説明

電磁波吸収体シートの製造方法

【課題】コスト面、環境面での課題を解決すると共に、均一で柔軟性に優れ、DVDドライブの光ピックアップ部等の配線に使用されるフレキシブルプリント配線基板(FPC)のような繰り返し変形及び大きな屈曲を受ける部位に好適に使用できる電磁波吸収体シートを容易かつ確実に得ることができる電磁波吸収体シートの製造方法を提供する。
【解決手段】液状硬化性樹脂と軟磁性粉末とを含有する硬化性樹脂組成物を一対のロール間に供給し圧延してシート状に成形する電磁波吸収体シートの製造方法であって、上記一対のロール間に一対のフィルム状基材を繰り込むと共に、該フィルム状基材間に予め又は前記繰り込み時に上記硬化性樹脂組成物を供給して、前記フィルム状基材間で前記硬化性樹脂組成物をシート状に圧延成形した後、硬化させて、上記フィルム状基材間にシート状の電磁波吸収体を成形する電磁波吸収体シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気・電子機器等から放出される電磁波の遮断に使用する電磁波吸収体シートの製造方法に関する。更に詳述すれば、柔軟性に優れ、各種電子機器の可動配線部等に多用されるフレキシブルプリント配線基板(FPC)等の大きな屈曲と繰り返し変形を受ける部材や部位に好適に使用できる電磁波吸収体シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、我々の身の回りにはパーソナルコンピュータや携帯電話、無線LAN等の情報関連機器を始めとする各種電子機器及び多様な家電製品が広く普及し、その周辺にはこれらの機器等から電磁波が放出され続けている。通常、これらの機器の大半はデジタル信号により動作しているため、放出される電磁波によって器機装置間でさまざまな干渉問題が発生し、誤動作を起こすことがある。また、パーソナルコンピュータや携帯電話等では、小型化が進められて携帯性が向上したことにより、これらを常に持ち歩くことがライフスタイルとして定着しつつあるが、現状ではこの電磁波が人体の健康に影響を及ぼす可能性は完全には払拭されていない。そのため、人体への影響に対する配慮、機器の動作の安定化及び精度向上のための電磁波対策が重要となっている。
【0003】
一般的な電磁波対策としては、電磁波を吸収する電磁波吸収体シートを機器内部の所定箇所に配置して、該電磁波を機器の外部に放出させないようにすることが行われる。この電磁波吸収体シートは、フェライトやセンダスト等の磁性粉末とポリマーとを混合した組成物をロール成形やプレス成形等によりシート状に加工する方法や、磁性粉末をポリマー及び溶剤中に分散させ、得られた溶液をバーコーターやブレードコーター等により基材上に塗布し、乾燥させる方法により製造されることが多い。
【0004】
例えば、前者の方法としては、液状ニトリルゴムとフェライト粉末を混練し、得られた混合ペーストをロール等によりシートに成形し、加硫する方法(特許文献1:特開昭58−184797号公報)や、ロール成形機で圧延した混練磁性物シートの両面をフィルム等で挟んでプレスする方法(特許文献2:特開2001−35709号公報)、ロールを用いて複合磁性シートを製造する方法(特許文献3:特開平10−80930号公報)等が開示されている。
【0005】
また、後者の方法としては、金属磁性粉末を樹脂及び溶剤中に分散した磁性塗料を剥離層を有する基材上に塗布し、乾燥させた後、乾燥した塗布膜を剥離して磁性シートを作製する製造方法(特許文献4:特開2000−244171号公報)や、導電・磁性フィラーを分散させた塗料を塗布・乾燥後に熱加圧成形を行いシートを作製する方法(特許文献5:特開2007−129179号公報)等が開示されている。なお、出願人は特開2008−109075号公報(特許文献6)において、バーコーターによる製造方法を提案している。
【0006】
