電極材料及びその製造方法、並びに該電極材料を使用した電界放射装置
【課題】小さな電界で大きな放射電流を示す、冷陰極等に用いられる高性能の電極材料、及びその効率的な製造方法、並びに該電極材料を用いた安価で性能の良い電界放射装置を提供する。
【解決手段】炭素繊維のような導電性繊維の円周方向に放射状に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させることによって電極材料を構成する。好ましい酸化亜鉛系ウィスカーとしては、アルミニウム添加酸化亜鉛ウィスカーが用いられる。また、大気圧開放型のCVD装置を使用し、導電性繊維に直接通電加熱することによって繊維表面にウィスカーを成長させることが好ましい。
【解決手段】炭素繊維のような導電性繊維の円周方向に放射状に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させることによって電極材料を構成する。好ましい酸化亜鉛系ウィスカーとしては、アルミニウム添加酸化亜鉛ウィスカーが用いられる。また、大気圧開放型のCVD装置を使用し、導電性繊維に直接通電加熱することによって繊維表面にウィスカーを成長させることが好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極等に用いられる電極材料及びその製造方法、並びに該電極材料を使用した電界放射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷陰極は、固体表面に強電界を印加することにより、電子を真空中に放射する陰極である。電界放射型ディスプレイ(FED)や平面X線発生源の電子源に利用することにより、FEDではより小さな電力で冷陰極から電子を引き出して蛍光体に照射するので省電力テレビとなり、X線発生源では大面積を有する陰極から電子を引き出しプレート状のX線発生素子に照射するので面状のX線ビームが得られる。
冷陰極から得られる単位面積、単位時間当たりに電界放射される電流密度Jは式(1)のFowler−Nordheim(F−N)式で表すことができる。
【0003】
【数1】
【0004】
(1)式は電界強度Eが大きくなれば、放射電流Jが大きくなるという単純な式である。(1)式において冷陰極の性能は、冷陰極材料の仕事関数Φと電界集中係数βであらわすことができる。つまりΦが小さくて、βの大きな陰極ほど小さな電界で大きな放射電流を示す冷陰極となる。
【0005】
これまで、アルミニウム添加酸化亜鉛ウイスカー(以下、「ZnO:Alウイスカー」ということがある)をシリコン基板上などに合成をして冷陰極とした例が提案されている。これらの例では、Φを小さくするために冷陰極材料にアモルファス炭素系薄膜や酸化マグネシウムを、ZnO:Alウイスカーの先端部に蒸着して用いている。例えば、大河原等は先端曲率半径が20nmである導電性ZnO:Alウイスカー冷陰極の先端に、仕事関数が小さいアモルファス炭素系(α−CNxH)膜を修飾したα−CNxH/ZnO:Alウイスカー冷陰極から電界放射を確認している(非特許文献1)。斎藤等は、α−CNxH/ZnO:Alウイスカー冷陰極を用いて3極型FEDを試作し、試作されたFEDより最大輝度1440cd/m2を得ている(非特許文献2)。また、Si基板に成長させたZnO:Alウイスカー冷陰極が1000程度の電界集中係数を有することを報告している(非特許文献3)。
【非特許文献1】Y. Ohkawara, T. Naijo, T. Washio, S. Ohshio, H. Ito and H. Saitoh: Jpn. J. Appl. Phys. 40(2001)7013-7017.
【非特許文献2】H. Saitoh, T. Washio and S. Ohshio: Adv. In Tec. of Mat. Proc. J. 6(2004)47-52.
【非特許文献3】H. Saitoh, H. Akasaka, T. Washio, Y. Ohkawara, S. Ohshio, H. Ito, H.Saitoh: J. Appl. Phys.41(2002)6169-6173.
【0006】
しかしながら、Si基板に成長させたZnO:Alウイスカー冷陰極では、隣接する冷陰極同士のスクリーニングの効果により電界集中係数は1000程度となってしまう。
図2に示すように、従来の冷陰極ではシリコン基板上にZnO:Alウイスカーがほぼ垂直にならび、ウイスカー間の間隙を十分にあけることができなかった。そのため、陽極が陰極から比較的遠いと、ウイスカーの先端の集合があたかも平面に見えてしまうため、電界集中が弱くなる。そのためZnO:Alウイスカーの先端の曲率半径が小さいにもかかわらず、電界集中係数は思ったほどには伸びなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明はこれら従来技術の問題点を解消して、小さな電界で大きな放射電流を示す、冷陰極等に用いられる高性能の電極材料、及びその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記電極材料を用いた安価で性能の良い電界放射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、炭素繊維等の導電性繊維の円周方向に放射状に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させることにより、冷陰極等に用いた際に優れた性状を有する電極材料が得られることを発見し、本発明を完成した。
すなわち、本発明はつぎの1〜11の構成を採用するものである。
1.導電性繊維の円周方向に放射状に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させたことを特徴とする電極材料。
2.導電性繊維が炭素繊維であることを特徴とする1に記載の電極材料。
3.酸化亜鉛系ウィスカーがアルミニウム添加酸化亜鉛ウィスカーであることを特徴とする1又は2に記載の電極材料。
4.酸化亜鉛系ウィスカーの先端部に金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜から選択されたトップコートを設けたことを特徴とする1〜3のいずれかに記載の電極材料。
5.導電性繊維の直径が0.1〜10μmであることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の電極材料。
6.酸化亜鉛系ウィスカーの直径が0.1〜10μm、長さが1〜50μmであることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の電極材料。
7.酸化亜鉛系ウィスカーの密度が104〜107本/mm2、ウィスカー先端の曲率半径が1〜100nmであることを特徴とする1〜6のいずれかに記載の電極材料。
