説明

静電アクチュエーター、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び静電アクチュエーターの製造方法

【課題】ギャップの封止を複雑な工程を要することなく、安価な材料を用いて行なうようにして小型化及び低コスト化を実現するようにした静電アクチュエーターを提供する。
【解決手段】本発明に係る静電アクチュエーターは、固定電極32及びリード部33が形成された凹部31を有する第1の基板(電極基板30)と、固定電極32にギャップ40を隔てて対向し、固定電極32との間で発生させた静電気力により動作する可動電極(振動板22)及びリード部33に対向し、凹部31に挿入されることでギャップ40を封止している封止薄膜部25を有する第2の基板(キャビティ基板20)と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電駆動方式のインクジェットヘッド等に用いられる静電アクチュエーター、その静電アクチュエーターを搭載した液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び静電アクチュエーターの製造方法に関し、特にギャップの封止に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットヘッド式記録装置におけるインク吐出方法として、駆動手段に静電気力を利用した、いわゆる静電駆動方式のインクジェット記録装置が知られている。この静電駆動方式のインクジェット記録装置は、一般に、電極ガラス基板上に形成された対向電極(固定電極)と、この対向電極に所定のギャップ(空隙)を介して対向配置されたシリコン製の振動板(可動電極)と、を備えている。そして、振動板と対向電極との間で電圧を供給/遮断することにより、振動板を対向電極に吸引/隔離させる動作を行ない、それによって生じる圧力変化を利用して液体を液滴として吐出するようになっている。つまり、振動板及び対向電極は、インクやその他の液体(以下、単に液体と称する)が貯えられた圧力室の圧力を変動させる静電アクチュエーターとして作用することになる。
【0003】
このような静電アクチュエーターにおいて、対向する電極間に繰り返し電圧を印加して駆動している間に、電極の表面(すなわち振動板の底面及び対向電極の表面)に水分が付着してしまうと、これらの極性分子の帯電によって、静電吸引特性あるいは静電反発特性が低下する恐れがある。また、電極部の表面に吸着した極性分子が相互に水素結合して、振動板が対向電極に貼り付いたままの状態(スティッキング状態)となり、動作不能となる恐れもある。
【0004】
このような弊害を回避するために、静電アクチュエーターを構成する振動板と対向電極との間のギャップを気密封止することが一般的に行なわれている。ギャップを封止する技術としては、接着剤等の樹脂を用いたものや、酸化膜を堆積させたもの、キャビティプレートの底面を対向電極リード部の表面に形成した絶縁膜に密着接合させたもの等が提案されている。
【0005】
接着剤等の樹脂を用いてギャップを封止する技術としては、「振動板と、前記振動板に対向して配置された対向電極と、前記振動板と前記対向電極とによって形成される振動室と、一方が前記振動室に連通し他方が封止部材により気密封止されている通路からなる静電アクチュエータにおいて、前記通路に前記封止部材が溜まる封止溜まり部が形成されている」ものが開示されている(たとえば、特許文献1参照)。この技術では、封止部材としてエポキシ系低温熱硬化タイプで粘度が1000〜14000cPであるものを使用している。
【0006】
酸化膜を堆積させてギャップを封止する技術としては、「インク液滴を吐出するノズル孔を有するノズル板と、前記ノズル孔に連通し少なくとも一方の壁が振動板によって形成された吐出室を有する吐出室基板と、前記振動板と対向する位置に電極を有する電極基板とからなり、前記振動板と前記電極間に振動室が形成され、前記振動板を静電気力により変形させるインクジェットヘッドにおいて、前記振動室と外部を連通する連通孔が酸化膜により封止されている」ものが開示されている(たとえば、特許文献2参照)。この技術では、CVD(ChemicalVaporDeposition)法を用いて、酸化膜を堆積させてギャップの気密封止を行なうようにしている。
【0007】
キャビティプレートの底面を電極リード部の表面に形成した絶縁膜に密着接合させてギャップを封止する技術としては、「電極として作用する弾性変形可能な複数の振動板が底面に形成されたキャビティプレートと、各振動板に対向する複数の電極部および各電極部から延びる電極リード部がそれぞれ電極用溝内に形成された電極基板とを有し、前記キャビティプレートの底面と前記各溝とにより形成された隙間を備えてなる静電アクチュエータであって、前記電極リード部の表面に絶縁膜が形成され、前記キャビティプレートの底面が前記絶縁膜に密着接合されて前記隙間が封止されている」ものが開示されている(たとえば、特許文献3参照)。この技術では、封止剤を用いないでギャップを封止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−304685号公報(第3頁や第1図等)
