機構とを具備し、前記被照射物が前記搬送機構により前記回動搬送容器の前記電子線照射部に搬送された際に、前記回転機構により前記被照射物を自転させ、かつ前記直動機構により前記被照射物と前記電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせながら前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射することを特徴とする電子線照射装置を提供する。
【0011】
本発明の第4の観点では、X線遮蔽可能かつ気密保持可能に形成され、その中で被照射物が回動されて搬送される搬送容器と、搬送容器内で被照射物を回動させて搬送する搬送機構と、前記搬送容器内に形成され、前記被照射物に電子線を照射する電子線照射部と、前記搬送容器内に被照射物の入れ替え可能に形成された入替室と、電子線を放射する電子線照射管を有し、前記電子線照射部にて被照射物に電子線を放射する電子線放射部と、前記入替室において、被処理物の入れ替えを行う入替機構と、前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物を自転させる回転機構と、前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を通るような相対的な直線移動を生じさせる直動機構とを具備し、前記被照射物が前記搬送機構により前記回動搬送容器の前記電子線照射部に搬送された際に、前記回転機構により前記被照射物を自転させ、かつ前記直動機構により前記被照射物と前記電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせながら前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射し、その際に、前記直動機構は、前記電子線照射管が前記被照射物の端部から中心に向いその電子線放射部位の中心が前記照射物の中心に達する前に折り返すような相対的な直線移動を生じさせることを特徴とする電子線照射装置を提供する。
【0012】
本発明の第5の観点では、電子線照射管から放射された電子線を被照射物に照射する電子線照射方法であって、前記被照射物を自転させ、かつ前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を移動するような相対的な直線移動を生じさせながら、前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射することを特徴とする電子線照射方法を提供する。
【0013】
本発明の第6の観点では、電子線照射管から放射された電子線を被照射物に照射する電子線照射方法であって、前記被照射物を自転させ、かつ前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を移動するような相対的な直線移動を生じさせながら、前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射し、その際に、前記電子線照射管が前記被照射物の端部から中心に向いその電子線放射部位の中心が前記照射物の中心に達する前に折り返すような相対的な直線移動を生じさせることを特徴とする電子線照射方法を提供する。
【0014】
本発明の第1、第3、第5の観点によれば、回転機構により被照射物を自転させ、かつ直動機構により被照射物と電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせながら電子線照射管から被照射物に電子線を照射するので、電子線照射管は1本で十分であり、その分装置を小型化することができ、被照射物に対する酸素阻害を防止するために用いられる不活性ガスの使用量も少なくてよい。また、被照射物を自転させながら被照射物と電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせることにより、電子線照射管が1本であっても短時間で被照射物の全面を照射することができ、かつ装置自体が小型であることから装置内に不活性ガスを導入する時間も短く、したがって被照射物の電子線照射処理のサイクルタイムを短くすることができる。
【0015】
本発明の第2、第4、第6の観点によれば、上記効果に加えて、被照射物と電子線照射管との間に、電子線照射管が被照射物の端部から中心に向いその電子線放射部位の中心が前記照射物の中心に達する前に折り返すような相対的な直線移動を生じさせるので、電子線照射による吸収線量が多くなりやすい被照射物の中心部分の吸収線量を適度に抑制することができ、電子線照射の均一性、すなわち被照射物の吸収線量の均一性を高めることができる。
【0016】
上記本発明の第1、第3、第5の観点において、前記電子線照射管の電子線放射部位の中心が前記被照射物の中心を通らないように前記相対移動を生じさせることが好ましい。これにより、前記相対移動において、電子線照射管が被照射物の中心位置まで達する場合や、被照射物を通り抜ける場合に、照射線量が多くなりやすい被照射物の中心部分の照射線量を抑制することができ、電子線照射の均一性を高めることができる。
【0017】
上記本発明の第2、第4、第6の観点において、前記電子線照射管の照射線量がその中心が最も強くなるような正規分布をしている場合に、その半値幅をWとし、前記直動機構の相対的な直線移動の際の前記折り返し位置の中心からの距離をdとしたとき、d/Wは0.25〜0.79の範囲の位置である場合に、電子線照射の均一性を高くすることができる。また、上記相対的な直線移動の際の前記折り返し位置は、中心から5.8〜18.2mの位置とすることにより、電子線照射の均一性を高くすることができる。特に、折り返し位置での前記相対移動の停止がない場合には、相対的な直線移動の際の前記折り返し位置は、中心からW/2の位置とすることにより、電子線照射の均一性を高くすることができる。
【0018】
また、上記第3、第4の観点のように、X線遮蔽可能かつ気密保持可能に形成され、その中で被照射物が回動されて搬送される搬送容器と、搬送容器内で被照射物を回動させて搬送する搬送機構と、前記搬送容器内に形成され、被照射物に電子線を照射する電子線照射部と、前記搬送容器内に被照射物の入れ替え可能に形成された入替室とを有する構造の場合には、搬送系全体が被照射物の回動スペースを有すればよく、装置全体をより小型化することができる。
【0019】
この場合に、前記入替機構が、被照射物を保持する被照射物保持トレイと、前記被照射物保持トレイを前記搬送容器の前記入替室が形成される部分と前記搬送容器の外部との間で搬送させる外部搬送機構とを有し、前記被照射物保持トレイは、前記搬送容器の外部で保持した被照射物を保持したままの状態で前記入替室の一部となり、前記入替室に位置する支持トレイと協同して前記入替室をX線遮蔽状態かつ気密状態に形成し、その状態で前記被照射物保持トレイから当該支持トレイに対し被照射物が受け渡されるように構成されることにより、被照射物保持部材および支持部材がロードロック扉として機能し、かつ支持部材は被照射物の搬送台としても機能するので、装置全体が極めてコンパクトなものとなり、搬送室に充填される不活性ガスの使用量もより削減され、不活性ガス置換のための時間もその分短縮され、サイクルタイムの短縮を実現することができる。
【0020】
また、気密保持された前記入替室を減圧する減圧機構と、減圧した後または減圧しながら前記入替室に不活性ガスを導入して前記入替室を不活性ガスで置換するガス機構をさらに具備し、被照射物を入替する際には前記入替室内を大気開放し、被照射物を搬入した後は、前記入替室を不活性ガス雰囲気とすることにより、入替室のロードロック機能を有効に発揮させることができる。
