説明

非晶質軟磁性合金粉末、及び非晶質軟磁性合金粉末を用いた磁性シート

【課題】球状粒子棒状結合体及びその集合体からなり、高周波域で使用可能な磁性シートに適する非晶質軟磁性合金粉末を提供すること。
【解決手段】磁場印加を伴う液相還元法により、平均一次粒子径:0.2μm以上1.0μm以下の一次粒子が棒状に結合して形成された、短軸径:0.05μm以上2.0μm以下、長軸径:0.3μm以上15.0μm以下の球状粒子棒状結合体及びその集合体からなる非晶質軟磁性合金粉末を得ることができる。また、得られた粉末をシート形状に加工することで、高透磁率を得られ、且つ、高周波域でのノイズ抑制用途に適した磁性シートを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状粒子棒状結合体及びその集合体からなる非晶質軟磁性合金粉末に関する。また、本発明は、上記非晶質軟磁性合金粉末を利用した、磁性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、PCや携帯電話等のデジタル電子機器の増加に伴う、機器動作時に発生する電磁ノイズが電子機器の誤作動の原因になるとして問題となっているため、発生した電磁ノイズを抑制する必要が生じている。また、これらの電子機器の動作周波数は、近年、急速に高周波化する傾向にある。それに伴い、機器から発生する電磁ノイズも高周波域までに及ぶようになっているため、より高周波域のノイズにまで対応が求められている。
【0003】
電磁ノイズ対策部品として主に使用されているものとして、偏平形状に加工した軟磁性合金粉末を樹脂・ゴム等の内部に分散させ、シート形状に加工した磁性シートが挙げられる。これは、ノイズ発生源となる電子部品の表面に直接貼り付けることで、容易に電磁ノイズを抑制することができることから、広く使用されている。
【0004】
磁性シート用軟磁性合金粉末としては、Fe−Si−Al合金やFe−Si合金、Fe−Ni合金、Fe基非晶質合金などの高透磁率合金が使用されてきた。これらの合金のアトマイズ粉末、もしくは合金インゴットを機械的に粉砕して得た粉末をアトライタやビーズミルなどを用いて偏平化処理したものが用いられているため、偏平化処理後の粉末は、数ミクロン〜数百ミクロンと粗大であり、今後、対策が必要とされるような高周波域の電磁ノイズに対しては十分な抑制効果が得られないと考えられる(特許文献1〜3)。そのため、今後は高周波域においてもノイズ抑制効果が得られるような、より微細な軟磁性合金粉末が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−134309号公報
【特許文献2】特開2003−332113号公報
【特許文献3】特開2005−123531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、粒径が小さく、且つ、球状粒子棒状結合体及びその集合体からなる非晶質軟磁性合金粉末及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
更に、本発明は、上記の非晶質軟磁性合金粉末を用いた、高周波領域における磁気損失特性に優れた磁性シートを提供することを目的とする。
【0008】
本発明による製造方法によれば、球状粒子が棒状に配列することにより、大きなアスペクト比を有する球状粒子棒状結合体からなる非晶質軟磁性合金粉末を製造することができる。また、このような軟磁性非晶質合金粉末は、粉末に発生する反磁界を低減することができるため透磁率を向上させることができる。これにより、当該非晶質軟磁性合金粉末を磁性シートに適用した場合も、磁性シート自体の透磁率を向上させることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、撹拌している鉄塩、錯化剤、pH調整剤、析出核形成剤、及びP系還元剤を含む原料液に対して、磁石又は電磁石によって磁場を印加しながら、B系還元剤を含む還元液を滴下することを特徴とする液相還元法によって、球状粒子棒状結合体及びその集合体からなる非晶質軟磁性合金粉末が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、第1の製造方法として、原料となる金属塩、錯化剤、析出核形成剤及びP系還元剤を含む原料液を用意すると共に、B系還元剤を含む還元液を用意する用意工程と、
