説明

非接触シール装置および連続熱処理炉

【課題】鋼帯を連続的に熱処理する連続熱処理炉の内部を確実にシールすることができ、これにより、雰囲気ガスの漏洩を、鋼帯の品質を低下することなく低コストで確実に防止する。
【解決手段】気密性を要求されるゾーン2〜1間にシールボックス1を配置し、非接触で鋼帯2を挟み込むように配置される一対の仕切り板3と、仕切り板3および鋼帯2に非接触で鋼帯2を挟みこむように配置される一対のシールロール4と、シールガス供給ノズル5と、補助シールガス供給ノズル7とを備えるシール装置0である。シールロール4と仕切り板3との二つの間隙の圧力を部分的に上昇させるとともに、随伴流F1の成長を抑制でき、また、シールロール4を設置したシールボックス1の内部空間の静圧を上昇させることが可能となり、圧力変動によるこのシールボックス8への雰囲気ガスの流入を抑制でき、さらに、鋼帯2の搬送ラインの端のシール性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非接触シール装置および連続熱処理炉に関し、具体的には、金属帯を連続的に熱処理する連続熱処理炉の内部の熱処理領域間の雰囲気ガスの漏洩を防止するための非接触シール装置、およびこれを有する連続熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
金属帯の連続熱処理炉、例えば、鋼帯の連続焼鈍炉は、加熱帯、均熱帯、徐冷帯、急冷帯および過時効帯等の各種の熱処理領域により構成される炉体の内部に、鋼帯を順次通過させて鋼帯に所定のヒートパターンを与えることにより、鋼帯の熱処理を行う。例えば、加熱帯には直火加熱方式や誘導加熱方式といった各種の加熱方式が採用され、また急冷帯にはミスト冷却方式、ガスジェット冷却方式、ロール冷却方式さらには浸漬冷却方式といった各種の冷却方式が採用される。
【0003】
熱処理中は、鋼帯の表面の酸化による表面外観の劣化を防止するために、一般的に、水素を少量含有した水素および窒素混合ガスが連続熱処理炉の雰囲気ガスとして用いられる。鋼帯がこのような雰囲気を通過すると、還元反応により水素が消費され水蒸気が発生するため、鋼帯の酸化抑制を図ることが困難になる。そこで、炉体の各熱処理領域には、雰囲気ガスの排出口と供給口とが設けられ、必要とされる水素濃度に保たれている。
【0004】
このように、連続熱処理炉を構成する各種の熱処理領域それぞれの内部の雰囲気は、必ずしも同一ではなく、例えば、特定の熱処理領域で他とは異なる雰囲気ガスを使用する場合や、水を用いた冷却を行い大量の水蒸気が発生する場合、あるいはバーナー等の炉内設備から水蒸気等のガスが発生する場合等がある。このため、これらの場合には、他の熱処理領域の雰囲気ガスとの混合を防ぐ必要がある。
【0005】
そこで、様々なシール手段が連続熱処理炉の炉体の熱処理領域間に配置される。また、水を用いた冷却の場合、水と鋼帯との衝突や水蒸気の発生の時間的な変動に伴って、絶対値は小さいものの予測不能な圧力変動が不可避的に発生し、これにより、流動が発生して雰囲気ガスが移動することがあり、このような現象の発生を抑制する必要もある。
【0006】
連続熱処理炉のシール手段に関する様々な構成が、従来から多数提案されている。例えば、シール手段として仕切り板を用いて炉内流れの発生を防止する技術、接触または非接触のシールロールをシール手段として用いて炉内の流れを遮る技術、鋼帯の表面への弾性材の接触により隣接する二つの熱処理領域の間の開口部を塞ぐ技術、ノズルからシールガスを供給して強制的に漏洩ガスを押し戻す技術、さらにはこれらを組み合わせた技術が知られている。
【0007】
例えば、特許文献1には、鋼帯に対向する位置に配置されたスリット状ノズルを持つ貯気室をシール手段として用い、この貯気室により鋼帯にシールガスを吹き付けるととも、向きをずらしてスリット状ノズルを配置することによって鋼帯が存在しない部分でのシール性をも維持する発明が開示されている。
【0008】
特許文献2には、ガス噴射冷却帯からハースロールへの冷却ガスの進入を防ぐために、接触型のシールロールを千鳥状に配置してシール手段を構成し、これにより、冷却帯とハースロール部とを仕切る壁に設けられたスリット状開口部へ冷却ガスが流入することを防止する発明が開示されている。
