説明

電極板の洗浄装置および洗浄方法

【課題】洗浄液噴射手段を電極板と電極板の間に入れる必要がなく、メンテナンス性が良好であり、洗浄力の高い洗浄装置および洗浄方法を提供すること。
【解決手段】電解精錬に用いられる電極板の洗浄装置であって、所定の間隔をおいて吊り下げられた複数の電極板を、搬送ラインの一方側から他方側に向かって搬送する搬送手段と、前記搬送手段で搬送される複数の電極板を、搬送方向に対して傾倒させる傾倒手段と、前記傾倒手段によって傾倒した電極板の上面側および/または下面側より、前記電極板の表面に洗浄液を噴射する洗浄液噴射手段と、を備えるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解精錬に用いられる電極板の洗浄装置および洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅、亜鉛、鉛、ニッケルなどの非鉄金属の精錬においては、広く電解精錬法が採られている。
【0003】
電解精錬法とは、電解液を貯留した電解槽内にアノード板(陽極)とカソード板(陰極)とを沈設して、アノード板からカソード板に電流を流すことでカソード板の表面に金属を析出する方法であり、電解精製法(ER法(Electolytic Refiniing process))や電
解採取法(EW法(Electolytic Winning process))といった方法がある。この電解精
錬法によって表面に金属が析出したカソード板は、析出した金属がある重量になった時点で電解槽から引き上げられる。そして、洗浄装置において析出した金属の表面を洗浄した後に、例えば特許文献1や特許文献2に記載されているような剥ぎ取り機で、析出した金属部分をカソード板から剥ぎ取ることで、高純度の金属を得ることができる。
【0004】
図5は、従来の洗浄装置を示した全体側面図である。
この従来の洗浄装置100は、図5に示したように、所定の間隔を置いて垂直に吊り下げられた複数のカソード板130を搬送するコンベヤ110と、カソード板130の上方に配置された洗浄液噴射手段としての複数の噴射ノズル120と、から構成されている。
なお、カソード板130は、例えば天井クレーンなどによって電解槽から複数同時に引き上げられて、その引き上げられた状態のままコンベヤ110に載置される。したがって、カソード板130の搬送間隔は、カソード板130が電解槽から引き上げられた際のカソード板130の間隔と同じであり、電解精製法(ER法)の場合は約100mm、電解採取法(EW法)の場合は約300mmである。
【0005】
そして、配管122を介して送液された洗浄液を、複数の噴射ノズル120からカソード板130の表面に噴射することで、カソード板130の表面に析出している金属の洗浄を行っている。
なお、この従来の洗浄装置100の噴射ノズル120から噴射される洗浄液の吐出圧は、約1〜3kgf/cm2である。
【0006】
しかしながら、この従来の洗浄装置100は、上述したように、垂直に吊り下げられたカソード板130の上方から洗浄液を噴射するように構成されており、噴射された洗浄液がカソード板130の表面に対して平行に近い角度で衝突するため、洗浄力が小さく、十分な洗浄を行うことができない場合があった。特に、電解採取法(EW法)によって金属の電解精錬を行う場合、電解槽から引き上げられたカソード板130に析出した金属の表面に付着する不純物はとれにくく、このような不純物を洗浄除去するには、従来の洗浄装置100の洗浄力では不十分であった。
【0007】
また、従来の洗浄装置100を高圧仕様に改造し、例えば約6kgf/cm2程度の高圧の洗
浄液を噴射するように構成して、金属の表面に析出した不純物の結晶を洗浄除去することも考えられる。しかしこの場合は、噴射ノズル120、配管122、及び不図示のポンプ設備などを高圧仕様に変更する必要があるため不経済である。
【0008】
このため、特に、電解採取法(EW法)で電解精錬された金属を洗浄するための洗浄装置として、図6に示した洗浄装置200が従来から使用されている。
【0009】
図6は、従来の他の洗浄装置を示した全体側面図である。
この従来の洗浄装置200は、図6に示したように、所定の間隔(約300mm)を置
