説明

電磁コイル

【課題】寸法精度の高い電磁コイルを提供すること。
【解決手段】電磁コイルは、素線を束ねた導体1の周囲に絶縁層2を形成し、その外側に半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂3を配置したのちに、所望寸法になるように調整された部材4A,4B,5A,5Bを用いて、熱を加えながら加圧することにより作製されるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機などに適用される電磁コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば回転電機の固定子コイルとして使用される電磁コイルは、含浸方式、液圧モールド方式、あるいはホットプレスモールド方式を用いて、1本ずつ作製される。電磁コイルの作製方法としては、エナメル線やガラス巻き線などの素線を束ねた導体の周囲に、マイカテープを巻き回してなるマイカ絶縁層を形成し、さらにその外側に半導電性のテープを巻きつけた後に、金型や当て板などを当てて圧力と熱を加えることにより電磁コイルを作製する方法が知られている(例えば、特許文献1)。また、エナメル線やガラス巻き線などの素線を束ねた導体の周囲に、マイカテープを巻き回してなるマイカ絶縁層を形成し、金型や当て板などを当てて圧力と熱を加えて絶縁層を形成し、さらにその外側に半導電性のペイントを塗るあるいはペイントを塗りながらガラステープを巻きつけるなどして作製する方法もある。こうした電磁コイルの作製においては、絶縁破壊強度を高めるため、絶縁層に圧力をかけて、できるだけ圧縮した状態にすることにより、絶縁層中の樹脂量を減らし、電気絶縁性の高いコイル絶縁を形成させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3550071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電磁コイルを圧縮すると、絶縁層の厚みにばらつきが生じ、電磁コイルを固定子スロットに入れた際に該スロットとの間に隙間ができる。この問題を解決するためには、例えばサイドスペーサやリップルスプリングなどを用いて、コイルを固定させなければない。また、サイドスペーサやリップルスプリングなどを用いたとしても、隙間は完全には埋めることができないため、熱伝達が悪く、コイルの冷却性能を高めることが難しくなる。
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、寸法精度の高い電磁コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様による電磁コイルは、素線を束ねた導体と、前記導体の周囲に形成された絶縁層と、前記導体に対する前記絶縁層の厚みのばらつきを解消するための箇所に形成された熱可塑性樹脂とを有し、前記熱可塑性樹脂は該箇所に配置され、所望寸法となるように調整された部材を用いて、熱を加えながら加圧することにより作製されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、寸法精度の高い電磁コイルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る電磁コイルの作製における加熱加圧成形工程の一例を示す断面図。
【図2】同実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図。
【図3】本発明の第2の実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る電磁コイルの作製における加熱加圧成形工程の一例を示す断面図。
【図5】同実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図。
【図6】本発明の第4の実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図。
【図7】本発明の第5の実施形態に係る電磁コイルの作製における加熱加圧成形工程の一例を示す断面図。
【図8】同実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図。
【図9】本発明の第6の実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図。
【図10】本発明の第7の実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図。
【図11】本発明の第8の実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図。
【図12】本発明の第9の実施形態に係る回転電機の固定子スロットに複数の電磁コイルを組み込んだ様子を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
最初に、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施形態について説明する。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る電磁コイルの作製における加熱加圧成形工程の一例を示す断面図である。図2は、同実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図である。当該電磁コイルは、例えば回転電機の固定子コイルとして、スロットに挿入されて使用されるものであり、含浸方式、液圧モールド方式、あるいはホットプレスモールド方式を用いて、1本ずつ作製される。以下の説明では、電磁コイルを単に「コイル」と称すものとする。
