説明

電気機械変換膜の製造方法、電気機械変換素子の製造方法、該製造方法により製造した電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置

【課題】電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液をノズルから吐出させて電極上に塗布するときに不要な液滴を電極に付着させることなく、かつ所望パターンの電気機械変換膜を形成することができる。
【解決手段】所定の極性に帯電されているPZT前駆体溶液203がノズルから吐出された後所定時間が経過した後にミスト回収用電極209に電圧を印加する。ミスト回収用電極209への電圧印加の開始を吐出から所定時間遅らせることで、主液滴300は電圧が印加されたミスト回収用電極209の電界から静電気力を受ける時間を少なくするとともに、ミスト液滴301を第1の電極に到達する前に回収される。第1の電極の所定部分に塗布され、基板11上の所望のパターンに塗布される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械変換膜の製造方法、電気機械変換素子の製造方法、該製造方法により製造した電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電気機械変換膜を電極で挟むように構成された電気機械変換素子は、例えばインクの液滴を吐出する液体吐出ヘッドを備え、媒体を搬送しながらインク滴を用紙に付着させて画像形成を行うインクジェット記録装置で用いられている。ここでの媒体は「用紙」ともいうが材質を限定するものではなく、被記録媒体、記録媒体、転写材、記録紙なども同義で使用する。また、画像形成装置は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の媒体に液体を吐出して画像形成を行う装置を意味する。そして、画像形成とは、文字や図形等の意味を持つ画像を媒体に対して付与することだけでなく、パターン等の意味を持たない画像を媒体に付与する(単に液滴を吐出する)ことをも意味する。また、インクとは、所謂インクに限るものではなく、吐出されるときに液体となるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる液体の総称として用いる。
【0003】
そして、上記インクジェット記録装置は、主として、インク滴を吐出するノズルと、このノズルが連通する吐出室、加圧液室、圧力室、インク流路室等を称する液室と、該液室内のインクを吐出するための圧力発生手段とで構成されている。この圧力発生手段として、圧電素子などの電気機械変換素子を用いて吐出室の壁面を形成している振動板を変形変位させることでインク滴を吐出させるピエゾ型の圧力発生手段が知られている。このピエゾ型の圧力発生手段に使用される電気機械変換素子は、下部電極(第1の電極)と、電気機械変換層と、上部電極(第2の電極)とが積層したものからなる。各圧力室にインク吐出の圧力を発生させるのに個別の電気機械変換素子が配置されることになる。電気機械変換層は電気機械変換膜を形成する工程を複数回行って形成される。電気機械変換膜はジルコン酸チタン酸鉛(PZT)セラミックスなどが用いられ、これらは複数の金属酸化物を主成分としているので一般に金属複合酸化物と称される。
【0004】
この電気機械変換膜の製造方法としては、スパッタリング法、ゾルゲル法、CVD法、レーザアブレーション法等があるが、これらのうち、ゾルの塗布、乾燥、脱脂、焼成という工程により成膜するゾルゲル法は結晶状態の制御性に優れている。このゾルゲル法を用いた電気機械変換膜の形成方法として、特許文献1に記載されているものが知られている。この電気機械変換膜の形成方法として、特許文献1、2に記載されているものが知られている。これらの特許文献1、2の方法では、電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液の液滴をノズルから吐出させる液滴吐出方式によって電極上の所定部分に上記塗布液を塗布して所望の塗布パターンを形成している。そして、電極上に塗布した上記塗布液の膜を乾燥させ、乾燥させた塗布液の膜を熱分解して結晶化させて電気機械変換膜を形成している。
【0005】
ところが、電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液は、通常のインクジェット記録装置で用いられるインク液に比して粘性が低いため、上記塗布液の主液滴がノズル吐出するときに、その主液滴よりもサイズが小さい微小の付随液滴が発生しやすくなる。この付随液滴は、空気の抵抗を受けながら例えばミスト状になって電極に向かって飛翔し、不要な液滴として電極上の所定部分以外に付着してしまうという問題がある。
【0006】
この問題点を解消するために、上記付随液滴を回収する方法として、特許文献3に記載されているものが知られている。この特許文献3の回収方法では、ノズル板のノズル面と、該ノズル面と対向する対向電極である第1の電極との間に電位差を生じさせておく。ノズル面と第1の電極との間で電界が生じ、その電界が生じている空間にノズルから第1の電極に向けて塗布液を吐出すると、塗布液滴内で一方向の分極が生じる。そして、柱状の塗布液滴の吐出方向の先端には第1の電極の極性と逆極性のイオン分子が集まり、吐出方向の後端にはノズル板の極性と逆極性のイオン分子が集まる。そして、塗布液滴の先端は第1の電極側に静電的に引き寄せられ、塗布液滴の後端はノズル板側に静電的に引き寄せられる。このため、塗布液滴は先端側の液滴と後端側の液滴とが分裂する。分裂した塗布液滴の先端側が上記主液滴であり、これはそのまま第1の電極側へ移動する。一方、分裂した塗布液滴の後端側が上記付随液滴であり、これはノズルの近傍に設けられ電圧印加手段によって上記付随液滴の極性と逆極性となる電圧が印加される付随液滴回収用電極に静電的に引き寄せられる。この静電引力によって、上記付随液滴を第1の電極に到達する前に回収している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献3の回収方法では、ノズルから第1の電極に向けて塗布液を吐出してから塗布液滴の上記主液滴が第1の電極に到達する間まで常に上記電圧印加手段によって付随液滴回収用電極に電圧が印加されている。このため、付随液滴回収用電極と第1の電極との間にも電界が常に生じている。