説明

電気光学装置、電気光学装置の製造方法

【課題】品質(電気光学特性)を向上させることができる電気光学装置、電気光学装置の製造方法を提供する。
【解決手段】被成膜基板11aと、被成膜基板11aの表面(素子形成側)に設けられた発光素子27の領域と、被成膜基板11aの表面と対向する裏面に設けられた磁性体膜40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成膜用マスクを用いて形成された機能層を有する電気光学装置、電気光学装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記電気光学装置の一つとして、例えば、陽極と陰極との間に発光層などの有機膜が挟持された構造の有機EL(エレクトロルミネッセンス)装置がある。有機膜の形成方法としては、成膜用マスクとしての蒸着マスクを用いて、RGB各色に対応する有機膜を選択的に成膜する方法が挙げられる。蒸着マスクは、例えば、特許文献1に記載のように、マグネットを用いて被成膜基板に密着させることが可能なメタルマスクである。
【0003】
具体的には、まず、マグネットを用いてメタルマスクを被成膜基板に密着させる。次に、メタルマスクを介して、有機膜となる蒸着物質を被成膜基板に蒸着させる。これにより、被成膜基板上にRGB各色の有機膜(発光層)が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−152339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被成膜基板が撓んでいる(反っている)場合、マグネットとメタルマスクとによって被成膜基板を押さえても、撓む位置が変わる等、撓みを抑えることができないおそれがある。これにより、被成膜基板と蒸着マスクとの間に隙間が生じ、蒸着させた有機膜がぼけるという問題が生じる。具体的には、正規の膜厚を得ることができなかったり、隣の画素に有機膜がはみ出したりする。更に、この問題を回避するために、有機膜と隣の有機膜との間隔を広くすると、精細度が低下したり、開口率が減少するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]本適用例に係る電気光学装置は、被成膜基板と、前記被成膜基板の第1面に設けられた電気光学素子と、前記第1面と対向する第2面に設けられた磁性体膜と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、被成膜基板の第2面に磁性体膜が成膜されているので、例えば、被成膜基板の第1面に成膜用のマスクを用いて選択的に電気光学素子を構成する膜を成膜する際、被成膜基板を磁石と金属製のマスク(メタルマスク)との間に挟むと、メタルマスクが磁石に引き寄せられる力によって被成膜基板が磁石側に押圧される。更に、被成膜基板自体が磁石に吸引されることにより、被成膜基板のソリを緩和させることが可能となり、被成膜基板と成膜用マスクとの密着性をより向上させることができる。よって、第1面に成膜される膜がぼけることを抑えることが可能となり、精細度を向上させた電気光学装置を提供することができる。
また、磁石に起因して磁性体膜側が帯電することにより、被成膜基板とマスクとの密着性が向上する。更に、被成膜基板とマスクとの剥離時に、磁性体膜側が帯電することで、被成膜基板の第1面すなわち成膜面が静電気によって損傷を受けることを抑えることができる。
【0009】
[適用例2]上記適用例に係る電気光学装置において、前記磁性体膜は、平面的に前記電気光学素子が設けられた領域と重なる領域を避けるように成膜されていることが好ましい。
【0010】
この構成によれば、平面的に電気光学素子が設けられた領域と重なる領域を避けて磁性体膜が成膜されているので、例えば、磁性体膜が遮光性を有していても電気光学素子の領域における被成膜基板の光透過性を確保できる。つまり、第1面及び第2面の両方から光を取り出すことができる。
【0011】
[適用例3]上記適用例に係る電気光学装置において、前記電気光学素子は、発光素子であり、前記磁性体膜は、平面的に前記発光素子が設けられた領域と重なる領域を避けるように成膜されていることが好ましい。
【0012】
この構成によれば、平面的に発光素子が設けられた領域と重なる領域を避けて磁性体膜が成膜されているので、例えば、磁性体膜が遮光性を有していても発光素子の領域における被成膜基板の光透過性を確保できる。言い換えれば、第1面側から光を取り出すトップエミッション型の電気光学装置や、第2面側から光を取り出すボトムエミッション型の電気光学装置に適用することができる。
【0013】
[適用例4]上記適用例に係る電気光学装置において、前記被成膜基板は、複数の電気光学装置が面付けされるマザー基板であり、前記磁性体膜は、平面的に個々の電気光学装置が形成される領域と重なる領域を避けるように成膜されていることが好ましい。