【0021】
さらに、前記搬送機構が、被照射物を支持する被照射物支持部材を有する複数の支持トレイを備え、一つの支持トレイが前記電子線照射部に位置するとき、他の少なくとも一つの支持トレイが前記入替室に位置し、その状態で前記電子線照射部において一つの被照射物に電子線照射しながら、前記入替室において他の被照射物の入れ替えを行うことが可能とすることにより、被照射物の入替と並行して電子線照射処理を行うことができるのでサイクルタイムを一層短縮することができる。
【0022】
さらにまた、前記搬送機構を上下動させる上下動機構をさらに具備し、前記被照射物支持部材が前記支持トレイ内で被照射物を支持した状態で前記支持トレイが前記入替室に位置決めされた際に、前記上下動機構により前記搬送機構が上昇されて前記入替室がX線遮蔽状態および気密状態とされるようにすることにより、極めて簡単に入替室を形成することができる。
【0023】
さらにまた、前記回転機構は、前記被照射物支持部材に回転駆動力を伝達する動力伝達部材と動力伝達部材に取り付けられた回転軸と、前記回転軸を回転させる回転駆動部とを有し、前記直動機構は、前記動力伝達部材をおよび前記回転軸を水平に移動させて前記被照射物支持部材に直線駆動力を伝達する直線駆動部とを有し、前記動力伝達部材が前記被照射物支持部材に対して接離可能に設けられている構成とすることができる。
【0024】
上記いずれの観点においても、前記電子線照射管を真空管型のものとすることにより、80kV以下という低加速電圧でも電子線の透過力の低下が小さく、有効に電子線を取り出すことができ、電子線照射装置のさらなる小型化を実現することができる。また、このように加速電圧が低いことにより、被照射物に対し低深度で効率的に電子線を作用させることが可能となり、基材への悪影響および2次X線の発生量を低下させることができるようになり、X線遮蔽のための材料として有害な鉛の代わりにステンレススチール等の使用が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、電子線照射管を1本とすることができるので、その分装置を小型化することができ、不活性ガスの使用量も少なくてよく、ランニングコストが低い。また、電子線照射管が1本であっても短時間で被照射物の全面を照射することができ、かつ装置内に不活性ガスを導入する時間も短く、電子線照射処理のサイクルタイムを短くすることができる。さらにまた、吸収線量が多くなりやすい被照射物の中心部分の吸収線量を適度に抑制することができ、電子線照射の均一性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る電子線照射装置を示す垂直断面図であり、図2はその水平断面図である。
【0027】
本実施の形態の電子線照射装置100は、X線遮蔽可能かつ気密保持可能な搬送容器であるチャンバ10と、このチャンバ10の天壁部に設けられた電子線放射部20を有している。また、チャンバ10内には、被照射物1に電子線を照射する電子線照射部30および被照射物1を入れ替えるための入替室40が形成される。また、電子線照射装置100は、チャンバ10内で被照射体を回動させて搬送する搬送機構50と、入替室40において被照射物を入れ替える入替機構60と、電子線照射部30にて被照射物を回転させ、かつ直動させる回転・直動部70とを有している。
【0028】
搬送機構50は、被照射物1を支持する2つの支持トレイ51と、それぞれの支持トレイ51を直線的にスライド可能な状態で支持するとともに、これら支持トレイ51を回動(公転)させる回動アーム53とを有しており、この回動アーム53は、チャンバ10の中央に設けられた回動軸54を回動中心として回動するようになっている。なお、本明細書において、「回動」とは、回転のように一方向(またはその反対方向)に連続的に被照射物が回るのではなく、一方向またはその反対方向に所定量だけ回りそこで停止するようにして、その停止位置を変えるように回ることを意味する。
【0029】
回動アーム53は、回動軸54を挟んで直線的に設けられており、2つの支持トレイ51は互いに180°離隔している。回動軸54は、チャンバ10の下方に設けられた回転モータ55により回転され、これにより回動アーム53がチャンバ10内を回動する。また、回動軸54はシリンダ56により上下動可能となっており、これにより回動アーム53および支持トレイ51が上下動される。
【0030】
回動アーム53は板状をなしており、その上には、各支持トレイ51に対応した2対のリニアガイドレール57が設けられている。各リニアガイドレール57にはその上をスライド可能にスライダー58が設けられ、このスライダー58に支持トレイ51が取り付けられており、これにより支持トレイ51がスライド可能となっている。支持トレイ51は有底で上部に開口を有する円筒状をなしており、その中央部には、被照射物1を着脱自在に支持するための被照射物支持部材59が回転可能に設けられている。なお、後述するように、支持トレイ51内で被照射物1を支持する被照射物支持部材59を回転させる回転軸81が下方に延びるように設けられており、回動アーム53には回転軸81が移動可能な長孔53aが設けられている。
【0031】
被照射物1は、たとえば、表面に印刷インキ、塗料、接着剤、保護膜剤等の樹脂層がスピンコートや塗布やスプレー等の方法により被覆された板状物からなる。
【0032】
チャンバ10の壁面には、不活性ガス導入管11、ガス排出管12、および酸素濃度センサ13が接続されており、図示しないガス制御部により、酸素濃度センサ13で測定されるチャンバ10内の酸素濃度が所定の値以下となるように、窒素ガス等の不活性ガスの流量が制御されるようになっている。
【0033】
電子線放射部20は、チャンバ10に対して気密に接続され、X線を遮蔽するシールドボックス21と、このシールドボックス21内に収容された1本の電子線照射管22と、電子線照射管22から被照射物1に対する電子線の照射の有無を制御するシャッタ機構23とを具備している。シャッタ機構23は、図3に詳細に示すように、シャッタ24と、シャッタ24を揺動可能に支持する揺動軸25と、シャッタ24を揺動軸25を中心として揺動させ、シャッタ24を開閉させる揺動機構26とを備えている。電子線照射管22はシールドボックス21の下端の開口部に電子線射出部を下向きにして配置される。なお、照射を開始する際に被照射物1を電子線が照射されない位置に位置させることができればシャッタ24は必ずしも必要がない。また、電子線照射管22は、照射処理の間、常時電子線を放射しているが電子線照射管22の電子線放射をオン・オフするようにしてもよい。
【0034】
チャンバ10の電子線照射部30におけるシールドボックス21の装着部には、電子線照射管22の下端近傍に冷却用の不活性ガス、例えば窒素を流通させるための不活性ガス導入管32および不活性ガス排出管33が設けられている。不活性ガス導入管32には冷却用に供給する不活性ガスの流量を制御する不活性ガス導入制御弁32aが設けられており、図示しないガス制御部により電子線照射管22の下端部領域から温度センサ34で検出された温度に基づいて不活性ガスの供給の有無や流量を制御することで、必要最小限の量の不活性ガスで効果的に電子線照射管22を冷却することが可能になっている。なお、このように供給される冷却用の窒素ガス等の不活性ガスによりチャンバ10内の酸素濃度が十分に低下すれば上記不活性ガス導入管11からの不活性ガスの導入は不要である。
