説明

電池の電気インピーダンスを求める非介入的な方法

【課題】電力貯蔵のための電気化学システムの電気インピーダンスを求める非介入的な方法、およびこの方法を実行する装置を提供する。
【解決手段】電圧および電流を電気化学システムの端子位置で時間の関数として計測し、これらの計測値を周波数信号に変換する。それから、これらの周波数信号に対して複数個のセグメントへの少なくとも1回のセグメント化を行う。各セグメントについて、電流信号のパワースペクトル密度Ψと、電圧信号と電流信号とのクロスパワースペクトル密度ΨIVとを計算する。最後に、電気化学システムの電気インピーダンスを、複数のパワースペクトル密度Ψの平均値と複数のクロスパワースペクトル密度ΨIVの平均値との比を計算することによって求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、いくつかの装置または乗り物において、特に動作中に、いくつかの取得周波数による電池(鉛、Ni−MH、Li−イオン等)の電気インピーダンスを求める方法に関する。
【0002】
電気化学電池は、乗り物や太陽電力貯蔵などにとって、最も重要な構成要素の1つである。これらの用途における適切な動作は、様々な動的な要求レベル同士の間の最良の妥協点で電池を動作させることを目的とするスマート電池管理システム(BMS)に基づいて行われる。このBMSは、電池の状態を求めるために電圧、電流、温度などのいくつかのパラメータを計測する。
【背景技術】
【0003】
電池の充電中および放電中に生じる反応は、一般に多数且つ複雑である。電気化学反応を研究する場合、従来の特徴的な技法は、直列または並列のコンデンサおよび抵抗を含む単純な電気的な系として電池をモデル化することができる電気インピーダンススペクトル解析である。
【0004】
系のインピーダンスは、その系に正弦信号が入力されたときの系の電気的な応答を測定することによって得られる。この信号は、正弦電流または正弦電圧変化となる。正弦電流Icos(ωt+φ)が供給される電気的な構成要素または回路が存在するとする。その端子位置での電圧がVcos(ωt+φ)のとき、回路または構成要素のインピーダンスは、絶対値が比V/Iに等しく、且つ偏角がφ=φ−φに等しい複素数Zとして定義される。
【0005】
【数1】

