説明

露光方法および露光装置

【課題】原盤の表面状態変化、或いは露光装置の光学系デバイス類の状態変化が発生した場合、その露光パワー及びフォーカス状態が変動すること。
【解決手段】非点収差光学系223の4分割ディテクタ223c、即ち原盤121からの反射光でパワーコントロール及びフォーカス位置制御を実行。またそのビームの偏光状態を一定に保つように光学系の所定の位置に偏光子を設置することにより、高精度なパワーコントロールが可能になり、メインテナンス性に優れた光ディスク原盤の露光装置を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、光ディスク又は光ディスクの量産に使用する光ディスク原盤の露光方法および露光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu−ray Disc)に代表される光ディスクは、記録媒体として幅広い分野で使用されている。
【0003】
光ディスクの製造は、原盤からマスタリング露光を行ってスタンパーを作成し、これを使用して射出成形により複製して製造される(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
従来のマスタリング露光について、図9に示す従来の光ディスク原盤の露光装置の概略構成図を用いて説明する。
【0005】
図9において、光源100から出射したコヒーレントなビームは、ミラー105及び106で反射され、パワーコントロール部101を通り、ミラー107で反射後、信号変調部102で入力電気信号に対し信号変調され、信号偏向部103で光軸に対し垂直な左右或いは上下方向に周波数偏向して出力される。この信号偏向部103を出たビームは、ミラー108で反射した後、ビーム成形部104で適当な大きさのビームに成形され、ミラー109、一部透過ミラー110で反射、一部透過ミラー111を透過し、ダイクロイックミラー112で反射後、アクチュエータ120に固定された対物レンズ120aに入射する。
【0006】
この対物レンズ120aに入射した光は、レジスト層121a(有機レジスト或いは無機レジストの層)が形成された原盤121上に集光して照射される。このとき、対物レンズ120aを介して原盤121上に照射されるレーザビームは、原盤121上で焦点を結んでおり、このレーザビームにより原盤121に露光が施される。ここで、有機レジストの場合はフォトリソグラフィー方式により露光が施され、無機レジストの場合は熱記録方式により露光が施される。なお、光源100の波長は、フォトリソグラフィー方式において有機レジストが感光する波長、或いは熱記録方式により無機レジストに十分な熱エネルギーを与える波長のレーザビーム、例えば、266nm、375nm或いは405nmのレーザビームが用いられる。なお、信号変調部102、信号偏向部103及びビーム成形部104は、省略されることもある。
【0007】
原盤121に照射されるビームの光量は、パワーコントロール部101内で所望の値にコントロールされる。具体的には、パワーコントロール部101内で、一部透過ミラー101bにて分岐されたレーザビームを、パワーコントロールディテクタ101cで受光し、パワーコントロールドライバー101dにフィードバックすることにより、パワーコントロールデバイス101aを制御して、原盤121に照射されるビームの光量をコントロールする。
【0008】
原盤121から反射したビームは再び対物レンズ120aを通過し、ダイクロイックミラー112で反射、一部透過ミラー111を透過及び反射する。透過したビームは一部透過ミラー110を透過後、ビームモニター系124に入射し凸レンズ124aを透過し、CCDディテクタ124b上に集光される。なお、この凸レンズ124aとCCDディテクタ124bは、対物レンズ120aへ入射するビームが平行な場合、対物レンズ120aに入射した光が原盤121面上に集光される焦点と、凸レンズ124aのフォーカス点に集光される位置関係に予め調整されている。即ちCCDディテクタ124b上で集光ビームが最小になるときに対物レンズ120aを透過したビームも最適フォーカスとなり、このような状態を保持しながら露光を行うことにより、所望のピット幅、長さ及び連続溝幅を満足する光ディスク用の原盤121を得ることができる。
【0009】