前記原料液にpH調整剤を加えて所定のpHを有するように調整されたpH調整後液を得るpH調整工程と、
磁石又は電磁石を用いて0.1kOe以上、5.0kOe以下の磁場を印加しつつ、前記pH調整後液を撹拌しながら該pH調整後液に対して前記還元液を滴下することにより非晶質軟磁性合金粉末を得る還元工程と
を備える非晶質軟磁性合金粉末の製造方法が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、第2の製造方法として、第1の製造方法であって、
前記非晶質軟磁性合金粉末は、FeBPPtであり、
前記金属塩は、Fe元素を含有する塩であり、
前記析出核形成剤は、Pt元素を有する化合物である
製造方法が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、第1の非晶質軟磁性合金粉末として、平均一次粒子径が0.2μm以上、1.0μm以下である一次粒子が棒状に結合することにより、短軸径が0.05μm以上、2.0μm以下及び長軸径が0.3μm以上、15.0μm以下である球状粒子棒状結合体及び該球状粒子棒状結合体の集合体からなり、組成式Fe100−a−b−cPt(ここで、a、b、cは25原子%≦a≦36原子%、1原子%≦b≦2.5原子%、0原子%≦c≦0.8原子%を満たす)で示される非晶質軟磁性合金粉末が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、第1の非晶質軟磁性合金粉末と結合剤からなる磁性シートであって、前記非晶質軟磁性合金粉末を構成する球状粒子棒状結合体の長軸が配向されている磁性シートが得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、撹拌している鉄塩、錯化剤、pH調整剤、析出核形成剤、及びP系還元剤を含む原料液に対して、磁石又は電磁石によって磁場を印加しながら、B系還元剤を含む還元液を滴下することにより、球状粒子棒状結合体及びその集合体からなる非晶質軟磁性合金粉末を製造することができる。更に、得られる非晶質軟磁性合金粉末を結合材と混合・磁場中成型し、磁性シートとすることで、高周波域における磁気損失特性に優れた磁性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例1による非晶質軟磁性合金粉末の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】本発明の実施例1による非晶質軟磁性合金粉末のX線回折(XRD)結果である。
【図3】本発明の実施例1による非晶質軟磁性合金粉末より作製した磁性シート及び比較例6による磁性シートについて計測した透磁率μ(実部:μ′,虚部:μ″)の周波数依存性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態による非晶質軟磁性合金粉末の製造方法によれば、組成式:Fe100−a−b−cPt(ここで、a、b、cは25原子%≦a≦36原子%、1原子%≦b≦2.5原子%、0原子%≦c≦0.8原子%を満たす)で示される非晶質軟磁性合金粉末を製造することができる。また、当該非晶質軟磁性合金粉末は、平均一次粒子径:0.2μm以上1.0μm以下の一次粒子が棒状に結合して形成された、短軸径:0.05μm以上2.0μm以下、長軸径:0.3μm以上15.0μm以下の球状粒子棒状結合体及びその集合体からなるものである。
【0017】
上述した非晶質軟磁性合金粉末の製造方法は、概略、用意工程と、pH調整工程と、還元工程とを順次行うものである。用意工程は、原料となる金属塩、錯化剤、析出核形成剤及びP系還元剤を含む原料液と、B系還元剤を含む還元液とを用意する工程である。pH調整工程は、用意工程において用意した原料液にpH調整剤を加えることにより所定のpHを有するように調整されたpH調整後液を得る工程である。還元工程は、pH調整工程において得たpH調整後液に対して磁石又は電磁石を用いて磁場を印加しつつ、撹拌しながら当該pH調整後液に対して還元液を滴下することにより非晶質軟磁性合金粉末を得る工程である。なお、pH調整工程における所定のpHとは、例えば、還元工程における還元反応の開始に最適なpHである。以下、各工程の詳細について説明する。