【0035】
電子線照射部30は、電子線放射部20の直下に位置する。回動アーム53が搬送機構50により回動されて支持トレイ51が電子線照射部30に位置決めされ、シリンダ56により回動アーム53を上昇させた状態で被照射物1に電子線が照射される。
【0036】
チャンバ10における電子線照射部30と反対側の部分には入替室40が形成される入替室部41が設けられている。入替室部41の上部には開口部41aが形成されており、チャンバ天壁の開口部41aの周囲下部には、支持トレイ51に対応する位置に遮蔽シール46が設けられている。回転モータ55により回動軸54を回転させて支持トレイ51を開口部41aの直下へ位置決めし、シリンダ56により支持トレイ51を上昇させることにより、遮蔽シール46が支持トレイ51に押圧され、その密着部分によりその中が気密状態となる。
【0037】
チャンバ10の外部の入替室部41に対応する部分には、被照射物を入れ替えるための入替機構60が設けられている。この入替機構60は、入替室部41とチャンバ10の外部に位置する被照射物受渡部66の間を結ぶスパンを有し、上下動可能に設けられた外部搬送アーム64と、この外部搬送アーム64の両端部に設けられた2つの被照射物保持トレイ62とを備えている。
【0038】
各被照射物保持トレイ62は、下面に開口を有し上部が閉塞された扁平円筒状をなす本体62aと、外部搬送アーム64の両端部に設けられ、かつ本体62aの中央に貫通して本体62aを支持するように設けられた保持アーム62bと、保持アーム62bの下面に設けられ、被照射物1を着脱自在に保持する保持部62cを有している。保持部62cは、適宜の吸着機構、例えば真空吸着機構を有している。保持アーム62bの下端は本体62aの脱落を防止するフランジ部62dとなっており、保持部62cはフランジ部62dに設けられている。特に図示しないが、被照射物保持トレイ62の本体62aに対する保持アーム62bの挿通部にも、遮蔽シール構造が設けられ、挿通部の気密保持およびX線遮蔽が行われる構成となっている。
【0039】
外部搬送アーム64の中心部には回動軸63が設けられており、この回動軸63を介して図示しない駆動機構により外部搬送アーム64が回動および上下動される。そして、一方の被照射物保持トレイ62により被照射物受渡部66における被照射物を保持し、他方の被照射物保持トレイ62により入替室部41の支持トレイ51の被照射物を保持し、外部搬送アーム64を回動および上下動させることにより、被照射物受渡部66と入替室部41に位置する支持トレイ51との間で被照射物1の入替動作を行う。
【0040】
入替室部41におけるチャンバ天壁の開口部41aの周囲上部には、遮蔽シール65が設けられており、外部搬送アーム64が下降されることにより被照射物保持トレイ62を遮蔽シール65に密着させて気密保持およびX線遮蔽が行われるようになっている。すなわち、チャンバ10の入替室部41に支持トレイ51が位置し、その支持トレイ51が開口部41aに対応する位置において遮蔽シール46に密着された状態で、被照射物保持トレイ62が開口部41aを覆うように装着されることにより、入替室40が形成される。このとき、被照射物保持トレイ62は入替室40の一部を構成することとなる。この入替室40をロードロック室として機能させることにより、チャンバ10の内部の不活性ガスの雰囲気を損なうことなく、かつX線の漏洩を防止しつつ被照射物1の出し入れを可能にしている。
【0041】
入替室40には、入替室40の内部の排気を行う真空排気路42と、入替室40に置換ガスとして窒素ガス等の不活性ガスを供給する置換ガス供給路43とがチャンバ10の天壁を介して接続されている。置換ガス供給路43には置換ガス供給制御弁43aが設けられている。
【0042】
真空排気路42には真空ポンプ44が接続されており、その途中に排気制御弁45が設けられている。また、置換ガス供給路43には図示しない不活性ガス供給源から不活性ガスが供給され、置換ガス供給路43の途中には置換ガス供給制御弁43aが設けられ、これにより入替室40に対する不活性ガスの供給を制御可能になっている。
【0043】
上述のチャンバ10、支持トレイ51、被照射物保持トレイ62は、電子線照射にて発生するX線の遮蔽に必要な厚みの金属から構成されている。また、チャンバ10と支持トレイ51との間の遮蔽シール46、チャンバ10と被照射物保持トレイ62との間に設けられた遮蔽シール部65は、僅かな隙間があってもX線が直接漏れ出さない(外部に漏れ出すのは反射したX線のみとなる)ように図示しない段差を設けてあり、前記のX線遮蔽に必要な厚みのある金属と遮蔽シール部46,65の段差とで、X線遮蔽機構を成している。すなわち、一般に遮蔽シール部の形状が、X線発生源から2回以上反射させた後に放出されるようなものであれば、漏れ出すX線量は、通常の生活環境に存在する安全なX線レベルにまで極端に減少するので安全である。
【0044】
回転・直動部70は、電子線照射部30の下方に設けられており、支持トレイ51に動力を伝達する動力伝達部材71と、動力伝達部材71の中心に挿通され、水平に配置されてチャンバ10の外に延びる回転軸72と、チャンバ10の中央部において回転軸72を支持する回転軸支持部材73と、チャンバ10の底部に設けられ、回転軸支持部材73をガイドするリニアガイドレール74と、リニアガイドレール74の上をスライド可能に設けられ、回転軸支持部材73を支持するスライダー75と、回転軸72を回転させる回転機構としての回転モータ76と、回転軸72にベアリング77aを介して嵌め込まれた嵌合部材77と、チャンバ10に取り付けられ、回転軸72および動力伝達部材71を矢印A方向に沿って直線移動させる直動機構としてのリニアモータ78とを有している。回転モータ76は結合部材79によりリニアモータ78と結合されている。
【0045】
支持トレイ51内で被照射物を支持する被照射物支持部59は、その底面に鉛直下方に延びる回転軸81が取り付けられており、回転軸81の下端部には動力伝達部材82が固定されている。そして、回転・直動部70の動力伝達部材71を動力伝達部材82に係合させることにより、回転モータ76による回転駆動、リニアモータ78による直線駆動が伝達され、被照射物支持部59に支持された被照射物1を回転させ、かつ矢印A方向へ直動させることが可能となっている。動力伝達部材71、82としては、例えば、歯車機構、金属面が接触するタイプのもの、磁力等を用いた非接触タイプのもの等、従来公知の種々のものを用いることができる。
【0046】
回転モータ76およびリニアモータ78の駆動は、駆動制御部90により制御される。具体的には、駆動制御部90は、電子線照射部30の図1に示す位置にある支持トレイ51内の被照射物1を回転させるように回転モータ76を制御するとともに、図4の(a)〜(c)に示すように、電子線照射管22が被照射物の直上を通り、かつ電子線照射管22が被照射物1の端部1aから中心1bに向いその電子線放射部位22aの中心22bが被照射物1の中心1bに達する前の、位置1cに達した際に折り返すような移動が生じるようにリニアモータ78の駆動を制御する。
【0047】
