説明

電子線装置及び該装置を用いたデバイス製造方法

【課題】 静電レンズと試料との間の放電を防止し、かつ高い電圧を印加可能で、さらに、対物レンズの軸上色収差の絶対値と軸上色収差補正レンズの軸上色収差の絶対値とが等しくなるように調整可能なパラメータを持つ対物レンズを提供する。
【解決手段】 電子線装置であって、電子線の焦点を合わせて試料に照射する対物レンズを備え、対物レンズは、試料側に向うほど半径が小さくなる、少なくとも1つの円錐形状の電極と、軸対称電極とを有し、軸対称電極は、前記円錐形状の電極より試料側に配置されたほぼ接地の電極であり、試料面での電界強度を小さくする位置に配置され、さらに、負の軸上色収差を生じる多極子レンズと、電圧制御装置とを備え、電圧制御装置が軸対称電極の電圧を調整して、もしくは軸対称電極の電圧と少なくとも1つの円錐形状の電極の電圧との双方を調整して、対物レンズの軸上色収差の絶対値を多極子レンズの軸上色収差の絶対値と等しくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線装置、該装置を用いたパターン評価方法及び該装置を用いたデバイス製造方法に関する。特に、最小線幅が0.1μm以下のパターンを有する試料の欠陥装置、線幅測定、欠陥レビュー、又はパターンの電位測定等を行うのに適した電子線装置において、レンズの軸上色収差を小さくし、基板評価を高精度、高スループットで行うことができる装置、さらにそのような装置を用いるデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線装置の基板評価精度を制限する大きな要因は、軸上色収差及び球面収差である。従来の電子線装置において、静電レンズを使用した対物レンズは、静電レンズの電極に高い電圧をかけることにより、軸上色収差や球面収差を小さくしていた。また、4極子レンズ4段からなる軸上色収差補正レンズを用いて、対物レンズの軸上色収差を補正していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、静電レンズの電極に高い電圧をかけると試料面上での電界強度が大きくなるので、静電レンズと試料との間で放電が発生して試料を破壊してしまう虞があった。
また、4極子レンズ4段からなる軸上色収差補正レンズを用いて軸上色収差補正を行う場合においては、軸上色収差が設計通りにならないために、対物レンズの軸上色収差の絶対値と軸上色収差補正レンズの軸上色収差の絶対値とが等しくならず、残留色収差が大きくなるという問題点があった。
【0004】
本発明はこれらの問題点を解決するためのもので、静電レンズと試料との間の放電を防止し、かつ高い電圧を印加可能で、さらに、対物レンズの軸上色収差の絶対値と軸上色収差補正レンズの軸上色収差の絶対値とが等しくなるように調整可能なパラメータを持つ対物レンズを提供することを目的とする。
【0005】
また、該対物レンズを含む電子線装置と、該装置を用いたデバイス製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、負電圧が印加された試料に電子線を照射し、試料から放出される二次電子を対物レンズと試料とが作る電界で加速し、少なくとも電磁偏向器を有する電子線分離器で前記二次電子線を検出器方向に向かわせる、電子線装置であって、前記電子線装置は、電子線の焦点を合わせて試料に照射する対物レンズを備え、前記対物レンズは、試料側に向うほど半径が小さくなる、少なくとも1つの円錐形状の電極と、軸対称電極とを有し、前記軸対称電極は、前記円錐形状の電極より試料側に配置されたほぼ接地の電極であり、試料面での電界強度を小さくする位置に配置されることを特徴とする、電子線装置を提供するものである。
【0007】