【0018】
用意工程においては、原料となる金属塩、錯化剤、析出核形成剤及びP系還元剤をそれぞれ秤量し、蒸留水と共にビーカー等の耐薬品性容器に投入し、これを撹拌しながら溶解することで原料液を製造する。また、B系還元剤を秤量し、蒸留水と共に別の耐薬品性容器に投入し、撹拌しながら溶解することで還元液を製造する。
【0019】
原料として使用可能な金属塩は、Fe元素を含む塩である。具体的な金属塩としては、例えば、Fe元素を含有する塩化物、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、しゅう酸塩、金属錯体などが使用可能であるが、同様な効果を奏するものであれば、これらに限定されるものではない。
【0020】
原料として使用可能な錯化剤としては、例えば、塩化アンモニウム、クエン酸三ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸、酢酸ナトリウム、エチレングリコール、アンモニア水などが使用可能であるが、同様な効果を奏するものであれば、これらに限定されるものではない。
【0021】
原料として使用可能な析出核形成剤としては、例えば、テトラクロロ白金酸カリウムが使用可能であるが、同様な効果を奏するものであれば、これに限定されるものではない。なお、析出核形成剤とは、還元剤により優先的に還元されることで、微細粒子を形成し、非晶質軟磁性合金粉末の析出核として作用する物質のことである。
【0022】
原料として使用可能なP系還元剤としては、例えば、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸、次亜リン酸アンモニウム、次亜リン酸カルシウム、亜リン酸などがある。
【0023】
一方、原料として使用可能なB系還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボランなどが使用可能であるが、同様な効果を奏するものであれば、これらに限定されるものではない。
【0024】
pH調整工程においては、上述した用意工程において製造した原料液を耐薬品性容器内で撹拌しながらpH調整剤を投入することで、原料液を還元反応の開始に最適なpHに調整する。このpHの調整された原料液を以下においてはpH調整後液という。
【0025】
pH調整剤として使用可能な物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などが挙げられるが、同様な効果を奏するものであれば、これらに限定されるものではない。
【0026】
還元工程においては、pH調整工程によって得たpH調整後液を撹拌しながら、磁石又は電磁石を用いて磁場印加し、その中に前述の用意工程において作製した還元液を滴下する。この還元工程によれば、pH調整後液に滴下した還元液の作用により、pH調整後液中に存在する金属イオンが還元され、同時にPイオン及びBイオンも還元されることで、これらの元素が共析し、球状粒子を形成する。析出した球状粒子は、印加されている磁場の作用によって引き寄せられ、磁場方向に配列しながら結着し、球状粒子棒状結合体を形成する。更に、形成した球状粒子棒状集合体は互いに結着しながら成長することもでき、その結果、球状粒子棒状結合体及びその集合体からなる非晶質軟磁性合金粉末が生成される。本実施の形態により製造された球状粒子棒状結合体は印加磁場に対して長軸方向が揃うように形成される。
【0027】
なお、還元反応を促進させるために、上記pH調整後液を撹拌する際に超音波を照射してもよい。
【0028】
このようにして生成された非晶質軟磁性合金粉末と結合材とから、磁性シートを製造することができる。磁性シートの製造に好適な結合材としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、ニトリルーブタジエン系ゴム、スチレンーブタジエン系ゴム等の熱可塑性樹脂、もしくは、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、アミド系樹脂、イミド系樹脂等の熱硬化性樹脂等が挙げられるが、同様な効果を奏するものであれば、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。