つまり、ノズル面と第1の電極との間の電界以外に、付随液滴回収用電極と第1の電極との間の電界が存在している。そして、塗布液滴から付随液滴が分裂したとき上記主液滴では一方向の分極が生じ、上記主液滴の後端側にはノズル板及び付随液滴回収用電極の極性と逆極性のイオン分子が集まる。そのため、第1の電極側へ静電的に引き寄せられるべきである主液滴が、付随液滴回収用電極側にも静電的に引き寄せられる静電引力を受ける。また、上記主液滴と上記付随液滴との分裂はノズル面近傍で発生することが多い。このため、付随液滴回収用電極とノズル板との間の電位差が常に生じているので、分裂前の柱状の液滴は第1の電極だけでなく、付随液滴回収用電極による電界の影響を受け、上記付随液滴の帯電が著しく弱くなる。この結果、付随液滴回収用電極側への静電的に引き寄せられる力が弱くなり、上記付随液滴の動きを制御できなくなる。これらにより、上記主液滴の着弾位置が変わり、所望の塗布パターンを形成することが難しくなる。
【0008】
本発明は以上の問題点に鑑みなされたものであり、その目的は以下のとおりである。電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液をノズルから吐出させて電極上に塗布するときに不要な液滴を電極に付着させることを抑制する。そして、所望パターンの電気機械変換膜を形成することができる電気機械変換膜の製造方法、電気機械変換素子の製造方法、該製造方法により製造した電気機械変換素子、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液をノズルから吐出させる液滴吐出方式により、第1の電極上の所定部分に選択的に塗布する塗布工程と、前記第1の電極上に塗布した塗布液の膜を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥させた塗布液の膜を熱分解して結晶化させる結晶化工程とを有する電気機械変換膜の製造方法であって、前記塗布工程は前記ノズルから吐出した塗布液の主液滴に付随する微小の付随液滴を静電的に引き寄せて回収する付随液滴回収用電極に電圧印加手段によって前記付随液滴と逆極性となる電圧を印加して前記付随液滴回収用電極に前記付随液滴を静電的に引き寄せて前記第1の電極に到達する前に回収する回収工程を有する電気機械変換膜の製造方法において、前記回収工程では、前記ノズルから前記塗布液の液滴が吐出された後、所定時間経過後に前記電圧印加手段によって前記付随液滴回収用電極に電圧を印加して前記付随液滴を回収することを特徴とするものである。
【0010】
本発明においては、電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液をノズルから吐出させて第1の電極上の所定部分に選択的に塗布するにあたり、ノズルから塗布液の液滴が吐出された後の所定時間経過後に付随液滴回収用電極に電圧を印加する。ノズルからの液滴は主液滴と付随液滴に分裂し、主液滴の方が付随液滴に先行して第1の電極上に向かうことがわかっている。よって、前記所定時間を、ノズルから吐出された塗布液の液滴から分裂した付随液滴が第1の電極上に到達せず、かつ、この所定時間経過時点での付随液滴回収用電極への電圧印加開始によって付随液滴を付随液滴回収用電極に回収できる範囲で設定する。このように付随液滴回収用電極への電圧印加の開始を吐出から所定時間遅らせることで、主液滴には電圧が印加された付随液滴回収用電極の電界から静電気力を受ける時間を少なくするとともに、付随液滴を第1の電極に到達する前に回収する。これにより、不要な液滴を電極に付着させることを抑制し、かつ所望パターンの電気機械変換膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液をノズルから吐出させて電極上に塗布するときに不要な液滴を電極に付着させることを抑制し、かつ所望パターンの電気機械変換膜を形成することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係る電気機械変換膜の製造工程を示す工程断面図である。
【図2】PZT前駆体溶液を塗布する液滴吐出ヘッドの一構成例を示す断面図である。
【図3】液体吐出ヘッドを用いたPZT前駆体溶液の塗布工程を示す断面図である。
【図4】液体吐出ヘッドを用いたPZT前駆体溶液の塗布工程を示す断面図である。
【図5】液体吐出ヘッドを用いたPZT前駆体溶液の塗布工程を示す断面図である。
【図6】液体吐出ヘッドを用いたPZT前駆体溶液の塗布工程を示す断面図である。
【図7】液体吐出ヘッドを用いたPZT前駆体溶液の塗布工程を示す断面図である。
【図8】液体吐出ヘッドを用いたPZT前駆体溶液の塗布工程を示す断面図である。
【図9】ミスト回収用電極に印加する電圧のスイッチング制御を示す断面図である。
【図10】吐出同期信号及びミスト回収用電極印加電圧を示す波形図である。
【図11】本実施形態の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出塗布装置の構成を示す斜視図である。
【図12】実施例で作製したPZT膜のP−Eヒステリシス曲線の一例を示す特性図である。
【図13】SAM膜を除去した電極露出面及びSAM膜を配置したままの表面における純水の接触角の各様子を示す説明図である。
【図14】本実施形態の製造方法で製造した電気機械変換素子を用いて構成した液滴吐出ヘッドの一構成例を示す概略構成図である。
【図15】図14の液滴吐出ヘッドを複数並べた構成例を示す概略構成図である。
【図16】本実施形態の製造方法で製造した電気機械変換素子を用いることができる液滴吐出装置の一構成例を示す概略構成図である。
【図17】液滴吐出装置の一構成例を示す概略透視斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本実施形態では、圧電定数d31の変形を利用した横振動(ベンドモード)型の電気機械変換膜を有する電気機械変換素子を例として説明するが、本発明はこの型の電気機械変換膜に限定されることなく適用可能である。
【0014】