上記電子線照射部20における電子線照射管22としては、米国特許第5,414,267号に開示されている真空管型のものを用いることが好ましい。このような真空管型の電子線照射管22は図5のように構成されている。すなわち、円筒状をなすガラスまたはセラミック製の真空管(チューブ)101と、その真空管101内に設けられ、陰極から放出された電子を電子線として取り出してこれを加速する電子線発生部102と、真空管101の端部に設けられ、電子線を射出する電子線射出部103と、図示しない給電部より給電するための給電ピン部104とを有する。電子線射出部103には上述の電子線射出部位22aとして機能する薄膜状の照射窓105が設けられている。電子線射出部103の照射窓105は、ガスは透過せずに電子線を透過する機能を有しており、スリット状をなしている。
【0048】
このような真空管型の電子線照射管22は、従来のドラム型の電子線照射源とは根本的に異なっている。従来のドラム型電子線照射源は、ドラム内を常に真空引きしながら電子線を照射するタイプのものである。従来のドラム型の電子線発生源は大型であり、上述したように搬送ラインに組み込んで用いることも、上述のようにして電子電流、加速電圧、距離等を調整することも困難であるが、このような構成の照射管を有する電子線発生源は小型であり、容易にインライン化することができるとともに、80kV以下という低加速電圧でも有効に電子線を取り出すことができ、制御性も良好であるから、上述した調整を容易に行うことができる。また、電子線照射する目的の層の下地への悪影響が小さい。また、加速電圧が小さいためX線等の放射線の発生量が小さく、放射線を遮蔽するためのシールド装置を小型化または低減することができるようになる。
【0049】
通常、電子線照射は、窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気に置換して行われるが、このような真空管型の電子線照射源の場合には、雰囲気置換の程度が高くなくてよく、条件によっては、空気に近い雰囲気になるような不活性ガス含有量の雰囲気下で照射することも可能である。
【0050】
次に、以上のように構成された電子線照射装置100の動作について説明する。
後述のように本実施形態では被照射物1の入れ替えと電子線の照射を連続的に反復するが、便宜上、図1の状態から順次説明する。
【0051】
図1では、チャンバ10の内部は、不活性ガス導入管11から導入されガス排出管12を介して流出する不活性ガスにて満たされ、酸素濃度センサ13にて検出される酸素濃度が所定の値以下となるように制御されている。
【0052】
そして、入替室部41においては、外部搬送アーム64が下降されていることにより、被照射物保持トレイ62がその外周部を遮蔽シール65を介してチャンバ10の天壁上部の開口部41aの外周部に気密に密着し、また、回動アーム53が上昇されていることにより、一方の支持トレイ51がその外周部を遮蔽シール46を介してチャンバ10の天壁下部の開口部41aの外周部に気密に密着し、密閉状態の入替室40が形成されている。一方、電子線照射部30には、他方の支持トレイ51が位置している。
【0053】
この状態から、入替機構60の一方の被照射物保持トレイ62の保持部62cにより支持トレイ51内の被照射物1を吸着保持し、それと同時に、チャンバ10の外部では、被照射物受渡部66に位置する未照射の被照射物1を他方の被照射物保持トレイ62の保持部62cで吸着保持する。そして、図6に示すように、外部搬送アーム64を上昇させ、さらに外部搬送アーム64の回動軸63を180°回動させることにより、電子線が照射済の被照射物1と未照射の被照射物1の位置を入れ換える。
【0054】
その後、図7に示すように外部搬送アーム64を降下させ、未照射の被照射物1を支持トレイ51に受け渡すとともに、照射済の被照射物1を被照射物受渡部66に受け渡す。この際に、図1と同様、密閉状態の入替室40が形成される。そして、置換ガス供給制御弁43aを閉じた状態で、真空ポンプ44により入替室40の内部を真空排気した後に排気制御弁45を閉じ、置換ガス供給制御弁43aを開くことにより、真空排気された状態の入替室40の内部に短時間に不活性ガス、例えば窒素ガスを導入する。これにより、短時間に、かつ比較的少量の不活性ガスにて、入替室40の内部を完全に置換することができる。
【0055】
このような被照射物の入替動作と同時に、図7に示すように、電子線照射部30において支持トレイ51内に位置している被照射物1に電子線を照射する。具体的には、図7に示すように、図3に示すシャッタ機構23のシャッタ24を開にし、回転・直動部70により被照射物1を回転させ、かつ矢印A方向に直動させながら、電子線照射管22から被照射物1に電子線を照射する。この際に、不活性ガス導入管32からは、電子線照射管22を冷却するための不活性ガス、例えば窒素ガスがチャンバ10内へ導入される。
【0056】
このとき、駆動制御部90により回転・直動機構70を制御して、被照射物1を回転させながら、被照射物1側から見て、図4に示すような、電子線照射管22が被照射物の直上を通り、かつ電子線照射管22が被照射物1の端部1aから中心1bに向いその電子線放射部位22aの中心が被照射物1の中心1bに達する前の位置1cに達した際に折り返すような移動が生じるようにする。
【0057】
その後、図8に示すように、シリンダ56により回動アーム53を降下させ、入替室40側の支持トレイ51の密着状態を解除した後、入れ替えた被照射物1を支持する支持トレイ51が電子線照射部30の所定の位置に位置決めされるように、回動アーム53を回動させる。このとき、照射済の被照射物1を支持する支持トレイ51が入替室部41へ搬送され位置決めされる。
【0058】
この状態から、シリンダ56により回動アーム53を上昇させて、入替室部41において支持トレイ51を遮蔽シール65に密着させ、図1の状態とする。そして、さらに上述の操作により、入替室40を形成して入替室40の被照射物1を受渡部66の被照射物1と入れ替え、それと同時に上述のようにして電子線照射部30において被照射物1に電子線を照射する。以上のような動作を繰り返すことにより、複数の被照射物1に対して連続的に効率よく電子線を照射することができる。
【0059】
次に、被照射物に対する電子線照射についてさらに詳細に説明する。
上述したように、本実施形態では、被照射物1を回転させながら、被照射物1側から見て、図4に示すような、電子線照射管22が被照射物の直上を通り、かつ電子線照射管22が被照射物1の端部1aから中心1bに向いその電子線放射部位22aの中心が被照射物1の中心1bに達する前の、中心から距離dの位置1cに達した際に折り返すような移動が生じるようにし、電子線照射線量を均一化する。
【0060】
つまり、被照射物を同一速度で回転させながら電子線照射管と被照射物との相対的な直線移動を生じさせる場合、電子線照射管22の電子線放射部位の中心が被照射体の中心に達してからもしくは中心を過ぎてから電子線照射管を折り返す、または中心を超えて他端まで移動するようにすると、周速が大きい被照射物の端部よりも周速の小さい中心部のほうが原理的に電子線照射線量が大きくなってしまい、吸収線量は不均一なものとなってしまう。これを回避する方法としては、相対的な直線移動の速度または被照射物の回転速度を変化させることが考えられるが、これのみで電子線照射線量を均一にするには制御が困難である。つまり、上記相対的な直線移動と被照射物の回転によって均一な吸収線量を得たい場合には、被照射物の回転中心部では相対的な直線移動の速度を高くする必要があり、被照射物の中心部では極端に大きな速度が要求される。搬送制御する観点からは、相対的な直線移動の最大速度、最大加速度、ならびに被照射物の回転数が設計上重要なパラメータとなり、このように極端に大きな速度を実現可能にするために性能を向上させることは装置の大型化とコストアップを招くこととなる。
【0061】