【0014】
この構成によれば、平面的に個々の電気光学装置が形成される領域と重なる領域を避けて磁性体膜が成膜されているので、例えば、磁性体膜が遮光性を有していても、個々の電気光学装置が形成される領域における被成膜基板の光透過性を確保できる。
【0015】
[適用例5]上記適用例に係る電気光学装置において、前記磁性体膜は、非磁性金属材料を10at%以下で含有することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、磁性体膜に非磁性金属材料を添加することで、化学的に安定した物性が得られる。更に、非磁性金属材料の含有率を10at%以下とすることにより、さほど強力な磁石でなくても飽和磁化に到達する磁性体膜を構成できる。
【0017】
[適用例6]本適用例に係る電気光学装置の製造方法は、被成膜基板の一方の面に磁性体膜を形成する磁性体膜形成工程と、前記被成膜基板の他方の面に電気光学素子を形成する素子形成工程とを備え、前記素子形成工程は、前記一方の面側に磁石を配置すると共に、前記他方の面側に金属製の成膜用マスクを配置して、前記成膜用マスクと前記被成膜基板とを重ね合わせる配置工程と、前記成膜用マスクを介して前記被成膜基板に前記電気光学素子を構成する膜を形成する膜形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0018】
この方法によれば、磁性体膜形成工程によって被成膜基板の一方の面に磁性体膜を形成するので、配置工程で金属製の成膜用マスク(メタルマスク)と被成膜基板と磁石とを重ね合わせた際、成膜用マスクが磁石に引き寄せられる力によって被成膜基板が磁石側に押圧される。更に、被成膜基板自体が磁石に吸引されることにより、被成膜基板のソリを緩和させることが可能となり、被成膜基板と成膜用マスクとの密着性をより向上させることができる。よって、他方の面に成膜される膜がぼけることを抑えることが可能となり、精細度を向上させることができる。
また、磁石に起因して磁性体膜に静電気が帯電することにより、被成膜基板と成膜用マスクとの密着性が向上する。更に、磁性体膜に静電気が帯電することで、被成膜基板と成膜用マスクとの剥離時に、被成膜基板の他方の面すなわち成膜面が静電気によって損傷を受けることを抑えることができる。
【0019】
[適用例7]上記適用例に係る電気光学装置の製造方法において、前記磁性体膜形成工程は、平面的に前記電気光学素子が形成される領域と重なる領域に成膜されている前記磁性体膜をエッチングして除去するエッチング工程を含むことが好ましい。
【0020】
この方法によれば、平面的に電気光学素子が形成される領域と重なる領域の磁性体膜をエッチングして除去するので、例えば、磁性体膜が遮光性を有していても電気光学素子の領域における被成膜基板の光透過性を確保できる。つまり、第1面及び第2面の両方から光を取り出すことができる。
【0021】
[適用例8]上記適用例に係る電気光学装置の製造方法において、前記電気光学素子は、発光素子であり、前記磁性体膜形成工程は、平面的に前記発光素子が形成される領域と重なる領域に成膜されている前記磁性体膜をエッチングして除去するエッチング工程を含むことが好ましい。
【0022】
この方法によれば、平面的に発光素子が形成される領域と重なる領域の磁性体膜をエッチングして除去するので、例えば、磁性体膜が遮光性を有していても発光素子の領域における被成膜基板の光透過性を確保できる。言い換えれば、他方の面側から光を取り出すトップエミッション型の電気光学装置や、一方の面側から光を取り出すボトムエミッション型の電気光学装置を形成することができる。
【0023】
[適用例9]上記適用例に係る電気光学装置の製造方法において、前記被成膜基板は、複数の電気光学装置が面付けされるマザー基板であり、前記磁性体膜形成工程は、平面的に個々の電気光学装置が形成される領域と重なる領域に成膜されている前記磁性体膜をエッチングして除去するエッチング工程を含むことが好ましい。
【0024】
この方法によれば、平面的に個々の電気光学装置が形成される領域と重なる領域の磁性体膜をエッチングして除去するので、例えば、磁性体膜が遮光性を有していてもパネルの領域における被成膜基板の光透過性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】有機EL装置の電気的な構成を示す等価回路図。
【図2】有機EL装置の構成を示す模式平面図。
【図3】有機EL装置の構造を示す模式断面図。
【図4】蒸着装置の構造を示す模式断面図。
【図5】成膜用マスクの構造を示す模式平面図。
【図6】図5に示す成膜用マスクのA−A'線に沿う模式断面図。
【図7】成膜用マスクを用いた蒸着方法を工程順に示す模式断面図。