また、本発明は、負電圧が印加された試料に電子線を照射し、試料から放出される二次電子を対物レンズと試料とが作る電界で加速し、少なくとも電磁偏向器を有する電子線分離器で前記二次電子線を検出器方向に向かわせる、電子線装置であって、前記電子線装置は、電子線の焦点を合わせて試料に照射する対物レンズを備え、前記対物レンズは、少なくとも1枚の電極と、アース電極とを有し、前記アース電極は、試料面での電界強度を小さくする位置に配置されることを特徴とする、電子線装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、対物レンズは、高電圧を印加する電極を円錐形状にし、試料面側にほぼ接地に近い電圧を付与された軸対称電極を有するため、高電圧を印加された電極が作る電界がこの軸対称電極で部分的にシールドされる形になるため、試料面での電界強度が小さくなり、試料表面での絶縁破壊が防止され、レンズと試料との間の放電を防止することができる。
【0009】
また、本発明によれば、対物レンズは、高電圧を印加する円錐電極に加え、完全に接地された円錐形のアース電極を有するため、一定のレンズ作用に要する上記円錐電極に加える電圧が小さくなり、レンズと試料との間の放電を防止することができる。
【0010】
また、本発明によれば、試料面側のほぼ接地された軸対称電極に微調整した電圧を印加することにより、もしくは軸対称電極と少なくとも1つの円錐形状の電極との双方に調整した電圧を印加することにより、対物レンズの軸上色収差係数を電気的に制御して、対物レンズの正の軸上色収差の絶対値を軸上色収差補正レンズの負の軸上色収差の絶対値に正確に合わせて相殺し、残留色収差を極めて小さくすることができる。
【0011】
さらに、本発明によれば、円筒電極に印加する高電圧を制御電源で調整することにより、対物レンズの軸上色収差係数を電気的に制御して、対物レンズの正の軸上色収差の絶対値を軸上色収差補正レンズの負の軸上色収差の絶対値に正確に合わせて相殺し、残留色収差を極めて小さくすることができる。
【0012】
さらに、残留色収差の小さい電子線装置においては、NA開口の開口角を通常より大きな値にして個々のビームのビーム電流を大きくすることができるため、高スループットで試料の評価ができる。
【実施例】
【0013】
図1を参照して、本発明による電子線装置の第1の実施例について説明する。この電子線装置は、電子銃1から放出された電子線から矩形ビームを形成し、矩形ビームを試料16上に集束させる一次光学系100と、試料16表面から放出される二次電子線の像を拡大する二次光学系200と、二次光学系から出力された二次電子を検出する検出装置300と備えている。
【0014】
一次光学系100は、一次電子線を放出するLカソード銃1と、Lカソード銃1から放出された一次電子線を集束するコンデンサレンズ3と、集束された一次電子線を成形して矩形ビームを形成する成形開口5と、矩形ビームの縮小率を微調整する成形レンズ6、8と、一次電子線の軸合わせをする軸合わせ偏向器2、4、7と、一次電子線を二次電子軌道と異なる軌道を通すための一次電子線軌道制御偏向器9と、一次電子線の焦点を合わせて試料16に照射する対物レンズ60と、対物レンズに印加する電圧を調節する電圧制御電源70とを備えている。このようにして、一次光学系は、Lカソード銃1から放出された一次電子線から矩形ビームを形成して、矩形ビームを試料16上に集束させ、一次電子線軌道制御偏向器9により二次電子軌道と異なる軌道(30)を通るように制御される。
【0015】
二次光学系200は、対物レンズ60により加速されて電子線分離器用電磁偏向器10で発生した偏向色収差を補正する静電偏向器17と、負の軸上色収差を生じる色収差補正レンズ19と、該色収差補正レンズ19による二次電子の拡大像位置に設けた補助レンズ20と、二次電子線の像を更に拡大する拡大レンズ21と、拡大レンズ21による二次電子の拡大像位置に設けた補助レンズ22と、最終拡大レンズ23とを備える。このようにして、二次光学系は、試料16から放出された二次電子線を拡大して、MCP(マイクロチャンネルプレート)24に結像される。
【0016】
なお、本実施形態においては、電子線分離器用電磁偏向器10は、一次光学系100にも二次光学系200にも含まれないものと説明したが、一次光学系100に含まれるととらえることもできるし、二次光学系200に含まれるものととらえることもできる。また、一次光学系100及び二次光学系200の両方に含まれるととらえることもできる。
【0017】
検出装置300は、MCP24と、TDIカメラ504と、TDIカメラ504とデータ通信可能に接続された制御装置520を備えている。TDIカメラ504は、MCP24に結像された2次電子像を電子信号に変換する。