【特許文献2】特開2002−1972号公報(第4頁や第1図等)
【特許文献3】特開2008−260195号公報(第7頁や第4図等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載のような技術では、封止溜まり部を形成するようになっており、封止溜まり部の配置上の制約や封止溜まり部を形成するための複雑な工程に対する改善の余地が残っている。
特許文献2に記載のような技術では、CVD法を用いてギャップを封止することが前提となっているため、生産性が低く、また材料費が高くなり、コストパフォーマンスが悪いといった課題があった。
特許文献3に記載のような技術では、電極リード部の表面に形成する絶縁膜を研磨してその頂面高さをガラス基板の頂面高さに合わせる工程が必要であるとともに、その製造工程が難しいといった課題があった。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、ギャップの封止を複雑な工程を要することなく、安価な材料を用いて行なうようにして小型化及び低コスト化を実現するようにした静電アクチュエーター、液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び静電アクチュエーターの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る静電アクチュエーターは、固定電極及び固定電極から延び、固定電極に駆動信号を供給するリード部が形成された凹部を有する第1の基板と、固定電極にギャップを隔てて対向し、固定電極との間で発生させた静電気力により動作する可動電極及びリード部に対向し、凹部に挿入されることでギャップを封止している封止薄膜部を有する第2の基板と、を備えたことを特徴とする。
これにより、ギャップの断面積が縮小し、ギャップの封止が行なえる。したがって、ギャップ内に水分等の異物が侵入せず、静電アクチュエーターの耐久性が向上する。
【0012】
本発明に係る静電アクチュエーターは、可動電極及び封止薄膜部が、第2の基板の一部で構成されていることを特徴とする。
したがって、封止薄膜部に第2の基板以外の材料を用いる必要がなく、製造に要する手間及びコストの低減を実現できる。
【0013】
本発明に係る静電アクチュエーターは、封止薄膜部が、可動電極の厚みと略同等の厚みを有していることを特徴とする。
これにより、封止薄膜部を可動電極と同様の工程で作製することができ、製造に要する手間を低減することができる。
【0014】
本発明に係る静電アクチュエーターは、第1の基板がガラス基板、第2の基板がシリコン基板であって、ガラス基板及びシリコン基板が陽極接合された際に封止薄膜部が弾性変形し凹部に挿入されることでギャップを封止することを特徴とする。
すなわち、封止薄膜部を弾性変形させるための特別の手段を要しなくて済み、製造に要する手間を更に軽減できることになる。
【0015】
本発明に係る静電アクチュエーターは、封止薄膜部の底面とリード部及び凹部とが接合された部分の外側から封止材を注入していることを特徴とする。
これにより、ギャップを確実に封止することが可能になる。また、封止材の侵入長さを制御できるので、小型化を実現することにもなる。
【0016】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、固定電極及び固定電極から延び、固定電極に駆動信号を供給するリード部が形成された凹部を有する電極基板と、固定電極にギャップを隔てて対向し、底壁が振動板となる吐出室及びリード部に対向し、凹部に挿入されることでギャップを封止している封止薄膜部が形成されたキャビティ基板と、吐出室から移送される液体を液滴として吐出するノズル孔が形成されたノズル基板と、を備えたことを特徴とする。
これにより、ギャップの断面積が縮小し、ギャップの封止が行なえる。したがって、ギャップ内に水分等の異物が侵入せず、液滴吐出ヘッドの耐久性が向上する。
【0017】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする。したがって、上述の液滴吐出ヘッドの効果をすべて有している。
【0018】
本発明に係る静電アクチュエーターの製造方法は、第1の基板に形成した凹部に、固定電極及び固定電極から延び、固定電極に駆動信号を供給するリード部を形成し、第2の基板に、固定電極との間で発生させた静電気力により動作する可動電極及びリード部と凹部に接合する封止薄膜部を同一工程で形成し、固定電極と可動電極とが、リード部と封止薄膜部とが、それぞれギャップを隔てて対向するように第1の基板及び第2の基板とを陽極接合させることで、封止薄膜部を弾性変形させて凹部に挿入することでギャップを封止し、封止薄膜部が挿入された部分に封止材を注入してギャップを更に封止することを特徴とする。