そこで、本実施形態では、上述したように、電子線照射管22の電子線放射部位22aの中心が被照射物1の中心に達する前に電子線照射管22が折り返すような電子線照射管22と被照射物1との相対的な直線移動を生じさせる。これにより、電子線吸収線量が最も大きくなる被照射物の中心付近の吸収線量を減少させて電子線吸収線量の均一化を図ることができる。
【0062】
次に、電子線照射管の折り返し位置を変化させた場合の吸収線量均一性について説明する。
電子線を照射した際の被照射物の吸収線量の線量が不足すると硬化不良が生じやすくなり、また吸収線量が多すぎると基材ダメージが大きくなったり、発熱による変質が生じたりする。したがって、被照射物の全面に亘ってこのような不都合が生じない吸収線量の均一性が必要であり被照射物中心において、平均吸収線量の−30%〜+50%の範囲にあることが好ましい。
【0063】
このことを以下の(1)、(2)の実験結果に基づいて説明する。
(1)ウレタン系電子線硬化型ハードコート剤をスピンコーターにてアクリル板上に膜厚が約2μmとなる条件で塗布し、中心吸収線量を70kGyとして表1に示す相対値の吸収線量でハードコート層を硬化させた。その後、#0000スチールウールを荷重250gで20往復させ、傷の本数で耐擦傷性を評価した。その結果を表1に示す。その結果−30%より小さい吸収線量では耐擦傷性に問題が発生することが確認された。
【0064】
(2)チオウレタン系プラスチックレンズ(MP−8、屈折率1.60)に、上記(1)で用いたのと同様のハードコート剤を同じ条件で塗布硬化後、レンズの黄変の程度(YI値)を積分球式分光光度計「CMS−35SP」(村上色彩技術研究所)にて測定した。その結果を表1に示す。YI値は3.0以下が実用範囲であるが、+50%より大きな吸収線量とすることによりYI値が3を超え、基材へのダメージが問題となることが確認された。
【0065】
以上から、被照射物中心において、平均吸収線量の−30%〜+50%の範囲の均一性を有することが好ましいことが確認された。
【0066】
【表1】

【0067】
一方、自転する被照射物へ電子線を照射する場合、周速度が遅いほど照射時間を短くする必要があるので、周速度が遅いほど照射管と被照射物との相対速度を大きくする必要がある。したがって、折り返し位置では相対速度が大きい必要がある。しかし、搬送機構を小型かつ安価にする要請からは、加速度性能をある程度下げる必要があるため、折り返し位置で若干の停止時間または低速での搬送時間を見込む必要がある。この場合には、折り返し位置において線量が増加することになる。
【0068】
そこで、折り返し位置において停止時間がない場合とある場合について、折り返し位置を変化させて吸収線量のシミュレーションを行い、吸収線量の均一性を確認した。ここでは、被照射物としてディスクを用い、その回転数を600rpm、相対的な直線移動の速度を被照射物の外周部で0mm/sとし、外周から中心に向かって移動する際に最高192mm/sとしてそれぞれ最適化を行った。電子線照射管から射出される電子線の照射線量は、通常、図9に示すように正規分布する。したがって、ここでは電子線照射管からの電子線照射線量は正規分布をなしているものとした。また、折り返し位置の影響は、図9に示す電子線照射管の半値幅Wに影響を受けるので、ここでは折り返し位置の中心からの距離dを半値幅Wで割った値、すなわちd/Wを用いた。なお、図9では、電子線照射線量の正規分布の半値幅Wが17mm、22mm、27mmの場合を示す。
【0069】
図10は、折り返し位置での停止時間がない場合のディスク状の被照射物の径方向の吸収線量分布を示す(中心吸収線量70kGy)。ここでは、d/Wを0、0.48、0.83と変化させている。この図から、d/Wが0.48の場合、つまり、折り返し位置の中心からの距離dが半値幅Wの約1/2において吸収線量均一性が最も良いことがわかる。d/Wが0、つまり照射管中心と被照射物中心とが重なり合う位置で折り返す場合は、被照射物の中心での吸収線量は平均線量の2倍以上になり、逆にd/Wが0.83の場合は、平均線量の1/4以下になってしまう。
【0070】
図11は、折り返し位置での加速度性能を考慮した場合の吸収線量分布を示し、具体的には折り返し位置で照射時間全体の約5%に相当する時間相対速度が0、つまり停止した場合を示す(中心吸収線量70kGy)。ここでは、d/Wを0、0.72、0.83と変化させている。この場合は図10と異なり、停止時間の分だけ線量は増加してしまう。したがって、図11の場合には、d/Wが0、つまり照射管中心と被照射物中心とが重なり合う位置で折り返す場合は、被照射物の中心での吸収線量は平均線量の4倍以上にもなってしまう。また、折り返し位置での停止がない図10の場合には、最もよいd/Wの値はdがWの約半分であったが、このように停止時間が存在する場合には、d/Wが0.7程度が最も良い。d/Wが0.83の場合も図10よりも被照射物の中心部の線量は増加しているが、平均線量の−40%程度なので線量不足の状況にある。この場合には、停止時間をさらに長くすることにより中心部の吸収線量を上げることも可能であるが、逆に折り返し位置(停止位置、図11では約20mmの部分)の線量が増加してしまう。
【0071】
図12は停止時間が0(T=0s)の場合と、停止時間が全照射時間の5%相当の時間の場合(T=5s)について、折り返し位置を変えた場合の被照射物の中心の吸収線量を平均値(70kGy)からの増減で示したものである。この図に示すように、吸収線量を好ましい範囲である−30%〜+50%の範囲に入れるためには、停止時間がない場合にはd/Wの値は0.25〜0.58の範囲であることが必要であり、停止時間が全照射時間の5%の場合にはd/Wの値は0.56〜0.79の範囲であることが必要である。すなわち、これら両方からd/Wの許容範囲は0.25〜0.79であり、折り返し位置での加速度性能に合わせてd/Wの値を設定すれば、良好な線量均一性が得られる。
【0072】
以上のことから、d/Wの許容範囲は0.25〜0.79の範囲内であることが好ましい。また、上記シミュレーション結果は、半値幅W=23mmで行った結果であり、d/W=0.25の場合にはd=5.8となり、d/W=0.79の場合にはd=18.2となる。したがって、dの範囲は5.8〜18.2mm程度が好ましい。また、折り返し位置で停止時間を設けない場合には、d/Wが約0.5、すなわち、折り返し位置が中心から約W/2の位置であることが好ましい。
【0073】
また、直線移動の時間(被照射物が移動を開始してから戻るまでの時間)、つまり照射時間(秒)と回転数(rpm)との積の値が300(秒・rpm)以上であることが好ましい。この値が300(秒・rpm)より低くなると、照射線量のムラが大きくなる。また、この値が大きすぎると高速回転が必要となり、装置上実用的でなくなる。この点を考慮すると1600(秒・rpm)以下が好ましい。より好ましい範囲は、400〜1600(秒・rpm)である。
【0074】
電子線照射管22と被照射物1との相対的な直線移動の速度は、電子線の照射線量の均一性を考慮して制御することが好ましい。具体的には被照射物の中心に向かうほど相対移動の速度を速くすることが好ましい。例えば、直線移動の時間、つまり被照射物が移動開始してから戻るまでの時間が2秒の例においては、被照射物1の端部付近では0〜20mm/s、中心付近では60〜180mm/sであることが好ましい。
【0075】
