説明

電磁波測定装置

【課題】動く被測定物、又は被測定物を動かしながら、その被測定物の空間情報及び時間情報をリアルタイムに取得できる電磁波測定装置を小型に実現する技術を提供する。
【解決手段】プローブ光が入力され、前記プローブ光の異なる周波数成分にそれぞれ異なる遅延を与えることによって、チャープ化プローブ光を出力するパルス伸長器401と、前記チャープ化プローブ光と被測定電磁波とを重畳するシリコンミラー115と、前記重畳されたチャープ化プローブ光と被測定電磁波とを入射され、前記チャープ化プローブ光を前記被測定電磁波の電界に応じて変調する電気光学素子116と、前記変調後のチャープ化プローブ光を、前記チャープ化プローブ光のそれぞれ異なる周波数成分に透過性を有するフィルタが設けられた複数の画素で検出するイメージセンサ410とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を用いて被測定物の形状、材質を測定する技術に関わる。
【背景技術】
【0002】
近年、0.1〜10THzの周波数を有する電磁波、いわゆるテラヘルツ波の研究開発が盛んである。テラヘルツ波は、電波のもつ透過性と光のもつ集光性を有し、X線より安全な透過分析に用いることができる。多くの材料が、0.1〜10THzの周波数帯に固有の吸収スペクトルを有することから、テラヘルツ波による材料、材質の特定が可能である。テラヘルツ波は、セキュリティ、バイオ、メディカル、食品加工、鮮度分析などの産業応用分野で、今後多用されることが期待される。
【0003】
テラヘルツ波を用いて被測定物をイメージングすることは、被測定物のテラヘルツ波に対する特性が一目でわかり、有用性が高い。このイメージングは、原理的には、図10に示す測定系を用いて行われる。まずこの測定系について述べる。
【0004】
チタンサファイア結晶を用いたフェムト秒レーザ装置101から出射した短光パルス(中心波長800nm、スペクトル幅(FWHM)約20nm、パルス幅100fs)131はビームスプリッタ102により、テラヘルツ波励起のためのポンプパルス光132とテラヘルツ波の変調の空間分布を検出するためのプローブパルス光133に分岐される。
【0005】
ポンプパルス光132はミラー103で方向を変え、テラヘルツエミッタ112に入射する。エミッタとして、例えば(110)ZnTe結晶を用いると、ZnTeの非線形性により光整流作用が生じ、テラヘルツ波134が発生する。このテラヘルツ波134は、パルス幅が数ps程度になっている。またその周波数成分は0.1〜数THzまで広い範囲を有し、ピーク波長は1THz近傍である。
【0006】
このテラヘルツ波134はポリエチレンレンズ113により平行化され、コリメートなテラヘルツ波135になる。テラヘルツ波135が被測定物114を通過すると、被測定物114内のテラヘルツ波に対する吸収、反射などの特性の空間分布に応じ、空間位置に依存する変調を受ける。このような変調を、以下では簡単に、空間変調と呼ぶことにする。
【0007】
空間変調されたテラヘルツ波136はシリコンミラー115を通過し、電気光学素子116に入射される。この電気光学素子としては(110)ZnTeが用いられる。電気光学素子結晶内では、空間変調されたテラヘルツ波136の電界強度分布に応じて、空間位置に依存するポッケルス効果が生じる。
【0008】
一方、プローブパルス光133は、ミラー104、105、106、107から構成される遅延ラインを通過する。ミラー105、106はステージ108上に載っており、ステージ108が、図面の上下方向に約150ミクロン移動するごとに、後段の光学素子にプローブパルス光133が到着する時間を1ps変化させることができる。
【0009】
遅延ラインを通過したプローブパルス光137はミラー109で反射された後、凹レンズ110と凸レンズ111から構成されるビームエキスパンダにより、前記コリメートテラヘルツ波135のスポット径と同程度まで拡大される。拡大されたプローブパルス光138は、偏光板117で偏光方向を整えた後、シリコンミラー115で反射され電気光学素子116に導かれる。
【0010】
電気光学素子116内では、前述したポッケルス効果のために、複屈折率が空間位置に依存して変化する。その結果、プローブパルス光138の偏光方向が空間変調され、偏光板118を通過するプローブパルス光の光量が空間変調される。
【0011】