8.大気開放型化学気相析出法により、導電性繊維に通電加熱しながらその表面に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させることを特徴とする1〜7のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
9.さらに、酸化亜鉛系ウィスカーの先端部に金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜を蒸着させてトップコートを設けることを特徴とする8に記載の電極材料の製造方法。
10.1〜7のいずれかに記載された電極材料により構成された冷陰極と、該冷陰極に対向する陽極を有することを特徴とする電界放射装置。
11.電界放射装置が陽極に蛍光体層を設けた発光素子であることを特徴とする10に記載の電界放射装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小さな電界で大きな放射電流を示す冷陰極等に用いられる高性能の電極材料を、簡単な工程で効率良く得ることができる。また、この電極材料を用いることにより、安価で優れた性能を有する光放射素子等の電界放射装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態として、導電性繊維として炭素繊維を使用した電極材料について説明する。
図1及び図2は本発明の電極材料を説明するための模式図であり、図1は本発明の電極材料を示す図、また図2は従来の電極材料を示す図である。
本発明の電極材料1は、図1にみられるように、炭素繊維2の円周方向において、放射状に酸化亜鉛系ウィスカー3を成長させたものである。この電極材料1では、ウイスカー3の先端部4における数密度が、根元部5における数密度に比較して大幅に減少したものとなる。したがって、この電極材料1を冷陰極とし、これに対向する陽極を設けた電界放射装置では、ウイスカー3の先端部4に集中する電界が大幅に増加する。
【0011】
これに対して、図2にみられるように、基板12に対して垂直方向にウイスカー13を成長させた従来の電極材料11では、ウイスカー13の先端部14における数密度は、根元部15における数密度と基本的に同じものとなる。したがって、ウイスカー13の先端部14における隣接するウイスカーとの間隔を十分に空けることができなかった。その結果、この電極材料11を冷陰極とし、これに対向する陽極を設けて電界放射装置を構成した際に、陽極が冷陰極から比較的遠い場合には、ウイスカー13の先端部14の集合があたかも平面に見えてしまうために、ウイスカー13の先端部14における電界集中が弱いものであった。
本発明では、上記の構成を採用することによって、冷陰極の電極材料として使用した際の電界集中係数を、従来の電極材料を使用した場合の5〜100倍程度に向上させることが可能となる。
【0012】
本発明において、炭素繊維2上に成長させる酸化亜鉛系ウィスカー3としては特に制限はなく、従来公知の酸化亜鉛系ウィスカーはいずれも使用することができる。好ましい酸化亜鉛系ウィスカーとしては、酸化亜鉛にアルミニウム、ホウ素、ガリウム、インジウム等の異種元素を添加したものが挙げられ、特にアルミニウムを添加した酸化亜鉛ウイスカーを使用することが好ましい。アルミニウム等の異種元素の添加量は、亜鉛原子に対して0.1〜2.0原子%程度とすることが好ましい。
【0013】
本発明の電極材料に使用する導電性繊維としては特に制限はなく、表面に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させることが可能な炭素繊維、或いは銅、金、銀、白金、アルミニウム等の金属繊維等を使用することができる。好ましい導電性繊維としては炭素繊維が挙げられ、市販の炭素繊維を用いることができる。
図3は、ウイスカーを成長させる炭素繊維に、1μmの直径を有するZnO:Alウイスカーが成長したときの電界集中係数(β)と炭素繊維の直径との関係について、幾何学的な形状をもとに計算で求め結果を示す図である。シリコン基板を使用する従来の電極材料では直径が無限大と定義できるため、ほぼβ=1000である。炭素繊維が細くなるにしたがって電界集中係数が上がり、とくに10μmよりも細くなると急激に大きくなることがわかる。したがって、炭素繊維の太さは10μmよりも細くなるほど有効である。ただし、ZnO:Alウイスカーの太さが細くても0.1μm程度なので、実用的には炭素繊維の直径も0.1μm程度以上とすることになる。
【0014】
炭素繊維等の導電性繊維の表面に、酸化亜鉛系ウィスカーを繊維の円周方向に放射状に成長させるには、大気開放型化学気相析出(CVD)法を使用することが好ましい。
大気開放型CVD法は、気化させた金属化合物を加熱された基材表面に吹付けて、基材表面で酸素、水等の大気中に含まれる化合物と反応させて、基材表面にウィスカー等を成長させる方法として広く知られている。原料となる金属化合物としては、例えば、金属又は金属類似元素の原子にアルコールの水酸基の水素が金属で置換されたアルコキシド類、金属または金属類似元素の原子にアセチルアセトン、エチレンジアミン、ビピペリジン、ビピラジン、シクロヘキサンジアミン、テトラアザシクロテトラデカン、エチレンジアミンテトラ酢酸、エチレンビス(グアニド)、エチレンビス(サリチルアミン)、テトラエチレングリコール、アミノエタノール、グリシン、トリグリシン、ナフチリジン、フェナントロニン、ペンタンジアミン、ピリジン、サリチルアルデヒド、サリチリデンアミン、ポルフィリン、チオ尿素などから選ばれる配位子を1種あるいは2種以上有する各種の錯体等を使用することができる。この中でも、金属アセチルアセトナート化合物、金属アルコキシド化合物等がより好ましく用いられる。
【0015】
本発明において亜鉛系ウィスカーを製造する原料となる錯体としては、亜鉛及び亜鉛に添加する異種元素に、β−ジケトン類、ケトエステル類、ヒドロキシカルボン酸類またはその塩類、各種のシッフ塩基類、ケトアルコール類、多価アミン類、アルカノールアミン類、エノール性活性水素化合物類、ジカルボン酸類、グリコール類、フェロセン類などの配位子が1種あるいは2種以上結合した化合物が挙げられる。
キャリアガスとしては、使用する金属化合物と反応するものでなければ、特に限定はされない。具体例として、窒素ガスやヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス、炭酸ガス、有機弗素ガス、あるいはヘプタン、ヘキサン等の有機物質等が挙げられる。これらのうちで安全性、経済性の上から不活性ガスが好ましい。窒素ガスが経済性の面より最も好ましい。
【0016】
図4は、大気開放型CVD法により炭素繊維等の導電性繊維の表面に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させるのに使用する装置の1例を示す模式図である。この装置21は、窒素ガス供給源22、フローメーター23、配管24、気化器25、配管26、スリット27を有するノズル28、及び炭素繊維2を直接通電加熱するための電源29を有する。そして、気化器25、配管26、ノズル28及び加熱電源29は、扉30を有するチャンバー31内に配置されている。配管24、気化器25、及び配管26の周囲には、リボンヒーター(図示せず)を配置することが好ましい。