【0030】
(実施例1)
金属塩として塩化鉄(II)水和物を1.0mol/l(モル/リットル)、錯化剤として塩化アンモニウム及びクエン酸三ナトリウム水和物をそれぞれ1.5mol/l、析出核形成剤としてテトラクロロ白金酸カリウムを5.0×10−4mol/l、P系還元剤として次亜リン酸ナトリウム水和物を2.0mol/lの濃度となるようにそれぞれ秤量し、ガラス製容器内に蒸留水200mlと共に投入した。これを、室温において撹拌機により回転数:160rpm〜300rpmで60〜120分間撹拌することで原料液を作製した。
【0031】
また、B系還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを0.7mol/lの濃度となるように秤量し、原料液とは別のガラス製容器内に蒸留水150mlと共に投入し、これを室温において撹拌機により回転数:160〜300rpmで5〜10分間撹拌することで還元液を作製した。
【0032】
次に、作製した原料液を室温において撹拌機により回転数:160〜300rpmで撹拌しながら、pH調整剤として30%水酸化ナトリウム水溶液を滴下することで、pH=10.0となるように調整し、pH調整後液とした。
【0033】
次に、撹拌機により回転数:160〜300rpmで撹拌しているpH調整後液を入れたガラス製容器の底部にネオジム磁石を設置することで磁場印加を行った。この時、pH調整後液中における磁場強度は0.7kOe〜2.7kOeの範囲であった。次いで、滴下装置を用いて滴下速度:200ml/hrで還元液の滴下を行った。なお、還元反応を促進させるために、滴下時においては超音波発生装置によりpH調整後液に対して超音波照射しながら還元液を滴下してもよい。
【0034】
pH調整後液に対する還元液の滴下終了後、pH調整後液表面からの泡の発生が落ち着いたことを確認してから、析出した粉末を液中から分離して水洗い及びアルコール洗浄した後、不活性雰囲気中で乾燥することで合金粉末を得た。
【0035】
(実施例2〜5、比較例1、2)
更に、実施例1と同様に原料液を作製後、30%水酸化ナトリウム水溶液添加量を調整することで、原料液のpHをpH=7.0(比較例1)、8.0(実施例2)、9.0(実施例3)、11.0(実施例4)、12.0(実施例5)、13.0(比較例2)と変化させ、それ以外は上述した実施例1と同じ製造条件で作業を行い、粉末を得た。
【0036】
上述したようにして得られた実施例1〜5及び比較例1、2の粉末について、ICP発光分析装置を用いた組成分析、走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子サイズ測定、X線回折(XRD)を用いた結晶構造の同定を行った。それらの結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1から分かるように、実施例1〜5で表される粉末の組成は、Bの含有量であるaの値が27.86原子%から36.01原子%、Pの含有量であるbの値は1.01原子%から2.48原子%、Ptの含有量であるcの値は0.07原子%から0.09原子%の範囲となり、本発明の製造方法によって得られる非晶質軟磁性合金粉末の組成式:Fe100−a−b−cPt(ここで、a、b、cは25.0原子%≦a≦36.0原子%、1.0原子%≦b≦2.5原子%、0.0原子%≦c≦0.8原子%を満たす)の条件を満たしている。このように、本発明の製造方法によって得られた軟磁性合金粉末のうち、上記組成式を満たす非晶質軟磁性合金粉末は、平均一次粒子径が0.3μmから1.0μmの範囲である一次粒子で構成された球状粒子棒状結合体であって短軸径が0.1μmから2.0μmの範囲であり長軸径は0.3μmから8.0μmの範囲である球状粒子棒状結合体及びその集合体で構成されている。
【0039】
図1は実施例1の粉末の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図1からも、本発明の製造方法によって得られた実施例1の粉末が平均一次粒子径=0.3μm、短軸径=0.1〜1.0μm、長軸径=0.5〜8.0μmを有する球状粒子棒状結合体及びその集合体からなる粉末であることが理解できる。