いて垂直に吊り下げられた複数のカソード板230を搬送するコンベヤ210と、この隣接するカソード板230、230の間に挿入される洗浄液噴射手段としての複数の噴射ノズル220と、から構成されている。そして、配管222を介して送液された洗浄液を、複数の噴射ノズル220からカソード板230の表面に噴射することで、カソード板230の表面に析出している純銅の洗浄を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2002−531697号公報
【特許文献2】特開2009−215598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、この従来の洗浄装置200では、カソード板230、230の間に複数の噴射ノズル220を挿入するための可動設備が必要であるとともに、この可動部分のメンテナンスを頻繁に行う必要があるため、設備費、運転費、及びメンテナンス費が嵩んでしまい、不経済であった。
【0012】
また、この従来の洗浄装置200では、カソード板230を洗浄する際に、コンベヤ210の運転を一旦停止し、この状態でカソード板230、230の間に複数の噴射ノズル220を挿入して洗浄液を噴射した後、複数の噴射ノズル220を後退させ、再びコンベヤ210の運転を開始するとの工程を採る必要があり、コンベヤ210の運転を頻繁に停止する必要があることから、生産性があまり良好なものではなかった。
【0013】
本発明は、このような現状に鑑みなされたものであって、洗浄液噴射手段を電極板と電極板の間に入れる必要がなく、メンテナンス性が良好であり、洗浄力の高い洗浄装置および洗浄方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前述したような従来技術の問題点を解決するために発明されたものであって、
本発明の洗浄装置は、
電解精錬に用いられる電極板の洗浄装置であって、
所定の間隔をおいて吊り下げられた複数の電極板を、搬送ラインの一方側から他方側に向かって搬送する搬送手段と、
前記搬送手段で搬送される複数の電極板を、搬送方向に対して傾倒させる傾倒手段と、
前記傾倒手段によって傾倒した電極板の上面側および/または下面側より、前記電極板の表面に洗浄液を噴射する洗浄液噴射手段と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明の洗浄方法は、
電解精錬に用いられる電極板の洗浄方法であって、
所定の間隔をおいて吊り下げられた複数の電極板を、搬送ラインの一方側から他方側に向かって搬送する搬送工程と、
前記搬送工程で搬送される複数の電極板を、搬送方向に対して傾倒させる傾倒工程と、
前記傾倒工程によって傾倒した電極板の上面側および/または下面側より、前記電極板の表面に洗浄液を噴射する洗浄液噴射工程と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
このように電極板が傾倒された状態で、電極板の上面側および/または下面側より洗浄液を電極板に噴射するようにすれば、噴射された洗浄液が電極板の表面に対して垂直に近い角度で衝突するため、大きな洗浄力を得ることができる。したがって、噴射する洗浄液の吐出圧を高圧にしなくても、電極板に析出した不純物の結晶などを洗浄除去することが可能である。
【0017】
また、電極板の上面側および/または下面側より洗浄液を電極板に噴射するため、電極板の搬送を止めることなく洗浄が可能である。
さらに、洗浄液噴射手段を電極板の間に挿入する必要がないため、設備費、運転費を抑えることができるとともに、メンテナンス性も良好であるため、補修費も抑えることができる。
【0018】
また、上記発明において、
本発明の洗浄装置は、
前記洗浄液噴射工程において、
前記傾倒工程で傾倒させた電極板の上面側および/または下面側に配設された噴射ノズルから、前記電極板の表面に洗浄液を噴射することが望ましい。
【0019】
また、上記発明において、
本発明の洗浄方法は、
前記洗浄液噴射工程において、
前記傾倒工程で傾倒させた電極板の上面側および/または下面側に配設された噴射ノズルから、前記電極板の表面に洗浄液を噴射することが望ましい。
【0020】
このように構成することによって、電極板の上面側および/または下面側に配設された噴射ノズルから、電極板の表面に洗浄液を噴射すれば、噴射ノズルから噴射された洗浄液が電極板の表面に対して垂直に近い角度で衝突するため、大きな洗浄力を得ることができる。
【0021】
また、上記発明において、
本発明の洗浄装置は、
前記噴射ノズルが、
所望の方向に洗浄液を噴射できるように構成されていることが望ましい。
