非水性中間層構造体を備えた被保護活性金属電極および電池セル
【課題】
【解決手段】非水性電解質(アノード材)を含浸させた多孔質のセパレータによって電極(アノード)から分離された活性金属(例えば、リチウム)伝導性の不浸透性層を備えるイオン伝導性の保護構造体を有する活性金属および活性金属挿入電極構造体および電池セルが開示されている。この保護構造体は、不浸透性層の反対側(カソード側)の環境との有害な反応から活性金属を保護する。環境とは、水性または非水性の液体電解質(カソード材)、および/または、液体、固体、および気体の酸化剤などの様々な電気化学的活性材料を含みうる。製造を容易にする安全性のための添加物および設計も提供されている。
【解決手段】非水性電解質(アノード材)を含浸させた多孔質のセパレータによって電極(アノード)から分離された活性金属(例えば、リチウム)伝導性の不浸透性層を備えるイオン伝導性の保護構造体を有する活性金属および活性金属挿入電極構造体および電池セルが開示されている。この保護構造体は、不浸透性層の反対側(カソード側)の環境との有害な反応から活性金属を保護する。環境とは、水性または非水性の液体電解質(カソード材)、および/または、液体、固体、および気体の酸化剤などの様々な電気化学的活性材料を含みうる。製造を容易にする安全性のための添加物および設計も提供されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、活性金属電気化学装置に関する。特に、本発明は、活性金属(例えば、リチウムなどのアルカリ金属)、活性金属挿入材料(例えば、リチウム−炭素、炭素)、活性金属合金(例えば、リチウム−錫合金)、または合金化金属(例えば、錫)の電気化学(例えば、電極)構造体と電池セルに関する。電極構造体は、非水性電解質を含浸させた多孔質のセパレータによって電極(アノード)から分離された活性金属(例えば、リチウム)伝導性の不浸透性層を備えるイオン伝導性の保護構造体を有する。この保護構造体は、不浸透層の反対側(カソード側)の環境との有害な反応から活性金属を保護する。環境とは、水性、空気、または有機液体の電解質、および/または、電気化学的活性材料を含みうる。
【背景技術】
【0002】
リチウムなど、低当量のアルカリ金属は、電池の電極の構成要素として特に有用である。リチウム電池は、従来のニッケル電池やカドミウム電池よりも単位容積あたりの出力エネルギ量が大きい。残念ながら、再充電可能なリチウム金属電池の商品化はいまだに成功していない。
【0003】
充電式のリチウム金属電池の欠点は、主に、セルのサイクルの問題にある。充放電サイクルを繰り返すと、リチウム金属電極から生じるリチウム「樹状突起」が次第に成長し、電解質を突き抜け、最終的には、陽極に接触する。これにより、電池内で内部ショートが起こるため、電池は比較的少ないサイクルで使用不能になってしまう。また、サイクル中に、リチウム電極上に「苔状」堆積物が積層し、陰極から遊離して、電池の容量を低下させる場合がある。
【0004】
液体電解質系におけるリチウムのサイクル挙動を改善するために、一部の研究者は、リチウム陰極の電解質側を「保護層」で被覆することを提案した。かかる保護層は、リチウムイオンを伝導すると同時に、リチウム電極表面とバルク電解質との間の接触を防ぐ必要がある。保護層を形成するための多くの技術が失敗に終わっている。
【0005】
例えば、リチウム金属とリチウムに接するセルの電解質中の化合物との間の反応によりその場で(in situ)リチウム金属保護層を形成する技術が提案されている。これらの技術の多くでは、電池を組み立てた後、化学反応を制御して、その場で膜を成長させる。一般に、かかる膜は、多孔質の形態を有しているために、電解質の一部が裸のリチウム金属表面に浸透してしまう。そのため、それらの膜は、リチウム電極を十分に保護することができない。
【0006】
様々な成形リチウム保護膜が提案されている。例えば、(1994年5月24日にBatesに交付された)米国特許第5,314,765号には、リチウムリン酸窒化物(LiPON)などをスパッタリングすることにより形成した薄層を含むリチウム電極を外部で(ex situ)製造する技術が開示されている。LiPONは、(リチウムイオンを伝導する)ガラス性単一イオン伝導体であり、シリコン上に加工され、集積回路の電源として用いられる固体リチウムマイクロ電池用の電解質として研究されてきた(Bates et al.に交付された米国特許第5,597,660号、5,567,210号、5,338,625号、5,512,147号参照)。
【0007】
また、本発明の出願人の研究所では、活性金属電池の電極内でLiPONなどのガラス性または非晶質の保護層を用いる技術が開発されてきた(例えば、PolyPlus Battery社に譲渡された2000年2月15日交付済み米国特許第6,025,094号、2002年6月11日交付済み米国特許第6,402,795号、2001年4月10日交付済み米国特許第6,214,061号、2002年7月2日交付済み米国特許第6,413,284号参照)。
【0008】
水性環境中でリチウムアノードを用いる場合には、従来、濃縮KOH水溶液などの高塩基性条件にして、Li電極の腐食速度を遅くするか、あるいはLi電極をポリマで被覆して、水のLi電極表面への拡散を妨げる手法が採られてきた。しかし、いずれの場合でも、アルカリ金属電極と水との反応がかなり生じていた。水の絶縁破壊電圧が約1.2Vであって、Li/水セルの電圧は約3.0Vであるため、Li金属アノードと組み合わせて、水性カソードまたは水性電解質を用いることは不可能だとされてきた。リチウム金属と水溶液が直接接触することにより、激しい寄生反応が起こり、リチウム電極が腐食してしまう。このため、リチウム金属電池分野の研究は、有効な非水性(主に有機物)電解質系の開発に焦点がしぼられていた。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、一般に、活性金属電気化学装置に関する。特に、本発明は、活性金属(例えば、リチウムなどのアルカリ金属)、活性金属挿入材料(例えば、リチウム−炭素、炭素)、活性金属合金(例えば、リチウム−錫合金)、または合金化金属(例えば、錫)の電気化学(例えば、電極)構造体と電池セルに関する。電気化学構造体は、非水性電解質(アノード材)を含浸させた多孔質のセパレータによって電極(アノード)から分離された活性金属(例えば、リチウム)イオン伝導性の実質的に不浸透性の層を備えるイオン伝導性の保護構造体を有する。この保護構造体は、不浸透層の反対側(カソード側)の環境との有害な反応から活性金属を保護する。環境とは、水性、空気、または有機液体の電解質(カソード材)、および/または、電気化学的活性材料を含みうる。
【0010】
保護構造体のセパレータ層(中間層)は、アノードの活性金属(例えば、リチウム)と活性金属イオン伝導性の実質的に不浸透性の層との間の有害な反応を防ぐ。したがって、この構造体は、リチウムなどの活性金属に対して通常は高腐食性であるような環境を含め、溶媒、電解質処理、および/または、カソード環境から、アノード/アノード材を効果的に分離(分断)すると同時に、これらの潜在的な腐食性環境に対するイオンの出入りを可能にする。
【0011】
本発明のセルおよびセル構造体の様々な実施形態は、非水性アノード材を有するイオン伝導性の保護構造体で保護された活性金属、活性金属イオン、活性金属合金化金属、および活性金属挿入アノード材料を備える。これらのアノードは、水、空気、金属水素化物、および金属酸化物のカソードなどの様々なカソード系と、それに関連するカソード材系(特に、水性カソード材系)とを備える電池セルに組み込まれてよい。
【0012】
保護構造体(例えば、ガラスまたはガラスセラミック膜)の実質的に不浸透性の層に亀裂やその他の損傷が生じることで、反応性の高いカソード材が浸入してリチウム電極に近づく場合に備えて、本発明の構造体およびセルに、安全性のための添加物を組み込んでもよい。非水性中間層構造体は、反応性の高いカソード材と接触した場合に、リチウムの表面上で不浸透性のポリマの形成を引き起こすゲル化/重合剤を含んでよい。例えば、アノード材は、ジオキソラン(Diox)/ポリジオキソランなど、非水溶性または低水溶性のポリマのためのモノマを含んでよく、カソード材は、プロトン酸など、モノマ用の重合開始剤を含んでよい。
【0013】
さらに、本発明の構造体およびセルは、任意の適切な形態を有してよい。加工を容易にする有利な形態の1つは、管状の形態である。
【0014】
一態様では、本発明は、電気化学セル構造体に関する。その構造体は、活性金属、活性金属イオン、活性金属合金、活性金属合金化金属、または、活性金属挿入材料を含む。アノードは、その表面上にイオン伝導性の保護構造体を有する。保護構造体は、非水性アノード材を有し、活性金属に対する化学的適合性を有し、アノードと接触する活性金属イオン伝導性セパレータ層と、セパレータ層および水性環境に対する化学的適合性を有し、セパレータ層と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層とを備える。セパレータ層は、液相またはゲル相のアノード材を含浸させた微多孔ポリマなど、有機アノード材を含浸させた半透膜であってよい。かかる電気化学(電極)構造体は、水性カソード系などのカソード系と組み合わされて、本発明の電池セルを形成してよい。
【0015】
本発明の構造体と、それらの構造体を備える電池セルとは、角柱形や円筒形など、様々な構成や、活性金属イオン、合金、および挿入アノード、水性、水、空気、金属水素化物、および金属酸化物カソード、水性、有機液体、およびイオン液体のカソード材、電解質(アノード材および/またはカソード材)の組成など、様々な構成要素を有することで、セルの安全性および/または性能、製造技術を強化してよい。
【0016】
以下の詳細な説明では、本発明の上述の特徴およびその他の特徴について、さらに説明および例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。具体的な実施形態の例は、添付の図面に図示されている。本発明は、これらの実施形態を参照して説明されているが、本発明をかかる実施形態に限定する意図はない。逆に、本発明は、添付の請求項の範囲によって規定される本発明の趣旨および範囲を逸脱しない範囲内で、代替物、変更物、および等価物を網羅するよう意図されている。以下では、本発明の完全な理解を助けるために、多くの具体的な詳細事項について説明する。本発明は、これらの具体的な詳細事項の一部あるいは全部がなくとも実施可能である。また、本発明の論点がぼけないように、周知の処理動作については詳細な説明を省く。
【0018】
本明細書および請求項において、「備える(含む)」「方法は〜備える(含む)」「装置は〜備える(含む)」などの表現と共に用いられた場合には、単数形の名詞は、特に明記しない限り、複数も含むこととする。また、特に明記しない限り、本明細書で用いる科学技術用語は、本発明分野の当業者が通常理解する意味で用いられるものとする。
【0019】
緒言
活性金属は、周囲条件において高い反応性を有し、電極として用いる場合には、障壁層を形成することが望ましい。活性金属には、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム)、ある種の遷移金属(例えば、亜鉛)、および/または、これら金属の2種類以上の合金が含まれる。利用可能な活性金属の例としては、アルカリ金属(例えば、Li、Na、K)、アルカリ土類金属(例えば、Ca、Mg、Ba)、Ca、Mg、Sn、Ag、Zn、Bi、Al、Cd、Ga、Inを用いた二元あるいは三元アルカリ金属合金が挙げられる。望ましい合金としては、リチウムアルミニウム合金、リチウムケイ素合金、リチウム錫合金、リチウム銀合金、ナトリウム鉛合金(例えば、Na4Pb)である。活性金属電極の材料としては、リチウムを使うことが好ましい。
【0020】
リチウムなど、低当量のアルカリ金属は、電池の電極の構成要素として特に有用である。リチウム電池は、従来のニッケル電池やカドミウム電池よりも単位容積あたりの出力エネルギ量が大きい。しかしながら、リチウム金属、または、リチウム金属に近い電位(例えば、約1ボルト以内)を有するリチウムの化合物(リチウム合金やリチウムイオン(リチウム挿入)アノード材料など)は、多くの潜在的に有用な電解質およびカソードの材料に対して高い反応性を有する。本発明は、活性金属(例えば、リチウムなどのアルカリ金属)、活性金属合金または活性金属イオン電極(通例は、電池セルのアノード)を、周囲、および/または、セルのカソード側から分離するための非水性電解質中間層構造体の利用を記載している。その構造体は、非水性アノード材(すなわち、アノード周囲の電解質)を有し、活性金属に対する化学的適合性を有し、アノードと接触する活性金属イオン伝導性セパレータ層と、セパレータ層および水性環境に対する化学的適合性を有し、セパレータ層と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層とを備える。非水性電解質中間層構造体は、カソード材(すなわち、カソード周囲の電解質)の環境や、リチウムなどの活性金属に対して通常は高腐食性であるような環境を含め、周囲および/またはカソードから、アノードを効果的に分離(分断)すると同時に、これらの潜在的な腐食性環境に対するイオンの出入りを可能にする。このように、その構造体を備えるよう構成された電池セルなどの電気化学装置の他の構成要素に関する自由度が向上される。電池セルや電気化学セルの他の構成要素からアノードを分離することにより、実質的に任意の溶媒、電解質、および/または、カソード材料を、アノードと組み合わせて利用できるようになる。また、アノードの安定性や性能に影響を及ぼすことなく、電解質またはカソード側溶媒系を最適化できる。
【0021】
リチウムなどの活性金属に対して反応性を有する水、水性の電解質、空気、および他の材料や、有機溶媒/電解質およびイオン性溶液などを含む水溶液を、活性金属(例えば、リチウムなどのアルカリ金属)アノードまたは活性金属挿入(例えば、リチウム合金またはリチウムイオン)アノードを内部に備える電池セルのカソード側で用いることは、様々な用途において好ましい。
【0022】
リチウム金属ではなく、リチウム−炭素アノードやリチウム合金アノードのようなリチウム挿入電極材料をアノードに用いると、良好な電池特性を実現することもできる。まず、Li表面から膜表面へ成長して膜の劣化を引き起こしうるリチウム金属の樹状突起の形成の危険性なしに、電池のサイクル寿命を伸ばすことが可能になる。リチウム金属アノードの代わりに本発明の一部の実施形態でリチウム−炭素およびリチウム合金アノードを用いると、サイクル中に反応性の高い「苔状の」リチウムの形成を防ぐため、電池の安全性をかなり改善できる。
【0023】
本発明は、例えば、保護しなければリチウム金属と有害な反応を起こす水性電解質やその他の電解質を用いる電池など、非常に高いエネルギ密度を有するリチウム電池を可能にする保護された活性金属、合金、または挿入電極を提供する。かかる高エネルギ電池対の例は、リチウム−空気、リチウム−水、リチウム−金属水素化物、リチウム−金属酸化物、および、それらのリチウム合金およびリチウム−イオン変形物である。本発明のセルは、電解質(アノード材およびカソード材)に構成要素を追加して、セルの安全性を改善してよく、平面および管状/円筒形など、様々な構造を有してよい。
【0024】
非水性中間層構造体
本発明の非水性中間層構造体は、電気化学セル構造体中に設けられる。その構造体は、活性金属、活性金属イオン、活性金属合金、活性金属合金化材料、および、活性金属挿入材料、からなる群から選択された材料で形成されたアノードと、アノードの第1の表面上のイオン伝導性保護構造体とを有する。その構造体は、非水性アノード材を有する活性金属イオン伝導性セパレータ層と、実質的に不浸透性のイオン伝導層とを備えており、セパレータ層は、活性金属に対する化学的適合性を有すると共にアノードと接触し、イオン伝導層は、セパレータ層および水性環境に対する化学的適合性を有すると共にセパレータ層と接触している。セパレータ層は、有機アノード材を含浸させた微多孔ポリマなどの半透膜を備えてよく、かかるポリマは、ノースカロライナ州シャーロットのCelgard社から入手可能である。
【0025】
本発明の保護構造体は、活性金属イオンに対する高い伝導性と、例えば、水性電解質など、リチウム金属と積極的に反応する反応性の高い電解質に対する安定性とを有する活性金属イオン伝導性のガラスまたはガラスセラミック(例えば、リチウムイオン伝導性ガラスセラミック(LIC−GC))の実質的に不浸透性の層を組み込む。適切な材料は、実質的な不浸透性と、イオン伝導性と、保護しなければ、例えば、リチウム金属と有害な反応を起こす水性電解質やその他の電解質(カソード材)、および/または、カソード材料に対する化学的適合性とを有する。かかるガラスまたはガラスセラミック材料は、実質的に亀裂がなく、膨潤性がなく、本質的にイオン伝導性を有する。すなわち、そのイオン伝導性は、液体電解質などの媒体の存在に左右されるものではない。それらは、少なくとも約10-7S/cm、一般的には少なくとも10-6S/cm、例えば、少なくとも10-5S/cmから10-4S/cm、望ましくは10-3S/cm以上という高いイオン伝導度を有し、多層の保護構造体は、少なくとも10-7S/cm、望ましくは10-3S/cm以上の総イオン伝導度を有する。層の厚さは、約0.1ないし1000ミクロンが好ましく、層のイオン伝導度が約10-7S/cmの場合、約0.25ないし1ミクロン、層のイオン伝導度が約10-4S/cmから10-3S/cmの場合には、約10ないし1000ミクロンであり、1ないし500ミクロンが好ましく、10ないし100ミクロン、例えば20ミクロンがさらに好ましい。
【0026】
実質的に不浸透性のリチウムイオン伝導性層の適切な例としては、(D.P.Button et al.、Solid State Ionics、Vols.9−10、Part 1、585−592(1983年12月)に記載されるような)リンガラス、酸化物ガラス、リン酸窒化物ガラス、イオウガラス、酸化物/硫化物ガラス、セレン化物ガラス、ガリウムガラス、ゲルマニウムガラス、ボラサイトガラスなどのガラス性または非晶質の金属イオン伝導体や、リチウムβアルミナ、ナトリウムβアルミナ、リチウム超イオン伝導体(LISICON)、ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)などのセラミック活性金属イオン伝導体や、ガラス‐セラミック活性金属イオン伝導体が挙げられる。具体的な例としては、LiPON、Li3PO4・Li2S・SiS2、Li2S・GeS2・Ga2S3、Li2O・11Al2O3、Na2O・11Al2O3、(Na,Li)1+xTi2-xAlx(PO4)3(0.6≦x≦0.9)や、結晶学的関連構造であるNa3Zr2Si2PO12、Li3Zr2Si2PO12、Na5ZrP3O12、Na5TiP3O12、Na3Fe2P3O12、Na4NbP3O12、Li5ZrP3O12、Li5TiP3O12、Li3Fe2P3O12、Li4NbP3O12、さらに、これらを組み合わせたものや焼結あるいは溶融したものが挙げられる。適切なセラミックイオン活性金属イオン伝導体は、例えば、本発明に参照文献としてその全体を組み込む米国特許第4,985,317号(Adachi et al.)に記載されている。
【0027】
保護構造体の実質的に不浸透性の層に特に適切なガラスセラミック材料は、以下の表の組成を有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックである。
その材料は、Li1+x(M,Al,Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3(ここで、X≦0.8および0≦Y≦1.0であり、Mは、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybからなる群から選択される元素である)および/またはLi1+x+yQxTi2-xSiyP3-yO12(ここで、0<X≦0.4 および0<Y≦0.6であり、Qは、AlまたはGaである)からなる主要結晶相を含む。ガラスセラミックは、原料を溶融して、溶融した原料をガラスに成型し、ガラスに熱処理を施すことにより得られる。かかる材料は、例えば、日本のOHARA社から入手可能であり、詳しくは、本発明に参照文献として組み込まれる米国特許第5,702,995号、6,030,909号、6,315,881号、6,485,622号に記載されている。
【0028】
リチウムイオン伝導性を有し実質的に不浸透性の層と、製造および電池セルへの組み込みの技術については、「Ionically Conductive Composites for Protection of Anodes and Electrolytes」のタイトルで2002年10月15日出願の米国仮特許出願番号60/418,899号、「Ionically Conductive Composites for Protection of Active Metal Anodes」のタイトルで2003年10月14日出願の対応米国特許出願番号10/686,189号(代理人整理番号No.PLUSP027)、「Ionically Conductive Composites for Protection of Active Metal Anodes」のタイトルで2003年12月5日出願の米国特許出願番号10/731,771号(代理人整理番号No.PLUSP027X1)、並びに、「Ionically Conductive Membranes for Protection of Active Metal Anodes and Battery Cells」のタイトルで2004年2月3日出願の米国特許出願番号10/772,228(代理人整理番号No.PLUSP039)、に記載されている。これらの出願全体を参照文献として、本明細書に組み入れる。