電気機械変換膜がPZT膜の場合、酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムを出発材料として合成したPZT前駆体溶液を用いることができる。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解した後、脱水する。化学量論的組成に対し鉛量を10モル%過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、上記酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と均一に混合することによりPZT前駆体溶液を合成することができる。このPZT前駆体溶液のPZT濃度は例えば0.1モル/リットルにする。後述の実施例1〜3では、以上の方法で合成したPZT前駆体溶液(実施例では、「PZT前駆体溶液A」として参照する。)を用いた。
【0015】
また、電気機械変換膜がPZT膜の場合のPZT前駆体溶液は、非特許文献1に記載されている、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ、均一溶液として得るようにしてもよい。上記PZT前駆体溶液は「ゾルゲル液」とも呼ばれる。
【0016】
PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO)とチタン酸鉛(PbTiO)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrOとPbTiOの比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O、一般にPZT(53/47)と示される。酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物の出発材料は、この化学式に従って秤量される。金属アルコキシド化合物は大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加してもよい。
【0017】
PZT以外の複合酸化物としてはチタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。
【0018】
また、下地となる基板上の第1の電極の表面に電気機械変換膜としてのパターン化したPZT膜を得る場合、上記溶液を塗布液として液滴吐出方式で塗布することにより塗膜を形成する。そして、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことでパターン化したPZT膜が得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100[nm]以下の膜厚が得られるようにするのが好ましい。そして、前駆体濃度は、電気機械変換膜の成膜面積とPZT前駆体溶液の塗布量との関係から適正化するように調整するのが好ましい。また、液滴吐出装置の電気機械変換素子として用いる場合、このPZT膜の膜厚は1[μm]〜2[μm]が要求される。この膜厚を得るには十数回、工程を繰り返すことになる。
【0019】
更に、ゾルゲル法によるパターン化した電気機械変換層の形成の場合には、下地となる基板の濡れ性を制御したPZT前駆体溶液の塗り分けをする。これは、非特許文献2に示されているアルカンチオールが特定金属上に自己配列する現象を利用したものであり、まず、基板の白金族金属の表面に、チオールのSAM(Self assembled monolayer)膜を形成する。SAM膜上はアルキル基が配置しているので、疎水性になる。このSAM膜は、例えば周知のフォトリソグラフィ・エッチングにより、フォトレジストを用いてパターニングすることができる。レジスト剥離後も、パターン化SAM膜は残っているので、この部位は疎水性になっている。一方、SAM膜が除去された部位は白金表面が露出しているため、親水性になっている。この表面エネルギーのコントラストを利用してPZT前駆体溶液の塗り分けをすることができる。本実施形態では、上記SAM膜を、PZT前駆体溶液を塗布しない領域に選択的に形成した後、以下に示すように、PZT前駆体溶液の消費量を低減することができる液滴吐出方式による塗工(インクジェット塗工)でPZT前駆体溶液を選択的に塗布している。
【0020】
図1は本発明の一実施形態に係る電気機械変換膜の形成を伴う電気機械変換素子の製造工程を示す工程断面図である。同図の(a)に示す基板11の表面(上面)には、チオールとの反応性に優れた第1の電極としての図示しない白金族金属からなる白金電極が、例えばスパッタ法により形成されている。この基板11の白金電極の表面に、同図の(b)に示すようにSAM膜12が形成される。SAM膜12は、アルカンチオール液に基板11をディップして自己配列させることで得られる。本例では、CH(CH)−SHのアルカンチオールの分子を一般的な有機溶媒(アルコール、アセトン、トルエンなど)に所定濃度(例えば、数mol/l)で溶解させたアルカンチオール液を用いた。このアルカンチオール液に基板11を浸漬させ、所定時間後に取り出した後、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し乾燥することにより、白金電極の表面にSAM膜12を形成することができる。次に、同図の(c)に示すように、フォトリソグラフィーによりフォトレジスト13をパターン形成する。そして、同図の(d)に示すようにドライエッチング(例えば、酸素プラズマの照射又はUV光の照射)によりSAM膜12を除去し、加工に用いたフォトレジスト13を除去してSAM膜12のパターニングを終了する。このように形成されたSAM膜12は、純水に対する接触角が例えば92度であり、疎水性を示す。一方、SAM膜12が除去されて露出した基板11の白金電極の表面は、純水に対する接触角が例えば54度であり、親水性を示す。
【0021】
次に、図1の(a)〜(d)に示す工程を行った後、PZT前駆体溶液の液滴をノズルから吐出させる液滴吐出方式、具体的には液滴吐出ヘッド14によりPZT前駆体溶液15が塗布される(図1の(e)参照)。このPZT前駆体溶液15の塗布は、疎水部であるSAM膜上にはPZT膜が形成されず、SAM膜を除去された親水部のみにPZT膜が形成されるように行われる。最後に、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで電気機械変換膜16が得られる(図1の(f)参照)。
【0022】
