説明

電源スイッチ回路、電源スイッチを含む電気光学装置および計器表示器

【課題】 ハイサイドスイッチにショート故障が生じたとき、負荷への給電を継続させると共に故障の影響を最小限にとどめる。
【解決手段】MOSトランジスタM1を用いたハイサイドスイッチと、ハイサイドスイッチとしてのMOSトランジスタM1をスイッチングする駆動用トランジスタM2と、を有する電源スイッチ回路であって、MOSトランジスタのソースとゲート間に接続される第1の抵抗RUおよび第2の抵抗RGと、前記第1および第2の抵抗(RU,RG)の共通接続端に一端が接続され、他端が前記駆動用トランジスタM2の一端に接続される第1の抵抗RLと、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源スイッチ回路、電源スイッチを含む電気光学装置および計器表示器に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用の計器用表示ディスプレイなどに用いられる電源スイッチ回路は、ハイサイドスイッチを備えている。ハイサイドスイッチは、高レベル電源電圧を負荷に供給するためのスイッチであり、一般にパワートランジスタにより構成される。
【0003】
従来のハイサイドスイッチを有する電源スイッチ回路においては、突入電流などにより、ショート故障等が発生した場合、診断出力を外部に取り出して、電源をオフして動作停止するのが一般的な対策である。すなわち、従来は、何らかの原因によりハイサイドスイッチであるトランジスタが故障した場合には、例えば、電源をオフして電源スイッチ回路の動作を停止させることによって、周辺回路への悪影響を及ぼさないようにしている。
【0004】
このような電源スイッチ回路は、例えば、特許文献1または特許文献2に記載されている。
【特許文献1】特開2001−274662号公報
【特許文献2】特開2000−236625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、ハイサイドスイッチを用いた電源スイッチ回路が、航空機や自動車等の計器表示器に電源電圧を供給している場合、計器表示は飛行機や自動車の安全運航、安全運転に必須であるため、電源スイッチ回路が故障したからといって、直ちに電源供給を止めるわけにはいかない。
【0006】
このような場合には、電源スイッチ回路が故障した後も、少なくとも修理可能な状況になるまで、電源供給(すなわち電流供給)が継続される必要がある。したがって、従来の電源スイッチ回路のように、故障を検出して直ちに給電をオフするという対策は採用できない。
【0007】
一方、電源スイッチ回路に故障が生じているにもかかわらず給電を継続することが、周囲に深刻な影響を与えてはならない。例えば、過剰電流が流れて、電流制限手段(例えば、電源スイッチを駆動するためのスイッチングトランジスタ)が破壊され、これによって、システム(CPU等を含む制御中枢)が深刻なダメージを受けたのでは、システムの安全を確保できないことになる。
【0008】
また、システムがシャットダウンされれば、結果的に、電源スイッチも経由した給電も強制的にオフされることになり、結局、給電の継続ができなくなる。
【0009】
このように、計器表示等の重要な表示を行う機器に対しては、電源スイッチにショート故障等が発生したとしても、その状態で給電を継続させ、かつ、システム全体への影響を最小限にとどめることが重要となる。
【0010】
また、電源スイッチの信頼性を向上させる観点からは、故障自体が生じる危険性を減じる(故障率を低減させる)ことが求められる。
【0011】
本発明は、このような考察に基づいてなされたものである。本発明の少なくとも一つの実施態様によれば、ハイサイドスイッチが故障しても電源スイッチ回路に電流を継続的に流し、一方で周辺回路に及ぼす影響を最小限化することができる。
【0012】
また、本発明の少なくとも一つの他の態様では、ハイサイドスイッチを構成するMOSトランジスタのゲート酸化膜の破壊の危険性を低減して故障率を低減することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)本発明の電源スイッチ回路の一態様では、MOSトランジスタを用いたハイサイドスイッチと、前記ハイサイドスイッチとしての前記MOSトランジスタをスイッチングする駆動用トランジスタと、を有する電源スイッチ回路であって、前記MOSトランジスタのソースとゲート間に接続される第1の抵抗および第2の抵抗と、前記第1および第2の抵抗の共通接続端に一端が接続され、他端が前記駆動用トランジスタの一端に接続される第3の抵抗と、を有する。