したがって、複雑な工程を経ることがなく、高価な材料を使用することがないので、製造に要する手間及びコストの低減を実現できる。また、ギャップを確実に封止することができるので、耐久性の向上に寄与する。さらに、封止材の侵入長さを制御できるので、小型化を実現することにもなる。
【0019】
本発明に係る静電アクチュエーターの製造方法は、第2の基板の片面にボロンドープ層を形成し、エッチングストップ技術を用いて可動電極及び封止薄膜部をボロンドープ層で形成していることを特徴とする。
したがって、特段の手段を経ることなく、静電アクチュエーターを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを分解した状態を示す分解斜視図である。
【図2】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドが組み立てられた状態の縦断面図である。
【図3】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの特徴事項を説明するための模式図である。
【図4】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドの製造工程の流れの一例を示すフローチャートである。
【図5】実施の形態1に係る液滴吐出ヘッドを搭載した液滴吐出装置の一例を示した斜視図である。
【図6】実施の形態2に係る液滴吐出装置の主要な構成手段の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態について説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド1を分解した状態を示す分解斜視図である。図2は、液滴吐出ヘッド1が組み立てられた状態の縦断面図であり、図1におけるX−X断面(吐出室21の長辺方向における断面)を示している。図1及び図2に基づいて、液滴吐出ヘッド1の構成及び動作について説明する。なお、図1を含め、以下の図面では各構成部材の大きさの関係が実際のものとは異なる場合がある。また、図の上側を上とし、下側を下として説明するものとする。
【0022】
この液滴吐出ヘッド1は、ノズル基板10に設けられたノズル孔11から液滴を吐出させるフェイスイジェクトタイプである場合を例に示している。図1及び図2に示すように、この液滴吐出ヘッド1は、電極基板30、キャビティ基板20及びノズル基板10が下から順に積層されて構成されている。つまり、キャビティ基板20を電極基板30とノズル基板10とで上下から挟む構造となっている。このように、液滴吐出ヘッド1が3層構造である場合を例に説明するが、リザーバーを独立して形成したリザーバー基板を含めた4層構造としてもよい。なお、電極基板30とキャビティ基板20とは陽極接合で、キャビティ基板20とノズル基板10とはエポキシ樹脂等の接着剤で、それぞれ接合するとよい。以下、各基板毎に構成を説明する。
【0023】
[キャビティ基板20]
第2の基板に相当するキャビティ基板20は、たとえば厚さ約50μm(マイクロメートル)の(110)面方位のシリコン単結晶基板(以下、単にシリコン基板という)を主要な材料として構成されている。このシリコン基板に異方性ウエットエッチングを行ない、底壁が可撓性を有し、弾性変形可能な振動板(可動電極)22となる吐出室(または、圧力室)21を複数形成する。この吐出室21は、電極基板30に形成した固定電極32の電極列に対応して形成されており、液体が一時的に保持されて吐出圧が加えられるようになっている。また、吐出室21は、紙面手前側から奥側にかけて平行に並んで形成されているものとする。
【0024】
振動板22は、高濃度のボロンドープ層で形成するようにしている。水酸化カリウム水溶液等のアルカリ溶液による単結晶シリコンのエッチングにおけるエッチングレートは、ドーパントがボロンの場合、約5×1019atoms/cm3 以上の高濃度の領域において、非常に小さくなる。このため、振動板22の部分を高濃度のボロンドープ層とし、アルカリ溶液による異方性ウエットエッチングによって吐出室21を形成する際に、ボロンドープ層が露出してエッチングレートが極端に小さくなる、いわゆるエッチングストップ技術を用いて、振動板22を所望の厚さ(たとえば、0.8μm程度の厚さ)に形成することができる。
【0025】
また、キャビティ基板20には、封止薄膜部25が形成されている。この封止薄膜部25は、キャビティ基板20の一部、つまり後述するリード部33と対向する部分に形成されている。図2に示すように、封止薄膜部25は、キャビティ基板20と電極基板30とが接合された状態において電極基板30に接合(つまり、リード部33及びリード部33が形成されている後述する凹部31内に挿入)されてギャップ40を封止する。また、封止薄膜部25は、振動板22と同一工程で形成することができる。こうすれば、封止薄膜部25は振動板22と略同等の厚みで形成されることになる。