【図8】成膜用マスクを用いた蒸着方法を工程順に示す模式断面図。
【図9】成膜用マスクを用いた蒸着方法を工程順に示す模式断面図。
【図10】成膜用マスクを用いた蒸着方法を工程順に示す模式断面図。
【図11】成膜用マスクを用いた蒸着方法を工程順に示す模式断面図。
【図12】成膜用マスクを用いた蒸着方法を工程順に示す模式断面図。
【図13】(a)は被成膜基板に設けられた磁性体膜の成膜パターンを示す模式平面図であり、(b)は(a)に示す成膜パターンのB−B'線に沿う模式断面図。
【図14】(a)は被成膜基板に設けられた磁性体膜の成膜パターンを示す模式平面図であり、(b)は(a)に示す成膜パターンのC−C'線に沿う模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
<電気光学装置の構成>
図1は、電気光学装置としての有機EL装置の電気的な構成を示す等価回路図である。以下、有機EL装置の電気的な構成を、図1を参照しながら説明する。
【0027】
図1に示すように、有機EL装置11は、複数の走査線12と、走査線12に対して交差する方向に延びる複数の信号線13と、信号線13に並行に延びる複数の電源線14とが、それぞれ格子状に配線されている。そして、走査線12と信号線13とにより区画された領域が画素領域として構成されている。信号線13は、信号線駆動回路15に接続されている。また、走査線12は、走査線駆動回路16に接続されている。
【0028】
各画素領域には、走査線12を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT(Thin Film Transistor)21と、このスイッチング用TFT21を介して信号線13から供給される画素信号を保持する保持容量22と、保持容量22によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT23(以下、「TFT素子23」と称する。)とが設けられている。更に、各画素領域には、TFT素子23を介して電源線14に電気的に接続したときに、電源線14から駆動電流が流れ込む陽極24と、陰極25と、この陽極24と陰極25との間に挟持された機能層26とが設けられている。
【0029】
有機EL装置11は、陽極24と陰極25と機能層26とにより構成される電気光学素子としての発光素子27を複数備えている。また、有機EL装置11は、複数の発光素子27で構成される表示領域を備えている。
【0030】
この構成によれば、走査線12が駆動されてスイッチング用TFT21がオン状態になると、そのときの信号線13の電位が保持容量22に保持され、保持容量22の状態に応じて、TFT素子23のオン・オフ状態が決まる。そして、TFT素子23のチャネルを介して、電源線14から陽極24に電流が流れ、更に、機能層26を介して陰極25に電流が流れる。機能層26は、ここを流れる電流量に応じた輝度で発光する。
【0031】
図2は、有機EL装置の構成を示す模式平面図である。以下、有機EL装置の構成を、図2を参照しながら説明する。
【0032】
図2に示すように、有機EL装置11(パネル)は、ガラス等からなる素子基板31に表示領域32(図中一点鎖線の内側の領域)と非表示領域33(一点鎖線の外側の領域)とを有する構成になっている。表示領域32には、実表示領域32a(二点鎖線の内側の領域)とダミー領域32b(図中二点鎖線の外側の領域)とが設けられている。
【0033】
実表示領域32a内には、光が射出されるサブ画素34(発光領域)がマトリックス状に配列されている。この、サブ画素34の各々は、スイッチング用TFT21及びTFT素子23(図1参照)の動作に伴って、R(赤)、G(緑)、B(青)各色を発光する構成となっている。
【0034】
ダミー領域32bには、主として各サブ画素34を発光させるための回路が設けられている。例えば、実表示領域32aの図中左辺及び右辺に沿うように走査線駆動回路16が配置されており、実表示領域32aの図中上辺に沿うように検査回路35が配置されている。
【0035】
素子基板31の下辺には、フレキシブル基板36が設けられている。フレキシブル基板36には、各配線と接続された駆動用IC37が備えられている。
【0036】
図3は、有機EL装置の構造を示す模式断面図である。以下、有機EL装置の構造を、図3を参照しながら説明する。なお、構成をわかりやすく示すため、各構成要素の層厚や寸法の比率、角度等は適宜異ならせてある。また、本実施形態は、一例として、トップエミッション構造の有機EL装置11を説明する。
【0037】