最適フォーカス状態を保持するために、一般的には、図9におけるミラー114を介して補助フォーカスサーボ光学系125によりフォーカス制御を行う方式や、ミラー113を介して非点収差光学系123を用いた補助ビームによる方式、記録ビームを直接用いる方式などを組み合わせて、フォーカス制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−277339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来の露光装置では、光学系を構成するデバイスの劣化に伴う偏光状態の変動や、原盤上に形成されるレジスト層の膜厚変動や、レジスト層自体の感度のバラツキに関しては、パワーコントロール部101でコントロールできない。そのため、対物レンズ120aで結像されるビームの露光状態が変化してしまうという課題を有している。また、劣化した光学系を構成するデバイスの交換に関する調整に多大な時間を要するという課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の露光方法は、光源から出射されたビームをパワーコントロール部でパワーコントロールすると共に変調及び偏向を施した後、対物レンズを介して被露光物に照射する露光方法であって、前記被露光物に照射されて反射したビームを分岐し、分岐した一方のビームを撮像素子に入射させて前記対物レンズと前記被露光物とのフォーカス位置を評価し、分岐した他方のビームを非点収査法を用いて4分割ディテクタで受光し、前記4分割ディテクタの出力と評価された前記フォーカス位置とに基づいて、前記対物レンズの位置を制御し、前記4分割ディテクタの出力に基づいて、前記パワーコントロール部でビームのパワーを調整することを特徴とする。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の露光装置は、光源と、前記光源から出射されたビームをパワーコントロールするパワーコントロール部と、前記光源から出射されたビームを変調する信号変調部と、前記光源から出射されたビームを偏向する信号偏向部と、被露光物を保持する被露光物保持部と、前記被露光物に照射されて反射したビームを分岐する光学素子と、前記光学素子で分岐した一方のビームを撮像素子に入射させて前記対物レンズと前記被露光物とのフォーカス位置を評価するビームモニター部と、前記光学素子で分岐した他方のビームを非点収査法を用いて受光する4分割ディテクタと、を備え、前記被露光物保持部は、前記4分割ディテクタの出力と評価された前記フォーカス位置とに基づいて、前記対物レンズの位置を制御し、前記パワーコントロール部は、前記4分割ディテクタの出力に基づいて、ビームのパワーを調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、光学系を構成するデバイスの劣化に伴う偏光状態の変動や、原盤上に形成されるレジストの膜厚変動や、レジスト自体の感度のバラツキを有する場合においても、対物レンズで結像されるビームの露光状態の変化を抑制することができる。また、劣化に強い、即ちメインテナンス性に優れた露光方法及び露光装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態1の光ディスク原盤の露光装置の概略構成図
【図2】(a)〜(h)本実施の形態1のマスタリングプロセスの説明図
【図3】(a)〜(c)本実施の形態1のフォーカス光学系の合焦の状態を説明するための図
【図4】本実施の形態1の4分割ディテクタの構成図
【図5】(a)〜(d)本実施の形態1の4分割ディテクタ上のビームに偏りの各状態についての説明図
【図6】本発明の実施の形態2の光ディスク原盤の露光装置の概略模式図
【図7】(a)、(b)本実施の形態2のフォーカス制御方法の概念図
【図8】本発明の実施の形態3の光ディスク原盤の露光装置の概略模式図
【図9】従来の光ディスク原盤の露光装置の概略構成図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、同一構成には同一符号を付して、適宜説明を省略している。
【0017】
(実施の形態1)
図1に、本発明の実施の形態1の光ディスク原盤の露光装置の概略構成図を示す。本実施の形態において、原盤は、被露光物の一例であり、CCDカメラは、撮像素子の一例であり、凸レンズやミラーは、光学素子の一例である。
【0018】
図1において、光源100から出射したコヒーレントなビームは、ミラー105及び106で反射し、パワーコントロール部201を通り、ミラー107で反射後、信号変調部102で入力電気信号に対し信号変調され、信号偏向部103で光軸に対し垂直な左右或いは上下方向に周波数偏向して出力される。この信号偏向部103を出たビームは、ミラー108で反射した後、ビーム成形部104で適当な大きさのビームに成形され、ミラー109、一部透過ミラー110で反射、一部透過ミラー111を透過し、ダイクロイックミラー112で反射後、アクチュエータ120に固定された対物レンズ120aに入射する。
【0019】