このように、電磁波吸収体シートの製造に関して様々な技術が開示されているが、前者のロール等による方法では、磁性粉末をペースト状の粘度が高い樹脂に分散させて混練することから、薄く成形することが困難で十分な柔軟性を有するシートを得にくい。そのため、可動部品へのフレキシブルプリント配線基板、例えばシリアルプリンタの印刷ヘッドやDVDドライブ(特にノート型パソコン等に搭載されるウルトラスリムドライブ)の光ピックアップ部等に使用される配線、折り畳み型携帯電話のヒンジ部を通る配線、デジタルカメラのレンズ内の配線など、使用時に大きな屈曲及び繰り返し変形を受ける部位の配線に対しては、十分な追随性を確保することが困難であり、使用中に剥離してしまう懸念がある。また、これに対し、磁性粉末を液状の樹脂及び溶剤に分散して得られる溶液を塗布する方法では、バーコーター等でシートを薄く均一に形成できるため、柔軟性に富んだ電磁波吸収体シートを得ることができる。しかしながら、この方法では溶剤が使用されるため、シートの製造コストの増加を招くと共に、塗工後に溶剤の乾燥工程が必要であり、該工程から溶剤が周辺環境に拡散した場合には大気汚染等の環境問題を引き起こすことが懸念される。従って、これらの課題を解決する方策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭58−184797号公報
【特許文献2】特開2001−35709号公報
【特許文献3】特開平10−80930号公報
【特許文献4】特開2000−244171号公報
【特許文献5】特開2007−129179号公報
【特許文献6】特開2008−109075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、コスト面、環境面での課題を解決すると共に、均一で柔軟性に優れ、各種電子機器の可動配線部等に使用されるフレキシブルプリント配線基板のような繰り返し変形及び大きな屈曲を受ける部材や部位に好適に使用できる電磁波吸収体シートを容易かつ確実に得ることができる電磁波吸収体シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、液状硬化性樹脂と軟磁性粉末とを含む硬化性樹脂組成物を一対のフィルム状基材間に供給し、該硬化性樹脂組成物を該フィルム状基材と共にロール圧延した後、硬化させることにより、上記基材間に均一で柔軟性に優れるシート状の電磁波吸収体を容易かつ確実に成形することができ、該電磁波吸収体は、電子機器の可動部に使用されるフレキシブルプリント配線基板のような繰り返し変形及び大きな屈曲を受ける部材に対して優れた追随性を示し、更に使用中に剥離を生じることがないことを見出し、本発明に到達した。
【0010】
即ち、本発明は、液状硬化性樹脂と軟磁性粉末とを含有する硬化性樹脂組成物を一対のロール間に供給し圧延してシート状に成形する電磁波吸収体シートの製造方法であって、
上記一対のロール間に一対のフィルム状基材を繰り込むと共に、該フィルム状基材間に予め又は前記繰り込み時に上記硬化性樹脂組成物を供給して、前記フィルム状基材間で前記硬化性樹脂組成物をシート状に圧延成形した後、硬化させて、上記フィルム状基材間にシート状の電磁波吸収体を成形することを特徴とする電磁波吸収体シートの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電磁波吸収体シートの製造方法は、柔軟性に富み、耐屈曲性に優れるシート状の電磁波吸収体を容易かつ確実に得られるものであり、また、溶剤を必要としないため、コスト面及び環境面においても優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の電磁波吸収体シートの製造方法の一実施例を示す図であり、(A)は製造方法の説明図、(B)は該製造方法により得られる電磁波吸収体シートの構造を示す断面図である。
【図2】同製造方法において、フィルム状基材として剥離層と粘着剤層又は熱硬化型接着剤層とを積層したものを用いて製造した電磁波吸収体シートの構造を示す概略断面図である。
【図3】本発明の電磁波吸収体シートの製造方法の別の実施例を示す図であり、(A)は製造方法の説明図、(B)は該製造方法により得られる電磁波吸収体シートの構造を示す概略断面図である。
【図4】本発明の電磁波吸収体シートの製造方法の他の実施例を示す図であり、(A)は製造方法の説明図、(B)は該製造方法により得られる電磁波吸収体シートの構造を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態及び実施例】
【0013】
本発明の電磁波吸収体シートの製造方法は、所定間隔離間して平行に配置される一対のロール間に一対のフィルム状基材を繰り込むと共に、該基材間に硬化性樹脂組成物を供給して、前記フィルム状基材間で該硬化性樹脂組成物をシート状に圧延成形した後、硬化させて、上記フィルム状基材間にシート状の電磁波吸収体を成形するものである。