【0014】
ハイサイドスイッチとしてのMOSトランジスタのソース・ゲート間には、第1の抵抗および第2の抵抗が直列に接続される。第1の抵抗は、一つの抵抗で形成されてもよく、複数の抵抗で形成されてもよい。同様に、第2の抵抗も、一つの抵抗であってもよく、複数の抵抗で形成されてもよい。そして第1の抵抗と第2の抵抗の共通接続点と駆動用トランジスタの一端との間に、第3の抵抗が接続される。第3の抵抗も同様に、一つの抵抗で形成されてもよく、複数の抵抗で形成されてもよい。第1の抵抗および第3の抵抗は、通常動作時にハイサイドスイッチ駆動用の電流パスを構成する。通常動作時においては、第1の抵抗および第2の抵抗によって、ハイサイドスイッチとしてのMOSトランジスタのゲート・ソース間電圧が緩和されるため、ゲート絶縁膜の劣化が生じにくくなり、故障自体が生じにくくなる。ハイサイドスイッチにショート故障が生じたときは、第2の抵抗によって、駆動用トランジスタに流れ込む電流の電流量が制限され、さらに、第3の抵抗によって、電流はさらに減少する。よって、ハイサイドスイッチにショート故障が生じた場合でも、駆動用トランジスタの破壊が生じない。ショート時においても、ハイサイドスイッチのゲート・ソース間はバイアスされるため、負荷への給電を継続することができる。
【0015】
(2)本発明の電源スイッチ回路の他の態様では、前記ハイサイドスイッチとしての前記MOSトランジスタにショート故障が生じた場合、前記第2の抵抗および前記第3の抵抗によって、前記駆動用トランジスタに流れる電流の電流量が前記駆動用トランジスタが連続して流すことが可能な最大電流値を超えないように電流制限がなされる。
【0016】
ハイサイドスイッチにショート故障が生じた場合でも、第2および第3の抵抗の電流制限機能によって、駆動用トランジスタに流れ込む電流の電流量は、駆動用トランジスタの最大電流値を超えることがなく、駆動用トランジスタは破壊から保護され、影響は最小限にとどめることができる。
【0017】
(3)本発明の電源スイッチ回路の他の態様では、前記ハイサイドスイッチとしての前記MOSトランジスタは、PMOSトランジスタである。
【0018】
ハイサイドスイッチとして、PMOSトランジスタ(例えば、高耐圧のパワートランジスタ)を用いることができる点を明確化したものである。
【0019】
(4)本発明の電源スイッチ回路の他の態様では、前記駆動用トランジスタは、NMOSトランジスタである。
【0020】
駆動用トランジスタとして、NMOSトランジスタ(例えば、低耐圧トランジスタ)を用いることができる点を明確化したものである。
【0021】
(5)本発明の電源スイッチ回路の他の態様では、前記駆動用トランジスタは、NPNバイポーラトランジスタである。
【0022】
駆動用トランジスタとして、NPNバイポーラトランジスタ(例えば、低耐圧トランジスタ)を用いることができる点を明確化したものである。
【0023】
(6)本発明の電源スイッチ回路の他の態様では、前記電源スイッチ回路は、モノリシックIC化されている。
【0024】
電源スイッチ回路は、ディスクリートの回路でも構成できるが、IC化することによって、高集積度による回路の小型化を図ることができる。
【0025】
(7)本発明の電源スイッチ回路の他の態様では、前記電源スイッチ回路に電源電圧を供給する電源回路と共にモノリシックIC化されている。
【0026】
電源回路と、電源スイッチ回路とをIC化するものである。異なる回路をワンチップ化することによって実装部品点数が減少し、組み立てが容易となる。
【0027】
(8)本発明の電気光学装置の一態様は、本発明の電源スイッチ回路含む。
【0028】
本発明の電源スイッチ回路は、例えば、有機EL素子を用いたディスプレイや光変調器等に使用することができる。
【0029】
(9)本発明の計器表示器の一態様は、本発明の電源スイッチ回路を含む。
ハイサイドスイッチにショート故障が生じた場合でも、その影響を最小限化しつつ給電を継続することができるため、計器表示(航空機等の運航に必要な情報の表示等)を維持できる。よって、計器表示器の信頼性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成のすべてが、本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0031】
本発明の具体例について説明する前に、本発明前に、本願発明の発明者によって検討された事項を説明する。
【0032】
(本発明前に本願発明者によって検討された事項)