プローブパルス光は波長800nmなので、一般的なSiフォトダイオードで検出することができる。例えば、一般的に用いられているSiイメージセンサ119で、プローブパルス光の空間分布、すなわちその起源である被測定物114内のテラヘルツ波吸収、反射特性などの空間分布を検出、イメージングすることができる。
【0012】
なお、遅延ラインのステージ108を動かすことにより、テラヘルツ波136とプローブパルス光138の電気光学素子116到着時間の相対関係を変えることができる。プローブパルス光138のパルス幅は、テラヘルツ波136のパルス幅の10分の1程度しかないので、テラヘルツ波の所望の時間位置における電界強度をプローブ光でサンプリングすることができる。
【0013】
到着時間の相対関係が異なる複数のプローブパルス光を用いることにより、テラヘルツ波136の電界強度の時間変化を知ることができる。この時間変化のピーク位置から被測定物の屈折率が分かり、また、この時間変化のフーリエスペクトルから被測定物のテラヘルツ帯吸収スペクトルが分かるので、被測定物が何であるかを特定できる。
【0014】
ところが、この測定系は、遅延ラインのステージ108を機械的に移動させながら、テラヘルツ波136の異なる時間位置における電界強度をイメージセンサ上の光量としてサンプリングするので、ステージ108の移動時間のうちに動いてしまう被測定物をイメージングすることができない。つまり、動く被測定物、例えば生体、をイメージングし、また被測定物を動かしながら、例えば動いているベルトコンベア上で、イメージングする用途には向いていない。
【0015】
そこで、そのような用途に適した別の従来技術が、例えば特許文献1に提案されている。この技術に係る測定系には、図11に示すように、遅延ラインの代わりにパルス伸長器401と光ファイバ束402とが設けられる。パルス伸長器401は反射型回折格子、凹面鏡、平面反射鏡、再帰反射鏡などから構成されている。
【0016】
一般に知られているように、フェムト秒パルスはスペクトル広がりがある。パルス伸長器401において、プローブ光(フェムト秒パルス)に含まれる成分のうち、短波長な成分ほど、長波長成分より時間的に遅らせることにより、チャープ化プローブ光347を得る。その遅らせる時間は、テラヘルツ波136のパルス幅と同程度、例えば約10psec、にしておく。
【0017】
そうすることで、電気光学素子116、偏光板118を通過したチャープ化プローブ光438のうち、短波長な成分ほど、テラヘルツ波136の時間的に遅い位置をサンプリングしていることになり、時間軸を波長軸に変換することができる。
【0018】
そして、光ファイバ束402にも、短波長な成分ほど時間的に遅らせる分散特性を持たせることで、遅延時間の差をさらに拡大し、パルス幅を10nsecまで広げる。この程度のパルス幅になれば一般的な受光素子を用いて時間分解することができる。
【0019】
上述したように、この別の従来の技術では、テラヘルツ波136の異なる時刻の電界強度をプローブ光の異なる周波数成分で搬送し、それぞれの周波数成分に一般的な受光素子で時間分解できる程度にまで遅延差を与えることにより、2次元情報とその時間変化情報とが検出される。
【特許文献1】特開2004−020352号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、そのような従来技術を用いてもなお、次のような問題がある。
【0021】
第1に、プローブ光を時間方向に拡大して測定するため、時間情報をリアルタイムに得ることができない。
【0022】
第2に、光ファイバ束には、空間情報を維持するために、イメージングすべき画素数と同数の光ファイバが必要である。しかも、プローブ光の異なる周波数成分に十分な遅延時間の差を与えるために、各光ファイバには数kmの長さが必要である。これらのため、光ファイバ束が非常に大きくなってしまう。
【0023】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、動く被測定物、又は被測定物を動かしながら、その被測定物の空間情報及び時間情報をリアルタイムに取得できる電磁波測定装置を小型に実現する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するため、本発明の電磁波測定装置は、プローブ光が入力され、前記プローブ光の異なる周波数成分にそれぞれ異なる遅延を与えることによって、チャープ化プローブ光を出力するパルス伸長器と、前記チャープ化プローブ光と被測定電磁波とを重畳する重畳光学素子と、前記重畳されたチャープ化プローブ光と被測定電磁波とを入射され、前記チャープ化プローブ光を前記被測定電磁波の電界に応じて変調する電気光学素子と、前記変調後のチャープ化プローブ光を、前記チャープ化プローブ光のそれぞれ異なる周波数成分に透過性を有するフィルタが設けられた複数の画素で検出するイメージセンサとを備える。