【0022】
また、上記発明において、
本発明の洗浄方法は、
前記洗浄液噴射工程において、
前記噴射ノズルから噴射する洗浄液の噴射方向を、所望の方向に調整することが望ましい。
【0023】
このように構成することによって、噴射ノズルから噴射する洗浄液の噴射方向を、所望の方向に調整することが出来るため、例えば、電極板の傾倒角度に応じて洗浄液の噴射方向を適宜調整することで、噴射ノズルから噴射された洗浄液が電極板の表面に対して略垂直に衝突するように構成することも可能であり、より高い洗浄力を得ることができる。
【0024】
また、上記発明において、
本発明の洗浄装置は、
前記噴射ノズルが、
洗浄液を揺動しながら噴射するように構成されていることが望ましい。
【0025】
また、上記発明において、
本発明の洗浄方法は、
前記洗浄液噴射工程において、
前記噴射ノズルから洗浄液を揺動しながら噴射させることが望ましい。
【0026】
このように構成することによって、噴射ノズルが揺動しながら洗浄液を噴射することから、洗浄ムラが生ずることがなく、均一に電極板の表面を洗浄することができる。
【0027】
また、上記発明において、
本発明の洗浄装置は、
前記搬送手段によって搬送される複数の電極板の間の距離を調整する搬送間隔調整手段を備えることが望ましい。
【0028】
また、上記発明において、
本発明の洗浄方法は、
前記搬送工程において、
搬送される複数の電極板の間の距離を、搬送間隔調整手段によって調整することが望ましい。
【0029】
このように構成することによって、搬送される複数の電極板の電極間の距離を搬送間隔調整手段によって調整することが出来るため、例えば、狭い間隔で搬送されてきた複数の電極板を、洗浄に適した電極板間の距離に調整した後に洗浄することで、より確実に電極板の表面を洗浄することができる。
【0030】
また、上記発明において、
本発明の洗浄装置は、
前記電極板に噴射された洗浄液を回収するとともに、この回収された洗浄液を、前記電極板の洗浄液に再利用できるように構成された洗浄液循環手段を備えることが望ましい。
【0031】
また、上記発明において、
本発明の洗浄方法は、
前記洗浄液噴射工程において、
前記電極板に噴射された洗浄液を回収するとともに、この回収した洗浄液を、前記電極板の洗浄液に再利用することが望ましい。
【0032】
このように構成することによって、電極板に噴射された洗浄液を回収するとともに、この回収された洗浄液を、電極板の洗浄液に再利用するため、洗浄液を有効利用することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、電極板が搬送方向に対して傾倒した状態で、電極板の上面側および/または下面側より洗浄液が噴射されるように構成されており、噴射された洗浄液が電極板の表面に対して垂直に近い角度で衝突するため、大きな洗浄力を得ることができる。したがって、噴射する洗浄液の吐出圧を高圧にしなくても、電極板に析出した不純物の結晶などを洗浄除去することが可能である。
【0034】
また、本発明によれば、電極板の上面側および/または下面側より洗浄液を電極板に噴射するため、電極板の搬送を止めることなく洗浄が可能である。
さらに、本発明によれば、洗浄液噴射手段を電極板の間に挿入する必要がないため、設備費、運転費を抑えることができるとともに、メンテナンス性も良好であるため、補修費も抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は、本発明の洗浄装置を示した全体側面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線を矢印方向から視た断面図である。
【図3】図3は、本発明の別の実施形態の洗浄装置を示した全体側面図である。
【図4】図4は、図3のB−B線を矢印方向から視た断面図である。
【図5】図5は、従来の洗浄装置を示した全体側面図である。
【図6】図6は、従来の別の洗浄装置を示した全体側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいてより詳細に説明する。
図1は、本発明の洗浄装置を示した全体側面図である。図2は、図1のA−A線を矢印方向から視た断面図である。
【0037】