【0026】
また、キャビティ基板20には、各吐出室21に共通に供給する液体を溜めておく共通液体室としての機能を有するリザーバー23が形成されている。このリザーバー23の底部には、電極基板30に形成する液体供給穴36と連通する液体供給穴24が開口形成されている。この液体供給穴24は、電極基板30の液体供給穴36と連通して、外部のタンク(図示省略)から供給された液体をリザーバー23に取り入れる際の流路となるものである。さらに、キャビティ基板20の上面(ノズル基板10との接合面)には、リザーバー23と吐出室21とを連通させるためのオリフィス26が形成されている。
【0027】
キャビティ基板20の下面(電極基板30と対向する面)には、図示を省略しているが振動板22と固定電極32との間を電気的に絶縁するためのTEOS膜(ここでは、Tetraethyl orthosilicate Tetraethoxysilane:テトラエトキシシラン(珪酸エチル)を用いてできるSiO2 膜をいう)である絶縁膜をプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition:TEOS−pCVDともいう)法を用いて、0.1μm程度成膜している。これは、振動板22の駆動時における絶縁破壊及び短絡を防止するためと、液体によるエッチングを防止するためのものである。
【0028】
ここでは、絶縁膜がTEOS膜である場合を示しているが、これに限定するものではなく、絶縁性能が向上する物質であればよい。たとえば、Al23(酸化アルミニウム(アルミナ))を用いてもよい。また、キャビティ基板20の上面にも、図示省略の液体保護膜となるSiO2 膜(TEOS膜を含む)を、プラズマCVD法又はスパッタリング法により成膜するとよい。液体保護膜を成膜することによって、液体で流路が腐食されるのを防止できるからである。この液体保護膜の応力と絶縁膜の応力とを相殺させ、振動板22の反りを小さくできるという効果もある。
【0029】
キャビティ基板20のヘッド端部には、外部電極端子としての共通電極端子28が形成されている。この共通電極端子28は、図示省略のFPC(Flexible Printed Circuit)と接続され、外部の発振回路50から振動板22に固定電極32と反対の極性の電荷を供給する際の端子となるものである。なお、共通電極端子28としては、たとえば0.1μm程度の厚さのPt(platinum)膜を成膜することにより形成するとよい。
【0030】
[電極基板30]
第1の基板に相当する電極基板30は、たとえば厚さ1mm(ミリメートル)の硼珪酸系の耐熱硬質ガラス等を主要な材料として形成するとよい。図1及び図2に示すように、電極基板30は、キャビティ基板20の下面(ノズル基板10の接合面とは反対側の面)に接合される。この電極基板30の表面には、キャビティ基板20に形成される各吐出室21に合わせ、エッチング等により深さ約0.2μmの凹部(ガラス溝)31が設けられる。この凹部31のパターン形状は、その内部に固定電極32、リード部33及び端子部34(特に区別する必要がない限り、固定電極32にリード部33及び端子部34を含めて説明する)を設けるため、その固定電極32よりも少し大きめに作製する。
【0031】
また、各凹部31の内部(特に底部)には、キャビティ基板20の振動板22と一定の間隔(ギャップ40)をもって対向するように、固定電極部となる矩形状の固定電極32が形成されている。固定電極32には、発振回路50からの駆動信号が端子部34及びリード部33を介して供給されるようになっている。端子部34は、固定電極32へ駆動信号を供給する発振回路50に接続されるようになっている。リード部33は、固定電極32と端子部34とを接続するようになっている。
【0032】
この固定電極32は、酸化錫を不純物としてドープした可視光領域で透明のITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)を材料として、凹部31の内側に約0.1μmの厚さにスパッタ法を用いて成膜することで形成される。なお、固定電極32をクロム等の金属等を材料で形成してもよいが、実施の形態1では、ギャップ40内の観察がし易い、透明であるので放電したかどうかの確認が行い易い等の理由でITOを用いることが好ましい。
【0033】
ギャップ40は、電極基板30とキャビティ基板20とを接合して積層体を形成した際に、振動板22と固定電極32との間に振動板22を撓ませる(変位させる)ことができるように形成される。このギャップ40の深さは、凹部31の深さ、及び、固定電極32の厚みにより決まることになる。このギャップ40は、液滴吐出ヘッド1の吐出特性に大きく影響する。そのため、厳格な精度管理が要求される。このギャップ40は、各振動板22に対向する位置に細長い一定の深さを有するように形成されている。