【0029】
リチウム(または、その他の活性金属あるいは活性金属挿入)電池において、これらの高伝導性のガラスおよびガラスセラミックを用いる際の重大な制限は、リチウム金属、または、リチウム金属に近い電位(例えば、約1ボルト以内)を有するリチウムの化合物に対する反応性である。本発明の非水性電解質中間層は、(例えば)リチウム電極を、ガラスまたはガラスセラミック膜と反応しないように分離する。非水性中間層は、Celgard社の微多孔セパレータなどの半透膜を有することで、リチウム電極とガラスまたはガラスセラミック膜との物理的な接触を防止してよい。その膜は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,3−ジオキソラン(DIOX)、すなわち、様々なエーテル、グライム、ラクトン、スルホン、スルホラン、または、それらの混合物などの溶媒を有する有機液体電解質(アノード材)が含浸される。その膜は、ポリマ電解質、ゲル状電解質、または、それらの組み合わせを、さらに有してもよいし、代わりに有してもよい。重要な基準は、リチウム電極が非水性アノード材内で安定すること、非水性アノード材がLi+イオンに対して十分な伝導性を有すること、リチウム電極がガラスまたはガラスセラミック膜に直接接触しないこと、および、組み立て品全体がリチウムイオンのガラスまたはガラスセラミック膜への通過を可能にすることである。
【0030】
図1を参照して、本発明の具体的な実施形態について説明する。図1は、活性金属、活性金属イオン、活性金属合金化金属、または活性金属挿入材料のアノード102と、イオン伝導性の保護構造体104とを有する電気化学セル構造体100を示す説明図である。保護構造体104は、アノード102の表面上に非水性のアノード材(移送電解質とも呼ぶ)を備えた活性金属イオン伝導性セパレータ層106と、セパレータ層106と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層108とを有する。セパレータ層106は、活性金属に対して化学的適合性を有しており、実質的に不浸透性の層108は、セパレータ層106および水性環境に対して化学的適合性を有している。構造体100は、活性金属との合金化も挿入も行っていない適切な導電性の金属からなる集電体110を備えてもよい。活性金属がリチウムの場合には、適切な集電体は銅である。集電体110は、アノードを周囲環境からシーリングして、活性金属と周囲の空気や水分との有害な反応を防止するよう機能してもよい。
【0031】
セパレータ層106は、有機アノード材が含浸された半透膜からなる。例えば、半透膜は、Celgard社から入手可能な微多孔ポリマであってよい。有機アノード材は、液相またはゲル相であってよい。例えば、アノード材は、有機カーボネート、エーテル、ラクトン、スルホン、および、それらの組み合わせ(EC、PC、DEC、DMC、EMC、1,2−DMEまたは高級グライム、THF、2MeTHF、スルホラン、および、それらの組み合わせなど)、からなる群から選択された溶媒を含んでよい。前述のように、この構造体を組み込んだセルの安全性を強化するために用いられる場合に限らず、1,3−ジオキソランが、アノード材の溶媒として用いられてもよい。アノード材がゲル相の場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)化合物、ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン(PVdF−HFP)のコポリマ、ポリアクリロニトリル化合物、架橋ポリエーテル化合物、ポリアルキレンオキシド化合物、ポリエチレンオキシド化合物、それらの組み合わせなどのゲル化剤を添加することで、溶媒をゲル化してよい。もちろん、適切なアノード材は、活性金属塩(例えば、リチウムの場合には、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSO3CF3、または、LiN(SO2C2F5)2)をさらに含む。適切なセパレータ層の一例は、プロピレンカーボネートに溶解され、Celgard社の微多孔ポリマ膜に含浸された1M LiPF6である。
【0032】
本発明の保護構造体には、多くの利点がある。特に、かかる構造体を組み込んだセル構造体は、比較的容易に製造できる。一例では、液体またはゲル状の有機電解質を含浸させた微多孔セパレータに接触して、リチウム金属が単純に配置され、セパレータは、ガラスまたはガラスセラミック活性金属イオン伝導体に隣接して配置される。
【0033】
非水性中間層には、ガラスセラミックを用いた場合に、さらなる利点がある。前述のOHARA社の特許に記載されている種類の非晶質ガラスを熱処理すると、ガラスは不透明になり、ガラスセラミックが形成される。しかしながら、この熱処理は、LiPON、Cu3Nなどの無機保護中間層の気相蒸着を用いて被覆することが困難な表面の粗さを引き起こしうる。液体(またはゲル状)の非水性電解質中間層を用いると、かかる粗い表面を通常の液体の流れによって容易に被覆して、表面の研磨などの必要性を排除できる。この意味で、Sony社およびSchott Glass社により提案され、Schott Glass社ウェブサイト(http://www.schott.com/english)からダウンロード可能で本発明に参照文献として組み込まれる、T.Kessler、H.Wegener、T.Togawa、M.Hayashi、およびT.Kakizaki、「Large Microsheet Glass for 40−in. Class PALC Displays」、1997、FMC2−3に記載の「ドローダウン」のような技術を用いて、薄いガラス層(20ないし100ミクロン)を形成し、これらのガラスを熱処理してガラスセラミックを形成することができる。
【0034】
電池セル
非水性中間層構造体は、電池セルに導入すると効果的である。例えば、図1の電気化学構造体100は、図2に示すように、カソード系120と組み合わせてセル200を形成することができる。カソード系120は、電子伝導性構成要素と、イオン伝導性構成要素と、電気化学的活性構成要素とを備える。カソード系120は、任意の所望の組成を有してよく、保護構造体によって実現される分離により、アノードやアノード材の組成によって制限されることはない。特に、カソード系は、水性材料(水、水性カソード材および空気など)、金属水素化物電極、および金属酸化物電極など、保護構造体がなければアノード活性金属に対して高い反応性を有する組成を含んでよい。
【0035】
一実施形態では、Celgardのセパレータが、薄ガラスセラミックの片側に配置され、次に、液体またはゲル状の非水性電解質が導入されて、最後に、リチウム電極が配置される。ガラスセラミック膜の他方の側には、水性電解質など、反応性の高い溶媒を用いることができる。このように、例えば、安価なLi/水またはLi/空気セルを構成することができる。
【0036】
本発明のセルは、非常に高い容量および比エネルギを有することができる。例えば、5mAh/cm2を超える容量を有するセルが可能であり、10、100、さらには、500mAh/cm2を超える容量を有するセルも可能である。以下の例で詳述するように、約3.35mm厚のLiアノードを有する本発明のLi/水試験セルでは、約650mAh/cm2の容量が実現された。この結果に基づくと、本発明のLi/空気セルについては、非常に高い比エネルギが実現できると予測される。例えば、3.3mm厚のLiアノード、6mmの積層厚、および45cm2の面積を有するLi/空気セルについては、未包装での比エネルギは、約3400Wh/l(4100Wh/kg)であり、包装による加重を70%とすると、包装済みでの比エネルギは、約1000Wh/l(1200Wh/kg)である。
【0037】
カソード系
上述のように、本発明の電池セルのカソード系120は、任意の所望の組成を有してよく、保護構造体によって実現される分離により、アノードやアノード材の組成によって制限されることはない。特に、カソード系は、水性材料(水、水性溶媒および空気など)、金属水素化物電極、および金属酸化物電極など、保護構造体がなければアノード活性金属に対して高い反応性を有する組成を含んでよい。
【0038】
本発明の電池セルは、「ACTIVE METAL/AQUEOUS ELECTROCHEMICAL CELLS AND SYSTEMS」のタイトルの同時係属出願番号10/772,157号(参照文献として本明細書に組み込まれる)に記載されたような、水、水溶液、空気電極、および金属水素化物電極や、例えば、従来のLiイオンセルで用いられるような金属酸化物電極を備えてよいが、これに限定されるものではない。
【0039】
本発明の保護中間層構造体によって実現されるアノードとカソードとの間の効果的な分離により、カソード材系の選択における柔軟性が、特に水性の系において高くなる。ただし、非水性の系でも柔軟性が高まる。保護されたアノードは、カソード材から完全に隔てられるため、アノードに対するカソード材の適合性は問題にならず、Liに対して動力学的に安定ではない溶媒および塩を用いることができる。
【0040】
電気化学的に活性なカソード材料として水を用いるセルについては、多孔質の電子伝導性支持構造体によって、カソード系の電子伝導性構成要素を実現できる。水性電解質(カソード材)が、LiイオンとLiイオンに結合した陰イオンの輸送(伝導)のイオンキャリアとして働く。電気化学的活性構成要素(水)とイオン伝導性構成要素(水性電解質)は、混合されて一つの溶液を形成してもよいが、これらの構成要素は、概念的には電池セルにおける別個の要素である。本発明のLi/水電池セルに適したカソード材は、適度なイオン伝導性を有する任意の水性電解質を含む。適切な電解質としては、HCl、H2SO4、H3PO4などの強酸、酢酸/酢酸リチウムなどの弱酸、LiOHなどの塩基、海水、LiCl、LiBr、LiIなどの中性物質、NH4Cl、NH4Brなどの両性物質が挙げられる。
【0041】
電解質として海水を用いることにより、非常に高いエネルギ密度を有する海上用電池セルを構成することが可能になる。未使用の状態では、セル構造体は、保護されたアノードと、多孔質の電子伝導性支持構造体(カソードの電子伝導性構成要素)とから構成されている。使用の際には、電気化学的活性構成要素およびイオン伝導性構成要素として働く海水にセルを浸すことにより完成させる。電気化学的活性構成要素およびイオン伝導性構成要素は周辺環境中の海水によって与えられるため、セルの使用前に電池セルの一部として構成する必要はなく、セルのエネルギ密度算出に含める必要はない。カソード側の反応生成物は収容されないために、かかるセルを「オープン」セルと呼ぶ。すなわち、かかるセルは一次電池になる。
【0042】
本発明は、二次Li/水セルとしても実現可能である。上述したように、適切な再充電電位がセルに加えられた際に、保護膜を通してLiイオンを逆方向に移動させ、セルのカソード側に収容されたカソード反応生成物を用いてアノードを再充電するため、このようなセルを「クローズド」セルと呼ぶ。
【0043】
上述し、以下で詳述するように、本発明の別の実施形態では、多孔質の電子伝導性触媒支持体をアイオノマで被覆することにより、電気化学的活性材料において必要なイオン伝導度が低減または排除される。
【0044】
Li/水セル内で生じる電気化学反応は、カソードの電気化学的活性材料を還元する酸化還元反応である。Li/水セルでは、電子伝導性触媒支持体が酸化還元反応を促進する。上述のように、これに限定されるものではないが、リチウム/水セル内では、以下の電池反応が生じると考えられる。
Li+H2O=LiOH+1/2H2
アノードとカソードでは、以下の半電池反応が生じると考えられる。
アノード: Li=Li++e-
カソード: e-+H2O=OH-+1/2H2
【0045】
したがって、Li/水セルのカソード触媒は、水への電子移送を促進し、水素と水酸化物イオンを生成する。この反応に一般的に用いられる安価な触媒はニッケル金属である。Pt、Pd、Ru、Auなどの貴金属にも同様な触媒作用があるが、高価である。
【0046】
本発明のLi(または、他の活性金属)/水電池の範囲には、保護されたLiアノードと、活性カソード材料(電気化学的活性構成要素)として利用可能な水溶性の気体および/または固体酸化剤からなる水性電解質と、を備える電池も入る。水よりも強い酸化剤である水溶性化合物を用いることにより、リチウム/水電池に比べて、一部の用途では電池エネルギを著しく増大させることが可能になる。このようなセルでは、放電反応時に、カソード表面で電気化学的な水素放出が生じる。かかる気体酸化剤の例としては、O2、SO2、NO2が挙げられる。また、NaNO2、KNO2などの亜硝酸金属、Na2SO3やK2SO3などの亜硫酸金属も水より強い酸化剤であり、高濃度で容易に水に溶解可能である。他に、水溶性の無機酸化剤として、リチウム、ナトリウム、カリウムの過酸化物や過酸化水素H2O2が挙げられる。
【0047】
酸化剤として過酸化水素を用いることは特に有用である。本発明の電池セルでは、過酸化水素の利用法は、少なくとも2つある。1つ目は、カソード表面上での過酸化水素の化学分解であり、これにより、活性カソード材料として利用可能な酸素ガスが生成される。2つ目は、さらに有用であると考えられるが、カソード表面上での過酸化水素の直接的な電解還元に基づく方法である。過酸化水素は、原則として、塩基性溶液中でも酸性溶液中でも還元可能である。酸性溶液中での過酸化水素還元を利用する電池では、最も高いエネルギ密度を実現できる。この場合、Li/水の対ではE0=3.05Vであるのに対して、Liアノードを備えたセルでは、(標準的な条件で)E0=4.82Vが生み出される。ただし、酸も過酸化水素も、保護されていないLiに対する反応性が非常に高いため、本発明のようにLiアノードを保護しないと、かかるセルを実用化できない。
【0048】
電気化学的活性カソード材料として空気を用いるセルについては、セルの電気化学的活性構成要素である空気は水分を含み、この水が上記の電気化学反応に供される。セルは、アノードと電気的に接続される電子伝導性支持構造体を備え、電子の移動によりカソード活性材料である空気を還元する。電子伝導性支持構造体は、一般に多孔質であるため、流体(空気)を透過させ、また、触媒活性を持つか触媒処理されることにより、カソード活性材料還元の触媒として働く。適切なイオン伝導性を有する水性電解質あるいはアイオノマが電子伝導性支持構造体に接することにより、電子伝導性支持構造体内部をイオンが移動して、酸化還元反応が生じる。
【0049】
空気カソード系は、電子伝導性構成要素(多孔質電子伝導体など)と、少なくとも水性成分を有するイオン伝導性構成要素と、電気化学的活性構成要素としての空気とを備える。 カソード系は、金属(例えば、Zn)/空気電池や低温(例えば、PEM)燃料電池で通常用いられるものなど、任意の適切な空気極でよい。金属/空気電池(特に、Zn/空気電池)で用いられる空気カソードは、「Handbook of Batteries」(Linden and T.B.Reddy、McGraw−Hill、NY、3版)など、多くの文献に記載されており、通常、空気拡散膜、疎水性テフロン層(テフロンは登録商標)、触媒層、Niスクリーンなどの電子伝導性金属構成要素/集電体を含む複数の層からなる。触媒層は、イオン伝導性構成要素/電解質を含む。イオン伝導性構成要素/電解質は、水性および/またはアイオノマ性でよい。代表的な水性電解質は、水に溶解させたKOHからなる。代表的なアイオノマ性電解質は、パーフルオロスルホン酸ポリマ膜(例えば、du Pont社のNAFION)などの水和(水)リチウムイオン伝導性ポリマからなる。空気拡散膜は、空気(酸素)の流れを調整する。疎水性層は、セルの電解質が空気拡散膜に侵入するのを防ぐ。この層は、通常、炭素粒子とテフロン粒子とを含む。触媒層は、通常、表面積の大きい炭素と酸素ガスの還元を促進する触媒とを含む。市販されているカソードの大部分では、MnO2などの金属酸化物が酸素還元用の触媒として用いられている。別の触媒としては、コバルトフタロシアニンなどの大員環金属化合物や、プラチナ、プラチナ/ルテニウム合金などの高分散貴金属が挙げられる。空気極構造体は、活性金属電極から化学的に分離されているため、アノード活性材料に対する潜在的な反応性により空気極の化学組成が限定されることはない。すなわち、保護されていない金属電極を攻撃する可能性のある材料を用いた高性能空気極の設計が可能になる。
【0050】
保護されたアノードと、水性構成要素を含むカソード系とを備える本発明の活性金属/水性電池セルの別の例として、リチウム(または、他の活性金属)/金属水素化物電池がある。例えば、リチウム/金属水素化物電池では、非水性中間層構造体で保護されたリチウムアノードが、電解質として適した水溶液中で充放電されてよい。適切な電解質は、プロトン源となるものである。例としては、HCl、HBr、NH4Cl、NH4Brなどの塩化物酸や臭化物酸、それらの塩を含めて、ハロゲン化物酸やその塩の水溶液が挙げられる。
【0051】
上述の水性、空気などの系に加えて、例えば、米国特許番号6,376,123号(参照文献として本明細書に組み込まれる)に記載されているように、金属酸化物カソード(例えば、LixCoO2、LixNiO2、LixMn2O4、およびLiFePO4)、および、アルキルカーボネートの二元、三元、または多元の混合物やそれら混合物とLi金属塩(例えば、LiPF6、LiAsF6、またはLiBF4)のための溶媒としてのエーテルとの混合物、もしくは、Li金属電池カソード(例えば、イオウ元素または多硫化物)、および、有機カーボネート、エーテル、グライム、ラクトン、スルホン、スルホラン、または、それらの組み合わせからなる電解質(例えば、EC、PC、DEC、DMC、EMC、1,2−DME、THF、2MeTHFやそれらの組み合わせ)など、従来のリチウムイオン電池カソードおよび電解質を備えるカソード系により、性能を改善できる。
【0052】
さらに、カソード材の溶液は、1,2−ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,3−ジオキソラン(DIOX)、4−メチルジオキソラン(4−MeDIOX)などのエーテルや、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの有機カーボネートや、それらの混合物など、低粘性溶媒のみからなってよい。また、保護されていないLiに対して非常に高い反応性を有する超低粘性エステル溶媒または共溶媒(蟻酸メチル、酢酸メチルなど)を用いてもよい。当業者に周知のように、イオン電導度および拡散速度は、粘性に逆比例するため、他の条件がすべて同じ場合には、溶媒の粘性が減少するほど、電池の性能は向上する。かかるカソード材の溶媒系を用いることにより、電池の性能(特に、低温における充放電特性)が向上する。
【0053】
本発明のカソード材に、イオン液体を用いてもよい。イオン液体は、100度未満の融点を有する有機塩であり、その融点は、しばしば、室温よりも低い。最も一般的なイオン液体は、イミダゾリウムおよびピリジニウムの誘導体であるが、ホスホニウム化合物やテトラアルキルアンモニウム化合物も知られている。イオン液体は、望ましい属性、すなわち、高イオン伝導度、高温安定性、低い蒸気圧、および難燃性を有する。代表的なイオン液体は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトシレート(EMIM−Ts)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム硫酸オクチル(BMIM−OctSO4)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、および、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸である。キャパシタや電池などの電気化学用途においてイオン液体への大きな関心があったが、それらは、金属リチウムやリチウムカーボンに対しては不安定である。しかしながら、本発明に記載したように保護されたアノードは、直接的な化学反応から分離されるため、本発明の一実施形態として、イオン液体を用いるリチウム金属電池を実現できる。かかる電池は、高温で特に安定していることが好ましい。
【0054】
安全性のための添加物
安全手段として、非水性中間層構造体は、反応性の高い電解質(例えば、水)と接触した場合に、アノード(例えば、リチウム)の表面上で不浸透性のポリマの形成を引き起こすゲル化/重合剤を含んでよい。この安全手段は、保護構造体(例えば、ガラスまたはガラスセラミック膜)の実質的に不浸透性の層に亀裂やその他の損傷が生じることで、反応性の高いカソード材が浸入してリチウム電極に近づき、Liアノードと水性カソード材との間で激しい反応が起きる可能性が高くなった場合に用いられる。
【0055】
かかる反応は、非水溶性または低水溶性のポリマのためのモノマ、例えば、ジオキソラン(Diox)を(例えば、体積で約5−20%の分量で)アノード材内に準備すると共に、モノマ用の重合開始剤、例えば、プロトン酸をカソード材内に準備することにより防止できる。Dioxベースのアノード材は、有機カーボネート(EC、PC、DEC、DMC、EMC)、エーテル(1,2−DME、THF、2MeTHF、1,3−ジオキソランなど)、およびそれらの混合物からなってよい。主要な溶媒(例えば、体積で50−100%)としてのジオキソランと、リチウム塩(特に、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3、LiN(SO2C2F5)2)とを含むアノード材が、特に有用である。Dioxは、リチウムの表面に対する優れた不動態化剤であり、Dioxベースの電解質で、リチウム金属について良好なサイクルのデータが実現された(米国特許5,506,068号を参照)。リチウム金属への適合性に加えて、Dioxは、上述のイオン性塩と組み合わせることで、伝導性の高い電解質を形成する。対応する水性カソード材は、非水溶性または低水溶性のDiox重合生成物(ポリジオキソラン)を生成するDiox用の重合開始剤を含む。