【0017】
この装置21を使用してアルミニウム添加酸化亜鉛ウイスカー(ZnO:Alウイスカー)を製造するには、例えば原料となる金属錯体ビスアセチルアセトナト亜鉛Zn(C5H7O2)2をボート32に、金属錯体トリスアセチルアセトナトリウムAl(C5H7O2)3をボート33に入れて、ボート33がノズル28側になるように気化器25内にセットする。キャリアガスとして窒素供給源22から窒素を流しながら、気化器25を加熱して原料を気化させる。気化された原料はキャリアガスによってノズル28に輸送され、スリット27から加熱電源29により直接通電加熱された炭素繊維2上に吹付けられ、炭素繊維2上で熱分解して、繊維の円周方向に放射状にZnO:Alウイスカーを成長させる。
【0018】
炭素繊維上に成長させる酸化亜鉛系ウィスカーの直径(根元部の直径)は、通常は0.1〜10μm程度、先端部の曲率半径は1〜100nm程度、長さは1〜50μm程度とすることが好ましい。
また、酸化亜鉛系ウィスカーの密度(根元部の密度)は、104〜107本/mm2程度とすることが好ましい。
【0019】
本発明で得られる導電性繊維の円周方向に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させた電極材料は、小さな電界で大きな放射電流を示すことから、特に冷陰極を構成する材料として好適に用いられる。
また、酸化亜鉛系ウィスカーの先端部に金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜から選択されたトップコートを設けることによって、電界集中係数をさらに向上させることができる。トップコートを構成する好ましい材料としては、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、アモルファス水素化窒化炭素、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0020】
図5〜図7は、本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した例を示す模式図である。図5の冷陰極41では、支持基板42の左右両側に設けた銅等の導電性金属により構成された電極43,43間に、繊維の円周方向に酸化亜鉛系ウィスカー(図示せず)を成長させた複数の炭素繊維2を平行に配置することによって、冷陰極を構成したものである。
また、図6の冷陰極51では、支持基板42に設けた左右の電極43,43間に、同様の炭素繊維2を1本配置することによって冷陰極を構成したものである。そして、図7の冷陰極61では、支持基板42に設けた左右の電極43,43間に、複数の炭素繊維2を網目状に配置することによって、冷陰極を構成したものである。
【0021】
図8は、本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した他の例を示す模式図である。
この例では、図5の支持基板42に代えて支持枠体44,44を使用し、その左右両側に設けた銅等の導電性金属により構成された電極43,43間に、繊維の円周方向に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させた複数の炭素繊維2を配置することによって冷陰極71を構成したものである。したがって、隣接する炭素繊維2は空間を空けて平行に配置されたものとなる。
【0022】
図9は、本発明の電極材料により構成された冷陰極を用いた電界放射装置(発光素子)の1例示す模式図である。
この電界放射装置81は、図5の冷陰極41に平行に対向させて、石英ガラス等からなる基板82上にITO等からなる蛍光体層83を設けた陽極84を配置したものである。そして、冷陰極41と陽極84は石英等からなるスペーサー85、85により隔てられ、それぞれ電源86に接続されている。
【0023】
この電界装置81の電極間に電源86により電圧を印加すると、冷陰極41のウィスカー3の先端部に強電界が生じ、電界放射によってウィスカー先端の法線方向に電子が放出される。この電子によって蛍光体層83が励起されて発光し、矢印方向に基板82を透過した光が観測される。
陽極84は、銅、金、銀、白金等の導電性金属により構成することもできる。また、陽極84の蛍光体層83に変えて他の放射線源となる物質層を設けることができ、例えばX線を放出する物質層を設けた場合には、X線発生素子とすることができる。
【0024】
図10は、本発明の電極材料により構成された冷陰極を用いた電界放射装置(発光素子)の他の例を示す模式図である。
この電界放射装置91では、図9の電界放射装置81において、冷陰極41に代えて図8の冷陰極71を使用した以外は、図9の電界放射装置81と同様の構成を有する。この装置91では、冷陰極71の隣接する炭素繊維の間には空間が存在するために、ウィスカー3の先端から放出された電子によって蛍光体層83が励起されて発光した光は、図の点線矢印で示したように、炭素繊維間の空間を通過して冷陰極71側で観測される。特に、陽極84を構成する基板82として、光透過性の無い基板を使用した場合には、冷陰極71側方向のみに光が放射する、従来の発光素子とは全く異なる発光機構の素子を得ることができる。
【実施例】
【0025】
つぎに、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
図4の大気開放型CVD装置21を使用し、直径5μmの炭素繊維上にアルミニウム添加酸化亜鉛ウイスカー(ZnO:Alウイスカー)を次の手順で成長させて、本発明の電極材料を製造した。
原料となる金属錯体ビスアセチルアセトナト亜鉛Zn(C5H7O2)28.0gをボート32に、金属錯体トリスアセチルアセトナトアルミニウムAl(C5H7O2)30.5gをボート33に入れて、ボート33がノズル28側になるように気化器25内にセットした。キャリアガスとして窒素供給源22から窒素を流量1.2L/minで流しながら、気化器25を加熱して115℃で原料を気化させた。気化された原料はキャリアガスによってノズル28に輸送され、スリット27から加熱電源29により直接通電加熱された炭素繊維2上に吹付けられ、炭素繊維2上で熱分解して、繊維の円周方向に放射状にZnO:Alウイスカーを成長させた。得られた電極材料を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で観察した映像を、図11に示す。ZnO:Alウイスカーのウィスカー長は10−40μm、ウィスカー径は1−2μm、先端曲率半径は約20nmであった。
【0026】
(実施例2)
実施例1において、炭素繊維として直径7μmの炭素繊維を使用した以外は実施例1と同様にして、炭素繊維の円周方向に放射状にZnO:Alウイスカーを成長させて、電極材料を製造した。得られた電極材料をFE−SEM で観察した映像を、図12に示す。ZnO:Alウイスカーのウィスカー長は10−40μm、ウィスカー径は1−2μm、先端曲率半径は約20nmであった。