上記図1の方法では、上記図1の(a)〜(d)及び液滴吐出方式によるPZT前駆体溶液の塗布、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各熱処理を1回ずつ実行して所定膜厚の電気機械変換膜を得る場合について示した。しかし、上記図1の(a)〜(d)、液滴吐出方式によるPZT前駆体溶液の塗布の図1の(e)、及び溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各熱処理の図1の(f)を、所定回数(2回以上)繰り返して実行して薄めに設定した電気機械変換膜を多層に重ねて形成する。このようにして、所定膜厚の電気機械変換膜を得るようにしてもよい。この場合、電気機械変換膜のクラックの発生をより確実に防止できる。
【0023】
また、上記図1の方法では、第1の電極上のPZT前駆体溶液が塗布される所定部分以外の表面をSAM膜によって疎水面にする表面改質を行っている。第1の電極の表面が疎水面の場合は、その第1の電極上のPZT前駆体溶液が塗布される所定部分の表面を親水面にする表面改質を行ってもよい。
【0024】
図2はPZT前駆体溶液を塗布する液滴吐出ヘッドの一構成例を示す断面図である。図2に示すように液滴吐出ヘッド200は、ノズル板202、振動板205及び圧電素子206を備えている。ノズル板202は、ノズル孔201が形成され少なくとも表面が導電性のノズル板である。振動板205は、塗布液(PZT前駆体溶液)203を有する液室204を形成するようにノズル板202に対向させて配設されている。圧電素子206は、例えばPZTなどで構成され、ノズル孔201に対向するように振動板205の液室204側とは反対側の表面に貼り付けられている。更に、液滴吐出ヘッド200は、所定の制御プログラム及び制御データに基づいて、パルス状の電圧からなる吐出駆動信号を圧電素子206に印加する電圧印加手段としての吐出駆動電源207を備えている。吐出駆動電源207から圧電素子206に吐出駆動信号が印加されると、圧電素子206が変形変位し、それに伴って振動板205が液室204側に変形変位する。これにより、液室204内が加圧され、塗布液(PZT前駆体溶液)203の所定量の液滴がノズル孔201から吐出する。
【0025】
また、液滴吐出ヘッド200は、ノズル板202のノズル孔201近傍のノズル面(液室204側とは反対側の外面)208には、そのノズル面208よりも少し凸形状となる回収電極としてのミスト回収用電極209が設けられている。このミスト回収用電極209は、導電体層210と、その導電体層210とノズル面208との間に設けられ電気的な絶縁材料からなる絶縁層211とを備えている。本例では、ノズル板202は接地され、ミスト回収用電極209の導電体層210は印加電源212に接続されている。印加電源212は、所定電界を発生させるようにミスト回収用電極209に所定電位(例えば−50〜−10[V])を与える。すなわち、印加電源212は、導電体層210と接地との間に設けられる。また、ミスト回収用電極209のノズル面208からの高さは、通常のインクジェット記録装置における印刷時のノズル面と印刷対象物(本実施形態における塗布対象物である基板11に相当)との間隔が0.5〜1mmであるので、0.2mm以下が望ましい。絶縁層211の厚みはミスト回収用電極209に印加する電位及び絶縁材料にもよるが、50[μm]以上が望ましい。基板11の背面には電荷偏向電極213が取り付けられており、PZT前駆体を塗布する際にミスト回収用電極209と逆極性の電圧が印加電源214により印加される。例えばノズル面208と基板11との間隔が0.5[mm]の場合、電荷偏向電極213の電圧は+50[V]以上が望ましい。
【0026】
ここで、本実施形態の製造方法で用いる塗布液としてのPZT前駆体溶液は、PZT前駆体を溶解する溶媒が限られているため、液滴吐出ヘッド200から安定吐出させるには、圧電素子206に印加する吐出駆動信号の波形の工夫などが必要となる。しかしながら、吐出駆動信号の波形の最適化による安定吐出には限界があり、図示のように、PZT前駆体溶液の吐出時にメインの液滴(以下、「主液滴」という。)300の後に、主液滴300よりも体積が小さく(例えば、主液滴300の1000分の1程度)速度が遅い付随液滴301が発生する。以下、この付随液滴301は、ミスト状に発生するため、「ミスト液滴」という。
【0027】
上記ミスト液滴301は主液滴300と比べると速度が遅いため、本来PZT前駆体溶液を塗布すべき領域以外に着地し、パターン不良の原因となる。そこで、本実施形態では、ミスト液滴301を帯電させるとともに、上記ミスト回収用電極209を用いてノズル孔201近傍に所定の電界を形成する。そして、ミスト液滴301を基板に着地させることなく、ノズル面202側に回収して必要以外の領域にミスト液滴301を着地させないようにするものである。
【0028】
次に、図3〜図7を参照して液体吐出ヘッドを用いたPZT前駆体溶液の塗布工程を詳細に説明する。
【0029】
図3〜図7に示すように、ノズル面208と基板11との間に電位差が生じさせることで、ノズル面208と基板11との空間に電界が生じている。図3ではPZT前駆体溶液203の吐出駆動信号が圧電素子206に印加されていない吐出待機状態で、図4に示すように吐出駆動電源207から吐出駆動信号が出力されることに応じ、液柱状の先端がノズル孔201から外部に突出しようとする。そして、図5に示すように、ノズル孔201からPZT前駆体溶液203がノズル面202と基板11との間の電界空間に吐出されると、PZT前駆体溶液203中の正極性の帯電イオン分子はノズル板202のノズル面208側に引き寄せられる。また、PZT前駆体溶液203中の負極性の帯電イオン分子は、正極性の帯電イオン分子との反発によりノズル板202のノズル面208と反対方向に移動する。つまり、吐出されたPZT前駆体溶液203の液中で分極が生じる。そして、図5に示すように、ノズル孔201の外部に吐出したPZT前駆体溶液203は、ノズル孔201内のPZT前駆体溶液203から分裂し、主液滴300となる。主液滴300の分裂時にノズル板202のノズル面208は負極性であるので、分裂後の主液滴300の中でノズル板202のノズル面208に近い部分には正極性のイオン分子が引き寄せられる。そして、ノズル板202のノズル面208から遠い部分には負極性のイオン分子が集まる。
【0030】