【0034】
ギャップ40は、キャビティ基板20の一部に形成した封止薄膜部25及び樹脂材料等を使用した封止材41により封止されており、水分等の侵入による振動板22の貼りつきや放電が防止されている。キャビティ基板20と電極基板30とが接合された際、封止薄膜部25が弾性変形することによって、ギャップ40の縦断面積が縮小してギャップ40を封止する。その封止に加えて、封止薄膜部25の底面とリード部33及び凹部31とが接合された部分(封止薄膜部25が凹部31に挿入された部分)の外側から封止材41を注入することによってギャップ40を確実に封止している。
【0035】
さらに、電極基板30には、液体供給穴24と連通する液体供給穴36が開口形成されている。液体供給穴36は、たとえばサンドブラスト加工または切削加工により形成するとよい。液滴吐出ヘッド1では、複数の固定電極32が長辺及び短辺を有する長方形状に形成されており、固定電極32が互いの長辺が平行になるように配置されている。そして、図1では、固定電極32の短辺方向に伸びる2つの電極列を示している。なお、固定電極32の短辺が長辺に対して斜めに形成されており、固定電極32が細長い平行四辺形状になっている場合には、長辺方向に直角方向に伸びる電極列を形成するようにすればよい。また、ここで示した凹部31の深さやギャップ40の深さ、固定電極32の厚み等は一例であり、ここで示す値に限定するものではない。
【0036】
[ノズル基板10]
ノズル基板10は、たとえば厚さ180μmのシリコン基板を主要な材料として構成されている。ノズル基板10は、キャビティ基板20の上面(電極基板30の接合面とは反対の面)に接合されている。このノズル基板10には、各吐出室21と連通するノズル孔11が形成されている。そして、各ノズル孔11からは、振動板22の変位により加圧された吐出室21内の液体が液滴として外部に吐出されるようになっている。
【0037】
また、図2に示すように、ノズル孔11を複数段(たとえば、2段)で形成すると、液滴を吐出する際の直進性の向上が期待できる。さらに、ノズル基板10のリザーバー23に対応する部分には、図示を省略しているが振動板22の変位によりリザーバー23側の液体に加わる圧力変動を吸収し、ノズル間のクロストークを抑制するダイヤフラムを形成するとよい。
【0038】
以上のように構成された液滴吐出ヘッド1においては、吐出室21にノズル孔11から吐出させる液体を貯めておき、吐出室21の底壁である振動板22を撓ませることにより、吐出室21内の圧力を高め、液体をノズル孔11から液滴として吐出させるようになっている。なお、実施の形態1では、ノズル孔11を有するノズル基板10を上面とし、電極基板30を下面として説明するが、実際に用いられる場合には、ノズル基板10の方が電極基板30よりも下面となることが多い。
【0039】
[液滴吐出ヘッド1の動作]
発振回路50は、キャビティ基板20の共通電極端子28及び端子部34に接続され、振動板22及び固定電極32に電荷の供給及び停止を制御するようになっている。また、リザーバー23には、液体供給穴36及び液体供給穴24を介して外部から液体が供給されている。さらに、吐出室21には、オリフィス26を介してリザーバー23から液体が供給されている。このような状態で、液滴吐出ヘッド1は動作を開始する。
【0040】
発振回路50は、たとえば24kHzで発振し、選択された固定電極32に0V〜30V程度のパルス電圧を印可して電荷供給を行ない、この固定電極32を正に帯電させる。このとき、対応するキャビティ基板20の振動板22には共通電極端子28を介して負の極性を有する電荷が供給され、この振動板22を相対的に負に帯電させる。そのため、選択された固定電極32とそれに対応する振動板22との間では静電気力が発生することになる。固定電極32と振動板22との間に静電気力が発生すると、振動板22は、その静電気力によって固定電極32側に引き寄せられて撓むことになる。これにより吐出室21の容積は広がる。
【0041】
次に、固定電極32へのパルス電圧の供給を止めると、振動板22と固定電極32との間の静電気力がなくなり、振動板22は元の状態に復元する。このとき、吐出室21の内部の圧力が急激に上昇し、その圧力により差分の液体がノズル孔11から液滴として吐出されることになる。この液滴が、たとえば記録紙に着弾することによって印刷等が行われるようになっている。その後、液体がリザーバー23からオリフィス26を通じて吐出室21内に補給され、初期状態に戻る。このような方法は、引き打ちと呼ばれるものであるが、バネ等を用いて液体を吐出する押し打ちと呼ばれる方法もある。
【0042】
[実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド1の特徴事項]