【0006】
構成要素の総インピーダンスは、下記数式(2)のように、ZrealとZimagの値の複素和によっても表すことができる。
【0007】
【数2】

【0008】
インピーダンススペクトロスコピーは、各周波数での系のインピーダンスを知るために、電池の端子位置に多重周波数の正弦信号を印加する。
【0009】
従来は、インピーダンスの変化を観測するために2種類の表現が使用されている。
−ナイキスト線図(横軸に実部を示して縦軸に虚部を示すダイアグラム)
−ボード線図(一般にZの絶対値(|Z|)および位相の両方を周波数の関数として表す片対数スケールのダイアグラム)
インピーダンススペクトルは、フーリエ級数変換やラプラス変換などの時間信号から周波数信号へと切り替えることができる「信号処理」ツールに基づく方法を利用しても得られる。その主な方法は、重ね合わされている複数の正弦信号の適用と、雑音(特に白色雑音)の分析とに基づいている。
【0010】
高調波解析ツールによって系のインピーダンスを求める方法の1つは、正弦曲線の総和からなる入力信号(VまたはI)を利用することである。この高調波解析信号は、複数の正弦曲線の周波数を表すいくつかの別個の線を有している。
【0011】
したがって、この方法は、いくつかの周波数を同時に分析することを可能にし、それによって相当に分析時間を節約することができる。
【0012】
雑音分析も系のインピーダンスを求めるために使用することができる。たとえば白色雑音は、周波数領域において一定のパワースペクトル密度によって記述されるランダム信号の集合である。したがって、ある時間に、いくつかの周波数ではなく全ての周波数が重ね合わされている。したがって、この方法は、前述の方法よりも高速である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかし、これら全ての方法は、インピーダンスを求めるべき電力貯蔵のための電気化学系に特別な信号を適用することに基づいている。
【0014】
そのため、ガルバノスタットなどのかなり大きな手段が必要となり、それによって、動作中の乗り物での使用は困難である(空間の不足、乗り物の質量の増加等)。
【0015】
したがって、本発明の目的は、電池の形式の電気化学システムの電気インピーダンスを求める非介入的な方法(Non-invasive method)であって、特に、追加の信号を重ね合わせることなく、通常の動作条件下での電池とその構成要素の端子位置における時間の関数としての電圧および電流の測定値を使用する方法に関する。
【0016】
本発明は、本発明の方法を実施する装置と、そのような装置を有するシステム、特にスマート電池管理システムにも関する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の方法は、従来の方法に比べて、信頼性があり、容易に実施できる。本発明の方法は、動作中の電池のほとんど全ての用途に適用可能である。
【0018】
本発明の方法および装置
本発明の1つの目的は、電力貯蔵のための電気化学システムの電気インピーダンスを求める方法に関する。本方法は、
・電気化学システムの端子位置での電圧および電流を評価する時間信号を取得して当該時間信号を周波数信号に変換するステップと、
・周波数信号を複数のセグメントにするセグメント化を実行するステップと、
・複数のセグメントの各々についての電流信号のパワースペクトル密度Ψ(f)と、電圧信号と前記電流信号とのクロスパワースペクトル密度ΨIV(f)と、を求めるステップであって、各々のセグメントに対してスペクトル密度が周波数fに依存しているステップと、
・複数のパワースペクトル密度Ψ(f)の平均値と複数のクロスパワースペクトル密度ΨIV(f)の平均値との比を計算することによって、電気化学システムの周波数fに依存する電気インピーダンスを求めるステップと、
を有している。
【0019】
一実施態様によれば、周波数信号を少なくとも2回処理するように、第1のセグメント化とは異なる、周波数信号の少なくとも第2のセグメント化を実行する。
【0020】
電気化学システムの電気インピーダンスは、パワースペクトル密度ΨおよびΨIVにフィルタを適用することによって、設定された閾値を超えるパワースペクトル密度を有する周波数に対してのみ求められる。
【0021】
前述の電気インピーダンスから、電池またはその複数の要素の1つの内部状態を評価するために指標を求めることもできる。
【0022】
一実施態様によれば、電力貯蔵のための電気化学システムは電池パックの要素である。この場合、本発明の方法は、電池を構成するパックの欠陥のある部分を特定する方法に用いることが可能であり、この方法においてパックの各々の要素の電気インピーダンスが発明の方法によって求められ、各々の要素の電気インピーダンスは互いに比較される。また、この場合、本発明の方法は、電池を構成するパックの要素同士間のバランスを取るシステムを駆動する方法にも用いることが可能であり、この方法においてパックの各々の要素の複素電気インピーダンスが本発明の方法によって求められる。
【0023】
さらに、本発明によれば、電力貯蔵のための電気化学システムは動作中であってもよい。