この結果、図6に示すように、PZT前駆体溶液203が液滴の進行方向において前後に分裂すると基板11側にある主液滴300が電極213の逆極性に、ノズル面側にある体積の小さいミスト液滴301が電極213と同極性になる。体積の小さいミスト液滴301は空気抵抗により減速しやすくミスト化する。主液滴300の直径は30[μm]程度に対しミスト液滴301の直径は数ミクロン程度であり、また液滴速度もメインの液滴が6〜8[m/s]に対しミストの液滴速度は4[m/s]以下である。この結果、図7に示すように、ミスト液滴301はクーロン力によって電極213と反発し、ノズル面208の方向に引き寄せられる。これと同時に基板11を載せているステージは移動しているため、この移動に伴う気流によってミスト液滴301はノズル孔201の直下からミスト回収用電極209寄りに移動する。体積の小さいミスト液滴301は周囲の気流の影響を受けやすいからである。この結果、ミスト液滴301はミスト回収用電極209と逆極性に帯電されているため、図8に示すようにミスト回収用電極209に引き寄せられ最終的に回収される。一方、図7に示すように、主液滴300でもノズル面208側にミスト回収用電極209と逆極性の正極のイオン分子が集まるため、ミスト回収用電極209に静電的に引き寄せられる。また、主液滴300とミスト液滴301との分裂はノズル面208の近傍で発生することが多い。このため、ミスト回収用電極209に常に電圧が印加されミスト回収用電極209とノズル板202との間の電位差が常に生じていると、分裂前の柱状の液滴は第1の電極だけでなく、ミスト回収用電極209による電界の影響を受ける。これにより、ミスト液滴301の帯電が著しく弱くなる。この結果、付随液滴回収用電極側への静電的に引き寄せられる力が弱くなり、ミスト液滴301の動きを制御できなくなる。この静電的な引き寄せによって正規の着弾位置(図中点線で示す)からずれて着弾することになり、所望のパターンに塗布することができないことが起きる。
【0031】
図9はミスト回収用電極に加える電圧のスイッチング制御を示す断面図である。同図において、図2と同じ参照符号は同じ構成要素を示す。図9の(a)のようにPZT前駆体溶液203の液滴から主液滴300とミスト液低301とに分裂する前には電圧印加切換部215によってミスト回収用電極209は接地しておく。図9の(b)のようにPZT前駆体溶液203の液滴から主液滴300とミスト液低301とに分裂して主液滴300が正規の着弾位置に着弾してから、電圧印加切換部215によってミスト回収用電極209に電圧を印加する。これによれば、電圧印加切換部215によってミスト回収用電極209に電圧が印加された時には、主液滴300は既に正規の着弾位置に着弾しているのでミスト回収用電極209の静電引力を受けないで済む。具体的には、PZT前駆体溶液203がノズルから吐出された後の所定時間時に電圧印加切換部215は図示していない制御部からの切換信号によって各接点が切り換わる。例えば主液滴300の分裂が完了するのが吐出後30[μs]後の前後である。そして、吐出同期信号のパルス幅が10[μs]、吐出の周期が500[μs]ならば、図10に示す信号波形のようなタイミング、つまり吐出同期信号が供給されて40[μs]後にミスト回収用電極209に電圧印加するとよい。
【0032】
図11は本実施形態の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出塗布装置の構成を示す斜視図である。本実施形態の液滴吐出ヘッド200を搭載した図11に示す液滴吐出塗布装置60によれば、架台61の上に、Y軸駆動手段62が設置されている。その上に基板63(図2〜図8の基板11に相当する)を搭載するステージ64がY軸方向に駆動できるように設置されている。ステージ64には図示されていない真空、静電気などの吸着手段が付随して設けられており、基板63が固定されている。また、X軸支持部材65にはX軸駆動手段66が取り付けられており、これにZ軸駆動手段67上に搭載されたヘッドベース68が取り付けられており、X軸方向に移動できるようになっている。ヘッドベース68の上には液体を吐出させる液滴吐出ヘッド69が搭載されている。この液滴吐出ヘッド69には図示されていない液体タンクから供給用パイプ70を介して液体(PZT前駆体溶液)が供給される。
【0033】
ここで、溶液は出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を10モル%過剰にしてある。これは熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、ノルマルブトキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.1[mol/l]にした。
【0034】
次に、上記構成の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出塗布装置によってPZT前駆体溶液を塗布する工程を含むPZT膜の製造方法のより具体的な実施例について説明する。
[実施例1]
本実施例では、表面改質工程(図1の(b)〜(d))と、塗布工程と、乾燥工程と、熱分解工程とを1回ずつ行うことにより、基板11の白金電極上に所定パターンからなる100[nm]の膜を得る。表面改質工程では、SAM膜12を部分的に形成する。塗布工程では、上記構成の液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出塗布装置を用いてPZT前駆体溶液Aを選択的に塗布する。乾燥工程では、塗布したPZT前駆体溶液Aを所定温度(温度120°C)で乾燥させる。熱分解工程では、乾燥したPZT前駆体溶液Aを所定温度(温度500°C)で熱分解する。この表面改質工程、塗布工程、乾燥工程及び熱分解工程を6回繰り返すことにより600[nm]の膜を得た後、その膜を熱分解して結晶化させる結晶化熱処理(温度700°C)をRTA(急速熱処理)にて行う。これにより、基板11の白金電極上にパターン化した電気機械変換膜としてのPZT膜を形成した。その結果、PZT膜にクラックなどの不良は生じなかった。また、液滴吐出ヘッドにおけるミスト液滴301の回収により、必要なパターン形成部以外にPZT前駆体溶液が塗布されるパターン不良の発生はなかった。
【0035】