図3は、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド1の特徴事項を説明するための模式図である。図3(a)が図2におけるA−A断面を、図3(b)が図2におけるB−B断面を、それぞれ示している。上述したように、封止薄膜部25は、振動板22と略同等の厚みを有しているので、キャビティ基板20と電極基板30とを陽極接合した際に凹部31内に挿入されるように弾性変形し、電極基板30に形成したリード部33及び凹部31に接合し、ギャップ40を封止する。
【0043】
封止薄膜部25だけでギャップ40を封止するようにしてもよいが、ギャップ40を確実に封止するために、液滴吐出ヘッド1では封止薄膜部25の底面とリード部33及び凹部31とが接合された部分の外側から封止材41を注入するようにしている(図3(a)参照)。一方、キャビティ基板20と凹部31との間は、キャビティ基板20が厚みを有しているので、弾性変形しようとしてもシリコン基板の剛性が勝り、ギャップ40の精度が維持される(図3(b)参照)。同様に、静電アクチュエーターの振動板22も、振動板の幅が封止薄膜部25に比較して狭いため、振動板の剛性が勝り、ギャップ40の精度が維持される。
【0044】
したがって、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド1では、ギャップ40を封止薄膜部25及び封止材41によって封止するようにしているので、従来のようなギャップの封止に比べ、複雑な工程を経ることなく、ギャップ40を確実に封止することができる。加えて、樹脂等の安価な材料で封止材41を構成するので、低コストである。また、ギャップ40を確実に封止できるので、ギャップ40内に異物が侵入せず、静電アクチュエーターの耐久性の向上が可能になる。
【0045】
封止材41は、封止薄膜部25と凹部31との接合部分で確実に侵入が止まる。つまり、封止材41の侵入長さの制御が可能であり、封止材41の侵入長さを短くすることができる。このように封止材41の侵入長さの制御が可能であるので、静電アクチュエーターの小型化が実現できることになる。すなわち、実施の形態1では、封止薄膜部25及び封止材41によってギャップ40を確実に封止することによって耐久性の向上及び小型化を実現した液滴吐出ヘッド1を提供できるのである。
【0046】
次に、静電アクチュエーターの製造工程について液滴吐出ヘッド1の製造工程とともに説明する。図4は、液滴吐出ヘッド1の製造工程の流れの一例を示すフローチャートである。図4に基づいて、液滴吐出ヘッド1の製造工程の流れの一例について説明する。なお、以下に示す基板の厚さやエッチング深さ、温度、圧力等の値はあくまでも一例であり、本発明はこれらの値によって限定されるものではない。また、実際には、シリコンウエハから複数個分の液滴吐出ヘッドの部材を同時形成するのが一般的になっている。
【0047】
[電極基板30の製作(図4(S0))]
電極基板30は、たとえば厚さが約1mmの両面鏡面のホウ珪酸ガラス基板を用意し、上面に金・クロムのエッチングマスクを施し、フッ酸水溶液等でエッチングして凹部31を形成した後に、凹部31内にスパッタ等によりITOからなる固定電極32(リード部33及び端子部34も含む)を形成する。それから、このガラス基板にブラスト加工を施し、液体供給穴36を形成する。このようにして電極基板30を製作することができる。
【0048】
[キャビティ基板20の製作(図4(S1)〜(S9))]
まず、キャビティ基板20となる両面を鏡面研磨したシリコン基板の片側表面に振動板22及び封止薄膜部25となるボロンドープ層を形成する(図4(S1))。更に、シリコン基板のボロンドープ層が形成されている表面に絶縁膜を数百nm形成する(図4(S2))。この絶縁膜は、たとえばプラズマCVD法やALD(Atomic Layer Deposition)法、ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタ法等により成膜するとよい。
【0049】
その後、絶縁膜の表面に図示省略のレジストを塗布し、吐出室21及びリザーバー23となる凹部等の流路と、封止薄膜部25を形成するための凹部と、を形成するためのパターニングをフォトリソグラフィーによって行ない、それらの部分をたとえば水酸化カリウム水溶液等で異方性ウエットエッチングする(図4(S3))。これにより、液体流路となる吐出室21、リザーバー23及びオリフィス26が形成されるとともに、封止薄膜部25が形成される。
【0050】
この異方性ウエットエッチングの工程では、たとえば始めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用する2段階のエッチングを実施するのが好ましい。これにより、振動板22及び封止薄膜部25の面荒れを抑制することができる。以上のエッチング処理においては、先に形成していたボロンドープ層がエッチングストップとして作用し、残ったボロンドープ層が振動板22及び封止薄膜部25として形成されることになる。
【0051】