この対物レンズ120aに入射した光は、レジスト層121a(有機レジスト或いは無機レジストの層)が形成された原盤121上に集光して照射される。このとき、対物レンズ120aを介して原盤121上に照射されるレーザビームは、原盤121上で焦点を結んでおり、このレーザビームにより原盤121に露光が施される。ここで、有機レジストの場合はフォトリソグラフィー方式により露光が施され、無機レジストの場合は熱記録方式により露光が施される。なお、光源100の波長は、フォトリソグラフィー方式において有機レジストが感光する波長、或いは熱記録方式により無機レジストに十分な熱エネルギーを与える波長のレーザビーム、例えば266nm、375nm或いは405nmのレーザビームが用いられる。なお、信号変調部102、信号偏向部103及びビーム成形部104は、省略されることもある。なお、原盤121は、図示しない被露光物保持部に保持されており、アクチュエータ120は、被露光物保持物の一部である。
【0020】
原盤121に照射されるビームの光量は、パワーコントロール部201内で所望の値にコントロールされる。具体的には、パワーコントロール部201内で、フォーカス制御部226からの信号に基づいて、パワーコントロールドライバー201dでパワーコントロールデバイス201aを制御して、原盤121に照射されるビームの光量をコントロールする。
【0021】
原盤121から反射したビームは再び対物レンズ120aを通過し、ダイクロイックミラー112で反射、一部透過ミラー111を透過及び反射する。透過したビームは一部透過ミラー110を透過後、ビームモニター系124に入射し凸レンズ124aを透過し、CCDディテクタ124b上に集光される。なお、この凸レンズ124aとCCDディテクタ124bは、対物レンズ120aへ入射するビームが平行光で対物レンズ120aに入射した光が原盤121面上に集光される場合に、凸レンズ124aのフォーカス点に集光される位置関係に予め調整されている。すなわち、CCDディテクタ124b上で集光ビームが最小になるときに対物レンズ120aを透過したビームも最適フォーカスとなり、このような状態を保持しながら露光を行うことにより、所望のピット幅、長さ及び連続溝幅を満足する光ディスク用の原盤121を得ることができる。
【0022】
最適フォーカス状態を保持するためには、一般的には、図1における補助フォーカスサーボ光学系125によりフォーカス制御を行う方式や、非点収差光学系223を用いた補助ビームによる方式や、記録ビームを直接用いる方式などを組み合わせて、フォーカス制御を行う。
【0023】
図1において、光源100としては、波長266nmで連続に発振するレーザビームを用いた。また、パワーコントロール部201としては、EOモジュレータを用いた。また、信号変調部102としては、AOモジュレータを用いた。また、信号偏向部103としては、EOディフレクターを用いた。
【0024】
ビーム成形部104は、ケプラー式のエキスパンダ、即ち2枚のレンズを用い出射ビームが平行になるように調整した。
【0025】
一部透過ミラー110及び111は、1/4反射ミラーを用いた。
【0026】
補助フォーカスサーボ光学系125の光源としては、635nmのレーザビームを用いた。ダイクロイックミラー112としては、透過が635nm、反射が266nmのものを用いた。対物レンズ120aとしては、NA=0.9の無限焦点系のレンズを用いた。
【0027】
なお、本実施の形態におけるパワーコントロールでは、パワーコントロール部201における一部透過ミラー201bを介したパワーコントロールディテクタ201cを用いていない。本実施の形態では、非点収差光学系223における4分割ディテクタ223cが受光するビームを用い、フォーカス制御部226の光量制御部226cにおいて、4分割ディテクタ223cが受光する総和信号の2秒前からの光量の平均値をパワーコントロール部201におけるパワーコントロールドライバー201dにフィードバックする方法を用いている。なお、4分割ディテクタ223cが受光する総和信号の光量の平均値は、一定の光量となるように、0.1秒以上前からの光量の平均値とすることが望ましい。
【0028】
続いて、光ディスクの原盤の露光をその一工程に含む光ディスクのマスタリングプロセスについて、図2(a)〜(h)のマスタリングプロセスの説明図を用いて説明する。
【0029】
まず、図2(a)に示すように、青板ガラス(ソーダライムガラス)、石英ガラス或いはSi基板等の基板を研磨して、光ディスク用の原盤121を作成する。そして、この原盤121上にスピンコートにより有機材料からフォトレジスト(レジスト層121a)を形成する(図2(b))。なお、ここで、フォトレジストに代えて、原盤121上に、スパッタリング法により無機系の記録材料(レジスト層121a)を形成してもよい。レジスト層121aの厚みは、CD、DVD、BD等のフォーマットや使用される反射膜、記録材料によって異なるが、10〜300nm程度である。
【0030】