【0009】
特許文献3には、熱処理領域間を区切る仕切り板によりシール手段を構成し、その内部のシールロールを鋼帯に近接配置し、シールロールの回転数を制御するとともにシールロールを水冷することにより、シールロールを鋼帯に近接させ高いシール効果を得るとともに、鋼帯とシールロールとの接触を防ぎ、鋼帯の疵の発生を防ぐ発明が開示されている。
【0010】
さらに、特許文献4には、炉の出入口への設置を想定したシール手段により弾性ロールを鋼帯に接触させることによってシール効果を確保するとともに、弾性ロールを多数組み合わせることによりシールのための空間を構成し、そこにシールガスを供給することによりシール性をさらに向上させる発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭62−2707295号公報
【特許文献2】特開平9−95741号公報
【特許文献3】特開2000−192151号公報
【特許文献4】特開平8−53716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1により開示された発明では、シール性能を高めるためには貯気室又はスリットノズル先端と鋼帯との間の距離を近接させるか、シールガスの流量を増大させる必要がある。しかし、前者では鋼帯の形状によっては貯気室の壁、若しくはノズル先端と鋼帯とが接触して鋼帯の表面を疵つけるおそれがある。また、後者では流量を増大させるために、シールガスのコストが増大するとともに、過剰に供給されたシールガスが炉内の流動状況を乱すおそれもある。
【0013】
特許文献2により開示された発明では、冷却ガスの仕切り板開口部への直接的な流入を防ぐことは確かに可能であるが、鋼帯がシールロールを通過した時以降に発生した随伴流によって冷却帯内の雰囲気ガスがハースロール側に持ち込まれてしまう。また、炉内に圧力差が発生し、冷却帯側の圧力がハースロール側よりも高くなった場合には、圧力差の存在によって発生する流れを抑制することができず、冷却帯側からのガス漏洩を防ぐことができない。
【0014】
特許文献3により開示された発明では、鋼帯にシールロールを接触させないため、鋼帯とシールロールによる随伴流による流れが発生し、熱処理領域間の圧力差等により発生する鋼帯の走行方向と逆方向の漏洩に対しては効果があるものの、随伴流自体による漏洩、または領域間の圧力差によって発生する鋼帯の走行方向と同一方向へのガス漏洩を防ぐことができない。また、シールロールと仕切り板の間には鋼帯の随伴流とは逆方向への漏洩をもたらす随伴流が存在するため、シールロールと鋼帯との間においては鋼帯の走行方向と逆方向への漏洩は抑制されるが、仕切り板とシールロールとの間での漏洩は防止できない。
【0015】
さらに、特許文献4により開示された、弾性ロールを仕切り板および鋼帯の双方に接触させて完全に開口部を密封する発明は、炉外若しくは炉内においても低温部分での設置は可能であるものの、熱処理炉の高温領域間のシールに用いると弾性ロールの耐久性が不足する。また、弾性材を用いたシールロールを用いるので、鋼帯との金属−金属接触を回避することは可能であるものの、炉の内外で発生した異物等を巻き込んだ場合には鋼帯の表面疵が発生することとなる。
【0016】
本発明は、従来の技術が有するこれらの課題に鑑みてなされたものであり、例えば鋼帯といった金属帯を連続的に熱処理する連続熱処理炉の内部を確実にシールすることができ、これにより、雰囲気ガスの漏洩を、金属帯の品質を低下することなく低コストで確実に防止することができる非接触シール装置と、この非接触シール装置を有する連続熱処理炉とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、搬送される金属帯を加熱または冷却するために並んで設置されるとともに連続熱処理炉を構成する複数の熱処理領域のうちの少なくとも一の熱処理領域の内部または外部に配置されて、この熱処理領域の気密性を維持するためのシール装置であって、金属帯との間に金属帯の板厚よりも大きい隙間を形成して、金属帯に非接触で金属帯を挟んで配置される一対の仕切り部材と、一対の仕切り部材に非接触で近接して、かつ金属帯との間に金属帯の板厚よりも大きい隙間を形成して、金属帯に非接触で金属帯を挟んで配置される一対のシールロールと、仕切り部材とシールロールとの間に形成される間隙にシールガスを供給するために配置されるシールガス供給ノズルとを備えることを特徴とする連続熱処理炉のシール装置である。