図3に示すように、有機EL装置11は、発光領域41において発光が行われるものであり、素子基板31と、素子基板31上に形成された回路素子層42と、回路素子層42上に形成された発光素子層43と、発光素子層43上に形成された陰極25と、素子基板31の裏面(図3における素子基板31の下側の面であって、回路素子層42が設けられた面と反対側の面)に形成された磁性体膜40とを有する。素子基板31としては、例えば、ガラス基板、石英、プラスチック等が挙げられる。図3に示す有機EL装置11は、陰極に透明な材料を用いることにより、発光層44で発する光を陰極25側から射出させるトップエミッション構造を採用したものである。
【0038】
回路素子層42は、素子基板31上にシリコン酸化膜(SiO2)からなる下地保護膜51が形成され、下地保護膜51上にTFT素子23が形成されている。詳しくは、下地保護膜51上に、ポリシリコン膜からなる島状の半導体膜52が形成されている。半導体膜52には、ソース領域53及びドレイン領域54が不純物の導入によって形成されている。そして、不純物が導入されなかった部分がチャネル領域55となっている。
【0039】
更に、回路素子層42には、下地保護膜51及び半導体膜52を覆うシリコン酸化膜等からなる透明なゲート絶縁膜56が形成されている。ゲート絶縁膜56上には、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、タングステン(W)などからなるゲート電極57が形成されている。ゲート絶縁膜56及びゲート電極57上には、透明な第1層間絶縁膜58及び第2層間絶縁膜59が形成されている。第1層間絶縁膜58及び第2層間絶縁膜59は、例えば、シリコン酸化膜(SiO2)、チタン酸化膜(TiO2)などから構成されている。ゲート電極57は、半導体膜52のチャネル領域55に対応する位置に設けられている。
【0040】
半導体膜52のソース領域53は、ゲート絶縁膜56及び第1層間絶縁膜58を貫通して設けられたコンタクトホール61を介して、第1層間絶縁膜58上に形成された信号線13と電気的に接続されている。一方、ドレイン領域54は、ゲート絶縁膜56、第1層間絶縁膜58、第2層間絶縁膜59を貫通して設けられたコンタクトホール62を介して、第2層間絶縁膜59上に形成された陽極24と電気的に接続されている(図では、ゲート絶縁膜56の貫通の図示を省略)。
【0041】
陽極24は、発光領域41(画素)ごとに形成されている。また、陽極24は、透明のITO(Indium Tin Oxide)膜からなり、例えば、平面視で略矩形の形状となっている。なお、回路素子層42には、図示しない保持容量及びスイッチング用のトランジスターが形成されている。このようにして、回路素子層42には、各陽極24に接続された駆動用のトランジスターが形成されている。
【0042】
なお、図示省略したが、陽極24の下層(第2層間絶縁膜59側)に、絶縁層を介してアルミ等からなる反射層が設けられている。反射層は、機能層26における発光を陰極25側に反射させるものである。
【0043】
上記した陽極24を含む発光素子層43は、マトリックス状に配置された発光素子27を具備して素子基板31上に形成されている。詳述すると、発光素子層43は、陽極24上に形成された機能層26と、機能層26間を絶縁する絶縁膜64とを主体として構成されている。機能層26上及び絶縁膜64上には、陰極25が配置されている。陽極24と、機能層26と、陰極25とによって発光素子27が構成されている。
【0044】
機能層26は、例えば、正孔注入輸送層65と、発光層44(有機発光層)と、電子注入輸送層(図示せず)とが順に積層されている。正孔注入輸送層65は、正孔注入層と正孔輸送層とが積層されて構成されており、例えば、素子基板31上の全体に亘って形成されている。電子注入輸送層は、電子輸送層と電子注入層とが積層されて構成されている。
【0045】
発光層44は、エレクトロルミネッセンス現象を発現する有機発光物質(有機物)の層である。陽極24と陰極25との間に電圧を印加することによって、発光層44には、正孔注入輸送層65から正孔が、また、陰極25から電子が注入される。発光層44において、正孔と電子とが結合したときに光を発する。発光層44からの光は、一部は直接陰極25を透過し、一部は反射層によって反射されてから陰極25を透過する。なお、RGB各色の発光層44は、後述する成膜用マスクを用いて選択的に成膜される。
【0046】
陰極25は、発光層44及び絶縁膜64を覆うように形成されている。言い換えれば、陰極25は、発光層44を挟んで陽極24の反対側に形成されている。陰極25は、透光性を有しており、例えば、ITO(Indium Tin Oxide)膜で構成されている。
【0047】
陰極25の上には、水分や酸素の侵入を防ぐための、透明樹脂などからなる封止層66が積層されている。封止層66は、例えばエポキシ樹脂、アクリル樹脂等からなる。なお、発光素子層43(陽極24と機能層26)と陰極25とによって発光素子27が構成される。
【0048】