続いて、原盤121上のレジスト層121aにレーザビームにより信号ピット及び案内溝を露光して描画する(図2(c))。図1などを用いて説明している露光装置は、この図2(c)に示す工程で用いられるものである。
【0031】
その後、アルカリ現像液により露光部を現像する(図2(d))。露光部を現像することにより、露光された部分のみが溶出し、所望のピット形状としての凹凸パターン及び溝が形成される。そして、スパッタリング或いは無電解工法により露光された原盤121表面に、導電膜が形成される(図2(e))。なお、図2(b)において、無機系の記録材料を形成した場合は、図2(e)の導電膜形成工程は、省略される場合もある。
【0032】
その後、ニッケル電鋳を行って、マスタースタンパー121bを製造する(図2(f))。そして、このマスタースタンパー121bのマザーリング(ニッケル電鋳)を行ってマザー121cを製造し(図2(g))、このマザー121cのマザーリング(ニッケル電鋳)を行ってスタンパー121dを製造する(図2(h))。
【0033】
このようにして、光ディスク射出成形用のスタンパー121dを完成させる。なお、マザーリング(図2(g)及び図2(h))の工程は、省略する場合もある。
【0034】
続いて、非点収差光学系223を用いてフォーカス制御を行う、非点収差フォーカスサーボ方式について説明する。
【0035】
非点収差フォーカスサーボ方式は、対物レンズ120aで集光された記録ビームを直接フォーカスサーボに用いるため、フォーカス位置の精度が良く、原盤121面の変形に伴う反射レーザビームの角度変化の影響を受けにくいという特徴がある反面、フォーカスのダイナミックレンジが狭い、或いは記録レーザビームが無いところでは原理的にフォーカス制御できないという課題を有する。このため、図1における補助フォーカスサーボ光学系125と組み合わせて構成される。
【0036】
補助フォーカスサーボ光学系125内の光源から出射したレーザビームはミラー114によりダイクロイックミラー112を透過し、対物レンズ120aを透過後、原盤121表面で反射する。そして、原盤121で反射した後、再び対物レンズ120a、ダイクロイックミラー112を透過、ミラー114で反射し、補助フォーカスサーボ光学系125に入射する。このように、補助フォーカスサーボ光学系125からのレーザビームを原盤121で反射させることにより、フォーカスサーボを行う。なお、補助フォーカスサーボの方式としては、フラットな原盤121上でのフォーカスが可能な方式(例えば、スキュービーム方式)を用いる。また、補助フォーカスサーボ光学系125に使用されるレーザビームの波長は、有機レジスト或いは無機レジストに露光或いは熱的な影響を及ぼさないように、例えば、635nm、3mW程度の半導体レーザや、633nm、3mW程度のガスレーザを用いる。
【0037】
この補助フォーカスサーボ光学系125を用いる非点収差フォーカス制御について説明する。
【0038】
図1において、原盤121で反射して、ダイクロイックミラー112、一部透過ミラー111で反射したビームは、ミラー113で反射され、凸レンズ223a及びシリンドリカルレンズ223bを介して、4分割ディテクタ223cに集光する。ここで、凸レンズ223aとシリンドリカルレンズ223bにより非点収差が生じる。非点収差が生じた結果、対物レンズ120aの焦点位置に対し、原盤121が近い位置の場合は、図3(a)に示す横楕円が4分割ディテクタ223c上に形成される。また、非点収差が生じた結果、対物レンズ120aの焦点位置に対し、原盤121が中間位置の場合は、図3(b)に示す円が4分割ディテクタ223c上に形成される。また、非点収差が生じた結果、対物レンズ120aの焦点位置に対し、原盤121が遠い位置の場合は、図3(c)に示す縦楕円が4分割ディテクタ223c上に形成される。
【0039】
図3(a)〜(c)は、本発明のフォーカス光学系の合焦の状態を説明するための図である。図3(a)は、対物レンズ120aと原盤121との距離が対物レンズ120aの焦点位置に対して近い場合の状態を示す図である。図3(b)は、対物レンズ120aと原盤121との距離が対物レンズ120aの焦点位置に対して中間位置の場合の状態を示す図である。図3(c)は、対物レンズ120aと原盤121との距離が対物レンズ120aの焦点位置に対して遠い場合の状態を示す図である。図3(a)〜(c)は、非点収差光学系223の4分割ディテクタ223c上のビーム形状を示す。
【0040】
図3(a)〜(c)に示す形状の情報を信号に変換し、フォーカス制御部226を介し、アクチュエータ120へフォードバックすることにより、対物レンズ120aを一定の位置に保持する。
【0041】
図4は、4分割ディテクタ223cの構成を示す図である。
【0042】