【0012】
第1の実施形態に係るコイルは、エナメル線やガラス巻き線などの素線を束ねた導体1の周囲に、マイカエポキシなどを含むマイカテープを巻き回してなる絶縁層2を形成し、その外側に半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂3を配置したのちに、当該コイルの横幅が所望寸法になるように調整されたブロックや金型などの部材4A,4B,5A,5Bを用いて、熱を加えながら加圧(ホットプレス)することにより作製されるものである。
【0013】
導体1の形成においては、例えば、二重ガラス巻き線を積んで10×48mm程度の大きさにする。この場合、列間に不織布に樹脂を含ませたものを、挟み金型にて180℃で20分間加熱することにより、素線導体を形成する。
【0014】
上記導体1の形成後、絶縁層2の形成においては、例えば、導体1の周囲に、裏打ち材にガラスを用いたプリプレグマイカテープを巻き回し、幅広の面(左右の側面)に厚み3mmの鉄板を当て、幅狭の面(上面および下面)に厚み1.5mmのガラスエポキシ板を這わせる。そして、その周囲に熱収縮テープを巻きつけ、板を固定する。このようにして作製した未硬化のコイル(白コイル)を未架橋低分子ポリエチレンを用いた液圧モールド方式によって圧力をかけながら硬化させる。
【0015】
ここで、実際に硬化させたコイルの寸法をコイルの長手方向に沿って10点測定したところ、コイルの幅方向の平均厚みは25.3mmで、最大で±0.2mm程度のばらつきが確認された。なお、図1の例では、コイルの幅方向の厚みのばらつきにより、絶縁層2全体の断面形状が菱形になっている場合が例示されているが、そのほか、台形になる場合や、四方形であっても側面にいくつかの窪みがある場合もあり得る。
【0016】
上記絶縁層2の形成後、半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂3の配置においては、硬化したコイルの幅広の面(左右の側面)に、例えばプリプレグエポキシのシート、具体的には不織布に未硬化のエポキシ樹脂を浸みこませてプリプレグ化した0.25mm厚みのシートを這わせ、25.6mm幅のブロック4A,4Bでコイルを高さ方向に挟んだ状態で、幅広の2つの面を金型5A,5Bで熱を加えながらコイルを幅方向に10分間加圧する。硬化後は、必要に応じて余分にはみ出した樹脂の部分を削り取る。
【0017】
このようにして作製したコイルの幅方向の寸法精度は±0.05mm程度であり、ばらつきが小さいことが確認された。
【0018】
なお、ここでは、コイルの幅方向の厚みのばらつきを解消する手法を示したが、コイルの高さ方向の厚みのばらつきについても同様な手法を用いて解消することが可能である。
【0019】
また、半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂3の配置においては、エポキシ樹脂の代わりに、シリコン樹脂や、シリコンゴム、ウレタン、ポリエステル樹脂などを使用することができる。また、不織布に未硬化のエポキシ樹脂を浸みこませてプリプレグ化したシートの代わりに、熱可塑性の樹脂でできたシートを用いれば、硬化にかかる時間を短縮できるため、製造性を向上させることができる。熱可塑性の樹脂としては、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどを使用することができる。
【0020】
この第1の実施形態によれば、絶縁層2の厚みにばらつきが生じても、そのばらつきは半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂3により解消されることになるため、寸法精度の高いコイルを作製することができる。また、コイルをスロットに挿入する際の隙間を極力無くすことができるため、サイドスペーサやリップルスプリングなどを不要とすることが可能であり、熱伝達を高めることができ、コイルの冷却性能を向上させることができる。
【0021】
(第2の実施形態)
次に、図3を参照して、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0022】
なお、この第2の実施形態においては、図1および図2に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0023】
図3は、本発明の第2の実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図である。
【0024】
第2の実施形態に係るコイルは、エナメル線やガラス巻き線などの素線を束ねた導体1の周囲に、マイカエポキシなどを含むマイカテープを巻き回してなる絶縁層2を形成し、その外側に半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂3を配置したのちに、当該コイルの横幅が所望寸法になるように調整されたブロックや金型などの部材4A,4B,5A,5Bを用いて、熱を加えながら加圧(ホットプレス)し、さらにその周囲に半導電性を有するテープ、フィルム、もしくはペイントからなる表面抵抗率が数10から数MΩの半導電層6を形成することにより作製されるものである。尚、表面抵抗率は100Ωから1MΩの範囲がより好ましい。
【0025】