【0024】
本発明の別の目的は、電力貯蔵のための電気化学システムの複素電気インピーダンスを求める装置に関する。この装置は、
・電気化学システムの端子位置での電圧を時間tの関数として測定する手段と、
・電気化学システムの端子位置での電流を時間tの関数として測定する手段と、
・これらの計測値を周波数信号に変換するソフトウェアと、
・周波数信号を複数のセグメントにする少なくとも1回のセグメント化を実行する手段と、
・各々のセグメントにおいて、電流信号の周波数fに依存するパワースペクトル密度Ψ(f)と、電圧信号と電流信号との周波数fに依存するクロスパワースペクトル密度ΨIV(f)とを計算するソフトウェアと、
・複数のパワースペクトル密度Ψ(f)の平均値と複数のクロスパワースペクトル密度ΨIV(f)の平均値との比を計算するようにされた、電気化学システムの周波数fに依存する電気インピーダンスを計算するソフトウェアと、
有している。
【0025】
本発明の別の目的は、電力貯蔵のための電気化学システムの内部状態を評価する装置であって、
・電力貯蔵のために電気化学システムの複素電気インピータンスを求める本発明の装置と、
・電気化学システムの内部状態に関連する属性と電気化学システムの複素電気インピーダンスとの間の関係を保存できるメモリと、
・上記の関係によって電気化学システムの内部状態に関連する属性を計算する手段と、
を有する装置に関する。
【0026】
本発明の他の目的は、本発明の電池の内部状態を評価するシステムを有するスマート電池管理システムに関する。
【0027】
本発明の他の目的は、電池と、本発明のスマート電池管理システムとを有する乗り物に関する。
【0028】
本発明の他の目的は、本発明の内部状態を評価するシステムを有する、電力貯蔵のための光起電力システムに関する。
【0029】
本発明の方法および装置のその他の特徴および利点は、添付の図面を参照して、非限定的な例として示す実施形態についての以降の説明を参照することで明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】動作中のハイブリッド乗り物の電池に対する要求を再現する電流プロファイル(回生加速期間と制動期間とがまとめられている)と、このプロファイルに対する電池の電圧応答とを示す図である。
【図2】(a)は、DSPフィルタのない状態で道路型の信号から得られたハイブリッド乗り物の電池モジュールのインピーダンススペクトルを示す図であり、(b)は、DSPフィルタのある状態で道路型の信号から得られたハイブリッド乗り物の電池モジュールのインピーダンススペクトルの図である。
【図3】継続的なセグメント化を用いる本発明による方法から得られたハイブリッド乗り物の電池モジュールのインピーダンススペクトルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明は、電池などの電力貯蔵のための電気化学システムの複素電気インピーダンスを求める非介入的な方法に関する。
【0032】
非介入的な方法は、追加の複数の信号を電気化学システム内で重畳させることなくインピーダンスを求めることを可能にする。
【0033】
本方法は、時間の関数としての電圧測定値U(以下ではVで表記することもある)および電流測定値Iのみを使用することを含んでいる。本方法は、動作中の電池を調査する場合に特に重要となる。これらの測定は、電池の端子位置や電池を構成する構成要素の端子位置で実行される。本方法は3つのステップを有している。
【0034】
1.電圧および電流を評価する時間信号の取得
電流Iは、動作中の電気化された乗り物において、時間tの関数として連続的に測定される。この信号をI(t)で表す。これらの測定は、電池の複数の端子位置または電池を構成する構成要素の複数の端子位置で実施される。実際には、電流は、構成要素が直列になっている場合には、電池の端子位置と構成要素の端子位置とで同じである。他方、構成要素が並列に接続されている場合、これらの電流は同じにならない。本発明の方法は、両方の構成に適用される。また、本発明の方法は、どのような電流レベルにも適用されるということがわかる。電圧Uも、時間tの関数として連続的に測定される。この信号をU(t)で表す。これらの測定は、電池の複数の端子位置または電池を構成する構成要素の複数の端子位置で実行される。
【0035】
これらの測定は、一般に、電気化された乗り物内のこの種の電池に存在している検出器によって実行される。
【0036】
本方法は、動作中の電池を調べる場合に特に重要である。動作には、零電流によって特徴付けられるような例えば赤信号での乗り物の停止期間も含まれる。
【0037】
2.時間信号から周波数信号への変換
時間信号U(t)およびI(t)から周波数信号U(f)およびI(f)へ変換するため、信号はフーリエ級数変換によって処理される。したがって、周波数fに依存するベクトルが得られる。
【0038】
3.電気化学システムの複素電気インピーダンスの計算
電気化学システムの、Z(f)で表される複素電気インピーダンスは、関係式U=ZI、つまりZ=U/Iによって与えられる。
【0039】
したがって、以下の数式が得られる。
【0040】
【数3】