図6(A)〜図6(C)は、本発明前に検討された電源スイッチ回路の要部の回路図である。図6(A)〜図6(C)のいずれの例も、電源電圧側のハイサイドスイッチと、接地側電源スイッチとが設けられている。
【0033】
図6(A)は、ハイサイドスイッチをPNPバイポーラトランジスタで構成するとともに、接地側電源スイッチもPNPバイポーラトランジスタで構成した例を示している。
【0034】
図6(A)においては、ハイサイドスイッチであるPNPバイポーラトランジスタQ200のエミッタには入力電圧Vinが供給されているとともに、コレクタが、一端が接地された負荷410の他端と接続され、ハイサイドスイッチであるPNPバイポーラトランジスタQ200のベースは抵抗RBPの一端と接続され、抵抗RBPの他端は接地側電源スイッチであるPNPバイポーラトランジスタQ400のエミッタと接続されている。接地側電源スイッチであるPNPバイポーラトランジスタQ400のコレクタは接地されているとともに、その一端が外部のコントローラからの電源コントロール信号を受ける抵抗RDの他端と接続されているとともに、接地側電源スイッチであるPNPバイポーラトランジスタQ400のベースは、一端に電源コントロール信号が供給される抵抗RBNの他端と接続されている。
【0035】
図6(A)においては、電源スイッチ回路において、ハイサイドスイッチQ200が故障してショートした場合に流れる電流経路IRが図示されている。すなわち、電源から供給された入力電圧VinによりハイサイドスイッチであるPNPバイポーラトランジスタQ200のエミッタ・ベース間に電流が流れるとともに、負荷電流Iloadが負荷410へ流れる。そして、ハイサイドのPNPバイポーラトランジスタQ200には入力電圧Vinと略同等の電圧が印加される。
【0036】
そして、抵抗RBPには許容電流値以上の電流が流れ、接地側電源スイッチであるPNPバイポーラトランジスタQ400のエミッタ・ベース間に電流が流れることで、PNPバイポーラトランジスタQ200が破壊してしまう。そして、最悪の場合には、コントローラ側にこの過電流が流れることにより電源スイッチ回路外のコントローラを破壊してしまう場合がある。
【0037】
図6(B)においては、ハイサイドスイッチであるPNPバイポーラトランジスタQ200のエミッタには入力電圧Vinが供給されているとともに、コレクタが、一端が接地された負荷410の他端と接続され、ハイサイドスイッチであるPNPバイポーラトランジスタQ200のベースは抵抗RBPの一端と接続され、抵抗RBPの他端は接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM100のソースと接続されている。そして、接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM100のドレインは接地されているとともに、そのゲートには電源コントロール信号が供給されている。
【0038】
図6(B)においては、電源スイッチ回路において、ハイサイドスイッチQ200が故障してショートした場合に流れる電流経路IRが図示されている。すなわち、図6(A)と同様に、電源から供給された入力電圧VinによりハイサイドスイッチであるPNPバイポーラトランジスタQ200のエミッタ・ベース間に電流が流れるとともに、負荷電流Iloadが負荷410へ流れる。そして、ハイサイドスイッチであるのPNPバイポーラトランジスタQ200には入力電圧Vinと略同等の電圧が印加される。そして、抵抗RBPには許容電流値以上の電流が流れ、接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM100のドレイン・ゲート間に電流が流れることで、NMOSトランジスタM100が破壊してしまう。そして、最悪の場合には、コントローラ側にこの過電流が流れることによって、コントローラが破壊される場合もあり得る。
【0039】
ここで、図6(A),(B)には、ハイサイドスイッチとして使用するトランジスタがPNPバイポーラトランジスタである場合について説明したが、この場合、PNPバイポーラトランジスタQ200のベース電流を制御するのに一般に用いられる抵抗RBPが接続されているが、抵抗値は一般的に100Ω程度であるため、抵抗が接続されていてもPNPバイポーラトランジスタQ200は破壊されやすくなってしまう。
【0040】