【0025】
ここで、前記重畳光学素子は、前記チャープ化プローブ光及び前記被測定電磁波のうち、一方を反射し他方を透過することによって、両者を重畳してもよい。
【0026】
この構成によれば、前記チャープ化プローブ光の異なる複数の周波数成分によって、前記被測定電磁波を異なる複数の時間位置でサンプリングし、そのサンプリングの結果を前記イメージセンサの対応画素から得ることができる。
【0027】
この構成には、従来の遅延時間差を拡大するための長大な光ファイバ束が含まれないため小型に実現できる。また、チャープ化プローブ光をサンプリング後に時間伸長しないので被測定物を厳密にリアルタイムに測定できる。
【0028】
また、前記プローブ光は、中心波長が可視光乃至赤外光帯域に含まれかつパルス幅が300フェムト秒以下のレーザ光の一部であり、前記被測定電磁波は、前記レーザ光の他の一部がテラヘルツエミッタに入射することによって放射されるテラヘルツ波であることが好ましい。
【0029】
この構成よれば、様々な被測定物がテラヘルツ波に対して示す吸収及び反射などの固有の特性に基づいて、被測定物について優れた透過分析を行うことができる。そして、そのためのプローブ光の検出は、可視光乃至赤外光帯域に感度を有する一般的なイメージセンサを用いて行うことができる。
【0030】
ここで、前記イメージセンサにおいて、前記複数の画素は周期的に設けられ、その周期は前記被測定電磁波の中心波長よりも小さいことが望ましい。
【0031】
この構成よれば、一般に知られているように、電磁波の空間分解能はほぼその1波長であるので、それよりも小さい1周期内の複数のフィルタを通過する異なる複数の周波数成分は、同じ空間情報を持つテラヘルツ波を、それぞれ異なる時間位置でサンプリングしていることになる。すなわち、時間サンプリングと共に、被測定電磁波による最大の空間分解能が発揮される。
【0032】
また、前記電磁波測定装置は、さらに、前記変調後のチャープ化プローブ光を、前記電気光学素子と前記イメージセンサとの間で、前記被測定電磁波の中心波長に対する前記複数の画素が設けられる周期の割合で縮小する縮小光学系を備えてもよい。
【0033】
この構成によれば、前記複数のフィルタの1周期が前記テラヘルツ波の波長に比べて小さい場合、このような縮小光学系を設けることで、同一の空間情報をサンプリングしたチャープ化プローブ光がただ一組のフィルタに対応する複数の画素によって検出されるので、無駄がない。
【0034】
特に、前記イメージセンサの隣接する周期において、同じ波長に透過性を有するフィルタを対称に設けるようにすれば、周期の境目で同じ波長に透過性を有するフィルタが隣り合うので幅が広がり作製が容易になる。
【0035】
また、前記イメージセンサの各周期において、予め定められる複数の順列の中から選択される一つに従って前記複数のフィルタを設けるようにすれば、各フィルタの順序をできるだけ不規則にして、信号の周期性に起因する固定パターン雑音を低減させることができる。
【0036】
また、前記複数のフィルタは、誘電体多層膜から形成されてもよい。
【0037】
この構成によれば、前記複数のフィルタをフォトニック結晶フィルタとして実現し、非常にシャープな透過特性を得ることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明を用いると、電磁波を用いた被測定物の形状判定と材質判定に必要なデータを同時にかつリアルタイムに測定することができ、高速な電磁波測定装置を小型に実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
<電磁波測定装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態における電磁波測定装置の一例を示す構成図である。
【0040】
チタンサファイア結晶を用いたフェムト秒レーザ装置101から出射した短光パルス(中心波長800nm、スペクトル幅(FWHM)約20nm、パルス幅100fs)131はビームスプリッタ102により、ポンプパルス光132とプローブパルス光133に分岐される。
【0041】