【0027】
(比較例1)
実施例1において、炭素繊維に代えてシリコン単結晶基板を使用し、この単結晶基板を加熱装置により加熱しながら、実施例1と同様の手順で基板上にZnO:Alウイスカーを成長させて、従来の電極材料を製造した。得られた電極材料をFE−SEM で観察した映像を、図13に示す。ZnO:Alウイスカーのウィスカー長は6μm、ウィスカー径は1−2μm、先端曲率半径は約20nmであった。
【0028】
(実施例3)
実施例1で得られた直径5μmの炭素繊維にウィスカー成長させた電極材料を使用して、図5に示す冷陰極41を製造した。この冷陰極41では、2枚の銅電極43、43間に実施例1で得られた電極材料15本を平行に配置したものである。
この冷陰極41を用いて、図9に示す電界放出装置(発光素子)81を製造した。陽極84としては銅電極を使用し、石英からなるスペーサー85により冷陰極41と1mmの間隔を空けて平行に対向させて配置するとともに、両電極を電源86に接続した。
【0029】
(実施例4)
実施例3において、実施例1で得られた電極材料に代えて、実施例2で得られた電極材料(直径7μmの炭素繊維にウィスカー成長)を使用した以外は、実施例3と同様にして電界放出装置を製造した。
【0030】
(比較例2)
実施例3において、実施例1で得られた電極材料に代えて、比較例1で得られた従来の電極材料(シリコン単結晶基板にウィスカー成長)を使用した以外は、実施例3と同様にして電界放出装置を製造した。
【0031】
(電界放出特性)
実施例3、4及び比較例2で得られた電界放出装置を使用して、1×10−4Pa以下の真空度で電極間に電圧を印加し、各装置の電界放出特性を測定した結果を図14に示す。
閾値電界(放射電流密度1μA/cm2時の電界)は、実施例3の直径5μmの炭素繊維にウィスカー成長させた電極材料を使用した装置では0.3V/μmであり、実施例4の直径7μmの炭素繊維にウィスカー成長させた電極材料を使用した装置では1.1V/μmであった。これに対して、比較例2のシリコン単結晶基板にウィスカーを成長させた従来の電極材料を使用した装置では4.4V/μmであり、本発明の電極材料を使用することにより、大幅な電界放出特性の向上が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の電極材料を示す模式図である。
【図2】従来の電極材料を示す模式図である。
【図3】炭素繊維に1μmの直径を有するZnO:Alウイスカーが成長したときの電界集中係数(β)と炭素繊維の直径との関係を示す図である。
【図4】大気開放型CVD装置の1例を示す模式図である。
【図5】本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した1例を示す模式図である。
【図6】本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した他の例を示す模式図である。
【図7】本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した他の例を示す模式図である。
【図8】本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した他の例を示す模式図である。
【図9】本発明の電極材料を用いた電界放射装置の1例を示す模式図である。
【図10】本発明の電極材料を用いた電界放射装置の他の例を示す模式図である。
【図11】実施例1で得られた電極材料を電界放射型走査電子顕微鏡で観察した映像である。
【図12】実施例2で得られた電極材料を電界放射型走査電子顕微鏡で観察した映像である。
【図13】比較例1で得られた電極材料を電界放射型走査電子顕微鏡で観察した映像である。
【図14】実施例3、4及び比較例2で得られた電界放出装置の電界放出特性を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1、21 電極材料
2 炭素繊維
3、13 ウィスカー
4、14 先端部
5、15 根元部
12、82 基板
21 大気開放型CVD装置
22 ガス供給源
23 フローメーター
24、26 配管
25 気化器
27 スリット
28 ノズル
29、86 電源
30 扉
31 チャンバー
32、33 ボート
41,51,61,71 冷陰極
42 支持基板
43 電極
44 支持枠体
81、91 電界放射装置
83 蛍光体層
84 陽極
85 スペーサー
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷陰極等に用いられる電極材料及びその製造方法、並びに該電極材料を使用した電界放射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷陰極は、固体表面に強電界を印加することにより、電子を真空中に放射する陰極である。電界放射型ディスプレイ(FED)や平面X線発生源の電子源に利用することにより、FEDではより小さな電力で冷陰極から電子を引き出して蛍光体に照射するので省電力テレビとなり、X線発生源では大面積を有する陰極から電子を引き出しプレート状のX線発生素子に照射するので面状のX線ビームが得られる。
冷陰極から得られる単位面積、単位時間当たりに電界放射される電流密度Jは式(1)のFowler−Nordheim(F−N)式で表すことができる。
【0003】
【数1】
【0004】
(1)式は電界強度Eが大きくなれば、放射電流Jが大きくなるという単純な式である。(1)式において冷陰極の性能は、冷陰極材料の仕事関数Φと電界集中係数βであらわすことができる。つまりΦが小さくて、βの大きな陰極ほど小さな電界で大きな放射電流を示す冷陰極となる。
【0005】
これまで、アルミニウム添加酸化亜鉛ウイスカー(以下、「ZnO:Alウイスカー」ということがある)をシリコン基板上などに合成をして冷陰極とした例が提案されている。これらの例では、Φを小さくするために冷陰極材料にアモルファス炭素系薄膜や酸化マグネシウムを、ZnO:Alウイスカーの先端部に蒸着して用いている。例えば、大河原等は先端曲率半径が20nmである導電性ZnO:Alウイスカー冷陰極の先端に、仕事関数が小さいアモルファス炭素系(α−CNxH)膜を修飾したα−CNxH/ZnO:Alウイスカー冷陰極から電界放射を確認している(非特許文献1)。斎藤等は、α−CNxH/ZnO:Alウイスカー冷陰極を用いて3極型FEDを試作し、試作されたFEDより最大輝度1440cd/m2を得ている(非特許文献2)。また、Si基板に成長させたZnO:Alウイスカー冷陰極が1000程度の電界集中係数を有することを報告している(非特許文献3)。
【非特許文献1】Y. Ohkawara, T. Naijo, T. Washio, S. Ohshio, H. Ito and H. Saitoh: Jpn. J. Appl. Phys. 40(2001)7013-7017.