【0014】
以下、図面に示した具体例(実施例)に従って、本発明をより具体的に説明する。
図1は、本発明の電磁波吸収体シート1の製造方法の一例を示す概略図である。図1中の(A)は製造方法の概略を示し、(B)は該製造方法により得られる電磁波吸収体シート1の断面図である。図1に示した製造方法は、2本ロール機を用いた例であり、一対のロール4,4間に一対の帯状のフィルム状基材3,3を繰り込むと共に、該基材間に硬化性樹脂組成物2を供給ノズル5より供給して、前記フィルム状基材3,3間で該硬化性樹脂組成物2をシート状に圧延成形した後、硬化させて、上記フィルム状基材3,3間にシート状の電磁波吸収体2を連続的に成形するものである。
【0015】
まず、上記硬化性樹脂組成物2は、少なくとも液状硬化性樹脂と軟磁性粉末とを含む樹脂組成物である。該液状硬化性樹脂としては、公知のものを使用することができ、特に制限されるものではないが、シリコーン系、変成シリコーン系、アクリル系、ウレタン系、ポリイソブチレン系の非溶剤型の液状ポリマーを使用することができ、具体的には、加水分解性ケイ素を少なくとも1分子以上有するポリイソブチレン系樹脂(例えば、市販品として(株)カネカ製「エピオンSタイプ」)、加水分解性ケイ素を少なくとも1分子以上有するポリアクリル系樹脂、及び加水分解性ケイ素を少なくとも1分子以上有するポリオキシアルキレン系樹脂(例えば、市販品として(株)カネカ製「MSポリマーS810」)等を挙げることができる。本発明では特に加水分解性ケイ素を少なくとも1分子以上有するポリオキシアルキレン系樹脂を好適に用いることができる。
【0016】
軟磁性粉末としては、公知の磁性粉末を使用することができ、特に制限されるものではないが、具体的にはセンダスト、フェライト、鉄、ケイ素鋼、パーマロイ、パーメンジュール、アモルファス磁性合金等を使用することができ、本発明ではセンダストを好適に用いることができる。該軟磁性粉末の平均粒径は、シートの厚さより小さければよく、30〜100μm、好ましくは40〜90μmとされる。なお、本発明において平均粒径とは、レーザー回折法により測定された平均粒径D50を意味する。また、上記軟磁性粉末の粒子形状は特に制限されるものではないが、少量でもシートの全面を効率よく遮蔽でき、かつシートをより薄く成形する観点から、成形時に配向させやすい扁平形状、鱗片状等の形状を有するものを好適に用いることができる。上記軟磁性粉末の配合比率は40〜95質量%、好ましくは50〜90質量%とされる。配合比率が40質量%未満となる場合は、硬化性樹脂組成物2が樹脂成分過多となり、流動しやすく所定の厚みに調整することが困難となり、また、要求される電磁波吸収特性を達成することができないおそれがあり、一方95質量%を超えると硬化性樹脂組成物2の展延性が不足し、流動性が乏しくなるため、均一なシートに加工することが困難となり、また、得られるシート状の電磁波吸収体2が柔軟性に乏しいものとなるおそれがある。
【0017】
本発明では、上記硬化性樹脂組成物2に対して、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて、通常使用されている可塑剤、硬化剤(硬化触媒)、老化防止剤、酸化防止剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、分散剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0018】
可塑剤としては、公知のものを使用することができ、特に制限されないが、具体的にはポリアルキレン系、パラフィン系、ナフテン系、フタル酸エステル系、脂肪族2塩基酸エステル系、アクリル系、ポリアルキレングリコールエステル系、リン酸エステル系等の可塑剤を使用することができる。上記可塑剤の配合量は、上記液状硬化性樹脂100質量部に対して通常0〜100質量部、好ましくは1〜90質量部とされる。配合量が100質量部を超えると硬化性樹脂組成物層の内部から可塑剤成分が表面に移行(ブリード)してしまうおそれがある。
【0019】
上記の各成分を混合して硬化性樹脂組成物2を得る場合、上記各成分の配合方法に特に制限はなく、全ての成分原料を一度に配合して混練してもよいし、必要に応じて軟磁性粉末を2段階あるいは3段階に分けて配合するなどしてもよい。なお、上記硬化性樹脂組成物2に硬化剤(硬化触媒)を配合する場合は、フィルム状基材への塗布直前に配合することが好ましい。また、混練に際してはロール、プラネタリーミキサー、インターナルミキサー、バンバリーローター等の混練機を用いることができる。