ところで、前述の第1の実施形態において作製したコイルをスロット内に配置した際に、導体1に高電圧をかけ、スロット鉄心をアース電位に取ると、絶縁層とスロットとの間にできた僅かな隙間で放電が発生する。そこで、この第2の実施形態では、例えば当該コイルの外周にカーボンをエポキシ樹脂中に分散させて、塗布し、乾燥後の表面抵抗率が数10から数MΩとなる半導電層6を形成することによって、絶縁表面とスロットとを同電位とし、放電を抑制する。なお、乾燥後の表面抵抗率が数MΩを超えると、絶縁表面とスロット間の電位差を十分に小さくできないため好ましくなく、また、数10Ω未満では、回転電機を動作させた際に回転子によって発生する磁場が錯交する際に半導電層内に渦電流が発生し損失を生むために好ましくない。このため、表面抵抗率は数10から数MΩの範囲内とする。
【0026】
なお、本実施形態では、半導電層6をホットプレス後に形成する場合を例示したが、ホットプレス前に形成するようにしてもよい。その場合、ホットプレス前に半導電性を有するテープもしくはフィルムを巻きつけて、そののちにホットプレスを行う。これにより、半導電層6をコイルに一体化させることができる。
【0027】
この第2の実施形態によれば、前述の第1の実施形態と同様の効果が得られるほか、半導電性を有するテープ、フィルム、もしくはペイントからなる半導電層6が形成されることから、コイルをスロット内に配置した際に生じ得る放電を抑制することが可能となる。
【0028】
(第3の実施形態)
次に、図4および図5を参照して、本発明の第3の実施形態について説明する。
【0029】
なお、この第3の実施形態においては、図1および図2に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0030】
図4は、本発明の第3の実施形態に係る電磁コイルの作製における加熱加圧成形工程の一例を示す断面図である。図5は、同実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図である。
【0031】
第3の実施形態に係るコイルは、エナメル線やガラス巻き線などの素線を束ねた導体1の周囲に、マイカエポキシなどを含むマイカテープを巻き回してなる絶縁層2を形成し、その外周に体積抵抗率が数10から数MΩcmの半導電性を有する半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂7を配置したのちに、当該コイルの横幅が所望寸法になるように調整されたブロックや金型などの部材4A,4B,5A,5Bを用いて、熱を加えながら加圧(ホットプレス)することにより作製されるものである。
【0032】
前述の第2の実施形態では、最外層に半導電性を有するテープ、フィルム、もしくはペイントによる半導電層6を形成することにより放電を抑制したが、この第3の実施形態では、代わりに、前述の第1の実施形態で説明したプリプレグエポキシもしくは熱可塑性樹脂の中にカーボンを含ませて半導電性にした半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂7を絶縁層2の周囲に形成する。これにより、最外層に半導電層6を追加形成する必要がなく、工程を短縮できる。なお、体積抵抗率を数10から数MΩcmの範囲内にしたのは、前述の第2の実施形態において表面抵抗率を数10から数MΩの範囲内にしたのと同様な理由による。尚、表面抵抗率は100Ωから1MΩの範囲がより好ましい。
【0033】
この第3の実施形態によれば、半導電性を有する半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂7が配置されることから、前述の第2の実施形態の場合と同様、コイルをスロット内に配置した際に生じ得る放電を抑制することが可能となる。また、前述の第2の実施形態の場合と比べ、最外層に半導電層を追加形成する必要がない分、工程数や工程時間を縮減することができる。
【0034】
(第4の実施形態)
次に、図6を参照して、本発明の第4の実施形態について説明する。
【0035】
なお、この第4の実施形態においては、図4および図5に示した第3の実施形態と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第3の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0036】
図6は、本発明の第4の実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図である。
【0037】
第4の実施形態に係るコイルは、エナメル線やガラス巻き線などの素線を束ねた導体1の周囲に、マイカエポキシなどを含むマイカテープを巻き回してなる絶縁層2を形成し、その外周に体積抵抗率が数10から数MΩcmの半導電性を有する半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂7を配置し、さらにその外側に半導電性を有するFRP8を配置したのちに、当該コイルの横幅が所望寸法になるように調整されたブロックや金型などの部材4A,4B,5A,5Bを用いて、熱を加えながら加圧(ホットプレス)することにより作製されるものである。
【0038】