【0018】
この本発明に係る連続熱処理炉のシール装置では、シールロールは、その回転数が制御可能であって、かつその外周速度が金属帯の搬送速度と同一であることが、金属帯の擦傷を防止するために望ましい。
【0019】
これらの本発明に係る連続熱処理炉のシール装置では、板厚、板形態及び炉内状況に応じて、仕切り部材は金属帯の板厚方向と略平行な方向へ移動可能に配置されるとともに、この方向への隙間の距離は調整可能であることが、金属帯の擦傷防止とシール性の確保とを図るために望ましい。
【0020】
これらの本発明に係る連続熱処理炉のシール装置では、板厚、板形態及び炉内状況に応じて、シールロールは金属帯の板厚方向と略平行な方向へ移動可能に配置されるとともに、この方向への前記隙間の距離は調整可能であることが、さらにシール性を確保するために望ましい。
【0021】
これらの本発明に係る連続熱処理炉のシール装置では、シールガス供給ノズルは、シールガスの噴出方向を調整可能に配置されるとともに、シールロールの回転方向と同じ向きにシールガスを噴出することが、さらにシール性を確保するために望ましい。
【0022】
これらの本発明に係る連続熱処理炉のシール装置では、金属帯サイズ、搬送速度及び炉内状況に応じて、シールガス供給ノズルは、シールガスの供給量を調整可能に配置されることが、さらに、シール性を確保するために望ましい。
【0023】
これらの本発明に係る連続熱処理炉のシール装置では、さらに、一対のシールロールそれぞれの軸方向の両端部の間にシールガスを供給するために配置される一つ以上の補助シールガス供給ノズルを備えることが、ラインの端のシール性を確保するために望ましい。この場合に、金属帯サイズ、搬送速度及び炉内状況に応じて、補助シールガス供給ノズルは、シールガスの供給量を調整可能に配置されることが、さらに、シール性を確保するために望ましい。
【0024】
別の観点からは、本発明は、搬送される金属帯を加熱または冷却するために並んで設置される複数の熱処理領域を備える連続熱処理炉であって、隣接する二つの熱処理領域の間、または熱処理領域の内部に設けられた、上述した本発明に係るシール装置を少なくとも一つ有することを特徴とする連続熱処理炉である。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、金属帯を連続的に熱処理する連続熱処理炉の内部を確実にシールすることができ、これにより、雰囲気ガスの漏洩を、金属帯の品質を低下することなく低コストで確実に防止することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、本発明に係るシール装置の構成の概要を、模式的に示す説明図である。
【図2】図2(a)は、本発明に係るシール装置を適用した鋼帯の連続熱処理炉を示す正面図であり、図1(b)は、図1(a)中のA−A断面図であり、図1(c)は、B−B断面図である。
【図3】図3は、本発明の効果を示すために与えたゾーン間の圧力差を示すグラフである。
【図4】図4は、図3のグラフにおける矢印が示す時におけるゾーン2からのリーク状況を示す説明図である。
【図5】図5は、補助シールガス供給ノズル7の効果を示すために実施したシミュレーションにより、シールロール4の周囲の流動を模式的に示す説明図である。
【図6】図6は、従来の非接触シールロールの周囲の流動を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以降の説明では金属帯が鋼帯である場合を例にとるが、本発明が鋼帯に限定されるものではなく、鋼帯以外の金属帯にも同様に適用可能である。
【0028】