ポンプパルス光132はミラー103で方向を変え、テラヘルツエミッタ112に入射する。テラヘルツエミッタ112として、例えば、厚み3mmの(110)ZnTe結晶を用いる。なお、テラヘルツエミッタ112には、ZnTeのほかに光伝導スイッチを用いることもできる。
【0042】
テラヘルツエミッタ112は、ポンプパルス光132が入射すると、そのパルス幅に対応して中心周波数1THz(中心波長300μm)のテラヘルツ波134を放射する。
【0043】
なお、ポンプパルス光のパルス幅は上述した100fsに限定されない。例えばパルス幅300fsのポンプパルス光を用いてもテラヘルツ波を得ることができる。
【0044】
テラヘルツ波134はポリエチレンレンズ113により平行化され、コリメートなテラヘルツ波135になる。テラヘルツ波135が被測定物114を通過すると、被測定物114内のテラヘルツ波に対する吸収、反射などの特性の空間分布に応じ変調を受ける。被測定物114として、図2のように120μmのプラスチック板51上に形成したアルミニウム52のストライプパターン(幅100μm、ピッチ400μm)を用いる。
【0045】
空間変調されたテラヘルツ波136はシリコンミラー115を通過し、電気光学素子116に入射される。この電気光学素子としては厚み3mmの(110)ZnTeを用いる。電気光学素子結晶内では、テラヘルツ波136の電界強度の空間分布および時間変化に応じて、空間位置及び時刻に依存するポッケルス効果が生じる。
【0046】
一方、プローブパルス光133は、パルス伸長器401により、所謂、チャープ化され、短波長な成分なほど大きな時間遅れが与えられる。ここで、パルス伸長器401には、反射型回折格子、凹面鏡、平面反射鏡、再帰反射鏡から構成される周知のものを用いることができる。
【0047】
チャープ化プローブパルス光437は、ミラー109で反射した後、凹レンズ110と凸レンズ111から構成されるビームエキスパンダにより、コリメートテラヘルツ波136のスポット径と同程度まで拡大される。拡大されたチャープ化プローブ光437は、偏光板117で偏光方向を整えた後、45°の入射角でシリコンミラー115へ入射し反射されることによって、コリメートテラヘルツ波136と重畳され電気光学素子116に導かれる。
【0048】
ここで、シリコンミラー115が、重畳光学素子の一例である。なお、この逆に、チャープ化プローブパルス光139を透過しテラヘルツ波136を反射するITO(Indium Tin Oxide)付きガラスを用いて、重畳光学素子を実現することもできる。
【0049】
電気光学素子116内では、前述したように、空間変調されたテラヘルツ波による空間位置及び時刻に依存するポッケルス効果が生じ、それをプローブ光で時間方向に複数サンプリングする。
【0050】
より具体的に言えば、チャープ化プローブパルス光437の異なる時間遅れを与えられた複数の周波数成分のそれぞれについて、ポッケルス効果によって生じる偏光方向の変化を偏光板117、118によって光量変化に置き換え、イメージセンサ410の光検出部412における各画素で検出する。
【0051】
イメージセンサ410は、チャープ化プローブパルス光437の異なる周波数成分に透過性を有する複数のフィルタが周期的に設けられたフィルタ部411と、個々のフィルタに対応する画素を備える光検出部412とから構成される。これにより、各画素は、対応するフィルタを通過する周波数成分の時間遅れに応じた時間位置においてサンプリングされた情報を検出する。
【0052】
<イメージセンサ>
イメージセンサ410の構成と機能について詳細に説明する。
【0053】
図3は、イメージセンサ410の詳細な構成と共に、前述した情報の検出を行うための主要な構成を示す構成図である。
【0054】
チャープ化プローブ光の代表的な波長をλi(i=1…5)とする。ここで、λ1>λ2>・・・>λ5とすれば、iが小さいほど早く電気光学素子116に到達する。
【0055】
フィルタ部411は、一例として、波長λ1の周波数成分のみ透過させるフィルタ421、・・・、波長λ5の周波数成分のみ透過させるフィルタ425の5種類のフィルタから構成されている。フィルタ421〜425はフィルタ群を成し、所定の周期で繰り返し形成される。図3には、3周期のフィルタ群C1、C2、及びC3が示される。
【0056】