図6(C)においては、ハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM200のソースには入力電源Vinが供給されているとともに、ドレインが、一端が接地された負荷410の他端と接続され、ハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM200のソースには入力電圧Vinが供給されているとともに、そのゲートとソースとの間に抵抗RUが設けられ、抵抗RUの一端およびハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM200のゲートと、そのソースが接続された接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM100が接続され、制御用電源スイッチであるNMOSトランジスタM100のドレインは接地されているとともに、ゲートには電源コントロール信号が供給されている。
【0041】
図6(C)においては、電源スイッチ回路において、ハイサイドスイッチM200が故障してショートした場合に流れる電流経路IRが図示されている。すなわち、電源から供給された入力電圧VinによりハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM200のソース・ゲート間に電流が流れるとともに、負荷電流Iloadが負荷410へ流れる。
【0042】
そして、ハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM200には入力電圧Vinと略同等の電圧が印加される。そして、抵抗RBPには許容電流値以上の電流が流れ、接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM100のドレイン・ゲート間に電流が流れることで、接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM100が破壊してしまう。そして、最悪の場合には、コントローラ側にこの過電流が流れることによって、コントローラが破壊される場合もあり得る。
【0043】
このように、電源スイッチ回路においては、通常動作時には、ハイサイドスイッチがオン・オフ制御されることによって、電源からハイサイドスイッチおよび接地側電源スイッチを介して接地側に電流が流れるように構成されている。しかしながら、ハイサイドスイッチが故障してショートした場合、接地側電源スイッチも破壊され、電源コントロール信号に入力電源が重畳され、電源スイッチ回路外のコントローラの破壊につながる場合がある。コントローラの破壊は、システム全体の故障につながる。
【0044】
本発明は、ハイサイドスイッチとして用いるトランジスタが故障してショートしたときでも、故障箇所の影響を最低限にし、システム全体への影響を最小限にする電源スイッチ回路を実現したものであり、以下、具体的に説明する。
【0045】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の電源スイッチ回路の一例の回路図である。
【0046】
(基本構成)
本発明の電源スイッチ回路300は、図1に示すように、ハイサイドスイッチHSWであるPMOSトランジスタM1と、接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM2とを有する。ここで、ハイサイドスイッチHSWであるPMOSトランジスタM1は高耐圧トランジスタであって、接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM2は低耐圧トランジスタが選択される。NMOSトランジスタM2のゲートは、例えば、1.8V〜3.3V程度の駆動信号によって駆動される。
【0047】
ハイサイドスイッチHSWとして用いるPMOSトランジスタM1のソースは電源回路100および抵抗RUの一端と接続されており、ドレインは、一端が接地された負荷400の他端と接続されている。
【0048】
そして、ハイサイドスイッチHSWであるPMOSトランジスタM1のゲートには、抵抗RGの一端が接続されており、抵抗RGの他端は抵抗RUの他端と接続されている。
【0049】
そして、抵抗RGの他端および抵抗RUの他端には抵抗RLの一端が接続されているとともに、抵抗RLの他端には接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM2のソースが接続されており、接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM2のドレインは接地されているとともに、ゲートは電源コントローラ200と接続されている。
【0050】