【0018】
対物レンズ60は、試料16側から順に、円板状の軸対称電極15と、電極14と、電極13と、NA開口12と、電極11とを有している。電極14及び電極13は、試料側に向うほど半径が小さくなる円錐形状の光軸近傍電極を有する。なお、本実施例においては、軸対称電極15を円板状としたが、円錐形状としてもよい。電極11は、省略してもよい。
【0019】
一次電子線を集束させるために、かつ軸上色収差や球面収差を小さくするために、電圧調整電源70は電極14に正の高電圧を印加する。電圧調整電源70は軸対称電極15には接地電圧に近い電圧を与える。そのため、電極14に印加される正の高電圧にもかかわらず、電極14が作る高電界が電極15でシールドされる形となるため、試料16面上での電界強度は小さく抑えられる。従って、試料表面での絶縁破壊が起こらず、電極14と試料16との間の放電は防止される。また、電極14には高電圧を印加しているため、対物レンズ60の軸上色収差は小さく保たれている。
【0020】
電子線装置の基板評価精度を上げるために、この対物レンズ60が作る正の軸上色収差の絶対値を、色収差補正レンズ19が作る負の軸上色収差の絶対値と等しくなるようにする必要がある。このためには、組立精度を必要な値にするとともに、対物レンズ60の電極15に印加する電圧を電圧調整電源70で調節することにより、もしくは、電極15に印加する電圧と電極14とに印加する電圧との双方を調節することにより、軸上色収差の値を正確に調節する。例えば、電極15に与える電圧を高くすると、同じレンズ作用を得るには電極15と電極14との間の電界強度を一定に保つ必要があるから、同じ焦点距離での電極14に与える電圧が高くなり、軸上色収差は小さくなる。逆に15に与える電圧を低くすると、同じレンズ作用を得るには電極15と電極14との間の電界強度を一定に保つ必要があるから、電極14に与える電圧も低くなり、軸上色収差を大きくできる。このように残留色収差の小さい電子線装置においては、NA開口12の開口角を、通常200mrad(ミリラジアン)のところ、400mrad(ミリラジアン)程度の大きな値にすることができる。そのため、二次電子の透過率が大きくなり、大きいビーム電流を得ることができ、高スループットで試料の評価をすることができる。
【0021】
電極13はアースに近い電圧で、この電位を数10V変えることによって試料面16の上下動(Z方向動)によるフォーカスズレをダイナミックに補正することができる。電極13は電極14の形状に合わせて円錐形状になっているので、光軸近くで電極同士が離れることもなく、必要な焦点距離を得ることができる。
【0022】
色収差補正レンズ19は、2段のウィーンフィルタからなる。このウィーンフィルタは中間で一度像が形成され、図1−aに示した軌道となる。ウィーンフィルタの断面を2倍のスケールで図1−bに1/4だけ示した。すなわち、12極電極がパーマロイで作られ、コイル25に電流を流すことにより磁場も発生させる構造になっている。これらの電極に2回対称電界を発生する電圧を与え、2回対称磁界を発生させる励磁電流を与えることによって、ウィーン条件すなわち二次電子が直進する条件が満たされ、さらに、これらの電極に4回対称の電界を発生する電圧と6回対称の電界とを発生する電圧とを重畳し、コイルには同じく4回対称の磁界と6回対称の磁界とを発生させる励磁電流を与える。4回対称電界・磁界によって負の軸上色収差を発生し、6回対称電界・磁界によって負の球面収差を発生する。本装置の対物レンズでは、200mrad程度のNAでは軸上色収差が収差の大部分を占めるが、400mrad以上の大きいNAでは球面収差は無視できない値になるので、球面収差を補正することは重要となる。
【0023】
カソード銃1は空間電荷制限条件で動作し、ショット雑音が小さい。
カソード銃1から放出された一次電子線は、コンデンサレンズ3で集束され、成形開口5の開口を一様な強度で照射する。一次電子線は成形開口5で矩形ビームに成形され、成形レンズ6と成形レンズ8で縮小され、電磁偏向器10で偏向され、対物レンズ60に入射する。一次電子線は、軸合わせ偏向器2、4、及び7で、軸合わせされる。一次電子線は、さらに対物レンズ60でさらに縮小され、試料16に合焦する。対物レンズは、上述したように、軸上色収差を補正する。一次電子線は、一次電子線軌道制御偏向器9により、二次電子と異なる軌道を通るよう制御されるので、一次電子の空間電荷が二次電子に影響を与えることがない。