図1に示したように、本発明の洗浄装置1は、所定の間隔をおいて吊り下げられた複数の電極板30を、搬送ラインの一方側(図1の左側)から他方側(図1の右側)に向かって搬送する搬送手段のコンベヤ10a、10bと、搬送される複数の電極板30を、搬送方向に対して傾倒させる傾倒手段のガイドレール40と、電極板30に対して洗浄液を噴射する洗浄液噴射手段の噴射ノズル20a、20b、20cと、を備えている。
【0038】
噴射ノズル20a、20b、20cは、図1および図2に示したように、傾倒した電極板30の上面側および下面側に複数配設されており、給液管22a、22b、22cを介して送液される所定圧力の洗浄液を、ガイドレール40によって傾倒した電極板30に対して、例えば扇形のスプレーパターンで噴射するように構成されている。また、本実施形態では、噴射ノズル20a、20b、20cのノズルの向きは、洗浄液の噴射方向が真下または真上になるように調整されている。また、噴射ノズル20a、20b、20cから噴射される洗浄液の吐出圧は、上述した従来の洗浄装置100とほぼ同じであり、約1〜3kgf/cm2である。
【0039】
また、後述するように、噴射ノズル20aは、給液管22aを介して送液された一次洗浄液を電極板30に向かって噴射し、噴射ノズル20bは、給液管22bを介して送液された二次洗浄液を電極板30に向かって噴射する。また、噴射ノズル20cは、給液管22cを介して送液された三次洗浄液(新水)を電極板30に向かって噴射する。
【0040】
また、噴射ノズル20a、20b、20cは、ノズルが回転または上下左右に揺動可能に構成されている。このように、噴射ノズル20a、20b、20cが揺動しながら洗浄液を噴射するように構成されていることで、洗浄ムラが生ずることがなく、均一に電極板30の表面を洗浄することができる。
なお、上述した噴射ノズル20a、20b、20cが揺動しながら洗浄液を噴射する構成としては、揺動機能が内蔵された噴射ノズルを用いても良く、また、噴射ノズルとは別体の揺動機構(不図示)を噴射ノズルに付加することで、噴射ノズルを揺動可能に構成しても良い。
【0041】
電極板30は、例えば電解採取法(EW法)や電解精錬法(ER法)によってその両方の表面に純銅が析出したカソード板である。このカソード板は、電解液が貯留されている不図示の電解槽中に約100mm間隔で沈設されていたものであり、電解採取法(EW法)の場合は、電解槽中から3ピッチ毎に(すなわち300mm間隔で)、電解精錬法(ER法
)の場合は電解槽中に沈設されていた間隔のまま(すなわち100mm間隔で)、引き上げられて、コンベヤ10aに移載され、コンベヤ10aに吊り下げられた状態で搬送される。
【0042】
ガイドレール40は、例えばステンレス製のレール部材であり、図2に示したように、左右各1条のレール部材が平行に配設されて形成されている。また、ガイドレール40は、電極板30の下端部がレール部材に当接して、電極板30が搬送方向に対して傾倒した状態で搬送されるように、図1に示したように側面視で略門形をなしており、本実施形態では、電極板30が垂直方向に対して90度の角度で傾倒するように構成されている。また、垂直に吊り下げられた状態で搬送される電極板30が徐々に傾倒するように、また、傾倒した電極板30が徐々に垂直になるように、ガイドレール40の搬送方向の手前側および奥側の形状は、スロープ状になっている。
【0043】
また、ガイドレール40の搬送方向手前側には、コンベヤ10aによって搬送される複数の電極板30の電極間の距離を調整する搬送間隔調整手段が設置されている。この搬送間隔調整手段は、具体的にはコンベヤ10aにより搬送されてきた電極板30を、約1400mm間隔でコンベヤ10bに移載する移載装置50であり、ガイドレール40によって傾倒した電極板30が互いに重ならないように、搬送されてくる複数の電極板30の間の距離を調整するものである。本実施形態では、高さ約1300mmの電極板30に対して、搬送間隔調整手段によって、その搬送間隔を約1400mmに調整している

【0044】
このように、本実施形態の洗浄装置1は、コンベヤ10aによって搬送されてくる電極板30の搬送間隔を調整する搬送間隔調整手段(移載装置50)を備えていることから、搬送されてくる電極板30の搬送間隔に関わらず適用可能であり、電解採取法(EW法)および電解精錬法(ER法)のいずれの方法に対しても適用することができる。特に、析出した金属の表面に付着する不純物がとれにくい電解採取法(EW法)に対して、好適に適用することができる。また、狭い間隔で搬送されてきた複数の電極板30を、洗浄に適した電極板間の距離に調整した後に洗浄するため、より確実に電極板30の表面を洗浄することができる。