【非特許文献2】H. Saitoh, T. Washio and S. Ohshio: Adv. In Tec. of Mat. Proc. J. 6(2004)47-52.
【非特許文献3】H. Saitoh, H. Akasaka, T. Washio, Y. Ohkawara, S. Ohshio, H. Ito, H.Saitoh: J. Appl. Phys.41(2002)6169-6173.
【0006】
しかしながら、Si基板に成長させたZnO:Alウイスカー冷陰極では、隣接する冷陰極同士のスクリーニングの効果により電界集中係数は1000程度となってしまう。
図2に示すように、従来の冷陰極ではシリコン基板上にZnO:Alウイスカーがほぼ垂直にならび、ウイスカー間の間隙を十分にあけることができなかった。そのため、陽極が陰極から比較的遠いと、ウイスカーの先端の集合があたかも平面に見えてしまうため、電界集中が弱くなる。そのためZnO:Alウイスカーの先端の曲率半径が小さいにもかかわらず、電界集中係数は思ったほどには伸びなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明はこれら従来技術の問題点を解消して、小さな電界で大きな放射電流を示す、冷陰極等に用いられる高性能の電極材料、及びその効率的な製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、前記電極材料を用いた安価で性能の良い電界放射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は鋭意検討した結果、炭素繊維等の導電性繊維の円周方向に放射状に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させることにより、冷陰極等に用いた際に優れた性状を有する電極材料が得られることを発見し、本発明を完成した。
すなわち、本発明はつぎの1〜11の構成を採用するものである。
1.導電性繊維の円周方向に放射状に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させたことを特徴とする電極材料。
2.導電性繊維が炭素繊維であることを特徴とする1に記載の電極材料。
3.酸化亜鉛系ウィスカーがアルミニウム添加酸化亜鉛ウィスカーであることを特徴とする1又は2に記載の電極材料。
4.酸化亜鉛系ウィスカーの先端部に金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜から選択されたトップコートを設けたことを特徴とする1〜3のいずれかに記載の電極材料。
5.導電性繊維の直径が0.1〜10μmであることを特徴とする1〜4のいずれかに記載の電極材料。
6.酸化亜鉛系ウィスカーの直径が0.1〜10μm、長さが1〜50μmであることを特徴とする1〜5のいずれかに記載の電極材料。
7.酸化亜鉛系ウィスカーの密度が104〜107本/mm2、ウィスカー先端の曲率半径が1〜100nmであることを特徴とする1〜6のいずれかに記載の電極材料。
8.大気開放型化学気相析出法により、導電性繊維に通電加熱しながらその表面に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させることを特徴とする1〜7のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
9.さらに、酸化亜鉛系ウィスカーの先端部に金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜を蒸着させてトップコートを設けることを特徴とする8に記載の電極材料の製造方法。
10.1〜7のいずれかに記載された電極材料により構成された冷陰極と、該冷陰極に対向する陽極を有することを特徴とする電界放射装置。
11.電界放射装置が陽極に蛍光体層を設けた発光素子であることを特徴とする10に記載の電界放射装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、小さな電界で大きな放射電流を示す冷陰極等に用いられる高性能の電極材料を、簡単な工程で効率良く得ることができる。また、この電極材料を用いることにより、安価で優れた性能を有する光放射素子等の電界放射装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態として、導電性繊維として炭素繊維を使用した電極材料について説明する。
図1及び図2は本発明の電極材料を説明するための模式図であり、図1は本発明の電極材料を示す図、また図2は従来の電極材料を示す図である。
本発明の電極材料1は、図1にみられるように、炭素繊維2の円周方向において、放射状に酸化亜鉛系ウィスカー3を成長させたものである。この電極材料1では、ウイスカー3の先端部4における数密度が、根元部5における数密度に比較して大幅に減少したものとなる。したがって、この電極材料1を冷陰極とし、これに対向する陽極を設けた電界放射装置では、ウイスカー3の先端部4に集中する電界が大幅に増加する。
【0011】
これに対して、図2にみられるように、基板12に対して垂直方向にウイスカー13を成長させた従来の電極材料11では、ウイスカー13の先端部14における数密度は、根元部15における数密度と基本的に同じものとなる。したがって、ウイスカー13の先端部14における隣接するウイスカーとの間隔を十分に空けることができなかった。その結果、この電極材料11を冷陰極とし、これに対向する陽極を設けて電界放射装置を構成した際に、陽極が冷陰極から比較的遠い場合には、ウイスカー13の先端部14の集合があたかも平面に見えてしまうために、ウイスカー13の先端部14における電界集中が弱いものであった。
本発明では、上記の構成を採用することによって、冷陰極の電極材料として使用した際の電界集中係数を、従来の電極材料を使用した場合の5〜100倍程度に向上させることが可能となる。
【0012】
本発明において、炭素繊維2上に成長させる酸化亜鉛系ウィスカー3としては特に制限はなく、従来公知の酸化亜鉛系ウィスカーはいずれも使用することができる。好ましい酸化亜鉛系ウィスカーとしては、酸化亜鉛にアルミニウム、ホウ素、ガリウム、インジウム等の異種元素を添加したものが挙げられ、特にアルミニウムを添加した酸化亜鉛ウイスカーを使用することが好ましい。アルミニウム等の異種元素の添加量は、亜鉛原子に対して0.1〜2.0原子%程度とすることが好ましい。
【0013】
本発明の電極材料に使用する導電性繊維としては特に制限はなく、表面に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させることが可能な炭素繊維、或いは銅、金、銀、白金、アルミニウム等の金属繊維等を使用することができる。好ましい導電性繊維としては炭素繊維が挙げられ、市販の炭素繊維を用いることができる。