ここで、フィルタ群の1周期の間隔は、テラヘルツ波の波長λよりも小さい。テラヘルツ波の空間分解能が波長λ程度であることを考慮すれば、この1周期内のフィルタを通過する異なる複数の周波数成分は、同じ空間情報を持つテラヘルツ波(図3のT1、T2、T3・・・)を、それぞれ異なる時間位置でサンプリングしていることになる。図3の例では、各画素は以下の情報を検出する。
【0057】
画素P1:テラヘルツ波T1を波長λ1の周波数成分でサンプリングした情報
画素P2:テラヘルツ波T1を波長λ2の周波数成分でサンプリングした情報
画素P3:テラヘルツ波T1を波長λ3の周波数成分でサンプリングした情報

画素P6:テラヘルツ波T2を波長λ1の周波数成分でサンプリングした情報
画素P7:テラヘルツ波T2を波長λ2の周波数成分でサンプリングした情報
画素P8:テラヘルツ波T2を波長λ2の周波数成分でサンプリングした情報

【0058】
ここで、波長λiの周波数成分と波長λjの周波数成分との時間差をΔTijと表すと、最も早い波長λ1の周波数成分によるサンプリング時刻を時刻Tとして、各画素は以下の情報を検出すると言い換えられる。
【0059】
画素P1:テラヘルツ波T1の時刻Tの情報
画素P2:テラヘルツ波T1の時刻T+ΔT12の情報
画素P3:テラヘルツ波T1の時刻T+ΔT12+ΔT23の情報

画素P6:テラヘルツ波T2の時刻Tの情報
画素P7:テラヘルツ波T2の時刻T+ΔT12の情報
画素P8:テラヘルツ波T2の時刻T+ΔT12+ΔT23の情報

【0060】
図1で示されるようにテラヘルツ波は、被測定物114により空間変調されている。従って、イメージセンサ410は、テラヘルツの空間情報と時間情報の両方を取得することができる。
【0061】
なお、イメージセンサ410を構成するフィルタ部411は、半導体プロセスなどにより光検出部412上に直接形成されてもよく、また、光検出部412とは別体として作成された後、光検出部412と共にイメージセンサ410に組み立て、調整してもよい。
【0062】
<実験結果>
さて、発明者らは、具体的に、水平画素数320、垂直画素数240の1/4インチQVGA型の光検出部412を持つイメージセンサ410を用いて、図2に示される被測定物を測定する実験を行った。
【0063】
フィルタ部411には、光検出部412の隣接する10個の画素へ、チャープ化プローブパルス437の代表的な10種類の周波数成分のうちそれぞれ異なる一つを通過させるように、個々のフィルタを繰り返し配列した。
【0064】
ここで、光検出部412の画素の配列間隔、及びフィルタ部411の各フィルタの配列間隔は、何れも10μmとした。従って、フィルタ群の繰り返し間隔は100μmである。この間隔は、テラヘルツ波の中心波長300μmよりも短い。
【0065】
また、パルス伸長器401には、前述した10種類の周波数成分に、0.2psec間隔で、最も早い周波数成分から最も遅い周波数成分まで1.8psecの時間差を与えるものを使用した。
【0066】
この実験から得られた測定結果を図4、図5に示す。図4は被測定物114を取り付けた場合の測定結果を示し、図5は被測定物114を取り外した時の測定結果を示す。図4、図5は、何れもイメージセンサの第120行目(画面のほぼ中央付近の水平行)の信号を示したものである。この実験では、図3に示される垂直方向に一様な被測定物を用いたので、イメージセンサの他の行でもほぼ同じ信号が得られた。
【0067】
図4、図5において、水平画素番号i+10j (i=1,2,3….10, j=0,1,2,3…31)の値は、被測定物の水平位置j×100μm±50μmを透過したテラヘルツ波を、基準時刻+i×0.2psecにおいてサンプリングした値を表す。
【0068】
例えば、基準時刻から時間0.6psec後におけるイメージングデータは、水平画素番号3+10jの値をプロットすることによって、例えば図6のようなイメージとして得られる。なお、図6のイメージには境界が滑らかになるよう信号処理を施している。白く見える部分はテラヘルツ波が透過する部分、黒い部分が透過しない部分である。400μmピッチのパターンがイメージングできていることがわかる。
【0069】
一方、テラヘルツ波が透過する部分の時間領域分光を行うには、例えば、水平画素番号i+50の値をプロットすればよく、図7に示す結果が得られる。ピーク位置が被測定物の有無に応じて0.2psecずれていることがわかる。プラスチック板の厚みをd、屈折率をn、光速をcとし、被測定物の有無におけるピーク位置変化をΔTとすると、
ΔT=(n−1)d/c