連続熱処理炉のシール装置に求められる主な要件として、雰囲気ガスの移動を抑制できること、および、鋼帯に疵等の欠陥を生じないことがある。前者に対しては、接触型シール装置を用いて開口部を完全に密閉することが最も効率的である。
【0029】
しかし、接触型シール装置における搬送される鋼帯との接触は、鋼帯に疵等の欠陥を不可避的に生じる。このため、これまでにも、シール部近傍に迷路状に多段に形成された凹凸の隙間により高圧の空気や蒸気の漏れ圧を徐々に低下するラビリンスシールや、非接触型シールロールが用いられてきたものの、ラビリンスシールによって圧力変動によるリークを抑制するためには、ラビリンスと鋼帯とを極めて近接させる必要があり、不可避的に発生する鋼帯の振動により、鋼帯の表面に疵が発生する。
【0030】
図6は、従来の非接触シールロール4の周囲の流動を模式的に示す説明図である。同図に示すように、熱処理炉の炉体の領域間を区切る仕切り板3、3によりシール室を構築し、その内部のシールロール4、4を鋼帯2に近接配置し、シールロール4、4、の回転数を制御することによってシール効果が得られる。
【0031】
しかし、鋼帯2の接触疵の発生を防止するためにシールロール4、4を回転させるため、シールロール4、4の周囲に随伴流F1が発生する。この随伴流F1は、シール性に対して一部はプラスに作用するものの一部はマイナスに作用し、結果としてシール性能の維持が困難になる。
【0032】
図1は、本発明に係るシール装置の構成の概要を、模式的に示す説明図である。
図1に示すように、本発明に係るシール装置0は、一対のシールロール4、4の周囲の流動現象を詳細に検討して得られたものであり、一対のシールロール4、4と一対の仕切り部材(仕切り板)3、3、との間隙に、新たに配置するシールガス供給ノズル5、5を介してシールガス(リークしても問題を生じない成分を有するガス)を吹き付けることによって、この間隙の圧力を部分的に上昇させるとともに、随伴流F1の成長を抑制でき、また、シールガス供給ノズル5からのシールガスの吹きつけによってシールロール4、4を設置した空間8(例えばシールボックスの内部空間)の静圧を上昇させることが可能となり、圧力変動によるこの空間8への雰囲気ガスの流入を抑制できるという技術思想に基づくものである。
【0033】
すなわち、本発明は、搬送される鋼帯2を加熱または冷却するために並んで設置されるとともに連続熱処理炉を構成する複数の熱処理領域のうちの少なくとも一の熱処理領域の内部または外部に配置されて、この熱処理領域の気密性を維持するためのシール装置0であって、
(i)鋼帯2との間に鋼帯2の板厚よりも大きい隙間を形成して、鋼帯2に非接触で鋼帯2を挟んで配置される一対の仕切り部材(仕切り板)3と、
(ii)一対の仕切り板3に非接触で近接して、かつ鋼帯2との間に鋼帯2の板厚よりも大きい隙間を形成して、鋼帯に非接触で鋼帯を挟んで配置される一対のシールロール4と、
(iii)仕切り板3とシールロール4との間に形成される間隙にシールガスF1を供給するために配置されるシールガス供給ノズル5と
を備えるものである。
【0034】
このシール装置0では、鋼帯2がシールロール4に接触しても鋼帯2に疵をつけないように、シールロール4の回転数及び位置を制御可能とし、シールロール4の周速度を鋼帯2の搬送速度と同一とすることが望ましい。
【0035】
また、シールロール4、4間の間隙も、鋼帯2への疵の発生防止とシール性との両立を図るため、鋼帯2の板厚や形態に応じて調整可能とすることが望ましい。具体的には、鋼帯2の板厚が厚い場合には、板厚に応じてシールロール4、4間を広く調整し、鋼帯2の形状が波打っているような場合には鋼帯2と設備とが接触しないようにさらにシールロール4、4、間を広く調整し、逆に、シールロール4、4間の間隙が広すぎるとシールロール4と鋼帯2との間隙が広くなってシール性を損なうため、シールロール4、4間の間隙は過剰に広く設定しないことが望ましい。
【0036】
一対の仕切り板3も、一対のシールロール4と同様に移動可能とし、鋼帯2の厚さやその形態に応じて仕切り板3、3間の間隙を調整できるようにすることが望ましい。