【0020】
次に、一対のフィルム状基材3,3は、上記液状の硬化性樹脂組成物2を間に保持して、ロール成形性を向上させると共に、ロール圧延後に電磁波吸収体の形状を保持する役目を有するシート状の部材である。図1の例では、該フィルム状基材3の形状は帯状であり、特に図示していないが、ロール状に巻回されており、そこから公知のフィーダーにより送り出したり、上記ロール4,4の下流側に公知の引取り機を配置して上記フィルム状基材を引き出すようにすることにより、連続的にロール4,4間に繰り込むようになっている。なお、上記フィルム状基材3の形状は、製品仕様や生産方式等に応じて適宜選定することができ、特に制限されるものではなく、例えば、小ロット生産やバッチ生産を行う場合には枚葉状のものを用いることもできる。
【0021】
この場合、上記硬化性樹脂組成物2を枚葉状の基材3,3間に予め保持させておくこともでき、この基材/樹脂/基材の仮積層体を上記ロール4,4間に繰り込んで両基材間の樹脂を所望のシート状に圧延成形するようにしてもよい。
【0022】
上記フィルム状基材3の材質としては、上記硬化性樹脂組成物2を変質させることなく、かつ強度や耐熱性等の条件を満たす薄いシート状の素材であれば特に制限されず、半晒クラフト紙、上質紙、グラシン紙などの表面をシリコーン等の剥離処理剤で処理した剥離紙、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、ポリビニルクロライド(PVC)などからなる樹脂シート、及びアルミ合金、銅などからなる金属シート等を用いることができ、これらの中から1種又は2種を適宜選択して用いればよい。該フィルム状基材3の厚さは一般的には0.1mm程度のものが多く採用されるが、本発明においては0.01〜0.5mmとすることができ、好ましくは0.02〜0.2mmとされる。
【0023】
図1では、圧延用の2本のロール4,4のみを示したが、このロールは図3及び図4に示したように、必要に応じて3本目のロール、更には4本目のロールを使用することもできる。該ロール4には、通常、加熱機構が設けられており、圧延成形時に上記硬化性樹脂組成物2を加熱することができ、これにより硬化を進めることができる。なお、ロール4の加熱条件は、硬化性樹脂組成物2の配合や成形するシートの厚さ等により適宜設定される。また、ロール4による加熱で上記硬化性樹脂組成物2の硬化が不十分である場合は、必要に応じて加熱工程を後工程として追加して硬化を完了させるようにしてもよい。
【0024】
供給ノズル5は、上記フィルム状基材3,3間に硬化性樹脂組成物2を供給するものであり、図示していない公知の押出機、吐出ノズル等の硬化性樹脂組成物2の供給手段に接続され、連続的又は間歇的に硬化性樹脂組成物2を供給できるようになっている。
【0025】
図1に示した製造方法より得られる電磁波吸収体シート1は、一対のフィルム状基材3,3間に、シート状の電磁波吸収体2が成形されたものである。ここで、該電磁波吸収体2(硬化後の硬化性樹脂組成物)の厚さは、電磁波の遮断性能や使用する部位の形状等に応じて適宜調整され、特に制限されるものではないが、通常0.1〜2mmとされる。得られた帯状の電磁波吸収体シート1は、必要に応じてボビン等に巻き取られたり、所定のサイズに裁断した後、積重して保管される。
【0026】
上記の製造方法で得られた電磁波吸収体シート1をフレキシブルプリント配線基板等に貼り付ける場合は、一方のフィルム状基材3を剥がして、電磁波吸収体2自身の粘着力を利用したり、両面テープ、接着剤、加熱加圧等による公知の接着手段により、対象部位に貼り付ければよい。なお、他方のフィルム状基材3は、通常は電磁波吸収体2を対象部位に貼り付けた後に剥がされる。
【0027】
また、フィルム状基材3として、紙などの剥離層と粘着剤層又は熱硬化型接着剤層とを積層したもの、例えば、公知の両面テープ、剥離紙に公知の熱硬化型接着シート(例えば、市販品として東洋インキ製造(株)製「TSU4」等)を積層したもの、及び剥離紙に公知の熱硬化型接着剤を塗布したもの等を用い、その粘着剤層等と他方のフィルム状基材との間に上記シート状の電磁波吸収体を成形することもできる。これにより、使用時に電磁波吸収体2に両面テープを貼り合わせたり、接着剤を塗布したりする手間がなくなり、作業性を向上させることができる。