上述のとおり、ハイサイドスイッチHSWを構成するPMOSトランジスタM1のソースとゲート間には、抵抗RUと抵抗RGが接続されている。抵抗RUは、通常動作時に使用される電流パスを形成する第1の抵抗である。また、抵抗RGは、ショート故障発生時の電流を制限するための第2の抵抗である。
【0051】
第1の抵抗RUは、一つの抵抗で形成してもよく、複数の抵抗を用いて形成することもできる。同様に、第2の抵抗RGは、一つの抵抗で形成してもよく、複数の抵抗を用いて形成することもできる。
【0052】
第1の抵抗RUと第2の抵抗RGの共通接続点には、第3の抵抗である抵抗RLの一端が接続さている。この第3の抵抗RLは、通常動作時においては電流パスを構成すると共に、ショート故障時には、接地側のNMOSトランジスタM2に流れる電流の電流量をさらに制限し、NMOSトランジスタM2が、連続して流すことができる電流の上限値を決して超えないように電流制限を行う。
【0053】
本実施形態では、ハイサイドスイッチHSWとして、PMOSトランジスタM1を用いる。バイポーラトランジスタでは、ベース電流を流す必要があることから、ショート時に流れる電流を制限するための抵抗RGの抵抗値を大きくすることができないからである。MOSトランジスタM1の場合、ゲート電流が流れないため、抵抗RGの抵抗値を大きく設定することができ、これによって、十分な電流制限効果を得ることができる。
【0054】
(通常動作時の動作)
【0055】
通常動作においては、電源回路100から入力電圧Vinが供給され、図1の実線の矢印で示される電流経路I1のように、抵抗RUおよび抵抗RLを介して接地側電源スイッチNMOSトランジスタM2のソースに電流が流れ込み、電源コントローラ200から供給される電源コントロール信号によりこの接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM2のゲート電位が制御されて、NMOSトランジスタM2のオン/オフを制御している。
【0056】
通常動作時においては、抵抗RUおよび抵抗RLは、電流I1を引く電流パスを構成する。また、抵抗RUおよびRGは、MOSトランジスタM1のゲート電位を高めて、ソース・ゲート間の電圧を緩和する作用があり、これによって、MOSトランジスタのゲート絶縁膜の破壊が生じにくくしている(この点については後述する)。
【0057】
(ショート故障時の動作)
次に、ショート故障時の動作について説明する。ショート故障時においては、図1における点線の矢印で示すように電流I2が流れる。すなわち、電源回路100から規定値以上の電圧が電源スイッチ回路300に供給されると、ハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM1のソース・ゲート間に電流が流れるとともに、負荷400への負荷電流Iloadが流れる。
【0058】
ここで、ハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM1は高耐圧トランジスタであるため、たとえショート不良が生じても、抵抗値の大きな抵抗RGを電流が流れることで電流値が低減された後、抵抗RLにこの制限された電流が流れることでさらに電流値が制限される。低耐圧トランジスタである接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM2のソースに流れる電流量は、常に、NMOSトランジスタM2が継続的に流すことができる最大電流値を超えないように抑制される、よって、NMOSトランジスタM2が破壊されることがなく、システムに与える影響も最小限化される。
【0059】
ハイサイドスイッチHSWであるPMOSトランジスタM1は、ショート故障時においては、オン/オフのスイッチングはできないものの、負荷400への給電を継続することはでき、システムへの悪影響も最小限に抑えられる。
【0060】
(ハイサイドスイッチのゲート酸化膜の劣化防止について)
次に、ハイサイドスイッチHSWであるPMOSトランジスタM1の故障を未然に防止する効果について説明する。
【0061】
通常動作時の、ハイサイドスイッチHSWであるPMOSトランジスタM1のゲート電位VGPは式(1)で示される。
VGP=VIN・RU/(RU+RG)・・・・(式1)
【0062】
前述した図6(C)のハイサイドスイッチにおいては、通常動作時のゲート・ソース間電圧は入力電圧Vinと略等しいと説明したが、図1のハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM1においては、式1に示すように、ゲート電位VGPは入力電圧Vinよりも低くなる。一般に、ハイサイドスイッチを構成するPMOSトランジスタM1のゲート・ソース間電圧が高いと、ゲート酸化膜の劣化は加速されて故障の原因となるが、図1におけるハイサイドスイッチにおいてはゲート・ソース間電圧を低くすることが可能となるため、故障(ゲート酸化膜の破壊)が発生しにくくなる。