【0024】
試料16から放出された2次電子線は対物レンズ60の正の電圧と試料16との間で生じる加速電界で加速される。電磁偏向器10により偏向された二次電子線は、静電偏向器17で逆方向に偏向され、色収差補正レンズ19の像点18に拡大像を作る。電磁偏向器10は電磁偏向器とすることで一次電子線と二次電子線とを分離する。静電偏向器17と像点18との距離は、電磁偏向器10と像点18との距離の半分に設計され、電磁偏向器10による偏向角と静電偏向器17による偏向角とは、方向が逆で絶対値を等しくしている。これにより、電子線分離器で発生した偏向色収差は、静電偏向器17で補正されてゼロになる。像点18に形成された二次電子線の拡大像は、色収差補正レンズ19を通過した後、補助レンズ20に形成される。色収差補正レンズ19は、対物レンズ60で発生した正の軸上色収差を補正するための負の軸上色収差を生じさせる。補助レンズ20に形成された二次電子線の拡大像は、拡大レンズ21で拡大され補助レンズ22上に形成され、さらに最終拡大レンズ23で10倍程度拡大され、MCP24にTDIの素子寸法に等しい画素の像が形成される。画素寸法を変えたいときは、補助レンズ22の代わりに大きい画素用の補助レンズ26、27を設置して、これらに拡大レンズ21による拡大像を作り、補助レンズ26又は27の電極に電圧を与えることによって倍率を調整し、TDIでの画素像の大きさを一定に保つことができる。MCP24から出力された2次電子像は、TDIカメラ504に結像され、TDIカメラ504は、この結像された2次電子像を電子信号に変換する。
【0025】
検出装置300は、さらに、TDIカメラ504とデータ通信可能に接続された制御装置520を有している。制御装置520は、一例として汎用的なパーソナルコンピュータ等から構成することができる。このコンピュータは、所定のプログラムに従って各種制御、演算処理を実行する制御部522と、前記所定のプログラムなどを記憶している記憶装置524と、処理結果や二次電子画像526等を表示するCRTモニター528と、オペレータが命令を入力するためのキーボードやマウス等の入力部530とを有している。勿論、欠陥検査装置専用のハードウェア、或いは、ワークステーションなどから制御装置520を構成してもよい。
【0026】
このように、本発明による電子線装置の第1の実施例は、対物レンズ60の電極14に高電圧の電圧が印加されるため、軸上色収差を小さくすることができ、また、電極15には接地に近い電圧が印加されるので、電極14の高電圧にもかかわらず、電極14と試料16との間の放電を防止することができる。さらに、電圧調整電源70により、電極14、15にかかる電圧を調整することができるため、対物レンズで発生する正の軸上色収差の絶対値を色収差補正レンズ19で発生する負の軸上色収差の絶対値に一致させ、軸上色収差を正確に補正することができる。また、残留色収差が小さいため、開口角を大きな値にして個々のビームのビーム電流を大きくすることができるため、高スループットで試料の評価ができる。
【0027】
次に、図2を参照して、本発明による電子線装置の第2の実施例を説明する。この電子線装置は、電子銃1から放出された電子線からマルチビームを形成し、マルチビームを試料45上に集束し走査させる一次光学系400と、試料表面から放出される2次電子線の互いの間隔を拡大する二次光学系500と、二次光学系から出力された2次電子を検出する検出装置550と備えている。
【0028】
一次光学系400は、一次電子線を放出するLカソード銃31と、Lカソード銃1から放出された一次電子線を集束するコンデンサレンズ32と、集束された一次電子線からマルチビームを形成するマルチ開口33と、マルチビームを縮小して焦点38に結像させる成形レンズ34と縮小レンズ36と、軸上色収差を低収差に抑えるNA開口35と、補正レンズ54と、負の軸上色収差を生じる色収差補正レンズ37と、マルチビームを試料45上で操作させ、かつ電磁偏向器41で発生した偏向色収差を補正する静電偏向器40と、対物レンズ42とを備えている。このようにして、一次光学系は、Lカソード銃1から放出された一次電子線からマルチビームを形成して、マルチビームを試料45上に集束させ、静電偏向器40により走査させられる。