また、有機EL装置11は、素子基板31の裏面側(素子形成側と逆側)に、磁性体膜40が成膜されている。具体的には、磁性体膜40は、Fe(鉄)、Co(コバルト)、Ni(ニッケル)などの強磁性材料やこれらの混合物、また、これらの強磁性材料に非磁性金属材料を含有するものが用いられる。なお、非磁性金属材料の含有率は、10at%以下が好ましい。これにより、さほど強力な磁石でなくても飽和磁化に到達する磁性体膜40を実現できる。
【0049】
非磁性金属材料を含有することで磁性体膜40としての物理的、化学的な安定を図ることができる。非磁性金属材料としては、例えばZn(亜鉛)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Re(レニウム)、Pt(白金)などが挙げられる。
【0050】
このような磁性体膜40を有する有機EL装置11は、後述する磁石76(図4参照)の磁場の影響を受け自ら磁石76(図4参照)に密着することが可能となる。以下、発光層44などを選択的に成膜するために用いられる蒸着装置について説明する。
【0051】
図4は、蒸着装置の構造を示す模式断面図である。以下、蒸着装置の構造を、図4を参照しながら説明する。
【0052】
なお、上記した有機EL装置11において、素子基板31から正孔注入輸送層65(図3参照)までを被成膜基板11aと称して説明する。そして、被成膜基板11aの表面(第1面、他方の面)上に各色(赤色、緑色、青色)の発光層44を選択的に蒸着するための蒸着装置71について説明する。
【0053】
図4に示すように、蒸着装置71は、チャンバー72と、チャンバー72の底部に設けられ膜形成材料を収納して蒸発させる蒸着物源73と、蒸着物源73に対向して設けられ、被成膜基板11aをほぼ水平な状態に保持する基板保持部74とを有している。また、チャンバー72内を所定の真空度に減圧する減圧装置(図示せず)を備えている。
【0054】
基板保持部74は、外縁側に保持部74aを有する支持体74bと、支持体74bに設けられ支持体74bをチャンバー72内において吊設する回転軸75とを備えている。
【0055】
保持部74aはクランプ状の形態となっており、順に重ね合わされた成膜用マスク81、被成膜基板11a、磁石76からなる積層体の周辺部を保持している。つまり、成膜用マスク81は、被成膜基板11aに薄膜(発光層44)をパターニング(蒸着)する際、蒸着物源73と被成膜基板11aとの間に配置される。
【0056】
より具体的には、成膜用マスク81は、有機EL装置11を構成するサブ画素34(図2参照)の大きさに相当する複数の開口孔82(図5、図6参照)が形成されている。また、被成膜基板11aと成膜用マスク81とが位置決めされて重ね合わされ、保持部74aによって被成膜基板11aが磁石76と成膜用マスク81との間に挟持される。
【0057】
成膜用マスク81は、磁石76の磁力により磁石76側に引き付けられる構成となっている。被成膜基板11aは、成膜用マスク81が磁石76側に引き付けられることによって成膜用マスク81と密着することが可能となると共に、成膜用マスク81と磁石76との間に固定される。更に、被成膜基板11a(有機EL装置11)の裏面(第2面、一方の面)に磁性体膜40が設けられているので、被成膜基板11a自体も磁石76に引き付けられる。
【0058】
また、成膜用マスク81が磁石76に引き寄せられる力によって被成膜基板11aが磁石76側に押圧される。更に、被成膜基板11a自体が磁石76に引き寄せられることにより、被成膜基板11aのソリを緩和させることが可能となり、被成膜基板11aと成膜用マスク81との密着性をより向上させることができる。よって、被成膜基板11aに成膜される薄膜(発光層44)がぼけることを抑えることができる。
【0059】
蒸着物源73には、前述した機能層26を構成する発光層44(赤色の発光層44R、緑色の発光層44G、青色の発光層44B)のうちいずれかの膜形成材料が収納され加熱されることにより蒸発する。これらの膜形成材料が蒸着する間に回転軸75が回転することにより基板保持部74に保持された被成膜基板11aが回転する。その結果、被成膜基板11aには、ぼけることが抑えられた状態で発光層44を成膜することが可能となっている。
【0060】
図5は、成膜用マスクの構造を示す模式平面図である。図6は、図5に示す成膜用マスクのA−A'線に沿う模式断面図である。以下、成膜用マスクの構造を、図5及び図6を参照しながら説明する。
【0061】
なお、上記と同様に、素子基板31から正孔注入輸送層65までを被成膜基板11aと称して説明する。そして、被成膜基板11a上に各色(赤色、緑色、青色)の発光層44を選択的に蒸着する成膜用マスク81について説明する。
【0062】
成膜用マスク81は、平面的に有機EL装置11を構成するサブ画素34(図2参照)の領域に対応する複数の開口孔82が配置されている。開口孔82は、蒸着する際、蒸着物源73(図4参照)から出射された蒸着物質が通り抜ける貫通孔である。