【0056】
膜が破損すると、溶解された開始剤を含むカソード材は、Dioxベースのアノード材と接触し、Dioxの重合が、Liアノード表面付近で起きる。ポリジオキソランは、Diox重合の生成物であり、抵抗値が高いため、セルは停止する。さらに、形成されたポリジオキソラン層は、リチウム表面と水性カソード材との反応を防ぐ障壁として機能する。Dioxの重合は、カソード材に溶解されたプロトン酸によって可能になる。また、水溶性のルイス酸(特に、ベンゾイルイオン)でも、この目的を実現できる。
【0057】
このように、ジオキソラン(Diox)ベースのアノード材と、Diox用の重合開始剤を含むカソード材とを用いることで、サイクル性能および安全性が改善される。
【0058】
活性金属イオンおよび合金アノード
本発明は、上述のように、活性金属からなるアノードを有する電池およびその他の電気化学構造体に関する。好ましい活性金属電極は、リチウム(Li)からなる。これらの構造体およびセルに適したアノード材は上述した。
【0059】
本発明は、さらに、活性金属イオン(例えば、リチウム−炭素)または活性金属合金(例えば、Li−Sn)アノードを有する電気化学構造体に関する。一部の構造体は、活性金属または活性金属イオンによって後に充電される非荷電の活性金属イオン挿入材料(例えば、炭素)または合金化金属(例えば、錫(Sn))を最初に有してよい。本発明は、様々な活性金属に適用できるが、本明細書では、主にリチウムを例として説明されている。
【0060】
従来のリチウムイオンセルで一般的に用いられる炭素材料(特に、石油コークスおよびメソカーボンマイクロビーズ)は、リチウムイオン水性電池セルのアノード材料として利用可能である。Ca、Mg、Sn、Ag、Zn、Bi、Al、Cd、Ga、In、およびSb、好ましくは、Al、Sn、またはSi、から選択された1または複数の金属を含むリチウム合金を、かかる電池のアノード材料に用いてもよい。具体的な一実施形態では、アノードは、Li、Cu、およびSnを含む。
【0061】
かかる構造体のためのアノード材は、非水性溶媒(例えば、従来のリチウムイオンセルで用いられるEC、PC、DEC、DMC、EMC、MA、MF)の二元または三元混合物に溶解された支持塩(例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、LiN(SO2C2F5)2)を含んでよい。ゲル−ポリマ電解質、例えば、上述の塩の1つと、PVdF、PVdF−HFPコポリマ、PAN、PEOなどのポリマ結合剤と、EC、PC、DEC、DMC、EMC、THF、2MeTHF、1,2−DME、およびそれらの混合物などの可塑剤(溶媒)とを含む電解質、を用いることもできる。
【0062】
これらのアノードを用いる電池については、保護構造体の反対側の電気化学構造体に、適切なカソード構造体が追加されてよい。その構成により、空気、水、金属水素化物、または金属酸化物など、複数の外来のカソードを用いるLiイオン型のセルが実現される。Liイオン水性電池セルについては、例えば、水性カソード材は、塩基性、酸性、または中性であってよく、Liイオンを含む。適切な水性カソード材の一例は、1M LiCl、2M HClである。
【0063】
リチウム−炭素リチウム合金アノードを備える電池の最初の充電の際には、Liイオンが、カソード材から保護構造体(アノード材を含む)を通してアノード表面に移送され、そこで、従来のLiイオンセルと同様に挿入プロセスが起きる。一実施形態では、アノードは、セルの組み立て前に外部で化学的または電気化学的にリチウム化される。
【0064】
セル設計
本発明の電気化学構造体および電池セルは、任意の適切な形状を有してよい。例えば、本明細書に提供された構造体またはセルの記載を考慮して本発明に容易に適応可能な周知の電池セル加工技術に従って、構造体またはセルの様々な構成要素(アノード、中間層、カソードなど)の平面層を積層することにより、平面的な形状にすることができる。これらの積層された層は、角柱形の構造体またはセルとして構成されてもよい。
【0065】
あるいは、非水性中間層構造体と共に管状のガラスまたはガラスセラミック電解質を用いることにより、シーリング面積が小さく表面積が大きいアノードを形成することが可能になる。セルの表面積と共にシーリングの長さが増大する平板設計とは対照的に、管状構造体は、末端のシーリングを用いるため、シーリング面積を変えずに管の長さを増大させて表面積を広げることができる。これにより、表面積の大きいLi/水およびLi/空気セルの形成が可能になり、それに応じて、セルの出力密度が高くなることが好ましい。
【0066】
本発明の非水性中間層構造体により、製造が容易になる。開放端(シーリング有り)または閉鎖端のガラスまたはガラスセラミック(すなわち、実質的に不浸透性で活性金属イオン伝導性の固体電解質)の管を、上述のように、リチウム一次電池で一般に用いられるような、非水性の有機電解質(アノード材すなわち移送電解質)で部分的に満たす。集電体を有する一種の物理的セパレータ(例えば、Celgard、Tonin、ポリプロピレンメッシュなどの半透性のポリマ膜)によって囲まれたリチウム金属棒を、その管に挿入する。次いで、単純なエポキシシーリング、ガラス金属シーリング、またはその他の適切なシーリングを用いて、リチウムと環境とを物理的に分離する。
【0067】
次に、保護されたアノードを円筒形の空気極に挿入して、図3Aに示すように、円筒形のセルを形成することができる。あるいは、図3Bに示すように、複数のアノードを角柱形の空気極に挿入してもよい。
【0068】
この技術は、上述のように、空気極の代わりに適切な水性、金属水素化物、または金属酸化物カソード系を用いることにより、Li/水、Li/金属水素化物、またはLi/金属酸化物セルを形成するために用いることもできる。
【0069】
リチウム金属棒またはワイヤ(毛細管状)の利用に加えて、本発明は、再充電可能なLiCxアノードを水性またはその他の腐食環境から分離するために利用可能である。この場合、適切なアノード材(移送電解質)の溶媒を管状アノード内で用いて、リチウム化炭素電極上に不動態膜を形成する。これにより、図3Cに示すように、空気、水、金属水素化物、または金属酸化物など、複数の外来のカソードを用いる大表面積リチウムイオン型のセルの形成が可能になる。
【0070】
実施例
以下、本発明のリチウム金属およびリチウムイオン水性電池セルの有利な特性を、実施例に基づいて詳細に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の態様を例示し詳細に説明するためのものであり、本発明をなんら限定するものではない。
【0071】
実施例1:Li/海水セル
OHARA社から市販されているイオン伝導性ガラスセラミックを、水性カソード材と非水性アノード材とを分離する膜として用いて、一連の実験を行った。セル構造体は、Li/非水性電解質/ガラスセラミック/水性電解質/Ptとした。Chemetall Foote社の125ミクロン厚のリチウム箔をアノードとして用いた。ガラスセラミック板は、厚さ0.3から0.48mmの範囲のものを用いた。ガラスセラミック板が、一方の側から水性環境にさらされて、他方の側から非水性環境にさらされるように、2つのOリングを用いてガラスセラミック板を電気化学セルに取り付けた。この例では、水性電解質は、Aquarium Systems社の35pptの「Instant Ocean」を用いて人工海水を準備した。海水の伝導度は、4.5×10-2S/cmであった。ガラスセラミックの他方の側に配置された微多孔のCelgardセパレータを、プロピレンカーボネートに溶解した1M LiPF6からなる非水性電解質で満たした。非水性電解質の充填体積は、Li電極の表面積1cm2当たり0.25mlであった。完成した電池回路では、海水カソード材内に完全に浸漬されたプラチナ対極を用いて、水素還元を促進した。Ag/AgCl参照電極を用いて、セル内のLiアノードの電位を制御した。測定値を標準水素電極(SHE)基準の電位に換算した。水中のLi/Li+とH2/H+との熱力学的電位差と密接に関係する開路電位(OCP)の測定値は、3.05ボルトであった(図4参照)。回路を閉じると、Pt電極側で直ちに水素発生が観察された。これは、セル内で2Li=2Li++2e-および2H++2e-=H2というアノードおよびカソードでの電極反応を示唆するものである。0.3mA/cm2の放電率でのLiのアノード溶解に対する電位−時間曲線を、図2に示す。この結果から、作製されたセルが、安定した放電電圧を有することがわかる。直接的に海水と接触させてLiアノードを用いた実験では、Liの利用効率は大変低く、この実施例と同様の低レベルから中程度レベルの電流密度では、海水中のLi腐食率が非常に高い(19A/cm2以上)ため電池の使用が不可能であった。
【0072】
実施例2:Li/空気セル
この実験用セル構造体は、電解質に完全に浸漬されたPt電極の代わりに、市販のZn/空気電池用に製造された空気極を有する以外は、実施例1と同様の構成である。水性電解質には、1M LiOHを用いた。Liアノードと非水性電解質は、実施例1と同じものを用いた。
【0073】
このセルの開路電位は3.2Vであった。図5は、放電率が0.3mA/cm2の場合の放電電圧−時間曲線を示している。セルは、14時間以上の間、2.8−2.9Vの放電電圧を示した。この結果から、水性カソード材と非水性アノード材とを分離する固体電解質膜を備えたLi/空気セルについては、良好な性能を実現できることがわかった。
【0074】
実施例3:Liイオンセル
これらの実験では、OHARA社から市販されているイオン伝導性ガラスセラミックを、水性カソード材と非水性アノード材とを分離する膜として用いた。セル構造体は、カーボン/非水性電解質/ガラスセラミック板/水性電解質/Ptとした。リチウムイオン電池で一般的に用いられているカーボン電極と同様の合成グラファイトを含む銅基板上の市販のカーボン電極を、アノードとして用いた。ガラスセラミック板の厚さは0.3mmであった。ガラスセラミック板が、一方の側から水性環境にさらされて、他方の側から非水性環境にさらされるように、2つのOリングを用いてガラスセラミック板を電気化学セルに取り付けた。水性電解質は、2M LiClと1M HClとで構成した。ガラスセラミックの他方の側に配置された2層の微多孔のCelgardセパレータを、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(1:1の体積で混合)に溶解した1M LiPF6からなる非水性電解質で満たした。2層のCelgardセパレータの間には、サイクル中のカーボンアノードの電位を制御するために、リチウムワイヤの参照電極を配置した。2M LiClおよび1M HClの溶液に完全に浸漬されたプラチナメッシュを、セルのカソードとして用いた。サイクル中に、カーボン電極の電位と、ガラスセラミック板による電圧降下と、Ptカソードの電位とを制御するために、水性電解質内に配置されたAg/AgCl参照電極を用いた。このセルについては、約1ボルトの開路電位(OCV)が観察された。熱力学的な値と密接に関係するLi参照電極とAg/AgCl参照電極との間の電圧差は、3.2ボルトであった。セルは、カーボン電極電位がLi参照電極に対して5mVに達するまでは、0.1mA/cm2で充電し、その後は、同じカットオフ電位を用いて0.05mA/cm2で充電した。放電率は0.1mA/cm2であり、炭素アノードの放電カットオフ電位はLi参照電極に対して1.8Vであった。図6のデータは、挿入炭素カソードとLiイオンを含む水性電解質とを備えたセルが可逆的に働くことが可能であることを示している。これは、炭素アノードの充電のためのLiイオン源として、固体リチウム酸化物カソードの代わりに、Liイオンセル内で水溶液を用いたことでは、知られる限りで最初の例である。
【0075】
実施例4:電解質内におけるガラスセラミックで保護された厚いLiアノードの性能
水性電解質内の様々な厚さのLi箔を試験するための実験用Li/水セルを設計した。そのセルは、図8に示すように、Cu基板上に配置された2.0cm2の活性領域を有する保護されたLi箔を備えたアノード区画を含む。約3.3から3.5mmの厚さを有するLi電極を、Li金属棒から加工した。加工処理は、Li棒の押し出し成形および圧延と、その結果形成された箔をNi網の集電体の表面上に油圧プレスで静的プレスすることを含む。リチウム箔との化学反応を避けるために、プレス動作には、ポリプロピレン本体を有する型を用いた。約50ミクロンの厚さのガラスセラミック膜が、一方の側から水性環境(カソード材)にさらされて、他方の側から非水性環境(アノード材)にさらされるように、2つのOリングを用いてガラスセラミック膜を電気化学セルに取り付けた。アノード材は、アノードとガラスセラミック膜の表面との間の液体中間層として機能した。
【0076】
そのセルを、セルの充放電中にカソードの緩衝液として機能する4M NH4Clの水性カソード材で満たした。ガラスセラミック膜の他方の側に配置された微多孔のCelgardセパレータを、プロピレンカーボネートに溶解した1M LiClO4からなる非水性アノード材で満たした。アノード区画は、保護ガラスセラミック膜のみが、水性環境、参照電極、および金属スクリーン対極にさらされるように、水溶液に対してシーリングを施した。ホウケイ酸ガラスからなるセル本体を、100mlのカソード材で満たした。Liのアノード溶解中の水素放出(水還元)を促進するためのカソードとして、Tiスクリーン対極を用いた。放電中のLiアノードの電位を制御するために、保護ガラス膜の表面に隣接して、Ag/AgCl参照電極を配置した。測定値を標準水素電極(SHE)基準の電位に換算した。セルには、カソード側で発生する水素ガスを放出するための排気口を設けた。
【0077】
このセルを連続的に放電した際の電位−時間曲線を図7に示す。セルは、約2.7から2.9Vの閉路電圧でほぼ1400時間の非常に長い放電を示した。実現された放電能力の値は、非常に大きく、約650mAh/cm2であった。50μm厚の保護ガラスセラミック膜を破壊することなく、Liアノード/水性電解質の界面を、3.35mmを超えるLiが移動した。この実験で用いたLi箔の厚さは、3.35から3.40mmの範囲であった。放電されたLiアノードの事後分析により、全量のLiが、セル放電の完了時に、Ni集電体から剥離されたことが確認された。これにより、保護されたLiアノードの放電のクーロン効率は100%に近いことが示された。
【0078】
実現されたLiの放電能力を用いて、Li/空気角柱形電池の性能を推定した。図9には、様々な厚さの保護されたLiを有する電池の比エネルギの推定値と、Liの厚さが3.3mmでありガラスで保護されたアノードに対するセル重量比エネルギの値とを示している。この図は、さらに、セルの構成と、計算に用いたパラメータも示している。セルの寸法は、名刺の面積(約45cm2)に相当し、厚さは、約6mm(3.3mmのLiアノードを含む)である。これにより、推定放電能力は、非常に大きい90Whとなる。図9からわかるように、実験で実現されたガラス保護アノードの放電能力は、非常に高性能の特性を有するLi/空気電池を構成することを可能にする。
【0079】
別の実施形態−Li/水電池と、燃料電池用水素発生装置
本発明に従って、活性金属電極上に保護構造体を設けることにより、上述のように、ごく少量の腐食電流を生じる活性金属/水電池を構成することが可能になる。Li/水電池は、8450Wh/kgという非常に高い理論エネルギ密度を有する。電池反応は、Li+H2O=LiOH+1/2H2である。電池反応により生じた水素は通常無駄になるが、本発明のこの実施形態では、室温燃料電池用の燃料として用いられる。生成された水素は、燃料電池に直接供給されてもよいし、後から燃料電池で利用するために、金属水素化物合金に貯蔵することも可能である。少なくともMILLENIUM CELL社(http://www.milleniumcell.com/news/tech.html)では、水と水素化ホウ素ナトリウムとの反応を用いて水素を生成している。しかしながら、この反応には触媒が必要であり、NaBH4と水との化学反応で生じたエネルギは熱として消失してしまう。
NaBH4+2H2O→4H2+NaBO2
この反応を燃料電池反応H2+O2=H2Oと組み合わせると、燃料電池反応は、以下のようになると考えられる。
NaBH4+2O2→2H2O+NaBO2
この系のエネルギ密度は、反応物質であるNaBH4の当量から算出できる(38/4=9.5グラム当量)。セル電圧は約1であり、この系の比エネルギは2820Wh/kgであるため、NaBH4の重量容量は2820mAh/gになる。最終生成物NaBO2に基づいて計算されるエネルギ密度はさらに低く、約1620Wh/kgである。
【0080】
Li/水セルの場合、次の電気化学反応により水素が生成されると考えられる。
Li+H2O=LiOH+1/2H2
この場合、この化学反応のエネルギは、セル当たり3ボルトの電気エネルギに変換され、燃料電池内で水素が水に変換される。すなわち、セル全体では以下の反応が起こっていると考えられる。
Li+1/2H2O+1/4O2=LiOH
ここで、理論的には、すべての化学エネルギが電気エネルギに変換される。11,500Wh/kg(NaBH4の4倍)に対応する約3ボルトのセル電位では、リチウムアノードに基づくエネルギ密度は3830mAh/gになる。反応に必要な水の重量を含めると、エネルギ密度は5030Wh/kgになる。放電生成物であるLiOHの重量に基づくエネルギ密度は3500Wh/kgであり、NaBO2系のエネルギ密度の2倍である。これは、水素を生成するための水とリチウム金属との反応も考慮した以前の概念と比較することができる。Li/H2O反応におけるエネルギの大部分は熱として失われ、(Li/H2Oの3に対して)実際には1未満であるH2/O2系のセル電位にエネルギ密度が基づくため、エネルギ密度は1/3に減少する。図10に示す本発明の実施形態では、Li/水電池にかかる負荷によって、水素の生成を慎重に制御する。保護膜の存在によりLi/水電池は貯蔵寿命が長く、また、セルから放出される水素は既に加湿された状態でH2/空気型燃料電池に供給される。
【0081】
結論
以上、本発明の理解を深める目的で、詳細に本発明を説明したが、本発明の範囲内で様々に変更、変形可能である。特に、リチウム金属、リチウム合金または挿入アノードに主に言及しながら本発明を説明したが、アノードは、ナトリウムなどの他のアルカリ金属を初めとする任意の活性金属で形成されてもよい。本発明の処理や組成についても、別の形で実施可能である。したがって、上記の実施例は単に例示に過ぎず、何ら発明を限定するものではなく、本発明はこれらの詳細事項に限定されるものではない。
【0082】
また、本明細書で引用した引例はすべて、あらゆる目的で、本発明に参照文献として組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を備える電気化学構造体を示す説明図。
【図2】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を備える電池セルを示す説明図。
【図3A】管状設計の被保護アノードを用いる本発明の電池セルの実施形態を示す図。
【図3B】管状設計の被保護アノードを用いる本発明の電池セルの実施形態を示す図。
【図3C】管状設計の被保護アノードを用いる本発明の電池セルの実施形態を示す図。
【図4】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を有するアノードを備えたセルの性能を示すデータのグラフ。
【図5】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を有するアノードを備えたセルの性能を示すデータのグラフ。
【図6】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を有するアノードを備えたセルの性能を示すデータのグラフ。
【図7】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を有するアノードを備えたセルの性能を示すデータのグラフ。
【図8】図7のデータを生成するために用いられた水性電解質のLi箔の厚さを変えて試験するための実験用セルを示す図。
【図9】様々な厚さの本発明のイオン伝導性保護中間層構造体を有するアノードを備えた電池に対する比エネルギ推定値と、3.3mmの厚さのLiを有する被保護アノードに対するセル重量比エネルギの値と、セルの構成と、算出に用いたパラメータとを示す図。
【図10】本発明の一実施形態に従って、Li/水電池と燃料電池用の水素発生装置とを示す図。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、活性金属電気化学装置に関する。特に、本発明は、活性金属(例えば、リチウムなどのアルカリ金属)、活性金属挿入材料(例えば、リチウム−炭素、炭素)、活性金属合金(例えば、リチウム−錫合金)、または合金化金属(例えば、錫)の電気化学(例えば、電極)構造体と電池セルに関する。電極構造体は、非水性電解質を含浸させた多孔質のセパレータによって電極(アノード)から分離された活性金属(例えば、リチウム)伝導性の不浸透性層を備えるイオン伝導性の保護構造体を有する。この保護構造体は、不浸透層の反対側(カソード側)の環境との有害な反応から活性金属を保護する。環境とは、水性、空気、または有機液体の電解質、および/または、電気化学的活性材料を含みうる。
【背景技術】
【0002】
リチウムなど、低当量のアルカリ金属は、電池の電極の構成要素として特に有用である。リチウム電池は、従来のニッケル電池やカドミウム電池よりも単位容積あたりの出力エネルギ量が大きい。残念ながら、再充電可能なリチウム金属電池の商品化はいまだに成功していない。