【0040】
図2は実施例1のX線回折(XRD)結果である。一般に、得られた粉末の結晶構造が結晶質か非晶質かの判定は、X線回折プロファイルにより行うことができる。具体的には、結晶質の場合、析出した化合物の結晶構造に由来する鋭いピークが生じるが、非晶質の場合は、結晶構造を有しないため、結晶質特有の鋭いピークは見られず、代わりに2θ=45°、80°の位置にブロードなピークが生じる。また、結晶質と非晶質とが混在する場合、結晶質の鋭いピークと非晶質のブロードなピークが混在したX線回折プロファイルが得られる。かかる判定基準に基づいて実施例1の粉末の結晶構造を判定すると、図2に示されたX線回折プロファイルは非晶質特有のブロードなピークのみを有するものであるので、本発明の製造方法によって実施例1の粉末が非晶質単相を有していることが図2からも理解できる。
【0041】
これに対して、比較例1の粉末は、Bの含有量は24.79原子%、Pの含有量は0.90原子%であり、上記の組成式の条件を満たしていない。そのため、得られた一次粒子の平均一次粒子径は1.5μmとなっており、本発明の製造方法により得られる平均一次粒子径の範囲に入っていない。加えて、球状粒子棒状結合体及びその集合体の形成は確認されなかった。また、比較例2の粉末については、Bの含有量は36.41原子%、Pの含有量は2.61原子%であり、得られた一次粒子の平均一次粒子径は0.5μmであるものの球状粒子棒状結合体及びその集合体の形成は確認されなかった。
【0042】
上記結果より、得られる非晶質軟磁性合金粉末のBの組成範囲が25.0原子%≦a≦36.0原子%、Pの組成範囲が1.0原子%≦b≦2.5原子%、Ptの組成範囲が0.0原子%≦c≦0.8原子%を満たすようにして本発明の製造方法によって製造すれば、得られる非晶質軟磁性合金粉末を、平均一次粒子径:0.2μm以上1.0μm以下、短軸径:0.05μm以上2.0μm以下、長軸径:0.3μm以上15.0μm以下の球状粒子棒状結合体及びその集合体で構成することができる。
【0043】
(実施例1、実施例6〜10、比較例3)
次に、テトラクロロ白金酸カリウム添加量をそれぞれ0(実施例6)、8.0×10−5(実施例7)1.6×10−4(実施例8)、5.0×10−4(実施例1)、1.5×10−3(実施例9)、2.5×10−3(実施例10)、3.0×10−3(比較例3)mol/lと変化させ、それ以外は上述した実施例1と同じ製造条件で作業を行い、粉末を得た。
【0044】
上述したようにして得られた実施例1、実施例6〜10及び比較例3の粉末について、ICP発光分析装置を用いた組成分析、走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子サイズ測定、X線回折(XRD)を用いた結晶構造の同定を行った。それらの結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
表2から分かるように、実施例1、実施例6〜10で表される粉末の組成は、Bの含有量であるaの値が25.01原子%から33.05原子%、Pの含有量であるbの値は1.24原子%から1.91原子%、Ptの含有量であるcの値は0.0原子%から0.80原子%の範囲となり、本発明の製造方法によって得られる非晶質軟磁性合金粉末の組成式:Fe100−a−b−cPt(ここで、a、b、cは25.0原子%≦a≦36.0原子%、1.0原子%≦b≦2.5原子%、0.0原子%≦c≦0.8原子%を満たす)の条件を満たしている。このように、本発明の製造方法によって得られた非晶質軟磁性合金粉末のうち、上記組成式を満たす非晶質軟磁性合金粉末は、平均一次粒子径が0.2μmから0.5μmの範囲である一次粒子で構成された球状粒子棒状結合体であって短軸径が0.05μmから2.0μmの範囲であり長軸径は0.3μmから9.5μmの範囲である球状粒子棒状結合体及びその集合体で構成されており、且つ、非晶質単相構造を有するものであった。
【0047】
これに対して、比較例3の粉末は、Pの含有量は2.01原子%であり、上記組成式を満たしているが、Bの含有量は23.88原子%、Ptの含有量は0.90原子%であり、上記の組成式の条件を満たしていない。そのため、得られた一次粒子の平均一次粒子径は0.05μmであったものの、球状粒子棒状結合体の形成は確認されなかった。