仕切り板3とシールロール4との間にシールガスF1を供給するシールガス供給ノズル5は、その噴出角度を調整可能とし、噴出方向をシールロール4の回転と同一方向とするとともに、そのガス噴出量も調整可能としシール能力の向上を図ることが望ましい。具体的には、このシール装置0が隣接する二つの熱処理領域の圧力差が高い場合、鋼帯2の搬送速度が速いために高速回転するシールロール4の周囲の随伴流が大きくなる場合、または、シールロール4及び/又は仕切り板3と鋼帯2との間隙が広い場合には、シールガスの噴出量を多くする。
【0037】
また、鋼帯2の幅方向の両端部の位置、及びシールロール4の軸方向の両端部の位置での雰囲気の漏洩を防止するために、鋼帯2の端部の位置のシールロール4、4の間に、シールガスを供給するための補助シールガス供給ノズルの対を1組以上配置し、鋼帯2の幅方向の両端部でのシール性の向上を図ることが望ましい。
【0038】
この補助シールガス供給ノズルは、前述したシールガス供給ノズル5と同様に、シールガスの噴出量を制御可能にすることが望ましい。
さらに、搬送される鋼帯2を加熱または冷却するために並んで設置される複数の熱処理領域を備える連続熱処理炉は、隣接する二つの熱処理領域の間、または熱処理領域の内部に設けられた、上述した本発明に係るシール装置0を少なくとも一つ有することが望ましい。
【0039】
図2(a)は、本発明に係るシール装置0を適用した鋼帯2の連続熱処理炉を示す正面図であり、図1(b)は、図1(a)中のA−A断面図であり、図1(c)は、B−B断面図である。
【0040】
このシール装置0は、図2(a)に示すゾーン2からゾーン1へのリークを防ぐことを目的とするものである。
このシール装置0は、気密性を要求されるゾーン2〜1間にシールボックス1を配置し、鋼帯2を挟む状態でシールボックス1の壁と鋼帯2が存在する位置との間の空間に、鋼帯2の板厚よりも大きい間隙をおいて鋼帯2を挟み込むように配置される一対の仕切り板3、3と、仕切り板3、3に非接触状態で近接させ鋼帯2の板厚よりも大きい間隙をおいて鋼帯2を挟みこむように配置された一対のシールロール4、4と、シールロール4と仕切り板3との間隙にシールガスを供給するシールガス供給ノズル5と、シールロール4の軸方向の両端部のロール軸6において軸径が減少している部分でのシール効果を向上させるための補助シールガス供給ノズル7とを備える。
【0041】
なお、図2(a)〜図2(c)に示すシール装置0例は、一対のシールロール2を上下に二段配置された場合を示す。
このシール装置0を詳述すると、シールロール4のロール軸6は、図示しない軸受けにより保持され回転可能に支持される。シールロール4は、駆動することにより静止状態から鋼帯2の搬送速度と同期した回転数に調整することが可能なように構成されている。また、ロール軸6を保持する軸受けは、鋼帯2の板厚方向(図2(b)における左右方向)へ移動可能に配置されており、鋼帯2を挟んで相対する対となるシールロール4、4間の距離及びそれぞれ近接して配置される仕切り板3、3との距離の調整を可能に配置されている。
【0042】
一対の仕切り板3、3は、鋼帯2の板厚方向に移動可能であり、板厚や板形状に応じて鋼帯2との距離を調整可能に配置されている。
仕切り板3とシールロール4との間にシールガスを供給するシールガス供給ノズル5は、シールガスの噴出角度を可変にするように構成されており、シールロール4と仕切り板3との相対的な位置関係によってシールガスの吹き出し方向を制御できるように構成されている。また、このシールガス供給ノズル5は、図示しないガス供給装置及び流量制御装置に接続されおり、供給されるガス流量が個々に制御されるように構成されている。
【0043】
鋼帯2の板幅方向の両端部に設けられた補助シールガス供給ノズル7は、シールロール4の位置に応じて、シールガスの噴出し方向を制御できるように構成されている。また、この補助シールガス供給ノズル7は、図示しないガス供給装置及び流量制御装置に接続されており、供給されるガス流量が個々に制御されるようになっている。
【0044】