図4において、フォトディテクタA、B、C及びDの組合せ、すなわち(A+C)−(B+D)が、対物レンズ120aと原盤121の位置関係により対応する信号、即ちフォーカスエラー信号となる。本実施の形態1では、このフォーカスエラー信号が常にゼロになるようにアクチュエータ120を駆動制御して対物レンズ120aの位置を調整し、対物レンズ120aと原盤121の位置を対物レンズ120aに対して一定の位置に保持する。
【0043】
また、予めビームモニター系124におけるCCDディテクタ124b上の集光ビームが最小になるように、フォーカス制御部226におけるオフセット調整部226bに、一定のオフセット電圧を印加することにより、アクチュエータ120を駆動し、対物レンズ120aを焦点位置に保持し、フォーカス制御を行ってもよい。
【0044】
この状態で変調されたビームにより、原盤121上に塗布されたレジスト層121aに、均一のピット又は溝を形成する。なお、場合によっては、一部透過ミラー111の代わりに、λ/4板と偏向ビームスプリッタ(PBS)が用いられることもある。
【0045】
続いて、4分割ディテクタ223c上のビームに偏りが無い場合と偏りが有る場合についての非点収差フォーカスサーボに及ぼす影響について説明する。
【0046】
図5(a)〜(d)は、その説明図である。図5(a)は、ビーム形状に偏りが無い場合の入射光量の変化前の状態を示す図である。図5(b)は、ビーム形状に偏りが無い場合の入射光量の変化後の状態を示す図である。図5(c)は、ビーム形状に偏りが有る場合の入射光量の変化前の状態を示す図である。図5(d)は、ビーム形状に偏りが有る場合の入射光量の変化後の状態を示す図である。なお、図5(a)〜(d)においては、ビーム形状に加えて、各状態でのビームプロファイルについても図示している。
【0047】
図5(a)、(b)に示すように、4分割ディテクタ223cへの入射ビームに偏りが無い場合は、入射ビームの光量が変化した場合(すなわち、光量がX1からX2に変化し、4分割ディテクタ223cの総和電圧がS1からS2に変化した場合)、X1:X2=S1:S2が成立する。このとき、図4におけるフォーカスエラー信号が(A+C)−(B+D)=0になる。
【0048】
しかしながら、図5(c)、(d)に示すように、4分割ディテクタ223cへの入射ビームに偏りが有る場合は、入射ビームの光量が変化した場合(すなわち、光量がX1からX2に変化し、4分割ディテクタ223cの総和電圧がS1からS2に変化した場合)、X1:X2≠S1:S2となる。そのため、図4におけるフォーカスエラー信号(A+C)−(B+D)にオフセット電圧が発生する。
【0049】
このように、4分割ディテクタ223c上のビームの偏りの有無により、非点収差フォーカスサーボに影響が出るため、4分割ディテクタ223c上のビームの偏りに基づいて、非点収差フォーカスサーボを制御することが望ましい。
【0050】
以上説明した、本実施の形態1におけるパワーコントロール方法を実現した場合の露光装置を用いて、実際にBD−Rのマスタリングを行い、マスタリング開始直後、すなわち、BD−Rの半径R21〜27mmに至るまでのフォーカス状態の安定性を、CCDディテクタ124bの輝度によりモニターした。このモニター結果を評価したところ、本実施の形態1での信号電圧の変動は約4%となり、従来の信号電圧の変動の約50%に低減させることができた。
【0051】
また、AFM(原子間力顕微鏡)を用い、原盤121の溝幅の変動を統計的に評価したところ、本実施の形態1の原盤121の溝幅変動は約5%となり、従来の溝幅の変動の約50%に低減させることができた。さらに、本実施の形態1にてマスタリングしたスタンパーを、ディスク化した後、BD−Rディスクの電気特性のパラメータΔPP、即ちディスクのトラックピッチ変動或いは溝幅変動の指標を評価したところ約0.05となり、従来のトラックピッチ変動或いは溝幅変動と比較して約30%良化させることができた。
【0052】
以上説明したように、本実施の形態1を用いることで、原盤121の表面状態変化、或いは露光装置の光学系デバイス類の状態変化が発生した場合においても、その露光パワー及びフォーカス状態の変動を抑えることができる。
【0053】
また、予め原盤121の記録領域以外の所定領域にビームを照射し、各々の光量において、対物レンズ120aを駆動するアクチュエータ120にオフセット電圧を加えることにより、対物レンズ120aの位置を変化させ、その各々のCCDディテクタ上の輝度極大値を評価し、そのときの各々のオフセット電圧最適値(対物レンズの最適位置)に基づいて該対物レンズ120aの位置を時々刻々変移させながら露光を行ってもよい。このようにすることにより、4分割ディテクタ223cへ入り込むビーム形状に偏りが有ると共に光量が変化する場合(すなわち、4分割ディテクタ223c上のビーム形状が変化した場合)においても、対物レンズ120aと原盤121の位置関係を保持することができる。