【0003】
充電式のリチウム金属電池の欠点は、主に、セルのサイクルの問題にある。充放電サイクルを繰り返すと、リチウム金属電極から生じるリチウム「樹状突起」が次第に成長し、電解質を突き抜け、最終的には、陽極に接触する。これにより、電池内で内部ショートが起こるため、電池は比較的少ないサイクルで使用不能になってしまう。また、サイクル中に、リチウム電極上に「苔状」堆積物が積層し、陰極から遊離して、電池の容量を低下させる場合がある。
【0004】
液体電解質系におけるリチウムのサイクル挙動を改善するために、一部の研究者は、リチウム陰極の電解質側を「保護層」で被覆することを提案した。かかる保護層は、リチウムイオンを伝導すると同時に、リチウム電極表面とバルク電解質との間の接触を防ぐ必要がある。保護層を形成するための多くの技術が失敗に終わっている。
【0005】
例えば、リチウム金属とリチウムに接するセルの電解質中の化合物との間の反応によりその場で(in situ)リチウム金属保護層を形成する技術が提案されている。これらの技術の多くでは、電池を組み立てた後、化学反応を制御して、その場で膜を成長させる。一般に、かかる膜は、多孔質の形態を有しているために、電解質の一部が裸のリチウム金属表面に浸透してしまう。そのため、それらの膜は、リチウム電極を十分に保護することができない。
【0006】
様々な成形リチウム保護膜が提案されている。例えば、(1994年5月24日にBatesに交付された)米国特許第5,314,765号には、リチウムリン酸窒化物(LiPON)などをスパッタリングすることにより形成した薄層を含むリチウム電極を外部で(ex situ)製造する技術が開示されている。LiPONは、(リチウムイオンを伝導する)ガラス性単一イオン伝導体であり、シリコン上に加工され、集積回路の電源として用いられる固体リチウムマイクロ電池用の電解質として研究されてきた(Bates et al.に交付された米国特許第5,597,660号、5,567,210号、5,338,625号、5,512,147号参照)。
【0007】
また、本発明の出願人の研究所では、活性金属電池の電極内でLiPONなどのガラス性または非晶質の保護層を用いる技術が開発されてきた(例えば、PolyPlus Battery社に譲渡された2000年2月15日交付済み米国特許第6,025,094号、2002年6月11日交付済み米国特許第6,402,795号、2001年4月10日交付済み米国特許第6,214,061号、2002年7月2日交付済み米国特許第6,413,284号参照)。
【0008】
水性環境中でリチウムアノードを用いる場合には、従来、濃縮KOH水溶液などの高塩基性条件にして、Li電極の腐食速度を遅くするか、あるいはLi電極をポリマで被覆して、水のLi電極表面への拡散を妨げる手法が採られてきた。しかし、いずれの場合でも、アルカリ金属電極と水との反応がかなり生じていた。水の絶縁破壊電圧が約1.2Vであって、Li/水セルの電圧は約3.0Vであるため、Li金属アノードと組み合わせて、水性カソードまたは水性電解質を用いることは不可能だとされてきた。リチウム金属と水溶液が直接接触することにより、激しい寄生反応が起こり、リチウム電極が腐食してしまう。このため、リチウム金属電池分野の研究は、有効な非水性(主に有機物)電解質系の開発に焦点がしぼられていた。
【発明の開示】
【0009】
本発明は、一般に、活性金属電気化学装置に関する。特に、本発明は、活性金属(例えば、リチウムなどのアルカリ金属)、活性金属挿入材料(例えば、リチウム−炭素、炭素)、活性金属合金(例えば、リチウム−錫合金)、または合金化金属(例えば、錫)の電気化学(例えば、電極)構造体と電池セルに関する。電気化学構造体は、非水性電解質(アノード材)を含浸させた多孔質のセパレータによって電極(アノード)から分離された活性金属(例えば、リチウム)イオン伝導性の実質的に不浸透性の層を備えるイオン伝導性の保護構造体を有する。この保護構造体は、不浸透層の反対側(カソード側)の環境との有害な反応から活性金属を保護する。環境とは、水性、空気、または有機液体の電解質(カソード材)、および/または、電気化学的活性材料を含みうる。
【0010】
保護構造体のセパレータ層(中間層)は、アノードの活性金属(例えば、リチウム)と活性金属イオン伝導性の実質的に不浸透性の層との間の有害な反応を防ぐ。したがって、この構造体は、リチウムなどの活性金属に対して通常は高腐食性であるような環境を含め、溶媒、電解質処理、および/または、カソード環境から、アノード/アノード材を効果的に分離(分断)すると同時に、これらの潜在的な腐食性環境に対するイオンの出入りを可能にする。
【0011】
本発明のセルおよびセル構造体の様々な実施形態は、非水性アノード材を有するイオン伝導性の保護構造体で保護された活性金属、活性金属イオン、活性金属合金化金属、および活性金属挿入アノード材料を備える。これらのアノードは、水、空気、金属水素化物、および金属酸化物のカソードなどの様々なカソード系と、それに関連するカソード材系(特に、水性カソード材系)とを備える電池セルに組み込まれてよい。
【0012】
保護構造体(例えば、ガラスまたはガラスセラミック膜)の実質的に不浸透性の層に亀裂やその他の損傷が生じることで、反応性の高いカソード材が浸入してリチウム電極に近づく場合に備えて、本発明の構造体およびセルに、安全性のための添加物を組み込んでもよい。非水性中間層構造体は、反応性の高いカソード材と接触した場合に、リチウムの表面上で不浸透性のポリマの形成を引き起こすゲル化/重合剤を含んでよい。例えば、アノード材は、ジオキソラン(Diox)/ポリジオキソランなど、非水溶性または低水溶性のポリマのためのモノマを含んでよく、カソード材は、プロトン酸など、モノマ用の重合開始剤を含んでよい。
【0013】
さらに、本発明の構造体およびセルは、任意の適切な形態を有してよい。加工を容易にする有利な形態の1つは、管状の形態である。
【0014】
一態様では、本発明は、電気化学セル構造体に関する。その構造体は、活性金属、活性金属イオン、活性金属合金、活性金属合金化金属、または、活性金属挿入材料を含む。アノードは、その表面上にイオン伝導性の保護構造体を有する。保護構造体は、非水性アノード材を有し、活性金属に対する化学的適合性を有し、アノードと接触する活性金属イオン伝導性セパレータ層と、セパレータ層および水性環境に対する化学的適合性を有し、セパレータ層と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層とを備える。セパレータ層は、液相またはゲル相のアノード材を含浸させた微多孔ポリマなど、有機アノード材を含浸させた半透膜であってよい。かかる電気化学(電極)構造体は、水性カソード系などのカソード系と組み合わされて、本発明の電池セルを形成してよい。
【0015】
本発明の構造体と、それらの構造体を備える電池セルとは、角柱形や円筒形など、様々な構成や、活性金属イオン、合金、および挿入アノード、水性、水、空気、金属水素化物、および金属酸化物カソード、水性、有機液体、およびイオン液体のカソード材、電解質(アノード材および/またはカソード材)の組成など、様々な構成要素を有することで、セルの安全性および/または性能、製造技術を強化してよい。
【0016】
以下の詳細な説明では、本発明の上述の特徴およびその他の特徴について、さらに説明および例示する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明する。具体的な実施形態の例は、添付の図面に図示されている。本発明は、これらの実施形態を参照して説明されているが、本発明をかかる実施形態に限定する意図はない。逆に、本発明は、添付の請求項の範囲によって規定される本発明の趣旨および範囲を逸脱しない範囲内で、代替物、変更物、および等価物を網羅するよう意図されている。以下では、本発明の完全な理解を助けるために、多くの具体的な詳細事項について説明する。本発明は、これらの具体的な詳細事項の一部あるいは全部がなくとも実施可能である。また、本発明の論点がぼけないように、周知の処理動作については詳細な説明を省く。
【0018】
本明細書および請求項において、「備える(含む)」「方法は〜備える(含む)」「装置は〜備える(含む)」などの表現と共に用いられた場合には、単数形の名詞は、特に明記しない限り、複数も含むこととする。また、特に明記しない限り、本明細書で用いる科学技術用語は、本発明分野の当業者が通常理解する意味で用いられるものとする。
【0019】
緒言
活性金属は、周囲条件において高い反応性を有し、電極として用いる場合には、障壁層を形成することが望ましい。活性金属には、アルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、マグネシウム)、ある種の遷移金属(例えば、亜鉛)、および/または、これら金属の2種類以上の合金が含まれる。利用可能な活性金属の例としては、アルカリ金属(例えば、Li、Na、K)、アルカリ土類金属(例えば、Ca、Mg、Ba)、Ca、Mg、Sn、Ag、Zn、Bi、Al、Cd、Ga、Inを用いた二元あるいは三元アルカリ金属合金が挙げられる。望ましい合金としては、リチウムアルミニウム合金、リチウムケイ素合金、リチウム錫合金、リチウム銀合金、ナトリウム鉛合金(例えば、Na4Pb)である。活性金属電極の材料としては、リチウムを使うことが好ましい。
【0020】
リチウムなど、低当量のアルカリ金属は、電池の電極の構成要素として特に有用である。リチウム電池は、従来のニッケル電池やカドミウム電池よりも単位容積あたりの出力エネルギ量が大きい。しかしながら、リチウム金属、または、リチウム金属に近い電位(例えば、約1ボルト以内)を有するリチウムの化合物(リチウム合金やリチウムイオン(リチウム挿入)アノード材料など)は、多くの潜在的に有用な電解質およびカソードの材料に対して高い反応性を有する。本発明は、活性金属(例えば、リチウムなどのアルカリ金属)、活性金属合金または活性金属イオン電極(通例は、電池セルのアノード)を、周囲、および/または、セルのカソード側から分離するための非水性電解質中間層構造体の利用を記載している。その構造体は、非水性アノード材(すなわち、アノード周囲の電解質)を有し、活性金属に対する化学的適合性を有し、アノードと接触する活性金属イオン伝導性セパレータ層と、セパレータ層および水性環境に対する化学的適合性を有し、セパレータ層と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層とを備える。非水性電解質中間層構造体は、カソード材(すなわち、カソード周囲の電解質)の環境や、リチウムなどの活性金属に対して通常は高腐食性であるような環境を含め、周囲および/またはカソードから、アノードを効果的に分離(分断)すると同時に、これらの潜在的な腐食性環境に対するイオンの出入りを可能にする。このように、その構造体を備えるよう構成された電池セルなどの電気化学装置の他の構成要素に関する自由度が向上される。電池セルや電気化学セルの他の構成要素からアノードを分離することにより、実質的に任意の溶媒、電解質、および/または、カソード材料を、アノードと組み合わせて利用できるようになる。また、アノードの安定性や性能に影響を及ぼすことなく、電解質またはカソード側溶媒系を最適化できる。
【0021】
リチウムなどの活性金属に対して反応性を有する水、水性の電解質、空気、および他の材料や、有機溶媒/電解質およびイオン性溶液などを含む水溶液を、活性金属(例えば、リチウムなどのアルカリ金属)アノードまたは活性金属挿入(例えば、リチウム合金またはリチウムイオン)アノードを内部に備える電池セルのカソード側で用いることは、様々な用途において好ましい。
【0022】
リチウム金属ではなく、リチウム−炭素アノードやリチウム合金アノードのようなリチウム挿入電極材料をアノードに用いると、良好な電池特性を実現することもできる。まず、Li表面から膜表面へ成長して膜の劣化を引き起こしうるリチウム金属の樹状突起の形成の危険性なしに、電池のサイクル寿命を伸ばすことが可能になる。リチウム金属アノードの代わりに本発明の一部の実施形態でリチウム−炭素およびリチウム合金アノードを用いると、サイクル中に反応性の高い「苔状の」リチウムの形成を防ぐため、電池の安全性をかなり改善できる。
【0023】
本発明は、例えば、保護しなければリチウム金属と有害な反応を起こす水性電解質やその他の電解質を用いる電池など、非常に高いエネルギ密度を有するリチウム電池を可能にする保護された活性金属、合金、または挿入電極を提供する。かかる高エネルギ電池対の例は、リチウム−空気、リチウム−水、リチウム−金属水素化物、リチウム−金属酸化物、および、それらのリチウム合金およびリチウム−イオン変形物である。本発明のセルは、電解質(アノード材およびカソード材)に構成要素を追加して、セルの安全性を改善してよく、平面および管状/円筒形など、様々な構造を有してよい。
【0024】
非水性中間層構造体
本発明の非水性中間層構造体は、電気化学セル構造体中に設けられる。その構造体は、活性金属、活性金属イオン、活性金属合金、活性金属合金化材料、および、活性金属挿入材料、からなる群から選択された材料で形成されたアノードと、アノードの第1の表面上のイオン伝導性保護構造体とを有する。その構造体は、非水性アノード材を有する活性金属イオン伝導性セパレータ層と、実質的に不浸透性のイオン伝導層とを備えており、セパレータ層は、活性金属に対する化学的適合性を有すると共にアノードと接触し、イオン伝導層は、セパレータ層および水性環境に対する化学的適合性を有すると共にセパレータ層と接触している。セパレータ層は、有機アノード材を含浸させた微多孔ポリマなどの半透膜を備えてよく、かかるポリマは、ノースカロライナ州シャーロットのCelgard社から入手可能である。
【0025】
本発明の保護構造体は、活性金属イオンに対する高い伝導性と、例えば、水性電解質など、リチウム金属と積極的に反応する反応性の高い電解質に対する安定性とを有する活性金属イオン伝導性のガラスまたはガラスセラミック(例えば、リチウムイオン伝導性ガラスセラミック(LIC−GC))の実質的に不浸透性の層を組み込む。適切な材料は、実質的な不浸透性と、イオン伝導性と、保護しなければ、例えば、リチウム金属と有害な反応を起こす水性電解質やその他の電解質(カソード材)、および/または、カソード材料に対する化学的適合性とを有する。かかるガラスまたはガラスセラミック材料は、実質的に亀裂がなく、膨潤性がなく、本質的にイオン伝導性を有する。すなわち、そのイオン伝導性は、液体電解質などの媒体の存在に左右されるものではない。それらは、少なくとも約10-7S/cm、一般的には少なくとも10-6S/cm、例えば、少なくとも10-5S/cmから10-4S/cm、望ましくは10-3S/cm以上という高いイオン伝導度を有し、多層の保護構造体は、少なくとも10-7S/cm、望ましくは10-3S/cm以上の総イオン伝導度を有する。層の厚さは、約0.1ないし1000ミクロンが好ましく、層のイオン伝導度が約10-7S/cmの場合、約0.25ないし1ミクロン、層のイオン伝導度が約10-4S/cmから10-3S/cmの場合には、約10ないし1000ミクロンであり、1ないし500ミクロンが好ましく、10ないし100ミクロン、例えば20ミクロンがさらに好ましい。
【0026】
実質的に不浸透性のリチウムイオン伝導性層の適切な例としては、(D.P.Button et al.、Solid State Ionics、Vols.9−10、Part 1、585−592(1983年12月)に記載されるような)リンガラス、酸化物ガラス、リン酸窒化物ガラス、イオウガラス、酸化物/硫化物ガラス、セレン化物ガラス、ガリウムガラス、ゲルマニウムガラス、ボラサイトガラスなどのガラス性または非晶質の金属イオン伝導体や、リチウムβアルミナ、ナトリウムβアルミナ、リチウム超イオン伝導体(LISICON)、ナトリウム超イオン伝導体(NASICON)などのセラミック活性金属イオン伝導体や、ガラス‐セラミック活性金属イオン伝導体が挙げられる。具体的な例としては、LiPON、Li3PO4・Li2S・SiS2、Li2S・GeS2・Ga2S3、Li2O・11Al2O3、Na2O・11Al2O3、(Na,Li)1+xTi2-xAlx(PO4)3(0.6≦x≦0.9)や、結晶学的関連構造であるNa3Zr2Si2PO12、Li3Zr2Si2PO12、Na5ZrP3O12、Na5TiP3O12、Na3Fe2P3O12、Na4NbP3O12、Li5ZrP3O12、Li5TiP3O12、Li3Fe2P3O12、Li4NbP3O12、さらに、これらを組み合わせたものや焼結あるいは溶融したものが挙げられる。適切なセラミックイオン活性金属イオン伝導体は、例えば、本発明に参照文献としてその全体を組み込む米国特許第4,985,317号(Adachi et al.)に記載されている。
【0027】
保護構造体の実質的に不浸透性の層に特に適切なガラスセラミック材料は、以下の表の組成を有するリチウムイオン伝導性ガラスセラミックである。
その材料は、Li1+x(M,Al,Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3(ここで、X≦0.8および0≦Y≦1.0であり、Mは、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybからなる群から選択される元素である)および/またはLi1+x+yQxTi2-xSiyP3-yO12(ここで、0<X≦0.4 および0<Y≦0.6であり、Qは、AlまたはGaである)からなる主要結晶相を含む。ガラスセラミックは、原料を溶融して、溶融した原料をガラスに成型し、ガラスに熱処理を施すことにより得られる。かかる材料は、例えば、日本のOHARA社から入手可能であり、詳しくは、本発明に参照文献として組み込まれる米国特許第5,702,995号、6,030,909号、6,315,881号、6,485,622号に記載されている。
【0028】
リチウムイオン伝導性を有し実質的に不浸透性の層と、製造および電池セルへの組み込みの技術については、「Ionically Conductive Composites for Protection of Anodes and Electrolytes」のタイトルで2002年10月15日出願の米国仮特許出願番号60/418,899号、「Ionically Conductive Composites for Protection of Active Metal Anodes」のタイトルで2003年10月14日出願の対応米国特許出願番号10/686,189号(代理人整理番号No.PLUSP027)、「Ionically Conductive Composites for Protection of Active Metal Anodes」のタイトルで2003年12月5日出願の米国特許出願番号10/731,771号(代理人整理番号No.PLUSP027X1)、並びに、「Ionically Conductive Membranes for Protection of Active Metal Anodes and Battery Cells」のタイトルで2004年2月3日出願の米国特許出願番号10/772,228(代理人整理番号No.PLUSP039)、に記載されている。これらの出願全体を参照文献として、本明細書に組み入れる。
【0029】
リチウム(または、その他の活性金属あるいは活性金属挿入)電池において、これらの高伝導性のガラスおよびガラスセラミックを用いる際の重大な制限は、リチウム金属、または、リチウム金属に近い電位(例えば、約1ボルト以内)を有するリチウムの化合物に対する反応性である。本発明の非水性電解質中間層は、(例えば)リチウム電極を、ガラスまたはガラスセラミック膜と反応しないように分離する。非水性中間層は、Celgard社の微多孔セパレータなどの半透膜を有することで、リチウム電極とガラスまたはガラスセラミック膜との物理的な接触を防止してよい。その膜は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1,3−ジオキソラン(DIOX)、すなわち、様々なエーテル、グライム、ラクトン、スルホン、スルホラン、または、それらの混合物などの溶媒を有する有機液体電解質(アノード材)が含浸される。その膜は、ポリマ電解質、ゲル状電解質、または、それらの組み合わせを、さらに有してもよいし、代わりに有してもよい。重要な基準は、リチウム電極が非水性アノード材内で安定すること、非水性アノード材がLi+イオンに対して十分な伝導性を有すること、リチウム電極がガラスまたはガラスセラミック膜に直接接触しないこと、および、組み立て品全体がリチウムイオンのガラスまたはガラスセラミック膜への通過を可能にすることである。
【0030】
図1を参照して、本発明の具体的な実施形態について説明する。図1は、活性金属、活性金属イオン、活性金属合金化金属、または活性金属挿入材料のアノード102と、イオン伝導性の保護構造体104とを有する電気化学セル構造体100を示す説明図である。保護構造体104は、アノード102の表面上に非水性のアノード材(移送電解質とも呼ぶ)を備えた活性金属イオン伝導性セパレータ層106と、セパレータ層106と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層108とを有する。セパレータ層106は、活性金属に対して化学的適合性を有しており、実質的に不浸透性の層108は、セパレータ層106および水性環境に対して化学的適合性を有している。構造体100は、活性金属との合金化も挿入も行っていない適切な導電性の金属からなる集電体110を備えてもよい。活性金属がリチウムの場合には、適切な集電体は銅である。集電体110は、アノードを周囲環境からシーリングして、活性金属と周囲の空気や水分との有害な反応を防止するよう機能してもよい。
【0031】