【0048】
上記結果からも、得られる非晶質軟磁性合金粉末のBの組成範囲が25.0原子%≦a≦36.0原子%、Pの組成範囲が1.0原子%≦b≦2.5原子%、Ptの組成範囲が0.0原子%≦c≦0.8原子%を満たすようにして本発明の製造方法によって製造すれば、得られる非晶質軟磁性合金粉末を、平均一次粒子径:0.2μm以上1.0μm以下、短軸径:0.05μm以上2.0μm以下、長軸径:0.3μm以上15.0μm以下の球状粒子棒状結合体及びその集合体で構成することができる。
【0049】
(実施例1、実施例11〜15、比較例4〜5)
次に、pH調整後液に印加する磁界強度をそれぞれ0(比較例4)、0.12〜1.6(実施例11)、0.3〜1.7(実施例12)、0.7〜2.7(実施例1)、1.1〜3.8(実施例13)、0.9〜4.5(実施例14)、1.3〜5.0(実施例15)、2.0〜6.0(比較例5)kOeと変化させ、それ以外は上述した実施例1と同じ製造条件で作業を行い、粉末を得た。
【0050】
上述したようにして得られた実施例1、実施例11〜15、比較例4〜5の粉末について、ICP発光分析装置を用いた組成分析、走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子サイズ測定、X線回折(XRD)を用いた結晶構造の同定を行った。それらの結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
表3から分かるように、実施例1、実施例11〜15で表される粉末の組成は、Bの含有量であるaの値が32.54原子%から33.21原子%、Pの含有量であるbの値は1.89原子%から1.95原子%、Ptの含有量であるcの値は0.07原子%以上0.09原子%の範囲となり、本発明の製造方法によって得られる非晶質軟磁性合金粉末の組成式:Fe100−a−b−cPt(ここで、a、b、cは25.0原子%≦a≦36.0原子%、1.0原子%≦b≦2.5原子%、0.0原子%≦c≦0.8原子%を満たす)の条件を満たしている。このように、本発明の製造方法によって得られた非晶質軟磁性合金粉末のうち、上記組成式を満たす非晶質軟磁性合金粉末は、平均一次粒子径は0.3μmから1.0μmの範囲である一次粒子で構成された球状粒子棒状結合体であって短軸径は0.1μmから2.0μmの範囲であり長軸径は0.4μmから15.0μmの範囲である球状粒子棒状結合体及びその集合体で構成されており、且つ、非晶質単相構造を有するものであった。
【0053】
これに対して、比較例4の粉末は、Bの含有量は32.14原子%、Pの含有量は1.78原子%、Ptの含有量は0.08原子%と上記組成式を満たしているものの、球状粒子棒状結合体の形成が確認されなかった。また、比較例5の粉末は、Bの含有量は33.31原子%、Pの含有量は2.01原子%、Ptの含有量は0.08原子%と上記組成式を満たすものであったが、平均一次粒子径は1.2μm、形成された球状粒子棒状結合体及びその集合体の短軸径の最大値は2.2μm、長軸径の最大値は15.8μmとなり、本発明の製造方法によって得られる一次粒子及び、球状粒子棒状結合体の条件を満たしていない。
【0054】
上記結果より、印加磁場強度は0.1kOe以上、5.0kOe以下の範囲であり、Bの組成範囲が25.0原子%≦a≦36.0原子%、Pの組成範囲が1.0原子%≦b≦2.5原子%、Ptの組成範囲が0.0原子%≦c≦0.8原子%を満たすように本発明の製造方法によって製造すれば、平均一次粒子径:0.2μm以上1.0μm以下、短軸径:0.05μm以上2.0μm以下、長軸径:0.3μm以上15.0μm以下の球状粒子棒状結合体及びその集合体からなる非晶質軟磁性合金粉末が得られる。
【0055】
続いて、本発明により得られた非晶質軟磁性合金粉末の磁性シートへの適用例について説明する。
【0056】
実施例1の非晶質軟磁性合金粉末に対して樹脂成分で15重量%の割合となるように塩素化ポリエチレンを加えて混合した後、磁場中にて成型することで磁性シートを製造した。
【0057】
(比較例6)