【0045】
また、ガイドレール40の搬送方向手前側ならびに奥側には、電極板30に噴射された洗浄液が流入する集液桝62a、62bが設置されている。この集液桝62aには、例えば1次洗浄液、2次洗浄液が集液されるようになっており、集液枡62bには、例えば3次洗浄液が集液されるようになっている。また、集液桝62aには排液管64aが、集液桝62bには排液管64bが、それぞれ接続しており、集液桝62a、62bに集液された洗浄液が、排液管64a、64bを介して回収されて、洗浄液貯留槽60に貯留されるようになっている。
【0046】
また、洗浄液貯留槽60は、図1に示したように、隔壁63によって一次洗浄液貯留槽61aと二次洗浄液貯留槽61bとに仕切られている。二次洗浄液貯留槽61bには、上述した排液管64bが接続されており、排液管64bを介して回収された洗浄液を貯留するようになっている。また、二次洗浄液貯留槽61bには、吸液管66bを介してポンプ68bが接続されている。二次洗浄液貯留槽61bに貯留されている洗浄液は、このポンプ68bによって加圧され、吐出管24bを介して給液管22bへ送液されて、噴射ノズル20bから二次洗浄液として電極板30に噴射されるようになっている。また、隔壁63の壁高は、二次洗浄液貯留槽61bの他の周囲の壁高よりも低くなっており、二次洗浄液貯留槽61bに貯留されている洗浄液の液面高が所定以上になった場合には、二次洗浄液貯留槽61bに貯留されている洗浄液が一次洗浄液貯留槽61aに越流するようになっている。
【0047】
また、一次洗浄液貯留槽61aには、上述した排液管64aが接続されており、排液管64aを介して回収された洗浄液、及び上述したように二次洗浄液貯留槽61bから越流して流入する洗浄液を貯留するようになっている。また、一次洗浄液貯留槽61aには、吸液管66aを介してポンプ68aが接続されている。一次洗浄液貯留槽61aに貯留されている洗浄液は、このポンプ68aによって加圧され、吐出管24aを介して給液管22aへ送液されて、噴射ノズル20aから一次洗浄液として電極板30に噴射されるようになっている。また、図1に示したように、一次洗浄液貯留槽61aには余水吐管67が配設されている。この余水吐管67の先端には呑口部67aが形成されており、一次洗浄液貯留槽61aの液面高が所定高さ以上になった場合には、貯留されている洗浄液が越流して、余水吐管66を介して外部に排出されるようになっている。
【0048】
すなわち、本実施形態では、上述した集液桝62a、62b、排液管64a、64b、洗浄液貯留槽60、ポンプ68a、68bなどにより、電極板30に噴射された洗浄液を回収するとともに、この回収された洗浄液を電極板30の洗浄液に再利用するように構成された、洗浄液循環手段を備えている。
【0049】
また、噴射ノズル20cから噴射される三次洗浄液には、洗浄液を再利用するのではなく、新しい水(新水)が用いられる。このため、二次洗浄液貯留槽61bには、排液管64bを介して、絶えず新水である三次洗浄液が流入し、二次洗浄液貯留槽61bに貯留されている洗浄液は、この流入する三次洗浄液によって希釈されるようになっている。
【0050】
このように、本実施形態の洗浄液循環手段では、二次洗浄液貯留槽61bに貯留されている洗浄液の方が、一次洗浄液貯留槽61aに貯留されている洗浄液よりも、相対的に汚れが少なくなるように構成されている。また、上述したように、一次洗浄液貯留槽61aに貯留されている洗浄液は、余水吐管66を介して外部に排出されるようになっており、本実施形態の洗浄液循環手段は、洗浄液貯留槽60に貯留されている洗浄液の液質を悪化させることなく、洗浄液を継続的に再利用することができるように構成されている。
【0051】
以上のとおり、本発明の洗浄装置および洗浄方法によれば、電極板30が搬送方向に対して傾倒した状態で、電極板30の上面側および/または下面側より洗浄液が噴射されるように構成されており、噴射された洗浄液が電極板30の表面に対して垂直に近い角度で衝突するため、大きな洗浄力を得ることができる。したがって、噴射する洗浄液の吐出圧を高圧にしなくても、電極板30に析出した不純物の結晶などを洗浄除去することが可能である。
【0052】
また、本発明の洗浄装置および洗浄方法によれば、電極板30の上面側および/または下面側より洗浄液を電極板30に噴射するため、電極板30の搬送を止めることなく洗浄が可能である。