【0054】
(実施の形態2)
図6に、本発明の実施の形態2の光ディスク原盤の露光装置の概略模式図を示し、図7(a)、(b)に、そのフォーカス制御方法の概念図を示す。
【0055】
本実施の形態2において、パワーコントロールについては、前述の実施の形態1と同様の方法を用い、その各々のパワーにおいてのフォーカス位置制御を行った。またフォーカス位置制御方法としては、原盤121における記録領域以外のエリアにおいて、各パワーにおける最適フォーカス状態の評価を行った後、それにより得られた評価結果をフォーカス制御ユニット227に保存し、実際のマスタリングの際にその保存データをアクチュエータにフィードバックする方法を用いた。
【0056】
具体的には、まず原盤121における記録領域以外のエリア半径70〜80mmにて、図7(a)における光量Xにおいて、フォーカス差動アンプ226aを介したフォーカス制御部226のオフセット調整部226bのオフセット電圧Wを変化させることにより、対物レンズ位置Yを変移させ、ビームモニター系124におけるCCDディテクタ124bの輝度値Zの極大輝度値を満足するオフセット電圧Wを、必要光量Xの範囲について各々評価した。具体的には、図7(a)における光量Xを、実際のBD−Rマスタリング時の条件により求められた最適光量に対して、±5%のパワーについて1%ずつ変化させた各々の条件(すなわち、図7(b)における11ゾーンの異なる光量X1、X2・・・X10、X11の各々の条件)において、フォーカス制御部226のオフセット調整部226bのオフセット電圧Wを変化させることにより、対物レンズ位置Yを変移させた。そして、このように対物レンズ位置Yを変移させたとき、対物レンズ最適焦点位置Y1、Y2・・・Y10、Y11において、ビームモニター系124におけるCCDディテクタ124bの輝度値Zは輝度極大値Z1、Z2・・・Z10、Z11になる。この輝度極大値を満足するオフセット電圧W1、W2・・・W10、W11を評価し、この値をフォーカス制御ユニット227に保存する。
【0057】
その後、BD−Rのマスタリングを前述の実施の形態1同様に行う際に、パワーの変化に対する対物レンズ位置制御を、フォーカス制御ユニット227に保存したデータに直線補間を施した値を連続的にアクチュエータ120にフィードバックしながら実施し、スタンパーを作成した。スタンパー作成後、前述の実施の形態1で行った評価のうち、スタンパーに関する性能を確認したところ、本実施の形態2のCCDディテクタ124bの信号変動は約2%となり、従来の信号変動の約25%に更に低減できた。また、本実施の形態2のAFM(原子間力顕微鏡)を用いた溝幅の変動は約4%となり、従来の溝幅の変動の約40%に更に低減できた。
【0058】
このように、本実施の形態2では、前述の実施の形態1の構成に加えて、フォーカス制御ユニットをさらに設けることで、パワーコントロールは同様であるが、フォーカスに優れた露光装置を提供することができる。
【0059】
(実施の形態3)
図8に本発明の実施の形態3の光ディスク原盤の露光装置の概略模式図を示す。
【0060】
本実施の形態3において、パワーコントロール及びフォーカス位置制御については、前述の実施の形態2と同様の方法を用いたが、本実施の形態3では、必要な箇所に偏光子を設けている。以下、この偏光子の設置位置と目的について説明する。
【0061】
光源100、ミラー105、106の劣化に伴う偏光状態の変動を抑制するために、パワーコントロール部201の直前に偏光子233(第2偏光子)として、消光比が0.01の偏光ビームスプリッタ(PBS)を設置している。
【0062】
また、パワーコントロール部201、信号変調部102の劣化に伴う偏光状態の変動を抑制するために、信号偏向部103の直前に偏光子232として、消光比が0.001のプリズムを設置している。
【0063】
すなわち、本実施の形態で用いる偏光子は、その消光比を0.001〜0.01としている。
【0064】
また、信号偏向部103、ミラー108、ビーム成形部104、ミラー109の劣化に伴う偏光状態の変動を抑制し、かつ一部透過ミラー110、111の反射或いは透過光量の変動を抑制するために、一部透過ミラー110の直前に偏光子228として、消光比が0.01の偏光ビームスプリッタ(PBS)を設置している。
【0065】
また、偏光子228と一部透過ミラー110の間にλ/2板229を設置し、一部透過ミラー111の直前にλ/2板230を設置し、ダイクロイックミラー112の直前にλ/4板231を設置した。
【0066】
なお、消光比とは、デバイスに光を入射させたときのp偏光成分とs偏光成分とのパワー比である。
【0067】
また、偏光子228の消光比R1、偏光子232の消光比R2、偏光子233の消光比R3の関係を、R1,R3>R2としている。これは信号偏向部103にEOディフレクターを用いており、その偏向効率を高めるためである。