【0029】
二次光学系500は、試料から放出されて対物レンズで加速された二次電子線を拡大する拡大レンズ48、50と、二次電子線の軸合わせをする静電偏向器49、51とを備えている。このようにして、二次光学系は、試料45から放出された二次電子線を拡大して、検出器52に結像される。
【0030】
なお、本実施形態においては、電子線分離器用電磁偏向器41は、一次光学系400にも二次光学系500にも含まれないものと説明したが、一次光学系400に含まれるととらえることもできるし、二次光学系500に含まれるものととらえることもできる。また、一次光学系400及び二次光学系500の両方に含まれるととらえることもできる。
【0031】
検出装置550は、検出器52と、A/Dコンバータ及び信号処理回路504とデータ通信可能に接続された制御装置520を有している。A/Dコンバータ及び信号処理回路504は、検出器52で検出された複数チャンネルのSEM(走査電子顕微鏡)画像を電子信号に変換する。
【0032】
マルチビームを使用したSEM(走査電子顕微鏡)においては、なるべく多くのマルチビームを試料45上に形成したい。そのため、マルチ開口33の前後に配置されたコンデンサレンズ32と成形レンズ34とのズーム作用、すなわちLカソード銃31が作るクロスオーバ像をNA開口35に作るという合焦条件を変えないで、マルチ開口33の照射領域を調整する。成形レンズ34は、マルチ開口34の後方に配置することにより、回転補正レンズとしての機能も持たせることができるので、補正レンズ54を設けて、成形レンズ34と補正レンズ54に逆方向の軸上磁場を発生させる。
【0033】
色収差補正レンズ37は、4段の4極子レンズとこれらのレンズ電極と45°方位角方向の位置がずれた方向に置かれた、収差補正のための4極の補正磁場発生レンズ53である。色収差補正レンズ37は、負の軸上色収差を発生させる。この色収差補正レンズ37は、図1−a、図1−bのウィーンフィルタを用いてもよく、さらに、軸上色収差のみではなく、球面収差も補正した方がよい。
【0034】
対物レンズ42は、光軸上に中心決めされた環状のコイルを有する磁界レンズ80と、該磁界レンズの中心軸線すなわち光軸に沿って配置されたパイプ状の円筒電極44と、8極の走査偏向器兼ダイナミックフォーカス電極43と、試料側に向うほど半径が小さくなる円錐形状のアース電位の磁極75とを有している。磁気ギャップ46が、外側磁極81と内側磁極75との間の試料側に形成されている。一次電子線を集束させるために、かつ軸上色収差や球面収差を小さくするために、電圧調整電源47は円筒電極44に正の高電圧を印加する。また、磁極81、75は常に接地されている。そのため、円筒電極44に印加される正の高電圧にもかかわらず、試料45面上での電界強度は小さく抑えられる。例えば、円筒電極44と試料間距離が4mm、44の電圧が8KVだと、外側にアース電位がないと8KV/4mm=2KV/mmの電界が試料表面に印加されるが、外側電位がアース電位だと、1.5KV/mm程度に小さくなることがシミュレーションで明らかになっている。従って、試料表面の絶縁破壊が起きず、円筒電極44と試料45との間の放電が防止される。また、円筒電極44には高電圧を印加しているため、対物レンズ42の軸上色収差は小さく保たれている。対物レンズ42が発生する正の軸上色収差の絶対値を色収差補正レンズ37が発生する負の色収差の絶対値と正確に一致させるため、対物レンズ42を、電圧調整電源47により電気的に制御可能になっている。すなわち、対物レンズの軸上色収差を大きい値にするには電圧調整電源47が円筒電極44に与える電圧を低くする。一方、軸上色収差を小さくするには電圧調整電源47が円筒電極44に与える電圧を上げればよい。円筒電極44に与える電圧を変化させたことによる合焦条件のズレの補償は、対物レンズ44の励起電流を電圧調整電源47で調整することによって行われる。本実施例においては、球面収差もウィーンフィルタを用いて補正した方がよい。