図3は、ウイスカーを成長させる炭素繊維に、1μmの直径を有するZnO:Alウイスカーが成長したときの電界集中係数(β)と炭素繊維の直径との関係について、幾何学的な形状をもとに計算で求め結果を示す図である。シリコン基板を使用する従来の電極材料では直径が無限大と定義できるため、ほぼβ=1000である。炭素繊維が細くなるにしたがって電界集中係数が上がり、とくに10μmよりも細くなると急激に大きくなることがわかる。したがって、炭素繊維の太さは10μmよりも細くなるほど有効である。ただし、ZnO:Alウイスカーの太さが細くても0.1μm程度なので、実用的には炭素繊維の直径も0.1μm程度以上とすることになる。
【0014】
炭素繊維等の導電性繊維の表面に、酸化亜鉛系ウィスカーを繊維の円周方向に放射状に成長させるには、大気開放型化学気相析出(CVD)法を使用することが好ましい。
大気開放型CVD法は、気化させた金属化合物を加熱された基材表面に吹付けて、基材表面で酸素、水等の大気中に含まれる化合物と反応させて、基材表面にウィスカー等を成長させる方法として広く知られている。原料となる金属化合物としては、例えば、金属又は金属類似元素の原子にアルコールの水酸基の水素が金属で置換されたアルコキシド類、金属または金属類似元素の原子にアセチルアセトン、エチレンジアミン、ビピペリジン、ビピラジン、シクロヘキサンジアミン、テトラアザシクロテトラデカン、エチレンジアミンテトラ酢酸、エチレンビス(グアニド)、エチレンビス(サリチルアミン)、テトラエチレングリコール、アミノエタノール、グリシン、トリグリシン、ナフチリジン、フェナントロニン、ペンタンジアミン、ピリジン、サリチルアルデヒド、サリチリデンアミン、ポルフィリン、チオ尿素などから選ばれる配位子を1種あるいは2種以上有する各種の錯体等を使用することができる。この中でも、金属アセチルアセトナート化合物、金属アルコキシド化合物等がより好ましく用いられる。
【0015】
本発明において亜鉛系ウィスカーを製造する原料となる錯体としては、亜鉛及び亜鉛に添加する異種元素に、β−ジケトン類、ケトエステル類、ヒドロキシカルボン酸類またはその塩類、各種のシッフ塩基類、ケトアルコール類、多価アミン類、アルカノールアミン類、エノール性活性水素化合物類、ジカルボン酸類、グリコール類、フェロセン類などの配位子が1種あるいは2種以上結合した化合物が挙げられる。
キャリアガスとしては、使用する金属化合物と反応するものでなければ、特に限定はされない。具体例として、窒素ガスやヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス、炭酸ガス、有機弗素ガス、あるいはヘプタン、ヘキサン等の有機物質等が挙げられる。これらのうちで安全性、経済性の上から不活性ガスが好ましい。窒素ガスが経済性の面より最も好ましい。
【0016】
図4は、大気開放型CVD法により炭素繊維等の導電性繊維の表面に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させるのに使用する装置の1例を示す模式図である。この装置21は、窒素ガス供給源22、フローメーター23、配管24、気化器25、配管26、スリット27を有するノズル28、及び炭素繊維2を直接通電加熱するための電源29を有する。そして、気化器25、配管26、ノズル28及び加熱電源29は、扉30を有するチャンバー31内に配置されている。配管24、気化器25、及び配管26の周囲には、リボンヒーター(図示せず)を配置することが好ましい。
【0017】
この装置21を使用してアルミニウム添加酸化亜鉛ウイスカー(ZnO:Alウイスカー)を製造するには、例えば原料となる金属錯体ビスアセチルアセトナト亜鉛Zn(C5H7O2)2をボート32に、金属錯体トリスアセチルアセトナトリウムAl(C5H7O2)3をボート33に入れて、ボート33がノズル28側になるように気化器25内にセットする。キャリアガスとして窒素供給源22から窒素を流しながら、気化器25を加熱して原料を気化させる。気化された原料はキャリアガスによってノズル28に輸送され、スリット27から加熱電源29により直接通電加熱された炭素繊維2上に吹付けられ、炭素繊維2上で熱分解して、繊維の円周方向に放射状にZnO:Alウイスカーを成長させる。
【0018】
炭素繊維上に成長させる酸化亜鉛系ウィスカーの直径(根元部の直径)は、通常は0.1〜10μm程度、先端部の曲率半径は1〜100nm程度、長さは1〜50μm程度とすることが好ましい。
また、酸化亜鉛系ウィスカーの密度(根元部の密度)は、104〜107本/mm2程度とすることが好ましい。
【0019】
本発明で得られる導電性繊維の円周方向に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させた電極材料は、小さな電界で大きな放射電流を示すことから、特に冷陰極を構成する材料として好適に用いられる。
また、酸化亜鉛系ウィスカーの先端部に金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜から選択されたトップコートを設けることによって、電界集中係数をさらに向上させることができる。トップコートを構成する好ましい材料としては、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、アモルファス水素化窒化炭素、ダイヤモンド、カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0020】
図5〜図7は、本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した例を示す模式図である。図5の冷陰極41では、支持基板42の左右両側に設けた銅等の導電性金属により構成された電極43,43間に、繊維の円周方向に酸化亜鉛系ウィスカー(図示せず)を成長させた複数の炭素繊維2を平行に配置することによって、冷陰極を構成したものである。
また、図6の冷陰極51では、支持基板42に設けた左右の電極43,43間に、同様の炭素繊維2を1本配置することによって冷陰極を構成したものである。そして、図7の冷陰極61では、支持基板42に設けた左右の電極43,43間に、複数の炭素繊維2を網目状に配置することによって、冷陰極を構成したものである。
【0021】
図8は、本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した他の例を示す模式図である。
この例では、図5の支持基板42に代えて支持枠体44,44を使用し、その左右両側に設けた銅等の導電性金属により構成された電極43,43間に、繊維の円周方向に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させた複数の炭素繊維2を配置することによって冷陰極71を構成したものである。したがって、隣接する炭素繊維2は空間を空けて平行に配置されたものとなる。
【0022】
図9は、本発明の電極材料により構成された冷陰極を用いた電界放射装置(発光素子)の1例示す模式図である。