さらに、本発明の洗浄装置および洗浄方法によれば、洗浄液噴射手段を電極板30の間に挿入する必要がないため、設備費、運転費を抑えることができるとともに、メンテナンス性も良好であるため、補修費も抑えることができる。
【0053】
図3は、本発明の別の実施形態の洗浄装置を示した全体側面図である。図4は、図3のB−B線を矢印方向から視た断面図である。なお、本実施形態は、上述した実施形態と基本的には同様な構成であり、同一の構成部材に対しては、その詳細な説明を省略する。
【0054】
本実施形態の洗浄装置1は、図3に示したように、電極板30が垂直方向に対して45度の角度で傾倒するようにガイドレール40が構成されている点が、上述した実施形態と大きく異なっている。
【0055】
また、本実施形態では、噴射ノズル20a、20b、20cが、所望の方向に洗浄液を噴射できるように構成されており、本実施形態では、図3に示したように、噴射ノズル20a、20b、20cから噴射される洗浄液が、電極板30の表面に対して略垂直に衝突するように調整されている。
なお、上述した噴射ノズル20a、20b、20cが所望の方向に洗浄液を噴射する構成としては、噴射方向調整機能が内蔵された噴射ノズルを用いても良く、また、噴射ノズルとは別体の噴射方向調整機構(不図示)を噴射ノズルに付加することで、噴射ノズルの噴射方向が所望の方向に調整可能となるように構成しても良い。
【0056】
また、本実施形態では、ガイドレール40の搬送方向手前側に配置されている搬送間隔調整手段の移載装置50において、高さ約1300mm(45度傾倒している状態の長さは約920mm)の電極板30に対して、その搬送間隔を約1100mmに調整している

【0057】
以上のとおり、本発明における電極板30の搬送方向に対する傾倒角度は、必ずしも垂直方向に対して90度でなくてもよく、特に限定されない。しかしながら、電極板30の搬送方向に対する傾倒角度が小さいと、洗浄液が電極板30の表面に対して平行に近い角度で衝突するため、洗浄力が小さくなる。したがって、本発明の洗浄装置および洗浄方法においては、電極板30の搬送方向に対する傾倒角度は45度〜90度の範囲とするのが好ましい。また、電極板30の搬送方向に対する傾倒角度を90度以外にする場合には、洗浄液が電極板30の表面に対して略垂直に衝突するように洗浄液の噴射方向を調整することが好ましい。
【0058】
また、本発明の洗浄装置および洗浄方法にあっては、噴射ノズル20a、20b、20cを所望の方向に洗浄液を噴射できるように構成することに加えて、電極板30の傾倒角度を測定するセンサー部材を配置し、このセンサー部材で測定した電極板30の傾倒角度に応じて、噴射ノズル20a、20b、20cの噴射方向を自動的に調整するように構成することも可能である。
このように構成することにより、例えば、高さの異なる電極板30が搬送される搬送ラインにおいて、搬送される電極板30の傾倒角度が各々異なる場合であっても、噴射ノズル20a、20b、20cの噴射方向が自動的に調整されるため、洗浄液が電極板30の表面に対して常に略垂直に衝突するようにすることができる。
【0059】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。本発明の目的を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0060】
例えば、上述した実施形態では、銅の電解精錬に用いられる電極板30を例として説明したが、本発明の洗浄装置および洗浄方法は、これに限定されず、亜鉛、鉛、ニッケルなど、他の非鉄金属の電解精錬に用いられる電極板の洗浄にも適用できる。
【0061】
また、上述した実施形態では、電極板30が、電解採取法(EW法)や電解精錬法(ER法)によって表面に金属が析出したカソード板であるものとして説明したが、本発明の洗浄装置および洗浄方法では、電極板30はこれに限定されず、例えば、電解精製法(ER法)によって金属成分が溶出したアノード板(スクラップアノード)の洗浄や、電解採取法(EW法)で使用したアノード板の洗浄にも適用可能である。
【0062】
また、上述した実施形態では、電極板30の洗浄を、1次洗浄、2次洗浄、3次洗浄の3段階で行っていたが、本発明の洗浄装置および洗浄方法は、これに限定されない。例えば、電極板30の洗浄を1次洗浄、2次洗浄の2段階で行うようにし、電極板30に噴射