【0068】
偏光子233はビームの透過光量が最大になるように回転角度を調整し、偏光子232はビームの透過光量が最大になるように回転角度を調整した後、信号偏向部103をその透過光量が最大になるように回転角度を調整し、偏光子228はビームの透過光量が最大になるように回転角度を調整した。
【0069】
また、λ/2板229は一部透過ミラー110が最大反射となるように回転角度を調整し、λ/2板230は一部透過ミラー111が最大透過となるように回転角度を調整し、λ/4板231は透過したビームが円偏光になるように回転角度を調整した。λ/2板、λ/4板は、それぞれ波長板の一例である。
【0070】
その後、前述の実施の形態2と同様にスタンパーに関するデータを評価したところ、本実施の形態3のCCDディテクタ124bの信号変動は約2%となり、従来の信号変動の約25%に低減できた。また、AFM(原子間力顕微鏡)を用いた溝幅の変動は約3%なり、従来の溝幅の変動の約30%に更に低減できた。
【0071】
また、この状態で24時間稼動1ヶ月間マスタリングを続けた後にデータを評価したところ、CCDディテクタ124bの信号変動が約4%、またAFMを用いた溝幅の変動は約8%と前述の実施の形態1と同レベルへの劣化がみられたが、図8における偏光子228、232及び233のみを上下及び左右方向にシフトさせた後、同様のデータを評価したところ、CCDディテクタ124bの信号変動が約2%、AFMを用いた溝幅の変動は約3%と、1ヶ月間マスタリング前の状態に復帰させることができた。
【0072】
なお、露光装置の光学系の一部或いは全部を密閉し、ケミカルフィルターを通過させたドライエアーを循環させることにより、偏光子、ミラー、及び信号偏向部等のデバイスの劣化速度を遅らせることができることを確認した。
【0073】
このように、凸レンズ及びCCDカメラ用及び4分割ディテクタ用一部透過ミラーの手前に偏光子を設置し、かつ信号偏向部の直前又はパワーコントロール部の直前に偏光子を設置し、光量が最大透過になるように回転角度調整してもよい。このように構成することにより、ミラー類、素子又はレンズ類にビームが一定時間以上照射されることによる焼けや、空気中を浮遊しているSi等の付着物によりその表面状態が変質することによるビームの偏光状態が変化した場合でも、ミラーの反射或いは透過光量の変動を抑制することができる。また、偏光子をビームと偏光子の成す角を変化させずに、定期的に左右及び/又は上下方向にシフトすることにより、偏光子表面に不具合が発生した場合も、容易に最適状態に復帰させることができる。
【0074】
(比較例)
前述の種々の実施の形態との比較として、本発明を使用せず、従来の光ディスク原盤の露光装置を用いて、BD−Rのマスタリングを行い、前述の実施の形態1同様のデータの評価を行ったところ、CCDディテクタ124bの信号変動は約8%、AFMを用いた溝幅の変動は約10%となった。また、マスタリングしたスタンパーをディスク化した後の、BD−Rディスクの電気特性のパラメータΔPPは、0.07であった。
【0075】
これは反射ミラー、信号変調部等のデバイスの劣化、原盤の表面状態、原盤上に形成されるレジスト材の膜厚変動又は表面状態、或いはレジスト材自体の感度のバラツキにより露光パワー及びフォーカス状態が変動した結果である。これに対して本発明を用いることにより、露光状態が変化した場合でも、その変動を適切に修正できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明を利用することにより、高精度なパワー及びフォーカス状態のコントロールが可能であり、かつ劣化に強い、即ちメインテナンス性に優れた露光方法及び露光装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0077】
100 光源
101,201 パワーコントロール部
101a,201a パワーコントロールデバイス
101b,110,111,201b 一部透過ミラー
101c,201c パワーコントロールディテクタ
101d,201d パワーコントロールドライバー
102 信号変調部
103 信号偏向部
104 ビーム成形部
105,106,107,108,109,113,114 ミラー
112 ダイクロイックミラー
120 アクチュエータ
120a 対物レンズ
121 原盤
121a レジスト層
123 非点収差光学系
124 ビームモニター系
124a 凸レンズ
124b CCDディテクタ
125 補助フォーカスサーボ光学系
223 非点収差光学系
223a 凸レンズ
223b シリンドリカルレンズ
223c 4分割ディテクタ
226 フォーカス制御部
226a フォーカス差動アンプ
226b オフセット調整部