【0063】
(ショート故障時における電流制限についての考察)
次に、ハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM1が故障してショートした場合の接地側電源スイッチに流れる電流について具体的に考察する。ハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM1が故障した場合、接地側NMOSトランジスタM2は通常小信号用のトランジスタとして用いられている低耐圧トランジスタであるから、オン抵抗が他の抵抗よりも十分小さいと考え、入力電圧Vinを用いて、接地側NMOSトランジスタQ1のドレイン電流Iは、式(2)で表される。
I=Vin/[{(RU・RG)/(RU+RG)}+RL]・・・(式2)
【0064】
ここで、接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM2に定常的に流すことができる電流は最大100mA程度であり、式2における各抵抗RU、RG、RLを数kΩ程度に設定することにより、ハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM1がショートしたときに流れる電流を数mA程度に抑えることができるので、システム全体の破壊を防ぐことができる。
【0065】
例えば、抵抗RUは4.7kΩ程度、抵抗RGは1.5kΩ程度、抵抗RLは1.5kΩ程度にすることができる。
【0066】
このように、図1の構成の本発明の電源スイッチ回路においては、ハイサイドスイッチが故障しても、電源回路が電流を流し続けることで、電源スイッチ回路自体の動作が停止することなく継続的に動作させることができる。
【0067】
すなわち、例えば、本発明の電源スイッチ回路を用いた計器表示用のディスプレイでは表示を継続し、システムをダウンさせないようにすることができる。
【0068】
(第2の実施形態)
図2は、本発明の第2の実施形態にかかる電源スイッチ回路の回路図である。
【0069】
図2において、電源スイッチ回路300は、ハイサイドスイッチHSWであるPMOSトランジスタM1と、接地側電源スイッチであるNPNバイポーラトランジスタQ1とを有する。ここで、ハイサイドスイッチHSWであるPMOSトランジスタM1は高耐圧トランジスタであり、接地側電源スイッチであるNPNバイポーラトランジスタとしては低耐圧バイポーラトランジスタQ1が用いられる。バイポーラトランジスタQ1のベース・エミッタ間には抵抗R2が接続される。また、バイポーラトランジスタQ1のベースと電源コントローラ200との間には抵抗R1が設けられる。
【0070】
図2の場合、接地側のトランジスタがバイポーラトランジスタQ1となっている点の他は、図1と同じである。図2の電源スイッチ回路を集積化する場合は、バイポーラ・CMOS混在ICを用いる。
【0071】
ここで、第1実施の形態と同様に、接地側電源スイッチであるNPNバイポーラトランジスタQ1に定常的に流すことができる電流は最大100mA程度であり、各抵抗RU、RG、RLを数kΩ程度に設定することにより、ハイサイドスイッチであるPMOSトランジスタM1がショートしたときに流れる電流を数mA程度に抑えることができるので、システム全体の破壊を防ぐことができる。
【0072】
例えば、抵抗RUは4.7kΩ程度、抵抗RGは1.5kΩ程度、抵抗RLは1.5kΩ程度にすることができる。
【0073】
このように、図2の構成の本発明の電源スイッチ回路においては、ハイサイドスイッチが故障しても、電源回路が電流を流し続けることで、電源スイッチ回路自体の動作が停止することなく継続的に動作させることができる。すなわち、例えば、本発明の電源スイッチ回路を用いた計器表示用のディスプレイでは表示を継続し、システムダウンさせないようにすることができる。
【0074】
(第3の実施形態)
次に、本発明の電源スイッチ回路の応用例について説明する。図3(A)〜図3(C)は、本発明の電源スイッチ回路の実現態様の例を示す図である。
【0075】
図3(A)は本発明の電源スイッチ回路300をディスクリート部品で形成した例(回路基板上に個別部品を載置して回路を作成した例)であり、図3(B)は本発明の電源スイッチ回路300をIC化した例であり、図3(C)は本発明の電源スイッチ回路300をIC化するとともに電源回路(IC)とともに搭載したモジュールにした場合の例である。いずれの集積化方法によっても、本発明の電源スイッチ回路は実現することができる。