【0028】
なお、フィルム状基材3として、紙などの剥離層と粘着剤層又は熱硬化型接着剤層とを積層したもの(例えば、両面テープ)を用いる場合には、以下の問題を生じることがある。通常は図2(A)に示したように、フィルム状基材3は材料の使用効率の観点から両方とも同じ幅のものを用い、かつ両基材の両側端縁を一致させながらロール4,4間に繰り込む。しかしながら、上記フィルム状基材3,3は繰り込み時のテンションや上記ロール4,4のセッティング等により、常に一定の位置に繰り込まれることは少なく、幅方向に移動しやすい。該フィルム状基材3が幅方向に移動して、粘着剤層等を有するフィルム状基材の側縁部が他方のフィルム状基材よりも外側に延出して、上記粘着剤層等が一方のロール4表面に接触した場合、その粘着剤層等が瞬間的に抵抗となって急激なテンションの変化を生じ、圧延成形後のシートに皴を生じてしまうことがある。
【0029】
この場合、図2(B)に示したように、一対のフィルム状基材3,3を上記ロール4,4間に繰り込む際、両フィルム状基材3,3の両側端縁を完全に一致させずに、少なくとも一方の側端縁部は上記粘着剤層等を有するフィルム状基材を他方のフィルム状基材よりも外側へ延出させ、該粘着剤層等を最初から直接一方のロールに常時接触させるようにすることで、粘着剤層等を有するフィルム状基材3にかかる抵抗を一定に保つことができ、急激なテンションの変化に起因する皴の発生を防止することができる。なお、この方策は、上記粘着剤層又は熱硬化型接着剤層を有するフィルム状基材を使用する際の皴の発生を効果的に防止し得るものであるが、特に粘着剤層がロールに触れた瞬間により大きな抵抗を生じる両面テープ等である場合に、より大きな効果を発揮する。
【0030】
この粘着剤層又は熱硬化型接着剤層31を有する基材3’を他方の基材3から外側に延出させる方法は、図2(B)のように、両基材3,3’を互いに幅方向にずらして重ね合わせたり、または粘着剤層又は熱硬化型接着剤層31を有する基材3’を他方の基材3よりも幅広としてもよい。なお、粘着剤層又は熱硬化型接着剤層31を有する基材3’の両側縁部が他方の基材3の両側縁から延出するようにしてもよく、この場合も同様の効果を得ることができる。
【0031】
また、図1の製造方法において、一方又は両方のフィルム状基材3をアルミ箔膜シートや、水酸化アルミニウム等が配合された放熱シート等の導電性、放熱性等の付加的な機能を有する基材に替えることで、更なる機能の追加を図ることもできる。本発明においてこれらの基材は、電磁波吸収体シート1の使用部位や要求性能等に応じて適宜選択すればよい。この場合の電磁波吸収体シート1の使用方法は上記と同様であり、該シート1の構成に応じて電磁波吸収体2自身の粘着力を利用したり、両面テープ、接着剤、加熱加圧等による公知の接着手段を適宜採用して対象部位に貼り付けられるが、上記の付加的な機能を有する基材は、対象部位に貼り付けた後も電磁波吸収体2から剥がすことなく使用される。例えば、両方のフィルム状基材3が共に付加的な機能を有する基材である場合には、いずれの基材も電磁波吸収体2から剥がすことなく使用され、両面テープ等の接着手段により対象部位に貼り付けられる。
【0032】
そのほか、図1の製造方法において、一方のフィルム状基材3をフレキシブルプリント配線基板(FPC)に替えることで、該FPC上に電磁波吸収体を直接成形することも可能である。これにより、FPCと電磁波吸収体2との貼り合わせ作業が不要になるため、作業の効率化を図ることができる。更には、上記の付加的な機能を有する基材と組み合わせることもでき、例えば、一方のフィルム状基材3をFPCとし、他方のフィルム状基材3を放熱シートとすることで、FPCと放熱機能を備える電磁波吸収体とを一体化することも可能であり、電磁波吸収体シート1の使用部位や要求性能等に応じて、より一層の機能化及び効率化を図ることができる。
【0033】
図1では、本発明の製造方法の一例として、2本のロールを用いて一対のフィルム状基材3,3間でシート状の電磁波吸収体2を圧延成形する例を示したが、その構成は本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して差し支えない。
【0034】