【0041】
インピーダンスの精度を改善するために、インピーダンスはパワースペクトル密度を用いて計算される。
【0042】
パワースペクトル密度(PSD)は、信号のさまざまなスペクトル成分を表すことを可能にする数学的なツールである。PSDは、X(t)のフーリエ変換X(f)の絶対値の2乗を、取得時間(測定時間)Tの半分で除したものと一致する。
【0043】
【数4】

【0044】
2つのフーリエ変換X(f)とY(f)の共役とからなるクロスパワースペクトル密度も存在する。
【0045】
【数5】

【0046】
(f)はY(f)の複素共役である。
【0047】
したがって、電気化学システムの複素電気インピーダンスは以下の関係で表すことができる。
【0048】
【数6】

【0049】
ここで、
【0050】
【数7】

【0051】
【数8】

【0052】
である。
【0053】
しかし、実際には、この公式を適用したのではインピーダンスを求めるのに十分な精度が得られない。
【0054】
本発明によれば、この問題は、周波数信号U(f)およびI(f)をN個のセグメントにセグメント化(segmentation)することによって解決される。これらのN個の信号の各々が独立して取り扱われる。
【0055】
したがって、パワースペクトル密度Ψおよびクロスパワースペクトル密度ΨIVとは、N個のセグメントの各々について計算される。
【0056】
それから、複数のパワースペクトル密度Ψの平均値と、複数のクロスパワースペクトル密度ΨIVの平均値とが計算される。
【0057】
インピーダンスZ(f)は、以下のように、これらの2つの平均値の比を計算することによって計算される。
【0058】
【数9】