更にその後、表面改質工程、塗布工程、乾燥工程(温度120°C)及び熱分解工程(温度500°C)を6回繰り返した後、結晶化処理を行った。その結果、クラックなどの不良が生じることなく、PZT膜の膜厚は1000[nm]に達した。このパターン化したPZT膜に白金からなる上部電極(第2に電極)をスパッタリング成膜して電気機械変換素子を形成し、電気特性、電気−機械変換能(圧電定数)の評価を行った。その結果、図12のP(分極)−E(電界強度)のヒステリシス曲線が得られ、PZT膜の比誘電率は1220、誘電損失は0.02、残留分極は19.3[μC/cm]、抗電界は36.5[kV/cm]であった。そして、通常のセラミック焼結体と同等の特性を持っていることがわかった。また、電気−機械変換能は電界印加による変形量をレーザードップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。その圧電定数d31は120[pm/V]となり、こちらもセラミック焼結体と同等の値であった。この値は液体吐出ヘッドに用いる圧電素子として十分設計できうる特性値である。
【0036】
一方、上記白金からなる上部電極(第2に電極)を配置せずに、PZT膜の更なる厚膜化を試みた。すなわち、表面改質工程、塗布工程、乾燥工程(温度120°C)及び熱分解工程(温度500°C)の6回繰り返しとその後の結晶化処理とを、10回繰り返した。その結果、合計膜厚が5[μm]のパターン化したPZT膜を、クラックなどの欠陥を伴わずに得ることができた。
【0037】
[実施例2]
本実施例では、上記白金からなる上部電極(第2に電極)の形成に図11に示す液滴吐出装置を用い、PZT膜上の必要な部分のみに白金材料を含む液を塗布して乾燥させた。他は実施例1と同様に行った。白金材料を含む液を塗布するときには、PZT前駆体を塗布したときと同様に接触角のコントラストを利用して塗布領域を規定した。上部電極は短絡を防止するためにPZT膜パターンより小さい領域に塗布する必要があるため、PZT膜上にも撥水部(疎水面)を設ける必要がある。そのため、本実施例では、白金からなる上部電極を形成しない部分にレジストをパターニングして塗布を行い、120°Cで白金を乾燥処理した後に、レジストを剥離して最終的に250°Cで焼結した。この焼成後の膜厚は0.5[μm]であり、比抵抗(体積抵抗率)は5×10−6[Ω・cm]であった。
【0038】
また、本実施例においても、上記実施例1と同様に、クラックのない所望の膜厚のパターン化した電気機械変換膜としてのPZT膜を形成することができる。そして、液滴吐出ヘッドにおけるミスト液滴301の回収により、必要なパターン形成部以外にPZT前駆体溶液が塗布されるパターン不良の発生もなかった。
【0039】
[実施例3]
本実施例では、下部電極(第1の電極)を構成する他の白金族元素の電極膜として、ルテニウム、イリジウム、ロジウムをそれぞれ、チタン密着層を配置した熱酸化膜付きシリコンウェハ上にスパッタリング成膜した。SAM膜12の形成など他の工程は実施例1と同様に行った。また、下部電極(第1の電極)を構成する他の白金族合金の電極膜として、白金−ロジウム(ロジウム濃度は15[wt%])もスパッタリング成膜した。更に、イリジウム酸化膜の上にイリジウム金属、または白金膜を配置した試料についても行った。これらの材料で下部電極(第1の電極)を形成したところ、SAM膜12を除去した電極露出面における純水の接触角は、すべての試料において5°以下(完全濡れ)であった(図13の(a)参照)。一方、SAM膜12を配置したままの表面における純水の接触角は、すべての試料において90°程度であった(図13の(b)参照)。
【0040】
また、本実施例においても、上記実施例1と同様に、クラックのない所望の膜厚のパターン化した電気機械変換膜としてのPZT膜を形成することができる。そして、液滴吐出ヘッドにおけるミスト液滴301の回収により、必要なパターン形成部以外にPZT前駆体溶液が塗布されるパターン不良の発生もなかった。
【0041】
図14は上記製造方法で製造した電気機械変換素子(PZT素子)を用いて構成した液滴吐出ヘッドの一構成例を示す概略構成図である。図示の例では、液室基板となるシリコン基板20上に、振動板30、密着層41及び下部電極(第1の電極)42を積層する。その下部電極(第1の電極)42上の所定部分に、上記簡便な製造方法により、バルクセラミックスと同等の性能を持つ電気機械変換素子(PZT素子)43及び上部電極44をパターン化して形成することができる。その後、シリコン基板20の裏面(図中の下面)からエッチング除去工程により液室21を形成し、ノズル孔21を有するノズル板22を接合することにより、液体吐出ヘッド50を作製することができる。なお、図中には液体供給手段、流路、流体抵抗についての記述は省略した。また、図14の液滴吐出ヘッド50は、図15に示すように複数個並べるように構成することもできる。
【0042】
図16は上記製造方法で製造した電気機械変換素子を用いることができる液滴吐出装置の一構成例を示す概略構成図である。また、図17は、同液滴吐出装置の概略透視斜視図である。両図に示す本発明の液滴吐出装置は、上述した本発明の電気機械変換素子の製造方法によって製造された電気機械変換素子を具備する液滴吐出ヘッドを搭載している。両図に示す本発明の液滴吐出装置の一例であるインクジェット記録装置100は、主に、キャリッジ101、記録ヘッド102及びインクカートリッジ103を含んで構成される印字機構部104を有している。キャリッジ101は、記録装置本体の内部に主走査方向に移動可能である。記録ヘッド102は、キャリッジ101に搭載した本発明を実施して製造した液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドからなる。インクカートリッジ103は、記録ヘッド102へインクを供給している。また、装置本体の下方部には前方側から多数枚の用紙105を積載可能な給紙カセット106を抜き差し自在に装着することができる。用紙105を手差しで給紙するための手差しトレイ107を開倒することができる。給紙カセット106或いは手差しトレイ107から給送される用紙105を取り込み、印字機構部104によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ108に排紙する。
【0043】