比較例6の粉末としてFe−Si−B―Crアモルファス粉末を用意し、その粉末に対して樹脂成分で15重量%の割合となるように塩素化ポリエチレンを加えて混合した後、磁場中にて成型することで磁性シートを製造した。
【0058】
次に、実施例1の非晶質軟磁性合金粉末を用いて製造された磁性シートと比較例6の粉末を用いて製造された磁性シートをそれぞれ外形8mm、内径3mmのリング状に打ち抜くことで、測定用試料を得た。これらの試料について、インピーダンスアナライザーを用いて、10MHz以上10GHz以下の周波数範囲における透磁率μ(実部:μ′、虚部:μ″)の周波数依存性を評価した。評価結果を図3に示す。
【0059】
図3から理解されるように、実施例1の非晶質軟磁性合金粉末を用いて製造された磁性シートのμ′値は10MHz以上1GHz未満の測定周波数において、比較例6の粉末を用いて製造された磁性シートのμ値よりも大きくなった。
【0060】
また、実施例1の磁性シートのμ″値は10MHz以上4GHz未満の測定周波数において、比較例6の磁性シートのμ″値よりも大きくなった。このことから、実施例1の磁性シートは比較例6の磁性シートよりも広い周波数範囲においてノイズ抑制効果が得ることができるものと推定される。特に、f=200MHz以上2GHz以下の高周波域においてμ″>10となり、高周波域におけるノイズ抑制に効果的であると考えられる。
【0061】
以上、本発明について実施例等を掲げて具体的に説明してきたが、本発明はこれらに限定されるわけではない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で部材や構成の変更があっても、本発明に含まれる。即ち、当事者であれば、当然なしうるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の非晶質軟磁性合金粉末は、高周波化への対応を必要とされている電子機器内部の電子部品より発生される、高周波領域における電磁ノイズを抑制するための磁性シートに用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料となる金属塩、錯化剤、析出核形成剤及びP系還元剤を含む原料液を用意すると共に、B系還元剤を含む還元液を用意する用意工程と、
前記原料液にpH調整剤を加えて所定のpHを有するように調整されたpH調整後液を得るpH調整工程と、
磁石又は電磁石を用いて0.1kOe以上、5.0kOe以下の磁場を印加しつつ、前記pH調整後液を撹拌しながら該pH調整後液に対して前記還元液を滴下することにより非晶質軟磁性合金粉末を得る還元工程と
を備える非晶質軟磁性合金粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法であって、
前記非晶質軟磁性合金粉末は、FeBPPtであり、
前記金属塩は、Fe元素を含有する塩であり、
前記析出核形成剤は、Pt元素を有する化合物である
製造方法。
【請求項3】
平均一次粒子径が0.2μm以上、1.0μm以下である一次粒子が棒状に結合することにより、短軸径が0.05μm以上、2.0μm以下及び長軸径が0.3μm以上、15.0μm以下である球状粒子棒状結合体及び該球状粒子棒状結合体の集合体からなり、組成式Fe100−a−b−cPt(ここで、a、b、cは25原子%≦a≦36原子%、1原子%≦b≦2.5原子%、0原子%≦c≦0.8原子%を満たす)で示される非晶質軟磁性合金粉末。
【請求項4】
請求項3に記載の非晶質軟磁性合金粉末と結合剤からなる磁性シートであって、前記非晶質軟磁性合金粉末を構成する球状粒子棒状結合体の長軸が配向されている
磁性シート。

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−184765(P2011−184765A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53080(P2010−53080)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人日本磁気学会 第33回日本磁気学会学術講演概要集 2009年9月12日
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】