また、このように被照射物1を回転させながら、電子線照射管22の電子線放射部位22aの中心が被照射物1の中心に達する前に電子線照射管22が折り返すような電子線照射管22と被照射物1との相対的な直線移動を生じさせることにより、冷却のために不活性ガス導入管32を介して導入される不活性ガスのガス流を被照射物の表面で常に一定にすることができ、平坦度の高い安定した塗膜を得ることができる。
【0076】
すなわち、不活性ガスは、不活性ガス導入管32の先端部の周壁に設けられた吐出孔32bを介して、不活性ガス導入管32が延びる方向に垂直に吐出されるから、被照射物1を回転させながら電子線照射管22が被照射物1の中心を超えるような相対的な直線移動を生じさせる場合には、図13の(a),(b)に示すように、吐出孔32bが被照射物1の中心を超えることとなり、中心の前後で不活性ガスの吹き出し方向と被照射物の回転方向との関係が逆になり、未硬化の塗膜は風圧で波打ってしまう場合があり、硬化後の塗膜平坦度を損ねるが、本実施形態のように電子線照射管22の電子線放射部位22aの中心が被照射物1の中心に達する前に電子線照射管22が折り返すような相対的な直線移動を生じさせるため、不活性ガスの吹き出し方向と被照射物の回転方向との関係が逆になることはなく、平坦度の高い安定した塗膜を得ることができるのである。
【0077】
本実施形態では、このように電子線照射の均一性を高めることができる他、被照射物1を自転させ、かつ被照射物1と電子線照射管22との間に相対的な直線移動を生じさせながら1本の電子線照射管22から被照射物1に電子線を照射するので、装置を小型化することができ、被照射物1に対する酸素阻害を防止するために用いられる不活性ガスの使用量も少なくてよく、ランニングコストが低い。また、被照射物1を自転させながら被照射物と電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせることにより、1本の電子照射管22により短時間で被照射物1の全面を照射することができ、かつ装置自体が小型であることから装置内に不活性ガスを装入する時間も短く、したがって被照射物1の電子線照射処理のサイクルタイムを短くすることができる。
【0078】
また、X線遮蔽可能かつ気密保持可能であり搬送容器として機能するチャンバ10と、チャンバ10内で被照射物1を回動させて搬送する搬送機構50と、被照射物1に電子線を照射する電子線照射部30と、被照射物1を入れ替えるための入替室40とを有する構造であるため、搬送系全体が被照射物1の回動スペースを有すればよく、装置全体をより小型化することができる。
【0079】
さらに、チャンバ10の内部に設けられた被照射物1を支持する支持トレイ51と、入替機構60の被照射物保持トレイ62とで、ロードロック作用をなす入替室40を構成して、チャンバ10の内部の不活性ガスの雰囲気を損なうことなく、また、電子線放射部20から発生するX線の漏洩等を生じることなく被照射物1の入れ替え操作が可能であり、また、チャンバ10の内部を低酸素濃度に維持するための不活性ガスの使用量を削減することができる。さらに、特別なロードロック室を設ける必要がなく、また鉛製の大がかりな遮蔽室等を別個に設ける必要がないので、これによっても装置の小型化が促進される。
【0080】
電子線放射部20における真空管型照射管22の冷却のための不活性ガスは、温度センサ34にて検出される真空管型照射管22の電子線射出部位22a(照射窓105)の温度に基づくフィードバック制御にてその流量が制御されるので、不活性ガスの使用量をより一層削減することができる。
【0081】
なお、以上の実施形態において、70kGyの吸収線量で説明しているが、吸収線量としては20〜150kGyの範囲を用いることができ、好ましくは40〜100kGyである。
【0082】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。
図14は本発明の他の実施形態における被照射物と電子線照射管との間の相対的な直線移動を説明するための図である。本実施形態では、図14に示すように、電子線照射管22の電子線放射部位22aの中心22bが被照射物1の中心1bから図に示すd′だけずれた位置を通る。この場合に、前記実施形態とは異なり、被照射物1の移動による相対的直線移動において、電子線照射管22の中心位置が被照射物1の中心位置まで達しても、電子線照射管22が被照射物1を通り抜けてもよい。すなわち、電子線照射管22の中心が被照射物1の中心からずれた位置を通るので、電子線照射管22の中心位置が被照射物1の中心位置に達する場合でも被照射物1の中心部分の吸収線量を抑制することができ、電子線照射の均一性を高めることができる。なお、前記実施形態の場合には、電子線照射管22の中心が被照射物1の中心に達する前に折り返すので、相対的な直線移動の際に電子線照射管22の中心が被照射物1の中心からずれている必要はない。
【0083】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。例えば、上述の実施形態では電子線照射管として真空管型のものを例にあげて説明したが、従来のドラム型のものを使うこともできる。
【0084】
また、上記実施形態では被照射物としてディスク状のものを例として説明したが、これに限定されるものでない。また、電子線を照射して樹脂を架橋・硬化させる場合のみでなく、殺菌など他の用途にも利用することができる。
【0085】
さらに、上記実施形態では、被照射物を移動させて電子線照射管との間の相対的な直線移動を生じさせたが、電子線照射管を移動させてもよいし、これら両方を移動させてもよい。上記実施形態では、被照射物を支持する支持トレイを2つ設けた場合について示したが、3つ以上であっても構わない。さらにまた、上記実施形態では電子線照射管が1本の場合について説明したが、これに限るものではない。ただし、本発明では電子線照射管が1本で十分であり、装置の小型化の面でも1本であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の一実施形態に係る電子線照射装置を示す垂直断面図。
【図2】本発明の一実施形態に係る電子線照射装置を示す水平断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係る電子線照射装置に用いられるシャッタ機構を示す概略構成図。
【図4】本発明の一実施形態における被照射物と電子線照射管との相対的な直線移動を説明するための図。
【図5】本発明の一実施形態に係る電子線照射装置に用いられる電子線照射管を示す斜視図。
【図6】本発明の一実施形態に係る電子線照射装置の動作を説明するための当該電子線照射装置の垂直断面図。
【図7】本発明の一実施形態に係る電子線照射装置の動作を説明するための当該電子線照射装置の垂直断面図。
【図8】本発明の一実施形態に係る電子線照射装置の動作を説明するための当該電子線照射装置の垂直断面図。
【図9】電子線照射管が照射する電子線の線量分布を示す図。
【図10】折り返し位置での停止時間がない場合のディスク状の被照射物の径方向の吸収線量分布をd/Wを変化させて示す図。
【図11】折り返し位置での停止時間が全照射時間の5%相当の時間の場合のディスク状の被照射物の径方向の吸収線量分布をd/Wを変化させて示す図。
【図12】停止時間が0の場合と、停止時間が全照射時間の5%相当の時間の場合について、折り返し位置を変えた場合の被照射物の中心の吸収線量を平均値からの増減で示した図。
【図13】被照射物と電子線照射管との間に被照射物の中央近傍で折り返さない相対的な直線移動をする際の不活性ガス供給方向と被照射物の回転方向の関係を説明するための図。