セパレータ層106は、有機アノード材が含浸された半透膜からなる。例えば、半透膜は、Celgard社から入手可能な微多孔ポリマであってよい。有機アノード材は、液相またはゲル相であってよい。例えば、アノード材は、有機カーボネート、エーテル、ラクトン、スルホン、および、それらの組み合わせ(EC、PC、DEC、DMC、EMC、1,2−DMEまたは高級グライム、THF、2MeTHF、スルホラン、および、それらの組み合わせなど)、からなる群から選択された溶媒を含んでよい。前述のように、この構造体を組み込んだセルの安全性を強化するために用いられる場合に限らず、1,3−ジオキソランが、アノード材の溶媒として用いられてもよい。アノード材がゲル相の場合には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)化合物、ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン(PVdF−HFP)のコポリマ、ポリアクリロニトリル化合物、架橋ポリエーテル化合物、ポリアルキレンオキシド化合物、ポリエチレンオキシド化合物、それらの組み合わせなどのゲル化剤を添加することで、溶媒をゲル化してよい。もちろん、適切なアノード材は、活性金属塩(例えば、リチウムの場合には、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSO3CF3、または、LiN(SO2C2F5)2)をさらに含む。適切なセパレータ層の一例は、プロピレンカーボネートに溶解され、Celgard社の微多孔ポリマ膜に含浸された1M LiPF6である。
【0032】
本発明の保護構造体には、多くの利点がある。特に、かかる構造体を組み込んだセル構造体は、比較的容易に製造できる。一例では、液体またはゲル状の有機電解質を含浸させた微多孔セパレータに接触して、リチウム金属が単純に配置され、セパレータは、ガラスまたはガラスセラミック活性金属イオン伝導体に隣接して配置される。
【0033】
非水性中間層には、ガラスセラミックを用いた場合に、さらなる利点がある。前述のOHARA社の特許に記載されている種類の非晶質ガラスを熱処理すると、ガラスは不透明になり、ガラスセラミックが形成される。しかしながら、この熱処理は、LiPON、Cu3Nなどの無機保護中間層の気相蒸着を用いて被覆することが困難な表面の粗さを引き起こしうる。液体(またはゲル状)の非水性電解質中間層を用いると、かかる粗い表面を通常の液体の流れによって容易に被覆して、表面の研磨などの必要性を排除できる。この意味で、Sony社およびSchott Glass社により提案され、Schott Glass社ウェブサイト(http://www.schott.com/english)からダウンロード可能で本発明に参照文献として組み込まれる、T.Kessler、H.Wegener、T.Togawa、M.Hayashi、およびT.Kakizaki、「Large Microsheet Glass for 40−in. Class PALC Displays」、1997、FMC2−3に記載の「ドローダウン」のような技術を用いて、薄いガラス層(20ないし100ミクロン)を形成し、これらのガラスを熱処理してガラスセラミックを形成することができる。
【0034】
電池セル
非水性中間層構造体は、電池セルに導入すると効果的である。例えば、図1の電気化学構造体100は、図2に示すように、カソード系120と組み合わせてセル200を形成することができる。カソード系120は、電子伝導性構成要素と、イオン伝導性構成要素と、電気化学的活性構成要素とを備える。カソード系120は、任意の所望の組成を有してよく、保護構造体によって実現される分離により、アノードやアノード材の組成によって制限されることはない。特に、カソード系は、水性材料(水、水性カソード材および空気など)、金属水素化物電極、および金属酸化物電極など、保護構造体がなければアノード活性金属に対して高い反応性を有する組成を含んでよい。
【0035】
一実施形態では、Celgardのセパレータが、薄ガラスセラミックの片側に配置され、次に、液体またはゲル状の非水性電解質が導入されて、最後に、リチウム電極が配置される。ガラスセラミック膜の他方の側には、水性電解質など、反応性の高い溶媒を用いることができる。このように、例えば、安価なLi/水またはLi/空気セルを構成することができる。
【0036】
本発明のセルは、非常に高い容量および比エネルギを有することができる。例えば、5mAh/cm2を超える容量を有するセルが可能であり、10、100、さらには、500mAh/cm2を超える容量を有するセルも可能である。以下の例で詳述するように、約3.35mm厚のLiアノードを有する本発明のLi/水試験セルでは、約650mAh/cm2の容量が実現された。この結果に基づくと、本発明のLi/空気セルについては、非常に高い比エネルギが実現できると予測される。例えば、3.3mm厚のLiアノード、6mmの積層厚、および45cm2の面積を有するLi/空気セルについては、未包装での比エネルギは、約3400Wh/l(4100Wh/kg)であり、包装による加重を70%とすると、包装済みでの比エネルギは、約1000Wh/l(1200Wh/kg)である。
【0037】
カソード系
上述のように、本発明の電池セルのカソード系120は、任意の所望の組成を有してよく、保護構造体によって実現される分離により、アノードやアノード材の組成によって制限されることはない。特に、カソード系は、水性材料(水、水性溶媒および空気など)、金属水素化物電極、および金属酸化物電極など、保護構造体がなければアノード活性金属に対して高い反応性を有する組成を含んでよい。
【0038】
本発明の電池セルは、「ACTIVE METAL/AQUEOUS ELECTROCHEMICAL CELLS AND SYSTEMS」のタイトルの同時係属出願番号10/772,157号(参照文献として本明細書に組み込まれる)に記載されたような、水、水溶液、空気電極、および金属水素化物電極や、例えば、従来のLiイオンセルで用いられるような金属酸化物電極を備えてよいが、これに限定されるものではない。
【0039】
本発明の保護中間層構造体によって実現されるアノードとカソードとの間の効果的な分離により、カソード材系の選択における柔軟性が、特に水性の系において高くなる。ただし、非水性の系でも柔軟性が高まる。保護されたアノードは、カソード材から完全に隔てられるため、アノードに対するカソード材の適合性は問題にならず、Liに対して動力学的に安定ではない溶媒および塩を用いることができる。
【0040】
電気化学的に活性なカソード材料として水を用いるセルについては、多孔質の電子伝導性支持構造体によって、カソード系の電子伝導性構成要素を実現できる。水性電解質(カソード材)が、LiイオンとLiイオンに結合した陰イオンの輸送(伝導)のイオンキャリアとして働く。電気化学的活性構成要素(水)とイオン伝導性構成要素(水性電解質)は、混合されて一つの溶液を形成してもよいが、これらの構成要素は、概念的には電池セルにおける別個の要素である。本発明のLi/水電池セルに適したカソード材は、適度なイオン伝導性を有する任意の水性電解質を含む。適切な電解質としては、HCl、H2SO4、H3PO4などの強酸、酢酸/酢酸リチウムなどの弱酸、LiOHなどの塩基、海水、LiCl、LiBr、LiIなどの中性物質、NH4Cl、NH4Brなどの両性物質が挙げられる。
【0041】
電解質として海水を用いることにより、非常に高いエネルギ密度を有する海上用電池セルを構成することが可能になる。未使用の状態では、セル構造体は、保護されたアノードと、多孔質の電子伝導性支持構造体(カソードの電子伝導性構成要素)とから構成されている。使用の際には、電気化学的活性構成要素およびイオン伝導性構成要素として働く海水にセルを浸すことにより完成させる。電気化学的活性構成要素およびイオン伝導性構成要素は周辺環境中の海水によって与えられるため、セルの使用前に電池セルの一部として構成する必要はなく、セルのエネルギ密度算出に含める必要はない。カソード側の反応生成物は収容されないために、かかるセルを「オープン」セルと呼ぶ。すなわち、かかるセルは一次電池になる。
【0042】
本発明は、二次Li/水セルとしても実現可能である。上述したように、適切な再充電電位がセルに加えられた際に、保護膜を通してLiイオンを逆方向に移動させ、セルのカソード側に収容されたカソード反応生成物を用いてアノードを再充電するため、このようなセルを「クローズド」セルと呼ぶ。
【0043】
上述し、以下で詳述するように、本発明の別の実施形態では、多孔質の電子伝導性触媒支持体をアイオノマで被覆することにより、電気化学的活性材料において必要なイオン伝導度が低減または排除される。
【0044】
Li/水セル内で生じる電気化学反応は、カソードの電気化学的活性材料を還元する酸化還元反応である。Li/水セルでは、電子伝導性触媒支持体が酸化還元反応を促進する。上述のように、これに限定されるものではないが、リチウム/水セル内では、以下の電池反応が生じると考えられる。
Li+H2O=LiOH+1/2H2
アノードとカソードでは、以下の半電池反応が生じると考えられる。
アノード: Li=Li++e-
カソード: e-+H2O=OH-+1/2H2
【0045】
したがって、Li/水セルのカソード触媒は、水への電子移送を促進し、水素と水酸化物イオンを生成する。この反応に一般的に用いられる安価な触媒はニッケル金属である。Pt、Pd、Ru、Auなどの貴金属にも同様な触媒作用があるが、高価である。
【0046】
本発明のLi(または、他の活性金属)/水電池の範囲には、保護されたLiアノードと、活性カソード材料(電気化学的活性構成要素)として利用可能な水溶性の気体および/または固体酸化剤からなる水性電解質と、を備える電池も入る。水よりも強い酸化剤である水溶性化合物を用いることにより、リチウム/水電池に比べて、一部の用途では電池エネルギを著しく増大させることが可能になる。このようなセルでは、放電反応時に、カソード表面で電気化学的な水素放出が生じる。かかる気体酸化剤の例としては、O2、SO2、NO2が挙げられる。また、NaNO2、KNO2などの亜硝酸金属、Na2SO3やK2SO3などの亜硫酸金属も水より強い酸化剤であり、高濃度で容易に水に溶解可能である。他に、水溶性の無機酸化剤として、リチウム、ナトリウム、カリウムの過酸化物や過酸化水素H2O2が挙げられる。
【0047】
酸化剤として過酸化水素を用いることは特に有用である。本発明の電池セルでは、過酸化水素の利用法は、少なくとも2つある。1つ目は、カソード表面上での過酸化水素の化学分解であり、これにより、活性カソード材料として利用可能な酸素ガスが生成される。2つ目は、さらに有用であると考えられるが、カソード表面上での過酸化水素の直接的な電解還元に基づく方法である。過酸化水素は、原則として、塩基性溶液中でも酸性溶液中でも還元可能である。酸性溶液中での過酸化水素還元を利用する電池では、最も高いエネルギ密度を実現できる。この場合、Li/水の対ではE0=3.05Vであるのに対して、Liアノードを備えたセルでは、(標準的な条件で)E0=4.82Vが生み出される。ただし、酸も過酸化水素も、保護されていないLiに対する反応性が非常に高いため、本発明のようにLiアノードを保護しないと、かかるセルを実用化できない。
【0048】
電気化学的活性カソード材料として空気を用いるセルについては、セルの電気化学的活性構成要素である空気は水分を含み、この水が上記の電気化学反応に供される。セルは、アノードと電気的に接続される電子伝導性支持構造体を備え、電子の移動によりカソード活性材料である空気を還元する。電子伝導性支持構造体は、一般に多孔質であるため、流体(空気)を透過させ、また、触媒活性を持つか触媒処理されることにより、カソード活性材料還元の触媒として働く。適切なイオン伝導性を有する水性電解質あるいはアイオノマが電子伝導性支持構造体に接することにより、電子伝導性支持構造体内部をイオンが移動して、酸化還元反応が生じる。
【0049】
空気カソード系は、電子伝導性構成要素(多孔質電子伝導体など)と、少なくとも水性成分を有するイオン伝導性構成要素と、電気化学的活性構成要素としての空気とを備える。 カソード系は、金属(例えば、Zn)/空気電池や低温(例えば、PEM)燃料電池で通常用いられるものなど、任意の適切な空気極でよい。金属/空気電池(特に、Zn/空気電池)で用いられる空気カソードは、「Handbook of Batteries」(Linden and T.B.Reddy、McGraw−Hill、NY、3版)など、多くの文献に記載されており、通常、空気拡散膜、疎水性テフロン層(テフロンは登録商標)、触媒層、Niスクリーンなどの電子伝導性金属構成要素/集電体を含む複数の層からなる。触媒層は、イオン伝導性構成要素/電解質を含む。イオン伝導性構成要素/電解質は、水性および/またはアイオノマ性でよい。代表的な水性電解質は、水に溶解させたKOHからなる。代表的なアイオノマ性電解質は、パーフルオロスルホン酸ポリマ膜(例えば、du Pont社のNAFION)などの水和(水)リチウムイオン伝導性ポリマからなる。空気拡散膜は、空気(酸素)の流れを調整する。疎水性層は、セルの電解質が空気拡散膜に侵入するのを防ぐ。この層は、通常、炭素粒子とテフロン粒子とを含む。触媒層は、通常、表面積の大きい炭素と酸素ガスの還元を促進する触媒とを含む。市販されているカソードの大部分では、MnO2などの金属酸化物が酸素還元用の触媒として用いられている。別の触媒としては、コバルトフタロシアニンなどの大員環金属化合物や、プラチナ、プラチナ/ルテニウム合金などの高分散貴金属が挙げられる。空気極構造体は、活性金属電極から化学的に分離されているため、アノード活性材料に対する潜在的な反応性により空気極の化学組成が限定されることはない。すなわち、保護されていない金属電極を攻撃する可能性のある材料を用いた高性能空気極の設計が可能になる。
【0050】
保護されたアノードと、水性構成要素を含むカソード系とを備える本発明の活性金属/水性電池セルの別の例として、リチウム(または、他の活性金属)/金属水素化物電池がある。例えば、リチウム/金属水素化物電池では、非水性中間層構造体で保護されたリチウムアノードが、電解質として適した水溶液中で充放電されてよい。適切な電解質は、プロトン源となるものである。例としては、HCl、HBr、NH4Cl、NH4Brなどの塩化物酸や臭化物酸、それらの塩を含めて、ハロゲン化物酸やその塩の水溶液が挙げられる。
【0051】
上述の水性、空気などの系に加えて、例えば、米国特許番号6,376,123号(参照文献として本明細書に組み込まれる)に記載されているように、金属酸化物カソード(例えば、LixCoO2、LixNiO2、LixMn2O4、およびLiFePO4)、および、アルキルカーボネートの二元、三元、または多元の混合物やそれら混合物とLi金属塩(例えば、LiPF6、LiAsF6、またはLiBF4)のための溶媒としてのエーテルとの混合物、もしくは、Li金属電池カソード(例えば、イオウ元素または多硫化物)、および、有機カーボネート、エーテル、グライム、ラクトン、スルホン、スルホラン、または、それらの組み合わせからなる電解質(例えば、EC、PC、DEC、DMC、EMC、1,2−DME、THF、2MeTHFやそれらの組み合わせ)など、従来のリチウムイオン電池カソードおよび電解質を備えるカソード系により、性能を改善できる。
【0052】
さらに、カソード材の溶液は、1,2−ジメトキシエタン(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,3−ジオキソラン(DIOX)、4−メチルジオキソラン(4−MeDIOX)などのエーテルや、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)などの有機カーボネートや、それらの混合物など、低粘性溶媒のみからなってよい。また、保護されていないLiに対して非常に高い反応性を有する超低粘性エステル溶媒または共溶媒(蟻酸メチル、酢酸メチルなど)を用いてもよい。当業者に周知のように、イオン電導度および拡散速度は、粘性に逆比例するため、他の条件がすべて同じ場合には、溶媒の粘性が減少するほど、電池の性能は向上する。かかるカソード材の溶媒系を用いることにより、電池の性能(特に、低温における充放電特性)が向上する。
【0053】
本発明のカソード材に、イオン液体を用いてもよい。イオン液体は、100度未満の融点を有する有機塩であり、その融点は、しばしば、室温よりも低い。最も一般的なイオン液体は、イミダゾリウムおよびピリジニウムの誘導体であるが、ホスホニウム化合物やテトラアルキルアンモニウム化合物も知られている。イオン液体は、望ましい属性、すなわち、高イオン伝導度、高温安定性、低い蒸気圧、および難燃性を有する。代表的なイオン液体は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトシレート(EMIM−Ts)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム硫酸オクチル(BMIM−OctSO4)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、および、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸である。キャパシタや電池などの電気化学用途においてイオン液体への大きな関心があったが、それらは、金属リチウムやリチウムカーボンに対しては不安定である。しかしながら、本発明に記載したように保護されたアノードは、直接的な化学反応から分離されるため、本発明の一実施形態として、イオン液体を用いるリチウム金属電池を実現できる。かかる電池は、高温で特に安定していることが好ましい。
【0054】
安全性のための添加物
安全手段として、非水性中間層構造体は、反応性の高い電解質(例えば、水)と接触した場合に、アノード(例えば、リチウム)の表面上で不浸透性のポリマの形成を引き起こすゲル化/重合剤を含んでよい。この安全手段は、保護構造体(例えば、ガラスまたはガラスセラミック膜)の実質的に不浸透性の層に亀裂やその他の損傷が生じることで、反応性の高いカソード材が浸入してリチウム電極に近づき、Liアノードと水性カソード材との間で激しい反応が起きる可能性が高くなった場合に用いられる。
【0055】
かかる反応は、非水溶性または低水溶性のポリマのためのモノマ、例えば、ジオキソラン(Diox)を(例えば、体積で約5−20%の分量で)アノード材内に準備すると共に、モノマ用の重合開始剤、例えば、プロトン酸をカソード材内に準備することにより防止できる。Dioxベースのアノード材は、有機カーボネート(EC、PC、DEC、DMC、EMC)、エーテル(1,2−DME、THF、2MeTHF、1,3−ジオキソランなど)、およびそれらの混合物からなってよい。主要な溶媒(例えば、体積で50−100%)としてのジオキソランと、リチウム塩(特に、LiAsF6、LiBF4、LiSO3CF3、LiN(SO2C2F5)2)とを含むアノード材が、特に有用である。Dioxは、リチウムの表面に対する優れた不動態化剤であり、Dioxベースの電解質で、リチウム金属について良好なサイクルのデータが実現された(米国特許5,506,068号を参照)。リチウム金属への適合性に加えて、Dioxは、上述のイオン性塩と組み合わせることで、伝導性の高い電解質を形成する。対応する水性カソード材は、非水溶性または低水溶性のDiox重合生成物(ポリジオキソラン)を生成するDiox用の重合開始剤を含む。
【0056】
膜が破損すると、溶解された開始剤を含むカソード材は、Dioxベースのアノード材と接触し、Dioxの重合が、Liアノード表面付近で起きる。ポリジオキソランは、Diox重合の生成物であり、抵抗値が高いため、セルは停止する。さらに、形成されたポリジオキソラン層は、リチウム表面と水性カソード材との反応を防ぐ障壁として機能する。Dioxの重合は、カソード材に溶解されたプロトン酸によって可能になる。また、水溶性のルイス酸(特に、ベンゾイルイオン)でも、この目的を実現できる。
【0057】
このように、ジオキソラン(Diox)ベースのアノード材と、Diox用の重合開始剤を含むカソード材とを用いることで、サイクル性能および安全性が改善される。
【0058】
活性金属イオンおよび合金アノード
本発明は、上述のように、活性金属からなるアノードを有する電池およびその他の電気化学構造体に関する。好ましい活性金属電極は、リチウム(Li)からなる。これらの構造体およびセルに適したアノード材は上述した。
【0059】
本発明は、さらに、活性金属イオン(例えば、リチウム−炭素)または活性金属合金(例えば、Li−Sn)アノードを有する電気化学構造体に関する。一部の構造体は、活性金属または活性金属イオンによって後に充電される非荷電の活性金属イオン挿入材料(例えば、炭素)または合金化金属(例えば、錫(Sn))を最初に有してよい。本発明は、様々な活性金属に適用できるが、本明細書では、主にリチウムを例として説明されている。
【0060】
従来のリチウムイオンセルで一般的に用いられる炭素材料(特に、石油コークスおよびメソカーボンマイクロビーズ)は、リチウムイオン水性電池セルのアノード材料として利用可能である。Ca、Mg、Sn、Ag、Zn、Bi、Al、Cd、Ga、In、およびSb、好ましくは、Al、Sn、またはSi、から選択された1または複数の金属を含むリチウム合金を、かかる電池のアノード材料に用いてもよい。具体的な一実施形態では、アノードは、Li、Cu、およびSnを含む。
【0061】
かかる構造体のためのアノード材は、非水性溶媒(例えば、従来のリチウムイオンセルで用いられるEC、PC、DEC、DMC、EMC、MA、MF)の二元または三元混合物に溶解された支持塩(例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、LiN(SO2C2F5)2)を含んでよい。ゲル−ポリマ電解質、例えば、上述の塩の1つと、PVdF、PVdF−HFPコポリマ、PAN、PEOなどのポリマ結合剤と、EC、PC、DEC、DMC、EMC、THF、2MeTHF、1,2−DME、およびそれらの混合物などの可塑剤(溶媒)とを含む電解質、を用いることもできる。