【0059】
最初の信号のN個のセグメントへのセグメント化は、各回で処理するデータの数が減少するため、調べる周波数の個数が減少すること、および低周波数の個数が減少することにつながる。
【0060】
実際に、たとえば、一定の時間ステップで測定されたp個の値の標本では、周波数は、テスト期間で除された1からpまでの数を有するベクトルである。したがって、標本の大きがが減少すると、調べる周波数の数と低周波数の数も減少する。さらに、ナイキスト−シャノンの定理によれば、信号の標本化周波数は、この信号をアナログからデジタルに変換するために、この信号に含まれている最大周波数の2倍以上でなければならない。したがって、より高い周波数を除去しなければならない(これが調べる周波数の数をますます減少させる)。
【0061】
本発明によれば、この問題は、信号の特定のセグメント化によって解決することができる。周波数帯の大きな領域にわたって良好な精度のインピーダンスを得るため、ある解決策は、同じ信号を異なるセグメント化を用いて複数回処理することにある。したがって、多量のデータを使用した平均値から得られた値はより正確であり、低周波数も比較的精度が高くなる。したがって、複数回のセグメント化が実施される。それから、各々のセグメント化に対して、N個のセグメントの各々が独立して扱われる。したがって、パワースペクトル密度Ψとクロスパワースペクトル密度ΨIVとは、N個のセグメントの各々について計算される。それから、新しいセグメント化が実行され、N’個の新しいセグメントの各々で、パワースペクトル密度が再度計算される。最終的に、複数のパワースペクトル密度Ψの平均値と複数のクロスパワースペクトル密度ΨIVの平均値とがN+N’+...個のセグメントについて計算される。
【0062】
処理された信号に関連する不確実性(uncertainty)の原因も存在する。実際に、それは白色雑音ではない。そのため、パワースペクトル密度は、周波数に依存して一定ではなく、非常に不確かなこともあり得る比U(f)/I(f)が関連している(図2(a))。
【0063】
本発明によれば、この問題は、最大のパワースペクトル密度だけを有する周波数だけを選択するために、パワースペクトル密度にフィルタシステムを適用することによって解決される。たとえば、パワースペクトル密度Ψとクロスパワースペクトル密度ΨIVとの和の最大値(Ψ+ΨIVmax=Ψmaxに基づいて、閾値S定め、和Ψ+ΨIVがΨmax/Sよりも大きい周波数だけを選択するフィルタを用いることができる。
【0064】
これにより、信号はより正確で、計算から得られるインピーダンスは、一般的な方法から得られるインピーダンスと整合する。
【0065】
したがって、電気化学システムの複素電気インピーダンスをU(f)およびI(f)から計算する方法は、以下のステップを有している。
−信号を、少なくとも1回、N個のセグメントにセグメント化するステップ
−各セグメントでパワースペクトル密度Ψとクロスパワースペクトル密度ΨIVとを計算するステップ
−複数のクロスパワースペクトル密度の平均値と複数のパワースペクトル密度の平均値との比を計算することによって電気インピーダンスを計算するステップ
パワースペクトル密度フィルタシステムは、最大のパワースペクトル密度を有する周波数のみを選択するように構成することもできる。
【0066】
実施例
この例において、ハイブリッド乗り物用の電池は、従来の道路の態様にしたがって、動力ベンチ上で繰り返して使用される。したがって、電池に対して加速(電池の放電)と回生制動を伴う減速(電池の再充電)とが行われる。
【0067】
ハイブリッド乗り物の電池は、定格電圧が202Vで、容量が6.5Ahである。電池は、直列に接続されている28個の、7.2V、6.5Ahの要素からなり、これらの要素の各々は、6個の1.2V、6.5AhのNi−MH要素からなる。
【0068】
1.電圧および電流を表している2つの時間信号の取得
動力ベンチ上で、この電池は各要素での電圧を計測しながら、全体的に再充電される。したがって、利用可能な計測値は、1個の電流強度の計測値と28個の各要素の電圧の計測値である。
【0069】
したがって、インピーダンスは、電池の各要素において、道路信号を表している放電電流から求められる(図1)。
【0070】
2.時間信号の周波数信号への変換
信号は、時間信号から周波数信号へ変換するため、フーリエ級数変換によって処理される。
【0071】
3.電気化学システムの複素電気インピーダンスの計算
周波数領域の大部分にわたって良好な精度を有するインピーダンスを求めるため、同じ信号が何回か処理されるが、セグメント化の数はだんだん減少する。
【0072】
この例については、調べる信号は80,000個の値を有している。16個の値を有しているN=5000個のセグメントとする第1のセグメント化がまず実行され、それから32個の値を有している2500個のセグメントとする第2のセグメント化・・・n個の値を有している80,000/n個のセグメントとするセグメント化が実施される。nは2で表わされる整数であって、kは零でない整数である(フーリエ変換を実行するために一般に使用されるクーリーテューキーアルゴリズムのため)。
【0073】
各セグメント化について、パワースペクトル密度Ψとクロスパワースペクトル密度ΨIVとが各セグメントにおいて計算される。
【0074】
パワースペクトル密度Ψの最大値Ψmaxが求められ、Ψmax/10よりも高いパワースペクトル密度を有している周波数だけが選択される。
【0075】
図2(a)および図2(b)は、DSPフィルタの無い状態(図2(a))と、DSPフィルタの有る状態(図2(b))とにおいて、道路型の信号(road type signal)から得られたハイブリッド乗り物の電池モジュールのインピーダンススペクトルを示している。図2(b)において、パワースペクトル密度の和Ψ+ΨIVがΨmax/10よりも高い周波数が選択されている。
【0076】
それから、選択された周波数に対して、電池の各要素の電気インピーダンスが以下の式によって計算される。
【0077】
【数10】