このシール装置0は、一対のシールロール4、4と一対の仕切り板3、3との二つの間隙に、シールガス供給ノズル5、5を介してシールガスを吹き付けるとともに、一対のシールロール4、4の軸方向の両端部の間に、補助シールガス供給ノズル7を介してシールガスを吹き付けるため、一対のシールロール4、4と一対の仕切り板3、3との二つの間隙の圧力を部分的に上昇させるとともに、随伴流F1の成長を抑制でき、また、シールガス供給ノズル5からのシールガスの吹きつけによってシールロール4、4を設置したシールボックス1の内部空間8の静圧を上昇させることが可能となり、圧力変動によるこの内部空間8への雰囲気ガスの流入を抑制でき、さらに、鋼帯2の搬送ラインの端のシール性を確保することができる。
【0045】
このため、このシール装置0によれば、鋼帯2を連続的に熱処理する連続熱処理炉の内部を確実にシールすることができ、これにより、雰囲気ガスの漏洩を、鋼帯2の品質を低下することなく低コストで確実に防止することができる。
【実施例】
【0046】
本発明を、実施例を参照しながら、より具体的に説明する。
本実施例では、本発明に係るシール装置の効果を確認するため、数値シミュレーションを行った。シール装置0の構成は、図2に示した構成と同一(一対のシールロール4、4を二組)とした。以下、本発明に係るシール装置0の動作時の効果と、このシール装置0の非動作時の比較例(シールロール4停止、シールガス供給無し)の結果を示す。
【0047】
想定した条件は、鋼帯2の板幅1200mm、ライン速度100m/minとし、本発明者らは、この条件においてシール装置0が機能していない場合、ΔP=P−P=4Pa程度の定常的圧力差があると、ゾーン2からの100Nm/h程度のガスリークが発生することを、実際の連続熱処理炉により確認している。シミュレーションで想定した圧力パルスを図3にグラフで示す。Case1は常時ΔP<4Paであるが、Case2〜4は圧力変動の際ΔP>4Paとなる圧力パルスである。
【0048】
シール装置の各構成機器の配置は、以下に列記の通りとした。
仕切り板3と鋼板2の距離:100mm
シールロール4と仕切り板3との間隙:10mm
シールロール4と鋼板2との距離:20mm
シールノズル5:先端のスリット間隙を3mmとし、各ノズルあたり80Nm/hの流量でゾ−ン1側雰囲気と同一ガスを供給する。
補助シールガスノズル7:仕切り板3から鋼帯2の搬送方向で100mm離れた、仕切り板3と金属帯2の中間位置に配し、スリット間隙を3mmとし、各ノズルあたり3.43Nm/hの流量でゾ−ン1側雰囲気と同一ガスを鋼帯2の搬送方向と同一方向に供給した。
【0049】
なお、全てのシールロール4は、鋼帯2との近接位置で同一方向かつ同一周速度で回転させた。
図4は、図3のグラフにおける矢印が示す時におけるゾーン2からのリーク状況を示す説明図であり、具体的にはゾーン2の雰囲気成分の質量分率分布を示す。
【0050】
図4に示す分布は、圧力差が最大となったタイミングでの値を示すが、シール装置0利用しない場合には、実際の連続熱処理炉において頻発すると考えられるリーク時の圧力変動レベル(Case2)でシールボックス1内にゾーン2の成分が流入しているのに対して、本発明によるシール装置0を動作させた場合、圧力差の小さい時はシールボックス1内の圧力が高められていることにより、ゾーン2からの雰囲気はシールボックス1内に流入しない。また、実機想定を大きく超える圧力差レベルにおいてもゾーン2からシールボックス1内に流入したゾーン2の雰囲気は、シールロール4および仕切り板3で留められており、ゾーン2からのガスリークを防止できたことがわかる。
【0051】
次に、本発明において板幅方向端部に設けられた補助シールガス供給ノズル7の効果についてシミュレーション結果を説明する。
図5は、補助シールガス供給ノズル7の効果を示すために実施したシミュレーションにより、シールロール4の周囲の流動を模式的に示す説明図である。
【0052】
ここでは、ゾーン1とゾーン2との間には、定常的な圧力差ΔP=P−P=15Paが存在するものとし、他の条件は実施例と同一として補助シールガス供給ノズル7の使用の有無を比較した。
【0053】