しかし、磁気ギャップ46が試料側に形成されている構造の対物レンズ42の球面収差は小さい値になっているので、ウィーンフィルタに与える電磁界が小さくても補正できる。電極43はアース電位に近い電圧が与えられる8極の電極で、この8極の電極に同じ電圧を与えることでレンズの焦点距離を高速で調整することができ、ダイナミックフォーカスを行うことができる。さらにビーム分離器用静電偏向器40と該8極電極43とに走査信号を与えることにより、マルチビームを試料45上で走査させることができる。補正残留の全収差が小さいため、NA開口35による開口角を、通常数10mrad(ミリラジアン)のところ、100mrad(ミリラジアン)以上の大きな値にすることができる。そのため、個々のビームは大きいビーム電流を得ることができ、高スループットで試料の評価をすることができる。
【0035】
カソード銃31から放出された一次電子線はコンデンサレンズ32で集束され、マルチ開口33の全ての開口を一様な強度で照射する。マルチ開口33で形成されたマルチビームは、成形レンズ34と縮小レンズ36とで焦点38に縮小像を作る。NA開口35を設けることによって低軸外収差に抑えられた焦点38に作られた縮小像は、軸上色収差補正レンズ37で焦点39の位置に結像される。この焦点39の像は、負の軸上色収差を持った像である。焦点39の縮小像は対物レンズ42でさらに縮小され、試料45にマルチビームを形成する。マルチビームは、静電偏向器40と電極43により、試料45上を走査させられる。この対物レンズ42で発生する正の軸上色収差は、軸上色収差補正レンズ37で発生した負の軸上色収差で補正され打ち消される。
【0036】
試料45から放出された2次電子線は対物レンズ42内部に設けられた円筒電極44と試料45とが作る加速電界によって加速・集束され、電磁偏向器41で一次電子線から分離され、拡大レンズ48、50で2段階に拡大される。二次電子線は、検出器52で検出され、複数チャンネルのSEM像が形成される。静電偏向器49、51は一次電子線の走査に同期して、常に同じ一次電子からの2次電子信号が同一の検出器52に入射するよう制御する。検出器52から出力された2次電子像は、A/Dコンバータ及び信号処理回路504に送られ電子信号に変換し、この電子信号は、第1の実施例と同様に、制御装置520で処理される。
【0037】
このように、本発明による電子線装置の第2の実施例は、対物レンズ42の円筒電極44に高電圧の電圧が印加されるため、軸上色収差を小さくすることができ、また、磁極75は接地されているので、円筒電極44の高電圧にもかかわらず、円筒電極44と試料45との間の放電を防止することができる。さらに、電圧調整電源47により、円筒電極44にかかる電圧を調整することができるため、対物レンズで発生する正の軸上色収差の絶対値を色収差補正レンズ37で発生する負の軸上色収差の絶対値に一致させ、軸上色収差を正確に補正することができる。また、残留色収差が小さいため、開口角を大きな値にして個々のビームのビーム電流を大きくすることができるため、高スループットで試料の評価ができる。
【0038】
次に図3及び図4を参照して、上記実施形態で示した電子線装置により半導体デバイスを製造する方法の実施態様を説明する。
図3は、本願発明による半導体デバイスの製造方法の一実施例を示すフローチャートである。この実施例の製造工程は以下の主工程を含んでいる。
(1)ウェーハを製造するウェーハ製造工程(又はウェーハを準備するウェーハ準備工程)(ステップ600)
(2)露光に使用するマスクを製造するマスク製造工程(又はマスクを準備するマスク準備工程)(ステップ602)
(3)ウェーハに必要な加工処理を行うウェーハプロセッシング工程(ステップ604)
(4)ウェーハ上に形成されたチップを1個ずつ切り出し、動作可能にならしめるチップ組立工程(ステップ606)
(5)組み立てられたチップを検査するチップ検査工程(ステップ608)
なお、上記のそれぞれの主工程は更に幾つかのサブ工程からなっている。
【0039】
これらの主工程中の中で、半導体デバイスの性能に決定的な影響を及ぼすのが(3)のウェーハプロセッシング工程である。この工程では、設計された回路パターンをウェーハ上に順次積層し、メモリやMPUとして動作するチップを多数形成する。このウェーハプロセッシング工程は以下の各工程を含んでいる。