【0063】
開口孔82を通り抜けた蒸着物質は被成膜基板11aに到達する。したがって、開口孔82の開口領域は、被成膜基板11aにパターニングする薄膜(成膜パターン)の形状と略同一形状となっている。
【0064】
成膜用マスク81の材料としては、金属製のメタルマスクであり、例えば、Fe−36wt%Niの材料構成であるインバーなどが挙げられる。
【0065】
また、1枚の成膜用マスク81によって、12個分の有機EL装置11を構成する複数の薄膜(発光層44)を蒸着させることが可能となっている。なお、成膜用マスク81において対応する有機EL装置11の個数は、12個である構成に限定されず、任意とすることができる。
【0066】
成膜用マスク81は、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)のサブ画素34を1色ずつ成膜させるように(つまり発光領域41単位、図3参照)、開口孔82が一定の間隔をおいて配置されている。また、開口孔82の集合群は、12箇所に形成されている。
【0067】
<電気光学装置の製造方法>
図7〜図12は、有機EL装置の製造方法の一部分である、成膜用マスクを用いた蒸着方法を工程順に示す模式断面図である。以下、成膜用マスクを用いた蒸着方法を、図7〜図12を参照しながら説明する。
【0068】
まず、図7に示す工程(素子形成工程、磁性体膜形成工程)では、素子基板31上に正孔注入輸送層65までを形成する。具体的には、素子基板31上にTFT素子23を有する回路素子層42を形成する。次に、回路素子層42上に陽極24(図3参照)及び正孔注入輸送層65を、真空蒸着法を用いて形成する。また、素子基板31の裏面全体に、例えば、スパッタ法を用いて磁性体膜40を形成する。上記したように、ここまでの状態を被成膜基板11aと称して説明する。
【0069】
図8に示す工程(配置工程)では、被成膜基板11a上(正孔注入輸送層65側)に成膜用マスク81を配置する。具体的には、被成膜基板11aを成膜用マスク81と磁石76とで挟持する。より具体的には、磁石76の磁力を利用してメタルマスクからなる成膜用マスク81及び磁性体膜40を有する被成膜基板11aを吸引することにより、被成膜基板11aに成膜用マスク81を固定することができる。また、上記したように、被成膜基板11aに生じているソリを緩和させることができる。
【0070】
図9に示す工程(膜形成工程)では、成膜用マスク81を用いて、被成膜基板11a上(正孔注入輸送層65上)の膜形成領域に発光層44を形成する。最初に、フォトリソグラフィ技術及びエッチング技術を用いて、被成膜基板11a(正孔注入輸送層65)上に絶縁膜64を形成する。その後、赤色の発光層44Rをパターニングする。具体的には、被成膜基板11aと蒸着物源73Rとの間に成膜用マスク81が配置される。そして、蒸着物源73Rから出射された赤色の蒸着物質77Rが、成膜用マスク81の開口孔82を通り抜けて、被成膜基板11aに蒸着する。
【0071】
なお、上記したように、被成膜基板11aの裏面に磁性体膜40が成膜されており、被成膜基板11a自体が磁石76に吸引されることにより、被成膜基板11aと成膜用マスク81との隙間を少なくすることができる。よって、発光層44(赤色の発光層44R)を被成膜基板11aに蒸着させる際、被成膜基板11aのソリ量が大きいことに起因する発光層44がぼけることを抑えることができる。
【0072】
図10に示す工程では、成膜用マスク81を用いて、被成膜基板11a上(正孔注入輸送層65上)に緑色の発光層44Gをパターニングする。まず、成膜用マスク81をサブ画素34の分だけ移動する(図10における右側に移動する)。その後、蒸着物源73Gから出射された緑色の蒸着物質77Gが、成膜用マスク81の開口孔82を通り抜けて、被成膜基板11aに蒸着する。
【0073】
図11に示す工程では、成膜用マスク81を用いて、被成膜基板11a上(正孔注入輸送層65上)に青色の発光層44Bをパターニングする。まず、成膜用マスク81をサブ画素34の分だけ移動する(図11における右側に移動する)。その後、蒸着物源73Bから出射された青色の蒸着物質77Bが、成膜用マスク81の開口孔82を通り抜けて、被成膜基板11aに蒸着する。以上により、被成膜基板11a上に発光層44(44R,44G,44B)が形成される。
【0074】
図12に示す工程では、有機EL装置11を完成させる。具体的には、発光層44及び絶縁膜64上に陰極25を形成する。その後、陰極25上に封止層66等を形成して、有機EL装置11が完成する。なお、上記した実施形態では、成膜用マスク81を蒸着させるために用いてきたが、成膜用マスクを用いる製造方法であればこの製造方法に限定されず、例えば、スパッタ法に適用するようにしてもよい。