図6に示すように、補助シールガス供給ノズル7を用いない場合、鋼帯2の板幅方向の中心部でのシール性は確保されるものの、鋼帯2の板幅方向の両端部よりリークしたゾーン2の雰囲気ガスがゾーン1に達してしまう。一方、補助シールガス供給ノズル7を使用すれば、鋼帯2の板幅方向の両端部においても鋼帯2の板幅方向の中心部と同レベルのシール性が維持されることがわかる。
【符号の説明】
【0054】
0 本発明に係るシール装置
1 シールボックス
2 鋼帯(金属帯)
3 仕切り部材(仕切り板)
4 シールロール4
5 シールガス供給ノズル
6 ロール軸
7 補助シールガス供給ノズル
8 内部空間
F1 随伴流

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される金属帯を加熱または冷却するために並んで設置されるとともに連続熱処理炉を構成する複数の熱処理領域のうちの少なくとも一の熱処理領域の内部または外部に配置されて、該熱処理領域の気密性を維持するためのシール装置であって、
前記金属帯との間に該金属帯の板厚よりも大きい隙間を形成して、前記金属帯に非接触で該金属帯を挟んで配置される一対の仕切り部材と、
前記一対の仕切り部材に非接触で近接して、かつ前記金属帯との間に該金属帯の板厚よりも大きい隙間を形成して、前記金属帯に非接触で該金属帯を挟んで配置される一対のシールロールと、
前記仕切り部材と前記シールロールとの間に形成される間隙にシールガスを供給するために配置されるシールガス供給ノズルと
を備えることを特徴とする連続熱処理炉のシール装置。
【請求項2】
前記シールロールは、その回転数が制御可能であって、かつその外周速度が前記金属帯の搬送速度と同一である請求項1に記載された連続熱処理炉のシール装置。
【請求項3】
前記仕切り部材は前記金属帯の板厚方向と略平行な方向へ移動可能に配置されるとともに、前記方向への前記隙間の距離は調整可能である請求項1または請求項2に記載された連続熱処理炉のシール装置。
【請求項4】
前記シールロールは前記金属帯の板厚方向と略平行な方向へ移動可能に配置されるとともに、前記方向への前記隙間の距離は調整可能である請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された連続熱処理炉のシール装置。
【請求項5】
前記シールガス供給ノズルは、前記シールガスの噴出方向を調整可能に配置されるとともに、前記シールロールの回転方向と同じ向きに前記シールガスを噴出する請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載された連続熱処理炉のシール装置。
【請求項6】
前記シールガス供給ノズルは、前記シールガスの供給量を調整可能に配置される請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された連続熱処理炉のシール装置。
【請求項7】
さらに、前記一対のシールロールそれぞれの軸方向の両端部の間にシールガスを供給するために配置される一つ以上の補助シールガス供給ノズルを備える請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された連続熱処理炉のシール装置。
【請求項8】
前記補助シールガス供給ノズルは、前記シールガスの供給量を調整可能に配置される請求項7に記載された連続熱処理炉のシール装置。
【請求項9】
搬送される金属帯を加熱または冷却するために並んで設置される複数の熱処理領域を備える連続熱処理炉であって、隣接する二つの前記熱処理領域の間、または前記熱処理領域の内部に設けられた、請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載されたシール装置を少なくとも一つ有することを特徴とする連続熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−106013(P2011−106013A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−265091(P2009−265091)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】