【0076】
(第4実施形態)
次に、本発明の電源スイッチ回路を液晶ELパネルモジュールに適用した例について説明する。図4は、本発明の電源スイッチ回路を用いた計器表示用電源回路基板の構成図である。
【0077】
本発明の計器表示用電源回路基板700においては、電源回路100と、電源コントローラ200と、本発明の電源スイッチ回路300と、計器表示手段600である有機ELパネルEPとを有する。
【0078】
有機ELパネルEPは、ワード線WLとデータ線DLとの交点に接続された画素Gを有する。画素Gは、ゲートがワード線WLと接続され、ソースがデータ線DLと接続されたスイッチング素子としてのNMOSトランジスタMXと、アノードが電源と接続されたダイオードD1と、NMOSトランジスタMX1のドレインとゲートが接続され、ソースがダイオードD1のカソードと接続されたNMOSトランジスタMYと、NMOSトランジスタMXのドレインと接続されるとともに、NMOSトランジスタMYのゲートドレイン間に接続された保持容量C1と、を有する。
【0079】
計器表示手段600としての有機ELパネルEPは、電源スイッチ回路300と接続された負荷であって、ハイサイドスイッチHSWとしてのPMOSトランジスタM1のドレインがその入力と接続されている。
【0080】
通常動作時には、電源回路100に電源が投入されることによって、抵抗RU,RLおよびゲート電位が電源コントローラ200からの電源コントロール信号により制御される接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM2を介して接地側に流れるとともに、ハイサイドスイッチHSWとしてのPMOSトランジスタM1のドレインからのドレイン電流が計器表示手段600の有機ELパネルEPに供給され、画素が表示される。
【0081】
一方、故障動作時には、電源回路100に電源が投入されると、ハイサイドスイッチHSWとしてのPMOSトランジスタM1のソース・ゲート間に電流が流れるとともに、負荷である計器表示手段600としての有機ELパネルの入力へ電流を供給して、画素への表示を継続的に行う。そして、ハイサイドスイッチHSWにおけるPMOSトランジスタM1のゲート電位を抵抗RGと抵抗RLで分圧して、接地側電源スイッチであるNMOSトランジスタM2のソース電位を小さくして、電源コントローラ200により制御された電源コントロール信号によってNMOSトランジスタM2の動作を制御しながら電流を接地側へ流している。
【0082】
有機ELパネルは自発光素子を用いたパネルであるため、比較的大きな駆動電流を常に流し続ける必要がある。本発明の電源スイッチを用いると、ハイサイドロードスイッチにショート不良が生じた場合でも、必要最小限度の給電は継続することができ、計器表示器の表示がオフになるような事態が発生しない。また、ハイサイドスイッチが故障しても、電源コントローラに悪影響を及ぼすことがなく、重大な事態が生じない。
【0083】
第4実施形態においては、本発明の電源スイッチ回路として、図1の電源スイッチ回路を用いたが、図2の電源スイッチ回路を用いることもできる。
【0084】
(計器表示パネルの例)
図5は、本発明の計器表示装置の外観例を示す図である。図5の計器表示装置702は、有機ELのメイン表示部600と、8セグメント表示部620からなる。本発明の計器表示装置702においては、電源スイッチ回路が部分的に故障しても、電流は継続的に流れているから、メイン表示部600と8セグメント表示部620に対しても継続的な電流が流れ、計器表示がオフすることがない。
【0085】
なお、本実施形態について詳述したが、本発明の新規事項および効果から逸脱しない範囲で、多くの変形が可能であることは、当業者には容易に理解できるであろう。したがって、このような変形例は、すべて本発明に含まれるものとする。
【0086】
以上説明したように、本発明の少なくとも一つの実施態様によれば、ハイサイドスイッチが故障しても電源スイッチ回路に電流を継続的に流し、一方で周辺回路に及ぼす影響を最小限化することができる。
【0087】
また、本発明の少なくとも一つの他の態様では、ハイサイドスイッチを構成するMOSトランジスタのゲート酸化膜の破壊の危険性を低減して故障率を低減することができる。
【0088】