FRP(繊維強化プラスチック)を使用するのは、コイルをスロットに挿入する際にコイル表面を保護するためである。前述の第1乃至第3の実施形態で説明したコイルは寸法精度が良く、スロットとの公差が極めて小さいため密着性は良いが、公差が小さいためにスロットへの挿入時にコイルの絶縁表面を傷つけやすい。そこで、FRPを這わせることによって、コイルの絶縁表面を保護することが可能となる。また、コイルをスロットによりスムーズに挿入することが可能となる。この場合、FRPの厚さは、例えば100〜200μmの範囲内とする。また、FRPは、例えばカーボンを含ませることにより半導電性を有するものとすることができる。なお、FRPの表面抵抗率を数10から数MΩの範囲内にしたのは、前述の第2の実施形態において表面抵抗率を数10から数MΩの範囲内にしたのと同様な理由による。尚、表面抵抗率は100Ωから1MΩの範囲がより好ましい。
【0039】
この第4の実施形態によれば、前述の第3の実施形態と同様の効果が得られるほか、半導電性を有するFRPが設けられることから、コイルをスロットに挿入する際にコイル表面を保護しつつ、スムーズに挿入することが可能となる。また、コイルをスロット内に配置した際に生じ得る放電をより効果的に抑制することが可能となる。
【0040】
(第5の実施形態)
次に、図7および図8を参照して、本発明の第5の実施形態について説明する。
【0041】
なお、この第5の実施形態においては、図4および図5に示した第3の実施形態と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第3の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0042】
図7は、本発明の第5の実施形態に係る電磁コイルの作製における加熱加圧成形工程の一例を示す断面図である。図8は、同実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図である。
【0043】
第5の実施形態に係るコイルは、エナメル線やガラス巻き線などの素線を束ねた導体1の周囲に、マイカエポキシなどを含むマイカテープを巻き回してなる絶縁層2を形成し、その外側に半導電性を有するテープからなる半導電層6を形成し、さらにその外側に体積抵抗率が数10から数MΩcmの半導電性を有する半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂7を配置したのちに、当該コイルの横幅が所望寸法になるように調整されたブロックや金型などの部材4A,4B,5A,5Bを用いて、熱を加えながら加圧(ホットプレス)することにより作製されるものである。
【0044】
前述の第3の実施形態では、半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂7が半導電性を有するため、最外層に半導電層6を追加形成する必要がなく、工程数や工程時間を縮減することができるという利点がある。しかしながら、プリプレグエポキシなどを用いた半導電性を有する半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂7と絶縁層2との密着性は悪いため、ホットプレスの際にコイルの幅方向と高さ方向とを同時に加圧するなどの工夫をしなければならない。密着性が悪いとその部分で放電が発生することになる。そこで、この第5の実施形態では、半導電性を有するテープからなる半導電層6を、絶縁層2が形成されたコイルの2つの側面、上面および下面に形成したのち、半導電性を有するプリプレグエポキシもしくは熱可塑性樹脂を、コイルの2つの側面にのみ配置する。
【0045】
この第5の実施形態によれば、前述の第3の実施形態と同様の効果が得られるほか、絶縁層2の周囲に半導電性を有するテープからなる半導電層6が形成されその外側に半導電性を有する半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂7が配置されることから、当該樹脂7の密着性を向上させることが可能となる。
【0046】
(第6の実施形態)
次に、図9を参照して、本発明の第6の実施形態について説明する。
【0047】
なお、この第6の実施形態においては、図1および図2に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0048】
図9は、本発明の第6の実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図である。
【0049】
第6の実施形態に係るコイルは、エナメル線やガラス巻き線などの素線を束ねた導体1の周囲に、マイカエポキシなどを含むマイカテープを巻き回してなる絶縁層2を形成し、その外周に熱伝導率が0.3W/m・K以上の半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂11を配置したのちに、当該コイルの横幅が所望寸法になるように調整されたブロックや金型などの部材4A,4B,5A,5Bを用いて、熱を加えながら加圧(ホットプレス)することにより作製されるものである。なお、上記半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂11は、さらに、体積抵抗率が数10から数MΩcmの半導電性を有するものであってもよい。尚、体積抵抗率は100Ωから1MΩの範囲がより好ましい。
【0050】
前述の第1の実施形態では、半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂3の熱伝導性が悪い場合、固定子鉄心との密着性を向上させても十分な冷却性が得られない。そこで、この第6の実施形態では、半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂の熱伝導率を0.3W/m・K以上にすることにより、冷却効率を向上させる。なお、0.3W/m・K未満では、通常の樹脂が持つ熱伝導率と差異がないことから、冷却効率が低下する。