この電界放射装置81は、図5の冷陰極41に平行に対向させて、石英ガラス等からなる基板82上にITO等からなる蛍光体層83を設けた陽極84を配置したものである。そして、冷陰極41と陽極84は石英等からなるスペーサー85、85により隔てられ、それぞれ電源86に接続されている。
【0023】
この電界装置81の電極間に電源86により電圧を印加すると、冷陰極41のウィスカー3の先端部に強電界が生じ、電界放射によってウィスカー先端の法線方向に電子が放出される。この電子によって蛍光体層83が励起されて発光し、矢印方向に基板82を透過した光が観測される。
陽極84は、銅、金、銀、白金等の導電性金属により構成することもできる。また、陽極84の蛍光体層83に変えて他の放射線源となる物質層を設けることができ、例えばX線を放出する物質層を設けた場合には、X線発生素子とすることができる。
【0024】
図10は、本発明の電極材料により構成された冷陰極を用いた電界放射装置(発光素子)の他の例を示す模式図である。
この電界放射装置91では、図9の電界放射装置81において、冷陰極41に代えて図8の冷陰極71を使用した以外は、図9の電界放射装置81と同様の構成を有する。この装置91では、冷陰極71の隣接する炭素繊維の間には空間が存在するために、ウィスカー3の先端から放出された電子によって蛍光体層83が励起されて発光した光は、図の点線矢印で示したように、炭素繊維間の空間を通過して冷陰極71側で観測される。特に、陽極84を構成する基板82として、光透過性の無い基板を使用した場合には、冷陰極71側方向のみに光が放射する、従来の発光素子とは全く異なる発光機構の素子を得ることができる。
【実施例】
【0025】
つぎに、実施例により本発明をさらに説明するが、以下の具体例は本発明を限定するものではない。
(実施例1)
図4の大気開放型CVD装置21を使用し、直径5μmの炭素繊維上にアルミニウム添加酸化亜鉛ウイスカー(ZnO:Alウイスカー)を次の手順で成長させて、本発明の電極材料を製造した。
原料となる金属錯体ビスアセチルアセトナト亜鉛Zn(C5H7O2)28.0gをボート32に、金属錯体トリスアセチルアセトナトアルミニウムAl(C5H7O2)30.5gをボート33に入れて、ボート33がノズル28側になるように気化器25内にセットした。キャリアガスとして窒素供給源22から窒素を流量1.2L/minで流しながら、気化器25を加熱して115℃で原料を気化させた。気化された原料はキャリアガスによってノズル28に輸送され、スリット27から加熱電源29により直接通電加熱された炭素繊維2上に吹付けられ、炭素繊維2上で熱分解して、繊維の円周方向に放射状にZnO:Alウイスカーを成長させた。得られた電極材料を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で観察した映像を、図11に示す。ZnO:Alウイスカーのウィスカー長は10−40μm、ウィスカー径は1−2μm、先端曲率半径は約20nmであった。
【0026】
(実施例2)
実施例1において、炭素繊維として直径7μmの炭素繊維を使用した以外は実施例1と同様にして、炭素繊維の円周方向に放射状にZnO:Alウイスカーを成長させて、電極材料を製造した。得られた電極材料をFE−SEM で観察した映像を、図12に示す。ZnO:Alウイスカーのウィスカー長は10−40μm、ウィスカー径は1−2μm、先端曲率半径は約20nmであった。
【0027】
(比較例1)
実施例1において、炭素繊維に代えてシリコン単結晶基板を使用し、この単結晶基板を加熱装置により加熱しながら、実施例1と同様の手順で基板上にZnO:Alウイスカーを成長させて、従来の電極材料を製造した。得られた電極材料をFE−SEM で観察した映像を、図13に示す。ZnO:Alウイスカーのウィスカー長は6μm、ウィスカー径は1−2μm、先端曲率半径は約20nmであった。
【0028】
(実施例3)
実施例1で得られた直径5μmの炭素繊維にウィスカー成長させた電極材料を使用して、図5に示す冷陰極41を製造した。この冷陰極41では、2枚の銅電極43、43間に実施例1で得られた電極材料15本を平行に配置したものである。
この冷陰極41を用いて、図9に示す電界放出装置(発光素子)81を製造した。陽極84としては銅電極を使用し、石英からなるスペーサー85により冷陰極41と1mmの間隔を空けて平行に対向させて配置するとともに、両電極を電源86に接続した。
【0029】
(実施例4)
実施例3において、実施例1で得られた電極材料に代えて、実施例2で得られた電極材料(直径7μmの炭素繊維にウィスカー成長)を使用した以外は、実施例3と同様にして電界放出装置を製造した。
【0030】
(比較例2)
実施例3において、実施例1で得られた電極材料に代えて、比較例1で得られた従来の電極材料(シリコン単結晶基板にウィスカー成長)を使用した以外は、実施例3と同様にして電界放出装置を製造した。
【0031】
(電界放出特性)
実施例3、4及び比較例2で得られた電界放出装置を使用して、1×10−4Pa以下の真空度で電極間に電圧を印加し、各装置の電界放出特性を測定した結果を図14に示す。
閾値電界(放射電流密度1μA/cm2時の電界)は、実施例3の直径5μmの炭素繊維にウィスカー成長させた電極材料を使用した装置では0.3V/μmであり、実施例4の直径7μmの炭素繊維にウィスカー成長させた電極材料を使用した装置では1.1V/μmであった。これに対して、比較例2のシリコン単結晶基板にウィスカーを成長させた従来の電極材料を使用した装置では4.4V/μmであり、本発明の電極材料を使用することにより、大幅な電界放出特性の向上が認められた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の電極材料を示す模式図である。
【図2】従来の電極材料を示す模式図である。
【図3】炭素繊維に1μmの直径を有するZnO:Alウイスカーが成長したときの電界集中係数(β)と炭素繊維の直径との関係を示す図である。
【図4】大気開放型CVD装置の1例を示す模式図である。
【図5】本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した1例を示す模式図である。
【図6】本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した他の例を示す模式図である。
【図7】本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した他の例を示す模式図である。
【図8】本発明の電極材料を使用して冷陰極を構成した他の例を示す模式図である。
【図9】本発明の電極材料を用いた電界放射装置の1例を示す模式図である。
【図10】本発明の電極材料を用いた電界放射装置の他の例を示す模式図である。
【図11】実施例1で得られた電極材料を電界放射型走査電子顕微鏡で観察した映像である。
【図12】実施例2で得られた電極材料を電界放射型走査電子顕微鏡で観察した映像である。
【図13】比較例1で得られた電極材料を電界放射型走査電子顕微鏡で観察した映像である。