【図14】本発明の他の実施形態における被照射物と電子線照射管との相対的な直線移動を説明するための図。
【符号の説明】
【0087】
1…被照射物
10…チャンバ
20…電子線放射部
22…電子線照射管
22a…電子線放射部位
30…電子線照射部
40…入替室
41…入替室部
46,65…遮蔽シール
50…搬送機構
51…支持トレイ
53…回動アーム
54…回動軸
55…回転モータ
56…シリンダ
57…リニアガイドレール
59…被照射物支持部材
60…入替機構
62…被照射物保持トレイ
64…外部搬送アーム
66…被照射室受渡部
70…回転・直動部
71,82…動力伝達部材
72…回転軸
73…回転軸支持部材
74…リニアガイドレール
76…回転モータ
77…嵌合部材
78…リニアモータ
90…駆動制御部
100…電子線照射装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を放射する電子線照射管を有する電子線放射部と、
電子線放射部から放射された電子線を被照射物に照射する電子線照射部と、
前記被照射物を前記電子線照射部に搬送する搬送機構と、
前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物を自転させる回転機構と、
前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を通るような相対的な直線移動を生じさせる直動機構と
を具備し、
前記被照射物が前記搬送機構により前記電子線照射部に搬送された際に、前記回転機構により前記被照射物を自転させ、かつ前記直動機構により前記被照射物と前記電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせながら前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射することを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
前記直動機構は、前記電子線照射管の電子線放射部位の中心が前記被照射物の中心を通らないように前記相対移動を生じさせることを特徴とする請求項1に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
電子線を放射する電子線照射管を有する電子線放射部と、
電子線放射部から放射された電子線を被照射物に照射する電子線照射部と、
前記被照射物を前記電子線照射部に搬送する搬送機構と、
前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物を自転させる回転機構と、
前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を通るような相対的な直線移動を生じさせる直動機構と
を具備し、
前記被照射物が前記搬送機構により前記電子線照射部に搬送された際に、前記回転機構により前記被照射物を自転させ、かつ前記直動機構により前記被照射物と前記電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせながら前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射し、
その際に、前記直動機構は、前記電子線照射管が前記被照射物の端部から中心に向いその電子線放射部位の中心が前記照射物の中心に達する前に折り返すような相対的な直線移動を生じさせることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項4】
前記電子線照射管の照射線量がその中心が最も強くなるような正規分布をしている場合に、その半値幅をWとし、前記直動機構の相対的な直線移動の際の前記折り返し位置の中心からの距離をdとしたとき、d/Wは0.25〜0.79の範囲の位置であることを特徴とする請求項3に記載の電子線照射装置。
【請求項5】
前記直動機構の相対的な直線移動の際の前記折り返し位置は、中心から5.8〜18.2mmの位置であることを特徴とする請求項4に記載の電子線照射装置。
【請求項6】
前記直動機構における折り返し位置での前記相対移動の停止がない場合に、相対的な直線移動の際の前記折り返し位置は、中心からW/2の位置であることを特徴とする請求項5に記載の電子線照射装置。
【請求項7】
X線遮蔽可能かつ気密保持可能に形成され、その中で被照射物が回動されて搬送される搬送容器と、
搬送容器内で被照射物を回動させて搬送する搬送機構と、
前記搬送容器内に形成され、前記被照射物に電子線を照射する電子線照射部と、
前記搬送容器内に被照射物の入れ替え可能に形成された入替室と、
電子線を放射する電子線照射管を有し、前記電子線照射部にて被照射物に電子線を放射する電子線放射部と、
前記入替室において、被処理物の入れ替えを行う入替機構と、
前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物を自転させる回転機構と、
前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を通るような相対的な直線移動を生じさせる直動機構と
を具備し、
前記被照射物が前記搬送機構により前記回動搬送容器の前記電子線照射部に搬送された際に、前記回転機構により前記被照射物を自転させ、かつ前記直動機構により前記被照射物と前記電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせながら前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射することを特徴とする電子線照射装置。
【請求項8】
前記直動機構は、前記電子線照射管の電子線放射部位の中心が前記被照射物の中心を通らないように前記相対移動を生じさせることを特徴とする請求項7に記載の電子線照射装置。
【請求項9】
X線遮蔽可能かつ気密保持可能に形成され、その中で被照射物が回動されて搬送される搬送容器と、
搬送容器内で被照射物を回動させて搬送する搬送機構と、
前記搬送容器内に形成され、前記被照射物に電子線を照射する電子線照射部と、
前記搬送容器内に被照射物の入れ替え可能に形成された入替室と、
電子線を放射する電子線照射管を有し、前記電子線照射部にて被照射物に電子線を放射する電子線放射部と、
前記入替室において、被処理物の入れ替えを行う入替機構と、
前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物を自転させる回転機構と、
前記被照射物に電子線を照射する際に、前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を通るような相対的な直線移動を生じさせる直動機構と
を具備し、
前記被照射物が前記搬送機構により前記回動搬送容器の前記電子線照射部に搬送された際に、前記回転機構により前記被照射物を自転させ、かつ前記直動機構により前記被照射物と前記電子線照射管との間に相対的な直線移動を生じさせながら前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射し、
その際に、前記直動機構は、前記電子線照射管が前記被照射物の端部から中心に向いその電子線放射部位の中心が前記照射物の中心に達する前に折り返すような相対的な直線移動を生じさせることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項10】