226c 光量制御部
227 フォーカス制御ユニット
228,232,233 偏光子
229,230 λ/2板
231 λ/4板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から出射されたビームをパワーコントロール部でパワーコントロールすると共に変調及び偏向を施した後、対物レンズを介して被露光物に照射する露光方法であって、
前記被露光物に照射されて反射したビームを分岐し、分岐した一方のビームを撮像素子に入射させて前記対物レンズと前記被露光物とのフォーカス位置を評価し、分岐した他方のビームを非点収査法を用いて4分割ディテクタで受光し、
前記4分割ディテクタの出力と評価された前記フォーカス位置とに基づいて、前記対物レンズの位置を制御し、
前記4分割ディテクタの出力に基づいて、前記パワーコントロール部でビームのパワーを調整することを特徴とする
露光方法。
【請求項2】
前記4分割ディテクタで受光するビームの0.1秒以上前からの光量平均を、前記パワーコントロール部でのパワーコントロールに用いることを特徴とする
請求項1記載の露光方法。
【請求項3】
前記4分割ディテクタでの光量に応じて変化する各々のフォーカス位置の評価情報を直線補間することによりフォーカス制御を行うことを特徴とする
請求項1又は2記載の露光方法。
【請求項4】
前記光源から出射されたビームの光路上において、前記パワーコントロール部または前記4分割ディテクタの少なくとも一つの前の光路上に、偏光子を設置し、
前記ビームと前記偏光子の成す角を変化させずに、定期的に左右又は上下方向にシフトさせることを特徴とする
請求項1から3いずれか1項に記載の露光方法。
【請求項5】
前記光源から出射されたビームを偏向する信号偏向部と、
前記被露光物に照射されて反射したビームを分岐する光学素子と、
前記光学素子で分岐した一方のビームを撮像素子に入射させて前記対物レンズと前記被露光物とのフォーカス位置を評価するビームモニター部と、を備え、
前記光源から出射されたビームの光路上において、前記パワーコントロール部の前に設置された偏光子の消光比R1、前記信号偏向部の前に設置された偏光子の消光比R2、前記信号偏向部の後ろかつ前記ビームモニター部と前記4分割ディテクタとに分岐する光学素子の前に設置された第2偏光子の消光比R3の関係が、 R1,R3>R2 となることを特徴とする
請求項1から4いずれか1項に記載の露光方法。
【請求項6】
光源と、
前記光源から出射されたビームをパワーコントロールするパワーコントロール部と、
前記光源から出射されたビームを変調する信号変調部と、
前記光源から出射されたビームを偏向する信号偏向部と、
被露光物を保持する被露光物保持部と、
前記被露光物に照射されて反射したビームを分岐する光学素子と、
前記光学素子で分岐した一方のビームを撮像素子に入射させて前記対物レンズと前記被露光物とのフォーカス位置を評価するビームモニター部と、
前記光学素子で分岐した他方のビームを非点収査法を用いて受光する4分割ディテクタにて構成されるフォーカス制御部と、を備え、
前記被露光物保持部は、前記4分割ディテクタの出力と評価された前記フォーカス位置とに基づいて、前記対物レンズの位置を制御し、
前記パワーコントロール部は、前記4分割ディテクタの出力に基づいて、ビームのパワーを調整することを特徴とする
露光装置。
【請求項7】
前記光源から出射されたビームの光路上において、前記パワーコントロール部または前記信号偏向部の少なくとも一つの前に、偏光子を設置することを特徴とする
請求項6記載の露光装置。
【請求項8】
前記光源から出射されたビームの光路上において、前記信号偏向部の後ろ、かつ、前記ビームモニター部と前記フォーカス制御部とに分岐する光学素子の前に、第2偏光子を設置することを特徴とする
請求項6又は7記載の露光装置。
【請求項9】
前記光源から出射されたビームの光路上において、前記パワーコントロール部の前に設置された偏光子の消光比R1、前記信号偏向部の前に設置された偏光子の消光比R2、前記第2偏光子の消光比R3の関係が、 R1,R3>R2 となることを特徴とする
請求項8記載の露光装置。
【請求項10】
前記偏光子のp偏光及びs偏光の消光比が、0.001〜0.01であることを特徴とする
請求項7から9いずれか1項に記載の露光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−12259(P2013−12259A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−142560(P2011−142560)
【出願日】平成23年6月28日(2011.6.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】