された洗浄液を回収して、1次洗浄液に再利用するように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 洗浄装置
10a 第1のコンベヤ
10b 第2のコンベヤ
20a、20b 噴射ノズル
22a、22b 給液管
24a、24b 吐出管
30 電極板
40 ガイドレール
50 移載装置
60 洗浄液貯留槽
61a 一次洗浄液貯留槽
61b 二次洗浄液貯留槽
62a、62b 集液桝
64a、64b 排液管
66a、66b 吸液管
67 余水吐管
67a 呑口部
68a、68b ポンプ
100 洗浄装置
110 コンベヤ
120 噴射ノズル
122 配管
130 カソード板
200 洗浄装置
210 コンベヤ
220 噴射ノズル
222 配管
230 カソード板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解精錬に用いられる電極板の洗浄装置であって、
所定の間隔をおいて吊り下げられた複数の電極板を、搬送ラインの一方側から他方側に向かって搬送する搬送手段と、
前記搬送手段で搬送される複数の電極板を、搬送方向に対して傾倒させる傾倒手段と、
前記傾倒手段によって傾倒した電極板の上面側および/または下面側より、前記電極板の表面に洗浄液を噴射する洗浄液噴射手段と、
を備えることを特徴とする洗浄装置。
【請求項2】
前記洗浄液噴射手段が、
前記傾倒手段によって傾倒した電極板の上面側および/または下面側に配設された噴射ノズルを備えることを特徴とする請求項1に記載の洗浄装置。
【請求項3】
前記噴射ノズルが、
所望の方向に洗浄液を噴射できるように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の洗浄装置。
【請求項4】
前記噴射ノズルが、
洗浄液を揺動しながら噴射するように構成されていることを特徴とする請求項2または3に記載の洗浄装置。
【請求項5】
前記搬送手段によって搬送される複数の電極板の間の距離を調整する搬送間隔調整手段を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の洗浄装置。
【請求項6】
前記電極板に噴射された洗浄液を回収するとともに、この回収された洗浄液を、電極板の洗浄液に再利用できるように構成された洗浄液循環手段を備えることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の洗浄装置。
【請求項7】
電解精錬に用いられる電極板の洗浄方法であって、
所定の間隔をおいて吊り下げられた複数の電極板を、搬送ラインの一方側から他方側に向かって搬送する搬送工程と、
前記搬送工程で搬送される複数の電極板を、搬送方向に対して傾倒させる傾倒工程と、
前記傾倒工程によって傾倒した電極板の上面側および/または下面側より、前記電極板の表面に洗浄液を噴射する洗浄液噴射工程と、
を備えることを特徴とする洗浄方法。
【請求項8】
前記洗浄液噴射工程において、
前記傾倒工程で傾倒させた電極板の上面側および/または下面側に配設された噴射ノズルから、前記電極板の表面に洗浄液を噴射することを特徴とする請求項7に記載の洗浄装置。
【請求項9】
前記洗浄液噴射工程において、
前記噴射ノズルから噴射する洗浄液の噴射方向を、所望の方向に調整することを特徴とする請求項8に記載の洗浄方法。
【請求項10】
前記洗浄液噴射工程において、
前記噴射ノズルから洗浄液を揺動しながら噴射させることを特徴とする請求項8または9に記載の洗浄方法。
【請求項11】
前記搬送工程において、
搬送される複数の電極板の間の距離を、搬送間隔調整手段によって調整することを特徴とする請求項7から10のいずれかに記載の洗浄方法。
【請求項12】
前記洗浄液噴射工程において、
前記電極板に噴射された洗浄液を回収するとともに、この回収した洗浄液を、電極板の洗浄液に再利用することを特徴とする請求項7から11のいずれかに記載の洗浄方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−174147(P2011−174147A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40033(P2010−40033)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000174909)三井金属エンジニアリング株式会社 (21)
【Fターム(参考)】