例えば、図3に示したように、電磁波吸収体シート1を圧延成形する一対のロール4,4と、粘着剤組成物21を供給する一対の粘着剤組成物供給用ロール41,41の4本のロールを用いることにより、硬化性樹脂組成物2を供給する前に、一方のフィルム状基材3に予め粘着剤層を形成することができ、これにより粘着剤層21を備える電磁波吸収体シートを容易に製造することができる。この場合、上記粘着剤組成物21は、予め公知の手段により各成分を混練りしたものを供給しても、ロール41,41間に該粘着剤組成物21の原材料を供給して、該ロール41,41を用いて混練りするようにしてもよい。後者の場合、粘着剤組成物21の混練り工程と圧延成形工程を連続して行うことができ、より効率的な製造が可能となる。なお、ここでロール41,41間への粘着剤組成物21の供給方法は、製造する電磁波吸収体シートや装置の仕様等に応じて適宜選択すればよく、例えば、上述した公知の供給手段に接続された供給ノズル5’を設けるなどすればよい。
【0035】
この場合、フィルム状基材3としては、上記の紙、樹脂シート及び金属シート等から選ばれる1種又は2種のフィルム状基材を適宜使用することができる。また、硬化性樹脂組成物2に接するフィルム状基材3には、前記基材に加えて上記の付加的な機能を有する基材を用いて機能の追加を図ることもできる。更に、粘着剤組成物21に接するフィルム状基材3として上記FPCを用いることで、硬化性樹脂組成物とFPCとを粘着剤で貼り合わせたシートを直接作製することもできる。これにより、両者の貼り合わせ作業を省略することができ、作業の更なる効率化を図ることが可能となる。なお、ここで得られる電磁波吸収体シート1を使用する際は、該シートの構成に応じた使用方法を適宜採用すればよい。
【0036】
また、特に図示していないが、図3において、上記硬化性樹脂組成物2の供給位置をロール4,4間からロール41,41間に変更し、上記粘着剤組成物21をロール4,4間に供給する構成としても同様の構造の電磁波吸収体シート1を得ることができる。この場合、上記硬化性樹脂組成物2は、予め公知の手段により各成分を混練りしたものを供給しても、ロール41,41間に該硬化性樹脂組成物2の原材料を供給して、該ロール41,41を用いて混練りするようにしてもよい。後者の場合、硬化性樹脂組成物2の混練り工程と圧延成形工程を連続して行うことができ、より効率的な製造が可能となる。
【0037】
更に、図3において、上記粘着剤組成物21に替えて、放熱材料等の他の機能を付与する材料を供給することにより、より機能的な電磁波吸収体シート1を得ることもできる。
【0038】
また、特に図示していないが、図3において、ロール41,41間に放熱シートや両面粘着材等を中間層用基材として繰り込み、硬化性樹脂組成物層2と粘着剤組成物層21の層間に、図4(B)に示されるような中間層用基材を配した電磁波吸収体シートを製造することもできる。
【0039】
また、図4に示したように、3本のロールを用いて内部に中間層用基材32を配した電磁波吸収体シート1を成形することもできる。該中間層用基材32としては、公知のアルミ箔膜シートや、水酸化アルミニウム等が配合された放熱シート等を用いることができ、これらの機能材を電磁波吸収体シート1に積層することにより、機能を更に追加することができる。この場合、上記中間層用基材32は、上記の機能材を1種ずつ、あるいは2種以上を積層した複合機能シートとして用いることができる。
【0040】
[実験例1〜3,比較例1,2]
以下、実際の使用に供し、本発明の効果を確認する。
・硬化性樹脂組成物の調製
硬化性樹脂組成物は、表1に示すポリマー、可塑剤及びセンダストをプラネタリーミキサーに投入し、60℃で50分間混練することにより調製した。なお、該硬化性樹脂組成物をフィルム状基材に塗布(保持)する直前に、硬化剤として日本化学産業(株)製「ニッカオクチックス錫」を7質量部混合した。
【0041】
なお、表1中の各配合成分の詳細は次の通りである。
ポリマー:(株)カネカ製「MSポリマーS810」
可塑剤:フタル酸ジイソノニル
センダスト:Si9.6wt%、Al5.5wt%、残部FeからなるFe−Si−Al合金粉末をアトリッションミル(商品名:アトラクター)にて粉砕処理を行うことにより得た扁平粉末。該扁平粉末は粉砕時間を調整して、表1に示す平均粒径D50とした。
【0042】
・電磁波吸収体シートの作製