エッチング終了後、たとえばフッ酸水溶液を用いてシリコン基板の全面から絶縁膜を剥離する(図4(S4))。また、シリコン基板の流路形成面にたとえばCVDによって酸化シリコン等からなる液体保護膜を形成する。さらに、ボロンドープ層の表面に絶縁膜を形成するとともに、共通電極端子28も形成する(図4(S5))。共通電極端子28は、RIE(Reactive Ion Etching)によって、共通電極端子28となる箇所の液体保護膜を除去し、たとえばPtをスパッタリングすることにより形成する。このRIEは、ドライエッチングの一種であり、たとえば出力200W、圧力40Pa(0.3Torr)、CF4 流量30cm3 /分(30sccm)の条件で、シリコンマスクを用いて行なう。このようにしてキャビティ基板20を作製する。
【0052】
それから、キャビティ基板20と電極基板30とをアライメントした後、360℃に加熱し、電極基板30に負極、キャビティ基板20に正極を接続して、800Vの電圧を印加して陽極接合する(図4(S6))。キャビティ基板20と電極基板30とを陽極接合すると、封止薄膜部25が弾性変形して、凹部31に挿入され、電極基板30に形成してあるリード部33及び凹部31に接合する。このようにしてギャップ40が封止される。つまり、ギャップ40は、陽極接合と同時に封止されることになる。
【0053】
ギャップ40を更に確実に封止するために、陽極接合後、封止薄膜部25の底面とリード部33及び凹部31とが接合された部分の外側から封止材41を注入する(図4(S7))。これによって、ギャップ40が確実に封止され、ギャップ40内に異物や湿気等が浸入するのが防止される。そして、ノズル孔11が形成されたノズル基板10をエポキシ樹脂等の接着剤を用いてキャビティ基板20の電極基板30との接合面とは反対側面に接合する(図4(S8))。最後に、電極基板30、キャビティ基板20、及び、ノズル基板10が接合された接合基板をダイシング(切断)して個々の液滴吐出ヘッド1が完成する(図4(S9))。
【0054】
このように製造された液滴吐出ヘッド1においては、ギャップ40を封止薄膜部25及び封止材41によって確実に封止するようにしているので、低コスト化を実現できるとともに、耐久性の向上が可能になる。また、封止材41の侵入長さの制御が可能であるので、小型化が実現できることになる。
【0055】
実施の形態2.
図5は、実施の形態1に係る液滴吐出ヘッド1を搭載した液滴吐出装置2の一例を示した斜視図である。また、図6は、液滴吐出装置2の主要な構成手段の一例を表す図である。図5及び図6に基づいて、実施の形態2に係る液滴吐出装置2について説明する。この液滴吐出装置2は、液滴吐出方式(インクジェット方式)による印刷を目的とする、いわゆる一般的なシリアル型のインクジェットプリンタである。また、搭載される液滴吐出ヘッド1は、上述したように耐久性の向上及び小型化を図るようにしたものであるので、液滴吐出装置2も耐久性の向上及び小型化を実現したものとなる。
【0056】
液滴吐出装置2は、被印刷物であるプリント紙210が支持されるドラム201と、プリント紙210にインクを吐出し、記録を行う液滴吐出ヘッド1とで主に構成される。また、液滴吐出ヘッド1にインクを供給するための図示省略のインク供給手段がある。プリント紙210は、ドラム201の軸方向に平行に設けられた紙圧着ローラ203により、ドラム201に圧着して保持されるようになっている。このドラム201の軸方向に平行に設けられている送りネジ204によって液滴吐出ヘッド1が保持されるようになっている。
【0057】
そして、この送りネジ204が回転することによって液滴吐出ヘッド1がドラム201の軸方向に移動する。一方、ドラム201は、ベルト205等を介してモータ206により回転駆動されるようになっている。また、プリント制御手段207は、印画データ及び制御信号に基づいて送りネジ204及びモータ206を駆動させるようになっている。さらに、プリント制御手段207は、図示省略の発振駆動回路を駆動させて振動板22を制御しながらプリント紙210に印刷を行わせるようになっている。
【0058】
ここでは、液体をインクとしてプリント紙210に吐出するようにしている場合を例に説明したが、これ限定するものではない。たとえば、カラーフィルターとなる基板に吐出させる用途においては、カラーフィルター用の顔料を含む液体であってもよい。また、有機化合物等の電界発光素子を用いた表示パネル(OLED等)の基板に吐出させる用途においては、発光素子となる化合物を含む液体であってもよい。さらに、基板上に配線する用途においては、導電性金属を含む液体であってもよい。
【0059】
一方、液滴吐出ヘッド1をディスペンサとし、生体分子のマイクロアレイとなる基板に吐出する用途に用いる場合では、DNA(Deoxyribo Nucleic Acids:デオキシリボ核酸)や、RNA(Ribo Nucleic Acid:リボ核酸)、PNA(Peptide Nucleic Acids:ペプチド核酸)等のタンパク質プローブを含む液体を吐出させるようにしてもよい。その他、布等の染料の吐出等にも利用することができる。