(A)絶縁層となる誘電体薄膜や配線部、或いは電極部を形成する金属薄膜等を形成する薄膜形成工程(CVDやスパッタリング等を用いる)
(B)この薄膜層やウェーハ基板を酸化する酸化工程
(C)薄膜層やウェーハ基板等を選択的に加工するためにマスク(レチクル)を用いてレジストパターンを形成するリソグラフィー工程
(D)レジストパターンに従って薄膜層や基板を加工するエッチング工程(例えばドライエッチング技術を用いる)
(E)イオン・不純物注入拡散工程
(F)レジスト剥離工程
(G)加工されたウェーハを検査する工程
なお、ウェーハプロセッシング工程は必要な層数だけ繰り返し行い、設計通り動作する半導体デバイスを製造する。
【0040】
図4は、上記ウェーハプロセッシング工程の中核をなすリソグラフィー工程を示すフローチャートである。このリソグラフィー工程は以下の各工程を含む。
(a)前段の工程で回路パターンが形成されたウェーハ上にレジストをコートするレジスト塗布工程(ステップ700)
(b)レジストを露光する工程(ステップ702)
(c)露光されたレジストを現像してレジストのパターンを得る現像工程(ステップ704)
(d)現像されたレジストパターンを安定化するためのアニール工程(ステップ706)
上記の半導体デバイス製造工程、ウェーハプロセッシング工程、リソグラフィー工程については、周知のものでありこれ以上の説明を要しないであろう。
【0041】
上記(G)の検査工程に本願発明に係る欠陥検査方法、欠陥検査装置を用いると、微細なパターンを有する半導体デバイスでも、スループット良く検査できるので、全数検査が可能となり、製品の歩留まりの向上が可能と成る。
【0042】
以上が、本願発明の各実施形態であるが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1−a】図1−aは、本発明の第1の実施例にかかる電子線装置の概略図である。
【図1−b】図1−bは、図1−aのウィーンフィルタの断面の1/4を示す概略図である。
【図2】図2は、本発明の第2の実施例にかかる電子線装置の概略図である。
【図3】図3は、半導体デバイスの製造方法の一実施例を示すフローチャートである。
【図4】図4は、図3の半導体デバイスの製造方法のうちリソグラフィー工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0044】
1:Lカソード銃 2:軸合わせ偏向器、
3:コンデンサレンズ 4:軸合わせ偏向器、
5:成形開口 6:成形レンズ
7:軸合わせ偏向器 8:成形レンズ
9:一次電子線軌道制御偏向器 10:電子線分離器用電磁偏向器
11〜15:対物レンズ 12:NA開口
16:試料 17:静電偏向器
18:像点 19:色収差補正レンズ
20:補助レンズ 21:拡大レンズ
22、26、27:補助レンズ 23:拡大レンズ
24:MCP 25:励磁コイル
26:電極兼磁極 27:パーマロイコア
28:絶縁スペーサ 29:締仕ネジ
30:一次電子線軌道 31:Lカソード銃
32:コンデンサレンズ 33:マルチ開口
34:成形レンズ 35:NA開口
36:縮小レンズ 37:軸上色収差補正レンズ
38:焦点 39:焦点
40:静電偏向器 41:電子線分離器用電磁偏向器
42:対物レンズ
43:走査偏向器兼ダイナミックフォーカス電極
44:円筒電極 45:試料
46:レンズギャップ 47:電圧調整電源
48:拡大レンズ 49:軸合わせ偏向器
50:拡大レンズ 51:軸合わせ偏向器
52:検出器 53:4極磁極
54:補助レンズ 75:アース電位の磁極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負電圧が印加された試料に電子線を照射し、試料から放出される二次電子を対物レンズと試料とが作る電界で加速し、少なくとも電磁偏向器を有する電子線分離器で前記二次電子線を検出器方向に向かわせる、電子線装置であって、
前記電子線装置は、電子線の焦点を合わせて試料に照射する対物レンズを備え、
前記対物レンズは、試料側に向うほど半径が小さくなる、少なくとも1つの円錐形状の電極と、軸対称電極とを有し、