一対のフィルム状基材として幅250mm、長さ400mm、厚さ0.1mmの枚葉状のPETシート、及び熱硬化型接着シート(東洋インキ製造(株)製「TSU4」)と剥離紙とを積層したものを用い、両フィルム状基材間に上記で調製した硬化性樹脂組成物を予め保持した仮積層体を作製し、該仮積層体を図1に示した製造方法に従って圧延成形した。その後、該硬化性樹脂組成物を室温で24時間放置して硬化させ、一対のフィルム状基材間にシート状の電磁波吸収体を成形した。得られたシート状の電磁波吸収体につき、下記性能を評価した。結果を表1に示した。
【0043】
《電磁波吸収特性》
上記で作製した電磁波吸収体から50×50mmの大きさの評価体を切り出し、該評価体をマイクロストリップライン上に載置して、吸収特性(損失電力/入力電力)を測定した。周波数は1GHzとした。
《皴の発生しにくさ》
作製したシートの表面を目視により観察し、以下の基準により評価した。
◎:シートに皴が発生していないもの
○:シートに若干の皴が発生しているもの
【0044】
【表1】

【0045】
表1の結果より、本発明の製造方法により、均一で耐屈曲性に優れる電磁波吸収体シートを、皴を生じることなく容易かつ確実に作製できることが確認された。
【符号の説明】
【0046】
1 電磁波吸収体シート
2 硬化性樹脂組成物(シート状の電磁波吸収体)
21 粘着剤組成物(粘着剤層)
3,3’ フィルム状基材
31 粘着剤層又は熱硬化型接着剤層
32 中間層用基材
4 ロール
41 粘着剤組成物供給用ロール
5,5’ 供給ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状硬化性樹脂と軟磁性粉末とを含有する硬化性樹脂組成物を一対のロール間に供給し圧延してシート状に成形する電磁波吸収体シートの製造方法であって、
上記一対のロール間に一対のフィルム状基材を繰り込むと共に、該フィルム状基材間に予め又は前記繰り込み時に上記硬化性樹脂組成物を供給して、前記フィルム状基材間で前記硬化性樹脂組成物をシート状に圧延成形した後、硬化させて、上記フィルム状基材間にシート状の電磁波吸収体を成形することを特徴とする電磁波吸収体シートの製造方法。
【請求項2】
上記フィルム状基材として帯状のものを用い、上記一対のロール間に一対のフィルム状基材を連続的に繰り込んで重ね合わせると共に、その際に両フィルム状基材間に上記硬化性樹脂組成物を連続的に供給して前記帯状のフィルム状基材間に上記電磁波吸収体を連続的に成形する請求項1記載の電磁波吸収体シートの製造方法。
【請求項3】
上記軟磁性粉末として、レーザー回折法により測定された平均粒径D50が30〜100μmである軟磁性粉末を用いる請求項1又は2記載の電磁波吸収体シートの製造方法。
【請求項4】
上記硬化性樹脂組成物中の上記軟磁性粉末の配合比率を40〜95質量%とする請求項1〜3のいずれか1項記載の電磁波吸収体シートの製造方法。
【請求項5】
上記フィルム状基材として、紙、樹脂シート及び金属シートから選ばれる1種又は2種を用いる請求項1〜4のいずれか1項記載の電磁波吸収体シートの製造方法。
【請求項6】
一方のフィルム状基材が剥離層と粘着剤層又は熱硬化型接着剤層とを積層したものであり、前記粘着剤層又は熱硬化型接着剤層と他方のフィルム状基材との間に上記シート状の電磁波吸収体を成形する請求項1〜5のいずれか1項記載の電磁波吸収体シートの製造方法。
【請求項7】
上記一対のフィルム状基材を上記ロール間に繰り込む際、両フィルム状基材の両側端縁を完全に一致させずに、少なくとも一方の側端縁部は上記粘着剤層又は熱硬化型接着剤層を有するフィルム状基材を他方のフィルム状基材よりも外側へ延出させ、該粘着剤層又は熱硬化型接着剤層を直接一方のロールに接触させる請求項6記載の電磁波吸収体シートの製造方法。
【請求項8】
上記フィルム状基材のいずれか一方がフレキシブルプリント配線基板(FPC)であり、該FPC上に電磁波吸収体層を直接形成する請求項1〜5のいずれか1項記載の電磁波吸収体シートの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−251372(P2010−251372A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96103(P2009−96103)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】