なる関係があるから、このプラスチック板の屈折率は約1.5となり、材料評価が可能である。また、図7をフーリエ変換すれば、被測定物あり/なしの比較から吸収スペクトルを求めることができる。一般に固有の吸収スペクトルをテラヘルツ帯に有する材料が多いので、プラスチック材質をより正確に特定することができる。
【0070】
このように本発明を用いると、イメージングとその材料評価を同時にすることができる。
【0071】
<フィルタの詳細構成>
フィルタ411には、顔料、染料を用いたバンドパスフィルタや、フォトニック結晶フィルタなどを用いることができる。
【0072】
フォトニック結晶フィルタとは誘電体の周期的多層膜である。この多層膜により、フォトニックバンドギャップが形成される。このフォトニックバンドギャップに入った周波数の光は存在することができない。すなわち、バンドストップフィルタ機能を有する。ところが、例えば、その周期的多層膜のうち、一層だけを厚く、または、薄くすると、フォトニックバンドギャップ中に特定の周波数のみが存在しえる。このため、特定の周波数(波長)の光に対してだけ、非常にシャープな透過特性を得ることができることが知られている。
【0073】
この性質を用いることで、複数の波長の光のうち、光検出部412の対応画素に応じた一つに対して非常に鋭い透過特性を持つ複数の領域を有するフィルタ部411を容易に作製することが可能である。
【0074】
図8は、フォトニック結晶フィルタの一例を示す構成図である。ガラス基板またはSiイメージセンサチップS0の上に、奇数番号で示されるGaP層と、偶数番号で示されるSiN層が交互に形成されている。第9層のGaP層だけは厚みが対応画素に応じて異なっており、この異なりにより、対応画素に応じた特定波長だけをシャープに透過させることができる。
【0075】
なお、簡単のため、図2ではフィルタやイメージセンサ画素を一次元で描いたが、実際の装置では、一次元であっても、二次元であってもよい。
【0076】
更には、フィルタによるプローブ光の乱れ(例えば、フィルタを通過するときに発生する損失が透過域によって異なるなど)は、画素毎の信号処理で補正してもよい。
【0077】
また、フィルタの配列について、次のような変形例を考えることができる。
【0078】
図9(a)、(b)、(c)は、それぞれフィルタの配列の一例を、3つのフィルタ群C1〜C3にわたって示す図である。図中、同じ波長の光を透過させるフィルタを同じ柄で表している。
【0079】
図9(a)は、異なる波長の光を透過させるフィルタ421、・・・、425が、どのフィルタ群においても同じ順序で形成されている配列を示している。
【0080】
また、図9(b)は、隣接するフィルタ群において各フィルタが対称軸430、431を挟んで対称に形成されている配列を示している。対称軸がある配列では、例えば、同じ波長の光を透過させる画素フィルタ421(a)、(b)が隣り合うので、幅が広がり作製が容易になる。
【0081】
また、図9(c)は、各フィルタ群において異なる多数の配列の中から選択される1つに従って各フィルタが形成されている配列を示している。ここで、各フィルタの順序ができるだけ不規則になるように、この選択が行われることが望ましい。そうすれば、信号の周期性に起因する固定パターン雑音を低減させることができる。
【0082】
なお、図9(b)、(c)のような配列の場合、各画素から得られる信号を適切な順番に並べ直すことで、図4、図5、図6、及び図7の結果を得る。
【0083】
なお、電気光学素子116とイメージセンサ410の間に、レンズを用いた縮小光学系を設置し、チャープ化プローブ光438を、テラヘルツ波136の波長に対するフィルタ部411におけるフィルタ群の繰り返し間隔の割合で縮小してもよい。
【0084】
そうすれば、前記フィルタ群の繰り返し間隔が前記テラヘルツ波の波長に比べて小さい場合、このような縮小光学系を設けることで、同一の空間情報をサンプリングしたプローブ光がただ一組のフィルタに対応する画素によって検出されるので、無駄がない。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明は、高速測定可能な電磁波測定装置、とりわけ、テラヘルツ測定装置に適用でき、医療、バイオ、農業、食品、環境、セキュリティなどの多種の分野での非破壊測定に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】本発明の実施の形態における電磁波測定装置の一例を示す構成図
【図2】被測定物の一例を示す図