前記軸対称電極は、前記円錐形状の電極より試料側に配置されたほぼ接地の電極であり、試料面での電界強度を小さくする位置に配置されることを特徴とする、電子線装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子線装置において、
前記電子線装置は、さらに、負の軸上色収差を生じる多極子レンズと、電圧制御装置とを備え、
前記電圧制御装置が前記軸対称電極の電圧を調整して、もしくは前記軸対称電極の電圧と前記少なくとも1つの円錐形状の電極の電圧との双方を調整して、前記対物レンズの軸上色収差の絶対値を前記多極子レンズの軸上色収差の絶対値と等しくすることを特徴とする、電子線装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子線装置において、
前記軸対称電極は、円板形状又は円錐形状の電極であることを特徴とする、電子線装置。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の電子線装置において、
前記対物レンズは、さらに、焦点調節用の円錐形状の電極を有し、
前記焦点調節用の円錐形状の電極は、前記少なくとも1つの円錐形状の電極の試料とは反対側に配置されており、前記電圧制御装置により該電極に印加される電圧を調整することによって、前記軸対称電極の電圧の変化による焦点距離の変化を補正することを特徴とする、電子線装置。
【請求項5】
負電圧が印加された試料に電子線を照射し、試料から放出される二次電子を対物レンズと試料とが作る電界で加速し、少なくとも電磁偏向器を有する電子線分離器で前記二次電子線を検出器方向に向かわせる、電子線装置であって、
前記電子線装置は、電子線の焦点を合わせて試料に照射する対物レンズを備え、
前記対物レンズは、少なくとも1枚の電極と、アース電極とを有し、
前記アース電極は、試料面での電界強度を小さくする位置に配置されることを特徴とする、電子線装置。
【請求項6】
請求項5に記載の電子線装置において、
前記少なくとも1枚の電極は、円筒電極であることを特徴とする、電子線装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の電子線装置において、
前記電子線装置は、さらに、負の軸上色収差を生じる多極子レンズと、電圧制御装置とを備え、
前記電圧制御装置が、前記少なくとも1枚の電極に印加する電圧を調整して、前記対物レンズの軸上色収差の絶対値を前記多極子レンズの軸上色収差の絶対値と等しくすることを特徴とする、電子線装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電子線装置において、
前記対物レンズは、電磁レンズと静電レンズとの合成レンズであり、
前記電磁レンズは、前記電圧制御装置により該静電レンズに加えられる電圧を変化させることによって焦点距離を補正することを特徴とする、電子線装置。
【請求項9】
請求項7に記載の電子線装置において、
前記対物レンズは、さらに、もう1枚の別電極を有し、
前記電圧制御装置が、前記別電極に印加する電圧を調整することにより、前記別電極は、前記少なくとも1枚の電極の電圧の変化による焦点距離の変化を補正することを特徴とする、電子線装置。
【請求項10】
デバイスを製造する方法であり、
前記方法は、
a.ウェーハを準備する工程と、
b.ウェーハプロセスを行う工程と、
c.ウェーハプロセス後のウェーハを請求項1乃至6の何れかの装置を用いて評価する工程と、
d.前記b及びcの工程を必要な回数繰り返す工程と、
e.前記ウェーハを切断し、デバイスに組み立てる工程とを備えることを特徴とする、方法。

【図1−a】
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【図1−b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−277996(P2006−277996A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−91514(P2005−91514)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】