印字機構部104は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド109と従ガイドロッド110とでキャリッジ101を主走査方向に摺動自在に保持する。このキャリッジ101にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出する本発明に係る液滴吐出ヘッドの一例であるインクジェットヘッドからなる記録ヘッド102を複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。また、キャリッジ101には記録ヘッド102に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ103を交換可能に装着している。インクカートリッジ103は上方に大気と連通する大気口、下方には記録ヘッド102へインクを供給する供給口を、内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により記録ヘッド102へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。
【0044】
また、記録ヘッド102としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドでもよい。ここで、キャリッジ101は後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド109に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド110に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ101を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ111で回転駆動される駆動プーリ112と従動プーリ113との間にタイミングベルト114を張装している。このタイミングベルト104をキャリッジ101に固定しており、主走査モータ111の正逆回転によりキャリッジ101が往復駆動される。
【0045】
一方、給紙カセット106にセットした用紙105を記録ヘッド102の下方側に搬送するために、給紙ローラ115及びフリクションパッド116と、ガイド部材117と、搬送ローラ118と、先端コロ120とを設けている。給紙ローラ115及びフリクションパッド116は、給紙カセット106から用紙105を分離給装する。ガイド部材117は、用紙105を案内する。搬送ローラ118は、給紙された用紙105を反転させて搬送する。先端コロ120は、搬送ローラ118の周面に押し付けられる搬送コロ119及び搬送ローラ118からの用紙105の送り出し角度を規定する。搬送ローラ118は副走査モータ121によってギヤ列を介して回転駆動される。そして、キャリッジ101の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ118から送り出された用紙105を記録ヘッド102の下方側で案内する用紙ガイド部材である印写受け部材122を設けている。この印写受け部材122の用紙搬送方向下流側には、用紙105を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ123、拍車124を設けられている。さらに用紙105を排紙トレイ108に送り出す排紙ローラ125及び拍車126と、排紙経路を形成するガイド部材127,128とを配設している。
【0046】
記録時には、キャリッジ101を移動させながら画像信号に応じて記録ヘッド102を駆動することにより、停止している用紙105にインクを吐出して1行分を記録し、用紙105を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号または、用紙105の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙105を排紙する。
【0047】
また、キャリッジ101の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、記録ヘッド102の吐出不良を回復するための回復装置129を配置している。回復装置129はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ101は印字待機中にはこの回復装置129側に移動されてキャッピング手段で記録ヘッド102をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
【0048】
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
回収工程では、ノズルから塗布液の液滴が吐出された後、所定時間経過後に電圧印加手段によって付随液滴回収用電極に電圧を印加して付随液滴を回収する。これによれば、上記実施形態について説明したように、電気機械変換膜(PZT膜)を形成するための原料を含む塗布液(PZT前駆体溶液)203の液滴をノズル孔201から吐出させて基板11の第1の電極上の所定部分に選択的に塗布するときに、ノズルから塗布液を吐出した後、主液滴300に付随する微小の付随液滴(ミスト液滴)301が発生し、主液滴300が付随液滴(ミスト液滴)301に先行しては第1の電極上に向かうことがわかっている。そして、ノズルから塗布液(PZT前駆体溶液)203の液滴が吐出された後所定時間が経過した後に付随液滴回収用電極(ミスト回収用電極)209に電圧を印加する。この所定時間を、ノズルから吐出された塗布液(PZT前駆体溶液)203の液滴から分裂した付随液滴(ミスト液滴)301が第1の電極上に到達せず、かつ、この所定時間経過時点での付随液滴回収用電極(ミスト回収用電極)209への電圧印加開始によって付随液滴(ミスト液滴)301を付随液滴回収用電極(ミスト回収用電極)209に回収できる範囲で設定する。このように付随液滴回収用電極(ミスト回収用電極)209への電圧印加の開始を吐出から所定時間遅らせることで、主液滴300は電圧が印加された付随液滴回収用電極(ミスト回収用電極)209の電界から静電気力を受ける時間を少なくするとともに、付随液滴(ミスト液滴)301を第1の電極に到達する前に回収する。これにより、ノズル孔201から吐出した主液滴300については、第1の電極上における所望パターンの所定部分に塗布できるとともに、その主液滴300に付随する不要な付随液滴301については、第1の電極に付着しなくなる。よって、電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液をノズルから吐出させて電極上に塗布するときに不要な液滴を電極に付着させることを抑制し、かつ所望パターンの電気機械変換膜を形成することができる。