【図3】空間情報及び時間情報が同時取得される原理を説明する図
【図4】被測定物を取り付けた場合のイメージセンサ出力の一例を示す図
【図5】被測定物を取り外した場合のイメージセンサ出力の一例を示す図
【図6】被測定物のイメージの一例を示す図
【図7】テラヘルツ波の時間変化の一例を示す図
【図8】フォトニック結晶フィルタの構成の一例を示す図
【図9】(a)、(b)、(c)フィルタの配列の一例を示す図
【図10】従来のテラヘルツイメージング装置の一例を示す構成図
【図11】チャープ化パルスを用いた従来のテラヘルツイメージング装置の一例を示す構成図
【符号の説明】
【0087】
51 プラスチック板
52 アルミニウム
101 フェムト秒レーザ装置
102 ビームスプリッタ
103、104、105、106、107、109 ミラー
108 ステージ
110 凹レンズ
111 凸レンズ
112 テラヘルツエミッタ
113 ポリエチレンレンズ
114 被測定物
115 シリコンミラー
116 電気光学結晶
117、118 偏光板
119 イメージセンサ
131 短光パルス
132 ポンプパルス光
133、137、138 プローブパルス光
134、135、136 テラヘルツ波
301 GaN基板
302、303、304 Niマスク
401 パルス伸長器
402 光ファイバ束
410 フィルタ付イメージセンサ
411 フィルタ部
412 光検出部
437、438 チャープ化プローブ光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブ光が入力され、前記プローブ光の異なる周波数成分にそれぞれ異なる遅延を与えることによって、チャープ化プローブ光を出力するパルス伸長器と、
前記チャープ化プローブ光と被測定電磁波とを重畳する重畳光学素子と、
前記重畳されたチャープ化プローブ光と被測定電磁波とを入射され、前記チャープ化プローブ光を前記被測定電磁波の電界に応じて変調する電気光学素子と、
前記変調後のチャープ化プローブ光を、前記チャープ化プローブ光のそれぞれ異なる周波数成分に透過性を有するフィルタが設けられた複数の画素で検出するイメージセンサと
を備えることを特徴とする電磁波測定装置。
【請求項2】
前記プローブ光は、中心波長が可視光乃至赤外光帯域に含まれかつパルス幅が300フェムト秒以下のレーザ光の一部であり、
前記被測定電磁波は、前記レーザ光の他の一部がテラヘルツエミッタに入射することによって放射されるテラヘルツ波である
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波測定装置。
【請求項3】
前記重畳光学素子は、前記チャープ化プローブ光及び前記被測定電磁波のうち、一方を反射し他方を透過することにより、両者を重畳する
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波測定装置。
【請求項4】
前記イメージセンサにおいて、前記複数の画素は周期的に設けられ、その周期は前記被測定電磁波の中心波長よりも小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波測定装置。
【請求項5】
さらに、前記変調後のチャープ化プローブ光を、前記電気光学素子と前記イメージセンサとの間で、前記被測定電磁波の中心波長に対する前記複数の画素が設けられる周期の割合で縮小する縮小光学系を備える
ことを特徴とする請求項4に記載の電磁波測定装置。
【請求項6】
前記イメージセンサの隣接する周期において、同じ波長に透過性を有するフィルタが対称に設けられる
ことを特徴とする請求項4に記載の電磁波測定装置。
【請求項7】
前記イメージセンサの各周期において、予め定められる複数の順列の中から選択される一つに従って前記複数のフィルタが設けられる
ことを特徴とする請求項4に記載の電磁波測定装置。
【請求項8】
前記複数のフィルタは、誘電体多層膜から形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の電磁波測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−8842(P2008−8842A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181631(P2006−181631)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】