【0062】
これらのアノードを用いる電池については、保護構造体の反対側の電気化学構造体に、適切なカソード構造体が追加されてよい。その構成により、空気、水、金属水素化物、または金属酸化物など、複数の外来のカソードを用いるLiイオン型のセルが実現される。Liイオン水性電池セルについては、例えば、水性カソード材は、塩基性、酸性、または中性であってよく、Liイオンを含む。適切な水性カソード材の一例は、1M LiCl、2M HClである。
【0063】
リチウム−炭素リチウム合金アノードを備える電池の最初の充電の際には、Liイオンが、カソード材から保護構造体(アノード材を含む)を通してアノード表面に移送され、そこで、従来のLiイオンセルと同様に挿入プロセスが起きる。一実施形態では、アノードは、セルの組み立て前に外部で化学的または電気化学的にリチウム化される。
【0064】
セル設計
本発明の電気化学構造体および電池セルは、任意の適切な形状を有してよい。例えば、本明細書に提供された構造体またはセルの記載を考慮して本発明に容易に適応可能な周知の電池セル加工技術に従って、構造体またはセルの様々な構成要素(アノード、中間層、カソードなど)の平面層を積層することにより、平面的な形状にすることができる。これらの積層された層は、角柱形の構造体またはセルとして構成されてもよい。
【0065】
あるいは、非水性中間層構造体と共に管状のガラスまたはガラスセラミック電解質を用いることにより、シーリング面積が小さく表面積が大きいアノードを形成することが可能になる。セルの表面積と共にシーリングの長さが増大する平板設計とは対照的に、管状構造体は、末端のシーリングを用いるため、シーリング面積を変えずに管の長さを増大させて表面積を広げることができる。これにより、表面積の大きいLi/水およびLi/空気セルの形成が可能になり、それに応じて、セルの出力密度が高くなることが好ましい。
【0066】
本発明の非水性中間層構造体により、製造が容易になる。開放端(シーリング有り)または閉鎖端のガラスまたはガラスセラミック(すなわち、実質的に不浸透性で活性金属イオン伝導性の固体電解質)の管を、上述のように、リチウム一次電池で一般に用いられるような、非水性の有機電解質(アノード材すなわち移送電解質)で部分的に満たす。集電体を有する一種の物理的セパレータ(例えば、Celgard、Tonin、ポリプロピレンメッシュなどの半透性のポリマ膜)によって囲まれたリチウム金属棒を、その管に挿入する。次いで、単純なエポキシシーリング、ガラス金属シーリング、またはその他の適切なシーリングを用いて、リチウムと環境とを物理的に分離する。
【0067】
次に、保護されたアノードを円筒形の空気極に挿入して、図3Aに示すように、円筒形のセルを形成することができる。あるいは、図3Bに示すように、複数のアノードを角柱形の空気極に挿入してもよい。
【0068】
この技術は、上述のように、空気極の代わりに適切な水性、金属水素化物、または金属酸化物カソード系を用いることにより、Li/水、Li/金属水素化物、またはLi/金属酸化物セルを形成するために用いることもできる。
【0069】
リチウム金属棒またはワイヤ(毛細管状)の利用に加えて、本発明は、再充電可能なLiCxアノードを水性またはその他の腐食環境から分離するために利用可能である。この場合、適切なアノード材(移送電解質)の溶媒を管状アノード内で用いて、リチウム化炭素電極上に不動態膜を形成する。これにより、図3Cに示すように、空気、水、金属水素化物、または金属酸化物など、複数の外来のカソードを用いる大表面積リチウムイオン型のセルの形成が可能になる。
【0070】
実施例
以下、本発明のリチウム金属およびリチウムイオン水性電池セルの有利な特性を、実施例に基づいて詳細に説明する。ただし、これらの実施例は本発明の態様を例示し詳細に説明するためのものであり、本発明をなんら限定するものではない。
【0071】
実施例1:Li/海水セル
OHARA社から市販されているイオン伝導性ガラスセラミックを、水性カソード材と非水性アノード材とを分離する膜として用いて、一連の実験を行った。セル構造体は、Li/非水性電解質/ガラスセラミック/水性電解質/Ptとした。Chemetall Foote社の125ミクロン厚のリチウム箔をアノードとして用いた。ガラスセラミック板は、厚さ0.3から0.48mmの範囲のものを用いた。ガラスセラミック板が、一方の側から水性環境にさらされて、他方の側から非水性環境にさらされるように、2つのOリングを用いてガラスセラミック板を電気化学セルに取り付けた。この例では、水性電解質は、Aquarium Systems社の35pptの「Instant Ocean」を用いて人工海水を準備した。海水の伝導度は、4.5×10-2S/cmであった。ガラスセラミックの他方の側に配置された微多孔のCelgardセパレータを、プロピレンカーボネートに溶解した1M LiPF6からなる非水性電解質で満たした。非水性電解質の充填体積は、Li電極の表面積1cm2当たり0.25mlであった。完成した電池回路では、海水カソード材内に完全に浸漬されたプラチナ対極を用いて、水素還元を促進した。Ag/AgCl参照電極を用いて、セル内のLiアノードの電位を制御した。測定値を標準水素電極(SHE)基準の電位に換算した。水中のLi/Li+とH2/H+との熱力学的電位差と密接に関係する開路電位(OCP)の測定値は、3.05ボルトであった(図4参照)。回路を閉じると、Pt電極側で直ちに水素発生が観察された。これは、セル内で2Li=2Li++2e-および2H++2e-=H2というアノードおよびカソードでの電極反応を示唆するものである。0.3mA/cm2の放電率でのLiのアノード溶解に対する電位−時間曲線を、図2に示す。この結果から、作製されたセルが、安定した放電電圧を有することがわかる。直接的に海水と接触させてLiアノードを用いた実験では、Liの利用効率は大変低く、この実施例と同様の低レベルから中程度レベルの電流密度では、海水中のLi腐食率が非常に高い(19A/cm2以上)ため電池の使用が不可能であった。
【0072】
実施例2:Li/空気セル
この実験用セル構造体は、電解質に完全に浸漬されたPt電極の代わりに、市販のZn/空気電池用に製造された空気極を有する以外は、実施例1と同様の構成である。水性電解質には、1M LiOHを用いた。Liアノードと非水性電解質は、実施例1と同じものを用いた。
【0073】
このセルの開路電位は3.2Vであった。図5は、放電率が0.3mA/cm2の場合の放電電圧−時間曲線を示している。セルは、14時間以上の間、2.8−2.9Vの放電電圧を示した。この結果から、水性カソード材と非水性アノード材とを分離する固体電解質膜を備えたLi/空気セルについては、良好な性能を実現できることがわかった。
【0074】
実施例3:Liイオンセル
これらの実験では、OHARA社から市販されているイオン伝導性ガラスセラミックを、水性カソード材と非水性アノード材とを分離する膜として用いた。セル構造体は、カーボン/非水性電解質/ガラスセラミック板/水性電解質/Ptとした。リチウムイオン電池で一般的に用いられているカーボン電極と同様の合成グラファイトを含む銅基板上の市販のカーボン電極を、アノードとして用いた。ガラスセラミック板の厚さは0.3mmであった。ガラスセラミック板が、一方の側から水性環境にさらされて、他方の側から非水性環境にさらされるように、2つのOリングを用いてガラスセラミック板を電気化学セルに取り付けた。水性電解質は、2M LiClと1M HClとで構成した。ガラスセラミックの他方の側に配置された2層の微多孔のCelgardセパレータを、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合物(1:1の体積で混合)に溶解した1M LiPF6からなる非水性電解質で満たした。2層のCelgardセパレータの間には、サイクル中のカーボンアノードの電位を制御するために、リチウムワイヤの参照電極を配置した。2M LiClおよび1M HClの溶液に完全に浸漬されたプラチナメッシュを、セルのカソードとして用いた。サイクル中に、カーボン電極の電位と、ガラスセラミック板による電圧降下と、Ptカソードの電位とを制御するために、水性電解質内に配置されたAg/AgCl参照電極を用いた。このセルについては、約1ボルトの開路電位(OCV)が観察された。熱力学的な値と密接に関係するLi参照電極とAg/AgCl参照電極との間の電圧差は、3.2ボルトであった。セルは、カーボン電極電位がLi参照電極に対して5mVに達するまでは、0.1mA/cm2で充電し、その後は、同じカットオフ電位を用いて0.05mA/cm2で充電した。放電率は0.1mA/cm2であり、炭素アノードの放電カットオフ電位はLi参照電極に対して1.8Vであった。図6のデータは、挿入炭素カソードとLiイオンを含む水性電解質とを備えたセルが可逆的に働くことが可能であることを示している。これは、炭素アノードの充電のためのLiイオン源として、固体リチウム酸化物カソードの代わりに、Liイオンセル内で水溶液を用いたことでは、知られる限りで最初の例である。
【0075】
実施例4:電解質内におけるガラスセラミックで保護された厚いLiアノードの性能
水性電解質内の様々な厚さのLi箔を試験するための実験用Li/水セルを設計した。そのセルは、図8に示すように、Cu基板上に配置された2.0cm2の活性領域を有する保護されたLi箔を備えたアノード区画を含む。約3.3から3.5mmの厚さを有するLi電極を、Li金属棒から加工した。加工処理は、Li棒の押し出し成形および圧延と、その結果形成された箔をNi網の集電体の表面上に油圧プレスで静的プレスすることを含む。リチウム箔との化学反応を避けるために、プレス動作には、ポリプロピレン本体を有する型を用いた。約50ミクロンの厚さのガラスセラミック膜が、一方の側から水性環境(カソード材)にさらされて、他方の側から非水性環境(アノード材)にさらされるように、2つのOリングを用いてガラスセラミック膜を電気化学セルに取り付けた。アノード材は、アノードとガラスセラミック膜の表面との間の液体中間層として機能した。
【0076】
そのセルを、セルの充放電中にカソードの緩衝液として機能する4M NH4Clの水性カソード材で満たした。ガラスセラミック膜の他方の側に配置された微多孔のCelgardセパレータを、プロピレンカーボネートに溶解した1M LiClO4からなる非水性アノード材で満たした。アノード区画は、保護ガラスセラミック膜のみが、水性環境、参照電極、および金属スクリーン対極にさらされるように、水溶液に対してシーリングを施した。ホウケイ酸ガラスからなるセル本体を、100mlのカソード材で満たした。Liのアノード溶解中の水素放出(水還元)を促進するためのカソードとして、Tiスクリーン対極を用いた。放電中のLiアノードの電位を制御するために、保護ガラス膜の表面に隣接して、Ag/AgCl参照電極を配置した。測定値を標準水素電極(SHE)基準の電位に換算した。セルには、カソード側で発生する水素ガスを放出するための排気口を設けた。
【0077】
このセルを連続的に放電した際の電位−時間曲線を図7に示す。セルは、約2.7から2.9Vの閉路電圧でほぼ1400時間の非常に長い放電を示した。実現された放電能力の値は、非常に大きく、約650mAh/cm2であった。50μm厚の保護ガラスセラミック膜を破壊することなく、Liアノード/水性電解質の界面を、3.35mmを超えるLiが移動した。この実験で用いたLi箔の厚さは、3.35から3.40mmの範囲であった。放電されたLiアノードの事後分析により、全量のLiが、セル放電の完了時に、Ni集電体から剥離されたことが確認された。これにより、保護されたLiアノードの放電のクーロン効率は100%に近いことが示された。
【0078】
実現されたLiの放電能力を用いて、Li/空気角柱形電池の性能を推定した。図9には、様々な厚さの保護されたLiを有する電池の比エネルギの推定値と、Liの厚さが3.3mmでありガラスで保護されたアノードに対するセル重量比エネルギの値とを示している。この図は、さらに、セルの構成と、計算に用いたパラメータも示している。セルの寸法は、名刺の面積(約45cm2)に相当し、厚さは、約6mm(3.3mmのLiアノードを含む)である。これにより、推定放電能力は、非常に大きい90Whとなる。図9からわかるように、実験で実現されたガラス保護アノードの放電能力は、非常に高性能の特性を有するLi/空気電池を構成することを可能にする。
【0079】
別の実施形態−Li/水電池と、燃料電池用水素発生装置
本発明に従って、活性金属電極上に保護構造体を設けることにより、上述のように、ごく少量の腐食電流を生じる活性金属/水電池を構成することが可能になる。Li/水電池は、8450Wh/kgという非常に高い理論エネルギ密度を有する。電池反応は、Li+H2O=LiOH+1/2H2である。電池反応により生じた水素は通常無駄になるが、本発明のこの実施形態では、室温燃料電池用の燃料として用いられる。生成された水素は、燃料電池に直接供給されてもよいし、後から燃料電池で利用するために、金属水素化物合金に貯蔵することも可能である。少なくともMILLENIUM CELL社(http://www.milleniumcell.com/news/tech.html)では、水と水素化ホウ素ナトリウムとの反応を用いて水素を生成している。しかしながら、この反応には触媒が必要であり、NaBH4と水との化学反応で生じたエネルギは熱として消失してしまう。
NaBH4+2H2O→4H2+NaBO2
この反応を燃料電池反応H2+O2=H2Oと組み合わせると、燃料電池反応は、以下のようになると考えられる。
NaBH4+2O2→2H2O+NaBO2
この系のエネルギ密度は、反応物質であるNaBH4の当量から算出できる(38/4=9.5グラム当量)。セル電圧は約1であり、この系の比エネルギは2820Wh/kgであるため、NaBH4の重量容量は2820mAh/gになる。最終生成物NaBO2に基づいて計算されるエネルギ密度はさらに低く、約1620Wh/kgである。
【0080】
Li/水セルの場合、次の電気化学反応により水素が生成されると考えられる。
Li+H2O=LiOH+1/2H2
この場合、この化学反応のエネルギは、セル当たり3ボルトの電気エネルギに変換され、燃料電池内で水素が水に変換される。すなわち、セル全体では以下の反応が起こっていると考えられる。
Li+1/2H2O+1/4O2=LiOH
ここで、理論的には、すべての化学エネルギが電気エネルギに変換される。11,500Wh/kg(NaBH4の4倍)に対応する約3ボルトのセル電位では、リチウムアノードに基づくエネルギ密度は3830mAh/gになる。反応に必要な水の重量を含めると、エネルギ密度は5030Wh/kgになる。放電生成物であるLiOHの重量に基づくエネルギ密度は3500Wh/kgであり、NaBO2系のエネルギ密度の2倍である。これは、水素を生成するための水とリチウム金属との反応も考慮した以前の概念と比較することができる。Li/H2O反応におけるエネルギの大部分は熱として失われ、(Li/H2Oの3に対して)実際には1未満であるH2/O2系のセル電位にエネルギ密度が基づくため、エネルギ密度は1/3に減少する。図10に示す本発明の実施形態では、Li/水電池にかかる負荷によって、水素の生成を慎重に制御する。保護膜の存在によりLi/水電池は貯蔵寿命が長く、また、セルから放出される水素は既に加湿された状態でH2/空気型燃料電池に供給される。
【0081】
結論
以上、本発明の理解を深める目的で、詳細に本発明を説明したが、本発明の範囲内で様々に変更、変形可能である。特に、リチウム金属、リチウム合金または挿入アノードに主に言及しながら本発明を説明したが、アノードは、ナトリウムなどの他のアルカリ金属を初めとする任意の活性金属で形成されてもよい。本発明の処理や組成についても、別の形で実施可能である。したがって、上記の実施例は単に例示に過ぎず、何ら発明を限定するものではなく、本発明はこれらの詳細事項に限定されるものではない。
【0082】
また、本明細書で引用した引例はすべて、あらゆる目的で、本発明に参照文献として組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を備える電気化学構造体を示す説明図。
【図2】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を備える電池セルを示す説明図。
【図3A】管状設計の被保護アノードを用いる本発明の電池セルの実施形態を示す図。
【図3B】管状設計の被保護アノードを用いる本発明の電池セルの実施形態を示す図。
【図3C】管状設計の被保護アノードを用いる本発明の電池セルの実施形態を示す図。
【図4】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を有するアノードを備えたセルの性能を示すデータのグラフ。
【図5】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を有するアノードを備えたセルの性能を示すデータのグラフ。
【図6】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を有するアノードを備えたセルの性能を示すデータのグラフ。
【図7】本発明に従って、イオン伝導性保護中間層構造体を有するアノードを備えたセルの性能を示すデータのグラフ。
【図8】図7のデータを生成するために用いられた水性電解質のLi箔の厚さを変えて試験するための実験用セルを示す図。
【図9】様々な厚さの本発明のイオン伝導性保護中間層構造体を有するアノードを備えた電池に対する比エネルギ推定値と、3.3mmの厚さのLiを有する被保護アノードに対するセル重量比エネルギの値と、セルの構成と、算出に用いたパラメータとを示す図。
【図10】本発明の一実施形態に従って、Li/水電池と燃料電池用の水素発生装置とを示す図。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セル構造体であって、
活性金属と、活性金属イオンと、活性金属合金化金属と、活性金属挿入材料と、からなる群から選択された材料を含むアノードと、
前記アノードの第1の表面上のイオン伝導性保護構造体と、
を備え、
前記イオン伝導性保護構造体は、
非水性アノード材を含み、前記活性金属に対して化学的適合性を有し、前記アノードと接触する活性金属イオン伝導性のセパレータ層と、
前記セパレータ層および水性環境に対して化学的適合性を有し、前記セパレータ層と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層と、
を備える、構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体であって、
前記セパレータ層は、非水性アノード材が含浸された半透膜を備える、構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の構造体であって、
前記半透膜は、微多孔質のポリマである、構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の構造体であって、
前記アノード材は、液相である、構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の構造体であって、
前記アノード材は、有機カーボネート、エーテル、エステル、蟻酸エステル、ラクトン、スルホン、スルホラン、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択された溶媒を含む、構造体。
【請求項6】
請求項5に記載の構造体であって、
前記アノード材は、
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)または高級グライム、スルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択された溶媒と、
LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、および、LiN(SO2C2F5)2、からなる群から選択された支持塩と、
を含む、構造体。
【請求項7】
請求項6に記載の構造体であって、
前記アノード材は、さらに、1,3−ジオキソランを含む、構造体。
【請求項8】
請求項3に記載の構造体であって、
前記アノード材は、ゲル相である、構造体。
【請求項9】
請求項8に記載の構造体であって、
前記アノード材は、
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン(PVdF−HFP)コポリマ、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、および、それらの混合物、からなる群から選択されたゲル化剤と、
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、および、それらの混合物、からなる群から選択された可塑剤と、
LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、および、LiN(SO2C2F5)2、からなる群から選択されたLi塩と、
を含む、構造体。
【請求項10】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、ガラス質あるいは非晶質の活性金属イオン伝導体、セラミック活性金属イオン伝導体、および、ガラスセラミック活性金属イオン伝導体、からなる群から選択される材料を含む、構造体。
【請求項11】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記活性金属は、リチウムである、構造体。