【0075】
以上詳述したように、本実施形態によれば、以下に示す効果が得られる。
【0076】
(1)本実施形態によれば、被成膜基板11a(有機EL装置11)の裏面に磁性体膜40が成膜されているので、例えば、被成膜基板11aの表面に成膜用マスク81を用いて選択的に発光層44を成膜する際、被成膜基板11aを磁石76と成膜用マスク81(メタルマスク)との間に挟むと、成膜用マスク81が磁石76に引き寄せられる力によって被成膜基板11aが磁石76側に押圧される。更に、被成膜基板11a自体が磁石76に吸引されることにより、被成膜基板11aのソリを緩和させることが可能となり、被成膜基板11aと成膜用マスク81との密着性をより向上させることができる。よって、発光層44がぼけることを抑えることが可能となり、精細度を向上させることができる。
【0077】
(2)本実施形態によれば、磁石76の磁力に起因して磁性体膜40に静電気が帯電することにより、被成膜基板11aと成膜用マスク81との密着性が向上する。更に、磁性体膜40に静電気が帯電することで、被成膜基板11aと成膜用マスク81との剥離時に、被成膜基板11aの成膜面が静電気によって損傷を受けることを抑えることができる。
【0078】
なお、実施形態は上記に限定されず、以下のような形態で実施することもできる。
【0079】
(変形例1)
上記したように、被成膜基板11aの裏面(発光層44の形成側と反対側)全体に磁性体膜40を成膜することに限定されず、被成膜基板11aのソリが抑えられればよく、以下のように成膜してもよい。図13(a)は、被成膜基板に設けられた磁性体膜の成膜パターンを示す模式平面図である。図13(b)は、図13(a)に示す成膜パターンのB−B'線に沿う模式断面図である。図13に示すように、被成膜基板11aの裏面に設けられた磁性体膜40aの成膜パターンは、サブ画素34の領域と平面的に重なる領域を除いて成膜されている。形成方法としては、成膜用マスクを用いて選択的に磁性体膜40aをパターニングするようにしてもよいし、被成膜基板11aの裏面全体に成膜した磁性体膜をフォトリソグラフィ技術及びエッチング技術(エッチング工程)を用いてパターニングするようにしてもよい。
【0080】
これによれば、平面的にサブ画素34の領域と重なる領域を避けて磁性体膜40aが成膜されているので、磁性体膜40aが遮光性を有していてもサブ画素34の領域の光透過性を確保できる。つまり、有機EL装置11の表面及び裏面の両方から光を取り出すことができる。言い換えれば、表面側から光を取り出すトップエミッション型だけでなく、裏面側から光を取り出すボトムエミッション型の有機EL装置11に適用することができる。
【0081】
(変形例2)
上記したように、被成膜基板11aの裏面(発光層44の成膜側と反対側)全体に磁性体膜40を成膜したり、サブ画素34の領域を避けて磁性体膜40aを成膜したりすることに限定されず、以下のように成膜してもよい。図14(a)は、被成膜基板に設けられた磁性体膜の成膜パターンを示す模式平面図である。図14(b)は、図14(a)に示す成膜パターンのC−C'線に沿う模式断面図である。図14に示すように、被成膜基板11aの裏面に設けられた磁性体膜40bの成膜パターンは、1つの有機EL装置11(パネル)の領域と平面的に重なる領域を除いて成膜されている。形成方法としては、変形例1に記載のような方法を用いることができる。
【0082】
これによれば、平面的に有機EL装置11(パネル)の領域と重なる領域を避けて磁性体膜40bが成膜されているので、磁性体膜40bが遮光性を有していても有機EL装置11の領域の光透過性を確保することが可能となり、上記したように、表面側から光を取り出すトップエミッション型の有機EL装置11や、裏面側から光を取り出すボトムエミッション型の有機EL装置11に適用することができる(高精度な位置合わせが不要)。
【0083】
(変形例3)
上記したように、成膜用マスク81を用いて蒸着させる対象の膜を発光層44としていることに限定されず、その他の膜を選択的に蒸着させるようにしてもよい。
【0084】
(変形例4)
上記したように、同一の成膜用マスク81をサブ画素34分ずらしながら赤色、緑色、青色の発光層44(44R,44G,44B)を形成していたことに代えて、各色の発光層44を蒸着させる専用の成膜用マスクをそれぞれ用意して、各色の発光層44(44R,44G,44B)を形成するようにしてもよい。また、白色発光で照明として用いる場合など、全てのサブ画素34に対して一括で発光層などを成膜するようにしてもよい。また、単色の発光層を成膜するようにしてもよい。
【0085】
(変形例5)
上記したように、成膜用マスク81を有機EL装置11の製造に適用することに限定されず、例えば、液晶装置、プラズマディスプレイなどの製造に適用するようにしてもよい。これによれば、それぞれの電気光学特性(精細度など)を向上させることができる。