(態様B)
(態様A)の電気機械変換膜の製造方法により、第1の電極上に所定膜厚の電気機械変換膜を形成した後、その第1の電極上に形成した電気機械変換膜を挟むように第2の電極を配置する第2電極配置工程を有する。これによれば、上記実施形態について説明したように、ミスト液滴301を付着させることなく、第1の電極上に所定膜厚のパターン化した電気機械変換膜を形成した後、その第1の電極上に形成した電気機械変換膜を挟むように第2の電極を配置することにより、高品質の電気機械変換素子を製造できる。
(態様C)
(態様B)において、第2電極配置工程は第2の電極を形成するための原料を含む電極用塗布液の液滴をノズルから吐出させる液滴吐出方式により、電気機械変換膜上の所定部分に電極用塗布液を塗布する工程を有する。これによれば、上記実施形態について説明したように、第2の電極を形成するための原料を含む電極用塗布液の液滴をノズルから吐出させる液滴吐出方式により、電気機械変換膜上の所定部分に電極用塗布液を塗布することにより、電気機械変換膜の表面のみにパターン化した第2の電極を簡易に配置できる。
(態様D)
(態様B)又は(態様C)において、第1の電極及び第2の電極が白金族元素、及びその酸化物、またはこれら数種の積層膜からなる。これによれば、上記実施形態について説明したように、良好な親水面を有する第1の電極を形成できるとともに、第2の電極については液滴吐出方式を用いて簡易に配置できる。
(態様E)
(態様B)〜(態様D)のいずれかの電気機械変換素子の製造方法によって電気機械変換素子が製造される。これによれば、上記実施形態について説明したように、高品質の電気機械変換素子を製造できる。
(態様F)
(態様E)の電気機械変換素子を備えている。これによれば、上記実施形態について説明したように、高品質の液滴吐出ヘッドを製造できる。
(態様G)
(態様F)の液滴吐出ヘッドを備えている。これによれば、上記実施形態について説明したように、吐出不良を防止し、安定した吐出性能を維持できる液滴吐出装置を提供できる。
【符号の説明】
【0049】
11 基板
12 SAM膜
13 フォトレジスト
14 液滴吐出ヘッド
15 PZT前駆体溶液
100 インクジェット記録装置
200 液滴吐出ヘッド
201 ノズル孔
202 ノズル板
203 塗布液(PZT前駆体溶液)
204 液室
205 振動板
206 圧電素子
207 吐出駆動電源
208 ノズル面
209 ミスト回収用電極
210 導電体層
211 絶縁層
212 印加電源
213 電極
214 印加電源
215 電圧印加切換部
300 主液滴
301 ミスト液滴
【先行技術文献】
【特許文献】
【0050】
【特許文献1】特開2003−297825号公報
【特許文献2】特開2006−176385号公報
【特許文献3】特許第4622571号公報
【非特許文献】
【0051】
【非特許文献1】K.D.Budd, S.K.Dey and D.A.Payne,Proc.Brit.Ceram.Soc.36,107(1985)
【非特許文献2】A.Kumar and G.M.Whitesides, Appl.Phys.Lett.,63,2002(1993)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械変換膜を形成するための原料を含む塗布液をノズルから吐出させる液滴吐出方式により、第1の電極上の所定部分に選択的に塗布する塗布工程と、前記第1の電極上に塗布した塗布液の膜を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥させた塗布液の膜を熱分解して結晶化させる結晶化工程とを有する電気機械変換膜の製造方法であって、前記塗布工程は前記ノズルから吐出した塗布液の主液滴に付随する微小の付随液滴を静電的に引き寄せて回収する付随液滴回収用電極に電圧印加手段によって前記付随液滴と逆極性となる電圧を印加して前記付随液滴回収用電極に前記付随液滴を静電的に引き寄せて前記第1の電極に到達する前に回収する回収工程を有する電気機械変換膜の製造方法において、
前記回収工程では、前記ノズルから前記塗布液の液滴が吐出された後、所定時間経過後に前記電圧印加手段によって前記付随液滴回収用電極に電圧を印加して前記付随液滴を回収することを特徴とする電気機械変換膜の製造方法。
【請求項2】
電気機械変換素子の製造方法であって、
請求項1記載の電気機械変換膜の製造方法により、前記第1の電極上に所定膜厚の電気機械変換膜を形成した後、その第1の電極上に形成した電気機械変換膜を挟むように第2の電極を配置する第2電極配置工程を有することを特徴とする電気機械変換素子の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の電気機械変換素子の製造方法において、
前記第2電極配置工程は、前記第2の電極を形成するための原料を含む電極用塗布液の液滴をノズルから吐出させる液滴吐出方式により、前記電気機械変換膜上の所定部分に前記電極用塗布液を塗布する工程を有することを特徴とする電気機械変換素子の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の電気機械変換素子の製造方法において、
前記第1の電極及び前記第2の電極が白金族元素、及びその酸化物、またはこれら数種の積層膜からなることを特徴とする電気機械変換素子の製造方法。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の電気機械変換素子の製造方法によって製造されたことを特徴とする電気機械変換素子。
【請求項6】
請求項5の電気機械変換素子を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
請求項6の液滴吐出ヘッドを備えたことを特徴とする液滴吐出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−65832(P2013−65832A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−180843(P2012−180843)
【出願日】平成24年8月17日(2012.8.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】