【0078】
結果
本発明の方法によって得られたインピーダンスを図3に示している。測定値は点在しているが、測定値は、(正弦信号を重ね合わせることによる)従来に方法によって得られたインピーダンスと整合している。
【0079】
使用
したがって、電力貯蔵のための電気化学システムの複素電気インピーダンスは、複素数の量として計算される。これは、ナイキスト線図の形態「−Im(Z)=F(Re(Z))」で表すことが可能で、各点は周波数に対応している。
【0080】
したがって、高速度の現象の応答(高周波数に対する内部抵抗)、電極での反応などの中間速度の現象の応答、低速の現象の応答(ワールブルク周波数と呼ばれる媒質中のイオンの拡散)を区別することができる。
【0081】
したがって、インピーダンスを計算することによって、電池または電池の要素の内の1つの内部状態(劣化の状態と充電の状態)を評価する指標が直接得られる。
【0082】
実際に、要素の電気インピーダンスは、その要素の内部状態(劣化の状態と充電の状態)に対して特に敏感である。動作中は、充電の状態は急激に変化するが、劣化の状態はそうではない。したがって、動作中のインピーダンスを求めることは、電池と電池の要素の劣化の状態を反映する。
【0083】
さらに、本発明の方法によって、電池を構成するパックの各々の要素の複素電気インピーダンスを求めることができる。前述の例は、電池の28個の要素(モジュール)について同時にインピーダンスを求めることについて説明している。
【0084】
電池パックの安全性
この情報は、電池全体の中のパックの故障している要素を特定し、そのため必要な保守作業を実行するために使用することができる。電気的な接触の劣化や喪失によって特徴付けられる要素の欠陥は容易に見つけることができるが、それは、その要素のインピーダンススペクトルがパック内のそれ以外の要素のスペクトルとは異なるためである。
【0085】
エネルギー管理の改善
この情報は、パックの複数の要素同士の間のバランスを取るシステムを駆動するためにも用いることができる。
【0086】
本発明の方法は、全ての種類の電気化学システム、鉛電池、Ni−MH、リチウム−ポリマーやLiイオン等に適用可能である。
【0087】
装置
本発明は、電力貯蔵のための電気化学システムの電気インピーダンスを求めるための本発明の方法を実行する装置にも関する。この装置は、
−この装置の動作中に装置の端子位置での電圧U(t)を時間tの関数として測定する手段と、
−この装置の動作中に装置の端子位置での電流I(t)を時間tの関数として測定する手段と、
−測定値を周波数信号U(f)およびI(f)に変換するフーリエ変換ソフトウェア
−周波数信号を複数のセグメントにする少なくとも1回のセグメント化を実行する手段と、
−各々のセグメントにおいて、電流信号のパワースペクトル密度Ψと、電圧信号と電流信号とのクロスパワースペクトル密度ΨIVとを計算するソフトウェアと、
−複数のパワースペクトル密度Ψの平均値と複数のクロスパワースペクトル密度ΨIVの平均値との比を計算するのに適している電気化学システムの電気インピーダンスを計算するソフトウェアと、
を有する。
【0088】
本発明は、本発明の複素電気インピーダンスを求める装置を有する、電力貯蔵のための電気化学システムの内部状態を評価する装置にも関する。この装置は、
−電気化学システムの内部状態に関連する属性と電気化学システムの複素電気インピーダンスとの間の関係を保存できるメモリと、
−上記の関係によって電気化学システムの内部状態に関連する属性を計算する手段と、
を有する。
【0089】
本発明は、本発明の電池の内部状態を評価する装置を有するスマート電池管理システムにも関する。
【0090】
本発明は、電池と、本発明のスマート電池管理システムとを有する乗り物にも関する。
【0091】
最後に、本発明は、本発明の内部状態を評価するシステムを有する、電力貯蔵のための光起電力装置にも関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力貯蔵のための電気化学システムの電気インピータンスを求める方法であって、
前記電気化学システムの端子位置での電圧および電流を評価する時間信号を取得して、該時間信号を周波数信号に変換するステップと、
前記周波数信号を複数のセグメントにするセグメント化を実行するステップと、
各々の前記セグメントに対して、複数の前記セグメントの各々についての電流信号の周波数fに依存するパワースペクトル密度Ψ(f)と、電圧信号と前記電流信号との周波数fに依存するクロスパワースペクトル密度ΨIV(f)と、を求めるステップと、
複数の前記パワースペクトル密度Ψ(f)の平均値と複数の前記クロスパワースペクトル密度ΨIV(f)の平均値との比を計算することによって、前記電気化学システムの周波数fに依存する電気インピーダンスを求めるステップと、を有することを特徴とする方法。
【請求項2】
前記周波数信号を少なくとも2回処理するように、第1のセグメント化とは異なる、前記周波数信号の少なくとも第2のセグメント化を実行する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電気化学システムの前記電気インピーダンスは、前記パワースペクトル密度Ψ(f)およびΨIV(f)にフィルタを適用することによって、設定された閾値を超えるパワースペクトル密度を有する周波数に対してのみ決定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記電気インピーダンスから、電池またはその要素の1つの内部状態を評価するための指標を求める、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
電力貯蔵のための前記電気化学システムは電池パックの要素である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法によって前記パックの各々の要素の電気インピーダンスを求め、前記各々の要素の前記電気インピーダンスを互いに比較する、電池を構成する前記パックの欠陥のある部分を特定する方法。
【請求項7】
請求項5に記載の方法によって前記パックの各々の要素の複素電気インピーダンスを求める、電池を構成する前記パックの前記要素間のバランスを取るシステムを駆動する方法。
【請求項8】
電力貯蔵のための前記電気化学システムが動作中である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
電力貯蔵のための電気化学システムの複素電気インピータンスを求める装置であって、
前記電気化学システムの端子位置での電圧を時間tの関数として測定する手段と、
前記電気化学システムの端子位置での電流を時間tの関数として測定する手段と、
前記測定値を周波数信号に変換するソフトウェアと、
前記周波数信号を複数のセグメントにする少なくとも1回のセグメント化を実行する手段と、
各々の前記セグメントにおいて、電流信号の周波数fに依存するパワースペクトル密度Ψ(f)と、電圧信号と電流信号との周波数fに依存するクロスパワースペクトル密度ΨIV(f)とを計算するソフトウェアと、
複数の前記パワースペクトル密度Ψ(f)の平均値と複数の前記クロスパワースペクトル密度ΨIV(f)の平均値との比を計算するのに適している前記電気化学システムの、前記周波数fに依存する前記電気インピーダンスを計算するソフトウェアと、
を有する装置。
【請求項10】
電力貯蔵のための電気化学システムの内部状態を評価するシステムであって、
電力貯蔵のために電気化学システムの複素電気インピータンスを求める請求項9に記載の装置と、
前記電気化学システムの前記内部状態に関連する属性と前記電気化学システムの前記複素電気インピーダンスとの間の関係を保存できるメモリと、
前記関係によって前記電気化学システムの前記内部状態に関連する属性を計算する手段と、を有するシステム。
【請求項11】
請求項10に記載の電池の内部状態を評価するシステムを有する、スマート電池管理システム。
【請求項12】
電池と請求項11に記載のスマート電池管理システムとを有する乗り物。
【請求項13】
請求項10に記載の内部状態を評価するシステムを有する、電力貯蔵のための光起電力システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−174925(P2011−174925A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−34103(P2011−34103)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(591007826)イエフペ エネルジ ヌヴェル (261)
【氏名又は名称原語表記】IFP ENERGIES NOUVELLES
【Fターム(参考)】