前記電子線照射管の照射線量がその中心が最も強くなるような正規分布をしている場合に、その半値幅をWとし、前記直動機構の相対的な直線移動の際の前記折り返し位置の中心からの距離をdとしたとき、d/Wは0.25〜0.79の範囲の位置であることを特徴とする請求項9に記載の電子線照射装置。
【請求項11】
前記直動機構の相対的な直線移動の際の前記折り返し位置は、中心から5.8〜18.2mmの位置であることを特徴とする請求項10に記載の電子線照射装置。
【請求項12】
前記直動機構における折り返し位置での前記相対移動の停止がない場合に、相対的な直線移動の際の前記折り返し位置は、中心からW/2の位置であることを特徴とする請求項11に記載の電子線照射装置。
【請求項13】
前記搬送機構は、被照射物を支持する被照射物支持部材を有する支持トレイを備え、被照射物を前記支持トレイ内で支持部材に支持させた状態で被照射物を回動させることを特徴とする請求項7から請求項12のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項14】
前記入替機構は、被照射物を保持する被照射物保持トレイと、前記被照射物保持トレイを前記搬送容器の前記入替室が形成される部分と前記搬送容器の外部との間で搬送させる外部搬送機構とを有し、前記被照射物保持トレイは、前記搬送容器の外部で保持した被照射物を保持したままの状態で前記入替室の一部となり、前記入替室に位置する支持トレイと協同して前記入替室をX線遮蔽状態かつ気密状態に形成し、その状態で前記被照射物保持トレイから当該支持トレイに対し被照射物が受け渡されることを特徴とする請求項7から請求項13のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項15】
気密保持された前記入替室を減圧する減圧機構と、減圧した後または減圧しながら前記入替室に不活性ガスを導入して前記入替室を不活性ガスで置換するガス機構をさらに具備し、被照射物を入替する際には前記入替室内を大気開放し、被照射物を搬入した後は、前記入替室を不活性ガス雰囲気とすることを特徴とする請求項14に記載の電子線照射装置。
【請求項16】
前記搬送機構は、被照射物を支持する被照射物支持部材を有する複数の支持トレイを備え、一つの支持トレイが前記電子線照射部に位置するとき、他の少なくとも一つの支持トレイが前記入替室に位置し、その状態で前記電子線照射部において一つの被照射物に電子線照射しながら、前記入替室において他の被照射物の入れ替えを行うことが可能であることを特徴とする請求項7から請求項12、および、請求項14、請求項15のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項17】
前記搬送機構を上下動させる上下動機構をさらに具備し、前記被照射物支持部材が前記支持トレイ内で被照射物を支持した状態で前記支持トレイが前記入替室に位置決めされた際に、前記上下動機構により前記搬送機構が上昇されて前記入替室がX線遮蔽状態および気密状態とされることを特徴とする請求項13から請求項16のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項18】
前記直動機構は、前記被照射支持部材を直動させて前記電子線照射管と被照射物との間の相対的な直線移動を実現することを特徴とする請求項13から請求項17に記載の電子線照射装置。
【請求項19】
前記回転機構は、前記被照射物支持部材に回転駆動力を伝達する動力伝達部材と動力伝達部材に取り付けられた回転軸と、前記回転軸を回転させる回転駆動部とを有し、前記直動機構は、前記動力伝達部材および前記回転軸を水平に移動させて前記被照射物支持部材に直線駆動力を伝達する直線駆動部とを有し、前記動力伝達部材が前記被照射物支持部材に対して接離可能に設けられていることを特徴とする請求項13から請求項17のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項20】
前記電子線照射部は、単一の電子線照射管を有することを特徴とする請求項1から請求項19のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項21】
前記電子線照射管は真空管型であることを特徴とする請求項1から請求項20のいずれか1項に記載の電子線照射装置。
【請求項22】
前記電子線照射管から取り出される電子線の加速電圧は80kV以下であることを特徴とする請求項21に記載の電子線照射装置。
【請求項23】
電子線照射管から放射された電子線を被照射物に照射する電子線照射方法であって、
前記被照射物を自転させ、かつ前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を移動するような相対的な直線移動を生じさせながら、前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射することを特徴とする電子線照射方法。
【請求項24】
前記電子線照射管の電子線放射部位の中心が前記被照射物の中心を通らないように前記相対移動を生じさせることを特徴とする請求項23に記載の電子線照射方法。
【請求項25】
電子線照射管から放射された電子線を被照射物に照射する電子線照射方法であって、
前記被照射物を自転させ、かつ前記被照射物と前記電子線照射管との間に、前記電子線照射管が前記被照射物の直上を移動するような相対的な直線移動を生じさせながら、前記電子線照射管から前記被照射物に電子線を照射し、
その際に、前記電子線照射管が前記被照射物の端部から中心に向いその電子線放射部位の中心が前記照射物の中心に達する前に折り返すような相対的な直線移動を生じさせることを特徴とする電子線照射方法。
【請求項26】
前記電子線照射管の照射線量がその中心が最も強くなるような正規分布をしている場合に、その半値幅をWとし、前記相対的な直線移動の際の前記折り返し位置の中心からの距離をdとしたとき、d/Wは0.25〜0.79の範囲の位置であることを特徴とする請求項25に記載の電子線照射方法。
【請求項27】
前記相対的な直線移動の際の前記折り返し位置は、中心から5.8〜18.2mmの位置であることを特徴とする請求項26に記載の電子線照射方法。
【請求項28】
前記折り返し位置での前記相対移動の停止がない場合に、相対的な直線移動の際の前記折り返し位置は、中心からW/2の位置であることを特徴とする請求項27に記載の電子線照射方法。
【請求項29】
電子線は単一の電子線照射管から照射されることを特徴とする請求項23から請求項28のいずれか1項に記載の電子線照射方法。
【請求項30】
被照射物を直動させることにより前記電子線照射管と被照射物との間の相対的な直線移動を実現することを特徴とする請求項23から請求項29のいずれか1項に記載の電子線照射方法。
【請求項31】
前記電子線照射管は真空管型であることを特徴とする請求項23から請求項30のいずれか1項に記載の電子線照射方法。
【請求項32】
前記電子線照射管から取り出される電子線の加速電圧は80kV以下であることを特徴とする請求項31に記載の電子線照射方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−208104(P2006−208104A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18701(P2005−18701)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】