【符号の説明】
【0086】
11…電気光学装置としての有機EL装置、11a…被成膜基板、12…走査線、13…信号線、14…電源線、15…信号線駆動回路、16…走査線駆動回路、21…スイッチング用TFT、22…保持容量、23…TFT素子、24…陽極、25…陰極、26…機能層、27…電気光学素子としての発光素子、31…素子基板、32…表示領域、32a…実表示領域、32b…ダミー領域、33…非表示領域、34…サブ画素、35…検査回路、36…フレキシブル基板、37…駆動用IC、40,40a,40b…磁性体膜、41…発光領域、42…回路素子層、43…発光素子層、44,44R,44G,44B…発光層、51…下地保護膜、52…半導体膜、53…ソース領域、54…ドレイン領域、55…チャネル領域、56…ゲート絶縁膜、57…ゲート電極、58…第1層間絶縁膜、59…第2層間絶縁膜、61,62…コンタクトホール、64…絶縁膜、65…正孔注入輸送層、66…封止層、71…蒸着装置、72…チャンバー、73,73R,73G,73B…蒸着物源、74…基板保持部、74a…保持部、74b…支持体、75…回転軸、76…磁石、77R,77G,77B…蒸着物質、81…成膜用マスク、82…開口孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被成膜基板と、
前記被成膜基板の第1面に設けられた電気光学素子と、
前記第1面と対向する第2面に設けられた磁性体膜と、
を備えたことを特徴とする電気光学装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電気光学装置であって、
前記磁性体膜は、平面的に前記電気光学素子が設けられた領域と重なる領域を避けるように成膜されていることを特徴とする電気光学装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電気光学装置であって、
前記電気光学素子は、発光素子であり、
前記磁性体膜は、平面的に前記発光素子が設けられた領域と重なる領域を避けるように成膜されていることを特徴とする電気光学装置。
【請求項4】
請求項1に記載の電気光学装置であって、
前記被成膜基板は、複数の電気光学装置が面付けされるマザー基板であり、
前記磁性体膜は、平面的に個々の電気光学装置が形成される領域と重なる領域を避けるように成膜されていることを特徴とする電気光学装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の電気光学装置であって、
前記磁性体膜は、非磁性金属材料を10at%以下で含有することを特徴とする電気光学装置。
【請求項6】
被成膜基板の一方の面に磁性体膜を形成する磁性体膜形成工程と、
前記被成膜基板の他方の面に電気光学素子を形成する素子形成工程とを備え、
前記素子形成工程は、前記一方の面側に磁石を配置すると共に、前記他方の面側に金属製の成膜用マスクを配置して、前記成膜用マスクと前記被成膜基板とを重ね合わせる配置工程と、
前記成膜用マスクを介して前記被成膜基板に前記電気光学素子を構成する膜を形成する膜形成工程と、
を含むことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の電気光学装置の製造方法であって、
前記磁性体膜形成工程は、平面的に前記電気光学素子が形成される領域と重なる領域に成膜されている前記磁性体膜をエッチングして除去するエッチング工程を含むことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項8】
請求項6に記載の電気光学装置の製造方法であって、
前記電気光学素子は、発光素子であり、
前記磁性体膜形成工程は、平面的に前記発光素子が形成される領域と重なる領域に成膜されている前記磁性体膜をエッチングして除去するエッチング工程を含むことを特徴とする電気光学装置の製造方法。
【請求項9】
請求項6に記載の電気光学装置の製造方法であって、
前記被成膜基板は、複数の電気光学装置が面付けされるマザー基板であり、
前記磁性体膜形成工程は、平面的に個々の電気光学装置が形成される領域と重なる領域に成膜されている前記磁性体膜をエッチングして除去するエッチング工程を含むことを特徴とする電気光学装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−271445(P2010−271445A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121694(P2009−121694)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】