【0051】
なお、半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂の熱伝導率を0.3W/m・K以上とする手法は、前述の第1乃至第5の実施形態で説明したいずれのコイルにも適用できるものである。
【0052】
この第6の実施形態によれば、前述の各実施形態と同様の効果が得られるほか、半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂の熱伝導率が0.3W/m・K以上であることから、冷却効率をより一層向上させることが可能となる。
【0053】
(第7の実施形態)
次に、図10を参照して、本発明の第7の実施形態について説明する。
【0054】
なお、この第7の実施形態においては、図1および図2に示した第1の実施形態と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第1の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0055】
図10は、本発明の第7の実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図である。
【0056】
第7の実施形態に係るコイルは、エナメル線やガラス巻き線などの素線を束ねた導体1の周囲に、マイカエポキシなどを含むマイカテープを巻き回してなる絶縁層2を形成し、その外側に半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂3を配置したのちに、当該コイルの横幅が所望寸法になるように調整されたブロックや金型などの部材4A,4B,5A,5Bを用いて、熱を加えながら加圧(ホットプレス)し、最外周に体積抵抗率が数10から数MΩcmの半導電性を有するゴム状弾性体(シリコンゴムなど)の層12を形成することにより作製されるものである。
【0057】
コイルの最外周に半導電性を有するゴム状弾性体12を形成することにより、スロットに対する固定力が発生する。これにより、回転電機を運転する際に発生する電磁力に対する抗力が生じ、振動が抑制される。また、上記ゴム状弾性体の熱伝導率が0.3W/m・K以上となるようにする。これにより、界面の熱伝達が向上する。
【0058】
このような半導電性を有するゴム状弾性体12は、前述の各実施形態で説明したコイルにも適用可能である。
【0059】
この第7の実施形態によれば、前述の各実施形態と同様の効果が得られるほか、コイルの最外周に半導電性を有するゴム状弾性体12が形成されていることから、スロットに対する固定力を発生させることができ、回転電機を運転する際に発生する電磁力に対する抗力を持たせることができ、さらに振動を抑制することが可能となる。
【0060】
(第8の実施形態)
次に、図11を参照して、本発明の第8の実施形態について説明する。
【0061】
なお、この第8の実施形態においては、図4および図5に示した第3の実施形態と共通する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。以下では、第3の実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0062】
図11は、本発明の第8の実施形態において作製した電磁コイルの一例を示す断面図である。
【0063】
第8の実施形態に係るコイルは、エナメル線やガラス巻き線などの素線を束ねた導体1の周囲に、マイカエポキシなどを含むマイカテープを巻き回してなる絶縁層2を形成し、その外周に体積抵抗率が数10から数MΩcmの半導電性を有する半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂7を配置したのちに、当該コイルの横幅が所望寸法になるように調整されたブロックや金型などの部材4A,4B,5A,5Bを用いて、熱を加えながら加圧(ホットプレス)し、コイルの最外周にダイヤモンドライクカーボンもしくはセラミックスの層13を形成することにより作製されるものである。
【0064】
前述の第4の実施形態では、コイルをスロットに挿入する際にコイルの絶縁表面が傷つかないように保護するために、FRPを形成したが、この第8の実施形態では、代わりに、コイルの最外周にダイヤモンドライクカーボンもしくはセラミックスをコーティングする。例えば、コイルの最外周にセラミックスをコーティングすれば、表面硬度を高めることができるので、絶縁表面を保護することができる。また、ダイヤモンドライクカーボンは、摩擦係数を大きく下げることができるため、挿入を容易にすることができる。また、前述の第7の実施形態で説明した体積抵抗率が数10から数MΩcmの半導電性を有するゴム状弾性体と、ダイヤモンドライクカーボンとを組み合わせることにより、固定力と挿入の容易性を共に持たせることも可能となる。
【0065】
なお、コイルの最外周にダイヤモンドライクカーボンもしくはセラミックスの層13を形成する手法は、前述の第1乃至第6の実施形態で説明したいずれのコイルにも適用できるものである。
【0066】
この第8の実施形態によれば、前述の各実施形態と同様の効果が得られるほか、コイルの最外周にダイヤモンドライクカーボンもしくはセラミックスの層13が形成されていることから、コイルをスロットに挿入する際の絶縁表面の保護性や挿入の容易性を向上させることが可能となる。