【図14】実施例3、4及び比較例2で得られた電界放出装置の電界放出特性を測定した結果を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
1、21 電極材料
2 炭素繊維
3、13 ウィスカー
4、14 先端部
5、15 根元部
12、82 基板
21 大気開放型CVD装置
22 ガス供給源
23 フローメーター
24、26 配管
25 気化器
27 スリット
28 ノズル
29、86 電源
30 扉
31 チャンバー
32、33 ボート
41,51,61,71 冷陰極
42 支持基板
43 電極
44 支持枠体
81、91 電界放射装置
83 蛍光体層
84 陽極
85 スペーサー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維の円周方向に放射状に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させたことを特徴とする電極材料。
【請求項2】
導電性繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
酸化亜鉛系ウィスカーがアルミニウム添加酸化亜鉛ウィスカーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項4】
酸化亜鉛系ウィスカーの先端部に金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜から選択されたトップコートを設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電極材料。
【請求項5】
導電性繊維の直径が0.1〜10μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電極材料。
【請求項6】
酸化亜鉛系ウィスカーの直径が0.1〜10μm、長さが1〜50μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電極材料。
【請求項7】
酸化亜鉛系ウィスカーの密度が104〜107本/mm2、ウィスカー先端の曲率半径が1〜100nmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電極材料。
【請求項8】
大気開放型化学気相析出法により、導電性繊維に通電加熱しながらその表面に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
【請求項9】
さらに、酸化亜鉛系ウィスカーの先端部に金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜を蒸着させてトップコートを設けることを特徴とする請求項8に記載の電極材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載された電極材料により構成された冷陰極と、該冷陰極に対向する陽極を有することを特徴とする電界放射装置。
【請求項11】
電界放射装置が陽極に蛍光体層を設けた発光素子であることを特徴とする請求項10に記載の電界放射装置。
【請求項1】
導電性繊維の円周方向に放射状に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させたことを特徴とする電極材料。
【請求項2】
導電性繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項1に記載の電極材料。
【請求項3】
酸化亜鉛系ウィスカーがアルミニウム添加酸化亜鉛ウィスカーであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極材料。
【請求項4】
酸化亜鉛系ウィスカーの先端部に金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜から選択されたトップコートを設けたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電極材料。
【請求項5】
導電性繊維の直径が0.1〜10μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の電極材料。
【請求項6】
酸化亜鉛系ウィスカーの直径が0.1〜10μm、長さが1〜50μmであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の電極材料。
【請求項7】
酸化亜鉛系ウィスカーの密度が104〜107本/mm2、ウィスカー先端の曲率半径が1〜100nmであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の電極材料。
【請求項8】
大気開放型化学気相析出法により、導電性繊維に通電加熱しながらその表面に酸化亜鉛系ウィスカーを成長させることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の電極材料の製造方法。
【請求項9】
さらに、酸化亜鉛系ウィスカーの先端部に金属酸化物膜又はアモルファス炭素系膜を蒸着させてトップコートを設けることを特徴とする請求項8に記載の電極材料の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載された電極材料により構成された冷陰極と、該冷陰極に対向する陽極を有することを特徴とする電界放射装置。
【請求項11】
電界放射装置が陽極に蛍光体層を設けた発光素子であることを特徴とする請求項10に記載の電界放射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2008−192396(P2008−192396A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23995(P2007−23995)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月29日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)秋季 第67回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第2分冊」に発表
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年8月29日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)秋季 第67回応用物理学会学術講演会講演予稿集 第2分冊」に発表
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】
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