【0060】
本発明の実施の形態に係る液滴吐出ヘッド、液滴吐出装置及び液滴吐出ヘッドの製造方法は、上述の実施の形態で説明した内容に限定されるものではなく、本発明の思想の範囲内において変更することができる。たとえば、液滴吐出ヘッド1の構成基板の積層数を上述した3層や4層に限定するものではない。また、液滴吐出ヘッド1の製造工程においても、上述した製造工程に限定するものではない。
【符号の説明】
【0061】
1 液滴吐出ヘッド、2 液滴吐出装置、10 ノズル基板、11 ノズル孔、20 キャビティ基板、21 吐出室、22 振動板、23 リザーバー、24 液体供給穴、25 封止薄膜部、26 オリフィス、28 共通電極端子、30 電極基板、31 凹部、32 固定電極、33 リード部、34 端子部、36 液体供給穴、40 ギャップ、41 封止材、50 発振回路、201 ドラム、203 紙圧着ローラ、204 ネジ、205 ベルト、206 モータ、207 プリント制御手段、210 プリント紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定電極及び前記固定電極から延び、前記固定電極に駆動信号を供給するリード部が形成された凹部を有する第1の基板と、
前記固定電極にギャップを隔てて対向し、前記固定電極との間で発生させた静電気力により動作する可動電極及び前記リード部に対向し、前記凹部に挿入されることで前記ギャップを封止している封止薄膜部を有する第2の基板と、を備えた
ことを特徴とする静電アクチュエーター。
【請求項2】
前記可動電極及び前記封止薄膜部は、
前記第2の基板の一部で構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の静電アクチュエーター。
【請求項3】
前記封止薄膜部は、
前記可動電極の厚みと略同等の厚みを有している
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の静電アクチュエーター。
【請求項4】
前記第1の基板がガラス基板、前記第2の基板がシリコン基板であって、
前記ガラス基板及び前記シリコン基板が陽極接合された際に前記封止薄膜部が弾性変形し前記凹部に挿入されることで前記ギャップを封止する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静電アクチュエーター。
【請求項5】
前記封止薄膜部が挿入された部分の外側から封止材を注入している
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の静電アクチュエーター。
【請求項6】
固定電極及び前記固定電極から延び、前記固定電極に駆動信号を供給するリード部が形成された凹部を有する電極基板と、
前記固定電極にギャップを隔てて対向し、底壁が振動板となる吐出室及び前記リード部に対向し、前記凹部に挿入されることで前記ギャップを封止している封止薄膜部が形成されたキャビティ基板と、
前記吐出室から移送される液体を液滴として吐出するノズル孔が形成されたノズル基板と、を備えた
ことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項7】
前記請求項6に記載の液滴吐出ヘッドを備えた
ことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項8】
第1の基板に形成した凹部に、固定電極及び前記固定電極から延び、前記固定電極に駆動信号を供給するリード部を形成し、
第2の基板に、前記固定電極との間で発生させた静電気力により動作する可動電極及び前記リード部と前記凹部に接合する封止薄膜部を同一工程で形成し、
前記固定電極と前記可動電極とが、前記リード部と前記封止薄膜部とが、それぞれギャップを隔てて対向するように前記第1の基板及び前記第2の基板とを陽極接合させることで、前記封止薄膜部を弾性変形させて前記凹部に挿入することで前記ギャップを封止し、
前記封止薄膜部が挿入された部分に封止材を注入して前記ギャップを更に封止する
ことを特徴とする静電アクチュエーターの製造方法。
【請求項9】
前記第2の基板の片面にボロンドープ層を形成し、エッチングストップ技術を用いて前記可動電極及び前記封止薄膜部を前記ボロンドープ層で形成している
ことを特徴とする請求項8に記載の静電アクチュエーターの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−288409(P2010−288409A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141942(P2009−141942)
【出願日】平成21年6月15日(2009.6.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】