【請求項12】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、以下の表に示す組成を有するイオン伝導性ガラスセラミックであり、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、Li1+x(M,Al,Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3(ここで、X≦0.8および0≦Y≦1.0であり、Mは、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、および、Yb、からなる群から選択される元素である)、および/または、Li1+x+yQxTi2-xSiyP3-yO12(ここで、0<X≦0.4および0<Y≦0.6であり、Qは、AlまたはGaである)、からなる主要結晶相を含む、
構造体。
【請求項13】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、少なくとも10-5S/cmのイオン伝導度を有する、構造体。
【請求項14】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
非水性電解質セパレータ層は、少なくとも10-5S/cmのイオン伝導度を有する、構造体。
【請求項15】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記アノードは、活性金属を含む、構造体。
【請求項16】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記アノードは、活性金属イオンを含む、構造体。
【請求項17】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記アノードは、活性金属合金化金属を含む、構造体。
【請求項18】
請求項17記載の構造体であって、
前記活性金属合金化金属は、Ca、Mg、Sn、Ag、Zn、Bi、Al、Cd、Ga、In、および、Sb、からなる群から選択される、構造体。
【請求項19】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記アノードは、活性金属挿入材料を含む、構造体。
【請求項20】
請求項19に記載の構造体であって、
前記活性金属挿入材料は、炭素を含む、構造体。
【請求項21】
電池セルであって、
活性金属アノードと、
カソード構造体と、
前記アノードの第1の表面上のイオン伝導性保護構造体と、を備え、
前記イオン伝導性保護構造体は、
非水性アノード材を含み、前記活性金属に対して化学的適合性を有し、前記アノードと接触する活性金属イオン伝導性のセパレータ層と、
前記セパレータ層および前記カソード構造体に対して化学的適合性を有し、前記カソード構造体と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層と、
を備える、構造体。
【請求項22】
請求項21に記載のセルであって、
前記セパレータ層は、非水性アノード材が含浸された半透膜を備える、セル。
【請求項23】
請求項22に記載のセルであって、
前記半透膜は、微多孔質のポリマである、セル。
【請求項24】
請求項23に記載のセルであって、
前記アノード材は、液相である、セル。
【請求項25】
請求項24に記載のセルであって、
前記アノード材は、有機カーボネート、エーテル、エステル、蟻酸エステル、ラクトン、スルホン、スルホラン、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択された溶媒を含む、セル。
【請求項26】
請求項25に記載のセルであって、
前記アノード材は、
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)または高級グライム、スルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択された溶媒と、
LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、および、LiN(SO2C2F5)2、からなる群から選択された支持塩と、
を含む、セル。
【請求項27】
請求項26に記載のセルであって、
前記アノード材は、さらに、1,3−ジオキソランを含む、セル。
【請求項28】
請求項23に記載のセルであって、
前記アノード材は、ゲル相である、セル。
【請求項29】
請求項28に記載のセルであって、
前記アノード材は、
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン(PVdF−HFP)コポリマ、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、および、それらの混合物、からなる群から選択されたゲル化剤と、
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、および、それらの混合物、からなる群から選択された可塑剤と、
LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、および、LiN(SO2C2F5)2、からなる群から選択されたLi塩と、
を含む、セル。
【請求項30】
請求項21に記載のセルであって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、ガラス質あるいは非晶質の活性金属イオン伝導体、セラミック活性金属イオン伝導体、および、ガラスセラミック活性金属イオン伝導体、からなる群から選択される材料を含む、セル。
【請求項31】
請求項30に記載のセルであって、
前記活性金属は、リチウムである、セル。
【請求項32】
請求項31に記載のセルであって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、以下の表に示す組成を有するイオン伝導性ガラスセラミックであり、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、
Li1+x(M,Al,Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3(ここで、X≦0.8および0≦Y≦1.0であり、Mは、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、および、Yb、からなる群から選択される元素である)、および/または、Li1+x+yQxTi2-xSiyP3-yO12(ここで、0<X≦0.4および0<Y≦0.6であり、Qは、AlまたはGaである)からなる主要結晶相を含む、
セル。
【請求項33】
請求項21に記載のセルであって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、少なくとも10-5S/cmのイオン伝導度を有する、セル。
【請求項34】
請求項21に記載のセルであって、
非水性電解質セパレータ層は、少なくとも10-5S/cmのイオン伝導度を有する、セル。
【請求項35】
請求項21に記載のセルであって、
前記アノードは、活性金属を含む、セル。
【請求項36】
請求項21に記載のセルであって、
前記アノードは、活性金属イオンを含む、セル。
【請求項37】
請求項21に記載のセルであって、
前記アノードは、活性金属合金化金属を含む、セル。
【請求項38】
請求項37記載のセルであって、
前記活性金属合金化金属は、Ca、Mg、Sn、Ag、Zn、Bi、Al、Cd、Ga、In、および、Sb、からなる群から選択される、セル。
【請求項39】
請求項21に記載のセルであって、
前記アノードは、活性金属挿入材料を含む、セル。
【請求項40】
請求項39に記載のセルであって、
前記活性金属挿入材料は、炭素を含む、セル。
【請求項41】
請求項21に記載のセルであって、
前記カソード構造体は、電子伝導性構成要素と、イオン伝導性構成要素と、電気化学的活性構成要素と、を備え、
少なくとも1つのカソード構造体構成要素は、水性成分を含む、セル。
【請求項42】
請求項41記載のセルであって、
前記カソード構造体は、水性電気化学的活性構成要素を含む、セル。
【請求項43】
請求項42に記載のセルであって、
前記水性電気化学的活性構成要素は、水である、セル。
【請求項44】
請求項42に記載のセルであって、
前記水性電気化学的活性構成要素は、気体酸化剤、液体酸化剤、固体酸化剤、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択される水溶性酸化剤を含む、セル。
【請求項45】
請求項44に記載のセルであって、
前記水溶性気体酸化剤は、O2、SO2、および、NO2、からなる群から選択され、
前記水溶性固体酸化剤は、NaNO2、KNO2、Na2SO3、および、K2SO3、からなる群から選択される、セル。
【請求項46】
請求項44に記載のセルであって、
前記水溶性酸化剤は、過酸化物である、セル。
【請求項47】
請求項46に記載のセルであって、
前記水溶性酸化剤は、過酸化水素である、セル。
【請求項48】
請求項41に記載のセルであって、
前記イオン伝導性構成要素と前記電気化学的活性構成要素とは、水性電解質からなる、セル。
【請求項49】
請求項48に記載のセルであって、
前記水性電解質は、強酸溶液、弱酸溶液、塩基性溶液、中性溶液、両性溶液、過酸化物溶液、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択される、セル。
【請求項50】
請求項48に記載のセルであって、
前記水性電解質は、HCl、H2SO4、H3PO4、酢酸/酢酸Li、LiOH、海水、LiCl、LiBr、LiI、NH4Cl、NH4Br、過酸化水素、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択される成分を含む、セル。
【請求項51】
請求項50に記載のセルであって、
前記水性電解質は、海水である、セル。
【請求項52】
請求項10に記載のセルであって、
前記水性電解質は、海水と過酸化水素とを含む、セル。
【請求項53】
請求項50に記載のセルであって、
前記水性電解質は、酸性過酸化物溶液を含む、セル。
【請求項54】
請求項50に記載のセルであって、
水性電解質に溶解した過酸化水素が前記セル内を流れる、セル。
【請求項55】
請求項41に記載のセルであって、
前記カソード構造体の電子伝導性構成要素は、多孔質触媒支持体である、セル。
【請求項56】
請求項55に記載のセルであって、
前記多孔質電子伝導性触媒支持体は、ニッケルを含む、セル。
【請求項57】
請求項55に記載のセルであって、
前記多孔質電子伝導性触媒支持体は、アイオノマで処理されている、セル。
【請求項58】
請求項42に記載のセルであって、
前記カソード構造体の電気化学的活性材料は、空気を含む、セル。
【請求項59】
請求項58に記載のセルであって、
前記空気は、水分を含む、セル。
【請求項60】
請求項59に記載のセルであって、
前記イオン伝導性材料は、水性成分を含む、セル。
【請求項61】
請求項60に記載のセルであって、
前記イオン伝導性材料は、さらに、アイオノマを含む、セル。
【請求項62】
請求項61に記載のセルであって、
前記イオン伝導性材料は、中性または酸性の水性電解質を含む、セル。
【請求項63】
請求項62に記載のセルであって、
前記水性電解質はLiClを含む、セル。
【請求項64】
請求項62に記載のセルであって、
前記水性電解質は、NH4ClおよびHClのいずれかを含む、セル。
【請求項65】
請求項41に記載のセルであって、
前記カソード構造体は、空気拡散膜と、疎水性ポリマ層と、酸素還元触媒と、電解質と、電子伝導性構成要素/集電体と、を備える、セル。
【請求項66】
請求項65に記載のセルであって、
前記電子伝導性構成要素/集電体は、多孔質ニッケル材料を含む、セル。
【請求項67】
請求項65に記載のセルであって、さらに、
前記保護膜と前記カソード構造体との間に配置されたセパレータを備える、セル。
【請求項68】
請求項41に記載のセルであって、
前記カソード構造体の電気化学的活性構成要素は、金属水素化物合金を含む、セル。
【請求項69】
請求項68に記載のセルであって、
前記カソード構造体のイオン伝導性構成要素は、水性電解質を含む、セル。
【請求項70】
請求項69に記載のセルであって、
前記水性電解質は、酸性である、セル。
【請求項71】
請求項70に記載のセルであって、
前記水性電解質は、ハロゲン化物酸またはハロゲン化物酸塩である、セル。
【請求項72】
請求項71に記載のセルであって、
前記水性電解質は、塩化物酸、臭化物酸、塩化物酸塩、または、臭化物酸塩を含む、セル。
【請求項73】
請求項72に記載のセルであって、
前記水性電解質は、HCl、HBr、NH4Cl、および、NH4Brのいずれか1つを含む、セル。
【請求項74】
請求項73に記載のセルであって、
前記金属水素化物合金は、AB5合金およびAB2合金のいずれかを含む、セル。
【請求項75】
請求項21に記載のセルであって、
前記セルは、一次電池である、セル。
【請求項76】
請求項21に記載のセルであって、
前記セルは、二次電池である、セル。
【請求項77】
請求項21に記載のセルであって、
前記セルは、平面構造を有する、セル。
【請求項78】
請求項21に記載のセルであって、
前記セルは、管状構造を有する、セル。
【請求項79】
請求項41に記載のセルであって、
前記活性金属は、リチウムであり、
前記カソード構造体は、イオン伝導性を有する水性構成要素と、電気化学的活性を有する遷移金属酸化物構成要素とを含む、セル。
【請求項80】
請求項79に記載のセルであって、
前記遷移金属酸化物は、NiOOH、AgO、酸化鉄、酸化鉛、および、酸化マンガン、からなる群から選択される、セル。
【請求項81】
請求項21に記載のセルであって、
前記アノード材は、さらに、非水溶性または低水溶性のポリマのためのモノマを含み、
前記カソード材は、前記モノマ用の重合開始剤を含む、セル。
【請求項82】
請求項81に記載のセルであって、
前記モノマは、1,3−ジオキソランである、セル。
【請求項83】
請求項82に記載のセルであって、
前記重合開始剤は、プロトン酸および水溶性ルイス酸の少なくとも一方を前記カソード材に溶解したものを含む、セル。
【請求項84】
請求項83に記載のセルであって、
前記重合開始剤は、ベンゾイルイオンを含む、セル。
【請求項85】
請求項21に記載のセルの構造破損時に停止させるための方法であって、
前記アノード材内に、非水溶性または低水溶性のポリマのためのモノマを準備する工程と、
前記カソード材内に、前記モノマ用の重合開始剤を準備する工程と、
を備える、方法。
【請求項86】
請求項21に記載のセルであって、
前記カソード構造体は、イオン伝導性構成要素を含む、セル。
【請求項87】
請求項86に記載のセルであって、
前記イオン伝導性構成要素は、非水性カソード材を含む、セル。
【請求項88】
請求項87に記載のセルであって、
前記カソード材は、有機液体およびイオン液体、からなる群から選択される材料を含む、セル。
【請求項89】
請求項88に記載のセルであって、
前記カソード材は、有機カーボネート、エーテル、ラクトン、スルホンエステル、蟻酸エステル、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択された非プロトン性溶媒にLi塩を溶解した溶液である、セル。
【請求項90】
請求項89に記載のセルであって、
前記カソード材は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)および高級グライム、1,3−ジオキソラン、スルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択され、
支持塩は、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、LiN(SO2C2F5)2、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択される、セル。
【請求項91】
請求項90に記載のセルであって、さらに、
多硫化リチウム、NO2、SO2、SOCl2、からなる群から選択された固体、液体、または、気体の酸化剤の溶解物を含む、セル。
【請求項92】
請求項87に記載のセルであって、
前記カソード材は、イミダゾリウム誘導体、ピリジニウム誘導体、ホスホニウム化合物、テトラアルキルアンモニウム化合物、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択されたイオン液体を含む、セル。
【請求項93】
請求項92に記載のセルであって、
前記イオン液体は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトシレート(EMIM−Ts)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム硫酸オクチル(BMIM−OctSO4)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、および、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸、からなる群から選択される、セル。
【請求項94】
請求項21の電池セルを製造する方法であって、
活性金属アノードと、
カソード構造体と、
前記アノードの第1の表面上のイオン伝導性保護構造体と、を準備する工程を備え、
前記イオン伝導性保護構造体は、
非水性アノード材を含み、前記活性金属に対して化学的適合性を有し、前記アノードと接触する活性金属イオン伝導性のセパレータ層と、
前記セパレータ層および前記カソード構造体に対して化学的適合性を有し、前記カソード構造体と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層とを備え、
前記方法は、さらに、前記構成要素を組み立てる工程を備える、方法。
【請求項95】
請求項94に記載の方法であって、
前記前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、管状である、方法。
【請求項96】
請求項21に記載のセルであって、
10mAh/cm2より大きい放電能力を有する、セル。
【請求項97】
請求項96に記載のセルであって、
100mAh/cm2より大きい放電能力を有する、セル。
【請求項98】
請求項97に記載のセルであって、
500mAh/cm2より大きい放電能力を有する、セル。
【請求項99】
請求項50に記載のセルであって、
前記アノードは、約3.35mmの厚さのLiであり、
前記セルは、NH4Clからなる水性電解質で満たされ、
前記セルは、約650mAh/cm2の放電能力を有する、セル。
【請求項100】
請求項58に記載のセルであって、
3.3mmの厚さのLiアノードと、
45cm2の面積と、
約3400Wh/l(4100Wh/kg)の未包装時の比エネルギと、
を有する、セル。
【請求項101】
請求項100に記載のセルであって、
70%の包装による加重と、
約1000Wh/l(1200Wh/kg)の包装時の比エネルギと、
を有する、セル。
【請求項102】
請求項43に記載のセルであって、さらに、
電池セル酸化還元反応において前記カソード構造体から放出される水素を集めるPEM型H2/O2燃料電池を備える、セル。
【請求項1】
電気化学セル構造体であって、
活性金属と、活性金属イオンと、活性金属合金化金属と、活性金属挿入材料と、からなる群から選択された材料を含むアノードと、
前記アノードの第1の表面上のイオン伝導性保護構造体と、
を備え、
前記イオン伝導性保護構造体は、
非水性アノード材を含み、前記活性金属に対して化学的適合性を有し、前記アノードと接触する活性金属イオン伝導性のセパレータ層と、
前記セパレータ層および水性環境に対して化学的適合性を有し、前記セパレータ層と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層と、
を備える、構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の構造体であって、
前記セパレータ層は、非水性アノード材が含浸された半透膜を備える、構造体。
【請求項3】
請求項2に記載の構造体であって、
前記半透膜は、微多孔質のポリマである、構造体。
【請求項4】
請求項3に記載の構造体であって、
前記アノード材は、液相である、構造体。
【請求項5】
請求項4に記載の構造体であって、
前記アノード材は、有機カーボネート、エーテル、エステル、蟻酸エステル、ラクトン、スルホン、スルホラン、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択された溶媒を含む、構造体。
【請求項6】
請求項5に記載の構造体であって、
前記アノード材は、
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)または高級グライム、スルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択された溶媒と、
LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、および、LiN(SO2C2F5)2、からなる群から選択された支持塩と、
を含む、構造体。
【請求項7】
請求項6に記載の構造体であって、
前記アノード材は、さらに、1,3−ジオキソランを含む、構造体。
【請求項8】
請求項3に記載の構造体であって、
前記アノード材は、ゲル相である、構造体。
【請求項9】
請求項8に記載の構造体であって、
前記アノード材は、