本発明は、ショート故障が生じても影響を最小限化しつつ給電を継続できるという効果を奏し、したがって、電源スイッチ回路、電源スイッチを含む電気光学装置および計器表示器として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の一実施形態の電源スイッチ回路の回路構成を示す図
【図2】本発明の他の実施形態における回路構成を示す図
【図3】図3(A)〜図3(C)は、電源スイッチ回路の実現態様を示す図
【図4】本発明の電源スイッチ回路を用いた計器表示用回路基板の構成図
【図5】本発明の電源スイッチ回路を用いた計器表示装置の外観を示す図
【図6】図6(A)〜図6(C)は、本発明前に本願発明者によって検討された電源スイッチ回路の回路構成を示す図
【符号の説明】
【0090】
100 電源回路、200 電源コントローラ、300 電源スイッチ回路、
400 負荷、M1 PMOSトランジスタ、M2 NMOSトランジスタ、
RU,RG,RL 抵抗、I1 電流経路、I2 電流経路、Vin 入力電圧、
HSW ハイサイドスイッチ、R1,R2 抵抗、
Q1 NPNバイポーラトランジスタ、Iload 負荷電流、500 電源IC、
600 計器表示手段、700 モジュール、EP 有機ELパネル、DL データ線、
WL ワード線、MX NMOSトランジスタ、MY NMOSトランジスタ、
C1 容量、G 画素回路、D1 ダイオード、600 有機ELのメイン表示部、
620 8セグメント表示部、Q200、Q400 PNPバイポーラトランジスタ、
RBP,RBN,RD,RU 抵抗、M100 NMOSトランジスタ、
M200 PMOSトランジスタ、IR 電流経路、410 負荷、Vin 入力電圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MOSトランジスタを用いたハイサイドスイッチと、前記ハイサイドスイッチとしての前記MOSトランジスタをスイッチングする駆動用トランジスタと、を有する電源スイッチ回路であって、
前記MOSトランジスタのソースとゲート間に接続される第1の抵抗および第2の抵抗と、
前記第1および第2の抵抗の共通接続端に一端が接続され、他端が前記駆動用トランジスタの一端に接続される第3の抵抗と、
を有することを特徴とする電源スイッチ回路。
【請求項2】
請求項1記載の電源スイッチ回路であって、
前記ハイサイドスイッチとしての前記MOSトランジスタにショート故障が生じた場合、前記第2の抵抗および前記第3の抵抗によって、前記駆動用トランジスタに流れる電流の電流量が前記駆動用トランジスタが連続して流すことが可能な最大電流値を超えないように電流制限がなされることを特徴とする電源スイッチ回路。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の電源スイッチ回路であって、
前記ハイサイドスイッチとしての前記MOSトランジスタは、PMOSトランジスタであることを特徴とする電源スイッチ回路。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電源スイッチ回路であって、
前記駆動用トランジスタは、NMOSトランジスタであることを特徴とする電源スイッチ回路。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電源スイッチ回路であって、
前記駆動用トランジスタは、NPNバイポーラトランジスタであることを特徴とする電源スイッチ回路。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電源スイッチ回路は、モノリシックIC化されていることを特徴とする電源スイッチ回路。
【請求項7】
請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電源スイッチ回路は、前記電源スイッチ回路に電源電圧を供給する電源回路と共にモノリシックIC化されていることを特徴とする電源スイッチ回路。
【請求項8】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の電源スイッチ回路を含むことを特徴とする電気光学装置。
【請求項9】
請求項1〜請求項7のいずれかに記載の電源スイッチ回路を含むことを特徴とする計器表示器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−55549(P2009−55549A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222726(P2007−222726)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】