【0067】
(第9の実施形態)
次に、図12を参照して、本発明の第9の実施形態について説明する。
【0068】
図12は、本発明の第9の実施形態に係る回転電機の固定子スロットに複数の電磁コイルを組み込んだ様子を示す断面図である。
【0069】
回転電機100に備えられる固定子100Aのスロット100B内には、複数のコイルが層間部材10Aを介して配置され、トップリップルスプリング9を挟み、楔10Bにより固定されている。この場合のコイルは、前述の第1乃至第8の実施形態で説明したいずれのコイルであっても良いが、図12においては、図6に示した第4の実施形態のコイルが挿入された例が示されている。
【0070】
図12からわかるように、コイル幅の寸法は、スロット幅に対して精度よく作製することが必要とされる。前述の第1乃至第8の実施形態で説明したコイルはいずれも高い寸法精度を有するので、該コイルは回転電機100に備えられる固定子100Aのスロット100Bに精度良く挿入することができる。このため、コイルから固定子鉄心への熱伝達が向上し、冷却性を高めることができる。なお、高さ方向の寸法の多少のばらつきは、トップリップルスプリング9によって調整でき、また、冷却性に影響する要素ではないので、特に問題はない。
【0071】
この第9の実施形態によれば、高い寸法精度を有するコイルを回転電機100に備えられる固定子100Aのスロット100Bに精度良く挿入されるので、熱伝達を高めることができ、コイルの冷却性能を向上させることができ、結果的に、回転電機100の性能を一段と向上させることが可能となる。
【0072】
本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…導体、2…絶縁層、3…半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂、4…ブロック、5…金型、6…半導電層、7…半導電性を有する半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂、8…半導電性を有するFRP、9…トップリップルスプリング、10A…層間部材、10B…楔、11…熱伝導率が0.3W/m・K以上の半硬化の熱硬化性樹脂もしくは熱可塑性樹脂、12…半導電性を有するゴム状弾性体、13…ダイヤモンドライクカーボンもしくはセラミックスの層、100…回転電機、100A…固定子、100B…スロット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線を束ねた導体と、前記導体の周囲に形成された絶縁層と、前記導体に対する前記絶縁層の厚みのばらつきを解消するための箇所に形成された熱可塑性樹脂とを有し、前記熱可塑性樹脂は該箇所に配置され、所望寸法となるように調整された部材を用いて、熱を加えながら加圧することにより作製されたことを特徴とする電磁コイル。
【請求項2】
素線を束ねた導体と、前記導体の周囲に形成された絶縁層と、前記導体に対する前記絶縁層の厚みのばらつきを解消するための箇所に形成された熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂が形成された前記絶縁層の周囲に形成された半導電性を有するテープ、フィルム、もしくはペイントからなる半導電層とを有し、前記熱可塑性樹脂は前記箇所に配置され、所望寸法となるように調整された部材を用いて、熱を加えながら加圧することにより作製されたことを特徴とする電磁コイル。
【請求項3】
素線を束ねた導体と、前記導体の周囲に形成された絶縁層と、前記導体に対する前記絶縁層の厚みのばらつきを解消するための箇所に形成された半導電性を有する熱可塑性樹脂とを有し、前記熱可塑性樹脂は該箇所に配置され、所望寸法となるように調整された部材を用いて、熱を加えながら加圧することにより作製されたことを特徴とする電磁コイル。
【請求項4】
素線を束ねた導体と、前記導体の周囲に形成された絶縁層と、前記導体に対する前記絶縁層の厚みのばらつきを解消するための箇所に形成された半導電性を有する熱可塑性樹脂と、前記熱可塑性樹脂が形成された前記絶縁層の周囲に形成された半導電性を有するFRPとを有し、前記熱可塑性樹脂は前記箇所に配置され、所望寸法となるように調整された部材を用いて、熱を加えながら加圧することにより作製されたことを特徴とする電磁コイル。
【請求項5】
素線を束ねた導体と、前記導体の周囲に形成された絶縁層と、前記絶縁層の周囲に形成された半導電性を有するテープからなる半導電層と、前記半導電層上で前記導体に対する前記絶縁層の厚みのばらつきを解消するための箇所に形成された熱可塑性樹脂とを有し、前記熱可塑性樹脂は該箇所に配置され、所望寸法となるように調整された部材を用いて、熱を加えながら加圧することにより作製されたことを特徴とする電磁コイル。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電磁コイルを用いたことを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−279130(P2010−279130A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−127889(P2009−127889)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】