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン(PVdF−HFP)コポリマ、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、および、それらの混合物、からなる群から選択されたゲル化剤と、
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、および、それらの混合物、からなる群から選択された可塑剤と、
LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、および、LiN(SO2C2F5)2、からなる群から選択されたLi塩と、
を含む、構造体。
【請求項10】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、ガラス質あるいは非晶質の活性金属イオン伝導体、セラミック活性金属イオン伝導体、および、ガラスセラミック活性金属イオン伝導体、からなる群から選択される材料を含む、構造体。
【請求項11】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記活性金属は、リチウムである、構造体。
【請求項12】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、以下の表に示す組成を有するイオン伝導性ガラスセラミックであり、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、Li1+x(M,Al,Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3(ここで、X≦0.8および0≦Y≦1.0であり、Mは、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、および、Yb、からなる群から選択される元素である)、および/または、Li1+x+yQxTi2-xSiyP3-yO12(ここで、0<X≦0.4および0<Y≦0.6であり、Qは、AlまたはGaである)、からなる主要結晶相を含む、
構造体。
【請求項13】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、少なくとも10-5S/cmのイオン伝導度を有する、構造体。
【請求項14】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
非水性電解質セパレータ層は、少なくとも10-5S/cmのイオン伝導度を有する、構造体。
【請求項15】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記アノードは、活性金属を含む、構造体。
【請求項16】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記アノードは、活性金属イオンを含む、構造体。
【請求項17】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記アノードは、活性金属合金化金属を含む、構造体。
【請求項18】
請求項17記載の構造体であって、
前記活性金属合金化金属は、Ca、Mg、Sn、Ag、Zn、Bi、Al、Cd、Ga、In、および、Sb、からなる群から選択される、構造体。
【請求項19】
前記いずれかの請求項に記載の構造体であって、
前記アノードは、活性金属挿入材料を含む、構造体。
【請求項20】
請求項19に記載の構造体であって、
前記活性金属挿入材料は、炭素を含む、構造体。
【請求項21】
電池セルであって、
活性金属アノードと、
カソード構造体と、
前記アノードの第1の表面上のイオン伝導性保護構造体と、を備え、
前記イオン伝導性保護構造体は、
非水性アノード材を含み、前記活性金属に対して化学的適合性を有し、前記アノードと接触する活性金属イオン伝導性のセパレータ層と、
前記セパレータ層および前記カソード構造体に対して化学的適合性を有し、前記カソード構造体と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層と、
を備える、構造体。
【請求項22】
請求項21に記載のセルであって、
前記セパレータ層は、非水性アノード材が含浸された半透膜を備える、セル。
【請求項23】
請求項22に記載のセルであって、
前記半透膜は、微多孔質のポリマである、セル。
【請求項24】
請求項23に記載のセルであって、
前記アノード材は、液相である、セル。
【請求項25】
請求項24に記載のセルであって、
前記アノード材は、有機カーボネート、エーテル、エステル、蟻酸エステル、ラクトン、スルホン、スルホラン、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択された溶媒を含む、セル。
【請求項26】
請求項25に記載のセルであって、
前記アノード材は、
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)または高級グライム、スルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択された溶媒と、
LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、および、LiN(SO2C2F5)2、からなる群から選択された支持塩と、
を含む、セル。
【請求項27】
請求項26に記載のセルであって、
前記アノード材は、さらに、1,3−ジオキソランを含む、セル。
【請求項28】
請求項23に記載のセルであって、
前記アノード材は、ゲル相である、セル。
【請求項29】
請求項28に記載のセルであって、
前記アノード材は、
ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン(PVdF−HFP)コポリマ、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエチレンオキシド(PEO)、および、それらの混合物、からなる群から選択されたゲル化剤と、
エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、および、それらの混合物、からなる群から選択された可塑剤と、
LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、および、LiN(SO2C2F5)2、からなる群から選択されたLi塩と、
を含む、セル。
【請求項30】
請求項21に記載のセルであって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、ガラス質あるいは非晶質の活性金属イオン伝導体、セラミック活性金属イオン伝導体、および、ガラスセラミック活性金属イオン伝導体、からなる群から選択される材料を含む、セル。
【請求項31】
請求項30に記載のセルであって、
前記活性金属は、リチウムである、セル。
【請求項32】
請求項31に記載のセルであって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、以下の表に示す組成を有するイオン伝導性ガラスセラミックであり、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、
Li1+x(M,Al,Ga)x(Ge1-yTiy)2-x(PO4)3(ここで、X≦0.8および0≦Y≦1.0であり、Mは、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、および、Yb、からなる群から選択される元素である)、および/または、Li1+x+yQxTi2-xSiyP3-yO12(ここで、0<X≦0.4および0<Y≦0.6であり、Qは、AlまたはGaである)からなる主要結晶相を含む、
セル。
【請求項33】
請求項21に記載のセルであって、
前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、少なくとも10-5S/cmのイオン伝導度を有する、セル。
【請求項34】
請求項21に記載のセルであって、
非水性電解質セパレータ層は、少なくとも10-5S/cmのイオン伝導度を有する、セル。
【請求項35】
請求項21に記載のセルであって、
前記アノードは、活性金属を含む、セル。
【請求項36】
請求項21に記載のセルであって、
前記アノードは、活性金属イオンを含む、セル。
【請求項37】
請求項21に記載のセルであって、
前記アノードは、活性金属合金化金属を含む、セル。
【請求項38】
請求項37記載のセルであって、
前記活性金属合金化金属は、Ca、Mg、Sn、Ag、Zn、Bi、Al、Cd、Ga、In、および、Sb、からなる群から選択される、セル。
【請求項39】
請求項21に記載のセルであって、
前記アノードは、活性金属挿入材料を含む、セル。
【請求項40】
請求項39に記載のセルであって、
前記活性金属挿入材料は、炭素を含む、セル。
【請求項41】
請求項21に記載のセルであって、
前記カソード構造体は、電子伝導性構成要素と、イオン伝導性構成要素と、電気化学的活性構成要素と、を備え、
少なくとも1つのカソード構造体構成要素は、水性成分を含む、セル。
【請求項42】
請求項41記載のセルであって、
前記カソード構造体は、水性電気化学的活性構成要素を含む、セル。
【請求項43】
請求項42に記載のセルであって、
前記水性電気化学的活性構成要素は、水である、セル。
【請求項44】
請求項42に記載のセルであって、
前記水性電気化学的活性構成要素は、気体酸化剤、液体酸化剤、固体酸化剤、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択される水溶性酸化剤を含む、セル。
【請求項45】
請求項44に記載のセルであって、
前記水溶性気体酸化剤は、O2、SO2、および、NO2、からなる群から選択され、
前記水溶性固体酸化剤は、NaNO2、KNO2、Na2SO3、および、K2SO3、からなる群から選択される、セル。
【請求項46】
請求項44に記載のセルであって、
前記水溶性酸化剤は、過酸化物である、セル。
【請求項47】
請求項46に記載のセルであって、
前記水溶性酸化剤は、過酸化水素である、セル。
【請求項48】
請求項41に記載のセルであって、
前記イオン伝導性構成要素と前記電気化学的活性構成要素とは、水性電解質からなる、セル。
【請求項49】
請求項48に記載のセルであって、
前記水性電解質は、強酸溶液、弱酸溶液、塩基性溶液、中性溶液、両性溶液、過酸化物溶液、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択される、セル。
【請求項50】
請求項48に記載のセルであって、
前記水性電解質は、HCl、H2SO4、H3PO4、酢酸/酢酸Li、LiOH、海水、LiCl、LiBr、LiI、NH4Cl、NH4Br、過酸化水素、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択される成分を含む、セル。
【請求項51】
請求項50に記載のセルであって、
前記水性電解質は、海水である、セル。
【請求項52】
請求項10に記載のセルであって、
前記水性電解質は、海水と過酸化水素とを含む、セル。
【請求項53】
請求項50に記載のセルであって、
前記水性電解質は、酸性過酸化物溶液を含む、セル。
【請求項54】
請求項50に記載のセルであって、
水性電解質に溶解した過酸化水素が前記セル内を流れる、セル。
【請求項55】
請求項41に記載のセルであって、
前記カソード構造体の電子伝導性構成要素は、多孔質触媒支持体である、セル。
【請求項56】
請求項55に記載のセルであって、
前記多孔質電子伝導性触媒支持体は、ニッケルを含む、セル。
【請求項57】
請求項55に記載のセルであって、
前記多孔質電子伝導性触媒支持体は、アイオノマで処理されている、セル。
【請求項58】
請求項42に記載のセルであって、
前記カソード構造体の電気化学的活性材料は、空気を含む、セル。
【請求項59】
請求項58に記載のセルであって、
前記空気は、水分を含む、セル。
【請求項60】
請求項59に記載のセルであって、
前記イオン伝導性材料は、水性成分を含む、セル。
【請求項61】
請求項60に記載のセルであって、
前記イオン伝導性材料は、さらに、アイオノマを含む、セル。
【請求項62】
請求項61に記載のセルであって、
前記イオン伝導性材料は、中性または酸性の水性電解質を含む、セル。
【請求項63】
請求項62に記載のセルであって、
前記水性電解質はLiClを含む、セル。
【請求項64】
請求項62に記載のセルであって、
前記水性電解質は、NH4ClおよびHClのいずれかを含む、セル。
【請求項65】
請求項41に記載のセルであって、
前記カソード構造体は、空気拡散膜と、疎水性ポリマ層と、酸素還元触媒と、電解質と、電子伝導性構成要素/集電体と、を備える、セル。
【請求項66】
請求項65に記載のセルであって、
前記電子伝導性構成要素/集電体は、多孔質ニッケル材料を含む、セル。
【請求項67】
請求項65に記載のセルであって、さらに、
前記保護膜と前記カソード構造体との間に配置されたセパレータを備える、セル。
【請求項68】
請求項41に記載のセルであって、
前記カソード構造体の電気化学的活性構成要素は、金属水素化物合金を含む、セル。
【請求項69】
請求項68に記載のセルであって、
前記カソード構造体のイオン伝導性構成要素は、水性電解質を含む、セル。
【請求項70】
請求項69に記載のセルであって、
前記水性電解質は、酸性である、セル。
【請求項71】
請求項70に記載のセルであって、
前記水性電解質は、ハロゲン化物酸またはハロゲン化物酸塩である、セル。
【請求項72】
請求項71に記載のセルであって、
前記水性電解質は、塩化物酸、臭化物酸、塩化物酸塩、または、臭化物酸塩を含む、セル。
【請求項73】
請求項72に記載のセルであって、
前記水性電解質は、HCl、HBr、NH4Cl、および、NH4Brのいずれか1つを含む、セル。
【請求項74】
請求項73に記載のセルであって、
前記金属水素化物合金は、AB5合金およびAB2合金のいずれかを含む、セル。
【請求項75】
請求項21に記載のセルであって、
前記セルは、一次電池である、セル。
【請求項76】
請求項21に記載のセルであって、
前記セルは、二次電池である、セル。
【請求項77】
請求項21に記載のセルであって、
前記セルは、平面構造を有する、セル。
【請求項78】
請求項21に記載のセルであって、
前記セルは、管状構造を有する、セル。
【請求項79】
請求項41に記載のセルであって、
前記活性金属は、リチウムであり、
前記カソード構造体は、イオン伝導性を有する水性構成要素と、電気化学的活性を有する遷移金属酸化物構成要素とを含む、セル。
【請求項80】
請求項79に記載のセルであって、
前記遷移金属酸化物は、NiOOH、AgO、酸化鉄、酸化鉛、および、酸化マンガン、からなる群から選択される、セル。
【請求項81】
請求項21に記載のセルであって、
前記アノード材は、さらに、非水溶性または低水溶性のポリマのためのモノマを含み、
前記カソード材は、前記モノマ用の重合開始剤を含む、セル。
【請求項82】
請求項81に記載のセルであって、
前記モノマは、1,3−ジオキソランである、セル。
【請求項83】
請求項82に記載のセルであって、
前記重合開始剤は、プロトン酸および水溶性ルイス酸の少なくとも一方を前記カソード材に溶解したものを含む、セル。
【請求項84】
請求項83に記載のセルであって、
前記重合開始剤は、ベンゾイルイオンを含む、セル。
【請求項85】
請求項21に記載のセルの構造破損時に停止させるための方法であって、
前記アノード材内に、非水溶性または低水溶性のポリマのためのモノマを準備する工程と、
前記カソード材内に、前記モノマ用の重合開始剤を準備する工程と、
を備える、方法。
【請求項86】
請求項21に記載のセルであって、
前記カソード構造体は、イオン伝導性構成要素を含む、セル。
【請求項87】
請求項86に記載のセルであって、
前記イオン伝導性構成要素は、非水性カソード材を含む、セル。
【請求項88】
請求項87に記載のセルであって、
前記カソード材は、有機液体およびイオン液体、からなる群から選択される材料を含む、セル。
【請求項89】
請求項88に記載のセルであって、
前記カソード材は、有機カーボネート、エーテル、ラクトン、スルホンエステル、蟻酸エステル、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択された非プロトン性溶媒にLi塩を溶解した溶液である、セル。
【請求項90】
請求項89に記載のセルであって、
前記カソード材は、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、1,2−ジメトキシエタン(DME)および高級グライム、1,3−ジオキソラン、スルホラン、蟻酸メチル、酢酸メチル、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択され、
支持塩は、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiSO3CF3、LiN(CF3SO2)2、LiN(SO2C2F5)2、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択される、セル。
【請求項91】
請求項90に記載のセルであって、さらに、
多硫化リチウム、NO2、SO2、SOCl2、からなる群から選択された固体、液体、または、気体の酸化剤の溶解物を含む、セル。
【請求項92】
請求項87に記載のセルであって、
前記カソード材は、イミダゾリウム誘導体、ピリジニウム誘導体、ホスホニウム化合物、テトラアルキルアンモニウム化合物、および、それらの組み合わせ、からなる群から選択されたイオン液体を含む、セル。
【請求項93】
請求項92に記載のセルであって、
前記イオン液体は、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトシレート(EMIM−Ts)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム硫酸オクチル(BMIM−OctSO4)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロリン酸、および、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロホウ酸、からなる群から選択される、セル。
【請求項94】
請求項21の電池セルを製造する方法であって、
活性金属アノードと、
カソード構造体と、
前記アノードの第1の表面上のイオン伝導性保護構造体と、を準備する工程を備え、
前記イオン伝導性保護構造体は、
非水性アノード材を含み、前記活性金属に対して化学的適合性を有し、前記アノードと接触する活性金属イオン伝導性のセパレータ層と、
前記セパレータ層および前記カソード構造体に対して化学的適合性を有し、前記カソード構造体と接触する実質的に不浸透性のイオン伝導層とを備え、
前記方法は、さらに、前記構成要素を組み立てる工程を備える、方法。
【請求項95】
請求項94に記載の方法であって、
前記前記実質的に不浸透性のイオン伝導層は、管状である、方法。
【請求項96】
請求項21に記載のセルであって、
10mAh/cm2より大きい放電能力を有する、セル。
【請求項97】
請求項96に記載のセルであって、
100mAh/cm2より大きい放電能力を有する、セル。
【請求項98】
請求項97に記載のセルであって、
500mAh/cm2より大きい放電能力を有する、セル。
【請求項99】
請求項50に記載のセルであって、
前記アノードは、約3.35mmの厚さのLiであり、
前記セルは、NH4Clからなる水性電解質で満たされ、
前記セルは、約650mAh/cm2の放電能力を有する、セル。
【請求項100】
請求項58に記載のセルであって、
3.3mmの厚さのLiアノードと、
45cm2の面積と、
約3400Wh/l(4100Wh/kg)の未包装時の比エネルギと、
を有する、セル。
【請求項101】
請求項100に記載のセルであって、
70%の包装による加重と、
約1000Wh/l(1200Wh/kg)の包装時の比エネルギと、
を有する、セル。
【請求項102】
請求項43に記載のセルであって、さらに、
電池セル酸化還元反応において前記カソード構造体から放出される水素を集めるPEM型H2/O2燃料電池を備える、セル。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2007−524204(P2007−524204A)
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552102(P2006−552102)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/033371
【国際公開番号】WO2005/083829
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(500163551)ポリプラス バッテリー カンパニー (5)
【氏名又は名称原語表記】PolyPlus Battery Company
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/033371
【国際公開番号】WO2005/083829
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(500163551)ポリプラス バッテリー カンパニー (5)
【氏名又は名称原語表記】PolyPlus Battery Company
【Fターム(参考)】
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